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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】カロテノイド色素の退色を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/46 20160101AFI20240402BHJP
   A23L 5/44 20160101ALI20240402BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240402BHJP
   A61K 31/015 20060101ALI20240402BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240402BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20240402BHJP
【FI】
A23L5/46
A23L5/44
C12N1/20 A
A61K31/015
A61P43/00 111
A61K35/744
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019207230
(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公開番号】P2021078378
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-31
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-03022
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-03023
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】萩 達朗
(72)【発明者】
【氏名】浅井 宏文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智亮
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-116167(JP,A)
【文献】特開2019-010091(JP,A)
【文献】特開2014-003969(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102283315(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-2203500(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/FSTA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
菌体内にカロテノイド色素を収容する乳酸菌の乾燥物を保存する保存工程を含む、カロテノイド色素の退色を抑制する方法。
【請求項2】
前記保存工程において前記乾燥物を遮光下で保存する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カロテノイド色素は、炭素数30のカロテノイド色素及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記乳酸菌は、菌体内で前記カロテノイド色素を生産するカロテノイド色素生産乳酸菌を培養することにより得られる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記カロテノイド色素生産乳酸菌は、Enterococcus gilvus、Enterococcus mundtii、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus acidipiscis、及びLeuconostoc pseudomesenteroideからなる群より選択される少なくとも1つの種に属する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記カロテノイド色素生産乳酸菌は、Enterococcus gilvus CR1、Enterococcus mundtii 161(NITE P-03022)、及びLactobacillus plantarum D70(NITE P-03023)からなる群より選択される少なくとも1つの株である、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
カロテノイド色素を含む飲食物、機能性食品、外用剤、化粧品、医薬部外品、又は医薬品を製造する方法であって、
請求項1に記載の方法における前記保存工程と、原料の一部として、菌体内にカロテノイド色素を収容する乳酸菌の乾燥物を配合する工程と、を含み、
前記乾燥物は、前記保存工程を経た後の乾燥物である方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カロテノイド色素の退色を抑制する方法に関する。本発明は、カロテノイド色素を含む飲食物、機能性食品、外用剤、化粧品、医薬部外品、又は医薬品を製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイド色素は、生理活性物質であり、飲食物、機能性食品等の分野で広範に利用できるという利点を有する。一方で、カロテノイド色素は、光、酸素、熱等に対する安定性、特に光に対する安定性が低いという欠点を有する。よって、カロテノイド色素を含有する着色剤は、特に光の影響を受けて経時的に退色しやすい。
【0003】
カロテノイド色素の退色を防止するための方法として、例えば、カロテノイド色素を抗酸化剤等の安定化剤と混合する方法等が報告されている。しかし、安定化剤の存在下でカロテノイド色素を種々の飲食物、機能性食品、外用剤、化粧品、医薬部外品、医薬品等に使用すると、テクスチャ変化、フレーバー変化、刺激性増大等の副作用が生じることを回避するのは困難である。そのため、安定化剤を配合することなく、カロテノイド色素の退色を防止できる方法が望まれている。このような方法としては、例えば、特許文献1に記載の方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4409617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法では、特別な容器体が必要であるため、工程が煩雑であり、作業性、生産性等を向上させることが容易ではない。よって、特別な容器体を用いずに、カロテノイド色素の退色を防止できることも求められている。
【0006】
なお、カロテノイド色素の退色を防止するための従来の方法において、対象となるカロテノイド色素は、通常、炭素数が40である。一方で、炭素数が30であるカロテノイド色素の退色を防止するための方法については、これまで詳細な報告が一切なされていない。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、特別な容器体を用いずに、テクスチャ変化、フレーバー変化、刺激性増大等を生じさせる原因である安定化剤等を添加することなく、カロテノイド色素の退色を抑制できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、乳酸菌の菌体内で、乾燥した状態でカロテノイド色素を保存することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明に係る、カロテノイド色素の退色を抑制する方法は、菌体内にカロテノイド色素を収容する乳酸菌の乾燥物を保存する保存工程を含む。
【0010】
上記方法では、前記保存工程において前記乾燥物を遮光下で保存してもよい。
【0011】
上記方法において、前記カロテノイド色素は、炭素数30のカロテノイド色素及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも1種でもよい。
【0012】
上記方法において、前記乳酸菌は、菌体内で前記カロテノイド色素を生産するカロテノイド色素生産乳酸菌を培養することにより得てもよい。
【0013】
上記方法において、前記カロテノイド色素生産乳酸菌は、Enterococcus gilvus、Enterococcus mundtii、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus acidipiscis、及びLeuconostoc pseudomesenteroideからなる群より選択される少なくとも1つの種に属してもよい。
【0014】
上記方法において、前記カロテノイド色素生産乳酸菌は、Enterococcus gilvus CR1、Enterococcus mundtii 161(NITE P-03022)、Leuconostoc pseudomesenteroide Sz33、及びLactobacillus plantarum D70(NITE P-03023)からなる群より選択される少なくとも1つの株でもよい。
【0015】
本発明に係る、カロテノイド色素を含む飲食物、機能性食品、外用剤、化粧品、医薬部外品、又は医薬品を製造する方法は、原料の一部として、菌体内にカロテノイド色素を収容する乳酸菌の乾燥物を配合する工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特別な容器体を用いずに、テクスチャ変化、フレーバー変化、刺激性増大等を生じさせる原因である安定化剤等を添加することなく、カロテノイド色素の退色を抑制できる方法を提供することができる。本発明によれば、カロテノイド色素を含む飲食物、機能性食品、外用剤、化粧品、医薬部外品、又は医薬品を製造する方法も提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る、カロテノイド色素の退色を抑制する方法は、菌体内にカロテノイド色素を収容する乳酸菌の乾燥物を保存する保存工程を含む。この方法において、カロテノイド色素は、乳酸菌の菌体内に収容されたまま、乾燥した状態で保存される。これにより、結果として、カロテノイド色素の退色を抑制することができる。この方法によれば、特別な容器体を用いずに、テクスチャ変化、フレーバー変化、刺激性増大等を生じさせる原因である安定化剤等を添加することなく、カロテノイド色素の退色を抑制できる。
【0018】
保存工程においては、以下の理由により、前記乾燥物を遮光下で保存することが好ましい。本発明に係る方法によれば、紫外線や可視光線の照射下で前記乾燥物を保存した場合であっても、カロテノイド色素の退色を抑制することができる。しかし、カロテノイド色素の退色抑制効果は、前記乾燥物を遮光下で保存した場合の方がはるかに優れている。
【0019】
保存工程における温度は、カロテノイド色素の退色を十分に抑制できる限り、特に限定されず、低温、室温(15~30℃)、及び高温のいずれでもよく、カロテノイド色素の退色抑制効果、作業性、生産性等の観点から、室温が好ましい。
【0020】
保存工程の期間も、カロテノイド色素の退色を十分に抑制できる限り、特に限定されない。保存工程の期間の下限としては、例えば、5分以上、10分以上、30分以上、1時間以上、2時間以上、3時間以上、6時間以上、12時間以上、1日以上、2日以上、3日以上、5日以上、6日以上、7日以上、10日以上、14日以上、30日以上、33日以上、50日以上、100日以上、1年以上、2年以上、5年以上、10年以上が挙げられる。保存工程の期間の上限としては、例えば、1時間以下、2時間以下、3時間以下、6時間以下、12時間以下、1日以下、2日以下、3日以下、5日以下、6日以下、7日以下、10日以下、14日以下、30日以下、33日以下、50日以下、100日以下、1年以下、2年以下、5年以下、10年以下、20年以下、50年以下が挙げられる。上記下限と上記上限との組み合わせは、上記下限の方が上記上限よりも短い限り、いかなるものであってもよい。
【0021】
カロテノイド色素は、特に限定されず、カロテンでもキサントフィルでもよい。カロテンとしては、例えば、α-カロテン、β-カロテン、γ-カロテン、δ-カロテン、ε-カロテン、ζ-カロテン、リコペン、ネウロスポレン、フィトエン、フィトフルエン等が挙げられる。キサントフィルとしては、例えば、アンテラキサンチン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、シトラナキサンチン、β-クリプトキサンチン、ジアジノキサンチン、ジアトキサンチン、ジノキサンチン、フラボキサンチン、フコキサンチン、ルテイン、ネオキサンチン、ロドキサンチン、ルビキサンチン、ビオラキサンチン、ゼアキサンチン、カプサンチン等が挙げられる。カロテノイド色素の炭素数は、特に限定されず、カロテノイド色素は、炭素数30のカロテノイド色素又はその誘導体でも、炭素数40のカロテノイド色素又はその誘導体でも、その他の炭素数のカロテノイド色素又はその誘導体でもよい。誘導体としては、特に限定されず、例えば、前記カロテノイド色素の配糖体、配糖体エステル(即ち、配糖体を形成する糖残基がエステル化した誘導体)、脂肪酸エステル体、硫酸エステル体等が挙げられる。乳酸菌の菌体内へのカロテノイド色素の収容のしやすさ等の点で、カロテノイド色素は、炭素数30のカロテノイド色素又はその誘導体であることが好ましい。炭素数30のカロテノイド色素としては、例えば、4,4’-ジアポニューロスポレン、4-ヒドロキシ-4,4’-ジアポニューロスポレン、4,4’-ジアポニューロスポレン酸、4,4’-ジアポリコペン、4,4’-ジアポフィトエン、4,4’-ジアポフィトフルエン、4,4’-ジアポ-7,8,11,12-テトラヒドロリコペン、4,4’-ジアポ-ζ-カロテン、4,4’-ジアポリコペン-4-アール、4,4’-ジアポニューロスポレン-4-アール等が挙げられる。炭素数30のカロテノイド色素の配糖体としては、例えば、4-(D-グルコピラノシルオキシ)-4,4’-ジアポニューロスポレン等が挙げられる。炭素数30のカロテノイド色素の配糖体エステルとしては、例えば、ヘキサデカノイル-グルコシル-4,4’-ジアポニューロスポレン酸、スタフィロキサンチン等が挙げられる。
【0022】
菌体内にカロテノイド色素を収容する乳酸菌は、いかなる方法で得たものでもよく、例えば、菌体内でカロテノイド色素を生産するカロテノイド色素生産乳酸菌を培養することによっても、乳酸菌の菌体内にカロテノイド色素を直接導入することによっても得られるが、作業性、再現性等の観点から、前記カロテノイド色素生産乳酸菌を培養することにより得ることが好ましい。
【0023】
乳酸菌は、特に限定されず、乳製品、発酵食品等の食品において一般的に用いられる公知の乳酸菌でよい。乳酸菌としては、例えば、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)等の乳酸菌が挙げられる。ラクトコッカス属の乳酸菌としては、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・プランタラム(Lactococcus plantarum)、ラクトコッカス・ラフィノラクチス(Lactococcus raffinolactis)等の乳酸菌、ラクトバチルス属の乳酸菌としては、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・デルブルキ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)等の乳酸菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属の乳酸菌としては、エンテロコッカス・ギルバス(Enterococcus gilvus)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)等の乳酸菌、ペディオコッカス(Pediococcus)属の乳酸菌としては、ペディオコッカス・アシディラクティシィ(Pediococcus acidilactici)、ペディオコッカス・ソジェー(Pediococcus sojae)、ペディオコッカス・ハロフィラス(Pediococcus halophilus)等の乳酸菌、ロイコノストック(Leuconostoc)属の乳酸菌としては、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)等の乳酸菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属の乳酸菌としては、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)等、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)の乳酸菌としては、カルノバクテリウム・ビリダンス(Carnobacterium viridans)等の乳酸菌が挙げられる。乳酸菌は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記カロテノイド色素生産乳酸菌としては、例えば、Enterococcus gilvus、Enterococcus mundtii、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus acidipiscis、Leuconostoc pseudomesenteroide等の種が挙げられる。上記種は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。前記カロテノイド色素生産乳酸菌としては、作業性、再現性、生産性等の観点から、Enterococcus gilvus CR1(AB742448)、Enterococcus mundtii 161(NITE P-03022)、Leuconostoc pseudomesenteroide Sz33(MAFF400837)、Lactobacillus plantarum D70(NITE P-03023)等の株が好ましい。上記株は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0025】
培養に用いる培地は、炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、菌体内でカロテノイド色素が十分に生産される培地であれば、天然培地及び合成培地のいずれを用いてもよく、当業者であれば使用する菌株に適切な公知の培地を適宜選ぶことができる。炭素源としてはグルコース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース、トレハロース、スクロース、マンノース、廃糖蜜等を使用することができ、窒素源としては肉エキス、ペプトン、イーストエキストラクト、カゼイン加水分解物、ホエータンパク質加水分解物、大豆タンパク質加水分解物等を使用することができる。また、無機塩類としては、リン酸塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウム等を用いることができる。乳酸菌の培養に適した培地としては、例えば、M17培地(グルコース添加)、MRS液体培地、GYP培地、TYG培地、BL培地、GAM培地、Broth培地、Briggs Liver Broth、獣乳、脱脂乳、乳性ホエー等が挙げられる。
【0026】
培養条件は、菌体内でカロテノイド色素が十分に生産される限り、特に限定されず、例えば、pHは5.0~8.0、好ましくは5.0~7.0であり、温度は20~45℃、好ましくは30~40℃であり、時間は10~30時間、好ましくは18~24時間である。培養の形式は、静置培養、振とう培養、タンク培養等が挙げられる。
【0027】
菌体内にカロテノイド色素を収容する乳酸菌の乾燥物は、該乳酸菌を乾燥することで得ることができる。乾燥方法としては、該乳酸菌を十分に乾燥することができる限り、特に限定されず、例えば、凍結乾燥、スプレードライ、熱風乾燥、スピン乾燥、吸引乾燥等が挙げられ、カロテノイド色素の退色抑制効果、作業性、生産性等の観点から、凍結乾燥又はスプレードライが好ましい。特に、前記カロテノイド色素生産乳酸菌を培養することによって、菌体内にカロテノイド色素を収容する乳酸菌を得た場合には、培養後の乳酸菌から培地を取り除き、滅菌水等で該乳酸菌を洗浄し、洗浄後の乳酸菌を上記方法で乾燥することが、不純物低減等の観点から好ましい。
【0028】
本発明に係る、カロテノイド色素を含む飲食物、機能性食品、外用剤、化粧品、医薬部外品、又は医薬品を製造する方法は、原料の一部として、菌体内にカロテノイド色素を収容する乳酸菌の乾燥物を配合する工程を含む。ここで、菌体内にカロテノイド色素を収容する乳酸菌の乾燥物は、上述の通りであり、本発明に係る、カロテノイド色素の退色を抑制する方法における保存工程を経た後の当該乾燥物であっても、好適に用いることができる。本発明によれば、上記保存工程を経た後であっても、カロテノイド色素の退色が抑制されているため、原料の一部として上記乾燥物を配合して得た上記飲食物等において、カロテノイド色素による着色を十分に行うことができるからである。
【0029】
飲食物又は機能性食品としては、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む。);加工乳、発酵乳、ヨーグルト、バター、チーズ等の乳製品;パン;麺;菓子;水産・畜産加工食品;豆腐等の大豆加工食品;油脂;油脂加工食品等が挙げられる。外用剤又は化粧品としては、例えば、化粧水、クリーム、ゲル剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、口紅、軟膏等の皮膚に適用される皮膚外用剤が挙げられる。医薬部外品又は医薬品としては、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、液剤、乳剤、注射液等の製剤が挙げられる。上記乾燥物を配合する時期としては、特に限定されず、製造開始時に他の原料とともに配合しても、製造の途中で他の原料の混合物に配合しても、製造終了直前の製品に配合してもよい。
【0030】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例
【0031】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に限られるものではない。
【0032】
1.凍結乾燥
[実施例1~7]
<乾燥方法>
培養して得られたEnterococcus mundtii 161(NITE P-03022)(生産したカロテノイド色素を菌体内に保持している。以下、「乳酸菌161株」という。)を含む培養液30mlを50mlの遠心チューブに入れ、室温下8000gで5分間遠心分離後、上清を除き、等量の滅菌水を加え懸濁させた。得られた懸濁液を8000gで5分間遠心分離後、上清を除き、得られた乳酸菌161株を含む菌液を、凍結乾燥瓶に移し、ドライアイスを加えたメタノールに入れ、凍結させた。凍結させた菌液の入った容器をアルミホイルで包んで遮光し、「<FDU-2200>(EYELA)」を用いて-40℃以下、35Pa未満に24時間以上保持して凍結乾燥させ、凍結乾燥粉末36mgを得た。
【0033】
なお、乳酸菌161株は、遺伝子配列及びマイクロサテライトの解析から、4,4’-ジアポニューロスポレン等の炭素数30のカロテノイド色素又はその誘導体を合成する遺伝子を有すると判断される。また、乳酸菌161株が生産するカロテノイド色素は、波長470nmに吸収を示すことから、乳酸菌161株は、4,4’-ジアポニューロスポレン等の炭素数30のカロテノイド色素又はその誘導体を生産すると評価される。
【0034】
<評価方法>
この凍結乾燥粉末約40mgに1mL/10mgとなるようにメタノールを添加し、ボルテックスミキサーを用いて十分に混和し20分間静置後、再度十分に混和した。この懸濁液1mLを1.5mLエッペンドルフチューブに移し、室温下6000gで5分間遠心分離後、上清を回収して色素抽出液を得た(以下「メタノール処理」という)。この色素抽出液の470nmの吸光度を、分光光度計Ultrospec 2000(ファルマシア)を用いて測定し、劣化処理前の吸光度とした。
【0035】
次に、凍結乾燥粉末各約40mgを蓋付きガラスねじ口ビン(紫外線劣化処理の場合:50mL容、その他の場合:10mL容)に入れ、それぞれ室温下、以下の条件で劣化処理した。
(劣化処理)
(1)紫外線劣化処理
安全キャビネットSCV-1903ECIIA(日立)に蓋を開けた状態で凍結乾燥粉末の入った容器を置き、付属15W殺菌灯(日立)を用いて、凍結乾燥粉末の表面から8cmの照射距離で紫外線を照射した状態で10分間又は30分間保管した。
(2)蛍光灯劣化処理
安全キャビネットSCV-1903ECIIA(日立)の中央底面に凍結乾燥粉末の入った容器を置き、付属蛍光灯を点灯した状態で24時間保管した。
(3)遮光劣化処理
凍結乾燥粉末の入った容器をアルミホイルで包んで遮光し、室温下実験室内で144時間保管した。
各劣化処理後の凍結乾燥粉末をメタノール処理して得た色素抽出液の470nmの吸光度を測定し、劣化処理後の吸光度とした。劣化処理後の吸光度の、劣化処理前の吸光度に対する百分率を算出して、カロテノイド色素量の維持率とした。結果を表1に示す。
【0036】
[比較例1~7]
実施例と同様にして得られた乳酸菌161株約40mgをメタノール処理して得た色素抽出液を、窒素ガス雰囲気下で1ml程度に濃縮し、2mlのヘキサン、4mlのアセトン、2mlの1.7M食塩水を添加して混濁し、上層の色素を含んだヘキサン層のみを分取し、窒素ガス雰囲気下で有機溶媒を飛ばし、脂溶性抽出物を得た(以下、「ヘキサン処理」という)。
【0037】
この脂溶性抽出物をメタノールに再溶解し、吸光度測定に用いたこと、乾燥粉末に代えて脂溶性抽出物を用いたこと、乳酸菌161株約10mg分の脂溶性抽出物を1.5mlの石英セルに入れて劣化処理に用いたこと、及び紫外線劣化処理において紫外線の照射距離を液面から5cmとしたこと以外は実施例と同様にして、カロテノイド色素量の維持率を測定した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1より、菌体内に収容したまま乾燥して保存したカロテノイド色素は、保存中に紫外線及び蛍光灯光を照射しても、菌体から抽出したカロテノイド色素より、褪色が抑制されることが分かった。
【0040】
2.スプレードライ
<乾燥方法>
培養して得られた乳酸菌161株を含む培養液1200mlを200ml毎、250mlの遠心チューブに分け入れ、室温下8000gで5分間遠心分離後、上清を除き、等量の滅菌水を加え懸濁させた。得られた懸濁液を8000gで5分間遠心分離後、上清を除き、得られた乳酸菌161株を含む菌液に0.2等量の滅菌水を加え懸濁させた。菌液の入った容器をアルミホイルで包んで遮光し、懸濁液を噴霧乾燥機に供し、噴霧乾燥粉末1.0gを得た。噴霧乾燥の具体的な条件は、以下の通りである。噴霧乾燥機として「SD-1000」(EYELA製)を用い、スプレー圧力を0.9~1.1kgf/cm、送液速度を1~5g/分、吸気温度を120~170℃に保持して噴霧乾燥を行った。
【0041】
<評価方法>
実施例1~7と同様にして評価を行った。劣化処理方法、保存期間、及び結果を表2に示す。なお、表2には、乾燥方法が凍結乾燥である場合の別の結果も示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2より、菌体内に収容したまま乾燥して保存したカロテノイド色素は、乾燥方法がスプレードライであっても凍結乾燥であっても、褪色が抑制されることが分かった。