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特許7466634エッグシェル型白金担持アルミナ触媒、その製造方法、及びその使用方法
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  • 特許-エッグシェル型白金担持アルミナ触媒、その製造方法、及びその使用方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】エッグシェル型白金担持アルミナ触媒、その製造方法、及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/185 20060101AFI20240405BHJP
   B01J 35/53 20240101ALI20240405BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20240405BHJP
   C07C 5/367 20060101ALI20240405BHJP
   C07C 15/06 20060101ALI20240405BHJP
   B01J 37/18 20060101ALI20240405BHJP
   C01B 3/26 20060101ALI20240405BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240405BHJP
   B01J 23/652 20060101ALN20240405BHJP
   B01J 23/648 20060101ALN20240405BHJP
【FI】
B01J27/185 Z
B01J35/53
B01J37/02 101D
C07C5/367
C07C15/06
B01J37/18
C01B3/26
C07B61/00 300
B01J23/652 Z
B01J23/648 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022516775
(86)(22)【出願日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2020017564
(87)【国際公開番号】W WO2021214955
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 佳巳
(72)【発明者】
【氏名】今川 健一
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 政志
(72)【発明者】
【氏名】福留 健太
(72)【発明者】
【氏名】小林 治人
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-082137(JP,A)
【文献】特開昭58-177146(JP,A)
【文献】特表2005-525933(JP,A)
【文献】特許第4652695(JP,B2)
【文献】特開2005-138024(JP,A)
【文献】特開2001-198469(JP,A)
【文献】特開2008-273778(JP,A)
【文献】特許第4142733(JP,B2)
【文献】国際公開第84/02663(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07C 1/00-409/44
C07B 61/00
C01B 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルシクロヘキサンを脱水素化するためのエッグシェル型白金担持アルミナ触媒であって、
アルミナ担体と、
前記アルミナ担体の外郭に分散して担持された白金と、
リンとを有するエッグシェル型白金担持アルミナ触媒。
【請求項2】
前記白金の含有量が白金元素として0.05wt%以上5.0wt%以下である請求項1に記載のエッグシェル型白金担持アルミナ触媒。
【請求項3】
前記リンの含有量が、各元素として0.1wt%以上5.0wt%以下である請求項1に記載のエッグシェル型白金担持アルミナ触媒。
【請求項4】
前記アルミナ担体は、表面積が150m/g以上、細孔容積が0.40cm/g以上、平均細孔径が40Å以上300Å以下、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Å以下の細孔が占める割合が60%以上である請求項1に記載のエッグシェル型白金担持アルミナ触媒。
【請求項5】
メチルシクロヘキサンを脱水素化するためのエッグシェル型白金担持アルミナ触媒の製造方法であって、
アルミナ担体にリンを含む化合物の水溶液を含浸させ、その後に乾燥・焼成を行うステップと、
焼成後の前記アルミナ担体にエッグシェル型に白金を担持させるステップと、
白金を担持させた前記アルミナ担体を水素雰囲気にて還元するステップとを有するエッグシェル型白金担持アルミナ触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1~請求項4のいずれか1つの項に記載された前記エッグシェル型白金担持アルミナ触媒と、均一型白金担持アルミナ触媒との両方を用いて行うメチルシクロヘキサンの脱水素方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化学品製造、水素製造、ファインケミカル製造、排気ガス処理等の環境浄化等の触媒を利用するプロセスに用いられる金属触媒に係り、アルミナ担体に白金が担持されているエッグシェル型白金担持アルミナ触媒、その製造方法、及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ担体に白金等を担持させた白金担持アルミナ触媒は、例えば、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、デカリン、ジベンジルトルエン等の水素化芳香族類から対応する芳香族類と水素に脱水素する脱水素反応を始めとする様々な化合物の脱水素反応や水素化反応、改質反応等による燃料や石油化学品、医薬などのファインケミカル製造、自動車排ガスを始めとする環境浄化等、極めて広範な分野で工業的に用いられている。
【0003】
そして、これらの白金担持アルミナ触媒は、一般に、アルミナの金属酸化物からなる多孔性アルミナ担体を調製し、得られた多孔性アルミナ担体に塩化白金酸水溶液、塩化白金アンモニウム水溶液、アセチルアセトナト白金等の有機白金化合物の溶液等の触媒金属化合物の溶液を含浸させ、次いで乾燥させて触媒金属化合物担持乾燥物とした後、例えば350℃以上800℃以下及び0.5時間以上24時間以下の条件で焼成し、更に必要に応じて、得られた触媒金属化合物担持焼成物を例えば250℃以上800℃以下及び0.5時間以上24時間以下の条件で水素還元することにより製造されている。
【0004】
このような方法で製造される白金担持アルミナ触媒は、白金原子が原子量195と質量が大きく、白金源として利用される白金化合物の触媒担体に対する吸着力が強いことから、白金化合物がアルミナ担体の内部に拡散する前にアルミナ担体の外殻部のみに吸着されて固定されるため、触媒断面で白金金属の分散状態を観察した場合に、触媒の外周部のみに白金金属が担持されており、担体内部には白金金属が担持されていない、いわゆるエッグシェル(egg shell)型の白金担持触媒となることが知られている。
【0005】
触媒反応において原料の分子が大きい等の理由により触媒粒子内での拡散抵抗が大きい場合は、活性金属である白金が触媒の内部にまで担持されていても、原料の分子が触媒内部に拡散する速度が遅いため反応が十分に進行しないことから、反応が触媒粒子の外殻周辺で優先的に起こることが知られている。このような反応では、活性金属が触媒の外郭部のみに存在するエッグシェル型の方が有利である。しかしながら、触媒粒子の外殻のみに一定量の活性金属を担持した場合、活性金属粒子の密度が高くなるために、活性金属粒子の分散度を十分に実現できないという問題や、シンタリングやコーキングによる触媒劣化が起きやすいという問題等が発生する虞がある。このような観点から、触媒外郭部にのみ白金金属が担持される場合の白金金属の分散度を向上させた触媒が開発されている。特許文献1は、拡散抵抗が大きくならない程度に白金担持アルミナ触媒の細孔の大きさが揃っており、かつ白金の分散が良好なエッグシェル型白金担持アルミナ触媒を開示している。また、拡散抵抗が影響しない反応においては担体の有する表面積を十分に活用できるように、触媒の断面全体にわたって白金金属が良好に分散している触媒も開発されており、特許文献2はそのような均一型白金担持アルミナ触媒を開示している。
【0006】
触媒反応において原料の分子が大きい等の理由により触媒粒子内での拡散抵抗が大きい場合は、活性金属である白金が触媒の内部にまで担持されていても、原料の分子が触媒内部に拡散する速度が遅いため反応が十分に進行しないことから、反応が触媒粒子の外殻周辺で優先的に起こることが知られている。このような反応では、活性金属が触媒の外郭部のみに存在するエッグシェル型の方が有利である。しかしながら、触媒粒子の外殻のみに一定量の活性金属を担持した場合、活性金属粒子の密度が高くなるために、活性金属粒子の分散度を十分に実現できないという問題や、シンタリングやコーキングによる触媒劣化が起きやすいという問題等が発生する虞がある。このような観点から、触媒外郭部にのみ白金金属が担持される場合の白金金属の分散度を向上させた触媒が開発されている。特許文献1は、拡散抵抗が大きくならない程度に白金担持アルミナ触媒の細孔の大きさが揃っており、かつ白金の分散が良好な白金担持アルミナ触媒を開示している。また、拡散抵抗が影響しない反応においては担体の有する表面積を十分に活用できるように、触媒の断面全体にわたって白金金属が良好に分散している触媒も開発されており、特許文献2はそのような白金担持アルミナ触媒を開示している。
【0007】
白金担持アルミナ触媒は、古くから広範な分野における触媒プロセスで利用されているが、近年は水素エネルギーの貯蔵輸送技術として注目されている水素エネルギーキャリアの一つの方法である有機ケミカルハイドライド法に利用されている。従来の白金担持アルミナ触媒に比べて性能の高い白金担持アルミナ触媒の開発が進められるようになっており、特許文献1及び特許文献2は白金担持アルミナ触媒の用途として、有機ケミカルハイドライド法で必要な脱水素反応での利用を開示している。有機ケミカルハイドライド法は、化学反応によって、水素を化学品の分子構造の中に取り込んだ有機ケミカルハイドライド化合物(水素化有機化合物)として「貯める」「運ぶ」を行う方法である。有機ケミカルハイドライド法は、1980年代から提唱されていた方法であるが、水素を取り込んだ有機ケミカルハイドライドの化合物から水素を発生させる脱水素触媒の寿命が極めて短く、工業的な実施が困難であったために実用化されていない方法であり、技術開発の鍵は工業的に利用できる触媒寿命など十分な性能を有する新規な脱水素触媒の開発であった。現在では、上記のような高い性能を有する白金担持アルミナ触媒の適用によって、有機ケミカルハイドライド法による水素エネルギーキャリアシステムの開発は、大規模な国際間水素輸送実証が実施されるに至っており、技術的には商業化が可能な段階まで開発が進んでいる。非特許文献3及び4は、このような有機ケミカルハイドライド法の開発の経緯を開示している。
【0008】
日本国は水素エネルギーの実用化と普及を国策として進める方針を震災後の第4次エネルギー基本計画から盛り込んでおり、水素・燃料電池技術ロードマップの策定に続いて2017年に水素基本戦略を閣議決定している。上記の有機ケミカルハイドライド法は水素エネルギーを大規模に「貯める」「運ぶ」を行う水素エネルギーキャリアを提供することができ、水素基本戦略にその実用化が盛り込まれており、2030年までに水素供給価格目標として30¥/Nm、2050年目標として20¥/Nmを掲げている。これより、継続的な改良技術開発によるコストダウンが求められており、触媒性能、特に触媒寿命の向上はコストダウンに大きな影響を与える。触媒性能の中で、転化率、選択率とその積である収率については、これまでの開発で比較的に高いレベルまで開発が進んでおり、その性能をいかに長期間維持できるかの触媒寿命の改善がコストダウンに寄与する段階にある。更に、工業的な触媒製造工程において、硫黄を利用しないことによる工程の簡略化とプロセスの簡略化もコストダウンに寄与する要素技術となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4652695号公報
【文献】特許第4142733号公報
【文献】岡田佳巳、エネルギー・資源、Vol.33, No.3,168 (2018)
【文献】岡田佳巳、東京都高圧ガス協会会報、2019年8月号、9月号
【文献】資源エネルギー庁、水素基本戦略(2017年12月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2の均一型白金担持アルミナ触媒は、比較的触媒寿命が長く、実用的にも有用であるが、更なる改善が望まれている。有機ケミカルハイドライド法における脱水素反応は吸熱反応及び反応により分子数が増大する平衡反応であるため、反応条件が高温かつ低圧であるほど効率が良い。一方、製造される水素は、利用用途によっては高圧であることが好ましいため、より高い反応温度でも使用可能な触媒が求められることがある。しかし、反応条件が高温になると、副反応が発生し易くなるため、触媒の選択性の向上が必要になる。また、反応条件が高温になると、触媒上にカーボンが生成され易くなり、触媒が劣化し易くなる。また、脱水素反応は、前述の通り、低圧での反応が好ましい。そのため、圧力損失の少ない触媒が求められ、粒子径が大きい触媒が有利になる。触媒の粒子径が大きくなると、触媒内部へのガス拡散が低下するため、触媒に使用される白金の効率を考慮すると、エッグシェル型の触媒が有利になる。
【0011】
上記の背景から、本発明者らは白金担持アルミナ触媒の性能向上を鋭意検討した結果、エッグシェル型白金担持アルミナ触媒においてアルカリ金属以外の第2成分の添加によって触媒寿命を改善できることを見出した。
【0012】
従って、本発明の目的は、原料の触媒細孔内での拡散速度が遅い場合に有利なエッグシェル型白金担持アルミナ触媒において、触媒活性や選択性、特に触媒寿命を向上させることにある。
【0013】
また、本発明の他の目的は、このように触媒活性や選択性、特に触媒寿命において優れた性能を有するエッグシェル型白金担持アルミナ触媒の製造方法、及びその使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様は、エッグシェル型白金担持アルミナ触媒であって、アルミナ担体と、前記アルミナ担体の外郭に分散して担持された白金と、バナジウム、クロム、モリブデン、及びリンの群から選ばれる1種又は2種以上の第2成分とを有する。この態様によれば、触媒寿命を向上させることができる。
【0015】
前記白金の含有量は、白金元素として0.05wt%以上5.0wt%以下であるとよい。前記第2成分の含有量は、各元素として0.1wt%以上5.0wt%以下であるとよい。前記アルミナ担体は、表面積が150m2/g以上、細孔容積が0.40cm3/g以上、平均細孔径が40Å以上300Å以下、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Å以下の細孔が占める割合が60%以上であるとよい。
【0016】
また、本発明の他の態様は、エッグシェル型白金担持アルミナ触媒の製造方法であって、アルミナ担体にバナジウム、クロム、モリブデン、及びリンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の成分からなる化合物の水溶液を含浸させ、その後に乾燥・焼成を行うステップと、焼成後の前記アルミナ担体にエッグシェル型に白金を担持させるステップと、白金を担持させた前記アルミナ担体を水素雰囲気にて還元するステップとを有する。
【0017】
また、本発明の他の態様は、エッグシェル型白金担持アルミナ触媒を用いて水素化芳香族類を脱水素化する水素化芳香族類の脱水素方法を提供する。前記水素化芳香族類は、単環芳香族類の水素化物、2環芳香族類の水素化物、及び3環以上の芳香環を有する化合物の水素化物からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物であるとよい。また、前記水素化芳香族類は、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、テトラリン、デカリン、メチルデカリン、ビフェニル、ジフェニルメチル、ジベンゾトリオール、テトラデカヒドロアントラセンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物であるとよい。
【0018】
前述のように、均一型触媒は原料の触媒内部までの拡散が十分に行われる場合に有効であり、エッグシェル型触媒は触媒内部までの拡散が制限されて十分に行われない場合に有効なことから、これらの2種類の触媒は反応場における拡散の状態によって使い分けることが好ましい。また、同じ反応でも反応器内の位置によって、原料の触媒内部への拡散状態が異なる場合があり、反応が進行した出口近くでは原料濃度が低くなることから、触媒内部への拡散が制限され得る。このような場合には、反応器において均一型とエッグシェル型の触媒を併用することが好ましい。
【0019】
また、一般に触媒内部への原料の拡散度合いは触媒有効係数で表されるが、触媒ペレットの大きさや形状を変えることで触媒有効係数を制御することが可能である。これらより、均一型とエッグシェル型の両タイプの触媒について、触媒ペレットの大きさや形状を変えることで、さまざまな触媒有効係数を有する白金アルミナ触媒の製造が可能となる。
【0020】
本発明のエッグシェル型白金担持アルミナ触媒において、白金及び第2成分を存在させるアルミナ担体は、細孔のサイズをできるだけ均一に制御したものが好ましい。具体的には、硫黄含有多孔性金属酸化物が表面積150m/g以上、細孔容積0.4cm/g以上、平均細孔径40Å以上300Å以下、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Åの細孔が占める割合が60%以上である多孔性金属酸化物が好ましい。
【0021】
特許文献1は、表面積150m/g以上、細孔容積0.55cm/g以上、平均細孔径90Å以上300Å以下、及び全細孔容積に対して細孔径90Å以上300Å以下の細孔が占める割合が60%以上である多孔性γ-アルミナ担体に、白金が担持されていることを特徴とする白金担持アルミナ触媒を開示している。この触媒は前述のように一般的なエッグシェル型の白金担持アルミナ触媒であり、特許文献1では、触媒寿命を向上させる手段としてアルカリ金属を添加した触媒についても開示している。アルミナを担体とした触媒を利用する場合は、白金粒子上で起こる分解反応を抑制しただけでは十分ではなく、アルミナ上の酸点で起こる分解反応の抑制も必要となる。従って、これらの酸点をカリウムやリチウム等のアルカリ金属を用いてマスキングすることでアルミナ表面での分解反応を抑制することが行われることが多い。この観点から、特許文献1では、エッグシェル型白金担持触媒において、白金が高い分散度で担持されることで白金上での分解を抑制するとともに、アルカリを添加することでアルミナ上の酸点のマスキングを行って、触媒寿命向上において顕著な効果を見出したものである。
【0022】
一方、特許文献2はアルミナ担体に硫黄を含有させることによって、担持される白金の分散形態が均一型になるとともに分解反応を抑制することで触媒寿命の向上を図る均一型白金担持アルミナ触媒を開示している。特許文献2の発明時点では、硫黄又は硫黄化合物を含有させたアルミナ担体を利用する場合、その上にアルカリ金属による酸点のマスキングを実施しない場合でもそれと同等以上の分解反応抑制効果があると考えられた。詳細なメカニズムは不明であるが、硫黄元素がアルミナと共に複合酸化物を形成し、アルミナ単独の場合に残留する酸点を異なる構造に変化させているものと考えられた。その際、硫黄元素がアルミナと複合酸化物を形成した場合の形態は、一般的に硫酸根形態であることが考えられた。
【0023】
本発明のエッグシェル型白金担持アルミナ触媒の製造において、第2成分添加工程が増えることはコストアップの要因となるが、本発明による触媒の長寿命化によるコストダウン効果は、触媒製造費用のコストアップに比べて極めて高く、反応器での触媒の利用方法によって脱水素触媒の交換寿命を従来の1~2年から3から4年に長期化することが可能である。
【0024】
本触媒は、代表的に脱水素触媒として利用されるが、熱交換型の反応器の触媒反応管に充填して利用される。触媒反応管の本数は一般的な熱交換器と同様に、大型の反応器では数千本になる場合もある。このような反応器で利用される白金担持アルミナ触媒は、その性能が一定の収率に低下した時である触媒寿命に達したときに、新しい触媒に交換するために抜き出される。抜き出された廃触媒からは白金が回収されて、次の交換用触媒の製造にリサイクル利用される。抜き出し作業には数日が必要であり、新触媒の充填にはそれ以上の作業日数が必要であるため、触媒交換に2週間程度が必要になる。その間、製造が止まるため、交換頻度の低減はコストダウンに大きく寄与する。すなわち、特許文献1及び特許文献2が開示している触媒の寿命は1~2年であるが、本発明によるアルカリ添加均一型白金担持アルミナ触媒の寿命は4年であり、触媒交換頻度を半数以下に低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のエッグシェル型白金担持アルミナ触媒は、エッグシェル型白金担持アルミナ触媒に比べて高い触媒性能を有しており、特に触媒寿命の観点で優れた触媒である。また、これらの触媒は、本発明の製造方法によれば、既存の触媒製造設備で容易に大量製造することができる。これらの触媒は既存の白金担持アルミナ触媒の代替として利用できるほか、水素貯蔵輸送技術の一つである有機ケミカルハイドライド法におけるメチルシクロヘキサン等の脱水素触媒として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】(A)エッグシェル型の金属担持触媒、(B)均一型の金属担持触媒を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0027】
先ず、図1を用いて、本発明でいうエッグシェル型の金属担持触媒と均一型の金属担持触媒とを説明する。エッグシェル型の金属担持触媒とは、成形された触媒の断面において担持される金属種が断面の外殻部分にのみ分散担持されている状態を指す。すなわち、多孔性の担体1の外郭部分に金属種が担持された金属担持部分2が形成されている。均一型の金属担持触媒は、触媒の断面の全体亘って金属種が分散し、多孔性の担体1の成形体の内部全般にわたって金属種が担持された金属担持部分2が形成されている状態をいう。
【0028】
エッグシェル型白金担持アルミナ触媒は、アルミナ担体と、アルミナ担体の外郭に分散して担持された白金と、バナジウム、クロム、モリブデン、及びリンの群から選ばれる1種又は2種以上の第2成分を有する。
【0029】
次に本発明において利用されるアルミナ担体について説明する。アルミナ担体は、表面積が150m/g以上、細孔容積が0.40cm/g以上、平均細孔径が40Å以上300Å以下、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Å以下の細孔が占める割合が60%以上である。
【0030】
アルミナ担体は、多孔性γ-アルミナ担体であるとよい。アルミナ担体は、例えば特公平6-72005号公報に開示されているように、アルミニウム塩の中和により生成した水酸化アルミニウムのスラリーを濾過洗浄し、得られたアルミナヒドロゲルを脱水乾燥した後、400℃以上800℃以下で1~6時間程度焼成することにより得られる多孔性γ-アルミナ担体であるのがよく、より好ましくはアルミナヒドロゲルのpH値をアルミナヒドロゲル溶解pH領域とベーマイトゲル沈殿pH領域との間で交互に変動させると共に少なくともいずれか一方のpH領域から他方のpH領域へのpH変動に際してアルミナヒドロゲル形成物質を添加してアルミナヒドロゲルの結晶を成長させるpHスイング工程を経て得られた多孔性γ-アルミナ担体であるのがよい。このpHスイング工程を経て得られた多孔性γ-アルミナ担体は、細孔分布の均一性に優れ成形後のアルミナ担体ペレットにおいても物理性状のばらつきが少なく、個々のペレット毎の物理性状が安定しているという点で優れている。
【0031】
本発明において、上記のアルミナ担体に担持させる第2成分添加量は、0.1wt%以上5.0wt%以下、好ましくは0.3wt%以上3.0wt%以下、さらに好ましくは0.5wt%以上2.0wt%以下である。第2成分の担持量が0.1wt%より少ないと触媒寿命が短く効果が低いという問題があり、反対に、第2成分の担持量が5.0wt%より多くなると、活性が低下すると共に触媒寿命が短くなるという問題が生じる。
【0032】
上記のアルミナ担体に第2成分を添加させる際に用いる第2成分の化合物としては、第2成分元素の塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩等を例示でき、好ましくは水溶性のもの及び/又はアセトン等の有機溶媒に可溶のものがよく、例えば、塩化バナジウム、臭化バナジウム、ヨウ化バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、塩化バナジル、硫酸バナジル、酸化バナジウムアセチルアセテート、塩化クロム、臭化クロム、ヨウ化クロム、硝酸クロム、硫酸クロム、酢酸クロム、プロピオン酸クロム、塩化モリブデン、臭化モリブデン、ヨウ化モリブデン、モリブデン酸塩類、リン酸、リン酸二水素アンモニウム等の無機リン酸塩、及び有機リン酸化合物等を挙げることができる。
【0033】
また、エッグシェル型白金担持アルミナ触媒に第2成分元素を添加する際には、第2成分元素化合物の溶液を含浸させた後、室温以上200℃以下及び0.5時間以上48時間以下、好ましくは50℃以上150℃以下及び0.5時間以上24時間以下、より好ましくは80℃以上120℃以下及び0.5時間以上5時間以下の乾燥条件で乾燥した後、350℃以上600℃以下及び0.5時間以上48時間以下、より好ましくは350℃以上450℃以下及び0.5時間以上5時間以下の条件で焼成するのがよい。
【0034】
本発明において、上記の第2成分を担持したアルミナ担体に担持させる白金の担持量は、0.05wt%以上5.0wt%以下、好ましくは0.1wt%以上3.0wt%以下である。この白金の担持量が0.05wt%より少ないと活性が低いという問題があり、反対に、5.0wt%より多くなると白金の粒子径が大きくなり、選択性が低下すると共にシンタリングし易くて劣化し易いという問題が生じる。
【0035】
本発明において、アルミナ担体に白金金属を担持させる場合、上記のアルミナ担体に白金化合物の溶液を含浸させ、乾燥したのち所定の温度で焼成すればよい。白金化合物は、白金の塩化物、臭化物、アンモニウム塩、カルボニル化合物、アミン及びアンミン錯体やアセチルアセトナト錯体等の各種の錯体化合物等を挙げることができる。白金化合物は、例えば、塩化白金酸、アセチルアセトナト白金、白金酸アンモニウム塩、臭化白金酸、二塩化白金、四塩化白金水和物、二塩化カルボニル白金二塩化物、ジニトロジアミン白金酸塩等の白金化合物が挙げられる。
【0036】
アルミナ担体に上記の白金化合物の溶液を含浸させた後は、白金化合物が付着したアルミナ担体を50℃以上200℃以下及び0.5時間以上48時間以下の条件で乾燥した後、350℃以上600℃以下及び0.5時間以上48時間以下、より好ましくは350℃以上450℃以下及び0.5時間以上5時間以下の条件で焼成する。次いで、焼成したアルミナ担体を水素ガスの雰囲気下に、350℃以上600℃以下及び0.5時間以上48時間以下、好ましくは350℃以上550℃以下及び3時間以上24時間以下の還元条件で水素還元処理を行う。この水素還元時の温度が350℃未満であると十分に白金が還元されないという問題があり、反対に、600℃を超えると還元時に白金粒子がシンタリングして金属分散度が低下するという問題が生じる。
【0037】
エッグシェル型白金担持アルミナ触媒の製造方法は、アルミナ担体にバナジウム、クロム、モリブデン、及びリンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の成分からなる化合物の水溶液を含浸させ、その後に乾燥・焼成を行うステップと、焼成後の前記アルミナ担体にエッグシェル型に白金を担持させるステップと、白金を担持させた前記アルミナ担体を水素雰囲気にて還元するステップとを有する。
【0038】
有機ケミカルハイドライド法システムの脱水素触媒のコストダウンでは、触媒の長寿命化の次に硫黄を利用しないことによる工程の簡素化が考えられる。発明者らは、硫黄を利用せずに同等の触媒寿命を得られる脱水素触媒について、鋭意検討した結果、アルカリ金属や硫黄に替えて白金以外の第2成分としてバナジウム、クロム、モリブデン、リンから選ばれる成分を添加することによって、同等の効果が得られることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0039】
特許文献1は、アルミナ担体の物理性状が表面積150m/g以上、細孔容積0.40cm/g以上、平均細孔径40Å以上300Å以下、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Å以下の細孔が占める割合が60%以上のアルミナ担体に、白金元素として0.1以上3wt%以下の白金が担体断面の外郭に分散して担持されているエッグシェル型白金担持アルミナ触媒とこれにアルカリ金属を添加した触媒について開示している。
【0040】
すなわち、本発明は特許文献1に開示されているエッグシェル型白金担持アルミナ触媒にアルカリ金属ではなく、白金以外の第2成分としてバナジウム、クロム、モリブデン、リンから選ばれる成分を添加することによって、アルカリ金属添加エッグシェル型白金担持アルミナ触媒に比べて、優れた触媒性能、特に触媒寿命性能に優れていることを見出して本発明を完成させたものである。
【0041】
本発明のエッグシェル型白金担持アルミナ触媒は、例えば水素エネルギーの貯蔵輸送方法の一つである有機ケミカルハイドライド法において水素エネルギーキャリアとして利用される水素化芳香族類の脱水素触媒として使用される。水素化芳香族類は、単環芳香族類の水素化物、2環芳香族類の水素化物、及び3環以上の芳香環を有する化合物の水素化物からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物であるとよい。また、水素化芳香族類は、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、テトラリン、デカリン、メチルデカリン、ビフェニル、ジフェニルメチル、ジベンゾトリオール、テトラデカヒドロアントラセンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物であるとよい。
【0042】
白金担持アルミナ触媒を有機ケミカルハイドライド法におけるメチルシクロヘキサン等の水素化芳香族類の脱水素反応に供する場合、反応時間の経過とともに、徐々に性能が低下する触媒劣化が観察される。触媒劣化の要因はコーキングと呼ばれる炭素析出である。コーキングは、主としてメチルシクロヘキサン等の原料化合物の分解反応によって活性金属の白金金属の表面に炭素析出が起こり、その結果、活性金属の有効な活性点が覆われて機能しなくなる現象である。
【0043】
触媒反応の劣化現象は、反応試験おける転化率の低下として観察され、水素化芳香族類の脱水素反応の場合、直線的に転化率が低下する現象として観察されることが判明している。これより、反応試験における転化率の経時変化において、その低下の傾きによって、触媒寿命の相対的な優劣を評価することができる。更に、実際の反応条件ではなく、短時間での触媒寿命評価を目的とした加速反応試験においても直線的に低下することから、触媒寿命の評価が可能である。
【0044】
水素は1970年代からクリーンな二次エネルギーとして注目され、日本国では、1974年~1992年のサンシャイン計画、1978~1992年のムーンライト計画、1993年~2001年のニューサンシャイン計画において水素製造技術や燃料電池の研究開発が進められた。水素の大規模貯蔵輸送技術は、1992年~2002年のWE-NET計画において液化水素法の開発が開始されている。一方、有機ケミカルハイドライド法の開発の歴史は古く、1980年代にカナダのケベック州政府と欧州12か国による国際研究開発プロジェクトとして実施されたユーロケベック計画にさかのぼる。この計画は、ケベック州に豊富に存在する余剰の水力電力を利用して水の電気分解を行って水素を製造し、大西洋を輸送して欧州で利用する計画であった。水素の輸送方法としては、第1候補として液体水素法、第2候補として液体アンモニア法、第3候補として有機ケミカルハイドライド法が検討されている。当時、有機ケミカルハイドライド法はMCH法と呼ばれていた。ユーロケベック計画は1992年ごろまで約10年間のプロジェクトが遂行されたが、いずれの方法も実用化には至らずに計画は終了しており、以来、水素を大規模に貯蔵輸送する技術は実用化されていない。
【0045】
日本国では、1992年~2002年に実施されたWE-NETプロジェクトにおいて、液化水素法の開発が進められる一方、有機ケミカルハイドライド法の研究は日本の大学を中心に進められていた。出願人は、2002年から脱水素触媒の開発に着手後、初めての学術発表を2004年に横浜で開催された世界水素会議で発表を行っているが、この時期から企業での研究開発例が発表されるようになり、現時点で大規模向けの水素貯蔵輸送技術の研究開発で実証レベルまで進められている技術は、液化水素法と出願人が提案する有機ケミカルハイドライド法のみである。
【0046】
有機ケミカルハイドライド法(OCH法:Organic Chemical Hydride Method)は、水素をトルエン(TOL)などの芳香族と水素化反応させて、分子内に水素を取り込んだメチルシクロヘキサン(MCH)などの飽和環状化合物に転換することで、常温・常圧の液体状態で「貯める」「運ぶ」を行い、利用場所で必要量の水素を脱水素反応で取り出して利用する方法であり、水素とトルエンを反応させる水素化反応(水素貯蔵反応)とMCHから水素を発生させてトルエンを回収する脱水素反応(水素発生反応)からなる。水素を取り出した後に生成するTOLは水素の入れ物(キャリア)として回収、繰り返し利用する。
【0047】
水素は爆発性の気体のため、水素のままの大規模に貯蔵輸送する場合は潜在的なリスクの高い物質である。本法ではガソリンや軽油の成分で常温・常圧の液体状態のMCHの分子内に水素を取り込んで貯蔵輸送を行うため原理的に安全性が高い方法である。具体的には、本システムのタンクや反応器が火災に巻き込まれた場合でも、従来の製油所火災と同様であり、周辺の市街地に甚大な被害を与える可能性は極めて低いと考えられる。「事故は必ず起こる」の考え方は安全対策に非常に重要であり、原理的な安全が求められる所以である。
【0048】
この方法では、1LのMCHの液体に、約530Lの水素ガスを貯蔵することができる。水素ガスの体積を物理的に1/500以下に減容するには500気圧以上に圧縮するか、-253℃以下に冷却して1/800の体積の液体水素にする必要があるが、本法では、化学反応を利用することで常温・常圧下で1/500の体積減容が可能である。また、TOLとMCHは-95℃以上101℃以下の広い温度範囲で液体状態のため、地球上のあらゆる環境下で水のような液体としてハンドリングすることが可能である。大規模なサプライチェーンの構築には、数十万トン単位のTOLの調達が必要であるが、TOLはハイオクガソリンに10wt%以上含まれている燃料基材であるほか、工業溶剤としても多く利用されており、年間2,000万トン以上が世界で生産されている汎用化学品のため大量調達も容易である。
【0049】
上記より、水素を大規模に貯蔵輸送する際の潜在的なリスクを従来のガソリンの貯蔵輸送レベルの危険性にまで原理的に低減できる安全性が高い方法であることが本法の第一の特徴であり、出願人がこの方法に着目した第一の理由である。また、TOL、MCHの大型タンクによる貯蔵や、ケミカルタンカー、ケミカルローリーによる輸送は古くから化学品として実用化されている。今後の自動車の電動化の潮流によって、ガソリンや軽油の自動車燃料の需要は減少が予想されており、これらの貯蔵タンク等の既存インフラの転用が可能なことも大きなメリットである。
【0050】
更に、将来に水素が発電燃料として大規模に利用されるようになった場合、現在の石油備蓄のように水素燃料の備蓄が必要になる時代が予想される。TOLやMCHは長期間大規模に貯蔵しても化学的に変化することはなく、長期貯蔵に際して特段のエネルギー消費やロスを伴わないことから、現行の石油備蓄基地のタンクにMCHを貯蔵することで、水素エネルギーの備蓄基地に転換することも可能である。
【0051】
出願人は、安全性が最も高く既存のインフラを転用できることからコスト的にも有利な有機ケミカルハイドライド法に着目して、2002年から実用化の鍵である新規な脱水素触媒の開発に着手し、世界で初めて有機ケミカルハイドライド法に工業的に適用可能な新規脱水素触媒の開発に成功した。その後、システム全体の技術確立を目的として、脱水素プロセスに開発された触媒を利用するとともに、水素貯蔵反応となるトルエンの水素化プロセスと組み合わせて、同じ場所で水素貯蔵と水素発生を連続的に繰り返す実証デモプラントを2013年に建設して同年4月から2014年11月までに延べ約10,000時間の実証運転を行い、設計通りの高い性能を安定に維持できることが確認されて技術確立を完了している。
【0052】
その後、開発の最終段階として、実際に約200トンの水素を本システムによって東南アジアのブルネイ国から日本の川崎市臨海部に輸送する世界に先駆けた国際間水素サプライチェーン実証がNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトとして2020年度に実施される予定である。
【0053】
日本国は水素エネルギーの実用化と普及を国策として進める方針を震災後の第4次エネルギー基本計画から盛り込んでおり、水素・燃料電池技術ロードマップの策定に続いて2017年に水素基本戦略を閣議決定している。上記の有機ケミカルハイドライド法は水素エネルギーを大規模に「貯める」「運ぶ」を行う水素エネルギーキャリアとして、水素基本戦略にその実用化が盛り込まれており、2030年までに水素供給価格目標として30¥/Nm、2050年目標として20¥/Nmが掲げられている。これより、継続的な改良技術開発によるコストダウンが求められており、触媒の性能向上はコストダウンの重要な要素であることから、本発明は有機ケミカルハイドライド法の実用化に際して有効であり産業上の利用性が高い発明である。
【0054】
エッグシェル型白金担持アルミナ触媒は、触媒の用途のみではなく、吸着剤等としても有効に利用することができる。有機ケミカルハイドライド法への適用を始めとする本発明の触媒が適用できる触媒反応プロセスに不純物等を吸着する前処理等を目的としたガードカラムの充填物としても有用である。
【0055】
本実施形態に係るエッグシェル型白金担持アルミナ触媒は、均一型アルカリ添加白金担持アルミナ触媒と共に使用されてもよい。均一型アルカリ添加白金担持アルミナ触媒は、アルミナ担体と、アルミナ担体の断面全体に亘って分散した硫黄又は硫黄化合物と、アルミナ担体の断面全体に亘って分散して担持された白金と、ナトリウム、カリウム、及びカルシウムの群から選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属を有するとよい。アルミナ担体は、表面積が150m/g以上、細孔容積が0.40cm/g以上、平均細孔径が40Å以上300Å以下、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Å以下の細孔が占める割合が60%以上であるとよい。担体に含有せしめる硫黄の量は、硫黄分として0.15wt%以上5wt%以下が好ましく、更に好ましくは0.15wt%以上3.0wt%以下が好ましい。最も好適な硫黄含有量の範囲は0.15wt%以上3.0wt%以下である。白金の担持量は、0.05wt%以上5.0wt%以下、好ましくは0.1wt%以上3.0wt%以下であるとよい。アルカリ添加量は、0.1wt%以上5wt%以下、好ましくは0.3wt%以上3.0wt%以下、更に好ましくは0.5wt%以上1.5wt%以下であるとよい。均一型白金担持アルミナ触媒にアルカリ性金属を担持させる際に用いるアルカリ性金属の化合物としては、アルカリ性金属の塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩等を例示でき、好ましくは水溶性のもの及び/又はアセトン等の有機溶媒に可溶のものがよく、例えば、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム等を挙げることができる。
【0056】
エッグシェル型白金担持アルミナ触媒と、均一型アルカリ添加白金担持アルミナ触媒とは、同一の反応器に充填されとよい。エッグシェル型白金担持アルミナ触媒と、均一型アルカリ添加白金担持アルミナ触媒とは直列に配置されてもよく、互いに混合して配置されてもよい。
【0057】
このように、エッグシェル型白金担持アルミナ触媒は、水素エネルギーキャリアとして利用されるメチルシクロヘキサン等の水素化芳香族類の脱水素反応に好適に利用でき、有機ケミカルハイドライド法水素貯蔵輸送システムの実用化に資するほか、白金担持アルミナ触媒が利用されている既存の触媒反応プロセスに広く適用できる可能性があり、産業上の利用性が非常に高い。
【0058】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
【0059】
[担体調製]
熱希硫酸中に激しく撹拌しながら瞬時にアルミン酸ソーダ水溶液を加えることにより水酸化アルミニウムスラリーの懸濁液(pH10)を得、これを種子水酸化アルミニウムとして、撹拌を続けながら熱希硫酸とアルミン酸ソーダ水溶液を交互に一定時間おいて加える操作を繰り返し、ろ過洗浄ケーキを得、これを押し出し成形して乾燥した後、500℃で3時間焼成した。このようにして得られたアルミナ担体は、BET表面積257m/g、水銀圧入法による細孔容積0.66cm/g、平均細孔径9.3nmであり、ほとんどの細孔が平均細孔径付近に集中したシャープな細孔分布を有しており、7-13nmの細孔径を有する細孔が占める容積は全細孔容積の85%以上であり、この結果から得られた多孔性γ-アルミナ担体は、表面積が150m/g以上、細孔容積が0.40cm/g以上、平均細孔径が40Å以上300Å以下、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Åの細孔が占める割合が60%以上の要件を満たしている。
【0060】
[比較例1(触媒No.1)]
実施例と比較する目的で比較例1に係るエッグシェル型白金担持アルミナ触媒(触媒No.1)を製造した。上記のように調製した多孔性γ-アルミナ担体20gに、pH値が2.0になるように調製した0.026mol/Lの塩化白金酸水溶液40mLを添加し、3時間放置して含浸させた後、エバポレーターにより水を除去し、次いで120℃で3時間乾燥させてからマッフル炉により空気流通下に450℃で3時間焼成して、1wt%の白金を担持したエッグシェル型白金担持アルミナ触媒(触媒No.1)を調製した。
【0061】
[比較例2(触媒No.2)]
比較例1と同様に調製して得られたエッグシェル型白金担持アルミナ触媒20gに、0.085mol/Lの硝酸ナトリウム(Na)水溶液40mLを添加し、3時間放置して含浸させた後、エバポレーターにより水を除去した。次いで120℃で3時間乾燥させてからマッフル炉により空気流通下に450℃で3時間焼成して、0.8wt%のナトリウム(Na)と1wt%の白金とを担持したエッグシェル型アルカリ添加白金担持アルミナ触媒(触媒No.2)を得た。比較例2に係るエッグシェル型アルカリ添加白金担持アルミナ触媒は、上記の特許文献1に記載された触媒に相当する。
【0062】
[比較例3(触媒No.3)]
前述の方法で調整した多孔性γ-アルミナ担体20gに、濃度0.16mol/Lの硫酸アンモニウム水溶液40mLを添加し、3時間放置して含浸させた後、エバポレーターにより水を除去した。次いで、120℃で3時間乾燥させてからマッフル炉により空気流通下に500℃で3時間焼成して硫黄分を含むアルミナ担体を得た。このようにして調製した硫黄分を含むアルミナ担体20gにpH=2.0に調製した濃度0.026mol/Lの塩化白金酸水溶液40mLを添加し、焼成後の白金担持量が1.0wt%となるように含浸させた後、エバポレーターにて水分を除去した。次いで120℃で3時間乾燥させてからマッフル炉により空気流通下に450℃で3時間焼成して、硫黄分1.0wt%を含み、1.0wt%の白金を分散担持した均一型硫黄-白金担持アルミナ触媒(触媒No.3)を得た。この方法は、特許文献2の実施例3に記載された調製方法に準じている。
【0063】
[比較例4(触媒No.4)]
比較例3と同じ方法で調整した硫黄分を含むアルミナ担体20gに、濃度0.18mol/Lのジニトロジアミン白金水溶液5.6mLを用いて焼成後の白金担持量が1.0wt%となるように含浸させた後、エバポレーターにて水分を除去した。次いで120℃で3時間乾燥させてからマッフル炉により空気流通下に450℃で3時間焼成して、硫黄分1.0wt%を含み、1.0wt%の白金をエッグシェル型に担持したエッグシェル型硫黄-白金担持アルミナ触媒を得た。このようにして調製したエッグシェル型硫黄-白金担持アルミナ触媒20gに、0.17mol/Lの硝酸ナトリウム(Na)水溶液40mLを添加し、3時間放置して含浸させた後、エバポレーターにより水を除去した。次いで120℃で3時間乾燥させてからマッフル炉により空気流通下に450℃で3時間焼成して、0.8wt%のナトリウム(Na)と1wt%の白金とを担持したエッグシェル型アルカリ添加硫黄-白金担持アルミナ触媒(触媒No.4)を得た。
【0064】
[実施例1(触媒No.5)]
担体調製にて記載した方法で調製した多孔性γ-アルミナ担体20gに、0.12mol/Lのメタバナジン酸アンモニウムに同重量のシュウ酸を加えて溶解させた水溶液を33.2mL用いて含浸し、3時間放置した後、エバポレーターにより水を除去した。次いで、120℃で3時間乾燥させてからマッフル炉により空気流通下に500℃で3時間焼成して、第二成分としてバナジウム(V)を1.2wt%含むアルミナ担体を得た。このようにして調製したバナジウムを含むアルミナ担体を用い、比較例4(触媒No.4)と同様の方法でジニトロジアミン白金水溶液を用いて白金担持を行い、1.2wt%のバナジウムと1.0wt%の白金とを担持したエッグシェル型バナジウム添加白金担持アルミナ触媒(触媒No.5)を得た。
【0065】
[実施例2(触媒No.6)]
担体調製にて記載した方法で調製した多孔性γ-アルミナ担体20gに、0.12mol/Lの硝酸クロム水溶液を32.0mL用いて含浸し、3時間放置した後、エバポレーターにより水を除去した。次いで、120℃で3時間乾燥させてからマッフル炉により空気流通下に500℃で3時間焼成して、第二成分としてクロム(Cr)を1.2wt%含むアルミナ担体を得た。このようにして調製したクロムを含むアルミナ担体を用い、比較例4(触媒No.4)と同様の方法でジニトロジアミン白金水溶液を用いて白金担持を行い、1.2wt%のクロムと1.0wt%の白金とを担持したエッグシェル型クロム添加白金担持アルミナ触媒(触媒No.6)を得た。
【0066】
[実施例3(触媒No.7)]
担体調製にて記載した方法で調製した多孔性γ-アルミナ担体20gに、0.009mol/Lのモリブデン酸アンモニウム水溶液を32.0mL用いて含浸し、3時間放置した後、エバポレーターにより水を除去した。次いで、120℃で3時間乾燥させてからマッフル炉により空気流通下に500℃で3時間焼成して、第二成分としてモリブデン(Mo)を1.3wt%含むアルミナ担体を得た。このようにして調製したモリブデンを含むアルミナ担体を用い、比較例4(触媒No.4)と同様の方法でジニトロジアミン白金水溶液を用いて白金担持を行い、1.3wt%のモリブデンと1.0wt%の白金とを担持したエッグシェル型モリブデン添加白金担持アルミナ触媒(触媒No.7)を得た。
【0067】
[実施例4(触媒No.8)]
担体調製にて記載した方法で調製した多孔性γ-アルミナ担体20gに、0.20mol/Lのリン酸二水素アンモニウム水溶液を32.0mL用いて含浸し、3時間放置した後、エバポレーターにより水を除去した。次いで、120℃で3時間乾燥させてからマッフル炉により空気流通下に500℃で3時間焼成して、第二成分としてリン(P)を0.9wt%含むアルミナ担体を得た。このようにして調製したリンを含むアルミナ担体を用い、比較例4(触媒No.4)と同様の方法でジニトロジアミン白金水溶液を用いて白金担持を行い、0.9wt%のリンと1.0wt%の白金とを担持したエッグシェル型リン添加白金担持アルミナ触媒(触媒No.8)を得た。
【0068】
[実施例5、6(触媒No.9、10)]
実施例1と同様の方法で、メタバナジン酸アンモニウム水溶液の濃度を変更して、第二成分としてバナジウム(V)が0.5wt%と2.0wt%含むアルミナ担体を調製し、その後、同様の方法で白金を担持して、0.5wt%のバナジウムと1.0wt%の白金を担持した、エッグシェル型バナジウム添加白金担持アルミナ触媒(触媒No.9)、2.0wt%のバナジウムと1.0wt%の白金とを担持したエッグシェル型バナジウム添加白金担持アルミナ触媒(触媒No.10)を得た。
【0069】
[実施例7(触媒No.11)]
実施例1と同様の方法で、メタバナジン酸アンモニウム水溶液の濃度を変更して、第二成分としてバナジウム(V)が0.5wt%含むアルミナ担体を調製し、その後、同様の方法でジニトロジアミン白金水溶液の濃度を調整し、0.5wt%のバナジウムと0.5wt%の白金とを担持したエッグシェル型バナジウム添加白金担持アルミナ触媒(触媒No.11)を得た。
【0070】
[実施例8-10(触媒No.12-14)]
実施例2と同様の方法で、硝酸クロム水溶液の濃度を変更して、第二成分としてクロム(Cr)が0.5wt%、2.0wt%、3.0wt%含むアルミナ担体を調製し、その後、同様の方法で白金を担持して、0.5wt%のクロムと1.0wt%の白金とを担持したエッグシェル型クロム添加白金担持アルミナ触媒(触媒No.12)、2.0wt%のクロムと1.0wt%の白金とを担持したエッグシェル型クロム添加白金担持アルミナ触媒(触媒No.13)、及び3.0wt%のクロムと1.0wt%の白金とを担持したエッグシェル型クロム添加白金担持アルミナ触媒(触媒No.14)を得た。
【0071】
[実施例11、12(触媒No.15、16)]
実施例3と同様の方法で、モリブデン酸アンモニウム水溶液の濃度を変更して、第二成分としてモリブデン(Mo)が0.5wt%、2.0wt%含むアルミナ担体を調製し、その後、同様の方法で白金を担持して、0.5wt%のモリブデンと1.0wt%の白金とを担持したエッグシェル型モリブデン添加白金担持アルミナ触媒(触媒No.15)、2.0wt%のモリブデンと1.0wt%の白金とを担持したエッグシェル型モリブデン添加白金担持アルミナ触媒(触媒No.16)を得た。
【0072】
(加速反応試験)
次に、上記の比較例1~4(触媒No.1~4)及び実施例1~12(触媒No.5~16)を用いた反応試験を実施した。反応試験は比較的に短時間で性能の差が得られるよう加速条件で実施した。反応管断面の中心に外形1/8インチの熱電対用保護管を備えた内径12.6mm×300mmサイズのステンレス製反応管の長さ方向の中心部に、1.3gの各触媒をα-アルミナビーズ11.7gで希釈して充填した。触媒の上側に予熱層として外径1mmの球状α-アルミナビーズを充填した。その後、触媒層温度を380℃に昇温して、水素気流下で15時間の前処理還元を行った。前処理還元終了後、触媒層入口温度を400℃、触媒層出口温度が410℃、圧力0.3MPaに設定し、前処理還元として供給した水素ガスを止め、ヒーターで蒸発させたメチルシクロヘキサン(MCH)ガスを2.9L/h(LHSV:8h-1)の流量で反応器に供給した。反応管の出口側には、反応器から出たガスを冷却する冷却器を設け、ステンレス製の容器に回収して、液化したトルエン(TOL)等の液状生成物と水素ガス等の気体を気液分離した。回収された液状生成物と気体を各々ガスクロマトグラフィで組成分析を行って、反応開始から140時間後までのMCH転化率(%)とTOL選択率(%)とを算出した。また、反応試験後の触媒を抜き出し、触媒劣化要因であるカーボン生成量を炭素・硫黄分析装置により測定した。
【0073】
(触媒寿命試験)
次に上記の比較例3(触媒No.3)及び実施例1(触媒No.5)を用いて次の要領で長時間の反応試験を実施した。反応管断面の中心に外形1/4インチの熱電対用保護管を備えた内径21.2mm×816mmサイズのステンレス製反応管の長さ方向の中心部に、各触媒8.5gを外径5mmの球状α-アルミナビーズ129gで希釈して充填した。触媒の上側に予熱層として外径1mmの球状α-アルミナビーズを充填した。触媒層温度を380℃に設定し、水素気流下で15時間の条件で前処理還元を行った。前処理還元終了後、触媒層入口温度280℃、触媒層出口温度380℃、反応圧力0.55MPaに設定し、MCHガスを2.8L/h(LHSV:2.6h-1)の流量で反応器に供給した。反応管の出口側には、反応器から出たガスを冷却する冷却器を設け、ステンレス製の容器に回収して、液化したトルエン等の液状生成物と水素ガス等の気体を気液分離した。回収された液状生成物と気体を各々ガスクロマトグラフィで組成分析を行って、反応開始から1400時間後までのMCH転化率(%)とTOL選択率(%)を算出した。
【0074】
上記の加速反応試験の結果を表1~表4、触媒寿命試験の結果を表5に示す。
【表1】
【0075】
表1から、比較例1(触媒No.1)の白金が担体の外郭部のみに分散担持されたエッグシェル型白金担持アルミナ触媒と、比較例2(触媒No.2)のエッグシェル型アルカリ添加白金担持アルミナ触媒とに比べて、比較例3(触媒No.3)の硫黄がアルミナ担体の全体に分散担持され、かつ白金がアルミナ担体の全体に分散担持された均一型硫黄-白金担持アルミナ触媒の方が、加速反応試験の初期及び140時間反応後におけるMCH転化率(98.7%→95.0%)及びTOL選択率が共に高い値であり、触媒の安定性、選択性に優れていることがわかる。
【0076】
このように、比較例3の均一型硫黄―白金担持アルミナ触媒は優れた触媒性能を示すが、反応試験後のカーボン生成量が2.6wt%であり、比較例2(触媒No.2)のエッグシェル型アルカリ添加白金担持アルミナ触媒よりも増加していることがわかる。この結果から、比較例3の触媒では触媒成分である白金が、担体上に均一に分散されることで分散性が向上し、反応に有効な多数の活性点を持つため、カーボン析出量が増加しても、依然として反応に有効な活性点を保持していることが推測される。
【0077】
同様に表1から、実施例1~4(実施例1:バナジウム、実施例2:クロム、実施例3:モリブデン、実施例4:リン)のいずれも、反応開始20時間後のMCH転化率が比較例3と同等以上であり、140時間後におけるMCH転化率は比較例3以上の値を維持しており、比較例3と比べて安定性に優れた触媒であることがわかる。また、TOL選択率も99.9%と比較例3よりも向上し、かつ、反応試験後のカーボン生成量が0.7%~1.4%と比較例3の2.6wt%に比べて、1/3~1/2程度に低減されることがわかる。TOL選択率の向上は数値として0.1%の違いではあるが、不純物生成量は以下の式で計算されるため、TOL選択率が99.8%から99.9%に向上することで、不純物生成量が半分程度に抑制されることを意味している。
不純物生成量=MCH供給量×MCH転化率/100×(100-TOL選択率)/100
【0078】
実施例1~4のエッグシェル型白金担持アルミナ触媒は、比較例4の硫黄及びナトリウムが添加されたエッグシェル型白金担持アルミナ触媒と比べてもMCH転化率及びTOL選択率において、高い値を示すことがわかる。これらから、エッグシェル型白金担持アルミナ触媒の添加剤は、アルカリ金属であるナトリウムよりも、バナジウム、クロム、モリブデン、又はリンの方がMCH転化率及びTOL選択率が向上することがわかる。
【0079】
【表2】
【0080】
バナジウムの担持量の影響を評価した表2から、バナジウム担持量を2.0wt%(実施例6)程度まで増加させると、MCH転化率の低下が生じ始めることがわかる。一方、カーボン生成量については、0.5wt%(実施例5)よりも多いバナジウムを担持していれば大きな影響はない結果となっている。
【0081】
また、表2からバナジウムと白金の重量比率を1:1に維持し、かつ白金量を0.5wt%に低減した実施例7は、20時間後、140時間後のMCH転化率が比較例3(表1参照)よりも高いことがわかる。これにより、第二金属成分を添加したエッグシェル型白金担持アルミナ触媒を採用することで、反応に有効な触媒外周部の白金量を増加させ、高価な白金の担持量を低下させることが可能となることが示されている。
【0082】
【表3】
【0083】
クロムの担持量の影響を評価した表3から、クロム担持量の3.0wt%程度まで増加させると、MCH転化率の低下が生じ始めることがわかる。クロムの場合、0.5wt%の担持量ではTOL選択率が比較例3と同等程度であり、1.0wt%以上の担持が選択率向上の点では有効であることがわかる。一方、カーボン生成量については、0.5wt%よりも多いクロム担持量であれば大きな影響はない結果が示された。
【0084】
【表4】
【0085】
モリブデンの担持量の影響を評価した表4から、モリブデン担持量が0.5wt%と2.0wt%とである場合は、モリブデン担持量が1.3wt%である場合に比べて、MCH転化率が若干低く、モリブデン担持量が1.0wt%以上である場合に、最も良いMCH転化率と安定性とが示された。
【0086】
実施例1~12の加速試験結果から、比較的MCH転化率が高く安定に推移し、かつ、カーボン生成量の少ない実施例1(触媒No.5,バナジウム1.2wt%)と、比較例3について、触媒寿命試験を実施した結果を表5に示す。
【表5】
【0087】
表5より、第二成分を添加した実施例1(触媒No.5)のエッグシェル型白金担持アルミナ触媒は反応開始50時間後から反応開始1200時間後にかけてMCH転化率が0.4%しか低下しないのに対して、比較例3(触媒No.3)の均一型白金担持アルミナ触媒ではMCH転化率は0.8%低下しており、エッグシェル型第二成分添加白金担持アルミナ触媒は、触媒寿命が長いことが予想される。また、TOL選択率についても、エッグシェル型第二成分添加白金担持アルミナ触媒は反応開始50時間後から反応開始1200時間後にかけて99.9%を維持しており、比較例3(触媒No.3)の均一型白金担持アルミナ触媒に比べて高いTOL選択率を示し、不純物生成量が少ない触媒であることがわかる。合わせて、1200時間反応試験後のカーボン生成量は比較例3の2.7%に対して、実施例1は1.1%と少なく、カーボン生成量を抑制することで触媒の安定性を高める効果が得られることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のエッグシェル型白金担持アルミナ触媒は、水素エネルギーキャリアとして利用されるメチルシクロヘキサン等の水素化芳香族類の脱水素反応に好適に利用でき、有機ケミカルハイドライド法水素貯蔵輸送システムの実用化に資するほか、白金担持アルミナ触媒が利用されている既存の触媒反応プロセスに広く適用できる可能性があり、産業上の利用性が非常に高い発明である。
【符号の説明】
【0089】
1 担体
2 金属担持部分
図1