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特許7466201圃場作業車両の走行経路設定装置、走行経路設定方法および走行経路設定用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】圃場作業車両の走行経路設定装置、走行経路設定方法および走行経路設定用プログラム
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20240405BHJP
【FI】
A01B69/00 303M
A01B69/00 303Q
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021025588
(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公開番号】P2022127434
(43)【公開日】2022-08-31
【審査請求日】2023-05-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和 2年 4月 1日,自動運転田植機 取扱説明書,国立研究開発法人農業・食品産業総合研究機構発行
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐一
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-116608(JP,A)
【文献】特開2020-103110(JP,A)
【文献】特開2019-154393(JP,A)
【文献】特開2020-99242(JP,A)
【文献】特開平11-266608(JP,A)
【文献】特開2019-101932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場の外周に沿ってティーチング走行することによって上記圃場の形状を認識し、認識した圃場の形状に基づいて、所与の作業をしながら走行する圃場作業車両の走行経路を設定する装置であって、
上記圃場の外周に沿って上記ティーチング走行をしたときに位置・方位検出装置により検出される圃場作業車両の現在位置および方位に基づいて上記圃場の形状を認識する圃場形状認識部と、
上記圃場形状認識部による上記圃場の形状の認識後に、上記所与の作業が行われていない非作業領域に対して、上記所与の作業をしながら走行するための作業走行経路を設定する走行経路設定部とを備え、
上記圃場形状認識部は、上記ティーチング走行をした領域のうち、上記ティーチング走行中に上記所与の作業を行わずに走行した領域をティーチング走行非作業領域として記憶し、
上記走行経路設定部は、上記ティーチング走行非作業領域も含めて、上記非作業領域に対して上記作業走行経路を設定する
ことを特徴とする圃場作業車両の走行経路設定装置。
【請求項2】
上記圃場形状認識部は、上記ティーチング走行をした領域のうち、上記ティーチング走行中に上記所与の作業を行いながら走行した領域を作業済み領域として更に記憶し、
上記走行経路設定部は、
上記作業済み領域を含めずに上記ティーチング走行非作業領域含めて、上記圃場形状認識部により認識された上記圃場の外形に合わせて外周領域を設定する外周領域設定部と、
上記外周領域の内側に往復領域を設定する往復領域設定部と、
上記往復領域内において往復走行する往復経路を設定する往復経路設定部と、
上記往復経路の末端から走行を継続して上記外周領域に沿って周回走行する周回経路を設定する周回経路設定部とを備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の圃場作業車両の走行経路設定装置。
【請求項3】
上記圃場形状認識部は、上記所与の作業を行うための作業機が動作中か否かを検出し、上記作業機の非動作中にティーチング走行した領域を上記ティーチング走行非作業領域として記憶するとともに、上記作業機の動作中にティーチング走行した領域を作業済み領域として記憶することを特徴とする請求項1または2に記載の圃場作業車両の走行経路設定装置。
【請求項4】
上記走行経路設定部は、上記ティーチング走行非作業領域において上記所与の作業をしつつ上記圃場から退出可能となるように上記作業走行経路を設定することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の圃場作業車両の走行経路設定装置。
【請求項5】
上記走行経路設定部は、上記ティーチング走行非作業領域に対して非平行に接する往復経路が含まれるように上記作業走行経路を設定することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の圃場作業車両の走行経路設定装置。
【請求項6】
圃場の外周に沿ってティーチング走行することによって上記圃場の形状を認識し、認識した圃場の形状に基づいて、所与の作業をしながら走行する圃場作業車両の走行経路を設定する方法であって、
走行経路設定装置の圃場形状認識部が、上記圃場の外周に沿って上記ティーチング走行したときに位置・方位検出装置により検出される圃場作業車両の現在位置および方位に基づいて上記圃場の形状を認識する第1のステップと、
上記走行経路設定装置の走行経路設定部が、上記圃場形状認識部よる上記圃場の形状の認識後に、上記所与の作業が行われていない非作業領域に対して、上記所与の作業をしながら走行するための作業走行経路を設定する第2のステップとを有し、
上記第1のステップで上記圃場形状認識部は、上記ティーチング走行をした領域のうち、上記ティーチング走行中に上記所与の作業を行わずに走行した領域をティーチング走行非作業領域として記憶し、
上記第2のステップで上記走行経路設定部は、上記ティーチング走行非作業領域も含めて、上記非作業領域に対して上記作業走行経路を設定する
ことを特徴とする圃場作業車両の走行経路設定方法。
【請求項7】
圃場の外周に沿ってティーチング走行することによって上記圃場の形状を認識し、認識した圃場の形状に基づいて、所与の作業をしながら走行する圃場作業車両の走行経路を設定する処理をコンピュータに実行させる走行経路設定用プログラムであって、
上記圃場の外周に沿って上記ティーチング走行したときに位置・方位検出装置により検出される圃場作業車両の現在位置および方位に基づいて上記圃場の形状を認識する圃場形状認識手段、および
上記圃場形状認識手段による上記圃場の形状の認識後に、上記所与の作業が行われていない非作業領域に対して、上記所与の作業をしながら走行するための作業走行経路を設定する走行経路設定手段
として上記コンピュータを機能させ、
上記圃場形状認識手段は、上記ティーチング走行をした領域のうち、上記ティーチング走行中に上記所与の作業を行わずに走行した領域をティーチング走行非作業領域として記憶し、
上記走行経路設定手段は、上記ティーチング走行非作業領域も含めて、上記非作業領域に対して上記作業走行経路を設定する
ことを特徴とする圃場作業車両の走行経路設定用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場作業車両の走行経路設定装置、走行経路設定方法および走行経路設定用プログラムに関し、特に、自動走行しながら圃場内一面の作業を行うことができるようになされた圃場作業車両の走行経路を設定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場内を自動走行しながら所与の作業(耕耘、畝立て、播種、田植えなどの農作業)を行うようになされた圃場作業車両の走行経路を設定するシステムが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献1に記載の走行経路設定装置では、まず、作業者が圃場作業車両を手動で運転して圃場の外周を周回作業走行することにより、その際に取得される自車位置情報から圃場の形状を認識する(この走行をティーチング走行という)。そして、ティーチング走行した領域の内側を自動走行の対象領域として、圃場作業車両が自動走行するための走行経路を設定する。
【0003】
特許文献1に記載の走行経路設定装置では、ティーチング走行によって把握した対象領域内に走行経路を設定する際に、圃場の外形に沿って外周領域を設定するとともに、その外周領域の内側に往復領域を設定する。そして、当該往復領域内において、圃場の外形において対向する一対の辺のうち一方の辺に沿って往復走行する第1往復経路を設定するとともに、当該第1往復経路の末端から走行を継続し、圃場の外形において対向する一対の辺のうち他方の辺に沿って往復走行する第2往復経路を設定する。さらに、外周領域内において、第2往復経路の末端から走行を継続し、外周領域に沿って走行する経路であって、作業済みの経路を経ずに第1往復領域内の端点に戻ることを可能とする外周経路を設定する。
【0004】
特許文献2に記載の目標経路生成システムは、目標経路を生成するのに必要な基本データを記憶する記憶部と、目標経路の生成に関する優先項目(作業面積の最大化、非作業走行距離の最短化、作業地の外周に沿う周回走行経路部の適正化、重複経路部分の生成回避のうちの少なくとも1つ)を選択させる優先項目選択部と、基本データと選択された優先項目とに基づいて目標経路を生成する目標経路生成部とを備え、ユーザの価値観などに適した自動走行用の目標経路を簡易な操作で得られるようにしている。例えば、優先項目が周回走行経路部の適正化であれば、作業地の中央側を走行して作業した後の未作業領域となる周回走行経路部の横幅が、作業地の形状にかかわらず、作業車両の作業幅の整数倍と同じまたは略同じになる目標経路を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-154393号公報
【文献】特開2019-101932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の走行経路設定装置では、圃場の形状を認識するためのティーチング走行をする際に、作業効率を高めるために、ティーチング走行中も所与の作業を行う(外周を周回作業走行する)こととしていた。このため、ティーチング走行をした最外周の領域を再び走行することはできない。作業済みの行程路を荒らすことになるからである。このため、所与の作業終了時に最外周を走行して圃場から退出することや、所与の作業中に最外周の領域から圃場作業車両に対して必要な補助作業(例えば、田植え時の苗補給など)を行うことができないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、圃場の外周に沿ってティーチング走行をすることによって圃場の形状を認識し、認識した形状に基づいて、圃場作業車両が所与の作業をしながら自動走行するための走行経路を設定する際に、所与の作業の効率を極力落とすことなく、ティーチング走行した領域を別の目的に活用可能な走行経路を設定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するために、本発明の走行経路設定装置は、圃場の外周に沿ってティーチング走行したときに位置・方位検出装置により検出される圃場作業車両の現在位置および方位に基づいて圃場の形状を認識する圃場形状認識部と、圃場形状認識部による圃場の形状の認識後に、所与の作業が行われていない非作業領域に対して、所与の作業をしながら走行するための作業走行経路を設定する走行経路設定部とを備え、ティーチング走行をした領域のうち、ティーチング走行中に所与の作業を行わずに走行した領域をティーチング走行非作業領域として記憶し、ティーチング走行非作業領域も含めて、非作業領域に対して作業走行経路を設定するようにしている。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成した本発明によれば、ティーチング走行中に所与の作業を行わずに走行した領域がティーチング走行非作業領域として記憶され、このティーチング走行非作業領域も含めて作業走行経路が設定されるので、このティーチング走行非作業領域をティーチング走行後に再び走行する経路を設定することが可能であり、当該ティーチング走行非作業領域を別の目的に活用することが可能である。また、ティーチング走行した領域の一部がティーチング走行非作業領域に設定され、残りの一部が作業済み領域に設定されると、作業済み領域については作業のために再び走行することが不要である。これにより、圃場作業車両が所与の作業をしながら自動走行するための経路を設定する際に、所与の作業の効率を極力落とすことなく、ティーチング走行した領域を別の目的に活用可能な走行経路を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態による走行経路設定装置が搭載される圃場作業車両の概略的な外観構成を示す平面図である。
図2】圃場作業車両に搭載される各種電子制御装置の構成例を示すブロック図である。
図3】本実施形態による走行経路設定装置の機能構成例を示すブロック図である。
図4】本実施形態による走行経路設定装置による経路設定動作を説明するための図である。
図5】本実施形態による走行経路設定装置による経路設定動作を説明するための図である。
図6】本実施形態による走行経路設定装置による経路設定動作を説明するための図である。
図7】本実施形態による走行経路設定装置による経路設定動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態による圃場作業車両の走行経路設定装置(以下、単に走行経路設定装置という)が搭載される圃場作業車両10の概略的な外観構成を示す平面図である。図1に示すように、圃場作業車両10は、車体1の後方に作業機2を連結して構成されている。
【0012】
圃場作業車両10は、車体1に備えられた動力源から動力を得て走行し、車体1の後方に備えた作業機2で所与の作業を行うようになされた農用車両である。動力源は、例えば電動モータ、または内燃機関等により構成される。所与の作業とは、いわゆる農作業のことであり、例えば施肥、播種、田植など、車体1に連結された作業機2によって行うことが可能な農作業であればよい。なお、作業機2が車体1の前方に備えられる構成であってもよい。
【0013】
図2は、圃場作業車両10に搭載される各種電子制御装置の構成例を示すブロック図である。図2に示すように、圃場作業車両10には、本実施形態による走行経路設定装置100、位置・方位検出装置200、走行制御装置300および作業機制御装置400が搭載される。
【0014】
走行経路設定装置100は、圃場作業車両10が圃場を自動走行する際の目標経路となる走行経路を設定するためのものである。走行経路設定装置100は、圃場の外周に沿ってティーチング走行することによって圃場の形状を認識し、認識した圃場の形状に基づいて、所与の作業をしながら自動走行する圃場作業車両10の走行経路を設定する。この走行経路設定装置100の具体的な構成および動作については後述する。
【0015】
位置・方位検出装置200は、圃場作業車両10の現在位置および方位を検出するものであり、例えばGPS受信機や自律航法センサといった公知の技術を用いることが可能である。走行制御装置300は、位置・方位検出装置200により検出される圃場作業車両10の現在位置および方位に基づいて、走行経路設定装置100により設定された走行経路に沿って走行を制御するものである。
【0016】
作業機制御装置400は、作業機2の動作を制御するものである。例えば、作業機制御装置400は、作業機2の作動および停止を制御する。以下では、作業機2を作動させながら走行する状態を「作業走行」といい、作業機2を停止させて走行する状態を「非作業走行」という。走行制御装置300および作業機制御装置400は、作業者が操作する圃場作業車両10の車載コントローラまたはリモートコントローラ(以下、リモコンという)500からの指示を受けて圃場作業車両10の走行および作業機2の動作を制御することも可能であるし、車載コントローラおよびリモコン500からの指示を受けずに自律的に圃場作業車両10の走行および作業機2の動作を制御することも可能である。
【0017】
以上のように構成された圃場作業車両10は、車体1に搭乗した作業者により行われる手動操作に従って、圃場内を走行しながら作業機2にて所与の作業を行うことが可能である。また、圃場作業車両10は、位置・方位検出装置200により検出される現在位置および方位に基づいて、走行経路設定装置100によって圃場内にあらかじめ設定された走行経路に沿って自動走行しながら、作業機2にて所与の作業を行うこともできるようになされている。
【0018】
ここで、自動走行とは、作業者が圃場作業車両10に搭乗して手動でハンドル操作を行うことなく、圃場作業車両10の走行制御装置300が操舵を自動的に制御して走行する状態をいう(作業者が圃場作業車両10に乗車しているか否かは問わない)。すなわち、自動走行は、作業者が手動でハンドル操作を行うことによって走行する手動走行と区別される走行状態をいう。
【0019】
図3は、本実施形態による走行経路設定装置100の機能構成例を示すブロック図である。図3(a)に示すように、本実施形態による走行経路設定装置100は、機能構成として、圃場形状認識部11および走行経路設定部12を備えて構成されている。また、走行経路設定装置100は、記憶媒体として、経路記憶部110を備えている。また、図3(b)に示すように、走行経路設定部12は、より具体的な機能構成として、外周領域設定部12A、往復領域設定部12B、往復経路設定部12Cおよび周回経路設定部12Dを備えている。
【0020】
上記機能ブロック11~12は、ハードウェア、DSP(Digital Signal Processor)、ソフトウェアの何れによっても構成することが可能である。例えばソフトウェアによって構成する場合、上記各機能ブロック11~12は、実際にはコンピュータのCPU、RAM、ROMなどを備えて構成され、RAMやROM、ハードディスクまたは半導体メモリ等の記録媒体に記憶された走行経路設定用プログラムが動作することによって実現される。
【0021】
図4および図5は、走行経路設定装置100による経路設定動作を説明するための図である。以下、図4および図5を参照しながら、図3に示す各機能ブロック11~12,12A~12Dの機能および動作について説明する。
【0022】
圃場形状認識部11は、図4(a)および図5(a)に示すように、圃場の外周に沿って手動走行によりティーチング走行をしたときに位置・方位検出装置200により検出される圃場作業車両10の現在位置および方位に基づいて、圃場の形状を認識する。このティーチング走行時に、作業者が車載コントローラまたはリモコン500の動作ボタンを押下することによって作業走行をすることも可能であるし、動作ボタンを押下せずに非作業走行をすることも可能である。圃場形状認識部11は、ティーチング走行中に非作業走行した領域をティーチング走行非作業領域として経路記憶部110に記憶するとともに、ティーチング走行中に作業走行した領域を作業済み領域として経路記憶部110に記憶する。
【0023】
図4および図5に示す例では、開始位置SPから圃場の外周を3辺に沿って周回走行した領域をティーチング走行領域として経路記憶部110に記憶している。以下の説明において、1つの直線区間を1行程とする。図4(a)および図5(a)の例では、開始位置SPから圃場の左辺に沿って走行する第1行程の領域と、それに続いて上辺に沿って走行する第2行程の領域と、それに続いて右辺に沿って走行する第3行程の領域とをティーチング走行領域として記憶している。
【0024】
ここで、作業者は、ティーチング走行をするときに、車載コントローラまたはリモコン500の動作ボタンを操作することにより、第1行程~第3行程の3つの領域のうち、何れか1つ(または2つ)を非作業走行とするとともに、残りの2つ(または1つ)を作業走行とすることが可能である。圃場形状認識部11は、ティーチング走行時に動作ボタンの操作の有無を検出し、その検出結果に基づいて、非作業走行をした領域をティーチング走行非作業領域として経路記憶部110に記憶するとともに、作業走行をした領域を作業済み領域として経路記憶部110に記憶する。
【0025】
図4(a)および図5(a)の例では、第1行程を非作業走行し、第2行程および第3行程を作業走行している。ここでは説明の便宜上、非作業走行領域と作業走行領域とを視覚的に区別するために、非作業走行領域を破線矢印のみで示し、作業走行領域を行程枠付きの実線矢印で示している。行程枠は、作業機2の幅とほぼ等しい1行程の幅(以下、行程幅という)を有する矩形の枠である。行程枠をハッチングしているのは、手動走行する領域であることを示している。
【0026】
走行経路設定部12は、図4(b)~(d)および図5(b)~(d)に示すように、圃場形状認識部11による圃場の形状の認識後に、所与の作業が行われていない非作業領域に対して作業走行経路を設定する。ティーチング走行によって圃場の形状を認識することにより、非作業領域の形状も認識することが可能となり、当該非作業領域に対して走行経路を設定することが可能な状態となる。ここで、走行経路設定部12は、圃場形状認識部11により経路記憶部110に記憶されたティーチング走行非作業領域(図4(a)および図5(a)に示す第1行程の領域)も含めて、非作業領域に対して作業走行経路を設定する。
【0027】
走行経路設定部12の外周領域設定部12Aは、図4(b)および図5(b)に示すように、経路記憶部110に記憶されているティーチング走行非作業領域も含めて、圃場の外形に合わせて外周領域OCAを設定する。また、往復領域設定部12Bは、外周領域OCAの内側に往復領域RTAを設定する。外周領域OCAは、圃場の中で、ティーチング走行時に圃場形状認識部11により経路記憶部110に記憶された作業済み領域以外の領域を対象として、圃場の形状に合わせて外周に設定される1行程幅の領域である。この作業済み領域以外の領域の中に、ティーチング走行非作業領域として経路記憶部110に記憶された1行程幅の領域も含まれる。
【0028】
往復経路設定部12Cは、図4(c)および図5(c)に示すように、ティーチング走行に続けて往復領域RTAにおいて往復走行する往復経路を設定する。往復経路設定部12Cは、圃場の外形を構成している複数の辺のうち、何れか1つの辺に対して平行に往復走行する経路を設定する。図4(c)では、圃場の左右の辺に対して平行に往復走行する経路を設定している。これに対し、図5(c)では、圃場の上下の辺に対して平行に往復走行する経路を設定している。この違いについての詳細は後述する。
【0029】
往復領域RTA内に設定される往復経路は、圃場作業車両10が所与の作業をしながら自動走行をする経路である。この往復経路は作業走行経路であるため、行程枠付きの実線矢印で示している。行程枠をハッチングしていないのは、上述した手動走行する領域(行程枠がハッチングされた領域)に対し、自動走行する領域であることを視覚的に区別できるようにするためである。
【0030】
周回経路設定部12Dは、図4(d)および図5(d)に示すように、往復経路の末端から走行を継続して外周領域OCAに沿って周回走行する周回経路を設定する。外周領域OCAに設定される周回経路は、圃場作業車両10が所与の作業をしながら自動走行または手動走行をする経路である。この周回経路の終端が、ティーチング走行後の位置から始まる一連の走行経路の終了位置GPとなる。以上のようにして設定された走行経路を示すデータは、経路記憶部110に記憶され、走行制御装置300および作業機制御装置400による制御のために使われる。
【0031】
図4は、ティーチング走行非作業領域を、所与の作業の終了後に圃場作業車両10が圃場から退出するための経路として利用する場合に設定される走行経路の一例を示したものである。図5は、ティーチング走行非作業領域を、所与の作業中に圃場作業車両10に対する補助作業(例えば、田植え作業中の苗補給など)を行うための領域として利用する場合に設定される走行経路の一例を示したものである。
【0032】
例えば、走行経路設定部12は、圃場の出入口にスロープが形成されていて、図4の矢印Yで示す方向にしか圃場作業車両10が走行できない圃場において、ティーチング走行非作業領域を圃場からの退出用経路として利用できるようにするために、図4(c)、(d)に示すように、ティーチング走行非作業領域において所与の作業をしつつ圃場から退出可能となるように、外周領域OCAおよび往復領域RTAの作業走行経路を設定する。すなわち、走行経路設定部12は、往復領域RTAの中を往復走行した後に、外周領域OCAを周回走行し、ティーチング走行非作業領域として記憶された第1行程を逆走して圃場から退出可能な走行経路を設定する。この走行経路では、開始位置SPと終了位置GPとが一致する。
【0033】
また、走行経路設定部12は、ティーチング走行非作業領域を、圃場作業車両10に対する補助作業を行うための領域として利用できるようにするために、図5(c)、(d)に示すように、ティーチング走行非作業領域に対して非平行に接する往復経路が含まれるように、外周領域OCAおよび往復領域RTAの作業走行経路を設定するようにしてもよい。この場合、走行経路設定部12は、往復領域RTAの中でティーチング走行非作業領域に対して非平行に接するように往復走行をした後に、外周領域OCAを周回走行する走行経路を設定する。
【0034】
この走行経路では、開始位置SPと終了位置GPとが一致することを必須とするものではない。図5の例では、開始位置SPと終了位置GPとが異なっている。なお、図5の例において、往復経路が終了する左上の地点から、ティーチング走行領域の第1行程を非作業走行にて開始位置SPまで移動した後、外周領域OCAの4行程を作業走行にて周回走行することにより、開始位置SPと終了位置GPとが一致する走行経路を設定するようにすることも可能である。このような走行経路を、ティーチング走行非作業領域を圃場からの退出に利用する場合の走行経路として設定することも可能である。ただし、この走行経路では、往復経路の行程数が図4に比べて多くなるとともに、ティーチング走行領域の第1行程を3回走行することになるため、図4のように、圃場の長辺に沿って往復走行をするような走行経路を設定するのが好ましい。
【0035】
ティーチング走行非作業領域を圃場から退出に利用する場合の走行経路と、ティーチング走行非作業領域を補助作業に利用する場合の走行経路のうち、どちらの走行経路を走行経路設定部12が設定するかは、例えば走行経路設定用プログラムによってあらかじめ決められている。あるいは、どちらの走行経路を設定するかを作業者が車載コントローラまたはリモコン500のユーザインタフェースを操作して選択できるようにしてもよい。
【0036】
なお、図6は、ティーチング走行領域の第2行程を非作業走行した場合に走行経路設定部12により設定される走行経路の例を示す図である。この図6は、第2行程のティーチング走行非作業領域を圃場作業車両10に対する補助作業に利用する場合の走行経路を示したものであり、往復経路設定部12Cにより往復領域RTAに対して往復経路が設定されたところまでの状態(c)と、外周領域OCAに対して周回経路が設定された状態(d)とを示している。ティーチング走行領域の第2行程がティーチング走行非作業走行領域に設定された場合、走行経路設定部12は、往復領域RTAの中で当該第2行程の領域に対して非平行に接するように往復走行をした後に、外周領域OCAを周回走行するような走行経路を設定する。
【0037】
図7は、圃場の形状が台形である例を示したものである。この図7は、台形の対辺を成す2つの脚のうち、斜辺となっている一方の脚に沿った経路を第1行程とし、他方の脚に沿った経路を第3行程としてティーチング走行した例を示している。また、この図7は、ティーチング走行領域の第1行程を非作業走行した場合に設定される走行経路の例を示している。この図7も、ティーチング走行非作業領域を圃場作業車両10に対する補助作業に利用する場合の走行経路を示したものであり、往復経路設定部12Cにより往復領域RTAに対して往復経路が設定されたところまでの状態(c)と、外周領域OCAに対して周回経路が設定された状態(d)とを示している。
【0038】
図7の例において、往復経路設定部12Cは、ティーチング走行領域の第3行程(台形の他方の脚に沿った領域)に対して平行に往復走行をする第1往復経路を設定した後、ティーチング走行領域の第1行程(台形の一方の脚に沿った領域)に対して平行に往復走行をする第2往復経路を設定する。この場合、第1往復経路と第2往復経路とでオーバーラップする領域が生じる。このオーバーラップする領域では、最初に走行する第1往復経路の一部を非作業走行経路とし、後から走行する第2往復経路を作業走行経路とする。図7のように往復経路を設定した場合、ティーチング走行非作業領域として記憶された第1行程の領域に対し、第1往復経路が非平行に接する。
【0039】
なお、走行経路設定部12が外周領域OCAおよび往復領域RTAに対して走行経路を設定する方法は、上述した利用目的に合致することを満たした方法であれば、どのような方法であってもよい。例えば、特許文献1に記載された方法を適用するようにしてもよい。
【0040】
以上詳しく説明したように、本実施形態では、圃場の外周に沿ってティーチング走行したときに位置・方位検出装置200により検出される圃場作業車両10の現在位置および方位に基づいて圃場の形状を認識する圃場形状認識部11と、ティーチング走行による圃場の形状の認識後に、非作業領域に対して作業走行経路を設定する走行経路設定部12とを備え、ティーチング走行中に所与の作業を行わずに走行した領域をティーチング走行非作業領域として記憶するとともに、ティーチング走行中に所与の作業をしながら走行した領域を作業済み領域として記憶し、ティーチング走行非作業領域も含めて、非作業領域(外周領域OCAおよび往復領域RTA)に対して作業走行経路として往復経路および周回経路を設定するようにしている。
【0041】
このように構成した本実施形態によれば、ティーチング走行中に所与の作業を行わずに走行した領域がティーチング走行非作業領域として記憶され、このティーチング走行非作業領域も含めて作業走行経路が設定されるので、このティーチング走行非作業領域をティーチング走行後に再び走行する経路を設定することが可能であり、当該ティーチング走行非作業領域を別の目的に活用することが可能である。また、ティーチング走行領域の一部がティーチング走行非作業領域に設定され、残りの一部が作業済み領域に設定されると、作業済み領域については作業のために再び走行することが不要である。これにより、所与の作業の効率を極力落とすことなく、ティーチング走行した領域を別の目的に活用可能な走行経路を設定することができる。
【0042】
なお、上記実施形態では、圃場作業車両10が走行経路設定装置100を備える構成を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、走行経路設定装置100は圃場作業車両10の外部に設置し、圃場作業車両10は、走行経路設定装置100により設定された走行経路のデータを記憶する経路データ記憶装置を備える構成としてもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、圃場の外形の何れかの辺に対して平行に往復走行する往復経路を設定する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、圃場の外形の何れかの辺に対して所定の角度を付けて斜めに往復走行する往復経路を設定するようにしてもよい。
【0044】
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0045】
11 圃場形状認識部
12 走行経路設定部
12A 外周領域設定部
12B 往復領域設定部
12C 往復経路設定部
12D 周回経路設定部
100 走行経路設定装置
110 経路記憶部
200 位置・方位検出装置
300 走行制御装置
400 作業機制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7