(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】高温・高圧処理して得られる組織化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23J 3/22 20060101AFI20240402BHJP
A23L 17/00 20160101ALI20240402BHJP
A23J 3/26 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
A23J3/22
A23L17/00 101A
A23L17/00 101D
A23J3/26 502
(21)【出願番号】P 2019146967
(22)【出願日】2019-08-09
【審査請求日】2022-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2018245064
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】株式会社ニッスイ
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】原田 一志
(72)【発明者】
【氏名】市川 明子
(72)【発明者】
【氏名】久保田 光俊
(72)【発明者】
【氏名】杉山 公教
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-190065(JP,A)
【文献】米国特許第04559236(US,A)
【文献】特開平04-197159(JP,A)
【文献】特開平02-303462(JP,A)
【文献】特開平04-011868(JP,A)
【文献】特開昭62-055059(JP,A)
【文献】特開昭58-111665(JP,A)
【文献】釧路水試だより,1990年,64,pp.19-23
【文献】日本家政学会誌,1990年,41(3),pp.197-203
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J,A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類原料であるタンパク質原料(ただし、pH9.5以上にしたものを除く)および必要に応じて副原料を高温・高圧処理して得られる組織化物の製造において、高温・高圧処理後に、官能基としてカルボニル基と水酸基のみを有する有機酸、又はその酸性の塩の水溶液に浸漬する処理を行うことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
魚介類ストリング練製品の製造において、エクストルーダから冷却ノズルを経て製造された繊維状組織化物に対して、官能基としてカルボニル基と水酸基のみを有する有機酸、又はその酸性の塩の水溶液に浸漬する処理を行うことを特徴とする製造方法(ただし、pH9.5以上にした魚介類原料を用いる方法を除く)。
【請求項3】
魚介類ストリング練製品に水産物特有の食感を付与することを特徴とする請求項2の方法。
【請求項4】
前記有機酸、又はその酸性の塩が、乳酸、クエン酸、シュウ酸、リンゴ酸、グルコン酸、アジピン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、フマル酸、又は、それらの酸性の塩のいずれか又はそれらの混合物である請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記有機酸、又はその酸性の塩の水溶液への浸漬処理により、組織化物のpHを3.7~7.7にすることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
有機酸、又は有機酸の酸性の塩の水溶液の濃度が0.003~1Mである請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
組織化物をほぐしてから有機酸、又は有機酸の酸性の塩の水溶液に浸漬することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記有機酸、又はその酸性の塩の水溶液に浸漬後、水洗、又は、ボイルすることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
さらに、中和処理を行うことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
組織化物を酸化剤を含有する水溶液で前処理後、前記有機酸、又はその酸性の塩の水溶液に浸漬することを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質原料を高温・高圧処理することにより製造する組織化物に関する。詳細には、タンパク質原料を高温・高圧処理を行なう際に発生する硫化水素臭を抑制する方法および硫化水素臭が抑制された組織化物に関する。特に、エクストルーダにより高温・高圧処理して繊維状に組織化された組織化物を製造する際に発生する硫化水素臭を抑制する方法に関する。さらに、本発明は、エクストルーダにより高温・高圧処理して繊維状に組織化された組織化物の物性を変化させる方法に関する。
本発明において高温・高圧処理とは110℃以上、1気圧以上の処理であって、タンパク質原料を加熱処理した場合に、硫化水素臭を発生させる処理を意味する。
【背景技術】
【0002】
ケーシングソーセージや缶詰等の高温加熱処理を行なうことで得られる食品では、一般に原料であるタンパク質の熱分解により不快臭を伴う硫化水素が発生するため、品質が損なわれることがある。
魚介肉を二軸エクストルーダにて高温、高圧処理をして得られる繊維状に組織化された組織化物は、カニやホタテ様の食感を有し、食品素材として利用されている(特許文献1、2)。このようなエクストルーダ処理により得られた組織化物ではケーシングソーセージ等よりも更に高い温度(150℃以上)で処理されるため、硫化水素の発生量も格段に多く、非常に強い不快臭がする。
高温、高圧処理により得られた組織化物における硫化水素臭を防ぐために、エクストルーダによる組織化物の製造では、製造後の組織化物を凍結し加熱処理する方法、酸化剤あるいは還元剤の水溶液中で加熱処理する方法(特許文献3)のような工夫されているが、凍結後加熱処理は、製造工程として設備や時間を要するものであり、過酸化水素の溶液中での加熱も取扱いに注意が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2523017号
【文献】特許第2628220号
【文献】特許第2941416号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、タンパク質原料をエクストルーダ等により高温・高圧処理して組織化物を製造する際に発生する硫化水素臭を抑制する方法を提供することを課題とする。また、エクストルーダにより製造される繊維状組織化物の物性を変化させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、エクストルーダにより製造される繊維状組織化物をさらに変化させ、異なる物性の食品素材を得るため、各種検討したところ、酸処理によって、繊維状組織化物の物性がよりカニらしい食感になることを見出した。さらに、酸処理によって硫化水素臭が低下するという予想外の効果を見出した。
本発明は(1)~(10)の組織化物の製造方法、及び(11)~(12)の魚介類ストリング練製品を要旨とする。
(1)タンパク質原料および必要に応じて副原料を高温・高圧処理して得られる組織化物の製造において、高温・高圧処理後に、官能基としてカルボニル基のみ、又はカルボニル基と水酸基のみを有する有機酸、又はそれらの酸性の塩の水溶液に浸漬する処理を行うことを特徴とする製造方法。
(2)魚介類ストリング練製品の製造において、エクストルーダから冷却ノズルを経て製造された繊維状組織化物に対して、官能基としてカルボニル基のみ、又はカルボニル基と水酸基のみを有する有機酸、又はそれらの酸性の塩の水溶液に浸漬する処理を行うことを特徴とする製造方法。
(3)魚介類ストリング練製品に水産物特有の食感を付与することを特徴とする(2)の方法。
(4)官能基としてカルボニル基のみ、又はカルボニル基と水酸基のみを有する有機酸、又はそれらの酸性の塩が、乳酸、クエン酸、シュウ酸、リンゴ酸、グルコン酸、アジピン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、フマル酸、又は、それらの酸性の塩のいずれか又はそれらの混合物である(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)有機酸、又は有機酸の酸性の塩の水溶液への浸漬処理により、組織化物のpHを3.7~7.7にすることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)有機酸、又は有機酸の酸性の塩の水溶液の濃度が0.003~1Mである(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)組織化物をほぐしてから有機酸、又は有機酸の酸性の塩の水溶液に浸漬することを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8)有機酸、又は有機酸の酸性の塩の水溶液に浸漬後、水洗、又は、ボイルすることを特徴とする(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9)さらに、中和処理を行うことを特徴とする(1)~(8)のいずれかに記載の方法。
(10)組織化物を酸化剤を含有する水溶液で前処理後、有機酸、又は有機酸の酸性の塩の水溶液に浸漬することを特徴とする(1)~(9)のいずれかに記載の方法。
【0006】
(11)魚介類原料を主原料として棒状に成形された繊維状組織化物であって、組織化物の外周に滑らかな皮膜を具え、外周に覆われる内部は、太さが0.2mm以下の細い繊維が、一つの方向に配向されたて結合されており、繊維方向に沿って切り裂くことができ、しかも、各繊維間の結合が水中に投入して攪拌することにより解繊されない程度に強固であり、かつ繊維に対して垂直方向に切断されないものであって、pHが4.0~7.0、物性が1200~1700gである魚介類ストリング練製品。
(12)細断、又はほぐされている(11)の魚介類ストリング練製品。
【発明の効果】
【0007】
タンパク質原料を高温・高圧処理する際に発生する硫化水素臭を低下させることができる。さらに、エクストルーダにより製造される繊維状組織化物の物性、特に繊維感を変化させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、「タンパク質原料および必要に応じて副原料を高温・高圧処理して得られる組織化物の製造において、高温・高圧処理後に、官能基としてカルボニル基のみ、又はカルボニル基と水酸基のみを有する有機酸、又はそれらの酸性の塩の水溶液に浸漬する処理を行うことを特徴とする製造方法」である。
タンパク質原料としては、魚肉、畜肉、大豆等のタンパク質であれば何にでも適用できるが、魚介類すり身または落し身を原料とする製品に特に適している。魚種は何でも良いが、エソ類、タラ類などの白身魚やサバ、イワシなどの多獲魚などが適する。特に白身魚は汎用性が高く好ましい。これら各種魚体から頭、内臓、骨等不可食部分を除去し、魚肉採取器により採肉された落し身状のもの、または水晒ししてすり身状にしたものを用いることができる。また、カニ、エビ、イカ等、甲殻類、貝類、軟体動物等の肉も用いられる。これらは一種のみでもよく、また数種組み合わせてもよい。
【0009】
タンパク質原料のみを原料としてもよいが、必要に応じて各種副原料を添加することができる。副原料としては例えば小麦粉、大豆粉、植物性タンパク質、澱粉、グルテン、ゼラチン、脂身、油脂等をあげることができる。通常タンパク質の組織化物を製造する際に使用されている各種副原料を使用できる。その種類、配合比等は任意でありこれらの選択により種々バラエティーに富んだ食品を得ることができる。このほか、調味料、着色剤等の添加物を加えることもできる。
例えば、冷凍魚肉すり身を主原料として用いる場合、解凍した後、所望に応じて副原料を添加し、更に卵白、食塩、澱粉、香辛料、調味料等の添加物を加えて、サイレントカッター等で混練してゾル状物として用いることができる。
【0010】
高温・高圧処理とは110℃以上、1気圧以上の処理であって、タンパク質原料を加熱処理した場合に、硫化水素臭を発生させる処理を意味する。殺菌、調理のために行われる、ケーシング詰め食品、レトルトパウチ、缶詰などのレトルト処理やエクストルーダを用いた処理などが例示される。エクストルーダを用いた組織化処理の場合、バレル温度は、170℃~260℃に達し、製品温度は110~200℃に達する。
原料の水分含量が多い場合、二軸型エクストルーダを用いるのが好ましい。周知のようにエクストルーダでは移送、圧縮、混合、混練、せん断、加熱、殺菌、膨化、成形などの温度処理もしくは機械処理を短時間に行なう能力を有しており、各種食品の製造に用いられている。エクストルーダの構成は、フィーダー、バレル、スクリュー、ダイ、ヒーターの5つからなり、混練、加熱、溶融、押出等の各処理を行なう。必要に応じてそのダイと一体にまたはダイの先端に着脱自在に扁平状、円形状、二重円筒状などの誘導ノズルが設けられる。さらに、冷却するための冷却ダイを用いることができる。
【0011】
エクストルーダの処理条件は適宜定められるが、タンパク質原料と必要に応じて加える副原料添加物との混合物の供給速度は毎分50~3000g、スクリュー回転数は毎分100~200回転、バレル温度は50~250℃が好ましい。また、誘導ノズルを設けるときは軸先端部で溶融タンパク質温度が110~200℃の加熱溶融状態となし、次いで誘導ノズルの前半部で温度を上昇させるかまたはそのままにして、更に誘導ノズルの後半部で冷却し、品温を100℃以下にするのが好ましい。このように処理することにより、溶融状態となったタンパク質は、冷却ノズル中で再配列され、細かい繊維状組織化物となる。
【0012】
このようにして得られる組織化物からは硫化水素が発生し、特別な処理を行なわない限りその臭いによって品質が著しく損なわれる。
本発明は、高温・高圧処理後に、「官能基としてカルボニル基のみ、又はカルボニル基と水酸基のみを有する有機酸、又はそれらの酸性の塩の水溶液に浸漬処理を行うこと」により硫化水素臭を低下させる方法である。
「官能基としてカルボニル基のみ、又はカルボニル基と水酸基のみを有する有機酸」は、乳酸、クエン酸、シュウ酸、リンゴ酸、グルコン酸、アジピン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、フマル酸などであり、これらのいずれか又はそれらの混合物を用いることができる。酸そのもの以外に、これらの有機酸の酸性の塩を用いることができる。例えば、フマル酸一ナトリウム等は、塩であっても酸として機能することができる。これらの有機酸の濃度が0.003~1M程度の水溶液を用いることにより、組織化物のpHが3.7~7.7になる条件で浸漬することができる。組織化物のpHとは、組織化物をホモジナイザーで粉砕後、10倍量の蒸留水で懸濁し、3000rpmで10分間遠心分離したのちの上澄のpHである。組織化物のpHは3.7~7.7、好ましくは、4.0~7.0とすることができる。
浸漬の温度は低温でもよいが、高温にするほど、pHが効率よく低下する傾向がある。
硫化水素が酸性水溶液に溶解することにより、脱臭されると考えられるが、高温にすることにより、より脱臭が進む。
浸漬後、組織化物から酸性水溶液を除去することができる。除去する方法は、脱水、水洗、湯洗などによることができる。好ましくは、80~100℃の温水中でボイルする。ボイル時間は組織化物の殺菌も兼ねて10分以上行う。好ましくは、20分以上、20~60分間である。
組織化物を酸性水溶液に浸漬する前に、前処理を行うことができる。前処理としては、冷水による洗浄、水でのボイル、過酸化水素水でのボイル、スチーム等が挙げられる。
酸性水溶液は、本発明の効果を妨げない範囲で、官能基としてカルボニル基のみ、又はカルボニル基と水酸基のみを有する有機酸以外の任意成分を含んでいても良い。任意成分としては、食塩、糖類、水産物エキス、香料等が挙げられる。これらは適宜組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明の一つの態様は、「魚介類ストリング練製品の製造において、エクストルーダから冷却ノズルを経て製造された繊維状組織化物に対して、官能基としてカルボニル基のみ、又はカルボニル基と水酸基のみを有する有機酸、又はそれらの酸性の塩の水溶液に浸漬する処理を行うことを特徴とする製造方法」である。
魚介類ストリング練製品とは、魚介類を原料とし、高温高圧処理により、タンパク質を溶融させ、冷却によりタンパク質を再配列させて押し出された繊維状組織化物である。その一つの態様は、特許文献1に記載される魚介類ストリング練製品であって、「魚介類すり身を主原料とする原料を、バレル温度を進行方向に温度勾配をつけ、先端部では原料が完全に溶融している条件下でエクストルーダ処理し、そのエクストルーダを通過した溶融原料をエクストルーダの先端に連結する長い冷却ノズルに押し出し、この長い冷却ノズルを通過する原料を徐々に冷却して、長さ方向に平行に配向され、かつ棒状に結合された繊維状組織化物を形成させ、該組織化物は、一つの方向に配向された繊維が棒状に結合されており、繊維方向に沿って切り裂くことができ、しかも、各繊維間の結合が水中に投入して攪拌することにより解繊されない程度に強固であり、かつ繊維に対して垂直方向に切断されないものである魚介類ストリング練製品の製造方法」により製造される。
【0014】
また、別の態様は、特許文献2に記載される「魚介類原料を主原料として棒状または筒状に成形された魚介類を主成分とする練り製品であって、この練り製品の外周に滑かな皮膜を具え、この外周におおわれる内部は、細いフィラメントが中心軸方向に向って半径方向斜めに指向しかつ各フィラメントをその指向方向に沿って引き裂いたときに各フィラメントが剥離するよう、結合された繊維状組織から成ることを特徴とする魚介類を主成分とするエクストルーダによるストリング練製品」である。ここで「フィラメント」とは、「繊維」と同義である。繊維が短いことからフィラメントと表現している。
特許文献2には、この魚介類ストリング練製品が、「エクストルーダの先端に送りポンプを介在させて長さ3~7mの冷却ゾーンが接続され、このエクストルーダ内で後端から投入された魚介類原料を主成分とするゾル状態のゾル原料が前進する間にこのゾル原料を加圧、加熱、溶融して、エクストルーダの先端から加熱溶融原料を吐出し、その後、先端の冷却ゾーンにおいて冷却してストリング練り製品を製造する際に、前記エクストルーダから吐出された加熱溶融原料をエクスルーダと介在させた送りポンプの間で一時滞留集積させてから、送りポンプによって長さ3~7mの冷却ゾーン中に押出すとともに、送りポンプの回転数を調整することによって長さ3~7mの冷却ゾーン内の冷却条件を、加熱溶融原料が冷却されて細いフィラメントがストリング状になりかつ各フィラメントが中心軸方向に向って半径方向斜めに配向するよう、制御することを特徴とする魚介類を主成分とするエクストルーダによるストリング練り製品の製造方法。」により製造することができることが開示されている。
【0015】
具体的には、エクストルーダでゲル状物を処理する場合には、原料の供給速度60kg/h、スクリュー回転数170~200rpm、圧力5~20kg/cm2、バレル温度170~260℃、好ましくは190℃以上の条件下に行ない、エクストルーダ内で温度勾配を設けて加熱することが必要である。この条件であると、先端のダイに達したときには粒状物は十分に溶融されて繊維化が十分に行なわれる条件がセットできる。また、温度勾配の一例を示すと、例えば中央部付近が170℃、先端のダイで260℃であって、進行方向に上向きの勾配をつけるのが好ましく、上記のところから明らかなように、先端のダイでは190℃以上、つまり190~260℃の範囲に保つのが好ましい。
【0016】
これらの魚介類ストリング練製品も高温・高圧処理されるので硫化水素臭を発生する。この硫化水素臭も、官能基としてカルボニル基のみ、又はカルボニル基と水酸基のみを有する有機酸、又はそれらの酸性の塩の水溶液に浸漬処理を行うことにより低下させることができる。前述の浸漬条件、ボイル条件で処理する。
さらに、これら繊維状組織化物は有機酸で処理されることにより、繊維(フィラメント)の表面が酸により変性し、硬くなるため、繊維の1本1本が締まり独立性が高まったような食感となる。これが噛みしめたときに歯ごたえとなり、カニ肉や繊維感の強い魚肉で感じられるような繊維感となる。もともと、エクストルーダで製造した魚介類ストリング練製品は細い繊維状であるが、有機酸処理によりそれらの繊維一本一本の存在感が強くなる。この効果により、よりカニ肉、魚肉らしい食感を付与することができる。
【0017】
魚介類ストリング練製品はエクストルーダで筒状に押し出されたまま、有機酸に浸漬してもよいが、繊維をほぐしてから有機酸の水溶液に浸漬することにより、同じ時間浸漬する場合、より低濃度の有機酸水溶液で同様の効果を得ることができる。製品の太さ、繊維をほぐす程度により、有機酸濃度、浸漬時間、ボイル条件等を調節することができる。
【0018】
本発明の方法により、硫化水素臭を低下させることができるが、同時に組織化物の物性に影響を与えることになる。脱臭効果だけが必要で、物性の変化を望まない場合、酸処理後、中和処理することにより、物性を戻すことができる。酸処理と中和処理を適宜組み合わせることにより、脱臭効果を維持しながら、希望する物性の組織化物を得ることができる。中和処理は、食用に用いることができるアルカリ性水溶液、例えば、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウムなど弱酸のナトリウム塩の水溶液等で行うことができる。
【0019】
以上の製造方法により、「魚介類原料を主原料として棒状に成形された繊維状組織化物であって、組織化物の外周に滑らかな皮膜を具え、外周に覆われる内部は、太さが0.2mm以下の細い繊維が、一つの方向に配向されたて結合されており、繊維方向に沿って切り裂くことができ、しかも、各繊維間の結合が水中に投入して攪拌することにより解繊されない程度に強固であり、かつ繊維に対して垂直方向に切断されないものであって、pHが4.0~7.0、物性が1200~1700gである魚介類ストリング練製品」を得ることができる。これにより、カニや魚肉が有する繊維感が付与されたカニ様、魚肉様練製品が得られる。また、これを中和することにより、ホタテ様のやや柔らかい食感の製品を得ることができる。また、これを細断したり、ほぐしたりすることにより、ほぐし身のような製品を得ることができる。
【0020】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
繊維状組織化物の製造
特許文献1、2の製造方法に準じた方法で繊維状組織化物を製造した。
具体的には、スケソウダラの冷凍すり身を解凍した後、重量比で0.5%の食塩と1.7%の澱粉と、菜種油等の添加物を加え、サイレントカッターでよく混練し、ゾル状物を得た。得られたゾル状物を二軸エクストルーダ(KK末広鉄工所製α100型エクストルーダ)にて次の条件で処理した。フィード量 100kg/h、スクリュー回転数 170~200rpm、バレル温度;中間 170℃、先端 220℃、冷却ダイ 直径18mm×長さ4m。これにより、内部が長手方向に一方向性の繊維状の組織化された断面が円形の棒状構造体からなる繊維状組織化物を得ることができた。
【0022】
添加物の種類
得られた繊維状組織化物を表1に記載の添加物を0.1M濃度で溶解した水溶液に25℃で20分間浸漬した後、90℃の温水で40分間ボイルし、サンプルとした。水溶液は繊維状組織化物の5倍量を用いた。
得られたサンプルのpH、物性(W値)の測定と官能評価を行った。pHの測定方法は、サンプルをホモジナイザーで粉砕後、10倍量の蒸留水で懸濁し、3000rpmで10分間遠心分離したのち上澄をpH計測器(HORIBA、LAQUA、pH METER、F-71)で測定した。W値は、レオメーター(サン科学社 RHEO TEX )により測定を行った。プランジャーはピアノ線を用い、サンプルが破断する際の強度をW値(g)として数値化した。官能評価は、専門のパネル5名により、食感については、「カニの繊維のような食感」について、臭いについては、「硫化水素臭」について、「0:感じない、1:少し感じる、2:感じる、3:強く感じる」の4段階で評価した。
【0023】
結果を表1に示した。酸処理することにより、水や過酸化水素で処理した場合よりもW値が高くなっており、物性が硬くなった。塩酸処理でも、有機酸と同様にW値が高くなったが、酸分解が進み過ぎ、繊維感が喪失した食感であり、カニらしい食感では無かった。硫化水素臭については、乳酸、クエン酸、シュウ酸、リンゴ酸、グルコン酸等のシンプルなカルボン酸では、十分な消臭効果が見られたが、アスコルビン酸、システインといった還元作用を有する有機酸では、添加物無しの場合より硫化水素臭を悪化させるものであった。
【0024】
【実施例2】
【0025】
有機酸の濃度
添加物として乳酸を用い、表2に記載の濃度の水溶液を用いて、実施例1と同様の方法で、サンプルを製造した。得られたサンプルの評価も実施例1と同様に行った。
濃度が0.03M~0.3Mの濃度で、サンプルのpHは3.8~6.7となり、効果が認められたが、1Mでは酸分解が進み過ぎ、物性が低下した。高濃度の水溶液を用いる場合、浸漬時間を調節することはできる。
浸漬温度の違いは効果に影響を与えなかった。
【0026】
【実施例3】
【0027】
魚肉の高温・高圧処理品の前処理
実施例1と同様に製造した繊維状組織化物をチョッパーで繊維状にほぐした上で、表3に示した濃度の乳酸水溶液で25℃、20分間浸漬した後、90℃の温水で40分間ボイルしサンプルとした。得られたサンプルのpH測定と官能評価を実施例1と同様の方法で行った。
繊維をほぐし、有機酸水溶液に接触しやすくすることにより、同じ時間の浸漬の場合、より低濃度で同様の効果が得られた。ここでも、0.1M水溶液では、組織化物のpHが3.4と低くなりすぎ、食感は酸分解が進み繊維感が喪失した好ましくないものであった。
【0028】
【実施例4】
【0029】
有機酸処理の後の中和による物性改良、ホタテ様の食感
実施例1と同様の方法で得られた直径16mmの組織化物の外周の薄膜に4mm間隔に繊維方向の浅い(1mm)切込みをいれ、厚さ6mmに切断し、スライスしたホタテ様のサンプルを作製した。5倍量の0.75%の乳酸水溶液に、90℃で40分間浸漬した後、90℃の温水で20分間ボイルした(試験区1)。さらに、0.5%炭酸水素ナトリウム、2%クエン酸ナトリウムの水溶液に、90℃で20分間浸漬する中和処理を行ったものを試験区2とした。
得られたサンプルの評価を実施例1と同様に行った。但し、官能検査の食感は、「ホタテらしい食感」について4段階で評価した。
【0030】
結果を表4に示した。酸処理後に、中和処理をするとpHが高くなり、同時に物性が低下した。中和処理を行わない試験区1ではW値が高く繊維感を強く感じるが、中和処理を行った試験区2では繊維感が弱まり、ホタテらしく感じた。酸処理によって強化された繊維感を中和処理により、弱めることができることが確認された。一方、酸処理による脱臭効果は中和処理しても影響されなかった。なお、W値の絶対値が実施例1、2と大きく異なるのは、ホタテ様のサンプルでは、外周の薄膜に切込みを入れ、スライスしているためである。
【0031】
【実施例5】
【0032】
酸化剤による前処理との併用
実施例1と同様に製造した繊維状組織化物を、過酸化水素を0.1M濃度で溶解した水溶液に浸漬した後、90℃の温水で30分間ボイルした。次いで、チョッパーで繊維状にほぐした後、表4に記載の濃度の乳酸を含む調味液に浸漬した状態で、120℃20分間レトルト加熱し、サンプルとした。得られたサンプルのpHの測定と官能評価を実施例1と同様に行った。
【0033】
結果を表5に示した。過酸化水素処理のみの試験区1よりも、過酸化水素で処理した後で酸処理した試験区2及び試験区3において、カニらしい食感を感じ、十分な消臭効果が見られた。
【0034】
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明により、タンパク質原料を高温・高圧処理する組織化物の製造において簡単な方法で硫化水素臭を抑制することができる。また硫化水素臭が抑制されたタンパク質原料を高温・高圧処理した組織化物を提供することができる。タンパク質原料を高温・高圧処理する組織化物の物性を変化させることができる。