(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ワークピースの化学機械研磨システム、演算システム、および化学機械研磨のシミュレーションモデルを作成する方法
(51)【国際特許分類】
B24B 37/005 20120101AFI20240404BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240404BHJP
B24B 53/017 20120101ALI20240404BHJP
【FI】
B24B37/005 Z
H01L21/304 622R
B24B53/017 Z
(21)【出願番号】P 2020052046
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 教和
(72)【発明者】
【氏名】安田 穂積
(72)【発明者】
【氏名】望月 宣宏
(72)【発明者】
【氏名】橋本 洋平
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-118404(JP,A)
【文献】特開2016-124063(JP,A)
【文献】特開2012-74574(JP,A)
【文献】特開2012-56029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00 - 37/34
H01L 21/304
B24B 53/017
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨面を有する研磨パッドを支持するための研磨テーブルと、
ワークピースを前記研磨面に対して押し付ける研磨ヘッドと、
前記研磨面にスラリーを供給するスラリー供給ノズルと、
前記ワークピースの推定研磨レートを含む推定研磨物理量を出力する物理モデルを少なくとも含むシミュレーションモデルが記憶された記憶装置を有する演算システムを備え、
前記演算システムは、
前記ワークピースの研磨条件を前記シミュレーションモデルに入力し、
前記シミュレーションモデルから前記ワークピースの推定研磨物理量を出力し、
前記推定研磨物理量を前記ワークピースの実測研磨物理量に近づける前記シミュレーションモデルのモデルパラメータを決定するように構成されて
おり、
前記物理モデルは、前記ワークピースの推定研磨レートを算定する研磨レートモデルと、前記研磨パッドの摺動抵抗に起因して生じるトルクの推定値を算定する研磨トルクモデルを含み、
前記研磨トルクモデルは、前記研磨パッド上の前記研磨ヘッドおよび前記ワークピースを前記研磨ヘッドの軸心を中心に回転させる研磨ヘッド回転トルクの推定値を算定するヘッド回転トルクモデルと、前記研磨パッドをその軸心を中心に回転させる研磨パッド回転トルクの推定値を算定するパッド回転トルクモデルを含む、化学機械研磨システム。
【請求項2】
前記化学機械研磨システムは、前記研磨面をドレッシングするためのドレッサをさらに備えており、
前記研磨トルクモデルは、前記研磨パッド上の前記ドレッサをその軸心を中心に回転させるドレッサ回転トルクの推定値を算定するドレッサ回転トルクモデルと、前記ドレッサを前記研磨パッド上で揺動させるのに必要な揺動軸心周りのドレッサ揺動トルクの推定値を算定するドレッサ揺動トルクモデルを含む、請求項
1に記載の化学機械研磨システム。
【請求項3】
前記シミュレーションモデルは、研磨時間の経過に伴う前記研磨パッドの劣化を表す数理モデルをさらに含む、請求項1
または2に記載の化学機械研磨システム。
【請求項4】
前記演算システムは、
前記決定されたモデルパラメータを含む前記シミュレーションモデルに前記研磨条件を入力して、更新された推定研磨物理量を算定し、
前記更新された推定研磨物理量と前記実測研磨物理量との差を評価するように構成されている、請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の化学機械研磨システム。
【請求項5】
前記演算システムは、前記ワークピースの摩擦係数の分布を算定するように構成されている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の化学機械研磨システム。
【請求項6】
前記演算システムは、最小二乗法、最急降下法、シンプレックス法のうちの少なくとも1つを用いて前記モデルパラメータを決定するように構成されている、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の化学機械研磨システム。
【請求項7】
前記研磨トルクモデルは、前記研磨ヘッドを前記研磨パッド上で揺動させるのに必要な前記研磨ヘッドの揺動軸心周りの研磨ヘッド揺動トルクの推定値を算定するヘッド揺動トルクモデルをさらに含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の化学機械研磨システム。
【請求項8】
研磨面を有する研磨パッドを支持するための研磨テーブルと、
ワークピースを前記研磨面に対して押し付ける研磨ヘッドと、
前記研磨面にスラリーを供給するスラリー供給ノズルと、
前記ワークピースの推定研磨レートを含む推定研磨物理量を出力する物理モデルを少なくとも含むシミュレーションモデルが記憶された記憶装置を有する演算システムを備え、
前記演算システムは、
前記ワークピースの研磨条件を前記シミュレーションモデルに入力し、
前記シミュレーションモデルから前記ワークピースの推定研磨物理量を出力し、
前記推定研磨物理量を前記ワークピースの実測研磨物理量に近づける前記シミュレーションモデルのモデルパラメータを決定するように構成されており、
前記物理モデルは、前記ワークピースの推定研磨レートを算定する研磨レートモデルと、前記研磨パッドの摺動抵抗に起因して生じるトルクの推定値を算定する研磨トルクモデルを含み、
前記研磨トルクモデルは、前記研磨ヘッドを前記研磨パッド上で揺動させるのに必要な前記研磨ヘッドの揺動軸心周りの研磨ヘッド揺動トルクの推定値を算定するヘッド揺動トルクモデルと、前記研磨パッドをその軸心を中心に回転させる研磨パッド回転トルクの推定値を算定するパッド回転トルクモデルを含む、化学機械研磨システム。
【請求項9】
化学機械研磨のシミュレーションモデルを作成する演算システムであって、
プログラムおよび前記シミュレーションモデルが記憶された記憶装置と、
前記プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する処理装置を備え、
前記シミュレーションモデルは、化学機械的に研磨されたときのワークピースの推定研磨レートを含む推定研磨物理量を出力する物理モデルを少なくとも含み、
前記演算システムは、
前記ワークピースの研磨条件を前記シミュレーションモデルに入力し、
前記シミュレーションモデルから前記ワークピースの推定研磨物理量を出力し、
前記推定研磨物理量を前記ワークピースの実測研磨物理量に近づける前記シミュレーションモデルのモデルパラメータを決定するように構成されて
おり、
前記物理モデルは、前記ワークピースの推定研磨レートを算定する研磨レートモデルと、研磨ヘッドにより前記ワークピースが押し付けられる研磨パッドの摺動抵抗に起因して生じるトルクの推定値を算定する研磨トルクモデルを含み、
前記研磨トルクモデルは、前記研磨パッド上の前記研磨ヘッドおよび前記ワークピースを前記研磨ヘッドの軸心を中心に回転させる研磨ヘッド回転トルクの推定値を算定するヘッド回転トルクモデルと、前記研磨パッドをその軸心を中心に回転させる研磨パッド回転トルクの推定値を算定するパッド回転トルクモデルを含む、演算システム。
【請求項10】
化学機械研磨のシミュレーションモデルを作成する方法であって、
ワークピースの推定研磨レートを含む推定研磨物理量を出力する物理モデルを少なくとも含むシミュレーションモデルに、前記ワークピースの研磨条件を入力し、
前記シミュレーションモデルから前記ワークピースの推定研磨物理量を出力し、
前記ワークピースを研磨装置を用いて研磨し、
前記推定研磨物理量を前記ワークピースの実測研磨物理量に近づける前記シミュレーションモデルのモデルパラメータを決定する工程を含み、
前記研磨装置は、
研磨面を有する研磨パッドを支持するための研磨テーブルと、
前記ワークピースを前記研磨面に対して押し付ける研磨ヘッドと、
前記研磨面にスラリーを供給するスラリー供給ノズルを備えて
おり、
前記物理モデルは、前記ワークピースの推定研磨レートを算定する研磨レートモデルと、前記研磨パッドの摺動抵抗に起因して生じるトルクの推定値を算定する研磨トルクモデルを含み、
前記研磨トルクモデルは、前記研磨パッド上の前記研磨ヘッドおよび前記ワークピースを前記研磨ヘッドの軸心を中心に回転させる研磨ヘッド回転トルクの推定値を算定するヘッド回転トルクモデルと、前記研磨パッドをその軸心を中心に回転させるパッド回転トルクの推定値を算定するパッド回転トルクモデルを含む、方法。
【請求項11】
前記研磨装置は、前記研磨面をドレッシングするためのドレッサをさらに備えており、
前記研磨トルクモデルは、前記研磨パッド上の前記ドレッサをその軸心を中心に回転させるドレッサ回転トルクの推定値を算定するドレッサ回転トルクモデルと、前記ドレッサを前記研磨パッド上で揺動させるのに必要な揺動軸心周りのドレッサ揺動トルクの推定値を算定するドレッサ揺動トルクモデルを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記シミュレーションモデルは、研磨時間の経過に伴う前記研磨パッドの劣化を表す数理モデルをさらに含む、請求項
10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記決定されたモデルパラメータを含む前記シミュレーションモデルに前記研磨条件を入力して、更新された推定研磨物理量を算定し、
前記更新された推定研磨物理量と前記実測研磨物理量との差を評価する工程をさらに含む、請求項
10乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
化学機械研磨のシミュレーションモデルを作成する方法であって、
ワークピースの推定研磨レートを含む推定研磨物理量を出力する物理モデルを少なくとも含むシミュレーションモデルに、前記ワークピースの研磨条件を入力し、
前記シミュレーションモデルから前記ワークピースの推定研磨物理量を出力し、
前記推定研磨物理量を前記ワークピースの実測研磨物理量に近づける前記シミュレーションモデルのモデルパラメータを決定
し、
前記物理モデルは、前記ワークピースの推定研磨レートを算定する研磨レートモデルと、研磨ヘッドにより前記ワークピースが押し付けられる研磨パッドの摺動抵抗に起因して生じるトルクの推定値を算定する研磨トルクモデルを含み、
前記研磨トルクモデルは、前記研磨パッド上の前記研磨ヘッドおよび前記ワークピースを前記研磨ヘッドの軸心を中心に回転させる研磨ヘッド回転トルクの推定値を算定するヘッド回転トルクモデルと、前記研磨パッドをその軸心を中心に回転させる研磨パッド回転トルクの推定値を算定するパッド回転トルクモデルを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ、基板、パネルなどのワークピースの表面を研磨するための化学機械研磨システムに関し、特に化学機械研磨の実測データに基づいて、化学機械研磨のシミュレーションモデルを最適化するサイバーフィジカルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造では、ウェーハ上に様々な種類の膜が形成される。成膜工程の後には、膜の不要な部分や表面凹凸を除去するために、ウェーハが研磨される。化学機械研磨(CMP)は、ウェーハ研磨の代表的な技術である。CMPは、研磨面上にスラリーを供給しながら、ウェーハを研磨面に摺接させることにより行われる。ウェーハの表面を形成する膜は、スラリーの化学的作用と、スラリーに含まれる砥粒の機械的作用との複合により研磨される。
【0003】
ウェーハの膜厚推定や、ウェーハ研磨の終点検出を目的として、ウェーハ研磨のシミュレーション技術が開発されている。研磨シミュレーションの代表的な技術として、ディープラーニングなどの機械学習がある。例えば、ニューラルネットワークからなるモデルを機械学習により作成し、ウェーハの研磨条件をモデルに入力することで、モデルから研磨結果の推定値を出力させる。このような機械学習による研磨予測は、実研磨に近い予測結果を得ることができる技術として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、機械学習によりモデルを作成する作業には、大量の訓練データ(いわゆるビックデータ)が必要とされる。特に、より正確な研磨結果を出力させることができるモデルを作成するためには、より大量のデータが必要になり、結果としてモデルの作成に長い時間がかかる。さらに、モデル自体が複雑な構成を有しているので、モデルが研磨結果を出力するのに比較的長い時間がかかる。
【0006】
また、ニューラルネットワークからなるモデルは、いわゆるブラックボックスであり、どのような構造を有しているか(どのような重みパラメータを有しているか)が不明である。このため、実際の研磨結果と、モデルから出力された研磨結果が異なる場合、モデルの修正すべき箇所を特定することが不可能である。モデルを修正するためには、追加の訓練データが必要とされ、モデル修正に長い時間が必要となる。
【0007】
そこで、本発明は、ウェーハなどのワークピースの研磨の結果を、物理モデルを使用して正確かつ高速に予測することができる化学機械研磨システムおよび演算システムを提供する。また、本発明は、化学機械研磨のシミュレーションモデルを作成する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、研磨面を有する研磨パッドを支持するための研磨テーブルと、ワークピースを前記研磨面に対して押し付ける研磨ヘッドと、前記研磨面にスラリーを供給するスラリー供給ノズルと、前記ワークピースの推定研磨レートを含む推定研磨物理量を出力する物理モデルを少なくとも含むシミュレーションモデルが記憶された記憶装置を有する演算システムを備え、前記演算システムは、前記ワークピースの研磨条件を前記シミュレーションモデルに入力し、前記シミュレーションモデルから前記ワークピースの推定研磨物理量を出力し、前記推定研磨物理量を前記ワークピースの実測研磨物理量に近づける前記シミュレーションモデルのモデルパラメータを決定するように構成されている、化学機械研磨システムが提供される。
【0009】
一態様では、前記物理モデルは、前記ワークピースの推定研磨レートを算定する研磨レートモデルと、前記研磨パッドの摺動抵抗に起因して生じるトルクの推定値を算定する研磨トルクモデルを含む。
一態様では、前記研磨トルクモデルは、前記研磨パッド上の前記研磨ヘッドおよび前記ワークピースを前記研磨ヘッドの軸心を中心に回転させる研磨ヘッド回転トルクの推定値を算定するヘッド回転トルクモデルと、前記研磨パッドをその軸心を中心に回転させる研磨パッド回転トルクの推定値を算定するパッド回転トルクモデルを含む。
一態様では、前記化学機械研磨システムは、前記研磨面をドレッシングするためのドレッサをさらに備えており、前記研磨トルクモデルは、前記研磨パッド上の前記ドレッサをその軸心を中心に回転させるドレッサ回転トルクの推定値を算定するドレッサ回転トルクモデルと、前記ドレッサを前記研磨パッド上で揺動させるのに必要な揺動軸心周りのドレッサ揺動トルクの推定値を算定するドレッサ揺動トルクモデルを含む。
一態様では、前記シミュレーションモデルは、研磨時間の経過に伴う前記研磨パッドの劣化を表す数理モデルをさらに含む。
一態様では、前記演算システムは、前記決定されたモデルパラメータを含む前記シミュレーションモデルに前記研磨条件を入力して、更新された推定研磨物理量を算定し、前記更新された推定研磨物理量と前記実測研磨物理量との差を評価するように構成されている。
【0010】
一態様では、化学機械研磨のシミュレーションモデルを作成する演算システムであって、プログラムおよび前記シミュレーションモデルが記憶された記憶装置と、前記プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する処理装置を備え、前記シミュレーションモデルは、化学機械的に研磨されたときのワークピースの推定研磨レートを含む推定研磨物理量を出力する物理モデルを少なくとも含み、前記演算システムは、前記ワークピースの研磨条件を前記シミュレーションモデルに入力し、前記シミュレーションモデルから前記ワークピースの推定研磨物理量を出力し、前記推定研磨物理量を前記ワークピースの実測研磨物理量に近づける前記シミュレーションモデルのモデルパラメータを決定するように構成されている、演算システムが提供される。
【0011】
一態様では、化学機械研磨のシミュレーションモデルを作成する方法であって、ワークピースの推定研磨レートを含む推定研磨物理量を出力する物理モデルを少なくとも含むシミュレーションモデルに、前記ワークピースの研磨条件を入力し、前記シミュレーションモデルから前記ワークピースの推定研磨物理量を出力し、前記ワークピースを研磨装置を用いて研磨し、前記推定研磨物理量を前記ワークピースの実測研磨物理量に近づける前記シミュレーションモデルのモデルパラメータを決定する工程を含み、前記研磨装置は、研磨面を有する研磨パッドを支持するための研磨テーブルと、前記ワークピースを前記研磨面に対して押し付ける研磨ヘッドと、前記研磨面にスラリーを供給するスラリー供給ノズルを備えている、方法が提供される。
【0012】
一態様では、前記物理モデルは、前記ワークピースの推定研磨レートを算定する研磨レートモデルと、前記研磨パッドの摺動抵抗に起因して生じるトルクの推定値を算定する研磨トルクモデルを含む。
一態様では、前記研磨トルクモデルは、前記研磨パッド上の前記研磨ヘッドおよび前記ワークピースを前記研磨ヘッドの軸心を中心に回転させる研磨ヘッド回転トルクの推定値を算定するヘッド回転トルクモデルと、前記研磨パッドをその軸心を中心に回転させるパッド回転トルクの推定値を算定するパッド回転トルクモデルを含む。
一態様では、前記研磨装置は、前記研磨面をドレッシングするためのドレッサをさらに備えており、前記研磨トルクモデルは、前記研磨パッド上の前記ドレッサをその軸心を中心に回転させるドレッサ回転トルクの推定値を算定するドレッサ回転トルクモデルと、前記ドレッサを前記研磨パッド上で揺動させるのに必要な揺動軸心周りのドレッサ揺動トルクの推定値を算定するドレッサ揺動トルクモデルを含む。
一態様では、前記シミュレーションモデルは、研磨時間の経過に伴う前記研磨パッドの劣化を表す数理モデルをさらに含む。
一態様では、前記方法は、前記決定されたモデルパラメータを含む前記シミュレーションモデルに前記研磨条件を入力して、更新された推定研磨物理量を算定し、前記更新された推定研磨物理量と前記実測研磨物理量との差を評価する工程をさらに含む。
【0013】
一態様では、化学機械研磨のシミュレーションモデルを作成する方法であって、ワークピースの推定研磨レートを含む推定研磨物理量を出力する物理モデルを少なくとも含むシミュレーションモデルに、前記ワークピースの研磨条件を入力し、前記シミュレーションモデルから前記ワークピースの推定研磨物理量を出力し、前記推定研磨物理量を前記ワークピースの実測研磨物理量に近づける前記シミュレーションモデルのモデルパラメータを決定する、方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
シミュレーションモデルに含まれる物理モデルは、実際の研磨装置を模した仮想的な化学機械研磨システムである。シミュレーションモデルを構成するモデルパラメータは、実際の研磨装置から得られた実測研磨物理量(実測研磨レート、実測機械トルクなど)と、シミュレーションモデルから得られた推定研磨物理量(推定研磨レート、推定機械トルクなど)との差に基づいて同定される。より具体的には、推定研磨物理量を実測研磨物理量に近づけるためのモデルパラメータが決定される。したがって、シミュレーションモデルは、ワークピースの推定研磨レートを正確に算定することができる。特に、物理モデルの作成には、いわゆるビックデータを必要としないので、機械学習に用いられるモデルに比べて、シミュレーションモデルは高速に結果を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】化学機械研磨システムの一実施形態を示す模式図である。
【
図3】シミュレーションモデルの未知のモデルパラメータを同定する方法を説明するフローチャートである。
【
図4】研磨パッド上の研磨ヘッド、ワークピース、およびドレッサ上の速度ベクトルを示す模式図である。
【
図5】パッド回転トルクモデルを説明する模式図である。
【
図6】ワークピースの摩擦係数の分布を示す模式図である。
【
図7】ワークピース上のある微小領域の位置を説明する図である。
【
図8】研磨パッドのトルクと研磨時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、化学機械研磨システムの一実施形態を示す模式図である。
図1に示すように、化学機械研磨システムは、ワークピースWを化学機械的に研磨する研磨装置1を備えている。この研磨装置1は、研磨面2aを有する研磨パッド2を支持する研磨テーブル5と、ウェーハ、基板、パネルなどのなどのワークピースWを研磨面2aに対して押し付ける研磨ヘッド7と、砥粒を含むスラリーを研磨面2aに供給するスラリー供給ノズル8と、研磨装置1の動作を制御する動作制御部80を備えている。研磨ヘッド7は、その下面にワークピースWを保持できるように構成されている。
【0017】
研磨装置1は、支軸14と、支軸14の上端に連結され、研磨ヘッド7を揺動させる研磨ヘッド揺動アーム16と、研磨ヘッド揺動アーム16の自由端に回転可能に支持された研磨ヘッドシャフト18と、研磨ヘッド7をその軸心を中心に回転させる研磨ヘッド回転モータ20をさらに備えている。研磨ヘッド回転モータ20は、研磨ヘッド揺動アーム16内に配置されており、ベルトおよびプーリ等から構成されるトルク伝達機構(図示せず)を介して研磨ヘッドシャフト18に連結されている。研磨ヘッド7は、研磨ヘッドシャフト18の下端に連結されている。研磨ヘッド回転モータ20は、上記トルク伝達機構を介して研磨ヘッドシャフト18を回転させ、研磨ヘッド7は研磨ヘッドシャフト18とともに回転する。このようにして、研磨ヘッド7は、その軸心を中心として矢印で示す方向に研磨ヘッド回転モータ20により回転される。
【0018】
研磨装置1は、研磨パッド2および研磨テーブル5をそれらの軸心を中心に回転させるテーブル回転モータ21をさらに備えている。テーブル回転モータ21は研磨テーブル5の下方に配置されており、研磨テーブル5は、テーブル軸5aを介してテーブル回転モータ21に連結されている。研磨テーブル5および研磨パッド2は、テーブル回転モータ21によりテーブル軸5aを中心に矢印で示す方向に回転されるようになっている。研磨パッド2および研磨テーブル5の軸心は、テーブル軸5aの軸心に一致する。研磨パッド2は、研磨テーブル5の上面に貼り付けられている。研磨パッド2の上面はウェーハなどのワークピースWを研磨する研磨面2aを構成している。
【0019】
研磨ヘッドシャフト18は、昇降機構24により研磨ヘッド揺動アーム16に対して相対的に上下動可能であり、この研磨ヘッドシャフト18の上下動により研磨ヘッド7が研磨ヘッド揺動アーム16に対して相対的に上下動可能となっている。研磨ヘッドシャフト18の上端にはロータリージョイント25が取り付けられている。
【0020】
研磨装置1は、研磨ヘッド7を研磨面2a上で揺動させる研磨ヘッド揺動モータ22をさらに備えている。この研磨ヘッド揺動モータ22は研磨ヘッド揺動アーム16に連結されている。研磨ヘッド揺動アーム16は支軸14を中心に旋回可能に構成されている。研磨ヘッド揺動モータ22は、研磨ヘッド揺動アーム16を支軸14を中心に時計回りおよび反時計回りに所定の角度だけ旋回させることにより、研磨ヘッド7は、ワークピースWを研磨パッド2の研磨面2aに押し付けながら、研磨パッド2上で揺動する。
【0021】
本実施形態では、研磨ヘッド揺動モータ22は支軸14の上端に設置され、支軸14を回転させずに研磨ヘッド揺動アーム16を旋回させるように配置されている。一実施形態では、研磨ヘッド揺動アーム16は支軸14に固定され、研磨ヘッド揺動モータ22は、支軸14を研磨ヘッド揺動アーム16とともに回転させるように支軸14に連結されてもよい。
【0022】
研磨ヘッドシャフト18および研磨ヘッド7を昇降させる昇降機構24は、研磨ヘッドシャフト18を回転可能に支持する軸受26と、軸受26が固定されたブリッジ28と、ブリッジ28に取り付けられたボールねじ機構32と、支柱30により支持された支持台29と、支持台29に固定されたサーボモータ38とを備えている。サーボモータ38を支持する支持台29は、支柱30を介して研磨ヘッド揺動アーム16に連結されている。
【0023】
ボールねじ機構32は、サーボモータ38に連結されたねじ軸32aと、このねじ軸32aが螺合するナット32bとを備えている。ナット32bはブリッジ28に固定されている。研磨ヘッドシャフト18は、ブリッジ28と一体となって昇降(上下動)するようになっている。したがって、サーボモータ38がボールねじ機構32を駆動すると、ブリッジ28が上下動し、これにより研磨ヘッドシャフト18および研磨ヘッド7が上下動する。
【0024】
ワークピースWの研磨は次のようにして行われる。研磨ヘッド7および研磨テーブル5をそれぞれ回転させながら、研磨テーブル5の上方に設けられたスラリー供給ノズル8からスラリーを研磨パッド2の研磨面2a上に供給する。研磨パッド2はその軸心を中心に研磨テーブル5と一体に回転する。研磨ヘッド7は昇降機構24により所定の研磨位置まで下降される。さらに、研磨ヘッド7は上記研磨位置でワークピースWを研磨パッド2の研磨面2aに押し付ける。スラリーが研磨パッド2の研磨面2a上に存在した状態で、ワークピースWは研磨パッド2の研磨面2aに摺接される。ワークピースWの表面は、スラリーの化学的作用と、スラリーに含まれる砥粒の機械的作用との組み合わせにより、研磨される。
【0025】
研磨装置1は、研磨パッド2の研磨面2aをドレッシングするドレッサ50と、ドレッサ50が連結されるドレッサシャフト51と、ドレッサシャフト51の上端に設けられたドレッサ押圧アクチュエータとしてのエアシリンダ53と、ドレッサシャフト51を回転可能に支持するドレッサ揺動アーム55と、ドレッサ揺動アーム55が固定された支軸58をさらに備えている。
【0026】
ドレッサ50の下面はドレッシング面50aを構成し、このドレッシング面50aは砥粒(例えば、ダイヤモンド粒子)から構成されている。エアシリンダ53は、支柱56により支持された支持台57上に配置されており、これらの支柱56はドレッサ揺動アーム55に固定されている。エアシリンダ53は、ドレッサシャフト51を介してドレッサ50に連結されている。エアシリンダ53は、ドレッサシャフト51およびドレッサ50を一体に上下動させ、ドレッサ50のドレッシング面50aを所定の力で研磨パッド2の研磨面2aに押し付けるように構成されている。エアシリンダ53に代えて、サーボモータおよびボールねじ機構との組み合わせをドレッサ押圧アクチュエータに用いてもよい。
【0027】
研磨装置1は、ドレッサ50をその軸心を中心に回転させるドレッサ回転モータ60をさらに備えている。このドレッサ回転モータ60は、ドレッサ揺動アーム55内に配置されており、ベルトおよびプーリ等から構成されるトルク伝達機構(図示せず)を介してドレッサシャフト51に連結されている。ドレッサ50はドレッサシャフト51の下端に連結されている。ドレッサ回転モータ60は、上記トルク伝達機構を介してドレッサシャフト51を回転させ、ドレッサ50はドレッサシャフト51とともに回転する。このようにして、ドレッサ50はその軸心を中心に矢印で示す方向にドレッサ回転モータ60により回転される。
【0028】
研磨装置1は、ドレッサ50を研磨面2a上で揺動させるドレッサ揺動モータ63をさらに備えている。このドレッサ揺動モータ63は支軸58に連結されている。ドレッサ揺動アーム55は支軸58を中心として支軸58とともに旋回可能に構成されている。ドレッサ揺動モータ63は、ドレッサ揺動アーム55を支軸58を中心に時計回りおよび反時計回りに所定の角度だけ旋回させることにより、ドレッサ50は、そのドレッシング面50aを研磨パッド2の研磨面2aに押し付けながら、研磨パッド2上で研磨パッド2の半径方向に揺動する。
【0029】
本実施形態では、ドレッサ揺動アーム55は支軸58に固定され、ドレッサ揺動モータ63は、支軸58をドレッサ揺動アーム55とともに回転させるように支軸58に連結されている。一実施形態では、ドレッサ揺動モータ63は支軸58の上端に設置され、支軸58を回転させずにドレッサ揺動アーム55を旋回させるように配置されてもよい。
【0030】
研磨パッド2の研磨面2aのドレッシングは次のようにして行われる。ワークピースWの研磨中、ドレッサ50は、ドレッサシャフト51を中心に回転しながら、ドレッサ50のドレッシング面50aはエアシリンダ53により研磨面2aに押し付けられる。研磨面2a上にスラリーが存在した状態で、ドレッサ50は研磨面2aに摺接される。ドレッサ50が研磨面2aに摺接されている間、ドレッサ揺動モータ63は、ドレッサ揺動アーム55を支軸58を中心に時計回りおよび反時計回りに所定の角度だけ旋回させて、ドレッサ50を研磨パッド2の半径方向に移動させる。このようにして、ドレッサ50により研磨パッド2が削り取られ、研磨面2aがドレッシング(再生)される。
【0031】
本実施形態では、研磨面2aのドレッシングはワークピースWの研磨中に行われるが、一実施形態では、研磨面2aのドレッシングは、ワークピースWの研磨後に行われてもよい。この場合は、ドレッシング中、スラリーに代えて、純水が研磨面2a上に供給されてもよい。
【0032】
図2は、
図1に示す研磨ヘッド7の断面図である。研磨ヘッド7は、研磨ヘッドシャフト18に固定されたキャリア71と、キャリア71の下方に配置されたリテーナリング72とを備えている。キャリア71の下部には、ワークピースWに当接する柔軟なメンブレン(弾性膜)74が保持されている。メンブレン74とキャリア71との間には、4つの圧力室G1,G2,G3,G4が形成されている。圧力室G1,G2,G3,G4はメンブレン74とキャリア71とによって形成されている。中央の圧力室G1は円形であり、他の圧力室G2,G3,G4は環状である。これらの圧力室G1,G2,G3,G4は、同心上に配列されている。一実施形態では、4つよりも多い圧力室が設けられてもよく、あるいは、4つよりも少ない圧力室が設けられてもよい。
【0033】
圧力室G1,G2,G3,G4にはそれぞれ流体路F1,F2,F3,F4を介して気体供給源77により圧縮空気等の圧縮気体が供給されるようになっている。ワークピースWは、メンブレン74によって研磨パッド2の研磨面2aに押し付けられる。より具体的には、圧力室G1,G2,G3,G4内の圧縮気体の圧力は、メンブレン74を介してワークピースWに作用し、ワークピースWを研磨面2aに対して押し付ける。圧力室G1,G2,G3,G4の内部圧力は独立して変化させることが可能であり、これにより、ワークピースWの対応する4つの領域、すなわち、中央部、内側中間部、外側中間部、および周縁部に対する研磨圧力を独立に調整することができる。圧力室G1,G2,G3,G4は、流体路F1,F2,F3,F4を介して図示しない真空源に連通している。
【0034】
キャリア71とリテーナリング72との間には、環状のローリングダイヤフラム76が配置されおり、このローリングダイヤフラム76の内部には圧力室G5が形成されている。圧力室G5は、流体路F5を介して上記気体供給源77に連通している。気体供給源77は圧縮気体を圧力室G5内に供給し、圧力室G5内の圧縮気体はリテーナリング72を研磨パッド2の研磨面2aに対して押圧する。
【0035】
ワークピースWの周端部およびメンブレン74の下面(すなわちワークピース押圧面)はリテーナリング72に囲まれている。ワークピースWの研磨中、リテーナリング72は、ワークピースWの外側で研磨パッド2の研磨面2aを押し付け、研磨中にワークピースWが研磨ヘッド7から飛び出すことを防止している。
【0036】
流体路F1,F2,F3,F4,F5は、圧力室G1,G2,G3,G4,G5からロータリージョイント25を経由して気体供給源77に延びている。流体路F1,F2,F3,F4,F5には、圧力レギュレータR1,R2,R3,R4,R5がそれぞれ取り付けられている。気体供給源77からの圧縮気体は、圧力レギュレータR1~R5、ロータリージョイント25、および流体路F1~F5を通って圧力室G1~G5内に供給される。
【0037】
圧力レギュレータR1,R2,R3,R4,R5は、圧力室G1,G2,G3,G4,G5内の圧力を制御するように構成されている。圧力レギュレータR1,R2,R3,R4,R5は動作制御部80に接続されている。動作制御部80は演算システム47に接続されている。流体路F1,F2,F3,F4,F5は大気開放弁(図示せず)にも接続されており、圧力室G1,G2,G3,G4,G5を大気開放することも可能である。
【0038】
動作制御部80は、各圧力室G1~G5の目標圧力値を生成するように構成されている。動作制御部80は目標圧力値を上記圧力レギュレータR1~R5に送り、圧力室G1~G5内の圧力が対応する目標圧力値に一致するように圧力レギュレータR1~R5が作動する。複数の圧力室G1,G2,G3,G4を持つ研磨ヘッド7は、研磨の進捗に基づいてワークピースWの表面上の各領域を独立に研磨パッド2に押圧できるので、ワークピースWの膜を均一に研磨することができる。
【0039】
ワークピースWの研磨中は、研磨ヘッド7は基準高さに維持される。研磨ヘッド7の基準高さは、研磨パッド2の研磨面2aに対する研磨ヘッド7の全体の相対的な高さである。研磨ヘッド7が基準高さにある状態で、圧力室G1,G2,G3,G4,G5に圧縮気体が供給される。圧力室G1,G2,G3,G4を形成するメンブレン74は、ワークピースWを研磨パッド2の研磨面2aに対して押し付け、圧力室G5を形成するローリングダイヤフラム76は、リテーナリング72を研磨パッド2の研磨面2aに対して押し付ける。
【0040】
図1に戻り、化学機械研磨システムは、ワークピースWの研磨をシミュレートし、ワークピースWの推定研磨物理量を算定するためのシミュレーションモデルを備えた演算システム47をさらに備えている。演算システム47は研磨装置1に電気的に接続されている。より具体的には、演算システム47は動作制御部80に接続されている。シミュレーションモデルは、研磨テーブル5、研磨ヘッド7、ドレッサ50を含む上述した研磨装置1を模した仮想的な研磨装置を表現する。実際の研磨装置1と、仮想空間上に構築された仮想的な研磨装置であるシミュレーションモデルは、デジタルツインを構成する。このようなデジタルツインを活用し、シミュレーションを行った結果を、実世界にフィードバックし、最適な制御を行う(例えば、より平坦にワークピースを研磨できるように制御を行う)システムは、サイバーフィジカルシステムと呼ばれる。
【0041】
予め設定された研磨条件をシミュレーションモデルに入力すると、シミュレーションモデルは、仮想的な研磨装置を用いたワークピースWの仮想的な化学機械研磨を実行し、ワークピースWの推定研磨レートなどの推定研磨物理量を出力する。研磨条件の例としては、研磨テーブル5の回転速度[min-1またはrad/s]、研磨ヘッド7の回転速度[min-1またはrad/s]、ワークピースWから研磨パッド2の研磨面2aに加えられる圧力[Pa]、リテーナリング72から研磨パッド2の研磨面2aに加えられる圧力[Pa]、研磨ヘッド7と研磨パッド2との相対位置、ドレッサ50の回転速度[min-1またはrad/s]、ドレッサ50から研磨パッド2の研磨面2aに加えられる圧力[Pa]、ドレッサ50と研磨パッド2との相対位置、スラリー供給の位置および流量などが挙げられる。研磨レートは、単位時間当たりに除去されるワークピースWの表面材料の量として定義され、材料除去レートとも呼ばれる。
【0042】
演算システム47は、プログラムおよびシミュレーションモデルが格納された記憶装置47aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する処理装置47bを備えている。記憶装置47aは、RAMなどの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。処理装置47bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、演算システム47の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0043】
演算システム47は、少なくとも1台のコンピュータから構成されている。前記少なくとも1台のコンピュータは、1台のサーバまたは複数台のサーバであってもよい。演算システム47は、エッジサーバであってもよいし、インターネットまたはローカルエリアネットワークなどの通信ネットワークに接続されたクラウドサーバであってもよいし、あるいはネットワーク内に設置されたフォグサーバであってもよい。演算システム47は、インターネットまたはローカルエリアネットワークなどの通信ネットワークにより接続された複数のサーバであってもよい。例えば、演算システム47は、エッジサーバとクラウドサーバとの組み合わせであってもよい。
【0044】
シミュレーションモデルは、推定研磨物理量を出力する物理モデルから少なくとも構成されている。シミュレーションモデルは、記憶装置47a内に格納されている。物理モデルは、研磨レートモデルと研磨トルクモデルを少なくとも含む。研磨レートモデルは、推定研磨物理量の一例である推定研磨レートを算定するための物理モデルである。研磨トルクモデルは、研磨パッド2の摺動抵抗に起因して研磨装置1の各機械要素に必要とされるトルクの推定値を算定するための物理モデルである。トルクの推定値も、推定研磨レートと同様に、推定研磨物理量の一例である。トルクの具体例としては、研磨ヘッド7およびワークピースWを研磨ヘッド7の軸心を中心に回転させる研磨ヘッド回転トルク、研磨パッド2(または研磨テーブル5)をその軸心を中心に回転させる研磨パッド回転トルク、ドレッサ50をその軸心を中心に回転させるドレッサ回転トルク、ドレッサ50を研磨パッド2上で揺動させるために必要な揺動軸心周りのドレッサ揺動トルク、研磨ヘッド7を研磨パッド2上で揺動させるために必要な揺動軸心周りのヘッド揺動トルクが挙げられる。
【0045】
シミュレーションモデルは、複数のモデルパラメータを含む。これらのモデルパラメータは、研磨条件(例えば、研磨圧力、研磨ヘッド7の回転速度、研磨パッド2の回転速度)によって定まる既知のモデルパラメータと、ワークピースWの摩擦係数などの未知のモデルパラメータを含む。未知のモデルパラメータが決まれば、研磨条件をシミュレーションモデルに入力することで、ワークピースWの推定研磨物理量(推定研磨レートおよび種々のトルクの推定値)をシミュレーションモデルから出力することができる。
【0046】
ワークピースWの実際の研磨レート、およびワークピースWの研磨中に必要とされる種々のトルクの測定値を含む実測研磨物理量は、実測データから求めることができる。そこで、演算システム47は、実際の研磨によって得られた実測研磨物理量を同定パラメータとして用いて、シミュレーションモデルの未知のモデルパラメータを同定するように構成されている。未知のモデルパラメータの同定は、未知のモデルパラメータを最適値に近づけることである。
【0047】
演算システム47の記憶装置47aに格納されているプログラムには、未知のモデルパラメータを同定するための同定プログラムが含まれている。演算システム47は、同定プログラムに含まれる命令に従って動作し、ワークピースの推定研磨物理量をワークピースの実測研磨物理量に近づけるためのシミュレーションモデルのモデルパラメータを決定する。ワークピースの実測研磨物理量は、ワークピースの実測研磨レート、およびトルクの測定値を含む。ワークピースの推定研磨物理量は、ワークピースの推定研磨レート、およびトルクの推定値を含む。
【0048】
研磨装置1は、少なくとも1枚のワークピースを所定の研磨条件下で研磨し、演算システム47はワークピースの研磨から決定された実測研磨物理量を取得し、実測研磨物理量を記憶装置47a内に記憶する。上記所定の研磨条件は、例えば、ワークピースの実研磨条件としてもよいし、あらかじめ設定したテスト研磨用の研磨条件でもよい。研磨中に研磨条件を動的に変化させてもよく、この場合、同定精度の向上や高度な基底関数を利用可能となることがある。実測研磨物理量には、ワークピースの実測研磨レート、ワークピースを研磨しているときの研磨ヘッド7、研磨パッド2(研磨テーブル5)、およびドレッサ50のトルクの測定値が含まれる。トルクの測定値は、図示しないトルクメータの測定値などのトルクを直接的に示す値であってもよいし、または研磨ヘッド回転モータ20、テーブル回転モータ21、およびドレッサ回転モータ60に供給されるトルク電流値、またはトルク電流を用いて算定されたトルク推定値など、トルクを間接的に示す値であってもよい。一例では、トルクの測定値は、機械構造の機構モデルとモータ電流および加減速物理量のインプロセス情報からモデルベースで研磨トルクを間接的に推定する値であってもよい。研磨ヘッド回転モータ20、テーブル回転モータ21、およびドレッサ回転モータ60は、研磨ヘッド7、研磨テーブル5、およびドレッサ50をそれぞれ予め定められた一定の速度で回転させるように制御される。したがって、研磨ヘッド7、研磨パッド2、およびドレッサ50に作用する摺動抵抗が大きくなると、トルク電流も大きくなる。
【0049】
図3は、シミュレーションモデルの未知のモデルパラメータを同定する方法を説明するフローチャートである。
ステップ1では、
図1に示す研磨装置1は、少なくとも1枚のワークピースを所定の研磨条件下で研磨する。
ステップ2では、演算システム47は、ワークピースの実研磨から得られた実測データから、実測研磨物理量を決定する。より具体的には、演算システム47は、ワークピースの実測研磨レートを算定し、さらにワークピースを研磨しているときに生じた各種トルクの測定値を取得する。実測研磨レートは、ワークピースの初期膜厚と、研磨されたワークピースの膜厚との差を、研磨時間で割り算することにより算定することができる。各種トルクの測定値は、例えば、研磨ヘッド回転モータ20、テーブル回転モータ21、およびドレッサ回転モータ60に供給されるトルク電流である。これらの実測研磨物理量は、記憶装置47a内に格納される。
【0050】
ステップ3では、演算システム47は、記憶装置47a内に格納されている未知のモデルパラメータの初期値をシミュレーションモデルに入力する。
ステップ4では、演算システム47は、ワークピースの研磨条件をシミュレーションモデルに入力し、前記ワークピースの推定研磨物理量を、ステップ2で得られた実測研磨物理量に近づけるモデルパラメータを決定する。このステップ4は、推定研磨物理量を実測研磨物理量に近づけることができる未知のモデルパラメータを同定する工程である。
ステップ5では、演算システム47は、シミュレーションモデルの現在のモデルパラメータを、ステップ4で決定されたモデルパラメータに置き換え、シミュレーションモデルを更新する。
ステップ6では、演算システム47は、ステップ4で用いた研磨条件を、更新されたシミュレーションモデルに入力し、推定研磨物理量をシミュレーションモデルから出力することで、推定研磨物理量を更新する。
【0051】
ステップ7では、演算システム47は、更新された推定研磨物理量と、対応する実測研磨物理量との差を算定する。
ステップ8では、演算システム47は、上記差を評価する。ステップ5からステップ8までの工程は、決定されたモデルパラメータを評価する工程である。上記差が所定のしきい値以上である場合は、演算システム47は、ステップ4からステップ8までを繰り返す。上記差がしきい値よりも小さい場合は、演算システム47は、モデルパラメータの決定動作を終了する。一実施形態では、演算システム47は、ステップ4からステップ8までを繰り返した回数を計数し、繰り返した回数が所定値以上(またはステップ4からステップ8までを繰り返した計算時間が所定値以上)である場合、および/または上記差がしきい値よりも小さい場合は、演算システム47は、モデルパラメータの決定動作を終了する。
【0052】
演算システム47は、記憶装置47a内に格納されている同定プログラムに含まれる、最小二乗法、最急降下法、シンプレックス法などのアルゴリズムに従って、推定研磨物理量を実測研磨物理量に近づけるためのモデルパラメータを決定する。
図3に示すフローチャートに従って最終的に決定されたモデルパラメータを有するシミュレーションモデルは、記憶装置47a内に格納される。
【0053】
次に、シミュレーションモデルについて説明する。上述したように、シミュレーションモデルは、ワークピースWの推定研磨レートを算定するための研磨レートモデルと、研磨パッド2の摺動抵抗に起因して生じるトルクの推定値を算定するための研磨トルクモデルを含む。
【0054】
研磨レートモデルは、例えば、プレストンの法則に基づいて、次のように表される。
研磨レートMMR=kp p |V|=β Wμ p |V| …(1)
ここで、kpはプレストン係数であり、pはワークピースWの研磨パッド2に対する圧力であり、VはワークピースWと研磨パッド2との相対速度であり、βは比例定数(トルク定数)であり、WμはワークピースWの摩擦係数である。
【0055】
プレストン係数kpはワークピースWの摩擦係数Wμに比例すると仮定して上記式(1)が設定されている。言い換えれば、ワークピースWの研磨レートMMRは、ワークピースWの摩擦係数Wμと相関がある、と仮定している。
【0056】
上記式(1)において、比例定数βおよび摩擦係数Wμは、未知のモデルパラメータであり、その一方で圧力pおよび相対速度Vは研磨条件から与えられる既知のモデルパラメータである。したがって、比例定数βおよび摩擦係数Wμが分かれば、上記式(1)から研磨レートの推定値、すなわち推定研磨レートが求められる。
【0057】
次に、研磨トルクモデルについて説明する。研磨トルクモデルは、ワークピースWの研磨中に研磨装置に必要とされる機械トルクの推定値を算定するための物理モデルである。ワークピースWの研磨中、研磨パッド2の研磨面2aにはいくつかの摺動抵抗が作用する。1つは、研磨ヘッド7(ワークピースW含む)と研磨パッド2との間に生じる摺動抵抗であり、もう1つは、ドレッサ50と研磨パッド2との間に生じる摺動抵抗である。これらの摺動抵抗に依存して、研磨ヘッド1、研磨パッド2、およびドレッサ50をそれぞれの設定速度で回転させるために必要なトルクが変わる。
【0058】
研磨トルクモデルは、研磨パッド2上の研磨ヘッド7およびワークピースWを研磨ヘッド7の軸心(研磨ヘッドシャフト18の軸心に一致する)を中心に回転させる研磨ヘッド回転トルクの推定値を算定するヘッド回転トルクモデルと、研磨パッド2をその軸心(テーブル軸5aの軸心に一致する)を中心に回転させる研磨パッド回転トルクの推定値を算定するパッド回転トルクモデルを少なくとも含む。
【0059】
ワークピースWの研磨中、研磨ヘッド7およびワークピースWが回転しながら、ワークピースWおよびリテーナリング72は研磨パッド2に押し付けられる。ヘッド回転トルクモデルは、リテーナリング72と研磨パッド2との摩擦、およびワークピースWと研磨パッド2との摩擦の両方に抗いながら所定の速度で研磨ヘッド7をその軸心を中心に回転させるために必要なトルクの推定値を算定するための物理モデルである。
【0060】
本実施形態では、研磨パッド2の研磨面2aのドレッシングは、ワークピースWの研磨中に実行される。したがって、ワークピースWの研磨中に、研磨ヘッド7のリテーナリング72、ワークピースW、およびドレッサ50は、研磨パッド2に接触する。結果として、研磨パッド回転トルクは、リテーナリング72、ワークピースW、およびドレッサ50の研磨パッド2に対する摩擦に依存する。パッド回転トルクモデルは、リテーナリング72と研磨パッド2との摩擦、ワークピースWと研磨パッド2との摩擦、およびドレッサ50と研磨パッド2との摩擦に抗いながら研磨パッド2(すなわち研磨テーブル5)を所定の速度で回転させるために必要なトルクの推定値を算定するための物理モデルである。
【0061】
図4は、研磨パッド2上の研磨ヘッド7、ワークピースW、およびドレッサ50上の速度ベクトルを示す模式図である。
図4に示す各記号は次のように定義される。
ワークピースWまたはリテーナリング72上の点A1における研磨パッド2の回転方向の速度ベクトル:V
PH
研磨パッド2の中心C1から点A1への位置ベクトル:r
PH
研磨ヘッド7の中心C2から点A1への位置ベクトル:r
Hr
点A1における研磨ヘッド7の回転方向の速度ベクトル:V
Hr
点A1における研磨ヘッド7の揺動方向の速度ベクトル:V
Ho
点A1における研磨ヘッド7の合成速度ベクトル:V
H=V
Hr+V
Ho
研磨ヘッド7の揺動軸心:OH(支軸14の軸心に一致する)
研磨ヘッド7の揺動軸心OHから点A1への位置ベクトル:r
Ho
【0062】
ドレッサ50上の点A2における研磨パッド2の回転方向の速度ベクトル:VPD
研磨パッド2の中心C1から点A2への位置ベクトル:rPD
ドレッサ50の中心C3から点A2への位置ベクトル:rDr
点A2におけるドレッサ50の回転方向の速度ベクトル:VDr
点A2におけるドレッサ50の揺動方向の速度ベクトル:VDo
点A2におけるドレッサ50の合成速度ベクトル:VD=VDr+VDo
ドレッサ50の揺動軸心:OD(支軸58の軸心に一致する)
ドレッサ50の揺動軸心ODから点A2への位置ベクトル:rDo
【0063】
点A1における研磨パッド2に対する研磨ヘッド7の相対速度ベクトル:VPH-H=VH-VPH
相対速度ベクトルVPH-Hの単位ベクトル:uVPH-H=VPH-H/|VPH-H|
点A1における研磨ヘッド7に対する研磨パッド2の相対速度ベクトル:VH-PH=VPH-VH
相対速度ベクトルVH-PHの単位ベクトル:uVH-PH=VH-PH/|VH-PH|
点A2における研磨パッド2に対するドレッサ50の相対速度ベクトル:VPD-D=VD-VPD
相対速度ベクトルVPD-Dの単位ベクトル:uVPD-D=VPD-D/|VPD-D|
点A2におけるドレッサ50に対する研磨パッド2の相対速度ベクトル:VD-PD=VPD-VD
相対速度ベクトルVD-PDの単位ベクトル:uVD-PD=VD-PD/|VD-PD|
【0064】
次に、パッド回転トルクモデルについて
図5を参照しながら説明する。
ワークピースWの微小面積ds
Wと研磨パッド2との間に作用する摺動抵抗dF
PW(ベクトルを表す)は次のように求められる。
摺動抵抗dF
PW=
Wμ
Wp ds
W uV
PH-H …(2)
ここで、
WμはワークピースWの摩擦係数であり、
Wpは研磨パッド2に対するワークピースWの圧力であり、ds
WはワークピースWの微小面積であり、uV
PH-Hは研磨パッド2に対する研磨ヘッド7の相対速度ベクトルの単位ベクトルである。
【0065】
リテーナリング72の微小面積dsRと研磨パッド2との間に作用する摺動抵抗dFPR(ベクトルを表す)は次のように求められる。
摺動抵抗dFPR=Rμ Rp dsR uVPH-H …(3)
ここで、Rμはリテーナリング72の摩擦係数であり、Rpは研磨パッド2に対するリテーナリング72の圧力であり、dsRはリテーナリング72の微小面積であり、uVPH-Hは研磨パッド2に対する研磨ヘッド7の相対速度ベクトルの単位ベクトルである。
【0066】
ドレッサ50の微小面積dsDと研磨パッド2との間に作用する摺動抵抗dFPD(ベクトルを表す)は次のように求められる。
摺動抵抗dFPD=Dμ Dp dsD uVPD-D …(4)
ここで、Dμはドレッサ50の摩擦係数であり、Dpは研磨パッド2に対するドレッサ50の圧力であり、dsDはドレッサ50の微小面積であり、uVPD-Dは研磨パッド2に対するドレッサ50の相対速度ベクトルの単位ベクトルである。
【0067】
ワークピースWの微小面積dsW、リテーナリング72の微小面積dsR、およびドレッサ50の微小面積dsDでの摺動抵抗に起因して研磨パッド2の中心C1に作用する微小トルクは次の通りである。
微小トルク dNPW=rPH×dFPW …(5)
dNPR=rPH×dFPR …(6)
dNPD=rPD×dFPD …(7)
ここで、記号×は、ベクトルの外積を表す。
【0068】
ワークピースWの微小面積dsWの位置、リテーナリング72の微小面積dsRの位置、およびドレッサ50の微小面積dsDの位置を、それぞれ極座標(ri,θj)で表すとすると、研磨パッド回転トルクの推定値を算定するためのパッド回転トルクモデルは、次のように与えられる。
研磨パッド回転トルクPN=ΣiΣjdNPW+ΣiΣjdNPR+ΣiΣjdNPD …(8)
【0069】
研磨パッド2の研磨面2aのドレッシングがワークピースWの研磨中に実行されない場合は、上記式(8)において、ΣiΣjdNPDの項は0となる。
【0070】
次に、研磨ヘッド回転トルクの推定値を算定するヘッド回転トルクモデルについて説明する。
研磨ヘッド7に対する研磨パッド2の相対速度ベクトルは、VH-PH=VPH-VHであり、相対速度ベクトルVH-PHの単位ベクトルはuVH-PH=VH-PH/|VH-PH|である。
ワークピースWが研磨ヘッド7と同じ回転速度[min-1]で回転すると仮定すると、ワークピースWの微小面積dsWおよびリテーナリング72の微小面積dsRに作用する摺動抵抗は次のように表される。
摺動抵抗 dFHW=Wμ Wp dsW uVH-PH …(9)
dFHR=Rμ Rp dsR uVH-PH …(10)
【0071】
ワークピースWの微小面積dsWおよびリテーナリング72の微小面積dsRでの摺動抵抗に起因して研磨ヘッド7の中心C2に作用する微小トルクは次の通りである。
微小トルク dNHrW=rHr×dFHW …(11)
dNHrR=rHr×dFHR …(12)
ここで、rHrは、研磨ヘッド7の中心C2からワークピースWの微小面積dsWへの位置ベクトルであり、研磨ヘッド7の中心C2からリテーナリング72の微小面積dsRへの位置ベクトルでもある。
【0072】
ワークピースWの微小面積dsWの位置、およびリテーナリング72の微小面積dsRの位置をそれぞれ極座標(ri,θj)で表すとすると、研磨ヘッド回転トルクの推定値を算定するためのヘッド回転トルクモデルは、次のように与えられる。
研磨ヘッド回転トルクH
rN=ΣiΣjdNHrW+ΣiΣjdNHrR …(13)
【0073】
本実施形態では、ワークピースWの研磨中に研磨パッド2の研磨面2aのドレッシングが実行される。したがって、上記式(8)に示すように、パッド回転トルクモデルは、ドレッサ50の摺動抵抗に起因するトルクが含まれる。研磨トルクモデルは、ヘッド回転トルクモデルおよびパッド回転トルクモデルに加え、研磨パッド2上のドレッサ50をその軸心を中心に回転させるドレッサ回転トルクの推定値を算定するドレッサ回転トルクモデルをさらに含む。ドレッサ回転トルクモデルは、ドレッサ50と研磨パッド2との摩擦に抗いながらドレッサ50を所定の速度で回転させるために必要なトルクの推定値を算定するための物理モデルである。
【0074】
ドレッサ回転トルクの推定値を算定するためのドレッサ回転トルクモデルは、ヘッド回転トルクモデルと同様にして、次のように与えられる。
摺動抵抗 dFD=Dμ Dp dsD uVD-PD …(14)
微小トルク dNrD=rDr×dFD …(15)
ドレッサ回転トルクD
rN=ΣiΣjdNrD …(16)
ここで、Dμはドレッサ50の摩擦係数であり、Dpは研磨パッド2に対するドレッサ50の圧力であり、uVD-PDはドレッサ50に対する研磨パッド2の相対速度ベクトルの単位ベクトルであり、rDrはドレッサ50の中心C3からドレッサ50の微小面積dsDへの位置ベクトルである。
【0075】
研磨パッド2のドレッシング中、ドレッサ50は研磨パッド2上をその半径方向に揺動する。研磨トルクモデルは、このドレッサ50の揺動に必要なドレッサ50の揺動軸心OD周りのドレッサ揺動トルクの推定値を算定するドレッサ揺動トルクモデルをさらに含む。
ドレッサ揺動トルクモデルは次の式(18)で表される。
微小トルク dN
oD=r
Do×dF
D …(17)
ドレッサ揺動トルク
D
oN=Σ
iΣ
jdN
oD …(18)
ここで、r
Doはドレッサ50の揺動軸心OD(
図4参照)からドレッサ50の微小面積ds
Dへの位置ベクトルである。
【0076】
本実施形態では、ワークピースWの研磨中、研磨ヘッド7は研磨パッド2上を揺動する。研磨トルクモデルは、この研磨ヘッド7の揺動に必要な研磨ヘッド7の揺動軸心OH周りの研磨ヘッド揺動トルクの推定値を算定するヘッド揺動トルクモデルをさらに含む。
ヘッド揺動トルクモデルは次の式(21)で表される。
微小トルク dN
HoW=r
Ho×dF
HW …(19)
dN
HoR=r
Ho×dF
HR …(20)
研磨ヘッド揺動トルク
H
oN=Σ
iΣ
jdN
HoW+Σ
iΣ
jdN
HoR …(21)
ここで、r
Hoは研磨ヘッド7の揺動軸心OH(
図4参照)からワークピースWの微小面積ds
wへの位置ベクトル、および揺動軸心OHからリテーナリング72の微小面積ds
Rへの位置ベクトルである。
【0077】
本実施形態では、研磨トルクモデルは、上記式(8)、(13)、(16)、(18)、(21)を含む。研磨パッド2のドレッシングがワークピースWの研磨中に実行されない場合は、研磨トルクモデルは、式(16)に示されるドレッサ回転トルクモデル、および式(18)に示されるドレッサ揺動トルクモデルを含まない。研磨ヘッド7の揺動がワークピースWの研磨中に実行されない場合は、研磨トルクモデルは、上記式(21)に示されるヘッド揺動トルクモデルを含まない。
【0078】
シミュレーションモデルを構成する上記式(1)、(8)、(13)、(16)、(18)、(21)に含まれる摩擦係数Wμ、Rμ、Dμは、未知のモデルパラメータである。これら未知のモデルパラメータは、後述する同定工程により同定される。
【0079】
ワークピースWの摩擦係数
Wμは、研磨パッド2上に供給されるスラリーに含まれる砥粒の分布に依存して変わりうる。
図6は、ワークピースWの摩擦係数
Wμの分布を示す模式図である。ワークピースWの摩擦係数
Wμの分布は計算により求めることができる。すなわち、ワークピースWの摩擦係数を表す基底関数を定義し、トルクと研磨レートを同時に同定計算することにより、
図6に示すような、ワークピースWの摩擦係数
Wμの分布を求めることができる。
【0080】
ワークピースW上の作用砥粒の数で代表される研磨効率は、ワークピースWの摩擦係数
Wμに比例すると仮定すると、ワークピースWの摩擦係数
Wμの分布は、作用砥粒の分布に置き換えることができる。ここで、作用砥粒とは、スラリーに含まれる砥粒のうち、ワークピースWに接触して相対運動し、ワークピースWの材料除去に寄与している砥粒である。
図6に示すように、摩擦係数
Wμは、ワークピースWの周縁部で大きく、ワークピースWの中心部で小さい。これは、ワークピースWの研磨中、砥粒を含むスラリーはスラリー供給ノズル8(
図1参照)から研磨パッド2上に供給され、ワークピースWの周縁部からワークピースWの被研磨面に流入するからである。また、
図6に示すように、摩擦係数
Wμの分布の中心O1は、ワークピースWの中心から少しずれている。これは、
図1から分かるように、スラリー供給ノズル8は、研磨パッド2の回転方向において、研磨ヘッド7の上流側に位置していることに関連している。
【0081】
図7は、ワークピースW上のある微小領域の位置を説明する図である。
図7において、
W
ra
i(r,θ)はワークピースWの中心C2から微小領域までの位置ベクトルを表し、
W
ra
0は摩擦係数
Wμの分布の中心O1の位置ベクトルを表し、
W
rb
iは摩擦係数
Wμの分布の中心O1から微小領域までの距離を表している。
ワークピースWの摩擦係数
Wμの分布は、次の式で与えられる。
【数1】
ただし、1≦r≦Nr、1≦θ≦N
θ、1≦i≦N
θNr、0≦j≦Njである。Nrは半径方向分割要素数を表し、N
θは円周方向分割要素数を表し、N
θNrは面素(要素)の総数を表し、jは多項式の指数の値を表し、Njは多項式の最大指数を表している。
図7および式(22)では、rとθは、半径および角度を表す物理量ではなく、
図6に示す半径方向および周方向に分布する分割要素の番号(あるいは位置)を特定するための整数である。μ0はワークピースWの中心での摩擦係数である。
【0082】
上記式(22)は、ワークピースWの摩擦係数Wμの分布を表す物理モデルである。本実施形態では、シミュレーションモデルは、上記式(1)、(8)、(13)、(16)、(18)、(21)で示される物理モデルに加え、式(22)で示される物理モデルをさらに含む。式(22)のμ0、W
ra0は未知のモデルパラメータである。
【0083】
次に、研磨パッド2の経時的な劣化が摩擦係数に与える影響について説明する。
図8は、研磨パッド2のトルクと研磨時間との関係を示すグラフである。ワークピースWを実際に研磨している間、研磨パッド2を一定の速度で回転させるために必要なトルクは、
図8の点線で示すように、徐々に低下する。考えられる原因としては、研磨パッド2の表面粗さの変化、研磨パッド2の粘弾性の変化、研磨パッド2の厚さの変化などが挙げられる。
【0084】
これに対し、上記式(8)で示す物理モデルによって算定される研磨パッド2のトルクは、
図8の一点鎖線で示すように、研磨時間にかかわらず一定である。そこで、研磨パッド2の実際のトルク変化をシミュレーションモデルに反映させるために、シミュレーションモデルは、研磨時間の経過に伴って研磨パッド2が劣化することを表現する数理モデルをさらに含む。本実施形態では、研磨パッド2の劣化は、ワークピースWの摩擦係数の低下として表される。
【0085】
ワークピースWの摩擦係数の低下、すなわち研磨パッド2の劣化を表す数理モデルは、次の通りである。
ワークピースWの摩擦係数Wμ=Wμi fp(t)
=Wμi [(α0-α1)exp[-(t-t0)/T]+α1]…(23)
式(23)において、tは研磨時間であり、t0は研磨開始時点であり、Tは時定数である。
【0086】
上述した数理モデルは、ワークピースWの摩擦係数を研磨時間の経過に伴って低下させるためのフィッティング関数f
p(t)を含む。このフィッティング関数f
p(t)は、研磨時間tを変数とする指数関数である。
図9は、フィッティング関数f
p(t)を表すグラフである。
図9の横軸は研磨時間tを表し、縦軸は研磨時間tに従って変化するフィッティング関数f
p(t)の値を表す。式18において、α
0、α
1、t
0、Tは未知のモデルパラメータである。
【0087】
上述の通り、本実施形態のシミュレーションモデルは、ワークピースWの推定研磨レートと研磨装置1の推定トルクを算定する物理モデルと、ワークピースWの摩擦係数の低下を表す1つの数理モデルを含んでいる。このようなシミュレーションモデルは、
図8の実線で示すように、実際のトルクと同じように変化する推定トルクを算定することができる。
【0088】
次に、上述した未知のモデルパラメータRμ、Dμ、μ0、W
ra0、β、α0、α1、t0、Tを同定(決定)する方法について説明する。演算システム47は、実際の研磨によって得られた実測研磨物理量を同定パラメータとして用いて、シミュレーションモデルの未知のモデルパラメータを同定するように構成されている。演算システム47は、記憶装置47a内に格納されている同定プログラムに含まれる命令に従って動作し、最小二乗法、最急降下法、シンプレックス法などのアルゴリズムを用いて、推定研磨物理量を実測研磨物理量に近づけるモデルパラメータを決定する。
【0089】
以下に説明するように、本実施形態では、演算システム47は、最小二乗法を用いてモデルパラメータμ0、Rμ、Dμを決定し、シンプレックス法を用いてモデルパラメータW
ra0、β、α0、α1、t0、Tを決定するように構成されている。ただし、本発明は本実施形態に限らず、最急降下法などの他のアルゴリズムを用いて上記未知のモデルパラメータを決定してもよい。あるいは、最小二乗法のみを用いて、上記未知のモデルパラメータを決定してもよい。
【0090】
一実施形態では、最小二乗法を用いた統合計算モデルは次の通りである。以下の式において、左上付き文字Pは研磨パッド2を表し、左上付き文字Hは研磨ヘッド7を表し、左上付き文字Dはドレッサ50を表し、左下付き文字rは回転を表し、左下付き文字oは揺動を表している。
【数2】
【0091】
上記式(24)の左辺には、ワークピースの実研磨から取得された実測研磨物理量が入力される。未知のモデルパラメータは、最小二乗法を用いて次のように求められる。すなわち、式(24)を展開し、同定したいパラメータXの項を抜き出して、式Y=AXを作成する。さらに、行列Aの疑似逆行列A*を用いた式X=A*Yから最小二乗法によりパラメータXを同定する。これを繰り返すことで、全ての未知パラメータを同定することができる。
【0092】
式(24)の左辺は実研磨から得られた実測データYexpであり、右辺はシミュレーションモデルから得られた推定データYsimである。右辺Ysimは、入力された研磨条件のみで計算可能な左側の行列Aと、右側の摩擦に関する未知パラメータのベクトルXとの乗算AXである。最小二乗法を用い、既知の行列Aの疑似逆行列A*を用いることで、未知パラメータX=A*Yexpを求めることができる。
【0093】
上記式(24)の右辺の係数行列において、以下の式が代入される。
【数3】
【0094】
一実施形態では、シンプレックス法を用いた誤差関数モデルは次の通りである。
【数4】
上記式(30)において、添字expが付いている数値は、トルクおよび研磨レートの実測値を表し、添字simが付いている数値は、シミュレーションモデルから得られた推定値である。w
1、w
2、w
3、w
4は、各物理量の推定誤差に対する重みである。
【0095】
演算システム47は、同定プログラムに従って動作し、上述の未知のモデルパラメータを同定する。演算システム47は、シミュレーションモデルの現在のモデルパラメータを、決定されたモデルパラメータに置き換える。演算システム47は、決定されたモデルパラメータを含むシミュレーションモデルにワークピースの研磨条件を入力し、推定研磨物理量を算定する。
【0096】
さらに、演算システム47は、式(24)に入力した実測研磨物理量と、推定研磨物理量との差を算出し、この差が所定のしきい値よりも小さいか否かを判定する。差がしきい値以上であれば、演算システム47は、他のワークピースの実測研磨物理量を用いて上述した同定を再度実行する。差がしきい値よりも小さければ、演算システム47は、決定されたモデルパラメータを含むシミュレーションモデルを用いて、他のワークピースの推定研磨物理量を算定する。すなわち、演算システム47は、未だ研磨されていないワークピース(例えばウェーハ)の研磨条件を、シミュレーションモデルに入力し、そのワークピースの推定研磨レートをシミュレーションモデルを用いて正確に算定することができる。
【0097】
演算システム47は、推定研磨レートを
図1に示す動作制御部80に送信する。動作制御部80は、推定研磨レートに基づいて、研磨中のワークピースの研磨終点を予測することができる。さらに、動作制御部80は、ワークピースの研磨中に、ワークピース上の推定研磨レートの分布を作成し、推定研磨レートの分布に基づいて、研磨中のワークピースに対する研磨圧力(研磨ヘッド7からワークピースに加える圧力)を制御してもよい。
【0098】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0099】
1 研磨装置
2 研磨パッド
5 研磨テーブル
5a テーブル軸
7 研磨ヘッド
8 スラリー供給ノズル
14 支軸
16 研磨ヘッド揺動アーム
18 研磨ヘッドシャフト
20 研磨ヘッド回転モータ
21 テーブル回転モータ
22 研磨ヘッド揺動モータ
24 昇降機構
25 ロータリージョイント
26 軸受
28 ブリッジ
29 支持台
30 支柱
32 ボールねじ機構
32a ねじ軸
32b ナット
38 サーボモータ
47 演算システム
47a 記憶装置
47b 処理装置
50 ドレッサ
50a ドレッシング面
51 ドレッサシャフト
53 エアシリンダ
55 ドレッサ揺動アーム
56 支柱
57 支持台
58 支軸
60 ドレッサ回転モータ
63 ドレッサ揺動モータ
71 キャリア
72 リテーナリング
74 メンブレン(弾性膜)
76 ローリングダイヤフラム
77 気体供給源
80 動作制御部
W ワークピース
G1,G2,G3,G4,G5 圧力室
F1,F2,F3,F4,F5 流体路
R1,R2,R3,R4,R5 圧力レギュレータ