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特許7464047坑井用セメントスラリー用添加剤とその製造方法、坑井用セメントスラリー、及び坑井用セメンチング工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】坑井用セメントスラリー用添加剤とその製造方法、坑井用セメントスラリー、及び坑井用セメンチング工法
(51)【国際特許分類】
   C04B 14/10 20060101AFI20240402BHJP
   C04B 14/04 20060101ALI20240402BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240402BHJP
   C04B 14/16 20060101ALI20240402BHJP
   C04B 14/18 20060101ALI20240402BHJP
   C04B 14/02 20060101ALI20240402BHJP
   C04B 16/08 20060101ALI20240402BHJP
   C09K 8/473 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C04B14/10 B
C04B14/04 C
C04B28/02
C04B14/16
C04B14/18
C04B14/02 B
C04B16/08
C09K8/473
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021515959
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2020015614
(87)【国際公開番号】W WO2020217966
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2019082615
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 智
(72)【発明者】
【氏名】木全 政樹
(72)【発明者】
【氏名】太田 勇夫
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-536432(JP,A)
【文献】特開平04-097929(JP,A)
【文献】特開2008-214537(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0037795(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
C09K 8/473
C09K 8/05
E21B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状珪酸塩及びシリカの水性分散液を含む、坑井用セメントスラリー用添加剤であって、
層状珪酸塩の固形分濃度が0.01~5質量%、
シリカの固形分濃度が0.3~30質量%、
シリカに対する層状珪酸塩の質量比が0.01~0.1、
水性分散液中の分散質である層状珪酸塩とシリカの、レーザー回折法による平均粒子径が0.1~30.0μmであり、
層状珪酸塩が、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、スチーブンサイト、バイデライト、ボルコンスコアイト、ノントロナイト及びソーコナイトからなる群から選択される少なくとも1種の層状珪酸塩である、
上記坑井用セメントスラリー用添加剤
【請求項2】
前記坑井が、油井又は地熱井である、請求項1に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤。
【請求項3】
層状珪酸塩が、モンモリロナイトを90質量%~99.9質量%含有する精製ベントナイトである、請求項1又は2に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤。
【請求項4】
pHが2~11である、請求項1~のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤。
【請求項5】
シリカの水性分散液に、層状珪酸塩を添加し、撹拌下で混合することにより、層状珪酸塩及びシリカの水性分散液を得る工程を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤の製造方法。
【請求項6】
水に層状珪酸塩を添加し、撹拌下で混合して、層状珪酸塩の水性分散液を得る工程と、
シリカの水性分散液に、層状珪酸塩の水性分散液を添加し、撹拌下で混合して、層状珪酸塩及びシリカの水性分散液を得る工程と、
を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤の製造方法。
【請求項7】
シリカの水性分散液が、窒素吸着法により測定して得られる比表面積から換算される平均粒子径3~300nmのシリカを用いて形成されたものである、請求項5又は6に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の添加剤を含む坑井用セメントスラリーであって、
層状珪酸塩を0.001~0.05%BWOC、
シリカを0.01~0.8%BWOC、
水を50~80%BWOC、
中空粒子を10~50%BWOC、

中空粒子が、中空アルミノシリケート粒子、中空ホウ珪酸塩ガラス粒子、中空シリカ粒子、中空パーライト粒子、中空フライアッシュ粒子、中空アルミナ粒子、中空セラミック粒子、中空ポリマー粒子及び中空カーボン粒子からなる群から選択される少なくとも1種である、
上記坑井用セメントスラリー。
【請求項9】
更に、セメント遅硬剤を0.1~5%BWOC、並びに、
脱水調整剤、泡消剤、速硬剤、セメント分散剤、セメント強度安定剤、及び逸泥防止剤からなる群から選択される少なくとも1種の助剤を0.001~10%BWOC、
含む、請求項に記載の坑井用セメントスラリー。
【請求項10】
セメントスラリー100ccを容積100mlのステンレス製カップ比重計を用いて測定した比重が1.2以上1.6未満である、請求項8又は9に記載の坑井用セメントスラリー。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリーを硬化して得られた直径50mm×高さ300mmの円柱状のセメント硬化物を均等に3分割して、上位部、中位部、下位部とした場合に、上位部と中位部のセメント硬化物の密度差が0.15以上である、坑井用セメントスラリー。
【請求項12】
坑井の掘削において、坑井内に挿入したケーシングパイプと地層との間隙に、請求項8~11のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリーを注入し、硬化させることを特徴とする、坑井用セメンチング工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坑井用セメントスラリー用添加剤とその製造方法、坑井用セメントスラリー、及び坑井用セメンチング工法に関する。
【背景技術】
【0002】
油田やガス田等の坑井掘削では、坑井仕上げの際、坑井内に内枠として挿入したケーシングパイプの固定や補強、腐食防止、また地下水の坑井内への流入防止のため、ケーシングパイプと地層(坑壁)との間隙(環状の間隙:annuls(アニュラス)などとも称されることがある)にセメントスラリーを注入するセメンチング作業が実施される。
これらで使用されるセメントは、要求性能を考慮した規格として、API規格(American Petroleum Institute(アメリカ石油協会)が定めた石油に関する規格)では、各種の油井セメントがクラス別・耐硫酸塩別に規定され、中でもクラスGセメントは、油井掘削用として最も使用されているセメントである。
また坑井条件に合わせて設計され、セメントと水及び低比重骨材に加え、セメント速硬剤、セメント遅硬剤、セメント分散剤、セメント脱水調整剤、セメント強度安定剤、逸泥防止剤などの添加剤を加えて調製される。
セメンチングとは、坑井内の様々な箇所、あるいはケーシング内・外に、セメント及び水あるいは添加剤を含む溶解水で作られたセメントスラリーを適用すること指す。
【0003】
油田やガス田等の坑井掘削は、ビット(削孔用具)による掘削作業と上記のセメンチング作業が繰り返し実施され、油井が深くなるに従い、作業現場の温度は上昇し、圧力も上昇する。近年、掘削技術が向上し、深さ500~1000m以上の深層の油田及びガス油田層の掘削が盛んに行われており、高温・高圧環境下においてもセメンチングが可能となるセメントスラリーの設計が求められている。
しかしながら、圧力の上昇に伴い、セメントスラリーの高浸透層への逸脱(以後、この現象をロストサーキュレーションと称することがある)が激しくなるため、坑井内に挿入したケーシングパイプと地層の間隙にセメントスラリーを流し込んでも、ケーシングを固定・補強できずセメンチング作業に大きな弊害となっている。その対策として、セメントスラリーを低比重化することで地層にかかる圧力を低減し、ひいてはロストサーキュレーションを抑制する方法が用いられてきた。
【0004】
セメントスラリーの低比重化方法としては、水の増量、中空粒子などの低比重骨材の添加などの方法が知られている。
水の増量は、スラリー中での材料分離(遊離水の増大)が顕著になる。低比重骨材を多量に添加するとセメントスラリー中で低比重骨材が浮上分離して不均一になり、流動性の著しい低下や硬化が不均一になる(特許文献2参照)。
低比重骨材の不均一化の解決策として特許文献1には、セメントスラリー調製後にパーライト、フライアッシュ、けいそう土、ミクロシリカなどの低比重調節剤が浮上分離するのを防ぐためにベントナイトを2重量%以上(好ましくは3~8重量%、セメント組成物に対する量)を比重調節剤と同時に添加するが好ましいことが開示されている。
しかし、特許文献2に、膨潤性の高いベントナイトを多量に添加すると、250℃以上の高温下においては、ベントナイトの添加によりセメント強度が低下することが開示されている。
特許文献3には、ロストサーキュレーションの制御に1~400nmの非コロイド状ナノ粘土鉱物を0.1~25%BWOC添加することが開示されている。なお、ここでのセメントスラリーは比重が1.61~1.88であり、中比重ないし高比重セメントスラリーである。
特許文献4には、低比重セメント組成物として、中空球状シリカが20%~100%BWOC、ベントナイト成分が0.25%~20%BWOC、炭酸カルシウム微粉が1%~100%BWOC、炭酸カルシウム中粉が1%~100%BWOC、シリカサンド組成物が1%~100%BWOC、シリカフラワー組成物が記載されている。ここでの明細書に開示されているセメントスラリーの密度は83pcf(比重1.33)である。
【0005】
前述のとおり、特に高温・高圧の環境にある油田及びガス油田のフィールドの坑井掘削時に坑井内に挿入したケーシングパイプと地層の間隙にセメントスラリーを流し込み、ケーシングを固定・補強する工程においてセメントスラリーのロストサーキュレーションを抑制することが要求される。ロストサーキュレーションを抑制のために低比重骨材を添加した低比重セメントスラリーが使われるが、セメントスラリー中の低比重骨材の浮上分離を抑制しなければロストサーキュレーションを抑制することができない。このため、低比重セメントスラリー中の低比重骨材の浮上分離を抑制する添加剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公昭62-38314号公報
【文献】特許第3574536号公報
【文献】米国特許第8603952号明細書
【文献】国際公開第2015/034733号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、低比重セメントスラリーを得るために、水の増量に依存する方法では、セメントスラリー中での材料分離(遊離水の増大)が顕著になるという問題がある。
また、この遊離水の増大を防止するために、膨潤性の高いベントナイトなどを添加すると、250℃以上の高温下においては、ベントナイトの添加によりセメント強度が低下するため好ましい添加剤ではないことが、特許文献2に記載されている。
また、低比重骨材を多量に添加すると、セメントスラリー中で低比重骨材が浮上分離して不均一になり、セメントスラリーの流動性が著しい低下したり、硬化が不均一になるという問題がある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、高温下においても、十分なセメント強度を確保しつつ、遊離水の発生を抑え、低比重骨材の浮上分離を抑制することができる坑井用セメントスラリー用添加剤とその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記の添加剤を含む坑井用セメントスラリーを提供することを目的とする。
また、本発明は、上記の坑井用セメントスラリーを用いた坑井用セメンチング工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、層状珪酸塩(例えばスメクタイト族層状珪酸塩や精製ベントナイト)とシリカとを分散質として含む水性分散液、より好ましくは、特定の条件下で製造され、及び/又は特定の条件下でそれらを含む水性分散液を含有する添加剤を、坑井用セメントスラリー用の添加剤として好適に用いることができること、さらに、この添加剤を坑井用セメントスラリーに含ませることにより、セメントスラリー中での低比重骨材の偏在が抑制できるとともに、十分なセメント強度が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の態様は、以下の通りである。
<1> 層状珪酸塩及びシリカの水性分散液を含む、坑井用セメントスラリー用添加剤。
<2> 前記坑井が、油井又は地熱井である、<1>に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤。
<3> 層状珪酸塩の固形分濃度が0.01~5質量%、
シリカの固形分濃度が0.3~30質量%、
シリカに対する層状珪酸塩の質量比が0.01~0.1、
水性分散液中の分散質の、レーザー回折法による平均粒子径が0.1~30.0μmである、<1>又は<2>に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤。
<4> 層状珪酸塩が、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、スチーブンサイト、バイデライト、ボルコンスコアイト、ノントロナイト及びソーコナイトからなる群から選択される少なくとも1種の層状珪酸塩である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤。
<5> 層状珪酸塩が、モンモリロナイトを90質量%~99.9質量%含有する精製ベントナイトである、<1>~<4>のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤。
<6> pHが2~11である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤。
<7> シリカの水性分散液に、層状珪酸塩を添加し、撹拌下で混合することにより、層状珪酸塩及びシリカの水性分散液を得る工程を含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤の製造方法。
<8> 水に層状珪酸塩を添加し、撹拌下で混合して、層状珪酸塩の水性分散液を得る工程と、
シリカの水性分散液に、層状珪酸塩の水性分散液を添加し、撹拌下で混合して、層状珪酸塩及びシリカの水性分散液を得る工程と、
を含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤の製造方法。
<9> シリカの水性分散液が、窒素吸着法により測定して得られる比表面積から換算される平均粒子径3~300nmのシリカを用いて形成されたものである、<7>又は<8>に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤の製造方法。
<10> <1>~<6>のいずれか1項に記載の添加剤を含む坑井用セメントスラリーであって、
層状珪酸塩を0.001~0.05%BWOC、
シリカを0.01~0.8%BWOC、
水を50~80%BWOC
低比重骨材を10~50%BWOC、
含む、坑井用セメントスラリー。
<11> 更に、セメント遅硬剤を0.1~5%BWOC、並びに、
脱水調整剤、泡消剤、速硬剤、セメント分散剤、セメント強度安定剤、及び逸泥防止剤からなる群から選択される少なくとも1種の助剤を0.001~10%BWOC、
含む、<10>に記載の坑井用セメントスラリー。
<12> 低比重骨材が、中空アルミノシリケート粒子、中空ホウ珪酸塩ガラス粒子、中空シリカ粒子、中空パーライト粒子、中空フライアッシュ粒子、中空アルミナ粒子、中空セラミック粒子、中空ポリマー粒子及び中空カーボン粒子からなる群から選択される少なくとも1種の中空粒子である、<10>又は<11>に記載の坑井用セメントスラリー。
<13> 比重が1.2以上1.6未満である、<10>~<12>のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリー。
<14> <10>~<13>のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリーを硬化して得られた直径50mm×高さ300mmの円柱状のセメント硬化物を均等に3分割して、上位部、中位部、下位部とした場合に、上位部と中位部のセメント硬化物の密度差が0.15以上である、坑井用セメントスラリー。
<15> 坑井の掘削において、坑井内に挿入したケーシングパイプと地層との間隙に、<10>~<14>のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリーを注入し、硬化させることを特徴とする、坑井用セメンチング工法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の坑井用セメントスラリー用添加剤は、これを添加した坑井用セメントスラリーを高温・高圧の環境にある油田又はガス油田のフィールドの坑井掘削時に坑井内に挿入したケーシングパイプと地層の間隙に流し込み、ケーシングを固定・補強する工程において、セメントスラリー中での低比重骨材の浮上分離が抑制されるため、効率よくセメントスラリーの地層への逸脱(ロストサーキュレーション)を防止することができる。
また、本発明の坑井用セメントスラリーを用いることにより、高温・高圧油層において高いセメント強度を実現しつつ、遊離水の発生を抑え、また施工不備(例えば、セメントがやせ細って地層との隙間が埋められず、ケーシングの固定が不十分になる)を抑制することができる。
したがって、本発明の坑井用セメントスラリー用添加剤を坑井用セメントスラリーに用いることにより、高温・高圧環境下であっても、坑井仕上げを安定して、生産性よく実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1~3及び比較例4のセメント硬化物の外観写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
<坑井用セメントスラリー用添加剤>
本発明の坑井用セメントスラリー用添加剤は、分散質である層状珪酸塩とシリカとの水性分散液を含む。後述の実施例に示すとおり、このようにシリカ(水性シリカゾル)と層状珪酸塩の両方を必須の構成成分とする水性分散液を坑井用セメントスラリー用添加剤として用いることにより、低比重骨材の偏在抑制効果が発揮される。
【0014】
本発明の一実施形態では、坑井用セメントスラリー用添加剤は、層状珪酸塩の固形分濃度が0.01~5質量%、シリカの固形分濃度が0.3~30質量%、シリカに対する層状珪酸塩の質量比が0.01~0.1、水性分散液中の分散質の、レーザー回折法による平均粒子径が0.1~30.0μmである。
さらに、本発明の一実施形態では、坑井用セメントスラリー用添加剤は、pHが2~11である。
層状珪酸塩の固形分濃度の範囲の下限値は、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.5質量%、さらに好ましくは0.8質量%であり、層状珪酸塩の固形分濃度の範囲の上限値は、好ましくは5質量%、より好ましくは3質量%、さらに好ましくは1.5質量%である。
層状珪酸塩の固形分濃度が下限値以上であると、低比重骨材の浮上分離を抑制させるセメントスラリーの調製が容易となるので好ましく、また、層状珪酸塩の固形分濃度が上限値以下であると、セメントスラリーを調製した場合、粘度が過度に高くなり過ぎることを抑制でき、スラリーがペースト状あるいはロウ状になることを回避できるので好ましい。
シリカの固形分濃度の範囲の下限値は、好ましくは0.3質量%、より好ましくは1質量%、さらに好ましくは5質量%であり、シリカの固形分濃度の範囲の上限値は、好ましくは30質量%、より好ましくは25質量%、さらに好ましくは20質量%である。
シリカの固形分濃度が下限値以上であると、低比重骨材の浮上分離を抑制させるセメントスラリーの調製が容易となるので好ましく、また、シリカの固形分濃度が上限値以下であると、セメントスラリーを調製した場合、粘度が過度に高くなり過ぎることを抑制でき、スラリーがペースト状あるいはロウ状になることを回避できるので好ましい。
シリカに対する層状珪酸塩の質量比の範囲の下限値は、好ましくは0.01、より好ましくは0.02、さらに好ましくは0.04であり、シリカに対する層状珪酸塩の質量比の範囲の上限値は、好ましくは0.1、より好ましくは0.08、さらに好ましくは0.06である。
シリカに対する層状珪酸塩の質量比が下限値以上であると、低比重骨材の浮上分離を抑制させるセメントスラリーの調製が容易となる点で好ましく、また、シリカに対する層状珪酸塩の質量比が上限値以下であると、低比重骨材の浮上分離を抑制させるセメントスラリーの調製が容易となる点で好ましい。
水性分散液中の分散質の平均粒子径の範囲の下限値は、好ましくは0.1μm、より好ましくは0.5μm、さらに好ましくは1μmであり、水性分散液中の分散質の平均粒子径の範囲の上限値は、好ましくは30.0μm、より好ましくは20μm、さらに好ましくは10μmである。
水性分散液中の分散質の平均粒子径が下限値以上であると、本発明の坑井用セメントスラリー用添加剤の保存安定性が良い点で好ましく、また、水性分散液中の分散質の平均粒子径が上限値以下であると、層状珪酸塩とシリカとの水性分散液を混合によって調製する際に凝集物が生成しやすく、低比重骨材の浮上分離を抑制させる効果を阻害しないので好ましい。
坑井用セメントスラリー用添加剤のpHは、当該添加剤が層状珪酸塩と酸性の水性シリカゾルの水性分散液を含む場合には、通常2~7であり、好ましくは3~6であり、当該添加剤が層状珪酸塩とアルカリ性の水性シリカゾルを含む場合には、通常9~11であり、好ましくは9.5~10.5である。
層状珪酸塩とスメクタイト水分散液ではpHは2~11である。酸性の水性シリカゾルとスメクタイト族層状珪酸塩の水分散液の混合分散液のpHは2~7であり、アルカリ性の水性シリカゾルとスメクタイト族層状珪酸塩の水分散液の混合分散液のpHは、9~11である。
(層状珪酸塩)
【0015】
本発明に用いる層状珪酸塩は、カオリン族層状珪酸塩、パイロフェライト族層状珪酸塩、スメクタイト族層状珪酸塩、ーミキュライト族層状珪酸塩、雲母族層状珪酸塩、層間欠損型雲母層状珪酸塩、脆雲母族層状珪酸塩、緑泥石族層状珪酸塩、及び混合層鉱物層状珪酸塩が挙げられる。
カオリン族層状珪酸塩は例えばリザーダイト、パーチェリン、アメサイト、クロンステダイト、ネポーアイト、ケリアイト、フレイポナイト、プリンドリアイト、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、オーディナイト等が挙げられる。
パイロフェライト族層状珪酸塩は例えば、タルク、ウィレムサイト、ケロライト、ピメライト、パイロフェライト、フェリパイロフィライト等が挙げられる。
スメクタイト族層状珪酸塩は例えばサポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイト、スインホルダイト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、ボルコンスコアイト等が挙げられる。
ーミキュライト族層状珪酸塩は例えば3八面体型ーミキュライト、2八面体型ーミキュライト等が挙げられる。
雲母族層状珪酸塩は例えば、黒雲母、金雲母、鉄雲母、イーストナイト、シデロフィライト、テトラフェリ鉄雲母、鱗雲母、ポリリシオナイト、白雲母、セラドン石、鉄セラドン石、鉄アルミノセラドン石、アルミノセラドン石、砥部雲母、ソーダ雲母等が挙げられる。
層間欠損型雲母層状珪酸塩としては例えば、イライト、海緑石、プラマーライト等が挙げられる。
脆雲母族層状珪酸塩としては例えば、クリントナイト、木下石、ビティ雲母、アナンダ石、真珠雲母等が挙げられる。
緑泥石族層状珪酸塩はクリノクロア、シャモサイト、ペナンタイト、ニマイト、ベイリクロア、ドンバサイト、クッケアイト、スドーアイト等が挙げられる。
混合層鉱物層状珪酸塩はコレンサイト、ハイドロバイオタイト、アリエッタイト、クルケアイト、レクトライト、トスダイト、ドジライト、ルニジャンライト、サライオタイト等が挙げられる。
本発明では層間に正の電荷をもつ陽イオン(カリウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン)やその他の層間物質(水)をはさんでなる2:1層の構造を形成する層状珪酸塩は好ましく、例えばスメクタイト族層状珪酸塩、ーミキュライト族層状珪酸塩が好ましく、中でもスメクタイト族層状珪酸塩は好ましい。
スメクタイト族層状珪酸塩に上げられるサポナイトは(Ca/2,Na)0.3(Mg,Fe2+(Si,Al)10(OH)・4HO、ヘクトライトはNa0.3(Mg,Li)Si10(F,OH)・4HO、ソーコナイトはNa0.3Zn(Si,Al)10(OH)・4HO、スチーブンサイトは(Ca/2)0.3MgSi10(OH)・4HO、スインホルダイトは(Ca/2,Na)0.3(Li,Mg)(Si,Al)10(OH,F)・2HO、モンモリロナイトは(Ca/2,Na)0.3(Al,Mg)(Si)10(OH)・nHO、
バイデライトは(Ca/2,Na)0.3Al(Si,Al)10(OH)・nH2O、ノントロナイトはNa0.3Fe3+(Si,Al)10(OH)・nHO、
コンスコアイトはCa0.3(Cr3+,Mg,Fe3+(Si,Al)10(OH)・nHOの構造を有している。
【0016】
中でも、層状珪酸塩が、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、スチーブンサイト、バイデライト、ボルコンスコアイト、ノントロナイト及びソーコナイトからなる群から選択される少なくとも1種の層状珪酸塩を含むことが好ましい。
【0017】
また、ベントナイトはモンモリロナイトを含有する層状珪酸塩であるが、天然のベントナイトは結晶性シリカ成分、長石等の粘土鉱物以外の不純物を含んでおり、不純物は低比重骨材の浮上分離抑制に機能せず、坑井用セメントスラリー用添加剤の保存安定性を悪化させるおそれがあることから、このような不純物を取り除き、モンモリロナイトの含有量を90質量%~99.9質量%に向上させた精製ベントナイトを好適に用いることができる。すなわち、本発明では、層状珪酸塩が、モンモリロナイトを90質量%~99.9質量%含有する精製ベントナイトであることが特に好ましい。なお、モンモリロナイトの含有量は、X線粉末回折法を用い、精製ベントナイト中の結晶性シリカの回折ピーク強度から結晶性シリカ含有量(質量%)を算出し、その差分から求めることができる。
精製ベントナイトは、主に粉の形態で市販されており、この市販品を使用することができる。90%~99.9%のモンモリロナイトを含有する精製ベントナイト(ベントナイト中におけるモンモリロナイトの含有量を純度として表す)の市販品としては、商品名クニピアF(純度99.3%、クニミネ工業(株)製)、商品名クニピアG(純度99.3%、クニミネ工業(株)製)、商品名ポーラゲルHV(純度99.5%、(株)ボルクレイ・ジャパン製)などがある。市販品の合成サポナイトは、商品名スメクトン-SA(純度99.9%、クニミネ工業(株)製)、市販品の合成スチーブンサイトとしては、商品名スメクトン-ST(純度99.9%、クニミネ工業(株)製)、市販品の合成ヘクトライトとしては、商品名スメクトン-SWN(純度99.9%、クニミネ工業(株)製)などがある。
(シリカ)
【0018】
本発明において、水性シリカゾル(コロイダルシリカ粒子)の平均粒子径は、特に断りのない限り、窒素吸着法(BET法)により測定して得られる比表面積径又はシアーズ法粒子径をいう。
窒素吸着法(BET法)により測定して得られる比表面積径(平均粒子径(比表面積径)D(nm))は、窒素吸着法で測定される比表面積S(m/g)から、D(nm)=2720/Sの式によって与えられる。
シアーズ法粒子径は、文献:G.W.Sears,Anal.Chem.28(12)1981頁,1956年 コロイダルシリカ粒子径の迅速な測定法、に基づいて測定した平均粒子径をいう。詳細には、1.5gのSiOに相当するコロイダルシリカをpH4からpH9まで滴定するのに必要とした0.1N-NaOHの量からコロイダルシリカの比表面積を求め、これから算出した相当径(比表面積径)である。
【0019】
本発明において、水性シリカゾル(コロイダルシリカ粒子)の窒素吸着法(BET法)又はシアーズ法による平均粒子径は3~200nm、又は3~150nm、又は3~100nm、又は3~30nmで、水性シリカゾル中のシリカ濃度が5~50質量%のものが一般に市販されており、容易に入手できる。また水性シリカゾルは、アルカリ性水性シリカゾルと酸性水性シリカゾルのいずれも使用することができる。
平均粒子径10nm未満ではシアーズ法による平均粒子径の値を用い、平均粒子径が10nm以上ではBET法による平均粒子径の値を用いることができる。
市販のアルカリ性水性シリカゾルとしては、スノーテックス(登録商標)ST-XS、同ST-S、同ST-30、同ST-M30、同ST-20L、同ST-YL、同ST-ZL(以上、日産化学(株)製)、酸性水性シリカゾルとしては、スノーテックス(登録商標)ST-OXS、同ST-OS、同ST-O、同ST-O-40、同ST-OL、同ST-OYL、同ST-OZL-35(以上、日産化学(株)製)、などが挙げられる。
【0020】
本発明の水性シリカゾル中のシリカ粒子は、その一部の表面に、後述するシラン化合物の少なくとも一部が結合していてもよい。
シラン化合物としては、有機官能基としてビニル基、エーテル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基及びイソシアヌレート基からなる群から選択される少なくとも一種の基を有するシランカップリング剤を好ましいシラン化合物として挙げることができる。その中で、エポキシ基を有するシランカップリング剤が、特に好ましいシラン化合物として挙げることができる。
【0021】
<坑井用セメントスラリー用添加剤の製造方法>
本発明の一実施形態では、坑井用セメントスラリー用添加剤は、分散質である層状珪酸塩とシリカが水に均一に分散した水性分散液を含むものである。
本発明の坑井用セメントスラリー用添加剤の製造方法の一例(処方-1、処方-2)を以下に示す。
【0022】
(処方―1)
処方-1は、シリカの水性分散液(水性シリカゾル)に、層状珪酸塩の粉末を添加し、撹拌下で混合して均一に分散することにより、層状珪酸塩及びシリカの水性分散液を得る工程を含む方法である。
(処方―2)
処方―2は、水に層状珪酸塩の粉末を添加し、撹拌下で混合して分散することにより、層状珪酸塩の水性分散液を得る工程と、シリカの水性分散液に、層状珪酸塩の水性分散液を添加し、撹拌下で混合して均一に分散することにより、層状珪酸塩及びシリカの水性分散液を得る工程とを含む方法である。
【0023】
分散質としての層状珪酸塩及びシリカは、前述のものを好適に使用することができる。特に、ベントナイト等の層状珪酸塩を用いる場合は、精製して不純物を低減したものを用いるのが好ましく、純度が90%以上のものを用いるのがさらに好ましい。
上記のシリカの水性分散液は、窒素吸着法により測定して得られる比表面積から換算される平均粒子径3~300nmのシリカを用いて形成されたものである。
シリカの平均粒子径の下限値は、好ましくは3nm、より好ましくは5nmであり、シリカの平均粒子径の上限値は、好ましくは300nm、より好ましくは200nm、さらに好ましくは100nmである。
シリカの平均粒子径が下限値以上であると、本発明の坑井用セメントスラリー用添加剤の保存安定性が良い点で好ましく、また、シリカの平均粒子径が上限値以下であると、シリカの水性分散液(水性シリカゾル)が低コストとなる点で好ましい。
上記処方を用いることによって得られた組成物は、いずれも本願発明の坑井用セメントスラリー用添加剤として効果的に機能することができる。
【0024】
<坑井用セメントスラリー>
本発明の坑井用セメントスラリーは、分散質である層状珪酸塩とシリカとの水性分散液を含む組成物を添加剤として含む。後述の実施例に示すとおり、このようにシリカ(水性シリカゾル)と層状珪酸塩の両方を必須の構成成分とする水性分散液を坑井用セメントスラリー用添加剤としてセメントスラリー中に含ませることにより、低比重骨材の偏在抑制効果が発揮され、均一なセメント硬化物が得られるため、セメント強度が高いという利点も有する。
【0025】
本発明の一実施形態では、坑井用セメントスラリーは、本発明のいずれかの形態の坑井用セメントスラリー用添加剤を含むスラリーであって、油井セメントなどのセメントを含むとともに、当該セメントに対して、層状珪酸塩を0.001~0.05%BWOC、シリカを0.01~0.8%BWOC、水を50~80%BWOC、低比重骨材を10~50%BWOC、含むものである。
ここで、%BWOCとは、セメントの乾燥固形分に基づく質量%(By Weight of Cement)を意味し、当業者には周知の技術事項である。
層状珪酸塩の含有割合の範囲の下限値は、好ましくは0.001%BWOC、より好ましくは0.002%BWOC、さらに好ましくは0.003%BWOCであり、層状珪酸塩の含有割合の範囲の上限値は、好ましくは0.05%BWOC、より好ましくは0.03%BWOC、さらに好ましくは0.02%BWOCである。
層状珪酸塩の含有割合が下限値以上であると、十分な量の層状珪酸塩が確保でき、低比重骨材の浮上抑制効果が大きくなるので好ましく、また、層状珪酸塩の含有割合が上限値以下であると、セメントスラリーの粘度が高くなり過ぎることを抑制でき、障害なく所定量のセメントを投入することができるので好ましい。
シリカ固形分の含有割合の範囲の下限値は、好ましくは0.01%BWOC、より好ましくは0.02%BWOC、さらに好ましくは0.05%BWOCであり、シリカ固形分の含有割合の範囲の上限値は、好ましくは0.8%BWOC、より好ましくは0.5%BWOC、さらに好ましくは0.3%BWOCである。
シリカ固形分の含有割合が下限値以上であると、セメントスラリーの粘度が低くなりすぎることを抑制でき、低比重骨材の浮上抑制効果が大きくなるので好ましく、また、シリカ固形分の含有割合が上限値以下であると、調製途中でセメントスラリーの粘度が著しく高くなり過ぎることを抑制でき、障害なく所定量のセメントを投入することができるので好ましい。
本発明の坑井用セメントスラリーは、水を50~80%BWOC含んでもよく、使用する水は、真水、水道水、工業用水、純水又は海水などを適宜使用することができる。
本発明の坑井用セメントスラリーは、中空アルミノシリケート粒子、中空ホウ珪酸塩ガラス粒子、中空シリカ粒子、中空パーライト粒子、中空フライアッシュ粒子、中空アルミナ粒子、中空セラミック粒子、中空ポリマー粒子及び中空カーボン粒子からなる群から選択される少なくとも1種の中空粒子である低比重骨材を含むことができる。
本発明の坑井用セメントスラリーは、低比重骨材を固形分として10~50%BWOCの割合で含んでもよく、このようにすることで、セメントスラリーの比重を好適に低比重化(例えば、1.2以上1.6未満の比重に)することができる。
(その他の含有物)
【0026】
また本発明の坑井用セメントスラリーは、前記油井セメントと坑井用セメントスラリー用添加剤、低比重骨材及び水に加え、セメント遅硬剤、脱水調整剤、消泡剤、速硬剤、セメント分散剤、セメント強度安定剤、及び逸泥防止剤を含有していてもよい。
前記油井セメントとしては、API(American Petroleum Institute)の規格「APISPEC 10A Specification for Cements and Materials for Well」のクラスAセメント~クラスHセメントのいずれも使用できる。中でも、クラスGセメント及びクラスHセメントは、添加剤ないし助剤により成分調整が容易であり、広範囲の深度や温度に使用できるためより好ましい。
セメント遅硬剤は、セメンチング作業終了までのセメントスラリーの適正な流動性を保ち、シックニングタイムを調整するために使用される。セメント遅硬剤は、主成分としてリグニンスルホン酸塩類、ナフタレンスルホン酸塩類、ホウ酸塩類等を含む。
脱水調整剤は、水に鋭敏な地層の保護やスラリーの早期脱水防止などを目的として使用することができ、主成分として有機高分子ポリマー、ビニルアミドビニルスルホン酸共重合物等を含む。
消泡剤は、主成分としてシリコン系化合物、高級アルコール等を含む。
セメント速硬剤は、初期強度や硬化待ち時間の短縮等を目的として使用され、主成分として塩化カルシウム、水ガラス、石膏等を含む。
セメント分散剤は、セメントスラリーの粘性を下げ、泥水との置換効率を高めることなどを目的として使用することができ、主成分としてナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリアクリル酸縮合物、又はスルホン化メラミン縮合物等を含む。
セメント強度安定剤は、主成分としてフライアッシュ、ケイ石粉等を含む。
逸泥防止剤は、逸水防止に使用され、セメントの性質に影響を与えない不活性粒状のものが挙げられ主成分としてクルミの殻、ヒル石、ギルソナイト、雲母、セロハン屑等を含む。
【0027】
本発明の坑井用セメントスラリーには、上記の油井セメントなどのセメント、本発明のいずれかの形態の坑井用セメントスラリー用添加剤、セメント遅硬剤、及びその他の添加剤ないし助剤に加えて、一般構造用のセメント組成物やコンクリート組成物に使用する各種セメントや骨材、これらセメント組成物等に使用されるその他添加剤を含有していてもよい。
例えば従来慣用の一般構造用のセメントとして、ポルトランドセメント(例えば普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、低熱・中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造されたセメント)などを使用してもよく、さらに、混和材として高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加してもよい。
また、骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材が使用可能である。
セメント組成物等に使用されるその他添加剤としては、高性能AE減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、減水剤、空気連行剤(AE剤)、起泡剤、分離低減剤、増粘剤、収縮低減剤、養生剤、撥水剤等など、公知のセメント・コンクリート添加剤を配合することができる。
本発明の坑井用セメントスラリーは、後述の実施例に示すとおり、当該坑井用セメントスラリーを硬化して得られた直径50mm×高さ300mmの円柱状のセメント硬化物を均等に3分割して、上位部、中位部、下位部とした場合に、上位部と中位部のセメント硬化物の密度差が0.15以上であり、低比重骨材の偏在抑制効果が発揮される。
【0028】
<坑井用セメンチング工法>
本発明の一実施形態では、坑井用セメンチング工法は、本発明のいずれかの形態の坑井用セメントスラリーを用いる工法であって、坑井内に挿入したケーシングパイプと地層との間隙に、当該坑井用セメントスラリーを注入し、硬化させることを特徴とする工法である。
本発明の一実施形態では、坑井用セメンチング工法は、油田又はガス油田の掘削において、地層とケーシングパイプとの空隙部を油井セメントで充填する際に、本発明のいずれかの形態の坑井用セメントスラリーを用いることにより、好ましくないロストサーキュレーションを抑制することができる。
【実施例
【0029】
以下に、坑井用(低比重)セメントスラリー用添加剤の調製例、実施例及び比較例に基づいて更に詳述するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0030】
(測定装置・方法)
低比重セメントスラリー用添加剤の分析(シリカ濃度、pH値、レーザー回折法平均粒子径、粘度)は、以下の装置を用いて行なった。
・シリカ固形分濃度:水素型陽イオン交換樹脂で水性シリカゾルのアルカリ分を除いた後、乾燥したものの1000℃焼成残分から、シリカ固形分濃度を求めた。
・pH:pHメーター(東亞ディーケーケー(株)製)を用いた。
・粘度:B型粘度計 ((株)東京計器製)を用いた。
・DLS平均粒子径(動的光散乱法粒子径):動的光散乱法粒子径測定装置 ゼーターサイザー ナノ(スペクトリス(株)マルバーン事業部製)を用いた。
・レーザー回折法平均粒子径:レーザー回折法粒子測定装置SALD-7500((株)島津製作所製)を用いた。
【0031】
<低比重セメントスラリー用添加剤の調製条件>
<低比重セメントスラリー用添加剤A>
前記の処方-1で行い、500mlのスチロール瓶に前記水性シリカゾルの商品名スノーテックス-XS(pH=9.6、SiO濃度=20.5質量%、シアーズ粒子径=5.0nm、日産化学(株)製)を300g投入した後に、Φ40mmのプロペラ翼を付けた攪拌機で500rpmで攪拌しながら前記のモンモリロナイト成分が99.3%の精製ベントナイト(商品名クニピアF、クニミネ工業(株)製)を3.5g投入した後に2時間攪拌した。これにより、モンモリロナイトが1.2質量%、シリカが20.3質量%を含有したpHが9.5、電導度が3980μS/cm、粘度が17mPa・s、レーザー回折法平均粒子径が19.4μmの低比重セメントスラリー用添加剤Aを調製した。
【0032】
<低比重セメントスラリー用添加剤B>
前記の処方-1で行い、500mlのスチロール瓶に前記水性シリカゾルの商品名スノーテックス-XSを394g投入した後に、Φ40mmのプロペラ翼を付けた攪拌機で500rpmで攪拌しながら前記のモンモリロナイト成分が99.3%の精製ベントナイト(商品名クニピアF、クニミネ工業(株)製)を6.5g投入した後に2時間攪拌した。これにより、モンモリロナイトが1.6質量%、シリカが20.2質量%を含有したpHが9.5、電導度が4860μS/cm、粘度が19mPa・s、レーザー回折法平均粒子径が18.5μmの低比重セメントスラリー用添加剤Bを調製した。
【0033】
<低比重セメントスラリー用添加剤C>
前記の処方-2で行い、500mlのスチロール瓶に純水400gを投入した後に、Φ40mmのプロペラ翼を付けた攪拌機で500rpmで攪拌しながらモンモリロナイト成分が99.3%の精製ベントナイト(商品名クニピアF、クニミネ工業(株)製)14.5g添加した後に2時間攪拌してpHが9.9、電導度が1190μS/cm、レーザー回折法平均粒子径が1.8μmのモンモリロナイト濃度3.5質量%のスラリーを調製した。次に、500mlのスチロール瓶に市販の水性シリカゾルの商品名スノーテックス-XS(pH=9.6、SiO濃度=20.5質量%、シアーズ粒子径=5.0nm、日産化学(株)製)を300g投入した後に、Φ40mmのプロペラ翼を付けた攪拌機で500rpmで攪拌しながら前記のモンモリロナイト濃度が3.5質量%のスラリーを48.6g投入した後に2時間攪拌した。これにより、モンモリロナイトが0.89質量%、シリカが15.5質量%含有したpHが9.6、電導度が3750μS/cm、粘度が21mPa・s、レーザー回折法平均粒子径が1.7μmの低比重セメントスラリー用添加剤Cを調製した。
【0034】
<セメントスラリーの調製とAPI規格の物性測定>
実施例1~実施例3及び比較例1~比較例4のセメントスラリーの調製は、API規格(アメリカ石油協会が定めた石油に関する規格)10B-2に準拠して、専用の装置及び表1に示す材料及び仕込み割合(%BWOC)で行い、セメントスラリー997gを調製した。即ち、専用ミキサーに純水を投入し、撹拌翼を4,000rpmで回転させながら、90秒間で表1に示す配合量にて、市販の脱水調整剤、低比重セメントスラリー用添加剤、市販の遅硬剤及び消泡剤、並びにクラスGセメント(宇部三菱セメント(株)製)を投入した後、撹拌翼の回転数を1,2000rpmに上げ、35秒間撹拌してセメントスラリーを調製した。
【0035】
調製した各セメントスラリーについて、下記手順により、スラリー比重を算出した。更に、API規格に準拠した専用の装置を用いて、遊離水量(フリーウォーター)、シックニングタイム試験、セメント強度、フルイドロスを評価した。
【0036】
1)スラリー比重の測定
調製したセメントスラリー100ccを容積100mlのステンレス製カップ比重計を用いて比重を測定した。
【0037】
2)遊離水量(フリーウォーター)の測定
前記)<セメントスラリーの調製とAPI規格の物性測定>に記載した方法でセメントスラリーをコンディショニングした後、30分間かけて88℃に温度調したセメントスラリー250ccを対象容量250ccの樹脂製メスシリンダーに投入し、該メスシリンダーを45度に傾けて、2時間静置した。静置後2時間の時点でスラリー上部に遊離した水をスポイトで採取し、その量(250ccのスラリーに対する体積%)を遊離水量とした。遊離水量は、2%以下が好ましい。
【0038】
3)シックニングタイム試験(Thickening Time Test)
調製したセメントスラリー500ccを分取し、API規格記載のシックニングタイム測定装置 Model 290 HPHT(High-Pressure, High-Temperature)Consistometer(Fann Instrument Company製)に投入後、撹拌翼でセメントスラリーを撹拌しながら1時間かけて150℃、3700psi、または180℃、5000psiまで昇温・昇圧させ、前記所定温度・圧力で保持した。試験開始からシックニングタイム測定装置で経時にコンシステンシーを測定し、測定値(ビアーデン単位(BC))が70BCに到達するまでこの温度を保持した。この時の加熱開始から70BCに到達するまでの時間をシックニングタイム(時:分)とした。好ましいシックニングタイムは2時間~6時間である。
【0039】
4)セメント強度の測定(Compressive Strength test)
調製したセメントスラリー130ccを分取し、API規格記載の圧縮強度測定装置 Ultrasonic Cement Analyzer Model 304に投入後、1時間かけて120℃、3700psi、または150℃、5000psiまで昇温・昇圧し、この温度・圧力を3時間保持した後、20時間かけて150℃、または180℃まで昇温した時の圧縮強度をセメント強度とした。ここでの好ましいセメント強度は、1000psiで、高い方がより好ましい。
【0040】
5)フルイドロスの測定
前記の方法でセメントスラリーをコンディショニングした後、30分間かけて88℃に温度調したセメントスラリー130ccを分取し、API規格記載のフルイドロス測定装置 Fluid Loss Test Instrument(Fann Instrument Company製)に投入後、88℃条件下で30分間、1,000psiの圧力を加え続けた時にセメントスラリーから発生した水(脱水)を容積100ccの樹脂製メスシリンダーで回収し、測定時間t(30分)における脱水量Vを式1に当てはめて、フルイドロスを算出した。
【数1】

なお、API規格では、フルイドロスの数値範囲に関する特段の規定はないものの、およそ100ml以下であることが好適とされる。
比重、遊離水量、シックニングタイム、セメント強度、フルイドロスについて、得られた評価結果を表2に示す。
【0041】
<セメント硬化物の密度分布測定>
前記の実施例1、実施例3、比較例3と同じ調製条件でセメントスラリーを2回調製した。調製した各セメントスラリーについて、下記手順によりセメント硬化物の密度分布を評価した。
【0042】
調製した各セメントスラリー1200gをポリエチレン製ブリーディング袋(寸法Φ50mm×500mm)に投入した。ブリーディング袋の上部をビニール紐で縛り、網棚に吊るした後に20℃の恒温室に1週間養生することで、セメント硬化物を作製した。
次に、作製したセメント硬化物をコンクリートカッター(日特機械工業株式会社製)で上段、中段、下段の三等分に切断し、コア供与体を作製した。その後、各コア供与体の寸法、及び重量を測定し、密度を算出することで、セメント硬化物の密度分布を測定し、上段と中段の密度差を算出した。
なお、低比重骨材の偏在が抑制されていない場合、硬化物の下段にセメント成分が堆積し、中段、上段には低比重骨材が浮上するため、上段と中段で密度差が少ない。一方、低比重骨材の偏在が抑制されている場合、硬化物中段にもセメント成分が行き渡り、上段と比較して中段の重量が重くなる。この結果、上段と中段での密度差が大きくなる。なお、ここでの好ましい密度差は、0.15以上であり、0.20以上であればより好ましい。
セメント硬化物の上段、中段及び下段の密度、並びに中段と上段の密度の差について、得られた結果を表2に示す。
また、得られたセメント硬化物の外観写真を図1に示す。
【表1】

【表2】
【0043】
<考察>
珪酸塩粒子とシリカ粒子とを含む水性分散液として作製した低比重セメントスラリー用添加剤を添加した実施例1~3のセメントスラリーの場合、比較例1~4に比べて、低比重骨材の偏在が明らかに少ないことがわかる(表2及び図1のセメント硬化物の外観写真参照)。また、表2に示したとおり、実施例1~3の場合、いずれもセメント強度は1300psi以上あり、高強度なセメント硬化物が得られていることがわかる。このように、実施例1~3の場合、低比重骨材の偏在が少なく、かつ強度の高いセメント硬化物が得られることがわかった
【0044】
これとは対照的に、セメントスラリーを調製する際に、低比重セメントスラリー用添加剤を添加しない場合(比較例1)、水性シリカゾルのみを添加した場合(比較例2)、精製ベントナイトのみを添加した場合(比較例3)、いずれも低比重骨材の偏在が大きく、且つ、比較例2においてはセメント強度が1157psiであり、実施例1~3と比べてセメント硬化物の強度も不十分であることがわかった(表2及び図1のセメント硬化物の外観写真参照)。
【0045】
また、セメントスラリーを調製する際に、層状珪酸塩(精製ベントナイト)粒子と水性シリカゾルを別々に添加した場合(比較例4)、低比重骨材の偏在がやや大きく、且つ、セメント強度が1181psiであり、実施例1~3と比べてセメント硬化物の強度も不十分であることがわかった(表2及び図1のセメント硬化物の外観写真参照)。
【0046】
以上の結果より、低比重セメントスラリーを作製する際に、スメクタイト族層状珪酸塩粒子などの層状珪酸塩粒子とシリカ粒子とを含む水性分散体からなる低比重セメントスラリー用添加剤を使用することにより、低比重骨材の偏在が抑制され、しかもセメント強度が高くなることがわかる。
図1