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特許7467014フレキシブルプリント配線板(FPC)用接着剤組成物、並びに該組成物を含む熱硬化性樹脂フィルム、プリプレグ、及びFPC基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】フレキシブルプリント配線板(FPC)用接着剤組成物、並びに該組成物を含む熱硬化性樹脂フィルム、プリプレグ、及びFPC基板
(51)【国際特許分類】
   C09J 179/04 20060101AFI20240408BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20240408BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240408BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20240408BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C09J179/04 Z
C09J163/00
C09J11/06
C09J11/04
H05K1/03 670
H05K1/03 610N
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021051812
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149589
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津浦 篤司
(72)【発明者】
【氏名】堤 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】井口 洋之
(72)【発明者】
【氏名】工藤 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 真之
(72)【発明者】
【氏名】笹原 梨那
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-196789(JP,A)
【文献】特開2019-123808(JP,A)
【文献】特開2016-131243(JP,A)
【文献】特開2008-38031(JP,A)
【文献】特開2020-41070(JP,A)
【文献】特開2021-187893(JP,A)
【文献】国際公開第2020/196070(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152149(WO,A1)
【文献】特開2021-38318(JP,A)
【文献】特開2018-201024(JP,A)
【文献】特開2013-227441(JP,A)
【文献】特開2020-186392(JP,A)
【文献】特開2022-77848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C09J 1/00- 5/10
C09J 7/00- 7/50
C09J 9/00-201/10
H05K 1/00- 1/02
H05K 1/03
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に2個以上のマレイミド基を有し、数平均分子量が4,000超であるマレイミド化合物であって、かつ、ダイマー酸骨格、炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び、炭素数6以上の直鎖アルケニレン基から選ばれる1つ以上の2価の有機基を有する、一般式(1)で表されるマレイミド化合物:100質量部、
(B)1分子に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂:0.1~15質量部、及び
(C)ジアミノトリアジン環を有するイミダゾール:0.1~5質量部
を含み、組成物中の前記(A)、(B)及び(C)成分の配合割合が41~100質量%であるフレキシブルプリント配線板(FPC)用接着剤組成物。
【化1】
(式(1)中、Aは独立して芳香族環又は脂肪族環を有する4価の有機基を示す。Bはヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6~18のアルキレン基を示す。Qは独立して炭素数6以上の直鎖アルキレン基又は直鎖アルケニレン基を示す。Rは独立して炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~100の数を表す。mは0~100の数を表す。)
【請求項2】
式(1)のAが下記構造で表されるもののいずれかである請求項1に記載のFPC用接着剤組成物。
【化2】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、前記式(1)においてマレイミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【請求項3】
さらに(D)成分として、無機充填材を含む請求項1に記載のFPC用接着剤組成物。
【請求項4】
前記(D)成分の無機充填材が前記(A)成分と反応しうる有機基を有するシランカップリング剤で処理されたものである請求項3に記載のFPC用接着剤組成物。
【請求項5】
180℃で2時間加熱後の硬化物において、10GHzで測定した25℃における誘電正接が0.0040以下である請求項1に記載のFPC用接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のFPC用接着剤組成物を含む熱硬化性樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のFPC用接着剤組成物の半硬化物を含むプリプレグ。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のFPC用接着剤組成物の硬化物を含むFPC基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線板(FPC)用接着剤組成物、並びに該組成物を含む熱硬化性樹脂フィルム、プリプレグ、及びFPC基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高性能化が進み、多層プリント配線板においては、配線の微細化及び高密度化が求められている。それに伴い、薄く軽量で、可とう性を有し、高い耐久性を持つフレキシブルプリント配線板(FPC:Flexible Printed Circuits)の需要が増大している。一般的にFPCは、ポリイミドに代表される耐熱性かつ絶縁性のフィルム(基材)上に積層された銅箔に回路パターンを形成し、その回路パターンが熱硬化性樹脂で充填され、さらに別の耐熱性フィルムで被覆された構造を有している。加えて、次世代では高周波向けの材料が必要であり、ノイズ対策として低伝送損失が必須となるために、誘電特性の優れた絶縁材料を使用することが求められている。
【0003】
基材として使用されてきたポリイミドは高耐熱で優れた絶縁性を有するものの低誘電特性は示さない。低誘電特性を有する基材として液晶ポリマーフィルム(LCP:Liquid CrystalPolymerフィルム)や変性ポリイミドフィルム(MPI:Modified Polyimideフィルム)が注目されている。これらの材料は従来のポリイミドフィルムよりも優れた誘電特性を示すため、FPC基板中の基材としての使用が提案されている。
【0004】
一方、FPCは一般的に銅箔と基材とを接合するための接着剤が必要となり、前述したようにこの接着剤にも優れた誘電特性が要求される。この接着剤としてエポキシ樹脂組成物やアクリル樹脂組成物が知られているが、これらの材料は高誘電特性であり、伝送損失が大きくなることが懸念される。そのため、FPC用接着剤でもより低誘電化が必要である。
低誘電材料としてポリフェニレンエーテルを用いた樹脂組成物が提案されている。しかしながら、この樹脂組成物は、耐熱性は優れるものの接着性が劣る。
なお、本発明に関連する先行技術として、特許文献1~2に示すものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-056011号公報
【文献】特開2019-112642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
次世代の高周波向けの材料においては、基材と同様に接着剤にも基材及び銅箔への接着強度に加え、低誘電特性が求められ、加えて、耐リフロー性や耐湿性を有する必要があるものの、現在使用されている接着剤でこれらの特性を兼ね備えるものはない。
従って、本発明は、低誘電特性を有し、低誘電樹脂フィルム(LCP、MPI)及び銅箔に対して高い接着強度を有し、耐湿性及び耐リフロー性に優れたFPC用接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、下記組成物が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
<1>
(A)1分子中に2個以上のマレイミド基を有し、数平均分子量が4,000超であるマレイミド化合物であって、かつ、ダイマー酸骨格、炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び、炭素数6以上の直鎖アルケニレン基から選ばれる1つ以上の2価の有機基を有する、一般式(1)で表されるマレイミド化合物:100質量部、
(B)1分子に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂:0.1~15質量部、及び
(C)ジアミノトリアジン環を有するイミダゾール:0.1~5質量部
を含むフレキシブルプリント配線板(FPC)用接着剤組成物。
【化1】
(式(1)中、Aは独立して芳香族環又は脂肪族環を有する4価の有機基を示す。Bはヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6~18のアルキレン基を示す。Qは独立して炭素数6以上の直鎖アルキレン基又は直鎖アルケニレン基を示す。Rは独立して炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~100の数を表す。mは0~100の数を表す。)
<2>
式(1)のAが下記構造で表されるもののいずれかである<1>に記載のFPC用接着剤組成物。
【化2】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、前記式(1)においてマレイミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
<3>
さらに(D)成分として、無機充填材を含む<1>又は<2>に記載のFPC用接着剤組成物。
<4>
前記(D)成分の無機充填材が前記(A)成分と反応しうる有機基を有するシランカップリング剤で処理されたものである<3>に記載のFPC用接着剤組成物。
<5>
180℃で2時間加熱後の硬化物において、10GHzで測定した誘電正接が0.0040以下である<1>~<4>のいずれか1つに記載のFPC用接着剤組成物。
<6>
<1>から<5>のいずれか1つに記載のFPC用接着剤組成物を含む熱硬化性樹脂フィルム。
<7>
<1>から<5>のいずれか1つに記載のFPC用接着剤組成物の半硬化物を含むプリプレグ。
<8>
<1>から<5>のいずれか1つに記載のFPC用接着剤組成物の硬化物を含むFPC基板。
【発明の効果】
【0009】
本発明のFPC用接着剤組成物は低誘電特性を有し、銅箔及び基材である低誘電樹脂フィルム(LCP、MPI)への接着強度が高く、成膜性、耐湿性及び耐リフロー性に優れることから、フィルム、プリプレグ、積層板及びFPC基板として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0011】
(A)1分子中に2個以上のマレイミド基を有するマレイミド化合物
本発明で使用する(A)成分は、1分子中に2個以上のマレイミド基を有し、数平均分子量が4,000超であるマレイミド化合物であって、かつ、ダイマー酸骨格、炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び、炭素数6以上の直鎖アルケニレン基から選ばれる1つ以上の2価の有機基を有するマレイミド化合物である。
前記(A)成分は本発明の接着剤組成物のベースとなる樹脂であり、接着剤として用いた際に優れた誘電特性、接着強度を付与する。また、(A)成分のマレイミド化合物がダイマー酸骨格、炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び、炭素数6以上の直鎖アルケニレン基から選ばれる1つ以上の2価の有機基を有することで、これを含む組成物の未硬化物及び硬化物を低弾性化することができ、硬化前後の樹脂組成物に可とう性を付与することができる。一般的に、樹脂組成物の可とう性付与剤は耐熱性に乏しいため、樹脂そのものが可とう性を付与することのできる前記(A)成分は、耐熱性に優れるマレイミド骨格を有することから、この問題の解決にも効果的である。
(A)成分のマレイミド化合物は、下記式(1)で表されるものである。
【化3】
式(1)中、Aは独立して芳香族環又は脂肪族環を有する4価の有機基を示す。Bはヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6~18のアルキレン基を示す。Qは独立して炭素数6以上の直鎖アルキレン基又は直鎖アルケニレン基を示す。Rは独立して炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~100の数を表す。mは0~100の数を表す。
【0012】
式(1)中のQは直鎖のアルキレン基又は直鎖アルケニレン基であり、これらの炭素数は6以上であるが、好ましくは6以上20以下であり、より好ましくは7以上15以下である。
式(1)中のQとしては、n-ヘキシレン基、n-ヘプチレン基、n-オクチレン基、n-ノニレン基、n-デカメチレン基等の直鎖のアルキレン基及びヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基等の直鎖のアルケニレン基が挙げられる。
【0013】
また、式(1)中のRはアルキル基であり、直鎖のアルキル基でも分岐のアルキル基でもよく、これらの炭素数は6以上であるが、好ましくは6以上12以下である。
式(1)中のRとしては、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ラウリル基、ステアリル基、イソヘキシル基、イソオクチル基及びこれらの構造異性体などが挙げられる。
【0014】
(A)成分のマレイミド化合物がダイマー酸骨格を有する場合、一般式(1)中の2つのQ及び2つのRを有するシクロヘキサン環構造は、ダイマー酸から誘導される構造の一部として存在することがある。なお、ダイマー酸とは、植物系油脂などの天然物を原料とする炭素数18の不飽和脂肪酸の二量化によって生成された、炭素数36のジカルボン酸を主成分とする液状の二塩基酸であり、ダイマー酸骨格とは前記ダイマー酸からカルボキシ基を除いた構造をいう。したがって、ダイマー酸骨格は単一の骨格ではなく、複数の構造を有し、何種類かの異性体が存在する。
【0015】
式(1)中のAは芳香族環又は脂肪族環を有する4価の有機基を示し、特に、下記構造式で示される4価の有機基のいずれかであることが好ましい。
【化4】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)においてマレイミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【0016】
また、式(1)中のBはヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6~18のアルキレン基であり、該アルキレン基の炭素数は好ましくは炭素数8~15である。式(1)中のBは下記構造式で示される脂肪族環を有するアルキレン基のいずれかであることが好ましい。
【化5】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(4)においてマレイミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
【0017】
式(1)中のnは1~100の数であり、好ましくは2~70の数である。また、式(1)中のmは0~100の数であり、好ましくは0~70の数である。
【0018】
(A)成分のマレイミド化合物の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によるポリスチレン標準で換算した数平均分子量が4,000超であり、4,000超~50,000であることが好ましく、4,500~40,000であることがより好ましい。該分子量が4,000超であれば、組成物はフィルム化しやすくなる。該分子量が50,000以下であれば、得られる組成物は粘度や流動性が適度であり、ラミネート成形などの成形性が良好となるため好ましい。
なお、本発明中で言及する数平均分子量(Mn)とは、下記条件で測定したGPCによるポリスチレンを標準物質とした数平均分子量を指すこととする。
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/min
検出器:RI
カラム:TSK-GEL Hタイプ(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:5μL
【0019】
(A)成分のマレイミド化合物としては、相当する酸無水物とジアミンとを常法により反応し、無水マレイン酸で末端封鎖することで得られるものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品の例としては、BMI-2500、BMI-3000、BMI-5000(以上、Designer Molecules Inc.製)、SLK-2500、SLK-2600、SLK-3000(信越化学工業(株)製)等が挙げられる。
また、(A)成分のマレイミド化合物は1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0020】
(B)1分子に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂
本発明で使用する(B)成分は、1分子に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であり、銅箔及びLCP、MPIなどの低誘電樹脂フィルムへの接着強度を向上することができる。(B)成分は1分子に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であれば特に制限はなく、たとえば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有エポキシ樹脂、リン原子含有エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0021】
硬化性や硬化物の誘電特性の観点から、(B)成分の配合量は(A)成分100質量部に対して0.1~15質量部であり、0.2~13質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましい。(A)成分100質量部に対する(B)成分の配合量が0.1質量部未満だと、組成物の硬化性や硬化物の接着強度が低くなるため好ましくなく、15質量部超だと、硬化物の誘電特性や組成物の保存安定性が悪化するため好ましくない。
また、(B)成分のエポキシ樹脂は1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0022】
(C)ジアミノトリアジン環を有するイミダゾール
(C)成分はジアミノトリアジン環を有するイミダゾールである。この成分は熱硬化性樹脂分((A)成分及び(B)成分)の硬化反応を促進するための触媒として添加する。(C)成分としてはジアミノトリアジン環を有するイミダゾールであれば特に限定されない。
具体的には、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン(商品名 2MZ-A、四国化成(株)製)、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン(商品名 C11Z-A、四国化成(株)製)、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン(商品名 2E4MZ-A、四国化成(株)製)、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物(商品名 2MA-OK、四国化成(株)製)などが挙げられる。
(C)成分の配合量は(A)成分100質量部に対して0.1~5質量部であり、0.5~3質量部がより好ましい。(A)成分100質量部に対する(C)成分の配合量が0.1質量部未満であると、硬化性が低くなるため好ましくなく、5質量部超であると硬化物の誘電特性及び組成物の保存安定性が悪化するため好ましくない。
【0023】
(D)無機充填材
本発明のFPC用接着剤組成物は前記(A)~(C)成分に加えて、(D)無機充填材を加えてもよい。本発明のFPC用接着剤組成物の硬化物の強度や剛性を高めたり、熱膨張係数や硬化物の寸法安定性を調整したりする目的で、(D)無機充填材を配合することができる。無機充填材としては、通常エポキシ樹脂組成物やシリコーン樹脂組成物に配合されるものを使用することができる。(D)無機充填材としては、例えば、球状シリカ、溶融シリカ及び結晶性シリカ等のシリカ類、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、硫酸バリウム、タルク、クレー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、ガラス繊維及びガラス粒子等が挙げられる。さらに誘電特性改善のために含フッ素樹脂、コーティングフィラー、及び/又は中空粒子を用いてもよく、導電性の付与などを目的として金属粒子、金属被覆無機粒子、炭素繊維、カーボンナノチューブなどの導電性充填材を添加してもよい。
無機充填材は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
無機充填材の平均粒径及び形状は特に限定されないが、フィルムや基板を成形する場合は特に平均粒径が0.5~5μmの球状シリカが好適に用いられる。なお、平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(又はメジアン径)として求めた値である。
【0025】
さらに無機充填材は特性を向上させるために、マレイミド基と反応しうる有機基を有するシランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。このようなシランカップリング剤としては、エポキシ基含有アルコキシシラン、アミノ基含有アルコキシシラン、(メタ)アクリル基含有アルコキシシラン、及びアルケニル基含有アルコキシシラン等が挙げられる。
前記シランカップリング剤としては、(メタ)アクリル基及び/又はアミノ基含有アルコキシシランが好適に用いられ、具体的には、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0026】
その他の任意成分
上記以外に、反応性官能基を有するオルガノポリシロキサン、無官能シリコーンオイル、有機合成ゴム、光増感剤、光安定剤、重合禁止剤、難燃剤、顔料、染料、接着助剤等を配合してもよいし、電気特性を改善するためにイオントラップ剤等を配合してもよい。
【0027】
本発明のFPC用接着剤組成物は、(A)~(C)成分並びに必要に応じて配合される(D)成分及びその他の任意成分を混合することにより製造することができる。
本発明のFPC用接着剤組成物は、有機溶剤に溶解してワニスとして扱うこともできる。該組成物をワニス化することによってフィルム化しやすくなり、また、Eガラス、低誘電ガラス、石英ガラスなどでできたガラスクロスへも塗布・含浸しやすくなる。有機溶剤に関しては(A)成分及び(B)成分の熱硬化性樹脂分が溶解するものであれば制限なく使用することができる。
前記有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、イソプロパノール(IPA)、キシレン、トルエン、アニソール等の一般的な有機溶剤が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上述の(A)成分及び(B)成分の溶解性の観点からアニソール、キシレン、トルエン等の有機溶剤が使用されることが好ましい。一方、高沸点であることや毒性を有するといった観点からジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)及びN-メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒は使用しないことが好ましい。
【0028】
このFPC用接着剤組成物は、前述のワニスを基材に塗工し、有機溶剤を揮発させることで未硬化樹脂シート又は未硬化樹脂フィルムにしたり、さらにそれらを硬化させることで硬化樹脂シート又は硬化樹脂フィルムとしたりすることができる。以下にシート及びフィルムの製造方法を例示するが、これに限定されるものではない。
【0029】
例えば、有機溶剤に溶解したFPC用接着剤組成物(ワニス)を基材に塗布した後、通常80℃以上、好ましくは100℃以上の温度で0.5~5時間加熱することによって有機溶剤を除去し、さらに150℃以上、好ましくは175℃以上の温度で0.5~10時間加熱することで、表面が平坦で強固な硬化皮膜を形成することができる。
【0030】
有機溶剤を除去するための乾燥工程、及びその後の加熱硬化工程での温度は、それぞれ一定であってもよいが、段階的に温度を上げていくことが好ましい。これにより、有機溶剤を効率的に組成物外に除去するとともに、樹脂の硬化反応を効率よく進めることができる。
【0031】
ワニスの塗布方法として、スピンコーター、スリットコーター、スプレー、ディップコーター、バーコーター等が挙げられるが特に制限はない。
【0032】
基材としては、一般的に用いられるのを用いることができ、例えばポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂などのポリエステル樹脂、などが挙げられる。該基材の表面を離形処理していてもかまわない。
【0033】
また、塗工層の厚さも特に限定されないが、溶剤留去後の厚さは1~100μm、好ましくは3~80μmの範囲である。さらに塗工層の上にカバーフィルムを使用してもかまわない。
【0034】
他にも、各成分をあらかじめプレ混合し、溶融混練機を用いてシート状又はフィルム状に押し出してそのまま使用することもできる。
【0035】
本発明のFPC用接着剤組成物の硬化により得られる硬化皮膜は、耐熱性、機械的特性、電気的特性、基材に対する接着性及び耐溶剤性に優れている上、低誘電率を有している。具体的には、180℃で2時間加熱後の硬化物において、10GHzでSPDR誘電体共振器を用いて測定した25℃における誘電正接が0.0040以下であることが好ましく、0.0035以下であることがより好ましい。
そのため、例えば半導体装置、具体的には半導体素子表面のパッシベーション膜や保護膜、ダイオード、トランジスタ等の接合部のジャンクション保護膜、VLSIのα線遮蔽膜、層間絶縁膜、イオン注入マスク等のほか、プリントサーキットボードのコンフォーマルコート、液晶表面素子の配向膜、ガラスファイバーの保護膜、太陽電池の表面保護膜に応用することができる。更に、前記FPC用接着剤組成物に無機充填材を配合した印刷用ペースト組成物、導電性充填材を配合した導電性ペースト組成物といったペースト組成物など幅広い範囲に応用することができる。
【0036】
また、本発明の組成物は未硬化の状態でフィルム状又はシート状にでき、ハンドリング性も良好で、自己接着性があり、誘電特性にも優れることからフレキシブルプリント配線板(FPC)用のボンディングフィルムに好適に用いることができる。
【0037】
他にも、ワニス化したFPC用接着剤組成物をEガラス、低誘電ガラス、石英ガラスなどでできたガラスクロスなどへ含浸し、有機溶剤を除去し、半硬化状態にすることでプリプレグとして使用することもできる。また、そのプリプレグや銅箔などを積層させることでFPC基板を作製することができる。本発明のFPC用接着剤組成物を用いると、銅箔への接着性にも優れているので、FPC基板を繰り返し折り曲げるような使い方をしても、銅箔が基材から剥がれることがないので好ましい。
なお、本発明において「半硬化」とはB-ステージ(熱硬化性樹脂組成物の硬化中間体、この状態での樹脂は加熱すると軟化し、ある種の溶剤に触れると膨潤するが、完全に溶融、溶解することはない)状態をいうものとする。
【実施例
【0038】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0039】
(A)1分子中に2個以上のマレイミド基を有するマレイミド化合物
(A-1):下記式で示される直鎖アルキレン基含有マレイミド化合物「SLK-3000」(信越化学工業(株)製、Mn=7,200)
【化6】
(A-2):下記式で示される直鎖アルキレン基含有マレイミド化合物「SLK-2600」(信越化学工業(株)製、Mn=5,000)
【化7】
-C3670-はダイマー酸骨格を示し、該ダイマー酸骨格は(*)で表される基をその一部に有するものである。

(A-3):下記式で示される直鎖アルキレン基含有マレイミド化合物「SLK-2500」(信越化学工業(株)製、Mn=4,200)
【化8】
(A-4):下記式で示される直鎖アルキレン基含有マレイミド化合物「SLK-1500」(信越化学工業(株)製、Mn=2,400、比較例用)
【化9】
(A-5):フェニルメタンマレイミド「BMI-2000」(大和化成(株)製、Mn=600、比較例用)
【0040】
(B)エポキシ樹脂
(B-1):グリシジルアミン型エポキシ樹脂「jER-630」(三菱ケミカル(株)製)
(B-2):ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂「NC-3000」(日本化薬(株)製)
(B-3):ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂「HP-7200」(DIC(株)製)
(B-4):ビスフェノールA型エポキシ樹脂「jER-828」(三菱ケミカル(株)製)
(B-5):イソシアヌル骨格型エポキシ樹脂「TEPIC-S」(日産化学(株)製)
(B-6):ビスフェノールF型エポキシ樹脂「YDF-8170」(日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)
【0041】
(C)ジアミノトリアジン環を有するイミダゾール
(C-1):2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン「2MZ-A」(四国化成(株)製)
(C-2):2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物「2MA-OK」(四国化成(株)製)
(C-3):2-エチル-4-メチルイミダゾール「2E4MZ」(四国化成(株)製、比較例用)
(C-4):ジクミルパーオキサイド「パークミルD」(日油(株)製、比較例用)
【0042】
(D)無機充填材
(D-1)溶融球状シリカ「MUF-4」(瀧森(株)製、平均粒径4μm)のフェニルアミノ基変性シランカップリング剤「KBM-573」(信越化学工業(株)製)処理品
【0043】
(E)接着助剤
(E-1)3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン「KBM-403」(信越化学工業(株)製)
【0044】
[実施例1~18、比較例1~7]
表1、2に示す配合(質量部)で各成分をアニソールに溶解、分散させ、不揮発分が60質量%になるように調整し、樹脂組成物のワニスを得た。樹脂組成物のワニスを厚さ38μmのPETフィルム上に、乾燥後の厚みが50μmになるようにローラーコーターにて塗布し、80℃で15分乾燥させることで未硬化の樹脂フィルムを得た。得られた未硬化樹脂フィルムを用いて以下の評価を行った。結果を表1及び表2に記載した。なお、表2の評価結果で「N.D」と書かれたものは、フィルムの成膜性が悪く、評価に供し得るサンプルが得られなかったため、未評価であることを示す。
【0045】
<フィルム成膜性>
前記未硬化樹脂フィルムを25℃の条件下で90度折り曲げた際にフィルムにクラックが発生したり、破断したりするかを目視で確認した。クラック及び破断が全く確認されなかった場合は○、少しでもクラック又は破断が確認された場合を×とした。
【0046】
<吸湿特性>
前記未硬化樹脂フィルムを180℃で2時間の加熱を行うことで硬化させた。その後、85℃、85%RHに1週間保管した後の重量変化を測定した。重量変化が1%未満は○、1%以上を×とした。
【0047】
<保存安定性>
前記未硬化樹脂フィルムを保存した時の粘度上昇により保存安定性を評価した。25℃のインキュベーターに1週間保管した後の溶融粘度を測定し、初期値と比較した。粘度変化が10%未満は〇、10%以上を×とした。
【0048】
<誘電特性>
前記未硬化樹脂フィルムを180℃、2時間の条件で硬化させた樹脂フィルムを切断して、60mm×60mmの試験片を作製した。得られた試験片について、SPDR誘電体共振器(MS46122B、アンリツ(株)製)を使用し、25℃における10GHzでの比誘電率、誘電正接を測定した。
【0049】
<90°ピール強度試験>
樹脂フィルムの銅箔への接着強度を評価した。未硬化の樹脂フィルムを10mm×76mmに切断し、真空ラミネーターによって銅箔(厚さ:18μm、Rz=0.6μm)とガラスとを該フィルムを介して貼り合わせ、180℃、2時間で硬化させ試験用の試料を作製した。銅箔に代えて、LCPフィルム及びMPIフィルムをそれぞれ用いて上記と同様の操作で試験用の試料を作製した。
銅箔への接着強度は、上記試験用の試料に対して、90°ピール強度試験をオートグラフ(AG-IS、島津製作所(株)製)を用いて測定速度:50mm/min.の条件で測定した。
LCPフィルム又はMPIフィルムと樹脂フィルムとの接着強度は目視で評価した。高接着であり、接着強度が十分なものは〇、接着するが、接着強度が不十分なものは△、接着しないものを×とした。
【0050】
<耐リフロー後接着性>
樹脂フィルムの耐リフロー後の接着強度を評価した。未硬化の樹脂フィルムを10mm×76mmに切断し、真空ラミネーターによって銅箔(厚さ:18μm、Rz=0.6μm)とガラスとを該フィルムを介して貼り合わせ、180℃、2時間で硬化させ試験用の試料を作製した。
作製した試料を260℃のIRリフロー炉(TNR15-225LH、タムラ製作所(
株)製)に3回通過させた。
銅箔への接着強度は、上記試験用の試料に対して、90°ピール強度試験をオートグラフ(AG-IS、島津製作所(株)製)を用いて測定速度:50mm/min.の条件で測定した。
リフロー前の接着強度に対して80%以上の接着強度を保持した場合を○、80%未満を×とした。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
以上の結果から、本発明のFPC用接着剤組成物の有用性が確認された。