(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】調節型眼内レンズ装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/16 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
A61F2/16
(21)【出願番号】P 2021503955
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2020006785
(87)【国際公開番号】W WO2020179469
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2019037237
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】堀内 哲也
(72)【発明者】
【氏名】安積 欣志
(72)【発明者】
【氏名】三橋 俊文
(72)【発明者】
【氏名】岡本 史樹
(72)【発明者】
【氏名】星 崇仁
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0081793(US,A1)
【文献】特表2008-543350(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0023801(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼球の強膜に固定されるための第1電子部品、
水晶体を置換するための可変焦点眼内レンズと、前記第1電子部品に電気的に配線され且つ前記可変焦点眼内レンズの焦点距離を変化させるよう電気駆動するアクチュエータとを含むレンズアセンブリ、
前記眼球の強膜と対向する眼窩組織に固定されるための第2電子部品、及び
前記第2電子部品に電気的に配線された外部電源を含み、
前記第1電子部品及び前記第2電子部品相互の相対位置変化に基づく電気的条件の変化によって、前記アクチュエータの電気駆動が制御される、調節型眼内レンズ装置。
【請求項2】
前記アクチュエータが高分子アクチュエータである、請求項1に記載の調節型眼内レンズ装置。
【請求項3】
前記眼内レンズのレンズ面が曲率可変面を有し、
前記高分子アクチュエータが、電気駆動により前記レンズ面を押圧する押圧部を構成し、前記押圧部における押圧力に基づいて前記レンズ面の焦点距離を変化させる、請求項2に記載の調節型眼内レンズ装置。
【請求項4】
前記第1電子部品及び前記第2電子部品が電極であり、前記第1電子部品及び前記第2電子部品相互の接触/非接触に基づく通電の有無によって、前記アクチュエータの電気駆動が制御される、請求項1~3のいずれかに記載の調節型眼内レンズ装置。
【請求項5】
前記第1電子部品及び前記第2電子部品が、コンデンサ、コイル、又は抵抗体であり、前記第1電子部品及び前記第2電子部品相互の非接触での相対位置変化に基づく電流の大きさ変化によって、前記アクチュエータの電気駆動が制御される、請求項1~3のいずれかに記載の調節型眼内レンズ装置。
【請求項6】
左眼及び右眼それぞれにおける前記電気的条件が入力される論理回路を備える制御部を含み、論理回路が、前記アクチュエータに対する電気駆動条件を出力する、請求項1~5のいずれかに記載の調節型眼内レンズ装置。
【請求項7】
前記論理回路において時間閾値が設定され、前記第1電子部品及び前記第2電子部品相互の相対位置変化後の電気的条件が前記時間閾値を超えて持続する場合に、前記アクチュエータに対する電気駆動条件を出力する、請求項6に記載の調節型眼内レンズ装置。
【請求項8】
前記第1電子部品及び前記第2電子部品が、眼球の、外眼角側に配される、請求項1~7のいずれかに記載の調節型眼内レンズ装置。
【請求項9】
前記外部電源が蓄電池である、請求項1~8のいずれかに記載の調節型眼内レンズ装置。
【請求項10】
眼球の強膜に固定されるための第1電子部品、及び
前記眼球の強膜と対向する眼窩組織に固定されるための第2電子部品を含み、
前記第1
電子部品が、水晶体を置換するための可変焦点眼内レンズと、前記可変焦点眼内レンズの焦点距離を変化させるよう電気駆動するアクチュエータとを含むレンズアセンブリの、前記アクチュエータへ電気的に接続されるための配線を含み、
前記第2
電子部品が、外部電源に電気的に接続されるための配線を含み、且つ、
前記第1電子部品及び前記第2電子部品相互の相対位置変化に基づく電気的条件の変化によって、前記アクチュエータの電気駆動が制御される、調節型眼内レンズ装置用電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調節型眼内レンズ装置に関する。より具体的には、本発明は、眼内レンズの焦点距離の調節を眼球の輻輳開散運動に基づいて行う眼内レンズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼内レンズ挿入術は、白内障治療における第一選択肢となっている。白内障は、主に60歳以上から発症傾向にあり、80歳以上では90%程度が発症している、普遍的な眼科系疾患である。白内障は、眼内の水晶体の白濁化ないし不透明化を呈し、最終的に失明に至る。眼内レンズ挿入術では、水晶体後嚢と毛様小帯とを残して白濁した水晶体を摘出し、水晶体後嚢の中に人工のレンズ(眼内レンズ)を挿入する。
【0003】
2018年現在で市販されている眼内レンズは大きく3種類に分類され、具体的には、単焦点レンズ、多焦点レンズ、調節可能眼内レンズが挙げられる。
【0004】
単焦点レンズは最も安価且つ広く普及している眼内レンズである。単焦点レンズの欠点としては、焦点が1個であるため焦点距離調節機能がなく、日常生活を送るには老眼鏡の着用が不可欠となることが挙げられる。
【0005】
多焦点レンズは、異なる焦点距離を有するレンズが複合された眼内レンズである。一般的に多焦点レンズの焦点は2個又は3個有り、老眼鏡に頼らずとも遠近両方を観察できることにある。多焦点レンズの欠点としては、常に遠近両方に対して焦点が合った画像を視認する状態に対する精神的負担、中間距離で焦点を合わせることの困難性、ハロー・グレア現象を起こしやすくなること等が挙げられる。
【0006】
これに対し、調節可能眼内レンズは、レンズの焦点距離を可変とすることで単焦点レンズ及び多焦点レンズの欠点を解決しようとする眼内レンズである。
【0007】
調節可能眼内レンズの例として、例えば硝子体の圧力変化や毛様体筋の伸縮機能といった生体機能を受動的に駆動源として利用することで焦点距離の調節を行う眼内レンズが提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、光学レンズの支持部材に可撓性のヒンジ部を設け、焦点を合わせるときの硝子体の圧力変化を用いて光学レンズを光軸に対して前後移動せしめることによって調節力を得る眼内レンズが提案されている。また、特許文献2には、伸縮性のあるシリコーンポリマ・エラストマで構成されたレンズを水晶体嚢内に挿入し、嚢の動きに追従してレンズを変形させることによって焦点を調節する眼内レンズが提案されている。この眼内レンズは、遠近調節のために毛様筋が収縮するとレンズが圧縮され、この時にレンズの軟弱化された区域が変形して多焦点の前方表面を形成することで焦点調節機能を発現させる構成を有している。
【0009】
一方で、調節可能眼内レンズの他の例として、電気信号を積極的に駆動源として利用することで焦点距離の調節を行う眼内レンズも提案されている。
【0010】
例えば、特許文献3には、眼内レンズ素子と結合する電気駆動レンズ素子と、前記電気駆動レンズ素子の近くに電荷蓄積素子と、前記電荷蓄電素子を充電する圧電素子とを有する眼内レンズシステムが提案されている。この眼内レンズシステムにおける電源としては、太陽電池、誘導充電等が利用されることが提案されている。また、特許文献4には、眼内レンズ調節のための電源に関して記載されており、眼内に太陽電池を配することが提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】K. Oguro, N. Fujiwara, K. Asaka, K. Onishi, S. Sewa, "Polymer Electrolyte Actuator with Gold Electrodes", Proc. SPIE 3669, Smart Structures and Materials (1999)
【特許文献】
【0012】
【文献】特表2004-528135号公報
【文献】特表2001-525220号公報
【文献】特表2008-543350号公報
【文献】特表2017-500920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の調節可能眼内レンズのうち、硝子体の圧力変化や毛様体筋の伸縮機能といった生体機能を受動的に駆動源として利用することで焦点距離の調節を行うタイプのものは、それら生体機能が生理的に正常に機能する限りにおいては、眼内レンズの装着対象が直観的に焦点距離の調節を行うことができることに利点がある。しかしながら、白内障患者の大部分を占める高齢者においては上記の生体機能が弱まっているため、眼内レンズに対して所望の調節力を発揮することができなくなることが多いという問題がある。
【0014】
一方、従来の調節可能眼内レンズのうち、電気信号を積極的に駆動源として利用することで焦点距離の調節を行うタイプのものは、眼内レンズの装着対象が有する本来の生体機能に関わらず電力で焦点距離の調節を行うことができることに利点がある。しかしながら、電力で焦点距離の調節を行うタイプの眼内レンズにおいては、眼内に配されるアクチュエータを電気駆動させなければならないため、アクチュエータへの電力供給方法が問題となる。例えば、眼内のアクチュエータに対して眼外の電源を有線配線する場合は、配線に物理的な引張力が加わった場合に、眼内から眼外へ生体組織を破壊しながら配線が引き抜かれる恐れがある。また、眼内のアクチュエータに対して眼外から無線で電力供給する場合は、伝達効率の低さが問題となる。強力な電磁力を使用すれば伝達効率は理論的に上がかもしれないが、安全性に鑑みると現実的な手法とは言えない。さらに、眼内に太陽電池を内蔵する場合は、通常目に対して供給される光量では十分な充電ができないことが問題となる。目に対して多量の光を照射すれば理論的に所望の発電量を得ることができるかもしれないが、やはり目への安全性に鑑みると現実的な手法とは言えない。
【0015】
このように、従来の調節可能眼内レンズにおいては、生体機能を受動的に駆動源として利用するタイプ及び電気信号を積極的に駆動源として利用するタイプのいずれにおいても、理論上は利点を有しつつも実用上で大きな問題を有している。そのため、これら両タイプの調節可能眼内レンズの利点を利用しつつ、それらが有する問題を解消する眼内レンズの制御技術が望まれる。
【0016】
そこで、本発明は、新規の機構により直観的に眼内レンズの焦点距離の調節を行い、且つ、新規の電力供給方法によって焦点距離の調節を行うことを可能とする眼内レンズ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、高齢者であっても眼球運動能が保存されやすいことに着眼し、眼球の輻輳開散運動を電力に変換する機構を着想した。鋭意検討の結果、本発明者は、可動器官である眼球と、可動しない眼窩組織との両方にそれぞれ電子部品を固定し、眼球側の電子部品に眼内レンズの焦点距離を変化させるアクチュエータを接続し、眼窩組織側の電子部品に外部電源を接続するという斬新な構成に想到した。そして、この構成によって、眼球が輻輳開散運動すると、双方の電子部品の相互位置関係が変化して電気的条件が変化し、その電気的条件の変化を利用してアクチュエータの電気駆動を制御し、その結果眼内レンズの焦点距離を変化させることができることを見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0018】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 眼球の強膜に固定されるための第1電子部品、
水晶体を置換するための可変焦点眼内レンズと、前記第1電子部品に電気的に配線され且つ前記可変焦点眼内レンズの焦点距離を変化させるよう電気駆動するアクチュエータとを含むレンズアセンブリ、
前記眼球の強膜と対向する眼窩組織に固定されるための第2電子部品、及び
前記第2電子部品に電気的に配線された外部電源を含み、
前記第1電子部品及び前記第2電子部品相互の相対位置変化に基づく電気的条件の変化によって、前記アクチュエータの電気駆動が制御される、調節型眼内レンズ装置。
項2. 前記アクチュエータが高分子アクチュエータである、項1に記載の調節型眼内レンズ装置。
項3. 前記眼内レンズのレンズ面が曲率可変面を有し、
前記高分子アクチュエータが、電気駆動により前記レンズ面を押圧する押圧部を構成し、前記押圧部における押圧力に基づいて前記レンズ面の焦点距離を変化させる、項2に記載の調節型眼内レンズ装置。
項4. 前記第1電子部品及び前記第2電子部品が電極であり、前記第1電子部品及び前記第2電子部品相互の接触/非接触に基づく通電の有無によって、前記アクチュエータの電気駆動が制御される、項1~3のいずれかに記載の調節型眼内レンズ装置。
項5. 前記第1電子部品及び前記第2電子部品が、コンデンサ、コイル、又は抵抗体であり、前記第1電子部品及び前記第2電子部品相互の非接触での相対位置変化に基づく電流の大きさ変化によって、前記アクチュエータの電気駆動が制御される、項1~3のいずれかに記載の調節型眼内レンズ装置。
項6. 左眼及び右眼それぞれにおける前記電気的条件が入力される論理回路を備える制御部を含み、論理回路が、前記アクチュエータに対する電気駆動条件を出力する、項1~5のいずれかに記載の調節型眼内レンズ装置。
項7. 前記論理回路において時間閾値が設定され、前記第1電子部品及び前記第2電子部品相互の相対位置変化後の電気的条件が前記時間閾値を超えて持続する場合に、前記アクチュエータに対する電気駆動条件を出力する、項6に記載の調節型眼内レンズ装置。
項8. 前記第1電子部品及び前記第2電子部品が、眼球の、外眼角側に配される、項1~7のいずれかに記載の調節型眼内レンズ装置。
項9. 前記外部電源が蓄電池である、項1~8のいずれかに記載の調節型眼内レンズ装置。
項10. 眼球の強膜に固定されるための第1電子部品、及び
前記眼球の強膜と対向する眼窩組織に固定されるための第2電子部品を含み、
前記第1部品が、水晶体を置換するための可変焦点眼内レンズと、前記可変焦点眼内レンズの焦点距離を変化させるよう電気駆動するアクチュエータとを含むレンズアセンブリの、前記アクチュエータへ電気的に接続されるための配線を含み、
前記第2部品が、外部電源に電気的に接続されるための配線を含み、且つ、
前記第1電子部品及び前記第2電子部品相互の相対位置変化に基づく電気的条件の変化によって、前記アクチュエータの電気駆動が制御される、調節型眼内レンズ装置用電子部品。
項11. 第1電子部品を眼球の強膜に固定する工程と、
可変焦点眼内レンズと、前記第1電子部品と電気的配線された又は電気的配線されるべきアクチュエータであって、前記可変焦点眼内レンズの焦点距離を変化させるためのアクチュエータとを含むレンズアセンブリを、前記可変焦点眼内レンズが水晶体を置換するように眼球内に埋め込む工程と、
外部電源と電気的配線された又は電気的配線されるべき第2電子部品を、前記眼球の強膜と対向する眼窩組織に固定する工程と、を含む、眼内レンズ挿入方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の眼内レンズ装置によれば、直観的に眼内レンズの焦点距離の調節を行うとともに、電力を利用して焦点距離の調節を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態としての調節型眼内レンズ装置100を模式的に示す。
【
図2】
図1の調節型眼内レンズ装置100をより具体的に説明するための拡大図(a)及び模式回路図(b)を示す。
【
図3】
図1及び2におけるレンズアセンブリの一部切り欠き図を模式的に示す。
【
図4】
図1に対応する図であり、眼球軸がA1からA2に動く眼球運動に伴い調節型眼内レンズ装置100が眼内レンズを調節する動作について模式的に説明する。
【
図5】
図2に対応する図であり、眼球軸がA1からA2に動く眼球運動に伴い調節型眼内レンズ装置100が眼内レンズを調節する動作について模式的に説明する。
【
図6】
図1の調節型眼内レンズ装置100をさらに具体的に説明するための、調節型眼内レンズ装置100が装着された両眼を示す模式図である。
【
図7】
図6の調節型眼内レンズ装置100に適用される理論回路(加算回路の例1)を示す。
【
図8】
図7の加算回路の例1に適用される、第2電子部品400のA,B,C,D,E,F,G,H各々に対応する重み付けとの対応関係を示す。
【
図9】
図6の調節型眼内レンズ装置100に適用される理論回路(加算回路の例2)を示す。
【
図10】
図9の加算回路の例2に適用される、第2電子部品400のA,B,C,D,E,F,G,H各々に対応する重み付けとの対応関係を示す。
【
図11】
図6の調節型眼内レンズ装置100に適用される理論回路(加算回路の例3)を示す。
【
図12】
図11の加算回路の例3に適用される、第2電子部品400のA,B,C,D,E,F,G,H各々に対応する重み付けとの対応関係を示す。
【
図13】
図6の調節型眼内レンズ装置100に適用される理論回路(加算回路の例4)を示す。
【
図14】本発明の他の実施形態としての調節型眼内レンズ装置100aを
図2に対応する形式で模式的に示す。
【
図15】
図14の調節型眼内レンズ装置100aを
図5に対応する形式で模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
1.第1実施形態
1-1.調節型眼内レンズ装置100の構造
図1に、本発明の一実施形態としての調節型眼内レンズ装置100を模式的に示す。
図1では、目の水平断面において、調節型眼内レンズ装置100を患者に装着した態様を示している。Nで示される方向は鼻側(nasal)方向、Tで示される方向は耳側(temporal)方向を示し、図示される目は右目である。鼻側Nと耳側Tとを結ぶ方向を、水平方向とする。A1は、眼球軸(眼球の前極と後極とを結ぶ直線)である。
図2では、
図1の調節型眼内レンズ装置100をより具体的に説明するための拡大図(a)及び模式回路図(b)を示す。
図3は、
図1及び2におけるレンズアセンブリの一部切り欠き図を模式的に示す。
図4及び
図5は、それぞれ、
図1及び
図2に対応する図であり、眼球軸がA1からA2に動く眼球運動に伴い調節型眼内レンズ装置100が眼内レンズを調節する動作について模式的に説明する。
図6は、
図1の調節型眼内レンズ装置100をさらに具体的に説明するための、調節型眼内レンズ装置100が装着された両眼を示す模式図である。Lは左目を示し、Rは右目を示す。以下の説明において、調節型眼内レンズ装置100を装着した場合の患者の前方側(図の上側)を「物体側」、後側側(図の下側)を「像側」と記載する場合がある。
【0023】
図1に示すように、調節型眼内レンズ装置100は、第1電子部品200と、レンズアセンブリ300と、第2電子部品400と、外部電源500とを含む。
【0024】
第1電子部品200は、可動器官である眼球EBに固定される。具体的には、眼球EBにおいて、球結膜を介して強膜に固定される。好ましくは、図示されているように眼球EBの外眼角側に固定される。固定された第1電子部品200は、球結膜上に配設されており、眼球EB表面に露出している。本実施形態において、第1電子部品200は電極である。電極としては、導電性材料であれば特に限定されず、例えば、金、白金、チタン、医療用ステンレス等の金属材料;カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素材料;銀ナノワイヤー透明電極等の透明電極等が挙げられる。詳細は後述するが、具体的には、
図2(a)に示すように、第1電子部品200は片眼あたり2つ(第1電子部品200,200’)設けられている。
【0025】
レンズアセンブリ300は、可変焦点眼内レンズ310とアクチュエータ320とを含む。可変焦点眼内レンズ310は、調節型眼内レンズ装置100の装着後は、
図1中点線で示した患者の水晶体(L)と置換される部材であり、人工水晶体として機能する。可変焦点眼内レンズ310としては、焦点距離を制御可能な光学レンズが用いられる。焦点距離を制御可能な光学レンズは、レンズ位置、レンズ方向、及びレンズ形状の少なくともいずれかを変化させることで焦点距離を制御するレンズであり、公知である。本実施形態における可変焦点眼内レンズ310は、レンズ形状を変化させることで焦点距離を制御するタイプのレンズであり、物体側(患者の前方側)に形成された曲率可変面311(レンズ面)の曲率が変化することによってレンズ形状が変化する。より具体的には、可変焦点眼内レンズ310としてゲルレンズが用いられる。
【0026】
アクチュエータ320は、第1電子部品200に電気的に配線され且つ可変焦点眼内レンズの焦点距離を変化させるよう電気駆動する機械的可動部材である。本実施形態におけるアクチュエータ320は、電気駆動により可変焦点眼内レンズ310のレンズ面を押圧する押圧部321と、可変焦点眼内レンズ310を保持する保持部322と、第1電子部品200に電気的に配線される端子部323とを有する。
【0027】
保持部322は、可変焦点眼内レンズ310の物体側(患者の前方側)の面と像側の面とを挟持する一対の互いに結合された挟持片を含み、視軸方向に貫通する貫通孔を有し、且つ押圧部321と通電するように構成されていればよい。本実施形態では、
図3(端子部は図示省略)に示すように、保持部322は、可変焦点眼内レンズ310の物体側の面と像側の面とを挟持する一対の互いに結合された挟持片が可変焦点眼内レンズ310の周囲を包囲する囲繞部材として構成され、可変焦点眼内レンズ310の周囲で、当該一対の挟持片の端部が互いに結合している。また、保持部322の物体側に、貫通孔軸を取り囲むように、貫通孔軸側に自由端を有する片持ち板状の押圧部321が複数枚設けられている。押圧部321の固定端からの長さは、貫通孔が確保されるように設計される。これによって、保持部322は可変焦点眼内レンズ310を保持するとともに、物体側の貫通孔からは可変焦点眼内レンズ310の曲率可変面311を露出させる。
【0028】
押圧部321は、高分子アクチュエータで構成されている。高分子アクチュエータは、高分子化合物で構成される電解質膜と、その電解質膜の両面に積層された可撓性の電極を有し、電極間に電圧を印加することで電解質膜を屈曲変形させることが出来るように機能するアクチュエータであり、公知である。本実施形態における押圧部321では、高分子アクチュエータは、電気駆動時に電圧印加によって可変焦点眼内レンズ310の表面を押圧する(押し下げる)屈曲変形を生じるように構成されている。
【0029】
端子部323は保持部322から延設されており、第1電子部品200に電気的に配線される。詳細は後述するが、具体的には、
図2(a)に示すように、端子部323は2つ(端子部323,323’)設けられている。つまり、端子部323は第1電子部品200に電気的に配線され、端子部323’は第1電子部品200’に電気的に配線される。
【0030】
第2電子部品400は、眼球EBの動きに対して可動しない眼窩OBT組織に固定される。具体的には、眼窩OBTの、眼球EBの強膜と対向する領域において、眼窩結膜を介して眼窩OBT組織(顔の組織)に固定される。図示された形態では第1電子部品200が外眼角側に固定されているため、第2電子部品も外眼角側に固定される。固定された第2電子部品400は、眼窩結膜上に配設されており、眼窩OBT組織表面に露出している。本実施形態において、第2電子部品400は電極である。電極としては、第1電子部品200と接触により通電する導電性材料であれば特に限定されず、第1電子部品200に用いられる導電性材料として例示したものが同様に挙げられる。詳細は後述するが、具体的には、
図2(a)に示すように、第2電子部品400は片眼あたり2つ(第2電子部品400,400’)設けられている。
【0031】
外部電源500は、第2電子部品に電気的に配線されている。なお、外部電源の外部とは、電源が眼外にあるという意である。このため、第2電子部品と外部電源500とを電気的に接続している配線が眼窩と眼球との間に介在しない。この配線は、顔の組織内に埋め込むことができ、外眼角(目尻)から任意の場所まで皮下で配線を延長し、外部電源500に接続することができる。
【0032】
外部電源500としては蓄電池を用いることができる。蓄電池としては特に限定されないが、ボタン電池、乾電池、光電池等が挙げられる。
【0033】
外部電源は、例えば、外部から着脱可能となるように表面を露出可能な状態で埋め込まれた蓄電池として構成することができる。この場合、外部電源である蓄電池は、要充電時に取り外し、充電後に再装填することができる。また、外部電源は、充電ポートを有し且つ皮下に埋め込まれた蓄電池として構成することもできる。この場合、蓄電池の充電ポートのみを露出させて埋め込むことができ、外部電源500を装填したまま、コネクタを充電ポートに接続して充電することができる。また、光電池の場合は、光パネルのみを露出させて埋め込むことがで、外部電源500を装填したまま、光パネルに照光して充電することができる。
【0034】
外部電源500の配設位置としては、こめかみ、耳付近の頭皮等、埋め込み位置が目立たない位置、及び/又は充電が容易な位置を選択することができる。
【0035】
このように、本発明の調節型眼内レンズ装置100は、可動器官である眼球EBと、眼球EBの動きに対して可動しない眼窩OBT組織との両方にそれぞれ電子部品(第1電子部品200、第2電子部品400)を固定し、眼球EB側の電子部品(第1電子部品200)に眼内レンズ(可変焦点眼内レンズ310)の焦点距離を変化させるアクチュエータ320を接続し、眼窩OBT組織側の電子部品(第2電子部品400)に外部電源500を接続するという構成を有する。
【0036】
1-2.調節型眼内レンズ装置100の動作
調節型眼内レンズ装置100は、上記の構成をとることによって、患者の眼球が輻輳開散運動すると、眼内レンズ(可変焦点眼内レンズ310)の焦点距離を変化させることが可能になる。以下において、眼球が輻輳開散運動した時の調節型眼内レンズ装置100の動作について説明する。
【0037】
ヒトの両眼の視線は、通常は顔の前方(焦点方向)の一点で交叉している。このとき両眼の視線の成す角度を輻輳角と呼ぶ。この輻輳角に変化を生ずる眼球の動きが輻輳開散運動であり、そのうち、遠くのものから近くのものに視線を移す時に輻輳角が増加する眼球の動きを輻輳運動、近くのものから遠くのものに視線を移す時に輻輳角が減少する眼球の動きを開散運動と呼ぶ。
【0038】
眼球が輻輳開散運動すると、調節型眼内レンズ装置100では双方の電子部品(第1電子部品200、第2電子部品400)の相互位置関係(具体的には、接触/非接触)が変化して電気的条件が変化し(具体的には、通電の有/無が切り替わり)、その電気的条件の変化を利用してアクチュエータの電気駆動を制御し、その結果眼内レンズの焦点距離を変化させる。従って、調節型眼内レンズ装置100は、眼球の輻輳開散運動という生体機能を受動的に駆動源として利用して、直観的に眼内レンズの焦点距離の調節を行うことができる。また、調節型眼内レンズ装置100では、可動器官である眼球EBと可動しない眼窩OBT組織との間で物理的な配線が無いため、仮に外部電源500側の配線に物理的な引張力が加わったとしても、眼内から眼外へ生体組織を破壊しながら配線が引き抜かれるような事故を回避することができる。さらに、眼球の輻輳開散運動に伴って眼球EB側の第1電子部品200と眼窩OBT組織側の第2電子部品400との間で通電の有無を切り替えるという、電力を利用した焦点距離の調節を行うため、硝子体の圧力変化や毛様体筋の伸縮機能等の生体機能を直接利用する焦点距離の調節とは異なり、調節力を減衰させることなく維持することができる。
【0039】
以下、具体的に、上述の
図1及び
図2と共に
図4及び
図5を併せて参照することで、眼球の輻輳開散運動による焦点距離の調節について説明する。
図1から
図4への眼球の動きは輻輳運動、つまり遠方から近方に視線を移す時の眼球の動きを表しており、これによって、右眼の眼球は、内側直筋が収縮して眼球軸が鼻側Nに(つまり眼球軸がA1からA2に)移動するように動く。図示していないが、この時、左眼の眼球も、内側直筋が収縮して眼球軸が鼻側Nに移動するように動く。
【0040】
1-2-1.輻輳運動前
まず、前提として、
図2(a)に示すように、レンズアセンブリ300側のアクチュエータ320には端子部323及び端子部323’の2つの端子部が設けられており、端子部323は第1電子部品200に電気的に配線され、端子部323’は第1電子部品200’に電気的に配線されている。第1電子部品200は第2電子部品400に対応し、第1電子部品200’は第2電子部品400’に対応する。
図2(a)では説明のため、便宜的に、水平方向の断面図に第1電子部品200,200’の両方、及び第2電子部品400,400’の両方を示しているが、第1電子部品200及び第2電子部品400と、第1電子部品200’及び第2電子部品400’とは、互いに、垂直方向(鼻側N-耳側T方向に垂直な方向)で異なる位置に固定されている。これによって、眼球が動いても第1電子部品200と第2電子部品400’との間、及び第1電子部品200’と第2電子部品400との間では互いに電気的な干渉を生じない。なお、第1電子部品200と第2電子部品400との水平方向の相対位置関係は、第1電子部品200’と第2電子部品400’との水平方向の相対位置関係と同じとなるように配置する。
【0041】
図2に示す輻輳運動前においては、
図2(a)に示すとおり、第1電子部品200と第2電子部品400との間、及び第1電子部品200’と第2電子部品400’との間の相対的位置関係は非接触である。従って、この場合の電気回路的状況を模式的に示すと、
図2(b)に示す通り、回路が閉じてておらず通電していない。つまり、この輻輳運動の
図2の眼球位置においては、通電していないという電気的条件がもたらされる。通電していないという電気的条件の下では、レンズアセンブリ300側のアクチュエータ320は押圧部321を電気駆動させず可変焦点眼内レンズ310は変形しない。その結果、可変焦点眼内レンズ310の曲率可変面311は小さな曲率のままであり、当該曲率に応じて焦点距離が合わされている。
【0042】
1-2-2.輻輳運動時
眼球が輻輳運動をすると、
図4に示すように、眼球軸が鼻側NつまりA1からA2に移動するように動く。これによって、
図4(a)に示すとおり、第1電子部品200と第2電子部品400との間、及び第1電子部品200’と第2電子部品400’との間の相対的位置関係が接触に変化する。従って、この場合の電気回路的状況を模式的に示すと、
図4(b)に示す通り、回路が閉じ通電する。つまり、この輻輳運動の
図4の眼球位置においては、通電したという電気的条件がもたらされる。通電したという電気的条件の下では、レンズアセンブリ300側のアクチュエータ320が押圧部321を電気駆動させ、可変焦点眼内レンズ310を押圧することで変形させる。その結果、可変焦点眼内レンズ310の曲率可変面311の曲率が増大し、当該曲率に応じて焦点がより患者に近い位置に(焦点距離がより短くなるように)調整される。
【0043】
1-2-3.開散運動後
輻輳運動後、内側直筋の弛緩により眼球が輻輳運動とは反対の動きをする(つまり開散運動する)場合は、
図4から
図1への眼球の動きが起こるため、調節型眼内レンズ装置100は、上記の輻輳運動がおこる場合と反対に動作する。つまり、
図1(a)に示すとおり、第1電子部品200と第2電子部品400との間、及び第1電子部品200’と第2電子部品400’との間の相対的位置関係が非接触に変化し、通電していないというという電気的条件がもたらされるため、レンズアセンブリ300側のアクチュエータ320が押圧部321の電気駆動状態が解除され、可変焦点眼内レンズ310への押圧が解除される。その結果、可変焦点眼内レンズ310の曲率可変面311の曲率が減少し、当該曲率に応じて焦点がより患者から遠い位置に(焦点距離がより長くなるように)合わされる。
【0044】
1-2-4.焦点距離の大きさ程度の制御
上述のように、調節型眼内レンズ装置100は、押圧部321における可変焦点眼内レンズ310への押圧力に基づいて曲率可変面311の焦点距離を変化させる。以下においては、さらに具体的な焦点距離の調節について説明する。つまり、押圧部321における可変焦点眼内レンズ310への押圧力を段階的に調整することで曲率可変面311の曲率を段階的に制御し、それに基づいて曲率可変面311の焦点距離を段階的に変化させる実施形態について、
図6及び
図7を参照して説明する。なお
図6及び
図7においても、
図5で示したように第1電子部品が2個(第1電子部品200,200’)及び第2電子部品が2個(第2電子部品400,400’)設けられているが、説明のため、それぞれ一方(第1電子部品200及び第2電子部品400)を挙げて説明する。第1電子部品200’及び第2電子部品400’との関係は第1電子部品200及び第2電子部品400との関係と同様であるため説明を省略する。
【0045】
図6に示すように、右眼Rには、眼球EB側に第1電子部品200が1個固定される一方で、眼窩OBT組織側に固定された第2電子部品400は水平方向に複数個に分割されており(図示された態様では、鼻側Nから耳側Tに向かって順にA、B、C及びDの4個の電子部品に分割されている)、分割された個々の電子部品がそれぞれ外部電源500に配線されて独立した回路を生じさせることができるように構成されている。同様に、左眼Lには、眼球EB側に第1電子部品200が1個固定される一方で、眼窩OBT組織側には第2電子部品400が水平方向に複数個に分割されており(図示された態様では、鼻側Nから耳側Tに向かって順にE、F、G及びHの4個の電子部品に分割されている)、分割された個々の電子部品がそれぞれ外部電源500に接続されて独立した回路を成すように構成されている。
【0046】
なお、第2電子部品400の分割されたそれぞれの電子部品(図示された態様では、電子部品A,B,C,D及びE,F,G,H)は、それぞれ、水平方向の分割幅が等間隔であってもよいし、等間隔でなくてもよい。当該電子部品の水平方向のそれぞれの分割幅は、適当な焦点距離の変化が段階的に得られるように、焦点距離の格段階に対応する眼球の可動域を考慮して適宜設計される。この態様は、輻輳角の変化に応じて適した焦点距離をとる(つまり輻輳角の変化に応じて適した電圧をアクチュエータに印加する)ことができるように構成される。
【0047】
図示された態様では、眼球EB側の第1電子部品200が、右眼Rでは眼窩OBT組織側の第2電子部品400のCに接触しており、左眼Lでは眼窩OBT組織側の第2電子部品400のGに接触している。この状態から、眼球が輻輳運動を行うと、眼球EB側の第1電子部品200が接触する眼窩OBT組織側の第2電子部品400は、右眼Rでは第2電子部品400のBにシフトし、左眼Lでは第2電子部品400のFにシフトする。さらに眼球の輻輳運動の程度が大きくなると、眼球EB側の第1電子部品200が接触する眼窩OBT組織側の第2電子部品400は、右眼Rでは第2電子部品400のAにシフトし、左眼Lでは第2電子部品400のEにシフトする。
【0048】
反対に、図示された状態から眼球が開散運動を行うと、眼球EB側の第1電子部品200が接触する眼窩OBT組織側の第2電子部品400は、右眼Rでは第2電子部品400のDにシフトし、左眼Lでは第2電子部品400のHにシフトする。さらに眼球の開散運動の程度が大きくなると、眼球EB側の第1電子部品200は、両眼とも眼窩OBT組織側の第2電子部品400に接触しない位置にまでシフトする。あるいは、眼球の可動域の限界が、右目で電子部品400のDに接触する位置、左目で電子部品400のHに接触する位置となるように、電子部品400のHの配設位置を設定することもできる。
【0049】
このように、
図6の調節型眼内レンズ装置100では、眼球の輻輳開散運動の程度によって、第1電子部品200が接触する(又は接触しない)第2電子部品400の位置が変わる。調節型眼内レンズ装置100は、第1電子部品200が接触する(又は接触しない)第2電子部品400の位置に応じてレンズアセンブリ300(のアクチュエータ320)への電気駆動条件を変化させることで、可変焦点眼内レンズ310の焦点距離を段階的に調節することができる。具体的には、調節型眼内レンズ装置100に論理回路を実装し、論理回路が、左眼L及び右眼Rにおける電気的条件(第1電子部品200と第2電子部品400のA,B,C,D,E,F,G,Hそれぞれとの通電の有無)の入力を受けて、レンズアセンブリ300(のアクチュエータ320)への具体的な電気駆動条件を出力するよう論理演算させる。
【0050】
調節型眼内レンズ装置100において、論理回路は、右眼R及び左眼Lそれぞれのレンズアセンブリ300の駆動制御を統括する限り、どのような形態で備えられていてもよい。例えば、論理回路を搭載した電子モジュールを、右眼Rの外部電源500及び左眼Lの外部電源500間の電気的接続に介在させることができる。右眼Rの外部電源500及び左眼Lの外部電源500間の電気的接続としては有線及び無線を問わない。
【0051】
論理回路によってレンズアセンブリ300(のアクチュエータ320)へ出力すべき電気駆動条件が調整される。例えば、入力される第1電子部品200と第2電子部品400のA,B,C,D及びE,F,G,Hとの位置関係が、眼球の輻輳運動の程度が大きくなる位置関係となるほど、両眼のレンズアセンブリ300(のアクチュエータ320)へ出力される電気駆動条件のレベルが高く、可変焦点眼内レンズ310への押圧力が大きく、可変焦点眼内レンズ310の変形量が大きく、焦点距離が短くなり、反対に、入力される第1電子部品200と第2電子部品400のA,B,C,D及びE,F,G,Hとの位置関係が、眼球の開散運動の程度が大きくなる位置関係となるほど、出力される電気駆動条件のレベルが低く、可変焦点眼内レンズ310への押圧力が小さく、可変焦点眼内レンズ310の変形量が小さく、焦点距離が長くなる。
【0052】
このような調整を可能とする論理回路として、右眼R及び左眼Lそれぞれにおける電気的条件(第1電子部品200と第2電子部品400のA,B,C,D,E,F,G,Hそれぞれとの通電の有無)に対応して設定されたレベルを足し合わせ、左眼L及び右眼Rのレンズアセンブリ300(のアクチュエータ320)への電気駆動条件を出力する加算回路を用いることが好ましい。具体的な加算回路を以下に3例示す。なお、論理回路には時間閾値が設定されていてもよい。この場合、第1電子部品200及び第2電子部品400相互の相対位置変化後の電気的条件(通電の有無)が時間閾値を超えて持続する場合に、両眼のレンズアセンブリ300(のアクチュエータ320)に対して電気駆動条件を出力する。従って、閾値以下の短い時間で行われる輻輳運動変化に対しては動作せず、患者が意識的に近くを注視する場合のように同じ輻輳角をある程度の時間保とうとする場合に焦点距離の調節動作を行うことができる。
【0053】
(加算回路の例1)
図7に、加算回路の例1を示す。
図7は、
図6の調節型眼内レンズ装置100における第2電子部品400のA,B,C,D,E,F,G,Hの8入力系の加算回路であり、眼側の入力抵抗は全てR1である。この例では、第2電子部品400のA,B,C,D,E,F,G,H各々に対して各回路の電圧V
A~V
HにLevel-1~Level2の異なる重み付けを行っており、重み付けのLevelが高いほど印加電圧が高くなるように設定されている。第2電子部品400のA,B,C,D,E,F,G,H各々に対応するLevel重み付けとの対応関係を
図8に示す。
【0054】
例えば、
図6の状態の場合、右眼Rの第2電子部品400のCと左眼Lの第2電子部品400のGとが接触しているため、印加電圧は、右眼Rの第2電子部品400のCに対応するLevel0と左眼Lの第2電子部品400のGに対応するLevel0の和(Level0)に相当する大きさとなる。
【0055】
図6の状態から輻輳運動によって、右眼Rの第2電子部品400のAと左眼Lの第2電子部品400のFとが接触した場合、右眼Rの第2電子部品400のAに対応するLevel2と左眼Lの第2電子部品400のFに対応するLevel1の和(Level3)に相当する電圧が印加される。より具体的には、右眼Rの第2電子部品400のAと左眼Lの第2電子部品400のFとが接触した場合、オペアンプの回路動作により、それぞれを流れる電流V
A/R1,V
F/R1の合計は負帰還抵抗R2を経由して出力され、その時の出力電圧V
Resultは下記式の通りとなる。
【0056】
【0057】
なお、
図6の態様から、眼球が、輻輳角の変化を伴わず視線を左側に移動させる共動運動を行った場合は、眼球EB側の第1電子部品200が接触する眼窩OBT組織側の第2電子部品400は、右眼Rでは第2電子部品400のBにシフトし、左眼Lでは第2電子部品400のHにシフトする。この場合の印可電圧は、右眼Rの第2電子部品400のBに対応するLevel1と左眼Lの第2電子部品400のHに対応するLevel-1の和(Level0)に相当する電圧となり、
図6の場合と同じ出力電圧となる。つまり、
図6の場合から共動運動を行った場合は
図6の場合と出力される電気駆動条件のレベルが同じであり、焦点距離は変わらない。このように、Level重み付け量を適宜設定することによって、調節型眼内レンズ装置100輻輳角の変化を伴う輻輳開散運動と、輻輳角の変化を伴わない共動運動とを区別することができる。
【0058】
(加算回路の例2)
図9に、加算回路の例2を示す。
図9も、
図6の調節型眼内レンズ装置100における第2電子部品400のA,B,C,D,E,F,G,Hの8入力系の加算回路であり、眼側の入力抵抗は全てR1である点で、上記の加算回路の例1と同様である。加算回路の例2では、第2電子部品400のA,B,C,D,E,F,G,H各々に対する回路の電圧を同じ電圧Vとし、抵抗の直列接続数を変えることで各回路にLevel1/4~Level1の異なる重み付けを行っており、重み付けのLevelが高いほど印加電圧が高くなるように設定されている。第2電子部品400のA,B,C,D,E,F,G,H各々に対応するLevel重み付けとの対応関係を
図10に示す。
【0059】
例えば、
図6の状態から輻輳運動によって、右眼Rの第2電子部品400のAと左眼Lの第2電子部品400のFとが接触した場合、右眼Rの第2電子部品400のAに対応するLevel1と左眼Lの第2電子部品400のFに対応するLevel1/2の和(Level3/2)に相当する電圧が印加される。より具体的には、右眼Rの第2電子部品400のAと左眼Lの第2電子部品400のFとが接触した場合、オペアンプの回路動作により、それぞれを流れる電流V/R1,V/2R1の合計は負帰還抵抗R2を経由して出力され、その時の出力電圧V
Resultは下記式の通りとなる。
【0060】
【0061】
(加算回路の例3)
図11に、加算回路の例3を示す。
図11も、
図6の調節型眼内レンズ装置100における第2電子部品400のA,B,C,D,E,F,G,Hの8入力系の加算回路であり、眼側の入力抵抗は全てR1である点で、上記の加算回路の例1及び2と同様である。加算回路の例3では、第2電子部品400のA,B,C,D,E,F,G,H各々に対する回路の電圧を同じ電圧Vとし、抵抗の直列接続数と重みの正負設定とを変えることで各回路にLevel-1/2~Level1の異なる重み付けを行っており、重み付けのLevelが高いほど印加電圧が高くなるように設定されている。第2電子部品400のA,B,C,D,E,F,G,H各々に対応するLevel重み付けとの対応関係を
図12に示す。
【0062】
例えば、
図6の状態から輻輳運動によって、右眼Rの第2電子部品400のAと左眼Lの第2電子部品400のHとが接触した場合、右眼Rの第2電子部品400のAに対応するLevel1と左眼Lの第2電子部品400のHに対応するLevel-1/2の和(Level1/2)に相当する電圧が印加される。より具体的には、右眼Rの第2電子部品400のAと左眼Lの第2電子部品400のHとが接触した場合、オペアンプの回路動作により、それぞれを流れる電流V/R1,-V/2R1の合計は負帰還抵抗R2を経由して出力され、その時の出力電圧V
Resultは下記式の通りとなる。
【0063】
【0064】
(加算回路の例4)
図13に加算回路の例4を示す。
図13も、
図6の調節型眼内レンズ装置100における第2電子部品400のA,B,C,D,E,F,G,Hの8入力系の加算回路である。なお、
図13では、第1電子部品200及び第2電子部品400も模式的に記載し、右眼の第2電子部品400のAと左眼の第2電子部品400のHとが接触した場合を示している。
図13の加算回路は、抵抗が電子部品400からみて電源側に設けられていることを除き、
図7の加算回路と同様に作動することができる。また、
図13において、加算回路の部分を、上述の
図9、
図11の加算回路に置き換えることもできる。
【0065】
2.第2実施形態
2-1.調節型眼内レンズ装置100aの構造
図14及び
図15に、本発明の他の実施形態としての調節型眼内レンズ装置100aを模式的に示す。
図14及び
図15は、それぞれ前述の
図2及び
図5に対応する形式で示す。以下における調節型眼内レンズ装置100aについての説明においては、上述の第1実施形態における調節型眼内レンズ装置100と共通する事項については説明を省略することもある。
【0066】
調節型眼内レンズ装置100aは、第1電子部品200a,200a’と第2電子部品400a,400a’とを除いて、上述の調節型眼内レンズ装置100と同様の構造を有する。第1電子部品200a,200a’及び第2電子部品400a,400aは、非接触でも通電する部材であり、具体的には、コンデンサ、コイル、又は抵抗体が用いられる。図示された形態では、第1電子部品200a,200a’及び第2電子部品400a,400aとしてコンデンサが用いられる。
【0067】
第1電子部品200a,200a’及び第2電子部品400a,400aは、上述の第1電子部品200,200’及び第2電子部品400,400’とは異なり、表面を露出させ露出せず、生体組織内に埋設された状態で固定される。具体的には、第1電子部品200a,200a’は、その表面が眼球EB表面に露出しないよう、例えば強膜に直接固定されることができる。また、第2電子部品400a,400aは、その表面が眼窩OBT組織表面に露出しないよう、例えば眼窩結膜より深部の結合組織に直接固定されることができる。
【0068】
図14(a)では、説明のため、便宜的に水平方向の断面図に第1電子部品200a,200a’の両方、及び第2電子部品400a,400a’の両方を示しているが、第1電子部品200a及び第2電子部品400aと、第1電子部品200a’及び第2電子部品400a’とは互いに垂直方向(鼻側N-耳側T方向に垂直な方向)の異なる位置に固定されており、これによって、眼球が動いても第1電子部品200aと第2電子部品400a’との間、及び第1電子部品200a’と第2電子部品400aとの間では互いに電気的な干渉を生じない。なお、第1電子部品200aと第2電子部品400aとの水平方向の相対位置関係は、第1電子部品200a’と第2電子部品400a’との水平方向の相対位置関係と同じとなるように配置する。
【0069】
2-2.調節型眼内レンズ装置100aの動作
眼球が輻輳開散運動すると、調節型眼内レンズ装置100aでは双方の電子部品(第1電子部品200a,200a’、第2電子部品400a,400a’)の非接触での相互位置関係(具体的には、近接/遠隔、及び/又は、対向する電子部品面の面積の大小)が変化して電気的条件が変化(具体的には、電流の大きさが変化、より具体的には、コンデンサ容量が変化及び/又はインピーダンスが変化)し、その電気的条件の変化を利用してアクチュエータの電気駆動を制御し、その結果眼内レンズの焦点距離を変化させる。具体的には、コンデンサ容量及び/又はインピーダンスを電源側から計測し、その計測値に応じた電圧をアクチュエータに印加し、印加された電圧に応じて眼内レンズが変形し、その変形量に応じた焦点距離を得る。
【0070】
図14に示す輻輳運動前においては、
図14(a)に示すとおり、第1電子部品200aと第2電子部品400aとの間、及び第1電子部品200a’と第2電子部品400a’との間の相対的位置関係は遠隔状態である。従って、この場合の電気回路的状況を模式的に示すと、
図14(b)に示すように、コンデンサである第1電子部品200aと第2電子部品400a、及び第1電子部品200a’と第2電子部品400a’では有効な容量が得られない。つまり、この輻輳運動の
図2の眼球位置においては、通電していないという電気的条件がもたらされる。通電していないという電気的条件の下では、レンズアセンブリ300側のアクチュエータ320が電気駆動しないため、可変焦点眼内レンズ310は変形しない。
【0071】
図14の態様から眼球が輻輳運動をすると、
図15(a)に示すとおり、第1電子部品200aと第2電子部品400aとの間、及び第1電子部品200a’と第2電子部品400a’との間の相対的位置関係が近接状態となり、コンデンサ電極面が互いに対向する領域が生じる。従って、この場合の電気回路的状況を模式的に示すと、
図15(b)に示すように、第1電子部品200aと第2電子部品400aとの間、及び第1電子部品200a’と第2電子部品400a’のコンデンサ電極面が互いに対向する領域の面積(以下において、コンデンサ電極面の対向面積とも記載する。)に相当する有効容量が得られる。つまり、この輻輳運動の
図15の眼球位置においては、当該有効容量に相当する大きさの通電が起こったという電気的条件がもたらされる。通電したという電気的条件の下では、レンズアセンブリ300側のアクチュエータ320が電気駆動することで、可変焦点眼内レンズ310が押圧変形し、焦点がより患者に近い位置に(焦点距離がより短くなるように)調整される。
【0072】
また、
図15の態様からさらに眼球の輻輳運動の程度が大きくなると、第1電子部品200aと第2電子部品400aとの間、及び第1電子部品200a’と第2電子部品400a’との間の相対的位置関係は、コンデンサ電極面の対向面積がさらに大きくなる状態となる。つまりこの場合、第1電子部品200aと第2電子部品400a、及び第1電子部品200a’と第2電子部品400a’において、有効容量が更に増大する。このため、この輻輳運動の眼球位置においては、さらに大きい有効容量に相当する大きさの通電が起こったという電気的条件がもたらされる。この電気的条件の下では、レンズアセンブリ300側のアクチュエータ320が、可変焦点眼内レンズ310により一層大きな押圧力を負荷するように電気駆動し、その結果焦点がより一層患者に近い位置に(焦点距離がより一層短くなるように)調整される。
【0073】
このように、調節型眼内レンズ装置100aにおいては、眼球の輻輳開散運動によって、第1電子部品200aと第2電子部品400aとの間、及び第1電子部品200a’と第2電子部品400a’との間のコンデンサ電極面の対向面積が無段階に変化し、それに伴って、レンズアセンブリ300側のアクチュエータ320に与える電気駆動条件を無段階に変化させることができる。その結果、焦点距離を無段階に調整することができる。
【0074】
つまり、焦点距離の無段階調整は、眼球の輻輳開散運動による第1電子部品200a,200a’と第2電子部品400a,400a’との相対位置関係の変化に伴いコンデンサ容量が変化することによってもたらされるため、コンデンサの相対位置関係の変化に伴いインピーダンスが変化することによってもたらされるともいうことができる。コンデンサ容量が大きくなるほどインピーダンスが低くなる傾向から、例えば眼球の輻輳運動の程度が大きくなるほどインピーダンスが低くなり、レンズアセンブリ300側のアクチュエータ320が、可変焦点眼内レンズ310により大きな押圧力を負荷するように電気駆動し、その結果、焦点がより患者に近い位置に(焦点距離がより短くなるように)調整される。
【0075】
第1電子部品200a,200a’及び第2電子部品400a,400a’が、コイル又は抵抗体の場合も、眼球の輻輳開散運動による第1電子部品200a,200a’と第2電子部品400a,400a’との相対位置関係の変化に伴ってインピーダンスが変化するため、同様にして、焦点距離の無段階調節が可能となる。
【0076】
3.変形例
上記の第1実施形態及び第2実施形態では、レンズアセンブリ300はその一例として示したが、可変焦点眼内レンズと、第1電子部品に電気的に配線され且つ可変焦点眼内レンズの焦点距離を変化させるよう電気駆動するアクチュエータとを含む構成を有していればどのようなレンズアセンブリを用いてもよい。このようなレンズアセンブリは公知であり、当業者が適宜選択することができる。
図16~
図18に、レンズアセンブリの変形例(レンズアセンブリ300c,300d,300e)を示す。これらのレンズアセンブリ300c,300d,300eは、第1実施形態及び第2実施形態におけるレンズアセンブリ300の代替として用いることができる。
【0077】
3-1.レンズアセンブリ300c
図16に示すレンズアセンブリ300cは、可変焦点眼内レンズ310cとアクチュエータ320cとを含む。可変焦点眼内レンズ310cは、レンズアセンブリ300における可変焦点眼内レンズ310と同様、レンズ形状を変化させることで焦点距離を制御するタイプのレンズであり、より具体的には、ゲルレンズが用いられる。
【0078】
アクチュエータ320cは、レンズアセンブリ300におけるアクチュエータ320と同様、電気駆動により可変焦点眼内レンズ310cのレンズ面を押圧する押圧部321cと、可変焦点眼内レンズ310cを保持する保持部322cと、第1電子部品200(
図1等参照)に電気的に配線される端子部323cとを有する。
【0079】
保持部322cは、可変焦点眼内レンズ310cの物体側(患者の前方側)の面と像側の面とを挟持する一対の互いに結合された基板を含み、視軸方向に貫通する貫通孔を有し、且つ押圧部321cと通電するように構成されている点;可変焦点眼内レンズ310cの物体側の面と像側の面とを挟持する一対の結合された挟持片が可変焦点眼内レンズ310cの周囲を包囲する囲繞部材として構成されている点;物体側に、貫通孔軸を取り囲むように、貫通孔軸側に自由端を有する片持ち板状の押圧部321cが複数枚設けられている点;押圧部321cが高分子アクチュエータで構成されている点:及び押圧部321cで、高分子アクチュエータが、電気駆動時に電圧印加によって可変焦点眼内レンズ310cの表面を押圧する(押し下げる)屈曲変形を生じるように構成されている点で、レンズアセンブリ300における保持部322と同様である。
【0080】
レンズアセンブリ300cは、リング板状に形成された像側の挟持片(電極基板)、可変焦点眼内レンズ310c、押圧部321cが複数枚形成された導電性高分子アクチュエータ、リング板状に形成された物体側の挟持片(電極基板)とをこの順番で積層し(なお、図示した例においては、可変焦点眼内レンズ310cと押圧部321cが複数枚形成された導電性高分子アクチュエータとの間にリング板状の補助プッシャーを介在させている)、像側の挟持片と物体側の挟持片とを結合させることによって構成されている。
【0081】
3-2.レンズアセンブリ300d
図17には、レンズアセンブリ300dを装着した場合の輻輳運動前(
図17(i))及び輻輳運動後(
図17(ii))におけるレンズアセンブリ300dの動作を模式的に示す。
図17では、第1電子部品及び第2電子部品として第1実施形態と同じ電極タイプのものを図示しているが、レンズアセンブリ300dは、第2実施形態で示したコンデンサ、コイル、又は抵抗体と組み合わせることもできる。
【0082】
レンズアセンブリ300dは、可変焦点眼内レンズ310dとアクチュエータ320dとを含む。可変焦点眼内レンズ310dの物体側の前焦点の位置を2本の破線の交点として図示した。可変焦点眼内レンズ310dは、レンズ位置を前後方向(物体側(患者の前方側)と像側とを結ぶ方向)で変化させることで焦点距離を制御するレンズである、このため、可変焦点眼内レンズ310dは、焦点を可変させるときに自身は変形しない。アクチュエータ320dは、高分子アクチュエータで構成されている。アクチュエータ320dは、可変焦点眼内レンズ310dのレンズ位置を前後方向(物体側と像側とを結ぶ方向)で変化させることが可能であればどのような態様で設けられていてもよいが、図示された態様では、可変焦点眼内レンズ310dの光軸に対して両側で、可変焦点眼内レンズ310dの像側の面に接触可能に設けられている。
【0083】
図17(i)から眼球が輻輳運動を行うと、上述と同様、第1電子部品及び前記第2電子部品相互の相対位置変化に基づく電気的条件が変化してアクチュエータが電気駆動される。この時、具体的には
図17(ii)に示すように、可変焦点眼内レンズ310dの像側に設けられたアクチュエータ320dが物体側(患者の前方側)に屈曲変形し、可変焦点眼内レンズ310dを物体側に押し出す。これによって、可変焦点眼内レンズ310d自体は変形しなくても、焦点距離が短くなるように調整される。
【0084】
3-3.レンズアセンブリ300e
図18には、レンズアセンブリ300eを装着した場合の輻輳運動前(
図18(i))及び輻輳運動後(
図18(ii))におけるレンズアセンブリ300eの動作を模式的に示す。
図18では、第1電子部品及び第2電子部品として第1実施形態と同じ電極タイプのものを図示しているが、レンズアセンブリ300eは、第2実施形態で示したコンデンサ、コイル、又は抵抗体と組み合わせることもできる。
【0085】
レンズアセンブリ300eは、可変焦点眼内レンズ310eとアクチュエータ320eとを含む。可変焦点眼内レンズ310eの物体側の前焦点の位置を2本の破線の交点として図示した。可変焦点眼内レンズ310eは、複数のレンズ面を有し、レンズ方向を変化させる(回転させる)ことで焦点距離を制御する多焦点レンズである。具体的には、可変焦点眼内レンズ310eは、曲率が小さいレンズ面と曲率が大きいレンズ面とが、それぞれのレンズ面に対する光軸が直交するように設けられている2焦点レンズである。可変焦点眼内レンズ310eは、焦点を可変させるときに自身は変形しない。
【0086】
アクチュエータ320eは、高分子アクチュエータで構成されている。アクチュエータ320eは、可変焦点眼内レンズ310eのレンズを±90度回転させることが可能であればどのような態様で設けられていてもよいが、図示された態様では、可変焦点眼内レンズ310eの光軸に対して一方の側では可変焦点眼内レンズ310eの物体側(患者の前方側)の面に接触可能に、光軸に対して他方の側では可変焦点眼内レンズ310eの像側の面に接触可能に設けられている。
【0087】
図18(i)では、可変焦点眼内レンズ310eは、曲率の小さいレンズ面の光軸方向が眼球軸方向となるように向いている。
図18(i)から眼球が輻輳運動を行うと、上述と同様、第1電子部品及び前記第2電子部品相互の相対位置変化に基づく電気的条件が変化してアクチュエータが電気駆動される。この時、図示された態様では、
図18(ii)に示すように、アクチュエータ320eが、可変焦点眼内レンズ310eの光軸に対して一方の側(鼻側)では像側に屈曲変形し、一方の側(耳側)では物体側(患者の前方側)に屈曲変形し、可変焦点眼内レンズ310dを90度回転させる。これによって、可変焦点眼内レンズ310eの曲率が大きいレンズ面の光軸が眼球軸を向き、その結果、焦点距離が短くなるように調整される。
【0088】
4.眼内レンズ挿入方法
本発明の調節型眼内レンズは、白内障患者等、眼内レンズを必要とする症状を有する患者の眼球に挿入して使用される。本発明の調節型眼内レンズの挿入方法は、第1電子部品を眼球の強膜に固定する工程と;可変焦点眼内レンズと、前記第1電子部品と電気的配線された又は電気的配線されるべきアクチュエータであって、前記可変焦点眼内レンズの焦点距離を変化させるためのアクチュエータとを含むレンズアセンブリを、前記可変焦点眼内レンズが水晶体を置換するように眼球内に埋め込む工程と;外部電源と電気的配線された又は電気的配線されるべき第2電子部品を、前記眼球の強膜と対向する眼窩組織に固定する工程と、を含む。上記の各工程の順番は任意である。
【0089】
第1電子部品を眼球の強膜に固定する工程において、第1電子部品を眼球の強膜に固定する具体的な方法は、生体組織に電極等の電子部品を固定する一般的な手術法から当業者が適宜選択することができる。
【0090】
レンズアセンブリを眼球内に埋め込む工程において、レンズアセンブリを眼球内に埋め込む具体的な方法は、眼内レンズを挿入する一般的な手術法から当業者が適宜選択することができる。好ましくは、患者自身の水晶体を除去した後に、水晶体があった眼球内の場所にレンズアセンブリを挿入することができる。
【0091】
なお、第1電子部品とレンズアセンブリのアクチュエータとは、手術前から電気的配線されていてもよいし、また、手術中に電気的配線を行ってもよい。例えば、互いに電気的配線により接続された状態の第1電子部品とレンズアセンブリのアクチュエータとを、上記の工程に供してもよいし、物理的に独立した第1電子部品とレンズアセンブリのアクチュエータとを、それぞれ、上記の工程に供した後に、互いを電気的配線により接続してもよい。
【0092】
第2電子部品を眼窩組織に固定する工程において、第2電子部品を眼窩組織に固定する具体的な方法は、生体組織に電極等の電子部品を固定する一般的な手術法から当業者が適宜選択することができる。
【0093】
なお、第2部品と外部電源とは、手術前から電気的配線されていてもよいし、また、手術中に電気的配線を行ってもよい。例えば、外部電源と電気的配線により接続された状態の第2電子部品を上記の工程に供してもよいし、外部電源から物理的に独立した第2電子部品を上記の工程に供した後に、外部電源と電気的配線により接続してもよい。
【0094】
本発明の調節型眼内レンズの挿入方法においては、外部電源を所定の場所に固定する工程を含んでいてもよい。外部電源を固定する具体的な方法は、生体組織に電極等の電子部品を固定する一般的な手術法から当業者が適宜選択することができるが、術後に外部電源の取り外しが可能となるように、外部電源を固定可能な場所を予め設ける手術を行い、その後、外部電源を当該場所に固定することができる。外部電源を固定可能な場所には、第2部品と電気的接続が可能となる端子が設けられていればよい。例えば、当該端子は、当該所定の場所に適宜設けられる外部電源収容部の中に露出するように設けることができる。
【0095】
本発明の調節型眼内レンズの挿入方法において、第1電子部品、レンズアセンブリ、第2電子部品、外部電源、それらの形態、それら部品を設ける場所、挿入された調節型眼内レンズによる眼内レンズの調節態様等については、上記項目1~3に詳述した通りである。
【符号の説明】
【0096】
100,100a…調節型眼内レンズ装置
200,200’…第1電子部品(電極)
200a,200a’…第1電子部品(コンデンサ)
300,300c,300d,300e…レンズアセンブリ
310,310c,310d,310e…可変焦点眼内レンズ
311…曲率可変面
320,320c,320d,320e…アクチュエータ
321,321c…押圧部
400,400’…第2電子部品(電極)
400a,400a’…第2電子部品(コンデンサ)
500…外部電源
EB…眼球
L…水晶体
OBT…眼窩(眼球と対向する眼窩組織)