(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】断熱充填材、断熱材、断熱構造
(51)【国際特許分類】
F16L 59/04 20060101AFI20240408BHJP
【FI】
F16L59/04
(21)【出願番号】P 2019235489
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】水田 航平
(72)【発明者】
【氏名】長▲崎▼ 浩徳
(72)【発明者】
【氏名】田原 和人
(72)【発明者】
【氏名】内藤 牧男
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-166977(JP,A)
【文献】特開2011-196509(JP,A)
【文献】特表2012-531379(JP,A)
【文献】特開2019-038728(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0227165(US,A1)
【文献】国際公開第2020/009226(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/204209(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式シリカ10~80質量%と、含水率が4~11質量%で平均粒径が1~120μmの湿式シリカ20~90質量%とを含有する混合シリカ粉末を含
み、
前記混合シリカ粉末の含水率が2~8質量%である断熱充填材。
【請求項2】
前記混合シリカ粉末100質量部に対して、無機繊維を1~10質量部含む請求項1に記載の断熱充填材。
【請求項3】
前記無機繊維が平均繊維径0.1~50μmである請求項2に記載の断熱充填材。
【請求項4】
輻射散乱粒子を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の断熱充填材。
【請求項5】
前記乾式シリカの平均粒径が0.8μm以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の断熱充填材。
【請求項6】
固体である請求項1~5のいずれか一項に記載の断熱充填材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の断熱充填材を配合してなる断熱材。
【請求項8】
請求項7に記載の断熱材を含む断熱構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱充填材、断熱材、断熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの観点から放熱エネルギーを抑制するために、断熱材の需要が益々大きくなってきている。また、従来の住宅や配管、溶鉱炉、電気炉といった用途だけでなく、例えば内燃機関や燃料電池等の保温といった観点からも断熱材は注目されており、成型体に限らない様々な形状に適応可能な断熱材が求められている。
【0003】
室温付近での空気の平均自由行程は100nmであるため、100nm以下の微細気孔を含む多孔質体が優れた断熱性を示すことがよく知られている。このような多孔質断熱材には様々な種類があり、例えば特許文献1~5に示されるような乾式法によって製造されたシリカ微粒子を使用した無機系多孔質断熱材が挙げられる。これは、微細気孔を内包する乾式シリカによって微細な多孔質構造が形成されていることで流体熱伝達が抑制されるため、優れた断熱性を示す。
【0004】
上記従来技術における断熱材としての使用形態は、機械プレスによる成型体をベースとしたものが多く、上述した特許文献のように、発塵性や成型後の強度を改善する検討が多く成されてきている。このとき、均一な成型体を得るために、使用粉体には金型に対して均一に充填出来る良好な流動性が求められる。しかしながら、乾式シリカ微粒子は、小さな嵩密度とクーロン力に由来する強い付着性、噴出性を示すために製造工程中でのハンドリング性が課題である。
【0005】
また、特許文献6、7で袋状の外皮材中に粉末を充填することによって製造される断熱材が示されている。特許文献6、7は、粉末の流動によって空間に粉体を充填することで断熱層を形成する手法があり、充填性に優れる断熱性粉体が必要とされる。しかし、流動による充填では、対象空間中の空気を粉体へと置換するため、嵩密度が非常に小さな乾式シリカ微粒子では不向きである。
【0006】
特許文献8は、1)主成分としてのシリカ微粒子と、2)補強繊維と、3)水を含浸させた蓄液性物質とを含む混合物を湿式成形し、乾燥する断熱材の製造方法を記載している。特許文献9、10は、一次粒子径の異なる2種以上の微粒子が充填されてなる断熱ボードを記載している。しかし、特許文献8~10は、いずれも成形・乾燥が必要であるか、あるいはボード形状であって、形状が大きく限定されている。また、特許文献8のように、多量の水分を含有させた場合、乾式法で製造されたシリカ微粒子は、その微細な多孔質構造が崩壊し、断熱性能が損なわれることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4860005号公報
【文献】特開平7-237957号公報
【文献】特許第05081464号公報
【文献】特許第4367612号公報
【文献】特表平11-513349号公報
【文献】特許第5783717号公報
【文献】特開2013-1596号公報
【文献】特許第5409939号公報
【文献】特開平1-199095号公報
【文献】特開平1-135998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題と背景を鑑みてなされたものであり、粒子の噴出性を抑えつつも、良好な断熱性を有し、優れた充填性を発揮しうる断熱充填材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題と背景を鑑みて、鋭意検討を重ねた結果、乾式シリカ微粒子と湿式シリカ微粒子とを所定の割合で混合してなる混合シリカ粉末を含む断熱充填材により当該課題が解決できることを見出した。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0010】
[1] 乾式シリカ10~80質量%と、含水率が4~11質量%で平均粒径が1~120μmの湿式シリカ20~90質量%とを含有する混合シリカ粉末を含む断熱充填材。
[2] 前記混合シリカ粉末100質量部に対して、無機繊維を1~10質量部含む[1]に記載の断熱充填材。
[3] 前記無機繊維が平均繊維径0.1~50μmである[2]に記載の断熱充填材。
[4] 輻射散乱粒子を含む[1]~[3]のいずれかに記載の断熱充填材。
[5] 前記乾式シリカの平均粒径が0.8μm以下である[1]~[4]のいずれかに記載の断熱充填材。
[6] 固体である[1]~[5]のいずれかに記載の断熱充填材。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の断熱充填材を配合してなる断熱材。
[8] [7]に記載の断熱材を含む断熱構造。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好な断熱性を有し、優れた充填性を発揮しうる断熱充填材を提供できる。その結果、様々な形状物に対し優れた断熱効果、保温効果を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の詳細を説明する。
[1.断熱充填材]
本発明の一実施形態(本実施形態)に係る断熱充填材は、乾式シリカ10~80質量%と、含水率が4~11質量%で平均粒径が1~120μmの湿式シリカ20~90質量%とを含有する混合シリカ粉末を含む。
【0013】
本実施形態においては、具体的には、乾式シリカによって形成される微細気孔構造で低熱伝導率を維持でき、上記湿式シリカ中の水分によって表面の電荷が拡散されるために付着性が改善されることで、流動性が向上し優れた充填性発揮されると推察される。さらにこれらを混合した混合シリカ粉末の凝集と無機繊維への混合シリカ微粒子の添着によって流動性がより向上することが見出された。
乾式シリカの含水率は、乾式シリカの質量に対して4質量%未満が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下がさらに好ましい。
【0014】
本発明で使用する「乾式シリカ」とは、乾式法によって製造される非晶質シリカ物質の総称であり、燃焼法もしくはアーク法等、いずれの方法で製造されたものも使用できる。燃焼法とは例えば、四塩化珪素を高温の炎の中で反応させる方法をいう。乾式シリカ(乾式シリカ微粒子が好ましい)は微細な気孔を含んだ粒子であり、混合シリカ粉末において微細な多孔質構造を与えるものである。そのため、熱伝導率低減の観点から、含有量は10~80質量%とし、30~70質量%とすることが好ましい。10質量%未満では十分な断熱性を発揮しない場合があり、80質量%を超えると粉体流動性が十分に確保できず、充填性が低下する場合がある。
【0015】
本発明で使用する「湿式シリカ」とは、湿式法によって製造される非晶質シリカ物質の総称であり、沈降法もしくはゲル法等、いずれの方法で製造されたものも使用できる。沈降法とは例えば、珪酸ソーダの水溶液を中和してシリカを析出し、濾過、乾燥する方法をいう。この湿式シリカ(湿式シリカ微粒子が好ましい)は、乾式シリカを自身の周囲に添着させることで、粉末の付着性および噴出性を抑える粒子である。また、含有量は、混合シリカ粉末とした時の流動性と付着性の観点から20~90質量%とし、30~70質量%とすることが好ましい。20質量%未満では良好なハンドリング性を発揮しない場合があり、90質量%を超えて添加してもそれ以上の効果の増進は期待できない。ここで、混合シリカ粉末とは、乾式シリカと湿式シリカと含み、任意の無機繊維を(必要な場合は輻射散乱粒子も)混合することで得られる粉末のことである。
【0016】
乾式シリカと湿式シリカとの混合時に含まれる水分は粒子に働くファンデルワールス力を抑える役割がある。この含水率は、湿式シリカの質量に対して4~11質量%である。湿式シリカの含水率が湿式シリカの質量に対して4質量%未満であると、粒子に働く静電気により付着性が増大するため、良好なハンドリング性を発揮しない場合がある。湿式シリカの含水率が湿式シリカの質量に対して11質量%よりも大きいと、断熱充填材の断熱性が悪くなる場合がある。このような観点から、湿式シリカの含水率は5~15質量%が好ましく、5~10質量%がより好ましい。
【0017】
湿式シリカの含水率の調整は、例えば、湿式シリカを乾燥したり、湿式シリカに水を添加したりすることにより、行われる。
【0018】
また、乾式シリカと湿式シリカとを混合してなる混合シリカ粉末の含水率は、良好なハンドリング性の観点から、2~8質量%であることが好ましく、3~7質量%であることがより好ましい。
【0019】
混合シリカ粉末は、乾式シリカの乾燥粉末及び湿式シリカの乾燥粉末を乾式混合したものであることが好ましい。乾式シリカの乾燥粉末及び湿式シリカの乾燥粉末を湿式混合すると、湿式混合した混合シリカを乾燥するとき、湿式混合に用いた溶媒、特に水の表面張力によって、乾式シリカの多孔質構造が崩壊する場合がある。これにより、断熱充填材の断熱性が悪くなる場合がある。このような観点から、湿式シリカは、湿式シリカの乾燥粉末に水もしくは水溶液を含浸させたものではないことが好ましい。
【0020】
上記乾式シリカ、湿式シリカ、混合シリカの含水率は、熱重量分析装置(TGA)によって200℃まで昇温し、昇温前の質量Xと減少した質量X1を用いて含水率Wを算出する。
含水率W(質量%)=(X1/X)×100
【0021】
乾式シリカ及び湿式シリカのそれぞれの平均粒径(より具体的にはレーザー回折式粒度測定器(コールター社製「モデルLS-230」型)によって測定される50%積算粒子径D50)は0.01~100μmが好ましく、流体熱伝達を抑える観点から、乾式シリカの平均粒径は10μm以下が好ましい。また、混合シリカ粉末とした時の流動性を向上させ、噴出性を抑えるために、湿式シリカの平均粒径は乾式シリカより大きいことが好ましい。
【0022】
乾式シリカの平均粒径は1μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましく、0.5μm以下が最も好ましい。乾式シリカの平均粒径は0.01μm以上が好ましく、0.03μm以上がより好ましく、0.05μm以上が最も好ましい。湿式シリカの平均粒径は、0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、5μm以上が最も好ましい。湿式シリカの平均粒径は、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、20μm以下が最も好ましい。また、湿式シリカの平均粒径は、1~120μmである。湿式シリカの平均粒径が1μm未満であると、乾式シリカを湿式シリカの周囲に添着させにくくなり、湿式シリカによる粉末の付着性および噴出性を抑える効果が十分には発現できない場合がある。湿式シリカの平均粒径が120μmよりも大きいと、断熱充填材内に含まれる粗大気孔が増大し、断熱充填材が良好な断熱性を発揮しない場合がある。また、断熱充填材の成形性が悪くなる場合がある。このような観点から、湿式シリカの平均粒径は1.5~70μmが好ましく、1.5~50μmがより好ましく、1.5~30μmがさらに好ましい。
【0023】
本実施形態においては、混合シリカ粉末にさらに無機繊維を混合することが好ましい。
本発明で使用する無機繊維は、混合シリカ粉末の繊維添着により充填性を向上させるものであれば特に限定されるものではなく、いかなるものでも使用できる。また、成形時には断熱充填材に成形性を与える役割を持つ。代表的なものとして、耐熱性に優れる人造繊維であるシリカ繊維、アルミナシリカ繊維、ガラス繊維、ジルコニア繊維、炭化ケイ素繊維、鉱物を原料として製造されるロックウール、天然鉱物のウォラストナイト、セピオライト等が挙げられ、必要に応じてこれらを一種あるいは複数種使用できる。
【0024】
上記無機繊維の平均繊維径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって確認される繊維100本の直径の平均値である。平均繊維径は0.1~50μmが好ましく、シリカ微粒子が付着する確率が増大し、粉体の噴出性を抑えられるため、1μm以上がより好ましく、5μm以上が最も好ましい。
【0025】
上記無機繊維の平均繊維長は特に限定するものではないが、混合シリカ粉末の充填性を考慮すると10μm以上が好ましく、15~35μmがより好ましい。
なお、上記無機繊維の平均繊維長は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって確認される繊維100本の繊維長の平均値として求めることができる。
【0026】
上記無機繊維の含有量は、混合シリカ粉末100質量部に対して、1~10質量部が好ましく、3~7質量部がより好ましい。
1質量部以上であることで、十分な成形性が発揮されやすくなり、10質量部以下であることで繊維同士の接触が抑えられ、物質熱伝導が小さくなり熱伝導率を低下させることができる。
【0027】
本発明の断熱充填材は、高温中(200℃以上)での断熱性を向上させるために輻射散乱粒子をさらに含有することができる。輻射散乱粒子は、赤外線を効果的に散乱又は吸収できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば炭化ケイ素や酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化銅等が使用でき、これらの粒子を一種あるいは複数種使用してよい。
輻射散乱粒子の使用量は、断熱充填材100質量%に対して、0.5~35質量%が好ましく、1.0~20質量%がより好ましい。
【0028】
本発明によって得られる断熱充填材の熱伝導率は、25℃における熱伝導率が0.05W/(m・K)以下であることが好ましく、0.029W/(m・K)以下であることがより好ましい。
【0029】
疎充填嵩密度とは、すり切り容器に対して一定の高さから粉体を落として充填し、すり切った際に得られる密度である。
【0030】
本発明で得られる断熱充填材は、設計した充填密度に近づける観点から混合シリカ粉末の状態で疎充填嵩密度が40kg/m3以上であることが好ましく、50~80kg/m3であることがより好ましい。40kg/m3以上であることで十分な充填性が発揮され、空隙が増大しすぎず、十分な断熱性が得られやすくなる。
【0031】
断熱充填材の製造方法は特に限定するものではないが、例えば、乾式シリカ10~80質量%と、含水率が4~11質量%で平均粒径が1~120μmの湿式シリカ20~90質量%とを、数mmのクリアランスを持たせた磨砕式ミルによって混合することで得る方法や、気流で巻き上げながら金属羽でこれらを混合する二軸混合によって得る方法等が挙げられる。
以上のような本実施形態の断熱充填材は固体として使用できる。また、固体の中では、粉末として使用できる。
【0032】
[2]断熱材
本実施形態に係る断熱材は、既述の断熱充填材を配合してなる。
具体的には、既述の断熱充填材を原料として充填することによって得られる断熱層又は断熱材のことであり、例えば、粉体の流動を利用して空間に充填することにより得られる断熱層であって、金型に加圧充填することによって得られる断熱材が挙げられる。
【0033】
加圧充填によって得る場合の詳細な手法は、特に限定するものではないが、例えば、金型を使用した乾式一軸プレスによって板状に成形してもよい。ただし、乾燥時の空隙や亀裂の発生による成形欠陥の観点から、乾式成形が好ましい。
【0034】
また、本実施形態に係る断熱材は、外皮材によって既述の断熱充填材の全体を被覆させてなるものでもよい。外皮材は、ガラス繊維、アルミナ繊維等の無機繊維織物や無機繊維不織布、樹脂フィルム、有機繊維織物、有機繊維不織布、アルミニウム、銅箔等の金属箔等シート形状のものが好ましいが、材質については特に限定されるものではない。
【0035】
被覆方法は特に限定されるものではなく、断熱充填材の充填率は使用用途によって適宜設定できる。例えば、加圧成形した断熱充填材を前述したシートによって被覆するものでもよく、シートを袋状に加工したものに断熱充填材を充填するものでもよい。
【0036】
[3]断熱構造
本実施形態に係る断熱構造は既述の断熱材を含む。
本実施形態に係る断熱充填材は、そのまま断熱材として使用してよいが、他の断熱材と組み合わせて、断熱構造としてもよい。他の断熱材と組み合わせて使用する場合、例えば、異なる耐熱性を有する他の断熱材上に充填積層させた積層構造によって構成される断熱構造は、本実施形態に係る断熱充填材に断熱材を組み合わせた層状の断熱構造といえる。また、中空の箱に本実施形態に係る断熱充填材を断熱材として充填した断熱構造としてもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実験例を挙げてさらに詳細に内容を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
「実験例1」
乾式シリカと湿式シリカを表1で示す混合比率で混合し、これらの混合物(混合シリカ粉末)100質量部に対して無機繊維4.5質量部を混合することで、断熱充填材を作製した。
【0039】
これらの乾式シリカ、湿式シリカ、混合シリカ粉末や断熱充填材等について、含水率、疎充填嵩密度の割合及び熱伝導率をそれぞれ測定した。得られた結果を表1に示す。なお、使用材料は下記のとおりである。
【0040】
(使用材料)
乾式シリカ1(F1):CAB-O-SIL M-5粉末(商品名、Cabot Specialty Chemicals社製)平均粒径0.20μm、嵩密度70g/L、含水率0.9質量%
乾式シリカ2(F2):AEROSIL 380(商品名、日本アエロジル社製)平均粒径0.05μm未満、嵩密度50g/L、含水率1.0質量%
乾式シリカ3(F3):NDK-N20(商品名、旭化成ワッカーシリコーン社製)平均粒径0.15μm、嵩密度40g/L、含水率1.2質量%
【0041】
湿式シリカ1(W1):CARPLEX #80粉末(商品名、エボニック・ジャパン株式会社製) 平均粒径15μm、嵩密度145g/L、含水率8.0質量%
湿式シリカ2(W2):トクシール NP(商品名、Oriental Silicas Corporation製)平均粒径10μm、嵩密度63g/L、含水率6.2質量%
湿式シリカ3(W3):ミズカシル P-527(商品名,水澤化学工業社製)平均粒径1.8μm、嵩密度190g/L、含水率5.2質量%
湿式シリカ4(W4):含水率が12.0質量%になるように、湿式シリカ1(W1)に対して水を噴霧含浸させたもの。平均粒径15μm、含水率12.0質量%
湿式シリカ5(W5):CARPLEX XR(商品名、エボニック・ジャパン株式会社製) 平均粒径125μm、嵩密度255g/L、含水率4.0質量%
【0042】
無機繊維1(IF1):シリカファイバーシート AS-300(商品名、旭産業社製)平均繊維径10μm、25mm裁断解繊加工(平均繊維長さ:25mm)
【0043】
上記使用材料の嵩密度は、密充填嵩密度のことであり、ホソカワミクロン(株)社製の「パウダテスターPT-S型」により測定される。
【0044】
(評価方法)
含水率:乾式シリカ、湿式シリカ、混合シリカ粉末の含水率は、示差熱重量分析装置TG-DTA 2000SR(商品名、BrukerAXS社)を使用して、200℃時点での質量減少率とした。
【0045】
疎充填嵩密度は、内径Φ63mm、容量200mLのステンレスビーカーに対して、150mmの間隔をあけて(即ち、ビーカー開口部と漏斗排出口との距離を150mmにして)、漏斗から断熱充填材を落下させ、すり切り充填させることで算出される密度とした。疎充填嵩密度は大きいほど充填性が良好であり、好ましくは40kg/m3以上である。
【0046】
熱伝導率:作製した断熱充填材を、一軸プレスを使用した金型成型によって成型体(200mm×200mm×20mm、密度230kg/m3程度)を作製し、ISO8301に準拠した熱伝導率測定装置(英弘精機社製)を用いて23℃で測定した。
【0047】
成形性:一軸プレスを使用した金型成型によって成型体(寸法等は同上)を作製し、成形性を目視で評価した。成型体にひび割れが確認されなかった場合を○、ひび割れあるいは破損が確認された場合を×とした。
【0048】
【0049】
表1より、湿式シリカの割合が増大するに従い、熱伝導率に悪影響を及ぼすことなく粉体の充填性が向上し、含水率と疎充填嵩密度、及び成形性が向上していることがわかる。また、比較例より、湿式シリカの含水率が11質量%よりも大きくなると、断熱充填材の断熱性が損なわれることがわかった。これは、湿式シリカからの水分により乾式シリカの多孔質構造が崩壊したためであると考えられる。また、湿式シリカに水を噴霧含浸させると断熱充填材の成形後、乾燥する必要があり、形状に制限が伴われることが考えられる。
【0050】
「実験例2」
乾式シリカF1を50質量%、湿式シリカW1を50質量%の比率で混合し、得られた混合物(混合シリカ粉末:実験No.1-4)に対して表2に示す無機繊維を使用し、表2の通りその配合量を変えて断熱充填材を作製したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0051】
(使用材料)
無機繊維2(IF2):ガラス繊維(日本電気硝子社製)平均繊維径50μm、平均繊維長25mm
無機繊維3(IF3):アルミナシリカ繊維(商品名デンカアルセン、デンカ製)平均繊維径5.0μm、平均繊維長25mm
【0052】
【0053】
表2より、本発明の範囲内で無機繊維を配合することにより熱伝導率に悪影響を及ぼすことなく粉体の充填性が向上し、含水率と疎充填嵩密度、及び成形性が向上していることがわかる。
【0054】
「実験例3」
実験No.1-4の配合を使用し、表3に示す輻射散乱粒子を使用し、表3の通り配合量を変え、高温(600℃)での熱伝導率(高温熱伝導率)を測定したこと以外は実験例1と同様に行った。
【0055】
(実験方法)
高温熱伝導率:作製した断熱充填材を用いた。一軸プレスを使用した金型成型によって成型体(寸法等は同上)を作製し、JIS A 1412-1に準拠した保護熱板法熱伝導率測定装置(英弘精機社製)を用いて600℃で測定した。
【0056】
(使用材料)
輻射散乱粒子(R1):炭化ケイ素(デンカ製)平均粒径4.2μm
輻射散乱粒子(R2):酸化チタン(富士フイルム和光純薬社製)平均粒径5.0μm
輻射散乱粒子(R3):ケイ酸ジルコニウム 和光一級(富士フイルム和光純薬社製)平均粒径5.0μm
【0057】
【0058】
表3より、本発明の範囲内で輻射散乱粒子を配合することによりその他の物性に悪影響を及ぼすことなく高温熱伝導率が低減されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上のように構成された本発明の断熱充填材は優れた操作性と充填性を有し、かつ従来以上の耐熱性と断熱性を有するため、複雑な形状に対しても適応可能であり、車両や飛行機、その他内燃機関、配管の省エネルギー化に寄与できる。