IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧

<>
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図1
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図2
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図3
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図4
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図5
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図6
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図7
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図8
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図9
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図10
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図11
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図12
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図13
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図14
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図15
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図16
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図17
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図18
  • 特許-Wntシグナル伝達経路の抑制剤 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】Wntシグナル伝達経路の抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20240402BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240402BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240402BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240402BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240402BHJP
   C07K 14/52 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
A61K38/16 ZNA
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P17/00
A61P11/00
C07K14/52
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022553949
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035368
(87)【国際公開番号】W WO2022071220
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2020168029
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島村 宗尚
(72)【発明者】
【氏名】中神 啓徳
(72)【発明者】
【氏名】森下 竜一
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】LA MANNA et al.,Peptides as Therapeutic Agents for Inflammatory-Related Disease,International Journal of Molecular Sciences,2018年,Vol. 19, No. 9,page 2714
【文献】西岡 清,免疫と炎症と硬化,日本臨床免疫学会会誌,1994年,Vol. 17, No. 6,pages 688-690,10.2177/jsci.17.688
【文献】柴田 昌彦,がんの進展における炎症と宿主免疫能の関与の重要性,日本外科系連合学会誌,2011年,Vol. 36, No. 6,pages 1043-1045,10.4030/jjcs.36.1043
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/16
A61P 43/00
A61K 38/10
A61P 35/00
A61P 17/00
A61P 11/00
C07K 14/52
C07K 7/08
C07K 7/06
C12N 15/19
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号12又は17に示されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを含有する、Wntシグナル伝達経路の抑制剤。
【請求項2】
前記オリゴペプチドのアミノ酸配列が、RANKLタンパク質CDループ配列を含まない、請求項1に記載の抑制剤。
【請求項3】
前記オリゴペプチドが、N末端がアセチル化され且つC末端がアミド化されてなるオリゴペプチドである、請求項1又は2に記載の抑制剤。
【請求項4】
前記オリゴペプチドの長さが50アミノ酸残基長以下である、請求項1~のいずれかに記載の抑制剤。
【請求項5】
前記オリゴペプチドの長さが40アミノ酸残基長以下である、請求項に記載の抑制剤。
【請求項6】
線維化疾患の予防又は治療に用いるため、或いはがんの予防又は治療に用いるための、請求項1~のいずれかに記載の抑制剤。
【請求項7】
前記線維化疾患が皮膚及び肺からなる群より選択される少なくとも1種における線維化疾患であり、且つ前記がんが肺がんである、請求項に記載の抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Wntシグナル伝達経路の抑制剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
強皮症は、発症から5~6年以内に皮膚硬化の進行と内臓病変が出現する疾患であり、その患者数は日本のみでも2万人以上である。強皮症の治療法としては、ステロイド、シクロホスファミド、プロトンポンプ阻害剤、プロスタサイクリン、ACE阻害剤、エンドセリン受容体拮抗剤等が使用されているが、根本的な治療には繋がらない。
【0003】
突発性肺線維症(IPF)は、診断確定後の平均生存期間は3~5年であり、急性増悪を来たした後の平均生存期間は2ヶ月以内であるとされており、予防及び治療が重要である。IPF治療薬として、ピルフェニドン、ニンテダニブ等が市販されているが、根本的な治療には繋がらない。
【0004】
高齢化の進展、生活習慣の変化等に伴い、がん患者数は増加の一途を辿っている。中でも、肺がんは予後が悪く、効果的な治療薬の開発が望まれている。
【0005】
特許文献1では、RANKLペプチドがTLRを介した炎症性サイトカイン抑制作用を有することが報告されている。しかしながら、RANKLペプチドが、強皮症、肺線維症などの線維化疾患、及びがんの予防又は治療に有効であることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/084311号
【非特許文献】
【0007】
【文献】The Journal of Clinical Investigation, No.7, Vol.108, 2001, pages 971-979.
【文献】Mol Endocrinol, January 2009, 23(1):35-46.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、線維化疾患及びがんの予防又は治療剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、RANKLタンパク質DEループ配列、及び該DEループ配列のN末端側に隣接して配置されたRANKLタンパク質βストランドD配列を含むアミノ酸配列からなるオリゴペプチドが、Wntシグナル伝達経路を抑制することができること及びLGR4とRSPO1~3との結合を抑制することができることを見出した。そして、この作用に基づいて、当該オリゴペプチドが、線維化疾患及びがんの予防又は治療効果を有することを見出した。本発明者は、この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0010】
項1. RANKLタンパク質DEループ配列、及び該DEループ配列のN末端側に隣接して配置されたRANKLタンパク質βストランドD配列を含むアミノ酸配列からなり、
前記DEループ配列が下記(a)又は(b):
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して1個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であり、
前記βストランドD配列が下記(c)又は(d):
(c)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は
(d)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であるオリゴペプチドを含有する、Wntシグナル伝達経路の抑制剤。
【0011】
項2. 前記DEループ配列が前記(a)のアミノ酸配列である、項1に記載の抑制剤。
【0012】
項3. 前記1~3個のアミノ酸が1又は2個のアミノ酸である、項2に記載の抑制剤。
【0013】
項4. 前記(d)のアミノ酸配列において、配列番号2及び4のN末端のロイシン残基並びに配列番号3及び5のN末端から4番目のアミノ酸残基であるロイシン残基は置換又は欠失されていない、項1~3のいずれかに記載の抑制剤。
【0014】
項5. 前記オリゴペプチドのアミノ酸配列が、前記DEループ配列のC末端側に隣接して配置されたRANKLタンパク質βストランドE配列を含む、項1~4のいずれかに記載の抑制剤。
【0015】
項6. 前記βストランドE配列が下記(e)又は(f):
(e)配列番号6~9のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は
(f)配列番号6~9のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
である、項5に記載の抑制剤。
【0016】
項7. 前記オリゴペプチドのアミノ酸配列が、RANKLタンパク質CDループ配列を含まない、項1~6のいずれかに記載の抑制剤。
【0017】
項8. 前記オリゴペプチドのアミノ酸配列が下記(i)又は(j):
(i)配列番号12~21のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は
(j)配列番号12~21のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
である、項1~7のいずれかに記載の抑制剤。
【0018】
項9. 前記オリゴペプチドのアミノ酸配列が下記(i’)又は(j’):
(i’)配列番号12、17、20若しくは21に示されるアミノ酸配列、又は
(j’)配列番号12、17、20若しくは21に示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
である、項1~7のいずれかに記載の抑制剤。
【0019】
項10. 前記オリゴペプチドが、N末端がアセチル化され且つC末端がアミド化されてなるオリゴペプチドである、項1~9のいずれかに記載の抑制剤。
【0020】
項11. 前記オリゴペプチドの長さが50アミノ酸残基長以下である、項1~10のいずれかに記載の抑制剤。
【0021】
項12. 前記オリゴペプチドの長さが40アミノ酸残基長以下である、項11に記載の抑制剤。
【0022】
項13. 線維化疾患の予防又は治療に用いるため、或いはがんの予防又は治療に用いるための、項1~12のいずれかに記載の抑制剤。
【0023】
項14. 前記線維化疾患が皮膚及び肺からなる群より選択される少なくとも1種における線維化疾患であり、且つ前記がんが肺がんである、項13に記載の抑制剤。
【0024】
項15. RANKLタンパク質DEループ配列、及び該DEループ配列のN末端側に隣接して配置されたRANKLタンパク質βストランドD配列を含むアミノ酸配列からなり、
前記DEループ配列が下記(a)又は(b):
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して1個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であり、
前記βストランドD配列が下記(c)又は(d):
(c)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は
(d)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であるオリゴペプチドを含有する、線維化疾患の予防又は治療剤。
【0025】
項16. RANKLタンパク質DEループ配列、及び該DEループ配列のN末端側に隣接して配置されたRANKLタンパク質βストランドD配列を含むアミノ酸配列からなり、
前記DEループ配列が下記(a)又は(b):
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して1個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であり、
前記βストランドD配列が下記(c)又は(d):
(c)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は
(d)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であるオリゴペプチドを含有する、がんの予防又は治療剤。
【0026】
項17 .RANKLタンパク質DEループ配列、及び該DEループ配列のN末端側に隣接して配置されたRANKLタンパク質βストランドD配列を含むアミノ酸配列からなり、
前記DEループ配列が下記(a)又は(b):
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して1個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であり、
前記βストランドD配列が下記(c)又は(d):
(c)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は
(d)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であるオリゴペプチドを細胞と接触させることを含む、Wntシグナル伝達経路の抑制方法。
【0027】
項18 .RANKLタンパク質DEループ配列、及び該DEループ配列のN末端側に隣接して配置されたRANKLタンパク質βストランドD配列を含むアミノ酸配列からなり、
前記DEループ配列が下記(a)又は(b):
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して1個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であり、
前記βストランドD配列が下記(c)又は(d):
(c)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は
(d)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であるオリゴペプチドを、線維化疾患又はがんを有する患者に投与することを含む、線維化疾患又はがんの予防又は治療方法。
【0028】
項19 .Wntシグナル伝達経路の抑制剤としての使用のための、
RANKLタンパク質DEループ配列、及び該DEループ配列のN末端側に隣接して配置されたRANKLタンパク質βストランドD配列を含むアミノ酸配列からなり、
前記DEループ配列が下記(a)又は(b):
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して1個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であり、
前記βストランドD配列が下記(c)又は(d):
(c)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は
(d)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であるオリゴペプチド。
【0029】
項20 .線維化疾患又はがんの予防又は治療剤としての使用のための、
RANKLタンパク質DEループ配列、及び該DEループ配列のN末端側に隣接して配置されたRANKLタンパク質βストランドD配列を含むアミノ酸配列からなり、
前記DEループ配列が下記(a)又は(b):
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して1個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であり、
前記βストランドD配列が下記(c)又は(d):
(c)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は
(d)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であるオリゴペプチド。
【0030】
項21 .Wntシグナル伝達経路の抑制剤の製造のための、
RANKLタンパク質DEループ配列、及び該DEループ配列のN末端側に隣接して配置されたRANKLタンパク質βストランドD配列を含むアミノ酸配列からなり、
前記DEループ配列が下記(a)又は(b):
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して1個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であり、
前記βストランドD配列が下記(c)又は(d):
(c)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は
(d)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であるオリゴペプチドの使用。
【0031】
項22 .線維化疾患又はがんの予防又は治療剤の製造のための、
RANKLタンパク質DEループ配列、及び該DEループ配列のN末端側に隣接して配置されたRANKLタンパク質βストランドD配列を含むアミノ酸配列からなり、
前記DEループ配列が下記(a)又は(b):
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して1個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であり、
前記βストランドD配列が下記(c)又は(d):
(c)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は
(d)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列
であるオリゴペプチドの使用。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、Wntシグナル伝達経路の抑制剤を提供することができる。また、本発明によれば、線維化疾患又はがんの予防又は治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】試験例1におけるRANKLペプチド(MHP1-7)非添加の場合の結果を示す。縦軸は、ルシフェラーゼ活性値をタンパク質濃度で正規化した値を示す。横軸は、左側に示す薬剤の有無(-/+)又は濃度を示す。各カラムは平均値(n=4)であり、標準誤差を各カラム上のバーで示す。
図2】試験例1におけるRANKLペプチド(MHP1-7)非添加の場合と添加の場合とを比較した結果を示す。縦軸は、ルシフェラーゼ活性値をタンパク質濃度で正規化した値を示す。横軸は、左側に示す薬剤の有無(-/+)又は濃度を示す。MHP1-AcNはMHP1-7を示す。各カラムは平均値(n=4)であり、標準誤差を各カラム上のバーで示す。*は、ANOVA検定によるコントロール(wnt3a+、RSPO1/2/3+、且つMHP1-AcN(MHP1-7)-)に対するP値が0.05未満であることを示す。
図3】試験例2における、RANKLペプチドとLGR4との結合試験の結果を示す。NCはRANKLペプチド非添加を示す。MHPはMHP1-7を示し、MHP-Bはビオチン化MHP1を示す。
図4】試験例2における、RANKLペプチドがLGR4とRSPO1との結合に与える影響について解析した結果を示す。NCはRANKLペプチド非添加を示す。MHP1-AcNはMHP1-7を示す。
図5】試験例3におけるMasson’s trichrome染色結果を示す。縦軸は、染色部位(真皮)の厚さを示す。横軸中、Normalはブレオマイシン及びRANKLペプチド共に非投与の群、Salineはブレオマイシン及び生理食塩水の投与群、MHP1-7はブレオマイシン及びMHP1-7の投与群を示す。各カラムは平均値(Normal群 n=1、他 n=4)であり、標準誤差を各カラム上のバーで示す。**は、t検定によるコントロール(Saline)に対するP値が0.01未満であることを示す。
図6】試験例3におけるコラーゲン遺伝子(Col1a)のmRNA量の測定結果を示す。縦軸は、Col1a遺伝子発現量をGAPDH発現量で除してなる値である。横軸中、Normalはブレオマイシン及びRANKLペプチド共に非投与の群、Salineはブレオマイシン及び生理食塩水の投与群、MHP1-7はブレオマイシン及びMHP1-7の投与群を示す。各カラムは平均値(Normal群 n=1, 他 n=4)であり、標準誤差を各カラム上のバーで示す。
図7】試験例3におけるマウスの体重変化を示す。縦軸は、投与開始日(Day0)の体重を100%とした場合の相対値を示す。横軸は投与開始日からの経過日数を示す。Salineはブレオマイシン及び生理食塩水の投与群(n=6)、MHP1はブレオマイシン及びMHP1-7の投与群(n=6)を示す。
図8】試験例4におけるMasson’s trichrome染色結果を示す。縦軸は、染色部位(真皮)の厚さを示す。横軸中、Salineはブレオマイシン及び生理食塩水の投与群、MHP1はブレオマイシン及びMHP1-7の投与群を示す。中央のバーは平均値(MHP1群 n=5, Saline群 n = 6)であり、当該バーの上下に標準誤差のバーを示す。*は、t検定によるコントロール(Saline)に対するP値が0.05未満であることを示す。
図9】試験例4におけるコラーゲン遺伝子(Col1a1)のmRNA量の測定結果を示す。縦軸は、Col1a1遺伝子発現量をGAPDH発現量で除してなる値である。横軸中、Normalはブレオマイシン及びRANKLペプチド共に非投与の群、Salineはブレオマイシン及び生理食塩水の投与群、MHP1はブレオマイシン及びMHP1-7の投与群を示す。中央のバーは平均値(Normal群 n=3, Saline群 n=6, MHP1群 n=5)であり、当該バーの上下に標準誤差のバーを示す。**は、ANOVA検定によるコントロール(Saline)に対するP値が0.01未満であることを示す。
図10】試験例4におけるコラーゲン遺伝子(Col1a2)のmRNA量の測定結果を示す。縦軸は、Col1a2遺伝子発現量をGAPDH発現量で除してなる値である。横軸中、Normalはブレオマイシン及びRANKLペプチド共に非投与の群、Salineはブレオマイシン及び生理食塩水の投与群、MHP1はブレオマイシン及びMHP1-7の投与群を示す。中央のバーは平均値(Normal群 n=3, Saline群 n=6, MHP1群 n=5)であり、当該バーの上下に標準誤差のバーを示す。**は、ANOVA検定によるコントロール(Saline)に対するP値が0.01未満であることを示す。
図11】試験例5における肺重量及び体重の測定結果を示す。左上のグラフは肺重量の体重に対する比を示し、右上のグラフは肺重量を示し、左下のグラフは投与日からの体重の変化を示す。横軸及び凡例中、Saline (Saline)は生理食塩水のみの投与群、Saline (bleo)はブレオマイシン及び生理食塩水の投与群、MHP1-7 (bleo)(或いはMHP1 (bleo))はブレオマイシン及びMHP1-7の投与群を示す。上段の図中、中央のバーは平均値(Saline (Saline)群 n=3, Saline (bleo)群 n=6, MHP1-7 (bleo)群 n=5)であり、当該バーの上下に標準誤差のバーを示す。上段の図中、*は、One-way ANOVA with post-hoc Dunnet検定によるSaline (bleo)群に対するP値が0.05未満であることを示し、**は同P値が0.01未満であることを示す。下段の図中、プロットは平均値を示し、当該プロットの上下に標準誤差のバーを示す。
図12】試験例5における線維化指標遺伝子のmRNA量の測定結果を示す。縦軸は、各線維化指標遺伝子発現量をGAPDH発現量で除してなる値である。横軸中、Saline (Saline)は生理食塩水のみの投与群、Saline (bleo)はブレオマイシン及び生理食塩水の投与群、MHP1-7 (bleo)(或いはMHP1 (bleo))はブレオマイシン及びMHP1-7の投与群を示す。カラム上端は平均値(Saline (Saline)群 n=3, Saline (bleo)群 n=6, MHP1-7 (bleo)群 n=5)であり、当該上端の上下に標準誤差のバーを示す。*は、One-way ANOVA with post-hoc Dunnet検定によるSaline (bleo)群に対するP値が0.05未満であることを示す。
図13】試験例5におけるMasson’s trichrome score評価結果を示す。縦軸は、Masson’s trichrome scoreを示し、横軸中、Saline (Saline)は生理食塩水のみの投与群、Saline (bleo)はブレオマイシン及び生理食塩水の投与群、MHP1-7 (bleo)(或いはMHP1 (bleo))はブレオマイシン及びMHP1-7の投与群を示す。カラム上端は平均値(Saline (Saline)群 n=3, Saline (bleo)群 n=6, MHP1-7 (bleo)群 n=5)であり、当該上端の上下に標準誤差のバーを示す。*は、One-way ANOVA with post-hoc Dunnet検定によるSaline (bleo)群に対するP値が0.05未満であることを示す。
図14】試験例6-1のProliferation Assayの結果を示す。縦軸は細胞生存率を示し、横軸はRANKLペプチド(MHP1-AcN)濃度を示す。プロットは平均値を示し、当該プロットの上下に標準誤差のバーを示す。
図15】試験例6-2のMigration/Invasion Assayの結果を示す。縦軸は、観察視野中の細胞数を示す。当該細胞数が少ない程、Migration/Invasionが抑制されていることを示す。凡例中、ControlはRANKLペプチド(MHP1-AcN)非添加群であり、その他はRANKLペプチド(MHP1-AcN)添加群(数値は添加終濃度)である。カラムの上端は平均値であり、当該上端の上下に標準誤差のバーを示す。*は、One-way ANOVA with post-hoc Dunnet検定によるControl群に対するP値が0.05未満であることを示し、**は同P値が0.01未満であることを示す。
図16】試験例6-3のがん細胞xenograftモデルのTumor Volume測定結果を示す。縦軸は、Tumor Volumeを示し、横軸は、がん細胞投与(day 0)からの経過日数を示す。A549+salineは生理食塩水を投与した群を示し、A549+MHP1はRANKLペプチド(MHP1-AcN)を投与した群を示す。プロットは平均値を示し、当該プロットの上下に標準誤差のバーを示す。****は2群間のP値が0.0001未満であることを示す。
図17】試験例7-1の結果を示す。写真の左側に検出したタンパク質を示す。写真上方にTGF-β投与の有無、及びRANKLペプチド(MHP1-AcN)Pretreatmentの有無及び処理濃度を示す。
図18】試験例7-2の結果を示す。左側の図はTGF-β I型受容体の測定結果であり、右側の図はTGF-β II型受容体の測定結果である。縦軸は、発現量の相対値を示す。横軸中、ControlはRANKLペプチド(MHP1-AcN)非添加群を示し、M10、M30、及びM100はRANKLペプチド(MHP1-AcN)添加群(数値は終濃度(単位:μg/ml)を示す)を示す。カラムの上端は平均値であり、当該上端の上下に標準誤差のバーを示す。
図19】試験例7-3の結果を示す。左側の図はACTA2(α-SMA)の測定結果を示し、右側の図はCol1a1の測定結果を示す。縦軸は、発現量の相対値を示す。横軸中、ControlはRANKLペプチド(MHP1-AcN)及びTGF-β非添加群を示し、TβはTGF-β添加群を示し、M10、M30、及びM100はRANKLペプチド(MHP1-AcN)添加群(数値は終濃度(単位:μg/ml)を示す)を示す)を示す。カラムの上端は平均値であり、当該上端の上下に標準誤差のバーを示す。*は、One-way ANOVA with post-hoc Dunnet検定によるTβ群に対するP値が0.05未満であることを示し、**は同P値が0.01未満であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
1.定義
本明細書において、アミノ酸配列の表記は全て一文字表記で表わす。
【0035】
本明細書において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0036】
アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(KarlinS, Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoring schemes ”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の『同一性』も上記に準じて定義される。
【0037】
本明細書において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0038】
2.オリゴペプチド
以下に、RANKLタンパク質DEループ配列、及び該DEループ配列のN末端側に隣接して配置されたRANKLタンパク質βストランドD配列を含むアミノ酸配列からなるオリゴペプチド(本明細書において、「本発明のオリゴペプチド」と示すこともある。)について説明する。
【0039】
RANKLタンパク質のDEループ配列としては、下記(a)又は(b)のアミノ酸配列が挙げられる:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して1個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列。
【0040】
好ましくは(b)のアミノ酸配列における置換は保存的置換である。また、好ましくは(b)のアミノ酸配列における付加は、N末端またはC末端における付加である。
【0041】
RANKLタンパク質のβストランドD配列は、RANKLタンパク質のアミノ酸配列中、βストランドDを形成するアミノ酸配列である限り特に限定されない。該βストランドD配列が由来する生物種は特に限定されず、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギなどの種々の哺乳類が挙げられる。これらの中でも、好ましくはヒト、サル、マウス、ラットなど、より好ましくはヒト、マウスなど、よりさらに好ましくはヒトが挙げられる。各生物種のβストランドD配列は公知であり、例えばマウス、ラットの場合は非特許文献1、2等に記載されている。また、ある生物種由来のβストランドD配列が公知でなくとも、公知の情報(例えば非特許文献1、2等)に基づいて、その配列を容易に決定することができる。RANKLタンパク質のβストランドD配列として、具体的には、例えば配列番号2に示されるアミノ酸配列(マウス由来RANKLタンパク質のβストランドD配列の一部)、配列番号3に示されるアミノ酸配列(マウス由来RANKLタンパク質のβストランドD配列)、配列番号4に示されるアミノ酸配列(ヒト由来RANKLタンパク質のβストランドD配列の一部)、配列番号5に示されるアミノ酸配列(ヒト由来RANKLタンパク質のβストランドD配列)などが挙げられる。βストランドD配列は、本発明のオリゴペプチドが線維化疾患又はがんの予防又は治療効果、Wntシグナル伝達経路の抑制効果等を発揮し得る限りにおいて、変異したものであってもよい。
【0042】
なお、配列番号2~5において、配列番号2及び4のN末端のロイシン残基、及び配列番号3及び5のN末端から4番目アミノ酸であるロイシン残基は、線維化疾患又はがんの予防又は治療効果、Wntシグナル伝達経路の抑制効果等の発揮に重要である。βストランドD配列においては、このロイシン残基は変異していないことが望ましい。
【0043】
RANKLタンパク質のβストランドD配列として、好ましくは下記(c)又は(d)のアミノ酸配列が挙げられる:
(c)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は
(d)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列。
【0044】
上記(d)において、変異(置換、欠失、付加又は挿入)しているアミノ酸の数は、好ましくは1又は2個であり、より好ましくは1個である。
【0045】
また、上記(d)において、好ましい変異として保存的置換が挙げられる。また、上記(d)のアミノ酸配列として、好ましくは下記(d’)のアミノ酸配列が挙げられる:(d’)配列番号2~5のいずれかに示されるアミノ酸配列のN末端又はC末端(好ましくはC末端)に対して1~3個のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列。
【0046】
上記(d’)において、付加しているアミノ酸の数は、好ましくは1又は2個であり、より好ましくは1個である。
【0047】
「N末端側に隣接して配置された」とは、上記DEループ配列のN末端のアミノ酸と上記βストランドD配列のC末端のアミノ酸とがペプチド結合により連結していることを示す。
【0048】
本発明のオリゴペプチドのアミノ酸配列は、本発明のオリゴペプチドが線維化疾患又はがんの予防又は治療効果、Wntシグナル伝達経路の抑制効果等を発揮し得る限りにおいて、上記した配列以外の他の配列を含んでいてもよい。他の配列は特に限定されないが、細胞内半減期がより長いという観点などから決定することが望ましい。なお、親水性か否か、及び細胞内半減期については、各種ウェブサイト(例えばエクスパシー(http://web.expasy.org/protparam/))上で予測することができる。エクスパシーを利用する場合、親水性については、「Grand average of hydropathicity」がマイナスの値を示すように配列を設計することが好ましい。
【0049】
他の配列としては、線維化疾患又はがんの予防又は治療効果、Wntシグナル伝達経路の抑制効果等の観点から特に好ましくはRANKLタンパク質のβストランドE配列が挙げられる。βストランドE配列は、DEループ配列のC末端側に隣接して配置されていることが好ましい。なお、「C末端側に隣接して」とは、上記DEループ配列のC末端のアミノ酸と上記βストランドE配列のN末端のアミノ酸とがペプチド結合により連結していることを示す。
【0050】
RANKLタンパク質のβストランドE配列は、RANKLタンパク質のアミノ酸配列中、βストランドEを形成するアミノ酸配列である限り特に限定されない。該βストランドE配列が由来する生物種は特に限定されず、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギなどの種々の哺乳類が挙げられる。これらの中でも、好ましくはヒト、サル、マウス、ラットなど、より好ましくはヒト、マウスなど、よりさらに好ましくはヒトが挙げられる。各生物種のβストランドE配列は公知であり、例えばマウス、ラットの場合は非特許文献1、2等に記載されている。また、ある生物種由来のβストランドE配列が公知でなくとも、公知の情報(例えば非特許文献1、2等)に基づいて、その配列を容易に決定することができる。RANKLタンパク質のβストランドE配列として、具体的には、例えば配列番号6に示されるアミノ酸配列(マウス由来RANKLタンパク質のβストランドE配列)、配列番号7に示されるアミノ酸配列(マウス由来RANKLタンパク質のβストランドE配列の一部)、配列番号8に示されるアミノ酸配列(ヒト由来RANKLタンパク質のβストランドE配列)、配列番号9に示されるアミノ酸配列(ヒト由来RANKLタンパク質のβストランドE配列の一部)などが挙げられる。βストランドE配列は、本発明のオリゴペプチドが線維化疾患又はがんの予防又は治療効果、Wntシグナル伝達経路の抑制効果等を発揮し得る限りにおいて、変異していてもよい。
【0051】
RANKLタンパク質のβストランドE配列として、好ましくは下記(e)又は(f)のアミノ酸配列が挙げられる:
(e)配列番号6~9のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は
(f)配列番号6~9のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列。
【0052】
上記(f)において、変異(置換、欠失、付加又は挿入)しているアミノ酸の数は、好ましくは1又は2個であり、より好ましくは1個である。
【0053】
また、上記(f)において、好ましい変異として保存的置換が挙げられる。また、上記(f)のアミノ酸配列として、好ましくは下記(f’)のアミノ酸配列が挙げられる:(f’)配列番号6~9のいずれかに示されるアミノ酸配列のN末端又はC末端(好ましくはN末端)に対して1~3個のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列。
【0054】
上記(f’)において、付加しているアミノ酸の数は、好ましくは1又は2個であり、より好ましくは1個である。
【0055】
本発明のオリゴペプチドのアミノ酸配列は、RANKLタンパク質のCDループ配列を含まないことが好ましい。
【0056】
RANKLタンパク質のCDループ配列は、RANKLタンパク質のアミノ酸配列中、CDループを形成するアミノ酸配列である。各生物種のCDループ配列は公知であり、例えばマウス、ラットの場合は非特許文献1、2等に記載されている。RANKLタンパク質のCDループ配列として、具体的には、例えば配列番号10に示されるアミノ酸配列(マウス由来RANKLタンパク質のCDループ配列)、配列番号11に示されるアミノ酸配列(ヒト由来RANKLタンパク質のCDループ配列)などが挙げられる。
【0057】
本発明のオリゴペプチドの長さとしては、オリゴペプチドとして一般的な長さである限り特に限定されない。該長さは、例えば50アミノ酸残基長以下、好ましくは40アミノ酸残基長以下、より好ましくは35アミノ酸残基以下、より好ましくは30アミノ酸残基以下、さらに好ましくは25アミノ酸残基長以下である。また、該長さは、例えば11アミノ酸残基長以上、好ましくは13アミノ酸残基長以上、より好ましくは15アミノ酸残基長以上、さらに好ましくは20アミノ酸残基長以上、よりさらに好ましくは25アミノ酸残基長以上である。該長さの範囲は、例えば11~50アミノ酸残基長、好ましくは15~40アミノ酸残基長、より好ましくは20~35アミノ酸残基、さらに好ましくは25~30アミノ酸残基長である。
【0058】
本発明のオリゴペプチドの好ましいアミノ酸配列としては、下記(i)又は(j)のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドが挙げられる:
(i)配列番号12~21のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は
(j)配列番号12~21のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列。
【0059】
本発明のオリゴペプチドのより好ましいアミノ酸配列としては、下記(i’)又は(j’)のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドが挙げられる:
(i’)配列番号12、17、20若しくは21に示されるアミノ酸配列、又は
(j’)配列番号12、17、20若しくは21に示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列。
【0060】
上記(j)及び(j’)において、変異(置換、欠失、付加又は挿入)しているアミノ酸の数は、好ましくは1又は2個であり、より好ましくは1個である。
【0061】
好ましくは(j)及び(j’)のアミノ酸配列における置換は保存的置換である。
【0062】
本発明のオリゴペプチドは、線維化疾患又はがんの予防又は治療効果、Wntシグナル伝達経路の抑制効果等を発揮し得る限りにおいて、化学修飾されたものであってもよい。
【0063】
本発明のオリゴペプチドは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。
【0064】
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0065】
また、本発明のオリゴペプチドには、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているオリゴペプチドなども包含される。
【0066】
上記化学修飾の中でも、C末端のアミド化、N末端のアセチル基による保護などが好ましく挙げられる。特に、N末端がアセチル化されたオリゴペプチドは活性が優れており好ましいオリゴペプチドとして挙げられる。安定性の観点からは、C末端がアミド化されたオリゴペプチドが優れている。さらに好ましいオリゴペプチドとして、C末端がアミド化されかつN末端がアセチル化されたオリゴペプチドが挙げられる。特に好ましいオリゴペプチドとして、MHP1のC末端がアミド化されかつN末端がアセチル化されたMHP1-7、MHP6のC末端がアミド化されかつN末端がアセチル化されたMHP6-AcN、MHP24のC末端がアミド化されかつN末端がアセチル化されたMHP24-AcN、及びMHP24hのC末端がアミド化されかつN末端がアセチル化されたMHP24h-AcNが挙げられる。
【0067】
さらに、本発明のオリゴペプチドには、薬物の安定性、薬物動態、生物学的利用能などを改善する目的で用いられる公知の修飾物が付加されていてもよい。このような修飾物としては、例えばポリエチレングリコール鎖などが挙げられる。
【0068】
本発明のオリゴペプチドは、直鎖状、分枝状、環状などの種々の形態のものを包含するが、直鎖状であることが好ましい。また、本発明のオリゴペプチドは、線維化疾患又はがんの予防又は治療効果、Wntシグナル伝達経路の抑制効果等を発揮し得る限りにおいて、公知の手段に従って又は準じて架橋されていてもよい。
【0069】
本発明のオリゴペプチドは、酸または塩基との薬学的に許容される塩の形態であってもよい。塩は、薬学的に許容される塩である限り特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩などの有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩などのアミノ酸塩などが挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩などが挙げられる。
【0070】
本発明のオリゴペプチドは、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒は、薬学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸などが挙げられる。
【0071】
本発明のオリゴペプチドは、そのアミノ酸配列に応じて、公知のペプチド合成法に従って製造することができる。
【0072】
3.用途
本発明のオリゴペプチドは、線維化疾患又はがんの予防又は治療効果、Wntシグナル伝達経路の抑制効果、LGR4とRSPO(例えばRSPO1、RSPO2、RSPO3等)との結合抑制効果、上皮間葉転換(EMT)抑制効果を有することから、線維化疾患又はがんの予防又は治療剤、Wntシグナル伝達経路の抑制剤、LGR4とRSPO1との結合抑制剤、上皮間葉転換抑制剤等の有効成分として利用することができる。
【0073】
本明細書において、上記した薬剤をまとめて、「本発明の剤」と示すこともある。本発明の剤は、例えば医薬などの種々の分野で用いられる剤とすることができる。本発明の剤は、これをそのまま、あるいは慣用の成分とともに各種組成物となし、動物およびヒトに適用(例えば、投与、摂取、接種など)することができる。
【0074】
本発明の剤において、本発明のオリゴペプチドは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
線維化疾患は、生体組織の一部が線維化している疾患である。線維化疾患としては、組織の線維化状態又は組織の線維化を伴う疾患である限り、特に制限されない。線維化する組織としては、例えば肺、皮膚、腎臓、心臓、肝臓、膀胱、消化管、血管等が挙げられ、好ましくは皮膚、肺等が挙げられる。線維化疾患としては、例えば、強皮症、肺線維症、特発性肺線維症、間質性肺線維症、腎線維症、間質性腎臓線維症、肝線維症、腹膜線維症、心筋線維症、皮膚線維症、骨格筋線維症、膵臓線維症、神経線維腫、血管線維症等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは強皮症、肺線維症等が挙げられる。
【0076】
がんとしては、特に制限されず、例えば肺がん、胃がん、肝臓がん、食道がん、すい臓がん、大腸がん、胆道がん、腎がん、膀胱がん、子宮がん、卵巣がん、乳がん、前立腺がん、精巣がん、皮膚がん、白血病、骨腫瘍、骨肉種、軟部腫瘍、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、咽頭がん、頭頸部のがん、小児がん等が挙げられる。これらの中でも肺がんが好ましい。本発明の一態様において、LGR4とRSPO(例えばRSPO1、RSPO2、RSPO3等)とが高発現のがんが好ましい。
【0077】
Wntシグナル伝達経路の抑制剤は、Wntシグナルの伝達を抑制又は阻害する剤である。Wntシグナルの伝達経路は複数知られているが、特に限定されない。好ましくはβカテニンを介して伝わるWntシグナル伝達経路の抑制剤または阻害剤が挙げられる。より好ましくは、RSPO(R-spondin)によるWntシグナル活性化の抑制剤又は阻害剤が挙げられる。
【0078】
本発明の剤中の有効成分の含有量は、対象とする疾患の種類、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、患者の年齢、及び患者の体重などを考慮して適宜設定することができる。例えば、本発明の剤中の有効成分の含量は、本発明の剤全体を100重量部として0.0001重量部~100重量部程度をすることができる。
【0079】
本発明の剤の投与形態は、所望の効果が得られる限り特に制限されず、経口投与、及び非経口投与(例えば静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与、局所投与)のいずれかの投与経路でヒトを含む哺乳類に投与することができる。好ましい投与形態は非経口投与である。経口投与および非経口投与のための剤形およびその製造方法は当業者に周知であり、有効成分を、薬学的に許容される坦体などと混合などすることにより、常法に従って製造することができる。
【0080】
非経口投与のための剤形は、注射用製剤(例えば、点滴注射剤、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤)、外用剤(例えば、軟膏剤、パップ剤、ローション剤、クリーム、ゲル剤)、坐剤、吸入剤、眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、リポソーム剤などが挙げられる。例えば、注射用製剤は、本発明のオリゴペプチドを注射用蒸留水に溶解して調製し、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、及び安定化剤などを添加することができる。本発明の剤は、用事調製用の凍結乾燥製剤とすることもできる。
【0081】
本発明の剤は、疾患の治療又は予防に有効な他の薬剤を更に含有していてもよい。本発明の剤は、必要に応じて殺菌剤、消炎剤、細胞賦活剤、ビタミン類、及びアミノ酸などの成分を配合することもできる。
【0082】
本発明の剤の製剤化に用いる担体には、当該技術分野において通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、無痛化剤などを用いることができる。
【0083】
本発明の剤の投与量は、例えば、投与経路、疾患の種類、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、疾患の重篤度、薬物動態および毒物学的特徴などの薬理学的知見、薬物送達系の利用の有無、並びに他の薬物の組合せの一部として投与されるか、など様々な因子を元に、決定することができる。本発明の剤の投与量は、例えば、一日当たりで、1μg/kg(体重)~10g/kg(体重)程度とすることができる。本発明の剤の投与スケジュールも、その投与量と同様の要因を勘案して決定することができる。例えば、上記の1日当たりの投与量で、1日~1月に1~5回投与することできる。
【実施例
【0084】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0085】
製造例1.オリゴペプチドの合成
表1に示すアミノ酸配列のオリゴペプチドをILS株式会社に委託して合成した。MHP24-AcN及びMHP24h-AcN以外は、N末端及びC末端の修飾は無く、N末端がアミノ基であり、C末端がカルボキシ基である。MHP24-AcN及びMHP24h-AcNは、N末端がアセチル化され且つC末端がアミド化されてなるオリゴペプチドである。なお、これらのペプチドにおけるアミノ酸残基は、全てL体である。
【0086】
さらに、MHP1のメチオニン残基がD体に置換されてなるオリゴペプチド(MHP1-3)、MHP1のN末端がアセチル化されてなるオリゴペプチド(MHP1-6)、MHP1のN末端がアセチル化され且つC末端がアミド化されてなるオリゴペプチド(MHP1-7又はMHP1-AcN)、及びMHP1のC末端がアミド化されてなるオリゴペプチド(MHP1-8)をILS株式会社に委託して合成した。
【0087】
さらに、MHP1のN末端がアセチル化され且つC末端にビオシチン(ビオチン化リジン)残基が付加されてなるオリゴペプチド(ビオチン化MHP1)をBACHEM社に委託して合成した。
【0088】
HPLC及びMSにより、所望の配列のオリゴペプチドが高純度で合成できたことを確認した。以下、これらのペプチドを総称して「RANKLペプチド」と総称することもある。
【0089】
【表1】
【0090】
試験例1.Wntシグナル抑制試験
RANKLペプチドがWntシグナルに与える影響を解析した。具体的には、次のようにして行った。
【0091】
β-カテニン応答配列の制御下でルシフェラーゼを発現するHEK293細胞を96ウェルプラスチックプレート(1x104細胞/ウェル)にプレーティングし、50ng/mLの組換えマウスwnt3a(R&Dシステム、#1324-WN)と一緒に、組換えヒトRSPO1(R&Dシステム、#4645-RS)、組換えヒトRSPO2(PEPROTECH、#120-43)、又は組換えヒトRSPO3(PEPROTECH、#120-44)存在下または非存在下で、インキュベートした。RANKLペプチドと同時に添加する場合、50ng/mLの組換えマウスwnt3aと20ng/mLのRSPO1/2/3を使用した。24時間インキュベーション後、ルシフェラーゼ活性をルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)とマイクロプレートルミノメーター(Centro XS3 LB960; Berthold Technologies)を使用して分析した。各サンプルのタンパク質濃度はタカラブラッドフォードプロテインアッセイキット(タカラバイオ)を使用して測定した。ルシフェラーゼ活性の結果は、各サンプルのタンパク質濃度で正規化した。
【0092】
結果を図1及び図2に示す。RANKLペプチドがRSPOによるWntシグナル活性化を抑制することが分かった。
【0093】
試験例2.結合試験
RANKLペプチドとLGR4との結合について、及びRANKLペプチドがLGR4とそのリガンドであるRSPO1との結合に与える影響について解析した。具体的には、次のようにして行った。
【0094】
HEK293細胞を100μg/mLのRANKLペプチド又はビオチン化RANKLペプチドと30分間インキュベートしてから、免疫沈降を行った。競合結合分析のために、HEK293細胞をFlagタグ付きLGR4発現プラスミド(OriGene Technologies)で48時間トランスフェクトし、50ng/mLの組換えヒトビオチン化RSPO1(R&Dシステム、#BT4645)とRANKLペプチドの存在下で2時間インキュベートした。免疫沈降のために、細胞を冷却したPBSで2回洗浄し、溶解バッファー(50mM Tris-HCL、pH7.4、150mM NaCl、5mM EDTA、0.5%NP40、10%グリセロールおよびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche))で溶解した。サンプルを16,000gで10分間遠心分離した。上清を収集し、タンパク質濃度を決定した。等量のタンパク質を含むサンプルからの免疫沈降は、高容量ストレプトアビジンアガロース(Thermo Fisher Scientific)又はAnti-FLAG M2 Affinity Gel(Sigma-Aldrich)を使用して4℃で一晩行い、溶解バッファーで2回洗浄し、ウエスタンブロッティングの前に2X Laemmli Sample Bufferで37℃で30分間溶出した。ブロットしたメンブレンを一次抗体と4℃で一晩インキュベートし、0.1%Tween-20を含むTBSで洗浄した後、HRP結合二次抗体と室温で1時間インキュベートした後、Chemi-Lumi One L(Nacalai Tesque)でインキュベートした。抗体と試薬は次の通りである:抗LGR4(Thermo Fisher Scientific、PA5-67868)、抗GAPDH(Sigma-Aldrich、MAB374)、抗FLAG(Sigma-Aldrich、F1804)、抗マウスIgG-HRP(NA931V、GE Healthcare)、抗ウサギIgG-HRP(NA934V、GE Healthcare)、およびHRP-Streptavidin(Sigma-Aldrich)。
【0095】
結果を図3及び図4に示す。図3において、Avidinでのpulldown assayでは抗LGR4抗体でのバンドが確認され、RANKLペプチドがLGR4に結合することが分かった。図4における抗体Streptoavidin-HRPでの検討において、total cell lysateおよびFLAGで免疫沈降したlysateでは、RANKLペプチドの存在によりRSPO1の発現が低下していることから、RANKLペプチドがLGR4とRSPO1との結合を抑制することが分かった。
【0096】
試験例3.ブレオマイシン誘発強皮症モデルでの早期投与試験
ブレオマイシン誘発強皮症モデルを作製し、その症状が、RANKLペプチド早期投与によって改善されるかどうかを調べた。具体的には次のように行った。
【0097】
被検動物として、C57BL6/Jマウス(雌、8週齢)を準備した。ブレオマイシン 200μg/マウスを5日/週の頻度で14日間皮下に注射し、これと平行して生理食塩水又はRANKLペプチド 800μg/マウスを5日/週の頻度で14日間腹腔内投与した。投与期間中、定期的に体重を測定した。投与開始から14日後にサクリファイスし、ブレオマイシン投与部分の皮膚組織をMasson’s trichrome染色し線維化の評価を行った。また、線維化指標であるコラーゲン遺伝子のmRNAの皮膚における発現を評価した。
【0098】
結果を図5図6、及び図7に示す。RANKLペプチドにより皮膚の肥厚と線維化が抑制されることが組織像から確認された。また、RANKLペプチドによりコラーゲン遺伝子の発現が抑制され、体重減少が抑制された。以上より、RANKLペプチドが、ブレオマイシンモデルにおける線維化を抑制できることが分かった。
【0099】
試験例4.ブレオマイシン誘発強皮症モデルでの晩期投与試験
ブレオマイシン誘発強皮症モデルを作製し、その症状が、RANKLペプチド晩期投与によって改善されるかどうかを調べた。具体的には次のように行った。
【0100】
被検動物として、C57BL6/Jマウス(雌、8週齢)を準備した。ブレオマイシン 200μg/マウスを5日/週の頻度で14日間、皮下に注射した。続いて、生理食塩水又はRANKLペプチド 800μg/マウスを5日/週の頻度で14日間、腹腔内投与した。14日後(ブレオマイシン投与開始から28日後にサクリファイスし、ブレオマイシン投与部分の皮膚組織をMasson’s trichrome染色し線維化の評価を行った。また、線維化指標であるコラーゲン遺伝子のmRNAの皮膚における発現を評価した。
【0101】
結果を図8図9、及び図10に示す。RANKLペプチドにより皮膚の肥厚と線維化が抑制されることが組織像から確認された。また、RANKLペプチドによりコラーゲン遺伝子の発現が抑制された。以上より、RANKLペプチドが、ブレオマイシン投与により線維化した組織を修復できることが分かった。
【0102】
試験例5.ブレオマイシン誘発肺線維症モデルでの投与試験
ブレオマイシン誘発肺線維症モデルを作製し、その症状が、RANKLペプチド投与によって改善されるかどうかを調べた。具体的には次のように行った。
【0103】
被検動物として、C57BL6/Jマウス(雌、8週齢)を準備した。生理食塩水又はRANKLペプチド 800μg/マウス)を腹腔内投与し、直後に、生理食塩水又はブレオマイシン 0.05μg/マウスを気管内に直接投与した。投与から14日後にサクリファイスし、肺重量と体重を測定し、肺重量/体重比を測定した。また、肺組織をMasson’s trichrome染色して、染色画像に基づいて、Masson’s trichrome score評価(0:正常、1:線維化病変が主に肺の辺縁に認められる、2:線維化病変が辺縁または全域に多巣状性に認められる、3:線維化病変がほぼ1/3の領域にある、4:線維が病変が2/3以上を占める)を行った。さらに、線維化指標遺伝子のmRNAの肺組織における発現を評価した。
【0104】
結果を図11図12、及び図13に示す。RANKLペプチドにより肺重量増加及び体重減少を抑制できることが確認された。また、RANKLペプチドにより肺組織の線維化が抑制されることが確認された。さらに、RANKLペプチドにより線維化指標遺伝子の発現が抑制された。以上より、RANKLペプチドが、ブレオマイシン投与により線維化した組織を修復できることが分かった。
【0105】
試験例6.がんへの影響の解析
RANKLペプチドのがんへの影響を解析した。
【0106】
<試験例6-1>
A549細胞(ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞:LGR4とRSPO3の両方とも高発現していることを確認済)の増殖に対するRANKLペプチドの影響を調べた。具体的には、次のようにして行った。A549細胞にMHP1を1 ng/mlから100 μg/mlまで投与し、48時間後にMTT assayにより細胞生存率を算出した。
【0107】
結果を図14に示す。RANKLペプチドにより肺がん細胞の増殖が抑制されることが分かった。また、この増殖抑制に伴い、Wntシグナル伝達経路が抑制されていることが確認された。
【0108】
<試験例6-2>
A549細胞のMigration及びInvasionに対するRANKLペプチドの影響を調べた。具体的には、次のようにして行った。 Boyden chamber (48-well Chamber, Neuro Probe)の上段に、8-μm polycarbonate membrane filter (Neuro Probe)のチャンバーを設置し、MHP1-AcNが含まれる無血清のDMEMにてA549細胞をまき、下段に10% FBSを含むDMEMを入れて、37度で15時間インキュベーションした。Invasion assayでは、上段はMatrigel Invasion chamber (Corning Life Science)とし、同様にMHP1-AcNが含まれる無血清培にてA549細胞をまき、下段には10% FBSを含むDMEMを入れた。それぞれの上段の上面に接着している細胞を剥離し、下面をDiff-Quick (Sysmex)にて染色し、顕微鏡にて細胞数をカウントした。
【0109】
結果を図15に示す。RANKLペプチドにより肺がん細胞のMigration及びInvationが抑制されることが分かった。また、この増殖抑制に伴い、Wntシグナル伝達経路が抑制されていることが確認された。
【0110】
<試験例6-3>
A549細胞のxenograftモデルのがんに対するRANKLペプチドの影響を調べた。具体的には、次のようにして行った。2X106の細胞をBALB/cAJcl- nu/nu細胞に皮下投与し、1日後より、MHP1を600 μg/マウスで連日投与し、49日まで腫瘍のサイズを計測した。また、腫瘍の重量を計測した。
【0111】
結果を図16に示す。RANKLペプチドによりがんの増大が抑制されることが分かった。なお、体重増加の程度に対して、RANKLペプチドの影響は認められなかった。
【0112】
試験例7.上皮間葉転換(EMT)機構への影響の解析
RANKLペプチドのEMT機構への影響を解析した。
【0113】
<試験例7-1>
TGF-βにより誘導されるsmad2/3活性化に対するRANKLペプチドの影響を調べた。具体的には、次のようにして行った。MRC-5細胞をMHP1で24時間前処理後、TGFβ 5 ng/mlを培地に加え、10分後に培地を回収し、WBを行った。
【0114】
結果を図17に示す。RANKLペプチドにより、TGF-βにより誘導されるsmad2/3活性化が抑制されることが分かった。
【0115】
<試験例7-2>
TGF-β受容体の発現に対するRANKLペプチドの影響を調べた。具体的には、次のようにして行った。MRC-5細胞の培地中にMHP1を加え、24時間後に細胞を回収し、realtime RT-PCRでTβR1、TβR2の発現を解析した。
【0116】
結果を図18に示す。RANKLペプチドにより、TGF-β受容体の発現が抑制されることが分かった。
【0117】
<試験例7-3>
TGF-βにより誘導されるα-SMA及びCol1a1の発現に対するRANKLペプチドの影響を調べた。具体的には、次のようにして行った。MRC-5細胞をMHP1で24時間前処理後、TGFβを2 ng/mlで添加、24時間後に細胞を回収し、realtime RT-PCRでmRNA量を計測した。
【0118】
結果を図19に示す。RANKLペプチドにより、TGF-βにより誘導されるα-SMA及びCol1a1の発現が抑制されることが分かった。このことから、RANKLペプチドによりEMTが抑制されることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【配列表】
0007464310000001.app