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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ポリアリーレンサルファイド樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20240404BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20240404BHJP
   C08K 5/541 20060101ALI20240404BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240404BHJP
   B29C 45/44 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L23/08
C08K5/541
C08K3/013
B29C45/44
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019141088
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021024883
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】守屋 翔太郎
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-075003(JP,A)
【文献】特開2006-143827(JP,A)
【文献】特開2013-112783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08K 3/00 - 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンサルファイド樹脂を含む樹脂組成物を成形してなり、中空柱状部と、アンダーカット部とを含む成形品であって、
前記樹脂組成物が、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、アルコキシシラン化合物を0.3~0.6質量部と、少なくとも1種のオレフィン系共重合体を4~10質量部とを含み、
前記オレフィン系共重合体のうちの少なくとも1種が反応性基を有するオレフィン系共重合体であり、前記樹脂組成物中における前記オレフィン系共重合体中の反応性基の含有量が5.0mmol/kg以上であり、
記樹脂組成物中の窒素含有量(mmol/kg)に対する、前記オレフィン系共重合体中の反応性基及び前記アルコキシシラン化合物の合計含有量(mmol/kg)の比が0.7~0.95である、ポリアリーレンサルファイド樹脂成形品。
【請求項2】
前記オレフィン系共重合体中の反応性基の含有量が5.0~10.0mmol/kgである、請求項1に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂成形品。
【請求項3】
前記オレフィン系共重合体が、α-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体である、請求項1又は2に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂成形品。
【請求項4】
前記樹脂組成物が、更に、前記ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、無機充填剤を20~100質量部含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂成形品。
【請求項5】
前記樹脂成形品の中空柱状部の長手方向の長さが1~30cmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空柱状部とアンダーカット部とを含むポリアリーレンサルファイド樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下「PPS樹脂」と呼ぶ場合がある)に代表されるポリアリーレンサルファイド樹脂(以下「PAS樹脂」と呼ぶ場合がある)は、高い耐熱性、機械的物性、耐化学薬品性、寸法安定性、難燃性を有していることから、電気・電子機器部品材料、自動車機器部品材料、化学機器部品材料等に広く使用されている。
【0003】
一般に、PAS樹脂において上記のような性能を更に向上させたり、PAS樹脂の短所を補ったりするため、種々の添加物を添加して樹脂組成物として用いられる。例えば、PAS樹脂は、それ自体は脆弱であることから、エラストマー(オレフィン系共重合体)を添加することにより靭性、耐衝撃性の向上が図られている(特許文献1~2参照)。
【0004】
ところが、エラストマーは高温で熱劣化する傾向にあり、その結果、成形時においてモールドデポジット(以下、「MD」とも呼ぶ。)と呼ばれる析出物が増加する原因となる。MDは、金型表面に析出する析出物であり、成形品表面に虫食い状の模様の発生、又は寸法公差はずれや離型不良の原因となる。特許文献3においては、特定のエラストマーを用いることにより、上記のようなMDの増加を抑えている。
【0005】
ところで、水廻り用配管部品などの水廻り向け用途においては、配管やパイプ等の中空柱状形状と、複雑な凹凸形状とを含む成形品が用いられる。そのような形状の成形品は、押出成形により成形することができず、射出成形が採用される。そして、上記のような成形品は形状が複雑であるため、通常、スライドコアを使用した射出成形がなされる。しかし、そのような成形品の成形に用いる金型は内部形状が複雑であるため、熱がこもりやすく、冷却が困難であり、金型温度が上がりやすい。通常の金型温度は140~150℃であるが、スライドコアを使用した射出成形では200℃を超える(例えば210℃)温度まで上昇することがある。そして、そのような高温においてはMDの増加を招き、特許文献3に記載の技術ではMDを抑えることが困難である。
【0006】
一方、MDの増加を抑えるには、その原因と考えられるエラストマーを添加しないか、少量とすることが考えられるが、そうすると靭性、耐衝撃性が低下する。
【0007】
また、PAS樹脂は、成形時にバリが発生しやすい傾向にあり、バリの抑制向上等を図るため、アルコキシシランを添加することが提案されている(特許文献4参照)。しかし、アルコキシシランの添加量が多いと、金型温度が高温になった場合にMDが増加する原因となる。
【0008】
以上より、スライドコアを使用して成形するような複雑な形状を有するPAS樹脂成形品においては金型が通常よりも高温となるため、靭性等を維持しつつ、バリの発生及びMD発生の双方ともに抑えるのは容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-002560公報
【文献】特開2016-147959号公報
【文献】国際公開第2011-70968号
【文献】国際公開第2018-180591号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、中空柱状部と、アンダーカット部とを含むポリアリーレンサルファイド樹脂成形品であっても、靭性を維持しつつ、射出成形時の高温に起因するモールドデポジット及びバリの発生を低減し得るポリアリーレンサルファイド樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、金型温度が高い場合(例えば200℃以上)と低い場合とで、MDが発生するメカニズムが異なることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、高温条件下で発生するMDは、以下の(1)~(3)が原因として推定される。高温条件下では、(1)PAS樹脂の金型への貼り付きが増大する。(2)特に、エラストマー中の反応性基量が多いほど、PAS樹脂の金型への貼り付きが促進する。(3)特に、アルコキシシランを過剰に添加した場合、過剰なアルコキシシランによる反応阻害に起因して、PAS樹脂とエラストマーとの界面の密着力が低下し、PAS樹脂の金型への貼り付きが促進する。これに対して、非高温条件(例えば200℃未満)で発生するMDは、ガス成分を主な由来とする。実際にMDを分析した結果から、非高温条件では、MD成分がPAS樹脂及びエラストマーであったのに対し、高温条件ではPAS樹脂が主成分となっていることが確認された。すなわち、温度条件によって、MDの発生メカニズムが異なり、非高温条件の場合と同じ対応を講じても、高温条件におけるMDの発生の抑制は十分にできない。
【0012】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)ポリアリーレンサルファイド樹脂を含む樹脂組成物を成形してなり、中空柱状部と、アンダーカット部とを含む成形品であって、
前記樹脂組成物が、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、アルコキシシラン化合物を0.3~0.6質量部と、少なくとも1種のオレフィン系共重合体を4~10質量部とを含み、
前記オレフィン系共重合体のうちの少なくとも1種が反応性基を有するオレフィン系共重合体であり、前記樹脂組成物中における前記オレフィン系共重合体中の反応性基の含有量が5.0mmol/kg以上であり、
前記ポリアリーレンサルファイド樹脂中の窒素含有量(mmol/kg)に対する、前記オレフィン系共重合体中の反応性基及び前記アルコキシシラン化合物の合計含有量(mmol/kg)の比が0.7~0.95である、ポリアリーレンサルファイド樹脂成形品。
【0013】
(2)前記オレフィン系共重合体が、α-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体である、前記(1)に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂成形品。
【0014】
(3)前記樹脂組成物が、更に、前記ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、無機充填剤を20~100質量部含む、前記(1)又は(2)に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂成形品。
【0015】
(4)前記樹脂成形品の中空柱状部の長手方向の長さが1~30cmである、前記(1)~(3)のいずれかに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂成形品。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、中空柱状部と、アンダーカット部とを含むポリアリーレンサルファイド樹脂成形品であっても、靭性を維持しつつ、射出成形時の高温に起因するモールドデポジット及びバリの発生を低減し得るポリアリーレンサルファイド樹脂成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態のPAS樹脂成形品の種々の形態を示す図である。
図2】本実施形態のPAS樹脂成形品の種々の形態を示す図である。
図3】本実施形態のPAS樹脂成形品の種々の形態を示す図である。
図4】本実施形態のPAS樹脂成形品の中空柱状部の内部を示す図である。
図5】実施例・比較例の評価試験で成形した成形体の(A)上面図、(B)側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態のポリアリーレンサルファイド樹脂成形品(以下、単に「成形品」とも呼ぶ。)は、ポリアリーレンサルファイド樹脂を含む樹脂組成物を成形してなり、中空柱状部と、アンダーカット部とを含む成形品であって、樹脂組成物が、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、アルコキシシラン化合物を0.3~0.6質量部と、少なくとも1種のオレフィン系共重合体を4~10質量部とを含み、オレフィン系共重合体のうちの少なくとも1種が反応性基を有するオレフィン系共重合体であり、樹脂組成物中におけるオレフィン系共重合体中の反応性基の含有量が5.0mmol/kg以上であり、ポリアリーレンサルファイド樹脂中の窒素含有量(mmol/kg)に対する、オレフィン系共重合体中の反応性基及びアルコキシシラン化合物の合計含有量(mmol/kg)の比が0.7~0.95であることを特徴としている。
【0019】
本実施形態の成形品は、特定組成のPAS樹脂組成物を成形してなり、長手方向の長さが好ましくは1~30cm(より好ましくは3~20cm、更に好ましくは5~15cm)の中空柱状部と、アンダーカット部とを含む成形品である。そのような成形品としては、例えば、自動車の冷却系部品(具体的には、マルチコントロールバルブ(MCV)、フローシャットバルブ(FCV)、電動ウォーターポンプ、オイルポンプ等)、水廻り部品(具体的には、配管継手(管継手)、ジョイント等)等が挙げられる。いずれの成形品も、管状、筒状等の中空柱状部と、成形品を金型から出すとき、そのままの状態では離型できない凸形状や凹形状などのアンダーカット部を有する。そのような形状の成形品を成形する際、上述の通り、スライドコアを用いるため金型内に熱がこもり易く温度が上昇する傾向にあり、MD発生の原因となる。そこで、本実施形態においては、特定組成のPAS樹脂組成物を用いることにより、靭性等を維持しつつ、バリの発生及びMDの発生の低減を図っている。
【0020】
ここで、本実施形態のPAS樹脂成形品における中空柱状部及びアンダーカット部について詳細に説明する。
中空柱状部は、例えば、管状、筒状等、貫通孔を有する柱状の形状であり、直線状ではなく屈曲していてもよい。そして、中空柱状部の断面の外周部及び内周部の形状は円形、三角形、四角形、六角形等の多角形(角に丸みをおびたものを含む)、又は不定形であってもよい。また、断面の外周部が四角形で、内周部が円形となるなど、断面の外周部の形状と内周部の形状とは異なっていてもよい。更に、中空柱状部は中空部分のすべてにわたり一様に貫通した形状のみならず、有底円筒形等の有底筒状体の底部に少なくとも一部が貫通した形状等も含み、その他様々な態様が考えられる。更に、中空柱状部の肉厚は一定ではなく変化してもよい。更に、中空柱状部の中空部分内部に突起部があってもよいし、中空柱状部の側面に1又は2以上の開口又は穴を有していてもよい。
【0021】
アンダーカット部は、端的に言えば、中空柱状部に対して突出又は窪んでいる部分であるが、その形状及び中空柱状部との接合態様により様々な形態をとり得る。例えば、アンダーカット部は、中空柱状部に対して所定の角度で接合している部分であり、形状については任意の形状が考えられる。また、一の中空柱状部において、断面積が途中で変化する場合、断面積の変化により生じる突出又は窪み部分がアンダーカット部となる。あるいは、柱状中空部の断面が多角形の場合であって、突出部が生じるように接合されている場合、その突出部がアンダーカット部となる。なお、本明細書において、「中空柱状部とアンダーカット部とが接合している。」等の表記において、中空柱状部とアンダーカット部とは実際に接合させたものではないが、外観上、接合したような状態であることから「接合」の語を用いる。
【0022】
一方、一の中空柱状の部材に対して、他の中空柱状の部材が接合された形状は、いずれか一方が中空柱状部であり、他方がアンダーカット部となる。この場合、中空柱状部とアンダーカット部とが一致しており、両者は明確に区別されない。つまり、中空柱状部はアンダーカット部にもなり得るし、アンダーカット部は中空柱状部にもなり得る。
【0023】
次いで、中空柱状部及びアンダーカット部それぞれの形態と、それらの接合形態について実例を挙げて示す。
図1は、2以上の円筒形部材を種々の態様で接合した形態の成形品を示す。
図1(A)及び(B)は、円筒形部材12の側面中央部から円筒形部材14が垂直に突出するように接合した成形品を示す。図1(A)及び(B)とでは、接合部の形状が異なるが、いずれも円筒形部材12が中空柱状部で、円筒形部材14がアンダーカット部とみなすことができる。
図1(C)は、円筒形部材12の側面中央部から円筒形部材14が傾斜して突出するように接合した点で図1(A)とは異なり、それ以外は同様である。この場合も、円筒形部材12が中空柱状部で、円筒形部材14がアンダーカット部とみなすことができる。
図1(D)は、円筒形部材12の側面中央部から円筒形部材14A及び14Bが垂直に突出するように接合した成形品である。この場合、円筒形部材12が中空柱状部で、円筒形部材14A及び円筒形部材14Bがアンダーカット部とみなすことができる。反対に、円筒形部材14A及び円筒形部材14Bが中空柱状部で、円筒形部材12がアンダーカット部とみなすこともできる。すなわち、図1(D)に示す成形体は、中空柱状部とアンダーカット部とが一致しており、両者は明確に区別されない。
図1(E)は、円筒形部材12に、円筒形部材14A及び円筒形部材14Bを接合し、Y字状とした成形品を示す。この場合、円筒形部材12が中空柱状部で、円筒形部材14A及び円筒形部材14Bがアンダーカット部とみなすことができる。また、図1(E)に示す成形品は、円筒形部材12から円筒形部材14A及び円筒形部材14Bに分岐する分岐点を含む軸を回転中心とする3回回転対称の形状である。そのため、円筒形部材12、円筒形部材14A及び円筒形部材14Bのいずれか1つを中空柱状部とした場合、それ以外をアンダーカット部とみなすことができる。
図1(F)は、円筒形部材12の側面中央部から円筒形部材14A及び14Bが垂直に突出するように接合した成形品を示す。円筒形部材12が中空柱状部で、円筒形部材14A及び14Bがアンダーカット部とみなすことができる。
【0024】
本実施形態の成形品は、図2に示すように中空柱状部材を変形した形状の成形品であってもよい。図2(A)は、エルボ状に屈曲した成形品である。
図2(B)及び(C)は、L字型に屈曲した成形品を示し、(B)においては、円筒形部12の一端部近傍の径が小さく形成されており、(C)においては、円筒形部12の一端部にフランジ部16を有する。
図2(D)は、途中で径の大きさが変化する成形品を示し、円筒形部12の左端部近傍は右端部近傍よりも径が大きくなっている。
図2(E)は、一部が捻じれている形状の成形品を示し、円筒形部12の中心軸から捻じれた形状である。
図2(A)~(E)のいずれも、円筒形部12において、中空柱状部とアンダーカット部とが明確に分かれて存在しておらず、中空柱状部がアンダーカット部を包含している形状である。
【0025】
本実施形態の成形品は、図3に示すように、中空柱状部材から突出する突起を有する成形品であってもよい。図3(A)においては、円筒形部12の両端にフランジ部16を有する。図3(B)においては、円筒形部12の途中で径の大きさが変化し、かつ、上端部にフランジ部16を有する。図3(C)においては、円筒形部12の中央部にフランジ部16を有する。
以上の図3に示す成形品においては、円筒形部12が中空柱状部であり、フランジ部16及び円筒形部12の途中で径の大きさの変化により生じる段差がアンダーカット部とみなすことができる。
【0026】
本実施形態の成形品は、図4に示すように、円筒形部12の中空部分内部に環状突起物18が接合されたものであってもよい。図4においては、環状突起物18が中空部の内壁に4箇所で接合された状態である。環状突起物18の形状は特に制限はなく、他の様々な形状とすることができる。また、環状突起物18の接合箇所は少なくとも1箇所にあればよい。
【0027】
以下に、本実施形態のPAS樹脂組成物の各成分について説明する。
【0028】
[ポリアリーレンサルファイド樹脂]
PAS樹脂は、機械的性質、電気的性質、耐熱性その他物理的・化学的特性に優れ、且つ加工性が良好であるという特徴を有する。
PAS樹脂は、主として、繰返し単位として-(Ar-S)-(但しArはアリーレン基)で構成された高分子化合物であり、本実施形態では一般的に知られている分子構造のPAS樹脂を使用することができる。
【0029】
上記アリーレン基としては、例えば、p-フェニレン基、m-フェニレン基、o-フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’-ジフェニレンスルフォン基、p,p’-ビフェニレン基、p,p’-ジフェニレンエーテル基、p,p’-ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等が挙げられる。PAS樹脂は、上記繰返し単位のみからなるホモポリマーでもよいし、下記の異種繰返し単位を含んだコポリマーが加工性等の点から好ましい場合もある。
【0030】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp-フェニレン基を用いた、p-フェニレンサルファイド基を繰返し単位とするポリフェニレンサルファイド樹脂が好ましく用いられる。また、コポリマーとしては、前記のアリーレン基からなるアリーレンサルファイド基の中で、相異なる2種以上の組み合わせが使用できるが、中でもp-フェニレンサルファイド基とm-フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが特に好ましく用いられる。この中で、p-フェニレンサルファイド基を70モル%以上、好ましくは80モル%以上含むものが、耐熱性、成形性、機械的特性等の物性上の点から適当である。また、これらのPAS樹脂の中で、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが、特に好ましく使用できる。尚、本実施形態に用いるPAS樹脂は、異なる2種類以上の分子量のPAS樹脂を混合して用いてもよい。
【0031】
尚、直鎖状構造のPAS樹脂以外にも、縮重合させるときに、3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物等のモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造又は架橋構造を形成させたポリマーや、低分子量の直鎖状構造ポリマーを酸素等の存在下、高温で加熱して酸化架橋又は熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマーも挙げられる。
【0032】
本実施形態に使用する基体樹脂としてのPAS樹脂の溶融粘度(310℃・せん断速度1216sec-1)は、上記混合系の場合も含め600Pa・s以下が好ましく、中でも8~300Pa・sの範囲にあるものは、機械的物性と流動性のバランスが優れており、特に好ましい。
【0033】
尚、本実施形態のPAS樹脂組成物は、その効果を損なわない範囲で、樹脂成分として、上述のPAS樹脂に加えて、その他の樹脂成分を含んでもよい。その他の樹脂成分としては、特に限定はなく、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶樹脂、弗素樹脂、環状オレフィン系樹脂(環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー等)、熱可塑性エラストマー(ただし、後述のオレフィン系共重合体以外のもの)、シリコーン系ポリマー、各種の生分解性樹脂等が挙げられる。また、2種類以上の樹脂成分を併用してもよい。その中でも、機械的性質、電気的性質、物理的・化学的特性、加工性等の観点から、ポリアミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、液晶樹脂等が好ましく用いられる。
【0034】
[アルコキシシラン化合物]
本実施形態において、アルコキシシラン化合物は、バリの発生を抑制する目的で用いられる。
【0035】
アルコキシシラン化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば、エポキシアルコキシシラン、アミノアルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン、メルカプトアルコキシシラン等のアルコキシシランが挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。尚、アルコキシ基の炭素数は1~10が好ましく、特に好ましくは1~4である。
【0036】
エポキシアルコキシシランの例としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0037】
アミノアルコキシシランの例としては、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ジアリルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ジアリルアミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0038】
ビニルアルコキシシランの例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。
【0039】
メルカプトアルコキシシランの例としては、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0040】
これらの中でも、エポキシアルコキシシランとアミノアルコキシシランが好ましく、特に好ましいものはγ-アミノプロピルトリエトキシシランである。
【0041】
本実施形態において、アルコキシシラン化合物は、PAS樹脂100質量部に対して0.3~0.6質量部含有する。0.3質量部未満では、バリの発生を抑制が不十分となり、0.6質量部を超えると、過剰なアミノシランがPAS樹脂とエラストマーとの反応を阻害し、界面の密着力が低下してMDの発生の増加を招く。アルコキシシラン化合物は、 0.3~0.55質量部含有することが好ましく、0.3~0.5質量部含有することがより好ましい。
【0042】
[オレフィン系共重合体]
本実施形態において、オレフィン系共重合体は、靭性、耐衝撃性の向上を目的として用いられる。本実施形態において使用するオレフィン系共重合体は、1種単独であっても、2種以上を併用してもよいが、少なくとも1種は反応性基を有するオレフィン系共重合体(以下、「反応性基含有オレフィン系共重合体」とも呼ぶ。)である。すなわち、本実施形態において、オレフィン系共重合体は、反応性基含有オレフィン系共重合体のみ、又は、反応性基含有オレフィン系共重合体と反応性基を含有しないオレフィン系共重合体とをそれぞれ少なくとも1種含む。反応性基としては、エポキシ基、酸無水物基等が挙げられ、中でも、エポキシ基が好ましい。尚、若干ではあるものの反応性基はバリの発生の抑制にも寄与する。
【0043】
本実施形態において、反応性基としてエポキシ基を有するオレフィン系共重合体は、α-オレフィン由来の構成単位及びα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位を含むことが好ましい。当該オレフィン系共重合体は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。尚、以下、(メタ)アクリル酸エステルを(メタ)アクリレートともいう。例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルエステルをグリシジル(メタ)アクリレートともいう。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸との両方を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートとの両方を意味する。
【0044】
(α-オレフィン由来の構成単位)
α-オレフィンとしては、特に限定されないが、エチレン、プロピレン、ブチレン等を挙げることができる。中でも、エチレンが好ましい。α-オレフィンは、上記から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。α-オレフィンに由来する共重合成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、全樹脂組成物中0.5~20質量%とすることができる。
【0045】
(α,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位)
α,β-不飽和酸のグリシジルエステルとしては、例えば、以下の一般式(1)に示される構造を有するものを挙げることができる。
【0046】
【化1】

(但し、Rは、水素又は炭素原子数1以上10以下のアルキル基を示す。)
【0047】
上記一般式(1)で示される化合物としては、例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル等を挙げることができる。中でも、メタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位の含有量は、好ましくは全樹脂組成物中0.02~2.5質量%であり、更に好ましくは0.05~1.5質量%であり、特に好ましくは0.08~1.0質量%である。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位の含有量がこの範囲である場合、耐ヒートショック性を維持しつつモールドデポジットの析出をより抑制することができる。
【0048】
((メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位)
エポキシ基を有するオレフィン系共重合体は、更に、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を有していてもよい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸-n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸-n-ヘキシル、アクリル酸-n-アミル、アクリル酸-n-オクチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸-n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸-n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸-n-ヘキシル、メタクリル酸-n-アミル、メタクリル酸-n-オクチル等のメタクリル酸エステルが挙げられる。中でも、特にアクリル酸メチルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、1種単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。(メタ)アクリル酸エステルに由来する共重合成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、全樹脂組成物中0.2~5.5質量%とすることができる。
【0049】
α-オレフィン由来の構成単位と、α,β-不飽和酸グリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体、及び、更に(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含有するオレフィン系共重合体は、従来公知の方法で共重合を行うことにより製造することができる。例えば、通常よく知られたラジカル重合反応により共重合を行うことによって、上記エポキシ基含有オレフィン系共重合体を得ることができる。オレフィン系共重合体の種類は、特に問われず、例えば、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。また、上記オレフィン系共重合体に、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、ポリアクリル酸-2エチルヘキシル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリル酸ブチル-スチレン共重合体等が、分岐状に又は架橋構造的に化学結合したオレフィン系グラフト共重合体であってもよい。
【0050】
一方、本実施形態において、反応性基として酸無水物基を有するオレフィン系共重合体は、上記記載のα-オレフィン由来の構成単位と、酸無水物由来の構成単位を含むことが好ましい。酸無水物としては、例えば、マレイン酸無水物、琥珀酸無水物、フマル酸無水物等を挙げることができる。具体的には、エチレン-マレイン酸無水物共重合体、エチレン-ブテン-マレイン酸無水物共重合体、エチレン-プロピレンーマレイン酸無水物共重合体、エチレン-ヘキセン-マレイン酸無水物共重合体、エチレン-オクテン-マレイン酸無水物共重合体、プロピレン-マレイン酸無水物共重合体又は無水マレイン酸変性のスチレン-ブタジエン共重合体(SBS)などを挙げることができる。
【0051】
本実施形態において、PAS樹脂組成物中におけるオレフィン系共重合体中の反応性基の含有量は5.0mmol/kg以上である。5.0mmol/kg未満であると、PAS樹脂との相溶性が低下し物性低下が起こりやすくなる。当該反応性基の含有量は5.5~12.0mmol/kgであることが好ましく、6.0~10.0mmol/kgであることがより好ましい。
【0052】
本実施形態において、オレフィン系共重合体は、PAS樹脂100質量部に対して、4~10質量部含有する。当該オレフィン系共重合体が4質量部未満であると、靭性、耐衝撃性に劣り、10質量部を超えると、流動性が低下したり、成形時のガス発生が多くなったりすることにより、成形不良が発生しやすくなる。当該オレフィン系共重合体は、4.2~9質量部含有することが好ましく、4.5~8質量部含有することがより好ましい。
【0053】
本実施形態に用いる反応性基含有オレフィン系共重合体は、その効果を害さない範囲で、他の共重合成分由来の構成単位を含有することができる。
【0054】
より具体的には、オレフィン系共重合体としては、例えば、グリシジルメタクリレート変性エチレン共重合体、グリシジルエーテル変性エチレン共重合体等が挙げられ、中でも、グリシジルメタクリレート変性エチレン共重合体が好ましい。
【0055】
グリシジルメタクリレート変性エチレン共重合体としては、グリシジルメタクリレートグラフト変性エチレン共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート-メチルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート-エチルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート-プロピルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート-ブチルアクリレート共重合体等を挙げることができる。中でも、特に優れた金属樹脂複合成形体が得られることから、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体及びエチレン-グリシジルメタクリレート-メチルアクリレート共重合体が好ましく、エチレン-グリシジルメタクリレート-メチルアクリレート共重合体が特に好ましい。エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体及びエチレン-グリシジルメタクリレート-メチルアクリレート共重合体の具体例としては、「ボンドファースト」(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0056】
グリシジルエーテル変性エチレン共重合体としては、例えば、グリシジルエーテルグラフト変性エチレン共重合体、グリシジルエーテル-エチレン共重合体を挙げることができる。
【0057】
一方、反応性基を含有しないオレフィン系共重合体としては、エチレン・α-オレフィン系共重合体;α-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体等が挙げられる。
【0058】
エチレン・α-オレフィン系共重合体は、共重合成分としてエチレンとα-オレフィンとを含有する。α-オレフィンの炭素数は、3~20が好ましく、5~20がより好ましく、5~15がさらに好ましい。なお、エチレン・α-オレフィン系共重合体はランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。エチレン・α-オレフィン系共重合体は、エチレン5~95質量%とα-オレフィン5~95質量%からなる共重合体であってもよい。エチレン・α-オレフィン系共重合体の具体例としては、エチレン-オクテン共重合体(EO)、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブチレン共重合体、エチレン-ペンテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-ヘプテン共重合体等が挙げられ、さらにこれらの共重合体を混合しても使用できる。
【0059】
α-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体は、共重合成分としてα-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するものである。そして、ランダム、ブロック又はグラフト共重合体や、その共重合体を不飽和カルボン酸及びその酸無水物及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種で変性したものであってもよい。α-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体におけるα-オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン等を挙げることができる。中でも、エチレンが好ましい。α-オレフィンは、上記から選択される1種又は2種以上を用いることができる。α-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体におけるα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル等を用いることができる。
【0060】
変性剤として用いられる不飽和カルボン酸又はその酸無水物としては、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルマレイン酸、メチルフマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸メチル、無水メチルマレイン酸、無水マレイン酸、無水メチルマレイン酸、無水シトラコン酸等が挙げられ、これらは一種又は二種以上で使用される。
【0061】
α-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体の具体例としては、エチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレンメタクリル酸メチル共重合体等のエチレンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体等が挙げられる。
【0062】
本実施形態においては、ポリアリーレンサルファイド樹脂中の窒素含有量(mmol/kg)に対する、オレフィン系共重合体中の反応性基及びアルコキシシラン化合物の合計含有量(mmol/kg)の比は0.7~0.95である。窒素原子はPAS樹脂の末端官能基に含まれていることから、窒素含有量は末端官能基量を表しているとみなすことができる。そして、PAS樹脂の中の窒素含有量についての比が上記範囲内であることは、末端官能基を有するPAS樹脂に、オレフィン系重合体の反応性基と、アルコキシシラン化合物とが必要以上に反応しないことを示す。すなわち、当該比の値が0.7未満であるとバリの発生が増加し、0.95を超えるとMDの発生が増加する。当該比の値は、0.72~0.93が好ましく、0.75~0.9がより好ましい。
なお、PAS樹脂中の窒素含有量は、例えば、PAS樹脂の重合時において重合系内のpHを制御することによって調整することができる(特開2006-45451号公報参照)。
【0063】
[無機充填剤]
本実施形態においては、PAS樹脂組成物中に、更に、PAS樹脂100質量部に対して、無機充填剤を20~100質量部含むことが好ましい。無機充填剤を当該含有量で含むことで、機械的物性の向上を図ることができる。無機充填剤は、30~80質量部含むことがより好ましく、40~70質量部含むことが更に好ましい。
【0064】
無機充填剤としては、繊維状無機充填剤が好ましい。繊維状無機充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、酸化亜鉛繊維、酸化チタン繊維、ウォラストナイト、シリカ繊維、シリカ-アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化ケイ素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、等の鉱物繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維、チタン繊維、銅繊維、真鍮繊維等の金属繊維状物質が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。中でも、ガラス繊維、ウォラストナイトが好ましい。
【0065】
本実施形態においては、非繊維状無機充填剤を併用してもよく、そのような充填剤としては、粉粒状無機充填剤、板状無機充填剤が挙げられる。
【0066】
ガラス繊維の上市品の例としては、日本電気硝子(株)製、チョップドガラス繊維(ECS03T-790DE、平均繊維径:6μm)、オーウェンスコーニング製造(株)製、チョップドガラス繊維(CS03DE 416A、平均繊維径:6μm)、日本電気硝子(株)製、チョップドガラス繊維(ECS03T-747H、平均繊維径:10.5μm)、日本電気硝子(株)製、チョップドガラス繊維(ECS03T-747、平均繊維径:13μm)、日東紡績(株)製、異形断面チョップドストランド CSG 3PA-830(長径28μm、短径7μm)、日東紡績(株)製、異形断面チョップドストランド CSG 3PL-962(長径20μm、短径10μm)等が挙げられる。
【0067】
繊維状無機充填剤は、一般的に知られているエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物、脂肪酸等の各種表面処理剤により表面処理されていてもよい。表面処理により、PAS樹脂との密着性を向上させることができる。表面処理剤は、材料調製の前に予め繊維状無機フィラーに適用して表面処理又は収束処理を施しておくか、又は材料調製の際に同時に添加してもよい。
【0068】
繊維状無機フィラーの繊維径は、特に限定されないが、初期形状(溶融混練前の形状)において、例えば5μm以上30μm以下とすることができる。ここで、繊維状無機フィラーの繊維径とは、繊維状無機フィラーの繊維断面の長径をいう。
【0069】
粉粒状無機充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、タルク(粒状)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、珪藻土等のケイ酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ(粒状)等の金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩、その他炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、各種金属粉末等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。中でも、炭酸カルシウム、ガラスビーズが好ましい。
炭酸カルシウムの上市品の例としては、東洋ファインケミカル(株)製、ホワイトンP-30(平均粒子径(50%d):5μm)等が挙げられる。また、ガラスビーズの上市品の例としては、ポッターズ・バロティーニ(株)製、EGB731A(平均粒子径(50%d):20μm)、ポッターズ・バロティーニ(株)製、EMB-10(平均粒子径(50%d):5μm)等が挙げられる。
粉粒状無機充填剤も、繊維状無機充填剤と同様に表面処理されていてもよい。
【0070】
板状無機充填剤としては、例えば、ガラスフレーク、タルク(板状)、マイカ、カオリン、クレイ、アルミナ(板状)、各種の金属箔等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。中でも、ガラスフレーク、タルクが好ましい。
ガラスフレークの上市品の例としては、日本板硝子(株)製、REFG-108(平均粒子径(50%d):623μm)、(日本板硝子(株)製、ファインフレーク(平均粒子径(50%d):169μm)、日本板硝子(株)製、REFG-301(平均粒子径(50%d):155μm)、日本板硝子(株)製、REFG-401(平均粒子径(50%d):310μm)等が挙げられる。
タルクの上市品の例としては、松村産業(株)製 クラウンタルクPP、林化成(株)製 タルカンパウダーPKNN等が挙げられる。
板状無機フィラーも、繊維状無機充填剤と同様に表面処理されていてもよい。
【0071】
[他の成分]
本実施形態においては、その効果を害さない範囲で、上記各成分の他、その目的に応じた所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の添加剤、即ちバリ抑制剤(但し、アルコキシシラン化合物を除く)、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、各種酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、腐食防止剤等を配合してもよい。バリ抑制剤(但し、アルコキシシランを除く)としては、例えば、国際公開第2006/068161号や国際公開第2006/068159号等に記載されているような、溶融粘度が非常に高い分岐型ポリフェニレンサルファイド系樹脂等を挙げることができる。
【0072】
本実施形態のPAS樹脂成形品は、スライドコアを有する金型を用い、射出成形により定法に従い成形することができる。
【実施例
【0073】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
[実施例1~7、比較例1~13]
各実施例・比較例において、表1及び表2に示す各原料成分をドライブレンドした後、シリンダー温度320℃の二軸押出機に投入して(ガラス繊維は押出機のサイドフィード部より別添加)、溶融混練し、ペレット化した。尚、表1において、各成分の数値は質量部を示す。
また、使用した各原料成分の詳細を以下に示す。
【0075】
(1)PAS樹脂
PPS樹脂1:(株)クレハ製、フォートロンKPS(窒素含有量:35.6mmol/kg、溶融粘度:130Pa・s(せん断速度:1200sec-1、310℃))
PPS樹脂2:(株)クレハ製、フォートロンKPS(窒素含有量:44.6mmol/kg、溶融粘度:28Pa・s(せん断速度:1200sec-1、310℃))
【0076】
(PPS樹脂の窒素量の測定)
上記PPS樹脂の窒素量は以下のようにして測定した。
微量窒素硫黄分析計((株)三菱ケミカルアナリテック製、TS-100)を用いてPPS樹脂中の窒素含有量を測定した(窒素量の検量線はピリジンのトルエン溶液を用いて作成した)。
【0077】
(PPS樹脂の溶融粘度の測定)
上記PPS樹脂の溶融粘度は以下のようにして測定した。
(株)東洋精機製作所製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmLのフラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1200sec-1での溶融粘度を測定した。
【0078】
(2)アルコキシシラン化合物
アミノシラン化合物:信越化学工業(株)製、KBE-903P
【0079】
(3)オレフィン系共重合体
・オレフィン系共重合体1(エポキシ基含有):住友化学(株)製、ボンドファースト(登録商標)BF-7L(エチレン-グリシジルメタクリレート-メチルアクリレート共重合体)
・オレフィン系共重合体2(エポキシ基含有):住友化学(株)製、ボンドファースト(登録商標)BF-2C(エチレン-グリシジルジメタクリレート共重合体)
・オレフィン系共重合体3(エポキシ基含有):住友化学(株)製、ボンドファースト(登録商標)BF-E(エチレン-グリシジルジメタクリレート共重合体)
・オレフィン系共重合体4(反応性基非含有):ダウ・ケミカル日本(株)製、Engage 8003(エチレン/オクテン共重合体)
【0080】
(4)無機フィラー
・ガラス繊維1:日本電気硝子(株)製、チョップドストランドECS 03 T-747H、直径10μm、長さ3mm
・ガラス繊維2:日本電気硝子(株)製、チョップドストランドECS 03 T-717、直径13μm、長さ3mm
【0081】
[評価]
得られた各実施例・比較例のペレットを用いて以下の評価を行った。
(金型付着物の質量(キャビティのMD量))
キャビティ部が脱着式の入れ子方式の金型を使用した。射出成形機で下記の条件で、図5に示す形状の成形品を2時間連続成形(200回)した。連続成形前後で、金型から取り外したキャビティ部の質量を測定した。連続成形前後のキャビティ部の質量変化量を、キャビティ部への付着物の質量(μg)として算出した。なお、本評価においては、スライドコアを用いた射出成形は行っていないが、金型温度を210℃とすることによりスライドコアを用いた射出成形と同等の温度環境とした。また、図5(B)において、Sはスプルーを示す。
射出成形機:FANUC ROBOSHOT S2000i30A
シリンダー温度:340℃
射出時間:2秒
冷却時間:25秒
金型温度:210℃
【0082】
(バリの長さ)
一部に20μmの金型間隙を有するバリ測定部が外周に設けられている円盤状キャビティの金型を用いて、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、キャビティが完全に充填するのに必要な最小圧力で射出成形し、その部分に発生するバリ長さ(μm)を写像投影機にて拡大して測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0083】
(シャルピー衝撃強さ)
射出成形機で、シリンダー温度320℃、金型温度150℃でISO179/1eAに準じてアイゾット衝撃試験片を成形し、所定の温度雰囲気下に2時間以上放置後、シャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)(kJ/m)を測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0084】
(引張伸び)
射出成形機で、シリンダー温度320℃、金型温度150℃でISO3167に準じた厚み4mmtのダンベル試験片を作製した。この試験片を用い、ISO527-1,2に準じて、引張伸び(%)を測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
表1及び表2より、実施例1~7においてはいずれも、MDの量が少なく、バリの長さが短く、靭性及び耐衝撃性に優れることが分かる。
これに対して、PAS樹脂中の窒素含有量(mmol/kg)に対する、オレフィン系共重合体中の反応性基及びアルコキシシラン化合物の合計含有量(mmol/kg)の比が0.95を超えた比較例1、3、9及び11は、MDが多く発生した。
また、反応性基含有オレフィン系共重合体を使用しなかった比較例2は、MDの量は少なかったものの、靭性及び耐衝撃性に劣っていた。
さらに、アルコキシシラン化合物を使用しなかったか、又は使用量が少なかった比較例3~10は、長いバリが発生した。
さらに、オレフィン系共重合体中の反応性基の含有量が少なく、また、PAS樹脂中の窒素含有量(mmol/kg)に対する、オレフィン系共重合体中の反応性基及びアルコキシシラン化合物の合計含有量(mmol/kg)の比が0.7未満であった比較例12及び13は、長いバリが発生し、かつ、靭性又は耐衝撃性に劣っていた。
【符号の説明】
【0088】
12 14 14A 14B 円筒形部材(中空柱状部)
16 フランジ部
18 環状突起物
S スプルー
図1
図2
図3
図4
図5