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特許7464905油水分離装置およびそれを用いたスカンジウムの精製方法
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  • 特許-油水分離装置およびそれを用いたスカンジウムの精製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】油水分離装置およびそれを用いたスカンジウムの精製方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 17/00 20060101AFI20240403BHJP
   B01D 17/04 20060101ALI20240403BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20240403BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20240403BHJP
   C22B 59/00 20060101ALI20240403BHJP
   C22B 3/26 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B01D17/00 503D
B01D17/04 501A
B01D17/04 501D
C02F1/28 D
C02F1/28 H
B01D63/02
C22B59/00
C22B3/26
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020035585
(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公開番号】P2021137702
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 宙
(72)【発明者】
【氏名】小原 剛
(72)【発明者】
【氏名】中井 修
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-281006(JP,A)
【文献】特開2014-124539(JP,A)
【文献】特開2007-160264(JP,A)
【文献】特開2016-065273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 17/00 - 17/12
C02F 1/28
B01D 63/00 - 63/16
C02F 1/44
C22B 59/00
B01D 11/00 - 12/00
C22B 3/26
C02F 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スカンジウムと異物を含有する油分混合水からスカンジウムを得る油水分離装置であって、
前記油分混合水から油分および異物を除去するための除濁装置と、
前記除濁装置から供給された油分混合水から油分を除去して油水分離するコアレッサーと、
前記コアレッサーから供給された油分混合水から水溶液の油分を除去する第2活性炭吸着塔と、
前記第2活性炭吸着塔から供給された処理液から微細な油分および微細な浮遊物質を除去するための中空糸膜フィルタとからなる
ことを特徴とする油水分離装置。
【請求項2】
前記中空糸膜フィルタが、孔径が1nm以上で100nm以下の濾材を用いている
ことを特徴とする請求項1記載の油水分離装置。
【請求項3】
前記除濁装置が、第1活性炭吸着塔およびその下流に設けられたカートリッジフィルタとからなる
ことを特徴とする請求項1または2記載の油水分離装置。
【請求項4】
前記油分混合水は、鉱石を酸で浸出した浸出液から溶媒抽出で得られた水相である
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の油水分離装置。
【請求項5】
前記請求項1、2または3記載の油水分離装置を用いて、スカンジウムを得る
ことを特徴とするスカンジウム精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油水分離装置およびそれを用いたスカンジウムの精製方法に関する。さらに詳しくは、油分と浮遊物質等を含有する油分混合水を処理する油水分離装置およびそれを用いたスカンジウムの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルなどの金属を酸化鉱石などの原料から精錬(製錬)する方法として、原料となる鉱石を酸などを用いて浸出してニッケルを含有する酸性の浸出液を得、この浸出液を電解液に用いて電解採取に供してニッケルなどの回収対象の金属を得る方法がある。
【0003】
しかるに、原料には回収対象の金属以外にも回収に適さなかったり目的とする金属の品質に影響する多種多様な不純物が含有されている場合が多く、前述の浸出液を電解採取に供するのに先立って精製工程に付して不純物を分離することが必要となる。
【0004】
精製工程としては様々な方法があるが、この中で例えば上記した酸性の浸出液を抽出剤を含有する有機溶媒と接触させて浸出液中の目的の金属あるいは不純物を分離する溶媒抽出方法が広く用いられる。
【0005】
溶媒抽出方法は一般に、抽出、洗浄、逆抽出の3段階を経て行われる。
用いられる有機溶媒は、抽出に作用する抽出剤を希釈剤で希釈したものである。
抽出の段階では、有機溶媒と被処理液(精錬工程での浸出液、または酸浸出液)を混合し、被処理液中の金属イオンを有機溶媒に移行(抽出)する。このとき溶媒に移行しなかったものは「抽出後の被処理液」(「抽残液」とも称する)に残る。ここで静置すると被処理液(水相)と有機溶媒(有機相)が比重差によって有機相が上、水相が下に分離し、「抽出後の有機溶媒」と「抽出後の被処理溶液」がそれぞれ回収される。
【0006】
その後の洗浄(「スクラビング」とも称する)では、有機溶媒に残っている被処理液を除くために上記の抽出後の有機溶媒に酸溶液や水を混合し撹拌し静置し、分離して有機溶媒を洗浄する。
最終の逆抽出(「ストリッピング」とも称する)は、洗浄後の有機溶媒に新しい(金属イオンを含んでいない)酸溶液を添加し撹拌する。この逆抽出で、有機溶媒に抽出された金属イオンが抽出剤から酸溶液に移行(逆抽出)される。
【0007】
逆抽出が終わると、目的とする金属イオンを含有する酸溶液(水相)と金属イオンを吐き出して最初と同じ状態に戻った有機溶媒(有機相)になり、両者を静置して分離する。
しかし実際には静置して有機相と水相を分離しても、完全(理想的)には分離できない。それで、一部の有機溶媒は水に溶けて混じり、また含有する不純物が撹拌の影響で酸化される等が原因となって、水相と有機相の境界面に不定形固形物(クラッドなどと称される)が発生することもある。
【0008】
このため溶媒抽出工程を終えた水相は、水相とは呼ばれながらも実際には多少の油分が混合した油分混合水となる。
油分が含まれた混合水はそのまま後工程で処理を継続すれば、製品品質に影響する可能性もあり、さらに排水処理工程を経て海域等へ放流したのでは、環境に影響する懸念もあり好ましくない。
このため、前述の油分混合水を油水分離装置に供給して油分を除去する処理が工業的には欠かせない。
【0009】
特許文献1の従来技術は、浮遊物質を含有する油分混合水を処理する油水分離装置であって、油分混合水から浮遊物質を除去する除濁装置と、除濁装置から排出された油分混合水が供給されるコアレッサーとを備えている。油分混合水に浮遊物質が含有されていても、除濁装置で浮遊物質を除去した後にコアレッサーに供給されるので、コアレッサーのフィルタに浮遊物質が付着することを防止でき、油水分離性能の低下を防止できるという利点がある。
【0010】
しかしながら、鉱石に酸を添加して回収目的の金属を浸出し、溶媒抽出を用いて精製する溶媒抽出方法では、溶媒抽出工程で得られた油分混合水には、浮遊物質が含有される場合もある。とくに金属を鉱石から浸出して精錬する工業的な工程では、大量の液を扱うことが多く、また鉱石には鉄やアルミニウムやマンガンやシリカ(SiO)やカルシウムなどの不純物成分も多量に含有されるので、これらの不純物成分の一部がニッケルなどの回収対象金属とともに酸溶液中に浸出され、処理中に酸化されて酸化物となり大量の浮遊物質を生成することが多い。
【0011】
さらに、溶媒抽出処理においては、有機溶媒(油相)と被処理液(水相)との間にクラッドと呼ばれる不定形残渣が生じることがある。クラッドは有機相と水相が物理的に混合された状態であり、クラッドが発生すると溶媒抽出の工程を停止して濾過を行ってクラッドを除去したり、除去しきれない場合は有機抽出剤を交換するなどの処理が必要となり、コストと手間の増加をもたらすという問題があった。
このように溶媒抽出工程においては、浮遊物質も大量に発生し、クラッドの発生機会も多く、安定して操業を行うことは容易でなかった。
【0012】
また、近年は、回収しようとする金属によっては、浮遊物質に由来する不純物成分さえも低減することが必要となる場合も生じてきた。たとえば、上述のニッケル酸化鉱石には微量のスカンジウムも含有されることが知られているが、このスカンジウムを回収して燃料電池の電解質材料などの用途に用いようとする場合、不純物レベルを数ppm(百万分率)から成分によってはppb(十億分率)のレベルまで抑制した超高純度なスカンジウム化合物が必要とされ、浮遊物質をできるだけ減少することが製品品質の面からも必要となる。しかるに特許文献1の方法ではppbレベルまで不純物を安定して低減することは容易でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2014-124539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記事情に鑑み、油分混合水中の油分と、浮遊物質や不定形残渣等の異物を非常に低いレベルまで低減でき、かつ安定して運転できる油水分離装置を提供することを目的とする。また、その油水分離装置を用いたスカンジウムの精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1発明の油水分離装置は、スカンジウムと異物を含有する油分混合水からスカンジウムを得る油水分離装置であって、前記油分混合水から油分および異物を除去するための除濁装置と、前記除濁装置から供給された油分混合水から油分を除去して油水分離するコアレッサーと、前記コアレッサーから供給された油分混合水から水溶液の油分を除去する第2活性炭吸着塔と、前記第2活性炭吸着塔から供給された処理液から微細な油分および微細な浮遊物質を除去するための中空糸膜フィルタとからなることを特徴とする。
第2発明の油水分離装置は、第1発明において、前記中空糸膜フィルタが、孔径が1nm以上で100nm以下の濾材を用いていることを特徴とする。
第3発明の油水分離装置は、第1または第2発明において、前記除濁装置が、第1活性炭吸着塔およびその下流に設けられたカートリッジフィルタとからなることを特徴とする。
第4発明の油水分離装置は、第1、第2または第3発明において、前記油分混合水は、鉱石を酸で浸出した浸出液から溶媒抽出で得られた水相であることを特徴とする。
第5発明のスカンジウム精製方法は、前記請求項1、2または3記載の油水分離装置を用いて、スカンジウムを得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1発明によれば、スカンジウムと異物を含有する油分混合水から除濁装置で油分と異物が除去され、コアレッサーでさらに油分除去され油水分離される。また、第2活性炭吸着塔で水溶性の油分除去され、ついで中空糸膜フィルタで微細な油分および浮遊物質が除去されるので、油分や浮遊物質等に由来する不純物成分を非常な低レベルまで低減できる。しかも、除濁装置からコアレッサー、第2活性炭吸着塔、中空糸膜フィルタの順で配列したことで、上流側機器が下流側機器の負担を軽くでき、非常に低いレベルまでの不純物除去安定して行える。このため、電池の電解質材料に好適な高純度のスカンジウムを得ることができる。
第2発明によれば、濾材の孔径が、100nm以下であることから浮遊物質や不定形残渣を微細なものまで低減でき、1nm以上であることから閉塞が生じにくくなる。
第3発明によれば、第1活性炭吸着塔により油分混合水に含有される油分を吸着でき、さらにカートリッジフィルタで、浮遊物質や不定形残渣等の異物を除去できる。このため、油分と異物の大部分の除去を油水分離装置の前段で行えるので、後段で油分と微細異物の除去が効率的に行えるようになる。
第4発明によれば、油分に加え、微細な浮遊物質や不定形残渣も残っている水相でありながらppm未満のレベルまで異物を低減できる。
第5発明によれば、第1発明、第2発明または第3発明の油水分離装置を用いることにより、遊離有機でppm未満のレベルまで不純物が除去できるので、電池の電解質材料に好適な高純度のスカンジウムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る油水分離装置1の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の油水分離装置はあらゆる産業分野での油水分離に利用できる。以下の実施形態では、ニッケル精錬などの溶媒抽出工程で得られた水相の処理に用いられる場合を例にとって説明する。
【0019】
図1に示すように、溶媒抽出工程では、有機溶媒(油性)と被処理液(水性)とを混合した後に静置することで、油相と水相とが比重差により分離される。被処理液(水性)は目的金属が含まれる水溶液であり、たとえば硫酸ニッケル、硫酸コバルト、塩化ニッケル、塩化コバルトの水溶液などである。溶媒抽出工程に用いられる装置としては、たとえばミキサーセトラー型抽出装置が知られている。
【0020】
水相は酸性の水溶液であるが、分離されなかった少量の油分(有機溶媒)が混合された油分混合水である。また、溶媒抽出工程で得られる油分混合水には浮遊物質や不定形残渣等の異物が含有されている。なお、有機溶媒は、繰り返し溶媒抽出工程に用いられる。
【0021】
≪基本的構成≫
本発明の一実施形態に係る油水分離装置1は、図1に示すように、除濁装置2と、コアレッサー30、第2活性炭吸着塔40、および中空糸膜フィルタ50から構成されており、上流から下流に向かってこの順に直列に接続されている。なお、図示の油水分離装置1では、除濁装置2は第1活性炭吸着塔10およびカートリッジフィルタ20からなるものが用いられている。
【0022】
≪各構成機器の構成と機能≫
以下に、各構成機器の構成と機能を説明する。
(第1活性炭吸着塔10)
第1活性炭吸着塔10には、活性炭11が充填されている。活性炭は炭素物質に非常に多くの細孔を設けたもので、細孔のもつ物理的な吸着作用により微小油滴や水溶性の油分を吸着除去したり、各種の異物を吸着除去できる。
【0023】
(カートリッジフィルタ20)
カートリッジフィルタ20には、各種のフィルタ交換可能な濾過器が用いられる。代表的にはフィルタシートをプリーツ状に折り曲げて円筒状にしたものを例示できる。この種の濾過器ではフィルタシートの目を通り抜けるときに異物を捕集する。本発明では主に油分混合水中の浮遊物質や不定形残渣等の異物除去に用いられる。
【0024】
(コアレッサー30)
コアレッサー30は、油分混合水をフィルタに通し、微小な油滴をフィルタで捕捉し、油滴を凝集させてて粗大化させ、比重差により油水を分離する装置である。本発明では、第1活性炭吸着塔10で除去し切れていない油分を除去し水相と分離する点に使用目的がある。
【0025】
(第2活性炭吸着塔40)
第2活性炭吸着塔40は、第1活性炭吸着塔10と同様に活性炭41が充填されており、微小な油滴や水溶性の油分を除去する装置である。コアレッサー30では分離し切れていない油分を除去し、下流の中空糸膜フィルタ50への油分や異物の供給を可能な限り少なくするために設けられている。第2活性炭吸着塔40を通過した段階では、かなりの程度に油分や浮遊物質や不定形残渣が除去されることになる。
【0026】
(中空糸膜フィルタ50)
中空糸膜フィルタ50は、中心部が空洞(ストロー状)になった繊維を集めて濾材とした濾過器であり、繊維表面には微細な孔が多数あいた多孔質となっている。この中空糸膜を原水が通過する際に微量の異物を捕集することができる。
本発明では、超微細な中空糸膜を用いて、微量含有された油分や異物をフィルタ上に吸着させて除去するために用いられている。中空糸膜にナノメートル(nm)レベルでの分離性能をもつ精密濾過膜があり、このクラスまで浮遊物質等の異物を除去できれば超高純度な製品用途にも充分に対応できる。さらに中空糸膜フィルタ50では、微量含有された油分も効果的にフィルタ上に吸着させて分離できることに加えフィルタに目詰まりし難い特性もあるので、油分の除去に対しても大きな効果がある。
【0027】
中空糸膜フィルタ50に用いる濾材繊維の材質は、特に限定されるものでなく任意のものを用いることができる。濾材表面の孔は100nmのサイズの粒子を捕集できる孔径であることが好ましい。100nmを越える孔径のフィルタでは、中空糸膜フィルタで捕集できず濁度(TSS)が増加して品質の維持が難しくなるので、上限は100nm以下とするのが好ましい。一方で孔径が極端に小さくなると閉塞が生じやすくなるので、下限は概ね1nm以上が好ましい。
【0028】
≪配列順序の技術的意義≫
第1活性炭吸着塔10を最上流に配置したのは、浮遊物質を含んだ油分混合水をそのままコアレッサー30へ給液するとフィルタの表層部に浮遊物質が付着しフィルタが物理的に閉塞してしまう場合があるので、これを防止するためである。
【0029】
第1活性炭吸着塔10の直下には、カートリッジフィルタ20が設けられているので、第1活性炭吸着塔10で除去しきれなかった浮遊物質等の異物を除去できる。また、第1活性炭吸着塔10から活性炭が漏洩した場合でも、カートリッジフィルタ20で捕捉でき、コアレッサー30への悪影響を防止できる。
【0030】
除濁装置2(第1活性炭吸着塔10とカートリッジフィルタ20)およびコアレッサー30は、これらにより油分混合水中の油分を一次除去するため、第2活性炭吸着塔40への油分負担が低減されている。そして、油分負担が低減されている分、第2活性炭吸着塔40で水溶性の油をさらに除去でき、TOC濃度(全有機炭素濃度)を低減できる。
【0031】
第2活性炭吸着塔40を中空糸膜フィルタ50の上流に配置したのは、中空糸膜フィルタ50の機能を充分に確保するためである。
すなわち、中空糸膜フィルタ50のフィルタが閉塞すると中空糸膜フィルタ50の油水分離性能が低下してしまい、さらに、中空糸膜フィルタ50の閉塞したフィルタを交換する頻度が増すために、操業コストや手間が増加してしまう。
本実施形態のように、第2活性炭吸着塔40で予め油分除去をしておくと、中空糸膜フィルタ50での負担がより軽くなり、微細な浮遊物質や不定形残渣を非常に低いレベルまで除去することができる。
【0032】
なお、油水分離装置1から排出される水溶液の品質を確保するだけならば、最初から中空糸膜フィルタ50に通液すればいいようにも思えるが、原料の鉱石を処理して得た溶液には多量の粗大な浮遊物質が存在するので、たちまち目詰まりして濾過できなくなる。しかも鉱石組成等により浮遊物質濃度がばらつく場合でも安定して浮遊物質を除去するためには、最終段で中空糸膜フィルタ50により精密濾過を行うことが操業の安定化のために好ましい。
【0033】
≪溶媒抽出工程での用法≫
溶媒抽出工程で得られた油分混合水は、図1に示すように、まず第1活性炭吸着塔10に供給され、含有される油分と異物が吸着除去される。第1活性炭吸着塔10から供給された油分混合水はカートリッジフィルタ20に供給され、さらに浮遊物質等の異物が除去される。カートリッジフィルタ20から供給された油分混合水はコアレッサー30に供給され油分が除去され油水分離される。コアレッサー30から排出される油分(有機溶媒)は溶媒抽出工程に送り返され、再び使用される。
【0034】
一方、コアレッサー30から供給される油分混合水は第2活性炭吸着塔40に供給され、水溶性の油分が除去される。第2活性炭吸着塔40から排出される処理液は、さらに中空糸膜フィルタ50に供給され、中空糸膜フィルタ50で微細な油分および浮遊物質等の異物が除去される。中空糸膜フィルタ50から排出される処理後液は、廃水処理工程に送られる。
【0035】
以上のような構成であるから、本実施形態では、つぎの利点が得られる。
(1)油分混合水に浮遊物質が含有されていても、第1活性炭吸着塔10およびカートリッジフィルタ20により油分の大部分とで浮遊物質等の異物を除去した後にコアレッサー30に供給するので、コアレッサー30のフィルタ31に浮遊物質等の異物が付着することを防止でき、油水分離性能の低下を防止できる。
【0036】
(2)第2活性炭吸着塔40から排出された処理後液は、中空糸膜フィルタ50に供給される。そのため、活性炭充填塔やカートリッジフィルタでは除去しきれないほど微細な浮遊物質が存在していても、これらを除去することができる。つまり、本発明では、不純物がppm(百万分率)かそれ以下のレベルまで低減することができる。さらに、供給する原料の変化や操業条件のばらつき等に対しても安定した品質を確保することができる。
【0037】
(3)本実施形態の油水分離装置1は、ニッケル酸化鉱石に微量含有されるスカンジウムを回収して電池の電解質材料に用いる場合にも利用できる。電池の電解質材料には、不純物レベルをppm以下のレベルに低減した高純度なスカンジウムが必要とされるが、本実施形態の油水分離装置1では、純度が99.9%程度のスカンジウムを得ることができるので、かかる要請を満足することができる。
【0038】
(他の実施形態)
図1の実施形態では、第1活性炭吸着塔10およびカートリッジフィルタ20により除濁装置2を構成している。除濁装置としては、上記のほか活性炭吸着塔単独やサンドフィルタなどの充填塔、フィルタプレス、バッグフィルタなどの加圧濾過機、砂濾過池、膜濾過機、カートリッジフィルタ単独などを用いることができる。
ただし、一般に、溶媒抽出工程で得られる油分混合水に含有される浮遊物質は低濃度であるから、本実施形態のように、低容量であり取扱の容易な活性炭充填塔やカートリッジフィルタを採用することが好ましい。
【実施例
【0039】
つぎに、実施例を説明する。
実施例および比較例ともに、溶媒抽出工程では、次の条件を満たす操業を行った。
<被処理液>
溶媒抽出に供する被処理液には、スカンジウム濃度が10g/Lの硫酸酸性溶液を用いた。また、鉄、クロムやアルミニウムなどの不純物も含有していた。
【0040】
<有機溶媒>
溶媒抽出工程での有機溶媒には、官能基がアミンである溶媒(Cognis社製、商品名Primene JM-T)を用い、希釈剤(商品名Swasol)で希釈して用いた。
上述の被処理液(硫酸酸性溶液、つまり酸浸出液)をNaOH濃度が200g/Lである水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを調整し、上記の有機溶媒と混合した。
【0041】
<抽出装置>
抽出装置にはミキサーセトラー型の抽出装置を用いた。上記の被処理液(硫酸酸性溶液)を約130リットル/分の流量で通液して溶媒抽出に付し、排出側に水相と油相を得た。なお、溶媒抽出での油相/水相の比は1/3とした。抽出は室温で行った。
【0042】
溶媒抽出工程で得られた油分混合水(水相)の浮遊物質濃度を濾過による濾紙重量の増加による方法で測定すると10~13mg/Lの範囲だった。
【0043】
(実施例1)
上記の溶媒抽出工程で得た油分混合水を、図1に示す油水分離装置1を用いて油水分離した。
第1活性炭吸着塔10には、粒度0.5~1.7mmの活性炭360kgを充填し、油分混合水を単位時間当たりの流量(空間速度:SV)が10.8/hourとなる流量で通液した。
カートリッジフィルタ20には、濾過精度が10μmの孔径である装置を用いた。
コアレッサー30のフィルタには、直径が150mmで高さが480mmのサイズであり濾過孔径が2μmであるフィルタエレメントを12本束ねたものを用いた。
第2活性炭吸着塔40は、第1活性炭吸着塔10と同じ粒度0.5~1.7mmの活性炭360kgを充填し、コアレッサー30より排出された油分混合水を単位時間当たりの流量(空間速度:SV)が10.8(L/h)となる流量で通液した。
また中空糸膜フィルタ50には孔径17nmのフィルタを備えたクラレ株式会社製の商品名キャラクターを用いた。
【0044】
(比較例1)
中空糸膜フィルタ50を用いない以外は、実施例1と同様の装置を用いて油水分離した。
【0045】
結果を表1に示す。濁度は市販の濁度計を用いて測定し溶液中の不定形残渣の指標として用いた。単位は、比濁計濁度単位(NTU)である。また、有機は静置後に濾過した液表面状態を目視で観察した。
【0046】
実施例1では中空糸膜フィルタ50を通過させることで、濁度や含有する有機が大きく減少したことが確認された。中空糸膜フィルタ50を通さない比較例1では有機を完全には除去できなかったが、実施例1では完全に除去できたので、スカンジウム製品中の有機成分に由来する硫酸根(SO 2-)品位を抑制するのに役立つことが分かった。
具体的には、比較例1に相当する従来のコアレッサーまでの処理では濁度が0.7あり有機分も残留していたが、実施例1である中空糸膜フィルタ50まででの濾過に付すことで、濁度が0.4にまで低下し、有機も除去できた。
【0047】
【表1】
【0048】
さらに、実施例1の効果を製品品質で確認するため、中空糸膜フィルタ50を経た液とシュウ酸水溶液を元液としてシュウ酸の結晶と反応させて、シュウ酸スカンジウムのスラリーを生成させ、これを濾過して得たシュウ酸スカンジウムの品質を確認した。
具体的には、濃度100g/lのシュウ酸水溶液を添加し常温で4時間反応させてその後さらに撹拌を1時間継続してシュウ酸スカンジウムの粒子成長を促した。
また不純物品位は鉄、マンガン、アルミニウム、ニッケル、カルシウム、ケイ素など分析装置で検出された不純物成分の合計値を総浮遊物質量(TSS)として評価した。
表2に示したように、実施例1における中空糸膜フィルタ50を利用した濾過を行うことで、総合不純物品位、有機臭、製品の色に大きな差が生じ実施例1の効果を確認できた。
【0049】
【表2】
【0050】
実操業を60日間行った場合の結果(60日間テスト)を以下に示す。
実施例1では、通液開始から60日目においても、回収有機量の低下は発生せず、当初の回収有機量を維持できた。また、60日の操業の間でカートリッジフィルタ20のフィルタ交換作業は発生しなかった。これらの結果は、総浮遊物質量(TSS)が約50ppmと少ないことから裏付けられる。
【0051】
比較例1では、通液開始から60日目において、回収有機量が44%まで低下した。また、この結果は、総浮遊物質量(TSS)が約600ppmと多いことから裏付けられる。
【0052】
上記実施例1の結果は、得られるスカンジウムの品位が高いことも示している。
【符号の説明】
【0053】
1 油水分離装置
2 除濁装置
10 第1活性炭吸着塔
20 カートリッジフィルタ
30 コアレッサー
40 第2活性炭吸着塔
50 中空糸膜フィルタ
図1