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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】被覆炭化珪素粒子粉体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/565 20060101AFI20240408BHJP
   C04B 35/628 20060101ALI20240408BHJP
   C01B 32/956 20170101ALI20240408BHJP
【FI】
C04B35/565
C04B35/628 130
C01B32/956
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020547971
(86)(22)【出願日】2019-06-13
(86)【国際出願番号】 JP2019023511
(87)【国際公開番号】W WO2020066152
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018183284
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田口 創万
(72)【発明者】
【氏名】鴨志田 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】加藤 明裕
(72)【発明者】
【氏名】芦▲高▼ 圭史
(72)【発明者】
【氏名】三輪 直也
(72)【発明者】
【氏名】檜木 達也
(72)【発明者】
【氏名】下田 一哉
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/049784(WO,A1)
【文献】特開昭57-071868(JP,A)
【文献】特開平09-012373(JP,A)
【文献】特開平02-267167(JP,A)
【文献】特開昭62-138362(JP,A)
【文献】特開2001-284509(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065956(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/565
C04B 35/628
C01B 32/956
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆炭化珪素粒子粉体と、樹脂とを含み、
前記被覆炭化珪素粒子粉体は、炭化珪素粒子と、前記炭化珪素粒子を被覆し、アルミニウム元素を含む被覆層とを含み、
前記被覆層は、水酸化アルミニウムを含み、
前記炭化珪素粒子の単位表面積当たりのアルミニウム元素の質量が1.35mg/m 以上2.49mg/m 以下である、
グリーンシート。
【請求項2】
被覆炭化珪素粒子粉体と、樹脂とを含み、
前記被覆炭化珪素粒子粉体は、炭化珪素粒子と、前記炭化珪素粒子を被覆し、アルミニウム元素を含む被覆層とを含み、
前記被覆層は、水酸化アルミニウムを含み、
前記炭化珪素粒子の単位表面積当たりのアルミニウム元素の質量が0.5mg/m 以上1.36mg/m 以下である、
グリーンシート。
【請求項3】
前記炭化珪素粒子の平均二次粒子径は、0.03μm以上2μm未満である、請求項1または2に記載のグリーンシート。
【請求項4】
繊維基材、被覆炭化珪素粒子粉体および樹脂を含み、
前記被覆炭化珪素粒子粉体は、炭化珪素粒子と、前記炭化珪素粒子を被覆し、アルミニウム元素を含む被覆層とを含み、
前記被覆層は、水酸化アルミニウムを含み、
前記炭化珪素粒子の単位表面積当たりのアルミニウム元素の質量が1.35mg/m 以上2.49mg/m 以下である、
プリプレグ材。
【請求項5】
繊維基材、被覆炭化珪素粒子粉体および樹脂を含み、
前記被覆炭化珪素粒子粉体は、炭化珪素粒子と、前記炭化珪素粒子を被覆し、アルミニウム元素を含む被覆層とを含み、
前記被覆層は、水酸化アルミニウムを含み、
前記炭化珪素粒子の単位表面積当たりのアルミニウム元素の質量が0.5mg/m 以上1.36mg/m 以下である、
プリプレグ材。
【請求項6】
前記炭化珪素粒子の平均二次粒子径は、0.03μm以上2μm未満である、請求項4または5に記載のプリプレグ材。
【請求項7】
前記被覆炭化珪素粒子粉体と、前記樹脂と、分散媒とを含むグリーンシート形成用塗工液を調製し、前記グリーンシート形成用塗工液を基材上に塗布することを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のグリーンシートの製造方法。
【請求項8】
前記被覆炭化珪素粒子粉体と、前記樹脂と、分散媒とを含む、プリプレグ材形成用分散体を、前記繊維基材に含侵させ、乾燥させることを含む、請求項4~6のいずれか1項に記載のプリプレグ材の製造方法。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載のグリーンシートを、繊維基材と積層することを含む、プリプレグ材の製造方法。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1項に記載のグリーンシート、または請求項4~6のいずれか1項に記載のプリプレグ材の焼成を行うことを含む、
前記被覆炭化珪素粒子粉体の焼結体を含む、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆炭化珪素粒子粉体、これを含む分散体、グリーンシートおよびプリプレグ材、ならびに被覆炭化珪素粒子粉体の焼結体およびこれを含む成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、高硬度であり、高温耐熱性、機械的強度、耐衝撃性、耐摩耗性、耐酸化性および耐食性に優れ、熱膨張係数が小さいことから、研磨用組成物や、高温構造部材をはじめとして、種々の用途での応用が期待されている。
【0003】
炭化珪素の応用に際しては、所望の組成物や材料を形成するに当たり、粒子状の炭化珪素(炭化珪素粒子、SiC粒子)を分散媒やポリマー材料の媒体中に分散して用いることや、セラミックス粒子等の他の材料と混合して用いることが検討されている。また、炭化珪素粒子を含む分散体や混合物、およびこれらより形成される成形体等の機能向上のため、炭化珪素粒子の周囲に所望の機能を付与しうる化合物を配位させた上で分散、混合を行うことが検討されている。
【0004】
特開2012-106888号公報には、炭化珪素粒子の表面を、焼成によって設けられた、厚みが10nm~500nmのアルミナ等の酸化物被膜によって被覆することで、炭化珪素粒子の絶縁性が向上しうることが開示されている。また、かかる被覆炭化珪素粒子を含むことで、複合組成物の耐熱性、高熱伝導性および高絶縁性が実現しうることが開示されている。
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特開2012-106888号公報に係る技術では、被覆炭化珪素の焼成の結果得られる焼結体、さらには当該焼結体を含む成形体において、十分な機械的強度が得られない場合があることが問題となっていた。
【0006】
したがって、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、焼結助剤と、炭化珪素粒子とを含む組成物の焼結体およびこれを含む成形体において、密度および機械的強度を向上させうる手段を提供することを目的としている。
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を積み重ねた。その結果、炭化珪素粒子の表面に、焼結助剤となりうるアルミニウム元素を含む被覆層を、一定以上の被覆量にして設けることで上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の上記課題は、以下の手段により解決される;
炭化珪素粒子と、前記炭化珪素粒子を被覆する被覆層と、を含み、前記被覆層は、アルミニウム元素を含み、前記炭化珪素粒子の単位表面積当たりの前記アルミニウム元素の質量が0.5mg/m以上である、被覆炭化珪素粒子粉体。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0010】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0011】
<被覆炭化珪素粒子粉体>
本発明の一形態は、炭化珪素粒子と、前記炭化珪素粒子を被覆するアルミニウム元素を含む被覆層と、を含み、前記被覆層は、アルミニウム元素を含み、前記炭化珪素粒子の単位表面積当たりの前記アルミニウム元素の質量が0.5mg/m以上である、被覆炭化珪素粒子粉体に関する。本発明の一形態によれば、焼結助剤と、炭化珪素粒子とを含む組成物の焼結体およびこれを含む成形体において、密度および機械的強度を向上させうる手段が提供される。
【0012】
本発明者らは、本発明によって上記課題が解決されるメカニズムを以下のように推定している。
【0013】
SiC粒子の焼結の際に、アルミニウム元素含有化合物を焼結助剤として導入することで、焼結体の形成がより容易となる。しかしながら、焼結助剤の量が少ないと、各々のSiC粒子間に存在する焼結助剤の量が不足し、SiC粒子同士が直接接した状態で焼成されるため、当該粒子間の融着が不十分な欠陥部位が生じる場合がある。このような欠陥部位は、応力が印加された際の破壊の起点となりうる。このため、当該欠陥部位を有する焼結体では、機械的強度が低下することとなる。また、SiC粒子と焼結助剤との混合が不十分であると、場所により焼結体における上記欠陥部位の発生数や、SiC粒子間での融着の態様が異なり、不均一となる。このとき、焼結体に応力が印加されると、場所による特性の違いによって特定箇所に応力集中が生じ、当該箇所が破壊の起点となりうる。このため、欠陥部位の発生数や融着の態様が不均一である焼結体では、機械的強度が低下することとなる。
【0014】
一方、本発明では、被覆SiC粒子粉体は、アルミニウム元素を被覆層として含む。これより、SiC粒子間への焼結助剤の導入をより確実に行うことが可能となる。すなわち、焼結助剤が被覆層としてSiC粒子の表面に配置されることで、各々のSiC粒子間に存在する焼結助剤の量が不足することが防止されうる。また、焼成する組成物全体において、SiC粒子と、焼結助剤とをより均一な分散状態で存在させることができる。そして、SiC粒子の単位表面積当たりのアルミニウム元素の質量が0.5mg/m以上であると、各々のSiC粒子間に存在する焼結助剤の存在量が十分となる。また、焼成する組成物全体におけるSiC粒子と、焼結助剤との分散性も十分となる。これらの結果、焼結体の機械的強度が向上し、ひいては当該焼結体を含む成形体の機械的強度も向上することとなる。
【0015】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0016】
本明細書において、「被覆SiC粒子」とは、SiC粒子と、SiC粒子を被覆する被覆層と、を有する被覆粒子を表す。ここで、被覆SiC粒子は、SiC粒子の少なくとも一部が被覆層によって被覆されている粒子であればよい。また、本明細書において、「被覆SiC粒子粉体」とは、複数の被覆SiC粒子を含む粒子の集合体を表す。被覆SiC粒子粉体は、被覆SiC粒子以外の他の成分を含む場合もありうるが、この場合、他の成分は被覆処理における不可避不純物のみであることが好ましい。本明細書において、被覆処理における不可避不純物とは、例えば、原料粒子や未反応の被覆成分の原料、副生成物、必要に応じて添加されうる反応に用いる試薬、原料由来の不純物等の、被覆SiC粒子の形成に関係して含まれうる成分を表す。なお、被覆処理における不可避不純物には、製造過程および製造後に、機能発現を目的として任意に添加しうる成分は含まないものとする。
【0017】
なお、被覆SiC粒子粉体は、これに含まれる他の成分の種類によっては、被覆SiC粒子粉体中における被覆SiC粒子の割合を定量的に正確に分析し、または除去することが難しい場合もありうる。特に、他の成分が被覆処理における不可避不純物である場合は、分析上の特徴が類似する等の事情から、その種類によっては被覆SiC粒子粉体中における被覆SiC粒子の割合の定量を正確に分析し、または除去することの難易度は高くなる場合がある。ただし、この場合であっても、後述する分析方法によって被覆SiC粒子粉体が被覆SiC粒子を含むことが確認される場合は、被覆SiC粒子粉体は、良好な分散媒への分散性を有し、かつ、原料粒子および被覆成分の特性に由来する所望の特性を有するものとなる。
【0018】
被覆SiC粒子粉体中で被覆SiC粒子が占める割合は、被覆SiC粒子粉体の総質量に対して100質量%であることが最も好ましい。ただし、生産効率等を考慮すると、被覆SiC粒子粉体中で被覆SiC粒子が占める割合が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることがよりさらに好ましく、99.9質量%以上であることが特に好ましい(上限100質量%)。
【0019】
本明細書では、便宜上「粉体」との用語を用いているが、当該用語は粉末状(乾燥状態)の物質のみを表すものではなく、分散媒中に分散された状態で存在し、分散媒を揮発させた際に粉末状として得られうる物質をも表すものとする。被覆SiC粒子粉体は、水等の溶剤で洗浄した場合や、水等の分散媒中に分散された状態であっても、被覆SiC粒子としての形態を維持することができることが好ましい。
【0020】
(被覆炭化珪素粒子粉体の炭化珪素粒子の単位表面積あたりのアルミニウム元素の質量)
被覆SiC粒子粉体のSiC粒子の単位表面積あたりのアルミニウム(Al)元素の質量(以下、「SiC単位表面積あたりのAl元素の質量」とも称する)は0.5mg/m以上である。SiC単位表面積あたりのAl元素の質量が0.5mg/m未満であると、被覆SiC粒子粉体の焼結体およびこれを含む成形体において、焼結が十分に進行せず、焼結体が不均一な構造となり、密度および機械的強度が不十分となる。同様の観点から、SiC単位表面積あたりのAl元素の質量は、1mg/m以上であることが好ましい。さらに得られる焼結体およびこれを含む成形体に色味の均一性を向上させるとの観点も加味すると、SiC単位表面積あたりのAl元素の質量は、1.2mg/m以上であることがより好ましく、1.35mg/m以上であることがさらに好ましい。なお、色味は焼結体の均一性と関連しており、色味の均一性が向上すると、焼結体の均一性も向上すると考えられる。また、SiC単位表面積あたりのAl元素の質量の上限は、特に制限されないが、30mg/m以下であることが好ましく、20mg/m以下であることがより好ましく、10mg/m以下であることがさらに好ましい。上記範囲であると、焼結体およびこれを含む成形体におけるSiC粒子に由来する機能がより向上する。SiC単位表面積あたりのAl元素の質量は、以下のように測定することができる。まず、SiC粒子の比表面積をMicromeritics社製の比表面積測定計FlowSorb IIを用いて測定する。次いで、株式会社島津製作所製の蛍光X線分析装置 XRF-1700を用いて、被覆SiC粒子粉体(乾燥粉体)100質量部および四ホウ酸リチウム10質量部からなるバルク体のAl元素とSi元素との重量比α(α=Al/Si)を測定する。続いて、SiC単位表面積あたりのAl元素の質量を、αと、SiC粒子の比表面積と、Si原子量およびSiC分子量とを用いて算出する。なお、測定方法、算出方法の詳細は実施例に記載する。
【0021】
(被覆SiC粒子粉体の平均二次粒子径)
被覆SiC粒子粉体の平均二次粒子径の上限は、特に制限されないが、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることがさらに好ましく、1μm以下であることが特に好ましく、0.5μm以下であることが最も好ましい。上記範囲であると、被覆SiC粒子粉体を媒体に分散させた際に、分散性がより向上する。また、被覆SiC粒子粉体や、グリーンシート、プリプレグ材等の被覆SiC粒子粉体を含む組成物や複合体の均一性がより向上する。そして、被覆SiC粒子粉体の焼結体、およびこれを含む成形体の密度および機械的強度がより向上する。この理由は、平均二次粒子径が小さい場合、個々の被覆SiC粒子の粒子径のバラツキも小さいからであると推定される。また、被覆SiC粒子粉体の平均二次粒子径の下限は、特に制限されないが、0.03μm以上であることが好ましく、0.03μm超であることがより好ましく、0.05μm以上であることがさらに好ましく、0.05μm超であることがよりさらに好ましく、0.1μm以上であることが特に好ましく、0.1μm超であることが最も好ましい。上記範囲であると、分散体において後述する他の粒子を併用する場合、分散媒中における凝集がより生じ難くなり、分散性がより向上する。また、被覆SiC粒子粉体を含む粉体材料、グリーンシート、プリプレグ材等の被覆SiC粒子粉体を含む組成物や複合体において、後述する他の粒子を併用する場合、均一性がより向上する。これより、被覆SiC粒子粉体の焼結体、およびこれを含む成形体の密度および機械的強度がより向上する。この理由は、粒子径が大きくなると、同一質量における被覆SiC粒子の数が減少することから、被覆SiC粒子と、他の粒子との間で生じる粒子凝集の頻度をより低減させることができるからと推定される。ここで、被覆SiC粒子粉体の平均二次粒子径の値は、測定の適正濃度となるよう被覆SiC粒子粉体を分散媒に分散させた分散体において、株式会社堀場製作所製の散乱式粒子径分布測定装置LA-950により測定することができる。
【0022】
(等電点)
被覆SiC粒子粉体の等電点のpHの下限は、特に制限されないが、4.5以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、5.5以上であることがさらに好ましく、6以上であることがよりさらに好ましく、6.5以上であることが特に好ましく、7.5以上であることが最も好ましい。また、被覆SiC粒子粉体の等電点のpHの上限は、特に制限されないが、9以下であることが好ましく、8.5以下であることがより好ましい。上記範囲であると、分散体において後述する他の粒子を併用する場合、分散媒中における凝集がより生じ難くなり、分散性がより向上する。また、被覆SiC粒子粉体を含む粉体材料、グリーンシート、プリプレグ材等の被覆SiC粒子粉体を含む組成物や複合体において、後述する他の粒子を併用する場合、均一性がより向上する。これより、被覆SiC粒子粉体の焼結体、およびこれを含む成形体の密度および機械的強度がより向上する。等電点のpHは、1.0刻みのpH、例えば、1.0刻みのpH3.0~10.0の範囲のpHのゼータ電位測定液を調製してゼータ電位を測定し、ゼータ電位の符号が変化した前後のpHと、前後のpHにおけるゼータ電位から、以下の式により算出することができる。
【0023】
【数1】
【0024】
ここで、pHは、株式会社堀場製作所製のpHメーター(型番:F-71)で測定することができる。また、ゼータ電位は、Malvern Instruments製のゼータ電位測定装置(商品名「Zetasizer nano ZSP」)で測定することができる。
【0025】
(炭化珪素粒子)
炭化珪素(SiC)粒子は、高硬度であり、高温耐熱性、機械的強度、耐衝撃性、耐摩耗性、耐酸化性および耐食性に優れ、熱膨張係数が小さいことから、研磨用組成物や、高温構造部材をはじめとして、種々の用途で用いられうる。
【0026】
SiC粒子の平均一次粒子径の上限は、特に制限されないが、10μm未満であることが好ましく、5μm未満であることがより好ましく、2μm未満であることさらに好ましく、1μm未満であることが特に好ましく、0.5μm未満であることが最も好ましい。上記範囲であると、被覆SiC粒子粉体を媒体に分散させた際に、分散性がより向上する。また、被覆SiC粒子粉体や、グリーンシート、プリプレグ材等の被覆SiC粒子粉体を含む組成物や複合体の均一性がより向上する。そして、被覆SiC粒子粉体の焼結体、およびこれを含む成形体の密度および機械的強度がより向上する。また、SiC粒子の平均一次粒子径の下限は、特に制限されないが、0.03μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることがさらに好ましい。上記範囲であると、形成される被覆SiC粒子の機能をより向上させることができる。SiC粒子の平均一次粒子径の値は、株式会社日立ハイテクノロジーズ製のSEM SU8000を用いて撮影を行い、株式会社マウンテック製の画像解析式粒度分布ソフトウェア MacViewを用いて、粒子100個の体積平均粒子径として算出することができる。
【0027】
SiC粒子の平均二次粒子径の上限は、特に制限されないが、10μm未満であることが好ましく、5μm未満であることがより好ましく、2μm未満であることがさらに好ましく、1μm未満であることが特に好ましく、0.5μm未満であることが最も好ましい。上記範囲であると、被覆SiC粒子粉体を媒体に分散させた際に、分散性がより向上する。また、被覆SiC粒子粉体や、グリーンシート、プリプレグ材等の被覆SiC粒子粉体を含む組成物や複合体の均一性がより向上する。そして、被覆SiC粒子粉体の焼結体、およびこれを含む成形体の密度および機械的強度がより向上する。また、SiC粒子の平均二次粒子径の下限は、特に制限されないが、0.03μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることがさらに好ましい。上記範囲であると、分散体において後述する他の粒子を併用する場合、分散媒中における凝集がより生じ難くなり、分散性がより向上する。また、被覆SiC粒子粉体を含む粉体材料、グリーンシート、プリプレグ材等の被覆SiC粒子粉体を含む組成物や複合体において、後述する他の粒子を併用する場合、均一性がより向上する。これより、被覆SiC粒子粉体の焼結体、およびこれを含む成形体の密度および機械的強度がより向上する。また、上記範囲であると、SiC粒子の被覆をより効率的に行うことができる。SiC粒子の平均二次粒子径の値は、株式会社堀場製作所製の散乱式粒子径分布測定装置LA-950により測定することができる。
【0028】
SiC粒子は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。市販品としては、特に制限されないが、例えば、株式会社フジミインコーポレーテッド製のGC#40000、GC8000S等が用いられうる。
【0029】
SiC粒子は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いられうる。
【0030】
(被覆層)
被覆SiC粒子の被覆層は、アルミニウム元素を含む。当該被覆層は、SiC粒子に対して、絶縁性を付与する機能や、成形体を製造する際の焼結助剤としての機能や、研磨用組成物に使用した際の研磨特性を向上させる機能を付与することができる。
【0031】
被覆層中のアルミニウム元素は、アルミニウム化合物の形で含有されることが好ましい。アルミニウム化合物は、特に制限されず公知の化合物を適宜採用することができるが、これらの中でも酸化アルミニウム前駆体であることが特に好ましい。すなわち、本発明の好ましい一形態に係る被覆層は、酸化アルミニウム前駆体を含み、酸化アルミニウム前駆体は、アルミニウム元素を含む。当該被覆層中の酸化アルミニウム前駆体は、被覆SiC粒子粉体の焼成時に酸化アルミニウムへと変化する。酸化アルミニウムは、良好な焼結助剤として機能する。そして、被覆層中の酸化アルミニウム前駆体を被覆SiC粒子粉体の焼成時に酸化アルミニウムへと変化させる方法を用いることで、被覆SiC粒子粉体の焼結体、およびこれを含む成形体の密度および機械的強度がより向上する。
【0032】
前述のように、被覆SiC粒子粉体は被覆層が焼成によって酸化アルミニウムへと変化するものであることが好ましいことから、被覆層は、酸化アルミニウムを実質的に含まないことが好ましい。本願明細書において、「酸化アルミニウムを実質的に含まない」とは、被覆SiC粒子粉体のEELS(Electron Energy Loss Spectroscopy)分析において、酸化アルミニウムのEELS標準スペクトルに特有のスペクトル形状が明確に観察されないことを表す。ここで、EELS分析は、FEI社製TITAN80-300を用いて行うことができる。
【0033】
酸化アルミニウム前駆体として使用できるアルミニウム化合物としては、特に制限されないが、例えば、水酸化アルミニウム;酸化水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミニウムミョウバン、ギ酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、リノール酸アルミニウム、オレイン酸アルミニウム、パルミチン酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウム、没食子酸アルミニウム等のアルミニウム塩;トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリブトキシアルミニウム等のアルミニウムアルコキシド;トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、トリ-n-オクチルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物等が挙げられる。これらは水和物の形態で用いられてもよい。これらの中でも、その前駆体を用いた被覆層形成時において、被覆SiC粒子の凝集が発生し難いとの観点から、水酸化アルミニウムが好ましい。すなわち、本発明の一形態に係る被覆SiC粒子粉体は、被覆層が水酸化アルミニウムを含むことが好ましい。水酸化アルミニウムを含む被覆層を有する被覆SiC粒子(以下、単に「水酸化アルミニウム被覆SiC粒子」とも称する)は、アルミニウム化合物に由来する機能を有しつつ、被覆SiC粒子粉体を媒体に分散させた際に、より高い分散性が得られる。また、被覆SiC粒子粉体や、グリーンシート、プリプレグ材等の被覆SiC粒子粉体を含む組成物、複合体においてより高い均一性が得られ、被覆SiC粒子粉体の焼結体、およびこれを含む成形体において、より高い密度およびより高い機械的強度が得られる。
【0034】
また、被覆層は、本発明の効果を損なわない限り、他の成分を含んでいてもよい。
【0035】
被覆層がアルミニウム元素を含むことは、被覆SiC粒子をSEM(Scanning Electron Microscope)-EDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)観察およびEELS(Electron Energy Loss Spectroscopy)分析することで確認することができる。なお、測定方法の詳細は実施例に記載する。
【0036】
被覆層の膜厚は、被覆による粒子の存在状態の変化のため直接測定することは困難である場合もありうるが、SiC粒子の単位表面積当たりの前記アルミニウム元素の質量より判断することができる。また、一般的に被覆層の膜厚が増加するほど、ゼータ電位の等電点が大きくなる傾向があることから、被覆層の好ましい膜厚となっていることは、被覆SiC粒子が好ましい等電点の範囲内の値を有することからも判断することができる。
【0037】
(被覆SiC粒子粉体の製造方法)
被覆SiC粒子粉体の製造方法は、被覆層中のアルミニウム元素がアルミニウム化合物の形で含有される場合、SiC粒子と、被覆層に含まれるアルミニウム化合物またはその前駆体と、分散媒とを含む分散体の状態で被覆を進行させる方法であることが好ましい。
【0038】
ここで、被覆は、SiC粒子と、被覆層に含まれるアルミニウム化合物またはその前駆体と、分散媒とを含む分散体のpH(被覆段階のpH)を所定の範囲内の値に制御した上で、一定期間維持することによって行うことが好ましい。被覆段階のpH範囲の下限は、特に制限されないが、7.0超であることが好ましく、9.0以上であることがより好ましく、10.0以上であることがさらに好ましい。上記範囲であると、SiC粒子の凝集の発生を抑制し、SiC粒子の分散性をより良好に維持しつつ被覆を進行させることができる。また、被覆段階のpH範囲の上限は、特に制限されないが、12.0以下であることが好ましく、11.5以下であることがより好ましく、11.0以下であることがさらに好ましい。上記範囲であると、被覆処理における不可避不純物の発生がより低減され、製造される被覆SiC粒子粉体の純度がより高まる。
【0039】
被覆段階のpHの制御は、公知のpH調整剤で行うことができる。これらpH調整剤としては、酸またはアルカリが好ましい。酸としては、特に制限されないが、例えば、硝酸、硫酸、リン酸、塩酸等の無機酸(特に硝酸、硫酸、塩酸等の無機強酸)、酢酸、クエン酸、乳酸、シュウ酸、フタル酸等の有機酸等が挙げられる。これらの中でも、より少ない添加量で目的の達成が可能であり、他の元素の混入の可能性が低い高純度品が容易に入手可能であるとの観点から、無機強酸であることが好ましく、硝酸、硫酸、塩酸であることがより好ましい。これらの酸は、単独でもまたは2種以上混合しても用いられうる。また、アルカリとしては、特に制限されないが、例えば、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾール、トリアゾール等が挙げられる。これらの中でも、例えば、被覆層に含まれるアルミニウム化合物の前駆体がアルミン酸ナトリウムである場合、被覆処理における不可避不純物の発生が少ないとの観点から、水酸化ナトリウムであることが好ましい。これらのアルカリは、単独でもまたは2種以上混合しても用いられうる。
【0040】
本発明の好ましい一形態に係る被覆SiC粒子粉体は、上記説明したように水酸化アルミニウム被覆SiC粒子粉体であり、その製造方法は、特に制限されないが、SiC粒子、アルカリおよび水を含み、pHが9.0以上12.0以下である原料分散体(1)と、アルミン酸ナトリウムおよび水を含む原料溶液(2)と、をそれぞれ準備する工程(A)と、前記原料分散体(1)に、前記原料溶液(2)と、酸とを添加して、pHを9.0以上12.0以下の範囲に維持し、前記SiC粒子の表面に水酸化アルミニウムを含む被覆層を有する被覆粒子を形成する工程(B)と、を有する方法であることが好ましい。ここで、製造される水酸化アルミニウム被覆SiC粒子粉体は、分散媒中に分散された状態で製造されてもよく、またはその後分散媒を取り除く工程を経て製造されていてもよい。
【0041】
(工程(A))
上記の好ましい一形態に係る水酸化アルミニウム被覆SiC粒子粉体の製造方法は、SiC粒子、アルカリおよび水を含み、pHが9.0以上12.0以下である原料分散体(1)と、アルミン酸ナトリウムおよび水を含む原料溶液(2)と、をそれぞれ準備する工程(A)を有する。
【0042】
原料分散体(1)の調製方法としては、特に限定されないが、水を含む分散媒に、SiC粒子を分散させ、アルカリを添加する方法等が挙げられる。水を含む分散媒に、SiC粒子を分散させ、アルカリを添加する手順、方法としては、特に制限されず、公知の手順、方法が用いられうる。例えば、SiC粒子の水系分散体(分散媒として水を含む分散体、好ましくは水分散体)にアルカリを添加する方法等が挙げられる。この際、SiC粒子の水系分散体は市販品でもよいし、合成品でもよい。また、有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合する手順、方法を採用してもよい。
【0043】
原料分散体(1)の調製方法において、原料分散体(1)中のSiC粒子の含有量は、特に制限されないが、生産性の観点から、原料分散体(1)の総質量に対して、8質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、原料分散体(1)中のSiC粒子の含有量は、特に制限されないが、分散性の観点から、原料分散体(1)の総質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0044】
原料分散体(1)の調製方法において、アルカリとしては、特に制限されず、例えば、被覆段階のpHの制御に用いられるpH調整剤として挙げたものが用いられうる。アルカリの使用量は、特に制限されず、原料分散体(1)のpHが所定の9.0以上12.0以下になるように使用量を調整すればよい。
【0045】
原料分散体(1)は、分散媒として水を含む。水は、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。ここで、原料分散体(1)中の水の含有量は、特に制限されないが、水酸化アルミニウムによるSiC粒子の被覆をより良好に進行させるとの観点から、原料分散体(1)の総質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい(上限100質量%未満)。また、分散媒は、水以外の溶剤を含んでいてもよく、水以外の溶剤は有機溶剤であることが好ましい。有機溶剤としては、例えば、アセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等の水と混和する有機溶媒が挙げられる。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いられうる。
【0046】
原料溶液(2)の調製方法としては、特に限定されないが、例えば、水にアルミン酸ナトリウムを添加する方法等が挙げられる。水に、アルミン酸ナトリウムを分散させる手順、方法、およびアルカリを添加する手順、方法としては、特に制限されず、公知の手順、方法が用いられうる。原料溶液(2)におけるアルミン酸ナトリウムの含有量は、特に制限されないが、原料溶液(2)の総質量に対して、10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
(工程(B))
上記の好ましい一形態に係る水酸化アルミニウム被覆SiC粒子粉体の製造方法は、工程(A)で準備された原料分散体(1)に、原料溶液(2)と、酸とを添加して、pHを9.0以上12.0以下の範囲に維持し、前記SiC粒子の表面に水酸化アルミニウムを含む被覆層を有する被覆粒子を形成する工程(B)を有する。本工程(B)では、水酸化アルミニウム被覆SiC粒子が製造される。
【0048】
原料分散体(1)に原料溶液(2)と、酸とを添加する方法は、pHを9.0以上12.0以下に維持できれば(すなわち、アルミン酸イオンの濃度が過剰にならなければ)特に制限されない。例えば、原料溶液(2)と酸とを同時に添加する方法や、原料溶液(2)と酸とを少しずつ交互に添加する方法等が挙げられる。
【0049】
原料溶液(2)の添加量は、原料溶液(2)におけるアルミン酸ナトリウムの含有量によって変化するため特に制限されないが、SiC粒子100質量部に対するアルミン酸ナトリウムの添加量が7質量部以上となる量であることが好ましく、20質量部以上となる量であることがより好ましく、22質量部以上であることがさらに好ましい。すなわち、SiC粒子100質量部に対するアルミン酸ナトリウムの添加量の好ましい範囲の下限値は、上記示した値となる。上記範囲であると、SiC粒子を水酸化アルミニウム(Al(OH))で十分に被覆することができ、水酸化アルミニウムに由来する機能がより向上する。また、原料溶液(2)の添加量は、原料溶液(2)におけるアルミン酸ナトリウムの含有量によって変化するため特に制限されないが、SiC粒子100質量部に対するアルミン酸ナトリウムの含有量が800質量部以下となる量であることが好ましく、400質量部以下となる量であることがより好ましく、100質量部以下となる量であることがさらに好ましく、50質量部以下となる量であることが特に好ましい。すなわち、SiC粒子100質量部に対するアルミン酸ナトリウムの添加量の好ましい範囲の上限値は、上記示した値となる。ある程度被覆が進むと被覆による得られる効果は一定となるため、原料溶液(2)の添加量を所定量以下とすることで、経済性および生産効率がより向上する。
【0050】
酸の使用量は、特に制限されず、原料分散体(1)のpHが所定の9.0以上12.0以下になるように使用量を調整すればよい。ここで、上記酸は水溶液の形態で添加することが好ましく、その水溶液中の酸の濃度は、特に制限されないが、酸を含む水溶液の総質量に対して、1.0質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることがさらに好ましい。上記範囲であると、酸を含む水溶液の添加量より減少させることができ、生産性がより向上する。また、水溶液中の酸の濃度は、特に制限されないが、酸を含む水溶液の総質量に対して、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。上記範囲であると、腐食性がより低くなり設備負荷がより小さくなる。
【0051】
また、原料溶液(2)と、酸とを添加する速度(添加速度)は、特に制限されず、pH9.0以上12.0以下の範囲し、かつその後のpHの維持が容易となるよう適宜調整すればよい。
【0052】
工程(B)におけるpHが9.0以上12.0以下の範囲である状態の維持時間は、特に制限されないが、1分以上であることが好ましく、30分以上であることがより好ましく、50分以上であることがさらに好ましく、60分以上であることが特に好ましい。上記範囲であると、SiC粒子を水酸化アルミニウムによってより十分に被覆することができ、水酸化アルミニウムに由来する機能がより向上する。また、上記範囲であると、分散体において後述する他の粒子を併用する場合、分散媒中における凝集がより生じ難くなり、分散性がより向上する。さらに、被覆SiC粒子粉体を含む粉体材料、グリーンシート、プリプレグ材等の被覆SiC粒子粉体を含む組成物や複合体において、後述する他の粒子を併用する場合、均一性がより向上する。これより、被覆SiC粒子粉体の焼結体、およびこれを含む成形体の密度および機械的強度がより向上する。また、工程(B)におけるpHが9.0以上12.0以下の範囲である状態の維持時間は、特に制限されないが、200分以下であることが好ましく、150分以下であることがより好ましく、120分以下であることがさらに好ましく、90分以下であることが特に好ましい。ある程度被覆が進むと被覆により得られる効果は一定となるため、維持時間がこの範囲であると、経済性および生産効率がより向上する。
【0053】
工程(B)における好ましいpH範囲は、上記説明した被覆段階のpH範囲と同様である。
【0054】
工程(B)を経ることで、水酸化アルミニウム被覆SiC粒子粉体および分散媒を含む分散体の形態で、水酸化アルミニウム被覆SiC粒子粉体が製造される。これより、本製造方法では、水酸化アルミニウム被覆SiC粒子粉体が分散媒中に分散された状態で製造されることから、この方法は、水酸化アルミニウム被覆SiC粒子粉体および分散媒を含む分散体の製造方法の一例でもある。製造される分散体から水酸化アルミニウム被覆SiC粒子粉体を取り出したい場合は、公知の手順、方法を用いて分散媒や不純物等を除去すればよい。
【0055】
(その他の工程)
上記の水酸化アルミニウム被覆SiC粒子粉体の製造方法では、工程(A)および工程(B)以外の他の工程をさらに有していてもよく、工程(A)および工程(B)において、他の操作に係る段階をさらに有していてもよい。
【0056】
上記の水酸化アルミニウム被覆SiC粒子粉体の製造において、各工程で用いられる溶液または分散体は、本発明の効果を損なわない限り、他の成分を含んでいてもよい。
【0057】
<分散体>
本発明の他の一形態は、上記の被覆SiC粒子粉体と、分散媒とを含む、分散体に関する。当該分散体は、高い分散性を有することから、例えば、高い均一性を有する被覆SiC粒子粉体を含む粉体材料、グリーンシート、プリプレグ材等の、被覆SiC粒子粉体を含む組成物や複合体の原料として好ましく用いられうる。また、被覆SiC粒子粉体の焼結体、およびこれを含む成形体の原料として好ましく用いられうる。これより、当該分散体によって、被覆SiC粒子粉体の焼結体、およびこれを含む成形体において、より高い密度およびより高い機械的強度が得られる。また、当該分散体は、高い研磨特性を有する研磨用組成物として好ましく用いられうる。ただし、分散体の用途はこれらに限定されるものではない。
【0058】
(分散媒)
本発明の一形態に係る分散体は、分散媒を含む。分散媒は、各成分を分散または溶解させる機能を有する。分散媒は、上記の被覆SiC粒子粉体の製造における被覆処理の直後に存在する分散媒であってもよく、その後、当該分散媒を置換する工程、操作によって置換された分散媒であってもよい。分散媒は、水を含むことが好ましく、水のみであることがより好ましい。水は、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。また、分散媒は、水以外の溶剤を含んでいてもよく、水以外の溶剤は有機溶剤であることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、アセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等の水と混和する有機溶媒が挙げられる。分散媒は、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いられうる。
【0059】
(他の成分)
本発明の一形態に係る分散体は、本発明の効果を損なわない限り、他の成分を含んでいてもよい。他の成分は、特に制限されないが、他の粒子またはpH調整剤であることが特に好ましい。ここで、他の粒子には、被覆処理における不可避不純物は含まない。
【0060】
他の粒子としては、特に制限されないが、等電点のpHの下限が5以上である粒子が好ましい。また、他の粒子としては、特に制限されないが、等電点のpHの上限が11以下である粒子が好ましい。上記範囲であると、分散体において上記の被覆SiC粒子粉体と他の粒子とを併用する場合であっても、分散媒中における凝集がより生じ難くなり、分散性がより向上する。また、被覆SiC粒子粉体を含む粉体材料、グリーンシート、プリプレグ材等の被覆SiC粒子粉体を含む組成物や複合体において、後述する他の粒子を併用する場合、均一性がより向上する。これより、被覆SiC粒子粉体の焼結体、およびこれを含む成形体の密度および機械的強度がより向上する。また、他の粒子の等電点のpHと、被覆SiC粒子粉体の等電点のpHとの差の絶対値は、小さいほど好ましく、2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1以下であることがさらに好ましい(下限0)。等電点のpHが近い粒子同士は凝集がより生じ難いからである。なお、等電点のpHが5以上11以下である粒子としては、特に制限されないが、例えば、アルミナ、酸化銅、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化カドミウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
【0061】
pH調整剤としては、所望のpHを達成することができれば特に制限されず、公知のpH調整剤が適宜用いられうる。これらの中でも、公知の酸、塩基、塩、アミン、キレート剤等を用いることが好ましい。
【0062】
(pH)
本発明の一形態に係る分散体のpHは、特に制限されない。より高い分散性を実現するとの観点から、分散体のpHは、上記の被覆SiC粒子粉体の好ましい等電点のpHの範囲内となる値であることが好ましい。
【0063】
(分散体の製造方法)
被覆SiC粒子粉体の製造方法において、被覆SiC粒子粉体および分散媒を含む分散体の形態で被覆SiC粒子粉体が製造される場合、当該方法をそのまま本発明の一形態に係る分散体の製造方法としてもよい。また、被覆SiC粒子粉体の製造方法における、被覆処理の直後に存在する分散媒を、他の分散媒へと置換することによって目的の分散体を製造してもよい。例えば、製造される分散体から公知の手順、方法を用いて分散媒や不純物等を除去して被覆SiC粒子粉体を取り出した後、分散媒に、被覆SiC粒子を分散させてもよい。分散媒に、被覆SiC粒子粉体を分散させる手順、方法としては、特に制限されず、公知の手順、方法が用いられうる。なお、これらの方法により製造される分散体に、必要に応じて上記他の成分を添加して目的の分散体を製造してもよい。
【0064】
<グリーンシート>
本発明の他の一形態は、上記の被覆SiC粒子粉体と、樹脂とを含む、グリーンシートに関する。上記の被覆SiC粒子粉体は、高い分散性を有することから、これを含むグリーンシートは、その内部において被覆SiC粒子粉体が高密度で均一に存在し、樹脂の分離が生じにくく、空隙が少ない。よって、当該グリーンシートを用いることにより、後述する被覆SiC粒子粉体の焼結体を含む、高密度かつ高強度の成形体を製造することができる。
【0065】
樹脂は、バインダーとしての機能を有する。使用される樹脂は、特に制限されず、公知のグリーンシートに用いられる樹脂を適宜採用することができる。これらの中でも、ポリビニルブチラール等のブチラール系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂が好ましく、ブチラール系樹脂がより好ましく、ポリビニルブチラールがさらに好ましい。これらの樹脂は、単独でもまたは2種以上混合しても用いられうる。
【0066】
グリーンシートにおける樹脂の含有量の下限は、特に制限されないが、被覆SiC粒子粉体100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることがさらに好ましい。上記範囲であると、被覆SiC粒子を含むシートをより良好に形成することができる。また、グリーンシートにおける樹脂の含有量の上限は、特に制限されないが、被覆SiC粒子粉体100質量部に対して、1000質量部以下であることが好ましく、500質量部以下であることがより好ましく、200質量部以下であることがさらに好ましい。上記範囲であると、焼成工程における樹脂成分の除去量が少なくなるため、経済性および生産効率がより向上する。
【0067】
本発明の一形態に係るグリーンシートは、加工性や柔軟性を向上させるとの観点から、可塑剤を含むことが好ましい。使用される可塑剤は、特に制限されず、公知のグリーンシートに用いられる可塑剤を適宜採用することができる。可塑剤としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、ジブチルフタレート、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(フタル酸ジオクチル)、フタル酸ジイソノニルが好ましく、グリセリンがより好ましい。これらの樹脂は、単独でもまたは2種以上混合しても用いられうる。
【0068】
グリーンシートにおける可塑剤の含有量の下限は、特に制限されないが、被覆SiC粒子粉体100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましい。上記範囲であると、グリーンシートの柔軟性がより向上する。また、グリーンシートにおける可塑剤の含有量の上限は、特に制限されないが、被覆SiC粒子粉体100質量部に対して、300質量部以下であることが好ましく、200質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることがさらに好ましい。上記範囲であると、グリーンシート内での成分の均一性がより高まる。
【0069】
本発明の一形態に係るグリーンシートは、上記分散体の項で説明した他の粒子、pH調整剤等の他のグリーンシート形成成分をさらに含んでいてもよい。
【0070】
グリーンシートの製造方法は、特に制限されず公知の手順、方法を適宜採用することができる。例えば、基材上に、上記の被覆SiC粒子粉体と、分散媒とを含む、グリーンシート形成用塗工液(グリーンシート形成用分散体)を調製し、当該グリーンシート形成用塗工液を塗布してシートを形成する方法等が用いられうる。
【0071】
塗布方法は、特に制限されず、公知の手順、方法を適宜採用することができる。例えば、アプリケーターコート法、バーコート法、ダイコーター法、コンマコーティング法、グラビアロールコーター法、ブレードコーター法、スプレーコーター法、エアーナイフコート法、ディップコート法、転写法等が挙げられる。
【0072】
グリーンシート形成用塗工液の分散媒は、特に制限されず、例えば、上記の分散体の項で説明した分散媒が挙げられる。
【0073】
グリーンシート形成用塗工液の調製方法は、特に制限されず、公知の手順、方法を適宜採用することができる。これらの中でも、不純物の混合や意図せぬ反応を抑制してグリーンシートの均一性をより向上させるとの観点から、グリーンシート形成用分散体の各成分を真空下で混合することがより好ましい。
【0074】
基材は、特に制限されないが、例えば、ポリオレフィンフィルム(例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等)、ポリエステルフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等)、ポリ塩化ビニルなどの樹脂フィルム等が好ましく用いられる。
【0075】
基材の膜厚は、特に制限されないが、10~300μmであることが好ましく、20~150μmであることがより好ましい。
【0076】
グリーンシートの製造方法は、グリーンシート形成用塗工液の塗工膜の乾燥処理を含むことが好ましい。乾燥温度は、特に制限されないが、25℃以上200℃以下であることが好ましく、25℃以上100℃以下であることがより好ましい。また、乾燥時間は、特に制限されないが、10分以上3時間以下であることが好ましい。
【0077】
グリーンシート形成用塗工液の塗布膜厚(湿潤膜厚)は、特に制限されないが、生産性とひび割れ抑制の観点から、100~2000μmであることが好ましい。
【0078】
本発明の一形態に係るグリーンシートは、焼成を行うことで、後述する被覆SiC粒子粉体の焼結体を含む、成形体を製造することができる。当該成形体は、高密度かつ高強度の成形体となる。
【0079】
<プリプレグ材>
本発明の他の一形態は、繊維基材と、上記の被覆SiC粒子粉体および樹脂、または上記グリーンシートとを含む、プリプレグ材に関する。プリプレグ材とは、ガラスクロス、SiC繊維、炭素繊維等の繊維基材(繊維織布)に樹脂を含んだ分散体を含浸させ、乾燥させることで作製した半硬化状態の複合材料のことである。上記の被覆SiC粒子粉体は、高い分散性を有する。そして、当該被覆SiC粒子粉体を含むプリプレグ材は、その内部において被覆SiC粒子粉体が高密度で均一に存在し、樹脂の分離が生じにくく、空隙が少ない。これより、当該プリプレグ材は、後述する被覆SiC粒子粉体の焼結体を含む、高密度かつ高強度の成形体を製造することができる。
【0080】
プリプレグ材の製造方法は、特に制限されず公知の手順、方法を適宜採用することができる。プリプレグ材の製造方法としては、例えば、上記の被覆SiC粒子粉体と、樹脂と、分散媒とを含む、プリプレグ材形成用分散体を繊維基材に含浸させ、乾燥工程で溶媒を蒸発させて除去する方法が挙げられる。この際、含浸は、浸漬や塗布等によって行われてもよく、必要に応じて当該操作を複数回繰り返してもよい。なお、プリプレグ材形成用分散体としては、例えば、上記で説明したグリーンシート形成用分散体と同様のものが用いられうる。また、プリプレグ材の製造方法としては、例えば、シート状にしたグリーンシートを、繊維基材と積層する方法が用いられうる。さらに、プリプレグ材の製造方法としては、例えば、これらの2つの方法を組み合わせる方法を用いてもよい。
【0081】
本発明の一形態に係るプリプレグ材は、焼成を行うことで、後述する被覆SiC粒子粉体の焼結体を含む、成形体を製造することができる。当該成形体は、高密度かつ高強度の成形体となる。
【0082】
<焼結体>
本発明の他の一形態は、上記の被覆SiC粒子粉体の焼結体に関する。当該焼結体は、原料となる被覆SiC粒子粉体が高い分散性を有することから、高い均一性を有する。そして、グリーンシート、プリプレグ材等の組成物や複合体等を焼成して得られる成形体等の、当該被覆SiC粒子粉体の焼結体を含む成形体においても高い均一性が実現される。これより、当該焼結体は高密度かつ高強度であり、これを含む成形体も高密度かつ高強度となる。
【0083】
焼結体の製造方法は、特に制限されず公知の手順、方法を適宜採用することができる。焼結体の製造方法としては、例えば、上記の被覆SiC粒子粉体と、分散媒とを含む、分散体より被覆SiC粒子粉体の乾燥粉体を得た後、加圧しながら焼成する方法等が挙げられる。当該方法の一例としては、当該分散体をろ過、洗浄、乾燥を経て乾燥粉体を得た後、乾燥粉体を型に充填し、一軸加圧しながら焼成することで、特定形状の成形体の状態で焼結体を製造する方法が挙げられる。この際、ろ過、洗浄、乾燥の手順、方法としては、特に制限されず、公知の手順、方法が用いられうる。ここで、ろ過方法および洗浄方法としては、特に制限されないが、例えば、吸引ろ過後の被覆SiC粒子粉体の乾燥粉体に純水を加えて再度吸引ろ過を繰り返す方法等が挙げられる。また、焼結時に乾燥粉体を充填する型としては、特に制限されないが、例えば、耐熱性に優れたカーボン製の型等が挙げられる。また、焼結体の製造方法としては、例えば、上記のグリーンシート、プリプレグ材を加圧しながら焼成する方法等が挙げられる。当該方法の一例としては、当該グリーンシート、プリプレグ材を一軸加圧しながら焼成することで、特定形状の成形体の状態で焼結体を製造する方法等が挙げられる。
【0084】
一軸加圧の手順、方法としては、特に制限されず、公知の手順、方法が用いられうる。ここで、加圧装置としては、特に制限されず、例えば、市販の真空ホットプレス機等が用いられうる。焼成時の圧力の下限は、特に制限されないが、0.1MPa以上であることが好ましく、1MPa以上であることがより好ましく、5MPa以上であることがさらに好ましい。上記範囲であると、被覆SiC粒子粉体の焼結をより進行させることができる。その結果、焼結体の密度がより向上し、均一性がより向上して、焼結体、およびこれを含む成形体の機械的強度がより向上する。また、焼成時の圧力の上限は、特に制限されないが、50MPa以下であることが好ましく、40MPa以下であることがより好ましく、30Pa以下であることがさらに好ましい。上記範囲であると、装置負荷がより低減され、経済性がより向上する。
【0085】
焼成時間は、焼成キープ時間として決定されることが好ましい。ここで、焼成キープ時間とは、目的とする温度以上の焼成温度に達してから、当該焼成温度以下の温度となるまでの時間を表す。温度は、例えば、熱電対温度計を用いて測定することができる。焼成キープ時間の下限は、特に制限されないが、1分以上であることが好ましく、5分以上であることがより好ましく、10分以上であることがさらに好ましく、60分以上であることが特に好ましい。上記範囲であると、被覆SiC粒子粉体の焼結をより進行させることができる。その結果、焼結体の密度がより向上し、均一性がより向上して、焼結体、およびこれを含む成形体の機械的強度がより向上する。また、焼成キープ時間の上限は、焼成キープ時間が一定以上となると焼結が十分に進行し、焼結体の組成、構造が一定となることから、密度、均一性、機械的強度の観点からは特に制限されるものではない。ただし、焼成キープ時間は、経済性および生産効率の観点から、600分以下であることが好ましく、480分以下であることがより好ましく、300分以下であることがさらに好ましい。上記範囲であると、経済性および生産効率がより向上する。目的とする焼成温度以上となる時間帯が2以上存在するような焼成条件を採用する場合、各焼成キープ時間が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0086】
焼成温度は、焼成キープ温度として決定されることが好ましい。ここで、焼成キープ温度とは、焼成キープ時間における平均温度を表す。平均温度は、2秒間隔で温度を測定した値の平均値として算出することができる。温度は、例えば、熱電対温度計を用いて測定することができる。焼成キープ温度の下限は、特に制限されないが、1000℃以上であることが好ましく、1100℃以上であることがより好ましく、1200℃以上であることがさらに好ましく、1400℃以上であることが特に好ましい。上記範囲であると、被覆SiC粒子粉体の焼結をより進行させることができる。その結果、焼結体の密度がより向上し、均一性が向上して、焼結体、およびこれを含む成形体の機械的強度がより向上する。また、焼成キープ温度の上限は、焼成キープ温度が一定以上となると焼結が十分に進行し、焼結体の組成、構造が一定となることから、密度、均一性、機械的強度の観点からは特に制限されるものではない。ただし、焼成キープ温度は、経済性および生産効率の観点から、2400℃以下であることが好ましく、2200℃以下であることがより好ましく、2000℃以下であることがさらに好ましい。上記範囲であると、経済性および生産性がより向上する。目的とする焼成温度以上となる時間帯が2以上存在するような焼成条件を採用する場合、各焼成キープ時間が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0087】
焼成時の雰囲気は、特に制限されず、例えば、大気または不活性ガス雰囲気等が挙げられるが、意図せぬ反応を抑制して焼結体の均一性をより向上させるとの観点から、不活性ガス雰囲気であることがより好ましく、窒素雰囲気またはアルゴン雰囲気であることがさらに好ましく、アルゴン雰囲気であることが特に好ましい。不活性ガス雰囲気下での焼成によって、被覆SiC粒子粉体の焼結をより進行させることができ、焼結体の密度がより向上して均一性が向上し、焼結体、およびこれを含む成形体の機械的強度がより向上する。
【0088】
焼結体の強度は、焼結体のみからなる成形体の曲げ強度により判断することができる。焼結体の強度は、高いほど好ましく、250MPa以上であることがより好ましく、300MPa以上であることがさらに好ましく、350MPa以上であることが特に好ましく、400MPa以上であることが最も好ましい。また、焼結体の強度の上限は、SiC粒子の種類および大きさ、被覆層の組成および厚さ、ならびに焼成条件等によって変化するため、特に制限されない。焼結体の強度は、インストロン社製の電気機械式万能試験機を用いて、長さ25mm、幅2mm、厚さ1.5mmの試験片の4点曲げ試験により測定することができる。なお、測定方法の詳細は実施例に記載する。
【0089】
焼結体の均一性は、焼結体のみからなる成形体の密度により判断することができる。焼結体の密度の下限は、2.80g/cm以上であることが好ましく、2.85g/cm以上であることがより好ましく、2.90g/cm以上であることがさらに好ましい。上記範囲であると、焼結体の均一性が向上し、焼結体、およびこれを含む成形体の機械的強度がより向上する。また、焼結体の密度の上限は、3.90g/cm以下であることが好ましく、3.60g/cm以下であることがより好ましく、3.40g/cm以下であることがさらに好ましい。上記範囲であると、焼結がより進行し、曲げ強度がより向上する。焼結体の密度は、株式会社エー・アンド・ディ製の分析用電子天秤HR-250AZおよび比重測定キットAD-1654を用いて、アルキメデス密度測定法により測定することができる。
【0090】
<成形体>
本発明の他の一形態は、上記の焼結体を含む、成形体に関する。当該成形体は、原料となる被覆SiC粒子粉体が高い分散性を有することから、高い均一性を有し、高密度かつ高強度である。
【0091】
本発明の一形態に係る成形体の製造方法としては、特に制限されないが、前述のように、上記の被覆SiC粒子粉体単独の焼成、またはこれを含む上記のグリーンシートや上記のプリプレグ材等の組成物や複合体等の焼成を行う方法等が挙げられる。そして、当該成形体の製造方法の好ましい一例としては、上記の被覆SiC粒子粉体の製造方法によって、SiC粒子と、前記SiC粒子を被覆する被覆層と、を含み、被覆層は、アルミニウム元素を含む、被覆SiC粒子粉体を製造する製造段階と、前記被覆SiC粒子粉体、またはこれを含む上記のグリーンシートや上記のプリプレグ材等の被覆SiC粒子粉体を含む組成物や複合体等の焼成を行う焼成段階と、を含み、前記製造段階において、前記SiC粒子の単位表面積当たりの前記アルミニウム元素の質量を0.5mg/m以上とする方法が挙げられる。なお、当該方法において、SiC粒子の単位表面積当たりの前記アルミニウム元素の質量を0.5mg/m以上とするための制御手段は、上記の被覆SiC粒子粉体の製造方法にて述べたものと同様である。例えば、被覆SiC粒子粉体単独の焼成を行うことで成形体を製造する場合、上記の好ましい範囲の曲げ強度および上記の好ましい範囲の密度の少なくとも一方を満たす成形体を製造することが好ましい。
【実施例
【0092】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0093】
<実施例1>
(粉体1の製造)
SiC粒子(GC#40000、平均二次粒子径0.36μm、株式会社フジミインコーポレーテッド製、粉体)の20質量%水分散液を準備した後、1M NaOH水溶液をpH10.0となるよう前記SiC粒子の水分散液に添加して、原料分散体(1)を得た。次いで、アルミン酸ナトリウムの30質量%水分散液(原料溶液(2))を準備した。続いて、SiC粒子100質量部に対してアルミン酸ナトリウムが8.9質量部(固形分換算)となる量の前記アルミン酸ナトリウムの水分散液(原料溶液(2))と、9.9質量%硝酸水溶液とを、pHが9.0以上11.0以下の範囲を保持するように、撹拌しながら45分間かけて、原料分散体(1)に添加して分散体(3-1)を得た。そして、得られた分散液(3-1)をさらに45分間撹拌した。その後、攪拌後の分散体(3-1)に対して、pH10.5となるよう9.9質量%硝酸水溶液を撹拌しながら10分間かけて添加して分散体(3-2)を得た。そして、得られた分散液(3-2)に対して、pH3.0となるように9.9質量%硝酸水溶液をさらに5分間かけて添加して、粉体1を含む分散液を得ることで、粉体1を調製した。ここで、原料分散体(1)に原料溶液(2)と、酸とを添加してから、pHを9.0以上11.0以下の範囲に維持する維持時間は、100分超105分未満であった。
【0094】
<実施例2>
(粉体2の製造)
上記粉体1の製造において、アルミン酸ナトリウムの水分散液の添加量を、SiC粒子1 100質量部に対してアルミン酸ナトリウム 14.5質量部(固形分換算)となるように変更したこと以外は同様にして、粉体2を調製した。
【0095】
<実施例3>
(粉体3の製造)
上記粉体1の製造において、アルミン酸ナトリウムの水分散液の添加量を、SiC粒子1 100質量部に対してアルミン酸ナトリウム 19.0質量部(固形分換算)となるように変更したこと以外は同様にして、粉体3を調製した。
【0096】
<実施例4>
(粉体4の製造)
上記粉体1の製造において、アルミン酸ナトリウムの水分散液の添加量を、SiC粒子1 100質量部に対してアルミン酸ナトリウム 23.0質量部(固形分換算)となるように変更したこと以外は同様にして、粉体4を調製した。
【0097】
<実施例5>
(粉体5の製造)
上記粉体1の製造において、アルミン酸ナトリウムの水分散液の添加量を、SiC粒子1 100質量部に対してアルミン酸ナトリウム 42.0質量部(固形分換算)となるように変更したこと以外は同様にして、粉体5を調製した。
【0098】
<比較例1>
(粉体6の製造)
上記粉体1の製造において、アルミン酸ナトリウムの水分散液の添加量を、SiC粒子1 100質量部に対してアルミン酸ナトリウム 3.5質量部(固形分換算)となるように変更したこと以外は同様にして、粉体6を調製した。
【0099】
<比較例2>
(粉体7の製造)
上記粉体1の製造において、アルミン酸ナトリウムの水分散液の添加量を、SiC粒子1 100質量部に対してアルミン酸ナトリウム 5.9質量部(固形分換算)となるように変更したこと以外は同様にして、粉体7を調製した。
【0100】
<焼結体の製造>
上記得られた粉体1~7を含む各分散液300gをろ紙(5A)を用いて吸引ろ過した後、純水50gを加えて吸引ろ過を再度行う洗浄工程を3回行い、ろ紙上の粉体の湿潤物を回収し乾固することで、各乾燥粉体を得た。次いで、カーボン製の幅40mm×奥行40mm×高さ30mmの直方体状の型に得られた各乾燥粉体を充填し、真空ホットプレス機(富士電波工業株式会社製)にて一軸加圧しながら焼成することで、各焼結体からなる成形体を製造した。ここで、焼成条件は、焼成キープ温度が1400℃以上、圧力が5MPa以上、焼成キープ時間が60分以上、アルゴン雰囲気下の条件であった。焼成中は、装置付随の熱電対式温度計を用いて、2秒間隔で温度測定を行った。
【0101】
<評価>
(平均一次粒子径の測定)
粉体1~7の製造に用いた原料SiC粒子について、SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、SU8000)撮影を行い、画像解析式粒度分布ソフトウェア(株式会社マウンテック製、MacView)を用いて、粒子100個の体積平均粒子径より平均一次粒子径を測定した。SiC粒子の平均一次粒子径は0.30μmであった。
【0102】
(比表面積の測定)
粉体1~7の製造に用いた原料SiC粒子について比表面積測定計(Micromeritics社製、FlowSorb II)を用いて比表面積を測定した。SiC粒子の比表面積は32.3m/gであった。
【0103】
(粉体の組成および構造分析)
上記得られた粉体1~7を含む各分散体を約2mL採取し、フィルタ(ニュークリポア 5μm)(WHATMAN製)上に滴下した。続いて、吸引濾過を行い、その後、純水10mL用いてフィルタ上で粉体を洗浄し、乾燥させることで、各乾燥粉体を得た。そして、各乾燥粉体をSiウエーハ上に採取して、株式会社日立ハイテクノロジーズ製走査型電子顕微鏡SU-8000を用いて、SEM(Scanning Electron Microscope)-EDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)観察を行った。
【0104】
また、各乾燥粉体をカーボンテープ上に採取して、FEI社製TITAN80-300を用いて、EELS(Electron Energy Loss Spectroscopy)分析を行った。
【0105】
ここで、各乾燥粉体のSEM-EDX観察において、観察対象の元素としてC、Al、Oを選択して、AlのEDXスペクトルが観察され、かつ、C、AlおよびOのEDXスペクトルが観察される位置と、SEM観察像における粒子が観察される位置とが明確に対応することが確認された。各粉体は、SiC粒子がAlおよびOを含む成分によって被覆されている構造を有すると判断した。
【0106】
また、各乾燥粉体のEELS分析において、観察されたEELSスペクトルが、水酸化アルミニウム(Al(OH))のEELS標準スペクトルに特有のスペクトル形状(Alや他のAlおよびOを含む化合物のスペクトルとは異なる形状)を有することが確認されたことから、各粉体の被覆層において、AlおよびOを含む成分は、Al(OH)の状態として存在するものを含むと判断した。
【0107】
以上より、粉体1~7は、SiC粒子と、SiC粒子を被覆するアルミニウム元素を含む被覆層と、を含む、被覆SiC粒子粉体であると判断した。
【0108】
(粉体のSiC粒子の単位表面積あたりのアルミニウム(Al)元素の質量)
上記焼結体の製造と同様の手順にて、実施例および比較例に係る各粉体を含む分散液より各乾燥粉体を得た。この乾燥粉体10gに対し、四ホウ酸リチウム1gを加え、加圧成型することでバルク体を形成し、蛍光X線分析装置 XRF-1700(株式会社島津製作所製)にてAl元素とSi元素との重量比α(α=Al/Si)を測定した。前記αとSiC原料(SiC粒子)の比表面積より、下記式を用いて、SiC粒子の単位表面積あたりのアルミニウム元素の質量γ(g)を算出した。なお、下記式において、SiC原料の比表面積とは、粉体の製造において原料として用いた、SiC粒子の比表面積を表す。
【0109】
【化1】
【0110】
(焼結体の密度)
上記得られた各焼結体について、アルキメデス密度測定法を用いて密度(g/cm)測定を行った。測定機は、分析用電子天秤 HR-250AZ(株式会社エー・アンド・ディ製)および比重測定キット AD-1654(株式会社エー・アンド・ディ製)を用いた。
【0111】
(焼結体の曲げ強度)
上記得られた各焼結体について、電気機械式万能試験機(インストロン社製)を用いて、4点曲げ試験により曲げ強度(MPa)を測定した。試験片形状は長さ25mm、幅2mm、厚さ1.5mmとし、サポートスパンは20mm、ローディングスパンは10mm、クロスヘッドスピードは0.1mm/minの条件にて実施した。
【0112】
(焼結体の色味の均一性)
上記得られた各焼結体について、目視にて色味を確認し、以下の基準に従って評価を行った。なお、色味は均一であることがより望ましいが、外周部にのみ変色が確認された場合であっても実用上許容され得る範囲とする:
A:全体で色味は均一であった;
B:外周部にのみ変色が確認された。
【0113】
下記表1に、粉体のSiC粒子の単位表面積あたりのアルミニウム元素の質量(SiC単位表面積あたりのAl元素の質量)、ならびに焼結体の密度、曲げ強度および色味の評価結果を示す。
【0114】
【表1】
【0115】
上記表1の結果から、SiC粒子の単位表面積当たりのアルミニウム元素の質量が0.5mg/m以上である、実施例1~5に係る被覆SiC粒子粉体を用いて製造された焼結体からなる成形体は、密度および曲げ強度が高く、均一で機械的強度に優れることが確認された。一方、SiC粒子の単位表面積当たりのアルミニウム元素の質量が0.5mg/m未満である、比較例1および2に係る被覆SiC粒子粉体を用いて製造された焼結体からなる成形体は、密度が低く、曲げ強度に劣ることが確認された。
【0116】
また、SiC粒子の単位表面積当たりのアルミニウム元素の質量が1.35mg/m以上である、実施例4および5に係る成形体は、色味の均一性により優れることが確認された。一方、比較例1および2に係る成形体は、色味は均一ではあるものの、実施例1~5に係る成形体とは色味が異なっていた。これは、焼結が不十分であることが原因であると考えられる。
【0117】
<グリーンシートの製造>
上記得られた粉体1~7を含む各分散液に対し、可塑剤であるグリセリン(和光純薬工業株式会社製)を混合し、真空下で15分混練して分散体を得た(ハイビスミックス2P-03型、プライミクス株式会社製使用)。その後、得られた分散体に対して、20質量%PVB(ポリビニルブチラール、製品名KW-1、積水マテリアルソリューションズ株式会社製)水溶液を投入し、真空下で30分混練して、グリーンシート形成用塗工液(グリーンシート形成用分散体)1~7を得た。最終的に得られたグリーンシート形成用塗工液の混合質量比は、被覆SiC粒子粉体:樹脂:可塑剤が3:3:1である。これらのグリーンシート形成用塗工液1~7を、1000μmギャップのアプリケーターを用いて、湿潤膜厚1000μmとして、PETフィルム(厚さ:100μm)上に塗布してシート成形を行うことで、グリーンシート1~7を得た。
【0118】
<プリプレグ材の製造>
上記得られたグリーンシート1~7を、それぞれSiC繊維織布と積層することでプリプレグ材1~7を得た。
【0119】
<グリーンシート、プリプレグ材の焼成および成形体の評価>
上記得られた各グリーンシートおよび各プリプレグ材を、それぞれ真空ホットプレス機(富士電波工業株式会社製)にて一軸加圧しながら焼成することで、これらに含まれる各被覆SiC粒子粉体を焼成し、各被覆SiC粒子粉体の各焼結体を含む成形体を製造した。ここで、焼成条件は、焼成キープ温度が1400℃以上、圧力が5MPa以上、焼成キープ時間が60分以上、アルゴン雰囲気下の条件であった。焼成中は、装置付随の熱電対式温度計を用いて、2秒間隔で温度測定を行った。
【0120】
なお、得られた各成形体について、上記と同様に曲げ強度を測定したところ、その強度の順(序列)は、これに含まれる各粉体の焼結体である成形体の曲げ強度の順(序列)と同様であった。
【0121】
本出願は、2018年9月28日に出願された日本特許出願番号2018-183284号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として組み入れられている。