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特許7464959発光装置、照明装置、画像表示装置及び車両用表示灯
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】発光装置、照明装置、画像表示装置及び車両用表示灯
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20240403BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20240403BHJP
   C09K 11/59 20060101ALI20240403BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20240403BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20240403BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20240403BHJP
   C09K 11/79 20060101ALI20240403BHJP
   C09K 11/80 20060101ALI20240403BHJP
   C09K 11/85 20060101ALI20240403BHJP
   F21K 9/60 20160101ALI20240403BHJP
   F21K 9/64 20160101ALI20240403BHJP
   F21S 41/125 20180101ALI20240403BHJP
   F21S 41/141 20180101ALI20240403BHJP
   F21S 41/176 20180101ALI20240403BHJP
   F21V 9/38 20180101ALI20240403BHJP
   F21W 102/00 20180101ALN20240403BHJP
   F21W 102/30 20180101ALN20240403BHJP
   F21W 103/15 20180101ALN20240403BHJP
   F21W 103/20 20180101ALN20240403BHJP
   F21W 103/35 20180101ALN20240403BHJP
   F21W 103/45 20180101ALN20240403BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20240403BHJP
【FI】
H01L33/50
C09K11/08 J
C09K11/59
C09K11/61
C09K11/62
C09K11/64
C09K11/79
C09K11/80
C09K11/85
F21K9/60
F21K9/64
F21S41/125
F21S41/141
F21S41/176
F21V9/38
F21W102:00
F21W102:30
F21W103:15
F21W103:20
F21W103:35
F21W103:45
F21Y115:10 100
F21Y115:10 300
F21Y115:10 700
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022210189
(22)【出願日】2022-12-27
【審査請求日】2023-02-17
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 悠平
(72)【発明者】
【氏名】来島 友幸
(72)【発明者】
【氏名】広崎 尚登
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-111190(JP,A)
【文献】特開2019-067808(JP,A)
【文献】特開2012-155899(JP,A)
【文献】特開2009-135485(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105400513(CN,A)
【文献】特開2018-035346(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188377(WO,A1)
【文献】特開2017-008130(JP,A)
【文献】Mu-Huai Fang, et al.,Chemical Control of SrLi(Al1-xGax)3N4:Eu2+ Red Phosphors at Extreme Conditions for Application in Li,Chemistry of Materials,2019年05月28日,Vol.31,pp.4614-4618
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
C09K 11/00-11/89
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備える発光素子を備え、少なくとも相関色温度4000K以下の1以上の発光色を有する発光装置であって、
前記第2の発光体は少なくとも、450nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する1以上の蛍光体と、600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体とを含み、
前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体は、600nm以上648nm以下の波長領域に発光ピーク波長を示し、発光スペクトルにおけるピーク半値幅が70nm以下であり、かつ内部量子効率が40%以上である蛍光体を少なくとも1つ含み、
前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体が少なくとも下記式[1]で表される組成を有する結晶相を含む蛍光体を含み、
前記相関色温度4000K以下の発光色の少なくとも1つにおいて、
600nm以上700nm以下において発光スペクトルの発光強度が最大となる波長λ1における発光強度をA、
600nmにおける発光強度をB、
700nmにおける発光強度をCとしたとき、
B/Aが0.60以上であり、C/Aが0.20以下である、発光装置。
Re MA MB (Al 1-y MC [1]
(上記式[1]中、
MAはSrを含み、
MBはLiを含み、
MCはGaを含み、
XはF、Cl、Br、及びIから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
ReはEuを含み、
a、b、c、d、e、x、yは、それぞれ、下記式を満たす。
0.7≦a≦1.3
0.7≦b≦1.3
2.4≦c≦3.6
3.2≦d≦4.8
0.0≦e≦0.2
0.0<x≦0.2
0.0<y≦1.0)
【請求項2】
前記相関色温度4000K以下の発光色の少なくとも1つにおいて、
励起光の発光ピーク波長λ2以上の波長領域で前記発光スペクトルの発光強度が極小となる波長λ3における発光強度をDとしたとき、
前記発光強度Dと前記発光強度Aとの比率D/Aが0.15以上である、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記相関色温度4000K以下の発光色の少なくとも1つにおいて、
前記波長λ1から700nmにかけて、前記発光スペクトルの発光強度が連続的に減少することを特徴とする、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記第2の発光体に対して、前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体が占める割合が45重量%以下である、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項5】
前記発光素子と、これとは発光色又は色温度の異なる発光素子と、調光装置とを備え、互いに異なる2以上の発光色を示すことが可能な、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項6】
前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体が実質的にMnを含まない蛍光体を含む、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項7】
前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体が、発光スペクトルにおけるピーク半値幅が57nm以下である蛍光体を含む、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項8】
前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体の発光ピーク波長x(nm)と発光スペクトルにおけるピーク半値幅y(nm)とが、y≦184-0.2xの関係を満たす、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項9】
前記450nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する1以上の蛍光体は、ガーネット系蛍光体、シリケート系蛍光体、窒化物蛍光体、及び酸窒化物蛍光体のいずれか1種以上を含む、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の発光装置を光源として備える照明装置。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の発光装置を光源として備える画像表示装置。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の発光装置を光源として備える車両用表示灯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置、照明装置、画像表示装置及び車両用表示灯に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの流れを受け、LEDを用いた発光装置、照明装置、画像表示装置及び/又は車両用表示灯の需要が増加している。このような装置に用いられるLEDは、例えば、青又は近紫外波長の光を発するLEDチップ上に、蛍光体を配置した白色発光LEDである。
【0003】
このようなタイプの白色発光LEDとしては、青色LEDチップ上に、青色LEDチップからの青色光を励起光として、赤色に発光する窒化物蛍光体と緑色に発光する蛍光体を用いたものが近年用いられている。演色性、色再現性、および/又は変換効率が高いLEDが求められている。
【0004】
例えば照明の用途においては、変換効率が高いだけでなく、演色性が高く、自然光に近い発光スペクトルを示すことで、光を受けた物の色が自然色に近い色に見える他、人の目にストレスの少ない発光装置が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】J. Mater. Chem. C, 2015, Vol. 3, Issue 21, p. 5484-5489
【文献】Chemistry Letters, 2006, Vol. 35, No. 3, p. 334-335
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の課題を踏まえ、本発明は一つの観点において、演色性、色再現性、変換効率、安全性、コントラストのいずれか1つ以上が良好な発光装置、照明装置、画像表示装置及び/又は車両用表示灯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は鋭意検討したところ、複数の特定波長領域ないし特定波長における、発光強度の比率が特定の範囲にある発光装置が上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させた。非限定的ないくつかの実施形態を以下に示す。
【0008】
本発明の態様1は、
第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備える発光素子を備え、少なくとも相関色温度4000K以下の1以上の発光色を有する発光装置であって、
前記第2の発光体は少なくとも、450nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する1以上の蛍光体と、600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体とを含み、
前記相関色温度4000K以下の発光色の少なくとも1つにおいて、
600nm以上700nm以下において発光スペクトルの発光強度が最大となる波長λ1における発光強度をA、
600nmにおける発光強度をB、
700nmにおける発光強度をCとしたとき、
B/Aが0.60以上であり、C/Aが0.20以下である、発光装置である。
【0009】
本発明の態様2は、態様1において、
前記相関色温度4000K以下の発光色の少なくとも1つにおいて、
励起光の発光ピーク波長λ2以上の波長領域で前記発光スペクトルの発光強度が極小となる波長λ3における発光強度をDとしたとき、
前記発光強度Dと前記発光強度Aとの比率D/Aが0.15以上である、発光装置である。
【0010】
本発明の態様3は、態様1又は2において、
前記相関色温度4000K以下の発光色の少なくとも1つにおいて、
前記λ1から700nmにかけて、前記発光スペクトルの発光強度が連続的に減少することを特徴とする、発光装置である。
【0011】
本発明の態様4は、態様1~3のいずれか1つにおいて、
前記第2の発光体に対して、前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体が占める割合が45重量%以下である、発光装置である。
【0012】
本発明の態様5は、態様1~4のいずれか1つにおいて、
発光色又は色温度の異なる複数の発光素子と、調光装置とを備え、互いに異なる2以上の発光色を示すことが可能な、発光装置である。
【0013】
本発明の態様6は、態様1~5のいずれか1つにおいて、
前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体が実質的にMnを含まない蛍光体を含む、発光装置である。
【0014】
本発明の態様7は、態様1~6のいずれか1つにおいて、
前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体が、600nm以上648nm以下の波長領域に発光ピーク波長を示す蛍光体を少なくとも1つ含む、発光装置である。
【0015】
本発明の態様8は、態様1~7のいずれか1つにおいて、
前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する別の蛍光体の内部量子効率が30%以上である、発光装置である。
【0016】
本発明の態様9は、態様1~8のいずれか1つにおいて、
前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する別の蛍光体の発光スペクトルにおけるピーク半値幅が57nm以下である、発光装置である。
【0017】
本発明の態様10は、態様1~9のいずれか1つにおいて、
前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する別の蛍光体の発光ピーク波長x(nm)と発光スペクトルにおけるピーク半値幅y(nm)とが、y≦184-0.2xの関係を満たす、発光装置である。
【0018】
本発明の態様11は、態様1~10のいずれか1つにおいて、
前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する別の蛍光体が少なくとも下記式[1]で表される組成を有する結晶相を含む蛍光体を含む、発光装置である。
ReMAMB(Al1-yMC [1]
(上記式[1]中、
MAはSr、Ca、Ba、Na、K、Y、Gd、及びLaから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
MBはLi、Mg、及びZnから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
MCはSi、Ga、In、及びScから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
XはF、Cl、Br、及びIから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
ReはEu、Ce、Pr、Tb、及びDyから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
a、b、c、d、e、x、yは、それぞれ、下記式を満たす。
0.7≦a≦1.3
0.7≦b≦1.3
2.4≦c≦3.6
3.2≦d≦4.8
0.0≦e≦0.2
0.0<x≦0.2
0.0<y≦1.0)
【0019】
本発明の態様12は、態様1~11のいずれか1つにおいて、
前記450nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する1以上の蛍光体は、ガーネット系蛍光体、シリケート系蛍光体、窒化物蛍光体、及び酸窒化物蛍光体のいずれか1種以上を含む、発光装置である。
【0020】
本発明の態様13は、
態様1~12のいずれか1つに記載の発光装置を光源として備える照明装置である。
【0021】
本発明の態様14は、
態様1~12のいずれか1つに記載の発光装置を光源として備える画像表示装置である。
【0022】
本発明の態様15は、
態様1~12のいずれか1つに記載の発光装置を光源として備える車両用表示灯である。
【発明の効果】
【0023】
本発明は複数の実施形態において、演色性、色再現性、変換効率、安全性、コントラストのいずれか1つ以上が良好な発光装置、照明装置、画像表示装置及び/又は車両用表示灯を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A図1Aは、蛍光体1の発光ピーク波長における発光強度を1としたときの蛍光体1~5の発光強度を示す図である。
図1B図1Bは、蛍光体1の発光ピーク波長における発光強度を1としたときの蛍光体1及び蛍光体6~8の発光強度を示す図である。
図2図2は、参考蛍光体及び蛍光体1、2、5、8の規格化された発光スペクトルを示す図である。
図3A図3Aは、比較例1、比較例2及び実施例1において、シミュレーションにより出力される、色温度3000K、CIE色度座標(0.437、0.404)の白色スペクトルを、480~780nmにおける最大発光強度を1として規格化したものを示す図である。
図3B図3Bは、比較例1、実施例2及び実施例3において、シミュレーションにより出力される、色温度3000K、CIE色度座標(0.437、0.404)の白色スペクトルを、480~780nmにおける最大発光強度を1として規格化したものを示す図である。
図3C図3Cは、比較例1、実施例4及び実施例5において、シミュレーションにより出力される、色温度3000K、CIE色度座標(0.437、0.404)の白色スペクトルを、480~780nmにおける最大発光強度を1として規格化したものを示す図である。
図3D図3Dは、比較例1、実施例6及び参考例1において、シミュレーションにより出力される、色温度3000K、CIE色度座標(0.437、0.404)の白色スペクトルを、480~780nmにおける最大発光強度を1として規格化したものを示す図である。
図4A図4Aは、図3A~3Dにおける比較例1、比較例2、実施例1、実施例3、実施例5及び参考例1の発光スペクトルの一部を拡大した図である。
図4B図4Bは、図3B~3Dにおける比較例1、実施例2、実施例4及び実施例6の発光スペクトルの一部を拡大した図である。
図5A図5Aは、比較例3、比較例4及び実施例7において、シミュレーションにより出力される、色温度4000K、CIE色度座標(0.380、0.377)の白色スペクトルを、480~780nmにおける最大発光強度を1として規格化したものを示す図である。
図5B図5Bは、比較例3、実施例8及び実施例9において、シミュレーションにより出力される、色温度4000K、CIE色度座標(0.380、0.377)の白色スペクトルを、480~780nmにおける最大発光強度を1として規格化したものを示す図である。
図5C図5Cは、比較例3、実施例10及び実施例11において、シミュレーションにより出力される、色温度4000K、CIE色度座標(0.380、0.377)の白色スペクトルを、480~780nmにおける最大発光強度を1として規格化したものを示す図である。
図5D図5Dは、比較例3、実施例12及び参考例2において、シミュレーションにより出力される、色温度4000K、CIE色度座標(0.380、0.377)の白色スペクトルを、480~780nmにおける最大発光強度を1として規格化したものを示す図である。
図6A図6Aは、図5A~5Dにおける比較例3、比較例4、実施例7、実施例9、実施例11及び参考例2の発光スペクトルの一部を拡大した図である。
図6B図6Bは、図5B~5Dにおける比較例3、実施例8、実施例10及び実施例12の発光スペクトルの一部を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について実施形態や例示物を示して説明するが、本発明は以下の実施形態や例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
【0026】
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、本明細書中の蛍光体の組成式において、各組成式の区切りは読点(、)で区切って表わす。また、カンマ(,)で区切って複数の元素を列記する場合には、列記された元素のうち1種又は2種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよいことを示している。例えば、「(Ca,Sr,Ba)Al:Eu」という組成式は、「CaAl:Eu」と、「SrAl:Eu」と、「BaAl:Eu」と、「Ca1-xSrAl:Eu」と、「Sr1-xBaAl:Eu」と、「Ca1-xBaAl:Eu」と、「Ca1-x-ySrBaAl:Eu」(但し、式中、0<x<1、0<y<1、0<x+y<1である。)とを全て包括的に示しているものとする。
【0027】
本発明は一実施形態において、第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備える発光素子を備え、少なくとも相関色温度4000K以下の1以上の発光色を有する発光装置であって、
前記第2の発光体は少なくとも、450nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する1以上の蛍光体と、600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体とを含み、
前記相関色温度4000K以下の発光色の少なくとも1つにおいて、
600nm以上700nm以下において発光スペクトルの発光強度が最大となる波長λ1における発光強度をA、
600nmにおける発光強度をB、
700nmにおける発光強度をCとしたとき、
B/Aが0.60以上であり、
C/Aが0.20以下である、発光装置である。
【0028】
一つの実施形態において、前記発光装置は、少なくとも相関色温度4000K以下の1以上の発光色を有する。前記発光装置は相関色温度4000K以下の1色のみを発光する装置であってもよく、2以上の発光色を有していてもよく、2以上の発光色を有する場合、制御装置により連続又は不連続に発光色が変化する機構を備えていてもよい。
【0029】
前記B/Aが0.60以上であることで、スペクトルに凹凸が少なく、太陽光スペクトルに近い発光スペクトルを示す発光装置を提供できる。前記B/Aは好ましくは0.70以上、より好ましくは0.75以上、さらに好ましくは0.80以上、特に好ましくは0.90以上であり、通常1.00以下である。
【0030】
前記C/Aが0.20以下であることで、比視感度の低い波長領域の寄与が小さくなり、変換効率に優れる発光装置を提供できる。前記C/Aは好ましくは0.19以下、より好ましくは0.18以下、さらに好ましくは0.17以下、特に好ましくは0.16以下であり、通常0.01以上である。
【0031】
一実施形態において、前記発光装置は、前記相関色温度4000K以下の発光色の少なくとも1つにおいて、励起光の発光ピーク波長λ2以上の波長領域で前記発光スペクトルの発光強度が極小となる波長λ3における発光強度をDとしたとき、前記発光強度Dと前記発光強度Aとの比率D/Aが0.15以上である。前記D/Aの値が0.15以上であることで、太陽光スペクトルにより近い発光スペクトルを示し、演色性の高い発光装置を提供できる。
前記D/Aは好ましくは0.17以上、より好ましくは0.20以上であり、通常0.9以下である。
【0032】
一実施形態において、前記発光装置は、前記相関色温度4000K以下の発光色の少なくとも1つにおいて、前記波長λ1から700nmにかけて、前記発光スペクトルの発光強度が連続的に減少することを特徴とする発光装置である。発光スペクトルが上記特性を満たすことで、より太陽光に近いスペクトル形状となり、演色性が向上するとともに、比視感度の低い波長領域の成分が少なくなり、変換効率が向上する。
【0033】
一実施形態において、前記発光装置は、前記第2の発光体に対して、前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体が占める割合が45重量%以下である。前記割合は、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは25重量%以下である。この割合が低いことでより少量の赤色蛍光体により発光色を実現することができ、発光素子のサイズを小型化するなど、設計自由度の高い発光装置を提供できる。
【0034】
一実施形態において、前記発光装置は、発光色又は色温度の異なる複数の発光素子と、調光装置とを備える発光装置である。このような装置とすることで互いに異なる2以上の発光色を示すことが可能な発光装置を提供できる。すなわち、一実施形態において、前記発光装置は、発光色又は色温度の異なる複数の発光素子と、調光装置とを備え、互いに異なる2以上の発光色を示すことが可能な発光装置である。
調光装置は既存のものを用いることができ、例えば異なる発光素子への印加電圧を制御する制御装置、各発光素子への電力供給のオンオフを個別に制御するスイッチなどを用いることができる。
【0035】
一実施形態において、前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体は、実質的にMnを含まない蛍光体を含む。特定の実施形態においては、実質的にMnを含まない蛍光体のみから成る。発光装置が備える赤色蛍光体の一部または全部がMnを実質的に含まない蛍光体であることで、有害なMn化合物を低減し或いは除外し、人体及び環境に良い発光装置を提供することができる。
なお、本明細書において特定成分を「実質的に含まない」蛍光体とは、蛍光体の結晶相の組成を構成する元素として特定成分を含まず、また添加元素、賦活剤などとして特定成分が加えられていない蛍光体を意味する。特定成分を「実質的に含まない」蛍光体は、不純物等の形で特定成分が意図せず微量混入することを許容する。
【0036】
[蛍光体の粒径]
一実施形態において、前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体は、結晶相の粒径が体積基準の中央粒径(体積メジアン粒径)で通常2μm以上40μm以下であり、下限値は、好ましくは3μm、より好ましくは4μm、更に好ましくは5μmであり、また上限値は、好ましくは35μm、より好ましくは30μm、更に好ましくは25μm、特に好ましくは20μmである蛍光体を含む。
体積基準の中央粒径(体積メジアン粒径)が上記下限以上であると結晶相がLEDパッケージ内で示す発光特性を向上する観点から好ましく、上記上限以下であると結晶相がLEDパッケージの製造工程においてノズルの閉塞を回避できる点から好ましい。
蛍光体の結晶相の体積基準の中央粒径(体積メジアン粒径)は、当業者に周知の測定技術により測定できるが、好ましい実施形態においては、例えばレーザー粒度計により測定できる。本明細書における実施例において、体積基準の中央粒径(体積メジアン粒径、(d50))とは、レーザー回折・散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて、試料を測定し、粒度分布(累積分布)を求めたときの体積基準の相対粒子量が50%になる粒子径と定義される。
【0037】
{蛍光体の物性など}
[空間群]
一実施形態において、前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体は、結晶系(空間群)がP-1である蛍光体を含む。本実施形態の蛍光体における空間群は、粉末X線回折又は単結晶X線回折にて区別しうる範囲において統計的に考えた平均構造が上記の長さの繰り返し周期を示していれば特に限定されないが、「International Tables for Crystallography(Third,revised edition),Volume A SPACE-GROUP SYMMETRY」に基づく2番に属するものであることが好ましい。
上記の空間群であることで、発光スペクトルにおけるピーク半値幅(FWHM)が狭くなり、発光効率の良い蛍光体が得られる。
ここで、空間群は常法に従って求めることができ、例えば電子線回折や粉末又は単結晶を用いたX線回折構造解析及び中性子線回折構造解析等により求めることができる。
【0038】
[蛍光体の内部量子効率]
一実施形態において、前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する別の蛍光体の内部量子効率は30%以上である。前記内部量子効率は好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは45%以上、特に好ましくは50%以上、殊更好ましくは55%以上であり、上限は制限されず高いほど好ましいが、通常100%以下である。量子効率は常法で求めることができ、例えば分光光度計を用いて測定した発光スペクトルから算出できる。
【0039】
[発光スペクトルの特性]
一実施形態において、前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体は、適切な波長を有する光を照射することで励起し、発光スペクトルにおいて良好な発光ピーク波長および発光スペクトルにおけるピーク半値幅(FWHM)を示す赤色光を放出する蛍光体を備える。以下、上記発光スペクトル及び励起波長、発光ピーク波長および発光スペクトルにおけるピーク半値幅(FWHM)について記載する。
【0040】
(励起波長)
一実施形態において、前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体は、通常270nm以上、好ましくは300nm以上、より好ましくは320nm以上、更に好ましくは350nm以上、特に好ましくは400nm以上、また、通常550nm以下、好ましくは520nm以下、より好ましくは500nm以下の波長範囲に励起ピークを有する。即ち、近紫外から青色領域の光で励起される蛍光体を備える。
なお、発光スペクトルの形状、及び下記発光ピーク波長および発光スペクトルにおけるピーク半値幅の記載は励起波長によらず適用できるが、量子効率を向上させる観点からは、吸収及び励起の効率が良い上記範囲の波長を有する光を照射することが好ましい。
【0041】
(発光ピーク波長)
一実施形態において、前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体の発光スペクトルは、発光ピーク波長が通常610nm以上660nm以下の発光ピークを少なくとも1つ含む。
別の特定の実施形態において、前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体は、好ましくは600nm以上648nm以下、より好ましくは600nm以上645nm以下、さらに好ましくは600nm以上640nm以下、極めて好ましくは600nm以上637nm以下の波長領域に発光ピーク波長を示す蛍光体を少なくとも1つ含む。発光ピーク波長が前記上限以下の発光ピークを少なくとも1つ含む蛍光体を備える発光装置は、比視感度の低い700nm付近の波長領域の発光強度が低く、変換効率が良好である。
【0042】
前記発光ピーク波長を調整する方法は特に制限されないが、例えばMC元素の構成を調整することで、発光スペクトルにおけるピーク半値幅を狭く保ったまま発光ピーク波長を調整することができる。特定の実施形態においては、MCの割合を高めることで、発光ピーク波長を短波長側に調整することができる。
【0043】
(発光スペクトルにおけるピーク半値幅)
一実施形態において、前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体は、発光スペクトルにおけるピーク半値幅が、通常70nm以下、好ましくは65nm以下、より好ましくは60nm以下、さらに好ましくは57nm以下、特に好ましくは55nm以下、最も好ましくは50nm以下であり、また通常10nm以上である蛍光体を備える。
発光スペクトルにおけるピーク半値幅が上記範囲内である蛍光体を用いることで、液晶ディスプレイなどの画像表示装置において色純度を低下させずに色再現範囲を広くすることができる。
また、発光ピーク波長および発光スペクトルにおけるピーク半値幅が上記上限以下にあることで、発光波長領域の視感度が相対的に高い蛍光体を提供でき、このような蛍光体を発光装置に用いることで、変換効率の高い発光装置を提供することができる。
【0044】
なお、前記蛍光体を波長450nm前後の光で励起するには、例えば、GaN系LEDを用いることができる。また、前記蛍光体の発光スペクトルの測定、並びにその発光ピーク波長、ピーク相対強度及び発光スペクトルにおけるピーク半値幅の算出は、例えば、市販のキセノンランプ等300~400nmの発光波長を有する光源と、一般的な光検出器を備える蛍光測定装置など、市販のスペクトル測定装置を用いて行うことができる。
【0045】
前記発光装置は一実施形態において、前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する別の蛍光体の発光ピーク波長x(nm)と発光スペクトルにおけるピーク半値幅y(nm)とが、y≦184-0.2xの関係を満たす。
蛍光体の発光ピーク波長とピーク半値幅が上記式を満たす蛍光体を用いることで、発光装置の変換効率を良化することができる。
【0046】
<蛍光体>
本実施形態に係る発光装置に用いられる蛍光体は、発光装置の特性を失わない限り特に制限されないが、発明を実現する1つの例を挙げる。
すなわち、一実施形態において、前記600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体は少なくとも、下記式[1]で表される組成を有する結晶相を含む蛍光体を含む。
ReMAMB(Al1-yMC [1]
(上記式[1]中、
MAはSr、Ca、Ba、Na、K、Y、Gd、及びLaから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
MBはLi、Mg、及びZnから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
MCはSi、Ga、In、及びScから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
XはF、Cl、Br、及びIから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
ReはEu、Ce、Pr、Tb、及びDyから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
a、b、c、d、e、x、yは、それぞれ、下記式を満たす。
0.7≦a≦1.3
0.7≦b≦1.3
2.4≦c≦3.6
3.2≦d≦4.8
0.0≦e≦0.2
0.0<x≦0.2
0.0<y≦1.0)
【0047】
式[1]中、Reにはユーロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)及びイッテルビウム(Yb)等を用いることができるが、発光波長および発光量子効率を向上する観点から、Reは好ましくはEu、Ce、Pr、Tb、及びDyから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、より好ましくはEuを含み、更に好ましくはReの80モル%以上はEuであり、より更に好ましくはReはEuである。
【0048】
式[1]中、MAはカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、及びランタン(La)から成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、好ましくはCa、Sr、Baから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、より好ましくはMAはSrを含む。また、好ましくは、MAの80モル%以上は上記好ましい元素から成り、より好ましくはMAは上記好ましい元素から成る。
【0049】
式[1]中、MBはリチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、及び亜鉛(Zn)から成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、好ましくはLiを含み、より好ましくはMBの80モル%以上はLiであり、更に好ましくはMBはLiである。
【0050】
式[1]中、MCはケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、及びスカンジウム(Sc)から成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、好ましくはAl、Ga又はSiを含み、より好ましくはGaを含み、更に好ましくはMCの80モル%以上はGaから成り、特に好ましくはMCの90モル%以上はGaから成り、最も好ましくはMCはGaから成る。
上記の構成であることで、前記蛍光体の発光波長を648nmとすることができ、変換効率に優れる発光装置を提供できる。
【0051】
式[1]中、Nは窒素を表す。結晶相全体の電荷バランスを保つため、又は発光ピーク波長を調整するため、Nは一部が酸素(O)で置換されていてもよい。
【0052】
式[1]中、Xはフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、及びヨウ素(I)から成る群から選ばれる1種以上の元素を含む。すなわち、特定の実施形態においては、結晶構造安定化及び蛍光体全体の電荷バランスを保つ観点から、Nは、その一部がXで表した上記ハロゲン元素で置換されていてもよい。
【0053】
前記式[1]は、明記した以外の成分が、不可避的に、或いは意図せず、微量に含まれる場合を含む。
明記した以外の成分としては、人為的に加えた元素と元素番号1つ異なる元素、人為的に加えた元素の同族元素、人為的に加えた希土類元素と別の希土類元素、及びRe原料にハロゲン化物を用いた際のハロゲン元素、その他各種原料に不純物として一般的に含まれ得る元素などが挙げられる。
本明細書において特定成分を「人為的に加える」とは、蛍光体の結晶相の組成を構成する元素として意図的に特定成分を加えることを意味し、不純物等の形で特定成分が意図せず微量混入した場合は「人為的に加える」ことには当たらない。特定成分が人為的に加えられた蛍光体は、特定成分を実質的に含むということができる。
明記した以外の成分が不可避的に、又は意図せず含まれる場合としては、例えば原料の不純物由来、及び粉砕工程、合成工程等の製造プロセスにおいて導入される場合が考えられる。また、微量添加成分としては反応助剤、及びRe原料などが挙げられる。
【0054】
上記式[1]中、a、b、c、d、e、xはそれぞれ蛍光体に含まれるMA、MB、MC、N、X及びReのモル含有量を示す。
【0055】
aの値は、通常0.6以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上、更に好ましくは0.9以上であり、通常1.4以下、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下、更に好ましくは1.1以下である。
bの値は、通常0.6以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上、更に好ましくは0.9以上であり、通常1.4以下、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下、更に好ましくは1.1以下である。
cの値は、通常2.1以上、好ましくは2.4以上、より好ましくは2.6以上、更に好ましくは2.8以上であり、通常3.9以下、好ましくは3.6以下、より好ましくは3.4以下、更に好ましくは3.2以下である。
dの値は、通常3以上、好ましくは3.2以上、より好ましくは3.4以上、更に好ましくは3.6以上、より更に好ましくは3.8以上であり、通常5以下、好ましくは4.8以下、より好ましくは4.6以下、更に好ましくは4.4以下、より更に好ましくは4.2以下である。
eの値は特に制限されないが、通常0以上であり、通常0.2以下、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.06以下、更に好ましくは0.04以下、より更に好ましくは0.02以下である。
【0056】
b、c、d、eが上記範囲にあることで、結晶構造が安定化する。また、d、eの値は蛍光体全体の電荷バランスを保つ目的で適度に調節できる。
【0057】
また、aの値が上記範囲にあることで、結晶構造が安定化し、異相の少ない蛍光体が得られ、このような赤色蛍光体を備えることで、励起光の吸収効率が良く、赤色および全体の変換効率が良好な発光装置を提供することができる。
【0058】
b+cの値は、通常3.1以上、好ましくは3.4以上、より好ましくは3.7以上であり、通常4.9以下、好ましくは4.6以下、より好ましくは4.3以下である。
b+cの値が上記範囲であることで、結晶構造が安定化する。
【0059】
d+eの値は、通常3.2以上、好ましくは3.4以上、より好ましくは3.7以上であり、通常5.0以下、好ましくは4.6以下、より好ましくは4.3以下である。
d+eの値が上記範囲であることで、結晶構造が安定化する。
【0060】
いずれの値も上記した範囲であると得られる蛍光体の発光ピーク波長及び発光スペクトルにおけるピーク半値幅が良好である点で好ましい。
【0061】
xの値は、通常0より大きい値であり、好ましくは0.0001以上、より好ましくは0.001以上であり、通常0.2以下、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.12以下、更に好ましくは0.1以下、より更に好ましくは0.08以下である。xの値が上記下限以上又は上記下限より大きい値であることで、良好な発光強度の蛍光体を得ることができ、xの値が上記上限以下であることで、Reが良好に結晶内に取り込まれ、発光中心として機能しやすい蛍光体を得ることができ、このような赤色蛍光体を備えることで、変換効率が良好な発光装置を提供することができる。
【0062】
前記yの値は、0.0より大きく、通常0.01以上、好ましくは0.015以上、より好ましくは0.03以上、更に好ましくは0.05以上、特に好ましくは0.10以上であり、通常1.00以下、好ましくは0.70以下、より好ましくは0.50以下、更に好ましくは0.30以下、特に好ましくは0.25以下である。
【0063】
yの値が上記下限以上であることで、蛍光体の発光ピーク波長が短波化し、この様な蛍光体を用いることで、演色性又は色再現性の良好な発光装置を提供できる。また、yの値が上記上限以下であることで、発光強度が良好な蛍光体を得ることができ、この様な蛍光体を用いることで変換効率の良好な発光装置を提供できる。目的に応じて好ましい発光強度と発光ピーク波長を得るため、yの値は適宜調整することができる。
【0064】
なお、前記蛍光体の元素組成の特定方法は特に限定されず、常法で求めることができ、例えばGD-MS、ICP分光分析法、又はエネルギー分散型X線分析装置(EDX)等により特定できる。
【0065】
{蛍光体の製造方法}
特定の実施形態に係る前記発光装置に用いられる前記式[1]で表される組成を有する結晶相を含む蛍光体を得る方法を例示する。
本実施形態の蛍光体は、蛍光体を構成する各元素の原料を、各元素の割合が前記式[1]を満たすように混合し、加熱することで合成することができる。
【0066】
[原料]
各元素(MA、MB、MC、MC’、MD、Re)の原料は特に制限されないが、例えば各元素の単体、酸化物、窒化物、水酸化物、塩化物、フッ化物などハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの無機塩、酢酸塩などの有機酸塩などが挙げられる。その他、前記元素群が2種以上含まれる化合物を用いてもよい。また、各化合物は水和物などであってもよい。
【0067】
各原料の入手方法は特に制限されず、市販のものを購入して用いることができる。
各原料の純度は特に制限されないが、元素比を厳密にする観点、及び不純物による異相の出現を避ける観点から、純度は高いほど好ましく、通常90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは97モル%以上、更に好ましくは99モル%以上であり、上限は特に制限されないが、通常100モル%以下であり、不可避的に混入する不純物が含まれていてもよい。
後述の実施例においては、いずれも純度95モル%以上の原料を用いた。
【0068】
酸素元素(O)、窒素元素(N)、ハロゲン元素(X)については、前記各元素の原料に酸化物、窒化物、及びハロゲン化物等を用いることで供給できるほか、合成反応の際に酸素又は窒素含有雰囲気とすることで適宜含ませることができる。
【0069】
[混合工程]
原料の混合方法は特に制限されず、常法を用いることができる。例えば、目的組成が得られるように蛍光体原料を秤量し、ボールミル等を用いて十分混合し、蛍光体原料混合物を得る。上記混合方法としては、特に限定はされないが、具体的には、下記(a)及び(b)の手法が挙げられる。
(a)例えばハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル等の乾式粉砕機、又は、乳鉢と乳棒等を用いる粉砕と、例えばリボンブレンダー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機、又は、乳鉢と乳棒を用いる混合とを組み合わせ、前述の蛍光体原料を粉砕混合する乾式混合法。
(b)前述の蛍光体原料に水等の溶媒又は分散媒を加え、例えば粉砕機、乳鉢と乳棒、又は蒸発皿と撹拌棒等を用いて混合し、溶液又はスラリーの状態とした上で、噴霧乾燥、加熱乾燥、又は自然乾燥等により乾燥させる湿式混合法。
【0070】
蛍光体原料の混合は、上記乾式混合法又は湿式混合法のいずれでもよいが、水分による蛍光体原料の汚染を避けるために、乾式混合法や非水溶性溶媒を使った湿式混合法が好ましい。
なお、後述の実施例においては、(a)の方法を採用した。
【0071】
[加熱工程]
加熱工程では、例えば、混合工程で得られた蛍光体原料混合物をるつぼに入れ、引き続き、それを500℃~1200℃の温度、好ましくは600℃~1000℃、より好ましくは650~950℃の温度で加熱する。
加熱温度を低温にすることで、特に950℃以下とすることで、式[1]で示される組成の相純度が高く、発光強度の高い蛍光体が得られる。この理由として、1000℃以上、1100℃以上などの高温では蒸気圧の高いLi、Mg、Na等を含んだ物質等が揮発しやすく、蛍光体の合成反応において各元素の比率が変動しやすい反面、950℃以下等の低温で合成を行うことで各元素の比率の変動を抑制できる可能性が挙げられる。
また、加熱工程の圧力は、目的の蛍光体が得られる限り常圧でも加圧状態でも構わないが、原料元素の揮発を防ぐために加圧することが好ましい。加圧する場合、圧力は通常0.1MPa以上200MPa以下であり、好ましくは100MPa以下、より好ましくは50MPa以下である。圧力が上記範囲にあることで原料の良好な反応性を確保できる。
加圧の方法は制限されず、例えば密封した容器を加熱する方法、機械的に加圧する方法、またはガス圧を用いる方法などを用いることができる。
【0072】
るつぼの材質は蛍光体原料又は反応物と反応しないものが好ましくアルミナ、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミック、ニッケル、白金、モリブデン、タングステン、タンタル、ニオブ、イリジウム、ロジウム等の金属、あるいは、それらを主成分とする合金等が挙げられる。
【0073】
加熱は不活性雰囲気下で行うことが好ましく、窒素、アルゴン、ヘリウム等が主成分のガスを用いることができる。
なお、後述の実施例においては、窒素雰囲気下で加熱を行った。
【0074】
加熱工程では、上記の温度帯において、通常10分~200時間、好ましくは1時間~100時間、より好ましくは2~50時間、さらに好ましくは3~25時間にわたって加熱を行う。また、本加熱工程は1回で行ってもよく、複数回に分けて行ってもよい。複数回に分けて行う態様としては、欠陥を修復するために加圧下で加熱するアニール工程を含む態様、一次粒子又は中間物を得る一次加熱の後に、二次粒子又は最終生成物を得る二次加熱を行う態様などが挙げられる。
【0075】
[後処理工程]
得られた蛍光体について、常法により分級、洗浄などの後処理を行ってもよい。
例えば以上の方法により、前記式[1]を満たす赤色蛍光体を得ることができる。
【0076】
<発光装置>
本実施形態における発光装置は、前記450nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する1以上の蛍光体は、ガーネット系蛍光体、シリケート系蛍光体、窒化物蛍光体、及び酸窒化物蛍光体のいずれか1種以上を含む。
具体的には、発光装置を構成する場合、黄色蛍光体として、550nm以上600nm未満の波長範囲に発光ピークを有するものを含んでいてもよく、緑色蛍光体として、500nm以上560nm以下の波長範囲に発光ピークを有するものを含んでいてもよい。
【0077】
上記の波長領域の蛍光体を適切に組み合わせることで、優れた色再現性を示す発光装置を提供できる。尚、励起光源については、420nm未満の波長範囲に発光ピークを有するものを用いてもよい。
【0078】
以下、特定の実施形態の一例として、450nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する1以上の蛍光体を用いる場合の、発光装置の態様について記載するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0079】
上記の場合、本実施形態の発光装置は、例えば、次の(X)、(Y)又は(Z)の態様とすることができる。
(X)第2の発光体として、550nm以上600nm未満の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体(黄色蛍光体)と、600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体とを用いる態様。
(Y)第2の発光体として、500nm以上560nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体(緑色蛍光体)と、600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体とを用いる態様。
(Z)第2の発光体として、550nm以上600nm未満の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体(黄色蛍光体)及び500nm以上560nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体(緑色蛍光体)と、600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体とを用いる態様。
【0080】
上記の態様における黄色蛍光体及び/又は緑色蛍光体としては市販のものを用いることができ、例えば、ガーネット系蛍光体、シリケート系蛍光体、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体などを用いることができる。
【0081】
(黄色蛍光体)
黄色蛍光体に用いることができるガーネット系蛍光体としては、例えば、(Y,Gd,Lu,Tb,La)(Al,Ga)12:(Ce,Eu,Nd)、シリケート系蛍光体としては、例えば、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:(Eu,Ce)、窒化物蛍光体及び酸窒化物蛍光体としては、例えば、(Ba,Ca,Mg)Si:Eu(SION系蛍光体)、(Li,Ca)(Si,Al)12(O,N)16:(Ce,Eu)(α-サイアロン蛍光体)、(Ca,Sr)AlSi(O,N):(Ce,Eu)(1147蛍光体)、(La,Ca,Y、Gd)(Al,Si)11:(Ce、Eu)(LSN蛍光体)などが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
黄色蛍光体としては、上記蛍光体においてガーネット系蛍光体が好ましく、中でも、YAl12:Ceで表されるYAG系蛍光体が最も好ましい。
【0082】
(緑色蛍光体)
緑色蛍光体に用いることができるガーネット系蛍光体としては、例えば、(Y,Gd,Lu,Tb,La)(Al,Ga)12:(Ce,Eu,Nd)、Ca(Sc,Mg)Si12:(Ce,Eu)(CSMS蛍光体)、シリケート系蛍光体としては、例えば、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO10:(Eu,Ce)、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:(Ce,Eu)(BSS蛍光体)、酸化物蛍光体としては、例えば、(Ca,Sr,Ba,Mg)(Sc,Zn):(Ce,Eu)(CASO蛍光体)、窒化物蛍光体及び酸窒化物蛍光体としては、例えば、(Ba,Sr,Ca,Mg)Si:(Eu,Ce)、Si6-zAl8-z:(Eu,Ce)(β-サイアロン蛍光体)(0<z≦1)、(Ba,Sr,Ca,Mg,La)(Si,Al)12:(Eu,Ce)(BSON蛍光体)、(La,Ca,Y、Gd)(Al,Si)11:(Ce、Eu)(LSN蛍光体)などが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
(赤色蛍光体)
赤色蛍光体としては、600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する本実施形態の蛍光体を用いるが、本実施形態の蛍光体に加えて、例えばガーネット系蛍光体、硫化物蛍光体、ナノ粒子蛍光体、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体などの他の橙色ないし赤色蛍光体を用いることができる。他の橙色ないし赤色蛍光体としては、例えば下記の蛍光体を用いることができる。
硫化物蛍光体としては、例えば、(Sr,Ca)S:Eu(CAS蛍光体)、LaS:Eu(LOS蛍光体)、ガーネット系蛍光体としては、例えば、(Y,Lu,Gd,Tb)MgAlSi12:Ce、ナノ粒子としては、例えば、CdSe、窒化物又は酸窒化物蛍光体としては、例えば、(Sr,Ca)AlSiN:Eu(S/CASN蛍光体)、(CaAlSiN1-x・(SiO:Eu(CASON蛍光体)、(La,Ca)(Al,Si)11:Eu(LSN蛍光体)、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu(258蛍光体)、(Sr,Ca)Al1+xSi4-x7-x:Eu(1147蛍光体)、M(Si,Al)12(O,N)16:Eu(Mは、Ca,Srなど)(αサイアロン蛍光体)、Li(Sr,Ba)Al:Eu(上記のxは、いずれも0<x<1)などが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
[発光装置の構成]
本実施形態に係る発光装置は、第1の発光体(励起光源)を有し、且つ、第2の発光体として、少なくとも、450nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する1以上の蛍光体と、600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体とを備える発光体を使用することができ、その構成は制限されず、公知の装置構成を任意にとることが可能である。
【0085】
前記第1の発光体としてはGaN系半導体、ZnO系半導体、SiC系半導体など、各種の半導体で発光構造を形成したLED素子を用いることができる。
【0086】
装置構成及び発光装置の実施形態としては、例えば、特開2007-291352号公報に記載のものが挙げられる。
そのほか、LED素子は、砲弾型パッケージ、SMD型パッケージなどのパッケージに固定してもよいし、チップ・オン・ボード型発光装置の場合のように回路基板上に直接固定してもよい。LED素子と蛍光体との光学的な結合の形態に限定はなく、両者の間は単に透明な媒体(空気を含む)で充たされているだけであってもよいし、あるいは、レンズ、光ファイバ、導光板、反射ミラーのような光学素子が両者の間に介在していてもよい。蛍光体粒子が透光性マトリックス中に分散された構造は、典型的には、粒子状の蛍光体を分散させた樹脂ペーストを硬化させることにより形成される。このようなペーストの硬化物がLED素子を埋め込んだ構造の他、かかる硬化物がLED素子の表面の一部を膜状に覆った構造、かかる硬化物からなるフィルムがLED素子から離れた場所に配置された構造など、種々の構造が採用可能である。
【0087】
{発光装置の用途}
発光装置の用途は特に制限されず、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用することが可能であるが、演色性が高い発光装置は、中でも照明装置や画像表示装置の光源として、とりわけ好適に用いることができる。
また、発光波長が良好な赤色蛍光体を備える発光装置は、赤色の車両用表示灯、又は該赤色を含む白色光の車両用表示灯に用いることもできる。
【0088】
[照明装置]
本発明は一実施形態において、前記発光装置を光源として備える照明装置とすることができる。
前記発光装置を照明装置に適用する場合、その照明装置の具体的構成に制限はなく、前述のような発光装置を公知の照明装置に適宜組み込んで用いればよい。例えば、保持ケースの底面に多数の発光装置を並べた面発光照明装置等を挙げることができる。
【0089】
[画像表示装置]
本発明は一実施形態において、前記発光装置を光源として備える画像表示装置とすることができる。
前記発光装置を画像表示装置の光源として用いる場合、その画像表示装置の具体的構成に制限はないが、カラーフィルターとともに用いることが好ましい。例えば、画像表示装置として、カラー液晶表示素子を利用したカラー画像表示装置とする場合は、前記発光装置をバックライトとし、液晶を利用した光シャッターと赤、緑、青の画素を有するカラーフィルターとを組み合わせることにより画像表示装置を形成することができる。
【0090】
[車両用表示灯]
本発明は一実施形態において、前記発光装置を光源として備える車両用表示灯とすることができる。
車両用表示灯に用いる発光装置は、特定の実施形態においては、白色光を放射する発光装置であることが好ましい。白色光を放射する発光装置は、発光装置から放射される光が、光色の黒体輻射軌跡からの偏差duv(Δuvとも言う)が-0.0200~0.0200であり、かつ相関色温度が5000K以上30000K以下であることが好ましい。
車両用表示灯に用いる発光装置は、特定の実施形態においては、赤色光を放射する発光装置であることが好ましい。該実施形態においては、例えば、発光装置が青色LEDチップから照射される青色光を吸収して赤色に発光することで、赤色光の車両用表示灯としてもよい。
車両用表示灯は、車両のヘッドランプ、サイドランプ、バックランプ、ウインカー、ブレーキランプ、フォグランプなど、他の車両や人等に対して何らかの表示を行う目的で車両に備えられた照明を含む。
【実施例
【0091】
以下、本発明のいくつかの具体的な実施形態を実施例により説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記のものに限定されるものではない。
【0092】
[発光スペクトルの測定]
発光スペクトルは、分光蛍光光度計FP8500(日本分光株式会社製)にて以下の測定条件のとおり測定した。
・光源:キセノンランプ
・励起波長:455nm
・測定波長範囲:380~780nm
・測定間隔:1.0nm
色度座標の値は、発光スペクトルデータ380nm~780nmからCIE1931 XYZ等式関数を用いて算出した。
【0093】
[量子効率の測定]
量子効率は、分光蛍光光度計FP8500(日本分光株式会社製)にて以下の測定条件のとおり測定した発光スペクトルに基づいて算出した。
・光源:キセノンランプ
・励起波長:455nm
・測定波長範囲:380~780nm
・測定間隔:1.0nm
【0094】
[蛍光体配合シミュレーション]
測定された各蛍光体の励起発光スペクトル、内部量子効率および励起光の吸収効率の情報などから449nmの光を放出する青色LEDチップスペクトルと任意の蛍光体を組み合わせた際に特定の色度座標点を満たすような白色スペクトルを仮想的に作成し、その際の蛍光体配合比を見積もるシミュレーションを行った。
得られた白色スペクトルから、発光スペクトルのエネルギー(Wopt)あたりの光束(Lm)であるスペクトル効率(LER)およびR1~R15の演色指数を算出した。
【0095】
<蛍光体の製造>
[蛍光体1]
本発明の一実施形態または比較例に係る発光装置に用いる例示的赤色蛍光体を製造した。
特開2017-008130号公報ならびにChemistry of Materials 2019 31 (12), 4614-4618等を参考に、Sr:Li:Alが約1:1:3となるように各元素の窒化物を混合し、窒化ホウ素製るつぼに収め、容器を密封した上で、窒素ガス雰囲気下1000℃で5時間加熱し、蛍光体1を得た。
【0096】
[蛍光体2~8および参考蛍光体]
蛍光体の組成が表1に示す組成となるように適宜Gaを含む窒化物原料を用い、また焼成温度を845℃としたほかは、蛍光体1と同様にして蛍光体2~8を得た。また、参考蛍光体として発光ピーク波長646nmのCASN蛍光体(三菱ケミカル株式会社製、BR-101/J)を用意した。
蛍光体1~8の特性を表1に、各蛍光体を449nmの光で励起した際の発光スペクトルを図1A~Bに示す。また、参考蛍光体及び蛍光体1、2、5、8の規格化された発光スペクトルを図2に示す。
【0097】
なお、粉末X線回折により結晶構造を特定した結果、蛍光体1~8の空間群はいずれもP-1であることを確認した。
【0098】
【表1】
【0099】
<比較例1~2,参考例1、実施例1~6>
第一の赤色蛍光体として、式[1]を満たさない、発光ピーク波長620nmのSCASN蛍光体(三菱ケミカル株式会社製、BR-620/A)と、第二の赤色蛍光体として表1に示した各蛍光体又は発光ピーク波長646nmのCASN蛍光体(三菱ケミカル株式会社製、BR-101/J)と、緑色蛍光体としてLuAG蛍光体(三菱ケミカル株式会社製、BG-801/B4)とを用いる想定で、上述した蛍光体配合シミュレーションの手法に基づき、平均演色評価数Raが90以上を満たしたうえで、CIE色度座標がプランク曲線上の3000Kの白色光の座標(0.437、0.404)と一致するように緑色蛍光体及び第一、第二の赤色蛍光体の量を調整し、得られた白色発光スペクトルの特性を比較した。
比較例1~2、実施例1~6、及び参考例1の白色LEDについて、480nm~780nmの波長領域における最大発光強度を1として規格化された前記白色発光スペクトルを図3A~3Dに示す。また、図3A~3Dに示した発光スペクトルを拡大したものを図4A、4Bに示す。また、各スペクトルから発光特性を算出した結果を、表2に示す。
【0100】
<比較例3~4、参考例2、実施例7~12>
次に、比較例3~4、実施例7~12、及び参考例2として、CIE色度座標がプランク曲線上の4000Kの白色光の座標(0.380、0.377)と一致するようにしたほかは、比較例1~2,参考例1及び実施例1~6と同様にしてシミュレーションを行った。
比較例3~4、実施例7~12、及び参考例2の白色LEDについて、480nm以上780nm以下の波長領域における最大発光強度を1として規格化された発光スペクトルを図5A~5Dに示す。また、図5A~5Dに示した発光スペクトルを拡大したものを図6A、6Bに示す。また、各スペクトルから発光特性を算出した結果を、表3に示す。
なお、表2および表3において「700nm/600-700nm最大値」および「600nm/600-700nm最大値」は、各発光スペクトルにおける600~700nmの波長領域での最大発光強度を1としたときの、それぞれ700nm、600nmにおける発光強度の相対値を示している。
また、表2及び表3における蛍光体の「比率/wt%」とは、各蛍光体の合計重量を100%とした際の、各蛍光体の重量割合であり、「緑」は前記LuAG蛍光体、「赤1」は前記第一の赤色蛍光体、「赤2」は前記第二の赤色蛍光体である。
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【0103】
実施例1~6の白色LEDは比較例1~2並びに参考例1の白色LEDと比べて、また実施例7~12の白色LEDは比較例3~4並びに参考例2の白色LEDと比べて、Ra≧90、R9≧50の規格においてLERが大幅に改善した白色光を提供できることがわかる。
図から明らかなように、本発明に係る発光装置は、赤色領域に鋭いピークを有し、かつ比視感度の低い700nm等の波長領域の発光強度を低く抑えることができており、演色性または赤色の色再現性が高く、かつ変換効率の高い発光装置を提供できることが分かる。
【0104】
以上示すとおり、本実施形態によれば、発光ピーク波長が良好で、発光スペクトルにおけるピーク半値幅が狭く、及び/又は発光強度の高い蛍光体を提供することができ、また、該蛍光体を備えることで、演色性又は色再現性が良好であり、かつ変換効率が良好な発光装置、照明装置、画像表示装置及び/又は車両用表示灯を提供することができる。
【0105】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の発光装置は、演色性、色再現性、変換効率、安全性、コントラストのいずれか1つ以上が良好であるため、照明装置、画像表示装置、車両用表示灯等に利用することができる。
【要約】
【課題】演色性、色再現性、変換効率、安全性、コントラストのいずれか1つ以上が良好な発光装置、照明装置、画像表示装置及び/又は車両用表示灯を提供すること。
【解決手段】第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備える発光素子を備え、少なくとも相関色温度4000K以下の1以上の発光色を有する発光装置であって、前記第2の発光体は少なくとも、450nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する1以上の蛍光体と、600nm以上700nm以下の波長領域に発光ピーク波長を有する1以上の別の蛍光体とを含み、前記相関色温度4000K以下の発光色の少なくとも1つにおいて、600nm以上700nm以下において発光スペクトルの発光強度が最大となる波長λ1における発光強度A、600nmにおける発光強度B、700nmにおける発光強度Cが所定の関係にある、発光装置。
【選択図】図1A
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B