IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

特許7464777積層シートとその製造方法、印刷物、及び成形品
<>
  • 特許-積層シートとその製造方法、印刷物、及び成形品 図1
  • 特許-積層シートとその製造方法、印刷物、及び成形品 図2
  • 特許-積層シートとその製造方法、印刷物、及び成形品 図3
  • 特許-積層シートとその製造方法、印刷物、及び成形品 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】積層シートとその製造方法、印刷物、及び成形品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20240402BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240402BHJP
   C08L 33/10 20060101ALI20240402BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B27/00 F
C08L33/10
C08L25/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023084294
(22)【出願日】2023-05-23
【審査請求日】2023-12-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】山野 正晴
(72)【発明者】
【氏名】大澤 侑史
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-160119(JP,A)
【文献】特開2023-154486(JP,A)
【文献】特開2009-285892(JP,A)
【文献】特開昭59-12850(JP,A)
【文献】特表2011-528450(JP,A)
【文献】米国特許第5700566(US,A)
【文献】特開2008-221839(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0290324(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
B32B 27/08
B32B 27/30
B41M 5/52
C08L 25/04
C08L 33/10
C08L 33/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、当該基材層の少なくとも片面上に積層された表面層とを有する積層シートであって、
前記基材層は、メタクリル酸メチル単位を80質量%以上含むメタクリル系樹脂(M)を含み、
前記表面層は、スチレン系単量体単位(S)と他の単量体単位(X)との2元共重合体であるスチレン系共重合体(SX)を含み、
スチレン系共重合体(SX)は、測定モード:逆ゲート付きデカップリング法の条件で測定される13C-NMRスペクトルから、スチレン系単量体単位(S)-スチレン系単量体単位(S)-スチレン系単量体単位(S)のトライアッド連鎖(SSS)、他の単量体単位(X)-スチレン系単量体単位(S)-スチレン系単量体単位(S)のトライアッド連鎖(XSS)、及び、他の単量体単位(X)-スチレン系単量体単位(S)-他の単量体単位(X)のトライアッド連鎖(XSX)の比率をそれぞれ求めたとき、トライアッド連鎖(SSS)とトライアッド連鎖(XSS)とトライアッド連鎖(XSX)との合計100mol%に対して、トライアッド連鎖(SSS)の比率が0~40mol%であり、トライアッド連鎖(XSX)の比率が5~34mol%である、
積層シート。
【請求項2】
スチレン系共重合体(SX)は、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、及び、スチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA)からなる群より選ばれる1種以上のスチレン系共重合体である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
スチレン系共重合体(SX)は、スチレン単位を70~95質量%含むアクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、及び、スチレン単位を60~95質量%含むスチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA)からなる群より選ばれる1種以上のスチレン系共重合体である、請求項2に記載の積層シート。
【請求項4】
前記積層シート全体における平均スチレン系単量体単位濃度が0.1~20質量%である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項5】
前記基材層が、メタクリル系樹脂(M)とスチレン系共重合体(SX)とを含むメタクリル系樹脂組成物(MR)からなる、請求項1に記載の積層シート。
【請求項6】
前記基材層中のスチレン系単量体単位濃度が0~10.0質量%である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項7】
前記基材層中のスチレン系単量体単位濃度が1.2~10.0質量%である、請求項6に記載の積層シート。
【請求項8】
前記基材層の全原料のうちの少なくとも一部が、過去に製造された前記積層シートの粉砕物又は当該粉砕物の加工物からなる再生樹脂組成物(R)である、請求項5に記載の積層シート。
【請求項9】
前記積層シートの総厚みが1~10mmである、請求項1に記載の積層シート。
【請求項10】
インクジェット印刷用及び/又はレーザー切削加工用である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項11】
共押出成形シートである、請求項1に記載の積層シート。
【請求項12】
請求項1に記載の積層シートの前記表面層に対してインクジェット印刷が施された、印刷物。
【請求項13】
請求項1に記載の積層シートに対してインクジェット印刷及びレーザー切削加工が施された、成形品。
【請求項14】
前記基材層の全原料のうちの少なくとも一部として、過去に製造された前記積層シートの粉砕物又は当該粉砕物の加工物からなる再生樹脂組成物(R)を用いて、前記積層シートを共押出成形する、請求項5に記載の積層シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層シートとその製造方法、印刷物、及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル画像をコンピュータ処理して印刷媒体に記録することができるインクジェット印刷は、印刷可能な媒体の種類も増え、利用範囲が拡がっている。例えば、印刷、広告、サイン・ディスプレイ、イベント、アミューズメント、建築、及びインテリア等の種々の分野に広く利用されるようになっている。紙以外の印刷媒体として、樹脂シートが挙げられる。樹脂シートは、紙と異なり耐水性及び耐久性に優れ、透明化も可能である。
インクジェット印刷用樹脂シートは、インクジェット印刷を施した後、必要に応じてレーザー及びNCルーター等を用いて切削加工して、所望の形状に成形できる。このようにして得られる成形品は、キーホルダー等の雑貨及び什器等に好ましく用いることができる。なお、レーザーを用いた樹脂シートの切削方法は例えば、特許文献1の請求項1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-055348号公報
【文献】特開2018-94843号公報
【文献】特開2021-160119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
キーホルダー等の雑貨及び什器等の用途において、インクジェット印刷用樹脂シートの基材樹脂としては、透明性及びインク発色性等の観点から、メタクリル系樹脂が好ましく用いられる。インクジェット印刷用インクとしては、紫外線(UV)硬化性インク等が好ましく用いられる。しかしながら、メタクリル系樹脂は、UV硬化性インク等のインクジェット印刷用インクの密着性があまり良くない傾向がある。UV硬化性インク等のインクジェット印刷用インクの密着性が良好な成分としては、スチレン系共重合体が挙げられる。
【0005】
一般的に、レーザー切削加工において、被加工材の材質によっては、レーザー光照射により被加工材が溶融蒸発した際に、蒸発ガスによる異臭又は発煙が生じる場合がある。また、レーザー切削加工が終了した後、溶融部分が冷えて再び固化する際に蒸発ガスが切削面に付着し、切削面の外観不良が生じる場合がある。メタクリル系樹脂は、蒸発ガスによる上記問題(蒸発ガスによる異臭又は発煙、及び蒸発ガスの付着による切削面の外観不良)が生じがたく、レーザー切削加工性が良い傾向がある。これに対して、分子内に芳香環構造を有するスチレン系共重合体は、蒸発ガスによる上記問題(蒸発ガスによる異臭又は発煙、及び蒸発ガスの付着による切削面の外観不良)が生じやすく、レーザー切削加工性があまり良くない傾向がある。
【0006】
特許文献2、3には、メタクリル系樹脂を含む基材層と、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体(MS樹脂)等のスチレン系共重合体を含む表面層とを有し、インク密着性及びレーザー切削加工性が良好な積層シートが開示されている(特許文献2の請求項1、特許文献3の請求項1)。この積層シートは、好ましくは共押出成形によって製造できる。
【0007】
一般的に、(共)押出成形シート及びそれを用いた成形品の製造においては、押出成形の製造ラインの立ち上げ時に生じる不良品、シートの両端部のトリミング処理によって発生する端材、欠点及び異物等の品質検査で製品規格を満たさないと判断された不良品、及びシートの切削加工によって生じる端材が存在する。近年、持続可能(サスティナブル)な社会に向けた取組みが進められており、上記の不良品及び端材は、リワーク材として、廃棄せずに再利用して有効活用することが好ましい。
【0008】
特許文献2、3に開示の積層シートにおいて、メタクリル系樹脂とMS樹脂等のスチレン系共重合体とを含む過去に製造された積層シートを、リワーク材として基材層材料に用いることが考えられる。しかしながら、一般的に、MS樹脂等のスチレン系共重合体は、メタクリル系樹脂との相溶性が良くなく、これらの樹脂の間に屈折率差があるため、基材層材料として上記リワーク材を用いた積層シートは、透明性が低下して白濁する恐れがある。実際、特許文献3には、「白濁発生を抑え、透明性を維持するために、基材層中のスチレン含有量は、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.85質量%以下である。」ことが記載されている(段落0171)。特許文献3において、基材層中の好ましいスチレン含有量は非常に少ない。また、この文献は、メタクリル系樹脂とMS樹脂等のスチレン系共重合体とを含む過去に製造された積層シートをリワーク材として用いた実施例を開示していない。基材層材料として、より多くのリワーク材を使用できることが好ましい。
【0009】
本開示は上記課題に鑑みてなされたものであり、インク密着性及びレーザー切削加工性が良好で、持続可能性に優れた積層シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、以下の[1]~[14]の積層シートとその製造方法、印刷物、及び成形品を提供する。
[1] 基材層と、当該基材層の少なくとも片面上に積層された表面層とを有する積層シートであって、
前記基材層は、メタクリル酸メチル単位を80質量%以上含むメタクリル系樹脂(M)を含み、
前記表面層は、スチレン系単量体単位(S)と他の単量体単位(X)との2元共重合体であるスチレン系共重合体(SX)を含み、
スチレン系共重合体(SX)は、測定モード:逆ゲート付きデカップリング法の条件で測定される13C-NMRスペクトルから、スチレン系単量体単位(S)-スチレン系単量体単位(S)-スチレン系単量体単位(S)のトライアッド連鎖(SSS)、他の単量体単位(X)-スチレン系単量体単位(S)-スチレン系単量体単位(S)のトライアッド連鎖(XSS)、及び、他の単量体単位(X)-スチレン系単量体単位(S)-他の単量体単位(X)のトライアッド連鎖(XSX)の比率をそれぞれ求めたとき、トライアッド連鎖(SSS)とトライアッド連鎖(XSS)とトライアッド連鎖(XSX)との合計100mol%に対して、トライアッド連鎖(SSS)の比率が0~40mol%であり、トライアッド連鎖(XSX)の比率が5~34mol%である、
積層シート。
【0011】
[2] スチレン系共重合体(SX)は、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、及び、スチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA)からなる群より選ばれる1種以上のスチレン系共重合体である、[1]の積層シート。
[3] スチレン系共重合体(SX)は、スチレン単位を70~95質量%含むアクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、及び、スチレン単位を60~95質量%含むスチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA)からなる群より選ばれる1種以上のスチレン系共重合体である、[2]の積層シート。
【0012】
[4] 前記積層シート全体における平均スチレン系単量体単位濃度が0.1~20質量%である、[1]~[3]のいずれかの積層シート。
[5] 前記基材層が、メタクリル系樹脂(M)とスチレン系共重合体(SX)とを含むメタクリル系樹脂組成物(MR)からなる、[1]~[4]のいずれかの積層シート。
[6] 前記基材層中のスチレン系単量体単位濃度が0~10.0質量%である、[1]~[5]のいずれかの積層シート。
[7] 前記基材層中のスチレン系単量体単位濃度が1.2~10.0質量%である、[6]の積層シート。
【0013】
[8] 前記基材層の全原料のうちの少なくとも一部が、過去に製造された前記積層シートの粉砕物又は当該粉砕物の加工物からなる再生樹脂組成物(R)である、[5]の積層シート。
[9] 前記積層シートの総厚みが1~10mmである、[1]~[8]のいずれかの積層シート。
[10] インクジェット印刷用及び/又はレーザー切削加工用である、[1]~[9]のいずれかの積層シート。
[11] 共押出成形シートである、[1]~[10]のいずれかの積層シート。
【0014】
[12] [1]~[11]のいずれかの積層シートの前記表面層に対してインクジェット印刷が施された、印刷物。
[13] [1]~[11]のいずれかの積層シートに対してインクジェット印刷及びレーザー切削加工が施された、成形品。
[14] 前記基材層の全原料のうちの少なくとも一部として、過去に製造された前記積層シートの粉砕物又は当該粉砕物の加工物からなる再生樹脂組成物(R)を用いて、前記積層シートを共押出成形する、[5]の積層シートの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、インク密着性及びレーザー切削加工性が良好で、持続可能性に優れた積層シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る第1実施形態の積層シートの模式断面図である。
図2】本発明に係る第2実施形態の積層シートの模式断面図である。
図3】本発明に係る一実施形態の積層シートの製造装置の模式図である。
図4】測定モード:逆ゲート付きデカップリング法の条件で測定した、スチレン系共重合体(SX)の13C-NMRスペクトルの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[積層シート]
本開示の積層シートは、基材層と、この基材層の少なくとも片面上に積層された表面層とを有する。基材層は、メタクリル酸メチル(MMA)単位を80質量%以上含むメタクリル系樹脂(M)を含み、表面層は、スチレン系単量体単位(S)と他の単量体単位(X)との2元共重合体であるスチレン系共重合体(SX)を含む。本開示の積層シートは、インクジェット印刷用及び/又はレーザー切削加工用等として好適である。
【0018】
本開示の積層シートの積層構造として、図1に示す第1実施形態の基材層の片面上に表面層を有する2層構造が挙げられる。図中、符号16Xは積層シート、符号21は基材層、符号31は表面層である。本開示の積層シートは必要に応じて、基材層及び表面層以外の他の任意の層を含むことができる。ただし、表面層31の基材層と反対側の表面31Sは、その上に他の層を有さず、露出面である。この露出面は、印刷が施される印刷面であることができる。
【0019】
本開示の積層シートの積層構造として、図2に示す第2実施形態の基材層の両面上に表面層を有する3層構造が挙げられる。図中、符号16Yは積層シート、符号21は基材層、符合32は第1の表面層、符合33は第2の表面層である。本開示の第2の積層シートは必要に応じて、基材層及び表面層以外の他の任意の層を含むことができる。ただし、第1の表面層32の基材層と反対側の表面32S、及び/又は、第2の表面層33の基材層と反対側の表面33Sは、その上に他の層を有さず、露出面である。この露出面は、印刷が施される印刷面であることができる。3層構造の積層シートにおいて、2つの表面層の厚み及び組成は同一でも非同一でもよい。
【0020】
本開示の積層シートは、インクジェット印刷用樹脂シートとして好適である。インクジェット印刷方式としては、静電吸引方式、ピエゾ素子等の圧電素子を用いてインクに機械的振動又は変位を与える方式、インクを加熱して発泡させ、その圧力を利用する方式、及び紫外線(UV)硬化性インクを使用する方式等が挙げられる。
本開示の積層シートは、表面層に対してインクジェット印刷を施すことができる。本開示の積層シートはまた、インクジェット印刷を施した後、必要に応じてレーザー及びNCルーター等を用いて切削加工して、所望の形状に成形できる。このようにして得られる成形品は、キーホルダー等の雑貨及び什器等に好ましく用いることができる。かかる用途において、インクジェット印刷用インクとしては、UV硬化性インク等が好ましく用いられる。
【0021】
一般的に、分子内に芳香環構造を有するスチレン系共重合体は、UV硬化性インク等のインクジェット印刷用インクの浸透性が良好で、インクジェット印刷用インクの密着性が良好である。ただし、芳香環構造を有するスチレン系共重合体はレーザー切削加工性があまり良くなく、レーザー光照射により樹脂が溶融蒸発した際に、蒸発ガスによる異臭又は発煙が生じる場合がある。また、レーザー切削加工が終了した後、溶融部分が冷えて再び固化する際に蒸発ガスが切削面に付着し、切削面の外観不良が生じる場合がある。
メタクリル系樹脂(M)は、一般的に、蒸発ガスによる上記問題(蒸発ガスによる異臭又は発煙、及び蒸発ガスの付着による切削面の外観不良)が抑制され、レーザー切削加工性が良好である。ただし、UV硬化性インク等のインクジェット印刷用インクの浸透性があまり良くなく、インクジェット印刷用インクの密着性があまり良くない傾向がある。
【0022】
本開示の積層シートは、分子内に芳香環構造を有するスチレン系共重合体(SX)を含む表面層を有するため、UV硬化性インク等のインクジェット印刷用インクの浸透性が良好で、インクジェット印刷用インクの密着性が良好である。
本開示の積層シートは、メタクリル系樹脂(M)を含む基材層と、スチレン系共重合体(SX)を含む表面層との積層構造を有し、積層シート全体においてスチレン系単量体単位の占める割合が低減されるので、レーザー切削加工時の蒸発ガスによる上記問題(蒸発ガスによる異臭又は発煙、及び蒸発ガスの付着による切削面の外観不良)が抑制され、レーザー切削加工性が良好となる。
【0023】
本開示の積層シートにおいて、積層シートの総厚みに対する表面層の総厚みの割合は特に制限されず、好ましくは1~20%である。下限値は、より好ましくは2%、特に好ましくは3%である。上限値は、より好ましくは15%、特に好ましくは10%である。表面層の総厚みの割合が上記下限値以上であると、スチレン系共重合体(SX)を含む表面層の厚みが充分に確保され、良好なインク密着性を確保できる。また、表面層の総厚みの割合が上記上限値以下であると、積層シート全体においてスチレン系単量体単位の占める割合を低減でき、レーザー切削加工時の蒸発ガスによる異臭又は発煙、及び蒸発ガスの付着による切削面の外観不良を抑制できる。
【0024】
本明細書において、「積層シート全体における平均スチレン系単量体単位濃度」は、積層シートの総質量に対する積層シート中のスチレン系単量体単位の総質量の割合である。この平均スチレン系単量体単位濃度は特に制限されず、好ましくは0.1~20質量%である。下限値は、より好ましくは0.5質量%、特に好ましくは1.0質量%、最も好ましくは2.0質量%である。上限値は、より好ましくは15質量%、特に好ましくは10質量%である。積層シート全体における平均スチレン系単量体単位濃度が、上記下限値以上であると、良好なインク密着性を確保でき、上記上限値以下であると、レーザー切削加工時の蒸発ガスによる異臭又は発煙、及び蒸発ガスの付着による切削面の外観不良を抑制できる。
【0025】
本開示の積層シートにおいて、積層シートの総厚みは特に制限されず、インクジェット印刷性及びレーザー切削加工性が良好となることから、好ましくは1~10mm、より好ましくは1~5mmである。例えば積層シートの総厚みが3mmの場合、基材層の厚みは好ましくは2.4~2.9mmであり、1つの表面層の厚みは好ましくは50~200μmであり、表面層の総厚みは好ましくは50~400μmである。
【0026】
本開示の積層シートの粉砕物の3.0mm厚の単層成形シートのヘイズ値は特に制限されず、好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下である。表面層に含まれるスチレン系共重合体として、メタクリル系樹脂(M)との相溶性が良いスチレン系共重合体(SX)を用いることで、上記の単層成形シートのヘイズ値を実現できる。上記の単層成形シートのヘイズ値が5%以下であれば、基材層の全原料のうちの少なくとも一部として、過去に製造された本開示の積層シートの粉砕物又は当該粉砕物の加工物からなる再生樹脂組成物(R)を用いて、透明性に優れる本開示の積層シートを製造できる。上記特性を有する本開示の積層シートは、リワーク材として使用できるか、リワーク材を含むことができ、持続可能性に優れたものである。
本明細書において、特に明記しない限り、「透明」はヘイズ値が5%以下であることと、定義する。
【0027】
本開示の積層シートは、好ましくは共押出成形シートである。
本開示の積層シートの粉砕物の3.0mm厚の単層成形シートは、公知方法にて得ることができ、例えば、以下のようにして得ることができる。
公知の樹脂粉砕用の粉砕機を用いて、本開示の積層シートを粉砕する。得られた粉砕物は、押出機及び混練・押出性試験装置(東洋精機社製「ラボプラストミル(登録商標)」)等を用いて溶融混練し、均一な樹脂組成物とする。得られた溶融混練物を、熱プレス成形等の公知方法にて成形して、3.0mm厚の単層成形シートを得る。
単層成形シートの成形における溶融混練温度及び成形温度は、本開示の積層シートの成形(好ましくは共押出成形)時の基材層材料の好適な溶融混練温度の範囲内が好ましく、例えば、本開示の積層シートの成形(好ましくは共押出成形)時の基材層材料の溶融混練に用いる押出機内の最高温度であることができる。単層成形シートの成形における溶融混練温度及び成形温度は、好ましくは190~280℃、より好ましくは210~270℃、特に好ましくは230~260℃であり、例えば240~250℃が好ましい。
【0028】
(表面層)
表面層は、スチレン系単量体単位(S)と他の単量体単位(X)との2元共重合体であるスチレン系共重合体(SX)を1種以上含む。スチレン系共重合体(SX)に含まれるスチレン系単量体単位(S)としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-、m-又はp-メチルスチレン、及びこれらの組合せ等が挙げられ、スチレン等が好ましい。
上記したように、本開示では、スチレン系共重合体として、メタクリル系樹脂(M)との相溶性が良いスチレン系共重合体(SX)を用いる。
【0029】
スチレン系共重合体(SX)には、スチレン系単量体単位(S)-スチレン系単量体単位(S)-スチレン系単量体単位(S)のトライアッド連鎖(SSS)、他の単量体単位(X)-スチレン系単量体単位(S)-スチレン系単量体単位(S)のトライアッド連鎖(XSS)、及び、他の単量体単位(X)-スチレン系単量体単位(S)-他の単量体単位(X)のトライアッド連鎖(XSX)が含まれる。各トライアッド連鎖の比率は、測定モード:逆ゲート付きデカップリング法の条件で測定される13C-NMRスペクトルから求めることができる。
【0030】
本開示の積層シートでは、メタクリル系樹脂(M)との相溶性の観点から、トライアッド連鎖(SSS)とトライアッド連鎖(XSS)とトライアッド連鎖(XSX)との合計100mol%に対して、トライアッド連鎖(SSS)の比率が0~40mol%であり、トライアッド連鎖(XSX)の比率が5~34mol%であるスチレン系共重合体(SX)を用いる。
【0031】
トライアッド連鎖(SSS)の比率の下限値は、好ましくは10mol%、より好ましくは15mol%である。トライアッド連鎖(SSS)の比率の上限値は、好ましくは37mol%、より好ましくは35mol%である。
トライアッド連鎖(XSX)の比率の下限値は、好ましくは10mol%、より好ましくは15mol%、特に好ましくは20mol%である。トライアッド連鎖(XSX)の比率の上限値は、好ましくは32mol%、より好ましくは30mol%である。
トライアッド連鎖(XSS)の比率は特に制限されず、好ましくは40~80mol%である。トライアッド連鎖(XSS)の比率の下限値は、より好ましくは50mol%、特に好ましくは55mol%である。トライアッド連鎖(XSS)の比率の上限値は、より好ましくは75mol%、特に好ましくは70mol%である。
【0032】
スチレン系共重合体(SX)に含まれる他の単量体単位(X)としては、特に制限されない。スチレン系共重合体(SX)としては、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)、及びメタクリル酸メチル-スチレン系共重合体(MS樹脂)からなる群より選ばれる1種以上のスチレン系共重合体が挙げられる。中でも、メタクリル系樹脂(M)との相溶性に優れることから、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、及び、スチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)からなる群より選ばれる1種以上のスチレン系共重合体が好ましい。
【0033】
メタクリル系樹脂(M)との相溶性の観点から、AS樹脂中のスチレン単位濃度は、好ましくは70~95質量%である。下限値は、より好ましくは73質量%、特に好ましくは75質量%である。上限値は、より好ましくは90質量%、特に好ましくは88質量%、最も好ましくは85質量%である。
AS樹脂の市販品としては、日本エイアンドエル社製「ライタック-A100PCF」、「120PCF」;テクノUMG社製「サンレックスSAN-C」、「SAN-R」、「SAN-H」;デンカ社製「デンカASAS-C-800」、「AS-C-820」;東レ社製「トヨラック」;ダイセルミライズ社製「セビアンN」等が挙げられる。
スチレン系共重合体(SX)がアクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)である場合、スチレン系単量体単位(S)はスチレン単位であり、他の単量体単位(X)はアクリロニトリル単位である。本開示では、スチレン系共重合体(SX)として、トライアッド連鎖(SSS)の比率が0~40mol%であり、トライアッド連鎖(XSX)の比率が5~34mol%であるAS樹脂を好ましく用いることができる。
【0034】
メタクリル系樹脂(M)との相溶性の観点から、スチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)中のスチレン単位濃度は、好ましくは60~95質量%である。下限値は、より好ましくは65質量%、特に好ましくは70質量%、最も好ましくは75質量%である。上限値は、より好ましくは90質量%、特に好ましくは85質量%、最も好ましくは80質量%である。
SMA樹脂の市販品としては、Polyscope社製「XIRAN」、「XIBOND」;JiaxingHuawenChemical社製「SMA-700」;Fine-blendPolymer社製「SAM-020」等が挙げられる。
スチレン系共重合体(SX)がスチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)である場合、スチレン系単量体単位(S)はスチレン単位であり、他の単量体単位(X)は無水マレイン酸単位である。本開示では、スチレン系共重合体(SX)として、トライアッド連鎖(SSS)の比率が0~40mol%であり、トライアッド連鎖(XSX)の比率が5~34mol%であるSMA樹脂を好ましく用いることができる。
【0035】
メタクリル酸メチル-スチレン系共重合体(MS樹脂)は、少量であれば、メタクリル系樹脂(M)と相溶でき、使用できる。メタクリル酸メチル-スチレン系共重合体(MS樹脂)を使用する場合は、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)、及びスチレン-無水マレイン酸-メタクリル酸メチル共重合体(SMM樹脂)等の、メタクリル系樹脂(M)との相溶性に優れるスチレン系共重合体と併用することが好ましい。
表面層中のメタクリル酸メチル-スチレン系共重合体(MS樹脂)の量は、好ましくは0~1.5質量%、より好ましくは0~1.2質量%、特に好ましくは0~1.0質量%、最も好ましくは0~0.85質量%である。メタクリル系樹脂(M)との相溶性の観点から、メタクリル酸メチル-スチレン系共重合体(MS樹脂)中のスチレン単位濃度は、好ましくは35~50質量%である。上限値は、より好ましくは45質量%である。MS樹脂の市販品としては、東洋スチレン社製「トーヨーMS MS600」;デンカ社製「デンカTXポリマー TX-100S」;ダイセルミライズ社製「セビアンNAS」等が挙げられる。
スチレン系共重合体(SX)がメタクリル酸メチル-スチレン系共重合体(MS樹脂)である場合、スチレン系単量体単位(S)はスチレン単位であり、他の単量体単位(X)はメタクリル酸メチル単位である。本開示では、スチレン系共重合体(SX)として、トライアッド連鎖(SSS)の比率が0~40mol%であり、トライアッド連鎖(XSX)の比率が5~34mol%であるMS樹脂を用いることができる。
【0036】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン系共重合体(MBS樹脂)、及びブタジエンをグラフト共重合した耐衝撃性ポリスチレン(HIPS樹脂)は、メタクリル系樹脂(M)との相溶性が良くないため、スチレン系共重合体として使用しないことが好ましい。
本開示の積層シートは、スチレン系単量体単位(S)と他の単量体単位(X)との2元共重合体であり、トライアッド連鎖(SSS)の比率が0~40mol%であり、トライアッド連鎖(XSX)の比率が5~34mol%であるスチレン系共重合体(SX)以外のスチレン系共重合体を含まないことが好ましい。
【0037】
本開示の積層シートの粉砕物の3.0mm厚の単層成形シートのヘイズ値が5%以下である特性を充足する範囲内において、表面層は必要に応じて、1種以上のメタクリル系樹脂(M)、及び/又は、メタクリル系樹脂(M)以外の1種以上の他のアクリル系樹脂(A)を含むことができる。任意成分の他のアクリル系樹脂(A)の例示は、基材層と同様である。なお、表面層中のメタクリル系樹脂(M)は、基材層中のメタクリル系樹脂(M)と同一でも非同一でもよい。任意成分の他のアクリル系樹脂(A)についても、同様である。
【0038】
本開示の積層シートの粉砕物の3.0mm厚の単層成形シートのヘイズ値が5%以下である特性を充足する範囲内において、表面層は必要に応じて、スチレン系共重合体(SX)、メタクリル系樹脂(M)、及び他のアクリル系樹脂(A)以外の、1種以上の他の重合体を含むことができる。他の重合体としては特に制限されず、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びポリアセタール等の他の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、及びエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。表面層中の他の重合体の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。表面層は、スチレン系共重合体(SX)、メタクリル系樹脂(M)、及び他のアクリル系樹脂(A)以外の他の重合体を含まないことができる。
【0039】
本開示の積層シートの粉砕物の3.0mm厚の単層成形シートのヘイズ値が5%以下である特性を充足する範囲内において、表面層は必要に応じて、各種添加剤を含むことができる。添加剤としては、着色剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、光拡散剤、艶消し剤、コアシェル粒子及びブロック共重合体等のゴム成分(耐衝撃性改質剤)、及び蛍光体等が挙げられる。添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。表面層の構成樹脂100質量部(複数種の場合は、合計で100質量部)に対して、例えば、酸化防止剤の含有量は0.01~1質量部、紫外線吸収剤の含有量は0.01~3質量部、光安定剤の含有量は0.01~3質量部、滑剤の含有量は0.01~3質量部が好ましい。
表面層に他の重合体及び/又は添加剤を添加させる場合、添加タイミングは、スチレン系共重合体(SX)の重合時でも重合後でもよい。
【0040】
表面層の構成樹脂(複数種の場合は、混合樹脂組成物)のガラス転移温度(Tg)は特に制限されず、好ましくは80~160℃、より好ましくは100~110℃である。
本開示の積層シートの成形時の表面層材料の溶融混練温度は特に制限されず、好ましくは150~280℃、より好ましくは170~270℃、特に好ましくは190~260℃である。
【0041】
(基材層)
基材層は、1種以上のメタクリル系樹脂(M)を含む。メタクリル系樹脂(M)は、メタクリル酸メチル(MMA)単位を含む単独重合体又は共重合体である。透明性の観点から、メタクリル系樹脂(M)中のMMA単位の含有量は、80質量%以上であり、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0042】
メタクリル系樹脂(M)は、MMA単位以外の1種以上の(メタ)アクリル酸エステル単位を含むことができる。MMA以外の(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル(MA)、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸ペンタフルオロエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、及び(メタ)アクリル酸3-ジメチルアミノエチル等が挙げられる。中でも、透明性の観点から、MAが好ましい。例えば、MMAとMAとの共重合体は、透明性に優れ、好ましい。
本明細書において、(メタ)アクリルは、アクリル及びメタクリルの総称であり、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリロニトリル等についても、同様である。
【0043】
基材層は必要に応じて、メタクリル系樹脂(M)以外の1種以上の他のアクリル系樹脂(A)を含むことができる。本明細書で言う「他のアクリル系樹脂(A)」は、MMA単位の含有量が80質量%未満であるメタクリル系樹脂、及び、MMA単位を含まず、MMA単位以外の1種以上の(メタ)アクリル酸エステル単位を含む(メタ)アクリル系樹脂である。
【0044】
メタクリル系樹脂(M)及び他のアクリル系樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸エステル以外の1種以上の他の単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。他の単量体としては、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸金属塩;(メタ)アクリロニトニル;(メタ)アクリルアミド;塩化ビニル及び酢酸ビニル等のビニル系単量体;無水マレイン酸等の酸無水物;フェニルマレイミド及びシクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;スチレン、α-メチルスチレン、及びビニルトルエン等のスチレン系単量体等が挙げられる。
メタクリル系樹脂(M)及び他のアクリル系樹脂(A)中の(メタ)アクリル酸エステル以外の他の単量体に由来する構造単位の含有量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
メタクリル系樹脂(M)及び他のアクリル系樹脂(A)中のスチレン系単量体単位の(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは0~1.5質量%、より好ましくは0~1.2質量%、特に好ましくは0~1.0質量%、最も好ましくは0~0.85質量%である
【0045】
メタクリル系樹脂(M)及び他のアクリル系樹脂(A)は、1種以上の(メタ)アクリル酸エステル、及び必要に応じて他の単量体を重合することで得られる。複数種の単量体を用いる場合は、通常、複数種の単量体を混合して単量体混合物を調製した後、重合を行う。重合方法としては特に制限されず、生産性の観点から、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法、及び乳化重合法等のラジカル重合法が好ましい。
【0046】
本開示の積層シートの粉砕物の3.0mm厚の単層成形シートのヘイズ値が5%以下である特性を充足する範囲内において、基材層は必要に応じて、1種以上のスチレン系共重合体(SX)を含むことができる。すなわち、基材層は、メタクリル系樹脂(M)とスチレン系共重合体(SX)とを含むメタクリル系樹脂組成物(MR)からなることができる。なお、基材層中のスチレン系共重合体(SX)は、表面層中のスチレン系共重合体(SX)と同一でも非同一でもよい。
基材層がスチレン系単量体単位を含む場合、高湿環境に静置した後の積層シートの反り変化量を効果的に低減できる傾向がある。
【0047】
一般的に、(共)押出成形シート及びそれを用いた成形品の製造においては、押出成形の製造ラインの立ち上げ時に生じる不良品、シートの両端部のトリミング処理によって発生する端材、欠点及び異物等の品質検査で製品規格を満たさないと判断された不良品、及びシートの切削加工によって生じる端材が存在する。近年、持続可能(サスティナブル)な社会に向けた取組みが進められており、上記の不良品及び端材は、リワーク材として、廃棄せずに再利用して有効活用することが好ましい。
本明細書において、「バージン材」とは、過去に成形加工に供されたことが一度もない成形材料であり、「リワーク材」とは、過去に成形品として1回以上成形加工されたことのある成形材料である。
基材層の全原料のうちの少なくとも一部は、過去に製造された本開示の積層シートの粉砕物又は当該粉砕物の加工物からなる再生樹脂組成物(R)(リワーク材とも言う。)であることができる。上記加工物の形態としては、ストランド及びペレット等が挙げられる。
上記したように、本開示の積層シートは、その粉砕物の3.0mm厚の単層成形シートのヘイズ値が5%以下であることができ、基材層の全原料のうちの少なくとも一部として、過去に製造された本開示の積層シートの粉砕物又は当該粉砕物の加工物からなる再生樹脂組成物(R)を用いて、透明性に優れる本開示の積層シートを製造できる。
【0048】
基材層中のスチレン系単量体単位濃度は特に制限されず、好ましくは0~10.0質量%である。
[背景技術]の項で挙げた特許文献3には、「白濁発生を抑え、透明性を維持するために、基材層中のスチレン含有量は、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.85質量%以下である。」ことが記載されている(段落0171)。
本開示の技術では、基材層中のスチレン系単量体単位濃度を、特許文献3に記載の範囲より多くでき、1.2質量%以上、1.5質量%以上、2.0質量%以上、2.5質量%以上、3.0質量%以上、3.5質量%以上、又は4.0質量%以上とすることができる。上限値は、より好ましくは9.0質量%、特に好ましくは8.5質量%、最も好ましくは8.0質量%である。
【0049】
本開示の積層シートの粉砕物の3.0mm厚の単層成形シートのヘイズ値が5%以下である特性を充足する範囲内において、基材層は必要に応じて、メタクリル系樹脂(M)、他のアクリル系樹脂(A)、及びスチレン系共重合体(SX)以外の、1種以上の他の重合体を含むことができる。基材層は、必要に応じて、各種添加剤を含むことができる。他の重合体及び添加剤の種類の例示と好ましい添加量は、表面層と同様である。
【0050】
基材層の構成樹脂(複数種の場合は、混合樹脂組成物)のガラス転移温度(Tg)は特に制限されず、好ましくは100~140℃、より好ましくは105~135℃、特に好ましくは105~125℃である。
本開示の積層シートの成形時の基材層材料の溶融混練温度は特に制限されず、好ましくは190~280℃、より好ましくは210~270℃、特に好ましくは230~260℃である。
【0051】
[積層シートの製造方法]
本開示の積層シートは、公知のシート成形法により製造でき、生産効率及び層間接着性の観点から、押出成形法等が好ましい。押出成形法の場合、異なる押出機を用いて溶融混練されたメタクリル系樹脂(M)を含む基材層材料とスチレン系共重合体(SX)を含む表面層材料とを共通の押出ダイ(Tダイ等)から共押出する共押出成形が好ましい。すなわち、本開示の積層シートは、共押出成形シートであることが好ましい。
【0052】
共押出ダイの方式としては、マルチマニホールドダイ方式及びフィールドブロック方式が挙げられる。フィードブロック方式では、メタクリル系樹脂(M)を含む溶融状態の基材層材料とスチレン系共重合体(SX)を含む溶融状態の表面層材料とがフィードブロック内で積層された後、Tダイ等に導かれてシート状に成形され共押出される。マルチマニホールドダイ方式では、メタクリル系樹脂(M)を含む溶融状態の基材層材料とスチレン系共重合体(SX)を含む溶融状態の表面層材料とがTダイ等に導かれシート状に成形された後、積層されて共押出される。本開示の積層シートでは、表面層が比較的薄く設計される。この場合、マルチマニホールドダイ方式が好ましい。
いずれの方式でも、Tダイ等から押出された熱可塑性樹脂積層体は、少なくとも一対の冷却用加圧ロールの間隙を通過することで冷却された後、引取りロールに引き取られる。以上の共押出、冷却、及び引取りの工程は、連続的に実施される。なお、本明細書では、主に加熱溶融状態のものを「熱可塑性樹脂積層体」と表現し、固化したものを「積層シート」と表現しているが、両者の間に明確な境界はない。
【0053】
図3に、一実施形態として、Tダイ11、第1~第3冷却ロール12~14、及び一対の引取りロール15を含む製造装置の模式図を示す。Tダイ11から共押出された熱可塑性樹脂積層体は第1~第3冷却ロール12~14を用いて冷却され、得られた積層シート16が一対の引取りロール15により引き取られる。製造装置の構成は、適宜設計変更が可能である。
【0054】
本開示の積層シートの共押出成形において、Tダイ温度(Td)は、好ましくは190~280℃である。Tdが190℃未満では、メタクリル系樹脂(M)及びスチレン系共重合体(SX)の溶融粘度が高くなりすぎて、これらの樹脂を良好に押出成形することができない恐れがある。Tdが280℃超では、高温によってスチレン系共重合体(SX)が分解する恐れがある。Tdは、より好ましくは210~270℃、特に好ましくは230~260℃である。
Tダイのリップ厚は、所望の積層シートの総厚み(好ましくは1~10mm、より好ましくは1~5mm)に応じて設計される。
一対の引取りロールによる積層シートの引取速度(V)は特に制限されず、好ましくは0.5~2.0m/minである。
【0055】
本開示の積層シートの製造方法では、基材層の全原料のうちの少なくとも一部として、過去に製造された本開示の積層シートの粉砕物又は当該粉砕物の加工物からなる再生樹脂組成物(R)を用いて、本開示の積層シートを共押出成形することができる。
基材層の全原料中の再生樹脂組成物(R)の割合は特に制限されず、例えば、1~100質量%であることができる。本開示の技術では、基材層の全原料中の再生樹脂組成物(R)の割合を多くでき、10~100質量%、20~100質量%、30~100質量%、40~100質量%、又は50~100質量%とすることができる。
【0056】
一般的に、同じ材料のリワークを繰り返すと、リワーク材の質が低下し、これを用いた積層シートのヘイズ値が高くなる場合がある。リワーク回数又はリワーク材の質を考慮し、本開示の積層シートの粉砕物を基材層に用いた3.0mm厚の積層シートのヘイズ値が5%以下である特性を充足する範囲内において、リワーク材の使用割合を調整することが好ましい。
基材層の全原料のうちの少なくとも一部が、過去に製造された本開示の積層シートの粉砕物又は当該粉砕物の加工物からなる再生樹脂組成物(R)である場合でも、本開示の積層シートは、透明性に優れ、3.0mm厚でのヘイズ値が5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、又は1%以下であることができる。
【0057】
[印刷物、成形品]
本開示の積層シートは、インクジェット印刷用樹脂シートとして好ましく用いることができる。本開示の積層シートに含まれるスチレン系共重合体(SX)を含む表面層に対してインクジェット印刷を施すことで、印刷物を提供することができる。本開示の積層シートはまた、インクジェット印刷を施した後、必要に応じてレーザー及びNCルーター等を用いて切削加工して、所望の形状に成形することができる。
本開示の積層シートはレーザー切削加工性が良好であるため、微細な切削加工が可能である。例えば、半径0.5~2mmの曲線切削部を有する成形品を形状精度良く製造することができる。本開示の積層シートはレーザー切削加工性が良好であるため、高出力のレーザー加工機を用い、高速で生産性良く切削加工することができる。例えば、本開示の積層シートを、出力100W以上のレーザー加工機にて350cm/min以上の速度で切削加工して、成形品を製造することができる。
【0058】
以上説明したように、本開示によれば、インク密着性及びレーザー切削加工性が良好で、持続可能性に優れた積層シートを提供することができる。
【0059】
[用途]
本開示の積層シート、印刷物、及び成形品は、印刷、広告、サイン・ディスプレイ、イベント、アミューズメント、建築、及びインテリア等の種々の分野に用いることができる。
本開示の積層シート、印刷物、及び成形品は、キーホルダー、フィギュア、及びキャラクターパネル等の雑貨;什器等に好ましく用いることができる。
【実施例
【0060】
以下、本発明に係る実施例及び比較例について、説明する。
[評価項目及び評価方法]
(スチレン系共重合体(SX)中のスチレン系単量体単位濃度)
核磁気共鳴装置(Bruker社製「ULTRA SHIELD 400 PLUS」)を用いて、スチレン系共重合体(SX)のH-NMRスペクトルを測定した。スチレン系単量体単位に含まれる芳香環の2~6位の炭素原子に結合した水素原子由来のピークの積分値から、スチレン系単量体単位濃度を求めた。なお、[実施例]の項で用いたスチレン系共重合体(SX)に含まれるスチレン系単量体単位は、具体的にはスチレン単位である。
【0061】
(スチレン系共重合体(SX)中の各トライアッド連鎖の比率)
スチレン系共重合体(SX)を重水素化クロロホルムに溶解させ、緩和促進剤としてクロム(III)アセチルアセトナートを0.5質量%添加して、試料溶液を調製した。得られた試料溶液について、核磁気共鳴装置(Bruker社製「ULTRA SHIELD 400 PLUS」)を用いて、温度:50℃、測定モード:逆ゲート付きデカップリング法の条件にて、13C-NMRスペクトルを測定した。
スチレン系単量体単位に含まれる芳香環の1位の炭素原子由来のピーク(136~148ppm)の積分値から、スチレン系単量体単位(S)-スチレン系単量体単位(S)-スチレン系単量体単位(S)のトライアッド連鎖(SSS)、他の単量体単位(X)-スチレン系単量体単位(S)-スチレン系単量体単位(S)のトライアッド連鎖(XSS)、及び、他の単量体単位(X)-スチレン系単量体単位(S)-他の単量体単位(X)のトライアッド連鎖(XSX)の比率をそれぞれ求めた。なお、トライアッド連鎖(SSS)とトライアッド連鎖(XSS)とトライアッド連鎖(XSX)との合計量を100mol%とした。
スチレン系共重合体(SX)がアクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)である場合、スチレン系単量体単位(S)はスチレン単位であり、他の単量体単位(X)はアクリロニトリル単位である。スチレン系共重合体(SX)がスチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)である場合、スチレン系単量体単位(S)はスチレン単位であり、他の単量体単位(X)は無水マレイン酸単位である。スチレン系共重合体(SX)がメタクリル酸メチル-スチレン系共重合体(MS樹脂)である場合、スチレン系単量体単位(S)はスチレン単位であり、他の単量体単位(X)はメタクリル酸メチル単位である。
【0062】
(積層シートのヘイズ値)
3.0mm厚の積層シートの幅方向の中央部から50mm×50mmの試験片を切り出し、村上色彩技術研究所社製「HM-150」を用いて、ヘイズ値を測定した。
【0063】
(インク密着性)
インクジェット印刷を施した積層シートに対して、インク密着性の評価を実施した。白及び黒のUV硬化性インクの硬化物からなる印刷層において10mm四方の評価領域を縦横1mm間隔で100マス(縦10マス×横10マス)にクロスカットした。この評価領域上に全体的にセロハンテープを貼り付け、その上から消しゴムでこすってセロハンテープを印刷面に充分に密着させた後、セロハンテープを90°方向に剥離させた。拡大倍率10倍のルーペで観察し、評価対象の100マスのうちインクが樹脂シートから剥離したマスの数を求めた。評価基準は以下の通りである。
A(優):すべてのマスにインク剥離が見られなかった。
B(良):1以上10未満のマスにインク剥離が見られた。
C(可):10以上50未満のマスにインク剥離が見られた。
D(不可):50以上のマスにインク剥離が見られた。
【0064】
(レーザー切削加工性)
インクジェット印刷を施した積層シートに対して、レーザー切削加工性の評価を実施した。
<切削面の外観>
レーザー切削加工後に得られた10個の成形品について、30cm直線切削部の切削面の欠点の有無を光学顕微鏡観察及び指触検査により評価した。主な欠点は以下の通りである。
荒れ:切削面が全体的に一様でなく、触るとざらつきがあった。
角荒れ:切削面の角部に部分的に荒れがあり、触るとざらつきがあった。
樹脂溜り:切削面の一部に溶融した樹脂溜りが見られた。
異物:切削面に有色異物が見られた。
評価基準は以下の通りである。
A(優):欠点が見られた成形品の数が0~1個。
B(良):欠点が見られた成形品の数が2~4個。
C(不可):欠点が見られた成形品の数が5~10個。
【0065】
<発煙又は臭気発生の有無>
レーザー切削加工時の発煙又は臭気発生の有無を官能評価した。評価基準は以下の通りである。
A(良):発煙又は臭気が少しあったが、気にならない程度であった。
B(可):AとCとの中間。
C(不良):発煙又は臭気が顕著にあった。
【0066】
[材料]
用いた材料は、以下の通りである。
(メタクリル系樹脂(M))
<PMMA1>メタクリル酸メチル-アクリル酸メチル共重合体、クラレ社製「パレペット」、メタクリル酸メチル単位の含有量:94質量%、アクリル酸メチル単位の含有量:6質量%、スチレン単位の含有量:0質量%。
【0067】
(アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂))
<AS1>日本エイアンドエル社製「ライタック-A 100PCF」、スチレン単位の含有量:77質量%、
<AS2>テクノUMG社製「サンレックス SAN-C」、スチレン単位の含有量:76質量%、
<AS3>デンカ社製「デンカAS AS-C-820」、スチレン単位の含有量:82質量%、
<AS4>ダイセルミライズ社製「セビアン-N 020SF」、スチレン単位の含有量:74質量%。
【0068】
(スチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂))
<SMA1>Polyscope社製「XIRAN23110」(スチレン単位の含有量:77質量%)。
【0069】
(メタクリル酸メチル-スチレン系共重合体(MS樹脂))
<MS200>東洋スチレン社製「トーヨーMS MS200」、スチレン単位の含有量:80質量%。
【0070】
[積層シートの製造]
(実施例(EV1-1)~(EV4-1)、比較例(ECV11-1)、(ECV12-1))
基材層材料として、バージン材のメタクリル系樹脂(M)を東芝機械社製150mmφ単軸押出機(シリンダー部の最高温度240℃)を用いて溶融した。表面層材料として、バージン材のスチレン系共重合体(SX)を東芝機械社製65mmφ単軸押出機(シリンダー部の最高温度240℃を用いて溶融した。マルチマニホールド型ダイスを用いて、溶融状態のスチレン系共重合体(SX)と溶融状態のメタクリル系樹脂(M)と溶融状態のスチレン系共重合体(SX)とをこの順で積層し、Tダイから押出し、互いに隣接した4本の冷却ロールを用いて冷却し、引取りロールで引き取った。以上の共押出成形により、スチレン系共重合体(SX)(第1の表面層、0.05mm厚)/メタクリル系樹脂(M)(基材層、2.9mm厚)/スチレン系共重合体(SX)(第2の表面層、0.05mm厚)の2種3層の積層シート(LV1-1)~(LV4-1)、(LCV11-1)、(LCV12-1)を製造した。第1の表面層と第2の表面層は、組成と厚みを同一条件とした。主な製造条件と各種パラメータ値を表1、表2に示す。表1~表4において、表に不記載の条件は共通条件とした。
【0071】
(実施例(EV1-2)、比較例(ECV11-2))
第1の表面層及び第2の表面層の厚みを0.15mmに変更し、基材層の厚みを2.7mmに変更した以外は実施例(EV1-1)又は比較例(ECV11-1)と同様にして、積層シート(LV1-2)、(LCV11-2)を得た。主な製造条件と各種パラメータ値を表1、表2に示す。
【0072】
(実施例(E1-1)~(E1-4))
基材層材料の少なくとも一部(30質量%、50質量%、又は100質量%)を、リワーク材としての積層シート(LV1-1)又は(LV1-2)の粉砕物に置き換えた以外は実施例(EV1-1)又は(EV1-2)と同様にして、積層シート(L1-1)~(L1-4)を得た。主な製造条件と各種パラメータ値を表3に示す。
なお、バージン材のメタクリル系樹脂(M)とリワーク材との混合は、ドライブレンドにより実施した。他の例でも、同様である。
【0073】
(実施例(E2-1)~(E4-1))
基材層材料の一部(50質量%)を、リワーク材としての積層シート(LV2-1)、(LV3-1)、又は(LV4-1)の粉砕物に置き換えた以外は実施例(EV2-1)、(EV3-1)、又は(EV4-1)と同様にして、積層シート(L2-1)~(L4-1)を得た。主な製造条件と各種パラメータ値を表3に示す。
【0074】
(比較例(EC11-1)~(EC11-4)、(EC12-1))
基材層材料の少なくとも一部(30質量%、50質量%、又は100質量%)を、リワーク材としての積層シート(LCV11-1)、(LCV11-2)、又は(LCV12-1)の粉砕物に置き換えた以外は比較例(ECV11-1)、(ECV11-2)、又は(ECV12-1)と同様にして、積層シート(LC11-1)~(LC11-4)、(LC12-1)を得た。主な製造条件と各種パラメータ値を表4に示す。
【0075】
[評価結果]
評価結果を表1~表4に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
[結果のまとめ]
実施例(EV1-1)、(EV1-2)、(EV2-1)~(EV4-1)では、基材層及び表面層の材料としてバージン材のみを用いて、メタクリル系樹脂(M)を含む基材層と、その両面上にスチレン系単量体単位(S)と他の単量体単位(X)との2元共重合体であるスチレン系共重合体(SX)を含む表面層が積層された積層シートを製造した。これらの例では、積層シートの総厚みに対する表面層の総厚みの割合が1~20%であった。
これらの例では、スチレン系共重合体(SX)として、スチレン単位を70~95質量%含むアクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、又は、スチレン単位を60~95質量%含むスチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)を用いた。これらの例で用いたスチレン系共重合体(SX)はいずれも、トライアッド連鎖(SSS)の比率が0~40mol%であり、トライアッド連鎖(XSX)の比率が5~34mol%であった。
例として、測定モード:逆ゲート付きデカップリング法の条件で測定した、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS1)の13C-NMRスペクトルを図4に示す。図4には、トライアッド連鎖(SSS)、トライアッド連鎖(ASS)、及びトライアッド連鎖(ASA)についてそれぞれ、スチレン単位に含まれる芳香環の1位の炭素原子由来のピーク(136~148ppm)が示されている。ここで、符合Aは、他の単量体単位(X)であるアクリロニトリル単位を示す。
これらの例で得られた積層シートはいずれも、インク密着性及びレーザー切削加工性が良好であり、ヘイズ値が1%以下であり、透明性が良好であった。
【0081】
実施例(E1-1)~(E1-4)では、基材層の全原料のうちの30~100質量%を積層シート(LV1-1)又は(LV1-2)の粉砕物からなるリワーク材に置き換えた以外は実施例(EV1-1)又は(EV1-2)と同様にして、積層シートを得た。得られた積層シートはいずれも、インク密着性及びレーザー切削加工性が良好であり、ヘイズ値が1%以下であり、透明性が良好であった。これらの例では、用いたスチレン系共重合体(SX)とメタクリル系樹脂(M)との相溶性が良好で、リワーク材を多く使用しても、バージン材のみを用いた実施例と同様に、高品質な積層シートが得られた。これらの例では、リワーク材を含む、持続可能性に優れる積層シートが得られた。
実施例(E2-1)~(E4-1)においても、同様の結果が得られた。
【0082】
比較例(ECV11-1)、(ECV11-2)、(ECV12-1)では、基材層及び表面層の材料としてバージン材のみを用いて、メタクリル系樹脂(M)を含む基材層と、その両面上にスチレン系単量体単位(S)と他の単量体単位(X)との2元共重合体であるスチレン系共重合体(SX)を含む表面層が積層された積層シートを製造した。これらの例では、積層シートの総厚みに対する表面層の総厚みの割合が1~20%であった。
比較例(ECV11-1)及び(ECV11-2)では、スチレン系共重合体(SX)として、トライアッド連鎖(XSX)の比率が34mol%超であるアクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)を用いた。比較例(ECV12-1)では、スチレン系共重合体(SX)として、トライアッド連鎖(SSS)の比率が40mol%超であるメタクリル酸メチル-スチレン系共重合体(MS樹脂)を用いた。
これらの例で得られた積層シートはいずれも、インク密着性及びレーザー切削加工性が良好であり、ヘイズ値が1%以下であり、透明性が良好であった。
【0083】
比較例(EC11-1)~(EC11-4)、(EC12-1)では、基材層の全原料のうちの30~100質量%を積層シート(LCV11-1)、(LCV11-2)、又は(LCV12-1)の粉砕物からなるリワーク材に置き換えた以外は比較例(ECV11-1)、(ECV11-2)、又は(ECV12-1)と同様にして、積層シートを得た。得られた積層シートはいずれも、ヘイズ値が4.7~45.0%と著しく高く、透明性が著しく不良であった。これらの例では、用いたスチレン系共重合体(SX)とメタクリル系樹脂(M)との相溶性が不良で、リワーク材を含んでも透明性に優れる、持続可能性に優れる積層シートが得られなかった。
【0084】
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0085】
11 Tダイ
16X、16Y 積層シート
21 基材層
31、32、33 表面層
【要約】
【課題】インク密着性及びレーザー切削加工性が良好で、持続可能性に優れた積層シートを提供する。
【解決手段】本開示の積層シート(16X)は、基材層(21)と、基材層(21)の少なくとも片面上に積層された表面層(31)とを有し、基材層(21)は、メタクリル酸メチル単位を80質量%以上含むメタクリル系樹脂(M)を含み、表面層(31)は、スチレン系単量体単位(S)と他の単量体単位(X)との2元共重合体であるスチレン系共重合体(SX)を含み、スチレン系共重合体(SX)は、トライアッド連鎖(SSS)とトライアッド連鎖(XSS)とトライアッド連鎖(XSX)との合計100mol%に対して、トライアッド連鎖(SSS)の比率が0~40mol%であり、トライアッド連鎖(XSX)の比率が5~34mol%である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4