(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】圧電積層体、圧電素子および圧電積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 30/853 20230101AFI20240402BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20240402BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20240402BHJP
H10N 30/092 20230101ALI20240402BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/20
H10N30/30
H10N30/092
C23C14/08 K
(21)【出願番号】P 2019125165
(22)【出願日】2019-07-04
【審査請求日】2022-06-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和俊
(72)【発明者】
【氏名】黒田 稔顕
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-159807(JP,A)
【文献】特開2017-076730(JP,A)
【文献】特表2015-534257(JP,A)
【文献】特開2007-184513(JP,A)
【文献】特開2011-146623(JP,A)
【文献】特開2008-270514(JP,A)
【文献】特開2013-004707(JP,A)
【文献】特開2019-051581(JP,A)
【文献】特開2004-128492(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194452(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/853
H10N 30/20
H10N 30/30
H10N 30/092
C23C 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた下地層と、
前記下地層上に製膜され、多結晶膜であって、組成式(K
1-xNa
x)NbO
3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなる圧電膜と、を備え、
前記圧電膜を構成する結晶粒群は、結晶粒の横断面を観察したときの断面積に対する外周長の比率が
0.02nm
-1以上
0.08nm
-1以下である結晶粒を含
み、
前記圧電膜を構成する結晶粒群のうち60%以上の結晶粒が前記比率を有する、圧電積層体。
【請求項2】
前記圧電膜を構成する結晶粒群の前記比率の平均値が
0.02nm
-1以上
0.08nm
-1以下である請求項1に記載の圧電積層体。
【請求項3】
前記圧電膜の平均結晶粒径は100nm以上である請求項1
又は2に記載の圧電積層体。
【請求項4】
前記圧電膜は、CuおよびMnからなる群より選択される金属元素を0.2at%以上2.0at%以下の濃度で含む請求項1~
3のいずれか1項に記載の圧電積層体。
【請求項5】
基板と、
前記基板上に製膜された下部電極膜と、
前記下部電極膜上に製膜され、多結晶膜であって、組成式(K
1-xNa
x)NbO
3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなる圧電膜と、
前記圧電膜上に製膜された上部電極膜と、を備え、
前記圧電膜を構成する結晶粒群は、結晶粒の横断面を観察したときの断面積に対する外周長の比率が
0.02nm
-1以上
0.08nm
-1以下である結晶粒を含
み、
前記圧電膜を構成する結晶粒群のうち60%以上の結晶粒が前記比率を有する、圧電素子。
【請求項6】
基板上に、下地層を、製膜温度が600℃以上
800℃以下、放電パワーが1000W以上1500W以下、製膜雰囲気がアルゴンガス雰囲気、雰囲気圧力が0.1Pa以上0.5Pa以下
、製膜時間が3分以上7分以下の条件下で設ける工程と、
前記下地層上に、多結晶膜であって、組成式(K
1-xNa
x)NbO
3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなる圧電膜を
、雰囲気圧力が0.2Pa以上0.5Pa以下の条件下で製膜する工程と、
をこの順に行うことで、前記圧電膜を構成する結晶粒の横断面を観察したときの断面積に対する外周長の比率が
0.02nm
-1以上
0.08nm
-1以下である結晶粒を
60%以上含む前記圧電膜を製膜する圧電積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電積層体、圧電素子および圧電積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体は、センサ、アクチュエータ等の機能性電子部品に広く利用されている。圧電体の材料としては、鉛系材料、特に、組成式Pb(Zr1-xTix)O3で表されるPZT系の強誘電体が広く用いられている。PZT系の圧電体は鉛を含有しているため、公害防止の面等から好ましくない。そこで、鉛非含有の圧電体の材料として、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。近年、KNNのように鉛非含有の材料からなる圧電体の性能をさらに高めることが強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-184513号公報
【文献】特開2008-159807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、アルカリニオブ酸化物からなる圧電膜の寿命をさらに長くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
基板と、
前記基板上に設けられた下地層と、
前記下地層上に製膜され、多結晶膜であって、組成式(K1-xNax)NbO3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなる圧電膜と、を備え、
前記圧電膜を構成する結晶粒群は、結晶粒の横断面を観察したときの断面積に対する外周長の比率が0.01nm-1以上0.1nm-1以下である結晶粒を含む圧電積層体が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、アルカリニオブ酸化物からなる圧電膜の寿命をさらに長くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる圧電積層体の断面構造の一例を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる圧電積層体の断面構造の変形例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態にかかる圧電膜の横断面概略図の一例を示す。
【
図4】本発明の一実施形態にかかる圧電デバイスの概略構成の一例を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態にかかる圧電積層体の断面構造の変形例を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態にかかる圧電デバイスの概略構成の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0009】
(1)圧電積層体の構成
図1に示すように、本実施形態にかかる圧電膜を有する積層体(積層基板)10(以下、圧電積層体10とも称する)は、基板1と、基板1上に製膜された下地層7と、下地層7上に製膜された圧電膜(圧電薄膜)3と、圧電膜3上に製膜された上部電極膜4と、を備えている。
【0010】
基板1としては、熱酸化膜またはCVD(Chemical Vapor Deposition)酸化膜等の表面酸化膜(SiO
2膜)1bが形成された単結晶シリコン(Si)基板1a、すなわち、表面酸化膜を有するSi基板を好適に用いることができる。また、基板1としては、
図2に示すように、その表面にSiO
2以外の絶縁性材料により形成された絶縁膜1dを有するSi基板1aを用いることもできる。また、基板1としては、表面にSi(100)面またはSi(111)面等が露出したSi基板1a、すなわち、表面酸化膜1bまたは絶縁膜1dを有さないSi基板を用いることもできる。また、基板1としては、SOI(Silicon On Insulator)基板、石英ガラス(SiO
2)基板、ガリウム砒素(GaAs)基板、サファイア(Al
2O
3)基板、ステンレス(SUS)等の金属材料により形成された金属基板を用いることもできる。単結晶Si基板1aの厚さは例えば300~1000μm、表面酸化膜1bの厚さは例えば5~3000nmとすることができる。
【0011】
下地層7は、圧電膜3の下地となる層である。下地層7は、下部電極膜2としても機能する。下部電極膜2は、例えば、白金(Pt)を用いて製膜することができる。下部電極膜2は、多結晶膜(以下、これをPt膜とも称する)となる。Pt膜を構成する結晶は、基板1の表面に対して(111)面方位に優先配向していることが好ましい。すなわち、Pt膜の表面(圧電膜3の下地となる面)は、主にPt(111)面により構成されていることが好ましい。Pt膜は、スパッタリング法、蒸着法等の手法を用いて製膜することができる。下部電極膜2は、Pt以外に、金(Au)、ルテニウム(Ru)、またはイリジウム(Ir)等の各種金属、これらを主成分とする合金、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3、略称:SRO)またはニッケル酸ランタン(LaNiO3、略称:LNO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3、略称:STO)等の金属酸化物等を用いて製膜することもできる。なお、基板1と下部電極膜2との間には、これらの密着性を高めるため、例えば、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、酸化チタン(TiO2)、ニッケル(Ni)、ルテニウム酸化物(RuO2)、イリジウム酸化物(IrO2)等を主成分とする密着層6が設けられていてもよい。密着層6は、スパッタリング法、蒸着法等の手法を用いて製膜することができる。下部電極膜2の厚さは例えば100~400nm、密着層6の厚さは例えば1~200nmとすることができる。
【0012】
圧電膜3は、例えば、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、ニオブ(Nb)を含み、組成式(K1-xNax)NbO3で表されるアルカリニオブ酸化物、すなわち、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)を用いて製膜することができる。上述の組成式中の係数x[=Na/(K+Na)]は、0<x<1の範囲内の大きさとする。圧電膜3は、KNNの多結晶膜(以下、KNN膜3とも称する)となる。KNNの結晶構造は、ペロブスカイト構造となる。KNN膜3は、スパッタリング法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、ゾルゲル法等の手法を用いて製膜することができる。KNN膜3の厚さは例えば0.5~5μmである。
【0013】
また、KNN膜3を構成する結晶は、基板1(基板1が例えば表面酸化膜1bまたは絶縁膜1d等を有するSi基板1aである場合はSi基板1a)の表面に対して(001)面方位に優先配向していることが好ましい。すなわち、KNN膜3の表面(上部電極膜4の下地となる面)は、主にKNN(001)面方位により構成されていることが好ましい。基板1の表面に対して(111)面方位に優先配向させたPt膜上にKNN膜3を直接製膜することで、KNN膜3を構成する結晶を、基板1の表面に対して(001)面方位に優先配向させることが容易となる。例えば、KNN膜3を構成する結晶粒群のうち80%以上の結晶を基板1の表面に対して(001)面方位に配向させ、KNN膜3の表面のうち80%以上の領域をKNN(001)面とすることが容易となる。
【0014】
KNN膜3を構成する結晶粒群のうち半数以上の結晶が柱状構造を有していることが好ましい。KNN膜3を構成する結晶同士の境界、すなわちKNN膜3に存在する結晶粒界9(例えば
図3参照)は、KNN膜3の厚さ方向に貫いていることが好ましい。例えば、KNN膜3では、その厚さ方向に貫く結晶粒界9が、KNN膜3の厚さ方向に貫いていない結晶粒界(例えば基板1の平面方向に平行な結晶粒界)よりも多いことが好ましい。
【0015】
図3に示すように、KNN膜3を構成する結晶粒群は、凹凸が少なく滑らかな側面を有する結晶粒8(横断面における輪郭が滑らかな結晶粒8、以下、単に「滑らかな結晶粒8」とも称する)を含んでいる。例えば、KNN膜3を構成する結晶粒群は、結晶粒8の横断面を観察したときの断面積A(nm
2)に対する外周長B(nm)の比率(=B/A比)が0.01nm
-1以上0.1nm
-1以下、好ましくは0.02nm
-1以上0.08nm
-1以下、より好ましくは0.02nm
-1以上0.06nm
-1以下である結晶粒8を含んでいる。B/A比の値が小さい結晶粒8ほど、凹凸が少なく滑らかな側面を有する結晶粒となる。本明細書でいう「横断面」とは、基板1の平面方向、すなわち基板1の面内方向における結晶粒8の断面をいう。B/A比は、KNN膜3の横断面の走査電子顕微鏡(SEM)像、透過電子顕微鏡(TEM)像、走査透過電子顕微鏡(STEM)像等を画像解析することにより算出することができる。
【0016】
KNN膜3を構成する結晶粒群が滑らかな結晶粒8を含むことで、KNN膜3を厚さ方向に貫く結晶粒界9の形状が滑らかな形状となる。すなわち、KNN膜3の横断面を観察したときの結晶粒界9の形状が滑らかな形状となる。その結果、KNN膜3中に存在する結晶粒界9を減らすことができる。すなわち、KNN膜3の粒界密度を低くすることができる。本明細書でいう「粒界密度」とは、KNN膜3の横断面を観察したときのKNN膜3の断面積に対するKNN膜3の横断面内に存在する結晶粒界9の合計長さの比率(=結晶粒8の粒界9の合計長さ/KNN膜3の断面積)である。
【0017】
KNN膜3を構成する結晶粒8(結晶)の内部や、結晶粒8の側面(すなわち結晶同士の粒界9)には、所定の割合で酸素欠損(酸素空乏(Oxygen Vacancy))が存在している。これらの酸素欠損のうち、特にKNN膜3の結晶粒界9に存在する酸素欠損が、圧電積層体10を加工することで作製される後述の圧電素子20(圧電デバイス30)に電界を印加した際に移動することがある。酸素欠損が移動し、電極膜(下部電極膜2または上部電極膜4)に到達すると、酸素欠損と電極膜中の金属とが反応して短絡(ショート)してしまう。KNN膜3を滑らかな結晶粒8で構成し、KNN膜3の粒界密度を低くすることで、KNN膜3の結晶粒界9に存在する酸素欠損の量(絶対量)を減らすことが可能となる。例えば、KNN膜3を構成する結晶の内部および結晶粒界9に存在する酸素欠損(KNN膜3中の全酸素欠損)に対するKNN膜3の結晶粒界9に存在する酸素欠損の比率(=結晶粒界9に存在する酸素欠損/全酸素欠損)を低くすることが可能となる。
【0018】
KNN膜3を構成する結晶粒8(結晶粒群)の平均粒径(以下、「KNN膜3の平均結晶粒径」とも称する)が同程度である場合、上述のB/A比を有する結晶粒8の割合が高くなるほど、KNN膜3の粒界密度が低くなる。KNN膜3の粒界密度を低くする観点から、KNN膜3を構成する結晶粒群は、上述のB/A比を有する結晶粒8をできるだけ多く含むことが好ましい。
【0019】
例えば、KNN膜3を構成する結晶粒群のB/A比の平均値が0.01nm-1以上0.1nm-1以下、好ましくは0.02nm-1以上0.08nm-1以下、より好ましくは0.02nm-1以上0.06nm-1以下であることが好ましい。「B/A比の平均値」とは、KNN膜3の横断面を観察したとき、横断面内に存在する全結晶粒8の上述のB/A比のうち大きな偏差を除いた値の平均値をいう。B/A比の平均値が小さくなるほど、KNN膜3の面内全域にわたって結晶粒界9を滑らかな形状となる。
【0020】
また、KNN膜3を構成する結晶粒群のうち例えば60%以上、好ましくは80%以上の結晶粒8が上述のB/A比を有することが好ましい。これにより、KNN膜3の面内全域にわたって結晶粒界9を滑らかな形状に確実にすることができる。さらにまた、KNN膜3を構成する結晶粒群の全ての結晶が上述のB/A比を有することがさらに好ましい。これにより、KNN膜3の面内全域にわたって結晶粒界9を滑らかな形状にさらに確実にすることができる。
【0021】
KNN膜3の平均結晶粒径は、例えば100nm以上であることが好ましい。ここでいうKNN膜3の平均結晶粒径とは、基板1の平面方向におけるKNN膜3の横断面での平均結晶粒径である。KNN膜3の平均結晶粒径は、走査型電子顕微鏡で撮影した画像(例えばSEM像)や、透過電子顕微鏡で撮影した画像(例えばTEM像)の視野を画像解析することで得ることができる。画像解析ソフトとして、例えばWayne Rasband製の「ImageJ」を用いることができる。
【0022】
KNN膜3の横断面を観察したときのB/A比の平均値が同程度である場合、平均結晶粒径が大きくなるほど、KNN膜3の粒界密度が低くなる。このため、KNN膜3の平均結晶粒径を大きくすることで、KNN膜3における粒界密度をさらに低くすることが可能となる。
【0023】
KNN膜3の粒界密度を低くする観点からは、KNN膜3の平均結晶粒径は大きければ大きいほど好ましい。しかしながら、KNN膜3の平均結晶粒径がKNN膜3の厚さよりも大きくなると、圧電特性の面内均一性が低下する場合がある。したがって、圧電特性の面内均一性の低下抑制の観点から、KNN膜3の平均結晶粒径は、KNN膜3の厚さよりも小さいことが好ましい。
【0024】
KNN膜3は、銅(Cu)およびマンガン(Mn)からなる群より選択される金属原子を例えば0.2at%以上2.0at%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましい。CuおよびMnの金属元素を含む場合は、CuおよびMnの合計濃度が上記範囲内にあることが好ましい。
【0025】
KNN膜3中のCuやMnの濃度を0.2at%以上とすることで、KNN膜3の絶縁性(リーク耐性)を向上させることが可能となる。また、KNN膜3中のCu濃度を0.2at%以上とすることで、フッ素系エッチング液に対する耐性(エッチング耐性)を向上させることが可能となる。また、KNN膜3中のCuやMnの濃度を2.0at%以下にすることで、KNN膜3の比誘電率を、センサやアクチュエータ等の用途に好適な大きさとすることが可能となる。例えば、周波数1kHz、±1Vの条件下で測定したKNN膜3の比誘電率を1000以下(300以上1000以下)にすることが可能となる。
【0026】
KNN膜3は、リチウム(Li)、Ta、アンチモン(Sb)等のK、Na、Nb、Cu、Mn以外の元素を、上述のKNN膜3の粒界密度低減効果を損なわない範囲内、例えば5at%以下(上述の元素を複数種添加する場合は合計濃度が5at%以下)の範囲内で含んでいてもよい。
【0027】
上部電極膜4は、例えば、Pt、Au、アルミニウム(Al)、Cu等の各種金属またはこれらの合金を用いて製膜することができる。上部電極膜4は、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法、金属ペースト法等の手法を用いて製膜することができる。上部電極膜4は、下部電極膜2のようにKNN膜3の結晶構造に大きな影響を与えるものではない。そのため、上部電極膜4の材料、結晶構造、製膜手法は特に限定されない。なお、KNN膜3と上部電極膜4との間には、これらの密着性を高めるため、例えば、Ti、Ta、TiO2、Ni、RuO2、IrO2等を主成分とする密着層が設けられていてもよい。上部電極膜4の厚さは例えば10~5000nm、密着層を設ける場合には密着層の厚さは例えば1~200nmとすることができる。
【0028】
(2)圧電デバイスの構成
図4に、本実施形態におけるKNN膜3を有するデバイス30(以下、圧電デバイス30とも称する)の概略構成図を示す。圧電デバイス30は、上述の圧電積層体10を所定の形状に成形することで得られる素子20(KNN膜3を有する素子20、以下、圧電素子20とも称する)と、圧電素子20に接続される電圧印加部11aまたは電圧検出部11bと、を少なくとも備えている。電圧印加部11aとは、下部電極膜2と上部電極膜4との間(電極間)に電圧を印加するための手段であり、電圧検出部11bとは、下部電極膜2と上部電極膜4との間(電極間)に発生した電圧を検出するための手段である。電圧印加部11a、電圧検出部11bとしては、公知の種々の手段を用いることができる。
【0029】
電圧印加部11aを、圧電素子20の下部電極膜2と上部電極膜4との間に接続することで、圧電デバイス30をアクチュエータとして機能させることができる。電圧印加部11aにより下部電極膜2と上部電極膜4との間に電圧を印加することで、KNN膜3を変形させることができる。この変形動作により、圧電デバイス30に接続された各種部材を作動させることができる。この場合、圧電デバイス30の用途としては、例えば、インクジェットプリンタ用のヘッド、スキャナー用のMEMSミラー、超音波発生装置用の振動子等が挙げられる。
【0030】
電圧検出部11bを、圧電素子20の下部電極膜2と上部電極膜4との間に接続することで、圧電デバイス30をセンサとして機能させることができる。KNN膜3が何らかの物理量の変化に伴って変形すると、その変形によって下部電極膜2と上部電極膜4との間に電圧が発生する。この電圧を電圧検出部11bによって検出することで、KNN膜3に印加された物理量の大きさを測定することができる。この場合、圧電デバイス30の用途としては、例えば、角速度センサ、超音波センサ、圧カセンサ、加速度センサ等が挙げられる。
【0031】
(3)圧電積層体、圧電素子、圧電デバイスの製造方法
以下では、上述の圧電積層体10、圧電素子20、および圧電デバイス30の製造方法について説明する。
【0032】
まず、基板1を用意し、基板1のいずれかの主面上に、例えばスパッタリング法により密着層6(Ti層)と、下地層7すなわち下部電極膜2(Pt膜)とをこの順に製膜する。なお、いずれかの主面上に、密着層6や下地層7(下部電極膜2)が予め製膜された基板1を用意してもよい。
【0033】
密着層6を設ける際の条件としては、下記の条件が例示される。
温度(基板温度):100℃以上500℃以下、好ましくは200℃以上400℃以下
放電パワー:1000W以上1500W以下、好ましくは1100W以上1300W以下
雰囲気:アルゴン(Ar)ガス雰囲気
雰囲気圧力:0.1Pa以上0.5Pa以下、好ましくは0.2Pa以上0.4Pa以下
処理時間:30秒以上3分以下、好ましくは45秒以上2分以下
【0034】
下地層7、すなわち下部電極膜2を製膜する際の条件としては、下記の条件が例示される。
製膜温度(基板温度):600℃以上800℃以下、好ましくは600℃以上700℃以下
放電パワー:1000W以上1500W以下、好ましくは1100W以上1300W以下
製膜雰囲気:Arガス雰囲気
雰囲気圧力:0.1Pa以上0.5Pa以下、好ましくは0.2Pa以上0.3Pa以下
製膜時間:3分以上10分以下、好ましくは3分以上7分以下
【0035】
上述の条件下で下部電極膜2を製膜することで、すなわち、下部電極膜2の製膜温度を高くする(例えば600℃以上にする)ことで、凹凸が少なく滑らかな側面を有するPt粒子を含む下部電極膜2を製膜することができる。例えば、下部電極膜2を横断面で観察したとき、隣接するPt粒子同士の境界である粒界の形状を滑らかな形状とすることができる。また、下部電極膜2の製膜温度を高くすることで、Pt粒子の粒子径を大きくすることもできる。なお、下部電極膜2の製膜温度を800℃よりも高くしても、上述のPt粒子の粒界の形状を滑らかな形状とする効果や、Pt粒子の粒子径を大きくする効果が頭打ちとなるとともに、下部電極膜2の熱履歴が増大する。このため、下部電極膜2の製膜温度は800℃以下とすることが好ましい。
【0036】
続いて、下地層7、すなわち下部電極膜2上にKNN膜3を製膜する。KNN膜3は、下部電極膜2の表面(KNN膜3の下地となる面)を構成するPt粒子の構造を引き継いで成長する。このため、上述の条件下で製膜した下部電極膜2上にKNN膜3を製膜することで、KNN膜3を構成する結晶粒8を、滑らかな結晶粒とすることが可能となる。すなわち、B/A比が0.01nm-1以上0.1nm-1以下である結晶粒8を含むKNN膜3を製膜することができる。好ましくは、B/A比の平均値が0.01nm-1以上0.1nm-1以下であるKNN膜3を製膜することができる。また、KNN膜3を構成する結晶粒8の粒径は、下部電極膜2のPt粒子の粒子径に依存する。このことから、上述の条件下で製膜した下部電極膜2上にKNN膜3を製膜することで、KNN膜3の平均結晶粒径を大きくすることもできる。
【0037】
KNN膜3を例えばスパッタリング法により製膜する場合、KNN膜3の組成比は、例えばスパッタリング製膜時に用いるターゲット材の組成を制御することで調整可能である。ターゲット材は、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末、Cu粉末(又はCuO粉末、Cu2O粉末)、Mn粉末(MnO粉末)等を混合させて焼成すること等により作製することができる。ターゲット材の組成は、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末、Cu粉末、、Mn粉末の混合比率を調整することで制御することができる。
【0038】
KNN膜3を製膜する際の条件としては、下記の条件が例示される。なお、製膜時間は製膜するKNN膜3の厚さによって適宜設定する。
基板温度:500℃以上700℃以下、好ましくは550℃以上650℃以下
放電パワー:2000W以上2400W以下、好ましくは2100W以上2300W以下
製膜雰囲気:Arガス+酸素(O2)ガス雰囲気
雰囲気圧力:0.2Pa以上0.5Pa以下、好ましくは0.3Pa以上0.4Pa以下
O2ガスに対するArガスの分圧(Ar/O2分圧比):30/1~20/1、好ましくは27/1~22/1
製膜速度:0.5μm/hr以上2μm/hr以下、好ましくは0.5μm/hr以上1.5μm/hr以下
【0039】
そして、KNN膜3上に、例えばスパッタリング法により上部電極膜4を製膜する。上部電極膜4を製膜する際の条件は、上述の下部電極膜2を製膜する際の条件と同様の条件とすることができる。これにより、
図1に例示するような、基板1、下部電極膜2、KNN膜3、および上部電極膜4を有する圧電積層体10が得られる。
【0040】
そして、この圧電積層体10をエッチング等により所定の形状に成形することで、
図4に示すような圧電素子20が得られ、圧電素子20に電圧印加部11aまたは電圧検出部11bを接続することで、圧電デバイス30が得られる。
【0041】
(4)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0042】
(a)KNN膜3を構成する結晶粒群が、B/A比が0.01nm-1以上0.1nm-1以下である結晶粒8を含むことで、KNN膜3の粒界密度を低くすることが可能となる。これにより、KNN膜3の結晶粒界9に存在する酸素欠損の絶対量を減らすことが可能となる。このため、圧電積層体10を加工することで作製される圧電素子20(圧電デバイス30)に電界を印加した際に移動する酸素欠損を低減することが可能となる。その結果、電界印加によって電極膜(下部電極膜2または上部電極膜4)に到達する酸素欠損を減らすことができ、KNN膜3の寿命を長くすることが可能となる。
【0043】
例えば、高加速寿命試験(Highly Accelerated Life Test、略称:HALT)を行った際に絶縁破壊に至るまでの時間が18000秒以上であるKNN膜3を得ることができる。なお、本明細書では、HALTは下記の条件で行っている。まず、KNN膜3を有する圧電積層体10の温度が200℃となるように加熱した状態で、上部電極膜4に対して300kV/cmの正又は負の電界を印加する。そして、少なくとも一方の電界(正又は負の電界)印加条件における電界印加開始からKNN膜3が絶縁破壊に至るまでの時間(秒)を測定する。なお、本明細書では、KNN膜3に流れるリーク電流密度が30mA/cm2を超えた時点でKNN膜3が絶縁破壊に至ったとみなしている。
【0044】
(b)KNN膜3を構成する結晶粒群のB/A比の平均値が例えば0.01nm-1以上0.1nm-1以下であることで、KNN膜3の粒界密度を確実に低くすることが可能となる。これにより、長寿命のKNN膜3を確実に得ることができる。例えば、上述の条件のHALTを行った際に絶縁破壊に至るまでの時間が18000秒以上であるKNN膜3を確実に得ることができる。また本願発明によれば、上述のHALTを行った際に絶縁破壊に至るまでの時間が25200秒以上、さらには30000秒以上であるKNN膜3を得ることもできる。
【0045】
本願発明者等は、B/A比の平均値が0.01nm-1以上0.1nm-1以下であるKNN膜3のサンプル1~8のそれぞれについて、上記条件下でHALTを行った。サンプル1~8のそれぞれは、下部電極膜2の製膜温度を600℃とし、その他の条件は上述の実施形態に記載の上記範囲内の同一の条件で作製している。HALTの測定結果は、サンプル1:18990秒、サンプル2:21240秒、サンプル3:25200秒、サンプル4:37646秒、サンプル5、21888秒、サンプル6:18206秒、サンプル7:34251秒、サンプル8:29376秒であった。上記HALTの数値は、1サンプルにつき0.5mmφ内の5~7箇所で測定した値の平均である。
【0046】
また本願発明者等は、B/A比の平均値が0.01nm-1以上0.1nm-1以下の範囲内にないKNN膜のサンプル9~12のそれぞれについて、上記条件下でHALTを行った。サンプル9~12のそれぞれは、下部電極膜2の製膜温度を500℃とし、その他の条件は上述の実施形態に記載の上記範囲内の同一の条件で作製している。HALTの測定結果は、サンプル9:24891秒、サンプル10:16457秒、サンプル11:25080秒、サンプル12:24737秒であった。上記HALTの数値は、1サンプルにつき0.5mmφ内の3~7箇所で測定した値の平均である。このように、本願発明者等は、B/A比の平均値が0.01nm-1以上0.1nm-1以下の範囲内にないKNN膜である場合、上述の条件のHALTを行った際、KNN膜が絶縁破壊に至るまでの時間が18000秒未満となる場合があることを確認済みである。また、本願発明者等は、B/A比の平均値が0.01nm-1以上0.1nm-1以下の範囲内にないKNN膜である場合、上述の条件のHALTを行った際に絶縁破壊に至るまでの時間が25200秒以上であるKNN膜を得ることができないことを確認済みである。
【0047】
(c)KNN膜3を構成する結晶粒群のうち60%以上の結晶粒8が上述のB/A比を有することで、KNN膜3の粒界密度をより低くすることが可能となる。これにより、KNN膜3の結晶粒界9に存在する酸素欠損の量をより減らすことができる。その結果、上述の条件のHALTを行った際に絶縁破壊に至るまでの時間が18000秒以上であるKNN膜3を確実に得ることができる。また、KNN膜3を構成する結晶粒群のうち80%以上の結晶粒8が上述のB/A比を有することで、KNN膜3の粒界密度をさらに低くすることが可能となる。これにより、KNN膜3の結晶粒界9に存在する酸素欠損の量をさらに減らすことができる。その結果、上述の条件のHALTを行った際に絶縁破壊に至るまでの時間が18000秒以上であるKNN膜3をより確実に得ることができる。
【0048】
(d)KNN膜3の平均結晶粒径を従来のKNN膜の平均結晶粒径よりも大きくする、例えば100nm以上とすることで、KNN膜3の粒界密度を確実に低くすることが可能となる。これにより、KNN膜3において、電界印加時に移動する酸素欠損を低減することができる。その結果、圧電デバイス30に電界を印加した際に電極膜に到達する酸素欠損を確実に減らすことができる。その結果、上述の条件のHALTを行った際に絶縁破壊に至るまでの時間が18000秒以上であるKNN膜3をさらに確実に得ることができる。
【0049】
(e)KNN膜3の平均結晶粒径が100nm未満である場合であっても、KNN膜3を構成する結晶粒8が上述のB/A比を有する結晶粒8を含むことで、KNN膜3中の粒界密度を減らすことができ、KNN膜3の結晶粒界9に存在する酸素欠損の絶対量を減らすことが可能となる。すなわち、KNN膜3の平均結晶粒径が100nm未満である場合であっても、少なくとも上述の(a)の効果を得ることができる。このように、KNN膜3を構成する結晶粒群が上述のB/A比を有する結晶粒8を含むことでKNN膜3の平均結晶粒径が大きくなくても、KNN膜3の寿命を長くすることができる。KNN膜3を構成する結晶粒8が滑らかであって、かつ、KNN膜3の平均結晶粒径が大きい(例えば平均結晶粒径が100nm以上である)ことで、上述の条件のHALTを行った際に絶縁破壊に至るまでの時間が18000秒以上であるKNN膜3をさらに確実に得ることができる。
【0050】
(f)KNN膜3がCuを例えば0.2at%以上2.0at%以下の濃度で含むことで、KNN膜3の絶縁性に関する効果や、エッチング耐性に関する効果をさらに得ながら、KNN膜3の比誘電率をセンサやアクチュエータ等の用途に好適な大きさにすることが可能となる。
【0051】
(5)変形例
本実施形態は上述の態様に限定されず、以下のように変更することもできる。また、これらの変形例は任意に組み合わせることができる。
【0052】
(変形例1)
下地層7は電極膜として機能しなくてもよい。本変形例にかかる圧電積層体10は、例えば
図5に示すように、基板1と、基板1上に設けられた下地層7と、下地層7上に製膜されたKNN膜(圧電膜)3と、KNN膜3上に製膜された上部電極膜4(電極膜4)と、を備えて構成されていてもよい。本変形例の下地層7の厚さは例えば0.5~400nmとすることができる。その他の構成は、上述の実施形態と同様の構成とすることができる。
【0053】
図6に、本変形例にかかる圧電積層体10を用いて作製した圧電デバイス30の概略構成図を示す。圧電デバイス30は、圧電積層体10を所定の形状に成形して得られる圧電素子20と、圧電素子20に接続される電圧印加部11aおよび電圧検出部11bと、を少なくとも備えて構成されている。本変形例では、圧電素子20は、電極膜4を所定のパターンに成形することで形成されたパターン電極を有している。例えば、圧電素子20は、入力側の正負一対のパターン電極4p
1と、出力側の正負一対のパターン電極4p
2と、を有している。パターン電極4p
1,4p
2としては、くし型電極(Inter Digital Transducer、略称:IDT)が例示される。
【0054】
電圧印加部11aをパターン電極4p1間に接続し、電圧検出部11bをパターン電極4p2間に接続することで、圧電デバイス30を表面弾性波(Surface Acoustic Wave、略称:SAW)フィルタ等のフィルタデバイスとして機能させることができる。電圧印加部11aによりパターン電極4p1間に電圧を印加することで、KNN膜3の表面にSAWを励起させることができる。励起させるSAWの周波数の調整は、例えばパターン電極4p1のピッチを調整することで行うことができる。例えば、パターン電極4p1としてのIDTのピッチが短くなるほど、SAWの周波数は高くなり、上記ピッチが長くなるほど、SAWの周波数は低くなる。電圧印加部11aにより励起され、KNN膜3を伝搬してパターン電極4p2に到達したSAWのうち、パターン電極4p2としてのIDTのピッチ等に応じて定まる所定の周波数(周波数成分)を有するSAWにより、パターン電極4p2間に電圧が発生する。この電圧を電圧検出部11bによって検出することで、励起させたSAWのうち所定の周波数を有するSAWを抽出することができる。なお、ここでいう「所定の周波数」という用語は、所定の周波数だけでなく、中心周波数が所定の周波数である所定の周波数帯域を含み得る。
【0055】
本変形例においても、下地層7を形成する際の温度を高温にすることで、下地層7を構成する粒子が、凹凸が少なく滑らかな側面を有する粒子を含むこととなる。また、下地層7を形成する際の温度を高温にすることで、下地層7を構成する粒子の粒子径を大きくすることもできる。その結果、KNN膜3を構成する結晶粒8を滑らかな結晶粒とすることが可能となる。すなわち、KNN膜3を構成する結晶粒群が、B/A比が0.01nm-1以上0.1nm-1以下である結晶粒8を含むものとなる。好ましくは、KNN膜3のB/A比の平均値が0.01nm-1以上0.1nm-1以下となる。また、KNN膜3の平均結晶粒径を大きくすることもできる。すなわち、本変形例においても、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
【0056】
(変形例2)
下部電極膜2とKNN膜3との間、すなわちKNN膜3の直下に、KNN膜3を構成する結晶の配向を制御する配向制御層を設けてもよい。なお、上述の変形例1の場合は、基板1とKNN膜3との間に、配向制御層を設けてもよい。配向制御層は、例えば、SRO、LNO、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3、略称:STO)等の金属酸化物であって、下部電極膜2を構成する材料とは異なる材料を用いて形成することができる。配向制御層を構成する結晶は、基板1の表面に対して(100)面に優先配向していることが好ましい。
【0057】
(変形例3)
KNN膜3は、CuやMnに加えて、あるいはCuやMnに変えて、CuやMnと同等の効果を奏する他の金属元素を、上述のKNN膜3の粒界密度低減効果を得つつ、KNN膜3の比誘電率を適正な大きさとすることができる濃度で含んでいてもよい。この場合であっても、上述の実施形態および変形例と同様の効果が得られる。
【0058】
(変形例4)
KNN膜3を製膜した後、KNN膜3に対して熱処理(高温アニール)を行ってもよい。この熱処理は、上部電極膜4を製膜する前に行ってもよく、上部電極膜4を製膜した後に行ってもよい。これにより、KNN膜3中の酸素欠陥や不純物(炭素(C)、水素(H)等)を低減することができる。
【0059】
熱処理条件としては、下記の条件が例示される。
アニール温度:600℃以上800℃以下、好ましくは600℃以上700℃以下
アニール時間:0.5~12時間、好ましくは1~6時間、より好ましくは2~3時間
アニール雰囲気:大気または酸素含有雰囲気
【0060】
(変形例5)
上述の圧電積層体10を圧電素子20に成形する際、圧電積層体10(圧電素子20)を用いて作製した圧電デバイス30をセンサまたはアクチュエータ等の所望の用途に適用することができる限り、圧電積層体10から基板1を除去してもよい。
【0061】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。但し、本発明は上述の実施形態や変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0062】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0063】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
基板と、
前記基板上に設けられた下地層と、
前記下地層上に製膜され、多結晶膜であって、組成式(K1-xNax)NbO3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなる圧電膜と、を備え、
前記圧電膜を構成する結晶粒群は、結晶粒の横断面を観察したときの断面積A(nm2)に対する外周長B(nm)の比率(=B/A比)が0.01nm-1以上0.1nm-1以下である結晶粒を含む圧電積層体が提供される。
【0064】
(付記2)
付記1の積層体であって、好ましくは、
前記圧電膜を構成する結晶粒群の前記比率の平均値が0.01nm-1以上0.1nm-1以下である。
【0065】
(付記3)
付記1または2の圧電積層体であって、好ましくは、
前記圧電膜を構成する結晶粒群のうち60%以上、好ましくは80%以上の結晶粒が前記比率を有する。
【0066】
(付記4)
付記1~3のいずれかの圧電積層体であって、好ましくは、
前記圧電膜の平均結晶粒径が100nm以上である。
【0067】
(付記5)
付記1~4のいずれかの圧電積層体であって、好ましくは、
200℃の温度下で前記圧電膜上に設けられた前記電極膜に対して300kV/cmの正又は負の電界を印加した際、少なくとも一方の電界印加条件における電界印加開始から前記圧電膜に流れるリーク電流密度が30mA/cm2を超えるまでの時間が18000秒以上である。
【0068】
(付記6)
付記1~5のいずれかの圧電積層体であって、好ましくは、
前記下地層は電極膜(下部電極膜)として機能する。
【0069】
(付記7)
付記1~6のいずれかの積層体であって、好ましくは、
前記圧電膜は、CuおよびMnからなる群より選択される金属元素を0.2at%以上2.0at%以下の濃度で含む。
【0070】
(付記8)
本発明のさらに他の態様によれば、
基板と、
前記基板上に製膜された下部電極膜と、
前記下部電極膜上に製膜され、多結晶膜であって、組成式(K1-xNax)NbO3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなる圧電膜と、
前記圧電膜上に製膜された上部電極膜と、を備え、
前記圧電膜を構成する結晶粒群は、結晶粒の横断面を観察したときの断面積Aに対する外周長Bの比率(=B/A比)が0.01nm-1以上0.1nm-1以下である結晶粒を含む圧電素子または圧電デバイスが提供される。
【0071】
(付記9)
本発明のさらに他の態様によれば、
基板と、
前記基板上に設けられた下地層と、
前記下地層上に製膜され、多結晶膜であって、組成式(K1-xNax)NbO3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなる圧電膜と、
前記圧電膜上に製膜された電極膜と、を備え、
前記圧電膜を構成する結晶粒群は、結晶粒の横断面を観察したときの断面積Aに対する外周長Bの比率(=B/A比)が0.01nm-1以上0.1nm-1以下である結晶粒を含む圧電素子または圧電デバイスが提供される。
【0072】
(付記10)
本発明のさらに他の態様によれば、
基板上に下地層を600℃以上の温度条件下で設ける工程と、
前記下地層上に、多結晶膜であって、組成式(K1-xNax)NbO3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなる圧電膜を製膜する工程と、
をこの順に行うことで、前記圧電膜を構成する結晶粒の横断面を観察したときの断面積Aに対する外周長Bの比率(=B/A比)が0.01nm-1以上0.1nm-1以下である結晶粒を含む前記圧電膜を製膜する圧電積層体、圧電素子、または圧電デバイスの製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0073】
1 基板
3 圧電膜
10 圧電積層体