IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧

特許7464987導電性ポリマー材料及びその製造方法、光電変換素子並びに電界効果トランジスタ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】導電性ポリマー材料及びその製造方法、光電変換素子並びに電界効果トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/02 20060101AFI20240403BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20240403BHJP
   H01L 21/288 20060101ALI20240403BHJP
   H01L 29/417 20060101ALI20240403BHJP
   H01L 29/43 20060101ALI20240403BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240403BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C08J7/02 Z CEZ
H01L21/28 301Z
H01L21/288 M
H01L29/50 M
H01L29/46
H01L29/78 616K
H01L29/78 616V
H01L29/78 618B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020553415
(86)(22)【出願日】2019-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2019041411
(87)【国際公開番号】W WO2020085342
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2018198794
(32)【優先日】2018-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://jps2018s.gakkai-web.net/data/html/program07.html#j23pB403、平成30年3月1日 日本物理学会 第73回年次大会(2018年)東京理科大学 野田キャンパス(野田市山崎2641番地)、平成30年3月23日(開催期間:平成30年3月22日~平成30年3月25日)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和1年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、分子インプランテーションによる超分子エレクトロニクスの創成、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 純一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 峻一郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 侑
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-043216(JP,A)
【文献】特開平1-187706(JP,A)
【文献】特表2013-506278(JP,A)
【文献】特開2018-137365(JP,A)
【文献】特開2001-326393(JP,A)
【文献】特開2007-314750(JP,A)
【文献】特開2008-226959(JP,A)
【文献】国際公開第2017/108882(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/114061(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00-7/02、7/12-7/18
B29C 71/04
H01B 1/00-1/24、13/00
H01L 21/28-21/288、29/40-29/64、
29/78、35/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向された高分子半導体からなる高分子膜を準備する準備ステップと、
ドーピングにより前記高分子半導体に注入されるキャリアと逆の極性を持つ第1のイオンをカチオンまたはアニオンの一方として構成されるイオン液体または塩を溶解した有機溶媒に前記第1のイオンと同じ極性を有し前記高分子半導体を酸化または還元するドーパントを溶解した処理液を前記高分子膜の表面に接触させ、酸化還元反応により前記ドーパントがイオン化した第2のイオンと前記高分子半導体との中間体を形成するとともに、前記中間体の前記第2のイオンを前記第1のイオンで置換させ、前記高分子膜内に前記第1のイオンを導入するドープステップと
を有することを特徴とする導電性ポリマー材料の製造方法。
【請求項2】
前記準備ステップは、
溶媒に前記高分子半導体を溶解した溶液を平坦な基板の表面上に供給し、前記基板上の前記溶液を平坦な面で押え付けて膜状にし、押え付けた状態で前記溶液中の溶媒を蒸発させ、前記高分子半導体からなる前記高分子膜とする
ことを特徴とする請求項に記載の導電性ポリマー材料の製造方法。
【請求項3】
配向されるとともに複数層に重なった高分子半導体からなる高分子膜と、
前記高分子半導体が層状に重なる方向で前記高分子膜内に分布するドーパントと
を有し、
各々の前記高分子半導体について、前記高分子半導体の配向方向で隣接する一対の側鎖に挟まれる1つの空間に対して前記ドーパントが1/3個以上2個以下の範囲内の割合で含まれる
ことを特徴とする導電性ポリマー材料。
【請求項4】
前記高分子膜の厚みが少なくとも30nm以上50μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項に記載の導電性ポリマー材料。
【請求項5】
前記高分子膜はP型の高分子半導体からなり、
仕事関数が5.5eV以上であることを特徴とする請求項3に記載の導電性ポリマー材料
【請求項6】
絶縁層と、前記絶縁層の一方の面に設けられたゲート電極と、前記絶縁層の他方の面に設けられ半導体特性を有する半導体層と、ソース電極及びドレイン電極とを有する電界効果トランジスタにおいて、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極のそれぞれは、
請求項3に記載の導電性ポリマー材料からなる導電性ポリマー層を有し、前記導電性ポリマー層が前記半導体層に密着して設けられている
ことを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項7】
前記ソース電極及び前記ドレイン電極のそれぞれは、
前記導電性ポリマー層の前記半導体層と反対側の面に金属層が設けられている
ことを特徴とする請求項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項8】
前記導電性ポリマー層は、前記高分子半導体がP型であり、仕事関数が5.5eV以上であることを特徴とする請求項またはに記載の電界効果トランジスタ。
【請求項9】
光電変換層と、
前記光電変換層と電極との界面のエネルギー準位のマッチングをとる1または複数のバッファ層からなるバッファ層群を備え、
前記バッファ層群は、前記光電変換層に直接にまたは他のバッファ層を介して重ねて設けられ、請求項3に記載の導電性ポリマー材料からなる1つのバッファ層を含む
ことを特徴とする光電変換素子。
【請求項10】
記1つのバッファ層は、前記高分子半導体がP型であり、仕事関数が5.5eV以上であることを特徴とする請求項に記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリマー材料及びその製造方法、高分子膜及びその製造方法、導電性高分子膜、光電変換素子並びに電界効果トランジスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体特性を有する高分子化合物(以下、高分子半導体という)から作製される導電性ポリマー材料(導電性高分子材料)を用いた種々の半導体素子が提案されている。例えば熱電変換素子では、熱電変換効率を上昇させるために、高分子半導体で構成される高分子膜にドーピングを行うことで、導電性を向上させた導電性ポリマー材料が用いられる。ドーピングの手法としては、例えば高分子半導体及びドーパントが溶解した混合溶液を用いて導電性ポリマー材料を形成する手法が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Yevhen Karpov et al. “Molecular Doping of a High Mobility Diketopyrrolopyrrole-Dithienylthieno[3,2- b]thiophene Donor-Acceptor Copolymer with F6TCNNQ” Macromolecules”, 2017, 50 (3), pp 914-926
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような混合溶液を用いた手法で導電性ポリマー材料を形成した場合、ドープ量が十分でなく、またドープ量を多くすると導電性ポリマー材料における高分子半導体の配向が乱れる等の問題があった。このため、導電性ポリマー材料のさらなる導電性の向上が望まれていた。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、導電性ポリマー材料の導電性の向上に資する導電性ポリマー材料及びその製造方法、高分子膜及びその製造方法、導電性高分子膜、光電変換素子並びに電界効果トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の導電性ポリマー材料の製造方法は、配向された高分子半導体からなる高分子膜を準備する準備ステップと、ドーピングにより前記高分子半導体に注入されるキャリアと逆の極性を持つ第1のイオンをカチオンまたはアニオンの一方として構成されるイオン液体または塩を溶解した有機溶媒に前記第1のイオンと同じ極性を有し前記高分子半導体を酸化または還元するドーパントを溶解した処理液を前記高分子膜の表面に接触させ、酸化還元反応により前記ドーパントがイオン化した第2のイオンと前記高分子半導体との中間体を形成するとともに、前記中間体の前記第2のイオンを前記第1のイオンで置換させ、前記高分子膜内に前記第1のイオンを導入するドープステップとを有するものである。
【0007】
本発明の導電性ポリマー材料の製造方法は、配向された高分子半導体からなる高分子膜を準備する準備ステップと、前記高分子膜に、ドーパントを有機溶媒に溶解した処理液を接触させることによって、前記高分子膜内に前記ドーパントを導入するドープステップとを有するものである。
【0008】
本発明の高分子膜の製造方法は、溶媒に高分子半導体を溶解した溶液を平坦な基板の表面上に供給する供給ステップと、前記基板上の前記溶液を平坦な面で押え付けて膜状にし、押え付けた状態で前記溶液中の前記溶媒を蒸発させ、前記高分子半導体からなる高分子膜とする押圧ステップとを有するものである。
【0009】
本発明の導電性ポリマー材料は、配向されるとともに複数層に重なった高分子半導体からなる高分子膜と、前記高分子半導体が層状に重なる方向で前記高分子膜内に分布するドーパントとを有し、各々の前記高分子半導体について、前記高分子半導体の配向方向で隣接する一対の側鎖に挟まれる1つの空間に対して前記ドーパントが1/3個以上2個以下の範囲内の割合で含まれるものである。
【0010】
本発明の導電性高分子膜は、P型の高分子半導体からなる高分子膜と、前記高分子膜内に分布するドーパントとを有し、仕事関数が5.5eV以上である。
【0011】
本発明の高分子膜は、配向された高分子半導体からなり、厚みが少なくとも10μm以上50μm以下の範囲内である。
【0012】
本発明の電界効果トランジスタは、絶縁層と、前記絶縁層の一方の面に設けられたゲート電極と、前記絶縁層の他方の面に設けられ半導体特性を有する半導体層と、ソース電極及びドレイン電極とを有する電界効果トランジスタにおいて、前記ソース電極及び前記ドレイン電極のそれぞれは、高分子半導体からなりドーパントを内包する導電性ポリマー層を有し、前記導電性ポリマー層が前記半導体層に密着して設けられているものである。
【0013】
本発明の光電変換素子は、光電変換層と、前記光電変換層と電極との界面のエネルギー準位のマッチングをとる1または複数のバッファ層からなるバッファ層群を備え、前記バッファ層群は、前記光電変換層に直接にまたは他のバッファ層を介して重ねて設けられ、高分子半導体からなりドーパントを内包する導電性高分子膜からなる1つのバッファ層を含むものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の導電性ポリマー材料の製造方法によれば、導電性ポリマーの配向を乱すことなく十分なドープ量が得られ、導電性を向上させることができる。
【0015】
本発明の高分子膜の製造方法によれば、膜厚が大きく均一な高分子膜を形成することができ、導電性の向上を図ることができる。
【0016】
本発明の導電性ポリマー材料によれば、十分なドープ量で導電性ポリマー材料が均一にドープされており、導電性の向上を図ることができる。
【0017】
本発明の導電性高分子膜は、P型のものでは高仕事関数化、N型のものでは低仕事関数化されているため、それが接している導体及び半導体材料に効率的にキャリアの注入及び蓄積を行うことができる。ひいては、ドーピングが難しい材料へのキャリアの注入や局所的なキャリアの注入を容易にできる。
【0018】
本発明の高分子膜によれば、高分子半導体が配向され膜厚が大きいので、導電性の向上を図ることができる。
【0019】
本発明の電界効果トランジスタは、ドーパントを内包する導電性高分子膜を半導体層に密着させているので、半導体層に導電性高分子膜からキャリアの注入及び蓄積が行われるため、半導体層へのドーピングが不要になる。
【0020】
本発明の光電変換素子は、ドーパントを内包する導電性高分子膜をバッファ層の1つとしているので、効率的に光電変換層へのキャリアの注入及び光電変換層からのキャリアの回収を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態に係る熱電変換素子を示す断面図である。
図2】高分子膜の作製手順を示す説明図である。
図3】高分子膜の配向された導電性ポリマーの状態を示す説明図である。
図4】酸化還元によるドーピングの例を示す説明図である。
図5】高分子半導体のHOMOとドーパントのLUMOとの関係を示す説明図である。
図6】酸化還元により高分子膜内に導入されたドーパントの状態を示す説明図である。
図7】イオン交換を用いて高分子膜にドーピングする状態を示す説明図である。
図8】イオン交換により高分子膜内に導入されたドーパントの状態を示す説明図である。
図9】第2実施形態に係る電界効果トランジスタの構成を示す説明図である。
図10】フォトリソグラフィを用いて作製された導電性ポリマー層を示す写真画像である。
図11】ボトムゲート・ボトムコンタクト型の電界効果トランジスタの例を示す説明図である。
図12】トップゲート・ボトムコンタクト型の電界効果トランジスタの例を示す説明図である。
図13】トップゲート・トップコンタクト型の電界効果トランジスタの例を示す説明図である。
図14】ドレイン電極及びソース電極を導電性ポリマー層と金属層とで構成した例を示す説明図である。
図15】第3実施形態に係る有機EL素子の構成を示す説明図である。
図16】導電性ポリマー層の透過特性の一例を示すグラフである。
図17】導電性ポリマー層を陽極とホール注入層とした例の有機EL素子の構成を示す説明図である。
図18】ホール輸送側を導電性ポリマー層の一層のみとした例の有機EL素子の構成を示す説明図である。
図19】陰極側から光を取り出す例の有機EL素子の構成を示す説明図である。
図20】導電性ポリマー層を陽極として基板と反対側に配置した例の有機EL素子の構成を示す説明図である。
図21】第3実施形態に係る光発電素子の構成を示す説明図である。
図22】導電性ポリマー層を陽極とホール注入層とした例の光発電素子の構成を示す説明図である。
図23】ホール輸送側を導電性ポリマー層の一層のみとした例の光発電素子の構成を示す説明図である。
図24】陰極側から光を入射させる例の光発電素子の構成を示す説明図である。
図25】導電性ポリマー層を陽極として基板と反対側に配置した例の光発電素子の構成を示す説明図である。
図26】高分子膜の周縁部の膜厚を測定した結果を示すグラフである。
図27】イオン交換によりドーピングされた高分子膜の表面と裏面のラマン散乱光のスペクトルを示すグラフである。
図28】PDPP2T-TT-ODのドープによる変化を紫外可視近赤外分光法で測定した結果を示すグラフである。
図29】PDPP2TT-Tのドープによる変化を紫外可視近赤外分光法で測定した結果を示すグラフである。
図30】酸化還元によりドープされたアニール前後の高分子膜を紫外可視近赤外分光法で測定した結果を示すグラフである。
図31】Li-BOBを塩としてイオン交換によりドープされたアニール前後の高分子膜を紫外可視近赤外分光法で測定した結果を示すグラフである。
図32】ドーピングされた高分子膜のアニール前後の波長2500nmの光の吸収強度の変化を示すグラフである。
図33】ドーピングされた高分子膜のアニール前後の導電率の変化を示すグラフである。
図34】K-COを塩としてイオン交換によりドープされたアニール前後の高分子膜を紫外可視近赤外分光法で測定した結果を示すグラフである。
図35】BMIM-FAPを塩としてイオン交換によりドープされたアニール前後の高分子膜を紫外可視近赤外分光法で測定した結果を示すグラフである。
図36】BMIM-FeClを塩としてイオン交換によりドープされたアニール前後の高分子膜を紫外可視近赤外分光法で測定した結果を示すグラフである。
図37】Na-TFPBを塩としてイオン交換によりドープされたアニール前後の高分子膜を紫外可視近赤外分光法で測定した結果を示すグラフである。
図38】BMIM-BF4を塩としてイオン交換によりドープされたアニール前後の高分子膜を紫外可視近赤外分光法で測定した結果を示すグラフである。
図39】BMIM-PF6を塩としてイオン交換によりドープされたアニール前後の高分子膜を紫外可視近赤外分光法で測定した結果を示すグラフである。
図40】Li-TFESIを塩としてイオン交換によりドープされたアニール前後の高分子膜を紫外可視近赤外分光法で測定した結果を示すグラフである。
図41】PBTTTのイオン交換法によるドーピングの前後における光電子収量分光測定法の測定結果を示すグラフである。
図42】光電子収量分光測定法により電荷の蓄積を確認したときの導電性ポリマー膜と有機分子膜との積層構造を示す説明図である。
図43】PBTTT-C14の高分子膜をイオン交換法でドーピングした導電性ポリマー膜を用いた場合の測定結果を示すグラフである。
図44】PTAAの高分子膜をイオン交換法でドーピングした導電性ポリマー膜を用いた場合の測定結果を示すグラフである。
図45】ドレイン電極及びソース電極を導電性ポリマー層と金属層とで構成した電界効果トランジスタの特性を測定した結果を示すグラフである。
図46】ドレイン電極及びソース電極を導電性ポリマー層の一層のみで構成した電界効果トランジスタの特性を測定した結果を示すグラフである。
図47】実施例8で作製した有機EL素子の積層構造におけるエネルギー準位を示すグラフである。
図48】実施例8で作製した有機EL素子の上面に形成された陰極を示す平面図である。
図49】実施例8で作製した有機EL素子の順方向電圧と電流の関係を示すグラフである。
図50】ホール輸送側を導電性ポリマー層のみとした有機EL素子の順方向電圧と電流の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1実施形態>
図1に示す熱電変換素子10は、導電性ポリマー材料(導電性高分子材料)である導電性高分子膜12、13と、電極14~16とで構成されている。導電性高分子膜12、13は、熱電変換素子10の熱電変換部として機能するものであり、導電性高分子膜12はP型半導体、導電性高分子膜13はN型半導体である。電極14は、導電性高分子膜12、13の一端に共通な電極として設けられている。電極15は、導電性高分子膜12の他端に、電極16は、導電性高分子膜13の他端にそれぞれ設けられている。この熱電変換素子10は、電極14と、電極15、16との間の温度差によって起電力を発生し、これを電極15、16から外部に取り出す。
【0023】
導電性高分子膜12、13となる導電性ポリマー材料は、半導体特性を示す高分子化合物(以下、高分子半導体と称する)を配向した状態で膜状に形成した高分子膜にドーピングを行ったものである。
【0024】
以下、導電性高分子膜12、13となる導電性ポリマー材料の製造方法について説明する。導電性ポリマー材料は、高分子半導体で高分子膜を形成する膜形成工程及び高分子膜にドーピングするドープ工程を経て作製される。
【0025】
[膜形成工程]
膜形成工程について図2を参照して説明する。まず、膜形成工程では、上面が平坦な基板21が用意される。基板21は、高い剛性を有する例えばポリイミド製の基板本体21aと、基板本体21aの表面に形成されたジメチルポリシロキサン(PDMS)からなるPDMS層21bとで構成される。PDMS層21bは、高分子膜を剥離しやすくするために設けており、PDMS層21bの上面が平坦にされている。
【0026】
図2(A)に示すように、PDMS層21bの上面に、所定量の溶液23を供給管24から供給する。溶液23は、高分子膜となる高分子半導体を溶媒に溶解したものである。導電性ポリマー材料をP型の半導体とする場合には、P型の高分子半導体を溶媒に溶解し、N型の半導体とする場合には、N型の高分子半導体を溶媒に溶解した溶液23を用いる。P型の高分子半導体としては、チオフェン、チアジアゾール、ジケトピロロピロール等が重合または共重合したものを用いることができる。また、N型の高分子半導体としては、ナフタレンジイミド、ペリレンジイミド、チオフェン等が重合または共重合したものを用いることができる。溶液23の溶媒としては、アセトニトリル、酢酸ブチル、フルオロアルコール等を用いることができる。
【0027】
溶液23の濃度(=(高分子半導体の質量)/(高分子半導体の質量+溶媒の質量)×100(%))は、好ましくは0.1重量パーセント以上10重量パーセント以下の範囲内であり、より好ましくは1.5重量パーセント以上10重量パーセント以下の範囲内である。0.1重量パーセント以上であれば、均一な膜厚の高分子膜を確実に形成可能であり、10重量パーセント以下であれば溶液23を凝集させることなく容易に調整することができる。また、1.5重量パーセント以上であれば、1μm以上の厚い高分子膜を確実に形成可能である。
【0028】
溶液23の供給後、図2(B)に示すように、押圧部材25を基板21上の溶液23に載せる。押圧部材25は、PDMS層25a、このPDMS層25aが下面に形成されたアッパープレート25b、アッパープレート25bの上面に載せられる錘25cとから構成されている。PDMS層25aは、その下面が平坦にされている。PDMS層25aは、PDMS層21bと同様に高分子膜を剥離しやすくするために設けている。
【0029】
上記のように押圧部材25を基板21上の溶液23に載せることにより、PDMS層21b上に溶液23が展開されて溶液膜23Aが形成される。適切な量の溶液23を基板21上に載せることによって、PDMS層21bとPDMS層25aとの間の間隙の外周から溶液23が漏れだすことはない。また、過剰な量の溶液23を基板21上に載せても、余剰な溶液23が外側に排出されることで、形成される高分子膜の膜厚の再現性が担保される。溶液膜23Aは、上方から押圧部材25で均一に荷重される。この荷重した状態を溶液膜23Aの溶媒が蒸発するまで維持する。押圧部材25による溶液膜23Aに対する単位面積当たりの荷重の大きさは、好ましくは0.1g/cm以上10g/cm以下の範囲内である。0.1g/cm以上であれば、溶液23を容易に展開することが可能であり、10g/cm以下程度であれば、荷重の増減によって膜厚を均一にしながら膜厚の制御が容易である。
【0030】
溶液膜23Aの溶媒が蒸発することより、PDMS層21bとPDMS層25aとの間に高分子膜27が形成される。この後に、図2(C)に示すように、PDMS層25aから高分子膜27を剥離する。高分子膜27をそれ単体に分離する場合には、さらにPDMS層21bから高分子膜27を剥離するが、高分子膜27に対してドーピング処理等を行う場合には、そのような処理を行ってからPDMS層21bから高分子膜27を剥離してもよい。
【0031】
上記の手法で作製される高分子膜27は、中心部が薄く周縁部が厚くなるコーヒーリング効果(現象)が生じることなく、均一な膜厚に形成される。また、この手法により、500nm以上の膜厚の高分子膜27を作製することが可能であり、膜厚を均一にしながら少なくとも10μm以上50μm以下の高分子膜27を容易に作製することができる。高分子膜27の膜厚を大きくすることは、導電性ポリマー材料の導電率を高める上で有利である。また、作製される高分子膜27及びこの高分子膜27にドーピングして作製される導電性高分子膜は、その膜厚によりフリースタンディング膜として利用することができる。
【0032】
高分子膜27の膜厚は、溶液23の濃度及び荷重によって調整することができる。具体的には溶液23の濃度を薄くする、あるいは荷重を大きくすれば膜厚を小さくすることができ、溶液23の濃度を濃くする、あるいは荷重を小さくすれば膜厚を大きくすることができる。
【0033】
図3に模式的に示すように、上記のように作成される高分子膜27は、それを構成する各高分子半導体28が、例えばエッジオン配向している。すなわち、高分子半導体28は、主鎖面が基板21に垂直であり主鎖28aが同じ方向に延びた状態で、複数層に重なっている。高分子半導体28の側鎖28bは、高分子膜27の厚み方向に主鎖28aから延びている。なお、図3に示す高分子半導体28の構造は、便宜的なものであり、また図中の「○」は炭素や窒素等の原子を示している。また、図3では、煩雑化を避けるために、紙面一番手前の高分子半導体28についてのみ側鎖28bを描いてあるが、その他の高分子半導体28についても同様に側鎖がある。
【0034】
[ドープ工程]
最初に酸化還元反応を利用して高分子膜27にドーピングする手法(以下、酸化還元法と称する)を用いたドープ工程について説明する。酸化還元法では、ドーパントを有機溶媒に溶解した溶液に高分子膜を接触させることによって、高分子膜27内にドーパントを導入する。
【0035】
図4に示すように、ドーピングの対象となる高分子膜27は、例えば処理液30に浸漬される。処理液30は、詳細を後述するドーパントを有機溶媒に溶解または分散したものであり、処理液30には高分子半導体が溶解されていない。処理液30中のドーパント(分子)が高分子膜27の表面に接触すると、高分子膜27を構成する高分子半導体28とドーパントとの酸化還元反応が生じる。なお、高分子膜27を処理液30に浸漬する代わりに、高分子膜27の表面に処理液30を塗布したり、滴下、展開したりしてもよい。
【0036】
例えば、P型の高分子半導体28をドーピングする場合で、図5に示すように、高分子半導体28のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)とドーパントのLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)との間で電荷移動、すなわち高分子半導体28に正孔が移動することで、高分子半導体28にキャリアが注入される。N型の高分子半導体28をドーピングする場合では、高分子半導体28のLUMOとドーパントのHOMOとの間で電荷移動、すなわち高分子半導体28に電子が移動することで、高分子半導体28にキャリアが注入される。
【0037】
上記説明から分かるようにドーパントは、高分子半導体28がP型であれば、高分子半導体を酸化するものを用いる。このドーパントは、真空準位を基準としたLUMOのエネルギー準位(ELUMO)が真空準位を基準とした高分子半導体のHOMOのエネルギー準位(EHOMO)より0.3eV程度大きい値(EHOMO+0.3)以下の関係(ELUMO ≦ EHOMO+0.3)を満たすものが好ましく、より好ましくは「ELUMO ≦ EHOMO」の関係を満たすものがよい。
【0038】
また、高分子半導体がN型であれば、高分子半導体を還元するものを用いる。このドーパントは、真空準位を基準としたHOMOのエネルギー準位(E’HOMO)が高分子半導体の真空準位を基準としたLUMOのエネルギー準位(E’LUMO)より0.3eV程度小さい値(E’LUMO-0.3)以上の関係(E’HOMO ≧ E’LUMO-0.3)を満たすものが好ましく、より好ましくは「E’HOMO ≧ E’LUMO」を満たすものがよい。
【0039】
具体的なP型の高分子半導体に対するドーパントとしては、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン(FTCNQ、CAS番号(29261-33-4))、1,3,4,5,7,8-ヘキサフルオロテトラシアノナフトキノジメタン(F6TCNNQ)、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(DDQ)、モリブデン トリ(1-(トリフルオロアセチル)-2-(トリフルオロメチル)エタン-1,2-ヂチオレン(Molybdenum tris(1-(trifluoroacetyl)-2-(trifluoromethyl)ethane-1,2-dithiolene、Mo(tfd-COCF3)3)等が挙げられる。また、N型の高分子半導体に対するドーパントとしては、ビス(シクロペンタジエニル)コバルト、メシチレンペンタメチルシクロペンタジエニルルテニウムダイマー、1,3-ジメチル-2-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾイミダゾール等が挙げられる。処理液30の有機溶媒としては、ドーパントを溶解または分散可能なものが用いられ、例えばアセトニトリル、ヂメチルスルホキシド、酢酸ブチル、アルカン系溶媒、フッ化アルコール、パーフルオロトリブチルアミン等を用いることができる。
【0040】
図6に模式的に示すように、上記のように高分子半導体28を酸化または還元したドーパント35は、高分子半導体28が延びた方向に隣接した一対の側鎖に挟まれる空間に入り込んだ状態になるが、溶媒和現象、熱拡散及び静電相互作用により、高分子膜27の面内方向及び厚み方向に移動する。この結果、高分子膜27の表面のみならず、高分子膜27の内部にまでドーパント35が導入され、高分子膜27の面内及び厚み方向に均一にドーピングされた導電性ポリマー材料が得られる。
【0041】
この酸化還元法のドーピングによれば、高分子膜27の厚みが10μm以下であれば、確実にその厚み方向に均一なドーピングを行うことできる。また、各々の高分子半導体28について、高分子半導体28の配向方向(主鎖28aが延びた方向)で隣接する一対の側鎖28bに挟まれる1つの空間に対してドーパント35が1/3個以上の割合で含まれるようにドープ量を大きくしてドーピングすることができる。すなわち、一対の側鎖28bの間に形成される3個の空間当たり1個のドーパント35が配されるようにドープされる程度にまで、ドープ量を大きくすることができる。
【0042】
次にイオン交換を用いたドーピングの手法(以下、イオン交換法と称する)について説明する。イオン交換法によるドーピングは、高分子膜27の高分子半導体とドーパント(以下、イニシエータードーパントと称する)との中間体を経て、イオン交換によって、イオン化しているイニシエータードーパントを別のイオン(以下、オルタナティブイオンと称する)と置換することで、高分子膜27の高分子半導体とオルタナティブイオンとの電荷移動錯体を形成するものである。この手法によるドーピングでは、均一なドーピングとともに、効率的・効果的なドーピングがなされドープ量をより大きくすることができる。
【0043】
高分子膜27の高分子半導体をA、イニシエータードーパントをB、オルタナティブイオンと塩を作ることができるイオン(以下、スペクテータイオンと称する)となる化学種をC、オルタナティブイオンとなる化学種をDとしたときに、イオン交換法によるドーピングは、高分子半導体がP型である場合には、次の式(1)のように、高分子半導体がN型である場合には、次の式(2)のようにそれぞれ表すことができる。
【0044】
【数1】
【0045】
イオン交換法によるドーピングでは、スペクテータイオン、オルタナティブイオンから構成される塩の液体であるイオン液体に、オルタナティブイオンと同じ極性(アニオンまたはカチオン)となるイニシエータードーパントを溶解した処理液40(図7参照)を用意する。また、スペクテータイオン、オルタナティブイオンから構成される塩は、自身で液体となる必要はなく、アセトニトリルや酢酸ブチルなどの有機溶媒に溶解させても良い。この処理液40に高分子膜27を所定の時間だけ浸漬し、その後に基板21を処理液40から取り出して、エアブロー等により表面を乾燥させる。これにより、高分子膜27の内部にオルタナティブイオンが入り込み、高分子膜27がドーピングされた導電性ポリマー材料が得られる。
【0046】
後述するように、イオン交換法によるドーピングでは、厚みにかかわらず(表面からの深さにかかわらず)、高分子膜27の厚み方向の全領域にオルタナティブイオンを導入することができるため、高分子膜27の一方面が基板21で覆われていても何ら問題がない。
【0047】
なお、オルタナティブイオンが第1のイオンであり、ドーピングによって高分子半導体に注入されるキャリアと逆の極性を持つ。また、イニシエータードーパントが、有機半導体との酸化還元反応によりイオン化して第2のイオンとなるドーパントである。また、イオン交換法によってドーピングする場合には、高分子膜27の表面に処理液40を接触させて、上述のように反応させることができるのであれば、例えば高分子膜27の表面に処理液40を塗布したり、滴下、展開したりしてもよい。
【0048】
図7に高分子半導体がP型である場合の高分子膜27がドーピングされる状態を模式的に示す。高分子膜27を上記処理液40に浸漬した場合、高分子膜27の表面で、下記式(3)に示す高分子半導体(A)とイニシエータードーパント(B)との酸化還元反応が生じる(図7(A))。すなわち、高分子半導体のカチオン([A])とイニシエータードーパントのアニオン([B])とからなる中間体([A][B])が形成され、このときに高分子半導体とイニシエータードーパントとの間で電荷移動が生じ、高分子半導体にキャリア(この例では正孔)が注入される。
【0049】
【数2】
【0050】
ところで、式(3)示される高分子半導体とイニシエータードーパントとの酸化還元反応は、可逆的であり、平衡状態になると中間体の生成量は増加しない。すなわち、イニシエータードーパントによる高分子膜27のドーピングは、平衡状態になると進まない。しかしながら、イニシエータードーパントのアニオン([B])よりも高分子半導体のカチオン([A])と化学的に対を形成しやすい、または処理液40中における濃度が高いオルタナティブイオンであるアニオン([D])が処理液40中に存在することにより、下記式(4)に示すように、中間体を形成するイニシエータードーパントのアニオン([B])がオルタナティブイオンであるアニオン([D])に置換(イオン交換)される(図7(B))。この置換が生じると、平衡状態が維持されるように高分子半導体とイニシエータードーパントとの酸化還元反応が生じ、さらにその酸化還元反応によって形成される中間体のイニシエータードーパントのアニオン([B])がオルタナティブイオンであるアニオン([D])に置換される。この結果、オルタナティブイオンによって高分子膜27がドープされた状態になる。
【0051】
【数3】
【0052】
なお、高分子膜27がP型の高分子半導体であるPBTTT―C14(「PBTTT」と表記する)で構成され、イニシエータードーパントがFTCNQ、オルタナティブイオンがTFSI、スペクテータイオンがEMMIである場合には、上記式(3)、(4)は、下記の式(5)、(6)のようになる。なお、PBTTT―C14は、ポリ[2,5-ビス(3-テトラデシルチオフェン-2-イル)チエノ[3,2-b]チオフェン](poly[2,5-bis(3-tetradecylthiophen-2-yl)thieno[3,2-b]thiophene])、TFSIは、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、EMIMは、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム(1-Ethyl-3-methylimidazolium)である。
【0053】
【数4】
【0054】
オルタナティブイオン([D])は、熱拡散および静電相互作用により、高分子膜27の面内方向及び厚み方向に移動する。この結果、高分子膜27の表面のみならず、高分子膜27の内部にまでオルタナティブイオンが導入され、高分子膜27が面内及び厚み方向に均一にドーピングされた導電性ポリマー材料が得られる。
【0055】
イオン交換(式(6))によって、式(5)の酸化還元に関する平衡の右辺の成分すなわち中間体は著しく減少し、平衡が偏った状態が発生するため、酸化還元反応が促進される。そのため、酸化還元法よりも高いドープ量が実現される。なお、酸化還元で生じた中間体は、式(6)の反応を経てその右辺の状態へと遷移する。上記の反応は、式(6)によって示されるイオン交換の反応におけるイオン間相互作用やエントロピー利得などに由来するエネルギー利得により酸化還元を促進しているとも理解することができる。
【0056】
高分子膜27の表面の深さにかかわらず、十分な量で均一にオルタナティブイオンが高分子膜27の厚み方向の全領域に導入される。図8に模式的に示す高分子膜27の例では、各々の高分子半導体28について、高分子半導体28の配向方向で隣接する一対の側鎖28bに挟まれる1つの空間に対してオルタナティブイオン([D])が1個の割合で含まれている。イオン交換法を用いた場合、各々の高分子半導体28について、高分子半導体28の配向方向で隣接する一対の側鎖28bに挟まれる1つの空間に対してオルタナティブイオン([D])を最大2個の割合で含ませることができように、ドープ量を大きくして高分子膜27をドーピングすることができる。
【0057】
また、このイオン交換法を用いた場合、高分子膜27の厚みによらず、厚み方向に均一にドーピングすることができるため、上述の膜形成工程で形成される膜厚の大きな高分子膜27のドーピングに有用である。さらに、このイオン交換法を用いて高分子膜27をドーピングすることで作製される導電性ポリマー材料は、ドープ状態の熱に対する安定性、大気中における安定性が高くなることが確認されている。なお、高分子膜27の高分子半導体がN型である場合も同様である。
【0058】
イオン交換法でドーピングする場合のP型の高分子半導体としては、後述するようにHOMO準位がイニシエータードーパントのLUMO準位に対して所定の条件を満たすものであり、以下に示す官能基及びそれらの誘導体を重合または共重合したもの、それら官能基及びそれらの誘導体と他の共役を持つ官能基を共重合したものが用いられる。N型の高分子半導体としては、後述するようにLUMO準位がイニシエータードーパントのHOMO準位に対して所定の条件を満たすものであり、以下に示す官能基及びそれらの誘導体を重合または共重合したもの、それら官能基及びそれらの誘導体と他の共役を持つ官能基を共重合したものが用いられる。
【0059】
P型及びN型の高分子半導体についての上記官能基は、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、チオフェン、シクロペンタジチオフェン、チエノチオフェン、チエノアセン、ナフトジチオフェン、トリフェニルアミン、ベンゾチアジアゾール、インディゴ、イソインディゴ、ピロール、ジケトピロロピロール、ナフタレンジイミド、ペリレンジイミドである。なお、上述の手法で高分子膜27を形成する場合には、有機溶媒に溶解する高分子半導体が用いられる。
【0060】
P型の高分子半導体の具体例としては、PBTTT-C14の他、ポリ[2,5-(2-オクチルドデシル)-3,6-ジケトピロロピロール-オルト-5,5-(2,5-ジ(チエ-2-イル)チエノ [3,2-b]チオフェン)](Poly[2,5-(2-octyldodecyl)-3,6-diketopyrrolopyrrole-alt-5,5-(2,5-di(thien-2-yl)thieno [3,2-b]thiophene)](PDPP2T-TT-OD))、ポリ[2,5-(2-オクチルドデシル)-3,6-ジケトピロロピロール-オルト-(ジ(チエノチエ-2-イル)チオフェン)](PDPP2TT-T)が挙げられる。また、N型の高分子半導体の具体例としては、ポリ{[N,N'-ビス(2-オクチルドデシル)ナフタレン-1,4,5,8-ビス(ジカルボキシイミド)-2,6-ヂイル]-オルト-5,5'-(2,2'-ビチオフェン)}(poly{[N,N'-bis(2-octyldodecyl)naphthalene-1,4,5,8-bis(dicarboximide)-2,6-diyl]-alt-5,5'-(2,2'-bithiophene)}(N2200またはP(NDI2OD-T2))が挙げられる。
【0061】
P型の高分子半導体を用いた場合のイニシエータードーパントとしては、そのLUMOレベルに電子を受け入れることで、他の分子を酸化することができる分子、金属錯体が用いられる。具体的には、7,7,8,8-Tetracyanoquinodimethane(7,7,8,8-テトラシアノキノイジメタン)(TCNQ)、2-フルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン(F1-TCNQ)、2,5-ジフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン(F2-TCNQ)、2,3,5-トリフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン(F3-TCNQ)、FTCNQ、F6TCNNQ、DDQ、トリ(ジシアノエチレン)シクロプロパン(CN6-CP)、Mo(tfd-COCF3)3の分子、金属錯体、及びそれらの誘導体が挙げられる。
【0062】
P型の高分子半導体を用いた場合には、高分子半導体の真空準位を基準としたHOMO準位をVH1(eV)、イニシエータードーパントの真空準位を基準としたLUMO準位をVL1(eV)としたときに、「VH1≧VL1-1.0(eV)」の条件を満たすようにする。
【0063】
P型の高分子半導体を用いた場合のオルタナティブイオンは、スペクテータイオンと塩を作ることができる閉殻構造を持った陰イオンが用いられる。例えば、このようなオルタナティブイオンとして、TFSIの他、テトラフルオロボレート(BF)、ヘキサフルオロフォスフェート(PF)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF)、炭酸イオン、スルホン酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、3ヨウ化物イオン、フッ化物イオン、トリフルオロ[トリ(ペンタフルオロエチル)]ホスフェイト (FAP)、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド (TFESI)、ビス(オキサラト)ホウ酸イオン (BOB)、ビス(マロネート)ホウ酸イオン (MOB)、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン (PFPB)、テトラキス(3 5-トリフルオロメチル)フェニルホウ酸 (TFPB)、四塩化鉄イオン (FeCl4)等のイオン及びそれらの誘導体が挙げられる。
【0064】
P型の高分子半導体を用いた場合のスペクテータイオンは、オルタナティブイオンと塩を作ることができる閉殻構造を持った陽イオンである。このようなスペクテータイオンとして、例えば、Li、Na、Cs、Mg、Ca、Cu、Agの金属のイオン、それら金属が環状エーテル等により修飾された金属イオン、イミダゾリウム(imidazolium)、モルホリニウム(morpholinium)、ピペリジニウム(piperidinium)、ピリジニウム(pyrridinium)、ピロリジニウム(ppyrolodinium)、アンモニウム(ammonium)、フォスフォニウム(phosphonium)等の有機分子イオン、及びそれらの誘導体が挙げられる。
【0065】
N型の高分子半導体を用いた場合のイニシエータードーパントとしては、電子を供与することで、他の分子を還元することができる分子、金属錯体が用いられる。具体的には、コバルトセン、デカメチルコバルトセン、ルテノセン、フェロセン、1,3-ジメチル-2-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾイミダゾール等が挙げられる。
【0066】
N型の高分子半導体を用いた場合には、有機半導体の真空準位を基準としたLUMO準位をVL2(eV)、イニシエータードーパントの真空準位を基準としたHOMO準位をVH2(eV)としたときに、「VL2≦VH2+1.0(eV)」の条件を満たすようにする。
【0067】
N型の高分子半導体を用いた場合のオルタナティブイオンは、スペクテータイオンと塩を作ることができる閉殻構造を持った陽イオンが用いられる。例えば、このようなオルタナティブイオンとして、Li、Na、Cs、Mg、Ca、Cu、Agの金属のイオン、それら金属が環状エーテル等により修飾された金属イオン、イミダゾリウム、モルホリニウム、ピペリジニウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、アンモニウム、フォスフォニウム等の有機分子イオン、及びそれらの誘導体が挙げられる。
【0068】
N型の場合のスペクテータイオンは、オルタナティブイオンと塩を作ることができる閉殻構造を有する陰イオンである。スペクテータイオンとして、BF4、PF6、SbF6、炭酸イオン、スルホン酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、3ヨウ化物イオン、フッ化物イオン、FAP、TFSI、TFESI、BOB、MOB、PFPB、TFPB、FeCl等のイオン、及びそれらの誘導体が挙げられる。
【0069】
中間体を形成するイニシエータードーパントにオルタナティブイオンが置換される反応を得るために、イニシエータードーパントとスペクテータイオンの対形成により系のギブス自由エネルギーが安定化する、または、高分子半導体とオルタナティブイオンの対形成により系のギブス自由エネルギーが安定化するようにする。
【0070】
なお、スピンコート等の上記膜形成工程とは異なる手法で作成した高分子膜に対しても、上述の酸化還元法及びイオン交換法によるドーピングを適用することができる。酸化還元法及びイオン交換法によるドーピングは、例えば少なくとも30nm以上の高分子膜にも有用であり、厚みの大きな高分子膜に極めて有用である。もちろん、これらのドーピング手法は、薄い高分子膜に対しても良好にドーピングを行うことができることはいうまでもない。また、酸化還元法及びイオン交換法によるドーピングは、エッジオン配向した高分子膜に限らず、フラットオン配向の高分子膜をドーピングすることができる。
【0071】
上記のように酸化還元法、イオン交換法によるドーピングを行うことによって作製され、ドーパントを内包する高分子半導体からなる導電性高分子膜は、イオン化ポテンシャルがシフトする。例えば、P型の高分子半導体をドーピングした場合では、ドーピングによって高分子半導体のHOMO準位から電子が引き抜かれるために生じるためにイオン化ポテンシャルが高くなる。N型の高分子半導体をドーピングした場合では、ドーピングによって高分子半導体のLUMO準位に電子を供与するためにイオン化ポテンシャルが低くなる。なお、導電性高分子膜のイオン化ポテンシャルは、仕事関数およびフェルミ準位に等しい。
【0072】
特にイオン交換法を用いた場合では、上記のように効率的・効果的にドーピングがなされるため、導電性高分子膜における仕事関数のシフトが顕著であり、そのうちでもP型の導電性高分子膜の高仕事関数化がより顕著である。このP型の導電性高分子膜については、導電性高分子膜の仕事関数を、5.5eV以上にすることができることを確認している。P型の高分子半導体としてPBTTT―C14を用いた場合では、導電性高分子膜の仕事関数を5.6eV以上にすることができることも確認している。
【0073】
イオン交換法では、処理液40のイニシエータードーパントの種類および濃度、塩(オルタナティブイオン及びスペクテータイオン)の濃度および種類、溶媒の種類の調整により、導電性高分子膜の仕事関数を変化させることができる。1つの手法として、イニシエータードーパントの濃度または塩の濃度を調整することが挙げられ、その濃度を高くするほどP型の導電性高分子膜の仕事関数を高くすることができ、N型の導電性高分子膜の仕事関数を低くすることができる。
【0074】
<第2実施形態>
次に、導電性ポリマー材料をドレイン電極及びソース電極として用いた電界効果トランジスタの第2実施形態について説明する。
【0075】
図9において、この例における電界効果トランジスタ51は、ボトムゲート・トップコンタクト型のものであって、基板52上に、この基板52側から順番にゲート電極53、絶縁層54、半導体層55が積層されている。半導体層55の表面(絶縁層54と反対側の面)には、互いに所定の間隔をあけてドレイン電極57及びソース電極58が設けられている。半導体層55は、有機低分子半導体または高分子半導体等の半導体特性を有する材料で形成されているが、この例ではドレイン電極57及びソース電極58からのキャリアの注入、蓄積が行われるため、ドーピング自体が難しい材料、一部領域を限定してドーピングすることが難しい材料等を用いることもできる。
【0076】
ドレイン電極57は、P型の導電性ポリマー層57aで構成され、ソース電極58は、導電性ポリマー層58aで構成される。これらの導電性ポリマー層57a、58aは、半導体層55に密着して設けられている。導電性ポリマー層57a、58aは、いずれも高分子半導体をドーピングした導電性ポリマー材料で形成されたものであって、ドーパントを内包する高分子半導体からなる導電性高分子膜である。
【0077】
導電性ポリマー層57a、58aを作製する際の高分子半導体に対するドーピング手法は、P型の導電性ポリマー層57a、58aを高仕事関数化することができるものであれば特に限定されず、上述の酸化還元法、イオン交換法のいずれをも用いることができる。
【0078】
酸化還元法あるいはイオン交換法を用いることによって、高分子半導体の配向方向で隣接する一対の側鎖に挟まれる1つの空間に対してドーパントが1/3個以上2個以下の範囲内の割合で含まれるように、導電性ポリマー層57a、58aの仕事関数を高くすることができる。すなわち、高分子半導体の配向方向で隣接する一対の側鎖に挟まれる1つの空間に対してドーパントが1/3個以上2個以下の範囲内の割合で含まれる導電性ポリマー層57a、58aは、高仕事関数化されており、ドレイン電極57及びソース電極58として好ましいものである。イオン交換法は、効率的・効果的なドーピングによって導電性ポリマー材料のイオン化ポテンシャルを大きく高めることができるので、特に好ましい。このイオン交換法によって作製され、金(仕事関数:5.47eV)と同程度以上である仕事関数が5.5eV以上とされた導電性高分子膜は、導電性ポリマー層57a、58aとして好適である。
【0079】
この例では、半導体層55として、ドープしていない3,11‐ジオクチルジナフ卜[2,3-d:2’,3’‐d’]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン(DNBDT-NW)を用いている。また、導電性ポリマー層57a、58aとしては、イオン交換法によってPBTTT-C14からなる高分子膜をドーピングした導電性高分子膜を形成している。具体的には、半導体層55の表面にPBTTT-C14からなる高分子膜をパターニングした後に、イオン交換法によってドーピングして、PBTTT-C14の高分子半導体膜にイオン交換法によってドーピングすることでP型の導電性高分子膜を形成し、これを導電性ポリマー層57a、58aとしている。ドーピングの際には、処理液40(図7参照)のイニシエータードーパント、塩(オルタナティブイオン及びスペクテータイオン)の濃度および種類、溶媒の種類を適宜調整して、導電性ポリマー層57a、58aの仕事関数を5.5eV以上としたものを用いているが、仕事関数の大きさはこれに限定されない。
【0080】
導電性ポリマー層57a、58aとなる高分子膜を形成する手法、高分子半導体で半導体層55を形成する手法は、特に限定されず、例えば第1実施形態と同様な膜形成工程やスピンコート法等で作製することができる。また、真空蒸着法に代表されるPVD法、高分子膜となる有機半導体材料を含むインクを用いた有版印刷法及び無版印刷法、有機半導体材料を溶解した溶液を用いたエッジキャスト法や連続エッジキャスト法等によっても、導電性ポリマー層57a、58aとなる高分子膜、半導体層55を形成することができる。なお、エッジキャスト法については、例えば特開2015-185620号公報に、連続エッジキャスト法については、特開2017-147456にそれぞれ詳細が記載されている。
【0081】
導電性ポリマー層57a、58aとなる高分子膜のパターニングは、フォトリソグラフィを用い、所定のパターンで形成したレジストをマスクとしてウェットエッチングまたはドライエッチングにより行うことができる。このようなパターニングにより、膜厚150nm程度の高分子膜を5μm程度の細かいパターンに形成ができることを確認している。なお、図10に、パターニングされた導電性ポリマー層の写真を参考に示す。図10において、導電性ポリマー層は符号PLで示してある。また、YAGレーザー等を用いるとドーピング前後においてパターニングを行うことができる。
【0082】
上記のように高仕事関数化されたP型の導電性ポリマー層57a、58aを半導体層55に密着させて設けることにより、導電性ポリマー層57a、58aから半導体層55にキャリア(ホール)が注入されて蓄積される。これにより、半導体層55にドーピング処理を施すことなく、半導体層55内に伝導度の高いチャネルを形成することができ、高い移動度が得られる。結果として、良好な特性を有する電界効果トランジスタ51が得られる。
【0083】
上記のように、高仕事関数化された導電性ポリマー層57a、58aを半導体層55に密着させることによって、半導体層55にキャリアの注入が行われて伝導度を高くすることができるので、半導体層55へのドーピングのプロセスを省略するこができる、また、ドーピングが難しい材料や一部領域を限定してドーピングすることが難しい材料等を半導体層55として用いることができるようになる。
【0084】
なお、N型の高分子半導体導電性を用いてN型の導電性ポリマー層57a、58aを作製してもよい。このように作製されるN型の導電性ポリマー層57a、58aについては、P型のものと同様に、上述の酸化還元法、イオン交換法などを用いて作製し、低仕事関数化すればよく、高分子半導体の配向方向で隣接する一対の側鎖に挟まれる1つの空間に対してドーパントが1/3個以上2個以下の範囲内の割合で含まれるようにして低仕事関数化することも好ましい。導電性ポリマー層57a、58aがN型である場合に、半導体層55注入されるキャリアは、電子である。
【0085】
酸化還元法を用いて導電性ポリマー層57a、58aを作製する場合に用いることができる高分子半導体の種類、ドーパントの種類及びそれらの好ましい条件等は、第1実施形態において酸化還元法を用いて導電性高分子膜(導電性ポリマー材料)を作製する場合と同様である。また、イオン交換法を用いて導電性ポリマー層57a、58aを作製する場合に用いることができる高分子半導体の種類、イニシエータードーパント、塩(オルタナティブイオンとスペクテータイオン)の種類及びそれらの好ましい条件等は、第1実施形態においてイオン交換法を用いて導電性高分子膜(導電性ポリマー材料)を作製する場合と同様である。
【0086】
導電性ポリマー層57a、58aがP型の場合には、半導体層55のイオン化ポテンシャルと比較して導電性ポリマー層57a、58aの仕事関数が同程度かより高いことが効率的なキャリア注入には望ましい。同程度である場合でも、イオン化ポテンシャルから0.1eV引いた値よりは高い仕事関数を有することが望ましい。また、導電性ポリマー層57a、58aの仕事関数が半導体層55のイオン化ポテンシャルより高いほどに半導体層55にホールが蓄積される量が増えるため、より良好な注入特性を得ることができる。
【0087】
一方、導電性ポリマー層57a、58aがN型の場合には、半導体層55のイオン化ポテンシャルと比較して導電性ポリマー層57a、58aの仕事関数が同程度かより低いことが効率的なキャリア注入には望ましい。同程度である場合でも、イオン化ポテンシャルから0.1eV足した値よりは低い仕事関数を有することが望ましい。また、導電性ポリマー層57a、58aの仕事関数が半導体層55のイオン化ポテンシャルより低いほどに半導体層55に電子が蓄積される量が増えるため、より良好な注入特性を得ることができる。
【0088】
上記では、ボトムゲート・トップコンタクト型の構造を有する電界効果トランジスタを例にして説明したが、図11ないし図13にそれぞれ一例を示すボトムゲート・ボトムコンタクト型、トップゲート・ボトムコンタクト型、トップゲート・トップコンタクト型のいずれであってもよい。
【0089】
図11に示されるように、ボトムゲート・ボトムコンタクト型の電界効果トランジスタ51Aでは、電界効果トランジスタ51と同様に、基板52上にゲート電極53、絶縁層54、半導体層55が積層され、半導体層55の下面(絶縁層54側の面)にドレイン電極57及びソース電極58が設けられている。図12に示されるボトムゲート・ボトムコンタクト型の電界効果トランジスタ51B、図13に示されるトップゲート・トップコンタクト型の電界効果トランジスタ51Cでは、基板52側から順番に、半導体層55、絶縁層54、ゲート電極53が積層されている。このうちのボトムコンタクト型の電界効果トランジスタ51Bは、半導体層55の下面(基板52側の面)にドレイン電極57及びソース電極58が設けられ、トップコンタクト型の電界効果トランジスタ51Cは、半導体層55の上面(絶縁層54側の面)にドレイン電極57及びソース電極58が設けられている。このような構成は、これまでの電界効果トランジスタの構造と同様である。
【0090】
導電性ポリマー層(導電性高分子膜)と金属等の導体の間では、両者のキャリア密度が高いために効率的なキャリアの注入が生じる。このため、図14に一例を示す電界効果トランジスタ51Dのように、ドレイン電極57及びソース電極58を、導電性ポリマー層57a、58aと金属層57b、58bとの積層構造とすることも好ましい。この場合には、導電性ポリマー層57a、58aは、半導体層55に密着して設けられ、金属層57b、58bは、導電性ポリマー層57a、58aの半導体層55と反対側の面(図示の例では上面)に設ける。ドレイン電極57及びソース電極58には、金属層57b、58bを通して外部からの電圧が印加される。半導体層55には導電性ポリマー層57a、58aからキャリアの注入が生じるため、金属層57b、58bは、金(Au)等の仕事関数の高い材料やアルミニウム(Al)等の仕事関数が低い材料を用いて形成することもできる。
【0091】
<第3実施形態>
導電性ポリマー材料をバッファ層として用いた光電変換素子の第3実施形態について説明する。
【0092】
(有機EL素子)
図15において、光電変換素子としての有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)素子(OLED)61は、ガラス等の透明基板62上に、透明基板62側から順番に陽極(ホール注入電極)63、ホール注入層としての導電性ポリマー層64、ホール輸送層65、発光層66、電子輸送層67、陰極(電子注入電極)68を積層した構造を有している。この有機EL素子61は、これまでの有機EL素子と同様に、陽極63と陰極68との間に電圧が印加されたときに、発光層66に注入されたホールと電子との再結合によって生じた光を透明な、ホール輸送層65、導電性ポリマー層64及び透明基板62を介して素子外に放出する。
【0093】
陽極63は、透明電極であり、この例ではITO(酸化インジウムスズ)薄膜である。導電性ポリマー層64、ホール輸送層65は、バッファ層群を構成し、陽極63と発光層66との界面のエネルギー障壁を調整、すなわちエネルギー準位のマッチングを図るバッファ層として設けられている。この例では、陽極63と発光層66との間に2層のホール輸送側のバッファ層を設けることによって、より最適なエネルギー準位のマッチングを図っている。導電性ポリマー層64は、陽極63に最も近い、この例では陽極63に接続され、ホール輸送層65を介して発光層に重ねられたバッファ層として設けられており、ホール輸送層65は、発光層66に密着したバッファ層として設けられている。
【0094】
導電性ポリマー層64は、ドーパントを内包する高分子半導体からなり、仕事関数を高めたP型の導電性高分子膜である。この例における導電性ポリマー層64は、PBTTT-C14の高分子膜をイオン交換法によってドーピングし、仕事関数が例えば5.5eV以上のものを用いているが、仕事関数の大きさはこれに限定されない。また、ホール輸送層65は、N,N'-ジ-1-ナフチル-N,N'-ジフェニルベンジジン(α-NPD)の薄膜である。
【0095】
発光層66は、上記のように注入されるホールと電子とを再結合させて生じた光を放出するものであり、電気エネルギーを光エネルギーに変換する光電変換層として設けられている。この発光層66は、例えば有機半導体、金属錯体、有機無機ハイブリッドのペロブスカイト材料等を含む半導体材料で形成されている、この例では、発光層66は、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)を用いている。電子輸送層67は、発光層66と陰極68との界面のエネルギー準位のマッチングを図る電子輸送側のバッファ層として設けられており、この例ではフッ化リチウム(LiF)の薄膜である。陰極68としては、例えばアルミニウムを用いている。
【0096】
上記構成では、陽極63側の導電性ポリマー層64及びホール輸送層65は、発光層66からの光を透過する透過性が必要である。ホール輸送層65は、上記のように、これまでの有機EL素子と同様なα-NPD等の材料を用いることで透過性を有している。
【0097】
導電性ポリマー層64は、伝導度が高く、また可視光の波長域を含む波長域において光の透過率が高い導電性ポリマー材料で形成された導電性高分子膜であり、このような導電性ポリマー材料の1つとして、上記のPBTTT-C14をドープした導電性ポリマー材料が挙げられる。発明者らは、PBTTT-C14は、ドープ量が多くなるほど、伝導度が高くなるとともに、可視光の波長域を含む波長域において光の透過率が高くなることを見出した。図16に一例として、スピンコートによって膜厚50nmに形成したPBTTT-C14の高分子膜を、イオン交換法によってドーピングした導電性高分子膜の可視光領域における透過特性を示す。この透過特性に示されるように、PBTTT-C14の高分子膜をドーピングすることで、可視光領域で高い透過特性を得ることができる。
【0098】
導電性ポリマー層64とする高分子半導体の種類は、PBTTT-C14に限定されるものではなく、伝導度が高く、また可視光の波長域を含む波長域において光の透過率が高い導電性ポリマー材料であればよい。PBTTT-C14と同様に、ドープ量が多くなるほど、伝導度が高くなるとともに、透過率が高くなる高分子半導体としては、例えばポリチオフェン誘導体やPDPP2T-TT-OD、PDPP2TT-T等があり、これらを用いて導電性ポリマー層64を作製することもできる。
【0099】
なお、導電性ポリマー層64となる高分子半導体膜の形成手法、その高分子膜に対するドーピング手法は、それぞれ第2実施形態のソース電極及びドレイン電極の導電性ポリマー層を形成する場合と同様の手法を用いることができる。この場合にも、特にイオン交換法は、効率的・効果的なドーピングによって高分子膜の仕事関数を大きく高めることができるので、特に好ましい。この例においても、高分子半導体の配向方向で隣接する一対の側鎖に挟まれる1つの空間に対してドーパントが1/3個以上2個以下の範囲内の割合で含まれている導電性高分子膜、あるいは仕事関数が5.5eV以上とされたP型の導電性高分子膜は、バッファ層及び後述する陽極の機能を有する導電性ポリマー層64として好適である。また、導電性ポリマー層64とする高分子膜は、透過率を高くする上で一軸配向とすることが好ましい。
【0100】
上記のように導電性ポリマー層64として、仕事関数を高めた導電性高分子膜を用いることにより、導電性ポリマー層64からホール輸送層65に対して、ひいては発光層66に対して、効率的にホールが注入されて発光層66での発光が生じる。従来の有機EL素子のホール注入層として用いられているPEDOT:PSSの仕事関数は5.0eVであるが、このような従来の有機EL素子と比較しても、導電性ポリマー層64の仕事関数が高いため、より効率的にホールが注入されて発光層66での発光が得られる。
【0101】
図17に示す有機EL素子61Aのように、透明基板62側から順番に導電性ポリマー層64、ホール輸送層65、発光層66、電子輸送層67、陰極68を積層した構造とし、導電性ポリマー層64を陽極及びホール注入層として機能させてもよい。上記のように作製される導電性ポリマー層64は、伝導度が高いため、このように陽極として機能させることもできる。また、図18に示す有機EL素子61Bのように、透明基板62側から順番に導電性ポリマー層64、発光層66、電子輸送層67、陰極68を積層した構造とし、導電性ポリマー層64が発光層66を直接重ねて設けてもよい。導電性ポリマー層64は、仕事関数が高いため、導電性ポリマー層64の一層だけをホール輸送側のバッファ層とすることもできる。
【0102】
図19に示す有機EL素子61Cのように、透明基板62側から順番に、ITO薄膜等の透明電極である陰極68、電子輸送層67、発光層66、ホール輸送層65、ホール注入層としての導電性ポリマー層64、陽極63を積層した構造として、陰極68側から光を取り出す構成としてもよい。なお、この有機EL素子61Cの構成では、導電性ポリマー層64として透明なものを用いる必要はない。
【0103】
図20の有機EL素子61Dは、基板62A側から順番に陰極68、電子輸送層67、発光層66、ホール輸送層65、導電性ポリマー層64を積層した構造であり、導電性ポリマー層64を陽極及びバッファ層としている。この有機EL素子61Dでは、導電性ポリマー層74を介して光を取り出することができる。この場合、陰極68を透明電極にする必要がない。また、透明な基板62A及び陰極68を用いて、基板62A側と導電性ポリマー層64との両方から光を取り出すこともできる。なお、有機EL素子61C、61Dについても、有機EL素子61Bと同様に、ホール輸送層65を省略することができる。
【0104】
上記のように導電性ポリマー層64を用いることで、陽極やバッファ層の一部を省略することができ、有機EL素子の構造を簡単なものにすることができる。また、これにより、有機EL素子の製造プロセスの工程を少なくすることができる。
【0105】
(光発電素子)
次に光電変換素子としての光発電素子について説明する。図21において、光発電素子71は、ガラス等の透明基板72上に、この透明基板72側から順番に、陽極(ホール回収電極)73、導電性ポリマー層74、ホール輸送層75、発電層76、電子輸送層77、陰極(電子回収電極)78が積層された構造を有する。
【0106】
発電層76には、透明基板72、陽極73、導電性ポリマー層74、ホール輸送層75を介して光、例えば太陽光が入射される。発電層76は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換層として設けられ、光の入射により電子及びホールを生成する。発電層76としては、有機、無機、有機無機ハイブリッドのペロブスカイト材料などによる半導体材料を用い、単体でホールおよび電子の両方の伝導を示す半導体材料または2種類以上の半導体材料の混合膜として形成される。作製の容易性の観点からは、発電層76を有機半導体の混合膜とすることは好ましい態様である。また、発電層76は、高分子半導体とフラーレン誘導体を用いた混合膜とすることもできる。
【0107】
陽極73、導電性ポリマー層74、ホール輸送層75、電子輸送層77、陰極78の詳細は、上記の有機EL素子のものと同様である。陽極73と発電層76との界面のエネルギー準位のマッチングを図るホール輸送側のバッファ層として、導電性ポリマー層74及びホール輸送層75が設けられ、これらによりバッファ層群が構成される。また、発電層76と陰極78との界面のエネルギー準位のマッチングを図る電子輸送側のバッファ層として電子輸送層77が設けられている。高仕事関数化された導電性ポリマー層74を用いることにより、陽極73と発電層76とのエネルギーロスを効果的に低減する。
【0108】
導電性ポリマー層74は、伝導度が高いため陽極として機能させることもできる。図22に示す光発電素子71Aは、透明基板72側から順番に導電性ポリマー層74、ホール輸送層75、発電層76、電子輸送層77、陰極78を積層した構造を有しており、導電性ポリマー層74が陽極及びバッファ層として設けられている。また、導電性ポリマー層74は、仕事関数が高いため、図23の光発電素子71Bのように、ホール輸送側のバッファ層を導電性ポリマー層74の一層だけで構成することもできる。光発電素子71Bは、透明基板72側から順番に導電性ポリマー層74、発電層76、電子輸送層77、陰極78を積層した構造を有しており、導電性ポリマー層74が発電層76に直接重ねて設けられている。
【0109】
図24に示す光発電素子71Cは、透明基板72側から順番にITO薄膜等の透明な陰極78、透明な電子輸送層77、発電層76、ホール輸送層75、導電性ポリマー層74、陽極73を積層した構造を有している。この光発電素子71Cでは、陰極78側から光を入射させる。なお、この光発電素子71Cでは、導電性ポリマー層74として透明なものを用いる必要はない。
【0110】
図25の光発電素子71Dは、基板72A側から順番に陰極78、電子輸送層77、発電層76、ホール輸送層75、導電性ポリマー層74を積層した構造であり、導電性ポリマー層74を陽極及びバッファ層としている。この光発電素子71Dでは、導電性ポリマー層74を介して発電層76に光を入射させてもよく、透明な基板72Aを用いて、基板72A側から発電層76に光を入射させることもできる。
【0111】
なお、上記の各光発電素子のいずれの構造においても、ホール輸送層75及び電子輸送層77の一方または両方を省略することができる。
【0112】
上記のように構成される有機EL素子、光発電素子では、高分子半導体膜を形成し、ドーピングを行って導電性ポリマー層を形成する場合に、疎水性の溶液、吸湿性の低い高分子半導体を用いることができるので、有機EL素子、光発電素子に対する水の影響を低減できる。これに対して、従来の例えば有機EL素子に用いられているPEDOT:PSSは、このPEDOT:PSSを水に分散させた分散液を塗布することで製膜され、製膜後にも吸湿性が高く、有機EL素子への影響が懸念される。
【0113】
また、上記のように有機EL素子、光発電素子において導電性ポリマー層を陽極として機能させる構成は、導電性ポリマー層の透明性・高伝導度がITOフリー化及び大面積なデバイスの効率的な駆動に寄与する。大面積な有機EL素子、光発電素子では面内方向の伝導も重要であり、導電性ポリマー層を陽極等として用いることは、好ましい態様である。なお、PEDOT:PSSでは、仕事関数を高めるために電子絶縁性のNafion(登録商標)を混合することで仕事関数を高める手法が知られているが、このような手法においては伝導度が著しく減少する。
【0114】
上記では、ホールの輸送に関わるバッファ層の1つとして導電性ポリマー層を設けた例について説明しているが、電子の輸送に関わるバッファ層(例えば電子輸送層)として、N型の導電性ポリマー材料で形成された導電性ポリマー層を設けてもよい。この場合には、酸化還元法やイオン交換法によって高分子半導体膜をドーピングすることによって導電性ポリマー層を低仕事関数化すればよい。このような導電性ポリマー層を形成するのに適した高分子半導体としては、例えばN2200またはP(NDI2OD-T2)等がある。また、これらの高分子半導体はドーピングすることによって伝導度が高くなる。
【0115】
第2実施形態、第3実施形態では、電界効果トランジスタ、光電変換素子の例について説明しているが、上記のようにドーピングによってP型において高仕事関数化された高分子半導体膜は、各種の電子デバイスの電極ないし透明電極、バッファ層等として用いることができる。また、N型において低仕事関数化された高分子半導体膜も、各種の電子デバイスの電極ないし透明電極、バッファ層等として用いることができる。
【実施例
【0116】
[実施例1]
上述の膜形成工程の手順により4cm×4cmの高分子膜27を作製し、その周縁部の厚みを測定した。高分子膜27の作製では、高分子半導体としてのPBTTTを、溶媒としてのo-ジク口口ベンゼンに溶解した溶液23を用いた。溶液23の濃度は、10質量%とした。溶液膜23Aの溶媒がほぼ蒸発するまで、押圧部材25により荷重を均一に与え、その後に高分子膜27を押圧部材25から剥がして、周縁部の厚みを測定した。なお、押圧部材25による溶液膜23Aの単位面積当たりの荷重の大きさは、0.8g/cmとした。
【0117】
上記高分子膜27の周縁部の厚みの測定結果を図26に示す。図26の横軸は、高分子膜27の中央部側からの位置であり、縦軸は高分子膜27の厚みである。高分子膜27の周縁部の厚みは、ほぼ均一であり、周縁の厚みが大きくなるコーヒーリング効果も生じていないことがわかる。なお、グラフ中の直線は、測定範囲における厚みの平均値Tavを示しており、平均値Tavは19.2μmであった。
【0118】
[実施例2]
図27は、イオン交換法によってドーピングを行った後の高分子膜27の表裏のそれぞれをラマン分光測定した結果を示している。高分子膜27は、高分子半導体としてPBTTTを用いてガラス製の基板上に厚み2μmに形成した。処理液40には、FTCNQのアセトニトリル溶液を用い、基板ごと高分子膜27を処理液40に浸漬した。このときの浸漬時間は、10秒間とした。測定では、高分子膜27の表面については、測定光の入射と散乱光の受光とを直接に行い、裏面については、基板を介して測定光の入射と散乱光の受光とを行った。
【0119】
図27の測定結果に示されるように、高分子膜27の表裏の各散乱光のスペクトルは、ピーク形状が同じであり、高分子膜27の表側はもちろんのこと、裏側まで均一にドーピングされていることが分かる。このときの拡散係数を算出すると、拡散係数はμm-1オーダであり、熱拡散係数よりもはるかに大きいことが分かった。なお、高分子半導体としてポリ (3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT)を用い、ドーパントとしての過塩素酸イオン(ClO4 -)を熱拡散した場合の拡散係数は(1nm-1)である。
【0120】
[実施例3]
実施例3では、イオン交換法によるドーピングの安定性を色の変化により評価した。グローブボックス内で、高分子膜27のサンプル1~4をコバルトセン(CoCp)のアセトニトリル溶液にカチオン交換のための塩を添加した処理液40に浸漬した。高分子膜27としては、N2200で作製したものを用いた。処理液40に添加した塩は、表1に示す通りである。いずれのサンプルも処理液40に浸漬することで、中性状態の緑色からドーピングされた赤色に変化した。なお、表1中のBMIMは、1-Butyl-3-methylimidazolium、TBAは、tetrabutylammonium、THAは、tetraheptylammonium,、TOAは、tetraoctylammoniumである。処理液40に所定時間浸漬したサンプル1~4を処理液40から取り出し、大気に暴露して、サンプル1~4の色の変化を観察した。この結果を表1に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
また比較例として、サンプル1~4と同じ高分子膜27からなるサンプル5を用い、サンプル5をコバルトセン(CoCp)のアセトニトリル溶液に溶解した溶液に浸漬してドーピングを行った。このサンプル5について、サンプル1~4と同様に色の変化を観察した。この結果を表1にあわせて示す。
【0123】
表1からわかるように、比較例のサンプル5は、そのドーピングが大気下で非常に不安定であるが、イオン交換法によってドーピングされたサンプル1~4は、そのドーピングの大気安定性が大幅に向上している。これは安定な閉殻カチオン種を高分子膜27に格納したことに起因する。
【0124】
[実施例4]
実施例4では、紫外可視近赤外分光法(UV-Vis-NIR)を用いて、イニシエータードーパントとオルタナティブイオンとの置換状態を調べた。図28は、PDPP2T-TT-ODで作製した高分子膜27のドーピング前後の光吸収スペクトルであり、図29は、PDPP2TT-Tで作製した高分子膜27のドーピング前後の光吸収スペクトルである。また、図28図29中の「neutral」で示されるグラフはドーピング前の中性状態の薄膜である。「FTCNQ」で示されるグラフは、高分子膜27をFTCNQでドーピングした状態での光吸収スペクトルを示している。「LiTFSI」で示されるグラフは、FTCNQをイニシエータードーパントとし、TFSIアニオンをオルタナティブイオン、Liをスペクテータイオンとして用い、イオン交換法によってドーピングを行った後の光吸収スペクトルを示している。これらのグラフより、イオン交換法によるドーピング後では、イニシエータードーパントであるFTCNQを示す光吸収スペクトルのピークが消えており、FTCNQのほぼ全てがオルタナティブイオンのTFSIアニオンに置換されていることがわかる。また、図28では「FTCNQ」では起きないドープに由来するスペクトル変化が「LiTFSI」では起きており、イニシエータードーパントのみではドーピングできない材料もイオン交換法ではドーピングできていることが分かる。図28では中性状態の高分子半導体のピーク強度の変化が「LiTFSI」の方が「FTCNQ」より顕著であることから、イオン交換法ではドープ量が酸化還元法より増加することがわかる。
【0125】
[実施例5]
実施例5では、高分子膜27に行ったドーピングの熱耐久性を調べた。以下に説明する測定では、いずれの高分子膜27も導電性ポリマーとしてPBTTTを用いた。図30及び図31は、アニーリング前のドーピングした状態(as doped)及びドーピング後に図中に示される各温度でアニーリングした後の紫外可視近赤外分光法を用いた高分子膜27の光吸収スペクトルを示している。図31は、酸化還元法により、FTCNQをドーパントとしてドーピングした高分子膜27についての測定結果であり、図31はイオン交換法(塩:Li-BOB)を用いてドーピングした高分子膜27についての測定結果である。
【0126】
図30から、FTCNQによるドーピングは、160℃までの高温で著しくドープ量が減少する、すなわち熱耐久性に乏しいことがわかる。また、図31から、BOBアニオンをオルタナティブイオンとして用いたイオン交換法では、160℃までの高温でほとんどドープ量は減少せず、すなわち熱耐久性が高いことがわかる。
【0127】
図32は、ドーピングされた高分子膜27のアニール前後の光(波長2500nm)の吸収強度の変化を示している。アニール温度は160℃とした。また、図33は、ドーピングされた高分子膜27のアニール前後の導電率の変化を示している。アニール温度は120℃とした。なお、図32及び図33の横軸の「FTCNQ」は、ドーパントをFTCNQとして酸化還元法でドーピングした場合を示している。図32及び図33の横軸の「FTCNQ」以外は、その横軸に示される塩を用いた処理液40を用いてイオン交換法によりドーピングした場合を示している。
【0128】
図32から、光吸収スペクトルから評価される熱耐久性は格納されたアニオンに依存することが分かる。特に、FTCNQによるドーピングと比較して、TFSIやPFESI、BOBアニオンをオルタナティブイオンとしてイオン交換法を行った場合に熱耐久性が著しく向上することが分かる。また、図33から、伝導度の熱耐久性についても同様に、TFSIやBOBアニオンをオルタナティブイオンとしてイオン交換法を行った場合に熱耐久性が著しく向上することが分かる。
【0129】
図34図40は、上述の図30及び図31と同様に、イオン交換法を用いてドーピングした高分子膜27の、アニーリング前のドーピングした状態(as doped、R.T.)及びドーピング後に図中に示される各温度でアニーリングした後の紫外可視近赤外分光法を用いた光吸収スペクトルの測定結果を示している。
【0130】
図34図40は、塩としてK-CO、BMIM-FAP、BMIM-FeCl、Na-TFPB、BMIM-BF4、BMIM-PF6、Li-TFESIを用い、いずれもイニシエータードーパントとしてのFTCNQを添加した処理液40でドーピングした高分子膜27の測定結果を示している。なお、図34の高分子膜27のドーピングでは、塩をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した処理液40を用い、図37図40の高分子膜27のドーピングでは、塩を酢酸ブチル(BA)に溶解した処理液40を用いた。
【0131】
図30に示される酸化還元法のものと比べ、図34図40に示されるイオン交換法でドーピングした高分子膜27は、波長767nmと波長869nmのFTCNQの吸収強度がアニール前より弱い。これは少なくとも部分的にアニオン交換が起きているための高分子膜27内でFTCNQの量が減少していることを示している。また、波長767nmと波長869nmにピークが全く見えてない、図35図36及び図40の例は、FTCNQが100%に近く置換されていることがわかる。
【0132】
図34図40から、図32において用いた波長2500nmの吸光度はドープ状態の高分子半導体に由来するものであることが分かり、図32における評価はドープ状態の熱耐久性を評価したものであることを裏付けている。
【0133】
[実施例6]
PBTTT-C14の高分子膜と、この高分子膜をイオン交換法にドーピングすることで得られた導電性高分子膜のイオン化ポテンシャルを光電子収量分光測定法によりそれぞれ求めた。イオン交換法によるドーピングでは、イニシエータードーパント、塩(オルタナティブイオン及びスペクテータイオン)の濃度および種類、溶媒の種類を適宜調整した処理液40を用いた。光電子収量分光測定法の測定結果を図41に示す。図41では、「Pristine」がPBTTT-C14の高分子膜のグラフであり、「doped」が導電性高分子膜のグラフである。この測定結果より、ドープ前のPBTTT-C14の高分子膜のイオン化ポテンシャルは、約4.8eVであったのに対し、ドープされた導電性高分子膜のイオン化ポテンシャルは、5.6eV以上であった。なお、ここで評価された導電性高分子膜のイオン化ポテンシャルは仕事関数と等しい。
【0134】
従来の有機EL素子等に用いられているPEDOT:PSSの仕事関数は、約5.0eV、また高移動度有機半導体とされているDNBDT-NWのイオン化ポテンシャルは、5.24eVであり、これらよりも導電性ポリマー膜の仕事関数は大きい。また、上記のように作製された導電性ポリマー膜の仕事関数は、多結晶白金の仕事関数(5.6eV)に匹敵する大きさであることがわかる。
【0135】
続いて、図42に示すように、プラスチック基板81上に形成された導電性ポリマー膜82の表面に半導体性を有するDNBDT-NWの有機分子膜83をラミネートした積層構造を作製した。導電性ポリマー膜82の厚みは20nm、有機分子膜83の厚みは10nmであった。
【0136】
まず、導電性ポリマー膜82を、仕事関数を測定した場合と同様に、PBTTT-C14の高分子膜にイオン交換法によってドーピングした導電性高分子膜とした場合について、有機分子膜83に対して電子スピン共鳴(ESR)法により測定を行った。この測定の結果(図43参照)より、有機分子膜83上にスピンを有する電荷が蓄積されることが確認された。また、有機分子膜83に注入された電荷密度は2.5×1012cm-2程度と見積もられた。なお、図43のグラフは、200Kにおける測定データである。
【0137】
次に、導電性ポリマー膜82をポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン](PTAA)の高分子膜にイオン交換法によってドーピングした導電性高分子膜とした場合について、有機分子膜83に対して電子スピン共鳴(ESR)法により測定を行った。この場合においても、測定の結果(図43参照)より、有機分子膜83上にスピンを有する電荷が蓄積されることが確認された。また、有機分子膜83に注入された電荷密度は、40Kにおいて3×1012cm-2程度と見積もられた。
【0138】
上記の結果より、イオン交換法によるドーピングによって導電性高分子膜(導電性ポリマー材料)が高仕事関数化されることがわかるとともに、高仕事関数化された導電性高分子膜から他の胴体や半導体材料にキャリアが効率的に注入され、蓄積されることがわかる。
【0139】
[実施例7]
図14に示される構造の電界効果トランジスタ51Dを作製し、この電界効果トランジスタ51Dの特性を調べた。なお、実際に作製した電界効果トランジスタ51Dは、nドープしたシリコン基板をゲート電極53として、基板52を省略した構造とした。
【0140】
絶縁層54としては、SiO上にパリレンを積層した構造とした。SiOの厚みは100nm、パリレンの厚みは50nmとした。半導体層55は、DNBDT-NWの有機分子膜とし、厚みは10nmとした。ドレイン電極57及びソース電極58は、導電性ポリマー層57a、58aと金属層57b、58bの2層構造である。導電性ポリマー層57a、58aは、PBTTT-C14の高分子膜をイオン交換法によりドーピングした導電性高分子膜とした。金属層57b、58bは、金(Au)とした。導電性ポリマー層57a、58aの厚みは20nm、金属層57b、58bの厚みは30nmとした。電界効果トランジスタ51Dのチャネル長は、170μm、チャネル幅は、1mmとした。
【0141】
上記のように構成される電界効果トランジスタ51Dについて、ドレイン電圧を-20Vとして飽和領域における特性(ゲート電圧Vに対するドレイン電流Iの変化)を測定した。この測定結果(図45参照)から、電界効果トランジスタ51Dの移動度は5cm/Vsであることがわかり、仕事関数の高い導電性ポリマー層57a、58aと半導体層55の界面において効率的なキャリア注入が生じることによって高い移動度が実現していることがわかった。
【0142】
次に、図9に示される構造の電界効果トランジスタ51を作製し、この電界効果トランジスタ51の特性を上記と同様に調べた。なお、この電界効果トランジスタ51についても、nドープしたシリコン基板をゲート電極53として、基板52を省略した構造とした。
【0143】
絶縁層54としては、SiO上にパリレンを積層した構造とし、SiOの厚みは100nm、パリレンの厚みは25nmとした。半導体層55は、厚みは10nmのDNBDT-NWの有機分子膜とした。ドレイン電極57及びソース電極58は、導電性ポリマー層57a、58aの一層のみで構成し、PBTTT-C14の高分子膜をイオン交換法によりドーピングした導電性高分子膜を導電性ポリマー層57a、58aとした。導電性ポリマー層57a、58aの厚みは150nmとした。電界効果トランジスタ51のチャネル長は、60μm、チャネル幅は、1mmとした。
【0144】
上記のように構成される電界効果トランジスタ51について、ドレイン電圧を-3Vとして飽和領域における特性を測定した。この測定結果(図46参照)から、電界効果トランジスタ51の移動度は6.3cm/Vsであることがわかり、仕事関数の高い導電性ポリマー層57a、58aと半導体層55の界面において効率的なキャリア注入が生じることによって高い移動度が実現していることがわかった。また、導電性ポリマー層57a、58aの伝導度が高いために、導電性ポリマー層57a、58aのみによってソース・ドレイン電極を作成した場合でも電界効果トランジスタ51が適切に動作することがわかった。
【0145】
[実施例8]
図15に示される構造の有機EL素子61を作製した。透明基板62としては、ガラス板を用いた。陽極63は、ITO薄膜とした。導電性ポリマー層64は、PBTTT-C14の高分子膜にイオン交換法によってドーピングした導電性高分子膜とし、厚みを30nmとした。ホール輸送層65は、厚みが40nmのα-NPDの薄膜とし、発光層66は、厚みが70nmのAlq3の薄膜とした。電子輸送層67は、厚みが2nmのLiFの薄膜とし、陰極68は、厚みが30nmのアルミニウムの薄膜とした。このような積層構造を有する有機EL素子61のエネルギー準位を図47に示す。なお、LiFは、有機EL素子に一般的に利用されているが、そのLiFにおける電子注入機構の詳細が不明である。このため、図47では、LiFのエネルギー準位を二点鎖線で便宜的に描いてある。
【0146】
有機EL素子61の作製の際には、導電性ポリマー層64の一方の面にα-NPDを全面蒸着してから、さらにAlq3を全面蒸着して、ホール輸送層65及び発光層66を順次に形成した。この後に、マスクを用いて発光層66の一方の面にLiFとアルミニウムとを順番に蒸着した。これにより、図48に示すように、有機EL素子61の上面(透明基板62と反対側の面)に直線状の2本の陰極68を形成した。
【0147】
作製した有機EL素子61の陽極63、各陰極68間に所定の順方向電圧を印加したところ、透明基板62側より、2本の陰極68に対応した形状での発光を確認した。印加した順方向電圧に対する有機EL素子61に流れる電流を測定した結果を図49に示す。図49のグラフの横軸は順方向に印加した電圧、縦軸は有機EL素子61に流れる電流値を示している。電流値は、線形表示(実線のグラフ)と、対数表示(点線のグラフ)とをそれぞれ描いてあり、右側の縦軸が線形表示、左側の縦軸が対数表示にそれぞれ対応している。
【0148】
また、図18に示される構造の有機EL素子61Bを作製した。この有機EL素子61Bを構成する透明基板62、導電性ポリマー層64、発光層66、電子輸送層67、陰極68は、上記有機EL素子61と同じ材料で作製した。また、電子輸送層67、陰極68についても、マスクを用いて発光層66の一方の面にLiFとアルミニウムとを順番に蒸着し、有機EL素子61と同様に直線状の2本の陰極68を形成した。
【0149】
作製した有機EL素子61Bの陽極63、陰極68間に所定の順方向電圧を印加したところ、透明基板62側より、2本の陰極68に対応した形状での発光を確認した。印加した順方向電圧に対する有機EL素子61に流れる電流を測定した結果を図50に示す。図50では、順方向に印加した電圧と有機EL素子61Bに流れる電流値とを、上述の図49と同様に示してある。
【符号の説明】
【0150】
10 熱電変換素子
12、13 導電性高分子膜
23 溶液
23A 溶液膜
27 高分子膜
28 高分子半導体
35 ドーパント
40 処理液
51、51~51D 電界効果トランジスタ
57a、58a、64、74 導電性ポリマー層
57b、58b 金属層
61、61A~&1D 有機EL素子
71、71A~71D 光発電素子

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
図47
図48
図49
図50