(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】改質木質バイオマス灰の製造方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/70 20220101AFI20240403BHJP
C04B 7/38 20060101ALI20240403BHJP
B09B 101/30 20220101ALN20240403BHJP
【FI】
B09B3/70
C04B7/38
B09B101:30
(21)【出願番号】P 2023175998
(22)【出願日】2023-10-11
【審査請求日】2023-10-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100191204
【氏名又は名称】大塚 春彦
(72)【発明者】
【氏名】森本 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】大村 昂平
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-208276(JP,A)
【文献】特開2008-247642(JP,A)
【文献】特開2020-158321(JP,A)
【文献】特開2006-181535(JP,A)
【文献】特開2019-089040(JP,A)
【文献】特開2018-069108(JP,A)
【文献】特開平10-128272(JP,A)
【文献】特開2023-95082(JP,A)
【文献】特開2022-135387(JP,A)
【文献】小泉裕靖 他,都市ごみのセメント資源化に向けた灰水洗に関する技術情報調査,東京都環境科学研究所年報2017,日本,2017年,p12-13,https://www.tokyokankyo.jp/kankyoken/wp-content/uploads/sites/3/2012/03/1-5.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00-5/00
C04B 7/00-7/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが12.5以上の木質バイオマス灰を水中で、常圧、60~100℃で加熱処理することを特徴とするアルカリ金属が低減された改質木質バイオマス灰の製造方法。
【請求項2】
前記木質バイオマス灰の下記式で算出される全アルカリ量(R
2O)が、4.0質量%以上であることを特徴とする請求項1記載のアルカリ金属が低減された改質木質バイオマス灰の製造方法。
全アルカリ量(R
2O)=Na
2O量+0.658×K
2O量
【請求項3】
前記木質バイオマス灰は、カルシウム量に対するアルカリ金属量の質量比((Na
2O+K
2O)/CaO)が0.3以上であることを特徴とする請求項1記載のアルカリ金属が低減された改質木質バイオマス灰の製造方法。
【請求項4】
前記木質バイオマス灰は、カルシウム量に対するアルカリ金属量の質量比((Na
2O+K
2O)/CaO)が0.3以上であることを特徴とする請求項2記載のアルカリ金属が低減された改質木質バイオマス灰の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか記載の製造方法により製造された改質木質バイオマス灰を、原料の一部として用いてセメントを製造することを特徴とするセメントの製造方法。
【請求項6】
pHが12.5以上の木質バイオマス灰を水中で、常圧、60~100℃で加熱処理して、前記
木質バイオマス灰のアルカリ金属を低減することを特徴とするバイオマス灰の改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属が低減された改質木質バイオマス灰の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、石炭火力発電で発生する石炭灰は、セメント原料として用いられている。
【0003】
一方、近年、カーボンニュートラルに向けた流れとして、木質チップ、パームヤシ殻(PKS;palm kernel shell)をはじめとするバイオマス燃料を燃焼させるバイオマス発電が積極的に行われるようになってきており、このバイオマスの燃焼で発生する焼却灰をセメント原料へ利用することも検討されている。
【0004】
しかしながら、このバイオマス燃料は、その種類、産地により含有量に違いはあるものの、一般的に石炭と比較してアルカリ金属、特にカリウムの含有量が多く、このカリウム等のアルカリ金属はアルカリ骨材反応の要因となるため、セメント製造においては、製品規格によってその含有量が厳しく規定されるなど、バイオマス焼却灰(バイオマス灰)のそのままの利用は難しいのが現状である。
【0005】
このような状況下、バイオマス灰からアルカリ金属を低減する方法が提案されている。
例えば、木質バイオマスの灰の飛灰からアルカリ金属を除去する方法であって、飛灰を微粉と粗粉に分級する工程(a)と、工程(a)で得られた粗粉の表面部を粉砕して粉砕物を得る工程(b)と、工程(b)で得られた粉砕物を粉砕微粉と粉砕粗粉に分級する工程(c)と、工程(c)で得られた粉砕微粉を塩素源と共に加熱して加熱処理物を得る工程(d)と、工程(a)で得られた微粉と、工程(d)で得られた加熱処理物とを水洗する工程(e)とを含むアルカリ金属除去方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、木質バイオマス灰を500~850℃に加熱し、木質バイオマス灰と塩化水素を含むガスとを接触させる第1の工程と、接触後の木質バイオマス灰を水によって洗浄し、可溶分を除去する第2の工程とを備える低カリウム木質バイオマス灰の製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
さらに、アルカリ含有鉱物を含むバイオマス燃焼灰を、二酸化炭素を含む水で水洗処理する水洗工程を有するバイオマス燃焼灰の洗浄方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0008】
しかしながら、これらの方法は、操作が煩雑であり、より簡便かつ効率的にアルカリ金属を低減できる方法が望まれている。バイオマス灰からアルカリ金属をより簡便かつ効率的に低減できるようになれば、石炭灰と同様に、セメント原料などへの用途展開を容易に行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2021-146236号公報
【文献】特開2021-104482号公報
【文献】特開2020-158321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、所定の木質バイオマス灰からアルカリ金属を簡便かつ効率的に低減する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定のpH以上を示すバイオマス灰は、単に水中で加熱処理するだけで、アルカリ金属を効果的に低減できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
[1] pHが12.5以上の木質バイオマス灰を水中で60~100℃で加熱処理することを特徴とする改質木質バイオマス灰の製造方法。
[2] 前記木質バイオマス灰の下記式で算出される全アルカリ量(R2O)が、4.0質量%以上であることを特徴とする上記[1]記載の改質木質バイオマス灰の製造方法。
全アルカリ量(R2O)=Na2O量+0.658×K2O量
[3] 前記木質バイオマス灰は、カルシウム量に対するアルカリ金属量の質量比((Na2O+K2O)/CaO)が0.3以上である上記[1]記載の改質木質バイオマス灰の製造方法。
[4] 前記木質バイオマス灰は、カルシウム量に対するアルカリ金属量の質量比((Na2O+K2O)/CaO)が0.3以上である上記[2]記載の改質木質バイオマス灰の製造方法。
【0013】
[5] 上記[1]~[4]のいずれか記載の製造方法により製造された改質木質バイオマス灰を、原料の一部として用いてセメントを製造することを特徴とするセメントの製造方法。
[6] pHが12.5以上の木質バイオマス灰を水中で60~100℃で加熱処理することを特徴とするバイオマス灰の改質方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、所定の木質バイオマス灰からアルカリ金属を簡便かつ効率的に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[改質木質バイオマス灰の製造方法及び木質バイオマス灰の改質方法]
本発明の改質木質バイオマス灰の製造方法及び木質バイオマス灰の改質方法は、pHが12.5以上の木質バイオマス灰を水中で60~100℃で加熱処理することを特徴とする。
【0016】
木質バイオマス灰中のナトリウム、カリウム等のアルカリ金属は、主に非晶質のガラス質(アルミノシリケート構造)中に存在していると考えられ、通常、水や熱水で洗浄処理しても低減できない。しかしながら、pHが12.5以上の木質バイオマス灰は、上記のように、単に水中で60~100℃で加熱処理するだけで、アルカリ金属の低減が図られる。その低減率としては、例えば、40%以上であり、50%以上であることが好ましい。
【0017】
このような本発明の作用効果が生じる機序は、以下のように考えられる。
木質バイオマス灰中には、フリーライム(CaO)が存在し、このフリーライムは木質バイオマス灰スラリー中では水酸化カルシウムとして存在すると想定される。この飽和水酸化カルシウム水溶液のpHは一般的に12.4程度である。したがって、本発明のpHが12.5以上の木質バイオマス灰スラリーには、フリーライムから生成する水酸化カルシウム以外に、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどが存在していると考えられる。そのため、これらの水酸化カルシウム、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの存在下で加熱処理することによって、木質バイオマス灰の主成分であるアルミノシリケート構造が破壊され、アルカリ金属が水中に溶出し、木質バイオマス灰からアルカリ金属が除去されると考えられる。
【0018】
また、本発明の方法は、60~100℃程度の通常の加熱処理でも十分な効果を得ることができるため、消費エネルギーが少なく、低コストであると共にCO2の排出削減にもつながる。
【0019】
本発明の方法における処理対象の木質バイオマス灰(以下、本発明の木質バイオマス灰という)としては、具体的に、廃木材、パームヤシ殻(PKS)、ホワイトペレット、ブラックペレット、パーム椰子房繊維ペレット(EFB)等の木質資源を燃焼させたものを例示することができる。木質バイオマス灰には、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の焼却灰等が含有されていてもよい。
【0020】
本発明の木質バイオマス灰は、上記のように、pHが12.5以上のものであるが、13.0以上のものが好ましい。このpHは、本発明の木質バイオマス灰に水を加えてスラリーにしたときのpHをいい、より具体的には、例えば、木質バイオマス灰に対して、質量割合で、水を3倍量加えて調製したスラリーのpHをいう。
【0021】
また、本発明の木質バイオマス灰は、全アルカリ量(R2O)が、4.0質量%以上であることが好ましく、4.5質量%以上であることがより好ましく、5.0質量%以上であることがさらに好ましい。全アルカリ量が高い値を示す木質バイオマス灰は、水中で加熱することにより、より多くのアルカリ金属を除去することができる。
【0022】
全アルカリ量(R2O)は、セメントのJIS規格に規定された全アルカリ量を示す換算値であり、下記の式で算出される。
全アルカリ量(R2O)=Na2O量+0.658×K2O量
【0023】
本発明の木質バイオマス灰は、カルシウム量に対するアルカリ金属量の質量比((Na2O+K2O)/CaO)が0.3以上であることが好ましく、0.35以上であることがより好ましく、0.38以上であることがさらに好ましい。
【0024】
木質バイオマス灰において、カルシウム量に対してアルカリ金属量が多いほど、アルカリ金属をより低減することができる。これは、木質バイオマス灰中の非晶質中には様々なカルシウム及びアルカリ量の異なるアルミノシリケート化合物が存在するが、特にカルシウムに対してアルカリ金属を多く含むアルミノシリケートが水に溶出しやすいためであると考えられる。
【0025】
木質バイオマス灰中の全アルカリ量(R2O)、及び木質バイオマス灰のカルシウム量に対するアルカリ金属量の質量比((Na2O+K2O)/CaO)は、JISR5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準じた方法により求めることができる。
【0026】
本発明の方法の水中加熱処理における加熱温度は、60~100℃であり、70~100℃であることがより好ましく、80~100℃であることがさらに好ましく、100℃であることが特に好ましい。100℃で処理を行う場合、蒸発分の水を補給しながら加熱してもよいが、効率的なエネルギー利用の観点から、反応槽に熱交換器を接続して蒸発水を反応槽へ戻す還流方式を採用することが好ましい。なお、加圧状態として、100℃超~200℃程度に加熱してもよい。
【0027】
また、加熱時間としては、1~24時間であることが好ましく、2~12時間であることがより好ましく、3~8時間であることがさらに好ましい。
【0028】
加熱方式としては、所望の温度に加熱できる方式であれば特に制限されるものではなく、例えば、電気、加熱油、蒸気等による加熱方式が挙げられ、蒸気の直接加熱方式が好ましい。
【0029】
また、加熱処理は、撹拌しながら行うことが好ましく、撹拌方式としては、処理スラリーを均一に混合できる方式であればよく、一般的な撹拌機を用いることができる。
【0030】
本発明の改質木質バイオマス灰の製造方法及び木質バイオマス灰の改質方法は、具体的に、例えば、木質バイオマス灰及び水を混合する混合工程と、混合物の加熱処理を行う加熱工程と、処理灰を濾過し洗浄する濾過・洗浄工程を有する。本発明の重要な加熱工程の処理については上述したことから、以下、混合工程及び濾過・水洗工程の処理について説明する。
【0031】
(混合工程)
木質バイオマス灰と水の混合質量割合(木質バイオマス灰:水)としては、1:1.0~10.0の範囲であることが好ましく、1:1.0~5.0の範囲であることがより好ましく、1:2.0~5.0の範囲であることがさらに好ましい。この範囲であることにより、木質バイオマス灰が十分に水と混合されると共に、水が多すぎず無駄な熱エネルギーの使用を抑制することができる。なお、この際、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等のアルカリ土類成分を添加してもよい。
【0032】
(濾過・洗浄工程)
濾過・洗浄工程は、加熱工程において、水中加熱処理された木質バイオマス灰を濾過し、洗浄する工程である。濾過する方式は、任意の方式を採用することができ、例えば、フィルタープレス、ベルトフィルター、ドラムフィルターなどを用いる方式を挙げることができる。また、濾過温度は、溶解しているナトリウム、カリウム化合物(NaCl、KCl、NaOH、KOH)は溶解度が高く、水温を変えても溶解度が大きく変わらないため、任意の温度とすることができる。洗浄に用いる液体としては、工業用水、水道水、蒸留水、イオン交換水等を用いることができ、木質バイオマス灰に対して、質量割合で、3倍量以上用いることが好ましく、5倍量以上用いることがより好ましい。洗浄水の温度も、上記の理由から任意の温度でよい。
【0033】
[セメントの製造方法]
本発明の方法により製造された改質木質バイオマス灰は、セメント材料の一部として使用することができる。すなわち、本発明のセメントの製造方法は、上記本発明の製造方法により製造された改質木質バイオマス灰を、原料の一部として用いてセメントを製造する方法である。具体的に、例えば、改質木質バイオマス灰を用いて製造されたセメントクリンカを使用してセメントを製造する方法や、セメントクリンカ等と共に混合材として改質木質バイオマス灰を用いてセメントを製造する方法を挙げることができる。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
500mL三ツ口フラスコに、木質バイオマス灰(焼却灰1~3)100gとイオン交換水300gを計量した。用いた原料木質バイオマス灰の組成等は、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠した方法にて分析した。その分析結果を表1に示す。
【0035】
【0036】
循環冷却水装置で25℃に調整した冷却水を通水したアーリン型冷却管、温度計(0~100℃水銀温度計)と、撹拌機(スリーワンモーター)に接続されたPTFE製撹拌羽根を三ツ口フラスコに接続した後、200rpmで撹拌した。マントルヒーターにて三ツ口フラスコを加熱し、所定温度(反応温度)に到達後、所定時間(反応時間)保持した。その後、マントルヒーターをフラスコから取り外し加熱を終了し、40℃以下となったことを確認した後、撹拌機による撹拌を停止、フラスコ内のスラリーを吸引濾過(濾紙 アドバンテック製 5B)にて、固形分を濾別した。濾別した固形分はイオン交換水500mLを用いて水洗し、改質木質バイオマス灰を得た。
【0037】
反応条件(反応温度、反応時間)、及び改質木質バイオマス灰の分析結果(JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠した方法にて実施)を表2に示す。
【0038】
【0039】
表2に示すように、本発明の実施例1~5の方法では、カリウムの含有量(K2O)、ナトリウムの含有量(Na2O)、及び全アルカリ量(R2O)を効果的に低減することができた。特に、実施例2のカルシウムに対してアルカリ(ナトリウム+カリウムの総量)が多い灰(アルカリ/Ca比の高い灰)では、アルカリの低減量が多かった。本発明の方法により、アルカリ/Ca比は0.2程度まで低減することができるため、アルカリ/Ca比が0.3以上の木質バイオマス灰に対して特に有効である。また、物質量換算にて、塩素量及び硫黄量以上にアルカリ量は低減した。
【0040】
これに対して、加熱処理を行わなかった比較例1では、アルカリの低減があまりみられず、R2Oの低減率も27.2%と低かった。また、もともとpHの低い木質バイオマス灰を用いた比較例2では、本発明の方法を適用してもその効果は限定的であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の方法により製造された改質木質バイオマス灰は、セメント材料等として用いることができることから、本発明は産業上有用である。
【要約】
【課題】所定の木質バイオマス灰からアルカリ金属を簡便かつ効率的に低減する方法を提供する。
【解決手段】
スラリーとしたときのpHが12.5以上である木質バイオマス灰を水中で60~100℃で加熱処理する改質木質バイオマス灰の製造方法であり、木質バイオマス灰の全アルカリ量(R2O)が、好ましくは4.0質量%以上である。
【選択図】なし