(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20240408BHJP
A23L 9/20 20160101ALI20240408BHJP
A23L 23/10 20160101ALI20240408BHJP
【FI】
A23D9/00
A23L9/20
A23D9/00 504
A23D9/00 518
A23L23/10
(21)【出願番号】P 2019234282
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲羽▼染 芳宗
(72)【発明者】
【氏名】塩田 野依
(72)【発明者】
【氏名】將野 喜之
(72)【発明者】
【氏名】村山 典子
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-187347(JP,A)
【文献】国際公開第2018/174201(WO,A1)
【文献】特表2009-537640(JP,A)
【文献】特開2005-350660(JP,A)
【文献】国際公開第2012/140937(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第01889546(EP,A1)
【文献】国際公開第2010/064592(WO,A1)
【文献】特開2018-143191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00 - 9/06
A23L 2/00 - 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末油脂組成物を含有する油脂組成物であって、
前記粉末油脂組成物が、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含み、
前記油脂組成物は前記油脂粉末を融解しない状態で含み、かつ、
前記油脂組成物はパームステアリンを含有
し、
前記油脂組成物に含まれる油脂に占めるトリパルミチン(PPP)の含有量が、8~23質量%である、
前記油脂組成物。
【請求項2】
前記油脂組成物に含まれる油脂に占める前記油脂粉末の割合が、0.5~30質量%である、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
前記油脂組成物に含まれる油脂に占めるパームステアリンの含有量が、10~70質量%である、請求項1または2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
前記油脂組成物に含まれる油脂が、パームステアリンを除くパーム系油脂をさらに含有する、請求項1~3の何れか1項に記載の油脂組成物。
【請求項5】
前記油脂組成物に含まれる油脂に占めるラウリン系油脂の含有量が、0~15質量%である、請求項1~4の何れか1項に記載の油脂組成物。
【請求項6】
前記油脂粉末が50μm以下の平均粒径を有する、請求項1~5の何れか1項に記載の油脂組成物。
【請求項7】
前記油脂粉末の粒子が2.5以上のアスペクト比(2)を有する板状形状である、請求項1~6の何れか1項に記載の油脂組成物。
【請求項8】
前記油脂粉末が、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含み、前記炭素数xは14~22から選択される整数である、請求項1~7の何れか1項に記載の油脂組成物。
【請求項9】
前記粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cm3である、請求項1~8の何れか1項に記載の油脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9の何れか1項に記載の油脂組成物を含む食品。
【請求項11】
融液状態にあるベース油脂組成物に、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物を分散した後に冷却する工程を含む、請求項1~9の何れか1項に記載の油脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パームステアリンを含む油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パームステアリンは、パーム油からパームオレイン(液体部)を分別する際に得られる固体部である。近年、パームステアリンは、トランス脂肪酸を含む水素添加油脂の代替として注目されている。しかし、パームステアリンは、粗大結晶を生成しやすい。そのため、パームステアリンは、マーガリン、ショートニング、または、固形ルウなどに使用されると、油脂結晶の粗大化によるグレインや白色化(ブルーム)を起こしやすい。
【0003】
パームステアリンの粗大結晶化を抑制するために、乳化剤の添加による改質が行われ得る。例えば、特開2007-124948号公報は、エステル化率が20%以上50%未満のソルビタン飽和脂肪酸エステルを添加する、粒状結晶生成抑制方法を開示する。しかし、合成乳化剤の使用は、好まれないことがある。
【0004】
また、特開2005-320445号公報は、パームステアリン1重量部に対し、ラードを1.0~3.0重量部の比率で含有する、白色化(ファットブルーム)が防止された可塑性油脂組成物を開示する。しかし、動物脂の使用は、好まれないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-124948号公報
【文献】特開2005-320445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、パームステアリンを含有しても、油脂結晶の粗大化が抑制された油脂組成物の開発が求められていた。
【0007】
本発明の目的は、パームステアリンを含有しても、油脂結晶の粗大化が抑制された油脂組成物、および、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を行った。その結果、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含むことにより、パームステアリンを含む油脂組成物は、油脂結晶の粗大化が抑制され得ることを見出した。これにより、本発明は完成された。すなわち、本発明は、以下の態様を含み得る。
【0009】
[1]粉末油脂組成物を含有する油脂組成物であって、前記粉末油脂組成物が、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含み、前記油脂組成物はパームステアリンを含有する、前記油脂組成物。
[2]前記油脂組成物に含まれる油脂に占める前記油脂粉末の割合が、0.5~30質量%である、[1]の油脂組成物。
[3]前記油脂組成物に含まれる油脂に占めるパームステアリンの含有量が、10~70質量%である、[1]または[2]の油脂組成物。
[4]前記油脂組成物に含まれる油脂が、パームステアリンを除くパーム系油脂をさらに含有する、[1]~[3]の何れか1つの油脂組成物。
[5]前記油脂組成物に含まれる油脂に占めるトリパルミチン(PPP)の含有量が、3~30質量%である、[1]~[4]の何れか1つの油脂組成物。
[6]前記油脂粉末が50μm以下の平均粒径を有する、[1]~[5]の何れか1つの油脂組成物。
[7]前記油脂粉末の粒子が2.5以上のアスペクト比(2)を有する板状形状である、[1]~[6]の何れか1つの油脂組成物。
[8]前記油脂粉末が、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含み、前記炭素数xは14~22から選択される整数である、[1]~[7]の何れか1つの油脂組成物。
[9]前記粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cm3である、[1]~[8]の何れか1つの油脂組成物。
[10][1]~[9]の何れか1つの油脂組成物を含む食品。
[11]融液状態にあるベース油脂組成物に、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物を分散した後に冷却する工程を含む、[1]~[9]の何れか1つの油脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パームステアリン含有する、油脂結晶の粗大化が抑制された油脂組成物が提供される。また、当該油脂組成物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】芯物質表面に油脂粉末を付着させたときの顕微鏡写真を模式的に示した図である。図中の、Aは芯物質であり、Bは油脂粉末である。線分abの長さ(芯物質表面に付着した粒子の付着面からの垂直方向の長さ)が、この油脂粉末の厚さの値である。
【
図2】粉末油脂組成物Aをガラスビーズ表面上に付着させたときの顕微鏡写真(1500倍)であり、粒子の厚さとして測定した部分を、直線で示している(2か所)。
【
図3】例6の可塑性油脂組成物を引き延ばした組織の状態である。油脂結晶の粒が観察され、ザラザラしている。
【
図4】例7の可塑性油脂組成物を引き延ばした組織の状態である。油脂結晶の粒は観察されず、滑らかである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の油脂組成物について順を追って記述する。
【0013】
<粉末油脂組成物>
本発明の油脂組成物は、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物を含む。当該粉末油脂組成物は、常温(20℃)で粉末状の固体である。また、当該50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末の原料となる油脂は、食用油脂である限り特に制限はない。例えば、50℃以上の融点を有する、パームステアリン、極度硬化菜種油、極度硬化高エルシン酸菜種油、極度硬化ひまわり油、極度硬化紅花油、極度硬化パーム油などが挙げられる。これらの50℃以上の融点を有する油脂は、1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記油脂粉末の原料となる油脂の融点は、好ましくは55℃以上であり、より好ましくは58℃以上であり、さらに好ましくは61℃以上である。油脂粉末の原料となる油脂の融点が上記範囲内にあると、油脂組成物を構成するパームステアリンを含む油脂が融液状態から固化する際のシード(結晶核)として機能しやすい。なお、油脂粉末(の原料となる油脂)の融点は、基準油脂分析試験法(日本油化学会編-1996)2.2.4.2融点(上昇融点)に準じて測定できる。
【0014】
上記粉末油脂組成物に含まれる油脂粉末は、2鎖長β型結晶を含有する。ここで、油脂結晶が2鎖長とは、油脂結晶の長面間隔をX線回折測定することにより判定される。すなわち、油脂結晶の長面間隔を、2θが0~8度の範囲で測定する。このとき、40~50Åに相当する回折ピークを検出し、60~65Åに相当する回折ピークを検出しないか、検出してとしても40~50Åに相当する回折ピークの回折強度の1/5未満(好ましくは1/10未満)の場合に、その油脂結晶は2鎖長構造であると判定される。また、ここで、β型とは、油脂の結晶多形の一つである。油脂の結晶には、同一組成でありながら、異なる副格子構造(結晶構造)を持つものがあり、結晶多形と呼ばれている。代表的には、六方晶型、斜方晶垂直型および三斜晶平行型があり、それぞれα型、β’型およびβ型と呼ばれている。ここで、油脂結晶の結晶形がβ型であるとは、上記油脂結晶が、2θが17~26度のX線回折測定において、4.5~4.7Å、好ましくは4.6Å付近に回析ピークを有し、特に、4.1~4.3Å、好ましくは4.2Å付近に回折ピークを有さない場合である。より具体的には、X線回折測定において、β型の特徴的ピークである2θ=19°(4.6Å)付近のピーク強度とα型(およびβ’型)の特徴的ピークである2θ=21°(4.2Å)付近のピーク強度の比率:19°/(19°+21°)[4.6Å/(4.6Å+4.2Å)]を算出することでβ型結晶の存在量を表す指標とできる。本発明では、上記ピーク強度比が1であることが好ましい。しかし、ピーク強度比の下限値が、例えば0.4以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、さらに好ましくは0.7以上、ことさらに好ましくは0.75以上、最も好ましくは0.8以上であればよい。ピーク強度比が0.4以上であれば、油脂結晶の50質量%超がβ型であるとみなすことができる。ピーク強度比の上限値は1であることが好ましいが、0.99以下、0.98以下、0.95以下、0.93以下、0.90以下、0.85以下、0.80以下などであってもかまわない。ピーク強度比は、上記下限値および上限値のいずれか、もしくは、任意の組み合わせであり得る。油脂粉末の油脂結晶が2鎖長β型(ピーク強度比が上記範囲内)であると、油脂組成物を構成するパームステアリンを含む油脂が融液状態から固化する際のシード(結晶核)として機能しやすい。
【0015】
上記の油脂の結晶多形を同定するX線回折法を補足説明する。回折の条件は下記のブラッグの式によって与えられる。
2dsinθ=nλ(n=1,2,3・・・)
この式を満たす位置に回折ピークが現れる。ここでdは格子定数、θは回折(入射)角、λはX線の波長、nは自然数である。短面間隔に対応する回折ピークの2θ=16~27°からは、結晶中の側面のパッキング(副格子)に関する情報が得られ、多形の同定を行なうことができる。特にトリアシルグリセロールの場合、2θ=19、23、24°(4.6Å付近、3.9Å付近、3.8Å付近)にβ型の特徴的ピークが、21°(4.2Å)付近にα型の特徴的なピークが出現する。なお、X線回折測定は、例えば、20℃に維持したX線回折装置(例えば、(株)リガク、試料水平型X線回折装置UItimaIV)を用いて測定される。X線の光源としてはCuKα線(1.54Å)が最もよく利用される。X線回折の測定により得られる回折ピークの強度解析においては、油脂の非晶質部分がベースラインに及ぼす影響を除くための補正を行うのが適切である。例えば、Sonneveld-Visser法などによる、バックグラウンド除去処理を行ってもよい。
【0016】
上記粉末油脂組成物に含まれる油脂粉末は、好ましくは50μm以下の平均粒径を有する。当該油脂粉末の平均粒径は、より好ましくは0.5~30μmであり、さらに好ましくは1μm以上20μm未満であり、ことさらに好ましくは2~16μmであり、最も好ましくは4~13μmである。なお、平均粒径(有効径)は、粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製 Microtrac MT3300ExII)でレーザー回折散乱法(ISO133201、ISO9276-1)によって測定した値(d50)である。有効径とは、測定対象となる油脂粉末の実測回折パターンが、球形と仮定して得られる理論的回折パターンに適合する場合の、当該球形の粒径を意味する。このように、レーザー回折散乱法の場合、球形と仮定して得られる理論的回折パターンと、実測回折パターンを適合させて有効径を算出しているので、測定対象が板状形状であっても球状形状であっても同じ原理で測定できる。粉末油脂組成物に含まれる油脂粉末の平均粒径(平均粒子径)が上記範囲内にあると、油脂組成物を構成するパームステアリンを含む油脂が融液状態から固化する際のシード(結晶核)として機能しやすい。また、パームステアリンを含む油脂組成物の組織が滑らかになりやすい。
【0017】
上記粉末油脂組成物は、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末の他に、乳化剤、香料、脱脂粉乳、全脂粉乳、ココアパウダー、砂糖、デキストリン、カゼインナトリウムなどのその他の成分を含んでいてもよい。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができる。例えば、粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合、その他の成分は、好ましくは0~70質量%であり、より好ましくは0~50質量%であり、さらに好ましくは0~30質量%である。その他の成分は、その90質量%以上が、好ましくは平均粒径1000μm以下の紛体であり、より好ましくは平均粒径500μm以下の紛体である。
【0018】
上記粉末油脂組成物の好ましい態様の1つとしては、実質的に上記50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末からなる粉末油脂組成物が挙げられる。また、「実質的に」とは、粉末油脂組成物に含まれる油脂粉末以外の成分の含有量が、粉末油脂組成物を100質量%とした場合、例えば、0~15質量%であり、好ましくは0~10質量%であり、より好ましくは0~5質量%であることを意味する。
【0019】
上記粉末油脂組成物の好ましい態様の1つとしては、また、上記50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末の粒子が、板状の形状を呈する(板状形状である)。ここで、板状形状は、アスペクト比が、好ましくは1.2以上である。アスペクト比は、より好ましくは1.2~3.0であり、さらに好ましくは、1.3~2.5であり、ことさらに好ましくは1.4~2.0である。なお、ここでいうアスペクト比とは、粒子図形に対して、面積が最小となるように外接する長方形で囲み、その長方形の長辺の長さと短辺の長さの比と定義される。よって、粒子が球状形状の場合は、アスペクト比は1.1より小さくなる。従来技術である、極度硬化油等の常温で固体脂含量の高い油脂を溶解して直接噴霧する方法では、油脂粉末の粒子が表面張力によって、球状形状となり、アスペクト比はおおよそ1.1未満となる。そして、前記アスペクト比は、例えば、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡などによる直接観察により、任意に選択した粒子について、その長軸方向の長さおよび短軸方向の長さを計測することによって、計測した個数の平均値として求めることができる。
【0020】
また、上記50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末の粒子形状は、その粒子のアスペクト比(2)を用いて表現することも可能である。本発明におけるアスペクト比(2)とは、粒子の長径を厚さで除した値〔=長径/厚さ〕のことである。粒子が、完全な球形の場合には、アスペクト比(2)の値は1〔=1/1〕であり、粒子の扁平度合いが増す(厚さが薄くなる)ほど、アスペクト比(2)の値は大きくなる。
粒子のアスペクト比(2)は、例えば、以下の(a)及び(b)の方法で測定することができる。
(a)粒子の電子顕微鏡写真から、1個1個の粒子について長径、及び厚さを測定できる場合
電子顕微鏡写真に写った1個1個の粒子について、長径及び厚さ(縦及び横)を測定し、それぞれの粒子について、アスペクト比(2)を求め、その平均値を粒子のアスペクト比(2)とする。例えば、粒子が球形のような場合に、この測定方法を用いることができる。
(b)粒子の電子顕微鏡写真から、1つ1つの粒子について長径、又は厚さを測定できない場合
例えば、粒子が扁平な形や板状形状の場合、電子顕微鏡写真に写った1個1個の粒子について、長径を測定することはできるが、厚さは写真では見えないことが多く、写真から直接測定することが難しい。このような場合、粒子をガラスビーズのような芯物質の表面に付着させて電子顕微鏡写真を撮り、芯物質表面に付着した粒子の付着面からの垂直方向の長さを、粒子の厚さとして測定し、この値を厚さとして用いる。
これを
図1の模式図で説明すると、
図1のAは芯物質、Bはアスペクト比(2)を測定する粒子で、線分abの長さ(芯物質表面に付着した粒子の付着面からの垂直方向の長さ)が、この粒子の厚さの値である。また、長径の値は、上述のレーザー回折散乱法に基づいて測定した平均粒径(d50)を用いる。このようにして測定した粒子の長径と厚さの値から、アスペクト比(2)〔=長径/厚さ〕を求めることができる。
【0021】
本発明の油脂粉末の粒子のアスペクト比(2)は、好ましくは2.5以上であり、より好ましくは2.5~100であり、さらに好ましくは3~50であり、ことさらに好ましくは3~20であり、最も好ましくは3~15である。上記50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末のアスペクト比および/またはアスペクト比(2)が上記範囲内にあると、油脂組成物を構成するパームステアリンを含む油脂が融液状態から固化する際のシード(結晶核)として機能しやすい。また、パームステアリンを含む油脂組成物の組織が滑らかになりやすい。
【0022】
上記粉末油脂組成物の好ましい態様の1つとしては、また、ゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cm3である、粉末油脂組成物が挙げられる。粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度は、例えば実質的に油脂粉末のみからなる場合、好ましくは0.1~0.5g/cm3であり、より好ましくは0.1~0.4g/cm3または0.15~0.4g/cm3であり、さらに好ましくは0.2~0.3g/cm3である。ここで「ゆるめ嵩密度」とは、粉体を自然落下させた状態の充填密度である。ゆるめ嵩密度(g/cm3)の測定は、例えば、内径15mm×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端から2cm程度上方から粉末油脂組成物の適量を落下させて疎充填し、充填された質量(g)の測定と容量(mL)の読み取りを行い、mL当たりの当該粉末油脂組成物の質量(g)を算出することで求められる。また、ゆるめ嵩密度は、(株)蔵持科学器械製作所のカサ比重測定器を使用し、JIS K-6720(又はISO 1060-1及び2)に基づいて測定したカサ比重から算出することもできる。具体的には、試料120mLを、受器(内径40mm×高さ85mmの100mL円柱形容器)の上部開口部から38mmの高さの位置から、該受器に落とす。受器から盛り上がった試料はすり落とし、受器の内容積(100mL)分の試料の質量(Ag)を秤量し、以下の式からゆるめ嵩密度を求めることができる。
ゆるめ嵩密度(g/mL)=A(g)/100(mL)
測定は3回行ってその平均値を取ることが好ましい。
【0023】
また、ゆるめ嵩密度は、次の方法でも測定することができる。
ゆるめ嵩密度(g/cm3)は、ホソカワミクロン(株)のパウダテスタ(model PT-X)で測定することができる。
具体的には、パウダテスタに試料を仕込み、試料を仕込んだ上部シュートを振動させ、試料を自然落下により下部の測定用カップに落とす。測定用カップから盛り上がった試料はすり落とし、受器の内容積(100cm3)分の試料の質量(Ag)を秤量し、以下の式からゆるめ嵩密度を求める。
ゆるめ嵩密度(g/cm3)=A(g)/100(cm3)
また、内径15mm×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端から2cm程度上方から粉末油脂組成物の適量を落下させて疎充填し、充填された質量(g)の測定と容量(mL)の読み取りを行い、1mL当たりの当該粉末油脂組成物の質量(g)を算出することでも求めることができる。
【0024】
<粉末油脂組成物の製造方法>
本発明の油脂組成物に含まれる粉末油脂組成物の製造方法において、50℃以上の融点を有する油脂を、2鎖長β型結晶を有する粉末状の油脂結晶(油脂粉末あるいは油脂結晶粉末ともいう)とする方法は特に限定されず、凍結粉砕、押出造粒、噴霧冷却造粒など、従来公知の方法を適用してもよい。しかし、50℃以上の融点を有する油脂を、粉末状の油脂結晶とする好ましい態様の1つとしては、50℃以上の融点を有する油脂として、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含み、前記炭素数xは14~22から選択される整数である、油脂を使用する態様が挙げられる。
【0025】
上記50℃以上の融点を有する油脂に含まれるXXX型トリグリセリドは、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するトリグリセリドであり、各脂肪酸残基Xは互いに同一である。ここで、当該炭素数xは14~22から選択される整数であり、好ましくは16~22から選択される整数、より好ましくは16~20から選択される整数、さらに好ましくは16~18から選択される整数である。脂肪酸残基Xは、飽和あるいは不飽和の脂肪酸残基であってもよい。具体的な脂肪酸残基Xとしては、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、およびベヘン酸などの残基が挙げられる。しかし、これに限定するものではない。脂肪酸残基Xは、より好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸およびベヘン酸であり、さらに好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸、およびアラキジン酸であり、ことさら好ましくは、パルミチン酸およびステアリン酸である。50℃以上の融点を有する油脂に含まれる当該XXX型トリグリセリドの含有量は、油脂の全質量を100質量%とした場合、例えば、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上を下限とし、例えば、100質量%以下、好ましくは99質量%以下、より好ましくは95質量%以下を上限とする範囲である。XXX型トリグリセリドは1種類または2種類以上を用いることができ、好ましくは1種類または2種類であり、より好ましくは1種類が用いられる。XXX型トリグリセリドが2種類以上の場合は、その合計値がXXX型トリグリセリドの含有量となる。
【0026】
上記50℃以上の融点を有する油脂は、上記XXX型トリグリセリド以外の、その他のトリグリセリドを含んでいてもよい。その他のトリグリセリドは、複数の種類のトリグリセリドであってもよく、合成油脂であっても天然油脂であってもよい。天然油脂としては、例えば、パーム油、ココアバター、ヒマワリ油、菜種油、大豆油、綿実油などが挙げられる。上記50℃以上の融点を有する油脂を100質量%とした場合、上記XXX型トリグリセリド以外のその他のトリグリセリドは、1質量%以上、例えば、5~50質量%程度含まれていても問題はない。その他のトリグリセリドの含有量は、例えば、好ましくは0~30質量%、より好ましくは0~18質量%、さらに好ましくは0~15質量%、ことさらに好ましくは0~8質量%である。
【0027】
上記50℃以上の融点を有し、かつ、XXX型トリグリセリドを有する油脂は、溶融状態とし、特定の冷却温度に保ち、冷却固化することにより、噴霧やミル等の粉砕機による機械粉砕などの特別の加工手段を採らなくても、粉末状の油脂結晶(油脂粉末)を得ることができる。より具体的には、(a)上記50℃以上の融点を有し、かつ、XXX型トリグリセリドを有する油脂を準備し、任意に工程(b)として、工程(a)で得られた油脂を加熱し、前記油脂に含まれるトリグリセリドを融解して溶融状態の前記油脂を得、さらに(d)前記溶融状態の油脂を冷却固化して、2鎖長β型結晶を含有し、その粒子形状が好ましくは板状である粉末状の油脂結晶(油脂粉末)を得る。
【0028】
上記工程(d)の冷却は、例えば、溶融状態の油脂を、当該油脂の融点より低い温度であって、かつ、次式:
冷却温度(℃) = 炭素数x × 6.6 - 68
から求められる冷却温度以上の温度で行われる。このような温度範囲で冷却すれば、β型の細かい油脂結晶ができるので、油脂結晶粉末を容易に得ることができる。
【0029】
また、上記工程(b)と(d)の間に、工程(c)として粉末生成を促進するための任意工程、例えば(c1)シーディング工程、(c2)テンパリング工程、および/または(c3)予備冷却工程を含んでいてもよい。さらに上記工程(d)で得られる油脂結晶粉末は、工程(d)の冷却後に得られる固形物を粉砕して粉末状の油脂結晶を得る工程(e)によって得られるものであってもよい。
【0030】
上記工程(e)において、冷却後に得られる固形物は、ハンマーミル、カッターミルなど、公知の粉砕加工手段を適用して、50μm以下の平均粒径を有する粉末状の油脂結晶(油脂結晶粉末あるいは油脂粉末)を生産することもできる。なお、上記工程において、50℃以上の融点を有し、かつ、XXX型トリグリセリドを有する油脂は、すでに述べた油脂以外の成分を0~15質量%含む油脂組成物の状態で工程(a)~(e)に供されてもよいし、油脂結晶粉末とした後、すでに述べた油脂以外のその他の成分と混合され、粉末油脂組成物としてもよい。
【0031】
上記のようにして得られた、本発明の油脂組成物に好適に使用できる、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末であって、かつ、XXX型トリグリセリドを有する油脂粉末は、好ましくは、平均粒径が50μm以下であり、アスペクト比が1.2以上あるいはアスペクト比(2)が2.5以上の板状形状であり、ゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cm3である。なお、当該油脂粉末を含有する粉末油脂組成物については、本出願人が先に出願したPCT/JP2016/078122(特願2015-187271)の明細書に詳述されるので、詳細は割愛する。前記出願の内容は、本明細書の中に取り込まれる。
【0032】
<油脂組成物>
本発明の油脂組成物は、上記の、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物を含有する。本発明の油脂組成物に含まれる油脂に占める、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末の含有量は、好ましくは0.5~30質量%であり、より好ましくは1~20質量%であり、さらに好ましくは1.5~13質量%であり、ことさらに好ましくは2~8質量%である。本発明の油脂組成物に含まれる、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末の含有量が上記範囲内にあると、油脂組成物を構成するパームステアリンを含む油脂が融液状態から固化する際のシード(結晶核)として機能しやすい。
【0033】
本発明の油脂組成物は、水の含有量が3質量%以下である実質的に無水物であってもよいし、乳化物であってもよい。乳化物は、油中水型乳化物、水中油型乳化物、あるいは複合乳化物であってもよい。しかし、本発明の油脂組成物は、好ましくは無水物である。本発明の油脂組成物の具体例としては、例えば、マーガリン、ショートニング、バタークリーム、固形ルウなどが挙げられる。
【0034】
本発明の油脂組成物に含まれる油脂の含有量は、粉末油脂組成物に含まれる油脂粉末を含め、具体的な油脂組成物の特質に応じて適宜設定されればよい。例えば、ショートニングの場合、油脂の含有量は、好ましくは80~100質量%であり、より好ましくは90~100質量%であり、さらに好ましくは95~100質量%である。マーガリン(油中水型乳化物)の場合、油脂の含有量は、好ましくは40~96質量%であり、より好ましくは60~92質量%であり、さらに好ましくは70~88質量%である。固形ルウの場合、油脂の含有量は、好ましくは20~42質量%であり、より好ましくは24~38質量%であり、さらに好ましくは28~34質量%である。
【0035】
本発明の油脂組成物に含まれる油脂は、粉末油脂組成物に含まれる油脂粉末以外に、パームステアリンを含有する。パームステアリンは、典型的には、パーム油を分別して得られる固体部である。しかし、パームステアリンは、パーム油を1回分別して得られたパームステアリンをさらに分別した固体部を含む。すなわち、パームステアリン(固体部)を得るための分別は複数回行われてもよい。言い換えれば、パームステアリンは、パーム油またはパーム分別油を分別して得られる固体部であり得る。また、分別方法は、乾式分別、湿式分別、溶剤分別など、何れが適用されてもよい。しかし、パームステアリンを得るための分別方法は、好ましくは乾式分別である。本発明の油脂組成物に、粉末油脂組成物に含まれる油脂粉末とは別に含まれるパームステアリンは、好ましくは20~48のヨウ素価を有し、より好ましくは26~42のヨウ素価を有し、さらに好ましくは30~38のヨウ素価を有する。また、パームステアリンは、好ましくは10~60質量%のPPPを含有し、より好ましくは15~50質量%のPPPを含有し、さらに好ましくは20~40質量%のPPP含有し、ことさらに好ましくは25~35質量%のPPPを含有する。ここで、PPPはトリパルミチンである。
【0036】
本発明の油脂組成物に含まれる油脂に占めるパームステアリンの含有量は、好ましくは10~70質量%であり、より好ましくは20~60質量%であり、さらに好ましくは25~55質量であり、ことさらに好ましくは30~50質量%である。また、本発明の油脂組成物に含まれる油脂に占めるPPPの含有量は、好ましくは3~30質量%であり、より好ましくは6~26質量%であり、さらに好ましくは8~23質量%である。本発明の油脂組成物は、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末と、パームステアリンと、を含有することにより、パームステアリンの結晶粗大化傾向が抑制されるので、パームステアリンが油脂組成物の保形性を維持する構造脂肪として機能しやすい。
【0037】
本発明の1態様によれば、本発明の油脂組成物に含まれる油脂は、好ましくは10~50質量%のH2Uを含有する。以下、H、UおよびH2Uは、次を意味する。Hは、炭素数16~24の飽和脂肪酸であり、好ましくは炭素数16~18の飽和脂肪酸である。Hは、好ましくは直鎖である。Uは、炭素数が16~24の不飽和脂肪酸であり、好ましくは炭素数16~18の不飽和脂肪酸である。Uは、好ましくは直鎖である。H2Uは、グリセロールに、2分子(2つ)のHおよび1分子(1つ)のUがエステル結合したトリアシルグリセロールである。H2Uを構成するHは、鎖長が異なる脂肪酸であってもよい。本発明の油脂組成物に含まれる油脂は、H2Uを、好ましくは13~47質量%、より好ましくは15~45質量%含有する。
【0038】
本発明の1態様によれば、本発明の油脂組成物に含まれる油脂は、好ましくはHU2およびU3を含有する。ここで、HU2およびU3は、次を意味する。HU2は、グリセロールに、1分子(1つ)のHおよび2分子(2つ)のUがエステル結合したトリアシルグリセロールである。U3は、グリセロールに、3分子(3つ)のUがエステル結合した、トリアシルグリセロールである。HU2およびU3を構成するUは、鎖長の異なる脂肪酸であってもよい。本発明の油脂組成物に含まれる油脂に占めるHU2およびU3の合計含有量(以下、HU2+U3とも表す)は、好ましくは20~70質量%であり、より好ましくは24~66質量%であり、さらに好ましくは26~64質量%である。
【0039】
なお、油脂に含まれる各トリアシルグリセロール(トリグリセリド)含有量は、ガスクロマトグラフィー法(例えば、AOCS Ce5-86準拠)により測定できる。トリアシルグリセロールの対称性は、例えば、J.High Resol.Chromatogr.,18,105-107(1995)に準じて測定できる。油脂を構成する各脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフィー法(例えば、AOCS Ce1f-96準拠)により測定できる。また、油脂のヨウ素価は、社団法人日本油化学会編、「基準油脂分析試験法」の「2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に準じて測定できる。
【0040】
本発明の油脂組成物に含まれる油脂の供給源としては、粉末油脂組成物に含まれる50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末およびパームステアリンを除き、通常の食用油脂および/または含油食品素材に含まれる油脂が使用できる。食用油脂の具体例としては、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、パーム油、シア脂、シア分別油、サル脂、サル分別油、イリッペ脂、ココアバター、ヤシ油、パーム核油、豚脂、牛脂、乳脂などや、これらの混合油脂、加工油脂(水素添加油、エステル交換油、分別油など)などが挙げられる。これらの食用油脂は、1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
本発明の1態様によれば、本発明の油脂組成物に含まれる油脂は、構成脂肪酸全体に占める炭素数20以上の飽和脂肪酸の含有量が、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは0~1質量%であり、さらに好ましくは0~0.5質量%であり、ことさらに好ましくは0~0.2質量%である。本発明の油脂組成物に含まれる油脂は、極度硬化ハイエルシン菜種油、極度硬化魚油などの、構成脂肪酸に炭素数20以上の飽和脂肪酸を豊富に含む油脂を含まなくても(油脂に含まれる量が、好ましくは0~2質量%、より好ましくは0~1質量%、さらに好ましくは0~0.5質量%、であっても)、パームステアリンを含むことによる油脂結晶の粗大化が抑制され得る。
【0042】
本発明の1態様によれば、本発明の油脂組成物に含まれる油脂は、パームステアリンを除くパーム系油脂を含有する。ここでパーム系油脂は、パーム油由来の油脂である。パーム系油脂としては、例えば、パーム油、パーム油の分別油およびそれらの加工油(硬化、エステル交換および分別のうち1種以上の処理がなされたもの)が挙げられる。より具体的には、1段分別油であるパームオレイン、パームオレインの2段分別油であるパームオレイン(パームスーパーオレイン)およびパームミッドフラクション、パームステアリンの2段分別液体部であるパームオレイン(ソフトパーム)、などが例示できる。パーム系油脂は、1種あるいは2種以上を使用してもよい。本発明の油脂組成物に含まれる油脂に占める、パームステアリンを除くパーム系油脂の含有量は、好ましくは5~65質量%であり、より好ましくは8~62質量%であり、さらに好ましくは10~60質量%である。また、本発明の油脂組成物に含まれる油脂に占めるパームステアリンを含むパーム系油脂の含有量は、好ましくは15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上であり、好ましくは100質量%以下、98質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下であり得る。パームステアリンを含むパーム系油脂の含有量の下限と上限は、任意に組み合わせ得る。しかし、本発明の油脂組成物に含まれる油脂に占めるパームステアリンを含むパーム系油脂の含有量は、好ましくは15~100質量%であり、より好ましくは30~95質量%であり、さらに好ましくは35~80質量%であり、ことさら好ましくは40~70質量%であり、最も好ましくは45~60質量%である。なお、エステル交換の原料油脂として、パーム系油脂が含まれる場合、原料油脂に占めるパーム系油脂含有量を、パーム系油脂の含有量として割り当てる。
【0043】
本発明の1態様によれば、本発明の油脂組成物に含まれる油脂は、H2Uの含有量が25質量%以上であるH2Uに富む油脂(以下、H2U油脂ともいう)を含んでもよい。H2U油脂のH2U含有量は、好ましくは35質量%以上であり、より好ましくは45質量%以上であり、さらに好ましくは55質量%以上である。H2U油脂に含まれるH2U含有量の上限は特に限定されない。しかし、H2U油脂に含まれるH2U含有量の上限は、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以下である。H2U油脂のH2U含有量の下限と上限は、上記の数値を任意に組合せてもよい。本発明の油脂組成物に含まれる油脂に占めるH2U油脂の含有量は、好ましくは5~65質量%であり、より好ましくは8~62質量%であり、さらに好ましくは10~60質量%である。
【0044】
上記H2U油脂として、より具体的には、ココアバター、シア脂、サル脂、イリッペ脂、コクム脂、アランブラッキア脂、モーラー脂、マンゴー核油、牛脂などの動植物油脂、あるいはこれらに混合、分別、エステル交換、水素添加などの1種以上の処理が適用されることにより得られる加工油脂が挙げられる。H2U油脂は、また、すでに知られているように、パルミチン酸、ステアリン酸、あるいは、それらの低級アルコールエステルと、ハイオレイックヒマワリ油などの高オレイン酸油脂との間で、1,3位選択性リパーゼ製剤を用いて、エステル交換反応をさせた後、必要に応じて分別することにより得られる油脂を使用してもよい。H2U油脂は、また、非ラウリン系エステル交換油脂またはその分別固体部であってもよい。非ラウリン系エステル交換油脂は、エステル交換油脂の構成脂肪酸の全量に占めるラウリン酸の含有量が10質量%未満(好ましくは0~5質量%、より好ましくは0~2質量%)であり、エステル交換処理されたものであれば、エステル交換処理の前後で、分別、水素添加などの、その他の加工処理が単回、もしくは複数回繰り返されたものであってもよい。エステル交換の方法は、例えば、ナトリウムメトキシド等の触媒を使用した化学的エステル交換、およびリパーゼを触媒とした酵素的エステル交換、のどちらの方法も適用できる。H2U油脂は、好ましくは、前記非ラウリン系エステル交換(分別固体)油脂や、ココアバターである。H2U油脂は、1種または2種以上を使用してもよい。パーム系油脂である、パーム油、パーム中融点画分などは、H2U油脂に該当する。しかし、パーム系油脂がH2U油脂に該当する場合、本発明においてはパーム系油脂として取り扱う。H2U油脂のヨウ素価は、好ましくは30~65であり、より好ましくは35~60であり、さらに好ましくは40~55である。
【0045】
本発明の1態様によれば、本発明の油脂組成物に含まれる油脂は、HU2およびU3の含有量が高い油脂(以下、HU2+U3油脂ともいう)を含んでもよい。HU2+U3油脂に含まれるHU2とU3との合計含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは55質量%以上である。また、HU2+U3油脂の融点は、好ましくは30℃以下であり、より好ましくは20℃以下である。HU2+U3油脂は、以下に例示する油脂を、1種または2種以上使用してもよい。本発明の油脂組成物に含まれる油脂に占めるHU2+U3油脂の含有量は、好ましくは0~70質量%であり、より好ましくは0~60質量%であり、さらに好ましくは0~55質量%である。
【0046】
上記HU2+U3油脂の好ましい例としては、常温(25℃)で液状である植物油脂が挙げられる。具体的には、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、胡麻油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、および亜麻仁油等、並びに、それらを含有する複数混合油、が挙げられる。さらに、これら単独の油および複数混合油の水素添加油、エステル交換油、および分別油などの加工油も挙げられる。かかる液状植物油脂の中でも、5℃において液状であって、かつ、透明性を有する油脂がより好ましい。HU2+U3油脂としては、また、非ラウリン系エステル交換(分別液体)油脂が挙げられる。HU2+U3油脂は、1種または2種以上を使用してもよい。また、パーム系油脂である、パームスーパーオレインなどは、HU2+U3油脂に該当する。しかし、パーム系油脂がHU2+U3油脂に該当する場合、本発明においてはパーム系油脂として取り扱う。HU2+U3油脂のヨウ素価は、好ましくは60~140であり、より好ましくは65~120である。
【0047】
本発明の1態様によれば、本発明の油脂組成物は、また、乳由来の油脂(バター、乳脂肪ならびにその分別油など)を含有してもよい。本発明の油脂組成物に含まれる油脂に占める乳由来の油脂の含有量は、好ましくは0~30質量%であり、より好ましくは0~20質量%であり、さらに好ましくは0~15質量%である。
【0048】
本発明の1態様によれば、本発明の油脂組成物は、また、ラウリン系油脂(構成脂肪酸に占めるラウリン酸の含有量が30質量%以上である油脂)を含有してもよい。本発明の油脂組成物に含まれる油脂に占めるラウリン系油脂の含有量は、好ましくは0~15質量%であり、より好ましくは0~7質量%であり、さらに好ましくは0~5質量%である。
【0049】
本発明の性油脂組成物は、健康上懸念されるトランス脂肪酸の含有量を低減できる。本発明の油脂組成物のトランス脂肪酸含有量は、好ましくは0~5質量%であり、より好ましくは0~3質量%であり、さらに好ましくは0~1質量%である。
【0050】
本発明の油脂組成物は、油脂以外のその他の成分として、通常、ショートニング、マーガリン、バタークリーム、ルウなどの油脂組成物に配合される成分を配合できる。その他の成分としては、水、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの乳化剤、ゼラチン、グアーガム、キサンタンガムなどの増粘安定剤、食塩、塩化カリウムなどの塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸などの酸味料、糖類、糖アルコール類、ステビア、アスパルテームなどの甘味料、β-カロテン、カラメル、紅麹色素などの着色料、トコフェロール、茶抽出物(カテキンなど)、ルチンなどの酸化防止剤、小麦蛋白、大豆蛋白などの植物蛋白、アミラーゼ、ヘミセルラーゼなどの酵素、全脂粉乳、脱脂粉乳、乳清蛋白などの乳製品、卵および卵加工品、香辛料、香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類など、およびそれらの粉末類など、の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0051】
<油脂組成物の製造方法>
本発明の油脂組成物の製造方法は、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物を、油脂粉末が融解しない状態で混合する工程を含む以外、特に限定されない。油脂組成物の態様に応じて、一般的な製造方法を適用できる。ショートニング、マーガリンなどの可塑性油脂組成物においては、例えば、可塑化(結晶化)前の油脂が融解状態にあるベースとなる油脂組成物(以下、ベース油脂組成物ともいう)に、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物を、混合ないし添加し、ボテーター、コンビネーター、パーフェクターなどの冷却可塑化装置により冷却可塑化(結晶化)する方法が挙げられる。ショートニング、マーガリンは、例えば、砂糖、液糖などの糖類と混合され、シュガークリーム、バタークリームなどに加工されてもよい。また、本発明の油脂組成物が固形ルウである場合、例えば、加熱溶解した油脂に小麦粉を加えて混合し、110~120℃程度で撹拌しながら加熱焙煎する。ここにカレー粉等の香辛料、食塩、糖類、調味料等の副材料を混合攪拌して融液状態にあるベース油脂組成物を調製する。さらに、ベース油脂組成物を攪拌しながら品温50℃程度まで冷却した後、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物を混合攪拌することで均一な組成物(ルウ)とする。さらに、得られたルウを型に入れて、風冷等の冷却方法(例えば、0~25℃で5~120分間冷却)によって固化させることで、固形ルウを得る方法が挙げられる。
【0052】
上記ベース油脂組成物は、最終的な油脂組成物から、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物を除いた組成物であり得る。融解状態にあるベース油脂組成物の温度は、好ましくは、粉末油脂組成物に含まれる油脂粉末の融点-5℃以下であり、より好ましくは、粉末油脂組成物に含まれる油脂粉末の融点-10℃以下である。例えば、粉末油脂組成物に含まれる油脂粉末の融点が55℃である場合、融解状態にあるベース油脂組成物の温度は、好ましくは、50℃以下である。50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物とベース油脂組成物とを混合する割合は、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末とベース油脂組成物に含まれる油脂とを基準として、質量比で、好ましくは0.5:99.5~30:70であり、より好ましくは1:99~20:80であり、さらに好ましくは2:98~13:87であり、ことさらに好ましくは3:97~8:92である。
【0053】
本発明の油脂組成物は、融液状態のベース油脂組成物に、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物を、油脂粉末が融解しない状態で混合した後、冷却固化してもよい。冷却固化の冷却条件は、特に限定されない。冷却条件は、例えば-20℃/分より強く(冷却速度を速く)設定されてもよい。しかし、本発明の油脂組成物は、より緩慢な冷却条件で冷却されてもよい。より緩慢な冷却条件は、例えば、-5℃/分以下-20℃/分以上に設定されてもよいし、-5℃/分より弱く(冷却速度を遅く)設定されてもよい。すなわち、本発明の油脂組成物は、緩慢な冷却であっても、パームステアリンを含む油脂結晶の粗大化を抑制し得る。
【0054】
本発明の油脂組成物は、冷却固化後、調温されてもよい。より具体的には、冷却固化された油脂組成物は、好ましくは15~45℃で、より好ましくは18~40℃で、さらに好ましくは20~35℃で、調温されてもよい。調温時間は、例えば、3時間以上、6時間以上、12時間以上、24時間以上、36時間以上、48時間以上の、任意の時間に設定されてもよい。調温時間の上限は特に設定されない。しかし、240時間以下、168時間以下、120時間以下、72時間以下の、任意の時間に設定されてもよい。夏期においては、屋内に放置することで調温に代えてもよい。調温により、本発明の油脂組成物に含まれる油脂結晶の構造が安定になる。
【0055】
<油脂組成物の用途>
本発明の油脂組成物は、一般的な油脂組成物の用途に適用できる。例えば、本発明の油脂組成物は、ショートニング・マーガリンとして製菓製パンにおけるベーカリー生地への練り込み用や折り込み用として使用できる。また、パン・菓子などのベーカリー食品へのスプレッド用やコーティング用、ならびに、シュガークリームやバタークリームなどのクリーム用など、としても使用できる。また、例えば、本発明の油脂組成物は、固形ルウとしてカレーシチューやホワイトソースなどの各種シチュー・ソース類に使用できる。
【実施例】
【0056】
次に、例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。しかし、本発明はこれらに何ら限定されない。また。以下において「%」は、特別な記載がない場合、質量%を示す。
【0057】
<分析方法>
・トランス脂肪酸
油脂のトランス脂肪酸含有量は、AOCS Ce1f-96に準じてガスクロマトグラフィー法で測定した。
・トリアシルグリセロール
油脂の各トリアシルグリセロール含有量は、ガスクロマトグラフィー法(AOCS Ce5-86準拠)で測定した。トリアシルグリセロールの対称性は、銀イオンカラムクロマトグラフィー法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105-107(1995)準拠)で測定した。
・X線回折測定
X線回折装置UltimaIV(株式会社リガク社製)を用いて、CuKα(λ=1.542Å)を線源とし、Cu用フィルタ使用、出力1.6kW、操作角0.96~30.0°、測定速度2°/分の条件で測定した。この測定により、4.6Å付近のピークのみを有し、4.1~4.2Å付近のピークを有しない場合は、油脂成分のすべてがβ型油脂結晶であると判断した。
なお、上記X線回析測定の結果から、ピーク強度比=[β型の特徴的ピークの強度(2θ=19°(4.6Å))/(α型(およびβ’型)の特徴的ピークの強度(2θ=21°(4.2Å))+β型の特徴的ピークの強度(2θ=19°(4.6Å)))]をβ型油脂結晶の存在量を表す指標として測定した。ピーク強度比が0.8以上であると、油脂結晶は実質的にβ型であるといえる。
【0058】
・ゆるめ嵩密度
実施例などで得られた粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度(g/cm
3)は、内径15mm×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端の2cm程度上方から粉末油脂組成物を落下させて疎充填し、充填された質量(g)の測定と容量(mL)の読み取りを行い、mL当たりの当該粉末油脂組成物の質量(g)を算出することで求めた。
・アスペクト比
走査型電子顕微鏡S-3400N(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)により直接観察し、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製 Mac-View)を用いて、任意に選択した粒子について、その長軸方向の長さおよび短軸方向の長さを計測し、計測した個数の平均値として測定した。
・アスペクト比(2)
(A)本発明の粉末油脂組成物A(0058段落)の粒子のアスペクト比(2)
本発明の粉末油脂組成物Aは、板状形状であるため、顕微鏡写真から粒子の厚さを測定することが難しい。したがって、粒子の厚さは、粉末油脂組成物Aをガラスビーズに付着させたときの顕微鏡写真から測定した。また、長径の値は、レーザー回折散乱法に基づいて測定した平均粒径(d50)を用いた。
具体的には、ガラスビーズ(アズワン株式会社製、型番BZ-01、寸法0.105~0.125mmφ)に粉末油脂組成物Aを添加、混合することで、ガラスビーズ表面に粉末油脂組成物Aを付着させ、その様子を3Dリアルサーフェスビュー顕微鏡VE-8800(株式会社キーエンス製)で撮影した。ガラスビーズ表面に付着した1個の粉末油脂組成物Aの粒子の付着面から垂直方向の長さを、その粒子の厚さとして測定し、計25個の粒子の厚さの平均値を取り、その値を粉末油脂組成物Aの粒子の厚さの値とした。
図2は、粉末油脂組成物Aの粒子の厚さの測定に使用した電子顕微鏡写真(1500倍)の1つで、この写真では、写真中の直線で示した部分(2か所)の長さ(ガラスビーズ表面に付着した粒子の付着面からの垂直方向の長さ)を、粉末油脂組成物Aの粒子の厚さとして測定した。
また、長径の値は、上述のレーザー回折散乱法に基づいて測定した平均粒径(d50)を用いた。
このようにして測定した粉末油脂組成物Aの粒子の長径と厚さの値から、アスペクト比(2)〔=長径/厚さ〕を求めた。
(a)粉末油脂組成物a(0058段落)の粒子のアスペクト比(2)
粉末油脂組成物aは、ほとんどが球形であり、粒子の電子顕微鏡写真から1個1個の粒子について直接、長径及び厚さを測定できる。そこで、3Dリアルサーフェスビュー顕微鏡VE-8800(株式会社キーエンス製)で撮影した写真に写った1個1個の粒子について、長径及び厚さ(縦及び横)を測定した。それぞれの粒子について、アスペクト比(2)を求め、計20個の粒子のアスペクト比(2)の平均値を、粒子のアスペクト比(2)とした。
・平均粒径(d50)
粒度分布測定装置(日機装株式会社製 Microtrac MT3300ExII)でレーザー回折散乱法(ISO133201,ISO9276-1)に基づいて測定した。なお、測定した平均粒径は、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径(d50)の値である。
【0059】
<粉末油脂組成物の調製>
以下の粉末油脂組成物Aおよびaを準備した。
(1)粉末油脂組成物A
1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1質量%、菜種極度硬化油、融点67.3℃、横関油脂工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、60℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物を機械粉砕することで粉末状の油脂結晶(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比:1.6、アスペクト比(2):4.6、平均粒径8.0μm、X線回折測定回析ピーク:2鎖長、特徴ピーク4.6Å、ピーク強度比:0.89)を得た。この油脂粉末を粉末油脂組成物Aとした。
(2)粉末油脂組成物a
パーム極度硬化油(融点58℃)を原料として、スプレークーラーによる噴霧冷却で、粉末状の油脂結晶(ゆるめ嵩密度:0.5g/cm3、アスペクト比:1.1、アスペクト比(2):1.1、平均粒径121μm、X線回折測定回析ピーク:2鎖長、特徴ピーク4.2Å、ピーク強度比:0.03)を得た。この油脂粉末を粉末油脂組成物aとした。
【0060】
<食用油脂の準備>
(1)パームステアリン(パーム油の1段乾式分別固体部、ヨウ素価30.6、PPP含有量31.6質量%、日清オイリオグループ株式会社製)を使用した。PSTと略号表記する場合がある。
(2)パーム油(ヨウ素価52、日清オイリオグループ株式会社製)を使用した。PMOと略号表記する場合がある。
(3)ランダムエステル交換パームオレイン(ヨウ素価56、日清オイリオグループ株式会社製)を使用した。IEPL56と略号表記する場合がある。
(4)菜種油(ヨウ素価113、HU2+U3含有量96.8質量%、日清オイリオグループ株式会社製)を使用した。RSOと略号表記する場合がある。
(5)エキストラバージンオリーブ油(ヨウ素価83、HU2+U3含有量95.6質量%、日清オイリオグループ株式会社製)を使用した。EVOと略号表記する場合がある。
(6)菜種極度硬化油(ヨウ素価1、横関油脂工業株式会社製)を使用した。FHRSOと略語表記する場合がある。
(7)ハイエルシン菜種極度硬化油(ヨウ素価1、構成脂肪酸に占める炭素数20以上の飽和脂肪酸含有量47.0質量%、横関油脂工業株式会社製)を使用した。FHHERSOと略号表記する場合がある。
【0061】
<可塑性油脂組成物の調製>
以下の製造手順1~4により、表1に示す配合に従って、例1~5の可塑性油脂組成物(ショートニング)を調製した。20℃の環境下で1週間静置後の各ショートニングの表面組織の状態を観察した。結果を表1に示した。
(製造手順)
1.表1のベース油脂組成物の配合に従って、ベース油脂組成物を混合し、80℃で融解した。
2.1で融解したベース油脂組成物を50℃に調温し、表1に従って、粉末油脂組成物を添加した。
3.2で粉末油脂組成物を添加後、ミキサーで撹拌し、粉末油脂組成物が十分に分散した分散体を得た。
4.3の分散体をカップに取り、20℃の環境下に静置して、油脂結晶を析出させ、ショートニングを作製した。冷却速度は、-5℃/分よりも緩やかであった。
【0062】
【0063】
(シュガークリームの製造および評価)
例1~5の各可塑性油脂組成物(ショートニング)と粉糖とを1:1で混合し、ミキサーで比重が0.6になるまでホイップし、シュガークリームを調製した。得られたシュガークリームの舌触りを、職人歴24年の菓子職人が評価した。結果を表1に示した。
【0064】
(風味油ペーストの製造および評価)
例1のベース油脂組成物に含まれるRSOをEVOに変更し、例1と同様に例6(比較)の可塑性油脂組成物(オリーブ油含有ペースト)を調製した。また、例1のベース油脂組成物100質量部に対して、10質量部の粉末状油脂組成物Aを上記の製造手順2および3で添加分散して、例7の可塑性油脂組成物(オリーブ油含有ペースト)を調製した。20℃の環境下に7日間静置した後、例6および例7の可塑性油脂組成物を引き延ばして組織内部の状態を観察した。例6の組織は粒がありザラザラの状態(
図3)であったが、例7の組織は粒がなく、非常に滑らか(
図4)であった。
【0065】
<固形ルウ用油脂の調製>
<可塑性油脂組成物の調製>と同様の製造手順により、表2に示す配合に従って、例8~12の固形ルウ用油脂を調製した。20℃の環境下で1週間静置後の固形ルウ用油脂の表面組織の状態を観察した。固形ルウ用油脂の状態観察により、それを使用した固形ルウの性状を間接的に評価できる。結果を表2に示した。
【0066】
【0067】
(固形ルウの調製および評価)
例8と例11の油脂を使用して、以下の方法により、固形カレールウを調製した。
例8の油脂については、100gの油脂と100gの小麦粉を、加熱攪拌鍋に入れ、かき混ぜながら120℃に達するまで加熱した。次に油脂と小麦粉の混合物を、攪拌混合しながら品温を約110℃まで下げ、カレー粉30g、食塩28g、調味料26g、砂糖17gを順次添加した。さらに攪拌混合することでカレールウを調製した。更にカレールウを攪拌しながら品温55℃まで冷却した後、ポリプロピレン製の型に流し込み、冷蔵庫で冷却することで例8の固形カレールウを調製した。例11の油脂については、最初に97.6gのベース油脂組成物と100gの小麦粉を混ぜ合わせること、及び、品温55℃まで冷却したカレールウに2.4gの粉末油脂組成物Aを加えて十分に攪拌すること、を除いては、例8と同様に固形カレールウを調製した。例8の油脂を使用した固形ルウには、白色化した部分が所々に認められたが、例11の油脂を使用した固形ルウには、白色化はほぼ認められなかった。