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特許7464956間葉系幹細胞、免疫疾患治療剤及び抗炎症剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞、免疫疾患治療剤及び抗炎症剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20240403BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20240403BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240403BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240403BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C12N5/0775 ZNA
A61K35/28
A61P37/02
A61P37/06
A61P29/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020559070
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2019046098
(87)【国際公開番号】W WO2020121800
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2018234113
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業(再生医療等の産業化に向けた評価手法等の開発)「臍帯由来間葉系細胞の大量培養技術(浮遊培養法)の開発と同等性評価」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】黒木 輝
(72)【発明者】
【氏名】湯本 真代
(72)【発明者】
【氏名】長村 登紀子
【審査官】菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/074758(WO,A2)
【文献】特表2018-536403(JP,A)
【文献】特表2018-527403(JP,A)
【文献】LIU,X.D., et al.,IFN-γ Stimulation Enhances Immunosuppressive Capability of Human Umbilical Cord Mesenchymal Stem Cells,Journal of Experimental Hematology,2014年,Vol.22,p.605-611
【文献】東條有伸,臍帯由来間葉系幹細胞の免疫制御作用の研究,臍帯血・臍帯由来間葉系細胞製剤を用いた新規免疫療法・再生医療の開発 平成26年度 委託業務成果報告書,2015年,p.32-39
【文献】高橋敦子,他,臍帯由来間葉系細胞製品における免疫抑制効果評価方法の確立,Japanese Journal of Transfusion and Cell Therapy,2019年04月23日,Vol.65, No.2,p.386, O-136
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12N 15/00-15/90
A61P 29/00
A61K 35/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞懸濁液とマイクロキャリアを混合し、培養槽に添加して、間葉系幹細胞用無血清培地を用いて撹拌培養を行って得られた、キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高いことを特徴とする、間葉系幹細胞。
【請求項2】
IFNγ処理により細胞内で誘導されるIDOにより、トリプトファンから合成されるキヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高いことを特徴とする、請求項1に記載の間葉系幹細胞。
【請求項3】
JAK/STAT経路が、定常状態で活性化していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の間葉系幹細胞。
【請求項4】
臍帯組織由来である、請求項1から3のいずれか1項に記載の間葉系幹細胞。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の間葉系幹細胞を含有する免疫疾患治療剤。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の間葉系幹細胞を含有する抗炎症剤。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか1項に記載の間葉系幹細胞を含有するGVHD治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞、免疫疾患治療剤及び抗炎症剤に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫不全疾患では、免疫システムが正常に働かないことにより、感染症が起こったり、何度も再発したり、症状が重くなったり、長引いたりする。免疫不全疾患にかかると、細菌、ウィルス、真菌などの外敵による侵襲や癌細胞のような異常細胞の攻撃から体を守る免疫システムの能力が損なわれる。その結果、免疫機能が正常であればかからないような細菌、ウィルス、真菌による感染症や癌に罹患する。
【0003】
免疫不全疾患には、出生時に既に羅患している先天性(1次性)の免疫不全疾患と、後年何らかの病気の結果などによって発症する後天性(2次性)の免疫不全疾患がある。後天性免疫不全疾患は、長期間の重症疾患の結果発症することが多く、このような重症疾患としては、癌、再生不良貧血、白血病、骨髄線維症、腎不全、糖尿病、肝疾患、脾疾患などが例示される。
【0004】
また、年をとると共に免疫システムも衰弱し、徐々に、自己と異物を区別できなくなり、その結果、自己免疫疾患が起こりやすくなる。自己免疫疾患は種々あり、様々な細胞や組織が攻撃の対象となる。このような自己免疫疾患の治療としては、免疫システムを抑制して自己免疫反応を制御すること等が行われている。しかし、自己免疫反応の制御に使われる薬物の多くは、体が感染症などと戦う能力も妨げてしまうため自己免疫反応の制御作用のみを有する新規治療薬の開発が望まれている。
【0005】
間葉系幹細胞は、1982年にFriedensteinによって初めて骨髄から単離された多分化能を有する前駆細胞である(非特許文献1参照)。間葉系幹細胞は、骨髄、臍帯、脂肪等の様々な組織に存在することが明らかにされており、間葉系幹細胞移植は、様々な難治性疾患に対する新しい治療方法として、期待されている(特許文献1~2参照)。最近では、脂肪組織、胎盤、臍帯、卵膜等の間質細胞に同等の機能を有する細胞が存在することが知られている。そのため、間葉系幹細胞を間質細胞(Mesenchymal Stromal Cell)と称することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-157263号公報
【文献】特表2012-508733号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Pittenger F.M.et al.Science ,(1999),284,pp.143-147
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような状況の中、新規の免疫疾患治療剤及び抗炎症剤の新規治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明者らは、キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高いことを特徴とする、間葉系幹細胞(mesenchymal stem(stromal) cell; MSC)が、免疫疾患及び炎症性疾患の治療に有効であることを見出し、本発明を完成させた。本発明によれば、免疫疾患及び炎症性疾患の治療のために有効な治療剤を提供できる。すなわち本発明の要旨は、以下の通りである。
【0010】
[1]キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高いことを特徴とする、間葉系幹細胞。
[2]IFNγ処理により細胞内で誘導されるIDOにより、トリプトファンから合成されるキヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高いことを特徴とする、間葉系幹細胞。
[3]JAK/STAT経路が、定常状態で活性化していることを特徴とする、間葉系幹細胞。
[4]臍帯組織由来である、[1]から[3]のいずれかに記載の間葉系幹細胞。
[5][1]から[4]のいずれかに記載の間葉系幹細胞を含有する免疫疾患治療剤。
[6][1]から[4]のいずれかに記載の間葉系幹細胞を含有する抗炎症剤。
[7][1]から[4]のいずれかに記載の間葉系幹細胞を含有するGVHD治療剤。
[8]キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、免疫疾患の治療方法。
[9]IFNγ処理により細胞内で誘導されるIDOにより、トリプトファンから合成されるキヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、免疫疾患の治療方法。
[10]JAK/STAT経路が、定常状態で活性化している間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、免疫疾患の治療方法。
[11]上記間葉系幹細胞が、臍帯組織由来である、[8]から[10]のいずれかに記載の、免疫疾患の治療方法。
[12]キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、炎症性疾患の治療方法。
[13]IFNγ処理により細胞内で誘導されるIDOにより、トリプトファンから合成されるキヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、炎症性疾患の治療方法。
[14]JAK/STAT経路が、定常状態で活性化している間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、炎症性疾患の治療方法。
[15]上記間葉系幹細胞が、臍帯組織由来である、[12]から[14]のいずれかに記載の、炎症性疾患の治療方法。
[16]キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、GVHDの治療方法。
[17]IFNγ処理により細胞内で誘導されるIDOにより、トリプトファンから合成されるキヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、GVHDの治療方法。
[18]JAK/STAT経路が、定常状態で活性化している間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、GVHDの治療方法。
[19]上記間葉系幹細胞が、臍帯組織由来である、[16]から[18]のいずれかに記載の、GVHDの治療方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、新規な免疫疾患治療剤及び抗炎症剤、並びに新規な免疫疾患の治療方法及び炎症性疾患の治療方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、間葉系幹細胞の平面培養細胞(ADH)と浮遊培養細胞(SUS)の細胞内キヌレニン量の比較を示す図である。
図2図2は、間葉系幹細胞の平面培養細胞(ADH)と浮遊培養細胞(SUS)の培養上清中のキヌレニン量の比較を示す図である。
図3図3は、間葉系幹細胞の平面培養細胞(ADH)と浮遊培養細胞(SUS)の培養上清中のキヌレニン量(IDO活性)の比較を示す図である。
図4図4は、間葉系幹細胞の平面培養細胞(ADH)と浮遊培養細胞(SUS)の培養上清中のキヌレニン量(IDO活性)の比較を示す図である。
図5図5は、間葉系幹細胞の平面培養細胞(ADH)と浮遊培養細胞(SUS)の培養上清中のキヌレニン量(IDO活性)の比較を示す図である。
図6図6は、間葉系幹細胞の平面培養細胞(ADH)と浮遊培養細胞(SUS)の培養上清中のキヌレニン量(IDO活性)の比較を示す図である。
図7図7は、間葉系幹細胞の平面培養細胞(ADH)と浮遊培養細胞(SUS)の培養上清中のキヌレニン量(IDO活性)の比較を示す図である。
図8図8は、平面培養細胞培養上清中のキヌレニン量(IDO活性)の比較を示す図である。
図9図9は、間葉系幹細胞の平面培養細胞(ADH)と浮遊培養細胞(SUS)のマイクロアレイによる遺伝子発現の解析結果(ADHにおける発現量対するSUSにおける発現量の比)を示す図である。
図10図10は、GVHDモデルマウスにおけるUC-MSC(EXP-SUS)投与効果を示す図である。
図11図11は、GVHDモデルマウスにおけるUC-MSC(EXP-SUS)投与効果を示す図である。
図12図12は、間葉系幹細胞の平面培養細胞(ADH)と浮遊培養細胞(SUS)の抗炎症効果を示す図である。
図13図13は、JAK/STATシグナル経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の間葉系幹細胞、免疫疾患治療剤及び抗炎症剤について詳細に説明する。
【0014】
[間葉系幹細胞]
本発明の間葉系幹細胞は、キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高いことを特徴とする。
【0015】
キヌレニン(Kynurenine)は、細胞内でトリプトファンよりナイアシンが合成される際に、酵素indoleamine 2,3-dioxygenase(IDO)により産生される代謝物である。T細胞の増殖にはトリプトファンが重要であり、IDO活性によりトリプトファンがキヌレニンに変換され、枯渇することでT細胞の増殖が抑制され、免疫寛容が引き起こされることが知られている。
【0016】
キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量とは、炎症状態下においてTNFαやIFNγ処理により誘導されるindoleamine 2,3-dioxygenase(IDO)によりトリプトファンから細胞内にて合成された後に細胞外に放出されるキヌレニン量を意味する。
【0017】
本発明の間葉系幹細胞は、他の細胞に比べ、キヌレニンを高発現していればよいが、具体的には、本発明の間葉系幹細胞は、IFNγ処理により細胞内で誘導されるIDOによりトリプトファンから合成されるキヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高ければよい。
【0018】
本発明の間葉系幹細胞は、従来の培地(例えば、10%血清含有MEMα培地)を用いた培養で得られる間葉系幹細胞に比べて、キヌレニンを高発現していればよく、好ましくは10%血清含有MEMα培地を用いた培養条件下で得られる間葉系幹細胞に比べ1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上、さらに好ましくは1.5倍以上キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高ければよい。
【0019】
また、本発明の間葉系幹細胞は、他の細胞に比べて、キヌレニンを高発現していればよく、例えば、MRC―5細胞、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(HDF)、もしくはヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に比べ、キヌレニンを高発現していればよく、好ましくはMRC―5細胞、HDFもしくはHUVECに比べ5倍以上、より好ましくは10倍以上キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高ければよい。
【0020】
例えば、従来の培養方法(例えば、平面培養法による培養)で得られる間葉系幹細胞に比べて、キヌレニンを高発現していればよく、好ましくは従来の培養条件下で得られる間葉系幹細胞に比べ2倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上、特に好ましくは100倍以上キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高ければよい。なお、平面培養法とは、フラスコやシャーレといった平面に細胞を接着させて行う静置培養により培養が行われておればよく、特に容器、培地等を特定するものではない。
【0021】
なお、上記キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高いこととは、キヌレニン合成に関与するIDOが高発現もしくは活性が高いことを含む。IDOが高発現もしくは活性が高いことについても、上記と同様に規定され、本発明の間葉系幹細胞は、従来の培地(例えば、10%FBS含有MEM-α培地)による培養で得られる間葉系幹細胞に比べて、IDOを高発現している及び/又はIDOが高活性であればよい。好ましくは従来の培養条件下で得られる間葉系幹細胞に比べ1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上、さらに好ましくは1.5倍以上IDOが高発現及び/又は活性が亢進している。
【0022】
本発明の間葉系幹細胞は、他の細胞、例えば、MRC―5細胞、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(HDF)、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に比べ、IDOが高発現及び/又は活性が亢進している。MRC―5細胞、HDFもしくはHUVECに比べて、IDOが高発現もしくは活性が高く、好ましくはMRC―5細胞、HDFもしくはHUVECに比べ5倍以上、より好ましくは10倍以上IDOが高発現及び/又は活性が亢進している。
【0023】
本発明の間葉系幹細胞は、従来の培養方法(例えば、平面培養法による培養)で得られる間葉系幹細胞に比べて、IDOが高発現及び/又は活性が亢進している。好ましくは従来の培養条件下で得られる間葉系幹細胞に比べ2倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上、特に好ましくは100倍以上IDOが高発現及び/又は活性が亢進している。
【0024】
IDOは、The Janus kinase/signal transducers and activators of transcription(JAK/STAT)シグナル経路により誘導されることが既知である。このJAK/STATシグナル経路は、種々のサイトカインや成長因子により惹起され、細胞の増殖、分化、遊走、アポトーシス、細胞の生存等様々な作用に関与することが知られている。
【0025】
本発明の間葉系幹細胞は、キヌレニン以外にも、以下に挙げる因子が高発現であることを特徴とする。
【0026】
本発明の間葉系幹細胞は、CSF3、CSF2、LIF、IL6、IL6RもしくはSTAT4が高発現である。colony stimulating factor 3(CSF3)は、顆粒球の産生や分化に関与するサイトカインである。colony stimulating factor 2(CSF2)は、顆粒球やマクロファージの産生や分化に関与するサイトカインである。leukemia inhibitory factor(LIF)は、造血系、神経系の細胞分化誘導や、腎臓の発生においてはmesenchymal to epithelial conversionの制御、母体-胎児間の免疫寛容に重要な役割を果たすサイトカインである。interleukin 6(IL6)は、種々の炎症条件下やB細胞の成熟において様々な機能を有するサイトカインである。interleukin 6 receptor(IL6R)は、IL6の受容体である。signal transducer and activator of transcription 4(STAT4)は、サイトカインや成長因子に応答して転写因子として機能する。リンパ球におけるIL12への応答やヘルパーT細胞の分化において重要な役割を担うことが知られている。
【0027】
さらに、本発明の間葉系幹細胞は、以下の因子が高発現である。
ciliary neurotrophic factor receptor、growth hormone receptor、Cbl proto-oncogene B, E3 ubiquitin protein ligase、interleukin 15、interleukin 6 signal transducer、interleukin 10、cardiotrophin-like cytokine factor 1、cyclin D2、interleukin 11 receptor, alpha、interleukin 15 receptor, alpha、Pim-1 proto-oncogene, serine/threonine kinase、suppressor of cytokine signaling 1、signal transducer and activator of transcription 2, 113kDa、interleukin 19、interleukin 7、interleukin 24、interleukin 22 receptor, alpha 1、suppressor of cytokine signaling 3、Janus kinase 2、interferon (alpha, beta and omega) receptor 1、interferon (alpha, beta and omega) receptor 2、interferon gamma receptor 2 (interferon gamma transducer 1)、prolactin、leukemia inhibitory factor receptor alpha、sprouty homolog 2 (Drosophila)、v-akt murine thymoma viral oncogene homolog 3、interleukin 4 receptor、interleukin 2 receptor, alpha、son of sevenless homolog 1 (Drosophila)、leptin receptor、v-akt murine thymoma viral oncogene homolog 3、interleukin 24、growth hormone 1、interleukin 7 receptor、phosphatidylinositol-4,5-bisphosphate 3-kinase, catalytic subunit delta、interleukin 21およびprotein inhibitor of activated STAT 4;これらの因子は、JAK/STAT経路の構成や誘導に重要であることが知られている。本発明の間葉系幹細胞においては、JAK/STAT経路が、定常状態で活性化し、これらの因子が高発現となる。これらの因子は一般的にJAK/STAT経路において図13に示す位置関係を取る。
【0028】
本発明において間葉系幹細胞とは、間葉系に属する一種以上の細胞(骨細胞、心筋細胞、軟骨細胞、腱細胞、脂肪細胞など)への分化能を有し、当該能力を維持したまま増殖できる細胞を意味する。本発明において用いる間葉系幹細胞なる用語は、間質細胞と同じ細胞を意味し、両者を特に区別するものではない。また、単に間葉系細胞と表記される場合もある。間葉系幹細胞を含む組織としては、例えば、脂肪組織、臍帯、骨髄、臍帯血、子宮内膜、胎盤、羊膜、絨毛膜、脱落膜、真皮、骨格筋、骨膜、歯小嚢、歯根膜、歯髄、歯胚等が挙げられる。例えば脂肪組織由来間葉系幹細胞とは、脂肪組織に含有される間葉系幹細胞を意味し、脂肪組織由来間質細胞と称してもよい。これらのうち、神経障害疾患の治療に対する有効性の観点、入手容易性の観点等から、脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、胎盤由来間葉系幹細胞、歯髄由来間葉系幹細胞が好ましく、脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞がより好ましく、臍帯由来間葉系幹細胞が最も好ましい。
【0029】
本発明における間葉系幹細胞は、処置される対象(被検体)と同種由来であってもよいし、異種由来であってもよい。本発明における間葉系幹細胞の種として、ヒト、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、ラビット、マウス、ラットが挙げられ、好ましくは処置される対象(被検体)と同種由来細胞である。本発明における間葉系幹細胞は、処置される対象(被検体)に由来、すなわち自家細胞であってもよいし、同種の別の対象に由来、すなわち他家細胞であってもよい。好ましくは他家細胞である。
【0030】
間葉系幹細胞は同種異系の被験体に対しても拒絶反応を起こしにくいため、あらかじめ調製されたドナーの細胞を拡大培養して凍結保存したものを、本発明の疾患治療剤における間葉系幹細胞として使用することができる。そのため、自己の間葉系幹細胞を調製して用いる場合と比較して、商品化も容易であり、かつ安定して一定の効果を得られ易いという観点から、本発明における間葉系幹細胞は、同種異系であることがより好ましい。
【0031】
本発明において間葉系幹細胞とは、間葉系幹細胞を含む任意の細胞集団を意味する。当該細胞集団は、少なくとも20%以上、好ましくは、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、93%、96%、97%、98%又は99%が間葉系幹細胞である。
【0032】
本発明において臍帯とは、胎児と胎盤を結ぶ白い管状の組織であり、臍帯静脈、臍帯動脈、膠様組織(ウォートンジェリー;Wharton’s Jelly)、臍帯基質自体等から構成され、間葉系幹細胞を多く含む。臍帯は、本発明の疾患治療剤を使用する被験体(投与対象)と同種動物から入手されることが好ましく、本発明の疾患治療剤をヒトへ投与することを考慮すると、より好ましくは、ヒトの臍帯である。
【0033】
本発明において脂肪組織とは、脂肪細胞、及び微小血管細胞等を含む間質細胞を含有する組織を意味し、例えば、哺乳動物の皮下脂肪を外科的切除又は吸引して得られる組織である。脂肪組織は、皮下脂肪より入手され得る。後述する脂肪組織由来間葉系幹細胞の投与対象と同種動物から入手されることが好ましく、ヒトへ投与することを考慮すると、より好ましくは、ヒトの皮下脂肪である。皮下脂肪の供給個体は、生存していても死亡していてもよいが、本発明において用いる脂肪組織は、好ましくは、生存個体から採取された組織である。個体から採取する場合、脂肪吸引は、例えば、PAL(パワーアシスト)脂肪吸引、エルコーニアレーザー脂肪吸引、又は、ボディジェット脂肪吸引などが例示され、細胞の状態を維持するという観点から、超音波を用いないことが好ましい。
【0034】
本発明において骨髄とは、骨の内腔を満たしている柔組織のことをいい、造血器官である。骨髄中には骨髄液が存在し、その中に存在する細胞を骨髄細胞と呼ぶ。骨髄細胞には、赤血球、顆粒球、巨核球、リンパ球、脂肪細胞等の他、間葉系幹細胞、造血幹細胞、血管内皮前駆細胞等が含まれている。骨髄細胞は、例えば、ヒト腸骨、長管骨、又はその他の骨から採取することができる。
【0035】
本発明において、脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞といった各組織由来間葉系幹細胞とは、それぞれ脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞といった各組織由来間葉系幹細胞を含む任意の細胞集団を意味する。当該細胞集団は、少なくとも20%以上、好ましくは、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、93%、96%、97%、98%又は99%が、脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞といった各組織由来間葉系幹細胞である。
【0036】
本発明における間葉系幹細胞は、キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高いことに加えて、例えば、成長特徴(例えば、継代から老化までの集団倍加能力、倍加時間)、核型分析(例えば、正常な核型、母体系統又は新生児系統)、フローサイトメトリー(例えば、FACS分析)による表面マーカー発現、免疫組織化学及び/又は免疫細胞化学(例えば、エピトープ検出)、遺伝子発現プロファイリング(例えば、遺伝子チップアレイ;逆転写PCR、リアルタイムPCR、従来型PCR等のポリメラーゼ連鎖反応)、miRNA発現プロファイリング、タンパク質アレイ、サイトカイン等のタンパク質分泌(例えば、血漿凝固解析、ELISA、サイトカインアレイ)、代謝産物(メタボローム解析)、本分野で知られている他の方法等によって、特徴付けられてもよい。
【0037】
(間葉系幹細胞の調製方法)
キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞の調製方法は特に限定されないが、例えば以下のようにして調製することができる。すなわち、脂肪、臍帯、骨髄等の組織から、当業者に公知の方法に従って、間葉系幹細胞を分離、培養し、キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い細胞を、IDO発現を指標にセルソーター、磁気ビーズ等で分離することにより取得することができる。また、特定の培地を用いた培養により、間葉系幹細胞におけるキヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞を取得することもできる。この誘導によって得られる細胞集団において、細胞集団の50%以上がキヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い細胞であることが好ましく、70%以上がキヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い細胞であることがより好ましく、80%以上がキヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い細胞であることがさらに好ましく、90%以上がキヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い細胞であることが特に好ましく、実質的にキヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い細胞の均一な細胞集団であることが最も好ましい。以下に、キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞の調製方法を具体的に説明する。
【0038】
間葉系幹細胞は、当業者に周知の方法により調製することができる。以下に、一つの例として、臍帯組織由来間葉系幹細胞及び脂肪組織由来間葉系幹細胞の調製方法を説明する。
【0039】
臍帯は、経膣分娩および帝王切開にて娩出された胎盤および臍帯を含む産褥組織から適宜胎盤を取り除き回収することができる。回収した臍帯から臍帯血を除去した後、無菌または制菌処理を行っても良い。臍帯血の除去は、ヘパリン含有溶液などの抗凝固溶液ですすぐことによって行われる。無菌または制菌処理は、特に限定されるものではないが、ポピドンヨードの塗布、またはペニシリン、ストレプトマイシン、アムホテリシンB、ゲンタマイシン、およびナイスタチンなどの1種類以上の抗生剤および/または抗真菌剤を添加した培地またはバッファー中に浸漬してもよい。また、必要に応じて、赤血球を選択的に溶解する工程を含んでも良い。赤血球を選択的に溶解する方法として、例えば、塩化アンモニウムによる溶解による高張培地または低張培地中でのインキュベーションなど、当技術分野で周知の方法を使用することができる。
【0040】
本発明の臍帯由来細胞とは、臍帯を原材料として、調製された細胞集団を意味し、公知の製造方法によって得られれば良く、例えば、以下の工程(i)~(iii)を含む方法で製造することができる:
(i)臍帯を切断する工程;
(ii)(i)の工程で得られた臍帯を培養する工程;ならびに
(iii)継代する工程。
【0041】
また、他の当該細胞の調製方法として、(i)臍帯を切断する工程の代わりに、(i')臍帯を酵素処理より組織を解離させる工程を含んでもよい。さらに、(i)臍帯を切断する工程に加えて、(i')臍帯を酵素処理より組織を解離させる工程を含んでもよい。
【0042】
本発明の(i)臍帯を切断する工程では、上述の方法で入手した臍帯を、羊膜、血管、血管周囲組織およびワルトンジェリーを含む状態にて機械力(細断力または剪断力)によって切断することによって行い得る。特に限定されないが、切断により得られた臍帯切片は、1から10mm、1から5mm、1から4mm、1から3mmまたは1から2mmの大きさが例示される。本発明の(i')臍帯を酵素処理より組織を解離させる工程では、上述の方法で入手した臍帯を、羊膜、血管、血管周囲組織およびワルトンジェリーを含む状態にて酵素処理にて、組織を解離させる工程にて行い得る。特に限定されないが、酵素処理には、コラゲナーゼ、ディスパーゼ及びヒアルロニダーゼなどの1種又は2種以上の酵素を用いた酵素処理が例示される。
【0043】
本発明の(ii)(i)の工程で得られた臍帯を培養する工程は、適切な細胞培地を使用して、(i)の工程で得られた臍帯を適切な細胞密度及び培養条件で培養する。
【0044】
本発明の臍帯組織由来間葉系幹細胞は、浮遊培養製造法を用いて、製造することができる。浮遊培養製造法として、任意の方法にて形成したスフェア状の細胞塊を培養容器内で撹拌培養する方法、マイクロキャリア上に細胞を接着させてマイクロキャリアを撹拌することにより培養槽内で撹拌培養する方法などがある。なお、撹拌は容器内の撹拌翼をスターラーで回転させる方法、培養液と細胞の入ったバッグを振盪機に乗せてバッグごと揺らすことで培養液を懸濁する方法などがある。また、浮遊培養製造法で用いる培地は、間葉系幹細胞を培養できる培地であれば、特に限定されず、上記のような培地が例示される。マイクロキャリアとしては、浮遊培養で用いることができるものであれば、特に限定されないが、ポリエステル、ポリスチレン、ガラス、デキストラン、ゼラチン、コラーゲン等が例示される。入手可能なマイクロキャリアの具体例としては、GEヘルスケア社のCytodex1、Cytodex3、cytopore1、Cytopore2、Cultisphere、Cytoline 1、Cytoline 2や、Corning社のCellBIND、低濃度Synthemax II、高濃度Synthemax II、ポジティブチャージマイクロキャリア、コラーゲンコートマイクロキャリア、可溶性マイクロキャリア、Pall社のSoloHillマイクロキャリア等が挙げられる。マイクロキャリアの材質については好ましくは可溶性、生分解性といった性質を持ち合わせており、より好ましくはこれらに加えてゼノフリー、アニマルフリーであることが望ましい。
【0045】
脂肪組織由来間葉系幹細胞は、例えば米国特許第6,777,231号に記載の製造方法によって得られれば良く、例えば、以下の工程(i)~(iii)を含む方法で製造することができる:
(i) 脂肪組織を酵素による消化により細胞懸濁物を得る工程;
(ii) 細胞を沈降させ、細胞を適切な培地に再懸濁する工程;ならびに
(iii) 細胞を固体表面で培養し、固体表面への結合を示さない細胞を除去する工程。
【0046】
工程(i)において用いる脂肪組織は、洗浄されたものを用いることが好ましい。洗浄は、生理学的に適合する生理食塩水溶液(例えばリン酸緩衝食塩水(PBS))を用いて、激しく攪拌して沈降させることによって行い得る。これは、脂肪組織に含まれる夾雑物(デブリとも言い、例えば損傷組織、血液、赤血球など)を組織から除去するためである。したがって、洗浄及び沈降は一般に、上清からデブリが総体的に除去されるまで繰り返される。残存する細胞は、さまざまなサイズの塊として存在するので、細胞そのものの損傷を最小限に抑えながら解離させるため、洗浄後の細胞塊を、細胞間結合を弱めるか、又は破壊する酵素(例えば、コラゲナーゼ、ディスパーゼ又はトリプシンなど)で処理することが好ましい。このような酵素の量及び処理期間は、使用される条件に依存して変わるが、当技術分野で既知である。このような酵素処理に代えて、又は併用して、細胞塊から自然に滲出してくる細胞を用いる方法も好ましい(改良エクスプラント法等)。また、細胞塊を、機械的な攪拌、超音波エネルギー、熱エネルギーなどの他の処理法で分解することができるが、細胞の損傷を最小限に抑えるため、酵素処理のみで行うことが好ましい。酵素を用いた場合、細胞に対する有害な作用を最小限に抑えるために、適切な期間をおいた後に培地等を用いて酵素を失活させることが望ましい。
【0047】
工程(i)により得られる細胞懸濁物は、凝集状の細胞のスラリー又は懸濁物、ならびに各種夾雑細胞、例えば赤血球、平滑筋細胞、内皮細胞、及び線維芽細胞を含む。従って、続いて凝集状態の細胞とこれらの夾雑細胞を分離、除去してもよいが、後述する工程(iii)での接着及び洗浄により、除去可能であることから、当該分離、除去は割愛してもよい。夾雑細胞を分離、除去する場合、細胞を上清と沈殿に強制的に分ける遠心分離によって達成しえる。得られた夾雑細胞を含む沈殿は、生理学的に適合する溶媒に懸濁させる。懸濁状の細胞には、赤血球を含む恐れがあるが、後述する個体表面への接着による選択により、赤血球は除外されるため、溶解する工程は必ずしも必要ではない。赤血球を選択的に溶解する方法として、例えば、塩化アンモニウムによる溶解による高張培地又は低張培地中でのインキュベーションなど、当技術分野で周知の方法を使用することができる。溶解後、例えば濾過、遠心沈降、又は密度分画によって溶解物を所望の細胞から分離してもよい。
【0048】
工程(ii)において、懸濁状の細胞において、間葉系幹細胞の純度を高めるために、1回もしくは連続して複数回洗浄し、遠心分離し、培地に再懸濁してもよい。この他にも、細胞を、細胞表面マーカープロファイルを基に、又は細胞のサイズ及び顆粒性を基に分離してもよい。
【0049】
再懸濁において用いる培地は、間葉系幹細胞を培養できる培地であれば、特に限定されないが、このような培地は、基礎培地に、血清を添加する、及び/又は、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、亜セレン酸ナトリウム、コレステロール、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロール等の1つ以上の血清代替物を添加して作製してもよい。これらの培地には、必要に応じて、さらに脂質、アミノ酸、タンパク質、多糖、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等の物質を添加してもよい。
【0050】
続いて、工程(iii)では、工程(ii)で得られた細胞懸濁液中の細胞を分化させずに固体表面上で、上述の適切な細胞培地を使用して、適切な細胞密度及び培養条件で培養する。本発明において、「固体表面」とは、本発明における脂肪組織由来間葉系幹細胞の結合・接着を可能とする任意の材料を意味する。特定の態様では、このような材料は、その表面への哺乳類細胞の結合・接着を促すように処理されたプラスチック材料である。固体表面を有する培養容器の形状は特に限定されないが、シャーレやフラスコなどが好適に用いられる。非結合状態の細胞及び細胞の破片を除去するために、インキュベーション後に細胞を洗浄する。
【0051】
本発明では、最終的に固体表面に結合・接着した状態で留まる細胞を、脂肪組織由来間葉系幹細胞の細胞集団として選択することができる。
【0052】
選択された細胞について、本発明における間葉系幹細胞であることを確認するために、表面抗原についてフローサイトメトリー等を用いて従来の方法で解析してもよい。さらに、各細胞系列に分化する能力について検査してもよく、このような分化は、従来の方法で行うことができる。
【0053】
本発明の細胞の培養で用いる培地は、間葉系幹細胞を培養できる培地であれば、特に限定されないが、このような培地は、基礎培地に、血清を添加する、及び/又は、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、亜セレン酸ナトリウム、コレステロール、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロール等の1つ以上の血清代替物を添加して作製してもよい。これらの培地には、必要に応じて、さらに脂質、アミノ酸、タンパク質、多糖、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等の物質を添加してもよい。
【0054】
上記基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、MEM-α培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、MCDB201培地及びこれらの混合培地等が挙げられる。
【0055】
上記血清としては、例えば、ヒト血清、ウシ胎児血清(FBS)、ウシ血清、仔ウシ血清、ヤギ血清、ウマ血清、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、ラット血清等が挙げられるがこれらに限定されない。血清を用いる場合、基礎培地に対して、5v/v%から15v/v%、好ましくは、10v/v%を添加してもよい。
【0056】
上記脂肪酸としては、リノール酸、オレイン酸、リノレイン酸、アラキドン酸、ミリスチン酸、パルミトイル酸、パルミチン酸、及びステアリン酸等が例示されるが、これらに限定されない。脂質は、フォスファチジルセリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルコリン等が例示されるが、これらに限定されない。アミノ酸は、例えば、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、L-アスパラギン、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-グリシンなどを含むがこれらに限定されない。タンパク質は、例えば、エコチン、還元型グルタチオン、フィブロネクチン及びβ2-ミクログロブリン等が例示されるが、これらに限定されない。多糖は、グリコサミノグリカンが例示され、グリコサミノグリカンのうち特に、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸等が例示されるが、これらに限定されない。増殖因子は、例えば、血小板由来増殖因子(PDGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、結合組織増殖因子(CTGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)等が例示されるが、これらに限定されない。本発明において得られる臍帯由来間葉系幹細胞を細胞移植に用いるという観点から、血清等の異種由来成分を含まない(ゼノフリー)培地を用いることが好ましい。このような培地は、例えば、PromoCell社、Lonza社、Biological Industries社、Veritas社、R&D Systems社、Corning社及びRohto社などから間葉系幹細胞(間質細胞)用として予め調製された培地として提供されている。
【0057】
本発明における間葉系幹細胞は、上述の通り調製することができるが、次の特性を持つ細胞として定義してもよい;
(1)標準培地での培養条件で、プラスチックに接着性を示す、
(2)表面抗原CD44、CD73、CD90が陽性であり、CD31、CD45が陰性であり、及び
(3)培養条件にて骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞に分化可能。
【0058】
上記工程によって得られた間葉系幹細胞から、IDO発現量、キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い細胞を、セルソーター、磁気ビーズ等を用いた免疫学的手法により選択的に分離することで、キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞を取得することができる。またキヌレニン産生、もしくはキヌレニン分泌を誘導できる特定の培養方法、或いは特定の培地等による培養を行うことにより、間葉系幹細胞におけるキヌレニン産生、もしくはキヌレニン分泌を誘導し、効率的にキヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞を取得することもできる。一例として、セルソーターを用いた免疫学的手法による選択的分離の具体的方法、マイクロキャリア上に細胞を接着させてマイクロキャリアを撹拌することにより培養槽内で撹拌培養する方法を以下に説明する。
【0059】
上記調製した間葉系幹細胞をトリプシン・EDTA溶液等により処理して得られた細胞懸濁液を遠心(室温、400G、5分)して上清を除去する。細胞にStaining Buffer(1%BSA-PBS)を加え、1×10cells/500μLとなるように調製し、ピペッティングにより細胞懸濁液濃度を均一にした後、新しい1.5mLマイクロチューブに50μLずつ分注する。分注した細胞懸濁液に1次抗体(抗IDO抗体、抗キヌレニン抗体等)を5~20μg/mLの濃度で添加し懸濁した後に、遮光・冷蔵下で30分間~1時間反応させる。Staining Buffer 1mLで3回洗浄を行った後に、Staining Bufferを加え50μLとし、2次抗体を1~10μg/mLの濃度で添加し懸濁した後に、遮光・冷蔵下で30分間~1時間反応させる。Staining Buffer 1mLで3回洗浄を行った後に、PI Buffer(Staining buffer 14.4mLにPropidium iodide solution(SIGMA社製、P4864)28.8μLを添加して調製)300μLを加えてよく懸濁し、セルストレーナ付チューブに通し、fluorescence activated cell sorting(FACS)で分離を行うことができる。
【0060】
上記調製した間葉系幹細胞を含んだ細胞懸濁液とマイクロキャリアを混合し、培養槽に添加して、間葉系幹細胞用無血清培地等を用いて攪拌培養を行い、一定期間浮遊培養を行うことで、従来のフラスコ等での平面培養と比較して、IDO発現量、キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い細胞を得ることができる。
【0061】
(間葉系幹細胞の凍結保存)
本発明における間葉系幹細胞は、免疫疾患治療効果、炎症性疾患治療効果を備えていれば、適宜、凍結保存及び融解を繰り返した細胞であってもよい。本発明において、凍結保存は、当業者に周知の凍結保存液へ間葉系幹細胞を懸濁し、冷却することによって行い得る。懸濁は、必要に応じて細胞をトリプシンなどの剥離剤によって剥離し、凍結保存容器に移し、適宜、処理した後、凍結保存液を加えることによって行い得る。
【0062】
凍結保存液は、凍害防御剤として、DMSO(Dimethyl sulfoxide)を含有していてもよいが、DMSOは、細胞毒性に加えて、間葉系幹細胞を分化誘導する特性を有することから、DMSO含有量を減らすことが好ましい。DMSOの代替物として、グリセロール、プロピレングリコール又は多糖類が例示される。DMSOを用いる場合、5%~20%の濃度、好ましくは5%~10%の濃度、より好ましくは10%の濃度を含有する。この他にも、WO2007/058308に記載の添加剤を含んでもよい。このような凍結保存液として、例えば、バイオベルデ社、日本ジェネティクス株式会社、リプロセル社、ゼノアック社、コスモ・バイオ社、コージンバイオ株式会社、サーモフィッシャーサイエンティフィック社などから提供されている凍結保存液を用いてもよい。
【0063】
上述の懸濁した細胞を凍結保存する場合、-80℃~-100℃の間の温度(例えば、-80℃)で凍結することで良く、当該温度に達成しえる任意のフリーザーを用いて行い得る。特に限定されないが、急激な温度変化を回避するため、プログラムフリーザーを用いて、冷却速度を適宜制御してもよい。冷却速度は、凍結保存液の成分によって適宜選択しても良く、凍結保存液の製造者指示に従って行われ得る。
【0064】
保存期間は、上記条件で凍結保存した細胞が融解した後、凍結前と同等の性質を保持している限り、特に上限は限定されないが、例えば、1週間以上、2週間以上、3週間以上、4週間以上、2か月以上、3か月以上、4か月以上、5か月以上、6か月以上、1年以上、又はそれ以上が挙げられる。より低い温度で保存することで細胞障害を抑制することができるため、液体窒素上の気相(約-150℃以下から-180℃以上)へ移して保存してもよい。液体窒素上の気相で保存する場合、当業者に周知の保存容器を用いて行うことができる。特に限定されないが、例えば、2週間以上保存する場合、液体窒素上の気相で保存することが好ましい。
【0065】
融解した間葉系幹細胞は、次の凍結保存までに適宜、培養してもよい。間葉系幹細胞の培養は、上述した間葉系幹細胞を培養できる培地を用いて行われ、特に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃の培養温度で、CO含有空気の雰囲気下で行われてもよい。CO濃度は、約2~10%、好ましくは約5~10%である。培養において、培養容器に対して適切なコンフルエンシー(例えば、培養容器に対して、50%から80%を細胞が占有することが挙げられる)に達した後に、細胞をトリプシンなどの剥離剤によって剥離し、別途用意した培養容器に適切な細胞密度で播種して培養を継続してもよい。細胞を播種する際において、典型的な細胞密度として、100細胞/cm~100,000細胞/cm、500細胞/cm~50,000細胞/cm、1,000~10,000細胞/cm、2,000~10,000細胞/cmなどが例示される。特定の態様では、細胞密度は2,000~10,000細胞/cmである。適切なコンフルエンシーに達するまでの期間が、3日間から7日間となるように調整することが好ましい。培養中、必要に応じて、適宜、培地を交換してもよい。
【0066】
凍結保存した細胞の融解は、当業者に周知の方法によって行い得る。例えば、37℃の恒温槽内又は湯浴中にて静置又は振とうすることによって行う方法が例示される。
【0067】
本発明の間葉系幹細胞は、いずれの状態の細胞であってもよいが、例えば培養中の細胞を剥離して回収された細胞でもよいし、凍結保存液中に凍結された状態の細胞でもよい。拡大培養して得られる同ロットの細胞を小分けして凍結保存したものを使用すると、安定して同様の作用効果が得られる点、取扱い性に優れる点等において好ましい。凍結保存状態の間葉系幹細胞は、使用直前に融解し、凍結保存液に懸濁したまま輸液もしくは培地等の溶液に直接混合してもよい。また、遠心分離等の方法により凍結保存液を除去してから輸液もしくは培地等の溶液に懸濁してもよい。ここで、本発明における「輸液」とは、ヒトの治療の際に用いられる溶液のことをいい、特に限定されないが、例えば、生理食塩水、日局生理食塩液、5%ブドウ糖液、日局ブドウ糖注射液、リンゲル液、日局リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、1号液(開始液)、2号液(脱水補給液)、3号液(維持液)、4号液(術後回復液)等が挙げられる。
【0068】
[免疫疾患治療剤及び抗炎症剤]
本発明の免疫疾患治療剤もしくは抗炎症剤は、上述した本発明の、キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞を含有する。本発明の免疫疾患治療剤もしくは抗炎症剤によると、免疫疾患治療剤及び抗炎症剤を予防、抑制もしくは治療に利用することができる。本発明の免疫疾患治療剤及び抗炎症剤を含む間葉系幹細胞については、上記間葉系幹細胞の項の説明を適用できる。
【0069】
本発明の免疫疾患治療剤及び抗炎症剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記間葉系幹細胞以外に、その用途や形態に応じて、常法に従い、薬学的に許容される担体や添加物を含有させてもよい。このような担体や添加物としては、例えば、等張化剤、増粘剤、糖類、糖アルコール類、防腐剤(保存剤)、殺菌剤又は抗菌剤、pH調節剤、安定化剤、キレート剤、油性基剤、ゲル基剤、界面活性剤、懸濁化剤、結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、発泡剤、流動化剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、溶解補助剤、抗酸化剤、甘味剤、酸味剤、着色剤、呈味剤、香料又は清涼化剤等が挙げられるが、これらに限定されない。代表的な成分として例えば次の担体、添加物等が挙げられる。
【0070】
担体としては、例えば、水、含水エタノール等の水性担体が;等張化剤(無機塩)としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等が;多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が;増粘剤としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が;糖類としては、例えば、シクロデキストリン、ブドウ糖等が;糖アルコール類としては、例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等(これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい)が;防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、トロメタモール、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、塩酸ポリヘキサニド(ポリヘキサメチレンビグアニド)等)、グローキル(ローディア社製商品名)等が;pH調節剤としては、例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン-アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、硫酸マグネシウム、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等が;安定化剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等が;油性基剤としては、例えば、オリーブ油、トウモロコシ油、大豆油、ゴマ油、綿実油等の植物油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が;水性基剤としては、例えば、マクロゴール400等が;ゲル基剤としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、ガム質等が;界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート80、硬化ヒマシ油、グリセリン脂肪酸エステル、セスキオレイン酸ソルビタン等が;懸濁化剤としては、例えば、サラシミツロウや各種界面活性剤、アラビアゴム、アラビアゴム末、キサンタンガム、大豆レシチン等が;結合剤としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等が;賦形剤としては、例えば、ショ糖、乳糖、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等が;滑沢剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、タルク等が;崩壊剤としては、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム等が;発泡剤としては、例えば、炭酸水素ナトリウム等が;流動化剤としては、例えば、メタケイ酸アルミン酸ナトリウム、軽質無水ケイ酸等が、それぞれ挙げられる。
【0071】
本発明の免疫疾患治療剤もしくは抗炎症剤は、目的に応じて種々の形態、例えば、固形剤、半固形剤、液剤等の様々な剤形で提供することができる。例えば、固形剤(錠剤、粉末、散剤、顆粒剤、カプセル剤等)、半固形剤[軟膏剤(硬軟膏剤、軟軟膏剤等)、クリーム剤等]、液剤[ローション剤、エキス剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、注射剤(輸液剤、埋め込み注射剤、持続性注射、用時調製型の注射剤を含む)、透析用剤、エアゾール剤、軟カプセル剤、ドリンク剤等]、貼付剤、パップ剤等の形態で利用できる。また、本発明の免疫疾患治療剤もしくは抗炎症剤は、油性又は水性のビヒクル中の溶液又は乳液等の形態でも利用できる。さらに、本発明の免疫疾患治療剤もしくは抗炎症剤は噴霧により、患部に適用することもでき、本発明の免疫疾患治療剤もしくは抗炎症剤は噴霧した後に患部でゲル化もしくはシート化される形態でも利用できる。本発明の免疫疾患治療剤もしくは抗炎症剤は上記間葉系幹細胞をシート状または立体構造体とした後に、患部に適用することもできる。
【0072】
本発明の免疫疾患治療剤もしくは抗炎症剤は、生理食塩水、日局生理食塩液、5%ブドウ糖液、日局ブドウ糖注射液、リンゲル液、日局リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液、1号液(開始液)、2号液(脱水補給液)、3号液(維持液)、4号液(術後回復液)等の輸液、又は、DMEM等の細胞培養培地を用いて、懸濁もしくは希釈して用いることができ、好ましくは生理食塩液、5%ブドウ糖液、1号液(開始液)で、より好ましくは5%ブドウ糖液、1号液(開始液)で懸濁もしくは希釈して用いることができる。
【0073】
本発明の免疫疾患治療剤及び抗炎症剤が液剤である場合、免疫疾患治療剤及び抗炎症剤のpHは、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではないが、一例として、2.5~9.0、好ましくは3.0~8.5、より好ましくは3.5~8.0となる範囲が挙げられる。
【0074】
本発明の免疫疾患治療剤及び抗炎症剤が液剤である場合、免疫疾患治療剤及び抗炎症剤の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明の組成物の浸透圧比の一例として、好ましくは0.7~5.0、より好ましくは0.8~3.0、さらに好ましくは0.9~1.4となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500~650℃で40~50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0075】
本発明の免疫疾患治療剤及び抗炎症剤の対象への投与経路は、経口投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、臍帯静脈内投与、脳室内投与、髄腔内投与、腹腔内投与、舌下投与、経直腸投与、経腟投与、眼内投与、経鼻投与、吸入、経皮投与、インプラント、臓器表面への噴霧及びシート等の貼付による直接投与等が挙げられるが、本発明の免疫疾患治療剤及び抗炎症剤の有効性の観点から、好ましくは動脈内投与、静脈内投与及び脳室内投与であり、対象者の負担の軽減の観点から、より好ましくは静脈内投与、筋肉内投与、鼻腔内投与が好ましい。
【0076】
本発明の免疫疾患治療剤及び抗炎症剤において、その用量(投与量)は、患者の状態(体重、年齢、症状、体調等)、及び本発明の免疫疾患治療剤及び抗炎症剤の剤形等によって異なりうるが、十分な免疫疾患治療剤及び抗炎症剤の治療効果を奏する観点からは、その量は多い方が好ましい傾向にあり、一方、副作用の発現を抑制する観点からはその量は少ない方が好ましい傾向にある。通常、成人に投与する場合には、細胞数として、1×10~1×1012個/回、好ましくは1×10~1×1011個/回、より好ましくは1×10~1×1010個/回、さらに好ましくは5×10~1×10個/回である。また、患者の体重あたりの投与量としては、1×10~5×1010個/kg、好ましくは1×10~5×10個/kg、より好ましくは1×10~5×10個/kg、さらに好ましくは1×10~5×10個/kgである。新生児に投与する場合には、細胞数として、1×10~1×1011個/回、好ましくは1×10~1×1010個/回、より好ましくは1×10~1×10個/回、さらに好ましくは5×10~5×10個/回である。また、患者の体重あたりの投与量としては、1×10~5×1010個/kg、好ましくは1×10~5×10個/kg、より好ましくは1×10~5×10個/kg、さらに好ましくは1×10~5×10個/kgである。なお、本用量を1回量として、複数回投与してもよく、本用量を複数回に分けて投与してもよい。
【0077】
本発明の免疫疾患治療剤及び抗炎症剤は、一又は二以上の他の薬剤と共に投与してもよい。他の薬剤としては、免疫疾患治療剤もしくは抗炎症剤として用いることができる任意の薬剤が挙げられ、たとえば、アブシキシマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、バシリキシマブ、ババシズマブ、セツキシマブ、ダクリズマブ、エファリズマブ、ゲムツズマブ、イブリツモマブ、インフリキシマブ、メポリズマブ、OKT3、オマルズマブ、パリビズマブ、ペキセリズマブ、リツキシマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ等のモノクローナル抗体、アレファセプト、デニロイキンジフチトクス、エタネルセプト等の融合蛋白、アナキンラ等の可溶性サイトカインレセプター、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、IL-2、IL-11、G-CSF、GM-CSF等のサイトカイン、マレイン酸アザタジン、マレイン酸ブロムフェニラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、フマル酸クレマスチン、塩酸シプロヘプタジン、マレイン酸dクロルフェニラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェニルピラリン、塩酸ヒドロキシジン、塩酸メトジラジン、塩酸プロメタジン、酒石酸トリメプラジン、クエン酸ロエイペレンアミン、塩酸トリペレンアミン、塩酸トリプロリジン、アクリバスチン、セチリジン、デスロラタジン、エバスチン、フェキソフェナジン、レボセチリジン、ロラタジン、ミゾラスチン等のH1ブロッカー、シメチジン等のH2ブロッカー、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、ブデソニド、フルニソリド、フルチカゾン、トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン等のコルチコステロイド、クロモリン、ネドクロミル等の肥満細胞安定薬、アルブテロール等のβ作動薬、ダウノマイシン、エトポシド、6-メルカプトプリン等の細胞毒性薬、抗ヒスタミン薬、NSAID、エピネフリン、グルカゴン、アスピリンが挙げられる。また、本発明の免疫疾患治療剤もしくは抗炎症剤の投与とともに、低温療法を合わせて行う事もできる。
【0078】
本発明の間葉系幹細胞は様々な自己免疫疾患及び炎症性疾患に用いることができるが、具体的疾患としては、GVHD、軟骨分解、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、乾癬性関節炎、脊椎関節炎、変形性関節症、痛風、乾癬、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、うっ血性心不全、脳卒中、大動脈弁狭窄症、腎不全、ネフローゼ症候群、尿毒症、狼瘡、膵炎、アレルギー、線維症、貧血、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、化学療法/放射線関連合併症、I型糖尿病、II型糖尿病、肝不全、自己免疫性肝炎、C型肝炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、劇症肝炎、セリアック病、非特異性大腸炎、腸リンパ管拡張症、蛋白喪失性腸症、クローン病、アレルギー性結膜炎、糖尿病性網膜症、シェーグレン症候群、アトピー性疾患、ブドウ膜炎、アレルギー性鼻炎食物性アレルギー、アナフィラキシー、自己免疫疾患、薬物過敏症、肥満細胞症、喘息、石綿症、珪肺、慢性閉塞性肺疾患、慢性肉芽腫性炎症、嚢胞性線維症、組織球症、サルコイドーシス、糸球体腎炎、脈管炎、皮膚炎、HIV関連悪液質、大脳マラリア、強直性脊椎炎、らい病、COPD、肺線維症、線維筋痛、食道癌等の癌、胃食道逆流症、バレット食道、再生不良性貧血、移植片対宿主病、鎌状赤血球症、CVID、高IgM症候群、IgA欠損症、一過性低ガンマグロブリン血症、X連鎖無ガンマグロブリン血症、慢性皮膚粘膜カンジダ症、ディ・ジョージ症候群、X連鎖リンパ球増殖性症候群、毛細血管拡張性運動失調症、軟骨毛髪形成不全症、複合免疫不全、高IgE症候群、MHC欠損症、重症複合免疫不全症、ヴィスコットーオールドリッチ症候群、チェディアックー東症候群、慢性肉芽腫性疾患、白血球接着欠乏症、IFN-γレセプター欠損症、インターロイキン(IL)-12欠損症、IL-12レセプターβ1欠損症、ZAP―70欠損症、血管性浮腫等が挙げられる。
【0079】
本発明は、キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、免疫疾患の治療方法、IFNγ処理により細胞内で誘導されるIDOにより、トリプトファンから合成されるキヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、免疫疾患の治療方法、JAK/STAT経路が、定常状態で活性化している間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、免疫疾患の治療方法も含む。また、本発明は、キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、炎症性疾患の治療方法、IFNγ処理により細胞内で誘導されるIDOにより、トリプトファンから合成されるキヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、炎症性疾患の治療方法、JAK/STAT経路が、定常状態で活性化している間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、炎症性疾患の治療方法も含む。さらに、本発明は、キヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、GVHDの治療方法、IFNγ処理により細胞内で誘導されるIDOにより、トリプトファンから合成されるキヌレニン産生量、もしくはキヌレニン分泌量が高い間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、GVHDの治療方法、JAK/STAT経路が、定常状態で活性化している間葉系幹細胞を用いることを特徴とする、GVHDの治療方法も含む。なお、各文言の説明については、上述の間葉系幹細胞、免疫疾患治療剤、抗炎症剤、GVHD治療剤における説明を適用できる。
【実施例
【0080】
以下に、実施例及び試験例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって限定されるものではない。
【0081】
[臍帯由来間葉系幹細胞(UCMSC-EXP、UCMSC-CP)の調製及び培養]
臍帯由来細胞は、Cytotherapy, 18, 229-241, 2016に記載の方法で採取した。簡潔には、東京大学医科学研究所の倫理委員会の承認を得た上で、提供者の同意を得て採取された臍帯を1から2mmの断片に細断し、培養皿上へ播種し、セルアミーゴ(株式会社 椿本チエイン)を被せ、10% fetal bovine serum(FBS)と抗生物質を添加したα-minimal essential medium(MEM-α)中で培養する、「改良エクスプラント法」により、臍帯由来間葉系幹細胞(以下「UCMSC-EXP」という)を得た。
【0082】
同様に、臍帯由来細胞は、Cytotherapy, 18, 229-241, 2016に記載の方法で採取して、東京大学医科学研究所の倫理委員会の承認を得た上で、提供者の同意を得て採取された臍帯を1から2mmの大きさに切断し、コラゲナーゼで処理した後に、遠心分離(400×gで5分間)して得られた細胞を間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社製)で、培養フラスコ中、付着培養する、「コラゲナーゼ法」により、臍帯由来間葉系幹細胞(以下「UCMSC-CP」という)を得た。
【0083】
なお、継代数については、臍帯組織から前述の改良エクスプラント法もしくはコラゲナーゼ法により得られた細胞を第一継代細胞(P1)とし、継代を行う事により継代数が進み、第二継代細胞(P2)、第三継代細胞(P3)のように記載する。
【0084】
得られたUCMSC-EXP及びUCMSC-CPを、細胞剥離液(TrypLE Select (1X))を用いて剥離し、遠沈管に移し、400×gで5分間、遠心分離して細胞の沈殿を得た。上清を除去した後、細胞凍結保存液(STEM-CELLBANKER(ゼノアック社))を適量加え懸濁した。当該細胞懸濁溶液を、クライオチューブに分注し、フリーザー内で-80℃にて保存した。その後、液体窒素上の気相に移し、保存を継続した。
【0085】
[平面培養細胞(ADH)と浮遊培養細胞(SUS)の細胞内キヌレニン量の測定]
前述の、改良エクスプラント法により得られた臍帯組織由来凍結細胞であるUCMSC-EXPを起眠し、細胞を含んだ細胞懸濁液とマイクロキャリアを混合し、培養槽に添加して、間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)を用いて攪拌培養を行い、8日間浮遊培養細胞(以下、「EXP-SUS」と言う)を得た。同様に、前述のUCMSC-EXPを起眠し、細胞を細胞培養フラスコに播種して間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)を用いて平面培養行い、8日間培養し、平面培養細胞(以下、「EXP-ADH」と言う)を得た。上記方法により8日間の培養期間により得られた平面培養細胞(EXP-ADH)、または浮遊培養細胞(EXP-SUS)の細胞内容物を抽出し、キャピラリー電気泳動法及びLC-MSにより細胞内に蓄積した代謝物の網羅的解析(メタボローム解析)を行った。その結果、EXP-ADHよりもEXP-SUSにおいて、細胞内キヌレニン蓄積量が高くなっていることがわかった(図1)。また、培養上清中のキヌレニン量をELISA法(Immundiagnostik GmbH、品番K7728)により定量した。こちらの定量法でも、EXP-ADHよりもEXP-SUSにおいて、8日間培養後の細胞内キヌレニン蓄積量が高いという結果が得られた(図2)。これにより、定常状態において浮遊培養により細胞内キヌレニン産生が亢進していることが明らかになった。
【0086】
[浮遊培養細胞(SUS)と平面培養細胞(ADH)のキヌレニン産生及びIDO活性の測定1]
前述の、コラゲナーゼ法により得られた臍帯組織由来凍結細胞であるUCMSC-CPを起眠し、細胞を含んだ細胞懸濁液とマイクロキャリアを混合し、培養槽に添加して、間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)を用いて攪拌培養を行い、4日間浮遊培養細胞(以下、「CP-SUS」と言う)を得た。同様に、前述のUCMSC-CPを起眠し、細胞を細胞培養フラスコに播種して間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)を用いて平面培養行い、4日間培養し、平面培養細胞(以下、「CP-ADH」と言う)を得た。最終濃度が100ng/mL及び200ng/mLとなる量のIFNγ(品番:AF-300-02、PeproTeck, Inc.社製)を添加し、48時間後の細胞上清中のキヌレニン量を、Ehrlich試薬を使用した比色法により測定した(IFNγの濃度100ng/mL群及び200ng/mL群)。また、この反応がIDOを介したものである事を確認する目的で、IFNγ(100ng/mL)を添加し、同時にIDO阻害剤(30nM、Epacadostat、CAS No:1204669-58-8)を添加した群(阻害剤群)も設定した。なお、比較対象としてIFNγを添加しないコントロール群についても培養上清中のキヌレニンの定量を行った。また、各間葉系幹細胞の細胞活性をWST-8(Cell Counting Kit-8、同仁化学研究所)にて測定し、キヌレニンの測定値を補正した。結果を図3に示す。IDO阻害剤によりキヌレニン産生が抑えられたことから、各試料のキヌレニン産生能を指標としてIDO活性を評価することができる。
【0087】
CP-SUSでは、CP-ADHに比べ、いずれの条件でもIFNγ刺激に応答したキヌレニンの培養上清中への放出量が多いことが明らかとなった。これにより、CP-SUSの方がCP-ADHよりもIFNγ刺激によるIDOの誘導及び活性化、それに伴うキヌレニンの細胞内での産生及び培養上清中への分泌能が高いことが分かった(図3)。
【0088】
[浮遊培養細胞(SUS)と平面培養細胞(ADH)のキヌレニン産生及びIDO活性の測定2]
前述の臍帯組織由来凍結細胞(UCMSC-EXP)を起眠し、細胞を含んだ細胞懸濁液とマイクロキャリアを混合し、培養槽に添加して、間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)を用いて攪拌培養を行い、8日間浮遊培養細胞(以下、「EXP-SUS」と言う)を得た。同様に、前述の臍帯組織由来凍結細胞(UCMSC-EXP)を起眠し、細胞を細胞培養フラスコにて播種して間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)を用いて平面培養行い、4日間培養後継代を行いさらに4日間培養し、平面培養細胞(以下、「EXP-ADH」と言う)を得た。最終濃度が50ng/mL及び100ng/mLとなる量のIFNγ(品番:AF-300-02、PeproTeck, Inc.社製)を添加し、64時間後の細胞上清中のキヌレニン量を、Ehrlich試薬を使用した比色法により測定した(IFNγの濃度50ng/mL群及び100ng/mL群)。なお、比較対象としてIFNγを添加しないコントロール群についても培養上清中のキヌレニンの定量を行った。また、各間葉系幹細胞の細胞活性をWST-8(Cell Counting Kit-8、同仁化学研究所)にて測定し、キヌレニンの測定値を補正し、各試料のキヌレニン産生能を指標としてIDO活性を評価した。EXP-ADHのコントロール群のIDO/WST8値を1として、IDO活性比率を算出した(図4)。
【0089】
EXP-SUSでは、EXP-ADHに比べいずれの条件でもIDO活性が高いことが明らかとなった。これにより、EXP-SUSの方がEXP-ADHよりもIFNγ刺激によるIDOの誘導及び活性化、それに伴うキヌレニンの細胞内での産生及び培養上清中への分泌能が高いことが分かった。
【0090】
[浮遊培養細胞(SUS)と平面培養細胞(ADH)のキヌレニン産生及びIDO活性の測定3]
前述の臍帯組織由来凍結細胞(UCMSC-CP)を起眠し、細胞を含んだ細胞懸濁液とマイクロキャリアを混合し、培養槽に添加して、間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)を用いて攪拌培養を行い、8日間浮遊培養細胞(以下、「CP-SUS」と言う)を得た。同様に、UCMSC-CPを起眠し、細胞を細胞培養フラスコにて播種して間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)を用いて平面培養行い、8日間培養し、平面培養細胞(以下、「CP-ADH」と言う)を得た。最終濃度が50ng/mL及び100ng/mLとなる量のIFNγ(品番:AF-300-02、PeproTeck, Inc.社製)を添加し、64時間後の細胞上清中のキヌレニン量を、Ehrlich試薬を使用した比色法により測定した(IFNγの濃度50ng/mL群及び100ng/mL群)。なお、比較対象としてIFNγを添加しないコントロール群についてもIDO活性の測定を行った。また、各間葉系幹細胞の細胞活性をWST-8(Cell Counting Kit-8、同仁化学研究所)にて測定し、キヌレニンの測定値を補正し、各試料のキヌレニン産生能を指標としてIDO活性を評価した。CP-ADHのコントロール群のIDO/WST8値を1として、IDO活性比率を算出した(図5)。
【0091】
CP-SUSでは、CP-ADHに比べいずれの条件でもIDO活性が高いことが明らかとなった。これにより、CP-SUSの方がCP-ADHよりもIFNγ刺激によるIDOの誘導及び活性化、それに伴うキヌレニンの細胞内での産生及び培養上清中への分泌能が高いことが分かった。
【0092】
[浮遊培養細胞(SUS)と平面培養細胞(ADH)のキヌレニン産生及びIDO活性の測定4]
前述の臍帯組織由来凍結細胞(UCMSC-CP)を起眠し、細胞を含んだ細胞懸濁液とマイクロキャリアを混合し、培養槽に添加して、間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)を用いて攪拌培養を行い、8日間浮遊培養細胞(以下、「CP-SUS」と言う)を得た。同様に、前述の臍帯組織由来凍結細胞(UCMSC-CP)を起眠し、細胞を細胞培養フラスコにて播種して間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)を用いて平面培養行い、8日間培養し、平面培養細胞(以下、「CP-ADH」と言う)を得た。最終濃度が50ng/mL及び100ng/mLとなる量のIFNγ(品番:AF-300-02、PeproTeck, Inc.社製)を添加し、90時間後の細胞上清中のキヌレニン量を、Ehrlich試薬を使用した比色法により測定した(IFNγの濃度50ng/mL群及び100ng/mL群)。なお、比較対象としてIFNγを添加しないコントロール群についてもIDO活性の測定を行った。また、各間葉系幹細胞の細胞活性をWST-8(Cell Counting Kit-8、同仁化学研究所)にて測定し、キヌレニンの測定値を補正し、各試料のキヌレニン産生能を指標としてIDO活性を評価した。CP-ADHのコントロール群のIDO/WST8値を1として、IDO活性比率を算出した(図6)。
【0093】
CP-SUSでは、CP-ADHに比べいずれの条件でもIDO活性が高いことが明らかとなった。これにより、CP-SUSの方がCP-ADHよりもIFNγ刺激によるIDOの誘導及び活性化、それに伴うキヌレニンの細胞内での産生及び培養上清中への分泌能が高いことが分かった。
【0094】
[浮遊培養細胞(SUS)と平面培養細胞(ADH)のキヌレニン産生及びIDO活性の測定5]
前述の臍帯組織由来凍結細胞(UCMSC-EXP)を起眠し、細胞を含んだ細胞懸濁液とマイクロキャリアを混合し、培養槽に添加して、間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)を用いて攪拌培養を行い、8日間浮遊培養細胞(以下、「EXP-SUS」と言う)を得た。同様に、前述の臍帯組織由来凍結細胞(UCMSC-EXP)を起眠し、細胞を細胞培養フラスコに播種して間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)を用いて平面培養行い、8日間培養し、平面培養細胞(以下、「EXP-ADH」と言う)を得た。最終濃度が50ng/mL及び100ng/mLとなる量のIFNγ(品番:AF-300-02、PeproTeck, Inc.社製)を添加し、90時間後の細胞上清中のキヌレニン量を、Ehrlich試薬を使用した比色法により測定した(50ng/mL群及び100ng/mL群)。なお、比較対象としてIFNγを添加しないコントロール群についてもIDO活性の測定を行った。また、各間葉系幹細胞の細胞活性をWST-8(Cell Counting Kit-8、同仁化学研究所)にて測定し、キヌレニンの測定値を補正し、各試料のキヌレニン産生能を指標としてIDO活性を評価した。EXP-ADHのコントロール群のIDO/WST8値を1として、IDO活性比率を算出した(図7)。
【0095】
EXP-SUSでは、EXP-ADHに比べいずれの条件でもIDO活性が高いことが明らかとなった。これにより、EXP-SUSの方がEXP-ADHよりもIFNγ刺激によるIDOの誘導及び活性化、それに伴うキヌレニンの細胞内での産生及び培養上清中への分泌能が高いことが分かった。
【0096】
[臍帯組織由来間葉系幹細胞及びその他の細胞のキヌレニン産生及びIDO活性の測定]
前述の臍帯組織由来凍結細胞(UCMSC-CP)を起眠し、細胞を細胞培養フラスコに播種して間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)もしくは、10%血清含有MEMα培地を用いて平面培養を行い、8日間培養し、それぞれ平面培養細胞(以下、それぞれ「UCMSC-SF」、「UCMSC-MEM」と言う)を得た。また、MRC―5細胞(ATCC)、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(HDF、ScienCell Research Laboratories社)を解凍し、10%血清含有MEMα培地を用いて3日間平面培養を行い、それぞれ平面培養細胞を得た。さらに、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC、PromoCell社)を解凍し、Endotherlial cell growth medium(PromoCell社製、品番C-22210)を用いて3日間平面培養を行い、平面培養細胞を得た。UCMSC-SF、UCMSC-MEM、MRC―5、HDF及びHUVECをそれぞれ、30,000cells/cmで4日間培養して、培養上清を回収した。培養上清中のキヌレニン量を、Ehrlich試薬を使用した比色法により測定した。また、各間葉系幹細胞の細胞活性をWST-8(Cell Counting Kit-8、同仁化学研究所)にて測定し、キヌレニンの測定値を補正し、各試料のキヌレニン産生能を指標としてIDO活性を評価した(図8)。
【0097】
UCMSC-SFでは、UCMSC-MEMに比べIDO活性が高いことが明らかとなった。また、UCMSC-SF及びUCMSC-MEMでは、MRC―5、HDF及びHUVECに比べIDO活性が高いことが明らかとなった。これにより、10%血清含有MEMαで培養した臍帯組織由来間葉系幹細胞に比べて、間葉系幹細胞用無血清培地で培養した臍帯組織由来間葉系幹細胞は、細胞内でのキヌレニン産生及び培養上清中への分泌能が高いことが分かった。また、臍帯組織由来間葉系幹細胞は、MRC―5、HDF及びHUVECに比べて、細胞内でのキヌレニン産生及び培養上清中への分泌能が高いことが分かった。
【0098】
[平面培養細胞(ADH)と浮遊培養細胞(SUS)のマイクロアレイ解析による比較]
上記方法により8日間の培養期間により得られた平面培養細胞(EXP-ADH)、または浮遊培養細胞(EXP-SUS)より、常法にしたがいtotal RNAを抽出し、cDNAを合成した。アジレント社のSurePrint G3 Human GE マイクロアレイ 8x60K Ver. 3.0により発現遺伝子を網羅的に解析した。その結果、Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes (KEGG)に登録されているJAK―STATシグナル経路に関連する遺伝子155個の内、33個が定常状態においてEXP-ADHと比較しEXP-SUSにおいて、1.5倍以上発現が高くなっていた。EXP-ADHにおける発現量対するEXP-SUSにおける発現量の比(発現量比)が大きい順に並べると、CSF3、CSF2、LIF、IL6、IL6R、STAT4、CNTFR、GHR、CBLB、IL15、IL6ST、IL10、CLCF1、CCND2、IL11RA、IL15RA、PIM1、SOCS1、STAT2、IL19、IL7、IL24、IL22RA1、SOCS3、JAK2、IFNAR1、IFNAR2、IFNGR2、PRL、LIFR、SPRY2、AKT3、IL4Rの順となっていた。図9に上位9個の遺伝子の発現量比を示した。
【0099】
[IFNγ刺激UC-MSCにおけるIDO発現の定量解析]
上記方法により、7,14もしくは21日間培養して得られた平面培養細胞(EXP-ADH)、または浮遊培養細胞(EXP-SUS)の凍結ストックを解凍し、細胞培養プレートに播種してIFNγ(品番300-02、メーカーPEPROTECH)を添加し、2日間培養した。その後NucleoSpin RNA(品番740955.50、メーカーMACHERY-NAGEL)を使用してtotal RNAを抽出し、PrimeScript(登録商標)RT reagent Kit(PrimeScript(登録商標)RT reagent Kit 品番RR037B、メーカーTakara)によりcDNAを合成し、SYBR(登録商標)Premix Ex Taq(商標)II(品番RR081A、メーカーTakara)を使用しPikoReal96(メーカーThermo)でリアルタイムPCRを行い、PikoReal Software2.0(メーカーThermo)で解析した。各培養日数におけるADHのIDO発現量を1とした場合の、SUSのIDO発現量を求めた(表1)。使用したプライマー配列は以下のとおりである。
【0100】
IDO:GGG ACA CTT TGC TAA AGG CG(F;配列番号1)及びGTC TGA TAG CTG GGG GTT GC(R;配列番号2)
GAPDH:AGC CTC AAG ATC ATC AGC AAT G(F;配列番号3)及びATG GAC TGT GGT CAT GAG TCC TT(R;配列番号4)
【0101】
いずれの培養日数の細胞においても、IFNγ刺激によるIDO発現はEXP-SUSがEXP-ADHを上回った。
【0102】
【表1】
【0103】
[GVHDモデルマウスにおけるUC-MSC投与効果の評価]
NOGマウスにヒトPBMCを移植し(5×10cells/body)、1週間後から週に1回、合計4回浮遊培養細胞(EXP-SUS)を尾静脈より投与した。なお、高用量群(EXP-SUS high)及び低用量群(EXP-SUS low)は、一回の投与でそれぞれ1×10cells/kg、2×10cells/kgの細胞を投与した。合計6週間の経過観察の結果、EXP-SUS投与群においてコントロール群と比較し、GVHDによる体重減少の抑制(図10)及びGVHDによる生存率の低下の抑制が見られた(図11)。このことから、EXP-SUSは、GVHDに対して有効であることがわかった。
【0104】
[UC-MSCにおける抗炎症効果の検討]
ヒト由来単球細胞であるTHP1細胞を3×10 cells/wellで12ウェルプレートに播種し、Phorborl 12-Myristate 13-Acetate(PMA、品番162-23591、富士フイルム和光純薬株式会社)を100nM添加して3日間培養した。上記の方法により、8日間培養して得られた平面培養細胞(EXP-ADH)、または浮遊培養細胞(EXP-SUS)の凍結ストックを解凍し、セルカルチャーインサートに40,000cells/wellで播種し、PMA刺激THP1細胞を播種したウェルに設置し、Lipopolysaccharide(LPS、品番14874-24、InvivoGen)を1μg/mL添加した。2日後にTHP1細胞からtotal RNAを抽出し、リアルタイムPCR法によりCCL2遺伝子発現量を解析した(図12)。使用したプライマー配列は以下のとおりである。
【0105】
CCL2:AAGAAGCTGTGATCTTCAAGAC(F;配列番号5)及びCCATGGAATCCTGAACCCA(R;配列番号6)
【0106】
LPS刺激無し(未処理群)と比較し、LPS刺激によりCCL2mRNA発現が上昇する(LPS群)が、EXP-SUSおよびEXP-ADHとの共培養によりその発現は抑制された。更に、EXP-SUSでより抑制能が大きいという結果が得られた(図12)。このことから、EXP-SUSおよびEXP-ADHは炎症に対して有効であり、特にEXP-SUSは優れた抗炎症効果を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明によると、免疫疾患治療剤及び抗炎症剤を提供することができる。
図1
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【配列表】
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