(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】物標検知装置、システム、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/34 20060101AFI20240402BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20240402BHJP
【FI】
G01S13/34
G01S13/931
(21)【出願番号】P 2019214729
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】城本 一馬
(72)【発明者】
【氏名】笹原 俊彦
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-203751(JP,A)
【文献】特開2018-197697(JP,A)
【文献】特開2019-152441(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0077015(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得部と、
異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出部と、
前記差分信号の強度が所定強度以上であるときに、移動物標が存在することを検知するにあたり、前記異なる送受信周期間の時間間隔に応じて、移動速度が所望速度以上である移動物標が存在することを検知し、又は移動速度が前記所望速度以上であり前記差分信号の強度の極大値を与える最小速度以下である移動物標が存在することを検知し、移動する検知対象を移動しない環境雑音と区別して選択的に検知する移動物標検知部と、を備え
、
前記異なる送受信周期間の時間間隔が短時間であるほど、前記所望速度は高速度であり、前記異なる送受信周期間の時間間隔が長時間であるほど、前記所望速度は低速度である
ことを特徴とする物標検知装置。
【請求項2】
前記移動物標検知部は、移動物標が存在することを検知したときに、周波数上昇掃引時の前記差分信号と、周波数下降掃引時の前記差分信号と、の周波数変換結果に基づいて、移動物標の物標距離、移動速度及び移動方向を計測する
ことを特徴とする、請求項1に記載の物標検知装置。
【請求項3】
FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得部と、
異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出し、時間的に連続する複数組の前記異なる送受信周期の前記差分信号間の平均信号を算出する平均信号算出部と、
前記平均信号の強度が所定強度以上であるときに、一様移動物標が存在することを検知するにあたり、前記異なる送受信周期間の時間間隔に応じて、一様移動速度が所望速度以上である一様移動物標が存在することを検知し、又は一様移動速度が前記所望速度以上であり前記平均信号の強度の極大値を与える最小速度以下である一様移動物標が存在することを検知し、移動する検知対象を移動しない環境雑音と区別して選択的に検知する一様移動物標検知部と、を備え
、
前記異なる送受信周期間の時間間隔が短時間であるほど、前記所望速度は高速度であり、前記異なる送受信周期間の時間間隔が長時間であるほど、前記所望速度は低速度である
ことを特徴とする物標検知装置。
【請求項4】
前記一様移動物標検知部は、一様移動物標が存在することを検知したときに、周波数上昇掃引時の前記平均信号と、周波数下降掃引時の前記平均信号と、の周波数変換結果に基づいて、一様移動物標の物標距離、一様移動速度及び一様移動方向を計測する
ことを特徴とする、請求項3に記載の物標検知装置。
【請求項5】
前記異なる送受信周期間に送受信の動作を停止する送受信制御部をさらに備える
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の物標検知装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の物標検知装置と、前記FMCWレーダのレーダ送受信装置と、を備えることを特徴とする物標検知システム。
【請求項7】
FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、
異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出ステップと、
前記差分信号の強度が所定強度以上であるときに、移動物標が存在することを検知するにあたり、前記異なる送受信周期間の時間間隔に応じて、移動速度が所望速度以上である移動物標が存在することを検知し、又は移動速度が前記所望速度以上であり前記差分信号の強度の極大値を与える最小速度以下である移動物標が存在することを検知し、移動する検知対象を移動しない環境雑音と区別して選択的に検知する移動物標検知ステップと、
を順にコンピュータに実行させ
、
前記異なる送受信周期間の時間間隔が短時間であるほど、前記所望速度は高速度であり、前記異なる送受信周期間の時間間隔が長時間であるほど、前記所望速度は低速度である
ことを特徴とする物標検知プログラム。
【請求項8】
FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、
異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出ステップと、
前記差分信号の強度が所定強度以上であるときに、移動物標が存在することを検知するにあたり、前記異なる送受信周期間の時間間隔に応じて、移動速度が所望速度以上である移動物標が存在することを検知し、又は移動速度が前記所望速度以上であり前記差分信号の強度の極大値を与える最小速度以下である移動物標が存在することを検知し、移動する検知対象を移動しない環境雑音と区別して選択的に検知する移動物標検知ステップと、
を順に備え
、
前記異なる送受信周期間の時間間隔が短時間であるほど、前記所望速度は高速度であり、前記異なる送受信周期間の時間間隔が長時間であるほど、前記所望速度は低速度である
ことを特徴とする物標検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、FMCWレーダを用いる物標検知技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FMCWレーダを用いる物標検知技術が、特許文献1等に開示されている。特許文献1では、送信周波数を上昇掃引及び下降掃引し、送受信信号間のビート信号の周波数変換結果に基づいて、物標距離、移動速度及び移動方向を計測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高感度を有するFMCWレーダでは、検知対象のみならず環境雑音を検知するため、検知対象を環境雑音と区別する必要がある。例えば、検知対象は、移動速度が有限値であり物標距離が時間変化する、歩いている人及び乗り物等である。一方で、環境雑音は、速度成分を有するものの物標距離が時間変化しない、立ち止まる人、座っている人、回転体、振動体、樹木及び風雨等である。そして、FMCWレーダの取付面の振動現象も、相対的な物標距離の時間変化に結び付き、環境雑音となり得る。
【0005】
特許文献1では、送受信信号間のビート信号のフィルタ処理結果に基づいて、検知対象を環境雑音と区別している。或いは、送受信信号間のビート信号の周期性等の動作特徴に基づいて、検知対象を環境雑音と区別している。よって、物標検知の処理時間が長くなり、物標検知の処理速度が遅くなり、ハードウェア又はソフトウェアが大型又は複雑になり高コストになる。そして、検知対象を環境雑音と誤検知する可能性があった。
【0006】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、FMCWレーダを用いる物標検知技術において、検知対象を環境雑音と区別するにあたり、物標検知の処理時間を短くし、物標検知の処理速度を速くし、ハードウェア又はソフトウェアを大型又は複雑にせず低コストにし、検知対象を環境雑音と誤検知する可能性を減らすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、送受信信号間のビート信号の算出処理過程において、検知対象を環境雑音と区別する。まず、異なる送受信周期のビート信号間の差分信号を算出する。次に、差分信号の強度が所定強度以上であるときに、移動する検知対象が存在することを検知する。ここで、異なる送受信周期間の時間間隔に応じて、移動速度が所望速度以上である移動する検知対象が存在することを選択的に検知する。
【0008】
具体的には、本開示は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得部と、異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出部と、前記差分信号の強度が所定強度以上であるときに、移動物標が存在することを検知するにあたり、前記異なる送受信周期間の時間間隔に応じて、移動速度が所望速度以上である移動物標が存在することを選択的に検知する移動物標検知部と、を備えることを特徴とする物標検知装置である。
【0009】
また、本開示は、以上に記載の物標検知装置と、前記FMCWレーダのレーダ送受信装置と、を備えることを特徴とする物標検知システムである。
【0010】
また、本開示は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出ステップと、前記差分信号の強度が所定強度以上であるときに、移動物標が存在することを検知するにあたり、前記異なる送受信周期間の時間間隔に応じて、移動速度が所望速度以上である移動物標が存在することを選択的に検知する移動物標検知ステップと、を順にコンピュータに実行させるための物標検知プログラムである。
【0011】
また、本開示は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出ステップと、前記差分信号の強度が所定強度以上であるときに、移動物標が存在することを検知するにあたり、前記異なる送受信周期間の時間間隔に応じて、移動速度が所望速度以上である移動物標が存在することを選択的に検知する移動物標検知ステップと、を順に備えることを特徴とする物標検知方法である。
【0012】
これらの構成によれば、移動する検知対象(歩いている人及び乗り物等)を、移動しない環境雑音(立ち止まる人、座っている人、回転体、振動体、樹木、風雨及びFMCWレーダの取付面の振動現象等)と、区別することができる。そして、物標検知の処理時間を短くし、物標検知の処理速度を速くし、ハードウェア又はソフトウェアを大型又は複雑にせず低コストにし、検知対象を環境雑音と誤検知する可能性を減らすことができる。
【0013】
また、本開示は、前記移動物標検知部は、移動物標が存在することを検知したときに、周波数上昇掃引時の前記差分信号と、周波数下降掃引時の前記差分信号と、の周波数変換結果に基づいて、移動物標の物標距離、移動速度及び移動方向を計測することを特徴とする物標検知装置である。
【0014】
この構成によれば、周波数上昇掃引時及び周波数下降掃引時の差分信号の周波数変換結果では、移動する検知対象のみが検知される。よって、周波数上昇掃引時及び周波数下降掃引時の周波数変換結果のスペクトルピーク間では、同一の移動する検知対象に起因するピークとして、一対一のペアリングが容易になる。そして、移動する検知対象の物標距離、移動速度及び移動方向を確実に計測することができる。
【0015】
前記課題を解決するために、送受信信号間のビート信号の算出処理過程において、検知対象を環境雑音と区別する。まず、異なる送受信周期のビート信号間の差分信号を算出する。次に、時間的に連続する複数組の異なる送受信周期の差分信号間の平均信号を算出する。次に、平均信号の強度が所定強度以上であるときに、一様に移動する検知対象が存在することを検知する。ここで、異なる送受信周期間の時間間隔に応じて、一様移動速度が所望速度以上である一様に移動する検知対象が存在することを選択的に検知する。
【0016】
具体的には、本開示は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得部と、異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出し、時間的に連続する複数組の前記異なる送受信周期の前記差分信号間の平均信号を算出する平均信号算出部と、前記平均信号の強度が所定強度以上であるときに、一様移動物標が存在することを検知するにあたり、前記異なる送受信周期間の時間間隔に応じて、一様移動速度が所望速度以上である一様移動物標が存在することを選択的に検知する一様移動物標検知部と、を備えることを特徴とする物標検知装置である。
【0017】
この構成によれば、移動する検知対象(歩いている人及び乗り物等)を、移動しない環境雑音(立ち止まる人、座っている人、回転体、振動体、樹木、風雨及びFMCWレーダの取付面の振動現象等)と、区別することができる。そして、移動する検知対象を、ランダムな物標距離、速度成分及び速度方向を有し検知対象と同程度の速度成分を有する移動しない環境雑音(ゲリラ豪雨等)と、区別することができる。さらに、物標検知の処理時間を短くし、物標検知の処理速度を速くし、ハードウェア又はソフトウェアを大型又は複雑にせず低コストにし、検知対象を環境雑音と誤検知する可能性を減らすことができる。
【0018】
また、本開示は、前記一様移動物標検知部は、一様移動物標が存在することを検知したときに、周波数上昇掃引時の前記平均信号と、周波数下降掃引時の前記平均信号と、の周波数変換結果に基づいて、一様移動物標の物標距離、一様移動速度及び一様移動方向を計測することを特徴とする物標検知装置である。
【0019】
この構成によれば、周波数上昇掃引時及び周波数下降掃引時の平均信号の周波数変換結果では、一様に移動する検知対象のみが検知される。よって、周波数上昇掃引時及び周波数下降掃引時の周波数変換結果のスペクトルピーク間では、同一の一様に移動する検知対象に起因するピークとして、一対一のペアリングが容易になる。そして、一様に移動する検知対象の物標距離、一様移動速度及び一様移動方向を確実に計測することができる。
【0020】
また、本開示は、前記異なる送受信周期間に送受信の動作を停止する送受信制御部をさらに備えることを特徴とする物標検知装置である。
【0021】
この構成によれば、上記異なる送受信周期間が長時間であれば、上記異なる送受信周期間に送受信を停止し、不要データ量及び消費電力量を減らすことができる。
【発明の効果】
【0022】
このように、本開示は、FMCWレーダを用いる物標検知技術において、検知対象を環境雑音と区別するにあたり、物標検知の処理時間を短くし、物標検知の処理速度を速くし、ハードウェア又はソフトウェアを大型又は複雑にせず低コストにし、検知対象を環境雑音と誤検知する可能性を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施形態の物標検知システムの構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態の物標検知処理の手順を示す図である。
【
図3】第1実施形態の物標検知処理の具体例を示す図である。
【
図4】第1実施形態の物標検知処理の具体例を示す図である。
【
図5】第1実施形態の距離計測処理の具体例を示す図である。
【
図6】第2実施形態の物標検知システムの構成を示す図である。
【
図7】第2実施形態の物標検知処理の手順を示す図である。
【
図8】第2実施形態の物標検知処理の具体例を示す図である。
【
図9】第2実施形態の物標検知処理の具体例を示す図である。
【
図10】第2実施形態の距離計測処理の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0025】
(第1実施形態の物標検知システム)
第1実施形態の物標検知システムの構成を
図1に示す。第1実施形態の物標検知システムSは、物標検知装置1及びFMCWレーダ送受信装置2を備える。物標検知装置1は、送受信制御部11、ビート信号取得部12、差分信号算出部13及び移動物標検知部14を備え、
図2に示す物標検知プログラムをインストールされている。
【0026】
FMCWレーダ送受信装置2は、送信側において、PLL回路21、発振器22、分配器23、増幅器24、ローパスフィルタ25及び送信アンテナ26を備え、受信側において、受信アンテナ27、増幅器28、増幅器29、ミキサ回路30、増幅器31及びA/D変換器32を備え、物標検知装置1の送受信制御部11により制御されている。
【0027】
第1実施形態の物標検知処理の手順を
図2に示す。第1実施形態では、送受信信号間のビート信号の算出処理過程において、検知対象を環境雑音と区別する。
【0028】
送受信制御部11は、PLL回路21を制御する。ビート信号取得部12は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得する(ステップS1)。差分信号算出部13は、異なる送受信周期のビート信号間の差分信号を算出する(ステップS2)。
【0029】
移動物標検知部14は、差分信号の強度が所定強度以上であるときに(ステップS3においてYES)、移動物標Tが存在することを検知するにあたり、上記異なる送受信周期間の時間間隔に応じて、移動速度が所望速度以上である移動物標Tが存在することを選択的に検知する(ステップS4)。なお、移動物標検知部14は、差分信号の強度が所定強度より低いときに(ステップS3においてNO)、ステップS4の処理を実行しない。
【0030】
移動物標検知部14は、移動物標Tが存在することを検知したときに(ステップS4)、周波数上昇掃引時の差分信号と、周波数下降掃引時の差分信号と、の周波数変換結果に基づいて、移動物標Tの物標距離、移動速度及び移動方向を計測する(ステップS5)。
【0031】
第1実施形態の物標検知処理の具体例を
図3に示す。時刻t
0=0での移動物標Tの物標距離はR
0であり、移動物標Tの移動速度はVである。太い実線は送信周波数を示し、太い破線は受信周波数を示す。各送受信周期の周波数上昇掃引時間はτであり、各送受信周期の周波数下降掃引時間はτであり、各送受信周期の全周波数掃引時間は2τである。第n送受信周期の開始時刻は2nτであり、第n送受信周期の任意時刻は2nτ+t
Aである。各送受信周期の周波数掃引幅は、f
0からf
0+ΔfまでのΔfである。
【0032】
第n送受信周期の周波数上昇掃引時のビート信号V
n(t)は、数1で表される。第n+1送受信周期の周波数上昇掃引時のビート信号V
n+1(t)は、数2で表される。
【数1】
【数2】
【0033】
第n送受信周期の周波数上昇掃引時のビート信号V
n(t)と、第n+1送受信周期の周波数上昇掃引時のビート信号V
n+1(t)と、の間の差分信号V
n+1(t)-V
n(t)は、数3で表される。差分信号V
n+1(t)-V
n(t)の強度|V
n+1(t)-V
n(t)|
2は、数4で表される。ここで、Δfと比べてf
0は十分大きいことを考慮している。
【数3】
【数4】
【0034】
第1実施形態の物標検知処理の具体例を
図4にも示す。
図3では、上記異なる送受信周期間の時間間隔は2τである。
図4では、上記異なる送受信周期間の時間間隔はt
sである。すると、差分信号V
n+1(t)-V
n(t)の強度|V
n+1(t)-V
n(t)|
2は、数5で表される。ここで、Δfと比べてf
0は十分大きいことを考慮している。
【数5】
【0035】
図4の上段では、上記異なる送受信周期は、連続する送受信周期であり、送受信制御部11は、上記異なる送受信周期間に、送受信の動作を停止していない。よって、上記異なる送受信周期間の時間間隔t
sは、
図4の中段及び下段と比べて短時間である。
【0036】
そして、差分信号強度|Vn+1(t)-Vn(t)|2は、移動物標Tの移動速度Vが0m/sであるときに0であり、移動物標Tの移動速度Vが速くなるに従って対数スケールで直線状に立ち上がり、移動物標Tの移動速度Vが2m/s以上であるときに0dBの一定値である。そこで、ステップS3の所定強度を-10dBに設定したときに、ステップS4の所望速度以上を0.7m/s以上に設定することができる。
【0037】
図4の中段では、上記異なる送受信周期は、連続する送受信周期であるが、送受信制御部11は、上記異なる送受信周期間に、送受信の動作を短時間停止している。よって、上記異なる送受信周期間の時間間隔t
sは、
図4の上段及び下段と比べて中程度である。
【0038】
そして、差分信号強度|Vn+1(t)-Vn(t)|2は、移動物標Tの移動速度Vが0m/sであるときに0であり、移動物標Tの移動速度Vが速くなるに従って対数スケールで直線状に立ち上がり、移動物標Tの移動速度Vが0.7m/s以上であるときに0dBの一定値である。そこで、ステップS3の所定強度を-10dBに設定したときに、ステップS4の所望速度以上を0.3m/s以上に設定することができる。
【0039】
図4の下段では、上記異なる送受信周期は、連続する送受信周期であるが、送受信制御部11は、上記異なる送受信周期間に、送受信の動作を長時間停止している。よって、上記異なる送受信周期間の時間間隔t
sは、
図4の上段及び中段と比べて長時間である。
【0040】
そして、差分信号強度|Vn+1(t)-Vn(t)|2は、移動物標Tの移動速度Vが0m/sであるときに0であり、移動物標Tの移動速度Vが速くなるに従って対数スケールで直線状に立ち上がり、移動物標Tの移動速度Vが0.03m/s以上であるときに0dBの一定値である。そこで、ステップS3の所定強度を-10dBに設定したときに、ステップS4の所望速度以上を0.01m/s以上に設定することができる。
【0041】
図3及び
図4では、各送受信周期の周波数上昇掃引時のビート信号V
n(t)を処理しているが、各送受信周期の周波数下降掃引時のビート信号V
n(t)を処理してもよい。
図4の上段では、差分信号V
n+1(t)-V
n(t)を短時間で算出することができるため、高速の移動物標T(歩いている人及び乗り物等)を検知するのに適している。
図4の下段では、差分信号V
n+1(t)-V
n(t)を短時間で算出することができないが、低速の移動物標T(寝ている人の腹部の膨らみ等)を検知するには問題はない。
【0042】
図4の上段から下段では、差分信号強度|V
n+1(t)-V
n(t)|
2は、移動物標Tの移動速度VがステップS4の所望速度以上であるときに、0dBと-100dB程度との間の値をとり得る。しかし、数5のうちの移動物標Tの移動速度Vは、必ずしも一定でなく時間変化するし、手足のように異なる速度成分を含む。そして、数5のうちの2Δft
A/t
Sは、数5のうちのf
0と比べて無視できるが存在している。よって、差分信号強度|V
n+1(t)-V
n(t)|
2は、移動物標Tの移動速度VがステップS4の所望速度以上であるときも、-100dB程度の値をとり得る可能性は低い。
【0043】
第1実施形態の距離計測処理の具体例を
図5に示す。
図5の上段では、送受信周波数を示す。
図5の中段では、周波数上昇掃引時の差分信号の周波数変換結果を示す。
図5の下段では、周波数下降掃引時の差分信号の周波数変換結果を示す。
【0044】
周波数上昇掃引時の差分信号の周波数変換結果では、上昇周波数fupにピークが検出されている。周波数下降掃引時の差分信号の周波数変換結果では、下降周波数fdownにピークが検出されている。上昇周波数fupと下降周波数fdownとの間の中央周波数fcenter=(fup+fdown)/2に基づいて、移動物標Tの物標距離を計測可能である。上昇周波数fupと中央周波数fcenterとの間の差分周波数fup-fcenterと、下降周波数fdownと中央周波数fcenterとの間の差分周波数fdown-fcenterと、の一方又は両方に基づいて、移動物標Tの移動速度及び移動方向を計測可能である。
【0045】
ここで、周波数上昇掃引時及び周波数下降掃引時の差分信号の周波数変換結果では、中央周波数fcenterにピークが検出されていない。つまり、物標距離が移動物標Tとほぼ等しいが、移動速度がほぼ0である静止物標は、ステップS4で除去されている。
【0046】
このように、移動する検知対象(歩いている人及び乗り物等)を、移動しない環境雑音(立ち止まる人、座っている人、回転体、振動体、樹木、風雨及びFMCWレーダの取付面の振動現象等)と、区別することができる。そして、物標検知の処理時間を短くし、物標検知の処理速度を速くし、ハードウェア又はソフトウェアを大型又は複雑にせず低コストにし、検知対象を環境雑音と誤検知する可能性を減らすことができる。
【0047】
さらに、周波数上昇掃引時及び周波数下降掃引時の差分信号の周波数変換結果では、移動する検知対象のみが検知される。よって、周波数上昇掃引時及び周波数下降掃引時の周波数変換結果のスペクトルピーク間では、同一の移動する検知対象に起因するピークとして、一対一のペアリングが容易になる。そして、移動する検知対象の物標距離、移動速度及び移動方向を確実に計測することができる。
【0048】
さらに、上記異なる送受信周期間が長時間であれば、上記異なる送受信周期間に送受信を停止し、不要データ量及び消費電力量を減らすことができる。
【0049】
(第2実施形態の物標検知システム)
第2実施形態の物標検知システムの構成を
図6に示す。第2実施形態の物標検知システムSは、物標検知装置1’及びFMCWレーダ送受信装置2を備える。物標検知装置1’は、送受信制御部11’、ビート信号取得部12’、平均信号算出部13’及び一様移動物標検知部14’を備え、
図7に示す物標検知プログラムをインストールされている。
【0050】
FMCWレーダ送受信装置2は、送信側において、PLL回路21、発振器22、分配器23、増幅器24、ローパスフィルタ25及び送信アンテナ26を備え、受信側において、受信アンテナ27、増幅器28、増幅器29、ミキサ回路30、増幅器31及びA/D変換器32を備え、物標検知装置1’の送受信制御部11’により制御されている。
【0051】
第2実施形態の物標検知処理の手順を
図7に示す。第2実施形態では、送受信信号間のビート信号の算出処理過程において、検知対象を環境雑音と区別する。
【0052】
送受信制御部11’は、PLL回路21を制御する。ビート信号取得部12’は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得する(ステップS11)。平均信号算出部13’は、まず、異なる送受信周期のビート信号間の差分信号を算出する(ステップS12)。平均信号算出部13’は、次に、時間的に連続する複数組の上記異なる送受信周期の差分信号間の平均信号を算出する(ステップS13)。
【0053】
一様移動物標検知部14’は、平均信号の強度が所定強度以上であるときに(ステップS14においてYES)、一様な移動物標Tが存在することを検知するにあたり、上記異なる送受信周期間の時間間隔に応じて、一様移動速度が所望速度以上である一様な移動物標Tが存在することを選択的に検知する(ステップS15)。なお、一様移動物標検知部14’は、平均信号の強度が所定強度より低いときに(ステップS14においてNO)、ステップS15の処理を実行しない。
【0054】
一様移動物標検知部14’は、一様な移動物標Tが存在することを検知したときに(ステップS15)、周波数上昇掃引時の平均信号と、周波数下降掃引時の平均信号と、の周波数変換結果に基づいて、一様な移動物標Tの物標距離、一様移動速度及び一様移動方向を計測する(ステップS16)。
【0055】
第2実施形態の物標検知処理の具体例を
図8に示す。
図8の上段では、周波数上昇掃引及び周波数下降掃引を示す。
図8の下段では、平均信号の算出方法を示す。
【0056】
上記異なる送受信周期は、連続する送受信周期であり、送受信制御部11’は、上記異なる送受信周期間に、送受信の動作を停止していない。よって、上記異なる送受信周期間の時間間隔t
sは、後述の
図9の上段と比べて短時間である。ただし、周波数上昇掃引時t
1、t
3、・・・、t
11及び周波数下降掃引時t
2、t
4、・・・、t
12の後に、送受信制御部11’は、送受信の動作を停止し、ビート信号取得部12’、平均信号算出部13’及び一様移動物標検知部14’は、一様な移動物標Tの検知を実行する。
【0057】
周波数上昇掃引時t1、t3、・・・、t11のビート信号は、Vt1、Vt3、・・・、Vt11である。上記異なる送受信周期のビート信号間の差分信号は、Vt1-Vt3、Vt5-Vt7、Vt9-Vt11である。時間的に連続する複数組の上記異なる送受信周期の差分信号間の平均信号は、(Vt1-Vt3+Vt5-Vt7+Vt9-Vt11)/3である。
【0058】
周波数下降掃引時t2、t4、・・・、t12のビート信号は、Vt2、Vt4、・・・、Vt12である。上記異なる送受信周期のビート信号間の差分信号は、Vt2-Vt4、Vt6-Vt8、Vt10-Vt12である。時間的に連続する複数組の上記異なる送受信周期の差分信号間の平均信号は、(Vt2-Vt4+Vt6-Vt8+Vt10-Vt12)/3である。
【0059】
ここで、時間的に連続する複数組の上記異なる送受信周期の差分信号間の平均信号では、物標距離、移動速度及び移動方向が一様である移動物標Tに起因する周波数成分は強め合うが、物標距離、速度成分及び速度方向がランダムである環境雑音に起因する周波数成分は弱め合う。そして、上記異なる送受信周期間の時間間隔tsを短時間に設定することにより、ステップS15の所望速度以上を高速の所望速度以上に設定することができる。
【0060】
第2実施形態の物標検知処理の具体例を
図9にも示す。
図9の上段では、周波数上昇掃引及び周波数下降掃引を示す。
図9の下段では、平均信号の算出方法を示す。
【0061】
上記異なる送受信周期は、連続する送受信周期であり、送受信制御部11’は、上記異なる送受信周期間に、送受信の動作を停止している。よって、上記異なる送受信周期間の時間間隔t
sは、上述の
図8の上段と比べて長時間である。さらに、周波数上昇掃引時t
1、t
3及び周波数下降掃引時t
2、t
4の後に、周波数上昇掃引時t
5、t
7及び周波数下降掃引時t
6、t
8の後に、周波数上昇掃引時t
9、t
11及び周波数下降掃引時t
10、t
12の後に、送受信制御部11’は、送受信の動作を停止し、ビート信号取得部12’、平均信号算出部13’及び一様移動物標検知部14’は、一様な移動物標Tの検知を実行する。
【0062】
周波数上昇掃引時t1、t3、・・・、t11のビート信号は、Vt1、Vt3、・・・、Vt11である。上記異なる送受信周期のビート信号間の差分信号は、Vt1-Vt3、Vt5-Vt7、Vt9-Vt11である。時間的に連続する複数組の上記異なる送受信周期の差分信号間の平均信号は、(Vt1-Vt3+Vt5-Vt7+Vt9-Vt11)/3である。
【0063】
周波数下降掃引時t2、t4、・・・、t12のビート信号は、Vt2、Vt4、・・・、Vt12である。上記異なる送受信周期のビート信号間の差分信号は、Vt2-Vt4、Vt6-Vt8、Vt10-Vt12である。時間的に連続する複数組の上記異なる送受信周期の差分信号間の平均信号は、(Vt2-Vt4+Vt6-Vt8+Vt10-Vt12)/3である。
【0064】
ここで、時間的に連続する複数組の上記異なる送受信周期の差分信号間の平均信号では、物標距離、移動速度及び移動方向が一様である移動物標Tに起因する周波数成分は強め合うが、物標距離、速度成分及び速度方向がランダムである環境雑音に起因する周波数成分は弱め合う。そして、上記異なる送受信周期間の時間間隔tsを長時間に設定することにより、ステップS15の所望速度以上を低速の所望速度以上に設定することができる。
【0065】
第2実施形態の距離計測処理の具体例を
図10に示す。
図10の上段では、送受信周波数を示す。
図10の中段では、周波数上昇掃引時の平均信号の周波数変換結果を示す。
図10の下段では、周波数下降掃引時の平均信号の周波数変換結果を示す。
【0066】
周波数上昇掃引時の平均信号の周波数変換結果では、上昇周波数fupにピークが検出されている。周波数下降掃引時の平均信号の周波数変換結果では、下降周波数fdownにピークが検出されている。上昇周波数fupと下降周波数fdownとの間の中央周波数fcenter=(fup+fdown)/2に基づいて、一様な移動物標Tの物標距離を計測可能である。上昇周波数fupと中央周波数fcenterとの間の差分周波数fup-fcenterと、下降周波数fdownと中央周波数fcenterとの間の差分周波数fdown-fcenterと、の一方又は両方に基づいて、一様な移動物標Tの一様移動速度及び一様移動方向を計測可能である。
【0067】
ここで、周波数上昇掃引時及び周波数下降掃引時の平均信号の周波数変換結果では、中央周波数fcenter回りにピークが検出されていない。つまり、物標距離が移動物標Tとほぼ等しいが、移動速度がランダムである環境雑音は、ステップS15で除去されている。
【0068】
このように、移動する検知対象(歩いている人及び乗り物等)を、移動しない環境雑音(立ち止まる人、座っている人、回転体、振動体、樹木、風雨及びFMCWレーダの取付面の振動現象等)と、区別することができる。そして、移動する検知対象を、ランダムな物標距離、速度成分及び速度方向を有し検知対象と同程度の速度成分を有する移動しない環境雑音(ゲリラ豪雨等)と、区別することができる。さらに、物標検知の処理時間を短くし、物標検知の処理速度を速くし、ハードウェア又はソフトウェアを大型又は複雑にせず低コストにし、検知対象を環境雑音と誤検知する可能性を減らすことができる。
【0069】
さらに、周波数上昇掃引時及び周波数下降掃引時の平均信号の周波数変換結果では、一様に移動する検知対象のみが検知される。よって、周波数上昇掃引時及び周波数下降掃引時の周波数変換結果のスペクトルピーク間では、同一の一様に移動する検知対象に起因するピークとして、一対一のペアリングが容易になる。そして、一様に移動する検知対象の物標距離、一様移動速度及び一様移動方向を確実に計測することができる。
【0070】
さらに、上記異なる送受信周期間が長時間であれば、上記異なる送受信周期間に送受信を停止し、不要データ量及び消費電力量を減らすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本開示の物標検知装置、システム、プログラム及び方法は、FMCWレーダを用いる物標検知技術において、移動する検知対象(歩いている人及び乗り物等)を、移動しない環境雑音(立ち止まる人、座っている人、回転体、振動体、樹木、風雨及びFMCWレーダの取付面の振動現象等)と、区別する用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
S:物標検知システム
T:移動物標
1:物標検知装置
1’:物標検知装置
2:FMCWレーダ送受信装置
11:送受信制御部
12:ビート信号取得部
13:差分信号算出部
14:移動物標検知部
11’:送受信制御部
12’:ビート信号取得部
13’:平均信号算出部
14’:一様移動物標検知部
21:PLL回路
22:発振器
23:分配器
24:増幅器
25:ローパスフィルタ
26:送信アンテナ
27:受信アンテナ
28:増幅器
29:増幅器
30:ミキサ回路
31:増幅器
32:A/D変換器