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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-03
(45)【発行日】2024-04-11
(54)【発明の名称】セメント系硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240404BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020035912
(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公開番号】P2021138561
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】新見 龍男
(72)【発明者】
【氏名】茶林 敬司
(72)【発明者】
【氏名】大田 将巳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘義
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-24893(JP,A)
【文献】特開平10-259047(JP,A)
【文献】特開2017-110354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと骨材と水とを混練し硬化させるセメント系硬化体の製造方法において、前記混練時にセメント100質量部に対して0.7~質量部のカルシウムアルミネートを共存させることを特徴とするアルカリ骨材反応の抑制されたセメント系硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ骨材反応によるセメント系硬化体の劣化を抑制することが可能な新規のセメント系硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートはセメント水和物、骨材および空隙によって構成され、空隙には水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのアルカリ水溶液が存在する。このアルカリ性は、鉄筋コンクリート中の鉄筋の腐食を抑制するなど必要な性質ではあるが、あまりにアルカリ性が高すぎると、アルカリ骨材反応を引き起こすことが知られている。
【0003】
現在、骨材には岩石などの鉱物を砕いて得られる砕石が主に使用されており、その骨材が反応性骨材(コンクリート中の水酸化アルカリと反応しやすい状態にある準安定な反応性鉱物を有害量含む岩石と定義される。反応性鉱物は非晶質シリカまたは微結晶シリカが代表例である。通常は、JIS A 5308付属書に従った区分で「アルカリシリカ反応性試験の結果が“無害でない”と判定されたもの」が相当する。)であると、空隙中の水酸化アルカリと反応してアルカリ珪酸塩を生成する。このアルカリ珪酸塩は水が供給されると膨張挙動を示す。この反応挙動をアルカリ骨材反応(以下、ASRと略することもある。)と呼んでいる。
【0004】
ASRに起因して、コンクリート構造物等の骨材を含有するセメント系硬化体にひび割れ、変形・変位・ポップアウト(骨材の抜け落ち等)、滲出物等の劣化が起こり、物性上は引張強度と弾性係数が低下する。そのため、事前にモルタルバー法(JIS A 1146-2007)及び/または化学法(JIS A 1145-2017)による骨材のアルカリシリカ反応性試験を実施して、非反応性と判定された砕石のみが骨材に使われているのが実情であった。
【0005】
ASRに起因する劣化に対しては古くから対策研究がなされ、そのうちの有効な方法として、リチウム塩をASR抑制剤としてコンクリートへ配合混練すると、ASRによる膨張が抑制されることが報告されており、現在では亜硝酸リチウムを主成分としたものが工業的使用のレベルにまで至っている(特許文献1参照)。セメント系硬化体にリチウムを混合した場合、ASRの反応生成物であるアルカリケイ酸塩のアルカリ塩とLiが置換され、非膨張性を示すとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-061852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、リチウム塩は実用には高価すぎることが問題であること、リチウムは極めて希少な資源であるためにセメントに添加するような利用においては安定供給の点で難があることといった問題があった。そのため、比較的安価かつ容易な方法でASRによる膨張を抑制する方法が求められた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行なった。その結果、コンクリート中でAlイオンを溶出する物質を混練時にその他材料と同時に混和することで、膨張作用を有するASRの反応生成物であるアルカリケイ酸塩を非膨張性に変質させ、ASRの膨張挙動を抑制させることが可能であることを発見した。そして添加するAlの形態としては、セメントの主要組成物に近く水和への影響が少ないと考えられるカルシウムアルミネート系の鉱物の形態が適していることを見いだし本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、セメントと骨材と水とを混練し効果させるセメント系硬化体の製造方法において、前記混練時にセメント100質量部に対して0.7~質量部のカルシウムアルミネートを共存させることを特徴とするアルカリ骨材反応の抑制されたセメント系硬化体の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カルシウムアルミネートを混合したセメントを用いてセメント系硬化体を製造した場合、カルシウムアルミネートを混合しないものよりもASRによる膨張を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で使用するセメントとしては、公知のセメントが特に制限なく使用でき、具体的には普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の汎用的なセメントが挙げられる。また、セメントに高炉スラグ微粉末やフライアッシュ等の混合材を含む混合セメントも同様に使用できる。
【0012】
本発明における骨材は、細骨材、粗骨材の双方を指す。当該骨材としては、前記した“無害でない”骨材を使用する際に、本発明の効果が顕著に発揮される。
【0013】
本発明の製造方法に用いるカルシウムアルミネートは、カルシウムとアルミニウムと酸素が所定の割合で結合されたものであり、一般的に化学式ではmCaO・nAl(mおよびnは整数)で表記される。
【0014】
上記カルシウムアルミネートにおける酸化カルシウムと酸化アルミニウムのモル比(m/n)は、0.1~2.5であることが好ましく、より好ましくは0.3~2.0である。
【0015】
当該カルシウムアルミネートを具体的に例示すると、CaO・2Al、CaO・Al、12CaO・7Al等が挙げられる。
【0016】
上記カルシウムアルミネートは、一般にCaとAlを有する原料を所定の割合で混合し、高温で焼成して製造されるものである。
【0017】
上記カルシウムアルミネートは、粉末状のものが限定されることなく使用できる。カルシウムアルミネートの比表面積は、セメント系硬化体内に均等に分散されるように2500cm/g以上であることが望ましい。
【0018】
本発明におけるカルシウムアルミネートの使用量は、好ましくはセメント100質量部に対して0.7~10質量部であり、より好ましくは0.7~7質量部である。カルシウムアルミネートの混合量が少ない方が、セメント本来の強度や耐久性(ASRを除く)を発現しやすい。
【0019】
本発明のセメント系硬化体の製造方法において使用する水は、モルタルやコンクリートの調製用として公知の水が特に制限なく使用できる。具体的には、工水、水道水等である。
【0020】
本発明のセメント系硬化体の製造方法においては、上記した骨材、セメント、水及びカルシウムアルミネートの他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、一般的にモルタルやコンクリートの調製に際して混合される公知の添加剤であるAE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、空気量調整剤、凝結促進剤を添加配合しても構わない。
【0021】
本発明のセメント系硬化体において、水セメント比は一般的なモルタルやコンクリートで使用される範囲であれば特に制限されない。
【0022】
本発明において、骨材、セメント、水、カルシウムアルミネート及び必要に応じて配合するその他材料を混練(混合)、硬化させるセメント系硬化体の製造方法は、生コンクリート工場やコンクリート二次製品工場における従来の製造方法が特に際限なく使用できる。
【0023】
ここで、混練物を得るに際し、カルシウムアルミネートは他の成分とは独立して(単独)で混練系に添加してもよいし、セメントと予め混合した混合物としておいて混練に供してもよい。さらに、カルシウムアルミネートは他の成分と同時に一括で混練しても良いし、他の成分を混練して得た混練物に対して、後から加えてさらに混練しても構わない。
【0024】
本発明において、上記セメント等を混錬する際に使用するミキサーは一般的にモルタルやコンクリートを混錬するミキサーが制限なく使用できる。具体的には、パン型ミキサー、強制二軸ミキサー、傾動ミキサー、モルタルミキサー、ハンドミキサー等が挙げられる。
【0025】
本発明において、セメントと骨材と水とカルシウムアルミネートとを混合、硬化させた後のセメント系硬化体の養生方法は、生コンクリート工場やコンクリート二次製品工場における従来の養生方法が特に際限なく使用できる。具体的には、湿潤養生、水中養生、蒸気養生、オートクレープ養生、気中養生等が挙げられる。
【0026】
本発明におけるセメント系硬化体は、上記した骨材、セメント、水、カルシウムアルミネート及び必要に応じて配合するその他材料を混合・硬化させたものであるが、一般的にはモルタルあるいはコンクリートとされる。なおモルタルはセメント等の結合材、水、細骨材、混和剤の混練物であり、コンクリートはセメント等の結合材、水、細骨材、粗骨材、混和剤の混練物である。
【実施例
【0027】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
(I)Alイオンの溶出試験
ポリプロピレン容器に、カルシウムアルミネートの粉末5gおよび1mоl/L NaOH溶液25mlを入れ、ポリプロピレン容器を40℃の水槽内に静置した。14日経過後にろ過し、ろ液のAlイオンをICP発行分光分析装置により測定した。
【0029】
実施例で用いたカルシウムアルミネートであるCaO・2Al(以下、CA)、CaO・Al(以下、CA)及び12CaO・7Al(以下、C12)におけるカルシウムアルミネート1gあたりのAlイオンの溶出量を表1に示す。いずれのカルシウムアルミネートからもAlイオンが溶出していることが確認された。
【0030】
【表1】
【0031】
(II)膨張率測定試験
【0032】
(1)配合
試験に供したモルタルは下記の質量比で配合した。これは、セメントが1、水が0.5、骨材が2.25となる量である。使用したセメントは普通ポルトランドセメント(NC)であり、NaO等量が0.55質量%であったため、0.65質量%となるように1mоl/L NaOH水溶液を加えている。NaOH水溶液は、配合上は水として扱った。反応性骨材は水ガラスカレットを使用した。
【0033】
NC 229.7g
細骨材 516.8g
水ガラスカレット(反応性骨材) 11.5g
水 114.8g
(1mоl/L NaOH水溶液7.5g含む)
カルシウムアルミネート 表2記載
【0034】
(2)混練
混練はホバートミキサーを用いて行った。セメントと細骨材、水ガラスカレット及びカルシウムアルミネートをミキサーに投入し、30秒間混合した。次に水を投入して30秒間混練した後20秒間休止した。休止の間に,練り鉢及びパドルに付着したモルタルをさじによってかき落とした。その後、120秒間練り混ぜた。
【0035】
(3)成型
28×28×150mmの型枠を使用した。混練終了後のモルタルを直ちに型枠に打ち込んだ。打ち込みは2層詰めとし、モルタルを型枠の1/2ずつ詰め、突き棒を用いてその端が5mm入る程度に、供試体1体当たり各層につき約15回突き固めた。最後に供試体をいためないように余盛部分を注意して削り取り、上面を平滑にした。
【0036】
(4)初期養生
成型後、混練から24時間はガラス板で混練物を覆い、水分が蒸発しないようにして20℃中で保存した。
【0037】
(5)膨張率の測定
24時間経過後に脱型した供試体を、温度40℃、湿度95%以上の恒温恒湿室で56日間保管した。測定日前日に温度20℃、湿度60%の恒温恒湿室で養生し、測定した長さ変化から膨張率を算出した。
【0038】
(6)測定方法
長さ変化の測定は、JIS A 1129-3(ダイヤルゲージ方法)により行った。
【0039】
得られた結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
比較例1は、ASR抑制材としてカルシウムアルミネートを混合しなかった場合の膨張率であり、反応性骨材の影響により膨張していることがわかる。
【0042】
実施例1、2、3は、カルシウムアルミネートとしてCaO・2Al、CaO・Alあるいは12CaO・7Alを、セメントに対し1、3、5%添加した場合の膨張率である。いずれのカルシウムアルミネートでも、なにも添加していない比較例よりも膨張率が低減していることがわかる。