(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】DCブロックおよびこれを用いたプラズマ発生装置
(51)【国際特許分類】
H01P 1/00 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
H01P1/00 Z
(21)【出願番号】P 2023506423
(86)(22)【出願日】2021-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2021010520
(87)【国際公開番号】W WO2022195700
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-08-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520156063
【氏名又は名称】株式会社Pale Blue
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【氏名又は名称】橘 和之
(72)【発明者】
【氏名】小泉 宏之
(72)【発明者】
【氏名】安宅 泰穂
(72)【発明者】
【氏名】浅川 純
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 和也
(72)【発明者】
【氏名】中川 悠一
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 耕平
(72)【発明者】
【氏名】溝尻 征
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0200369(US,A1)
【文献】特開昭63-059101(JP,A)
【文献】国際公開第2004/034505(WO,A1)
【文献】特開2009-246810(JP,A)
【文献】特開2009-162178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのマイクロストリップライン上にそれぞれ形成された2つの高周波電力伝送用アンテナを、絶縁シートを挟んで対向配置させ
、
上記高周波電力伝送用アンテナは、高周波電力を伝送する同軸線路の内部導体に接続される給電線を有し、
上記マイクロストリップラインには、上記高周波電力伝送用アンテナと、上記同軸線路の内部導体に接続されたプラズマ発生用アンテナに直流電圧を印加するための電圧印加用回路とを電気的に接続するための配線パターンが形成されている
ことを特徴とするDCブロック。
【請求項2】
上記マイクロストリップラインは、上記高周波電力伝送用アンテナが形成された配線導体層と、上記高周波電力伝送用アンテナが形成されていない接地導体層と、上記配線導体層と上記接地導体層との間に挟まれた誘電体層とから成る層構造を有し、
上記2つのマイクロストリップラインの上記配線導体層どうしが上記絶縁シートを挟んで向き合い、上記2つのマイクロストリップラインの上記接地導体層が上記絶縁シートから離間するように、上記2つのマイクロストリップラインを対向配置させた
ことを特徴とする請求項1に記載のDCブロック。
【請求項3】
上記2つの高周波電力伝送用アンテナの少なくとも一方は、一部に切り欠きを有するオープンリング形状であり、
上記2つの高周波電力伝送用アンテナを非対称の形状としたことを特徴とする請求項1または2に記載のDCブロック。
【請求項4】
上記2つの高周波電力伝送用アンテナの両方が一部に切り欠きを有するオープンリング形状であり、
上記2つの高周波電力伝送用アンテナについて、オープンリングのリング幅、リング直径、切り欠き位置、切り欠き幅および切り欠き数の少なくとも1つを非対称にしたことを特徴とする請求項3に記載のDCブロック。
【請求項5】
高周波電力を使用した放電によってプラズマを生成するとともに、生成されたプラズマを高電圧の直流電力によって加速させるための容器であるプラズマ生成室と、
上記プラズマ生成室に対して上記高周波電力を伝送するための伝送線路に配置され、上記高周波電力のみを透過して直流電力を遮断するDCブロックとを備え、
上記DCブロックは、請求項1~
4の何れか1項に記載の構成を有することを特徴とするプラズマ発生装置。
【請求項6】
上記電圧印加用回路として直流電源を備えたことを特徴とする請求項
5に記載のプラズマ発生装置。
【請求項7】
上記電圧印加用回路として、上記プラズマ発生装置の直流電源に接続される抵抗を備えたことを特徴とする請求項
5に記載のプラズマ発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電力を透過し直流電力をカットするDCブロックおよびこれを用いたプラズマ発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波信号へ直流(DC)が流れるのを阻止するための装置としてDCブロックが知られており、様々な技術分野で利用されている。その一例として、宇宙機用エンジンへの応用がある。宇宙機用エンジンの中には、電気を利用して推進剤を排出する種類があり、電気推進ロケットと呼ばれる。代表的な電気推進ロケットは、推進剤を電離させてプラズマを生成するための放電機構と、そのプラズマを加速するための加速機構とを有する。
【0003】
ここで、プラズマを生成する容器であるプラズマ生成室に対して、プラズマを生成する際の高周波放電で使用される高周波電力と、生成されたプラズマの加速に必要な高電圧の直流電力とを送る必要がある。この高周波電力と直流電力との干渉を遮断する装置がDCブロックであり、高周波電力の伝送線路に配置されて、高周波電力のみを透過して直流電力を遮断する。すなわち、プラズマ生成用の高周波電力とプラズマ加速用の高電圧の直流電力とを切り分ける装置として、DCブロックが利用される。
【0004】
また、プラズマ生成室の内部においてプラズマと接する複数の壁面に直流電圧を印加することで、プラズマの加速性能を向上可能であることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。この非特許文献1には、プラズマ生成室の内部に高周波電力を発振するためのアンテナに対して電圧を印加することにより、特に顕著な性能向上を引き起こすことが開示されている。アンテナに電圧を印加する方法として、マイクロ波の伝送路にT字の箇所を設け、芯線のみを取り出して電圧を印加する方法が開示されている。
【0005】
なお、異なる平面上に形成されたオープンリング状の2つの共振器を対向配置させ、直流電力または低周波信号を送電可能にするとともに、共振器どうしを電磁結合させて高周波信号を伝送させることを可能にした高周波信号装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1には、絶縁体で構成されるスペーサ板を間に挟んで2つの共振器を対向配置させることも開示されている。
【0006】
【文献】特開2009-246810号公報
【文献】「1W級水イオンスラスタの内部静磁場及び放電室内面電位が推進剤利用効率に与える影響の実験的評価」(安宅泰穂,中川悠一,小泉宏之,小紫公也;JSASS第50期 年会講演会講演集;2019年4月18日~19日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
DCブロックは、宇宙機用エンジン以外の地上の技術分野における高周波電力の利用においても多々必要とされるが、それらの用途は、高周波低電力(1~100W)と直流低電圧(1~100V)との組み合わせか、高周波高電力(100~10000W)と直流高電圧(1~10kV)との組み合わせに限られていることが多い。また、一般に後者のDCブロックは大型の機器である。
【0008】
これに対して、宇宙機器である電気推進ロケットに用いられるDCブロックでは、高周波低電力(1~100W)と直流高電圧(1~10kV)との組み合わせが求められ、かつ、大幅な小型化が求められている。特に小型宇宙機用エンジンに適用する場合には、大幅な小型化が求められる。しかしながら、同軸線路形状または導波管形状を用いて構成された従来のDCブロックでは、このような高周波低電力-直流高電圧および超小型サイズを実現することができていない。
【0009】
同軸型のDCブロックの場合、同軸線路の上流と下流の電気結合は容量的なものとなる。このため、上流側同軸線路の外側導体と下流側同軸線路の外側導体とを絶縁物を挟んで重ね、内側導体に関しても上流側と下流側とを絶縁物を挟んで重ねる必要がある。さらに、マイクロ波(電磁波)を効率良く伝えるために、導体内径と導体外径とを所定の比率に設計してインピーダンスを所定値に合わせる必要もある。これらの制限のもとで耐電圧を高めるためには、内側導体上流-絶縁-内側導体下流-誘電体-外側導体下流-絶縁-外側導体上流のように半径方向に積層を重ねる必要がなり、高電圧化に伴う装置の大型化が避けられない。
【0010】
一方、導波管型のDCブロックの場合、電気結合は電磁波的ものであるため、同軸型のように積層を重ねる必要はない。そのため、上流と下流の導波管の間に絶縁シート(または絶縁板)を1枚挟むことで絶縁が可能であり、高耐圧に向いていると言える。しかしながら、導波管は内部にマイクロ波を通す原理の上で、最小にできるサイズが決まっている。例えば、4~5GHzのマイクロ波を通す場合は、48mm×22mmが最小サイズとなる。したがって、小型化には明確な下限がある。
【0011】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、高周波低電力と直流高電圧との組み合わせに対応した小型のDCブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するために、本発明のDCブロックは、2つのマイクロストリップライン上にそれぞれ形成された2つの高周波電力伝送用アンテナを、絶縁シートを挟んで対向配置させた構成としている。ここで、高周波電力伝送用アンテナは、高周波電力を伝送する同軸線路の内部導体に接続される給電線を有し、マイクロストリップラインには、高周波電力伝送用アンテナと、同軸線路の内部導体に接続されたプラズマ発生用アンテナに直流電圧を印加するための電圧印加用回路とを電気的に接続するための配線パターンが形成されている。
【発明の効果】
【0013】
上記のように構成した本発明によれば、マイクロストリップライン上に高周波電力伝送用アンテナを形成することによって高周波電力の伝送を実現しているので、耐電圧を高めるために同軸型のように積層を重ねる必要がなく、また、導波管型のようにマイクロ波を通す原理の上で最小サイズが制限されることもなく、同軸線路形状または導波管形状を用いた従来のDCブロックに比べて小型化が可能である。また、2つの高周波電力伝送用アンテナの間に挟んだ絶縁シートによって高電圧直流電力を遮断しつつ、高周波電力のみを高効率に透過させることが可能である。これにより、高周波低電力と直流高電圧との組み合わせに対応した小型のDCブロックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態によるDCブロックを適用したプラズマ発生装置の構成例を示す図である。
【
図2】本実施形態によるDCブロックの構成例を示す図である。
【
図3】本実施形態による高周波電力伝送用アンテナの形状の一例を示す図である。
【
図4】本実施形態のDCブロックおよびその周辺部材の構成例を示す図である。
【
図5】第1の変形例に係るプラズマ発生装置の構成例を示す図である。
【
図6】第1の変形例に係る第1のマイクロストリップラインの構成例を示す図である。
【
図7】第2の変形例に係るプラズマ発生装置の構成例を示す図である。
【
図8】本実施形態による高周波電力伝送用アンテナの形状の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態によるDCブロックを適用したプラズマ発生装置の構成例を示す図である。
図1に示すように、本実施形態のプラズマ発生装置は、プラズマ生成室1、高周波電力源2、高電圧直流電力源3およびDCブロック4を備えて構成される。
【0016】
プラズマ生成室1は、高周波電力を使用した放電によってプラズマを生成するとともに、生成されたプラズマを高電圧の直流電力によって加速させるための容器である。プラズマ生成室1には、プラズマ発生用アンテナ11と、壁面13に配置された複数の磁石12と、アクセルグリッド14とが設けられている。プラズマ生成室1では、複数の磁石12によって磁場を形成し、そこにプラズマ発生用アンテナ11よりマイクロ波などの高周波を導入することによってプラズマ放電を行う。生成されたプラズマは、壁面13のアクセルグリッドに対向した面に設置されたプラズマ排出用のスクリーングリッドとアクセルグリッド14によって加速される。
【0017】
高周波電力源2は、プラズマ生成用の高周波電力をプラズマ生成室1に供給するものである。高周波電力源2とプラズマ生成室1との間は、DCブロック4を介して2本の同軸線路5,6で接続されている。上流側の同軸線路5および下流側の同軸線路6はそれぞれ、内部導体5a,6aと外部導体5b,6bとにより構成される。下流側同軸線路6の内部導体6aは、プラズマ発生用アンテナ11に接続されている。下流側同軸線路6の外部導体6bは、プラズマ生成室1の壁面13を介して磁石12に接続されている。
【0018】
高電圧直流電力源3は、プラズマ加速用の高電圧直流電力をプラズマ生成室1に供給するものである。高電圧直流電力源3は、プラズマ生成室1の壁面13とアクセルグリッド14とに接続されている。壁面13とアクセルグリッド14の間には1kVを超える高電圧が印加され、その電位差によってプラズマが加速および排出され、宇宙の無限遠電位(0V)に向けて放出される。
【0019】
DCブロック4は、プラズマ生成室1に対して高周波電力を伝送するための伝送線路である同軸線路5,6に配置され、高周波電力のみを透過して直流電力を遮断する。このDCブロック4の構成については、
図2~
図4を用いて詳細に説明する。
【0020】
図2は、DCブロック4の構成例を示す図であり、
図2(a)は斜視図、
図2(b)は側面図である。なお、
図2(b)は層構造の模式図であり、各層の厚さを正確に示したものではない。
図2に示すように、本実施形態のDCブロック4は、2つのマイクロストリップライン101,102上にそれぞれ2つの高周波電力伝送用アンテナ111,121を形成し、当該2つの高周波電力伝送用アンテナ111,121を、絶縁シート103(
図2(a)では図示を省略している)を挟んで対向配置させることによって構成される。
【0021】
図2(b)に示すように、第1のマイクロストリップライン101は、第1の高周波電力伝送用アンテナ111が形成された配線導体層と、第1の高周波電力伝送用アンテナ111が形成されていない接地導体層113と、配線導体層と接地導体層113との間に挟まれた誘電体層112とから成る層構造を有している。本実施形態では、誘電体層112の一方の平面に接地導体層113が形成されている。また、誘電体層112の他方の平面に第1の高周波電力伝送用アンテナ111が配置されて、第1の高周波電力伝送用アンテナ111そのものが配線導体層となっている。なお、
図2(a)では、第1の高周波電力伝送用アンテナ111が誘電体層112の表面から外側に出っ張っていないように見えるが、実際は第1の高周波電力伝送用アンテナ111の厚みの分だけ出っ張っている。
【0022】
第2のマイクロストリップライン102も同様に、第2の高周波電力伝送用アンテナ121が形成された配線導体層と、第2の高周波電力伝送用アンテナ121が形成されていない接地導体層123と、配線導体層と接地導体層123との間に挟まれた誘電体層122とから成る層構造を有している。誘電体層122の一方の平面に接地導体層123が形成されるとともに、他方の平面に第2の高周波電力伝送用アンテナ121が配置されて、第2の高周波電力伝送用アンテナ121そのものが配線導体層となっている。
【0023】
2つのマイクロストリップライン101,102は、互いの配線導体層(高周波電力伝送用アンテナ111,121)どうしが絶縁シート103を挟んで向き合い、2つのマイクロストリップライン101,102の接地導体層113,123が絶縁シート103から離間するように対向配置されている。
【0024】
第1のマイクロストリップライン101は、第1の高周波電力伝送用アンテナ111が
図4に示す端子107を介して下流側同軸線路6の内部導体6aに接続されるとともに、接地導体層113が端子107を介して下流側同軸線路6の外部導体6bに接続される。
【0025】
第2のマイクロストリップライン102には、第2の高周波電力伝送用アンテナ121、誘電体層122および接地導体層123を貫通する貫通穴124が形成されている。この貫通穴124に接続される
図4の端子108を介して第2の高周波電力伝送用アンテナ121が上流側同軸線路5の内部導体5aに接続されるとともに、接地導体層123が端子108を介して上流側同軸線路5の外部導体5bに接続される。
【0026】
図3は、マイクロストリップライン101,102に形成される高周波電力伝送用アンテナ111,121の形状の一例を示す図である。
図3に示すように、2つの高周波電力伝送用アンテナ111,121は非対称の形状(異なる形状)とされている。
【0027】
第1の高周波電力伝送用アンテナ111は、一部に切り欠き111bを有するオープンリング形状のアンテナである。すなわち、第1の高周波電力伝送用アンテナ111は、オープンリング形状のリングアンテナ111aと、下流側同軸線路6の内部導体6aに接続される給電線111cとを有している。給電線111cに対して
図4に示す端子107を接続し、当該端子107から下流側同軸線路6の内部導体6aまで配線を通すことにより、リングアンテナ111aと下流側同軸線路6の内部導体6aとの間が電気的に接続される。なお、リングアンテナ111aの線路長(切り欠き111bを形成している一方の端部から他方の端部までの線路の長さ)は、伝送信号の波長の1/2の奇数倍とすることを要しない。
【0028】
第2の高周波電力伝送用アンテナ121は、切り欠きを有しないクローズリング形状のアンテナである。すなわち、第2の高周波電力伝送用アンテナ121は、クローズリング形状のリングアンテナ121aと、上流側同軸線路5の内部導体5aに接続される給電線121cと、貫通穴124の一部を成す穴121dとを有している。穴121dに対して
図4に示す端子108を接続し、給電線121cから貫通穴124および端子108を介して上流側同軸線路5の内部導体5aまで配線を通し、当該配線を給電線121cに半田付け等によって接続することにより、リングアンテナ121aと上流側同軸線路5の内部導体5aとの間が電気的に接続される。
【0029】
第1の高周波電力伝送用アンテナ111と第2の高周波電力伝送用アンテナ121とを絶縁シート103を挟んで対向配置させるに際し、リングアンテナ111a,121aの中心軸が同一線上となるように配置される。これにより、リングアンテナ111a,121aの電磁結合を強くすることが可能である。
【0030】
第1の高周波電力伝送用アンテナ111の給電線111cは、リングアンテナ111aからリングの外側に向かって第1のマイクロストリップライン101の外縁付近の位置まで延伸するように形成されている。これに対し、第2の高周波電力伝送用アンテナ121の給電線121cは、リングアンテナ121aからリングの内側に向かって第2のマイクロストリップライン102の中心位置まで延伸するように形成されている。
【0031】
図4は、本実施形態のDCブロック4およびその周辺部材の構成例を示す図である。本実施形態のDCブロック4は、第1のマイクロストリップライン101がネジにより第1の絶縁治具105に取り付けられ、第2のマイクロストリップライン102がネジにより第2の絶縁治具106に取り付けられる。そして、第1の絶縁治具105と第2の絶縁治具106とがネジにより固定される。
【0032】
高周波電力伝送用アンテナ111,121には、それぞれ端子107,108が接続されており、当該端子107,108を介して高周波電力が入出力される。端子107には、中心に1つのピン107aが設けられるとともに、四隅に4つの足107bが設けられており、4つの足107bによって第1のマイクロストリップライン101が挟み込まれる。このとき、下側の2本の足107bが接地導体層113に接続され、中心のピン107aが第1の高周波電力伝送用アンテナ111の給電線111cに接続される。また、端子108には、中心に1つのピン108aが設けられており、これが第2のマイクロストリップライン102の穴121dから貫通穴124に挿通されることによって第2の高周波電力伝送用アンテナ121の給電線121cに接続されるとともに、ピン108aの周囲の底面部が接地導体層123に接続される。
【0033】
以上のように、本実施形態のDCブロック4では、2つのマイクロストリップライン101,102上に高周波電力伝送用アンテナ111,121を形成することによって高周波電力の伝送を実現しているので、同軸線路形状または導波管形状を用いた従来のDCブロックに比べて小型化が可能である。また、非対称の高周波電力伝送用アンテナ111,121の間に挟んだ絶縁シート103によって高電圧直流電力を遮断しつつ、高周波電力のみを高効率に透過させることが可能である。
【0034】
これにより、高周波低電力と高電圧直流電力との組み合わせに対応した小型のDCブロック4を提供することができる。ここで、リングアンテナ111a,121aのリング幅、リング直径、切り欠き位置、切り欠き幅、切り欠き数、給電線111c,121cの線幅の少なくとも1つを適切に設計することにより、数kV級の高電圧直流電力を絶縁シート103によって遮断しつつ、任意の周波数の高周波電力のみを高効率に透過させることが可能である。
【0035】
図5は、第1の変形例に係るプラズマ発生装置の構成例を示す図である。なお、この
図5において、
図1に示した構成要素と同じ構成要素には同一の符号を付している。第1の変形例に係るプラズマ発生装置は、プラズマ発生用アンテナ11に対して電圧を印加することにより、プラズマの加速性能を向上させるようにしたものである。
【0036】
図5に示すように、第1の変形例に係るプラズマ発生装置は、直流電源7を更に備えるとともに、DCブロック4に代えてDCブロック4’を備えている。直流電源7は、下流側同軸線路6の内部導体6aに接続されたプラズマ発生用アンテナ11に直流電圧を印加するための電圧印加用回路である。DCブロック4’は、下流側同軸線路6の内部導体6aに接続される第1の高周波電力伝送用アンテナ111から直流電源7に対して直流電圧を引き出すように構成されている。
【0037】
図6は、第1の変形例に係る第1のマイクロストリップライン101’の構成例を示す図である。なお、この
図6において、
図3(a)に示した構成要素と同じ構成要素には同一の符号を付している。
図6に示すように、第1の変形例に係る第1のマイクロストリップライン101’ には、第1の高周波電力伝送用アンテナ111と直流電源7とを電気的に接続するための配線パターン115が形成されている。配線パターン115は、伝送対象とする高周波に影響を与えない線幅および長さとなるように設計する。
【0038】
配線パターン115は、第1の高周波電力伝送用アンテナ111のリングアンテナ111aに電気的に接続される。また、配線パターン115から直流電源7までの間は、
図5に示す配線8aにより接続される。これにより、直流電源7とプラズマ生成室1のプラズマ発生用アンテナ11との間が、配線8aと、DCブロック4’の配線パターン115および第1の高周波電力伝送用アンテナ111と、下流側同軸線路6の内部導体6aとを介して電気的に接続される。また、プラズマ生成室1の壁面13と直流電源7との間が配線8bにより接続される。
【0039】
プラズマ生成室1のプラズマ発生用アンテナ11に対して電圧を印加するための構成として、従来は非特許文献1に記載されているように、下流側同軸線路6にT字型コネクタとスタブチューナとを配置し、芯線のみを取り出して電圧を印加する方法が一般的であった。しかしながら、T字型コネクタおよびスタブチューナの導入は小型化の大きな障害となっていた。
【0040】
これに対し、第1の変形例では、第1のマイクロストリップライン101の配線パターン115を利用し、高周波電力の透過に影響を与えずに直流電圧を第1の高周波電力伝送用アンテナ111から抜き出すことで、T字型コネクタおよびスタブチューナを用いることなくプラズマ発生用アンテナ11に対する直流電圧の印加を実現している。これにより、プラズマ発生装置を小型化することができる。これは、T字型コネクタおよびスタブチューナの機能をDCブロック4’に内包をさせることで、プラズマ発生装置の小型化を実現することに等しい。
【0041】
図7は、第2の変形例に係るプラズマ発生装置の構成例を示す図である。なお、この
図7において、
図5に示した構成要素と同じ構成要素には同一の符号を付している。第2の変形例に係るプラズマ発生装置も第1の変形例と同様、プラズマ発生用アンテナ11に対して電圧を印加することにより、プラズマの加速性能を向上させるようにしたものであり、第1のマイクロストリップライン101’に配線パターン115を形成している点は
図6と同様である。
【0042】
第2の変形例では、下流側同軸線路6の内部導体6aに接続されたプラズマ発生用アンテナ11に直流電圧を印加するための電圧印加用回路として、
図5に示した直流電源7に代えて、プラズマ発生装置の直流電源(図示しないメイン電源)に接続される抵抗9a,9bを備えている。
図7に示す例では、高電圧直流電力源3とプラズマ生成室1の壁面13との間を接続する配線上にも抵抗9cが設けられている。抵抗9a,9b,9cの何れかは、その値が0Ω(抵抗無し)の場合も含む。
【0043】
このように、第2の変形例では、第1の高周波電力伝送用アンテナ111から配線パターン115を介して接続される配線8aと、プラズマ生成室1の壁面13から接続される配線8bとを、複数の抵抗9a,9b(0Ωを含む)を介してプラズマ発生装置のメイン電源に接続する構成としている。これにより、
図5のようにプラズマ発生装置のメイン電源とは別系統の直流電源7を用いることなく、抵抗9a,9bでの電圧降下を利用して、プラズマ生成室1のプラズマ発生用アンテナ11および壁面13に異なる電位を印加するようにしている。
【0044】
これにより、第2の変形例によれば、プラズマ生成室1のプラズマ発生用アンテナ11および壁面13の電位変更を、プラズマ発生装置のメイン電源(プラズマ起電力)を利用した抵抗接続によって実現することができる。これにより、プラズマ発生装置のメイン電源とは別に直流電源7を設ける必要がなく、プラズマ発生装置の小型化を図ることができる。すなわち、直流電源7の代わりに抵抗9a,9bを用いることで、プラズマ発生装置の大幅な小型化および簡易化が可能となる。
【0045】
なお、上記実施形態では、第1の高周波電力伝送用アンテナ111のみオープンリング形状とする例について説明したが、2つの高周波電力伝送用アンテナの両方ともクローズリング形状とするようにしてもよいし、
図8に示すように、2つの高周波電力伝送用アンテナ111,121’の両方ともオープンリング形状としてもよい。そして、2つの高周波電力伝送用アンテナ111,121’について、リング幅、リング直径、切り欠き位置、切り欠き幅および切り欠き数の少なくとも1つを非対称に構成するようにしてもよい。
【0046】
2つの高周波電力伝送用アンテナ111,121’の両方ともオープンリング形状とすることにより、電磁結合を強くすることが可能である。このとき、リングアンテナ111a,121a’の中心軸が同一線上となり、かつ、切り欠き111b,121b’が当該中心軸に対して対称の位置(180度ずれた位置)となるように配置することにより、リングアンテナ111a,121a’の電磁結合をより一層強くすることが可能である。
【0047】
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 プラズマ生成室
2 高周波電力源
3 高電圧直流電力源
4,4’ DCブロック
5,6 同軸線路
7 直流電源
8a,8b 配線
9a,9b,9c 抵抗
11 プラズマ発生用アンテナ
12 磁石
13 壁面
14 アクセルグリッド
101,102 マイクロストリップライン
103 絶縁シート
111,121 高周波電力伝送用アンテナ(配線導体層)
112,122 誘電体層
113,123 接地導体層
114,124 貫通穴
115 配線パターン