(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】藻類、暗所における藻類の生育を改善する方法、暗所における生育が改善した藻類の製造方法、暗所活性型クリプトクロム、及び暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20240402BHJP
C12N 1/13 20060101ALI20240402BHJP
C12N 1/12 20060101ALI20240402BHJP
C07K 14/405 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C12N15/31 ZNA
C12N1/13
C12N1/12 A
C07K14/405
(21)【出願番号】P 2023538687
(86)(22)【出願日】2023-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2023002568
(87)【国際公開番号】W WO2023145850
(87)【国際公開日】2023-08-03
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2022011181
(32)【優先日】2022-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】日比 敬太
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩正
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】Mol. Plant,2012年,Vol. 5, No. 1,pp.85-97
【文献】Plant Physiol.,2017年,Vol. 174,pp.185-201
【文献】Plant Signal. Behav.,2013年,Vol. 8, Issue 2, e22870
【文献】J. Plant Physiol.,2017年,Vol. 217,pp.4-14
【文献】SpringerPlus,2015年,4: 559
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
暗所で活性化が維持される暗所活性型クリプトクロムを有する、藻類
であって、
前記暗所活性型クリプトクロムは、野生型の暗所不活性型クリプトクロムのアミノ酸配列と比較して、フラビンアデニンジヌクレオチド結合ドメインに変異を有し、且つ前記変異は、下記式(1)で表されるアミノ酸配列における8番目のグリシン残基が、アルギニン残基又はリジン残基に置換された変異である、
藻類。
LXZXWXXGXXXJ (1)
[式中、Lはロイシン残基、Wはトリプトファン残基、Gはグリシン残基、Zは疎水性アミノ酸残基若しくは極性無電荷アミノ酸残基、Jは疎水性アミノ酸残基、Xは任意のアミノ酸残基を表す。]
【請求項2】
前記暗所活性型クリプトクロムを有しない同種の藻類と比較して、暗所において高い生育速度を有する、請求項1に記載の藻類。
【請求項3】
前記暗所活性型クリプトクロムを有しない同種の藻類と比較して、暗所における最大到達藻密度が高い、請求項1に記載の藻類。
【請求項4】
前記暗所活性型クリプトクロムのアミノ酸配列は、
前記野生型の暗所不活性型クリプトクロムのアミノ酸配列と比較して、90%以上の配列同一性を有する、請求項1に記載の藻類。
【請求項5】
前記藻類が、単細胞藻類である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の藻類。
【請求項6】
藻類に、暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドを導入することを含
み、
前記暗所活性型クリプトクロムは、野生型の暗所不活性型クリプトクロムのアミノ酸配列と比較して、フラビンアデニンジヌクレオチド結合ドメインに変異を有し、且つ前記変異は、下記式(1)で表されるアミノ酸配列における8番目のグリシン残基が、アルギニン残基又はリジン残基に置換された変異である、
暗所における藻類の生育を改善する方法。
LXZXWXXGXXXJ (1)
[式中、Lはロイシン残基、Wはトリプトファン残基、Gはグリシン残基、Zは疎水性アミノ酸残基若しくは極性無電荷アミノ酸残基、Jは疎水性アミノ酸残基、Xは任意のアミノ酸残基を表す。]
【請求項7】
前記暗所活性型クリプトクロムのアミノ酸配列は、前記野生型の暗所不活性型クリプトクロムのアミノ酸配列と比較して、90%以上の配列同一性を有する、請求項6に記載の暗所における藻類の生育を改善する方法。
【請求項8】
藻類に、暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドを導入することを含
み、
前記暗所活性型クリプトクロムは、野生型の暗所不活性型クリプトクロムのアミノ酸配列と比較して、フラビンアデニンジヌクレオチド結合ドメインに変異を有し、且つ前記変異は、下記式(1)で表されるアミノ酸配列における8番目のグリシン残基が、アルギニン残基又はリジン残基に置換された変異である、
暗所における生育が改善した藻類の製造方法。
LXZXWXXGXXXJ (1)
[式中、Lはロイシン残基、Wはトリプトファン残基、Gはグリシン残基、Zは疎水性アミノ酸残基若しくは極性無電荷アミノ酸残基、Jは疎水性アミノ酸残基、Xは任意のアミノ酸残基を表す。]
【請求項9】
前記暗所活性型クリプトクロムのアミノ酸配列は、前記野生型の暗所不活性型クリプトクロムのアミノ酸配列と比較して、90%以上の配列同一性を有する、請求項8に記載の暗所における生育が改善した藻類の製造方法。
【請求項10】
下記(a)~(c)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、暗所で活性化が維持される暗所活性型クリプトクロム:
(a)配列番号12、14、34、37、40、43、46、49、52、62、65、68、71、74、又は77に記載のアミノ酸配列において、下記式(1)で表されるアミノ酸配列の8番目のグリシン残基が
アルギニン残基又はリジン残基に置換されている、アミノ酸配列、
LXZXWXXGXXXJ (1)
[式中、Lはロイシン残基、Wはトリプトファン残基、Gはグリシン残基、Zは疎水性アミノ酸残基若しくは極性無電荷アミノ酸残基、Jは疎水性アミノ酸残基、Xは任意のアミノ酸残基を表す。];
(b)配列番号12、14、34、37、40、43、46、49、52、62、65、68、71、74、又は77に記載のアミノ酸配列において、1個又は複数個のアミノ酸が変異されたアミノ酸配列であって、且つ前記変異が前記式(1)で表されるアミノ酸配列の8番目のグリシン残基を
アルギニン残基又はリジン残基に置換する変異を含む、アミノ酸配列;及び
(c)配列番号12、14、34、37、40、43、46、49、52、62、65、68、71、74、又は77に記載のアミノ酸配列に対して
90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、前記式(1)で表されるアミノ酸配列の8番目のグリシン残基が
アルギニン残基又はリジン残基に置換されている、アミノ酸配列。
【請求項11】
請求項
10に記載の暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類、暗所における藻類の生育を改善する方法、暗所における生育が改善した藻類の製造方法、暗所活性型クリプトクロム、及び暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドに関する。
本願は、2022年1月27日に、日本に出願された特願2022-011181号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
クリプトクロムは、真核生物で広く保存されている青色光受容体タンパク質である。クリプトクロムは、植物では、光形態形成、及び概日リズム等の調節に関与することが知られている。クリプトクロムは、青色光の受光により活性化し、光環境に適応した応答反応を制御する役割を担っている。シロイヌナズナでは、クリプトクロム1(CRY1)のフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)結合サイトの1アミノ酸置換により、暗所でも光形態形成表現型(photomorphogenic phenotype)を示すようになったことが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
近年、藻類を利用して有用物質を生産する試みが行われている。工業的に藻類を利用するためには、暗所で、大規模に藻類を培養できることが望ましい。しかしながら、藻類は、通常、光独立栄養的に生育し、暗所での従属栄養的な生育できなかったり、暗所での従属栄養的な生育が遅かったりする場合が多い。
シアニディオシゾン・メロラエ(Cyanidioschyzon merolae)は、通常、絶対独立栄養性であるが、従属栄養的に生育する株が報告されている(非特許文献2、3)。しかしながら、これらの株は、従属栄養培養での最大到達藻密度が低く、継代により生育速度がさらに遅くなることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Nan-Nan Gu, Yan-Chun Zhang, Hong-Quan Yang. Substitution of a conserved glycine in the PHR domain of Arabidopsis cryptochrome 1 confers a constitutive light response. Mol Plant. 2012 Jan;5(1):85-97.
【文献】Takashi Moriyama, Natsumi Mori, and Naoki Sato. Activation of oxidative carbon metabolism by nutritional enrichment by photosynthesis and exogenous organic compounds in the red alga Cyanidioschyzon merolae: evidence for heterotrophic growth. SpringerPlus (2015) 4:559.
【文献】Takashi Moriyama, Natsumi Mori, Noriko Nagata, and Naoki Sato. Selective loss of photosystem I and formation of tubular thylakoids in heterotrophka11y grown red alga Cyanidioschyzon merolae. Photosynthesis Research (2019) 140, 275-287.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
藻類の工業的利用のためには、藻類が、暗所でも良好に生育できることが望ましい。暗所での生育が不良な藻類について、暗所での生育を改善できれば、それらの藻類も工業的に利用しやすくなる。
【0006】
そこで、本発明は、暗所における生育が改善された藻類、暗所における藻類の生育を改善する方法、暗所における生育が改善した藻類の製造方法、暗所活性型クリプトクロム、及び暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]暗所で活性化が維持される暗所活性型クリプトクロムを有する、藻類。
[2]前記暗所活性型クリプトクロムを有しない同種の藻類と比較して、暗所において高い生育速度を有する、[1]に記載の藻類。
[3]前記暗所活性型クリプトクロムを有しない同種の藻類と比較して、暗所における最大到達藻密度が高い、[1]又は[2]に記載の藻類。
[4]前記暗所活性型クリプトクロムのアミノ酸配列は、暗所で不活性化する暗所不活性型クリプトクロムのアミノ酸配列と比較して、フラビンアデニンジヌクレオチド結合ドメインに変異を有する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の藻類。
[5]前記暗所不活性型クリプトクロムの前記フラビンアデニンジヌクレオチド結合ドメインが、下記式(1)で表されるアミノ酸配列を含む、[4]に記載の藻類。
LXZXWXXGXXXJ (1)
[式中、Lはロイシン残基、Wはトリプトファン残基、Gはグリシン残基、Zは疎水性アミノ酸残基若しくは極性無電荷アミノ酸残基、Jは疎水性アミノ酸残基、Xは任意のアミノ酸残基を表す。]
[6]前記暗所活性型クリプトクロムのアミノ酸配列は、前記暗所不活性型クリプトクロムのアミノ酸配列と比較して、前記式(1)で表されるアミノ酸配列に変異を有する、[5]に記載の藻類。
[7]前記暗所活性型クリプトクロムは、前記式(1)で表されるアミノ酸配列における8番目のグリシン残基が、塩基性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む、[6]に記載の藻類。
[8]前記藻類が、単細胞藻類である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の藻類。
[9]藻類に、暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドを導入することを含む、暗所における藻類の生育を改善する方法。
[10]藻類に、暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドを導入することを含む、暗所における生育が改善した藻類の製造方法。
[11]下記(a)~(c)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、暗所で活性化が維持される暗所活性型クリプトクロム:
(a)配列番号12、14、34、37、40、43、46、49、52、62、65、68、71、74、又は77に記載のアミノ酸配列において、下記式(1)で表されるアミノ酸配列の8番目のグリシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されている、アミノ酸配列、
LXZXWXXGXXXJ (1)
[式中、Lはロイシン残基、Wはトリプトファン残基、Gはグリシン残基、Zは疎水性アミノ酸残基若しくは極性無電荷アミノ酸残基、Jは疎水性アミノ酸残基、Xは任意のアミノ酸残基を表す。];
(b)配列番号12、14、34、37、40、43、46、49、52、62、65、68、71、74、又は77に記載のアミノ酸配列において、1個又は複数個のアミノ酸が変異されたアミノ酸配列であって、且つ前記変異が前記式(1)で表されるアミノ酸配列の8番目のグリシン残基を塩基性アミノ酸残基に置換する変異を含む、アミノ酸配列;及び
(c)配列番号12、14、34、37、40、43、46、49、52、62、65、68、71、74、又は77に記載のアミノ酸配列に対して70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、且つ前記式(1)で表されるアミノ酸配列の8番目のグリシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されている、アミノ酸配列。
[12][11]に記載の暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチド。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、暗所における生育が改善された藻類、暗所における藻類の生育を改善する方法、暗所における生育が改善した藻類の製造方法、暗所活性型クリプトクロム、及び暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】C.meloraeのCRY候補及びシロイヌナズナCRY1において、Clustal Omegaによりアライメントした結果を示す。「LXZXWXXGXXXJ」モチーフ付近のアミノ酸配列を示した。「*」は全ての解析配列で一致するアミノ酸残基を示し、「:」は一部の解析配列で一致するアミノ酸残基を示し、「.」は解析配列間でアミノ酸ファミリーが一致するアミノ酸残基を示す(
図5~8でも同様)。
【
図2A】C.merolaeに、CYME_CMM076C(G419R)遺伝子を導入するための形質転換用直鎖状DNAベクターの構造を示す。
【
図2B】C.merolaeに、CYME_CMQ453C(G572R)遺伝子を導入するための形質転換用直鎖状DNAベクターの構造を示す。
【
図3】CMM076C(G419R)導入株、及びCMQ453C(G572R)導入株において、暗所での従属栄養的な生育を評価した結果を示す。
【
図4】CMM076C(G419R)導入株、及びCMQ453C(G572R)導入株において、Western Blot解析により、導入タンパク質の発現を確認した結果を示す。
【
図5】Haematococcus pluvialisのCRY候補及びシロイヌナズナCRY1のアライメント結果を示す。
【
図6】Nannochloropsis gaditanaのCRY候補及びシロイヌナズナCRY1のアライメント結果を示す。
【
図7】Phaeodactylum tricornutumのCRY候補及びシロイヌナズナCRY1のアライメント結果を示す。
【
図8】Diacronema lutheriのCRY候補及びシロイヌナズナCRY1のアライメント結果を示す。
【
図9】Chaetoceros muelleriのCRY候補及びシロイヌナズナCRY1のアライメント結果を示す。
【
図10】Chaetoceros gracilisのCRY候補及びシロイヌナズナCRY1のアライメント結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
「を含む」(comprise)という用語は、対象となる構成要素以外の構成要素を含んでいてもよいことを意味する。「からなる」(consist of)という用語は、対象となる構成要素以外の構成要素を含まないことを意味する。「から本質的になる」(consist essentially of)という用語は、対象となる構成要素以外の構成要素を特別な機能を発揮する態様(発明の効果を完全に喪失させる態様など)では含まないことを意味する。本明細書において、「を含む」(comprise)と記載する場合、「からなる」(consist of)態様、及び「から本質的になる」(consist essentially of)態様を包含する。
【0011】
タンパク質、ペプチド、ポリヌクレオチド(DNA、RNA)、ベクター、細胞、及び藻類は、単離されたものであり得る。「単離された」とは、天然状態又は他の成分から分離された状態を意味する。「単離された」ものは、他の成分を実質的に含まないものであり得る。「他の成分を実質的に含まない」とは、単離された成分に含まれる他の成分の含有量が無視できる程度であることを意味する。単離された成分に含まれる他の成分の含有量は、例えば、10質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、又は0.1質量%以下であり得る。本明細書に記載されるタンパク質、ペプチド、ポリヌクレオチド(DNA、RNA)、ベクター、及び細胞は、単離されたタンパク質、単離されたペプチド、単離されたポリヌクレオチド(単離されたDNA、単離されたRNA)、単離されたベクター、単離された細胞、及び単離された藻類であり得る。
【0012】
ヌクレオチド配列は、特に明示しない限り、一般的に認められている1文字コードで記載される。特に明示しない限り、ヌクレオチド配列は、5’側から3’側に向かって記載される。ヌクレオチド残基は、単に、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、又はウラシル等、あるいはそれらの1文字コードで記載される場合がある。
【0013】
アミノ酸配列は、特に明示しない限り、一般的に認められている1文字コード又は3文字コードで記載される。特に明示しない限り、アミノ酸配列は、N末端側からC末端側に向かって記載される。
特定のアミノ酸配列に含まれる特定のアミノ酸残基は、アミノ酸残基の1文字コード及びN末端からの位置により表記される場合がある。例えば、配列番号16に記載のアミノ酸配列における、N末端から419番目のグリシン残基は、「G419」と表記される。
特定のアミノ酸配列に含まれる特定のアミノ酸残基の置換は、置換前のアミノ酸残基の1文字コード、N末端からの位置、及び置換後のアミノ酸残基の1文字コードにより表記される場合がある。例えば、配列番号16に記載のアミノ酸配列における、N末端から419番目のグリシン残基のアルギニン残基への置換は、「G419R」と表記される。
【0014】
「遺伝子」は、特定のタンパク質をコードする少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドを指す。遺伝子は、エクソン及びイントロンの両方を含み得る。
【0015】
塩基配列どうし又はアミノ酸配列どうしの配列同一性(又は相同性)は、2つの塩基配列又はアミノ酸配列を、対応する塩基又はアミノ酸が最も多く一致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながら並置し、得られたアライメント中のギャップを除く、塩基配列全体又はアミノ酸配列全体に対する一致した塩基又はアミノ酸の割合として求められる。塩基配列又はアミノ酸配列どうしの配列同一性は、当該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェアを用いて求めることができる。塩基配列の配列同一性の値は、例えば、公知の相同性検索ソフトウェアBLASTNにより得られたアライメントを元にした計算によって得ることができる。アミノ酸配列の配列同一性の値は、例えば、公知の相同性検索ソフトウェアBLASTPにより得られたアライメントを元にした計算によって得ることができる。
【0016】
「光独立栄養培養」とは、光存在下(明所)、有機物非存在下での培養を意味する。
「従属栄養培養」とは、暗所、有機物存在下での培養を意味する。
「混合栄養培養」とは、光存在下(明所)、有機物存在下での培養を意味する。
「光独立栄養的な生育」とは、光存在下、有機物非存在下での藻類の生育を意味する。光独立栄養的な生育は、光独立栄養培養における藻類の生育であってもよい。
「従属栄養的な生育」とは、暗所、有機物存在下での藻類の生育を意味する。従属栄養的な生育は、従属栄養培養における藻類の生育であってもよい。
「混合栄養的な生育」とは、光存在下、有機物存在下での藻類の生育を意味する。混合栄養的な生育は、混合栄養培養における藻類の生育であってもよい。
【0017】
「最大到達藻密度」とは、藻類の培養において、藻類の生育が停止したときの藻密度又は藻類の生育の過程で達成された最大の藻密度を意味する。最大到達藻密度は、藻類が増殖し、静止期に達したときの藻密度であってもよい。
「野生型」は、自然界に存在する生物、遺伝子、又はタンパク質等を意味する。野生型の藻類(野生株)は、自然界に存在する藻類を意味する。野生型遺伝子は、野生型の生物が有する遺伝子を意味する。野生型タンパク質は、野生型の生物が有するタンパク質であり、野生型遺伝子から発現される。
【0018】
<藻類>
本発明の第1の態様は、暗所で活性化が維持される暗所活性型クリプトクロムを有する、藻類である。
【0019】
(藻類)
本実施形態における藻類の種類は、特に限定されない。藻類としては、紅藻、褐藻、緑藻、珪藻、黄緑藻、渦鞭毛藻、真正眼点藻、ハプト藻等が挙げられる。藻類は、単細胞でもよく、多細胞でもよいが、単細胞藻類が好ましい。藻類は、細胞群体を形成するものも好ましい。藻類は、野生型がクリプトクロムを有することが好ましい。藻類は、野生型が、従属栄養的に生育できないか、従属栄養的な生育能力が低いものが好ましい。藻類の「従属栄養的な生育能力が低い」場合の具体例としては、例えば、光独立栄養培養での生育速度と比較して、従属栄養培養での生育速度が遅いこと;光独立栄養培養における最大到達藻密度と比較して、従属栄養培養における最大到達藻密度が低いこと;及び光独立栄養培養で継代した後の生育速度と比較して、従属栄養培養で継代した後の生育速度が遅いこと、等が挙げられる。
【0020】
一実施形態において、藻類は、単細胞紅藻、緑藻、真正眼点藻、珪藻、又はハプト藻である。
【0021】
単細胞紅藻としては、例えば、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)、ベニミドロ綱(Stylonematophyceae)、チノリモ綱(Porphyridiophyceae)、及びロデラ綱(Rhodellophyceae)が挙げられる。イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)としては、シアニディオシゾン属(Cyanidioschyzon)、シアニジウム属(Cyanidium)、及びガルディエリア属(Galdieria)が挙げられる。一実施形態において、藻類は、シアニディオシゾン・メロラエ(Cyanidioschyzon merolae)である。
【0022】
緑藻としては、緑藻綱(Chlorophyceae)が挙げられる。緑藻綱としては、ヘマトコッカス属(Haematococcus)、クラミドモナス属(Chlamydomonas)、ゴニウム属(Gonium)、パンドリナ属(Pandorina)、ボルボックス属(Volvox)、ドゥナリエラ属(Dunaliella)等が挙げられる。緑藻の具体例としては、ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)が挙げられる。
真正眼点藻としては、真正眼点藻綱(Eustigmatophyceae)が挙げられる。真正眼点藻綱としては、ナンノクロロプシス属(Nannochloropsis)、マイクロクロロプシス属(Microchloropsis)、モノドプシス属(Monodopsis)、ビスケリア属(Vischeria)、クロロボトリス属(Chlorobotrys)、ゴニオクロリス属(Goniochloris)等が挙げられる。真正眼点藻の具体例としては、ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)が挙げられる。
珪藻としては、珪藻綱(Bacillariophyceae)が挙げられる。珪藻綱としては、フェオダクチラム属(Phaeodactylum)、シネドラ属(Synedra)、アステリオネラ属(Asterionella)、キクロテラ属(Cyclotella)、メロシラ属(Melosira)、キートセロス属(Chaetoceros)、タラシオシラ属(Thalassiosira)、レプトシリンドルス属(Leptocylindrus)、ニッチア属(Nitzschia)、シリンドロテカ属(Cylindrotheca)、ユーカンピア属(Eucampia)、オドンテラ属(Odontella)等が挙げられる。珪藻の具体例としては、フェオダクチラム・トリコルヌタム(Phaeodactylum tricornutum)が挙げられる。
ハプト藻としては、ハプト藻綱(Haptophyceae)が挙げられる。ハプト藻綱としては、パブロバ亜綱(Pavlovophycidae)、プリムネシウム亜綱(Prymnesiophycidae)が挙げられる。パブロバ亜綱としては、ディアクロネマ属(Diacronema)、パブロバ属(Pavlova)、エクサンテマクリシス属(Exanthemachrysis)等が挙げられる。ハプト藻の具体例としては、ディアクロネマ・ルテリ(Diacronema lutheri)が挙げられる。
【0023】
(暗所活性型クリプトクロム)
「暗所活性型クリプトクロム」とは、暗所で活性が維持されるクリプトクロムを意味する。クリプトクロムは、青色光受容体であり、青色光を受光して活性化する。活性化したクリプトクロムは、遺伝子発現を直接又は間接的に制御して、光応答を誘導する。暗所活性型クリプトクロムは、暗所でも、活性化が維持され、青色光受光時と同様の光応答を誘導する。暗所活性型クリプトクロムは、藻類では、暗所における従属栄養的な生育を向上させる機能を有する。
具体的には、暗所活性型クリプトクロムを有する藻類は、暗所活性型クリプトクロムを有しない同種の藻類と比較して、暗所における従属栄養的な生育が改善する。より具体的には、暗所活性型クリプトクロムを有する藻類は、暗所活性型クリプトクロムを有しない同種の藻類と比較して、暗所において高い生育速度を有する。あるいは、暗所活性型クリプトクロムを有する藻類は、暗所活性型クリプトクロムを有しない同種の藻類と比較して、暗所における最大到達藻密度が高くなる。あるいは、暗所活性型クリプトクロムを有する藻類は、暗所における従属栄養培養において、継代を行っても継代後の生育速度が低下しない。
【0024】
「暗所活性型クリプトクロムを有しない同種の藻類」とは、対象となる暗所活性型クリプトクロムを有する藻類と、分類学的な種が同じ藻類であって、且つ暗所活性型クリプトクロムを有しない藻類を意味する。一実施形態において、「暗所活性型クリプトクロムを有しない同種の藻類」は、対象となる暗所活性型クリプトクロム遺伝子を有する藻類と、実質的に同じ遺伝的背景を有する。「実質的に同じ遺伝的背景を有する」とは、暗所活性型クリプトクロム遺伝子(あるいは暗所活性型クリプトクロム遺伝子とマーカー遺伝子)以外のゲノム配列が、実質的に同じであることを意味する。藻類が後述の暗所不活性型クリプトクロムを有する場合、「実質的に同じ遺伝的背景を有する」とは、暗所活性型クリプトクロム遺伝子及び暗所不活性型クリプトクロム遺伝子(あるいは暗所活性型クリプトクロム遺伝子、暗所不活性型クリプトクロム遺伝子、及びマーカー遺伝子)以外のゲノム配列が、実質的に同じであることを意味してもよい。実質的に同じであるゲノム配列どうしは、例えば、99%以上、99.9%以上、99.99%以上、又は99.9999%以上の配列同一性を有する。
【0025】
暗所活性型クリプトクロムを有する藻類が、暗所活性型クリプトクロムを有さない藻類に暗所活性型クリプトクロム遺伝子を導入して作製された形質転換体である場合、「暗所活性型クリプトクロムを有しない同種の藻類」は、当該遺伝子導入の対象となった親株(野生株)であってもよい。例えば、C.merolae NEIS-1804株に、暗所活性型クリプトクロム遺伝子を導入して、暗所活性型クリプトクロムを有する藻類を作製した場合、「暗所活性型クリプトクロムを有しない同種の藻類」は、C.merolae NEIS-1804株であってもよい。
【0026】
一実施形態において、暗所活性型クリプトクロムは、暗所で不活性化する暗所不活性型クリプトクロムと比較して、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)結合ドメインに変異を有する。「暗所不活性型クリプトクロム」は、野生型クリプトクロムであってもよい。一実施形態において、暗所不活性型クリプトクロムは、植物型クリプトクロムである。暗所不活性型クリプトクロムのFAD結合ドメインは、公知のタンパク質ドメインデータベースを利用したドメイン検索により、特定することができる。タンパク質ドメインデータベースとしては、例えば、European Bioinformatics Institute(EMBL-EBI)が提供するPfam等が挙げられる。
暗所不活性型クリプトクロムのFAD結合ドメインは、下記式(1)で表されるアミノ酸配列を含むことが好ましい。
LXZXWXXGXXXJ (1)
[式中、Lはロイシン残基、Wはトリプトファン残基、Gはグリシン残基、Zは疎水性アミノ酸残基若しくは極性無電荷アミノ酸残基、Jは疎水性アミノ酸残基、Xは任意のアミノ酸残基を表す。]
【0027】
式(1)中、Zは疎水性アミノ酸残基若しくは極性無電荷アミノ酸残基を表す。疎水性アミノ酸残基としては、ロイシン残基、イソロイシン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基、バリン残基、メチオニン残基、システイン残基、チロシン残基、アラニン残基が挙げられる。Zにおける疎水性アミノ酸残基としては、ロイシン残基、イソロイシン残基、フェニルアラニン残基、バリン残基、又はメチオニン残基が好ましく、ロイシン残基、イソロイシン残基、又はバリン残基がより好ましい。
極性無電荷アミノ酸残基としては、セリン残基、スレオニン残基、システイン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基が挙げられる。Zにおける極性無電荷アミノ酸残基としては、グルタミン残基が好ましい。
Zとしては、疎水性アミノ酸残基又はグルタミン残基が好ましく、ロイシン残基、イソロイシン残基、バリン残基、メチオニン残基、又はグルタミン残基がさらに好ましく、ロイシン残基、イソロイシン残基、バリン残基、又はグルタミン残基が特に好ましい。
【0028】
式(1)中、Jは疎水性アミノ酸残基を表す。疎水性アミノ酸残基としては、ロイシン残基、イソロイシン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基、バリン残基、メチオニン残基、システイン残基、チロシン残基、アラニン残基が挙げられる。Jにおける疎水性アミノ酸残基としては、ロイシン残基、イソロイシン残基、フェニルアラニン残基、バリン残基、メチオニン残基、又はチロシン残基が好ましく、ロイシン残基、イソロイシン残基、フェニルアラニン残基、又はチロシン残基がより好ましい。
【0029】
式(1)中、Xは任意のアミノ酸残基を表す。式(1)中のXを、N末端側から順に、X1~X7とすると、式(1)は、以下のように表すことができる。
LX1ZX2WX3X4GX5X6X7J (1)’
【0030】
X1は、疎水性アミノ酸残基、塩基性アミノ酸残基、又はグリシン残基が好ましい。疎水性アミノ酸残基としては、ロイシン残基、トリプトファン残基、又はチロシン残基が好ましい。塩基性アミノ酸残基としては、アルギニン残基、又はヒスチジン残基が好ましい。X1としては、ロイシン残基、トリプトファン残基、チロシン残基、アルギニン残基、ヒスチジン残基、又はグリシン残基が好ましい。
【0031】
X2は、プロリン残基、セリン残基、アスパラギン酸残基、又はアルギニン残基が好ましく、プロリン残基、セリン残基、又はアスパラギン酸残基がより好ましく、プロリン残基又はセリン残基がさらに好ましく、プロリン残基が特に好ましい。
【0032】
X3は、親水性アミノ酸残基が好ましい。親水性アミノ酸残基としては、極性無電荷アミノ酸残基、塩基性アミノ酸残基、酸性アミノ酸残基が挙げられる。X3における極性無電荷アミノ酸残基としては、グルタミン残基又はスレオニン残基が好ましく、グルタミン残基がより好ましい。X3における塩基性アミノ酸残基としては、アルギニン残基又はリジン残基が好ましい。酸性アミノ酸残基としては、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基が挙げられる。X3における酸性アミノ酸残基としては、グルタミン酸残基が好ましい。X3としては、グルタミン残基、スレオニン残基、グルタミン酸残基、アルギニン残基、又はリジン残基が好ましい。
【0033】
X4は、疎水性アミノ酸残基、酸性アミノ酸残基、又は塩基性アミノ酸残基が好ましい。X4における疎水性アミノ酸残基としては、イソロイシン残基、トリプトファン残基、又はアラニン残基が好ましい。X4における酸性アミノ酸残基としては、グルタミン酸残基、又はアスパラギン酸残基が好ましい。X4における塩基性アミノ酸残基としては、ヒスチジン残基、又はリジン残基が好ましい。X4としては、イソロイシン残基、トリプトファン残基、アラニン残基、グルタミン酸残基、アスパラギン酸残基ヒスチジン残基、又はリジン残基が好ましい。
【0034】
X5は、疎水性アミノ酸残基、又は酸性アミノ酸残基が好ましい。X5における疎水性アミノ酸残基としては、アラニン残基、ロイシン残基、又はメチオニン残基が好ましい。X5における酸性アミノ酸残基としては、グルタミン酸残基が好ましい。X5としては、アラニン残基、ロイシン残基、メチオニン残基、又はグルタミン酸残基が好ましい。
【0035】
X6は、塩基性アミノ酸残基、極性無電荷アミノ酸残基、酸性アミノ酸残基、又はアラニン残基が好ましい。X6における塩基性アミノ酸残基としては、アルギニン残基、又はリジン残基が好ましい。X6における極性無電荷アミノ酸残基としては、スレオニン残基、又はグルタミン残基が好ましい。X6における酸性アミノ酸残基としては、グルタミン酸残基が好ましい。X6としては、アルギニン残基、リジン残基、スレオニン残基、グルタミン残基、グルタミン酸残基、又はアラニン残基が好ましい。
【0036】
X7は、疎水性アミノ酸残基、極性無電荷アミノ酸残基、又は塩基性アミノ酸残基が好ましい。X7における疎水性アミノ酸残基としては、フェニルアラニン残基、バリン残基、トリプトファン残基、又はチロシン残基が好ましい。X7における極性無電荷アミノ酸残基としては、システイン残基が好ましい。X7における塩基性アミノ酸残基としては、ヒスチジン残基が好ましい。X7としては、フェニルアラニン残基、バリン残基、トリプトファン残基、チロシン残基、システイン残基、又はヒスチジン残基が好ましい。
【0037】
式(1)で表されるアミノ酸配列は、下記式(2)で表されるアミノ酸配列(配列番号2)が好ましく、下記式(3)で表されるアミノ酸配列(配列番号3)がより好ましい。
LXJPWXXGXXXJ (2)
LXJPWXXGXXAXJ (3)
[式中、Lはロイシン残基、Pはプロリン残基、Wはトリプトファン残基、Gはグリシン残基、Jは疎水性アミノ酸残基、XAは塩基性アミノ酸残基、Xは任意のアミノ酸残基を表す。]
【0038】
式(1)で表されるアミノ酸配列の具体例としては、配列番号7、8、35、38、41、44、47、50、53、63、66、69、72、75、又は78に記載のアミノ酸配列が挙げられる。配列番号7に記載のアミノ酸配列は、C.merolaeのクリプトクロム(CYME_CMM076C)が含むアミノ酸配列である。配列番号8に記載のアミノ酸配列は、C.merolaeのクリプトクロム(CYME_CMQ453C)が含むアミノ酸配列である。配列番号35に記載のアミノ酸配列は、Haematococcus lacustrisのQNL10737.1が含むアミノ酸配列である。配列番号38に記載のアミノ酸配列は、Nannochloropsis gaditanaのEWM23893が含むアミノ酸配列である。配列番号41に記載のアミノ酸配列は、Nannochloropsis gaditanaのXP_005852637が含むアミノ酸配列である。配列番号44に記載のアミノ酸配列は、Phaeodactylum tricornutumのXP_002179379が含むアミノ酸配列である。配列番号47に記載のアミノ酸配列は、Phaeodactylum tricornutumのXP_002180095が含むアミノ酸配列である。配列番号50に記載のアミノ酸配列は、Diacronema lutheriのKAG8458188が含むアミノ酸配列である。配列番号53に記載のアミノ酸配列は、Diacronema lutheriのKAG8463402が含むアミノ酸配列である。配列番号63に記載のアミノ酸配列は、Chaetoceros muelleriのGENE1が含むアミノ酸配列である。配列番号66に記載のアミノ酸配列は、Chaetoceros muelleriのGENE2が含むアミノ酸配列である。配列番号69に記載のアミノ酸配列は、Chaetoceros muelleriのGENE3が含むアミノ酸配列である。配列番号72に記載のアミノ酸配列は、Chaetoceros gracilisのGENE5が含むアミノ酸配列である。配列番号75に記載のアミノ酸配列は、Chaetoceros gracilisのGENE6が含むアミノ酸配列である。配列番号78に記載のアミノ酸配列は、Chaetoceros gracilisのGENE7が含むアミノ酸配列である。
LLLPWQIGARCL(配列番号7)
LLIPWQHGLRFL(配列番号8)
LLLPWQWGLKHY(配列番号35)
LWQSWEEGARVF(配列番号38)
LWQSWEEGARVF(配列番号41)
LRVDWTKGAEWF(配列番号44)
LWQSWEDGATVF(配列番号47)
LLVDWRHGARWF(配列番号50)
LYVRWEEGAAVF(配列番号53)
LWQSWEKGAEHF(配列番号63)
LGLSWKDGMQHF(配列番号66)
LHLDWRAGAEWF(配列番号69)
LWQSWEKGAEHF(配列番号72)
LLIDWRWGEAYF(配列番号75)
LGLSWKDGMQHF(配列番号78)
【0039】
暗所活性型クリプトクロムは、暗所不活性型クリプトクロムの式(1)で表されるアミノ酸配列中に変異を有することが好ましい。変異されるアミノ酸残基としては、例えば、式(1)で表されるアミノ酸配列の1番目のロイシン残基(L)、5番目のトリプトファン残基(W)、8番目のグリシン残基(G)、12番目のロイシン残基(L)等が挙げられる。変異されるアミノ酸残基としては、式(1)で表されるアミノ酸配列における8番目のグリシン残基(G)が好ましい。変異は、他のアミノ酸残基への置換が好ましい。
暗所活性型クリプトクロムは、暗所不活性型クリプトクロムの式(1)で表されるアミノ酸配列における8番目のグリシン残基(G)が、他のアミノ酸残基に置換されたものであることが好ましい。式(1)で表されるアミノ酸配列における8番目のグリシン残基(G)は、塩基性アミノ酸残基に置換されることが好ましい。塩基性アミノ酸残基としては、アルギニン残基(R)、リジン残基(K)、及びヒスチジン残基(H)が挙げられる。式(1)で表されるアミノ酸配列における8番目のグリシン残基(G)は、アルギニン残基(R)又はリジン残基(K)に置換されることが好ましく、アルギニン残基(R)に置換されることがより好ましい。
【0040】
暗所活性型クリプトクロムは、下記式(4)で表されるアミノ酸配列を含むことが好ましく、下記式(5)で表されるアミノ酸配列を含むことがより好ましく、下記式(6)で表されるアミノ酸配列を含むことがさらに好ましい。下記式(4)~(6)中、8番目のXAは、アルギニン残基又はリジン残基が好ましく、アルギニン残基がより好ましい。下記式(4)~(6)中、Z、J及び各Xの好ましい例は、上記式(1)と同様である。
LXZXWXXXAXXXJ (4)
LXJPWXXXAXXXJ (5)
LXJPWXXXAXXAXJ (6)
[式中、Lはロイシン残基、Pはプロリン残基、Wはトリプトファン残基、Gはグリシン残基、Zは疎水性アミノ酸残基若しくは極性無電荷アミノ酸残基、Jは疎水性アミノ酸残基、XAは塩基性アミノ酸残基、Xは任意のアミノ酸残基を表す。]
【0041】
暗所活性型クリプトクロムは、配列番号9、10、54、55、56、57、58、59、60、79、80、81、82、83、又は84に記載のアミノ酸配列を含むことが好ましい。
LLLPWQIRARCL(配列番号9)
LLIPWQHRLRFL(配列番号10)
LLLPWQWRLKHY(配列番号54)
LWQSWEERARVF(配列番号55)
LWQSWEERARVF(配列番号56)
LRVDWTKRAEWF(配列番号57)
LWQSWEDRATVF(配列番号58)
LLVDWRHRARWF(配列番号59)
LYVRWEERAAVF(配列番号60)
LWQSWEKRAEHF(配列番号79)
LGLSWKDRMQHF(配列番号80)
LHLDWRARAEWF(配列番号81)
LWQSWEKRAEHF(配列番号82)
LLIDWRWREAYF(配列番号83)
LGLSWKDRMQHF(配列番号84)
【0042】
暗所活性型クリプトクロムの具体例としては、下記(a)~(c)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチドが挙げられる。
(a)配列番号12、14、34、37、40、43、46、49、52、62、65、68、71、74、又は77に記載のアミノ酸配列において、下記式(1)で表されるアミノ酸配列の8番目のグリシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されている、アミノ酸配列、
LXZXWXXGXXXJ (1)
[式中、Lはロイシン残基、Wはトリプトファン残基、Gはグリシン残基、Zは疎水性アミノ酸残基若しくは極性無電荷アミノ酸残基、Jは疎水性アミノ酸残基、Xは任意のアミノ酸残基を表す。];
(b)配列番号12、14、34、37、40、43、46、49、52、62、65、68、71、74、又は77に記載のアミノ酸配列において、1個又は複数個のアミノ酸が変異されたアミノ酸配列であって、且つ前記変異が前記式(1)で表されるアミノ酸配列の8番目のグリシン残基を塩基性アミノ酸残基に置換する変異を含む、アミノ酸配列;及び
(c)配列番号12、14、34、37、40、43、46、49、52、62、65、68、71、74、又は77に記載のアミノ酸配列に対して70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、且つ前記式(1)で表されるアミノ酸配列の8番目のグリシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されている、アミノ酸配列。
【0043】
前記(b)において、「複数個」としては、2~20個、2~15個、2~10個、2~9個、2~8個、2~7個、2~6個、2~5個、2~4個、2~3個、又は2個が挙げられる。
前記(c)において、配列同一性は、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であってもよい。
前記(b)のアミノ酸配列は、配列番号12、14、34、37、40、43、46、49、52、62、65、68、71、74、又は77に記載のアミノ酸配列において、1個又は複数個のアミノ酸が変異されたアミノ酸配列であって、且つ前記式(4)で表されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列であることが好ましい。前記(c)のアミノ酸配列は配列番号12、14、34、37、40、43、46、49、52、62、65、68、71、74、又は77に記載のアミノ酸配列に対して70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、且つ前記式(4)で表されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列であることが好ましい。前記式(4)で表されるアミノ酸配列は、前記式(5)で表されるアミノ酸配列であることが好ましく、前記式(6)で表されるアミノ酸配列であることが好ましい。
【0044】
暗所活性型クリプトクロムは、暗所不活性型クリプトクロムと比較して、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のクリプトクロムCRY1(以下、「シロイヌナズナCRY1」という)(配列番号32)とアライメントしたとき、シロイヌナズナCRY1の380番目のグリシン残基(G380)に対応するアミノ酸残基が、塩基性アミノ酸残基に変異されていてもよい。塩基性アミノ酸としては、アルギニン残基又リジン残基が好ましく、アルギニン残基がより好ましい。
暗所活性型クリプトクロムの具体例としては、配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドが挙げられる。
【0045】
≪暗所活性型クリプトクロム遺伝子の取得方法≫
暗所活性型クリプトクロムを有する藻類は、暗所活性型クリプトクロムを発現する暗所活性型クリプトクロム遺伝子を有する。暗所活性型クリプトクロム遺伝子は、野生型クリプトクロム遺伝子に、暗所活性型クリプトクロムを発現するような変異を導入することにより取得してもよい。野生型クリプトクロム遺伝子は、公知のものを用いてもよく、所望の藻類において新たに同定してもよい。公知の野生型クリプトクロム遺伝子は、例えば、遺伝子データベース(GenBank、Uniprot等)に登録されたものを用いてもよい。
【0046】
野生型クリプトクロム遺伝子を新たに同定する場合、同定方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、既存の野生型クリプトクロムのアミノ酸配列をクエリーとして、タンパク質配列データベース(例えば、Non-redundant protein sequenceデータベース)に対して、相同性検索を行ってもよい。相同性検索は、例えば、BLASTPを用いて行うことができる。相同性検索の結果、例えば、クエリーとして用いた野生型クリプトクロムのアミノ酸配列に対して、20%以上、21%以上、22%以上、23%以上、24%以上、25%以上、26%以上、27%以上、28%以上、29%以上、又は30%以上の相同性を示すタンパク質配列を、クリプトクロム候補配列として取得してもよい。既存の野生型クリプトクロムとしては、例えば、シロイヌナズナCRY1(配列番号32)、C.merolaeのCYME_CMM076C(配列番号12)、C.merolaeのCYME_CMQ453C(配列番号14)、H.lacustrisのQNL10737.1(配列番号34)等が挙げられる。野生型クリプトクロムと相同性を示すタンパク質をコードする遺伝子を、野生型クリプトクロム候補遺伝子として取得することができる。
【0047】
所望の藻類において、ゲノム解読が十分に行われていない場合には、公知の方法によりゲノム解読を行い、ゲノム配列を取得してもよい。ゲノム解読は、例えば、次世代シーケンサーを用いて行うことができる。取得したゲノム配列に対して、既存の野生型クリプトクロムの遺伝子配列をクエリーとして、相同性検索を行うことにより、野生型クリプトクロム候補遺伝子を取得することができる。相同性検索は、例えば、BLASTNを用いて行うことができる。あるいは、ゲノム配列からORFを推定し、前記ORFにコードされるタンパク質のアミノ酸配列を取得してもよい。当該アミノ酸配列に対して、上記と同様に、既存の野生型クリプトクロムのアミノ酸配列をクエリーとして、相同性検索を行うことにより、野生型クリプトクロム候補配列を取得することができる。当該アミノ酸配列をコードするORFを、野生型クリプトクロム候補遺伝子として取得することができる。
【0048】
あるいは、所望の藻類のcDNAライブラリーを作製し、クリプトクロム候補遺伝子を探索してもよい。例えば、既存の野生型クリプトクロムの全長cDNA又はその部分断片をプローブとして用いて、所望の藻類のcDNAライブラリーを探索してもよい。プローブとハイブリダイズしたcDNAを、クリプトクロム候補遺伝子のcDNAとして取得することができる。プローブ用のクリプトクロムcDNAとしては、例えば、シロイヌナズナCRY1のcDNA(配列番号31)、CYME_CMM076CのcDNA(配列番号11)、C.merolaeのCYME_CMQ453CのcDNA(配列番号13)、H.lacustrisのQNL10737.1のcDNA(配列番号33)等が挙げられる。
あるいは、既存の野生型クリプトクロムのアミノ酸配列から、ディジェネレートプライマーを設計し、所望の藻類のcDNAライブラリーを鋳型として、ディジェネレートPCRを行ってもよい。ディジェネレートPCRにより増幅された核酸断片の配列解析を行うことにより、クリプトクロム候補遺伝子の部分配列を得ることができる。次いで、得られた部分配列からインバースプライマーを設計し、cDNAライブラリーを鋳型として、インバースPCRを行ってもよい。これにより、野生型クリプトクロム候補遺伝子のcDNA全長配列を得ることができる。
取得した野生型クリプトクロム候補遺伝子のcDNA配列が不完全である場合には、5’RACE法及び3’RACE法等を利用して、完全長のcDNA配列を取得してもよい。
【0049】
所望の藻類の野生型クリプトクロム候補遺伝子を取得した後、当該候補遺伝子がコードするタンパク質(候補タンパク質)についてドメイン検索を行ってもよい。タンパク質ドメイン検索は、例えば、公知のタンパク質ドメインデータベース(Pfam等)を利用して行うことができる。タンパク質ドメイン検索の結果、FAD結合ドメインを有さないタンパク質をコードする候補遺伝子は、野生型クリプトクロム候補遺伝子から除外してもよい。
【0050】
シロイヌナズナのCRY1のアミノ酸配列(配列番号32)とのアライメントを行い、シロイヌナズナCRY1の359番目のアスパラギン酸残基(D359)及び363番目のバリン残基(V363)に対応するアミノ酸残基がヒスチジン残基であるタンパク質は、フォトリアーゼである可能性が高い。そのため、そのようなタンパク質をコードする候補遺伝子は、野生型クリプトクロム候補遺伝子から除外してもよい。アライメントには、BLASTP、又はClustal Omega等を用いることができる。
【0051】
所望の藻類から複数の候補遺伝子が単離された場合、それらの候補遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列について、系統解析を行い、既存の野生型クリプトクロムとより近縁のタンパク質をコードする候補遺伝子を野生型クリプトクロム遺伝子として選択してもよい。既存の野生型クリプトクロムとしては、シロイヌナズナCRY1、C.merolaeのCYME_CMM076C及びCYME_CMQ453C、並びにH.lacustrisのQNL10737.1等が挙げられる。
【0052】
前記式(1)で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする候補遺伝子を、クリプトクロム遺伝子として選択してもよい。前記式(1)で表されるアミノ酸配列は、前記式(2)で表されるアミノ酸配列が好ましく、前記式(3)で表されるアミノ酸配列がより好ましい。
【0053】
シロイヌナズナのCRY1のアミノ酸配列(配列番号32)とのアライメントを行い、シロイヌナズナCRY1の380番目のグリシン残基(G380)に対応するアミノ酸残基がグリシン残基であるタンパク質をコードする候補遺伝子を、野生型クリプトクロム遺伝子として選択してもよい。
【0054】
取得した野生型クリプトクロム遺伝子に対して、暗所活性型クリプトクロムを発現するような変異を導入することにより、暗所活性型クリプトクロム遺伝子を取得することができる。変異の導入は、公知の方法を用いて行うことができる。変異の導入方法としては、例えば、所望の位置に変異を導入したプライマーを用いて、インバースPCRを行う方法等が挙げられる。変異の導入には、市販の変異導入キットを用いてもよい。
変異の導入箇所としては、上記で挙げた箇所が挙げられる。変異導入箇所としては、FAD結合ドメインが好ましく、前記式(1)で表されるアミノ酸配列がより好ましく、前記式(1)で表されるアミノ酸配列における8番目のグリシン残基がさらに好ましい。変異導入箇所は、シロイヌナズナのCRY1のアミノ酸配列(配列番号32)とアライメントしたとき、シロイヌナズナCRY1の380番目のグリシン残基(G380)に対応するアミノ酸残基であってもよい。
【0055】
取得した遺伝子が暗所活性型クリプトクロムを発現することは、当該遺伝子を藻類に導入し、暗所で従属栄養培養することにより、確認することができる。遺伝子が暗所活性型クリプトクロムを発現する場合には、当該遺伝子を導入していない元の藻類と比較して、暗所での従属栄養的な生育が改善する。従属栄養的な生育の改善としては、例えば、従属栄養培養における生育速度の向上、従属栄養培養における最大到達藻密度の向上、及び従属栄養培養における植え継ぎ後の生育速度の向上、等が挙げられる。
暗所活性型クリプトクロムを発現するように改変された藻類は、同じ条件下で従属栄養培養したとき、元の藻類と比較して、1.2倍以上、1.5倍以上、1.8倍以上、2倍以上、2.2倍以上、2.5倍以上、2.7倍以上、3倍以上、3.2倍以上、3.5倍以上、3.7倍以上、4倍以上、4.2倍以上、4.5倍以上、4.7倍以上、又は5倍以上の比増殖速度を有してもよい。
暗所活性型クリプトクロムを発現するように改変された藻類は、同じ条件下で従属栄養培養したとき、元の藻類と比較して、1.2倍以上、1.5倍以上、1.8倍以上、2倍以上、2.2倍以上、2.5倍以上、2.7倍以上、3倍以上、3.2倍以上、3.5倍以上、3.7倍以上、4倍以上、4.2倍以上、4.5倍以上、4.7倍以上、又は5倍以上の最大到達藻密度を有してもよい。
暗所活性型クリプトクロムを発現するように改変された藻類は、同じ条件下の従属栄養培養で植え継ぎを行ったとき、植え継ぎ後の比増殖速度が、元の藻類と比較して、1.2倍以上、1.5倍以上、1.8倍以上、2倍以上、2.2倍以上、2.5倍以上、2.7倍以上、3倍以上、3.2倍以上、3.5倍以上、3.7倍以上、4倍以上、4.2倍以上、4.5倍以上、4.7倍以上、又は5倍以上であってもよい。
【0056】
上記のように、暗所活性型クリプトクロムを発現することが確認された遺伝子を、暗所活性型クリプトクロム遺伝子として取得することができる。前記暗所活性型クリプトクロム遺伝子を藻類に導入することにより、暗所活性型クリプトクロムを有する藻類を取得することができる。
【0057】
本実施形態の藻類は、藻類の種類に応じて、適宜培地を選択して培養することができる。本実施形態の藻類は、例えば、公知の藻類用培地を用いて、培養することができる。培地としては、例えば、窒素源、リン源、及び微量元素(亜鉛、ホウ素、コバルト、銅、マンガン、モリブデン、鉄など)等を含む無機塩培地が例示される。窒素源としては、アンモニウム塩、硝酸塩、亜硝酸塩等が挙げられ、リン源としては、リン酸塩等が挙げられる。そのような無機塩培地としては、例えば、Gross培地、2×Allen培地(Allen MB. Arch. Microbiol. 1959 32: 270-277.)、M-Allen培地(Minoda A et al. Plant Cell Physiol. 2004 45: 667-71.)、MA2培地(Ohnuma M et al. Plant Cell Physiol. 2008 Jan;49(1):117-20.)、改変M-Allen培地等が挙げられるが、これらに限定されない。
従属栄養培養を行う場合には、上記のような無機塩培地に、有機炭素源を添加すればよい。有機炭素源としては、例えば、糖アルコール、糖、アミノ酸等が挙げられる。糖アルコールとしては、例えば、グリセロールが挙げられる。糖としては、例えば、グルコース、マンノース、フルクトース、スクロース、マルトース、ラクトース糖が挙げられる。培地中の有機炭素源の濃度としては、例えば、0.1~10%(w/v)又は0.1~10%(v/v)が挙げられる。
【0058】
本実施形態の藻類の培養条件は、特に限定されず、藻類の種類に応じて、適宜選択することができる。培養条件としては、例えば、pH1~8、温度10~50℃、及びCO2濃度0.3~3%等が挙げられる。
培養条件は、上記例示したものに限定されず、藻類の種類に応じて適宜選択可能である。例えば、藻類がイデユコゴメ綱である場合、pH条件としては、pH1.0~6.0が挙げられ、pH1.0~5.0が好ましく、pH1.0~3.0がより好ましい。温度条件としては、15~50℃が挙げられ、30~50℃が好ましく、35~50℃がより好ましい。独立栄養培養又は混合栄養培養を行う場合、光強度としては、5~2000μmol/m2sが挙げられ、5~1500μmol/m2sが好ましい。独立栄養培養又は混合栄養培養を行う場合、連続光で藻類を培養してもよく、明暗周期(10L:14Dなど)を設けて藻類を培養してもよい。従属栄養培養では、暗所で藻類を培養すればよい。
【0059】
本実施形態の藻類は、暗所活性型クリプトクロムを有するため、暗所不活性型クリプトクロムしか有さない藻類と比較して、暗所における従属栄養的な生育が改善されている。そのため、暗所でも、効率よく、高密度に培養することができる。このような性質を有するため、産業利用に適していると考えられる。
【0060】
<暗所における藻類の生育を改善する方法>
本発明の第2の態様は、藻類に、暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドを導入することを含む、暗所における藻類の生育を改善する方法である。
【0061】
(藻類)
藻類は、特に限定されず、任意の藻類を用いることができる。藻類としては、前記<藻類>の項で挙げた藻類と同様のものが挙げられる。
【0062】
(暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチド)
暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドは、暗所活性型クリプトクロムをコードするヌクレオチド配列(暗所活性型クリプトクロムコード配列)を含むものであれば、特に限定されない。暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドは、暗所活性型クリプトクロム遺伝子を含むポリヌクレオチドである。暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドは、暗所活性型クリプトクロム遺伝子を含むポリヌクレオチドである。暗所活性型クリプトクロム遺伝子は、上記<藻類>で記載した方法により、取得することができる。暗所活性型クリプトクロム遺伝子の具体例としては、配列番号15又は17に記載のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0063】
暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドは、暗所活性型クリプトクロム遺伝子(暗所活性型クリプトクロムコード配列)に加えて、他の配列を有してもよい。他の配列としては、例えば、暗所活性型クリプトクロム遺伝子の発現を制御する配列等が挙げられる。暗所活性型クリプトクロム遺伝子の発現制御配列としては、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリA付加シグナル、ターミネーター等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
暗所活性型クリプトクロム遺伝子は、任意のプロモーターに機能的に連結されてもよい。「機能的に連結」とは、第一の塩基配列が第二の塩基配列に十分に近くに配置され、第一の塩基配列が第二の塩基配列に影響を及ぼし得ることを意味する。例えば、遺伝子がプロモーターに機能的に連結するとは、遺伝子がプロモーターの制御下で発現するように連結されていることを意味する。プロモーターは、藻類の種類に応じて、当該藻類細胞で機能し得るものを適宜選択することができる。プロモーターは、野生型クリプトクロム遺伝子のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。他の遺伝子のプロモーターとしては、例えば、APCCプロモーター、CPCCプロモーター、Catalaseプロモーター、EF1αプロモーター等が挙げられるが、これらに限定されない。プロモーターは、他の生物(例えば、他種の藻類)のプロモーターであってもよい。
【0065】
暗所活性型クリプトクロム遺伝子の3’末端には任意のターミネーターが連結されてもよい。ターミネーターは、藻類の種類に応じて、当該藻類細胞で機能し得るものを適宜選択することができる。ターミネーターは、野生型クリプトクロム遺伝子のターミネーターであってもよく、他の遺伝子のターミネーターであってもよい。他の遺伝子のターミネーターとしては、APCCターミネーター、CPCCターミネーター、Catalaseターミネーター、EF1αターミネーター、β-チューブリンターミネーター、ユビキチンターミネーター等が挙げられるが、これらに限定されない。ターミネーターは、他の生物(例えば、他種の藻類)のターミネーターであってもよい。
【0066】
暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドは、暗所活性型クリプトクロム遺伝子に加えて、選択マーカー遺伝子を含んでもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、抗生物質耐性遺伝子、栄養要求性に関連する遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子等が挙げられる。抗生物質耐性遺伝子としては、例えば、ブラストサイジンS耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子等が挙げられる。栄養要求性に関連する遺伝子としては、例えば、URA5.3遺伝子等が挙げられる。蛍光タンパク質遺伝子としては、例えば、mVenus遺伝子、GFP遺伝子、mCherry遺伝子等が挙げられる。これらの選択マーカー遺伝子も、プロモーター、エンハンサー、ポリA付加シグナル、ターミネーター等の発現制御配列を有してもよい。マーカー遺伝子は、藻類細胞で機能し得るプロモーターに機能的に連結されてもよい。
【0067】
暗所活性型クリプトクロム遺伝子が、導入対象の藻類(ホスト藻類)以外の生物種に由来する場合、暗所活性型クリプトクロム遺伝子のヌクレオチド配列は、ホスト藻類のコドン使用頻度に基づきコドン最適化されていてもよい。コドン最適化することにより、ホスト藻類における暗所活性型クリプトクロムへの翻訳効率を向上させることができる。
【0068】
暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドは、5’ホモロジーアーム及び3’ホモロジーアームを含んでもよい。5’ホモロジーアーム及び3’ホモロジーアームは、ホスト藻類において、暗所活性型クリプトクロム遺伝子を導入する標的領域のヌクレオチド配列を含む。5’ホモロジーアームは、標的領域の5’側に隣接するヌクレオチド配列を含み得る。3’ホモロジーアームは、標的領域の3’側に隣接するヌクレオチド配列を含み得る。5’ホモロジーアーム及び3’ホモロジーアームの大きさは、ホスト藻類のゲノムDNAとの間で相同組換えが起こる大きさであればよく、特に限定されない。5’ホモロジーアーム及び3’ホモロジーアームは、例えば、500~3000bp程度とすることができる。
暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドが、5’ホモロジーアーム及び3’ホモロジーアームを含む場合、暗所活性型クリプトクロム遺伝子(又は暗所活性型クリプトクロム遺伝子及びマーカー遺伝子)の5’側(上流側)に、5’ホモロジーアームを配置することができる。暗所活性型クリプトクロム遺伝子(又は暗所活性型クリプトクロム遺伝子及びマーカー遺伝子)の3’側(下流側)に、3’ホモロジーアームを配置することができる。
【0069】
(暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドの導入方法)
暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドを、藻類細胞に導入する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドを藻類細胞に導入する方法としては、例えば、ゲノム編集を利用した方法、相同組換え法等が挙げられる。
【0070】
ゲノム編集を利用した方法としては、配列特異的エンドヌクレアーゼを含むゲノム編集システムを利用した方法が挙げられる。「配列特異的エンドヌクレアーゼを含むゲノム編集システム」とは、配列特異的エンドヌクレアーゼにより配列特異的にゲノムDNAを切断し、当該切断領域に変異を誘導することができるシステムを意味する。
配列特異的エンドヌクレアーゼは、所定の配列で核酸を切断可能な酵素である。配列特異的エンドヌクレアーゼは、所定の配列で2本鎖DNAを切断可能な配列特異的エンドデオキシリボヌクレアーゼが好ましい。配列特異的エンドヌクレアーゼとしては、例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(Zinc finger nuclease(ZFN))、TALEN(Transcription activator-like effector nuclease)、及びCasタンパク質等が挙げられるが、これらに限定されない。ゲノム編集システムとしては、Casタンパク質を用いたCRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)/Casシステムが好ましい。
【0071】
ゲノム編集を利用する場合、配列特異的エンドヌクレアーゼにより標的領域のゲノムDNA切断した後又は配列特異的エンドヌクレアーゼと同時に、暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドをドナーDNAとして藻類細胞に導入することができる。ドナーDNAは、5’ホモロジーアーム及び3’ホモロジーアームを含むことが好ましい。配列特異的エンドヌクレアーゼによるゲノムDNAの切断後又は配列特異的エンドヌクレアーゼと同時に、ドナーDNAを藻類細胞に導入することにより、相同組み換え修復(Homologous Directed Repair:HDR)が誘導され、暗所活性型クリプトクロム遺伝子(又は暗所活性型クリプトクロム遺伝子及びマーカー遺伝子)が標的領域に組込まれる。
【0072】
相同組換え法は、相同な配列を有する2つのDNA二本鎖の間で組換えが起こる現象を利用したゲノム改変法である。相同組換え法では、ターゲティングベクターを用いることができる。ターゲティングベクターは、暗所活性型クリプトクロム遺伝子(又は暗所活性型クリプトクロム遺伝子及びマーカー遺伝子)、並びに5’ホモロジーアーム及び3’ホモロジーアームを含むことができる。ターゲティングベクターを藻類細胞に導入することで、相同組換えにより、暗所活性型クリプトクロム遺伝子(又は暗所活性型クリプトクロム遺伝子及びマーカー遺伝子)が、藻類細胞のゲノムDNAに組み込まれる。
【0073】
藻類細胞に導入する場合、暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドは、線状DNAベクターでもよく、環状DNAベクターでもよいが、線状DNAベクターが好ましい。藻類細胞に、暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドを導入する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。導入方法としては、例えば、ポリエチレングリコール法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、DEAEデキストラン法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法等が挙げられる。
【0074】
ポリヌクレオチド導入操作後の藻類細胞を培養し、暗所活性型クリプトクロム遺伝子が導入された細胞を選択してもよい。暗所活性型クリプトクロム遺伝子と共にマーカー遺伝子を導入した場合には、マーカー遺伝子の発現に基づいて、遺伝子導入細胞を選択することができる。例えば、マーカー遺伝子が抗生物質耐性遺伝子である場合、当該抗生物質耐性遺伝子が耐性を有する抗生物質を含む培地で藻類細胞を培養することにより、暗所活性型クリプトクロム遺伝子が導入された細胞を選択することができる。例えば、マーカー遺伝子が栄養要求性を回復する遺伝子である場合、当該回復された栄養要求性成分を含有しない培地で藻類細胞を培養することにより、暗所活性型クリプトクロム遺伝子が導入された細胞を選択することができる。例えば、マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子である場合、当該蛍光に基づいてフローサイトメトリー等を用いて藻類細胞を選択することにより、暗所活性型クリプトクロム遺伝子が導入された細胞を選択することができる。
暗所活性型クリプトクロム遺伝子が導入された細胞は、コロニーPCRにより選択してもよい。コロニーPCRは、暗所活性型クリプトクロム遺伝子のヌクレオチド配列に基づいて設計されたプライマーを用いて行うことができる。コロニーPCRにより、DNA断片の増幅が確認されたコロニーを選択し、当該コロニーを構成する細胞を、暗所活性型クリプトクロム遺伝子導入細胞として選択することができる。
【0075】
暗所活性型クリプトクロム遺伝子が導入された藻類は、暗所活性型クリプトクロム遺伝子の発現により、暗所活性型クリプトクロムを有するようになる。藻類は、暗所活性型クリプトクロムを有することにより、暗所における従属栄養的な生育が改善される。暗所における従属栄養的な生育の改善としては、例えば、暗所における従属栄養的な生育速度の向上、暗所での従属栄養培養における最大到達藻密度の向上、及び暗所での従属栄養培養における植え継ぎ後の生育速度の向上、等が挙げられる。
【0076】
本実施形態の方法により、暗所での藻類の従属栄養的な生育を改善することができる。従属栄養的な生育の改善は、暗所での従属栄養的な生育ができない藻類が、暗所で生育できるようになることも包含する。本実施形態の方法により、所望の藻類において、暗所での従属栄養的な生育を改善することができる。
【0077】
<暗所における生育が改善した藻類の製造方法>
本発明の第3の態様は、藻類に、暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドを導入することを含む、暗所における生育が改善した藻類の製造方法である。
【0078】
藻類は、特に限定されず、任意の藻類を用いることができる。藻類としては、上記<藻類>の項で挙げたものと同様のものを用いることができる。
暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドは、上記<暗所における藻類の生育を改善する方法>の項で挙げたものと同様のものを用いることができる。暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドの藻類への導入方法は、上記<暗所における藻類の生育を改善する方法>の項で挙げた方法と同様に行うことができる。
【0079】
本実施形態の製造方法により、暗所における従属栄養的な生育が改善した藻類を取得することができる。暗所における従属栄養的な生育の改善としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0080】
<暗所活性型クリプトクロム>
本発明の第4の態様は、下記(a)~(c)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、暗所で活性化が維持される暗所活性型クリプトクロムである。
(a)配列番号12、14、34、37、40、43、46、49、52、62、65、68、71、74、又は77に記載のアミノ酸配列において、下記式(1)で表されるアミノ酸配列の8番目のグリシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されている、アミノ酸配列、
LXZXWXXGXXXJ (1)
[式中、Lはロイシン残基、Wはトリプトファン残基、Gはグリシン残基、Zは疎水性アミノ酸残基若しくは極性無電荷アミノ酸残基、Jは疎水性アミノ酸残基、Xは任意のアミノ酸残基を表す。];
(b)配列番号12、14、34、37、40、43、46、49、52、62、65、68、71、74、又は77に記載のアミノ酸配列において、1個又は複数個のアミノ酸残基が変異されたアミノ酸配列であって、且つ前記変異が前記式(1)で表されるアミノ酸配列の8番目のグリシン残基を塩基性アミノ酸残基に置換する変異を含む、アミノ酸配列;及び
(c)配列番号12、14、34、37、40、43、46、49、52、62、65、68、71、74、又は77に記載のアミノ酸配列に対して70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、且つ前記式(1)で表されるアミノ酸配列の8番目のグリシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されている、アミノ酸配列。
【0081】
塩基性アミノ酸残基は、アルギニン残基又はリジン残基が好ましく、アルギニン残基がより好ましい。
前記(a)のアミノ酸配列の具体例としては、配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列が挙げられる。
前記(b)において、「複数個」としては、2~20個、2~15個、2~10個、2~9個、2~8個、2~7個、2~6個、2~5個、2~4個、2~3個、又は2個が挙げられる。「変異」は、欠失、置換、付加、及び挿入のいずれであってもよく、これらの組合せでもよい。
前記(c)において、配列同一性は、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であってもよい。
前記(b)及び(c)の好ましい具体例は、前記<藻類>の項で挙げたものと同様である。
【0082】
<暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチド>
本発明の第5の態様は、前記第4の態様の暗所活性型クリプトクロムをコードするポリヌクレオチドである。
本実施形態のポリヌクレオチドの具体例としては、下記(d)~(f)からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
(d)配列番号11、13、33、36、39、42、45、48、51、61、64、67、70、73、又は76に記載のヌクレオチド配列において、前記式(1)で表されるアミノ酸配列の8番目のグリシン残基をコードするコドンが、塩基性アミノ酸残基をコードするコドンに置換されている、ヌクレオチド配列。
(e)配列番号11、13、33、36、39、42、45、48、51、61、64、67、70、73、又は76に記載のヌクレオチド配列において、1個又は複数個のヌクレオチド残基が変異されたヌクレオチド配列であって、前記式(1)で表されるアミノ酸配列の8番目のグリシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、ヌクレオチド配列。
(f)配列番号11、13、33、36、39、42、45、48、51、61、64、67、70、73、又は76に記載のヌクレオチド配列に対して70%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列であって、且つ前記式(1)で表されるアミノ酸配列の8番目のグリシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、ヌクレオチド配列。
【0083】
本実施形態のポリヌクレオチドは、下記(g)のポリヌクレオチドであってもよい。
(g)配列番号11、13、33、36、39、42、45、48、51、61、64、67、70、73、又は76に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、前記式(1)で表されるアミノ酸配列の8番目のグリシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、ヌクレオチド配列。
【0084】
塩基性アミノ酸残基は、アルギニン残基又はリジン残基が好ましく、アルギニン残基がより好ましい。
前記(d)のヌクレオチド配列の具体例としては、配列番号11に記載のヌクレオチド配列において、1255~1257位のヌクレオチド配列が塩基性アミノ酸残基をコードするコドンに置換されたヌクレオチド配列;配列番号13に記載のヌクレオチド配列において、1714~1716位のヌクレオチド配列が塩基性アミノ酸残基をコードするコドンに置換されたヌクレオチド配列;配列番号33に記載のヌクレオチド配列において、1156~1158位のヌクレオチド配列が塩基性アミノ酸残基をコードするコドンに置換されたヌクレオチド配列;配列番号36に記載のヌクレオチド配列において、1336~1338位のヌクレオチド配列が塩基性アミノ酸残基をコードするコドンに置換されたヌクレオチド配列;配列番号39に記載のヌクレオチド配列において、1243~1245位のヌクレオチド配列が塩基性アミノ酸残基をコードするコドンに置換されたヌクレオチド配列;配列番号42に記載のヌクレオチド配列において、1201~1203位のヌクレオチド配列が塩基性アミノ酸残基をコードするコドンに置換されたヌクレオチド配列;配列番号45に記載のヌクレオチド配列において、1222~1224位のヌクレオチド配列が塩基性アミノ酸残基をコードするコドンに置換されたヌクレオチド配列;配列番号48に記載のヌクレオチド配列において、1318~1320位のヌクレオチド配列が塩基性アミノ酸残基をコードするコドンに置換されたヌクレオチド配列;配列番号51に記載のヌクレオチド配列において、1207~1209位のヌクレオチド配列が塩基性アミノ酸残基をコードするコドンに置換されたヌクレオチド配列;配列番号61に記載のヌクレオチド配列において、259~261位のヌクレオチド配列が塩基性アミノ酸残基をコードするコドンに置換されたヌクレオチド配列;配列番号64に記載のヌクレオチド配列において、1579~1581位のヌクレオチド配列が塩基性アミノ酸残基をコードするコドンに置換されたヌクレオチド配列;配列番号67に記載のヌクレオチド配列において、1567~1569位のヌクレオチド配列が塩基性アミノ酸残基をコードするコドンに置換されたヌクレオチド配列;配列番号70に記載のヌクレオチド配列において、259~261位のヌクレオチド配列が塩基性アミノ酸残基をコードするコドンに置換されたヌクレオチド配列;配列番号73に記載のヌクレオチド配列において、1939~1041位のヌクレオチド配列が塩基性アミノ酸残基をコードするコドンに置換されたヌクレオチド配列;配列番号76に記載のヌクレオチド配列において、1600~1602位のヌクレオチド配列が塩基性アミノ酸残基をコードするコドンに置換されたヌクレオチド配列が挙げられる。例えば、配列番号15又は17に記載のヌクレオチド配列が挙げられる。
前記(e)において、「複数個」としては、2~20個、2~15個、2~10個、2~9個、2~8個、2~7個、2~6個、2~5個、2~4個、2~3個、又は2個が挙げられる。「変異」は、欠失、置換、付加、及び挿入のいずれであってもよく、これらの組合せでもよい。
前記(f)において、配列同一性は、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であってもよい。
前記(g)において、「ストリンジェントな条件」とは、配列同一性が高い2個のポリヌクレオチドが、特異的にハイブリダイズ可能な条件を意味する。配列同一性が高い2個のポリヌクレオチドとは、前記2個のポリヌクレオチド間の配列同一性が、例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であることをいう。ストリンジェントな条件の具体例としては、例えば、Molecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION(Sambrook et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載の条件等が挙げられる。ストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(20×SSCの組成:3M塩化ナトリウム、0.3Mクエン酸溶液、pH7.0)、5×デンハルト溶液(100×デンハルト溶液の組成:2質量%ウシ血清アルブミン、2質量%フィコール、2質量%ポリビニルピロリドン)、0.5質量%のSDS、0.1mg/mLサケ精子DNA、及び50%フォルムアミドからなるハイブリダイゼーションバッファー中で、42~70℃で数時間から一晩インキュベーションを行う条件が挙げられる。インキュベーション後の洗浄に用いる洗浄バッファーとしては、例えば、0.1質量%SDS含有1×SSC溶液、及び0.1質量%SDS含有0.1×SSC溶液が挙げられる。
前記(e)~(g)において、「式(1)で表されるアミノ酸配列の8番目のグリシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列」は、前記式(4)で表されるアミノ酸配列が好ましく、前記式(5)で表されるアミノ酸配列がより好ましく、前記式(6)で表されるアミノ酸配列がさらに好ましい。
【0085】
本実施形態のポリヌクレオチドは、藻類の野生型クリプトクロムの遺伝子に、変異を導入することにより取得することができる。例えば、C.merolaeの野生型クリプトクロム(例えば、CYME_CMM076C、CYME_CMQ453C)の遺伝子は、後述の実施例に記載のプライマー等を用いて、C.merolaeのゲノムDNAを鋳型としてPCR等の核酸増幅法等を実施することにより、取得することができる。
【0086】
本実施形態のポリヌクレオチドを藻類に導入することにより、暗所での従属栄養的な生育が改善された藻類を得ることができる。本実施形態のポリヌクレオチドを導入する藻類としては、イデユコゴメ綱に属する藻類が好ましく、C.merolaeがより好ましい。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
<C.merolaeにおけるクリプトクロム(CRY)候補遺伝子の探索>
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のCRY1遺伝子のアミノ酸配列をクエリーとして、C.merolae 10D株のゲノムデータベース(Database:Non-redundant protein sequences、Organism:C.merolae 10D株のゲノム(taxid:280699))に対して、Protein-Protein BLAST検索を行い、CRY候補遺伝子を得た。得られたCRY候補遺伝子の全てについて、C末端領域にCRY1との相同性は認められなかった。得られたCRY候補遺伝子とCRY1とのPercent identity(配列同一性)は、28.6%~44.44%であった。
【0089】
CRY候補遺伝子がコードするアミノ酸配列において、Pfamデータベース(EMBL-EBI,UK)でタンパク質ドメインを検索した。その結果に基づき、CRY機能に必須と思われるFAD-Binding Domainを有さない候補遺伝子を除外した。BLAST検索によるシロイヌナズナCRY1とのアライメント結果に基づいて、CRY1のD359及びV363に対応するアミノ酸残基がヒスチジン残基である候補遺伝子は、(6-4)DNA photolyaseであると考えられるため、除外した。DNA Photolyaseは、His-His-Leu-Ala-Arg-His motifを活性に必要な部位として有し(K. Hitomi et al., Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. (2009))、前記モチーフの2番目のヒスチジン残基、及び最後のヒスチジン残基が変異すると酵素活性がなくなることが分かっている。これらのヒスチジン残基は、シロイヌナズナCRY1の359番目及び363番目のアミノ酸残基に対応する。残ったCRY候補遺伝子がコードするアミノ酸配列では、CRY1のG380に対応するアミノ酸残基がグリシン残基のまま保存されていた。これらのCRY候補遺伝子がコードするアミノ酸配列では、前記グリシン残基を含むモチーフとして、下記式(1)のアミノ酸配列が保存されていた。
LXZXWXXGXXXJ (1)
[式中、Lはロイシン残基、Wはトリプトファン残基、Gはグリシン残基、Zは疎水性アミノ酸残基若しくは極性無電荷アミノ酸残基、Jは疎水性アミノ酸残基、Xは任意のアミノ酸残基を表す。]
【0090】
これらのCRY候補遺伝子から、シロイヌナズナCRY1遺伝子により近縁の候補遺伝子を選択するため、Clustal Omega(EMBL-EBI,UK)により、系統解析を行った。その結果、2つの最終候補遺伝子(CYME_CMM076C、CYME_CMQ453C)を得た。CYME_CMM076Cのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を、配列番号11及び配列番号12にそれぞれ示す。CYME_CMQ453Cのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を配列番号13及び配列番号14にそれぞれ示す。Clustal Omegaによるアライメント結果を
図1に示す。
図1には、前記式(1)のモチーフ付近のアミノ酸配列を示した。
図1中、四角で囲った「G」がシロイヌナズナCRY1のG380及びこれに対応するグリシン残基である。
【0091】
<形質転換用直鎖状DNAの調製>
微量のC.merolaeを含んだ懸濁液をCrudeサンプルとし、KOD One(登録商標) PCR Master Mix(KMM-201,TOYOBO,Japan)を用いて、PCR用サンプルを調製した。メーカー指定のプロトコルに従い、サーマルサイクラーによりPCR反応を行い、候補遺伝子(CYME_CMM076C遺伝子、CYME_CMQ453C遺伝子)の核酸断片を増幅した。使用したプライマーの配列を以下に示す。大文字は、各遺伝子に対応する配列を示す。
CYME_CMM076C
フォワードプライマー:gttccagattacgctATGTCGTCGTCGAGACG(配列番号19)
リバースプライマー:taaatagctagtttaTCAGGGCGCGGCAC(配列番号20)
CYME_CMQ453
フォワードプライマー:gttccagattacgctATGCCCGCGTATCCTC(配列番号21)
リバースプライマー:taaatagctagtttaTCATCTGCGCTTGTCGTC(配列番号22)
【0092】
増幅した核酸断片を精製後、In-Fusion(登録商標)HD Cloning Kit(Z9648N,Takara Bio,Japan)を用いて、メーカー指定のプロトコルに従って、PCRにより直鎖化したプラスミドベクターに増幅核酸断片を連結した。プラスミドは、pGEM-T Easy Vector(A1360,Promega,USA)を基に、C.merolaeの細胞内で、挿入遺伝子がN末端に3xHAタグを持ったタンパク質として発現するように改変されたものを用いた(T. Fujiwara et al., Plant Direct. 2019 Apr 8;3(4):e00134.)。ただし、選択マーカーは、URA遺伝子に替えて、N末端にChloroplast transit peptideを含むCAT-SsrA遺伝子を用いた。
【0093】
増幅核酸断片が連結された線状プラスミドベクターを含むIn-Fusion反応溶液を用いて、E.coli HST08 Premium Competent Cells(#9128,Takara,Japan)の形質転換を行った。形質転換後の細胞を、LB/Ampプレート上で一昼夜培養し、形質転換細胞の選抜を行った。プレート上に生じたコロニーに対し、KOD One(登録商標) PCR Master Mixを用いて、前記各候補遺伝子のプライマーセットによりColony direct PCRを行った。これにより、各候補遺伝子を保持するコロニーを特定した。特定されたコロニーを、LB/Amp液体培地で一昼夜培養した。培養後、培養液から菌体を回収し、プラスミド抽出キットを用いてプラスミドを精製した。
【0094】
次に、上記で精製したプラスミドを用いて、シロイヌナズナCRY1のG380に対応するグリシン残基(CYME_CMM076CのG419、CYME_CMQ453CのG572)をアルギニン残基に置換する変異の導入を行った。各候補遺伝子への変異の導入は、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(SMK-101,TOYOBO,Japan)を用いて行った。変異の導入に用いたプライマーの配列を以下に示す。
CYME_CMM076C
フォワードプライマー:GGCAGATCCGCGCTCGTTG(配列番号23)
リバースプライマー:ACGGCAGGAGAAGGTACTTGG(配列番号24)
CYME_CMQ453C
フォワードプライマー:GCCTCCGCTTTCTTTACGATCATG(配列番号25)
リバースプライマー:ATGCTGCCACGGAATGAGAAG(配列番号26)
【0095】
変異の導入後、プラスミド抽出キットを用いてプラスミドを精製した。精製したプラスミドをテンプレートとして、KOD One(登録商標) PCR Master Mixを用いて、PCR反応を行い、変異を導入した候補遺伝子の核酸断片を増幅した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
フォワードプライマー:CGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGAC(配列番号27)
リバースプライマー:GAGCGGATAACAATTTCACACAGG(配列番号28)
【0096】
増幅核酸断片を、プラスミド抽出キットを用いて精製した。精製した核酸断片を形質転換用直鎖状DNAとして用いた。CYME_CMM076CにG419Rの変異を導入した形質転換用直鎖状DNAの構造を
図2Aに示す。CYME_CMQ453CにG572Rの変異を導入した形質転換用直鎖状DNAの構造を
図2Bに示す。CYME_CMM076CにG419Rの変異を導入した変異遺伝子(CMM076C(G419R))のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を配列番号15及び配列番号16にそれぞれ示す。CYME_CMQ453CにG572Rの変異を導入した変異遺伝子(CMQ453C(G572R))のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を配列番号17及び配列番号18にそれぞれ示す。
【0097】
<C.merolaeの形質転換>
MA2培地(40mM (NH4)2SO4,4mM MgSO4,8mM KH2PO4,1mM CaCl2,0.03v/v% H2SO4,2.8μM ZnCl2,0.7μM CoCl2,36μM MnCl2,1.3μM CuCl2,6.4μM Na2MoO4,4mL/L-medium 250x Fe Solution[79mM FeCl3,106mM Na2EDTA,数滴のH2SO4])40mLに、OD750=0.3となるようにC.merolae NEIS-1804株(野生株)を播種した。40℃、600mL/min airの通気状態で、一昼夜程度、光独立栄養的に、NEIS-1804株を培養し、OD750=0.6前後となるようにした。培養液に、20% Tween-20 1μLを添加し、室温、2000xgで、5分間遠心分離し、上清を除去した。ペレットをMA2培地に懸濁し、室温、2000xgで、再度、5分間遠心分離した。上清をマイクロピペットで除去した後、OD750=100となるように、ペレットをMA2培地に懸濁した(野生株懸濁液)。
【0098】
形質転換用直鎖状DNA 10~15μgを含む溶液50μLに、PEG Solution 67.5μLを添加し、混合した。PEG Solutionは、0.4gのPEG-4000を溶解した450μLのMA2培地に、80μLのTF Solution[400mM (NH4)2SO4,40mM MgSO4,0.3v/v% H2SO4]を添加することにより調製した。PEG Solutionを添加した形質転換用直鎖状DNA溶液に、野生株懸濁液を12.5μL添加し、振り混ぜて混和した。混和後の懸濁液を、8mL/ウェルのMA2培地を入れた6穴プレートにマイクロピペットで移し、ウェル内の培地と混和した。6穴プレート及びアネロパック・CO2(Mitsubishi Gas Chemical,Japan)を密閉可能な容器に入れて密閉し、40℃、光独立栄養的に、2日間培養した。培養液を、室温、2000xgで、5分間遠心分離し、上清を除去した。ペレットを、4mL MA2培地で懸濁して、24穴プレートに移し、200μg/mLとなるようにクロラムフェニコール溶液を添加した。24穴プレート及びアネロパック・CO2を密閉可能な容器に入れて密閉し、40℃、光独立栄養的に、2週間程度培養した。クロラムフェニコール存在下で増殖する緑色の細胞を回収し、MA2培地で3000~30000倍に希釈した。これを、MA2 gellan gumプレートにスポットした。MA2 gellan gumプレート及びアネロパウチ・CO2(Mitsubishi Gas Chemical, Japan)を密閉可能な容器に入れて密閉し、40℃、光独立栄養的に、2週間程度培養した。生じたコロニーの一部を40μL ddH2Oに懸濁した。コロニー懸濁液をテンプレートとして、KOD One(登録商標) PCR Master Mixを用いて、PCR反応を行い、目的遺伝子が導入された形質転換細胞を取得した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
フォワードプライマー:TCTGCTCGGCTTAGTTTCGAAAG(配列番号29)
リバースプライマー:TACCCCGATTCGATCATACGAGT(配列番号30)
【0099】
<形質転換株の評価>
CMM076C(G419R)又はCMQ453C(G572R)が導入された形質転換株の暗所での従属栄養的な生育を評価した。対照として、NEIS-1804株(野生株)、CYME_CMQ453C(変異なし)導入株、及び組換え株例についても同様の評価を行った。組換え株例としては、CYME_CMS462C(Bifunctional dihydrofolate reductase-thymidylate synthase)の遺伝子をNEIS-1804株に導入したものを用いた。
25cm2細胞培養用フラスコ(ベントキャップ)に、20mLのMA2培地を入れ、藻類細胞を播種した。これを、40℃、130rpm、光独立栄養的に、1週間程度培養した。形質転換株の培地には、200μg/mLのクロラムフェニコールを添加した。次いで、3%グリセロールを含むMA2培地(MA2+3%グリセロール培地)20mLが入ったフラスコに、OD750=0.5となるように、培養液を植え継いだ。これを、40℃、130rpm、光照射下で、混合栄養的に、3~5日間培養した。次いで、20mLの新しいMA2+3%グリセロール培地が入ったフラスコに、OD750=0.5となるように、培養液を植え継いだ。これを、40℃、130rpm、暗所で、従属栄養的に、培養した。約1週間毎に、培養液を0.5mL採取し、OD750を測定した。培養開始から3週間後に、20mL MA2+3%グリセロール培地が入ったフラスコに、OD750=0.5となるように、培養液を植え継いで培養を継続した。
【0100】
結果を
図3に示す。野生株及びCYME_CMQ453C導入株では、暗所での従属栄養的な生育は遅かった。組換え株例では、従属栄養的な生育速度は、野生株と比較して若干向上したが、植え継ぎ後ほとんど増殖しなくなった。一方、CMM076C(G419R)導入株及びCMQ453C(G572R)導入株では、野生株と比較して、従属栄養的な生育速度が顕著に向上した。最大到達藻密度も顕著に向上した。CMM076C(G419R)導入株及びCMQ453C(G572R)導入株では、植え継ぎ後も、従属栄養的な生育速度が高いまま維持された。
【0101】
<Western Blot解析>
Western Blot解析により、CMM076C(G419R)導入株、及びCMQ453C(G572R)導入株における導入遺伝子タンパク質の発現を確認した。
【0102】
25cm2細胞培養用フラスコ(ベントキャップ)に、20mLのMA2+3%グリセロール培地を入れ、藻類細胞を播種した。これを、40℃、130rpmで、混合栄養的(光照射下)又は従属栄養的(暗所)に、培養した。藻密度がOD750~0.5となった時点で、培養液を1mL採取し、室温、4000xgで、5分間遠心分離し、上清を除去した。沈殿した藻体を10μLのMilliQに懸濁し、次いで、β-メルカプトエタノールを所定濃度で添加したSDS-PAGE Sample Loading Buffer(タカラバイオ,786-701)を2μL添加し、95℃で、5分間加熱した。加熱後のサンプルを、SDS-PAGE用サンプルとして用いた。
【0103】
プレキャストゲル Supercep Ace 5-20%(Wako,194-15021)に、SDS-PAGE用サンプル全量をアプライし、150CVで90分間泳動した。分子量マーカーには、Precision Plus Dual Color Standard(Bio-Rad,#1610374)を用いた。TransBlot TurboTMミニPVDF転写パック(Bio-rad,#1704156)を開封し、Bottom側をPoweredBlot Ace(WSE-4115,Atto)のステージ上に載置した。泳動が完了したゲルを、適当な大きさに切断し、ステージ上のPVDF膜上に載置し、ゲル上に転写パックのTop側を載置した。ローラーで気泡を取りのぞいた後、PoweredBlot Aceの蓋を閉め、25CV(Rapid)で10分間転写した。PVDF膜を適当なサイズに切断してプラスチック容器に入れ、TBS-T 5mLを容器に入れて、室温で5分間振とうした。TBS-Tを捨て、PVDF Blocking Reagent(TOYOBO,NYPBR01)5mLを容器に入れ、室温で1時間振とうした。次いで、PVDF Blocking Reagentを捨て、TBS-T 5mLでPVDF膜をリンスし、TBS-T 5mLを容器に入れて室温で15分間振とうした。容器内のTBS-Tを入れ替え、室温で5分間振とうすることを2回繰り返した。
【0104】
Anti HA抗体-HRP conjugate(Wako,011-21911)を、Can Get Signal(登録商標) Solution 1(TOYOBO,NKB-201)で2000倍希釈し、抗体溶液を調製した。前記容器内のTBS-Tを捨て、抗体溶液10mLを容器に入れ、室温で1時間振とうし、抗体を反応させた。抗体溶液を捨て、TBS-Tを5mL入れて室温で10分間振とうした。TBS-Tを入れ替え、室温で、10分間振とうすることを2回繰り返した。イムノスター(登録商標)ゼータ(Wako,297-72403)のSolution AとSolution Bとを1:1で必要量混合した。ラップの上に混合したイムノスターゼータを滴下し、転写した側が下になるようにPVDF膜を浸し、PVDF膜と液間に気泡がないように留意しながら5分間静置した。次いで、PVDF膜を持ち上げ、PVDF膜の端から紙で余分な水分を吸い取って除去した。その後、PVDF膜をChemiDoc XRS Plus Image Lab ノートPC システム(Bio-rad,1708265J1NPC)のChemiモードにより、化学発光を検出して撮影した。
【0105】
結果を
図4に示す。CMM076C(G419R)導入株では、133kDa付近にバンドが確認され、CMM076C(G419R)の発現が確認された。CMQ453C(G572R)導入株では、117kDa付近にバンドが確認され、CMQ453C(G572R)の発現が確認された。CMM076C(G419R)導入株及びCMQ453C(G572R)導入株のいずれも、従属栄養培養での導入遺伝子タンパク質のシグナルと比較して、混合栄養培養での導入遺伝子タンパク質のシグナルが弱かった。これは、混合栄養培養では、他の遺伝子も活発に発現しており、全体の遺伝子発現量に対し、導入遺伝子の発現量が相対的に低くなるためと考えられた。
【0106】
<Haematococcus pluvialisのCRY遺伝子の探索>
ボルボックス目ヘマトコッカス科ヘマトコッカス属の藻類であるHaematococcus pluvialis(Haematococcus lacustrisとも呼ばれる)のCRY遺伝子はすでに同定されている(GenBank: QNL10737.1, W. Hang et al., Protein Expression and Purification, 2020 Aug;172:105633.)。Pfamデータベース(EMBL-EBI,UK)でのタンパク質ドメイン検索の結果、H.pluvialiのCRY遺伝子(QNL10737.1;配列番号33、34)は、FAD-Binding Domainを有していた。BLAST検索によるシロイヌナズナCRY1とのアライメントにおいて、QNL10737.1では、CRY1のD359及びV363に対応するアミノ酸残基はヒスチジンではなかった。QNL10737.1では、CRY1のG380の対応するアミノ酸残基(G386)は、グリシン残基のまま保存されていた(
図5)。QNL10737.1では、前記式(1)のアミノ酸配列が保存されていた(LLLPWQWGLKHY:配列番号35)。QNL10737.1のG386に変異を導入することで、暗所活性型CRYを取得できる。
【0107】
<Nannochloropsis gaditanaのCRY遺伝子の探索>
ユースティグマトス目ユースティグマトス科ナンノクロロプシス属の藻類であるNannochloropsis gaditana(現Microchloropsis gaditana)において、CRY遺伝子の探索を行った。
シロイヌナズナCRY1のアミノ酸配列をクエリーとして、Database:Non-redundant protein sequences、Organism:Nannochloropsis gaditana(taxid:72520)に対して、Protein-Protein BLAST検索を行い、3つのCRY候補遺伝子(EWM28467、EWM23893、XP_005852637、)を得た。得られたCRY候補遺伝子の全てについて、C末端領域にCRY1との相同性は認められなかった。得られたCRY候補遺伝子とCRY1とのPercent identity(配列同一性)は、23.1%~34.0%であった。
【0108】
次に、得られたCRY候補遺伝子群と、シロイヌナズナCRY1、及びCYME_CMA044C(CRY-DASH)とで系統解析を行った。EWM28467は、CRY-DASHと近縁であり、CRYではなかった。一方、EWM23893及びXP_005852637は、アミノ酸配列が類似しており、両者ともDNAフォトリアーゼのモチーフ配列を有していた。ナンノクロロプシス属と同じ不等毛植物門(Ochrophyta)では、DNA Photolyase活性を有しながらCRYである例が報告されている(S Coesel et al., EMBO Rep. 2009 Jun;10(6):655-61.)。このことから、EWM23893及びXP_005852637もCRYのいずれか又は両方がCRYであると考えられた。
【0109】
EWM23893(配列番号36、37)は、Pfamデータベース(EMBL-EBI,UK)でのタンパク質ドメイン検索から、FAD-Binding Domainを有していた。EWM23893では、CRY1のG380の対応するアミノ酸残基(G446)は、グリシン残基のまま保存されていた(
図6)。EWM23893では、前記式(1)のアミノ酸配列が保存されていた(LWQSWEEGARVF:配列番号38)。EWM23893のG446に変異を導入することで、暗所活性型CRYを取得できる。
【0110】
XP_005852637(配列番号39、40)は、Pfamデータベース(EMBL-EBI,UK)でのタンパク質ドメイン検索から、FAD-Binding Domainを有していた。XP_005852637では、CRY1のG380の対応するアミノ酸残基(G415)は、グリシン残基のまま保存されていた(
図6)。XP_005852637では、前記式(1)のアミノ酸配列が保存されていた(LWQSWEEGARVF:配列番号41)。CRY1遺伝子のG380の相当するアミノ酸であるG415に変異を導入することで、暗所活性型CRYを取得できる。
【0111】
<Phaeodactylum tricornutumのCRY遺伝子の探索>
ナビキュラ目フェオダクチラム科フェオダクチラム属の藻類であるPhaeodactylum tricornutumにおいて、CRY遺伝子の探索を行った。
シロイヌナズナCRY1遺伝子のアミノ酸配列をクエリーとして、Database:Non-redundant protein sequences、Organism:Phaeodactylum tricornutum CCAP 1055/1株(taxid:556484)に対して、Protein-Protein BLAST検索を行い、CRY候補遺伝子を得た。得られたCRY候補遺伝子の全てについて、C末端領域にCRY1との相同性は認められなかった。得られたCRY候補遺伝子とCRY1とのPercent identity(配列同一性)は、24.1%~39.9%であった。
【0112】
次に、得られたCRY候補遺伝子群と、シロイヌナズナCRY1、及びCYME_CMA044C(CRY-DASH)とで系統解析を行った。CRY候補遺伝子群のうち、XP_002179379が、シロイヌナズナCRY1と最も近縁であった。XP_002179379は、CRY-DASHではなくCRYに近しいとの報告がある(M. Juhas et al., FEBS.J.(2014))。これらのことから、XP_002179379は、CRY遺伝子だと結論付けた。
XP_002179379(配列番号42、43)は、Pfamデータベース(EMBL-EBI,UK)でのタンパク質ドメイン検索から、FAD-Binding Domainを有していた。BLAST検索によるシロイヌナズナCRY1とのアライメントにおいて、XP_002179379では、CRY1のD359及びV363に対応するアミノ酸残基はヒスチジンではなかった。XP_002179379では、CRY1のG380の対応するアミノ酸残基(G401)は、グリシン残基のまま保存されていた(
図7)。XP_002179379では、前記式(1)のアミノ酸配列が保存されていた(LRVDWTKGAEWF:配列番号44)。XP_005852637のG401に変異を導入することで、暗所活性型CRYを取得できる。
【0113】
上記系統解析の結果、XP_002180095(配列番号45、46)は、シロイヌナズナCRY1とはやや遠縁であった。しかし、XP_002180095は、PtCPF1としてDNA Photolyase活性を有しながら、Animal-like cryptochromeであると報告されている(S Coesel et al., EMBO Rep. 2009 Jun;10(6):655-61.)。XP_002180095は、Pfamデータベース(EMBL-EBI,UK)でのタンパク質ドメイン検索から、FAD-Binding Domainを有していた。BLAST検索によるシロイヌナズナCRY1とのアライメントの結果、XP_002180095は、CRY1のD359及びV363に対応するアミノ酸残基はヒスチジンであった。XP_002180095では、CRY1のG380の対応するアミノ酸残基(G408)は、グリシン残基のまま保存されていた(
図7)。XP_002180095では、前記式(1)のアミノ酸配列が保存されていた(LWQSWEDGATVF:配列番号47)。XP_002180095のG408に変異を導入することで、暗所活性型CRYを取得できる。
【0114】
<Diacronema lutheriのCRY遺伝子の探索>
パブロバ目パブロバ科ディアクロネマ属の藻類であるDiacronema lutheri(Pavlova lutheriとも呼ばれる)において、CRY遺伝子の探索を行った。
シロイヌナズナCRY1のアミノ酸配列をクエリーとして、Database:Non-redundant protein sequences、Organism:Diacronema(Pavlova) lutheri(taxid:2081491)に対して、Protein-Protein BLAST検索を行い、CRY候補を得た。得られたCRY候補の全てについて、C末端領域にCRY1との相同性は認められ得なかった。得られたCRY候補遺伝子とCRY1とのPercent identity(配列同一性)は、26.9%~36.7%であった。
【0115】
次に、得られたCRY候補遺伝子群と、シロイヌナズナCRY1、及びCYME_CMA044C(CRY-DASH)とで系統解析を行った。KAG8467638は、CRY-DASHと近縁であり、CRYではなかった。CRY候補遺伝子群のうち、KAG8458188が、シロイヌナズナCRY1と最も近縁であった。KAG8463402は、シロイヌナズナCRY1、及びCRY-DASHのどちらとも近縁ではなかった。
【0116】
KAG8458188(配列番号48、49)は、Pfamデータベース(EMBL-EBI,UK)でのタンパク質ドメイン検索から、FAD-Binding Domainを有していた。BLAST検索によるシロイヌナズナCRY1とのアライメントにおいて、KAG8458188では、CRY1のD359及びV363に対応するアミノ酸残基はヒスチジンであったことから、DNA Photolyase活性を有していると考えられた。しかし、DNA Photolyase活性に重要なHis-His-Leu-Ala-Arg-Hisモチーフのうち、KAG8458188では、2番目及び最後のヒスチジン残基は保存されていたが、最初のヒスチジン残基はアラニン残基に変異していた。そのため、KAG8458188は、DNA Photolyase活性を部分的若しくは完全に失っており、第一義的な機能はCRYであると考えられた。KAG8458188では、CRY1のG380の対応するアミノ酸残基(G440)は、グリシン残基のまま保存されていた(
図8)。KAG8458188では、前記式(1)のアミノ酸配列が保存されていた(LLVDWRHGARWF:配列番号50)。KAG8458188のG440に変異を導入することで、暗所活性型CRYを取得できる。
【0117】
KAG8463402(配列番号51、52)は、Pfamデータベース(EMBL-EBI,UK)でのタンパク質ドメイン検索から、FAD-Binding Domainを有していた。BLAST検索によるシロイヌナズナCRY1とのアライメントにおいて、KAG8463402では、CRY1のD359及びV363に対応するアミノ酸残基はヒスチジンであった。しかし、ディアクロネマ属と同じ不等毛植物門では、DNA Photolyase活性を有しながらCRYである例が報告されている(S Coesel et al., EMBO Rep. 2009 Jun;10(6):655-61.)。このことから、KAG8463402は、CRYの機能を有していることも考えられた。KAG8463402では、CRY1のG380の対応するアミノ酸残基(G403)は、グリシン残基のまま保存されていた(
図8)。KAG8463402では、前記式(1)のアミノ酸配列が保存されていた(LYVRWEEGAAVF:配列番号53)。KAG8463402のG403に変異を導入することで、暗所活性型CRYを取得できる。
【0118】
<Chaetoceros muelleriのCRY遺伝子の探索>
キートセロス目キートセロス科キートセロス属の藻類であるChaetoceros muelleriにおいて、CRY遺伝子の探索を行った。
シロイヌナズナCRY1のアミノ酸配列をクエリーとして、Database:ASM1969354v1 GenBank assembly[GCA_019693545.1]、Organism:Chaetoceros muelleri(taxid:265525)に対して、Nucleotide-Protein BLAST検索を行い、CRY候補を得た。得られたCRY候補の全てについて、C末端領域にCRY1との相同性は認められ得なかった。得られたCRY候補遺伝子とCRY1とのPercent identity(配列同一性)は、24.2%~38.2%であった。
【0119】
次に、得られたCRY候補遺伝子群と、シロイヌナズナCRY1、及びCYME_CMA044C(CRY-DASH)とで系統解析を行った。CRY候補遺伝子群のうちGENE1が、シロイヌナズナCRY1と最も近縁であった。GENE2、及びGENE3はシロイヌナズナCRY1、及びCRY-DASHのどちらとも近縁ではなかった。
【0120】
GENE1(配列番号61、62)は、Pfamデータベース(EMBL-EBI,UK)でのタンパク質ドメイン検索から、FAD-Binding Domainを有していた。BLAST検索によるシロイヌナズナCRY1とのアライメントにおいて、GENE1では、CRY1のD359及びV363に対応するアミノ酸残基はヒスチジンであった。しかし、キートセロス属と同じ不等毛植物門では、DNA Photolyase活性を有しながらCRYである例が報告されている(S Coesel et al., EMBO Rep. 2009 Jun;10(6):655-61.)。このことから、GENE1は、CRYの機能を有していることも考えられた。GENE1では、CRY1のG380の対応するアミノ酸残基(G87)は、グリシン残基のまま保存されていた(
図9)。GENE1では、前記式(1)のアミノ酸配列が保存されていた(LWQSWEKGAEHF:配列番号63)。GENE1のG87に変異を導入することで、暗所活性型CRYを取得できる。
【0121】
GENE2(配列番号64、65)は、Pfamデータベース(EMBL-EBI,UK)でのタンパク質ドメイン検索から、FAD-Binding Domainを有していた。GENE2では、CRY1のG380の対応するアミノ酸残基(G527)は、グリシン残基のまま保存されていた(
図9)。GENE2では、前記式(1)のアミノ酸配列が保存されていた(LGLSWKDGMQHF:配列番号66)。CRY1遺伝子のG380に相当するアミノ酸残基であるG527に変異を導入することで、暗所活性型CRYを取得できる。
【0122】
GENE3(配列番号67、68)は、Pfamデータベース(EMBL-EBI,UK)でのタンパク質ドメイン検索から、FAD-Binding Domainを有していた。GENE3では、CRY1のG380の対応するアミノ酸残基(G523)は、グリシン残基のまま保存されていた(
図9)。GENE3では、前記式(1)のアミノ酸配列が保存されていた(LHLDWRAGAEWF:配列番号69)。CRY1遺伝子のG380に相当するアミノ酸残基であるG523に変異を導入することで、暗所活性型CRYを取得できる。
【0123】
<Chaetoceros gracilisのCRY遺伝子の探索>
キートセロス目キートセロス科キートセロス属の藻類であるChaetoceros gracilisにおいて、CRY遺伝子の探索を行った。
シロイヌナズナCRY1のアミノ酸配列をクエリーとして、Database:PRJDB12186、Organism:Chaetoceros gracilis(taxid:184592)に対して、Nucleotide-Protein BLAST検索を行い、CRY候補を得た。得られたCRY候補の全てについて、C末端領域にCRY1との相同性は認められ得なかった。得られたCRY候補遺伝子とCRY1とのPercent identity(配列同一性)は、24.1%~34.2%であった。
【0124】
次に、得られたCRY候補遺伝子群と、シロイヌナズナCRY1、及びCYME_CMA044C(CRY-DASH)とで系統解析を行った。GENE4は、CRY-DASHと近縁であり、CRYではなかった。CRY候補遺伝子群のうち、GENE5が、シロイヌナズナCRY1と最も近縁であった。GENE6、及びGENE7は、シロイヌナズナCRY1、及びCRY-DASHのどちらとも近縁ではなかった。
【0125】
GENE5(配列番号70、71)は、Pfamデータベース(EMBL-EBI,UK)でのタンパク質ドメイン検索から、FAD-Binding Domainを有していた。BLAST検索によるシロイヌナズナCRY1とのアライメントにおいて、GENE5では、CRY1のD359及びV363に対応するアミノ酸残基はヒスチジンであった。しかし、キートセロス属と同じ不等毛植物門では、DNA Photolyase活性を有しながらCRYである例が報告されている(S Coesel et al., EMBO Rep. 2009 Jun;10(6):655-61.)。このことから、GENE5は、CRYの機能を有していることも考えられた。GENE5では、CRY1のG380の対応するアミノ酸残基(G87)は、グリシン残基のまま保存されていた(
図10)。GENE5では、前記式(1)のアミノ酸配列が保存されていた(LWQSWEKGAEHF:配列番号72)。GENE5のG87に変異を導入することで、暗所活性型CRYを取得できる。
【0126】
GENE6(配列番号73、74)は、Pfamデータベース(EMBL-EBI,UK)でのタンパク質ドメイン検索から、FAD-Binding Domainを有していた。GENE6では、CRY1のG380の対応するアミノ酸残基(G347)は、グリシン残基のまま保存されていた(
図10)。GENE6では、前記式(1)のアミノ酸配列が保存されていた(LLIDWRWGEAYF:配列番号75)。CRY1遺伝子のG380に相当するアミノ酸残基であるG347に変異を導入することで、暗所活性型CRYを取得できる。
【0127】
GENE7(配列番号76、77)は、Pfamデータベース(EMBL-EBI,UK)でのタンパク質ドメイン検索から、FAD-Binding Domainを有していた。GENE7では、CRY1のG380の対応するアミノ酸残基(G534)は、グリシン残基のまま保存されていた(
図10)。GENE7では、前記式(1)のアミノ酸配列が保存されていた(LGLSWKDGMQHF:配列番号78)。CRY1遺伝子のG380に相当するアミノ酸残基であるG534に変異を導入することで、暗所活性型CRYを取得できる。
【0128】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれら実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付のクレームの範囲によってのみ限定される。
【配列表】