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特許7465485乳房炎発症リスクの判定に用いるDNAマーカー及びそれを用いた乳房炎リスクの判定方法
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  • 特許-乳房炎発症リスクの判定に用いるDNAマーカー及びそれを用いた乳房炎リスクの判定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】乳房炎発症リスクの判定に用いるDNAマーカー及びそれを用いた乳房炎リスクの判定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20240404BHJP
   C12Q 1/6883 20180101ALI20240404BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20240404BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
C12Q1/6883 Z
C12Q1/6869 Z
C12N15/09 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022047941
(22)【出願日】2022-03-24
(65)【公開番号】P2023141560
(43)【公開日】2023-10-05
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000201641
【氏名又は名称】全国農業協同組合連合会
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永岡 謙太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】武本 智嗣
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-526099(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109182538(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109182505(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109182504(CN,A)
【文献】国際公開第2010/108498(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104611425(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102604944(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111549124(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110669838(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0344960(US,A1)
【文献】Sci. Rep.,2017年,Vol.7,45560
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N 15/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検動物であるウシから生体サンプルを採取する工程と、
当該生体サンプル中に含まれるゲノムDNAにおける乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型を同定する工程であって、乳房炎リスク判定DNAマーカーは、配列番号1に示す塩基配列における101番目の塩基変異又はrs110036757である工程と、
乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型に基づいて被検動物の乳房炎リスクを判定する工程とを含み、
上記乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型が、ヘテロ型又はマイナーアレルのホモ型である場合、上記被検動物の乳房炎リスクが高いと判定する、
乳房炎リスク判定方法。
【請求項2】
上記配列番号1の塩基配列における101番目の塩基変異又はrs110036757は、メジャーアレルがAでありマイナーアレルがCである、請求項1記載の乳房炎リスク判定方法。
【請求項3】
前記乳房炎マーカーが、
配列番号2の塩基配列と配列番号8の塩基配列により挟みこまれた領域に座位する、配列番号2~8の塩基配列におけるそれぞれ101番目の塩基変異又はrs208854668、rs381839020、rs385943123、rs109551898、rs137152785、rs110688314及びrs135732164;配列番号9に示す塩基配列における101番目の塩基変異又はrs110369890のうち、少なくとも1つの塩基変異をさらに含む、
請求項1記載の乳房炎リスク判定方法
【請求項4】
上記配列番号2の塩基配列における101番目の塩基変異又はrs208854668は、メジャーアレルがAでありマイナーアレルがGであり、上記配列番号3の塩基配列における101番目の塩基変異又はrs381839020は、メジャーアレルがGでありマイナーアレルがTであり、上記配列番号4の塩基配列における101番目の塩基変異又はrs385943123は、メジャーアレルがAでありマイナーアレルがGであり、上記配列番号5の塩基配列における101番目の塩基変異又はrs109551898は、メジャーアレルがAでありマイナーアレルがGであり、上記配列番号6の塩基配列における101番目の塩基変異又はrs137152785は、メジャーアレルがAでありマイナーアレルがTであり、上記配列番号7の塩基配列における101番目の塩基変異又はrs110688314は、メジャーアレルがCでありマイナーアレルがAであり、上記配列番号8の塩基配列における101番目の塩基変異又はrs135732164は、メジャーアレルがGでありマイナーアレルがAであり、上記配列番号9の塩基配列における101番目の塩基変異又はrs110369890は、メジャーアレルがAでありマイナーアレルがGであることを特徴とする請求項3記載の乳房炎リスク判定方法
【請求項5】
乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型を同定する工程では、配列番号1に示す塩基配列における101番目の塩基変異又はrs110036757と、配列番号2に示す塩基配列における101番目の塩基変異又はrs208854668と、配列番号7に示す塩基配列における101番目の塩基変異又はrs110688314と、配列番号9に示す塩基配列における101番目の塩基変異又はrs110369890とについて遺伝子型を同定することを特徴とする請求項記載の乳房炎リスク判定方法。
【請求項6】
乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型を同定する工程では、配列番号1に示す塩基配列における101番目の塩基変異又はrs110036757と配列番号9に示す塩基配列における101番目の塩基変異又はrs110369890との組み合わせについて遺伝子型を同定することを特徴とする請求項記載の乳房炎リスク判定方法。
【請求項7】
上記乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型を同定する工程では、上記被検動物であるウシ由来のゲノムDNAを鋳型とした核酸増幅法により上記乳房炎リスク判定DNAマーカーを含む核酸断片を増幅することを特徴とする請求項1記載の乳房炎リスク判定方法。
【請求項8】
上記乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型を同定する工程では、上記核酸断片の塩基配列を決定し、遺伝子型を同定することを特徴とする請求項記載の乳房炎リスク判定方法。
【請求項9】
配列番号1に示す塩基配列における101番目の塩基変異又はrs110036757である乳房炎リスク判定DNAマーカーを含む核酸断片を増幅するために使用することができる、プライマーセット。
【請求項10】
配列番号10に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号11に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせを含む、請求項記載のプライマーセット。
【請求項11】
さらに、配列番号2の塩基配列と配列番号8の塩基配列により挟みこまれた領域に座位する、配列番号2~8の塩基配列におけるそれぞれ101番目の塩基変異又はrs208854668、rs381839020、rs385943123、rs109551898、rs137152785、rs110688314及びrs135732164;配列番号9に示す塩基配列における101番目の塩基変異又はrs110369890のうち、少なくとも1つの塩基変異からなる乳房炎リスク判定DNAマーカーを含む核酸断片を増幅するために使用することができる、請求項9記載のプライマーセット
【請求項12】
さらに、配列番号12に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号13に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号14に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号15に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号16に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号17に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号18に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号19に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号20に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号21に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号22に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号23に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号24に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号25に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号26に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号27に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせのうち少なくとも1つの組み合わせを含む、請求項11記載のプライマーセット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳牛で多発する乳房炎についてその発症リスクの判定に使用できるDNAマーカー及びそれを用いた乳房炎リスクの判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳房炎は、病原微生物が乳房内に侵入して増殖し、乳管や乳腺を刺激し炎症をおこすものとされる。乳房炎は「乳牛の職業病」とも呼ばれ、乳牛の疾病として世界に共通する最難治疾病の一つである。しかし、様々な対策が提案されているものの防除は進んでいない(非特許文献1)。乳房炎によって炎症をおこせば、血流量が増え血管浸透性が亢進し、血液中の白血球が遊走し乳汁中に白血球が移行する。また、炎症により傷んだ上皮細胞は脱落し、同じく乳汁に移行する。このため、乳汁中に含まれる白血球と脱落上皮細胞などの体細胞数の増加を乳房炎感染の指標として用いることが全世界的に用いられている(非特許文献2)。
【0003】
特許文献1は、ウシの乳房炎抵抗性を簡便に確実かつ迅速に検出/診断するための手段として、ウシの乳房炎と密接に関連する乳房炎抵抗性遺伝子(FEZL遺伝子)を同定したことを開示している。特許文献1によれば、当該FEZL遺伝子の遺伝子変異を同定することでウシの乳房炎抵抗性を診断している。また、特許文献2は、ウシ乳房炎に対する発症抵抗性又は感受性の判定方法として、ウシ主要組織適合抗原DQ分子α鎖をコードするDQA1遺伝子におけるDQA1*1201アリル及び/又はDQA1*0101アリルを検出する方法を開示している。さらに、特許文献3は、乳房炎感受性ウシで見られる、乳房炎抵抗性ウシのIGF1R遺伝子の塩基配列のうち1110位に1~4bpのシトシン(c)が挿入される変異を開示している。特許文献3には、当該変異を利用して乳房炎抵抗性を診断する方法が開示されている。
【0004】
さらにまた、特許文献4には、ウシにおける乳房炎耐性を示す遺伝的マーカーとして、ウシ染色体BTA9上の多型マイクロサテライトマーカーC6orf93及びinra084、ウシ染色体BTA11上の多型マイクロサテライトマーカーHELMTT43及びBM3501が開示されている。さらにまた、特許文献5には、ウシにおける乳房炎抵抗性を示す形質と関連する遺伝的マーカーとして多数のSNPが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-67928号公報
【文献】特開2007-295844号公報
【文献】特開2008-72946号公報
【文献】特表2009-525733号公報
【文献】特表2015-526099号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Journal of Dairy Science Vol. 100 No. 12, 2017
【文献】LIAJ News No.122, pp1-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、従来において、ウシの乳房炎抵抗性/感受性を診断するための遺伝子マーカーは知られていたものの、その診断精度は十分とはいえず、乳房炎リスクを特定できる有効な因子の同定には至っていなかった。現状では、特定のマーカーを用いた診断は行われておらず、実用化に至っていない状況である。
【0008】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、乳房炎リスクを高精度に特定できるDNAマーカー及び当該DNAマーカーを利用した乳房炎リスクの判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明者が鋭意検討した結果、乳房炎発症を繰り返す個体群と健康な個体群の間にある差を、ゲノミクス解析を通じて多角的評価を行い、乳房炎発症リスクの高い動物の鑑別が可能になるDNA変異を特定し、本発明を完成するに至った。
本発明は以下を包含する。
【0010】
(1)被検動物から生体サンプルを採取する工程と、
当該生体サンプル中に含まれるゲノムDNAにおける乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型を同定する工程であって、乳房炎リスク判定DNAマーカーは、配列番号1に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異;配列番号2の塩基配列と配列番号8の塩基配列により挟みこまれた領域に座位する、配列番号2~8からなる群から選ばれる1つの塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異;配列番号9に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異のうち、少なくとも1つの塩基変異である工程と、
乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型に基づいて被検動物の乳房炎リスクを判定する工程とを含む、乳房炎リスク判定方法。
【0011】
(2)上記乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型が、ヘテロ型又はマイナーアレルのホモ型である場合、上記被検動物の乳房炎リスクが高いと判定することを特徴とする(1)記載の乳房炎リスク判定方法。
【0012】
(3)上記配列番号1の塩基配列における101番目の塩基変異は、メジャーアレルがAでありマイナーアレルがCであり、上記配列番号2の塩基配列における101番目の塩基変異は、メジャーアレルがAでありマイナーアレルがGであり、上記配列番号3の塩基配列における101番目の塩基変異は、メジャーアレルがGでありマイナーアレルがTであり、上記配列番号4の塩基配列における101番目の塩基変異は、メジャーアレルがAでありマイナーアレルがGであり、上記配列番号5の塩基配列における101番目の塩基変異は、メジャーアレルがAでありマイナーアレルがGであり、上記配列番号6の塩基配列における101番目の塩基変異は、メジャーアレルがAでありマイナーアレルがTであり、上記配列番号7の塩基配列における101番目の塩基変異は、メジャーアレルがCでありマイナーアレルがAであり、上記配列番号8の塩基配列における101番目の塩基変異は、メジャーアレルがGでありマイナーアレルがAであり、上記配列番号9の塩基配列における101番目の塩基変異は、メジャーアレルがAでありマイナーアレルがGであることを特徴とする(1)記載の乳房炎リスク判定方法。
【0013】
(4)乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型を同定する工程では、配列番号1に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異と、配列番号2に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異と、配列番号7に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異と、配列番号9に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異とについて遺伝子型を同定することを特徴とする(1)記載の乳房炎リスク判定方法。
【0014】
(5)乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型を同定する工程では、配列番号1に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異と配列番号9に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異との組み合わせ、配列番号7に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異と配列番号9に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異との組み合わせ、配列番号2に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異と配列番号9に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異との組み合わせについて遺伝子型を同定することを特徴とする(1)記載の乳房炎リスク判定方法。
【0015】
(6)上記乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型を同定する工程では、上記被検動物由来のゲノムDNAを鋳型とした核酸増幅法により上記乳房炎リスク判定DNAマーカーを含む核酸断片を増幅することを特徴とする(1)記載の乳房炎リスク判定方法。
【0016】
(7)上記乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型を同定する工程では、上記核酸断片の塩基配列を決定し、遺伝子型を同定することを特徴とする(6)記載の乳房炎リスク判定方法。
【0017】
(8)配列番号1に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異;配列番号2の塩基配列と配列番号8の塩基配列により挟みこまれた領域に座位する、配列番号2~8からなる群から選ばれる1つの塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異;配列番号9に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異のうち、少なくとも1つの塩基変異からなる乳房炎リスク判定DNAマーカーを含む核酸断片を増幅するプライマーセット。
【0018】
(9)配列番号10に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号11に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号12に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号13に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号14に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号15に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号16に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号17に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号18に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号19に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号20に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号21に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号22に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号23に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号24に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号25に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号26に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号27に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドの組み合わせのうち少なくとも1つの組み合わせであることを特徴とする(8)記載のプライマーセット。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る乳房炎リスク判定方法によれば、新規な乳房炎リスク判定DNAマーカーを利用することで、検査対象の動物における乳房炎のリスクを極めて高精度に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】X染色体の領域ごとにp値をプロットした結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る乳房炎リスク判定DNAマーカーは、乳房炎の発症リスクの判定に利用できる、ゲノム上の所定の位置における塩基変異である。ここで、乳房炎リスク判定DNAマーカーとなる塩基変異は、単一塩基変異(Single Nucleotide Variant, SNV)を意味する。単一塩基変異(SNV)は、ゲノム塩基配列上の一塩基の違い(置換変異)を意味し、ある集団内での当該置換変異の頻度が1%以上である一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism, SNP)を含む意味である。
【0022】
1.乳房炎リスク判定DNAマーカー
乳房炎リスク判定DNAマーカーは、ウシにおけるリファレンスゲノムを基準として特定することができる。ウシのリファレンスゲノムは、ARS-UCD1.2(ヘレフォード種、2018年4月11日版、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/assembly/GCF_002263795.1/)を利用することができる。以下の説明においては、ウシにおけるリファレンスゲノムの塩基配列に基づいて乳房炎リスク判定DNAマーカーについて説明するが、本発明に係る乳房炎リスク判定DNAマーカーは、ウシに限定されず、ヒトを含むあらゆる動物において特定することができる。すなわち、検査対象の動物におけるゲノム塩基配列(例えば、リファレンスゲノムの塩基配列)が公知である場合には、検査対象の動物のゲノム塩基配列に基づいて当該動物における乳房炎リスク判定DNAマーカーを特定することができる。
【0023】
本発明に係る乳房炎リスク判定DNAマーカーは、配列番号1に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異;配列番号2の塩基配列と配列番号8の塩基配列により挟みこまれた領域に座位する、配列番号2~8からなる群から選ばれる1つの塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異;配列番号9に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異のうち、少なくとも1つの塩基変異である。
【0024】
ここで、配列番号1に示す塩基配列における101番目の塩基変異は、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列において、第15染色体における25087716に座位する変異部位である。この塩基変異は、メジャーアレルがAであり、マイナーアレルがCである置換変異である。また、この塩基変異は、rs番号:rs110036757で特定されるSNPとしてデータベース(例えば、Ensembl)に登録されている。
【0025】
また、配列番号2に示す塩基配列における101番目の塩基変異は、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列において、X染色体における88209479に座位する変異部位である。この塩基変異は、メジャーアレルがAであり、マイナーアレルがGである置換変異である。また、この塩基変異は、rs番号:rs208854668で特定されるSNPとしてデータベース(例えば、Ensembl)に登録されている。
【0026】
さらに、配列番号3に示す塩基配列における101番目の塩基変異は、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列において、X染色体における89239121に座位する変異部位である。この塩基変異は、メジャーアレルがGであり、マイナーアレルがTである置換変異である。また、この塩基変異は、rs番号:rs381839020で特定されるSNPとしてデータベース(例えば、Ensembl)に登録されている。
【0027】
さらにまた、配列番号4に示す塩基配列における101番目の塩基変異は、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列において、X染色体における89242713に座位する変異部位である。この塩基変異は、メジャーアレルがAであり、マイナーアレルがGである置換変異である。また、この塩基変異は、rs番号:rs385943123で特定されるSNPとしてデータベース(例えば、Ensembl)に登録されている。
【0028】
さらにまた、配列番号5に示す塩基配列における101番目の塩基変異は、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列において、X染色体における88319202に座位する変異部位である。この塩基変異は、メジャーアレルがAであり、マイナーアレルがGである置換変異である。また、この塩基変異は、rs番号:rs109551898で特定されるSNPとしてデータベース(例えば、Ensembl)に登録されている。
【0029】
さらにまた、配列番号6に示す塩基配列における101番目の塩基変異は、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列において、X染色体における88700655に座位する変異部位である。この塩基変異は、メジャーアレルがAであり、マイナーアレルがTである置換変異である。また、この塩基変異は、rs番号:rs137152785で特定されるSNPとしてデータベース(例えば、Ensembl)に登録されている。
【0030】
さらにまた、配列番号7に示す塩基配列における101番目の塩基変異は、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列において、X染色体における89067208に座位する変異部位である。この塩基変異は、メジャーアレルがCであり、マイナーアレルがAである置換変異である。また、この塩基変異は、rs番号:rs110688314で特定されるSNPとしてデータベース(例えば、Ensembl)に登録されている。
【0031】
さらにまた、配列番号8に示す塩基配列における101番目の塩基変異は、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列において、X染色体における89289439に座位する変異部位である。この塩基変異は、メジャーアレルがGあり、マイナーアレルがAである置換変異である。また、この塩基変異は、rs番号:rs135732164で特定されるSNPとしてデータベース(例えば、Ensembl)に登録されている。
【0032】
さらにまた、配列番号9に示す塩基配列における101番目の塩基変異は、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列において、第24染色体における12219701に座位する変異部位である。この塩基変異は、メジャーアレルがAあり、マイナーアレルがGである置換変異である。また、この塩基変異は、rs番号:rs110369890で特定されるSNPとしてデータベース(例えば、Ensembl)に登録されている。
【0033】
上述のように、本発明に係る乳房炎リスク判定DNAマーカーは、第15染色体の所定の領域に存在する塩基置換、X染色体の所定の領域に存在する塩基置換、及び第24染色体の所定の領域に存在する塩基置換である。
【0034】
ここで、第15染色体の所定の領域とは、上述した25087716に座位する変異部位(配列番号1における101番目、rs110036757)に連鎖する塩基変異が存在する領域を意味する。すなわち、本発明に係る乳房炎リスク判定DNAマーカーは、25087716に座位する変異部位(配列番号1における101番目、rs110036757)との間で連鎖不平衡の関係にある変異部位(単一塩基変異(SNV))を含むこととなる。
【0035】
また、X染色体の所定の領域とは、配列番号2の塩基配列と配列番号8の塩基配列とに挟まれる領域を意味する。この領域には、上述した88209479に座位する変異部位(配列番号2における101番目、rs208854668)、89239121に座位する変異部位(配列番号3における101番目、rs381839020)、89242713に座位する変異部位(配列番号4における101番目、rs385943123)、88319202に座位する変異部位(配列番号5における101番目、rs109551898)、88700655に座位する変異部位(配列番号6における101番目、rs137152785)、89067208に座位する変異部位(配列番号7における101番目、rs110688314)及び89289439に座位する変異部位(配列番号8における101番目、rs135732164)が含まれる。よって、X染色体の所定の領域とは、配列番号2の塩基配列と配列番号8の塩基配列とに挟まれる領域であって、これら変異部位及びこれら変異部位のうちいずれかの変異部位との間で連鎖不平衡の関係にある変異部位(単一塩基変異(SNV))を含むこととなる。
【0036】
より具体的に、X染色体の所定の領域には、X染色体における88209479に連鎖する変異部位(単一塩基変異(SNV))としてX染色体における88209483に座位する変異部位(メジャーアレルT、マイナーアレルA)をが含まれる。また、X染色体の所定の領域には、X染色体における89239121に連鎖する変異部位(単一塩基変異(SNV))としてX染色体における89235533(メジャーアレルT、マイナーアレルC)、89237555(メジャーアレルG、マイナーアレルA)及び89237780(メジャーアレルG、マイナーアレルA)が含まれる。さらに、X染色体の所定の領域には、X染色体における89242713に連鎖する変異部位(単一塩基変異(SNV))としてX染色体における89259615(メジャーアレルC、マイナーアレルT)、89269677(メジャーアレルT、マイナーアレルC)及び89280192(メジャーアレルC、マイナーアレルG)が含まれる。さらにまた、X染色体の所定の領域には、X染色体における88319202に連鎖する変異部位(単一塩基変異(SNV))としてX染色体における88313029(メジャーアレルC、マイナーアレルG)、88338299(メジャーアレルT、マイナーアレルC)及び88339019(メジャーアレルT、マイナーアレルG)が含まれる。さらにまた、X染色体の所定の領域には、X染色体における88700655に連鎖する変異部位(単一塩基変異(SNV))としてX染色体における88664079(メジャーアレルT、マイナーアレルC)が含まれる。さらにまた、X染色体の所定の領域には、X染色体における89067208に連鎖する変異部位(単一塩基変異(SNV))としてX染色体における89073474(メジャーアレルG、マイナーアレルC)が含まれる。さらにまた、X染色体の所定の領域には、X染色体における89289439に連鎖する変異部位(単一塩基変異(SNV))としてX染色体における89278639(メジャーアレルG、マイナーアレルA)が含まれる。
【0037】
さらに、第24染色体の所定の領域とは、上述した12219701に座位する変異部位(配列番号9における101番目、rs110369890)に連鎖する塩基変異が存在する領域を意味する。すなわち、本発明に係る乳房炎リスク判定DNAマーカーは、12219701に座位する変異部位(配列番号9における101番目、rs110369890)との間で連鎖不平衡の関係にある変異部位(単一塩基変異(SNV))を含むこととなる。
【0038】
以上のように、本発明に係る乳房炎リスク判定DNAマーカーは、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列に基づいて特定することができる。これは本発明に係る乳房炎リスク判定DNAマーカーの技術的範囲がウシに限定される(すなわち、ウシにおける乳房炎リスク判定DNAマーカー)ことを意味するものではなく、ヒトを含むあらゆる哺乳動物において乳房炎リスク判定DNAマーカーを特定することができ、あらゆる哺乳動物に対して乳房炎リスク判定DNAマーカーを適用することができる。例えば、水牛、山羊、羊、豚、馬、ヤク、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、ヒトにおいて、乳房炎リスク判定DNAマーカーを特定することができる。ウシ以外の他の哺乳動物において乳房炎リスク判定DNAマーカーを特定するには、上述した配列番号1~9に示した塩基配列に基づく相同性検索により、上述した配列番号1~9に示した塩基配列と相同性が高い領域として特定することができる。このとき、ホモログ、パラログ、オルソログといった相同性の高い配列として特定できれば、ゲノムの染色体上の位置は問わない。
【0039】
相同性の程度としては特に限定されないが、配列番号1~9の塩基配列に対して例えば、70%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上とすることができる。このように高い相同性を有する領域をウシ以外の哺乳動物のゲノムにおいて特定し、特定した領域に含まれる塩基変異を当該ウシ以外の哺乳動物における乳房炎リスク判定DNAマーカーとして使用することができる。なお、ウシ以外の哺乳動物において乳房炎リスク判定DNAマーカーを特定する際には、配列番号1~9の全長を相同性検索に使用しなくてもよく、塩基変異部位の上流のみ或いは下流のみでも良いし、上流及び/又は下流の例えば200塩基、50塩基、20塩基、10塩基とすることができる。また、リファレンスゲノムは、データの蓄積と共に更新され、ゲノム領域を特定する位置は変動する場合があるが、配列番号で示した配列を用いることで、その領域を特定できる。
【0040】
例えば、水牛(Bubalus bubalis breed Mediterranean chromosome X, ASM312139v1, whole genome shotgun sequence, NC_037569.1)、山羊(Capra hircus breed San Clemente chromosome X unlocalized genomic scaffold, ASM170441v1, whole genome shotgun sequence, NW_017189516.1)及び羊(Ovis aries strain OAR_USU_Benz2616 breed Rambouillet chromosome X, ARS-UI_Ramb_v2.0, whole genome shotgun sequence, NC_056080.1)について、相同性検索(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を行うことで、水牛、山羊及び羊における乳房炎リスク判定DNAマーカーを特定することができる。
【0041】
具体的には、第15染色体における25087716(配列番号1における101番目)については、水牛における第16染色体の59845877が特定され、山羊における第15染色体の57243975が特定され、羊における第15染色体の24820077が特定され、これらを水牛、山羊及び羊の乳房炎リスク判定DNAマーカーとしてそれぞれ使用することができる。
【0042】
また、X染色体に座位する乳房炎リスク判定DNAマーカーとして、88209479(配列番号2における101番目)については、水牛における54070123、山羊における15916117、羊における54912361が特定され、これらを水牛、山羊及び羊の乳房炎リスク判定DNAマーカーとしてそれぞれ使用することができる。また、X染色体に座位する乳房炎リスク判定DNAマーカーとして、89239121(配列番号3における101番目)については、水牛における53049056、山羊における14833575、羊における53801786が特定され、これらを水牛、山羊及び羊の乳房炎リスク判定DNAマーカーとしてそれぞれ使用することができる。さらに、X染色体に座位する乳房炎リスク判定DNAマーカーとして、89242713(配列番号4における101番目)については、水牛における53045801、山羊における14829743が特定され、これらを水牛及び山羊の乳房炎リスク判定DNAマーカーとしてそれぞれ使用することができる。さらにまた、X染色体に座位する乳房炎リスク判定DNAマーカーとして、88319202(配列番号5における101番目)については、水牛における53958808、山羊における15774295、羊における54778777が特定され、これらを水牛、山羊及び羊の乳房炎リスク判定DNAマーカーとしてそれぞれ使用することができる。さらにまた、X染色体に座位する乳房炎リスク判定DNAマーカーとして、88700655(配列番号6における101番目)については、水牛における53590316が特定され、これを水牛の乳房炎リスク判定DNAマーカーとして使用することができる。さらにまた、X染色体に座位する乳房炎リスク判定DNAマーカーとして、89067208(配列番号7における101番目)については、水牛における53220380、山羊における14849521、羊における54011154が特定され、これらを水牛、山羊及び羊の乳房炎リスク判定DNAマーカーとしてそれぞれ使用することができる。さらにまた、X染色体に座位する乳房炎リスク判定DNAマーカーとして、89289439(配列番号8における101番目)については、水牛における53002464及び53052853、山羊における14787290及び15067437、羊における53754307及び53805622が特定され、これらを水牛、山羊及び羊の乳房炎リスク判定DNAマーカーとしてそれぞれ使用することができる。
【0043】
さらに、第24染色体に座位する12219701(配列番号9における101番目)については、水牛における第22染色体の49964421が特定され、山羊における第24染色体の12376430が特定され、これらを水牛及び山羊の乳房炎リスク判定DNAマーカーとしてそれぞれ使用することができる。
【0044】
2.乳房炎リスク判定方法
本発明に係る乳房炎リスク判定方法は、被検動物から生体サンプルを採取する工程と、生体サンプル中に含まれるゲノムDNAにおける乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型を同定する工程と、乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型に基づいて被検動物の乳房炎リスクを判定する工程とを含む。
【0045】
被検動物から採取する生体サンプルとしては、特に限定されず、毛根、皮膚、乳汁、唾液、鼻汁、血液、肉、臓器、精子、卵子、受精卵等を挙げることができる。好ましくは、アニマルウェルフェアに考慮し、個体に痛みを与えずに採取できる生体サンプルを用いることが好ましい。
【0046】
生体サンプル中に含まれるゲノムDNAにおける乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型を同定する際、先ず、生体サンプルからゲノムDNAを抽出しても良い。ゲノムDNAの抽出は、従来公知のポリヌクレオチドを回収する方法を適用することができる。例えば、フェノール、クロロホルムを用いた方法、ヨウ化ナトリウムを用いた方法が挙げられる。また、生体サンプル中に含まれるゲノムDNAを抽出することなく、生体サンプルに含まれるゲノムDNAにおける乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型を同定しても良い。例えば、ダイレクトPCR方法によれば、ゲノムDNAの抽出操作を行うことなく、細胞に含まれるゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型を同定することもできる。
【0047】
乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型を決定する一つの方法としては、乳房炎リスク判定DNAマーカーを含む領域の塩基配列を決定する方法が挙げられる。塩基配列の決定は、従来公知の任意の手法を選択できる。例えば、サンガーシーケンシング、マイクロアレイ、次世代シーケンシング、リアルタイムPCR、PCR-RFLP、質量分析等の手法、LAMP法、ナノポアシーケンシングが挙げられる。これら各種方法のうち、核酸増幅反応を伴う方法を使用する場合、乳房炎リスク判定DNAマーカーを含む核酸断片を増幅するための一対のプライマーを設計する。
【0048】
乳房炎リスク判定DNAマーカーを含む核酸断片を増幅するための一対のプライマーは、被検動物のゲノムDNAの塩基配列が明らかになっている場合は、当該塩基配列に基づいて設計することができる。また、被検動物のゲノムDNAの塩基配列が明らかになっていない場合には、当該ゲノムDNAの塩基配列を決定してから一対のプライマーを設計しても良いし、乳房炎リスク判定DNAマーカーの近傍の塩基配列を決定してから一対のプライマーを設計しても良い。
【0049】
プライマーを設計する際には、特に限定されないが、乳房炎リスク判定DNAマーカーの部位を含む20~1000塩基、20~800塩基、20~600塩基、20~400塩基、20~200塩基、20~100塩基或いは20~50塩基の核酸断片とするように一対のプライマーを設計することができる。一対のプライマーを設計する際、例えばプライマーの長さを17~25merとすることができ、GC含量を40~60%、好ましくは45~55%とすることができる。また、一対のプライマーは、高いのTm値が大きく異ならないことが好ましく、Tm値の差を、例えば2℃以内、1℃以内とすることが好ましい。
【0050】
具体的に、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列に基づいて、第15染色体における25087716(配列番号1における101番目)を含む核酸断片を増幅するための一対のプライマー(配列番号10及び11)を設計することができる。また、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列に基づいて、X染色体における88209479(配列番号2における101番目)を含む核酸断片を増幅するための一対のプライマー(配列番号12及び13)を設計することができる。さらに、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列に基づいて、X染色体における89239121(配列番号3における101番目)を含む核酸断片を増幅するための一対のプライマー(配列番号14及び15)を設計することができる。さらにまた、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列に基づいて、X染色体における89242713(配列番号4における101番目)を含む核酸断片を増幅するための一対のプライマー(配列番号16及び17)を設計することができる。さらにまた、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列に基づいて、X染色体における88319202(配列番号5における101番目)を含む核酸断片を増幅するための一対のプライマー(配列番号18及び19)を設計することができる。さらにまた、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列に基づいて、X染色体における88700655(配列番号6における101番目)を含む核酸断片を増幅するための一対のプライマー(配列番号20及び21)を設計することができる。さらにまた、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列に基づいて、X染色体における89067208(配列番号7における101番目)を含む核酸断片を増幅するための一対のプライマー(配列番号22及び23)を設計することができる。さらにまた、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列に基づいて、X染色体における89289439(配列番号8における101番目)を含む核酸断片を増幅するための一対のプライマー(配列番号24及び25)を設計することができる。さらにまた、ウシのリファレンスゲノムの塩基配列に基づいて、第24染色体における12219701(配列番号9における101番目)を含む核酸断片を増幅するための一対のプライマー(配列番号26及び27)を設計することができる。
【0051】
また、乳房炎リスク判定DNAマーカーを含む核酸断片を用いて、当該DNAマーカーの遺伝子型を決定する方法としては、上述した塩基配列を決定する方法に限定されず、プローブを用いた方法を適用することができる。プローブを用いて当該DNAマーカーの遺伝子型を同定する方法では、メジャーアレルに特異的にハイブリダイズするメジャーアレル用プローブと、マイナーアレルに特異的にハイブリダイズするマイナーアレル用プローブを使用する。なお、この方法では、これらメジャーアレル用プローブと、マイナーアレル用プローブを基板上に固定したマイクロアレイを利用する形態を適用することができる。これらメジャーアレル用プローブとマイナーアレル用プローブは、乳房炎リスク判定DNAマーカーの塩基変異のみが異なる構成であってもよいし、互いに異なる長さとしても良い。これらメジャーアレル用プローブとマイナーアレル用プローブの長さは特に限定されないが、例えば10塩基、20塩基、30塩基、40塩基、50塩基とすることができる。また、メジャーアレル用プローブとマイナーアレル用プローブは、乳房炎リスク判定DNAマーカーの塩基が全長の略中心に位置するように設計しても良いし、5’末端側に偏った位置に設計しても良いし、3’末端側に偏った位置に設計しても良い。
【0052】
乳房炎発症リスクを判定する工程では、乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型から乳房炎リスクの判定を行う。上述のように、本発明に係る乳房炎リスク判定DNAマーカーは、複数の塩基変異を含んでいる。乳房炎リスク判定に際しては、これら複数の乳房炎リスク判定DNAマーカーの全てを利用しても良いが、これら乳房炎リスク判定DNAマーカーのうち1つの乳房炎リスク判定DNAマーカーを利用しても良い。乳房炎リスクの判定に使用する乳房炎リスク判定DNAマーカーの数は、特に限定されず、1種類、2種類、3種類、4種類、5種類、6種類、7種類、8種類、9種類、10種類、11種類とすることができる。
【0053】
より具体的に、上述した乳房炎リスク判定DNAマーカーのうち、配列番号1~9に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異(すなわち、9種類の塩基変異)を利用して乳房炎のリスクを判定しても良いし、これら9種類の塩基変異のうち1種類、2種類、3種類、4種類、5種類、6種類、7種類或いは8種類の塩基変異を利用して乳房炎のリスクを判定してもよい。特に、これら9種類の塩基変異のうち、配列番号1に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異と、配列番号2に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異と、配列番号7に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異と、配列番号9に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異を利用して、乳房炎のリスクを判定することが好ましい。これら塩基変異を利用することによって、乳房炎の検出率を極めて高くすることができ、且つ、偽陽性の発生率を極めて低くすることができる。
【0054】
さらに好ましくは、配列番号1に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異と配列番号9に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異とを組み合わせて、或いは、配列番号7に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異と配列番号9に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異とを組み合わせて、或いは配列番号2に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異と配列番号9に示す塩基配列における101番目の塩基変異又は当該塩基変異に連鎖する塩基変異とを組み合わせて乳房炎リスクを判定する。この場合も乳房炎の検出率を極めて高くすることができ、且つ、偽陽性の発生率を極めて低くすることができる。
【0055】
また、乳房炎リスクの判定は、乳房炎を発症する可能性の高い場合を高リスク、発症する可能性が低い場合を低リスクと判定することもでるが、リスクの高低を示す数値やランキングで判定することもできる。例えば、乳房炎リスクを点数で評価する場合、10点が最高のリスクで、0点が最低のリスクで段階的に0~10の数値でリスク評価することができる。また、乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型により、異なる点数を定義することもできる。例えば、乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型がメジャーアレルのホモ接合型の場合に0点、ヘテロ接合型の場合に1点、マイナーアレルのホモ接合型の場合に2点と定義することができる。複数の乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型を利用して乳房炎のリスクを判定する場合、点数の合計に基づいて乳房炎のリスクを判定することができる。また、例えば、乳房炎リスクをランキングで評価する場合A~Eまでの5段階のランキングを定義し、Eが最高のリスクで、Aが最低のリスクで、段階的にA、B、C、D、Eの段階でリスク評価することができる。
【0056】
また、複数の乳房炎リスク判定DNAマーカーを利用する形態では、予めDNAマーカー毎に重み付けを行っておき、乳房炎のリスクを判定してもよい。すなわち、遺伝モデルや乳房炎リスクに対する寄与度の高い乳房炎リスク判定DNAマーカーを他のマーカーよりも高く評価するように重み付けをすることで、より高精度に乳房炎のリスクを判定することができる。重みづけが遺伝モデルであれば、劣性モデル、優性モデル、相加モデル、相乗モデルなどの形で、任意の係数を用いて行うことができる。例えば、劣性モデルであればリスクアリルではないアリルを持つことで影響が同じと考え、変異ホモ接合型のみを評価対象とすることができる。優性モデルであればリスクアリルを持つことで影響が同じと考え、ヘテロ接合型及び変異ホモ接合型を等しく評価対象とすることができる。相加モデルであればリスクアレルを持つことで影響が相加的に増すと考え、変異ホモ接合型をヘテロ接合型の2倍影響を与えるとして評価対象とすることができる。相乗モデルであればリスクアリルを持つことで影響が相乗的に増すと考え、変異ホモ接合型をヘテロ接合型の2乗影響を与えるとして評価対象とすることができる。また、複数のDNAマーカーで判定を行う場合、一部を劣性モデル、一部を相加モデルといった形で、異なる遺伝モデルの組合わせで重みづけを行うこともできる。また乳房炎リスクに対する寄与度に重み付けする場合、寄与度の高い乳房炎リスク判定DNAマーカーに対して他のDNAマーカーよりも高い係数を設定することができる。例えば、症例対照研究で各個体の遺伝子型頻度やアリル頻度を算出し、その値を遺伝モデルに合わせて変異ホモ接合型やヘテロ接合型に乗じることで重みづけを行うこともできる。
【0057】
3.乳房炎リスクの判定対象動物
上述した乳房炎リスク判定DNAマーカーを利用した乳房炎リスク判定方法は、ヒトを含む哺乳動物を対象とすることもできるし、ヒトを除く哺乳動物(非ヒト哺乳動物)を対象とすることもできる。非ヒト哺乳動物は、ウシ、水牛、山羊、羊、豚、馬、ヤク、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ及びサルを例示することができるが、これら個体を利用した交配の結果得られた動物個体を判定対象とすることもできる。
【0058】
上述した乳房炎リスク判定DNAマーカーはゲノムDNAの塩基配列に基づいて特定されているので、この乳房炎リスク判定DNAマーカーが機能するということは、多くの乳房炎が遺伝性疾患に該当する可能性が高い。そうなると、多くの個体において乳房炎が頻発する傾向がある場合、フィールドに乳房炎発症リスクが高い個体が蔓延している可能性がある。例えば牛では、人工授精技術や受精卵移植の普及により、特定の個体の集中的な利用による育種改良がなされ、急速に遺伝性疾患が広まったことも想定される。そのため、乳房炎発症リスクの判定を行った動物個体や、その個体を利用して交配の結果得られた動物個体は、集団全体の乳房炎の低減等において利用価値が高い。
【0059】
上述した乳房炎リスク判定DNAマーカーを用いて、乳房炎リスクが判定した非ヒト哺乳動物を用いることで、乳房炎リスクを加味して、個体の管理や育種改良に用いることができる。例えば、高リスクと判定評価された個体は、その時点で育種改良に使用しないと判断することも可能である。また、高リスク個体に対して、より注意深く飼養管理等を行うことで、乳房炎を回避する対策を効率的に取ることができる。また、低リスクと判定評価された個体は、積極的に後継牛を作ることにより、将来的にフィールドでの乳房炎の罹患率を低減させることができ、効率的な育種改良に資することができる。また、ランダムに検査を行って遺伝子型頻度を算出することにより、集団内に高リスク個体がどの程度広まっているか調べることができ、育種改良の参考にできる。
【0060】
また、効率的な育種改良の観点から、乳房炎発症リスクの判定がなされた個体やその個体を用いた交配により生まれた個体について、その精液や卵を人工的な繁殖に用いることにより、集団内から乳房炎のリスクを急速に低下させることができる。例えば精液は、射出精液、凍結精液、非凍結状態の希釈精液といった形で流通できる。卵は、未受精卵又は受精卵を新鮮状態、凍結状態といった形で流通できる。流通させる場合、ストロー法やペレット法といった手法で流通できる。
【実施例
【0061】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
〔実施例1〕DNAマーカー1
実施例1では、乳房炎リスクの判定を行うための指標となる乳房炎リスク判定DNAマーカーを選定した。本実施例では、全ゲノムシーケンシングを用いて、症例対照研究(Case control study)により行った。供試牛は、臨床型乳房炎に罹患歴の無い搾乳牛(無縁区)、臨床型乳房炎を再発する搾乳牛(再発区)をそれぞれ25頭ずつ用いた。無縁区は、泌乳期610日以内に乳房炎に罹患しなかった牛とした。再発区は、泌乳期305日以内に3回以上臨床型乳房炎に罹患した牛とした。なお、罹患した分房は、牛によって異なった。供試牛の詳細を表1に示した。無縁区と再発区の間で、産次、前産搾乳日数、前産乾乳日数に有意差は無いが、305日体細胞数平均は再発区の方が有意に高かった。
【0063】
【表1】
【0064】
無縁区と再発区の各25頭について、全血を遠心分離によりバフィーコート層を回収した後、常法でDNAを抽出し、NovaSeq6000(イルミナ株式会社)を用いて、全ゲノムシーケンシングを行った。1000億塩基対以上のデータを取得し、約27億塩基対のリファレンスゲノム(ARS-UCD1.2、ヘレフォード種、2018年4月11日版)に対して、平均深度を×30以上とした。データ解析はCLC Genomics Workbenchを用いて行い、無縁区と再発区を比較してDNA変異解析を行った。変異解析は、〔1〕IlluminaのFastqデータをインポート、〔2〕クオリティチェックを行い信頼性の低いもののトリミング、〔3〕リファレンスゲノムに対してマッピング、〔4〕PCR Duplicateの除去、〔5〕ローカルリアライメント、〔6〕変異検出、〔7〕アノテーション付け、〔8〕フィルタリングの順に行った。
【0065】
リファレンスゲノムに対して、単一塩基変異(Single Nucleotide Variant, SNV)は430895箇所、複数塩基変異(Multi-Nucleotide Variants, MNV)は11871箇所、欠損(Deletion)は38916箇所、挿入(Insertion)は41664箇所、置換(Replacement)は2843箇所が特定された。そのうち変異ホモ接合型のみが検出されたものは、SNVは1568箇所、MNVは62箇所、Deletionは208箇所、Insertionは210箇所、Replacementは8箇所であった。乳房炎発症リスクの候補となるDNA変異をp値で絞り込んだところ、SNVは20箇所 (p<1x10E-3)、MNVは6箇所 (p<1x10E-2)、Deletionは20箇所 (p<5x10E-3)、Insertionは14箇所 (p<5x10E-3)、Replacementは8箇所 (p<5x10E-2)であった。これらは非同義置換を起こす変異として特定されない場合もあるが、いずれにしても乳房炎リスクを判定する指標として用いることが可能である。また、これらの変異箇所に近接した領域では連鎖不平衡が生じるため、特定された変異箇所の周辺領域にも、乳房炎リスクを判定する指標となる箇所が存在し、乳房炎リスクを判定する指標として用いることが可能である。
【0066】
これらの変異について、接合性(Zygosity)が不明(Unknown)、ホモ(Homo)、ヘテロ(Hetero)も含めて、さらにp値で絞り込みを行ったところ、表2で示すように、p値の低い順に変異が特定され、p<1x10E-7の領域がX染色体に多くみられた。これらの変異箇所及びその周辺領域にある変異箇所は、乳房炎リスクを判定する指標として特に有力であった。
【0067】
【表2】
【0068】
〔実施例2〕DNAマーカー2
実施例2では、実施例1に記載した乳房炎リスクの判定を行うための指標となる乳房炎リスク判定DNAマーカー候補のなかから、SNVの乳房炎リスク判定DNAマーカーを選定した。供試牛は、実施例1と同様に、臨床型乳房炎に罹患歴の無い搾乳牛(無縁区)、臨床型乳房炎を再発する搾乳牛(再発区)をそれぞれ25頭ずつ用いた。
【0069】
SNVについて、乳房炎発症リスクの候補となるDNA変異を、各区25頭に対して変異ホモ又はヘテロ型を有する頭数を用いて計算したp値を用いてDNAマーカーの絞り込みを行った。DNAマーカーとして、p<4.8x10E-6であるものは62箇所特定された(表3)。各DNAマーカーをp値が低い順に配列したものであり、X染色体の88209379-89369844の範囲に48個、23番染色体の51376086-51627177の範囲に4個、27番染色体の18570840-18580407の範囲に3個、24番染色体の12219601-14118517の範囲に2個、25番染色体の12406826-12407723の範囲に2個、15番染色体の25087616-25087816の範囲に1個、26番染色体の2036632-2036832の範囲に1個、28番染色体の30165014-30165214の範囲に1個特定された。表3で特定された変異箇所及びその周辺領域にある変異箇所は、乳房炎リスクを判定する指標として用いることが可能であった。
【0070】
【表3】
【0071】
さらに、SNVを用いて、p値をX染色体の領域ごとにプロットしたところ、矢印で示すように、89067208~89369744の領域にp<1x10E-6のSNVが集中して存在する箇所が存在した(図1)。よって、この領域にある変異箇所は、乳房炎リスクを判定する指標として特に有力であった。
【0072】
さらにまた、Ensembl Genome Browser(https://www.ensembl.org)を用いて乳房炎リスクに影響を与える遺伝子を調べたところ、X染色体の89067208~89369744の領域には、GSPT2、ENSBTAG00000052977、ENSBTAG00000053722の3つのタンパク質がコードされていた。GSPT2遺伝子は、Transcript IDがENSBTAT00000017703.5であり、X染色体の89,276,444~89,278,960の領域にReverse strandで存在した。G1 to S phase transition 2(2410bp, 631aa)をコードしていて、Tr-type G domain-containing protein、GTPase activity、GTP binding、translation release factor activityといった機能が推測されるが、未レビューのタンパク質であった。有意なSNVがあったg.89279441は開始コドンの500bp上流に位置し、g.89278639C>Tは41番目のアミノ酸(アラニン)の同義置換であった。
【0073】
ENSBTAG00000052977遺伝子は、Transcript IDがENSBTAT00000083094.1であり、X染色体の89,245,181~89,245,990の領域にForward strandで存在した。PABC domain-containing protein(810bp, 269aa)をコードしていて、polyadenylate-binding protein、RNA bindingといった機能が推測されるが、未レビューのタンパク質であった。ENSBTAG00000052977の上流2~3kbp付近に、有意な変異であるSNVとdeletionが1箇所ずつある。g.89242713A>Gはp値が4.01x10E-7と低かった。
【0074】
ENSBTAG00000053722遺伝子は、Transcript IDがENSBTAT00000068858.1であり、X染色体の89,289,437~89,293,543の領域にForward strandで存在した。ENSBTAG00000053722は318bp、105aaであり、DZF domain-containing protein、double-stranded RNA binding、single-stranded RNA bindingといった機能が推測されているが、詳細は不明であった。有意なSNVであるg.89289439G>Aはp値が1.52x10E-6であり、開始コドンのATGがATAになり、非同義置換を起こしていた。開始コドンが非同義置換を起こすことにより、想定されるタンパク質が発現しないと想定された。よって、X染色体のg.89289439G>AのSNVは、乳房炎リスクを判定する指標として極めて有力であった。
【0075】
〔実施例3〕DNAマーカーを用いた検査
実施例3では、実施例1及び2にて同定した乳房炎リスク判定DNAマーカーの一部を利用して乳房炎リスクの判定を行う検査方法を実施した。一例として、PCR増幅産物のサンガーシーケンシングを用いて、乳房炎リスク判定DNAマーカーの遺伝子型を決定する形態を説明する。供試牛は、実施例1と同様に、臨床型乳房炎に罹患歴の無い搾乳牛(無縁区)、臨床型乳房炎を再発する搾乳牛(再発区)をそれぞれ25頭ずつ用いた。
本実施例では、以下の9種類の乳房炎リスク判定DNAマーカーについて調べた。
【0076】
【表4】
【0077】
本実施例では、KOD FX Neo (東洋紡株式会社)を用いてPCRを行い、PCR増幅産物を得た。PCR増幅産物は、ExoSAP-IT Express (Thermo Fisher Scientific) を用いてプライマーやdNTP除去を行った。SupreDye v3.1 Cycle Sequencing Kit (株式会社エムエステクノシステムズ) を用いて、3500xL Genetic Analyzer (Applied Biosystems) を使って塩基配列の決定を行い、遺伝子型を同定した。結果を表5に示した。
【0078】
【表5】
【0079】
表5に示したように、乳房炎リスク判定DNAマーカーのうちX染色体のg.88209479A>GであるSNV番号2であれば、遺伝子型頻度(Genotype frequency)は、無縁区ではリファレンスホモ接合型(WT homo)が21頭、ヘテロ接合型(Hetero)及び変異ホモ接合型(Mutant homo)が合わせて4頭であった。一方、再発区ではリファレンスホモ接合型(WT homo)が5頭、ヘテロ接合型(Hetero)及び変異ホモ接合型(Mutant homo)が合わせて20頭であった。つまり、このSNV番号2のみを乳房炎リスク判定DNAマーカーとして使用した場合、WT homoは乳房炎リスクが低い、Hetero及びMutant homoを乳房炎リスクが高いと判定する場合、無縁区で25頭中21頭(84%)、再発区で25頭中20頭(80%)を正しく推測できた。合わせて82%の正答率となり、高い確率で乳房炎リスクを判定できることが明らかとなった。
【0080】
本実施例では、9種類の乳房炎リスク判定DNAマーカーを使用し、リファレンスホモ接合型を0点、ヘテロ接合型を1点、変異ホモ接合型を2点とした場合、これらの9種類のDNAマーカーの総和の合計点数の平均±標準偏差(最低値~最大値)は、無縁区で3.2±3.7(0~11)、再発区で10.4±2.5(5~15)で有意に差があった。ここで、合計点数が9点未満は乳房炎リスクが低い、9点以上は乳房炎リスクが高いと判定する場合、無縁区で25頭中22頭(88%)、再発区で25頭中22頭(88%)を正しく推測できた。合わせて88%の正答率となり、高い確率で乳房炎リスクを判定できた。
【0081】
また、本実施例で使用した9種類の乳房炎リスク判定DNAマーカーについて、SNV番号1及びSNV番号2を単独で使用した場合、検出率がそれぞれ0.88及び0.8であり、偽陽性率が0.2及び0.16であった。また、表5に示した結果から、9種類の乳房炎リスク判定DNAマーカーのうちSNV番号7を検査してヘテロと判定された個体をSNV番号9の検査を行うことで、検出率が88%で偽陽性率を限りなく0に抑えられることが明らかとなった。同様に、表5に示した結果から、9種類の乳房炎リスク判定DNAマーカーのうちSNV番号1を検査してヘテロと判定された個体をSNV番号9の検査を行うことで、検出率が80%で偽陽性率を0に抑えられることが明らかとなった。さらに、表5に示した結果から、9種類の乳房炎リスク判定DNAマーカーのうちSNV番号2を検査してヘテロと判定された個体をSNV番号9の検査を行うことで、検出率が80%で偽陽性率を4%に抑えられることが明らかとなった。
図1
【配列表】
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