(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】金属部材
(51)【国際特許分類】
C25D 11/18 20060101AFI20240402BHJP
C10M 137/10 20060101ALI20240402BHJP
C25D 11/26 20060101ALI20240402BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20240402BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240402BHJP
C10N 30/12 20060101ALN20240402BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20240402BHJP
【FI】
C25D11/18 A
C10M137/10 A
C25D11/18 312
C25D11/26 A
C25D11/26 Z
C10N10:04
C10N30:00 Z
C10N30:12
C10N40:25
(21)【出願番号】P 2020010172
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】稲見 規夫
(72)【発明者】
【氏名】小橋 賢一
(72)【発明者】
【氏名】幅▲ざき▼ 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】小山 輝
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-300246(JP,A)
【文献】特開2009-067895(JP,A)
【文献】特開2010-276051(JP,A)
【文献】特開2011-089106(JP,A)
【文献】特開2016-040342(JP,A)
【文献】特開平05-172066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M137/10
C25D 11/00
C23C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極酸化皮膜を有しており、前記
陽極酸化皮膜が、
SAMコーティングが施されていない状態で、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を含有している炭化水素系オイルによっ
て被覆されて
おり、
マイクロスケール凹凸構造及びナノスケールの凹凸構造の階層構造を有している、
金属部材。
【請求項2】
前記金属部材が、Al、Ti、Fe、若しくはMg、又はこれらの金属のいずれかの合金、又はステンレス鋼の部材である、請求項
1に記載の金属部材。
【請求項3】
前記ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)の濃度が、前記炭化水素系オイルに対して0.1質量%~30.0質量%である、請求項
1又は2に記載の金属部材。
【請求項4】
自動車用部材である、請求項
1~3のいずれか一項に記載の金属部材。
【請求項5】
インタークーラー用部材である、請求項
4に記載の金属部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属部材に関する。
【背景技術】
【0002】
撥液性の表面を有する金属部材が、工業的に求められている。
【0003】
撥液性の表面としては、表面自由エネルギーが低く、かつ微細な凹凸構造を有する粗面、及びその上に塗布する潤滑油膜からなる撥液性表面である、Slippery Liquid-Infused Porous Surface(SLIPS)と呼ばれる液体易滑性表面が知られている。
【0004】
表面自由エネルギーの低い粗面は、潤滑油の湿潤を向上させるとともに固体表面に対する液体の強固な付着を防ぐため、潤滑油膜上に付着した液滴は高い可動性を得て、わずかな傾斜で容易に滑落する。
【0005】
SLIPSは、このような特徴をもつことから、撥液性、防汚性、及び耐食性表面としての利用のみならず、氷の付着を防止する難着氷性表面、血液といった生物由来の液体の付着を防ぐ耐生物汚損表面、そして潤滑油膜上における液滴の高い凝集性を利用したウォーターハーベスト技術など、従来の超撥水・超撥油性表面では困難とされる応用展開が可能であると考えられている。
【0006】
なお、表面自由エネルギーの低い物質の代表例としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE;臨界界面張力γC=18mNm-1)をはじめとするフッ素系樹脂が挙げられるが、これらの用途は限定的である。
【0007】
一方で工業的に多くの需要があるのは種々の金属酸化物表面における撥液化である。金属酸化物の表面自由エネルギーは他の物質と比べて非常に高い値をもつものの、末端に-CF3(γC=6mNm-1)を有する長鎖のパーフルオロアルキル基や、-CH3(γC=24mNm-1)を有する長鎖のアルキル基からなる自己組織化有機単分子膜(SAM)により表面を改質することで表面自由エネルギーを大幅に低減できることが知られている。中でも、近年広く使用されているホスホン酸誘導体は、それ自身が非常に安定な化合物であり、古くから知られているシランカップリング剤よりも密度が高く安定なSAMを形成する。
【0008】
また、特許文献1が開示するように、自動車エンジン部品等の鉄鋼材料に関して、鉄鋼材料をプラズマ窒化し、その後に窒素イオンを注入し、鉄鋼材料表面の窒素濃度を30原子%以上にする鉄鋼材料の表面処理方法によって、鉄鋼材料の耐衝撃性、耐摩耗性及び耐食性を高めることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のSAMを形成するための化学物質は高価であり、また液相法でSAMによるコーティングを行う場合は厳密な溶液管理が求められ、気相法で行う場合は高価な設備を要する。
【0011】
したがって、SAM等による表面処理を必要とせずに撥液性の表面を有する金属部材を製造することができれば、大規模な工業化に際して処理工程の簡略化や大幅なコスト削減が見込まれる。
【0012】
しかし、これまで付着した液体を滑落させるためには、金属酸化物表面の表面自由エネルギーを低減するためのSAM等による表面処理が必要不可欠であると考えられてきた。
【0013】
実際に、本開示者らは、SLIPSの潤滑油としてよく知られているフッ素系高分子からなる潤滑油やシリコーンオイルを用いても、SAM等による表面処理を行わなければ水の付着さえ防止できないとの知見を得た。
【0014】
本開示は、SAM等による表面処理を必要とせずに、撥水性及び耐食性の表面を有する金属部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
《態様1》
多孔質表面を有しており、前記多孔質表面が、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を含有している炭化水素系オイルによって直接に被覆されている、金属部材。
《態様2》
前記多孔質表面が、酸化表面である、態様1に記載の金属部材。
《態様3》
前記多孔質表面が、陽極酸化表面である、態様2に記載の金属部材。
《態様4》
前記金属部材が、Al、Ti、Fe、若しくはMg、又はこれらの金属のいずれかの合金、又はステンレス鋼の部材である、態様1~3のいずれか一つに記載の金属部材。
《態様5》
前記ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)の濃度が、前記炭化水素系オイルに対して0.1質量%~30.0質量%である、態様1~4のいずれか一つに記載の金属部材。
《態様6》
前記炭化水素系オイルがエンジンオイルである、態様1~5のいずれか一つに記載の金属部材。
《態様7》
自動車用部材である、態様1~6のいずれか一つに記載の金属部材。
《態様8》
エンジンオイルが供給される部分に用いられる、態様7に記載の金属部材。
《態様9》
インタークーラー用部材である、態様7又は8に記載の金属部材。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、SAM等による表面処理を必要とせずに、撥水性及び耐食性の表面を有する金属部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1Aは、多孔質表面を有するアルミニウム板の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図1B】
図1Bは、階層構造化された多孔質表面を有するアルミニウム板の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図1C】
図1Cは、参考例1~4のアルミニウム板それぞれの表面に対する、水滴又は自動車用エンジンオイル滴の接触角を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、実施例1及び2、並びに比較例5のアルミニウム板それぞれについて、アルミニウム板の回転速度と自動車用エンジンオイルの残量との関係(回転時間:60秒)を示すグラフである。
【
図2B】
図2Bは、実施例1及び2、並びに比較例5のアルミニウム板それぞれについて、アルミニウム板の回転速度と10μLの水滴の転落角との関係(回転時間:60秒)を示すグラフである。
【
図2C】
図2Cは、実施例1及び2、並びに比較例5のアルミニウム板それぞれについて、自動車用エンジンオイルの残量と10μLの水滴の転落角との関係(回転時間:10、60、300秒)を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1及び2、比較例5及び7のアルミニウム板について、混合液への浸漬時間と、10μLの水滴の転落角との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例1及び2、並びに比較例1~6のアルミニウム板について耐食試験後の重量変化を示すグラフである。
【
図5A】
図5Aは、階層構造化を行わず、陽極酸化を行ったアルミニウム板の表面の、耐食試験前における走査型顕微鏡(SEM)画像である。
【
図5B】
図5Bは、比較例5のアルミニウム板の表面の、耐食試験後における走査型顕微鏡(SEM)画像である。
【
図5C】
図5Cは、比較例3のアルミニウム板の表面の、耐食試験後における走査型顕微鏡(SEM)画像である。
【
図5D】
図5Dは、実施例1のアルミニウム板の表面の、耐食試験後における走査型顕微鏡(SEM)画像である。
【
図5E】
図5Eは、比較例1のアルミニウム板の表面の、耐食試験後における走査型顕微鏡(SEM)画像である。
【
図6A】
図6Aは、階層構造化を行い、かつ陽極酸化を行ったアルミニウム板の表面の、耐食試験前における走査型顕微鏡(SEM)画像である。
【
図6B】
図6Bは、比較例6のアルミニウム板の表面の、耐食試験後における走査型顕微鏡(SEM)画像である。
【
図6C】
図6Cは、比較例4のアルミニウム板の表面の、耐食試験後における走査型顕微鏡(SEM)画像である。
【
図6D】
図6Dは、実施例2のアルミニウム板の表面の、耐食試験後における走査型顕微鏡(SEM)画像である。
【
図6E】
図6Eは、比較例2のアルミニウム板の表面の、耐食試験後における走査型顕微鏡(SEM)画像である。
【
図7】
図7は、参考例5のアルミニウム板の作製方法を示す図である。
【
図8A】
図8Aは、参考例5のアルミニウム板の表面の状態及び10μLの水滴を乗せたときの接触角を示す図である。
【
図8B】
図8Bは、参考例6のアルミニウム板の表面の状態及び10μLの水滴を乗せたときの接触角を示す図である。
【
図9A】
図9Aは、参考例5のアルミニウム板に関して、自動車用エンジンオイル浸漬・洗浄後の表面のX線光電分光法(XPS)分析結果を示すグラフである。
【
図9B】
図9Bは、参考例5のアルミニウム板に関して、自動車用エンジンオイル浸漬・洗浄後の表面のX線光電分光法(XPS)分析結果を示すグラフである。
【
図9C】
図9Cは、参考例5のアルミニウム板に関して、自動車用エンジンオイル浸漬・洗浄後の表面のX線光電分光法(XPS)分析結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例3~5、及び比較例8アルミニウム板に関する電気化学測定結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実施例3、及び比較例8~10のアルミニウム板に関する電気化学測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0019】
本開示の金属部材は、多孔質表面を有しており、前記多孔質表面が、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を含有している炭化水素系オイルによって直接に被覆されている。
【0020】
《金属部材》
本開示において、金属部材は、多孔質表面を有している。
【0021】
ここで、多孔質表面とは、金属部材の表面に形成されている多孔質の被膜であり、例えば金属部材と同種の金属の酸化物を有する酸化表面であってよい。更に具体的には、多孔質表面は、陽極酸化表面であってよい。
【0022】
なお、陽極酸化表面は、金属部材を陽極酸化することによって得ることができ、例えば、金属部材がAlの部材である場合には、アルマイト処理、より具体的にはAlを陽極(+極)として電解処理することにより酸化皮膜(Al2O3)を生成させる表面処理によって得ることができる。なお、アルマイト処理は、例えばJIS H8601又はJIS H8603等に基づいて行うことができるが、他の方法であってもよい。
【0023】
多孔質表面の厚さ及び孔径は特に限定されない。
【0024】
多孔質表面の厚さは、金属部材の用途に応じて適宜調整することができる。
【0025】
多孔質表面は、液体易滑性表面(SLIPS)であれば、その形状は限定されない。多孔質表面の各孔の孔径(直径)は、1nm以上5μm以下であってよい。多孔質表面は、マイクロスケール凹凸構造、ナノスケールの凹凸構造、あるいは、これらが混在する構造を有していることができ、更には、これらの階層構造を有していてもよい。
【0026】
例えば、多孔質表面がマイクロスケール凹凸構造を有している場合、多孔質表面の各孔の孔径(直径)は、0.1μm以上5μm以下であってよいが、0.1μm以上0.5μm以下であることが望ましい。
【0027】
また、多孔質表面がナノスケールの凹凸構造を有している場合、多孔質表面の各孔の孔径(直径)は、1nm以上100nm以下であってよいが、30nm以上100nm以下であることが望ましい。
【0028】
金属部材の材料は、多孔質表面を形成することができる任意の金属であってよく、例えば、金属部材はAl、Ti、Fe、若しくはMg、又はこれらの金属のいずれかの合金、又はステンレス鋼の部材であってよい。
【0029】
金属部材は、任意の用途に用いる部材であることができ、例えば車両用部材、より具体的には自動車用部材であってよい。
【0030】
金属部材が自動車用部材である場合、エンジンオイルが供給される部分に用いられるのが好ましい。この様な部分に本開示の金属部材を適用した場合、金属部材の表面から炭化水素系オイルとしてのエンジンオイルが脱離しても、金属部材に常にエンジンオイルを供給することができるためである。
【0031】
金属部材が自動車用部材である場合、金属部材はインタークーラー用部材であることができる。インタークーラーは、高温の空気が流入する装置であり、自動車の構成によっては排ガスも流入することから、自動車に設置される装置のなかでも腐食しやすい部材を有している。この様な部材としては、例えば熱交換器等を挙げることができる。したがって、この様な部材に本開示の金属部材を適用することで、インタークーラーの耐食性を向上させることができる。
【0032】
《炭化水素系オイル》
炭化水素系オイルは、少なくともジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を含んでいる。炭化水素系オイルは、パラフィン系オイル又はポリアルフォレフィンであってよい。また、炭化水素系オイルは、例えば潤滑油、具体的にはエンジンオイル、更に具体的には自動車用のエンジンオイルであってよい。
【0033】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)は、炭化水素系オイルに含有された状態において、金属部材の表面に撥水性を与える。より具体的には、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)は、これを含有する炭化水素系オイルを金属部材に塗布することによって、金属部材の表面に化学吸着等して撥液性の被膜を形成すると考えられる。
【0034】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)の濃度は、炭化水素系オイルに対して0.1質量%~30.0質量%であってよい。ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)の濃度は、0.1質量%以上、1.0質量%以上、2.0質量%以上、又は5.0質量%以上であってよく、30.0質量%以下、20.0質量%以下、10.0質量%以下、又は5.0質量%以下であってよい。
【実施例】
【0035】
《参考例1~4》
以下のようにして、参考例1~4の金属部材を作製し、各例における撥液性を評価した。
【0036】
〈参考例1〉
99.5%アルミニウム(Al)板を20mm×50mmの大きさに切り出し、超音波洗浄によりアセトン脱脂を10分間行った。次いで、酸化皮膜を除去するため1.0MのNaOH水溶液(60℃)に120秒間浸漬し、更に前過程で生じるスマットを除去するため1.0MのHNO3水溶液(60℃)に180秒間浸漬した。
【0037】
次に、陽極酸化を0.3MのH2SO4水溶液(15℃)にて極板間電圧25Vで180秒間行い、ナノメートルスケールの細孔をもつ陽極酸化皮膜を形成した。これは、上記の基板を作用極とし、別のAl板を対極とした2電極系で行った。
【0038】
その後、5wt%のH3PO4水溶液(30℃)に15分間浸漬することで細孔径の拡張を行った。
【0039】
最後に、酸素プラズマ処理を4分間施し表面を清浄化することにより、多孔質である陽極酸化表面を有するアルミニウム板を得た。
【0040】
〈参考例2〉
陽極酸化の前に化学エッチングを行い、マイクロメートルスケールのエッチピットを形成したことを除いて、参考例1と同様にして、階層構造を有するアルミニウム板を得た。
【0041】
〈参考例3〉
参考例1のアルミニウム板に対して、酸素プラズマ処理を行ったのち、1mMのCF3(CF2)7PO(OH)2(パーフルオロオクチルホスホン酸;FOPA)のエタノール溶液に2日間浸漬し、最後に大気雰囲気(100℃)で1時間熱処理を行うことにより、参考例1のアルミニウム板の表面に自己組織化有機単分子膜(SAM)を形成した。
【0042】
〈参考例4〉
参考例1のアルミニウム板に代えて、参考例2のアルミニウム板を用いたことを除いて、参考例3と同様にして、階層構造を有する参考例2のアルミニウム板の表面に自己組織化有機単分子膜(SAM)を形成した。
【0043】
〈撥液性の測定〉
(測定方法)
参考例1~4のアルミニウム板それぞれについて、水滴又は自動車用エンジンオイル滴の接触角を測定した。
【0044】
階層構造を有しない参考例1及び3のアルミニウム板については、静的接触角を測定し、階層構造を有している参考例2及び4のアルミニウム板については、動的接触角である前進接触角及び接触角ヒステリシスを測定した。
【0045】
(結果)
参考例1~4の構成と評価結果を表1及び
図1A~Cに示した。なお、表において、接触角の欄の括弧()の内部は、接触角ヒステリシスを示している。
【0046】
【0047】
図1Aは、参考例1のアルミニウム板の走査型顕微鏡(SEM)画像である。
図1Aに示すように、参考例1のアルミニウム板の表面には、陽極酸化によって多孔質のAl
2O
3被膜が形成されている。また、
図1Bに示すように、参考例2のアルミニウム板の表面には、エッチングによるマイクロメートルスケールのピット及び多孔質のAl
2O
3被膜による階層構造が形成されている。
【0048】
表1及び
図1Cに示すように、自己組織化有機単分子膜(SAM)を形成しなかった参考例1及び2のアルミニウム板は、水滴に対する接触角はそれぞれ4.6±1.2、及び~0であり、超親水性であった。これに対して、自己組織化有機単分子膜(SAM)を形成した参考例3及び4のアルミニウム板は、水滴に対する接触角はそれぞれ129.1±0.8、及び161.7±1.0であり、高い撥水性を有していた。
【0049】
また、階層構造を有し、かつ表面に自己組織化有機単分子膜(SAM)が形成されている、参考例4のアルミニウム板では、接触角が158.2±1.5という大きい値を示しており、自動車用エンジンオイル滴に対して高い撥液性を有していたのに対して、参考例1~3では、接触角90°以下であり、低い撥液性を有していた。
【0050】
このことは、少なくとも参考例1~3のアルミニウム板に関しては、自動車用エンジンオイルを油膜として形成できることを示している。
【0051】
《実施例1及び2、並びに比較例5~7》
以下のようにして、実施例1及び2、並びに比較例5~7のアルミニウム板を作成しその性能を評価した。
【0052】
〈実施例1及び2、並びに比較例5及び6〉
自動車用エンジンオイルを100μL量り取り、参考例1~4のアルミニウム板それぞれの表面に塗布して10分以上静置することで、実施例1及び2、並びに比較例5及び6のアルミニウム板を得た。
【0053】
なお、上記の参考例4に関する自動車用エンジンオイルの撥液性の評価において示したように、階層構造を有し、かつSAMコーティングを施した参考例4のアルミニウム板の表面上では、自動車用エンジンオイルが十分に濡れ広がらないため、あらかじめエンジンオイルに48時間浸漬して撥油性を劣化させた後、自動車用エンジンオイルを塗布した。
【0054】
〈比較例7〉
エッチングによる階層構造化、陽極酸化による多孔質化、及びSAMコーティングのいずれも施していないアルミニウム板に、実施例1と同様にして自動車用エンジンオイルを塗布したことを除いて、比較例7のアルミニウム板を得た。
【0055】
〈自動車用エンジンオイルにせん断力がかかる環境下におけるSLIPSの安定性の評価〉
(評価方法)
実施例1及び2、並びに比較例5のアルミニウム板に対して、自動車用エンジンオイルにせん断力がかかる環境下における自動車用エンジンオイルの保持性及びの液体滑落特性を評価した。これは、重力や風などにより潤滑油が喪失するような環境下におけるSLIPSの劣化を模擬することを目的としている。
【0056】
評価方法としては、まず、実施例1及び2、並びに比較例5のアルミニウム板それぞれについて、スピンコーターを用いて、回転速度が500rpmから7000rpm、回転時間が10秒から300秒の条件で回転させた。その後、残存する自動車用エンジンオイルの重量及び10μLの水滴の転落角を測定した。
【0057】
(結果)
測定結果を、
図2A~Cに示した。なお、
図2Aは、実施例1及び2、並びに比較例5のアルミニウム板それぞれについて、アルミニウム板の回転速度と自動車用エンジンオイルの残量との関係(回転時間:60秒)を示すグラフであり、
図2Bは、実施例1及び2、並びに比較例5のアルミニウム板それぞれについて、アルミニウム板の回転速度と10μLの水滴の転落角との関係(回転時間:60秒)を示すグラフであり、かつ
図2Cは、実施例1及び2、並びに比較例5のアルミニウム板それぞれについて、自動車用エンジンオイルの残量と10μLの水滴の転落角との関係(回転時間:10、60、300秒)を示すグラフである。
【0058】
図2Aに示すように、いずれのアルミニウム板においても、回転速度が増して自動車用エンジンオイルにかかる遠心力が増大すると、それに応じて自動車用エンジンオイルの残量は減少した。
【0059】
この残量は、階層構造を有していた実施例2のアルミニウム板において特に多かった。これは、階層構造を有するアルミニウム板がマイクロメートルスケールの凹凸を有し、そこに自動車用エンジンオイルが保持されたためであると考えられる。
【0060】
また、階層構造を有していなかった実施例1及び比較例5のアルミニウム板を比較すると、自動車用エンジンオイルの残量には大きな差はなかった。
【0061】
図2Bに示すように、水滴転落角については、階層構造を有しておらず、かつSAMコーティングを施していない実施例1のアルミニウム板でも、多孔質表面に自動車用エンジンオイルを塗布することによって、付着した水滴はある転落角をもって滑落することが確かめられた。実施例1のアルミニウム板自体の表面は、
図1Cに示すように親水性を示すため、単体ではSLIPSにはなりえないと考えられる。
【0062】
実施例1及び2、並びに比較例5のアルミニウム板を比較すると、水滴転落角は回転速度が増すとともに増大、すなわち撥水性が低下していくが、最も低下しやすかったのは、階層構造を有しておりかつSAMコーティングを施していない実施例2のアルミニウム板であり、逆に最も小さな水滴転落角を維持、すなわち撥水性を維持していたのは、階層構造を有しておらず、かつSAMコーティングを施していない実施例1のアルミニウム板であった。
【0063】
実施例2のアルミニウム板において水滴転落角が特に増大しやすかった理由としては、もともと平滑だった潤滑油膜が、潤滑油の喪失に応じて粗面の粗さを反映するようになり、潤滑油膜が粗面化して水滴との接触面積が増大したことが考えられる。
【0064】
自動車用エンジンオイルの残量と10μLの水滴の転落角との関係を見ても、潤滑油の残量が同じ場合に最も小さな水滴転落角(良好な撥水性)を示すのは、階層構造を有しておらず、かつSAMコーティングを施していなかった実施例1のアルミニウム板であった。
【0065】
以上より、
図2Cに示すように、実施例1及び2の様に、SAMコーティングを施していないアルミニウム板に自動車用エンジンオイルを直接に塗布して形成した表面は、比較例5のようにアルミニウム板にSAMコーティングを施して形成した表面と同様に、水滴を容易に滑落させることができるのみならず、潤滑油にせん断力がかかる環境下において最も高い安定性を維持することが示された。
【0066】
〈水中におけるSLIPSの安定性の評価〉
(評価方法)
酢酸と10g/LのNaCl水溶液(pH=3)とを1000rpmで攪拌して混合液を調製した。実施例1及び2、比較例3及び7のアルミニウム板をそれぞれこの混合液に浸漬し、所定の時間が経過したあとに取り出した。その後、各例のアルミニウム板上における10μLの水滴の転落角を測定した。なお、各例のアルミニウム板上における自動車用エンジンオイルの塗布量は、3.75μL/cm2であった。
【0067】
(結果)
図3は、実施例1及び2、比較例5及び7のアルミニウム板について、混合液への浸漬時間と、10μLの水滴の転落角との関係を示すグラフである。
【0068】
図3に示すように、水滴転落角は、どの例においても数日以内で測定限界である20°を超えてしまったが、小さな水滴転落角を最も長期間維持(すなわち高い撥水性を維持)したのは、SAMコーティングを施していない実施例1のアルミニウム板であった。一方、階層構造を有し、かつSAMコーティングを施していない実施例2のアルミニウム板では水滴転落が最も増大(すなわち撥水性が低下)しやすく、比較例7のアルミニウム板、すなわち階層構造化も多孔質化もされていない平滑なアルミニウム板に自動車用エンジンオイルを塗布したものよりも短期間で20°を超えた。
【0069】
このことから、SAMコーティングを施していないアルミニウム板に自動車用エンジンオイルを直接に塗布してSLIPSを形成する場合には、階層構造化しないほうが、より高い水中安定性を得られるといえる。
【0070】
〈耐食試験〉
実施例1及び2、並びに比較例1~6のアルミニウム板について、以下のようにして耐食性を評価した。
【0071】
(試験方法)
各例のアルミニウム板を、上記混合液に5日間浸漬したのち、基板の重量変化及び表面形態の変化等を観察した。
【0072】
【0073】
【0074】
表1において、「〇」は、耐食性が良好であったことを示しており、「×」は耐食性が無かったことを示している。
【0075】
図4は、実施例1及び2、並びに比較例1~6のアルミニウム板について耐食試験後の重量変化を示すグラフである。
【0076】
図4に示すように、自動車用エンジンオイルを塗布していなかった比較例1、比較例2、比較例3、及び比較例4のアルミニウム板では、いずれも0.5mg/cm
2~1.5mg/cm
2程度、重量が減少した。これは腐食によるアルミニウムの溶解に起因する。
【0077】
一方、自動車用エンジンオイルを塗布した実施例1及び実施例2、並びに比較例5及び6のアルミニウム板では、いずれも重量変化は0.1mg/cm2以下であり、腐食による重量減少が抑制できた。なお、実施例2、比較例5、及び比較例6のアルミニウム板では、耐食試験後にわずかに重量が増加している。これは、腐食試験後にこれらのアルミニウム板をアセトン等の有機溶媒で洗浄しても、わずかに白色生成物が残存したためである。なお、この白色生成物は、自動車用エンジンオイルの添加剤として含まれる中和剤と混合溶液との反応生成物であると考えられる。
【0078】
これらの結果は、多孔質化したアルミニウム板の上に自動車用エンジンオイルを塗布することで、多孔質化したアルミニウム板の上にSAMコーティングを施した場合と同等の耐食性が得られることを示している。
【0079】
実施例1、実施例2、比較例5、及び比較例6のアルミニウム板の耐食試験後における表面の状態を、走査型顕微鏡によって観察した。
【0080】
図5Aは、階層構造化を行わず、陽極酸化を行ったアルミニウム板の表面の、耐食試験前における走査型顕微鏡(SEM)画像であり、
図5B~Eは、それぞれ順に、比較例5、比較例3、実施例1、比較例1のアルミニウム板の表面の、耐食試験後における走査型顕微鏡(SEM)画像である。
【0081】
図5A、B、及びDを参照すると、多孔質化されており、かつ表面に自動車用エンジンオイルが塗布された比較例5及び実施例1のアルミニウム板を比較すると、SAMコーティングの有無にかかわらず、耐食試験後も試験前と同様のポーラス皮膜が残存しており、細孔構造が維持されていたといえる。
【0082】
これに対して、
図5Cに示すように、SAMコーティングのみを行い、表面に自動車用エンジンオイルを塗布しなかった比較例3では、陽極酸化表面が溶解し細孔構造が消失していた。また、SAMコーティングを施さず、かつ自動車用エンジンオイルも塗布しなかった比較例1では、陽極酸化表面のみでなく、素地のアルミニウム板まで大幅に溶解していた。
【0083】
また、
図6Aは、階層構造化を行い、かつ陽極酸化を行ったアルミニウム板の表面の、耐食試験前における走査型顕微鏡(SEM)画像であり、
図6B~Eは、それぞれ順に、比較例6、比較例4、実施例2、比較例2のアルミニウム板の表面の、耐食試験後における走査型顕微鏡(SEM)画像である。
【0084】
図6A、B、及びDを参照すると、階層構造を有し、多孔質化されており、かつ表面に自動車用エンジンオイルが塗布された比較例6及び実施例2のアルミニウム板を比較すると、SAMコーティングの有無にかかわらず、耐食試験後も試験前と同様のポーラス皮膜が残存しており、細孔構造が維持されていたといえる。
【0085】
これに対して、
図6Cに示すように、SAMコーティングのみを行い、表面に自動車用エンジンオイルを塗布しなかった比較例4では、陽極酸化表面が溶解し細孔構造が消失していた。また、SAMコーティングを施さず、かつ自動車用エンジンオイルも塗布しなかった比較例2では、陽極酸化表面のみでなく、素地のアルミニウム板まで大幅に溶解していた。
【0086】
これらの結果から、階層構造を有している場合及び有していない場合の両方において、多孔質化されたアルミニウム板の表面に直接に自動車用エンジンオイルを塗布することによって、多孔質化されたアルミニウム板の表面にSAMコーティングを施したものと同等の耐食性が得られるといえる。
【0087】
《参考例5及び6》
多孔質化されたアルミニウム板の表面に直接に自動車用エンジンオイルを塗布することによって、多孔質化されたアルミニウム板の表面にSAMコーティングを施したものと同等の耐食性が得られた理由を明らかにするために、自動車用エンジンオイルを塗布したあと、有機溶媒で洗浄し、その後、静的接触角測定とX線光電子分光法(XPS)による表面分析を行った。
【0088】
〈参考例5〉
図7に示すように、多孔質表面を有するアルミニウム板の上に、自動車用エンジンオイルを塗布(12.5μL/cm
2)し、24時間静置した。その後、このアルミニウム板をヘプタン中で超音波洗浄し、乾燥させることにより、参考例5のアルミニウム板を得た。
【0089】
〈参考例6〉
自動車用エンジンオイルを塗布しなかったことを除いて、参考例5と同様にして、参考例6のアルミニウム板を得た。
【0090】
〈アルミニウム板の表面状態の評価〉
(評価方法等)
参考例5及び6のアルミニウム板の表面の状態を、走査型顕微鏡(SEM)で観察した。また、これらのアルミニウム板の上に、10μLの水滴を乗せ、その接触角を測定した。また、参考例5のアルミニウム板について、自動車用エンジンオイル浸漬・洗浄後の表面をX線光電分光法(XPS)により分析を行った。
【0091】
(結果)
図8A及び8Bは、それぞれ参考例5及び6のアルミニウム板の表面の状態及び10μLの水滴を乗せたときの接触角を示す図である。
【0092】
図8Aに示すように、参考例5では、自動車用エンジンオイル浸漬後においても多孔質表面のナノ細孔が明瞭に観察されていることから、自動車用エンジンオイルは洗浄によって除去されていることがわかり、細孔径にも変化は見えない。
【0093】
しかしながら、
図8Bに示すように、エンジンオイルを塗布しなかった参考例6における水滴接触角は20°以下であり親水性表面であったのに対して、
図8Aに示すように、参考例5では、エンジンオイル浸漬・洗浄後は接触角が110°以上となっており、撥水性表面に変化していることが明瞭である。
【0094】
これは、おそらく自動車用エンジンオイル中の添加物が表面に化学吸着して表面改質が起こっているものと推察される。
【0095】
図9A~Cは、参考例5のアルミニウム板に関して、自動車用エンジンオイル浸漬・洗浄後の表面のX線光電分光法(XPS)分析結果を示すグラフである。
【0096】
自動車用エンジンオイル浸漬前に存在しないZnが、自動車用エンジンオイル浸漬・洗浄後には残存していた。
図9Bに示すS2pスペクトルからは、硫酸中でのアノード酸化に由来する硫酸イオンのピークが171eV付近に見られたが、それに加えて添加剤であるジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)由来と考えられる164eVのピークもエンジンオイル浸漬・洗浄後に現れた。
【0097】
以上の結果から、参考例5のアルミニウム板の表面において、自動車用エンジンオイル中のジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)が吸着して表面改質を行い、これにより表面自由エネルギーが低減してSAMなしでも安定なSLIPS状態となり、耐食性の大幅な改善につながったと考えられる。
【0098】
《実施例3~5、及び比較例8~10》
以下のようにして、実施例3~5、及び比較例8~10のアルミニウム板を作成しその耐食性を評価した。
【0099】
〈実施例3〉
参考例1と同様にして、多孔質である陽極酸化表面を有するアルミニウム板を作製した。このアルミニウム板の上に、基油にジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を添加したオイルを塗布することによって、実施例3のアルミニウム板を作製した。なお、オイル中におけるジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)の量は、オイル全体に対して、2質量%であった。
【0100】
〈実施例4及び5〉
オイル中におけるジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)の量を、それぞれ10質量%及び20質量%としたことを除いて、実施例3と同様にして実施例4及び5のアルミニウム板を作製した。
【0101】
〈比較例8〉
参考例1と同様にして、多孔質である陽極酸化表面を有するアルミニウム板を作製した。このアルミニウム板の上に、基油を塗布することによって、比較例8のアルミニウム板を作製した。
【0102】
〈比較例9〉
ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)に代えて、カルシウムスルホネートを基油に添加したオイルを用いたことを除いて、実施例3と同様にして、比較例9のアルミニウム板を作製した。なお、オイル中におけるカルシウムスルホネートの量は、オイル全体に対して、1質量%であった。
【0103】
〈比較例10〉
オイル中におけるカルシウムスルホネートの量を10質量%としたことを除いて、比較例9と同様にして比較例10のアルミニウム板を作製した。
【0104】
〈耐食性の評価〉
(評価方法)
実施例3~5、及び比較例8~10のアルミニウム板について、その耐食性を電気化学測定から評価した。腐食液としては、酢酸と10g/LのNaCl水溶液とを1000rpmで攪拌して調製した混合液(pH=3)を用いた。
【0105】
(結果)
図10は、実施例3~5、及び比較例8アルミニウム板に関する電気化学測定結果を示すグラフである。
【0106】
図10に示すように、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を添加していない基油を塗布した比較例8のアルミニウム板では、アノード電流密度は大きく、十分な腐食抑制効果が得られていなかった。これに対して、基油にジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を添加したオイルを塗布した実施例3~5のアルミニウム板では、電流密度は比較例8のアルミニウム板と比べて4桁以上低下しており、すなわち優れた耐食性を示した。
【0107】
また、
図11は、実施例3、及び比較例8~10のアルミニウム板に関する電気化学測定結果を示すグラフである。
【0108】
図11に示すように、基油を塗布した比較例8、及びジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)の代わりにカルシウムスルホネートを添加した比較例9及び10のアルミニウム板では、アノード電流密度は大きく、十分な腐食抑制効果が得られていなかった。