(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】酸化チタン粒子、その分散液、光触媒薄膜、光触媒薄膜を表面に有する部材及び酸化チタン粒子分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/04 20060101AFI20240408BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20240408BHJP
B01J 23/889 20060101ALI20240408BHJP
B01J 23/887 20060101ALI20240408BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C01G23/04 Z
B01J35/39
B01J23/889 M
B01J23/887 M
B01J37/04 102
(21)【出願番号】P 2020081186
(22)【出願日】2020-05-01
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古舘 学
(72)【発明者】
【氏名】井上 友博
(72)【発明者】
【氏名】樋上 幹哉
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/047694(WO,A1)
【文献】特開2004-283646(JP,A)
【文献】国際公開第2007/097220(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/04
B01J 35/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性分散媒中に、
1)スズ成分及び可視光活性を高める遷移金属成分が固溶されていて、
2)鉄成分及びケイ酸塩又は活性ケイ酸から誘導されるケイ素成分が表面に付着している、酸化チタン粒子が分散されている酸化チタン粒子分散液であって、
該酸化チタン粒子のレーザー光を用いた動的光散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径D
50が3~50nmである、
酸化チタン粒子分散液。
【請求項2】
酸化チタン粒子に固溶された遷移金属成分が、バナジウム、クロム、マンガン、ニオブ、モリブデン、ロジウム、タングステン及びセリウムから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の酸化チタン粒子分散液。
【請求項3】
酸化チタン粒子に固溶された遷移金属成分が、モリブデン、タングステン及びバナジウム成分から選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の酸化チタン粒子分散液。
【請求項4】
酸化チタン粒子に固溶されたスズ成分の量がチタンとのモル比(Ti/Sn)で1~1,000である請求項1~3のいずれか1項に記載の酸化チタン粒子分散液。
【請求項5】
鉄成分のチタンとのモル比(Ti/Fe)が10~10,000であり、ケイ素成分のチタンとのモル比(Ti/Si)が1~10,000である請求項1~4のいずれか1項に記載の酸化チタン粒子分散液。
【請求項6】
酸化チタン粒子に固溶されたモリブデン、タングステン及びバナジウム成分それぞれの量が、チタンとのモル比(Ti/MoまたはTi/WまたはTi/V)で1~10,000である請求項3に記載の酸化チタン粒子分散液。
【請求項7】
更にモリブデン、タングステン及びバナジウム成分から選ばれる少なくとも1種の金属成分が表面に付着している請求項1~6のいずれか1項に記載の酸化チタン粒子分散液。
【請求項8】
更に、バインダーを含有する請求項1~7のいずれか1項に記載の酸化チタン粒子分散液。
【請求項9】
バインダーがコロイダルシリ
カである請求項8に記載の酸化チタン粒子分散液。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の酸化チタン粒子分散液
を、部材表面に塗布し、乾燥する工程を有する光触媒薄膜
の製造方法。
【請求項11】
下記工程(1)~(4)を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の酸化チタン粒子分散液の製造方法。
(1)原料チタン化合物、スズ化合物、遷移金属化合物、塩基性物質、過酸化水素及び水性分散媒から、スズ成分及び遷移金属成分含有ペルオキソチタン酸溶液を製造する工程
(2)上記(1)の工程で製造したスズ成分及び遷移金属成分含有ペルオキソチタン酸溶液を、圧力制御の下、80~250℃で加熱し、スズ成分及び遷移金属成分含有酸化チタン粒子分散液を得る工程
(3)鉄化合物、ケイ酸塩又は活性ケイ酸及び水性分散媒から、鉄成分及びケイ素成分の溶液または分散液を製造する工程
(4)上記(2)の工程で製造した酸化チタン粒子分散液と、(3)の工程で製造した鉄化合物及びケイ素化合物の溶液または分散液を混合して分散液を得る工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン粒子、その分散液、分散液を用いて形成される光触媒薄膜、光触媒薄膜を表面に有する部材及び酸化チタン粒子分散液の製造方法に関し、更に詳細には、可視光(波長400~800nm)のみでも光触媒活性を発現する、透明性の高い光触媒薄膜を簡便に作製することができる可視光応答型光触媒酸化チタン粒子等に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、基材表面の清浄化、脱臭、抗菌等の用途に多用されている。光触媒反応とは、光触媒が光を吸収することによって生じた励起電子及び正孔が起こす反応のことをいう。光触媒による有機物の分解は、主として次の〔1〕、〔2〕の機構で起きていると考えられている。
〔1〕生成した励起電子及び正孔が光触媒表面に吸着している酸素や水と酸化還元反応を行い、該酸化還元反応により発生した活性種が有機物を分解する。
〔2〕生成した正孔が、光触媒表面に吸着している有機物を直接酸化して分解する。
【0003】
最近、上述のような光触媒作用の適用は、紫外線が利用できる屋外での使用のみならず、蛍光灯のように可視領域の光(波長400~800nm)が大部分を占める光源で照らされた室内空間でも利用できるようにする検討が行われている。例えば、可視光応答型光触媒として、酸化タングステン光触媒体(特開2009-148700号公報:特許文献1)が開発されたが、タングステンは希少元素であるため、汎用元素であるチタンを利用した光触媒の可視光活性向上が望まれている。
【0004】
酸化チタンを利用した光触媒の可視光活性向上方法としては、酸化チタン微粒子や金属をドープした酸化チタン微粒子の表面に、鉄や銅を担持させる方法(例えば、特開2012-210632号公報:特許文献2、特開2010-104913号公報:特許文献3、特開2011-240247号公報:特許文献4、特開平7-303835号公報:特許文献5)、スズと可視光活性を高める遷移金属を固溶(ドープ)した酸化チタン微粒子と銅を固溶した酸化チタン微粒子とをそれぞれ準備した後混合して用いる方法(国際公開第2014/045861号:特許文献6)、スズと可視光応答性を高める遷移金属を固溶した酸化チタン微粒子と鉄族元素を固溶した酸化チタン微粒子とをそれぞれ準備した後混合して用いる方法(国際公開第2016/152487号:特許文献7)などが知られている。
【0005】
特許文献7のスズと可視光活性を高める遷移金属を固溶した酸化チタン微粒子と鉄族元素を固溶した酸化チタン微粒子とをそれぞれ準備した後、混合して得られる可視光応答型光触媒酸化チタン微粒子分散液を用いて製膜した光触媒膜を用いると、可視領域の光のみの条件下で高い分解活性が得られるものである。また、スズと可視光活性を高める遷移金属を固溶した酸化チタン微粒子の表面に鉄成分を吸着(=担持)させた酸化チタン微粒子分散液を用いて製膜した光触媒膜を用いた場合にも可視光領域の光のみの条件下でアセトアルデヒドガスの分解が可能なことが示されているが、鉄成分によって酸化チタン微粒子が凝集・沈殿して得られる光触媒膜の品質が損なわれるために鉄成分の量が制限され、得られる光触媒活性は低かった。
【0006】
上述のように、光触媒活性を高める検討は盛んに行われているものの、実環境においては有害物質が可能な限り速やかに分解・除去されることが重要であるため、更なる光触媒活性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-148700号公報
【文献】特開2012-210632号公報
【文献】特開2010-104913号公報
【文献】特開2011-240247号公報
【文献】特開平7-303835号公報
【文献】国際公開第2014/045861号
【文献】国際公開第2016/152487号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、従来よりも更に高い光触媒活性、特に可視光活性を得られる酸化チタン粒子、その分散液、分散液を用いて形成される光触媒薄膜、光触媒薄膜を表面に有する部材及び酸化チタン粒子分散液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため、酸化チタン粒子に固溶させる金属元素やその組み合わせ、酸化チタン粒子に添加する金属元素やその組み合わせ、その量比などを詳細に検討した結果、光触媒(特に、特定の金属を固溶した酸化チタン粒子)に、鉄成分及びケイ素成分を混合することによって得られる鉄成分及びケイ素成分が表面に付着している酸化チタン粒子の光触媒活性、特に可視光活性が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
従って、本発明は、下記に示す酸化チタン粒子、その分散液、分散液を用いて形成される光触媒薄膜、光触媒薄膜を表面に有する部材及び酸化チタン粒子分散液の製造方法を提供するものである。
〔1〕
1)スズ成分及び可視光活性を高める遷移金属成分が固溶されていて、
2)鉄成分及びケイ素成分が表面に付着している、酸化チタン粒子。
〔2〕
酸化チタン粒子に固溶された遷移金属成分が、バナジウム、クロム、マンガン、ニオブ、モリブデン、ロジウム、タングステン及びセリウムから選ばれる少なくとも1種である〔1〕に記載の酸化チタン粒子。
〔3〕
酸化チタン粒子に固溶された遷移金属成分が、モリブデン、タングステン及びバナジウム成分から選ばれる少なくとも1種である〔2〕に記載の酸化チタン粒子。
〔4〕
酸化チタン粒子に固溶されたスズ成分の含有量がチタンとのモル比(Ti/Sn)で1~1,000である〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の酸化チタン粒子。
〔5〕
鉄成分のチタンとのモル比(Ti/Fe)が10~10,000であり、ケイ素成分のチタンとのモル比(Ti/Si)が1~10,000である〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の酸化チタン粒子。
〔6〕
酸化チタン粒子に固溶されたモリブデン、タングステン及びバナジウム成分それぞれの量が、チタンとのモル比(Ti/MoまたはTi/WまたはTi/V)で1~10,000である〔3〕に記載の酸化チタン粒子。
〔7〕
更にモリブデン、タングステン及びバナジウム成分から選ばれる少なくとも1種の金属成分が表面に付着している〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の酸化チタン粒子。
〔8〕
水性分散媒中に、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の酸化チタン粒子が分散されている酸化チタン粒子分散液。
〔9〕
更に、バインダーを含有する〔8〕に記載の酸化チタン粒子分散液。
〔10〕
バインダーがケイ素化合物系バインダーである〔9〕に記載の酸化チタン粒子分散液。
〔11〕
〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の酸化チタン粒子を含む光触媒薄膜。
〔12〕
更に、バインダーを含有する〔11〕に記載の光触媒薄膜。
〔13〕
基材表面に〔11〕又は〔12〕の光触媒薄膜が形成された部材。
〔14〕
下記工程(1)~(4)を有する酸化チタン粒子分散液の製造方法。
(1)原料チタン化合物、スズ化合物、遷移金属化合物、塩基性物質、過酸化水素及び水性分散媒から、スズ成分及び遷移金属成分含有ペルオキソチタン酸溶液を製造する工程
(2)上記(1)の工程で製造したスズ成分及び遷移金属成分含有ペルオキソチタン酸溶液を、圧力制御の下、80~250℃で加熱し、スズ成分及び遷移金属成分含有酸化チタン粒子分散液を得る工程
(3)鉄化合物、ケイ素化合物及び水性分散媒から、鉄成分及びケイ素成分の溶液または分散液を製造する工程
(4)上記(2)の工程で製造した酸化チタン粒子分散液と、(3)の工程で製造した鉄化合物及びケイ素化合物の溶液または分散液を混合して分散液を得る工程
【発明の効果】
【0011】
本発明の酸化チタン粒子は、従来よりも更に高い光触媒活性、特に可視光(波長400~800nm)のみでも高い光触媒活性を有する。また、該酸化チタン粒子の分散液から透明性の高い光触媒薄膜を簡便に作製することができる。したがって、本発明の酸化チタン粒子は、蛍光灯や白色LEDのような可視光が大部分を占める光源で照らされた室内空間で利用する部材に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
<酸化チタン粒子分散液>
本発明の酸化チタン粒子分散液は、水性分散媒中に、1)スズ成分及び可視光活性を高める遷移金属が固溶された酸化チタン粒子と、2)鉄成分及びケイ素成分とを含有するものである。酸化チタン粒子分散液に含まれる鉄成分及びケイ素成分は酸化チタン粒子表面に付着しているものであるが、鉄成分及びケイ素成分は酸化チタン粒子分散液中に遊離していてもよい。
【0013】
水性分散媒は、水を用いることが好ましいが、水と任意の割合で混合される親水性有機溶媒と水との混合溶媒を用いてもよい。水としては、例えば、ろ過水、脱イオン水、蒸留水、純水等の精製水が好ましい。また、親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、エチレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール-n-プロピルエーテル等のグリコールエーテル類が好ましい。混合溶媒を用いる場合には、混合溶媒中の親水性有機溶媒の割合が0質量%より多く、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0014】
酸化チタン粒子としては、光触媒として使用される酸化チタンがスズ成分及び可視光活性を高める遷移金属成分を固溶したものであり、本発明の酸化チタン粒子分散液が「鉄成分及びケイ素成分を含有する」とは、分散液中に該鉄成分及びケイ素成分を含有するものである。
【0015】
酸化チタン粒子の結晶相としては、通常、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の3つが知られているが、本発明の酸化チタン粒子は、主としてルチル型又はアナターゼ型であることが好ましく、特に、主としてルチル型であることが好ましい。なお、ここでいう「主として」とは、酸化チタン粒子全体のうち、当該結晶相の酸化チタン粒子を50質量%以上含有することを意味し、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0016】
ここで、本明細書において、固溶体とは、ある一つの結晶相の格子点にある原子が別の原子と置換するか、格子間隙に別の原子が入り込んだ相、即ち、ある結晶相に他の物質が溶け込んだとみなされる混合相を有するものをいい、結晶相としては均一相であるものをいう。格子点にある溶媒原子が溶質原子と置換したものを置換型固溶体、格子間隙に溶質原子が入ったものを侵入型固溶体というが、本明細書では、このいずれをも指すものとする。
【0017】
本発明の酸化チタン粒子は、スズ原子及び可視光応答性を高める遷移金属原子と固溶体を形成していることを特徴とする。固溶体としては、置換型であっても侵入型であってもよい。酸化チタンの置換型固溶体は、酸化チタン結晶のチタンサイトが各種金属原子に置換されて形成されるものであり、酸化チタンの侵入型固溶体は、酸化チタン結晶の格子間隙に各種金属原子が入って形成されるものである。酸化チタンに各種金属原子が固溶されると、X線回折などにより結晶相を測定した際、酸化チタンの結晶相のピークのみが観測され、添加した各種金属原子由来の化合物のピークは観測されない。
【0018】
金属酸化物結晶に異種金属を固溶する方法は特に限定されるものではないが、気相法(CVD法、PVD法など)、液相法(水熱法、ゾル・ゲル法など)、固相法(高温焼成法など)などを挙げることができる。
【0019】
酸化チタン粒子に固溶するスズ成分は、光触媒薄膜の可視光応答性を高めるためのものであるが、スズ化合物から誘導されるものであればよく、例えば、スズの金属単体(Sn)、酸化物(SnO、SnO2)、水酸化物、塩化物(SnCl2、SnCl4)、硝酸塩(Sn(NO3)2)、硫酸塩(SnSO4)、ハロゲン(Br、I)化物、オキソ酸塩(Na2SnO3、K2SnO3)、錯化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用したものでもよい。その中でも酸化物(SnO、SnO2)、塩化物(SnCl2、SnCl4)、硫酸塩(SnSO4)、オキソ酸塩(Na2SnO3、K2SnO3)を使用することが好ましい。
【0020】
酸化チタン粒子に固溶されるスズ成分の量は、チタンとのモル比(Ti/Sn)で1~1,000、好ましくは5~500、より好ましくは5~100である。これは、モル比が1未満の場合、酸化チタンの含有割合が低下し光触媒効果が十分発揮されないことがあり、1,000超過の場合、可視光応答性が不十分となることがあるためである。
【0021】
酸化チタン粒子に固溶する遷移金属は、光触媒薄膜の可視光応答性を高めるためのものであるが、周期表第3族~第11族の中から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、バナジウム、クロム、マンガン、ニオブ、モリブデン、ロジウム、タングステン、セリウムなどから選択することができるが、その中でもモリブデン、タングステン及びバナジウムが好ましい。
【0022】
酸化チタン粒子に固溶される遷移金属成分は、当該遷移金属化合物から誘導されるものであればよく、金属、酸化物、水酸化物、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン(Br、I)化物、オキソ酸塩、各種錯化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。
【0023】
酸化チタン粒子に固溶される遷移金属成分の量は、遷移金属成分の種類に応じて適宜選定し得るが、チタンとのモル比(Ti/遷移金属)で1~10,000であることが好ましい。
【0024】
酸化チタン粒子に固溶される遷移金属成分にモリブデンを選択する場合、モリブデン成分はモリブデン化合物から誘導されるものであればよく、例えば、モリブデンの金属単体(Mo)、酸化物(MoO2、MoO3)、水酸化物、塩化物(MoCl3、MoCl5)、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン(Br、I)化物、モリブデン酸及びオキソ酸塩(H2MoO4、Na2MoO4、K2MoO4)、錯化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用したものでもよい。その中でも、酸化物(MoO2、MoO3)、塩化物(MoCl3、MoCl5)、オキソ酸塩(H2MoO4、Na2MoO4、K2MoO4)を使用することが好ましい。
【0025】
酸化チタン粒子に固溶されるモリブデン成分の量は、チタンとのモル比(Ti/Mo)で1~10,000、好ましくは5~5,000、より好ましくは20~1,000である。これは、モル比が1未満の場合、酸化チタンの含有割合が低下し光触媒効果が十分発揮されないことがあり、10,000超過の場合、可視光応答性が不十分となることがあるためである。
【0026】
酸化チタン粒子に固溶される遷移金属成分にタングステンを選択する場合、タングステン成分はタングステン化合物から誘導されるものであればよく、例えば、タングステンの金属単体(W)、酸化物(WO3)、水酸化物、塩化物(WCl4、WCl6)、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン(Br、I)化物、タングステン酸及びオキソ酸塩(H2WO4、Na2WO4、K2WO4)、錯化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用したものでもよい。その中でも、酸化物(WO3)、塩化物(WCl4、WCl6)、オキソ酸塩(Na2WO4、K2WO4)を使用することが好ましい。
【0027】
酸化チタン粒子に固溶されるタングステン成分の量は、チタンとのモル比(Ti/W)で1~10,000、好ましくは5~5,000、より好ましくは20~2,000である。これは、モル比が1未満の場合、酸化チタンの含有割合が低下し光触媒効果が十分発揮されないことがあり、10,000超過の場合、可視光応答性が不十分となることがあるためである。
【0028】
酸化チタン粒子に固溶される遷移金属成分にバナジウムを選択する場合、バナジウム成分はバナジウム化合物から誘導されるものであればよく、例えば、バナジウムの金属単体(V)、酸化物(VO、V2O3、VO2、V2O5)、水酸化物、塩化物(VCl5)、オキシ塩化物(VOCl3)、硝酸塩、硫酸塩、オキシ硫酸塩(VOSO4)、ハロゲン(Br、I)化物、オキソ酸塩(Na3VO4、K3VO4、KVO3)、錯化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用したものでもよい。その中でも、酸化物(V2O3、V2O5)、塩化物(VCl5)、オキシ塩化物(VOCl3)、オキシ硫酸塩(VOSO4)、オキソ酸塩(Na3VO4、K3VO4、KVO3)を使用することが好ましい。
【0029】
酸化チタン粒子に固溶されるバナジウム成分の量は、チタンとのモル比(Ti/V)で1~10,000、好ましくは10~10,000、より好ましくは100~10,000である。これは、モル比が1未満の場合、酸化チタンの含有割合が低下し光触媒効果が十分発揮されないことがあり、10,000超過の場合、可視光応答性が不十分となることがあるためである。
【0030】
酸化チタン粒子に固溶される遷移金属成分として、モリブデン、タングステン、バナジウムの中から複数を選択することもでき、その際の各成分量は上記範囲より選択することができる。但し、各成分量の合計とチタンとのモル比[Ti/(Mo+W+V)]は、1以上10,000より小さい。
【0031】
酸化チタン粒子は、1種で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。異なる可視光応答性を持つ2種以上を組み合わせた場合、可視光活性が高まる効果が得られることがある。
【0032】
酸化チタン粒子分散液に含まれ、酸化チタン粒子表面に付着している鉄成分及びケイ素成分は、光触媒薄膜の可視光応答性を高めるものであるが、酸化チタン粒子分散液は、鉄成分及びケイ素成分に加えて、更に可視光応答性を高める成分として、酸化チタン粒子に固溶された遷移金属成分でもあるモリブデン、タングステン及びバナジウム成分から選ばれる少なくとも1種の金属成分を含有してもよい。
【0033】
酸化チタン粒子分散液に含まれる鉄成分は、光触媒薄膜の可視光応答性を高めるためものであるが、鉄化合物から誘導されるものであればよく、例えば、鉄の金属単体(Fe)、酸化物(Fe2O3、Fe3O4)、水酸化物(Fe(OH)2、Fe(OH)3)、オキシ水酸化物(FeO(OH))、塩化物(FeCl2、FeCl3)、硝酸塩(Fe(NO)3)、硫酸塩(FeSO4、Fe2(SO4)3)、ハロゲン(Br、I)化物、錯化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
酸化チタン粒子分散液に含まれる鉄成分の含有量は、チタンとのモル比(Ti/Fe)で10~10,000、好ましくは20~5,000、より好ましくは50~2,000である。これは、モル比が10未満の場合、酸化チタンが凝集・沈殿して得られる光触媒薄膜の品質が低下し光触媒効果が十分発揮されないことがあり、10,000超過の場合、可視光応答性が不十分となることがあるためである。
【0035】
酸化チタン粒子分散液に含まれるケイ素成分は、鉄成分添加時の酸化チタン及び鉄成分の凝集・沈殿を抑制することで光触媒薄膜の品質低下を防いで光触媒効果の低下を抑制するものであるが、ケイ素化合物から誘導されるものであればよく、例えば、ケイ素の金属単体(Si)、酸化物(SiO、SiO2)、アルコキシド(Si(OCH3)4、Si(OC2H5)4、Si(OCH(CH3)2)4)、ケイ酸塩(ナトリウム塩、カリウム塩)及びこのケイ酸塩からナトリウムやカリウム等のイオンの少なくとも一部を除去した活性ケイ酸等が挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。その中でも、ケイ酸塩(ケイ酸ナトリウム)や活性ケイ酸、特に活性ケイ酸を使用することが好ましい。
【0036】
酸化チタン粒子分散液に含まれるケイ素成分の含有量は、チタンとのモル比(Ti/Si)で1~10,000、好ましくは2~5,000、より好ましくは5~2,000である。これは、モル比が1未満の場合、酸化チタンの含有割合が低下し光触媒効果が十分発揮されないことがあり、10,000超過の場合、酸化チタンの凝集・沈殿の抑制効果が不十分となることがあるためである。
【0037】
光触媒薄膜の可視光応答性を更に高めるために、酸化チタン粒子分散液に更に遷移金属成分(モリブデン、タングステン、バナジウム)を添加する場合、酸化チタン粒子分散液に含まれる遷移金属成分の含有量は、遷移金属成分の種類に応じて適宜選定し得るが、チタンとのモル比(Ti/遷移金属)で10~10,000であることが好ましい。
【0038】
酸化チタン粒子分散液に含まれる遷移金属成分にモリブデンを選択する場合、モリブデン成分は酸化チタン粒子に固溶させる場合に使用したものと同様のモリブデン化合物から誘導されるものであればよい。
【0039】
酸化チタン粒子分散液に含まれるモリブデン成分の含有量は、チタンとのモル比(Ti/Mo)で10~10,000、好ましくは20~5,000、より好ましくは30~3,000である。これは、モル比が10未満の場合、酸化チタンの含有割合が低下し光触媒効果が十分発揮されないことがあり、10,000超過の場合、可視光応答性が不十分となることがあるためである。
【0040】
酸化チタン粒子分散液に含まれる遷移金属成分にタングステンを選択する場合、タングステン成分は酸化チタン粒子に固溶させる場合に使用したものと同様のタングステン化合物から誘導されるものであればよい。
【0041】
酸化チタン粒子分散液に含まれるタングステン成分の含有量は、チタンとのモル比(Ti/W)で10~10,000、好ましくは20~5,000、より好ましくは30~3,000である。これは、モル比が10未満の場合、酸化チタンの含有割合が低下し光触媒効果が十分発揮されないことがあり、10,000超過の場合、可視光応答性が不十分となることがあるためである。
【0042】
酸化チタン粒子分散液に含まれる遷移金属成分にバナジウムを選択する場合、バナジウム成分は酸化チタン粒子に固溶させる場合に使用したものと同様のバナジウム化合物から誘導されるものであればよい。
【0043】
酸化チタン粒子分散液に含まれるバナジウム成分の含有量は、チタンとのモル比(Ti/V)で10~10,000、好ましくは20~5,000、より好ましくは30~3,000である。これは、モル比が10未満の場合、酸化チタンの含有割合が低下し光触媒効果が十分発揮されないことがあり、10,000超過の場合、可視光応答性が不十分となることがあるためである。
【0044】
酸化チタン粒子分散液に含まれる遷移金属成分として、モリブデン、タングステン及びバナジウムの中から複数を選択することもできる。その際の各成分量は上記範囲より選択することができる。但し、各成分量の合計とチタンとのモル比[Ti/(Mo+W+V)]は、10以上10,000より小さい。
【0045】
鉄成分及びケイ素成分を含有する酸化チタン粒子分散液中の酸化チタン粒子は、レーザー光を用いた動的光散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(以下、D50と表記することがある)が、それぞれ3~50nmであることが好ましく、より好ましくは3~30nm、更に好ましくは3~20nmである。D50が、3nm未満の場合、光触媒活性が不十分になることがあり、50nm超過の場合、分散液が不透明となることがあるためである。
【0046】
また、体積基準の90%累積分布径(以下、D90と表記することがある)は、それぞれ5~100nmであることが好ましく、より好ましくは5~80nmである。D90が、5nm未満の場合、光触媒活性が不十分になることがあり、100nm超過の場合、分散液が不透明となることがあるためである。
本発明の酸化チタン粒子はD50及びD90が上述した範囲にある粒子であることが、高い光触媒活性を有し、かつ透明性の高い分散液となるため、好ましい。
なお、上記酸化チタン粒子分散液中の酸化チタン粒子のD50及びD90を測定する装置としては、例えば、ELSZ-2000ZS(大塚電子(株)製)、ナノトラックUPA-EX150(日機装(株)製)、LA-910(堀場製作所(株)製)等を使用することができる。
【0047】
酸化チタン粒子分散液中の酸化チタン粒子の濃度は、所要の厚さの光触媒薄膜の作製し易さの点で、0.01~20質量%が好ましく、特に0.5~10質量%が好ましい。
【0048】
更に、酸化チタン粒子分散液には、後述する各種部材表面に該分散液を塗布し易くすると共に該粒子を接着し易いようにする目的でバインダーを添加してもよい。バインダーとしては、例えば、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム等を含む金属化合物系バインダーやフッ素系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等を含む有機樹脂系バインダー等が挙げられる。
【0049】
バインダーと酸化チタンの質量比[酸化チタン/バインダー]としては、99~0.01、より好ましくは9~0.1、更に好ましくは2.5~0.4の範囲で添加して使用することが好ましい。これは、上記質量比が99超過の場合、各種部材表面への酸化チタン粒子の接着が不十分となり、0.01未満の場合、可視光活性が不十分となることがあるためである。
【0050】
中でも、光触媒活性及び透明性の高い優れた光触媒薄膜を得るためには、特にケイ素化合物系バインダーを質量比(酸化チタン/ケイ素化合物系バインダー)99~0.01、より好ましくは9~0.1、更に好ましくは2.5~0.4の範囲で添加して使用することが好ましい。ここで、ケイ素化合物系バインダーとは、固体状又は液体状のケイ素化合物を水性分散媒中に含んでなるケイ素化合物の、コロイド分散液、溶液、又はエマルジョンであって、具体的には、コロイダルシリカ(好ましい粒径1~150nm);シリケート等のケイ酸塩類溶液;シラン、シロキサン加水分解物エマルジョン;シリコーン樹脂エマルジョン;シリコーン-アクリル樹脂共重合体、シリコーン-ウレタン樹脂共重合体等のシリコーン樹脂と他の樹脂との共重合体のエマルジョン等を挙げることができる。
【0051】
<酸化チタン粒子分散液の製造方法>
本発明の酸化チタン粒子分散液の製造方法は、酸化チタン粒子分散液と鉄成分及びケイ素成分の溶液または分散液とをそれぞれ製造し、酸化チタン粒子分散液と鉄成分及びケイ素成分の溶液または分散液とを混合することにより調製される。
【0052】
スズ成分及び可視光応答性を高める遷移金属成分を固溶し、鉄成分及びケイ素成分を含有する酸化チタン粒子分散液の製造方法として、具体的には、下記工程(1)~(4)を有する製造方法を挙げることができる。
(1)原料チタン化合物、スズ化合物、遷移金属化合物、塩基性物質、過酸化水素及び水性分散媒から、スズ成分及び遷移金属成分含有ペルオキソチタン酸溶液を製造する工程
(2)上記(1)の工程で製造したスズ成分及び遷移金属成分含有ペルオキソチタン酸溶液を、圧力制御の下、80~250℃で加熱し、スズ成分及び遷移金属成分含有酸化チタン粒子分散液を得る工程
(3)鉄化合物、ケイ素化合物及び水性分散媒から、鉄成分及びケイ素成分の溶液または分散液を製造する工程
(4)上記(2)の工程で製造した酸化チタン粒子分散液と、(3)の工程で製造した鉄化合物及びケイ素化合物の溶液または分散液を混合して分散液を得る工程
【0053】
工程(1)~(2)がスズ成分及び可視光応答性を高める遷移金属成分を固溶した酸化チタン粒子分散液を得る工程であり、工程(3)が鉄成分及びケイ素成分の溶液または分散液を得る工程であり、そして、工程(4)は最終的にスズ成分及び可視光応答性を高める遷移金属成分を固溶し、鉄成分及びケイ素成分が表面に付着した酸化チタン粒子を含有する分散液を得る工程である。
既に述べたように、工程(1)で用いられる遷移金属化合物としては、モリブデン化合物、タングステン化合物及びバナジウム化合物のうち、少なくとも1種を用いることが好ましいので、以下その前提で各工程について詳細に説明する。
【0054】
・工程(1):
工程(1)では、原料チタン化合物、スズ化合物、遷移金属化合物、塩基性物質及び過酸化水素を水性分散媒中で反応させることにより、スズ成分及び遷移金属成分含有ペルオキソチタン酸溶液を製造する。
【0055】
反応方法としては、下記i)~iii)の方法のいずれでもよい。
i)水性分散媒中の原料チタン化合物及び塩基性物質に対して、スズ化合物及び遷移金属化合物を添加して溶解させてから、スズ成分及び遷移金属成分含有水酸化チタンとし、含有する金属イオン以外の不純物イオンを除去し、過酸化水素を添加してスズ成分及び遷移金属成分含有ペルオキソチタン酸とする方法
ii)水性分散媒中の原料チタン化合物に塩基性物質を添加して水酸化チタンとし、含有する金属イオン以外の不純物イオンを除去した後にスズ化合物及び遷移金属化合物を添加し、次いで過酸化水素を添加することでスズ成分及び遷移金属成分含有ペルオキソチタン酸とする方法
iii)水性分散媒中の原料チタン化合物に塩基性物質を添加して水酸化チタンとし、含有する金属イオン以外の不純物イオンを除去し、過酸化水素を添加してペルオキソチタン酸とした後にスズ化合物及び遷移金属化合物を添加して、スズ成分及び遷移金属成分含有ペルオキソチタン酸とする方法
なお、i)の方法の前段において、「水性分散媒中の原料チタン化合物及び塩基性物質」を、「原料チタン化合物を分散させた水性分散媒」と「塩基性物質を分散させた水性分散媒」のように2液の水性分散媒に分けて、スズ化合物及び遷移金属化合物のそれぞれの化合物の当該2液への溶解性に従って、それぞれの化合物を当該2液のいずれか一方又は両方へ溶解させた後に、両者を混合してもよい。
【0056】
このようにスズ成分及び遷移金属成分含有ペルオキソチタン酸を得たのち、後述の工程(2)の水熱反応に供することにより、酸化チタンに当該各種金属を固溶した酸化チタン粒子を得ることができる。
【0057】
ここで、原料チタン化合物としては、例えば、チタンの塩化物、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸塩、これらの水溶液にアルカリを添加して加水分解することにより析出させた水酸化チタン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。その中でも、チタンの塩化物(TiCl3、TiCl4)を使用することが好ましい。
【0058】
スズ化合物、遷移金属化合物、及び水性分散媒としては、それぞれ前述のものが、前述の配合となるように使用される。なお、原料チタン化合物と水性分散媒とから形成される原料チタン化合物水溶液の濃度は、60質量%以下、特に30質量%以下であることが好ましい。濃度の下限は適宜選定されるが、通常1質量%以上であることが好ましい。
【0059】
塩基性物質は、原料チタン化合物をスムーズに水酸化チタンにするためのもので、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、アルカノールアミン、アルキルアミン等のアミン化合物が挙げられ、その中でも特にアンモニアを使用することが好ましく、原料チタン化合物水溶液のpHを7以上、特にpH7~10になるような量で添加して使用される。なお、塩基性物質は、上記水性分散媒と共に適当な濃度の水溶液にして使用してもよい。
【0060】
過酸化水素は、上記原料チタン化合物又は水酸化チタンをペルオキソチタン、つまりTi-O-O-Ti結合を含む酸化チタン化合物に変換させるためのものであり、通常、過酸化水素水の形態で使用される。過酸化水素の添加量は、Ti、遷移金属及びSnの合計物質量の1.5~20倍モルとすることが好ましい。また、過酸化水素を添加して原料チタン化合物又は水酸化チタンをペルオキソチタン酸にする反応において、反応温度は5~80℃とすることが好ましく、反応時間は30分~24時間とすることが好ましい。
【0061】
こうして得られるスズ成分及び遷移金属成分を含有するペルオキソチタン酸溶液は、pH調整等のため、アルカリ性物質又は酸性物質を含んでいてもよい。ここでいう、アルカリ性物質としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アルキルアミン等が挙げられ、酸性物質としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸、リン酸、過酸化水素等の無機酸及び蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸が挙げられる。この場合、得られたスズ成分及び遷移金属成分を含有するペルオキソチタン酸溶液のpHは、1~9、特に4~7であることが取り扱いの安全性の点で好ましい。
【0062】
・工程(2):
工程(2)では、上記工程(1)で得られたスズ成分及び遷移金属成分含有ペルオキソチタン酸溶液を、圧力制御の下、80~250℃、好ましくは100~250℃の温度において0.01~24時間水熱反応に供する。反応温度は、反応効率と反応の制御性の観点から80~250℃が適切であり、その結果、スズ成分及び遷移金属成分含有ペルオキソチタン酸は、スズ成分及び遷移金属成分が固溶された酸化チタン粒子に変換されていく。なお、ここで圧力制御の下とは、反応温度が分散媒の沸点を超える場合には、反応温度が維持できるように、適宜加圧を行い、反応温度を維持することをいい、分散媒の沸点以下の温度とする場合に大気圧で制御する場合を含む。ここで用いる圧力は、通常0.12~4.5MPa程度、好ましくは0.15~4.5MPa程度、より好ましくは0.20~4.5MPa程度である。反応時間は、1分~24時間であることが好ましい。この工程(2)により、スズ成分及び遷移金属成分が固溶された酸化チタン粒子分散液が得られる。
この工程(2)で得られるスズ成分及び遷移金属成分が固溶された酸化チタン粒子分散液のpHは、8~14であることが好ましく、10~14であることがより好ましい。この工程(2)で得られるスズ成分及び遷移金属成分が固溶された酸化チタン粒子分散液は前述のpHとなるように、pH調整等のため、アルカリ性物質又は酸性物質を含んでいてもよく、アルカリ性物質、酸性物質及びpH調整の方法は、前述の工程(1)で得られるペルオキソチタン酸溶液と同様である。
【0063】
ここで得られる酸化チタン粒子の粒子径は、既に述べた通りの範囲のものが好ましいが、反応条件を調整することで粒子径を制御することが可能であり、例えば、反応時間や昇温時間を短くすることによって粒子径を小さくすることができる。
【0064】
・工程(3):
工程(3)では、上記工程(1)~(2)とは別に、原料鉄化合物及び原料ケイ素化合物を水性分散媒中に溶解または分散させることにより、鉄成分及びケイ素成分の溶液または分散液を製造する。
【0065】
原料鉄化合物としては、上述した鉄化合物、例えば、鉄の金属単体(Fe)、酸化物(Fe2O3、Fe3O4)、水酸化物(Fe(OH)2、Fe(OH)3)、オキシ水酸化物(FeO(OH))、塩化物(FeCl2、FeCl3)、硝酸塩(Fe(NO)3)、硫酸塩(FeSO4、Fe2(SO4)3)、ハロゲン(Br、I)化物、錯化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。その中でも、酸化物(Fe2O3、Fe3O4)、オキシ水酸化物(FeO(OH))、塩化物(FeCl2、FeCl3)、硝酸塩(Fe(NO)3)、硫酸塩(FeSO4、Fe2(SO4)3)を使用することが好ましい。
【0066】
原料ケイ素化合物としては、上述したケイ素化合物、例えば、ケイ素の金属単体(Si)、酸化物(SiO、SiO2)、アルコキシド(Si(OCH3)4、Si(OC2H5)4、Si(OCH(CH3)2)4)、ケイ酸塩(ナトリウム塩、カリウム塩)及びこのケイ酸塩からナトリウムやカリウム等のイオンを除去した活性ケイ酸等が挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。その中でも、ケイ酸塩(ケイ酸ナトリウム)や活性ケイ酸を使用することが好ましい。活性ケイ酸は、例えばケイ酸ナトリウムを純水に溶解したケイ酸ナトリウム水溶液に陽イオン交換樹脂を添加してナトリウムイオンの少なくとも一部を除去することで得られ、得られた活性ケイ酸溶液のpHが2~10、好ましくは2~7となるように陽イオン交換樹脂を添加することが好ましい。
【0067】
こうして得られる鉄成分及びケイ素成分含有溶液または分散液も、pH調整等のため、アルカリ性物質又は酸性物質を含んでいてもよく、ここでいう、アルカリ性物質及び酸性物質、そしてpH調整も前述と同様に取り扱うことができる。鉄成分及びケイ素成分含有溶液または分散液のpHは1~7であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
【0068】
工程(3)で製造する鉄成分及びケイ素成分の溶液または分散液中の原料鉄化合物濃度は0.001~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましく、原料ケイ素化合物濃度は0.001~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましい。
【0069】
また、この鉄成分及びケイ素成分の溶液または分散液は、更に遷移金属成分(モリブデン、タングステン、バナジウム)を溶解または分散していてもよい。
遷移金属成分としてはモリブデン、タングステン、バナジウムが挙げられ、その原料化合物としては上述のようなものを挙げることができる。
工程(3)で製造する鉄成分及びケイ素成分の溶液または分散液に更に遷移金属成分(モリブデン、タングステン、バナジウム)を溶解または分散する場合の添加量は、遷移金属成分の種類に応じて適宜選定し得るが、チタンとのモル比(Ti/遷移金属)で10~10,000であることが好ましい。
酸化チタン粒子に添加する遷移金属成分として、モリブデン、タングステン、バナジウムの中から複数を選択することもでき、その際の各成分量は上記範囲より選択することができる。但し、各成分量の合計とチタンとのモル比[Ti/(Mo+W+V)]は、10以上10,000より小さい。
【0070】
・工程(4):
工程(4)では、工程(2)で得られた酸化チタン粒子分散液と工程(3)で得られた鉄成分及びケイ素成分の溶液または分散液とを混合する。混合方法は特に限定されず、攪拌機で撹拌する方法でも、超音波分散機で分散させる方法でもよい。混合時の温度は20~100℃、好ましくは20~80℃、より好ましくは20~40℃であり、時間は1分~3時間であることが好ましい。混合比については、酸化チタン粒子分散液中のTiとFe及びSiのモル比が、既に述べた通りのモル比になるように混合すればよい。
【0071】
上記の工程(1)~(4)で得られた酸化チタン粒子分散液は、pH調整等のため、アルカリ性物質又は酸性物質を含んでいてもよく、pH調整剤としては上述のようなものを使用することができる。また、イオン成分濃度の調整のためにイオン交換処理やろ過洗浄処理を行ったり、溶媒成分変更のために溶媒置換処理を行ったりしてもよい。酸化チタン粒子分散液のpHは7~14であることが好ましく、8~12であることがより好ましい。
【0072】
酸化チタン粒子分散液に含まれる酸化チタン粒子の質量は、酸化チタン粒子分散液の質量と濃度から算出できる。なお、酸化チタン粒子分散液の濃度の測定方法は、酸化チタン粒子分散液の一部をサンプリングし、105℃で1時間加熱して溶媒を揮発させた後の不揮発分(酸化チタン粒子)の質量とサンプリングした酸化チタン粒子分散液の質量から、次式に従い算出することができる。
酸化チタン粒子分散液の濃度(%)=〔不揮発分質量(g)/酸化チタン粒子分散液質量(g)〕×100
【0073】
こうして調製された酸化チタン粒子分散液中の鉄成分及びケイ素成分と酸化チタン粒子の合計の濃度は、上述した通り、所要の厚さの光触媒薄膜の作製し易さの点で、0.01~20質量%が好ましく、特に0.5~10質量%が好ましい。濃度調整については、濃度が所望の濃度より高い場合には、水性溶媒を添加して希釈することで濃度を下げることができ、所望の濃度より低い場合には、水性溶媒を揮発もしくは濾別することで濃度を上げることができる。なお、濃度は、上述のように算出することができる。
【0074】
また、上述した膜形成性を高めるバインダーを添加する場合には、上述したバインダーの溶液(水性バインダー溶液)を、混合した後に所望の濃度となるよう、上述のように濃度調整を行った酸化チタン粒子分散液に対して添加することが好ましい。
なお、酸化チタン粒子分散液に含まれるケイ素成分は酸化チタン粒子及び鉄成分の凝集・沈殿を抑制し、光触媒活性の低下を抑制するものであり、酸化チタン粒子と鉄成分を混合するときに同時に添加されるものである。一方、バインダーは、酸化チタン粒子分散液の膜形成性を高めるものであり、酸化チタン粒子分散液を調製後、塗工する前に添加されるものであり、両者は異なるものである。
【0075】
<酸化チタン粒子>
本発明の酸化チタン粒子は、スズ成分及び可視光活性を高める遷移金属が固溶され、鉄成分及びケイ素成分が表面に付着していることを特徴とする。鉄成分及びケイ素成分は酸化チタン粒子表面の少なくとも一部に付着していればよく、全面に付着していてもよい。また、本発明の酸化チタン粒子は、鉄成分及びケイ素成分に加えて、更にモリブデン、タングステン及びバナジウム成分から選ばれる少なくとも1種の金属成分が表面に付着していてもよい。
【0076】
酸化チタン粒子の表面に鉄成分及びケイ素成分を付着させる方法は特に限定されるものではないが、固体状態で混合する方法(酸化チタン粒子粉末と鉄成分及びケイ素成分からなる粉末を混合)、液体状態で混合する方法(酸化チタン粒子分散液と鉄成分及びケイ素成分からなる溶液または分散液を混合)、固体と液体を混合する方法(酸化チタン粒子粉末に鉄成分及びケイ素成分からなる溶液または分散液を混合、あるいは、酸化チタン粒子分散液に鉄成分及びケイ素成分からなる粉末を混合)などを挙げることができる。ケイ素成分は鉄成分の凝集を抑制する役割を担うため、鉄成分とケイ素成分を予め混合したのちに酸化チタン粒子と混合することが好ましい。
なかでも、液体状態で混合する方法が好ましく、上述した酸化チタン粒子分散液の製造方法のように、工程(1)~(4)による方法がより好ましい。
【0077】
酸化チタン粒子の表面には、混合した鉄成分及びケイ素成分の少なくとも一部が付着していればよく、混合した鉄成分及びケイ素成分の全てが付着していてもよい。さらには、鉄成分とケイ素成分が各々酸化チタン粒子表面に直接付着していることがよい。
【0078】
<酸化チタン粒子を含む光触媒薄膜・光触媒薄膜を表面に有する部材>
本発明の酸化チタン粒子分散液は、各種部材の表面に光触媒膜を形成させるために使用することができる。ここで、各種部材は、特に制限されないが、部材の材料としては、例えば、有機材料、無機材料が挙げられる。これらは、それぞれの目的、用途に応じた様々な形状を有することができる。
【0079】
有機材料としては、例えば、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、アクリル樹脂、ポリアセタール、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルイミド(PEEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂等の合成樹脂材料、天然ゴム等の天然材料、又は上記合成樹脂材料と天然材料との半合成材料が挙げられる。これらは、フィルム、シート、繊維材料、繊維製品、その他の成型品、積層体等の所要の形状、構成に製品化されていてもよい。
【0080】
無機材料としては、例えば、非金属無機材料、金属無機材料が包含される。非金属無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック、石材等が挙げられる。これらは、タイル、硝子、ミラー、壁、意匠材等の様々な形に製品化されていてもよい。金属無機材料としては、例えば、鋳鉄、鋼材、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、亜鉛ダイキャスト等が挙げられる。これらは、上記金属無機材料のメッキが施されていてもよいし、上記有機材料が塗布されていてもよいし、上記有機材料又は非金属無機材料の表面に施すメッキであってもよい。
【0081】
本発明の酸化チタン粒子分散液は、上記各種部材の中でも、特に、PET等の高分子フィルム上に透明な光触媒薄膜を作製するのに有用である。
【0082】
各種部材表面への光触媒薄膜の形成方法としては、酸化チタン粒子分散液を、例えば、上記部材表面に、スプレーコート、ディップコート等の公知の塗布方法により塗布した後、遠赤外線乾燥、IH乾燥、熱風乾燥等の公知の乾燥方法により乾燥させればよく、光触媒薄膜の厚さも種々選定され得るが、通常、10nm~10μmの範囲が好ましい。
これにより、上述した酸化チタン粒子の被膜が形成される。この場合、上記分散液に上述した量でバインダーが含まれている場合は、酸化チタン粒子とバインダーとを含む被膜が形成される。
【0083】
このようにして形成される光触媒薄膜は、透明であり、従来のように紫外領域の光(波長10~400nm)において良好な光触媒作用を与えるばかりでなく、従来の光触媒では十分な光触媒作用を得ることができなかった可視領域の光(波長400~800nm)でもより優れた光触媒作用が得られるものであり、該光触媒薄膜が形成された各種部材は、酸化チタンの光触媒作用により表面に吸着した有機物をより速やかに分解することから、該部材表面の清浄化、脱臭、抗菌等の効果を発揮することができるものである。
【実施例】
【0084】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本発明における各種の測定は次のようにして行った。
【0085】
(1)分散液中の酸化チタン粒子の50%及び90%累積分布径(D50及びD90)
分散液中の酸化チタン粒子のD50及びD90は、粒度分布測定装置(ELSZ-2000ZS(大塚電子(株)製))を使用して、レーザー光を用いた動的光散乱法により測定される体積基準の50%及び90%累積分布径として算出した。
【0086】
(2)光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能試験
分散液を塗布、乾燥することで作製した光触媒薄膜の活性を、アセトアルデヒドガスの分解反応により評価した。評価はバッチ式ガス分解性能評価法により行った。
実施例又は比較例で調製した各酸化チタン粒子分散液を、A4サイズ(210mm×297mm)のPETフィルムの一面に酸化チタン粒子の乾燥質量が約20mgになるように#7のワイヤーバーコーターによって塗り広げて評価用サンプルを作製し、80℃に設定したオーブンで1時間乾燥させて、アセトアルデヒドガス分解性能評価用サンプルを得た。
この評価用サンプルを用いて、酸化チタン粒子の光触媒活性を、アセトアルデヒドガスの分解反応により評価した。評価はバッチ式ガス分解性能評価法により行った。
具体的には、容積5Lの石英ガラス窓付きステンレス製セル内に評価用サンプルを設置したのち、該セルを湿度50%に調湿した初期濃度のアセトアルデヒドガスで満たし、該セル上部に設置した光源で光を照射した。酸化チタンの光触媒作用によりアセトアルデヒドガスが分解すると、該セル中のアセトアルデヒドガス濃度が低下する。そこで、その濃度変化を測定することで光触媒活性の強さを確認できる。アセトアルデヒドガス濃度は光音響マルチガスモニタ(商品名“INNOVA1412”、LumaSense社製)を用いて、光照射開始からアセトアルデヒドガス濃度が1ppm以下になるまでの時間を測定して光触媒活性を評価した。時間が短いほど光触媒活性が高く、時間が長いほど光触媒活性が低いことを示す。
【0087】
可視光照射下での光触媒活性評価において、光源にはLED(商品型番“TH-211×200SW”、シーシーエス(株)、分光分布:400~800nm)を使用し、照度20,000Lxの条件で可視光を照射した。このとき、セル内のアセトアルデヒド初期濃度は5ppmとした。
また、紫外線照射下での光触媒活性評価において、光源にはUV蛍光ランプ(商品型番“FL10 BLB”、東芝ライテック(株))を使用し、放射照度が0.5mW/cm2の条件で紫外線を照射した。このとき、セル内のアセトアルデヒド初期濃度は20ppmとした。
【0088】
(3)酸化チタン粒子の結晶相の同定
酸化チタン粒子の結晶相は、得られた酸化チタン粒子の分散液を105℃、3時間乾燥させて回収した酸化チタン粒子粉末の粉末X線回折(商品名“卓上型X線回折装置D2 PHASER”、ブルカー・エイエックスエス(株))を測定することで同定した。
【0089】
(4)酸化チタン粒子分散液の調製
[調製例1-1]
<スズ及びモリブデンが固溶された酸化チタン粒子分散液の調製>
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液に塩化スズ(IV)をTi/Sn(モル比)が20となるように添加・溶解し、これを純水で10倍に希釈した後、10質量%のアンモニア水を徐々に添加して中和、加水分解することにより、スズを含有する水酸化チタンの沈殿物を得た。このときのpHは8であった。得られた沈殿物を、純水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後の、スズを含有する水酸化チタン沈殿物に、前記の塩化チタン(IV)水溶液中のTi成分に対してTi/Mo(モル比)が250となるようモリブデン(VI)酸ナトリウムを添加した。H2O2/(Ti+Sn+Mo)(モル比)が10となるように35質量%過酸化水素水を添加し、その後60℃で2時間撹拌して十分に反応させ、橙色透明のスズ及びモリブデン含有ペルオキソチタン酸溶液(1a)を得た。
【0090】
容積500mLのオートクレーブに、スズ及びモリブデン含有ペルオキソチタン酸溶液(1a)400mLを仕込み、これを150℃の条件下、90分間水熱処理し、その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、スズ及びモリブデンが固溶された酸化チタン粒子(1A)の分散液(酸化チタン濃度1.2質量%、pH11)を得た。酸化チタン粒子(1A)の粉末X線回折測定を行ったところ、観測されるピークはルチル型酸化チタンのもののみであり、スズ及びモリブデンが酸化チタンに固溶されていることが分かった。
【0091】
[調製例1-2]
<スズ、モリブデン及びタングステンが固溶された酸化チタン粒子分散液の調製>
Ti/Sn(モル比)が10となるように塩化スズ(IV)を、脱イオン処理後のスズを含有する水酸化チタン沈殿物にTi/Mo(モル比)が100となるようにモリブデン(VI)酸ナトリウムとTi/W(モル比)が250となるようにタングステン(VI)酸ナトリウムを添加したことと、水熱処理時間を120分間としたこと以外は調製例1-1と同様にして、スズ、モリブデン及びタングステンが固溶された酸化チタン粒子(1B)の分散液(酸化チタン濃度1.2質量%、pH10)を得た。酸化チタン粒子(1B)の粉末X線回折測定を行ったところ、観測されるピークはルチル型酸化チタンのもののみであり、スズ、モリブデン及びタングステンが酸化チタンに固溶されていることが分かった。
【0092】
[調製例1-3]
<スズ、モリブデン及びバナジウムが固溶された酸化チタン粒子分散液の調製>
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液に塩化スズ(IV)をTi/Sn(モル比)が33となるように添加・溶解し、これを純水で10倍に希釈した後、この水溶液に、バナジン(V)酸ナトリウムが前記の塩化チタン(IV)水溶液中のTi成分に対してTi/V(モル比)が2,000となるよう添加・溶解した10質量%のアンモニア水を徐々に添加して中和、加水分解することにより、スズ及びバナジウムを含有する水酸化チタンの沈殿物を得た。このときのpHは8であった。得られた沈殿物を、純水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後の、スズ及びバナジウムを含有する水酸化チタン沈殿物にTi/Mo(モル比)が500となるようにモリブデン(VI)酸ナトリウムを添加してから、H2O2/(Ti+Sn+Mo+V)(モル比)が10となるように35質量%過酸化水素水を添加し、その後50℃で3時間撹拌して十分に反応させ、橙色透明のスズ、モリブデン及びバナジウム含有ペルオキソチタン酸溶液(1c)を得た。
【0093】
容積500mLのオートクレーブに、スズ、モリブデン及びバナジウム含有ペルオキソチタン酸溶液(1c)400mLを仕込み、これを160℃の条件下、60分間水熱処理し、その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、スズ、モリブデン及びバナジウムが固溶された酸化チタン粒子(1C)の分散液(酸化チタン濃度1.2質量%、pH10)を得た。酸化チタン粒子(1C)の粉末X線回折測定を行ったところ、観測されるピークはアナターゼ型酸化チタンとルチル型酸化チタンのものであり、スズ、モリブデン及びバナジウムが酸化チタンに固溶されていることが分かった。
【0094】
[調製例1-4]
<スズ及びモリブデンが固溶された酸化チタン粒子分散液の調製>
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液に塩化スズ(IV)をTi/Sn(モル比)が20となるように添加・溶解し、これを純水で10倍に希釈した後、10質量%のアンモニア水を徐々に添加して中和、加水分解することにより、スズを含有する水酸化チタンの沈殿物を得た。このときのpHは8であった。得られた沈殿物を、純水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後の、スズを含有する水酸化チタン沈殿物に、前記の塩化チタン(IV)水溶液中のTi成分に対してTi/Mo(モル比)が50となるようモリブデン(VI)酸ナトリウムを添加した。H2O2/(Ti+Sn+Mo)(モル比)が12となるように35質量%過酸化水素水を添加し、その後60℃で2時間撹拌して十分に反応させ、橙色透明のスズ及びモリブデン含有ペルオキソチタン酸溶液(1d)を得た。
【0095】
容積500mLのオートクレーブに、スズ及びモリブデン含有ペルオキソチタン酸溶液(d)400mLを仕込み、これを150℃の条件下、90分間水熱処理し、その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、スズ及びモリブデンが固溶された酸化チタン粒子(1D)の分散液(酸化チタン濃度1.2質量%、pH11)を得た。酸化チタン粒子(1D)の粉末X線回折測定を行ったところ、観測されるピークはルチル型酸化チタンのもののみであり、スズ及びモリブデンが酸化チタンに固溶されていることが分かった。
【0096】
[調製例1-5]
<スズ及びタングステンが固溶された酸化チタン粒子分散液の調製>
Ti/Sn(モル比)が50となるように塩化スズ(IV)を、脱イオン処理後のスズを含有する水酸化チタン沈殿物にTi/W(モル比)が33となるようにタングステン(VI)酸ナトリウムを添加したこと以外は調製例1-1と同様にして、スズ及びタングステンが固溶された酸化チタン粒子(1E)の分散液(酸化チタン濃度1.2質量%、pH10)を得た。酸化チタン粒子(1E)の粉末X線回折測定を行ったところ、観測されるピークはアナターゼ型酸化チタンとルチル型酸化チタンのもののみであり、スズ及びタングステンが酸化チタンに固溶されていることが分かった。
【0097】
[調製例1-6]
<スズが固溶された酸化チタン粒子分散液の調製>
モリブデン(VI)酸ナトリウムを添加しなかったこと以外は調製例1-1と同様にして、スズが固溶された酸化チタン粒子(1F)の分散液(酸化チタン濃度1.2質量%、pH10)を得た。酸化チタン粒子(1F)の粉末X線回折測定を行ったところ、観測されるピークはルチル型酸化チタンのもののみであり、スズが酸化チタンに固溶されていることが分かった。
【0098】
[調製例1-7]
<モリブデンが固溶された酸化チタン粒子分散液の調製>
塩化スズ(IV)を添加しなかったこと以外は調製例1-1と同様にして、モリブデンが固溶された酸化チタン粒子(1G)の分散液(酸化チタン濃度1.2質量%、pH10)を得た。酸化チタン粒子(1G)の粉末X線回折測定を行ったところ、観測されるピークはアナターゼ型酸化チタンのもののみであり、モリブデンが酸化チタンに固溶されていることが分かった。
【0099】
[調製例1-8]
<タングステンが固溶された酸化チタン粒子分散液の調製>
塩化スズ(IV)を添加しなかったことと、脱イオン処理後の水酸化チタン沈殿物にTi/W(モル比)が100となるようにタングステン(VI)酸ナトリウムを添加したこと以外は調製例1-5と同様にして、タングステンが固溶された酸化チタン粒子(1H)の分散液(酸化チタン濃度1.2質量%、pH10)を得た。酸化チタン粒子(1H)の粉末X線回折測定を行ったところ、観測されるピークはアナターゼ型酸化チタンのもののみであり、タングステンが酸化チタンに固溶されていることが分かった。
【0100】
[調製例1-9]
<酸化チタン粒子分散液の調製>
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液を純水で10倍に希釈した後、10質量%のアンモニア水を徐々に添加して中和、加水分解することにより、水酸化チタンの沈殿物を得た。このときのpHは8.5であった。得られた沈殿物を、純水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後の、水酸化チタン沈殿物にH2O2/Ti(モル比)が8となるように35質量%過酸化水素水を添加し、その後60℃で2時間撹拌して十分に反応させ、橙色透明のペルオキソチタン酸溶液(1i)を得た。
【0101】
容積500mLのオートクレーブに、ペルオキソチタン酸溶液(1i)400mLを仕込み、これを130℃の条件下、90分間水熱処理し、その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、酸化チタン粒子(1I)の分散液(酸化チタン濃度1.2質量%、pH11)を得た。酸化チタン粒子(1I)の粉末X線回折測定を行ったところ、観測されるピークはアナターゼ型酸化チタンのもののみであった。
【0102】
[調製例1-10]
<鉄及びケイ素が固溶された酸化チタン粒子分散液の調製>
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液に塩化鉄(III)をTi/Fe(モル比)が20となるように添加し、これを純水で10倍に希釈した後、この水溶液に、前記の塩化チタン(IV)水溶液中のTi成分に対してTi/Si(モル比)が7.5となるようケイ酸ナトリウムを添加・溶解した10質量%のアンモニア水を徐々に添加して中和、加水分解することにより鉄及びケイ素を含有する水酸化チタンの沈殿物を得た。このときのpHは8であった。得られた沈殿物を、純水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後の鉄及びケイ素を含有する水酸化チタン沈殿物に、H2O2/(Ti+Fe+Si)(モル比)が15となるように35質量%過酸化水素水を添加し、その後50℃で2時間撹拌して十分に反応させ、橙色透明の鉄及びケイ素を含有するペルオキソチタン酸溶液(1l)を得た。
【0103】
容積500mLのオートクレーブに、鉄及びケイ素含有ペルオキソチタン酸溶液(1l)400mLを仕込み、これを130℃の条件下、120分間水熱処理し、その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、鉄及びケイ素が固溶された酸化チタン粒子(1L)の分散液(酸化チタン濃度1.2質量%、pH11)を得た。酸化チタン粒子(1L)の粉末X線回折測定を行ったところ、観測されるピークはアナターゼ型酸化チタンのもののみであり、鉄及びケイ素が酸化チタンに固溶されていることが分かった。
【0104】
表1に、各調製例で調製した酸化チタン粒子の原料比、水熱処理条件、分散粒子径(D50、D90)をまとめて示す。分散粒子径はレーザー光を用いた動的光散乱法(ELSZ-2000ZS(大塚電子(株)製)により測定した。
【0105】
【0106】
(5)鉄成分及びケイ素成分の溶液または分散液の調製
[調製例2-1]
<硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液の調製>
純水100gにJIS3号珪酸ソーダ(SiO2換算29.1質量%)を0.34g溶解して得た珪酸ソーダ水溶液に強酸性陽イオン交換樹脂(アンバージェット1024H、オルガノ(株)製)を添加して撹拌したあと、イオン交換樹脂をろ別することで活性珪酸水溶液を得た。この活性珪酸水溶液に硫酸第二鉄を0.13g添加することで、pH2.6の硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液(2A)を得た。
【0107】
[調製例2-2]
<硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液の調製>
純水100gにJIS3号珪酸ソーダ(SiO2換算)を3.43g溶解して得た珪酸ソーダ水溶液に強酸性陽イオン交換樹脂(アンバージェット1024H、オルガノ(株)製)添加して撹拌したあと、イオン交換樹脂をろ別することで活性珪酸水溶液を得た。この活性珪酸水溶液に硫酸第二鉄を0.50g添加することで、pH1.9の硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液(2B)を得た。
【0108】
[調製例2-3]
<硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液の調製>
純水100gにJIS3号珪酸ソーダ(SiO2換算)を0.034g溶解して得た珪酸ソーダ水溶液に強酸性陽イオン交換樹脂(アンバージェット1024H、オルガノ(株)製)添加して撹拌したあと、イオン交換樹脂をろ別することで活性珪酸水溶液を得た。この活性珪酸水溶液に硫酸第二鉄を0.025g添加することで、pH3.1の硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液(2C)を得た。
【0109】
[調製例2-4]
<硫酸鉄、活性珪酸及びモリブデン酸の水溶液の調製>
調製例2-1で得られた硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液にモリブデン(VI)酸ナトリウム二水和物を0.34g添加することで、pH2.5の硫酸鉄、活性珪酸及びモリブデン酸の水溶液(2D)を得た。
【0110】
[調製例2-5]
<硫酸鉄、活性珪酸及びタングステン酸の水溶液の調製>
調製例2-1で得られた硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液にタングステン(VI)酸ナトリウム二水和物を0.071g添加することで、pH2.6の硫酸鉄、活性珪酸及びタングステン酸の水溶液(2E)を得た。
【0111】
[調製例2-6]
<硫酸鉄、活性珪酸及びバナジン酸の水溶液の調製>
調製例2-1で得られた硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液にバナジン(V)酸ナトリウムを0.020g添加することで、pH2.6の硫酸鉄、活性珪酸及びバナジン酸の水溶液(2F)を得た。
【0112】
[調製例2-7]
<硫酸鉄水溶液の調製>
純水100gに硫酸第二鉄を0.50g添加することでpH1.8の硫酸鉄水溶液(2G)を得た。
【0113】
[調製例2-8]
<活性珪酸水溶液の調製>
調製例2-1で硫酸鉄水溶液を添加しなかったこと以外は同様にしてpH3.8の活性珪酸水溶液(2H)を得た。
【0114】
(7)酸化チタン粒子分散液の調製
[実施例1]
酸化チタン粒子(1A)の分散液に硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液(2A)をTi/Feが200、Ti/Siが75となるように25℃で10分間、撹拌機で混合したあと、固形分濃度を純水で1質量%に調整して、pH10の酸化チタン粒子分散液(E-1)を得た。
【0115】
[実施例2]
酸化チタン粒子(1B)の分散液に硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液(2B)をTi/Feが50、Ti/Siが8となるように25℃で10分間、撹拌機で混合したあと、固形分濃度を純水で1質量%に調整して、pH9の酸化チタン粒子分散液(E-2)を得た。
【0116】
[実施例3]
酸化チタン粒子(1C)の分散液に硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液(2C)をTi/Feが1,000、Ti/Siが752となるように25℃で10分間、撹拌機で混合したあと、固形分濃度を純水で1質量%に調整して、pH10の酸化チタン粒子分散液(E-3)を得た。
【0117】
[実施例4]
酸化チタン粒子(1A)の分散液に硫酸鉄、活性珪酸及びモリブデン酸の水溶液(2D)をTi/Feが200、Ti/Siが75、Ti/Moが90となるように25℃で10分間、撹拌機で混合したあと、固形分濃度を純水で1質量%に調整して、pH10の酸化チタン粒子分散液(E-4)を得た。
【0118】
[実施例5]
酸化チタン粒子(1A)の分散液に硫酸鉄、活性珪酸及びタングステン酸の水溶液(2E)をTi/Feが200、Ti/Siが75、Ti/Wが360となるように25℃で10分間、撹拌機で混合したあと、固形分濃度を純水で1質量%に調整して、pH10の酸化チタン粒子分散液(E-5)を得た。
【0119】
[実施例6]
酸化チタン粒子(1A)の分散液に硫酸鉄、活性珪酸及びバナジン酸の水溶液(2F)をTi/Feが200、Ti/Siが75、Ti/Vが1,802となるように25℃で10分間、撹拌機で混合したあと、固形分濃度を純水で1質量%に調整して、pH10の酸化チタン粒子分散液(E-6)を得た。
【0120】
[実施例7]
酸化チタン粒子(1D)の分散液に硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液(2A)をTi/Feが200、Ti/Siが75となるように25℃で10分間、撹拌機で混合したあと、固形分濃度を純水で1質量%に調整して、pH10の酸化チタン粒子分散液(E-7)を得た。
【0121】
[実施例8]
酸化チタン粒子(1E)の分散液に硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液(2A)をTi/Feが200、Ti/Siが75となるように25℃で10分間、撹拌機で混合したあと、固形分濃度を純水で1質量%に調整して、pH10の酸化チタン粒子分散液(E-8)を得た。
【0122】
[実施例9]
酸化チタン粒子分散液(E-1)にケイ素化合物系(シリカ系)のバインダー(コロイダルシリカ、商品名:スノーテックス20、日産化学工業(株)製)をTiO2/SiO2(質量比)が1.5となるように添加し、25℃で10分間、撹拌機で混合することで、バインダーを含有する酸化チタン粒子分散液(E-9)を得た。
【0123】
[比較例1]
酸化チタン粒子(1F)の分散液に硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液(2A)をTi/Feが200、Ti/Siが75となるように25℃で10分間、撹拌機で混合したあと、固形分濃度を純水で1質量%に調整して、pH10の酸化チタン粒子分散液(C-1)を得た。
【0124】
[比較例2]
酸化チタン粒子(1G)の分散液に硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液(2B)をTi/Feが50、Ti/Siが8となるように25℃で10分間、撹拌機で混合したあと、固形分濃度を純水で1質量%に調整して、pH10の酸化チタン粒子分散液(C-2)を得た。
【0125】
[比較例3]
酸化チタン粒子(1H)の分散液に硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液(2C)をTi/Feが100、Ti/Siが752となるように25℃で10分間、撹拌機で混合したあと、固形分濃度を純水で1質量%に調整して、pH10の酸化チタン粒子分散液(C-3)を得た。
【0126】
[比較例4]
酸化チタン粒子(1I)の分散液に硫酸鉄及び活性珪酸の水溶液(2A)をTi/Feが200、Ti/Siが75となるように25℃で10分間、撹拌機で混合したあと、固形分濃度を純水で1質量%に調整して、pH10の酸化チタン粒子分散液(C-4)を得た。
【0127】
[比較例5]
酸化チタン粒子(1A)の分散液に酸化チタン粒子(1J)の分散液を、Ti/Feが200、Ti/Siが75となるように25℃で10分間、撹拌機で混合したあと、固形分濃度を純水で1質量%に調整して、pH10の酸化チタン粒子分散液(C-5)を得た。
【0128】
[比較例6]
酸化チタン粒子(1A)の分散液に硫酸鉄の水溶液(2G)をTi/Feが50となるように25℃で10分間、撹拌機で混合したあと、固形分濃度を純水で1質量%に調整して、pH10の酸化チタン粒子分散液(C-6)を得た。硫酸鉄の添加によって酸化チタン粒子は凝集・沈殿した。また、酸化チタン粒子分散液(C-6)を孔径1μmのPP製フィルターでろ過したところ、フィルター上に褐色の鉄成分がろ別されたことから、鉄成分も凝集していることが分かった。
【0129】
[比較例7]
酸化チタン粒子(1A)の分散液に活性珪酸の水溶液(2H)をTi/Siが75となるように25℃で10分間、撹拌機で混合したあと、固形分濃度を純水で1質量%に調整して、pH10の酸化チタン粒子分散液(C-7)を得た。
【0130】
[比較例8]
酸化チタン粒子(1A)の分散液の固形分濃度を純水で1質量%に調整して、pH10の酸化チタン粒子分散液(C-8)を得た。
【0131】
[比較例9]
前記酸化チタン粒子分散液(C-8)にケイ素化合物系(シリカ系)のバインダー(コロイダルシリカ、商品名:スノーテックス20、日産化学工業(株)製)をTiO2/SiO2(質量比)が1.5となるように添加し、25℃で10分間、撹拌機で混合することで、バインダーを含有する酸化チタン粒子分散液(C-9)を得た。
【0132】
(8)光触媒薄膜を有するサンプル部材の作製
上記実施例又は比較例で調製した各酸化チタン粒子分散液を、#7のワイヤーバーコーターによってA4サイズのPETフィルムに20mgの光触媒酸化チタン粒子を含む光触媒薄膜(厚さ約80nm)を形成するよう塗工し、80℃に設定したオーブンで1時間乾燥させて、アセトアルデヒドガス分解性能評価用サンプル部材を得た。
【0133】
[可視光照射下での光触媒性能試験]
実施例及び比較例の光触媒薄膜を有するサンプル部材に対し、LEDによる可視光照射下でアセトアルデヒド分解試験を行なった。アセトアルデヒド初期濃度の5ppmから1ppmまで低減させるのに要する時間に基づき、評価した。
なお、24時間以内に1ppmまで低減しなかった場合、表2及び表3において「1ppmまで分解するのに要した時間」の欄には「-」と表示し、「24時間後の濃度」の欄に24時間後の当該濃度を表示した。
【0134】
表2には酸化チタン粒子と添加金属成分の種類、酸化チタン中のTiに対する添加金属成分中の金属のモル比、分散粒子径(D50、D90)、可視光照射下でのアセトアルデヒドガス分解試験結果をまとめて示す。分散粒子径はレーザー光を用いた動的光散乱法(ELSZ-2000ZS(大塚電子(株)製)により測定した。
【0135】
【0136】
実施例1~8と比較例1~4の結果から分かるように、スズ成分及び可視光活性を高める遷移金属成分の両方が固溶された酸化チタン粒子を使用することにより、スズ成分及び可視光活性を高める遷移金属成分のどちらか一方、あるいは両方とも固溶されていない酸化チタンを使用した場合よりも可視光照射下での光触媒活性が高いことが分かった。
【0137】
実施例1と比較例5の結果から分かるように、表面に鉄成分及びケイ素成分(2A)を付着させた酸化チタン粒子(1A)を使用することにより、鉄成分及びケイ素成分を固溶した酸化チタン粒子(1J)を酸化チタン粒子(1A)に混合して使用した場合よりも可視光照射下での光触媒活性が高いことが分かった。
【0138】
実施例1と比較例6の結果から分かるように、酸化チタン粒子(1A)に鉄成分を添加する際、ケイ素成分と共に添加することで酸化チタン粒子及び鉄成分の凝集・沈殿を抑制できることが分かった。
【0139】
実施例1と比較例7、8の結果から分かるように、酸化チタン粒子(1A)に対して鉄成分及びケイ素成分の両方を添加することにより、ケイ素成分のみ、あるいは両方とも添加しない場合よりも可視光照射下での光触媒活性が高いことが分かった。
【0140】
また、実施例1、9と比較例8、9の結果から分かるように、バインダーを含む光触媒薄膜においても同様に、表面に鉄成分及びケイ素成分(2A)を付着させた酸化チタン粒子を用いることで可視光照射下での光触媒活性の高い光触媒薄膜が得られることが分かった。
【0141】
以上より、本発明の表面に鉄成分及びケイ素成分が付着した、スズ成分及び可視光活性を高める遷移金属成分が固溶された酸化チタン粒子の光触媒性能が優れることが確認された。
【0142】
[UV照射下での光触媒性能試験]
実施例1、実施例9、比較例8及び比較例9の光触媒薄膜を有するサンプル部材に対し、UV蛍光ランプ照射下でアセトアルデヒド分解試験を行なった。アセトアルデヒド初期濃度の20ppmから1ppmまで低減させるのに要する時間に基づき、評価した。
【0143】
表3には酸化チタン粒子と添加金属の種類、酸化チタン中のTiに対する添加金属成分中の金属のモル比、分散粒子径(D50、D90)、アセトアルデヒドガス分解試験結果をまとめて示す。分散粒子径はレーザー光を用いた動的光散乱法(ELSZ-2000ZS(大塚電子(株)製)により測定した。
【0144】
【0145】
実施例1及び比較例8の結果から分かるように、酸化チタン粒子(1A)に対して、鉄成分及びケイ素成分を含有する溶液(2A)を混合することにより、酸化チタン粒子(1A)単独の光触媒活性よりも活性が向上することが分かった。
同様に、実施例9と比較例9の結果から、バインダーを含む光触媒薄膜においても、酸化チタン粒子(1A)に対して、鉄成分及びケイ素成分を含有する溶液(2A)を混合することにより、酸化チタン粒子(1A)単独の光触媒活性よりも活性が大幅に向上することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明の酸化チタン粒子分散液は、ガラス、金属等の無機物質、及び樹脂等の有機物質からなる種々の基材に施与して光触媒薄膜を作製するのに有用であり、特に種々の基材上に透明な光触媒薄膜を作製するのに有用である。