(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】温度センサ素子
(51)【国際特許分類】
G01K 7/16 20060101AFI20240402BHJP
G01K 7/22 20060101ALI20240402BHJP
H01C 7/04 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
G01K7/16 S
G01K7/22 A
H01C7/04
(21)【出願番号】P 2020023716
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2019068126
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早坂 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】九内 雄一朗
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03373310(EP,A1)
【文献】特開2004-335738(JP,A)
【文献】特開昭61-012975(JP,A)
【文献】特開平11-297506(JP,A)
【文献】国際公開第2018/138993(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 7/16-7/28
H01C 7/02,7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、前記一対の電極に接して配置される感温膜と、を含む温度センサ素子であって、
前記感温膜は、温度上昇に伴って電気抵抗値が減少するNTC特性を有し、
前記感温膜は、マトリクス樹脂と、前記マトリクス樹脂中に
分散される複数の導電性ドメインとを含み、
前記感温膜を構成する前記マトリクス樹脂は、X線回折法による測定に基づき下記式(I)に従って求められる分子パッキング度が40%以上である、温度センサ素子。
分子パッキング度(%)=100×(秩序構造由来のピークの面積)/(全ピークの合計面積) (I)
【請求項2】
前記導電性ドメインが導電性高分子を含む、請求項1に記載の温度センサ素子。
【請求項3】
一対の電極と、前記一対の電極に接して配置される感温膜と、を含む温度センサ素子であって、
前記感温膜は、温度上昇に伴って電気抵抗値が減少するNTC特性を有し、
前記感温膜は、X線回折法による測定に基づき下記式(I)に従って求められる分子パッキング度が40%以上であるマトリクス樹脂と、導電性粒子とを含む高分子組成物から形成され
、
前記導電性粒子は、前記感温膜において、前記マトリクス樹脂中に分散される複数の導電性ドメインを形成している、温度センサ素子。
分子パッキング度(%)=100×(秩序構造由来のピークの面積)/(全ピークの合計面積) (I)
【請求項4】
前記導電性粒子が導電性高分子を含む、請求項3に記載の温度センサ素子。
【請求項5】
前記マトリクス樹脂は、ポリイミド系樹脂を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の温度センサ素子。
【請求項6】
前記ポリイミド系樹脂は、芳香族環を含む、請求項5に記載の温度センサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度センサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
温度変化により電気抵抗値が変化する感温膜を備えるサーミスタ型温度センサ素子が従来公知である。従来、サーミスタ型温度センサ素子の感温膜には、無機半導体サーミスタが用いられてきた。無機半導体サーミスタは硬いため、これを用いた温度センサ素子にフレキシブル性を持たせることは通常困難である。
【0003】
特開平03-255923号公報(特許文献1)は、NTC特性(Negative Temperature Coefficient;温度上昇に伴って電気抵抗値が減少する特性)を有する高分子半導体を用いたサーミスタ型赤外線検知素子に関する。該赤外線検知素子は、赤外線入射による温度上昇を電気抵抗値の変化として検出することによって赤外線を検知するものであり、一対の電極と、部分ドープされた電子共役有機重合体を成分とする上記高分子半導体からなる薄膜とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された赤外線検知素子は、上記薄膜が有機物で構成されているため、該赤外線検知素子にフレキシブル性を付与することが可能となる。
しかし、特許文献1は、赤外線検知素子を一定温度の環境下に置いたときの指示値(電気抵抗値とも言う。)の変動を抑制すること(電気抵抗値の安定性)について考慮していない。
【0006】
本発明の目的は、有機物を含む感温膜を備えるサーミスタ型温度センサ素子であって、一定温度の環境下において安定した電気抵抗値を長時間示すことができる温度センサ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示す温度センサ素子を提供する。
[1] 一対の電極と、前記一対の電極に接して配置される感温膜と、を含む温度センサ素子であって、
前記感温膜は、マトリクス樹脂と、前記マトリクス樹脂中に含有される複数の導電性ドメインとを含み、
前記感温膜を構成する前記マトリクス樹脂は、X線回折法による測定に基づき下記式(I)に従って求められる分子パッキング度が40%以上である、温度センサ素子。
分子パッキング度(%)=100×(秩序構造由来のピークの面積)/(全ピークの合計面積) (I)
[2] 前記導電性ドメインが導電性高分子を含む、[1]に記載の温度センサ素子。
[3] 一対の電極と、前記一対の電極に接して配置される感温膜と、を含む温度センサ素子であって、
前記感温膜は、X線回折法による測定に基づき下記式(I)に従って求められる分子パッキング度が40%以上であるマトリクス樹脂と、導電性粒子とを含む高分子組成物から形成される、温度センサ素子。
分子パッキング度(%)=100×(秩序構造由来のピークの面積)/(全ピークの合計面積) (I)
[4] 前記導電性粒子が導電性高分子を含む、[3]に記載の温度センサ素子。
[5] 前記マトリクス樹脂は、ポリイミド系樹脂を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の温度センサ素子。
[6] 前記ポリイミド系樹脂は、芳香族環を含む、[5]に記載の温度センサ素子。
【発明の効果】
【0008】
一定温度の環境下において安定した電気抵抗値を長時間示すことができる温度センサ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る温度センサ素子の一例を示す概略上面図である。
【
図2】本発明に係る温度センサ素子の一例を示す概略断面図である。
【
図3】実施例1における温度センサ素子の作製方法を示す概略上面図である。
【
図4】実施例1における温度センサ素子の作製方法を示す概略上面図である。
【
図5】実施例1における温度センサ素子が備える感温膜のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る温度センサ素子(以下、単に「温度センサ素子」ともいう。)は、一対の電極と、該一対の電極に接して配置される感温膜とを含む。
図1は、温度センサ素子の一例を示す概略上面図である。
図1に示される温度センサ素子100は、第1電極101及び第2電極102からなる一対の電極と、第1電極101及び第2電極102の双方に接して配置される感温膜103とを含む。感温膜103は、その両端部がそれぞれ第1電極101、第2電極102上に形成されることによってこれらの電極に接している。
温度センサ素子は、第1電極101、第2電極102及び感温膜103を支持する基板104をさらに含むことができる(
図1参照)。
【0011】
図1に示される温度センサ素子100は、感温膜103が温度変化を電気抵抗値として検出するサーミスタ型の温度センサ素子である。
感温膜103は、温度上昇に伴って電気抵抗値が減少するNTC特性を有していてもよい。
【0012】
[1]第1電極及び第2電極
第1電極101及び第2電極102としては、感温膜103よりも電気抵抗値が十分に小さいものが用いられる。温度センサ素子が備える第1電極101及び第2電極102の電気抵抗値は、具体的には、温度25℃において、好ましくは500Ω以下であり、より好ましくは200Ω以下であり、さらに好ましくは100Ω以下である。
【0013】
第1電極101及び第2電極102の材質は、感温膜103よりも十分に小さい電気抵抗値が得られる限り特に制限されず、例えば、金、銀、銅、プラチナ、パラジウム等の金属単体;2種以上の金属材料を含む合金;酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の金属酸化物;導電性有機物(導電性のポリマー等)などであることができる。
第1電極101の材質と第2電極102の材質とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0014】
第1電極101及び第2電極102の形成方法は特に制限されず、蒸着、スパッタリング、コーティング(塗布法)等の一般的な方法であってよい。第1電極101及び第2電極102は、基板104に直接形成することができる。
第1電極101及び第2電極102の厚みは、感温膜103よりも十分に小さい電気抵抗値が得られる限り特に制限されないが、例えば50nm以上1000nm以下であり、好ましくは100nm以上500nm以下である。
【0015】
[2]基板
基板104は、第1電極101、第2電極102及び感温膜103を支持するための支持体である。
基板104の材質は、非導電性(絶縁性)である限り特に制限されず、熱可塑性樹脂等の樹脂材料、ガラス等の無機材料などであってよいが、基板104に樹脂材料を用いると、感温膜103がフレキシブル性を有していることから、温度センサ素子にフレキシブル性を付与することができる。
【0016】
基板104の厚みは、好ましくは、温度センサ素子のフレキシブル性及び耐久性等を考慮して設定される。基板104の厚みは、例えば10μm以上5000μm以下であり、好ましくは50μm以上1000μm以下である。
【0017】
[3]感温膜
図2は、温度センサ素子の一例を示す概略断面図である。
図2に示される温度センサ素子100のように、本発明に係る温度センサ素子において感温膜103は、マトリクス樹脂103aと、マトリクス樹脂103a中に含有される複数の導電性ドメイン103bとを含む。複数の導電性ドメイン103bは、マトリクス樹脂103a中に分散されていることが好ましい。
導電性ドメイン103bとは、温度センサ素子が備える感温膜103において、マトリクス樹脂103a中に含有される複数の領域であって、電子の移動に寄与する領域をいう。
【0018】
導電性ドメイン103bは、例えば、導電性高分子、金属、金属酸化物、黒鉛等の導電性成分を含むことができ、好ましくは導電性高分子、金属、金属酸化物、黒鉛等の導電性成分で構成される。導電性ドメイン103bは、1種又は2種以上の導電性成分を含むことができる。
金属としては、例えば、金、銅、銀、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、スズ、インジウム、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム、ベリリウム、チタン、ジルコニウム、マンガン、タンタル、ビスマス、アンチモン、パラジウム、及び、これらから選択される2種以上の合金等が挙げられる。
金属酸化物としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛リチウム-マンガン複合酸化物、五酸化バナジウム、酸化スズ、及び、チタン酸カリウム等が挙げられる。
中でも、導電性ドメイン103bは、感温膜103が示す電気抵抗値の温度依存性を高めるうえで有利となり得ることから、導電性高分子を含むことが好ましく、導電性高分子で構成されることがより好ましい。
【0019】
[3-1]導電性高分子
導電性ドメイン103bに含まれる導電性高分子は、共役高分子及びドーパントを含み、好ましくは、ドーパントがドープされた共役高分子である。
共役高分子は、通常、それ自体の電気伝導度が極めて低く、例えば1×10-6S/m以下であるように、電気伝導性をほとんど示さない。共役高分子自体の電気伝導度が低いのは、価電子帯に電子が飽和していて、電子が自由に移動できないためである。一方で、共役高分子は、電子が非局在化しているため、飽和ポリマーに比べてイオン化ポテンシャルが著しく小さく、また電子親和力が非常に大きい。したがって、共役高分子は、適切なドーパント、例えば電子受容体(アクセプター)又は電子供与体(ドナー)との間で電荷移動を起こしやすく、ドーパントが共役高分子の価電子帯から電子を引き抜くか、又は、伝導帯に電子を注入することができる。そのため、ドーパントをドープさせてなる共役高分子、すなわち導電性高分子では、価電子帯に少数のホール、又は、伝導帯に少数の電子が存在し、これが自由に移動できるために、導電性が飛躍的に向上する傾向にある。
【0020】
導電性高分子は、リード棒間の距離を数mm~数cmにして電気テスターで測った際の単品での線抵抗Rの値が、温度25℃において、好ましくは0.01Ω以上300MΩ以下の範囲である。
導電性高分子を構成する共役高分子とは、分子内に共役系構造を有するものであり、例えば二重結合と単結合とが交互に連なっている骨格を含有する高分子、共役する非共有電子対を有する高分子などが挙げられる。
このような共役高分子は、前述のように、ドーピングによって容易に電気伝導性を与えることが可能である。
【0021】
共役高分子としては、特に制限されないが、例えば、ポリアセチレン;ポリ(p-フェニレンビニレン);ポリピロール;ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)〔PEDOT〕等のポリチオフェン系高分子;ポリアニリン系高分子(ポリアニリン、及び置換基を有するポリアニリン等)などが挙げられる。ここで、ポリチオフェン系高分子とは、ポリチオフェン、ポリチオフェン骨格を有し、かつ側鎖に置換基が導入されている高分子、ポリチオフェン誘導体などである。本明細書において、「系高分子」というときは、同様の分子を意味する。
共役高分子は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
重合や同定の容易さの観点から、共役高分子は、ポリアニリン系高分子であることが好ましい。
【0023】
ドーパントとしては、共役高分子に対して電子受容体(アクセプター)として機能する化合物、及び、共役高分子に対して電子供与体(ドナー)として機能する化合物が挙げられる。
電子受容体であるドーパントとしては、特に制限されないが、例えば、Cl2、Br2、I2、ICl、ICl3、IBr、IF3等のハロゲン類;PF5、AsF5、SbF5、BF3、SO3等のルイス酸;HCl、H2SO4、HClO4等のプロトン酸;FeCl3、FeBr3、SnCl4等の遷移金属ハロゲン化物;テトラシアノエチレン(TCNE)、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(DDQ)、アミノ酸類、ポリスチレンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、カンファースルホン酸等の有機化合物などが挙げられる。
電子供与体であるドーパントとしては、特に制限されないが、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属;Be、Mg、Ca、Sc、Ba、Ag、Eu、Yb等のアルカリ土類金属又は他の金属などが挙げられる。
ドーパントは、共役高分子の種類に応じて適切に選択されることが好ましい。
ドーパントは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
感温膜103におけるドーパントの含有量は、導電性高分子の導電性の観点から、共役高分子1molに対して、好ましくは0.1mol以上であり、より好ましくは0.4mol以上である。また、当該含有量は、共役高分子1molに対して、好ましくは3mol以下であり、より好ましくは2mol以下である。
【0025】
感温膜103におけるドーパントの含有量は、導電性高分子の導電性の観点から、感温膜の質量を100質量%として、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上である。また、当該含有量は、感温膜に対して、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下である。
【0026】
導電性高分子の電気伝導度は、分子鎖内の電子伝導度、分子鎖間の電子伝導度及びフィブリル間の電子伝導度を合算したものである。
また、キャリア移動は一般的に、ホッピング伝導機構によって説明される。非晶領域の局在準位に存在する電子は、局在状態間の距離が近い場合、トンネル効果で隣接する局在準位に飛び移ることが可能である。局在状態間のエネルギーが異なる場合には、そのエネルギー差に応じた熱励起過程が必要となる。このような熱励起過程を伴うトンネル現象による伝導がホッピング伝導である。
【0027】
また、低温時やフェルミレベル近傍の状態密度が高い場合には、エネルギー差の大きい近傍の準位へのホッピングよりエネルギー差の小さい遠方の準位へのホッピングが優位になる。このような場合、広範囲ホッピング伝導モデル(Mott-VRHモデル)が適用される。
広範囲ホッピング伝導モデル(Mott-VRHモデル)から理解できるように、導電性高分子は、温度の上昇に伴って電気抵抗値が低下するNTC特性を有する。
【0028】
[3-2]マトリクス樹脂
感温膜103に含まれるマトリクス樹脂103aは、感温膜103中に複数の導電性ドメイン103bを固定するためのマトリクスである。
導電性高分子を含む複数の導電性ドメイン103bをマトリクス樹脂103a中に含有させる、好ましくは分散させることによって、導電性ドメイン間の距離をある程度離すことができる。これにより、温度センサ素子が検出する電気抵抗を、主に導電性ドメイン間のホッピング伝導(
図2において矢印で示すような電子移動)に由来する電気抵抗とすることができる。ホッピング伝導は、広範囲ホッピング伝導モデル(Mott-VRHモデル)から理解できるように、温度に対して高い依存性がある。したがって、ホッピング伝導を優位にすることで、感温膜103が示す電気抵抗値の温度依存性を高めることができる。
【0029】
導電性高分子を含む複数の導電性ドメイン103bをマトリクス樹脂103a中に含有させる、好ましくは分散させることにより、一定温度の環境下において安定した電気抵抗値を長時間示すことができる温度センサ素子を提供することができる。
また、導電性高分子を含む複数の導電性ドメイン103bをマトリクス樹脂103a中に含有させる、好ましくは分散させることにより、温度センサ素子の使用時に感温膜103にクラック等の欠陥が生じにくく、経時安定性に優れる感温膜103を有する温度センサ素子が得られる傾向にある。
【0030】
マトリクス樹脂103aとしては、例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物、熱硬化性樹脂の硬化物、熱可塑性樹脂等が挙げられる。中でも、熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
【0031】
熱可塑性樹脂としては、特に制限されず、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;セルロース系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系樹脂;アクリロニトリル・スチレン系樹脂;ポリ酢酸ビニル系樹脂;ポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアセタール系樹脂;変性ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリスルホン系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド系樹脂などが挙げられる。
マトリクス樹脂103aは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
本発明において、感温膜103を構成するマトリクス樹脂103aは、X線回折法による測定に基づき下記式(I)に従って求められる分子パッキング度が40%以上である。感温膜103は、X線回折法による測定に基づき下記式(I)に従って求められる分子パッキング度が40%以上であるマトリクス樹脂を含む高分子組成物(感温膜用高分子組成物)から形成されることが好ましい。これにより、一定温度の環境下において変動が少なく安定した電気抵抗値を長時間検出できる温度センサ素子を提供することができる。
分子パッキング度(%)=100×(秩序構造由来のピークの面積)/(全ピークの合計面積) (I)
【0033】
一定温度の環境下における電気抵抗値の安定性を向上させる観点から、マトリクス樹脂103aの分子パッキング度は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは65%以上である。温度センサ素子が高湿度の一定温度の環境下に置かれる場合等においても長時間安定した電気抵抗値を検出できるようにするためには、マトリクス樹脂103aの分子パッキング度は、50%以上であることが好ましい。マトリクス樹脂103aの分子パッキング度は、より好ましくは55%以上であり、さらに好ましくは60%以上であり、なおさらに好ましくは65%以上である。
分子パッキング度は、通常90%以下であり、より好ましくは85%以下である。
【0034】
上記式(I)において、秩序構造由来のピークとは、ピークの半値幅が10°以下であるピークをいう。半値幅が10°以下であるピークは、秩序構造に由来するピークであるといえる。半値幅が10°以下であるピークの例は、π-πスタッキング相互作用による高分子鎖の秩序的配列、水素結合による高分子鎖の秩序的配列に由来するピークなどがある。また、全ピークとは、秩序構造由来のピーク及びアモルファス由来のピークを意味する。アモルファス由来のピークとは、ピークの半値幅が10°を超えるピークをいう。半値幅が10°を超えるピークは、ランダムな構造、すなわちアモルファスな構造に由来するピークであるといえる。
【0035】
上記式(I)において、秩序構造由来のピークの面積とは、X線回折法による測定で得られるX線プロファイルについてGaussian関数でフィッティングを行い、ピーク分離したときの、上記で定義される秩序構造由来のピークの面積をいう。ここで、X線プロファイルは、2θ対強度のグラフであり、Gaussian関数でのフィッティングは、ガウス分布近似である。秩序構造由来のピークの面積は、2以上存在する場合はそれらの合計面積をいう。
【0036】
上記式(I)において、全ピークの合計面積とは、X線回折法による測定で得られるX線プロファイルについてGaussian関数でフィッティングを行い、ピーク分離したときの、上記で定義される全ピークの面積の合計をいう。ここで、X線プロファイルは、2θ対強度のグラフであり、Gaussian関数でのフィッティングは、ガウス分布近似である。
【0037】
X線回折法に用いるXRD測定装置としては通常のXRD装置を用いることができる。
【0038】
感温膜103を構成するマトリクス樹脂103aの分子パッキング度は、次のようにして作製されるマトリクス樹脂から形成される膜を測定サンプルとして、これをX線回折法により測定することができる。例えば、以下の方法で測定することができる。まず、マトリクス樹脂103aが溶解する溶媒かつ導電性高分子に対して貧溶媒である溶媒を感温膜103に添加し、遠心分離を行う。上澄み液を取り出し、この上澄み液を用いて、ガラス基板上にスピンコート又はキャスト法で膜を作製後、オーブンにて100℃で2時間乾燥させて、マトリクス樹脂の膜M1を作製する。次に、膜M1をX線回折法により測定する。
【0039】
一方、感温膜用高分子組成物に含まれるマトリクス樹脂の分子パッキング度は、該高分子組成物の調製に用いるマトリクス樹脂から形成される膜を測定サンプルとして、これをX線回折法により測定することができる。例えば、以下の方法で測定することができる。まず、ガラス基板等の基板上にマトリクス樹脂を塗布してマトリクス樹脂の膜M2を作製する。次に、膜M2をX線回折法により測定する。
【0040】
マトリクス樹脂の膜M1及びM2のいずれをX線回折法により測定する場合においても、マトリクス樹脂の膜表面に対する入射角を微小な角度(約1°以下)に固定し、走査する。走査は、計数器軸のみを走査することが好ましい。これにより、X線の侵入深さをμmオーダー程度に抑えることができるため、基板からの信号を抑えつつ、マトリクス樹脂の膜からの信号の検出感度を高めることができる。
【0041】
例えば、感温膜用高分子組成物に含まれるマトリクス樹脂の分子パッキング度は、後述する[実施例]に記載される方法に従って測定することができる。
【0042】
感温膜103を構成するマトリクス樹脂103a又は感温膜用高分子組成物に含まれるマトリクス樹脂の分子パッキング度が40%以上であると、当該マトリクス樹脂は、その高分子鎖が十分に密に詰まっていると言える。マトリクス樹脂の高分子鎖が十分に密に詰まっていることにより、感温膜103への水分の侵入を効果的に抑制することができる結果、一定温度の環境下における温度センサ素子の電気抵抗値の安定性を向上させることができる。
【0043】
感温膜103への水分の侵入の抑制は、下記1)及び2)に示されるような測定精度の低下の抑制にも寄与することができる。
1)感温膜103中に水分が拡散すると、水によるイオンチャンネルが形成されて、イオン電導等による電気伝導度の上昇が生じる傾向にある。イオン電導等による電気伝導度の上昇は、温度変化を電気抵抗値として検出するサーミスタ型温度センサ素子の測定精度を低下させ得る。
2)感温膜103中に水分が拡散すると、マトリクス樹脂103aの膨潤が生じ、導電性ドメイン103b間の距離が広がる傾向にある。このことは、温度センサ素子が検出する電気抵抗値の増加を招き、測定精度を低下させ得る。
【0044】
感温膜103を構成するマトリクス樹脂103a又は感温膜用高分子組成物に含まれるマトリクス樹脂の分子パッキング度が40%以上であることは、上記のような測定精度の低下の抑制に寄与するため、その結果、一定温度の環境下における温度センサ素子の電気抵抗値の安定性を向上させることができると考えられる。
【0045】
分子パッキング性は、分子間相互作用に基づくものである。したがって、マトリクス樹脂の分子パッキング性を高めるための一つの手段は、分子間相互作用を生じさせやすい官能基又は部位を高分子鎖に導入することである。
上記官能基又は部位としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等のように水素結合を形成することができる官能基や、π-πスタッキング相互作用を生じさせることができる官能基又は部位(例えば芳香族環等の部位)などが挙げられる。
【0046】
とりわけ、マトリクス樹脂としてπ-πスタッキングできる高分子を用いると、π-πスタッキング相互作用によるパッキングが分子全体に均一に及びやすいため、感温膜103への水分の侵入をより効果的に抑制することができる。
また、マトリクス樹脂としてπ-πスタッキングできる高分子を用いると、分子間相互作用を生じさせる部位が疎水性であるため、感温膜103への水分の侵入をより効果的に抑制することができる。
【0047】
結晶性樹脂及び液晶性樹脂もまた、高度な秩序構造を有しているため、分子パッキング度の高いマトリクス樹脂103aとして好適である。
ただし、分子パッキング度が過度に高いと、溶媒溶解性が低くなって感温膜の製膜が困難となる。また、膜が剛直になり、割れやすくフレキシブル性が低下する。したがって、マトリクス樹脂の分子パッキング度は、好ましくは90%以下であり、より好ましくは85%以下である。
【0048】
感温膜103の耐熱性及び感温膜103の製膜性等の観点から、マトリクス樹脂として好ましく用いられる樹脂の一つは、ポリイミド系樹脂である。π-πスタッキング相互作用を生じやすいことから、ポリイミド系樹脂は、芳香族環を含むことが好ましく、主鎖に芳香族環を含むことがより好ましい。
【0049】
ポリイミド系樹脂は、例えば、ジアミン及びテトラカルボン酸を反応させたり、これらに加えて酸塩化物を反応させることによって得ることができる。ここで、上記のジアミン及びテトラカルボン酸は、それぞれの誘導体も含むものである。本明細書中で単に「ジアミン」と記載した場合、ジアミン及びその誘導体を意味し、単に「テトラカルボン酸」と記載したときも同様にその誘導体も意味する。
ジアミン及びテトラカルボン酸は、それぞれ、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
上記ジアミンとしては、ジアミン、ジアミノジシラン類等が挙げられ、好ましくはジアミンである。
ジアミンとしては、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン、又はこれらの混合物が挙げられ、好ましくは芳香族ジアミンを含む。芳香族ジアミンを用いることにより、π-πスタッキングできるポリイミド系樹脂を得ることが可能となる。
芳香族ジアミンとは、アミノ基が芳香族環に直接結合しているジアミンをいい、その構造の一部に脂肪族基、脂環基又はその他の置換基を含んでいてもよい。脂肪族ジアミンとは、アミノ基が脂肪族基又は脂環基に直接結合しているジアミンをいい、その構造の一部に芳香族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。
構造の一部に芳香族基を有する脂肪族ジアミンを用いることによっても、π-πスタッキングできるポリイミド系樹脂を得ることが可能である。
【0051】
芳香族ジアミンとしては、例えば、フェニレンジアミン、ジアミノトルエン、ジアミノビフェニル、ビス(アミノフェノキシ)ビフェニル、ジアミノナフタレン、ジアミノジフェニルエ-テル、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ジアミノジフェニルスルフィド、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ジアミノジフェニルスルホン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノジフェニルメタン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビスアミノフェニルプロパン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビスアミノフェノキシベンゼン、ビス[(アミノ-α,α’-ジメチルベンジル)]ベンゼン、ビスアミノフェニルジイソプロピルベンゼン、ビスアミノフェニルフルオレン、ビスアミノフェニルシクロペンタン、ビスアミノフェニルシクロヘキサン、ビスアミノフェニルノルボルナン、ビスアミノフェニルアダマンタン、上記化合物中の1個以上の水素原子がフッ素原子又はフッ素原子を含む炭化水素基(トリフルオロメチル基等)に置き換わった化合物などが挙げられる。
芳香族ジアミンは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
フェニレンジアミンとしては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミンなどが挙げられる。
ジアミノトルエンとしては、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエンなどが挙げられる。
ジアミノビフェニルとしては、ベンジジン(別称:4,4’-ジアミノビフェニル)、o-トリジン、m-トリジン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(BAPA)、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニルなどが挙げられる。
ビス(アミノフェノキシ)ビフェニルとしては、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、3,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(2-メチル-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルなどが挙げられる。
【0053】
ジアミノナフタレンとしては、2,6-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレンなどが挙げられる。
ジアミノジフェニルエ-テルとしては、3,4’-ジアミノジフェニルエ-テル、4,4’-ジアミノジフェニルエ-テルなどが挙げられる。
ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]エーテルとしては、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エ-テル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エ-テル、ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エ-テル、ビス(4-(2-メチル-4-アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(4-(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)フェニル)エーテルなどが挙げられる。
【0054】
ジアミノジフェニルスルフィドとしては、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィドが挙げられる。
ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルフィドとしては、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[3-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[3-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィドなどが挙げられる。
ジアミノジフェニルスルホンとしては、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルホンとしては、ビス[3-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェニル)]スルホン、ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェニル)]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(2-メチル-4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホンなどが挙げられる。
ジアミノベンゾフェノンとしては、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0055】
ジアミノジフェニルメタンとしては、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。
ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]メタンとしては、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタンなどが挙げられる。
ビスアミノフェニルプロパンとしては、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)プロパン等が挙げられる。
ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]プロパンとしては、2,2-ビス[4-(2-メチル-4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、などが挙げられる。
【0056】
ビスアミノフェノキシベンゼンとしては、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(2-メチル-4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(2-メチル-4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェノキシ)ベンゼンなどが挙げられる。
ビス(アミノ-α,α’-ジメチルベンジル)ベンゼン(別称:ビスアミノフェニルジイソプロピルベンゼン)としては、1,4-ビス(4-アミノ-α,α’-ジメチルベンジル)ベンゼン(BiSAP、別称:α,α’-ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン)、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-メチルフェノキシ)-α,α’-ジメチルベンジル]ベンゼン、α,α’-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(3-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)-1,3-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)-1,3-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)-1,3-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(3-アミノフェニル)-1,3-ジイソプロピルベンゼンなどが挙げられる。
【0057】
ビスアミノフェニルフルオレンとしては、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
ビスアミノフェニルシクロペンタンとしては、1,1-ビス(4-アミノフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)シクロペンタンなどが挙げられる。
ビスアミノフェニルシクロヘキサンとしては、1,1-ビス(4-アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-アミノフェニル)4-メチル-シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0058】
ビスアミノフェニルノルボルナンとしては、1,1-ビス(4-アミノフェニル)ノルボルナン、1,1-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)ノルボルナン、1,1-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)ノルボルナンなどが挙げられる。
ビスアミノフェニルアダマンタンとしては、1,1-ビス(4-アミノフェニル)アダマンタン、1,1-ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)アダマンタン、1,1-ビス(2,6-ジメチル-4-アミノフェニル)アダマンタンなどが挙げられる。
【0059】
脂肪族ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ポリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,4-ビス(2-アミノ-イソプロピル)ベンゼン、1,3-ビス(2-アミノ-イソプロピル)ベンゼン、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、シロキサンジアミン類、上記化合物において1個以上の水素原子がフッ素原子又はフッ素原子を含む炭化水素基(トリフルオロメチル基等)に置き換わった化合物等が挙げられる。
脂肪族ジアミンは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0060】
テトラカルボン酸としては、テトラカルボン酸、テトラカルボン酸エステル類、テトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、好ましくはテトラカルボン酸二無水物を含む。
【0061】
テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,4-ヒドロキノンジベンゾエ-ト-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(ODPA)、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(HPMDA)、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4、4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物;
2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン等のテトラカルボン酸の二無水物;
上記化合物において1個以上の水素原子がフッ素原子又はフッ素原子を含む炭化水素基(トリフルオロメチル基等)に置き換わった化合物;
等が挙げられる。
テトラカルボン酸二無水物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
酸塩化物としては、テトラカルボン酸化合物、トリカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の酸塩化物が挙げられ、なかでもジカルボン酸化合物の酸塩化物を使用することが好ましい。ジカルボン酸化合物の酸塩化物の例としては、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)〔OBBC〕、テレフタロイルクロリド(TPC)などが挙げられる。
【0063】
マトリクス樹脂103aがフッ素原子を含むと、感温膜103に水分が侵入するのをより効果的に抑制できる傾向にある。フッ素原子を含むポリイミド系樹脂は、その調製に用いるジアミン及びテトラカルボン酸の少なくともいずれか一方にフッ素原子を含むものを用いることによって調製することができる。
フッ素原子を含むジアミンの一例は、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)である。フッ素原子を含むテトラカルボン酸の一例は、4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物(6FDA)である。
【0064】
ポリイミド系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは20000以上であり、より好ましくは50000以上であり、また、好ましくは1000000以下であり、より好ましくは500000以下である。
重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフ装置によって求めることができる。
【0065】
マトリクス樹脂103aは、それを構成する全樹脂成分を100質量%とするとき、ポリイミド系樹脂を、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、なおさらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは100質量%含む。ポリイミド系樹脂は、好ましくは芳香族環を含むポリイミド系樹脂であり、より好ましくは、芳香族環及びフッ素原子を含むポリイミド系樹脂である。
【0066】
一方で、製膜性の観点からは、マトリクス樹脂103aは製膜しやすい特性を有するものが好ましい。その一例として、マトリクス樹脂103aは、ウェット製膜性に優れる可溶性樹脂であることが好ましい。このような特性を与える樹脂構造としては、主鎖に適度に屈曲構造があるものが挙げられ、例えば、主鎖にエーテル結合を含有させて屈曲させる方法、主鎖にアルキル基などの置換基を導入して立体障害で屈曲させる方法などが挙げられる。
【0067】
[3-3]感温膜の構成
感温膜103は、マトリクス樹脂103aと、マトリクス樹脂103a中に含有される複数の導電性ドメイン103bとを含む構成を有する。複数の導電性ドメイン103bは、マトリクス樹脂103a中に分散されていることが好ましい。導電性ドメイン103bは、共役高分子及びドーパントを含む導電性高分子を含むことが好ましく、より好ましくは導電性高分子で構成される。
【0068】
感温膜103において、共役高分子及びドーパントの合計の含有量は、感温膜103への水分の侵入を効果的に抑制する観点から、マトリクス樹脂103a、共役高分子及びドーパントの合計量100質量%に対して、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以下であり、なおさらに好ましくは60質量%以下である。共役高分子及びドーパントの合計の含有量が90質量%を超えると、感温膜103におけるマトリクス樹脂103aの含有量が小さくなるため、感温膜103への水分の侵入を抑制する効果が低下する傾向にある。
【0069】
温度センサ素子の電力消費低減の観点及び温度センサ素子の正常作動の観点から、感温膜103において、共役高分子及びドーパントの合計の含有量は、マトリクス樹脂103a、共役高分子及びドーパントの合計量100質量%に対して、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上であり、なおさらに好ましくは30質量%以上である。
【0070】
共役高分子及びドーパントの合計の含有量が小さいと、電気抵抗が大きくなる傾向にあり、測定に必要な電流が増えるため電力消費が著しく大きくなることがある。また、共役高分子及びドーパントの合計の含有量が小さいため、電極間の導通が得られないことがある。共役高分子及びドーパントの合計の含有量が小さいと、流れる電流によってジュール熱が発生することがあり、温度測定そのものが困難になることもある。したがって、導電性高分子を形成しうる共役高分子及びドーパントの合計の含有量は、上記の範囲内であることが好ましい。
【0071】
感温膜103の厚みは、特に制限されないが、例えば、0.3μm以上50μm以下である。温度センサ素子のフレキシブル性の観点から、感温膜103の厚みは、好ましくは0.3μm以上40μm以下である。
【0072】
[3-4]感温膜の作製
感温膜103は、導電性ドメイン103bが導電性高分子を含む場合、共役高分子、ドーパント、マトリクス樹脂(例えば熱可塑性樹脂)及び溶剤を攪拌混合することで感温膜用高分子組成物を調製し、この組成物から製膜することで得られる。成膜方法としては、例えば、基板104上に感温膜用高分子組成物を塗布し、次いでこれを乾燥し、必要に応じてさらに熱処理する方法が挙げられる。感温膜用高分子組成物の塗布方法としては、特に制限されず、例えば、スピンコート法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、ディップコート法、エアーナイフコート法、ロールコート法、グラビアコート法、ブレードコート法、滴下法等が挙げられる。
【0073】
マトリクス樹脂103aを活性エネルギー線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂から形成する場合には、硬化処理がさらに施される。活性エネルギー線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂を用いる場合には、感温膜用高分子組成物への溶剤の添加が不要な場合があり、この場合、乾燥処理も不要である。
【0074】
導電性ドメイン103bが導電性高分子で形成される場合、感温膜用高分子組成物では、通常、共役高分子とドーパントとが導電性高分子の粒子(導電性粒子)を形成しており、これが該組成物中に分散されている。本明細書では、感温膜用高分子組成物に存在する該導電性高分子等の導電性ドメイン103bを形成する粒子を、「導電性粒子」ともいう。感温膜用高分子組成物中の導電性粒子が、感温膜103中の導電性ドメイン103bを形成する。
【0075】
感温膜用高分子組成物(溶剤を除く)におけるマトリクス樹脂の含有量と、該組成物から形成される感温膜103におけるマトリクス樹脂の含有量とは実質的に同じである。導電性ドメイン103bが導電性高分子以外の材料で形成される場合においても同様である。
感温膜用高分子組成物に含まれる各成分の含有量は、溶剤を除く感温膜用高分子組成物の各成分の合計に対する各成分の含有量であるが、感温膜用高分子組成物から形成される感温膜103における各成分の含有量と実質的に同じであることが好ましい。
【0076】
導電性ドメイン103bが導電性高分子で形成される場合、製膜性の観点から、感温膜用高分子組成物に含まれる溶剤は、共役高分子、ドーパント及びマトリクス樹脂を溶解可能な溶剤であることが好ましい。
溶剤は、使用する共役高分子、ドーパント及びマトリクス樹脂の溶剤への溶解性等に応じて選択されることが好ましい。
使用可能な溶剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、N-メチルホルムアミド、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチレンスルホン、ジメチルスルホキシド、m-クレゾ-ル、フェノ-ル、p-クロルフェノール、2-クロル-4-ヒドロキシトルエン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジオキサン、γ-ブチロラクトン、ジオキソラン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、1,4-ジオキサン、イプシロンカプロラクタム、ジクロロメタン、クロロホルム等が挙げられる。
溶剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0077】
感温膜用高分子組成物は、酸化防止剤、難燃剤、可塑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を1種又は2種以上含んでいてもよい。
【0078】
導電性ドメイン103bが導電性高分子で形成される場合、感温膜用高分子組成物における共役高分子、ドーパント及びマトリクス樹脂の合計含有量は、感温膜用高分子組成物の固形分(溶剤以外の全成分)を100質量%とするとき、好ましくは90質量%以上である。該合計含有量は、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは98質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0079】
[4]温度センサ素子
温度センサ素子は、上記した構成要素以外の他の構成要素を含むことができる。他の構成要素としては、例えば、電極、絶縁層、感温膜を封止する封止層等、温度センサ素子に一般的に使用されるものが挙げられる。
【0080】
上記感温膜を含む温度センサ素子は、一定の温度である環境下に置かれた際に、検出される電気抵抗値に変動がみられにくく、従来の温度センサ素子よりも正確に温度を測定することができる。このことは、温度センサ素子を一定温度の環境下に静置し、静置時間における電気抵抗値の変動を測定することで評価でき、例えば以下の方法で評価することができる。
【0081】
まず、温度センサ素子の一対の電極と市販のデジタルマルチメータとをリード線で繋ぎ、市販のペルチェ温度コントローラを用いて温度センサ素子の温度を所定の温度に調整する。温度センサ素子が所定温度に調整されてから一定時間経過後の電気抵抗値R1と、さらに一定時間経過後の電気抵抗値R2とを測定する。電気抵抗値R1及びR2は、温度センサが使用されうる温度範囲の2点において、測定されることが好ましい。なお、後述の実施例では、温度センサ素子を温度20℃又は50℃にそれぞれ調整し、調整されてから5分後に電気抵抗値R1を、60分後に電気抵抗値R2をそれぞれ測定している。
【0082】
以上のようにして測定した電気抵抗値を下記式に代入し、電気抵抗値の変化率r(%)を求めることができる。
r(%)=100×(|R1-R2|/R1)
【0083】
変化率r(%)は、その数値が小さいほど、一定の温度である環境下に置かれた際に、温度センサ素子で検出される電気抵抗値に変動が生じにくいことを意味する。温度センサ素子は、温度変化を電気抵抗値として検出するため、このような温度センサ素子によれば、一定の温度の環境下でみられる温度変化が少なく、温度をより正確に測定することができる。
【0084】
変化率r(%)は、1%以下であることが好ましい。より好ましくは0.95%以下であり、さらに好ましくは0.9%以下である。変化率r(%)は、0%に近いほど好ましい。変化率r(%)は、2点以上の温度において上記の変化率の範囲であることが好ましい。2点以上の温度において上記の変化率であると、温度センサが適用される温度範囲において、温度をより正確に測定することができる傾向にあるため好ましい。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ない限り、質量基準である。
【0086】
(製造例1:脱ドープされたポリアニリンの調製)
脱ドープされたポリアニリンは、下記[1]及び[2]に示す通り、塩酸ドープされたポリアニリンを調製し、これを脱ドープすることで調製した。
【0087】
[1]塩酸ドープされたポリアニリンの調製
アニリン塩酸塩(関東化学(株)製)5.18gを水50mLに溶解させて第1水溶液を調製した。また、過硫酸アンモニウム(富士フィルム和光純薬(株)製)11.42gを水50mLに溶解させて第2水溶液を調製した。
次に、第1水溶液を35℃に温調しながら、マグネティックスターラを用いて400rpmで10分間攪拌し、その後、同温度で攪拌しながら、第1水溶液に第2水溶液を5.3mL/minの滴下速度で滴下した。滴下後、反応液を35℃に保ったまま、さらに5時間反応させたところ、反応液に固体が析出した。
その後、ろ紙(JIS P 3801化学分析用2種)を用いて反応液を吸引濾過し、得られた固体を水200mLで洗浄した。その後、0.2M塩酸100mL、次いでアセトン200mLで洗浄した後に真空オーブンで乾燥させて、下記式(1)で表される塩酸ドープされたポリアニリンを得た。
【0088】
【0089】
[2]脱ドープされたポリアニリンの調製
上記[1]で得られた塩酸ドープされたポリアニリンの4gを、100mLの12.5質量%のアンモニア水に分散させ、マグネティックスターラで約10時間攪拌したところ、反応液に固体が析出した。
その後、ろ紙(JIS P 3801化学分析用2種)を用いて反応液を吸引濾過し、得られた固体を水200mL、次いでアセトン200mLで洗浄した。その後、50℃で真空乾燥させて、下記式(2)で表される脱ドープされたポリアニリンを得た。濃度が5質量%となるように、脱ドープされたポリアニリンをN-メチルピロリドン(NMP;東京化成工業(株))に溶解させて、脱ドープされたポリアニリン(共役高分子)の溶液を調製した。
【0090】
【0091】
(製造例2:マトリクス樹脂1の調製)
国際公開第2017/179367号の実施例1の記載に従って、ジアミンとして下記式(3)で表される2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)を、テトラカルボン酸二無水物として下記式(4)で表される4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物(6FDA)をそれぞれ用いて、下記式(5)で表される繰り返し単位を有するポリイミドの粉体を製造した。
濃度が8質量%となるように上記粉体をプロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタートに溶解させて、ポリイミド溶液(1)を調製した。以下の実施例では、マトリクス樹脂1としてポリイミド溶液(1)を用いている。
【0092】
【0093】
(製造例3:マトリクス樹脂2の調製)
特開2018-119132号公報の実施例5に従って、窒素ガス雰囲気下、撹拌翼を備えた1Lセパラブルフラスコに、上記式(3)で表されるTFMB 52g(162.38mmol)及びジメチルアセトアミド(DMAc)884.53gを加え、室温で撹拌しながらTFMBをDMAcに溶解させた。
次に、上記式(4)で表される6FDA 17.22g(38.79mmol)をフラスコに添加し、室温で3時間撹拌した。
その後、下記式(6)で表される4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)〔OBBC〕4.80g(16.26mmol)、次いでテレフタロイルクロリド(TPC)19.81g(97.57mmol)をフラスコに加え、室温で1時間撹拌した。
次いで、ピリジン8.73g(110.42mmol)と無水酢酸19.92g(195.15mmol)とをフラスコに加え、室温で30分間撹拌後、オイルバスを用いて70℃に昇温し、さらに3時間撹拌し、反応液を得た。
得られた反応液を室温まで冷却し、大量のメタノール中に糸状に投入し、析出した沈殿物を取り出し、メタノールに6時間浸漬後、メタノールで洗浄した。
次に、100℃にて沈殿物の減圧乾燥を行って、ポリイミドの粉体を得た。
濃度が8質量%となるように上記粉体をγ-ブチロラクトンに溶解させて、ポリイミド溶液(2)を調製した。以下の実施例では、マトリクス樹脂2としてポリイミド溶液(2)を用いている。
【0094】
【0095】
(製造例4:マトリクス樹脂3の調製)
ジアミンとして下記式(7)で表される4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、及び、下記式(8)で表される1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン(BiSAP)を用い、テトラカルボン酸二無水物として下記式(9)で表される1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(HPMDA)を用いた。BAPB:BiSAP:HPMDAのモル比を、0.5:0.5:1としたこと以外は、特開2016-186004号公報の合成例2の記載に従ってポリイミド溶液を得、同公報の実施例2の記載に従ってポリイミド粉体を得た。
濃度が8質量%となるように上記粉体をγ-ブチロラクトンに溶解させて、ポリイミド溶液(3)を調製した。以下の実施例では、マトリクス樹脂3としてポリイミド溶液(3)を用いている。
【0096】
【0097】
(製造例5:マトリクス樹脂4の調製)
濃度が8質量%となるようにポリビニルアルコール(Sigma-Aldrich社製、重量平均分子量:89000~90000)を蒸留水に溶解させて、ポリビニルアルコール溶液(1)を調製した。以下の実施例では、マトリクス樹脂4としてポリビニルアルコール溶液(1)を用いている。
【0098】
(製造例6:マトリクス樹脂5の調製)
濃度が8質量%となるようにポリアクリル酸(富士フィルム和光純薬(株)製、重量平均分子量:25000)を蒸留水に溶解させて、ポリアクリル酸溶液(1)を調製した。以下の実施例では、マトリクス樹脂5としてポリアクリル酸溶液(1)を用いている。
【0099】
(製造例7:マトリクス樹脂6の調製)
濃度が8質量%となるようにポリスチレン(Sigma-Aldrich社製、重量平均分子量:~350000、数平均分子量:~170000)をトルエンに溶解させて、ポリスチレン溶液(1)を調製した。以下の実施例では、マトリクス樹脂6としてポリスチレン溶液(1)を用いている。
【0100】
<実施例1>
[1]感温膜用高分子組成物の調製
製造例1で調製した脱ドープされたポリアニリンの溶液0.500gと、NMP(東京化成工業(株))0.920gと、マトリクス樹脂1としてポリイミド溶液(1)0.730gと、ドーパントとしての(+)-カンファースルホン酸(東京化成工業(株))0.026gとを混合して、感温膜用高分子組成物を調製した。
【0101】
[2]温度センサ素子の作製
図3及び
図4を参照しながら、温度センサ素子の作製手順について説明する。
図3を参照して、1辺5cmの正方形のガラス基板(コーニング社の「イーグルXG」)の一方の表面上に、イオンコータ((株)エイコー製「IB-3」)を用いたスパッタリングによって、長さ2cm×幅3mmの長方形のAu電極を一対形成した。
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた断面観察によるAu電極の厚みは、200nmであった。
次に、
図4を参照して、ガラス基板上に形成した一対のAu電極の間に、上記[1]で調製した感温膜用高分子組成物を200μL滴下した。滴下によって形成された感温膜用高分子組成物の膜は、双方の電極に接していた。その後、常圧下50℃で2時間及び真空下50℃で2時間の乾燥処理を行った後、100℃で約1時間の熱処理を行うことにより感温膜を形成して、温度センサ素子を作製した。感温膜の厚みをDektak KXT(BRUKER社製)で測定したところ、30μmであった。
【0102】
<実施例2>
実施例1のポリイミド溶液(1)を、マトリクス樹脂2としてのポリイミド溶液(2)に変更した以外は、実施例1と同様にして感温膜用高分子組成物を調製した。この感温膜用高分子組成物を用い、実施例1と同様にして感温膜を形成して温度センサ素子を作製した。実施例1と同様にして感温膜の厚みを測定したところ、30μmであった。
【0103】
<実施例3>
実施例1のポリイミド溶液(1)を、マトリクス樹脂3としてのポリイミド溶液(3)に変更した以外は、実施例1と同様にして感温膜用高分子組成物を調製した。この感温膜用高分子組成物を用い、実施例1と同様にして感温膜を形成して温度センサ素子を作製した。実施例1と同様にして感温膜の厚みを測定したところ、30μmであった。
【0104】
<比較例1>
実施例1のポリイミド溶液(1)を、マトリクス樹脂4としてのポリビニルアルコール溶液(1)に変更した以外は、実施例1と同様にして感温膜用高分子組成物を調製した。この感温膜用高分子組成物を用い、実施例1と同様にして感温膜を形成して温度センサ素子を作製した。実施例1と同様にして感温膜の厚みを測定したところ、30μmであった。
【0105】
<比較例2>
実施例1のポリイミド溶液(1)を、マトリクス樹脂5としてのポリアクリル酸溶液(1)に変更した以外は、実施例1と同様にして感温膜用高分子組成物を調製した。この感温膜用高分子組成物を用い、実施例1と同様にして感温膜を形成して温度センサ素子を作製した。実施例1と同様にして感温膜の厚みを測定したところ、30μmであった。
【0106】
<比較例3>
実施例1のポリイミド溶液(1)を、マトリクス樹脂6としてのポリスチレン溶液(1)に変更した以外は、実施例1と同様にして感温膜用高分子組成物を調製した。この感温膜用高分子組成物を用い、実施例1と同様にして感温膜を形成して温度センサ素子を作製した。実施例1と同様にして感温膜の厚みを測定したところ、30μmであった。
【0107】
実施例1~3及び比較例1~3で調製した感温膜用高分子組成物において、共役高分子であるポリアニリン及びマトリクス樹脂の合計量100質量%中のマトリクス樹脂の含有率は、いずれも53.6質量%である。
実施例2で作製した温度センサ素子が有する感温膜の断面を写したSEM写真を
図5に示す。白く写っている部分が、マトリクス樹脂中に分散して配置された導電性ドメインである。
【0108】
[マトリクス樹脂の分子パッキング度の測定]
マトリクス樹脂の分子パッキング度は、製造例2~7で調製したマトリクス樹脂1~6のそれぞれを含む溶液について次の操作を行い測定した。まず、ガラス基板の一方の表面上に、スピンコートによりマトリクス樹脂を含む溶液を塗布した。その後、常圧下50℃で2時間、次いで真空下50℃で2時間の乾燥処理を行った後、100℃で約1時間の熱処理を行い、マトリクス樹脂の膜を形成した。マトリクス樹脂の膜の厚みは10μmであった。
【0109】
得られたマトリクス樹脂の膜について、X線回折装置を用いてX線プロファイルを測定した。測定条件は次のとおりである。
X線回折装置:リガク(株)製「Smart lab」
X線源:CuKα
X線入射角(ω):0.2°で固定
出力:9kW(45kV-200mA)
測定範囲:2θ=0°~40°
ステップ:0.04°
スキャン速度:2θ=4°/min
スリット:Soller/PSC=5°、IS長手=15mm、PSA=0.5deg、RS=Open、IS=0.2mm
【0110】
得られたX線プロファイルについて、フリーソフト(Fityk)を用いてGaussian関数でフィッティングを行い、秩序構造由来のピークとアモルファス由来のピークに分離した。各マトリクス樹脂について、分離されたピークの帰属を以下に示す。
【0111】
<マトリクス樹脂1~3>
・秩序構造由来のピーク
2θ=13.2 面内方向の分子鎖パッキング
2θ=16.3 面外方向の層構造
2θ=23.7 ベンゼン環のπ-πスタッキング
・アモルファス由来のピーク
2θ=19.4 アモルファス
【0112】
<マトリクス樹脂4>
・秩序構造由来のピーク
2θ=10.8 (1 0 0 )面
2θ=19.4 (1 0 1-)面
2θ=20.0 (1 0 1)面
2θ=22.9 (2 0 0)面
・アモルファス由来のピーク
2θ=20.1 アモルファス
【0113】
<マトリクス樹脂5>
秩序構造由来のピークは認められなかった。
【0114】
<マトリクス樹脂6>
秩序構造由来のピークは認められなかった。
【0115】
X線プロファイルのピーク分離結果に基づき、下記式(I)に従って、マトリクス樹脂の分子パッキング度を求めた。結果を表1に示す。
分子パッキング度(%)=100×(秩序構造由来のピークの面積)/(全ピークの合計面積) (I)
【0116】
秩序構造由来のピークとは、ピークの半値幅が10°以下であるピークをいう。全ピークとは、秩序構造由来のピーク及びアモルファス由来のピークを意味する。アモルファス由来のピークとは、ピークの半値幅が10°を超えるピークをいう。
【0117】
[温度センサ素子の評価]
常湿(約30%RH)で一定温度の環境下に置かれた温度センサ素子が示す電気抵抗値の安定性を評価した。具体的には次のとおりである。
温度センサ素子が有する一対のAu電極とデジタルマルチメータ(OWON社製「B35T+」)とをリード線で繋いだ。ペルチェ温度コントローラ(ハヤシレピック(株)製「HMC-10F-0100」)を用いて温度センサ素子の温度を20℃に調整した。温度センサ素子が20℃に調整されてから5分後の電気抵抗値R5と、60分後の電気抵抗値R60とを測定し、下記式に従って、電気抵抗値の変化率r(%)を求めた。結果を表1に示す。
r(%)=100×(|R5-R60|/R5)
変化率r(%)が小さいほど、一定の温度である環境下に置かれた際に、温度センサ素子で検出される電気抵抗値に変動が生じにくいことを意味する。
【0118】
また、温度センサ素子の温度を50℃に調整したこと以外は上記と同様にして変化率r(%)を求めた。結果を併せて表1に示す。
【0119】
【符号の説明】
【0120】
100 温度センサ素子、101 第1電極、102 第2電極、103 感温膜、103a マトリクス樹脂、103b 導電性ドメイン、104 基板。