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特許7465545亜硝酸菌固定化高分子ゲル、亜硝酸菌固定化高分子ゲルの製造方法及び水処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】亜硝酸菌固定化高分子ゲル、亜硝酸菌固定化高分子ゲルの製造方法及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 11/087 20200101AFI20240404BHJP
   C02F 3/10 20230101ALI20240404BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20240404BHJP
   C08J 3/075 20060101ALI20240404BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20240404BHJP
   C08F 20/56 20060101ALI20240404BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C12N11/087
C02F3/10 Z
C02F3/34 101Z
C08J3/075 CEY
C08F8/00
C08F20/56
C08J9/26 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020176279
(22)【出願日】2020-10-20
(65)【公開番号】P2021070821
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2019193931
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健彦
(72)【発明者】
【氏名】金田一 智規
(72)【発明者】
【氏名】中井 智司
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-296284(JP,A)
【文献】特開2019-118909(JP,A)
【文献】特開2010-017639(JP,A)
【文献】特開2006-320831(JP,A)
【文献】特開平07-313970(JP,A)
【文献】特開昭61-068198(JP,A)
【文献】特開昭62-180794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 11/00- 13/00
C02F 3/00- 3/34
C08J 3/00- 3/28
9/00- 9/42
C08F 6/00-246/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端のアミノ基とアクリルアミド基、メタクリルアミド基、アクリル基又はメタクリル基との間に炭素数が2以上のアルキレン鎖を有するアクリルアミドモノマー、メタクリルアミドモノマー、アクリレートモノマー又はメタクリレートモノマーが重合し、末端のアミノ基に炭酸イオン、重炭酸イオン又は水酸化物イオンが付加している高分子ゲルに亜硝酸菌が付着している、
ことを特徴とする亜硝酸菌固定化高分子ゲル。
【請求項2】
前記高分子ゲルは、高分子主鎖中に式5~式8のいずれかで表される構造を備える、
【化1】

(式5~式8中、mは正の実数、nは2以上の整数、Anは炭酸イオン、重炭酸イオン又は水酸化物イオンを表す。)
ことを特徴とする請求項1に記載の亜硝酸菌固定化高分子ゲル。
【請求項3】
前記高分子ゲルが多孔質状である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の亜硝酸菌固定化高分子ゲル。
【請求項4】
末端のアミノ基とアクリルアミド基、メタクリルアミド基、アクリル基又はメタクリル基との間に炭素数が2以上のアルキレン鎖を有するアクリルアミドモノマー、メタクリルアミドモノマー、アクリレートモノマー又はメタクリレートモノマーが重合し、末端のアミノ基に炭酸イオン、重炭酸イオン又は水酸化物イオンが付加している高分子ゲルと亜硝酸菌を含有する液体とを混合し、前記高分子ゲルの内部にて亜硝酸菌を培養する、
ことを特徴とする亜硝酸菌固定化高分子ゲルの製造方法。
【請求項5】
前記アクリルアミドモノマー、前記メタクリルアミドモノマー、前記アクリレートモノマー又は前記メタクリレートモノマーと非イオン性モノマーとが共重合した前記高分子ゲルを用いる、
ことを特徴とする請求項4に記載の亜硝酸菌固定化高分子ゲルの製造方法。
【請求項6】
末端のアミノ基とアクリルアミド基、メタクリルアミド基、アクリル基又はメタクリル基との間に炭素数が2以上のアルキレン鎖を有するアクリルアミドモノマー、メタクリルアミドモノマー、アクリレートモノマー又はメタクリレートモノマーを、亜硝酸菌が介在する液体中で重合し、末端のアミノ基に水酸化物イオンが付加しているとともに、亜硝酸菌が付着した亜硝酸菌固定化高分子ゲルを得る、
ことを特徴とする亜硝酸菌固定化高分子ゲルの製造方法。
【請求項7】
前記アクリルアミドモノマー、前記メタクリルアミドモノマー、前記アクリレートモノマー又は前記メタクリレートモノマーと非イオン性モノマーとを共重合させて前記亜硝酸菌固定化高分子ゲルを合成する、
ことを特徴とする請求項6に記載の亜硝酸菌固定化高分子ゲルの製造方法。
【請求項8】
アンモニア性窒素を含有する被処理水を第1の被処理水と第2の被処理水に分離し、
前記第1の被処理水と請求項1乃至3のいずれか一項に記載の亜硝酸菌固定化高分子ゲルとを接触させてアンモニア性窒素を亜硝酸性窒素に変換し、
前記第1の被処理水、前記第2の被処理水及びアナモックス菌を接触させてアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素から窒素ガスを生成させる、
ことを特徴とする水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜硝酸菌固定化高分子ゲル、亜硝酸菌固定化高分子ゲルの製造方法及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川や海に窒素化合物が含まれた排水が流入すると、いわゆる水の富栄養化が起こり、微生物が異常に増殖することによって水中の酸素が消費され、魚介類を死滅させる。そのため、工場排水や畜産廃水、下水などでは、排水中の窒素化合物が一定のレベルまで取り除かれることが必要である。
【0003】
このような排水の処理施設などでは、排水中に存在する窒素化合物の除去に際し、一般的に、硝化脱窒法と呼ばれる硝化菌(亜硝酸菌(アンモニア酸化細菌)、硝酸菌(亜硝酸酸化細菌))による作用でアンモニア性窒素を亜硝酸性窒素、硝酸性窒素に変換し、脱窒菌による作用で窒素に変換する生物学的方法が用いられている。
【0004】
また、近年では、アナモックス菌を利用した生物学的方法が注目されている(例えば、特許文献1~3)。アナモックス菌は、亜硝酸性窒素とアンモニア性窒素という無機窒素化合物同士のカップリングで窒素ガスに変換する。アナモックス菌を利用した方法では、硝化の際に部分的亜硝酸化でよいため曝気量が少なくてすむこと、脱窒に有機物が不要であることなど、これまでの硝化脱窒法と比較して処理コストの大幅な削減が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-104009号公報
【文献】特開2017-77509号公報
【文献】特開2015-229131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アナモックス菌を利用した水処理方法では、排水中のアンモニア性窒素のおよそ半分を亜硝酸性窒素まで酸化できればよいものの、硝化の際に利用される活性汚泥などには亜硝酸菌と硝酸菌のどちらも生存していることから、生成した亜硝酸性窒素はほどなく硝酸菌によって硝酸性窒素に酸化されてしまう。亜硝酸性窒素で留めるためには、処理槽内を硝酸菌の活性を抑え得るpHに制御するなど、容易に行えるものではない。
【0007】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、アンモニア性窒素を亜硝酸性窒素に変換する際に有用な亜硝酸菌固定化高分子ゲル、亜硝酸菌固定化高分子ゲルの製造方法及び水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点に係る亜硝酸菌固定化高分子ゲルは、
末端のアミノ基とアクリルアミド基、メタクリルアミド基、アクリル基又はメタクリル基との間に炭素数が2以上のアルキレン鎖を有するアクリルアミドモノマー、メタクリルアミドモノマー、アクリレートモノマー又はメタクリレートモノマーが重合し、末端のアミノ基に炭酸イオン、重炭酸イオン又は水酸化物イオンが付加している高分子ゲルに亜硝酸菌が付着している、
ことを特徴とする。
【0009】
また、前記高分子ゲルは、高分子主鎖中に式5~式8のいずれかで表される構造を備える、
【化1】

(式5~式8中、mは正の実数、nは2以上の整数、Anは炭酸イオン、重炭酸イオン又は水酸化物イオンを表す。)
ことが好ましい。
【0010】
また、前記高分子ゲルが多孔質状であることが好ましい。
【0011】
本発明の第2の観点に係る亜硝酸菌固定化高分子ゲルの製造方法は、
末端のアミノ基とアクリルアミド基、メタクリルアミド基、アクリル基又はメタクリル基との間に炭素数が2以上のアルキレン鎖を有するアクリルアミドモノマー、メタクリルアミドモノマー、アクリレートモノマー又はメタクリレートモノマーが重合し、末端のアミノ基に炭酸イオン、重炭酸イオン又は水酸化物イオンが付加している高分子ゲルと亜硝酸菌を含有する液体とを混合し、前記高分子ゲルの内部にて亜硝酸菌を培養する、
ことを特徴とする。
【0012】
また、前記アクリルアミドモノマー、前記メタクリルアミドモノマー、前記アクリレートモノマー又は前記メタクリレートモノマーと非イオン性モノマーとが共重合した前記高分子ゲルを用いてもよい。
【0013】
本発明の第3の観点に係る亜硝酸菌固定化高分子ゲルの製造方法は、
末端のアミノ基とアクリルアミド基、メタクリルアミド基、アクリル基又はメタクリル基との間に炭素数が2以上のアルキレン鎖を有するアクリルアミドモノマー、メタクリルアミドモノマー、アクリレートモノマー又はメタクリレートモノマーを、亜硝酸菌を介在する液体中で重合し、末端のアミノ基に水酸化物イオンが付加しているとともに、亜硝酸菌が付着した亜硝酸菌固定化高分子ゲルを得る、
ことを特徴とする。
【0014】
また、前記アクリルアミドモノマー、前記メタクリルアミドモノマー、前記アクリレートモノマー又は前記メタクリレートモノマーと非イオン性モノマーとを共重合させて前記亜硝酸菌固定化高分子ゲルを合成してもよい。
【0015】
本発明の第4の観点に係る水処理方法は、
アンモニア性窒素を含有する被処理水を第1の被処理水と第2の被処理水に分離し、
前記第1の被処理水と本発明の第1の観点に係る亜硝酸菌固定化高分子ゲルとを接触させてアンモニア性窒素を亜硝酸性窒素に変換し、
前記第1の被処理水、前記第2の被処理水及びアナモックス菌を接触させてアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素から窒素ガスを生成させる、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アンモニア性窒素を亜硝酸性窒素に変換する際に有用な亜硝酸菌固定化高分子ゲル、亜硝酸菌固定化高分子ゲルの製造方法及び水処理方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】水処理方法の被処理水の流れを示す図である。
図2】実施例における高分子ゲルの内部pHを示すグラフである。
図3】実施例における溶液中の亜硝酸イオン濃度の変化を示すグラフ(図3(A))、硝酸イオン濃度の変化を示すグラフ(図3(B))である。
図4図4(A)~(C)は、それぞれDMAPAA-Qゲルを添加した溶液、HCO 置換DMAPAA-Qゲルを添加した溶液、CO 2-置換DMAPAA-Qゲルを添加した溶液中のアンモニウムイオン濃度、亜硝酸イオン濃度、硝酸イオン濃度及びpHの変化を示すグラフである。
図5図5(A)~(C)は、それぞれDMAPAAゲルを添加した溶液、ヒドロキシルアミン置換AMPSゲルを添加した溶液、高分子ゲルを添加しない溶液中のアンモニウムイオン濃度、亜硝酸イオン濃度、硝酸イオン濃度及びpHの変化を示すグラフである。
図6】高分子ゲル内の内部pHを示すグラフである。
図7図7(A)~(C)は、それぞれ高分子ゲル(G25、G75、G125、G500)を培地に投入して反復回分培養を行った際の培地中のNH 濃度、NO 濃度、pHを示すグラフである。
図8】培養後の高分子ゲルについて、硝化細菌検出キットを用い、蛍光顕微鏡にて亜硝酸菌を検出した写真(図8(A))、及び、硝酸菌を検出した写真(図8(B))である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(亜硝酸菌固定化高分子ゲル及び亜硝酸菌固定化高分子ゲルの製造方法)
亜硝酸菌固定化高分子ゲルは、主として、アンモニア性窒素を含有する工場排水や畜産廃水、下水などの水処理方法において、亜硝酸菌の作用によって水中のアンモニウムイオンを亜硝酸イオンに変換する工程にて利用される。
【0019】
亜硝酸菌固定化高分子ゲルは、末端のアミノ基とアクリルアミド基、メタクリルアミド基、アクリル基又はメタクリル基との間に炭素数が2以上のアルキレン鎖を有するアクリルアミドモノマー、メタクリルアミドモノマー、アクリレートモノマー又はメタクリレートモノマーが重合し、末端のアミノ基に炭酸イオン、重炭酸イオン又は水酸化物イオンが付加している高分子ゲルであって、高分子ゲルの内部ネットワーク空間内に亜硝酸菌が固定化(保持)されている。
【0020】
上記の主モノマーとして、例えば、式1~4で表される化合物が挙げられる。式1~式4中のnは2以上の整数、好ましくは3~6である。
【0021】
【化2】
【0022】
水酸化物イオンが付加している高分子ゲルを得る場合、式1、式2で表される主モノマーを用いて重合することで得られる。式1、式2で表される主モノマーを重合して得られた高分子ゲルでは、アミノ基は水中で水分子と反応することでアミノ基がプロトン化し、水酸化物イオンが付加するため、これらの主モノマーを用いて重合するだけで、水酸化物イオンが付加している高分子ゲルが得られる。
【0023】
なお、上記の高分子ゲルにおけるアミノ基のプロトン化は、アミノ基の窒素原子の孤立電子対がプロトン(H)に共有されることによって起こる。この孤立電子対はsp混成軌道に入っており、窒素の原子核からの引力がsp軌道、sp混成軌道より弱いので、カルボニル基が近くにあるとHはカルボニル基に流れ込みやすい。そのため、アルキレン鎖(-(CH-)の長さが短いと(n=0,1)、NがNHになりにくい。nが2以上の場合であり、溶液が酸性でHが豊富に介在する場合では、Hがアミノ基の窒素に作用しやすくなりアミノ基のプロトン化が可能になる。更に、nが3以上であれば、水などの中性溶液においてもアミノ基のプロトン化が生じる。そして、付加した水酸化物イオンは、イオン化した高分子鎖のアミノ基とのイオン性相互作用により、高分子ゲルの外部に拡散しない(Donnan平衡)。このため、高分子ゲル内部が塩基性に保たれる。
【0024】
炭酸イオン、重炭酸イオンが付加している高分子ゲルを得る場合、上記のアミノ基がプロトン化した高分子ゲルや式3、式4で表される主モノマーを重合して得られるアミノ基に塩化物イオンが付加している高分子ゲルを炭酸イオン、重炭酸イオンを含有する液体に介在させる。高分子ゲル中のアミノ基に付加している水酸化物イオン、塩化物イオンが炭酸イオン、重炭酸イオンに置換され、炭酸イオン、重炭酸イオンが付加している高分子ゲルが得られる。また、アミノ基がプロトン化した高分子ゲル、塩化物イオンが付加している高分子ゲルを水に浸漬させ、炭酸ガスを吹き込む方法で行っても得られる。
【0025】
上記の式1~式4で表される主モノマーを重合し、上述した各種陰イオンが付加している高分子ゲルの例として、高分子主鎖中に、式5~式8で表される骨格を備える高分子ゲルが挙げられる。式中、Anは、水酸化物イオン、炭酸イオン、又は、重炭酸イオンを表す。また、mは正の実数を表し、nは上記式1~式4と同義である。なお、高分子ゲルは、架橋剤を用いて重合されていてもよく、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体などの共重合体であってもよい。また、高分子ゲルの強度を上げるために、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンイミンなどの親水性高分子を合成時にモノマー溶液に10重量パーセント混合しても良い。
【0026】
【化3】
【0027】
亜硝酸菌固定化高分子ゲルは、上述した高分子ゲルの内部に亜硝酸菌が付着している。亜硝酸菌の固定化は、例えば、以下のようにすることで行い得る。上述した高分子ゲルに水を吸収させて膨潤させた後、亜硝酸菌を含有する液体に介在させて培養することにより、高分子ゲルの内部に亜硝酸菌を固定化させることができる。また、乾燥状態の高分子ゲルを、亜硝酸菌を含有する活性汚泥等に介在させて培養することでも、高分子ゲルの内部に亜硝酸菌を固定化させることができる。
【0028】
上述した高分子ゲルでは、内部のpHは、硝酸菌の活性が抑えられる一方、亜硝酸菌の活性を促すpHに維持される。このため、高分子ゲルの内部にて、硝酸菌の増殖が抑えられる一方で、亜硝酸菌の増殖が促進されるので、高分子ゲルの内部に亜硝酸菌が選択的に集積培養され、亜硝酸菌が高濃度に付着した亜硝酸菌固定化高分子ゲルが得られる。
【0029】
なお、亜硝酸菌としてNitrosomonas属、Nitrosococcus属など種々の微生物が知られており、亜硝酸菌を含有する液体としては、活性汚泥など公知の亜硝酸菌を含有する液体が利用可能である。また、土壌や活性汚泥等から単離した亜硝酸菌を含有する液体を用いてもよい。
【0030】
亜硝酸菌が固定化される高分子ゲルは、より多くの亜硝酸菌が付着するよう多孔質状であってもよい。多孔質状の高分子ゲルは、たとえば、以下のようにして得られる。上記で合成した高分子ゲルを-5℃以下に保持することで、高分子ゲル中の水分が氷結し、生じた氷によって高分子ゲル中に孔が生じる。次いで高分子ゲルを昇温することによって氷が溶解すると、多孔質状の高分子ゲルが得られる。或いは、上記の高分子ゲルを合成する工程において、重合反応を-5℃以下で行うことにより、氷晶の生成と高分子の重合が同時に起こり、多孔質の高分子ゲルが得られる。このような高分子ゲルを用い、上記方法にて亜硝酸菌を多量に付着させた亜硝酸菌固定化高分子ゲルが得られる。
【0031】
上記では、水酸化物イオンが付加した高分子ゲルを合成する行程、高分子ゲルに亜硝酸菌を固定化させる行程の2工程で亜硝酸菌固定化高分子ゲルを得る方法について説明したが、高分子ゲルを合成する工程において、上記の式1又は2で表される主モノマーの重合を、亜硝酸菌を含有する液体中にて行うことでも、末端のアミノ基に水酸化物イオンが付加しているとともに亜硝酸菌が付着した亜硝酸菌固定化高分子ゲルを得ることができる。
【0032】
炭酸イオン、重炭酸イオンが付加した亜硝酸菌固定化高分子ゲルは、この水酸化物イオンが付加した亜硝酸菌固定化高分子ゲルを炭酸イオン、重炭酸イオンを含有する液体に介在させることで得られる。また、亜硝酸菌を含有する液体中で、上記の式3又は4で表される主モノマーの重合を行い、塩化物イオンが付加しているとともに亜硝酸菌が付着した亜硝酸菌固定化高分子ゲルを合成し、この亜硝酸菌固定化高分子ゲルを炭酸イオン、重炭酸イオンを含有する液体に介在させることでも得られる。
【0033】
また、2種以上のモノマーの配合比を変え、共重合させて高分子ゲル(又は亜硝酸菌固定化高分子ゲル)を合成してもよい。非イオン性モノマーを用い、配合比によって得られる高分子ゲルの内部pHを変えることができる。即ち、高分子ゲルの内部pHを調整することができ、内部pHを亜硝酸菌の至適pHに近づけることにより、亜硝酸菌の活性を高め、高分子ゲル内において亜硝酸菌を集積培養させることができる。なお、非イオン性モノマーは、ジメチルアクリルアミドやN,N-ジメチルメタクリルアミド等、非イオン性のアクリルアミドモノマー、メタクリルアミドモノマー、アクリレートモノマー又はメタクリレートモノマーであればよい。
【0034】
(水処理方法)
続いて、亜硝酸菌固定化高分子ゲルを用いた水処理方法について説明する。水処理方法は、工場排水や畜産廃水、下水などアンモニア性窒素を含有する水から窒素化合物を除去する処理方法である。
【0035】
具体的には、図1に被処理水の流れを示しているように、まず、アンモニア性窒素を含有する被処理水を分離する。
【0036】
分離した一方の被処理水を硝化槽に流入させる。硝化槽には、上述した亜硝酸菌固定化高分子ゲルが投入されており、被処理水と亜硝酸菌固定化高分子ゲルが接触するので、亜硝酸菌固定化高分子ゲルの内部にて、亜硝酸菌の作用によりアンモニア性窒素が亜硝酸性窒素に変換される。
【0037】
次いで、硝化槽から排出された被処理水と硝化槽を通らない被処理水の双方を脱窒槽に流入させる。脱窒槽には、アナモックス菌が介在しており、アンモニア性窒素、亜硝酸性窒素及びアナモックス菌が接触し、アナモックス菌の作用により、窒素ガスに変換される。
【0038】
アナモックス菌は、嫌気条件下でアンモニア性窒素を亜硝酸性窒素で酸化することにより、エネルギーを得ている独立栄養生物であるため、酸素や有機物を必要としない。また、アナモックス菌を利用することにより、硝化の際に部分的亜硝酸化でよいため、硝化の際に要する酸素消費量も抑えられる。
【0039】
一方で、通常の活性汚泥を利用した硝化工程では、亜硝酸菌と硝酸菌が生存しているため、部分的亜硝酸化を行うには、硝酸菌の増殖を抑え、亜硝酸菌を増殖させるべく、pH制御が必要となる。したがって、pHセンサー及びpH調整剤供給装置が必要になり処理装置の複雑化を招き、製造コスト及びランニングコストの増大につながる。
【0040】
本実施の形態に係る水処理方法では、硝化の際に、高分子ゲル内部に亜硝酸菌が高濃度に付着した亜硝酸菌固定化高分子ゲルを用いるため、アンモニア性窒素は亜硝酸性窒素への変換に留まり、硝酸性窒素への変換が抑えられる。このため、水処理に要するコストの低減が可能となり、非常に有用である。
【0041】
なお、アナモックス菌は、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とのモル比が大凡1:1の割合で消費するので、被処理水の分離は、大凡1:1とすることが好ましい。
【実施例
【0042】
表1に示す水溶液1(30mL)、水溶液2(5mL)各々を氷水で冷却しながら窒素曝気(30分間)を行った。モノマーとして、DMAPAA-Q(登録商標)([3-(アクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアミニウム・クロリド)、AMPS(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、DMAPAA(登録商標)([3-(アクリロイルアミノ)プロピル]ジメチルアミン)の3種を用い、それぞれのモノマーを用いた水溶液1を調製した。
【0043】
水溶液1と水溶液2とを混合し、内径6mmのポリテトラフルオロエチレン製のチューブに注入した。このチューブを-18℃の冷凍庫に入れ、24時間重合させた。なお、チューブ内において、ラジカル重合反応で高分子ゲルが合成されるとともに、氷結が起こり、生成した氷晶により、得られる高分子ゲルは多孔質化する。
【0044】
重合が完了した後、チューブから高分子ゲルを取り出し、6mmの長さに切断した。得られた高分子ゲルをそれぞれDMAPAA-Qゲル、AMPSゲル、DMAPAAゲルと記す。
【0045】
DMAPAA-Qゲル(0.02g)を炭酸水素ナトリウム水溶液(0.1mol/L,10mL)に浸漬し、DMAPAA-Qゲルに付加している塩素イオンを炭酸イオンに交換した。この高分子ゲルをHCO 置換DMAPAA-Qゲルと記す。
【0046】
また、DMAPAA-Qゲル(0.02g)を重炭酸ナトリウム水溶液(0.1mol/L,10mL)に浸漬し、DMAPAA-Qゲルに付加している塩素イオンを重炭酸イオンに交換した。この高分子ゲルをCO 2-置換DMAPAA-Qゲルと記す。
【0047】
また、AMPSゲル(0.02g)をNHOH・HCl(ヒドロキシルアミン塩酸塩)(0.1mol/L,10mL)に浸漬し、水素イオンをヒドロキシルアミンに交換した。この高分子ゲルをヒドロキシルアミン置換AMPSゲルと記す。
【0048】
そして、DMAPAA-Qゲル、DMAPAAゲル、HCO 置換DMAPAA-Qゲル、CO 2-置換DMAPAA-Qゲル、ヒドロキシルアミン置換AMPSゲルそれぞれの内部pHを測定した。
【0049】
【表1】
【0050】
(培養実験)
活性汚泥(50mL)を入れた邪魔板付フラスコに、滅菌した5種類の高分子ゲル(DMAPAA-Qゲル、DMAPAAゲル、HCO 置換DMAPAA-Qゲル、CO 2-置換DMAPAA-Qゲル、ヒドロキシルアミン置換AMPSゲル)をそれぞれ投入した。そして、3日間培養を行い、高分子ゲル内部のpH、溶液(活性汚泥)中のNH 濃度、NO 濃度、NO 濃度を測定した。
【0051】
なお、コントロール実験(対照実験)として、高分子ゲルを投入せずに活性汚泥単独の培養も行った。
【0052】
図2に、各高分子ゲルの内部pHを示す。水酸化物イオン、炭酸イオン、重炭酸イオンがそれぞれ付加している高分子ゲル(DMAPAAゲル、HCO 置換DMAPAA-Qゲル、CO 2-置換DMAPAA-Qゲル)では、内部のpHが8.5~12程度の弱アルカリ性であり、亜硝酸菌の至適pHあたりになっている。また、塩化物イオンが付加しているDMAPAA-Qゲルでは、亜硝酸菌の至適pHよりも低くなっている。
【0053】
図3(A)、(B)に、各高分子ゲルを添加した溶液中のNO 濃度、NO 濃度の変化をそれぞれ示す。また、図4(A)~(C)、図5(A)~(C)に、各高分子ゲルを添加した溶液中のNH 濃度、NO 濃度、NO 濃度及びpHの変化を示す。
【0054】
pHが最も低かったヒドロキシルアミン置換AMPSゲルでは、NO 濃度、NO 濃度が変化していない。これは、ヒドロキシルアミン置換AMPSゲルのpHが低く、アンモニアを硝化する硝酸菌、亜硝酸菌がほぼ活動していないことを示している。
【0055】
また、内部pHがほぼ中性のDMAPAA-Qゲルでは、高分子ゲルを添加していない汚泥と同様のNO 濃度、汚泥より高いNO 濃度を示している。これは、亜硝酸菌、硝酸菌が汚泥と同様にアンモニアを硝化しており、更に汚泥のみの場合よりも硝酸菌の活性が高いことを示している。
【0056】
また、高分子ゲルのpHがアルカリ性を示したDMAPAAゲル、HCO 置換DMAPAA-Qゲル、CO 2-置換DMAPAA-Qゲルでは、汚泥のみの場合よりも、亜硝酸濃度は高いものの、硝酸濃度は低くなっている。これは、亜硝酸菌の活性が高い一方、硝酸菌の活性が低いことを示している。即ち、これらの高分子ゲルでは、内部pHが亜硝酸菌の至適pHに維持され、亜硝酸菌の活性を高くするとともに、硝酸菌の活性が抑えられており、亜硝酸菌が集積培養されて高濃度に亜硝酸菌が付着していることがわかる。
【0057】
続いて、亜硝酸菌を含有する液体中にて、高分子ゲルの重合を行った。また、併せて、2種のモノマーを用い、その配合比を変えて高分子ゲルの重合を行った。
【0058】
モノマーとしてDMAPAA(登録商標)、DMAA(登録商標)(アクリロイルジメチルアミン)、促進剤としてメチレンビスアクリルアミド、架橋剤としてテトラエチルメチレンジアミンを20mLの蒸留水に溶解させモノマー溶液を調製した。このモノマー溶液に100μLの汚泥を加え攪拌した。そして、過硫酸アンモニウムを5mLの蒸留水に溶解させた開始剤溶液を加えて混合し、合成温度10℃で3時間合成を行い、亜硝酸菌が付着した高分子ゲルを作製した。
【0059】
なお、表2に示すように、DMAPAA(登録商標)とDMAA(登録商標)の配合比を変え、10種の高分子ゲル(G0、G25、G50、G75、G100、G125、G150、G200、G500、G1000)をそれぞれ作製した。
【0060】
【表2】
【0061】
それぞれの高分子ゲルについて、水中における高分子ゲル内のpHを測定した。その結果を図6に示す。モノマーの配合比によって、内部pHが異なる高分子ゲルが得られることがわかった。
【0062】
pHが7.5、8.0、9.0、9.5の高分子ゲル(G25、G75、G125、G500)を表3に示す組成の培地にそれぞれ投入し、25℃、130rpmで振盪させながら、5~6日を目安に培地を交換する反復回分培養を行った。経時的に培地のpHを測定するとともに、培地中の窒素源の濃度をイオンクロマトグラフィーで測定することで高分子ゲルの硝化活性を比較した。
【0063】
【表3】
【0064】
その結果を図7(A)、(B)、(C)に示す。図7(A)を見ると、培地を交換する前後でグラフの傾きが変わっていることがわかる。培地を交換することで、硝化速度が速くなっていることから、ゲル内にて亜硝酸菌が増殖されていると考えられる。
【0065】
図7(B)から、いずれのゲルにおいても亜硝酸の蓄積が見られた。G500では、他のゲルに比べて硝化の立ち上がりが悪かったが、時間が経つと他のゲルよりも亜硝酸の蓄積量が多くなった。よって、ゲルの内部pHが高いゲルの方が亜硝酸の蓄積に有利なことが確認できた。
【0066】
また、図7(C)から、硝化が進行すると、培地のpHが硝酸菌の至適pH付近に低下している。しかし、亜硝酸の蓄積が維持されていることから、高分子ゲルに亜硝酸菌を固定化することで、外部のpHの影響をあまり受けず、NOBの活性が抑制されたものと考えられる。
【0067】
このように、亜硝酸菌を含有する液体中にて高分子ゲルの合成を行うことによっても、亜硝酸菌固定化高分子ゲルを得られることがわかった。また、主モノマーの配合比を変えて共重合させて高分子ゲルを合成することにより、高分子ゲルの内部pHを亜硝酸菌の至適pHに近づけることができることがわかった。
【0068】
また、培養後の高分子ゲル(G500)をスライスし、硝化細菌検出キットを用いて、高分子ゲル表面の菌体を蛍光顕微鏡で検出した。図8(A)、(B)にそれぞれ亜硝酸菌を染色した写真、硝酸菌を染色した写真を示している。高分子ゲル内に亜硝酸菌は検出された一方、硝酸菌はほぼ検出されていないことがわかる。高分子ゲル内において、硝酸菌の活性が抑えられる一方、亜硝酸菌の活性が高く保たれ、亜硝酸菌が高濃度に集積培養され、固定化されていることが立証された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
工場排水や畜産廃水、下水などアンモニア性窒素を含有する種々の水処理に利用可能である。
図1
図2
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図8