(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】切削装置
(51)【国際特許分類】
B24B 55/06 20060101AFI20240408BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20240408BHJP
B24B 55/02 20060101ALI20240408BHJP
B24B 55/04 20060101ALI20240408BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
B24B55/06
H01L21/78 F
B24B55/02 D
B24B55/04 Z
B24B27/06 M
(21)【出願番号】P 2020085968
(22)【出願日】2020-05-15
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】福岡 武臣
(72)【発明者】
【氏名】桑本 博美
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-224297(JP,A)
【文献】特開2006-289509(JP,A)
【文献】特開平04-267107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/06
B24B 55/02、55/04、55/06
H01L 21/301
B23Q 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持する保持手段と、
該保持手段に保持された被加工物を切削する切削ブレードが装着される回転可能なスピンドルを備えた切削手段と、
該保持手段と該切削手段とを相対的にX軸方向に加工送りするX軸送り手段と、
該保持手段と該切削手段とを相対的に該X軸方向に直交するY軸方向に割り出し送りするY軸送り手段と、を含み、
該切削手段は、
該切削ブレードを覆うブレードカバーと、
該ブレードカバーに設けられ該切削ブレードに切削水を供給するノズルと、
高さ方向に所定の間隔を持って配置された複数の湾曲板を有する霧抑制部と、を更に備える切削装置。
【請求項2】
該複数とは5枚~10枚であり、該所定の間隔とは3mm~5mmである請求項
1に記載の切削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の被加工物を切削する際に使用される切削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機やパーソナルコンピュータに代表される電子機器では、電子回路等のデバイスを備えるデバイスチップが必須の構成要素になっている。デバイスチップは、例えば、シリコン等の半導体材料でなるウェーハの表面側を分割予定ライン(ストリート)で複数の領域に区画し、各領域にデバイスを形成した後、この分割予定ラインでウェーハを分割することにより得られる。
【0003】
ウェーハに代表される板状の被加工物をデバイスチップ等の小片へと分割する際には、例えば、回転軸であるスピンドルに対して、切削ブレードと呼ばれる環状の砥石工具を装着した切削装置が使用される。切削ブレードを高速に回転させて、切削用の液体(切削水)を供給しながら被加工物の分割予定ラインに切削ブレードを切り込ませることで、この被加工物を切削して複数の小片へと分割できる。
【0004】
ところで、上述のような切削装置では、切削ブレードを高速に回転させて被加工物に切り込ませるので、被加工物や切削ブレードに供給される切削水は、切削加工によって発生する切粉等とともに、切削ブレードの回転の力によって飛散する。近年では、被加工物への切粉等の付着を抑制できるように、切削水とともに飛散する切粉等を捕集して除去できる除去部材を備えた切削装置等も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来の切削装置では、切削水の飛散に起因する霧の発生を必ずしも十分に抑制できないので、被加工物や切削ブレードが収容される加工室の内部に霧が充満して、この加工室を外部から視認できなくなるという問題があった。また、加工室の内部で発生する霧が切削装置の駆動部に付着すると、その寿命が短くなる可能性もあった。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、切削水の飛散に起因する霧の発生を抑制できる切削装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、被加工物を保持する保持手段と、該保持手段に保持された被加工物を切削する切削ブレードが装着される回転可能なスピンドルを備えた切削手段と、該保持手段と該切削手段とを相対的にX軸方向に加工送りするX軸送り手段と、該保持手段と該切削手段とを相対的に該X軸方向に直交するY軸方向に割り出し送りするY軸送り手段と、を含み、該切削手段は、該切削ブレードを覆うブレードカバーと、該ブレードカバーに設けられ該切削ブレードに切削水を供給するノズルと、高さ方向に所定の間隔を持って配置された複数の湾曲板を有する霧抑制部と、を更に備える切削装置が提供される。
【0011】
本発明の一態様において、該複数とは5枚~10枚であり、該所定の間隔とは3mm~5mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様にかかる切削装置は、コアンダ効果を利用した霧抑制部を備えるので、切削水の飛散に起因する霧の発生を適切に抑制できる。同様に、本発明の別の一態様にかかる切削装置は、高さ方向に所定の間隔を持って配置された複数の湾曲板を有する霧抑制部を備えるので、切削水の飛散に起因する霧の発生を適切に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】
図3は、部分的に分解された切削ユニットの斜視図である。
【
図4】
図4は、切削ユニットをカバー側から見た側面図である。
【
図5】
図5は、変形例にかかる切削ユニットをカバー側から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、実施形態にかかる切削装置2の斜視図である。なお、
図1では、一部の構成要素を機能ブロック等で示している。また、以下の説明で用いられるX軸方向(加工送り方向、前後方向)、Y軸方向(割り出し送り方向、左右方向)、及びZ軸方向(切り込み送り方向、高さ方向)は、互いに直交している。
【0015】
図1に示すように、切削装置2は、各構成要素が搭載される基台4を備えている。基台4の上面には、第1移動機構(X軸送り手段)6が設けられている。第1移動機構6は、例えば、基台4の上面に固定されX軸方向に対して概ね平行な一対のX軸ガイドレール8を備えている。
【0016】
一対のX軸ガイドレール8には、X軸移動プレート10がX軸方向にスライドできる態様で取り付けられている。X軸移動プレート10の下面(裏面)側には、ボールねじを構成するナット(不図示)が設けられている。このナットには、X軸ガイドレール8に対して概ね平行なねじ軸12が回転できる態様で連結(螺合)されている。
【0017】
ねじ軸12の一端部には、X軸パルスモーター14が接続されている。そのため、X軸パルスモーター14でねじ軸12を回転させれば、X軸移動プレート10は、X軸ガイドレール8に沿ってX軸方向に移動する。なお、X軸ガイドレール8の傍には、位置センサー(不図示)が設けられており、この位置センサーによって、X軸移動プレート10のX軸方向の位置が検出される。
【0018】
X軸移動プレート10の上面側(表面側)には、θテーブル16を介して柱状のチャックテーブルベース18が設けられている。チャックテーブルベース18の上面には、板状の被加工物11を保持できるように構成されたチャックテーブル(保持手段)20が配置されている。なお、このチャックテーブル20は、取り外すことができる態様でチャックテーブルベース18に装着される。
【0019】
被加工物11は、例えば、シリコン等の半導体でなる円盤状のウェーハである。この被加工物11の表面(上面)側は、互いに交差する複数の加工予定ライン(ストリート)によって複数の小領域に区画されており、各小領域には、IC(Integrated Circuit)等のデバイスが形成されている。
【0020】
被加工物11の裏面(下面)側には、例えば、被加工物11よりも直径の大きいテープ(ダイシングテープ)13が貼付される。また、テープ13の外周部分は、被加工物11を囲む環状のフレーム15に固定される。このように、被加工物11は、表面側が露出するようにテープ13を介してフレーム15に支持された状態で切削される。
【0021】
なお、本実施形態では、シリコン等の半導体でなる円盤状のウェーハを被加工物11としているが、被加工物11の材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えば、他の半導体、セラミックス、樹脂、金属等の材料でなる基板等を被加工物11として用いることもできる。
【0022】
同様に、被加工物11に形成されるデバイスの種類、数量、形状、構造、大きさ、配置等にも制限はない。被加工物11には、デバイスが形成されていなくても良い。また、被加工物11は、その裏面側が露出するように表面側にテープ13が貼付された状態や、テープ13が貼付されていない状態、フレーム15に支持されていない状態等で加工されることもある。
【0023】
θテーブル16は、モーター等の回転駆動源(不図示)を備えている。チャックテーブルベース18やチャックテーブル20は、θテーブル16の回転駆動源が生じる力によって、Z軸方向に対して概ね平行な回転軸の周りに回転する。また、上述した第1移動機構6でX軸移動プレート10をX軸方向に移動させれば、チャックテーブルベース18やチャックテーブル20は、X軸方向に加工送りされる。
【0024】
チャックテーブル20は、ステンレス鋼等の金属を用いて形成され上面側に凹部を有する枠体22と、セラミックス等を用いて多孔質状に形成され枠体22の凹部に固定されるポーラス板24と、を含んでいる。ポーラス板24の上面24aが、被加工物11を保持するための保持面になる。
【0025】
チャックテーブル20の周囲には、被加工物11を支持する環状のフレーム15を四方から固定する4個のクランプ26が配置されている。また、X軸移動プレート10を含む第1移動機構6の上方は、テーブルカバー28や蛇腹状カバー(不図示)によって覆われている。ただし、チャックテーブル20やクランプ26等は、テーブルカバー28の上方に露出している。
【0026】
第1移動機構6の上方には、被加工物11を搬送する搬送機構(不図示)が設けられている。また、第1移動機構6の周りには、被加工物11を切削する際に使用される切削水の廃液等を一時的に貯留するウォーターケース30が設けられている。ウォーターケース30内に貯留された廃液は、ドレーン(不図示)等を介して切削装置2の外部に排出される。
【0027】
基台4の上面には、第1移動機構6を跨ぐ門型の支持構造32が配置されている。支持構造32の前面の上部には、2組の第2移動機構(Y軸送り手段、Z軸送り手段)34が配置されている。各第2移動機構34は、支持構造32の前面に固定されY軸方向に対して概ね平行な一対のY軸ガイドレール36を共通に備えている。一対のY軸ガイドレール36には、各第2移動機構34のY軸移動プレート38がY軸方向にスライドできる態様で取り付けられている。
【0028】
各Y軸移動プレート38の裏面側(後面側)には、ボールねじを構成するナット(不図示)が設けられている。このナットには、Y軸ガイドレール36に対して概ね平行なねじ軸40が回転できる態様で連結(螺合)されている。各ねじ軸40の一端部には、Y軸パルスモーター42が接続されている。
【0029】
そのため、Y軸パルスモーター42でねじ軸40を回転させれば、Y軸移動プレート38は、Y軸ガイドレール36に沿ってY軸方向に移動する。なお、Y軸ガイドレール36の傍には、位置センサー(不図示)が設けられており、この位置センサーによって、Y軸移動プレート38のY軸方向の位置が検出される。
【0030】
各Y軸移動プレート38の表面(前面)には、Z軸方向に対して概ね平行な一対のZ軸ガイドレール44が固定されている。一対のZ軸ガイドレール44には、各第2移動機構34のZ軸移動プレート46がZ軸方向にスライドできる態様で取り付けられている。各Z軸移動プレート46の裏面側(後面側)には、ボールねじを構成するナット(不図示)が設けられている。このナットには、Z軸ガイドレール44に対して概ね平行なねじ軸48が回転できる態様で連結(螺合)されている。
【0031】
各ねじ軸48の一端部には、Z軸パルスモーター50が接続されている。そのため、Z軸パルスモーター50でねじ軸48を回転させれば、Z軸移動プレート46は、Z軸ガイドレール44に沿ってZ軸方向に移動する。なお、Z軸ガイドレール44の傍には位置センサー(不図示)が設けられており、この位置センサーによって、Z軸移動プレート46のZ軸方向の位置が検出される。
【0032】
各Z軸移動プレート46の下部には、被加工物11を切削する際に用いられる切削ユニット(切削手段)52と、被加工物11等を撮像する際に用いられるカメラ54と、が固定されている。各第2移動機構34によってY軸移動プレート38をY軸方向に移動させれば、切削ユニット52(及びカメラ54)は、Y軸方向に割り出し送りされる。また、各第2移動機構34によってZ軸移動プレート46をZ軸方向に移動させれば、切削ユニット52(及びカメラ54)は、Z軸方向に切り込み送りされる。
【0033】
基台4の上部には、加工室(不図示)が形成されている。被加工物11を切削する際には、この加工室の内部にチャックテーブル20や切削ユニット52等が収容される。加工室には、例えば、内部で発生する霧状の切削水を吸引して加工室の外部に排出できるダクトユニットが接続される。
【0034】
基台4の上部は、上述した加工室を収容できる筐体カバー(不図示)によって覆われている。筐体カバーの側面には、ユーザーインターフェースとなるタッチスクリーン(入出力装置)(不図示)が配置されている。例えば、被加工物11を切削する際に適用される種々の条件は、このタッチスクリーンに入力される。
【0035】
また、例えば、カメラ54で被加工物11等を撮像して得られる画像は、このタッチスクリーンに表示される。なお、表示装置(出力装置)と入力装置とが一体になったタッチスクリーンの代わりに、液晶ディスプレイ等の表示装置(出力装置)と、キーボードやマウス等の入力装置と、をそれぞれ設けても良い。
【0036】
第1移動機構6、θテーブル16、搬送機構、第2移動機構34、切削ユニット52、カメラ54、タッチスクリーン等の構成要素は、それぞれ、制御ユニット56に接続されている。この制御ユニット56は、被加工物11の切削に必要な一連の工程に合わせて、上述した各構成要素を制御する。
【0037】
制御ユニット56は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の処理装置と、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の主記憶装置と、ハードディスクドライブやフラッシュメモリ等の補助記憶装置と、を含むコンピュータによって構成される。補助記憶装置に記憶されるソフトウェアに従い処理装置等を動作させることによって、制御ユニット56の機能を実現できる。ただし、制御ユニット56は、ハードウェアのみによって実現されても良い。
【0038】
図2は、切削ユニット52の斜視図であり、
図3は、部分的に分解された状態の切削ユニット52の斜視図であり、
図4は、切削ユニット52の側面図である。
図2及び
図3に示すように、切削ユニット52は、筒状のスピンドルハウジング62を備えている。このスピンドルハウジング62には、Y軸方向に対して概ね平行な回転軸となるスピンドル64(
図3)が回転できるように収容される。スピンドル64の一端部は、スピンドルハウジング62の一端側から外部に露出している。
【0039】
このスピンドル64の一端部には、円盤状のマウンター66等を介して、環状の切削ブレード68が装着される。切削ブレード68は、例えば、ダイヤモンド等の砥粒を樹脂や金属等の結合剤で固定することによって形成され、被加工物11の切削に適している。スピンドル64の他端側には、モーター等の回転駆動源(不図示)が連結されており、スピンドル64の一端部に装着された切削ブレード68は、この回転駆動源が生じる力によって回転する。
【0040】
スピンドルハウジング62の一端側には、スピンドル64に装着された状態の切削ブレード68の外周部の上側を覆うブレードカバー70が設けられている。ブレードカバー70は、例えば、スピンドルハウジング62の一端部に固定される第1カバー72を備えている。
【0041】
図3に示すように、第1カバー72は、X軸方向の一方側(前方側)に位置する前部72aと、X軸方向の他方側(後方側)に位置する後部72bと、前部72aと後部72bとの間に位置する中間部72cと、を含んでいる。中間部72cのY軸方向に沿った長さは、前部72aのY軸方向に沿った長さや後部72bのY軸方向に沿った長さよりも短くなっている。
【0042】
また、中間部72cは、前部72aのスピンドルハウジング62側の一部と、後部72bのスピンドルハウジング62側の一部と、を接続している。つまり、前部72aと後部72bとの間のスピンドルハウジング62とは反対側には、中間部72cが存在しない隙間72dが設けられている。後部72bの上面の隙間72dに隣接する位置には、ねじ孔72eが形成されている。また、後部72bのスピンドルハウジング62とは反対側の面には、ねじ孔72fが形成されている。
【0043】
第1カバー72の上部には、隙間72dに対応した形状を持つ第2カバー74が、この隙間72dを塞ぐように取り付けられる。第2カバー74には、第1カバー72のねじ孔72eに対応する貫通孔74aが形成されており、この貫通孔74aを通じてねじ孔72eにねじ76を締め込むことによって、第1カバー72に第2カバー74が固定される。
【0044】
第1カバー72の後部72bのスピンドルハウジング62とは反対側の面には、第1カバー72の後部72bに似た形状の第3カバー78が装着される。第3カバー78には、第1カバー72のねじ孔72fに対応する貫通孔78aが形成されており、この貫通孔78aを通じてねじ孔72fにねじ80を締め込むことによって、第1カバー72に第3カバー78が固定される。
【0045】
第1カバー72の後部72bの下端と第3カバー78の下端とには、Y軸方向において切削ブレード68を挟むように配置される一対のノズル82が設けられている。被加工物11を切削する際には、この一対のノズル82から切削ブレード68に切削水が供給される。切削水としては、例えば、水(純水)や、水に薬品を添加した液体等が使用される。
【0046】
また、第1カバー72(後部72b)の下部には、切削ブレード68の回転に伴う切削水の飛散に起因する霧の発生を抑制できる霧抑制部84が設けられている。霧抑制部84は、第1カバー72(後部72b)の下部に上端が固定される枠体86を備えている。この枠体86は、X軸方向に貫通した開口部を中央に有している。枠体86及び開口部は、例えば、X軸方向から見て矩形状に形成されている。
【0047】
枠体86の開口部の内側には、X軸方向及びY軸方向に所定の長さ持つ複数の湾曲板88が、Z軸方向に所定の間隔を持って配置されている。具体的には、各湾曲板88のX軸方向の一端(前端)に位置する前端部88aが、枠体86の開口部の内側の縁に固定されている。
【0048】
各湾曲板88のX軸方向の長さは、例えば、5cm~15cm程度(代表的には、10cm)であり、各湾曲板88のY軸方向の長さは、例えば、2cm~4cm程度(代表的には、3cm)である。また、各湾曲板88の厚みは、例えば、0.1mm~2mm程度(代表的には、0.5mm)である。ただし、各湾曲板88は、必ずしも上述の範囲になくて良い。
【0049】
図4に示すように、各湾曲板88は、例えば、XZ平面に投影した輪郭(又は、XZ平面に対して平行な断面)が、上に凸の放物線を描くように湾曲している。言い換えれば、各湾曲板88は、切削ブレード68の回転に伴いX軸方向に飛散する切削水が描く軌跡に沿って湾曲している。また、各湾曲板88は、X軸方向の他端(後端)に位置する後端部88bのZ軸方向の位置が、枠体86に固定される前端部88aのZ軸方向の位置よりも高くなるように配置されている。
【0050】
ただし、各湾曲板88は、少なくともXZ平面内で上に凸の曲線を描くように湾曲していれば、必ずしも放物線状に湾曲していなくて良い。また、各湾曲板88は、後端部88bのZ軸方向の位置が、前端部88aのZ軸方向の位置と同程度になるように配置されても良い。更に、各湾曲板88をYZ平面に投影した輪郭(又は、YZ平面に対して平行な断面)は、湾曲していても良いし、湾曲していなくても良い。本実施形態では、YZ平面に投影した輪郭が湾曲しておらずY軸方向に対して概ね平行な湾曲板88が使用される。
【0051】
例えば、切削ブレード68を高速に回転させた状態で、ノズル82から切削ブレード68に切削水を供給すると、この切削水は、切削ブレード68の回転に伴いX軸方向の他方側(後方側)に飛散する。切削ブレード68の回転数は、例えば、10000rpm~30000rpm程度(代表的には、20000rpm)であり、ノズル82から供給される切削水の流量は、例えば、0.5L/min~2L/min(代表的には、1L/min)程度である。
【0052】
図4に示すように、切削ブレード68の回転に伴い飛散した切削水21は、周囲の雰囲気を巻き込み、隣接する湾曲板88の隙間を各湾曲板88の表面に沿って高速に流れる。このような粘性流体(噴流)は、コアンダ効果によって近くの壁面に引き寄せられる。すなわち、切削水21は、周囲の雰囲気とともに、湾曲板88に引き寄せられながらX軸方向の他方側(後方側)に向かって流れることになる。
【0053】
その結果、切削水21は、湾曲板88の表面又は近傍で凝集し、
図4に示すように、各湾曲板88の後端部88bから液滴23となって落下する。つまり、霧化した切削水21を液滴23に戻すことができる。また、切削水21の加工室の壁面への衝突に伴う霧の発生も抑制できる。このように、切削ブレード68の回転に伴い切削水が飛散するX軸方向の他方側(後方側)に、複数の湾曲板88を含む霧抑制部84を配置することで、切削水の飛散に起因する霧の発生を抑制できる。
【0054】
ここで、霧抑制部84を構成する湾曲板88の枚数や、隣接する湾曲板88の前端部88aのZ軸方向における間隔d1等の条件は、切削ブレード68の回転に伴いX軸方向に飛散する切削水を含む流体(雰囲気)の流れが阻害されず、かつ、複数の湾曲板88の表面積の総和ができるだけ大きくなるように決定されることが望ましい。
【0055】
例えば、湾曲板88の前端部88aの間隔d1が小さくなり過ぎると、切削水を含む流体の流れが湾曲板88によって阻害され、その流速が低下し、湾曲板88によるコアンダ効果が小さくなって、霧の発生を十分に抑制できなくなる。また、湾曲板88の枚数が少なくなり過ぎると、複数の湾曲板88の表面積を十分に確保できず、コアンダ効果が小さくなって、霧の発生を十分に抑制できなくなる。
【0056】
そこで、本実施形態では、湾曲板88の前端部88aの間隔d1を、例えば、3mm~5mm(代表的には、4mm)に設定し、湾曲板88の枚数を、例えば、5枚~10枚(代表的には、8枚)に設定する。前端部88aの間隔d1及び湾曲板88の枚数をこのような値に設定することで、コアンダ効果を大きくして霧の発生を十分に抑制できるようになる。
【0057】
なお、隣接する湾曲板88の後端部88bの間隔は、隣接する前端部88aの間隔d1と同じでも良いし、異なっていても良い。本実施形態では、隣接する後端部88bの間隔が隣接する前端部88aの間隔d1よりも広くなるように複数の湾曲板88を配置している。また、複数の湾曲板88の形状は、それぞれ同じでも良いし、異なっていても良い。
【0058】
以上のように、本実施形態にかかる切削装置2は、高さ方向に所定の間隔d1を持って配置された複数の湾曲板88を有しコアンダ効果を利用する霧抑制部84を備えるので、切削水の飛散に起因する霧の発生を適切に抑制できる。
【0059】
また、所定の形状に湾曲した湾曲板88を使用しているので、例えば、平板を利用する場合等に比べて大きなコアンダ効果を発生させて、霧の発生を適切に抑制できる。更に、湾曲板88(前端部88a)の間隔d1を、3mm~5mmに設定し、湾曲板88の枚数を、5枚~10枚に設定しているので、大きなコアンダ効果を発生させて、霧の発生を適切に抑制できる。
【0060】
なお、本発明は、上述した実施形態の記載に制限されず種々変更して実施可能である。
図5は、変形例にかかる切削ユニット(切削手段)152の側面図である。なお、上述した実施形態にかかる切削ユニット52と共通の構成要素には、同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0061】
図5に示すように、変形例にかかる切削ユニット152には、上述した実施形態にかかる霧抑制部84とは異なる態様の霧抑制部184が設けられている。霧抑制部184は、第1カバー72(
図3等)の下部に上端が固定される枠体186を備えている。枠体186の構造は、上述した実施形態にかかる枠体86の構造と同じで良い。
【0062】
枠体186の開口部の内側には、X軸方向及びY軸方向に所定の長さ持つ複数の湾曲板188が、Z軸方向に所定の間隔を持って配置されている。具体的には、各湾曲板188のX軸方向の一端(前端)に位置する前端部188aが、枠体186の開口部の内側の縁に固定されている。
【0063】
霧抑制部184を構成する各湾曲板188のX軸方向の長さ、各湾曲板188のY軸方向の長さ、各湾曲板188の厚み、隣接する湾曲板188の前端部188aの間隔d2、湾曲板188の枚数等の条件は、上述した実施形態の霧抑制部84と同じで良い。
【0064】
一方で、変形例にかかる霧抑制部184では、各湾曲板88のX軸方向の他端(後端)が斜め下方を向くように、この他端に位置する後端部88bを大きく湾曲させている。これにより、切削ブレード68の回転に伴い飛散する切削水21を効率良く凝集させて、切削水の飛散に起因する霧の発生をより適切に抑制できるようになる。
【0065】
また、上述した実施形態(変形例)では、後端部88b(後端部188b)のZ軸方向の位置が、前端部88a(前端部188a)のZ軸方向の位置よりも高くなるように、各湾曲板88(湾曲板188)を配置しているが、例えば、後端部88bのZ軸方向の位置が、前端部88aのZ軸方向の位置と同程度になり、隣接する湾曲板88の前端部88aの間隔d1と、隣接する湾曲板88の後端部88bの間隔とが概ね等しくなるように、各湾曲板88を配置することもできる。この場合にも、切削ブレード68の回転に伴い飛散する切削水21を効率良く凝集させて、切削水の飛散に起因する霧の発生をより適切に抑制できるようになる。
【0066】
また、上述した実施形態では、霧抑制部84の枠体86を第1カバー72(後部72b)に固定しているが、第1カバー72から取り外せる第3カバー78に枠体86を固定しても良い。この場合には、第3カバー78とともに霧抑制部84を第1カバー72から取り外せるので、霧抑制部84のメンテナンスが容易になる。
【0067】
その他、上述した実施形態及び変形例にかかる構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0068】
2 :切削装置
4 :基台
6 :第1移動機構(X軸送り手段)
8 :X軸ガイドレール
10 :X軸移動プレート
12 :ねじ軸
14 :X軸パルスモーター
16 :θテーブル
18 :チャックテーブルベース
20 :チャックテーブル(保持手段)
22 :枠体
24 :ポーラス板
24a :上面
26 :クランプ
28 :テーブルカバー
30 :ウォーターケース
32 :支持構造
34 :第2移動機構(Y軸送り手段、Z軸送り手段)
36 :Y軸ガイドレール
38 :Y軸移動プレート
40 :ねじ軸
42 :Y軸パルスモーター
44 :Z軸ガイドレール
46 :Z軸移動プレート
48 :ねじ軸
50 :Z軸パルスモーター
52 :切削ユニット(切削手段)
54 :カメラ
56 :制御ユニット
62 :スピンドルハウジング
64 :スピンドル
66 :マウンター
68 :切削ブレード
70 :ブレードカバー
72 :第1カバー
72a :前部
72b :後部
72c :中間部
72d :隙間
72e :ねじ孔
72f :ねじ孔
74 :第2カバー
74a :貫通孔
76 :ねじ
78 :第3カバー
78a :貫通孔
80 :ねじ
82 :ノズル
84 :霧抑制部
86 :枠体
88 :湾曲板
88a :前端部
88b :後端部
152 :切削ユニット
184 :霧抑制部
186 :枠体
188 :湾曲板
188a :前端部
188b :後端部
11 :被加工物
13 :テープ(ダイシングテープ)
15 :フレーム
21 :切削水
23 :液滴