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特許7467182窒化物結晶基板の製造方法、窒化物結晶基板および積層構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】窒化物結晶基板の製造方法、窒化物結晶基板および積層構造体
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20240408BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20240408BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20240408BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B25/20
C23C16/34
H01L21/205
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020047411
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021147264
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 丈洋
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-112266(JP,A)
【文献】特表2012-511489(JP,A)
【文献】特開2016-160151(JP,A)
【文献】特開2005-206415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 25/20
C23C 16/34
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相成長法を用いた窒化物結晶基板の製造方法であって、
III族窒化物半導体の単結晶からなる下地基板上に、少なくともマンガンを含まないIII族窒化物半導体の単結晶と、マンガンを含むIII族窒化物半導体の単結晶とを順に積層した積層構造からなり、最も近い低指数の結晶面が(0001)面である主面を有し、前記積層構造中の(0001)面が前記主面に対して凹の球面状に湾曲している下地構造体を準備する工程と、
前記下地構造体のマンガンを含む前記単結晶中のマンガン濃度よりも低いマンガン濃度を有するIII族窒化物半導体の単結晶からなる本成長層を、前記下地構造体上にエピタキシャル成長させる工程と、
前記本成長層から、自立する少なくとも1つの窒化物結晶基板を取得する工程と、
を有する
窒化物結晶基板の製造方法。
【請求項2】
前記下地構造体を準備する工程では、
最も近い低指数の結晶面が凹の球面状に湾曲した(0001)面である下地面を有する前記下地基板を備えた前記下地構造体を準備し、
前記窒化物結晶基板を取得する工程では、
(0001)面の曲率半径が前記下地基板の(0001)面の曲率半径よりも大きい前記窒化物結晶基板を取得する
請求項に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【請求項3】
前記下地構造体を準備する工程は、
前記下地基板を準備する工程と、
前記下地基板の上方に、少なくともマンガンを含まないIII族窒化物半導体の単結晶からなる初期層と、マンガンを含むIII族窒化物半導体の単結晶からなるマンガンドープ層順にエピタキシャル成長させる工程と、
を有する、
請求項1または請求項2に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【請求項4】
III族窒化物半導体の単結晶からなる自立基板として構成され、最も近い低指数の結晶面が(0001)面である主面を有する窒化物結晶基板であって、
前記窒化物結晶基板中の(0001)面は、前記主面に対して凹の球面状に湾曲しており、
前記窒化物結晶基板は、厚さ方向に伝播する複数の貫通転位を有し、
前記複数の貫通転位の集合のうち、少なくとも一部の貫通転位が構成する転位線は、前記主面の法線に対する傾きが連続的に変化して湾曲した部分を有する
窒化物結晶基板。
【請求項5】
前記窒化物結晶基板中の(0001)面の曲率半径は、10m以上である
請求項に記載の窒化物結晶基板。
【請求項6】
前記窒化物結晶基板は、極性反転区を有していない
請求項または請求項に記載の窒化物結晶基板。
【請求項7】
前記主面における転位密度は、5×10cm-2以下である
請求項から請求項のいずれか1項に記載の窒化物結晶基板。
【請求項8】
前記窒化物結晶基板中の酸素濃度は、5×1016cm-3以下である
請求項から請求項のいずれか1項に記載の窒化物結晶基板。
【請求項9】
前記複数の貫通転位の前記集合は、前記転位線が湾曲した部分を有する複数の湾曲転位を含み、
前記複数の湾曲転位のうちの少なくとも1つの湾曲転位では、前記主面からの深さが相対的に浅い側における前記主面の法線に対する前記転位線の傾きが、前記主面からの深さが相対的に深い側におけるそれよりも大きい
請求項から請求項のいずれか1項に記載の窒化物結晶基板。
【請求項10】
前記複数の貫通転位の前記集合は、前記転位線が湾曲した部分を有する複数の湾曲転位を含み、
前記複数の湾曲転位のうちの少なくとも1つの湾曲転位では、前記主面の法線に対する前記転位線の傾きが、前記主面と反対側の裏面から前記主面側に向けて徐々に大きくなっている
請求項4から請求項9のいずれか1項に記載の窒化物結晶基板。
【請求項11】
前記複数の貫通転位の前記集合は、前記転位線が湾曲した部分を有する複数の湾曲転位を含み、
前記主面から深さ200μmにおける前記転位線の始点と、前記主面における前記転位線の終点とを結ぶ仮想直線から直交する方向に前記転位線が離れた最大距離が、5μm以上である計測条件を満たす湾曲転位の数を計測したときに、
前記複数の貫通転位の前記集合のうち、前記計測条件を満たす前記湾曲転位の割合は、10%以上90%以下である
請求項から請求項10のいずれか1項に記載の窒化物結晶基板。
【請求項12】
前記複数の貫通転位の前記集合は、前記転位線が湾曲した部分を有する複数の湾曲転位を含み、
前記主面から深さ200μmにおける前記転位線の始点と、前記主面における前記転位線の終点とを結ぶ仮想直線から直交する方向に前記転位線が離れた最大距離が、5μm以上である計測条件を満たす湾曲転位の数を計測したときに、
前記主面における、前記計測条件を満たす前記湾曲転位の密度は、5×10cm-2以上4.5×10cm-2以下である
請求項から請求項11のいずれか1項に記載の窒化物結晶基板。
【請求項13】
III族窒化物半導体の単結晶からなる下地基板上に、少なくともマンガンを含まないIII族窒化物半導体の単結晶と、マンガンを含むIII族窒化物半導体の単結晶とが順に積層された積層構造からなり、最も近い低指数の結晶面が(0001)面である主面を有し、前記積層構造中の(0001)面が前記主面に対して凹の球面状に湾曲している下地構造体と、
前記下地構造体上に設けられ、前記下地構造体のマンガンを含む前記単結晶中のマンガン濃度よりも低いマンガン濃度を有するIII族窒化物半導体の単結晶からなる本成長層と、
を有し、
前記本成長層は、自立する少なくとも1つの窒化物結晶基板を取得可能な厚さを有する
積層構造体。
【請求項14】
前記本成長層の表面における転位密度は、5×10cm-2以下である
請求項13に記載の積層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物結晶基板の製造方法、積層構造体の製造方法、窒化物結晶基板および積層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
下地基板上にエピタキシャル成長させたIII族窒化物半導体の単結晶からなる結晶層から、少なくとも1つの窒化物結晶基板を得る方法が開示されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-60349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、結晶品質が良好な窒化物結晶基板を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
気相成長法を用いた窒化物結晶基板の製造方法であって、
少なくとも表層がマンガンを含むIII族窒化物半導体の単結晶からなる下地構造体を準備する工程と、
前記下地構造体の前記表層のマンガン濃度よりも低いマンガン濃度を有するIII族窒化物半導体の単結晶からなる本成長層を、前記下地構造体上にエピタキシャル成長させる工程と、
前記本成長層から、自立する少なくとも1つの窒化物結晶基板を取得する工程と、
を有する
窒化物結晶基板の製造方法が提供される。
【0006】
本発明の他の態様によれば、
少なくとも表層がマンガンを含むIII族窒化物半導体の単結晶からなる下地構造体を準備する工程と、
前記下地構造体の前記表層のマンガン濃度よりも低いマンガン濃度を有するIII族窒化物半導体の単結晶からなる本成長層を、前記下地構造体上にエピタキシャル成長させる工程と、
を有し、
前記本成長層をエピタキシャル成長させる工程では、
自立する少なくとも1つの窒化物結晶基板を取得可能な厚さで前記本成長層を、気相成長法を用いて成長させる
積層構造体の製造方法が提供される。
【0007】
本発明の更に他の態様によれば、
III族窒化物半導体の単結晶からなる自立基板として構成され、最も近い低指数の結晶面が(0001)面である主面を有する窒化物結晶基板であって、
厚さ方向に伝播する複数の貫通転位を有し、
前記複数の貫通転位の集合のうち、少なくとも一部の貫通転位が構成する転位線は、湾曲した部分を有する
窒化物結晶基板が提供される。
【0008】
本発明の更に他の態様によれば、
少なくとも表層がマンガンを含むIII族窒化物半導体の単結晶からなる下地構造体と、
前記下地構造体上に設けられ、前記下地構造体の前記表層のマンガン濃度よりも低いマンガン濃度を有するIII族窒化物半導体の単結晶からなる本成長層と、
を有し、
前記本成長層は、自立する少なくとも1つの窒化物結晶基板を取得可能な厚さを有する
積層構造体が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、結晶品質が良好な窒化物結晶基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法を示すフローチャートである。
図2】(a)~(g)は、本発明の第1実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法の一部を示す概略断面図である。
図3】(a)~(c)は、本発明の第1実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法の一部を示す概略断面図である。
図4】(a)~(b)は、本発明の第1実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法の一部を示す概略断面図である。
図5】(a)は、本発明の第1実施形態に係る窒化物結晶基板を示す概略上面図であり、(b)は、本発明の第1実施形態に係る窒化物結晶基板のm軸に沿った概略断面図であり、(c)は、本発明の第1実施形態に係る窒化物結晶基板のm軸に直交するa軸に沿った概略断面図である。
図6】多光子励起顕微鏡を用い焦点を変えながら本発明の第1実施形態に係る窒化物結晶基板を観察した観察像を主面に沿った方向から見た模式図である。
図7】(a)~(b)は、本発明の第2実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法の一部を示す概略断面図である。
図8】実験1において、サンプル1の積層構造体の断面を蛍光顕微鏡により観察した観察像である。
図9】(a)は、実験1において各サンプルのm軸に沿った方向に対してX線回折のロッキングカーブ測定を行った結果を示す図であり、(b)は、実験1において各サンプルのm軸に直交するa軸に沿った方向に対してX線回折のロッキングカーブ測定を行った結果を示す図である。
図10】多光子励起顕微鏡を用い、サンプル1の基板の主面を観察した観察像を示す図である。
図11】多光子励起顕微鏡を用い焦点を変えながらサンプル1の基板を観察した観察像の斜視図である。
図12】多光子励起顕微鏡を用い焦点を変えながら下地基板を観察した観察像を主面に沿った方向から見た図である。
図13】実験2において、サンプル2の積層構造体の断面を蛍光顕微鏡により観察した観察像である。
図14】(a)は、実験2において各サンプルのm軸に沿った方向に対してX線回折のロッキングカーブ測定を行った結果を示す図であり、(b)は、実験2において各サンプルのm軸に直交するa軸に沿った方向に対してX線回折のロッキングカーブ測定を行った結果を示す図である。
図15】多光子励起顕微鏡を用い、サンプル2の基板の主面を観察した観察像を示す図である。
図16】多光子励起顕微鏡を用い焦点を変えながらサンプル2の基板を観察した観察像の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明の第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
(1)窒化物結晶基板の製造方法、積層構造体の製造方法
図1図4を用い、本実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法および積層構造体の製造方法について説明する。図1は、本実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法を示すフローチャートである。図2(a)~図4(b)は、本実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法の一部を示す概略断面図である。
【0013】
なお、以下では、ウルツ鉱構造を有するIII族窒化物半導体の結晶において、<0001>軸(例えば[0001]軸)を「c軸」といい、(0001)面を「c面」という。なお、(0001)面を「+c面(III族元素極性面)」といい、(000-1)面を「-c面(窒素(N)極性面)」ということがある。また、<1-100>軸(例えば[1-100]軸)を「m軸」といい、{1-100}面を「m面」という。なお、m軸は<10-10>軸と表記してもよい。また、<11-20>軸(例えば[11-20]軸)を「a軸」といい、{11-20}面を「a面」という。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法は、例えば、下地構造体準備工程S100と、本成長工程S300と、スライス工程S400と、研磨工程S500と、を有している。本実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法では、例えば、気相成長法が用いられる。
【0015】
(S100:下地構造体準備工程)
まず、少なくとも表層がマンガン(Mn)を含むIII族窒化物半導体の単結晶からなる下地構造体30を準備する。本実施形態では、例えば、下地基板10と、初期層22と、Mnドープ層24と、を有する下地構造体30を準備する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の下地構造体準備工程S100は、例えば、下地基板準備工程S110と、初期工程S120と、Mnドープ工程S140と、を有している。
【0017】
(S110:下地基板準備工程)
まず、下地基板準備工程S110において、III族窒化物半導体の単結晶からなる下地基板10を準備する。具体的には、例えば、VAS(Void-Assisted Separation)法により、下地基板10として窒化ガリウム(GaN)自立基板を作製する。
【0018】
具体的には、まず、図2(a)に示すように、結晶成長用基板1(以下、「基板1」と略すことがある)を準備する。基板1は、例えば、サファイア基板などである。基板1の主面1sに対して最も近い低指数の結晶面は、例えば、c面1cである。基板1のc軸1caは、主面1sの法線に対して所定のオフ角θで傾斜している。次に、図2(b)に示すように、例えば、有機金属気相成長(MOVPE)法により、基板1の主面1s上に、GaNからなる第1半導体層2を成長させる。次に、図2(c)に示すように、第1半導体層2上に金属層3を蒸着させる。金属層3としては、例えば、チタン(Ti)層とする。
【0019】
次に、図2(d)に示すように、水素ガス、水素含有ガス、窒素ガスおよび窒素含有ガスのうち少なくともいずれか(例えばNHガス)を含む雰囲気中で、基板1の熱処理を行う。これにより、金属層3を窒化し、表面に高密度の微細な穴を有する金属窒化層5を形成する。また、金属窒化層5の穴を介して第1半導体層2の一部をエッチングし、該第1半導体層2中に高密度のボイドを形成する。これにより、ボイド含有第1半導体層4を形成する。
【0020】
次に、図2(e)に示すように、例えば、ハイドライド気相成長(HVPE)法により、ボイド含有第1半導体層4および金属窒化層5上にGaNからなる第2半導体層6をエピタキシャル成長させる。このとき、ボイド含有第1半導体層4中のボイドの一部は、金属窒化層5の穴を介して第2半導体層6によって埋め込まれるが、ボイド含有第1半導体層4中のボイドの他部は、残存する。
【0021】
第2半導体層6の成長が終了した後、冷却する過程において、第2半導体層6は、ボイド含有第1半導体層4および金属窒化層5を境に基板1から自然に剥離する。このとき、第2半導体層6には、その成長過程で初期核同士が引き合った引張応力、および第2半導体層6の厚さ方向の転位密度差に起因して、表面側が凹むように内部応力が働く。
【0022】
その結果、図2(f)に示すように、第2半導体層6は、基板1から剥離された後に、その表面側が凹となるように反る。このため、第2半導体層6のc面6cは、第2半導体層6の主面6sの中心の法線方向に垂直な面に対して凹の球面状に湾曲する。次に、図2(f)に示すように、切断面SSに沿って第2半導体層6から下地基板10をスライスする。スライス後、下地基板10の両面を研磨する。
【0023】
以上により、図2(g)に示すように、GaNの単結晶からなる下地基板10が得られる。
【0024】
下地基板10の直径は、例えば、2インチ以上、好ましくは4インチ以上である。また、下地基板10の厚さは、例えば、300μm以上1mm以下である。
【0025】
下地基板10は、下地面(主面、下地表面)10sを有している。本実施形態において、下地面10sに対して最も近い低指数の結晶面は、例えば、c面(+c面)10cである。
【0026】
下地基板10におけるc面10cは、例えば、下地面10sに対して凹の球面状に湾曲している。ここでいう「球面状」とは、球面近似される曲面状のことを意味している。また、ここでいう「球面近似」とは、真円球面または楕円球面に対して所定の誤差の範囲内で近似されることを意味している。下地基板10でのc面10cの曲率半径は、例えば、1m以上10m未満である。なお、下地基板10の下地面10sの中心におけるオフ角θの大きさは、例えば、0°超1°以下である。
【0027】
また、下地基板10の下地面10sの二乗平均粗さRMSは、例えば、1nm未満である。
【0028】
また、下地基板10の下地面10sにおける転位密度は、上述のVAS法により低減されており、例えば、3×10cm-2以上1×10cm-2未満である。
【0029】
(S120:初期工程(初期層形成工程、ノンドープ層形成工程))
下地基板10を準備したら、図3(b)に示すように、例えば、HVPE法により、GaClガスの供給から開始し、下地基板10の下地面10sに、後述の塩化マンガンガスよりも先にGaClガスを確実に到達させる。これにより、下地基板10の下地面10s上に、Mnを非含有とするIII族窒化物半導体の単結晶(例えばノンドープGaN)からなる初期層22をエピタキシャル成長させる。このとき、下地基板10の下地面10s全体に亘って、c面を成長面として初期層22を成長(ステップフロー成長)させ、初期層22の表面を鏡面化させる。なお、ここでいう「鏡面」とは、表面における隣り合う凹凸の高低差の最大値が可視光の波長以下である面のことをいう。
【0030】
ここで、例えば、初期工程S120を行わずに、下地基板10の下地面10s上に直接、後述のMnを含むMnドープ層24をエピタキシャル成長させる場合について考える。この場合、Mnドープ層24の成長初期からGaClとともにMnClガスを流すと、下地基板10の下地面10sの一部に、Mnだけが付着することがある。Mnだけが付着した部分は、III族窒化物半導体の結晶成長を阻害するアンチサーファクタント(成長阻害部)となる。このため、アンチサーファクタントとしてのMnを起因として、Mnドープ層24が3次元成長(島状成長)してしまう可能性がある。
【0031】
これに対し、後述のMnドープ工程S140の前に、下地基板10の下地面10s上にMn非含有の初期層22を形成することで、Mnドープ工程S140において、Mnドープ層24の成長初期に、下地基板10の下地面10sの一部にMnだけが付着することを抑制することができる。これにより、Mnがアンチサーファクタントとなることを抑制することができる。その結果、Mnドープ層24の3次元成長を抑制することができる。
【0032】
初期工程S120では、成長条件を、例えば、以下のように設定する。
成長温度:990℃以上1,120℃以下、好ましくは1,020℃以上1,100℃以下
V/III比:1以上10以下、好ましくは、1以上5以下
成長圧力:90~105kPa、好ましくは、90~95kPa
GaClガスの分圧:1.5~15kPa
ガスの流量/Nガスの流量の比率:1~20
なお、「V/III比」とは、III族原料ガスとしてのGaClガスの分圧に対するNHガスの分圧の比率である。
【0033】
初期層22の形成目的は、上述のように、下地基板10の下地面10sに塩化マンガンガスよりも先にGaClガスを確実に到達させることである。このため、初期層22は、成長速度に応じて短い時間(数分程度)で成長させればよく、初期層22の厚さは、特に限定されない。
【0034】
(S140:Mnドープ工程)
所定の初期層22の成長が完了したら、図3(c)に示すように、下地基板10の下地面10sの上方(初期層22上)に、Mnを含むIII族窒化物半導体の単結晶からなるMnドープ層24をエピタキシャル成長させる。
【0035】
このとき、本実施形態では、石英からなるガス生成容器内に、HClガスに対して耐性を有する介在部(例えばライナー)を介してMnを収容し、石英とMnとの直接接触を抑制した状態で、ガス生成容器内にHClガスを導入し、塩化マンガンガスを生成させ、Mnドープ層24中にMnを添加する。これにより、HClガスを含む雰囲気下でのMnの触媒作用を起因とした石英の分解を抑制することができる。石英の分解を抑制することで、石英を起源とするシリコン(Si)および酸素(O)がMnドープ層24中に混入することを抑制することができる。その結果、バックグラウンドの不純物レベルが低いMnドープ層24を得ることができる。
【0036】
なお、以下、塩化マンガンガスを生成するガスラインを「Mnライン」と呼ぶ。このときにMnラインから生成する塩化マンガンガス(MnClガス)は、例えば、MnClガスである。
【0037】
Mnラインのガス生成容器内で使用する介在部は、上述のように、HClガスに対して耐性を有することが必要である。そのほか、介在部は、例えば、Mnドープ層24の成長温度で融解または気化しないことが必要となる。また、介在部は、例えば、Mnドープ層24の成長温度で不純物を放出しないよう、高純度(99.9%以上)であることが必要となる。また、介在部は、例えば、HClガスを含む雰囲気下で石英を分解させる触媒作用を示さないことが必要となる。さらに、介在部は、例えば、Hガス、NガスおよびHClガスのうち少なくともいずれかを含む雰囲気下で、石英およびMnに対して直接反応しないことも必要となる。介在部がこれらの要件を満たすことで、介在部自身を起因とした不純物の発生を抑制することができるとともに、上述のMnの触媒作用を起因とした石英の分解を抑制することができる。
【0038】
具体的には、タングステン(W)、窒化ホウ素(BN)、炭化ケイ素(SiC)およびモリブデン(Mo)のうち少なくともいずれかを含む介在部を用いる。なお、BNとしては、例えば、PBN(Pyrolitic Boron Nitride)が挙げられる。これらの材料により介在部を構成することで、上述の要件を満たすことができる。
【0039】
また、このとき、Mnドープ層24のIII族元素サイトの少なくとも一部をMnに置換する。
【0040】
また、このとき、下地基板10の下地面10sの全体に亘って、c面を成長面としてMnドープ層24を成長(ステップフロー成長)させる。これにより、Mnドープ層24の表面にc面以外のファセットの発生を抑制することができる。なお、ここでいう「c面以外のファセット」とは、例えば、{11-2m}、{1-10n}などである。ただし、mおよびnは0以外の整数である。このようなc面以外のファセットを成長面として成長した領域は、c面を成長面として成長した領域よりも、酸素(O)を取り込みやすい。本実施形態では、上述のようにc面を成長面とした成長を行い、c面以外のファセットを成長面とした成長を抑制することで、Mnドープ層24中におけるOの取り込みを抑制することができる。その結果、結晶品質が良好なMnドープ層24を得ることができる。
【0041】
また、c面を成長面としてMnドープ層24を成長させることで、鏡面化したMnドープ層24を安定的に得ることができる。
【0042】
Mnドープ工程S140の成長条件については、例えば、以下のように設定する。
成長温度:990℃以上1,120℃以下、好ましくは1,020℃以上1,100℃以下
Mnラインのガス生成容器付近の温度:600℃以上850℃以下
V/III比:1以上10以下、好ましくは、1以上5以下
成長圧力:90~105kPa、好ましくは、90~95kPa
GaClガスの分圧:1.5~15kPa
Mnラインに供給するHClガスの分圧:1.6×10-2kPa以上0.8kPa以下
ガスの流量/Nガスの流量の比率:1~20
【0043】
なお、Mnドープ工程S140におけるMnドープに関わる条件以外の成長条件については、初期工程S120の成長条件と等しくしてもよいし、異ならせてもよい。
【0044】
また、Mnドープ層24の厚さを、例えば、100μm以上とする。Mnドープ層24の厚さを100μm以上とすることで、後述のc面の反り(湾曲)を矯正する効果を充分に発現させることができる。一方で、Mnドープ層24の厚さの上限値については、特に限定されるものではないが、初期層22から後述の本成長層40までの全厚が過剰に厚くなることを抑制する観点から、10mmであることが好ましい。
【0045】
以上の下地構造体準備工程S100により、本実施形態の下地構造体30が形成される。
【0046】
(S300:本成長工程(ノンドープ層成長工程))
下地構造体30を準備したら、図4(a)に示すように、例えば、下地構造体30の表層(すなわちMnドープ層24)のMn濃度よりも低いMn濃度を有するIII族窒化物半導体の単結晶からなる本成長層40を、下地構造体30上にエピタキシャル成長させる。なお、下地構造体準備工程S100に引き続き、HVPE法により、本成長層40を成長させる。
【0047】
具体的には、例えば、上述のMnラインにHClガスを供給せずに、本成長層40を成長させる。これにより、Mnドープ層24中のMn濃度よりも低いMn濃度を有する本成長層40を得ることができる。
【0048】
ただし、本成長工程S300の初期段階では、いわゆるメモリー効果に起因した影響が生じることがある。具体的には、例えば、以下のような場合が考えられる。上述のMnドープ工程S140では、Mnラインのガス生成容器内でMn原料の表面に生成するMnClの生成レートが、MnClガスの飽和蒸気圧に基づく蒸発レートよりも高い。このため、Mnドープ工程S140の終了後に、MnラインへのHClガスの供給を停止しても、MnラインのMn原料の表面に形成されたMnClが残留しうる。Mn原料の表面に形成されたMnClが残留すると、本成長工程S300の初期段階において、Mn原料の表面に残留したMnClからMnClガスが生成され、Mn原料の表面に残留したMnClが涸れるまで、一定の飽和蒸気圧でMnClガスが出続ける。この場合、本成長工程S300が進むにつれて、Mn原料の表面に残留したMnClが徐々に涸れていき、放出されるMnClガスが徐々に減少していく。このため、本成長層40中のMn濃度は、例えば、Mnドープ層24側から本成長層40の表面側に向けて徐々に減少していく。したがって、本実施形態では、本成長層40中のMn濃度が充分に減少した後に、所定の厚さでノンドープの本成長層40を成長させることが好ましい。
【0049】
また、このとき、下地構造体30(Mnドープ層24)の表面全体に亘って、c面を成長面として本成長層40を成長(ステップフロー成長)させる。これにより、本成長層40の表面にc面以外のファセットの発生を抑制することができる。c面以外のファセットの発生を抑制することで、本成長層40中におけるOの取り込みを抑制することができる。その結果、結晶品質が良好な本成長層40を得ることができる。
【0050】
また、このとき、本成長層40をMnドープ層24上に成長させることで、本成長層40のc面の曲率半径を、下地基板10のc面10cの曲率半径よりも大きくすることができる。
【0051】
本成長工程S300の成長条件については、例えば、以下のように設定する。
成長温度:990℃以上1,120℃以下、好ましくは1,020℃以上1,100℃以下
V/III比:1以上10以下、好ましくは、1以上5以下
成長圧力:90~105kPa、好ましくは、90~95kPa
GaClガスの分圧:1.5~15kPa
ガスの流量/Nガスの流量の比率:1~20
【0052】
なお、本成長工程S300の成長条件を、Mnドープ工程S140におけるMnドープに関わる条件以外の成長条件と等しくしてもよいし、異ならせてもよい。
【0053】
また、本成長層40をn型とする場合には、本成長層40中にSiまたはGeを添加してもよい。一方で、本成長層40をp型とする場合には、本成長層40中にマグネシウム(Mg)を添加してもよい。
【0054】
また、このとき、自立する少なくとも1つの窒化物結晶基板50を取得可能な厚さで、本成長層40を成長させる。ここでいう「自立する少なくとも1つの窒化物結晶基板50を取得可能な厚さ」としては、例えば、300μm以上である。
【0055】
なお、本成長層40の厚さを、例えば、単層で自立する少なくとも1つの基板50を取得可能な厚さとすることが好ましい。ここでいう「単層」とは、例えば、本成長層40のみから得られる層であり、下地構造体30と本成長層40との間の成長開始界面などの成長界面を含まない層のことを意味する。
【0056】
さらに、本実施形態では、本成長層40の厚さを、例えば、600μm以上10mm以下とすることが好ましい。本成長層40の厚さを600μm以上とすることで、後述のスライス工程S400において、上述のメモリー効果に起因してMnが混入した領域を除いても、本成長層40のノンドープ領域から少なくとも1枚の基板50を取得することができる。一方で、本成長層40の厚さを10mmとすることで、カーフロスを考慮しても、少なくとも10枚の基板50を得ることができる。また、本成長層40の厚さを10mm以下とすることで、本成長層40におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0057】
なお、以上の初期工程S120から本成長工程S300までの工程を、下地基板10を大気暴露することなく、同一の気相成長装置内で連続的に行う。これにより、初期層22とMnドープ層24との界面、Mnドープ層24と本成長層40との界面に、意図しない高酸素濃度領域(c面以外のファセット成長領域よりも過剰に高い酸素濃度を有する領域)が形成されることを抑制することができる。
【0058】
以上により、本実施形態の積層構造体90が得られる。
【0059】
(S400:スライス工程(基板取得工程))
次に、図4(b)に示すように、例えば、本成長層40の表面と略平行な切断面に沿ってワイヤーソーにより本成長層40をスライスする。これにより、アズスライス基板としての窒化物結晶基板50(基板50ともいう)を少なくとも1つ形成する。このとき、基板50の厚さを、例えば、300μm以上700μm以下とする。
【0060】
このとき、基板50のc面50cの曲率半径を、下地基板10のc面10cの曲率半径よりも大きくすることができる。なお、このとき、基板50のc面50cの曲率半径を、スライス前の本成長層40のc面40cの曲率半径よりも大きくすることができる。これにより、基板50の主面50sの法線に対するc軸50caのオフ角θのばらつきを、下地基板10のc軸10caオフ角のばらつきよりも小さくすることができる。
【0061】
(S500:研磨工程)
次に、研磨装置により基板50の両面を研磨する。なお、このとき、最終的な基板50の厚さを、例えば、250μm以上650μm以下とする。
【0062】
以上の工程S100~S500により、本実施形態に係る基板50が製造される。
【0063】
(半導体積層物の作製工程および半導体装置の作製工程)
基板50が製造されたら、例えば、基板50上にIII族窒化物半導体からなる半導体機能層をエピタキシャル成長させ、半導体積層物を作製する。半導体積層物を作製したら、半導体積層物を用いて電極等を形成し、半導体積層物をダイシングし、所定の大きさのチップを切り出す。これにより、半導体装置を作製する。
【0064】
(2)積層構造体
次に、図4(a)を用い、本実施形態に係る積層構造体90について説明する。
【0065】
本実施形態の積層構造体90は、例えば、下地構造体30と、本成長層40と、を有している。
【0066】
下地構造体30の少なくとも表層は、例えば、Mnを含むIII族窒化物半導体の単結晶からなっている。具体的には、本実施形態の下地構造体30は、例えば、下地基板10と、Mnドープ層24と、を有している。
【0067】
Mnドープ層24は、例えば、下地基板10の下地面10sの上方に設けられている。
【0068】
なお、Mnドープ層24は、例えば、上述の初期層22を介して下地基板10の下地面10s上に設けられていてもよい。この場合、初期層22は、例えば、下地基板10の下地面10sに接し、Mnを非含有とするIII族窒化物半導体の単結晶からなるものである。
【0069】
Mnドープ層24は、例えば、Mnを含むIII族窒化物半導体の単結晶からなっている。具体的には、Mnドープ層24中のMn濃度は、例えば、1×1018cm-3以上、好ましくは5×1018cm-3以上である。なお、Mnドープ層24中のMn濃度の上限値は限定されるものではないが、結晶品質を正常に保つという歩留まりの観点から、例えば、1×1020cm-3である。
【0070】
本実施形態では、Mnの触媒作用に起因した石英の分解を抑制しつつ、Mnドープ層24を成長させたことで、Mnドープ層24中のSi濃度およびO濃度が低くなっている。具体的には、Mnドープ層24中のSi濃度は、例えば、5×1016cm-3以下、好ましくは3×1016cm-3以下、より好ましくは2×1016cm-3以下である。Mnドープ層24中のO濃度は、例えば、1×1016cm-3以下、好ましくは6×1015cm-3以下、より好ましくは5×1015cm-3以下である。
【0071】
Mnドープ層24において、当該Mnドープ層24と本成長層40との界面に最も近い低指数の結晶面は、c面である。Mnドープ層24におけるc面は、例えば、界面に対して凹(または凸)の球面状に湾曲している。
【0072】
本実施形態では、Mnドープ層24のc面の曲率半径は、例えば、下地基板10のc面10cの曲率半径よりも大きい。具体的には、Mnドープ層24のc面の曲率半径の絶対値は、例えば、6m超、好ましくは10m以上である。
【0073】
本成長層40は、例えば、下地構造体30の上に設けられている。本成長層40は、例えば、下地構造体30の表層のMn濃度よりも低いMn濃度を有するIII族窒化物半導体の単結晶からなっている。
【0074】
本実施形態では、本成長層40中のMn濃度は、例えば、上述のように、Mnドープ層24側から本成長層40の表面側に向けて徐々に減少している。本成長層40の全体を平均化したMn濃度は、Mnドープ層24中のMn濃度よりも低い。本成長層40の表層中のMn濃度は、例えば、5×1016cm-3以下、好ましくは1×1016cm-3以下である。
【0075】
本成長層40は、c面を成長面として成長したため、酸素の取り込みが抑制されている。このため、本成長層40中のO濃度は、例えば、5×1016cm-3以下、好ましくは3×1016cm-3以下である。
【0076】
本成長層40は、例えば、最も近い低指数の結晶面がc面である表面を有している。本実施形態では、本成長層40の表面全体は+c面に配向しており、極性反転区(インバージョンドメイン)を含んでいない。本成長層40におけるc面は、例えば、表面に対して凹(または凸)の球面状に湾曲している。
【0077】
本実施形態では、本成長層40のc面の曲率半径は、例えば、下地基板10のc面10cの曲率半径よりも大きい。さらには、本成長層40のc面の曲率半径は、例えば、Mnドープ層24のc面の曲率半径よりも大きいことが好ましい。具体的には、本成長層40のc面の曲率半径の絶対値は、例えば、6m超、好ましくは10m以上である。
【0078】
本成長層40は、上述のように、例えば、自立する少なくとも1つの窒化物結晶基板50を取得可能な厚さを有している。本実施形態では、本成長層40の厚さは、例えば、300μm以上であり、好ましくは600μm以上10mm以下である。
【0079】
さらに、本成長層40は、例えば、転位について、以下のような特徴を有している。
【0080】
本成長層40は、例えば、複数の貫通転位を有している。ここでいう「貫通転位」とは、本成長層40の厚さ方向に伝播する転位のことを意味し、言い換えれば、c面を貫通する(c面と交差する)転位のことを意味する。なお、積層構造体90の異なる2層の界面を起点とする貫通転位が存在するため、ここでいう貫通転位は、積層構造体90の厚さ方向の全体に亘って伝播(貫通)する転位のことを意味するのではなく、少なくとも本成長層40内で厚さ方向に亘って伝播する転位のことを意味する。
【0081】
本実施形態では、本成長層40における複数の貫通転位の集合のうち、少なくとも一部の貫通転位が構成する転位線は、湾曲した部分を有している。この特徴に関しては、本成長層40からスライスして得られた基板50の特徴として、詳細を後述する。
【0082】
(3)窒化物結晶基板(窒化物結晶自立基板、窒化物半導体基板)
次に、図5および図6を用い、本実施形態に係る窒化物結晶基板50(以下、「基板50」と略すことがある)について説明する。図5(a)は、本実施形態に係る窒化物結晶基板を示す概略上面図であり、(b)は、本実施形態に係る窒化物結晶基板のm軸に沿った概略断面図であり、(c)は、本実施形態に係る窒化物結晶基板のm軸に直交するa軸に沿った概略断面図である。なお、m軸に沿った方向をx方向とし、a軸に沿った方向をy方向とする。
【0083】
本実施形態において、基板50は、III族窒化物半導体の単結晶からなる自立基板として構成されている。本実施形態では、基板50は、例えば、GaN自立基板である。
【0084】
基板50の直径は、例えば、2インチ以上、好ましくは4インチ以上である。また、基板50の厚さは、自立可能な厚さであり、例えば、300μm以上1mm以下である。
【0085】
なお、基板50は、例えば、単層で自立可能であることが好ましい。ここでいう「単層」とは、上述のように、成長界面を含まない層のことを意味する。
【0086】
基板50は、例えば、最も近い低指数の結晶面がc面(+c面)50cである主面50sを有している。なお、基板50の主面50sは、例えば、鏡面化されており、基板50の主面50sの二乗平均粗さRMSは、例えば、1nm未満である。
【0087】
その他、本実施形態では、基板50は、例えば、上述のように、極性反転区(インバージョンドメイン)を含んでいない。
【0088】
(不純物濃度)
基板50は、例えば、本成長層40のMn濃度が充分に低くなった領域から得られている。具体的には、基板50中のMn濃度は、例えば、5×1016cm-3以下、好ましくは1×1016cm-3以下である。
【0089】
基板50は、例えば、c面を成長面として成長させた本成長層40から得られており、O濃度が低くなっている。具体的には、基板50中のO濃度は、例えば、5×1016cm-3以下、好ましくは3×1016cm-3以下である。
【0090】
なお、基板50の導電性は特に限定されるものではない。しかしながら、基板50がn型である場合には、基板50中のn型不純物は例えばSiまたはGeであり、基板50中のn型不純物濃度は例えば1.0×1018cm-3以上1.0×1020cm-3以下である。基板50がp型である場合には、基板50中のp型不純物は例えばMgであり、基板50中のp型不純物濃度は例えば1.0×1018cm-3以上1.0×1020cm-3以下である。また、基板50中に意図的に導電型不純物を添加しない場合には、基板50中の導電型不純物の濃度は、例えば、5×1017cm-3以下、好ましくは1×1017cm-3以下である。
【0091】
さらに、本実施形態では、基板50中の水素(H)濃度は、フラックス法またはアモノサーマル法などによって得られる基板よりも低くなっており、例えば、1×1017cm-3未満、好ましくは5×1016cm-3以下である。
【0092】
(c面の湾曲)
図5(b)および(c)に示すように、本実施形態では、基板50の主面50sに対して最も近い低指数の結晶面としてのc面50cは、例えば、主面50sに対して凹(または凸)の球面状に湾曲している。
【0093】
本実施形態では、基板50のc面50cは、例えば、m軸に沿った断面およびa軸に沿った断面のそれぞれにおいて球面近似される曲面状となっている。
【0094】
本実施形態では、基板50のc面50cが上述のように湾曲していることから、少なくとも一部のc軸50caは、主面50sの法線に対して傾斜している。主面50sの法線に対してc軸50caがなす角度であるオフ角θは、主面50s内で所定の分布を有している。
【0095】
なお、主面50sの法線に対するc軸50caのオフ角θのうち、m軸に沿った方向成分を「θ」とし、a軸に沿った方向成分を「θ」とする。なお、θ=θ +θ である。
【0096】
本実施形態では、基板50のc面50cが上述のように球面状に湾曲していることから、オフ角m軸方向成分θおよびオフ角a軸方向成分θは、それぞれ、xの1次関数およびyの1次関数で近似的に表すことができる。
【0097】
具体的には、例えば、主面50s内で中心を通る直線上の各位置において(0002)面のX線ロッキングカーブ測定を行い、主面50sへ入射したX線と主面50sとがなすピーク角度ωを、直線上の位置(中心からの距離)に対してプロットしたときに、ピーク角度ωを位置の1次関数で近似することができる。なお、ここでいう「ピーク角度ω」とは、主面50sへ入射したX線と主面50sとがなす角度であって、回折強度が最大となる角度のことをいう。上述のように近似された1次関数の傾きの逆数により、c面50cの曲率半径を求めることができる。
【0098】
本実施形態では、基板50のc面50cの曲率半径は、例えば、下地基板10のc面10cの曲率半径よりも大きく、さらに上述の本成長層40のc面の曲率半径よりも大きくなっている。
【0099】
具体的には、c面50cのX線ロッキングカーブ測定においてピーク角度ωを位置の1次関数で近似したときに、当該1次関数の傾きの逆数により求められるc面50cの曲率半径は、例えば、10m以上、好ましくは12m以上、より好ましくは15m以上、さらに好ましくは18m以上である。
【0100】
本実施形態では、基板50のc面50cの曲率半径の上限値は、大きければ大きいほどよいため、特に限定されるものではない。基板50のc面50cが略平坦となる場合は、該c面50cの曲率半径が無限大であると考えればよい。
【0101】
また、本実施形態では、下地基板10にパターン加工などを施さずに本成長層40を成長させたことで、本成長層40のc面には、下地基板10のパターン加工などに起因した凹凸が生じていない。すなわち、基板50のc面50cは、例えば、真円球面に近くなっている。このため、c面50cのX線ロッキングカーブ測定においてピーク角度ωを位置の1次関数で近似したときに、位置の1次関数に対するωの誤差が小さい。本実施形態のωの誤差を、例えば、パターン加工した下地基板上に成長させた結晶層から得られる基板などよりも小さくすることができる。
【0102】
具体的には、上述のように近似した1次関数に対する、測定されたピーク角度ωの誤差は、例えば、0.05°以下、好ましくは0.02°以下、より好ましくは0.01°以下である。なお、少なくとも一部のピーク角度ωが1次関数と一致することがあるため、当該誤差の最小値は、0°である。
【0103】
本実施形態では、基板50のオフ方向におけるc面50cの湾曲が平坦に矯正されやすい。具体的には、例えば、主面50sの中心におけるオフ角のm軸方向成分θと、オフ角のm軸に直交するa軸方向成分θと、のうちいずれか一方は、他方よりも大きい。この場合、m軸方向成分θおよびa軸方向成分θのうちいずれか大きいほうの方向におけるc面50cの曲率半径の絶対値は、他方の方向におけるc面50cの曲率半径の絶対値よりも大きい。
【0104】
しかしながら、本実施形態では、パターン加工した下地基板上に成長させた結晶層から得られる基板などと比較して、c面50cの曲率半径における方向依存性が小さい。
【0105】
具体的には、m軸に沿った方向におけるc面50cの曲率半径の絶対値と、a軸に沿った方向におけるc面50cの曲率半径の絶対値との差は、例えば、これらのうち大きいほうの曲率半径の90%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは20%以下である。
【0106】
(転位)
次に、図6を用い、本実施形態の基板50中の転位について説明する。図6は、多光子励起顕微鏡を用い焦点を変えながら本実施形態に係る窒化物結晶基板を観察した観察像を主面に沿った方向から見た模式図である。図6において、基板50中で略縦方向に延在する実線は貫通転位を示している。
【0107】
図6に示すように、本実施形態の基板50は、例えば、複数の貫通転位を有している。ここでいう「貫通転位」とは、基板50の厚さ方向に伝播する転位のことを意味し、言い換えれば、c面50cを貫通する(c面50cと交差する)転位のことを意味する。すなわち、複数の貫通転位は、例えば、基板50の主面50sと反対側の裏面から主面50sに向けて伝播(延在)している。
【0108】
なお、貫通転位としては、基板50の主面50sおよび裏面のうち少なくともいずれか一方まで至っていない転位が含まれていてもよい。
【0109】
本実施形態の製法では、転位を集めるような特段の方法を用いていない。このため、本実施形態の基板50の主面50sにおける転位密度は、例えば、下地基板10の下地面10sにおける転位密度とほぼ同等か、或いは若干低い程度となる。具体的には、基板50の主面50sにおける転位密度(平均転位密度)は、例えば、1×10cm-2以上1×10cm-2未満、好ましくは5×10cm-2以下である。
【0110】
ここで、本発明者は、基板50中の転位が本実施形態の製造方法に起因した特有の特徴を有していることを見出した。
【0111】
具体的には、図6に示すように、多光子励起顕微鏡を用い焦点を変えながら基板50を観察した観察像を主面に沿った方向から見たときに、複数の貫通転位の集合のうち、少なくとも一部の貫通転位が構成する転位線は、湾曲した部分を有している。以下、湾曲した部分を有する貫通転位を「湾曲転位cdl」と呼ぶ。
【0112】
ここでいう「湾曲した部分」とは、所定の深さにおける貫通転位の始点と、主面50sにおける貫通転位の終点とを結ぶ仮想直線に対して湾曲した部分のことを意味する。貫通転位が湾曲した部分は、基板50の厚さ方向の全体に亘っていてもよいし、基板50の厚さ方向の一部領域であってもよい。また、貫通転位が湾曲した部分は、(1つの貫通転位において)一箇所であっても良いし、複数箇所であってもよい。
【0113】
基板50中の少なくとも1つの湾曲転位cdlは、例えば、以下の特徴を有する。例えば、主面50sからの深さが相対的に浅い側における主面50sの法線に対する湾曲転位cdlの転位線の傾きは、主面50sからの深さが相対的に深い側におけるそれよりも大きい。例えば、主面50sの法線に対する湾曲転位cdlの転位線の傾きは、主面50sと反対側の裏面から主面50s側に向けて徐々に大きくなっている。なお、複数の湾曲転位cdlのなかに上記特徴を満たさない湾曲転位cdlが含まれていてもよい。
【0114】
ここで、主面50sから深さ200μmにおける転位の始点と、主面50sにおける転位の終点とを結ぶ仮想直線から(直交する方向に)転位が離れた最大距離dが、5μm以上である転位を「湾曲転位cdl」として、湾曲転位cdlの数を計測した場合を考える。
【0115】
このとき、本実施形態では、複数の転位のうち湾曲転位cdlの割合は、例えば、10%以上90%以下、好ましくは20%以上80%以下である。
【0116】
また、本実施形態では、基板50の主面50sにおける湾曲転位cdlの密度は、例えば、5×10cm-2以上4.5×10cm-2以下である。
【0117】
(4)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0118】
(a)本実施形態では、少なくとも表層がMnを含む下地構造体30上に、本成長層40をエピタキシャル成長させる。このとき、自立する少なくとも1つの窒化物結晶基板50をスライス可能な厚さで、本成長層40を成長させる。下地構造体30の少なくとも表層がMnを含むことで、詳細なメカニズムは不明であるが、c面の反り(湾曲)を矯正する効果を発現させることができる。
【0119】
具体的には、本成長層40のc面の曲率半径を、下地基板10のc面10cの曲率半径よりも大きくすることができる。さらには、本成長層40から少なくとも1つの基板50をスライスしたときに、基板50のc面50cの曲率半径を、下地基板10のc面10cの曲率半径およびスライス前の本成長層40のc面の曲率半径のそれぞれよりも大きくすることができる。これにより、主面50sの法線に対するc軸50caのオフ角θのばらつきが小さい基板50を得ることができる。
【0120】
(b)少なくとも表層がMnを含む下地構造体30上に、本成長層40を成長させるだけで、c面の反りを、他の製造方法よりも早く矯正することができる。
【0121】
ここで、例えば、c面を成長面として厚い結晶層を成長させる場合(以下、c面厚膜成長の場合)について考える。当該c面厚膜成長の場合においても、結晶層を厚く成長させていくにつれて、c面の反りが徐々に矯正されていく。しかしながら、c面厚膜成長の場合では、c面の反りが矯正される速度が遅い。具体的には、c面の曲率半径が6mである下地基板上に、c面を成長面として結晶層を1mmの厚さで成長させたとしても、結晶層のc面の曲率半径は、下地基板のそれより大きくなるものの、10mを超えることはない。このため、c面厚膜成長の場合では、c面の曲率半径が大きい基板を量産することは困難となる可能性がある。
【0122】
また、他の方法として、例えば、c面以外のファセットを成長面として結晶層を3次元成長させた後に、結晶層を平坦化させる場合(以下、3次元成長の場合)について考える。当該3次元成長の場合においても、結晶層のc面の反りを矯正することができる。しかしながら、無駄になる結晶領域が生じたり、基板の取得歩留まりが低下したりする可能性がある。
【0123】
これに対し、本実施形態では、少なくとも表層がMnを含む下地構造体30上に、本成長層40を成長させるだけで、c面の反りをすぐに矯正することができる。すなわち、本成長層40を過剰に厚く成長させなくても、本成長層40の厚さ方向のいずれの位置であってもc面の曲率半径を大きくすることができる。その結果、c面50cの曲率半径が大きい基板50を容易に量産することが可能となる。
【0124】
(c)本実施形態では、上述の3次元成長の場合と異なり、成長条件の変化に起因した本成長層40におけるピットの形成を抑制することができる。その結果、本成長層40からの基板50の取得歩留まりを向上させることができる。
【0125】
(d)本実施形態では、下地基板10の上方に、Mnを含むIII族窒化物半導体の単結晶からなるMnドープ層24をエピタキシャル成長させることで、下地構造体30を形成する。これにより、Mnドープ工程S140から本成長工程S300までを、同一の気相成長装置内で連続的に行うことができる。その結果、基板50の製造工程を簡略化し、基板50を容易に量産することが可能となる。
【0126】
(e)本実施形態では、Mnドープ工程S140から本成長工程S300までを、同一の気相成長装置内で連続的に行うことで、チャンバの内壁にMnを付着させることができる。これにより、詳細なメカニズムは不明であるが、本成長工程S300において、チャンバの内壁への副生成物の付着(例えば多結晶窒化物の寄生成長)を抑制することができる。その結果、本成長工程S300中のパーティクルの発生を抑制することができる。
【0127】
(f)基板50において、複数の転位のうち少なくとも一部の転位(湾曲転位cdl)は、湾曲した部分を有している。基板50上にエピ層を成長させたときには、基板50中の湾曲転位cdlからエピ層への転位の伝播が他の転位と同様に生じうる。しかしながら、基板50中の湾曲転位cdlからエピ層へ伝播した転位の伝播方向を大きく傾けることができる。これにより、エピ層の表面への転位の出現を抑制することができる。例えば、エピ層中において、湾曲転位cdlから伝播した転位を、他の転位と積極的に会合させたり、湾曲転位cdlから伝播した転位によりループを形成させたり、湾曲転位cdlから伝播した転位をエピ層の側面に向けて伝播させたりすることができる。その結果、エピ層の表面における転位密度を減少させることができる。
【0128】
<本発明の第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0129】
上述の第1実施形態では、下地構造体30が下地基板10とMnドープ層24とを有する場合について説明したが、本発明はこの場合に限られない。以下の本実施形態のように、下地構造体30を変更してもよい。本実施形態では、下地構造体準備工程S100等が上述の第1実施形態と異なる。
【0130】
以下、上述の実施形態と異なる要素についてのみ説明し、上述の実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0131】
(1)窒化物結晶基板の製造方法
図7を用い、本実施形態の窒化物結晶基板の製造方法について説明する。図7(a)および(b)は、本実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法の一部を示す概略断面図である。
【0132】
(S100:下地構造体準備工程)
まず、図7(a)に示すように、本実施形態では、下地構造体30として、全体にMnが添加されたMnドープ基板26を準備する。
【0133】
Mnドープ基板26を作製する方法としては、特に限定されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、第1実施形態の下地基板準備工程S110、初期工程S120およびMnドープ工程S140を行う。次に、Mnドープ層24をスライスすることで、Mnドープ基板26を得る。その後、Mnドープ基板26の両面を研磨する。以上により、下地構造体30としてのMnドープ基板26を得ることができる。
【0134】
上述の方法により得られたMnドープ基板26は、例えば、Mnを含むIII族窒化物半導体の単結晶からなる自立基板である。本実施形態では、Mnドープ基板26は、例えば、MnドープGaN自立基板である。
【0135】
Mnドープ基板26の直径は、例えば、2インチ以上、好ましくは4インチ以上である。また、Mnドープ基板26の厚さは、例えば、300μm以上1mm以下である。
【0136】
Mnドープ基板26中のMn濃度は、例えば、1×1018cm-3以上、好ましくは5×1018cm-3以上である。なお、Mnドープ基板26中のMn濃度の上限値は限定されるものではないが、上述の歩留まりの観点から、例えば、1×1020cm-3である。
【0137】
Mnドープ基板26中における他の不純物の濃度は特に限定されないが、上述の製造方法により得られたMnドープ基板26では、Si濃度は、例えば、5×1017cm-3以下、好ましくは1×1017cm-3以下であり、O濃度は、例えば、5×1016cm-3以下、好ましくは3×1016cm-3以下である。
【0138】
Mnドープ基板26は、下地面(主面、下地表面)26sを有している。下地面26sに対して最も近い低指数の結晶面は、例えば、c面(+c面)26cである。Mnドープ基板26におけるc面26cは、例えば、下地面26sに対して凹の球面状に湾曲している。
【0139】
Mnドープ基板26のc面26cの曲率半径は、従来のVAS法により得られる基板(例えば第1実施形態の下地基板10)のc面の曲率半径よりも大きく、例えば、10m以上、好ましくは12m以上、より好ましくは15m以上、さらに好ましくは18m以上である。
【0140】
(S300:本成長工程)
下地構造体30を準備したら、図7(b)に示すように、例えば、HVPE法により、MnClガスを供給することなく、III族窒化物半導体の単結晶からなる本成長層40を、Mnドープ基板26上にエピタキシャル成長させる。これにより、Mnドープ基板26のMn濃度よりも低いMn濃度を有する本成長層40を得ることができる。
【0141】
また、このとき、自立する少なくとも1つの基板50をスライス可能な厚さで、本成長層40を成長させる。なお、本実施形態では、上述のメモリー効果が生じないため、本実施形態の本成長層40の厚さを、上述の第1実施形態のそれよりも薄くしてもよい。
【0142】
なお、本実施形態の本成長工程S300の成長条件については、例えば、第1実施形態のそれと同等とすることができる。
【0143】
(S400:スライス工程)
次に、図7(c)に示すように、本成長層40をスライスすることで、基板50を少なくとも1つ形成する。このとき、基板50のc面50cの曲率半径を、Mnドープ基板26のc面26cの曲率半径よりも大きくすることができる。
【0144】
(S500:研磨工程)
その後、第1実施形態と同様に研磨工程S500を行う。
【0145】
以上の工程S100~S500により、本実施形態に係る基板50が製造される。
【0146】
本実施形態の積層構造体90では、本成長層40中のMn濃度が、厚さ方向の全体に亘って均一にMnドープ基板26中のMn濃度よりも低くなっている。本実施形態の積層構造体90におけるその他の特徴は、上述の第1実施形態のそれと同等である。
【0147】
本実施形態の基板50の特性としては、上述の第1実施形態と同等の特性を得ることができる。
【0148】
(2)本実施形態により得られる効果
(a)本実施形態では、下地構造体30として、全体にMnが添加されたMnドープ基板26を準備し、Mnドープ基板26上に本成長層40をエピタキシャル成長させる。これにより、c面の反りを矯正する効果を発現させることができる。具体的には、スライス後の基板50のc面50cの曲率半径を、Mnドープ基板26のc面26cの曲率半径よりも大きくすることができる。
【0149】
(b)本実施形態の本成長工程S300では、Mnドープ基板26を準備する下地構造体準備工程S100から独立した工程として、MnClガスを供給することなく、本成長層40を成長させる。これにより、本成長工程S300において、上述のメモリー効果に起因した本成長層40へのMnの混入を抑制することができる。本成長層40へのMnの混入を抑制することで、本成長層40中のMn濃度を、厚さ方向の全体に亘って均一にMnドープ基板26中のMn濃度よりも低くすることができる。その結果、所定の厚さの本成長層40から、多くのMn非含有の基板50を効率よく得ることができる。
【0150】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。なお、「上述の実施形態」とは、第1実施形態および第2実施形態を含んでいる。
【0151】
上述の第1実施形態では、下地基板10がGaN自立基板である場合について説明したが、下地基板10は、GaN自立基板に限らず、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウム(InN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等のIII族窒化物半導体、すなわち、AlInGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物半導体からなる自立基板であってもよい。
【0152】
上述の第1実施形態では、初期工程S120から本成長工程S300までの工程を同一の気相成長装置内で連続的に行う場合について説明したが、本発明はこの場合に限られず、例えば、以下の方法を適用してもよい。具体的には、Mnドープ工程S140の後に、下地構造体30を気相成長装置から搬出し、Mnラインのガス生成容器からMnClが表面に残留したMn原料を取り出す。その後、気相成長装置内に下地構造体30を搬入し、本成長工程S300を行う。この方法によれば、本成長工程S300において、上述のメモリー効果に起因した本成長層40へのMnの混入を抑制することができる。
【0153】
上述の実施形態では、基板50がGaN自立基板である場合について説明したが、基板50は、GaN自立基板に限らず、例えば、AlN、AlGaN、InN、InGaN、AlInGaN等のIII族窒化物半導体、すなわち、AlInGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物半導体からなる自立基板であってもよい。
【0154】
上述の実施形態では、基板50が単層で自立可能である場合について説明したが、例えば、上述のメモリー効果などに起因して、基板50が裏面側にMnを含むことがありうる。このような場合、基板50は、成長界面を含まなければ、上述のように単層であると考えることができる。しかしながら、この場合、基板50がMnドープ層を備えていると考えてもよく、すなわち、基板50が「積層構造体」の一態様であると考えてもよい。
【0155】
上述の実施形態では、スライス工程S400において、ワイヤーソーを用いる場合について説明したが、例えば、外周刃スライサー、内周刃スライサー、放電加工機等を用いてもよい。
【0156】
上述の実施形態では、積層構造体90のうちの本成長層40をスライスすることで、基板50を得る場合について説明したが、この場合に限られない。例えば、積層構造体90をそのまま用いて、半導体装置を作製するための半導体積層物を製造してもよい。具体的には、積層構造体90を作製したら、半導体積層物作製工程において、積層構造体90上に半導体機能層をエピタキシャル成長させ、半導体積層物を作製する。半導体積層物を作製したら、積層構造体90の裏面側を研磨し、下地構造体30を除去する。これにより、上述の実施形態と同様に、基板50と半導体機能層とを有する半導体積層物が得られる。この場合によれば、基板50を得るためのスライス工程S400および研磨工程S500を省略することができる。
【実施例
【0157】
以下、本発明の効果を裏付ける各種実験結果について説明する。以下において「窒化物結晶基板」を基板と略すことがある。
【0158】
(1)実験1
(1-1)積層構造体および窒化物結晶基板の作製
以下のようにして、サンプル1の積層構造体および基板を作製した。
【0159】
[サンプル1の積層構造体および基板の作製条件]
<下地構造体>
(下地基板)
材質:アンドープGaN
製造方法:VAS法
直径:2インチ
厚さ:400μm
主面に対して最も近い低指数の結晶面:c面
主面に対するマスク層等のパターン加工なし。
(初期層)
Mnドープ層の成長の前にMnClガスを供給することなくGaClガスを供給し、初期層を形成した。
厚さ:30μm
(Mnドープ層)
材質:GaN
成長方法:HVPE法
成長温度:1040℃
GaCl分圧:9.5kPa
V/III比:1.67
Mnラインのガス生成容器付近の温度:650℃
MnラインのHClガス分圧:1.6×10-2kPa
厚さ:約220μm
<本成長層>
材質:GaN
成長方法:HVPE法
成長温度:1040℃
GaCl分圧:9.5kPa
V/III比:1.67
厚さ:約500μm
<スライスおよび研磨条件>
本成長層の表面側から所定の厚さで基板をスライスした。
両面研磨
基板の最終厚さ:400μm
【0160】
(1-2)評価
(蛍光顕微鏡による観察)
蛍光顕微鏡を用い、サンプル1の積層構造体の断面を観察した。
【0161】
(X線ロッキングカーブ測定)
下地基板、サンプル1の積層構造体、およびサンプル1の基板のそれぞれについて、(0002)面のX線ロッキングカーブ測定を行った。このとき、それぞれの基板の主面内のうち、中心を通りm軸方向に沿った直線上、および中心を通りm軸に直交するa軸方向に沿った直線上で、5mm間隔で設定した複数の測定点において、該測定を行った。また、このとき、基板の主面内の位置として正に定義している側からX線を入射させた。測定の結果、主面へ入射したX線と主面とがなすピーク角度ωを、直線上の位置に対してプロットし、ピーク角度ωを位置の1次関数で近似した。当該1次関数の傾きの逆数により、c面の曲率半径を求めた。
【0162】
(二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry))
サンプル1の基板をスライスした後に、サンプル1のMnドープ層の表面側、およびサンプル1の基板の主面側において、SIMSを行った。
【0163】
(多光子励起顕微鏡による観察)
多光子励起顕微鏡を用い、サンプル1の基板の主面を観察した。また、多光子励起顕微鏡を用い、厚さ方向に焦点を変えながら、下地基板およびサンプル1の基板のそれぞれを観察した。
【0164】
(1-3)結果
<サンプル1の積層構造体の断面>
図8を用い、サンプル1の積層構造体の断面について説明する。図8は、実験1において、サンプル1の積層構造体の断面を蛍光顕微鏡により観察した観察像である。
【0165】
図8に示すように、サンプル1の積層構造体が、下地基板と、初期層と、Mnドープ層と、本成長層と、を有することを、色の違いに基づいて確認した。
【0166】
Mnドープ層は、Mnを含むことに起因して、赤褐色を呈していた。また、本成長層のMnドープ層側も、若干赤褐色となっており、本成長層の色は、Mnドープ層側から本成長層の表面側に向けて徐々に薄くなっていた。このことから、サンプル1では、本成長層中のMn濃度が、Mnドープ層側から本成長層の表面側に向けて徐々に減少していることを確認した。
【0167】
また、本成長層が3次元成長(ファセット成長)した痕跡はなく、本成長層の表面はピットを有さず平坦であった。このことから、サンプル1では、Mnドープ層の表面全体に亘って、c面を成長面として本成長層を成長させることができたことを確認した。
【0168】
<不純物濃度>
SIMSの結果、サンプル1のMnドープ層の表面側におけるMn濃度は、約5×1019cm-3であった。なお、サンプル1のMnドープ層では、Si濃度は約2×1016cm-3であり、O濃度は約5×1015cm-3であった。このことから、Mnドープ層の成長中にSiおよびOの混入を抑制することができたことを確認した。
【0169】
一方で、サンプル1の基板の主面側におけるMn濃度は、1×1016cm-3であった。なお、サンプル1の基板においても、Si濃度は約2×1016cm-3であり、O濃度は約5×1015cm-3であった。
【0170】
(X線ロッキングカーブ測定)
次に、図9(a)および(b)を用い、サンプル1についてのX線ロッキングカーブ測定の結果について説明する。図9(a)は、実験1において各サンプルのm軸に沿った方向に対してX線回折のロッキングカーブ測定を行った結果を示す図であり、(b)は、実験1において各サンプルのm軸に直交するa軸に沿った方向に対してX線回折のロッキングカーブ測定を行った結果を示す図である。なお、図中の「As-grown」とは、積層構造体のことを意味し、「Back lapped」とは、スライスおよび研磨後の基板のことを意味する。
【0171】
図9(a)および(b)に示すように、サンプル1の積層構造体の本成長層におけるc面の曲率半径は、下地基板のそれよりも大きくなっており、7m以上であった。さらに、サンプル1の基板におけるc面の曲率半径は、下地基板および積層構造体の本成長層のそれらよりも大きくなっており、10m以上であった。
【0172】
なお、サンプル1の基板では、c面のX線ロッキングカーブ測定においてピーク角度ωを位置の1次関数で近似したときの、1次関数に対する誤差が小さかった。具体的には、上述のように近似した1次関数に対する、測定されたピーク角度ωの誤差は、0.01°以下であった。
【0173】
また、図9(a)および(b)に示すように、サンプル1の基板の中心におけるオフ角のa軸方向成分(の絶対値)が、オフ角のm軸方向成分よりも大きかった。なお、(0002)面のピーク角度ωの理論値は、およそ17.28°である。
【0174】
また、サンプル1の基板では、a軸方向におけるc面の曲率半径の絶対値が、m軸方向におけるc面の曲率半径の絶対値よりも大きかった。
【0175】
ただし、サンプル1の基板では、c面の曲率半径における方向依存性は小さかった。すなわち、a軸方向におけるc面の曲率半径の絶対値と、m軸方向におけるc面の曲率半径の絶対値との差は、a軸方向のそれの30%であった。
【0176】
(転位)
図10図13を用い、サンプル1の基板における転位について説明する。図10は、多光子励起顕微鏡を用い、サンプル1の基板の主面を観察した観察像を示す図である。図11は、多光子励起顕微鏡を用い焦点を変えながらサンプル1の基板を観察した観察像の斜視図である。図12は、多光子励起顕微鏡を用い焦点を変えながら下地基板を観察した観察像を主面に沿った方向から見た図である。なお、図11および図12(後述の図16も同様)では、白黒が反転されており、転位が白く示されている。
【0177】
なお、図10は、基板の主面に焦点を合わせた観察像である。一方で、図11および図12における「観察像」は、所定の深さごとに焦点を合わせて観察した単位画像を、厚さ方向に重ね合わせた重畳画像である。図11において、横の長さおよび縦の長さは、それぞれ、約64μm、約300μmである。図12において、横の長さおよび縦の長さは、それぞれ、約64μm、約200μmである。
【0178】
多光子励起顕微鏡による観察の結果、下地基板の下地面における転位密度は、3.0×10cm-2であった。これに対し、サンプル1の基板の主面における転位密度は、下地基板のそれよりも若干低く、1.3×10cm-2であった(図10参照)。
【0179】
図12に示すように、下地基板では、複数の転位のそれぞれは、裏面から下地面に向けて略直線状に延在していた。
【0180】
これに対し、図11に示すように、サンプル1の基板中の転位は、特有の特徴を有していることを確認した。
【0181】
具体的には、サンプル1の基板では、複数の転位のうち少なくとも一部の転位は、湾曲した部分を有していた。図11において、湾曲した部分を有する転位の1つを「湾曲転位A」とする。
【0182】
図11における湾曲転位Aは、以下の特徴を有していた。主面からの深さが相対的に浅い側における主面の法線に対する湾曲転位Aの傾きは、主面からの深さが相対的に深い側におけるそれよりも大きかった。主面の法線に対する湾曲転位Aの傾きは、主面と反対側の裏面から主面側に向けて徐々に大きくなっていた。
【0183】
ここで、サンプル1の基板の主面側から見た観察像と、サンプル1の基板の主面に沿った方向から見た観察像とを用い、主面から深さ200μmにおける転位の始点と、主面における転位の終点とを結ぶ仮想直線から転位が離れた最大距離が、5μm以上である転位を「湾曲転位」として、湾曲転位の数を計測した。
【0184】
このとき、サンプル1において、複数の転位のうち湾曲転位の割合は、43%であった。また、サンプル1において、基板の主面における湾曲転位の密度は、5.6×10cm-2であった。
【0185】
(2)実験2
(2-1)積層構造体および窒化物結晶基板の作製
以下のようにして、サンプル2の積層構造体および基板を作製した。
【0186】
[サンプル2の積層構造体および基板の作製条件]
<下地構造体:Mnドープ基板>
以下の手順で、下地構造体としてMnドープ基板を作製した。具体的には、まず、Mnドープ層の厚さを500nmとした点を除いてサンプル1の下地構造体の条件と同様の条件下で、下地基板上に初期層およびMnドープ層を順に形成した。次に、Mnドープ層をスライスしてMnドープ基板を得た。その後、Mnドープ基板の両面を研磨することで、Mnドープ基板の厚さを400nmとした。
<本成長層>
サンプル1の本成長層の条件と同様の条件下で、Mnドープ基板上に本成長層を成長させた。
<スライスおよび研磨条件>
サンプル1のスライスおよび研磨条件と同様の条件とした。
【0187】
(2-2)評価
(蛍光顕微鏡による観察)
蛍光顕微鏡を用い、サンプル2の積層構造体の断面を観察した。
【0188】
(X線ロッキングカーブ測定)
実験1の条件と同様の条件下で、スライス前のMnドープ層、Mnドープ基板、サンプル2の積層構造体(の本成長層)、およびサンプル2の基板のそれぞれについて、(0002)面のX線ロッキングカーブ測定を行った。
【0189】
(SIMS)
Mnドープ基板の表面側、およびサンプル2の基板の主面側において、SIMSを行った。
【0190】
(多光子励起顕微鏡による観察)
多光子励起顕微鏡を用い、サンプル2の基板の主面を観察した。また、多光子励起顕微鏡を用い、厚さ方向に焦点を変えながら、サンプル2の基板を観察した。
【0191】
(2-3)結果
<サンプル2の積層構造体の断面>
図13を用い、サンプル2の積層構造体の断面について説明する。図13は、実験2において、サンプル2の積層構造体の断面を蛍光顕微鏡により観察した観察像である。
【0192】
図13に示すように、サンプル2の積層構造体が、Mnドープ基板と、本成長層と、を有することを、色の違いに基づいて確認した。
【0193】
Mnドープ基板は、赤褐色を呈していた。一方で、本成長層は、赤褐色を呈しておらず、Mnドープ基板と本成長層との間に界面が明確に確認された。このことから、サンプル2では、成長層中のMn濃度が、厚さ方向の全体に亘って均一にMnドープ基板中のMn濃度よりも低くなっていることを確認した。また、Mnドープ基板から本成長層にMnが拡散していないことを確認した。
【0194】
また、サンプル2もサンプル1と同様に、本成長層が3次元成長した痕跡はなく、本成長層の表面はピットを有さず平坦であった。このことから、サンプル2においても、Mnドープ基板の表面全体に亘って、c面を成長面として本成長層を成長させることができたことを確認した。
【0195】
<不純物濃度>
SIMSの結果、サンプル2のMnドープ基板の表面側におけるMn濃度は、約5×1019cm-3であった。なお、サンプル2のMnドープ基板では、Si濃度は約2×1016cm-3であり、O濃度は約5×1015cm-3であった。
【0196】
一方で、サンプル2の基板の主面側におけるMn濃度は、検出下限値1×1015cm-3以下であった。なお、サンプル1の基板においても、Si濃度は約2×1016cm-3であり、O濃度は約5×1015cm-3であった。
【0197】
(X線ロッキングカーブ測定)
次に、図14(a)および(b)を用い、サンプル2についてのX線ロッキングカーブ測定の結果について説明する。図14(a)は、実験2において各サンプルのm軸に沿った方向に対してX線回折のロッキングカーブ測定を行った結果を示す図であり、(b)は、実験2において各サンプルのm軸に直交するa軸に沿った方向に対してX線回折のロッキングカーブ測定を行った結果を示す図である。
【0198】
図14(a)および(b)に示すように、Mnドープ基板のc面の曲率半径は、スライス前のMnドープ層のc面の曲率半径よりも大きかった。さらに、サンプル2の基板におけるc面の曲率半径は、Mnドープ基板のそれよりも大きくなっており、20m以上であった。
【0199】
なお、サンプル2の基板では、c面のX線ロッキングカーブ測定においてピーク角度ωを位置の1次関数で近似したときの、1次関数に対する誤差が小さかった。具体的には、上述のように近似した1次関数に対する、測定されたピーク角度ωの誤差は、0.01°以下であった。
【0200】
また、図14(a)および(b)に示すように、サンプル2の基板の中心におけるオフ角のa軸方向成分(の絶対値)が、オフ角のm軸方向成分よりも大きかった。
【0201】
また、サンプル2の基板では、a軸方向におけるc面の曲率半径の絶対値が、m軸方向におけるc面の曲率半径の絶対値よりも大きかった。
【0202】
ただし、サンプル2の基板では、c面の曲率半径における方向依存性は小さかった。すなわち、a軸方向におけるc面の曲率半径の絶対値と、m軸方向におけるc面の曲率半径の絶対値との差は、a軸方向のそれの25%であった。
【0203】
(転位)
図15および図16を用い、サンプル2の基板における転位について説明する。図15は、多光子励起顕微鏡を用い、サンプル2の基板の主面を観察した観察像を示す図である。図16は、多光子励起顕微鏡を用い焦点を変えながらサンプル2の基板を観察した観察像の斜視図である。
【0204】
なお、図16においても、横の長さおよび縦の長さは、それぞれ、約64μm、約300μmである。
【0205】
多光子励起顕微鏡による観察の結果、サンプル2の基板の主面における転位密度は、下地基板のそれよりも若干低く、1.2×10cm-2であった(図15参照)。
【0206】
図16に示すように、サンプル2の基板では、サンプル1の基板と同様に、複数の転位のうち少なくとも一部の転位は、湾曲した部分を有していた。
【0207】
サンプル2の基板における湾曲転位の少なくとも1つは、サンプル1の基板における湾曲転位Aと同様の特徴を有していた。すなわち、サンプル2の基板において、主面からの深さが相対的に浅い側における主面の法線に対する湾曲転位の傾きは、主面からの深さが相対的に深い側におけるそれよりも大きかった。主面の法線に対する湾曲転位の傾きは、主面と反対側の裏面から主面側に向けて徐々に大きくなっていた。
【0208】
また、サンプル2において、サンプル1と同様の方法により湾曲転位の数を計測したときに、複数の転位のうち湾曲転位の割合は、45%であった。また、サンプル1において、基板の主面における湾曲転位の密度は、5.2×10cm-2であった。
【0209】
(3)実験1および2のまとめ
上述の実験1および2によれば、少なくとも表層がMnを含む下地構造体上に、本成長層をエピタキシャル成長させることで、c面の反りを矯正する効果を発現させることができることを確認した。
【0210】
また、サンプル1および2のそれぞれの基板において、上述の製造方法に起因して、複数の転位のうち少なくとも一部の転位が湾曲した部分を有していることを確認した。
【0211】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0212】
(付記1)
気相成長法を用いた窒化物結晶基板の製造方法であって、
少なくとも表層がマンガンを含むIII族窒化物半導体の単結晶からなる下地構造体を準備する工程と、
前記下地構造体の前記表層のマンガン濃度よりも低いマンガン濃度を有するIII族窒化物半導体の単結晶からなる本成長層を、前記下地構造体上にエピタキシャル成長させる工程と、
前記本成長層から、自立する少なくとも1つの窒化物結晶基板を取得する工程と、
を有する
窒化物結晶基板の製造方法。
【0213】
(付記2)
前記本成長層をエピタキシャル成長させる工程では、
ハイドライド気相成長法により前記本成長層を成長させる
付記1に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【0214】
(付記3)
前記下地構造体を準備する工程は、
III族窒化物半導体の単結晶からなる下地基板を準備する工程と、
前記下地基板の上方に、マンガンを含むIII族窒化物半導体の単結晶からなるマンガンドープ層をエピタキシャル成長させる工程と、
を有する
付記1又は2に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【0215】
(付記4)
前記窒化物結晶基板の(0001)面の曲率半径を、前記マンガンドープ層の(0001)面の曲率半径よりも大きくする
付記3に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【0216】
(付記5)
前記下地基板を準備する工程では、
最も近い低指数の結晶面が凹の球面状に湾曲した(0001)面である主面を有する前記下地基板を準備し、
前記窒化物結晶基板を取得する工程では、
(0001)面の曲率半径が前記下地基板の(0001)面の曲率半径よりも大きい前記窒化物結晶基板を取得する
付記3又は4に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【0217】
(付記6)
前記マンガンドープ層をエピタキシャル成長させる工程から前記本成長層をエピタキシャル成長させる工程までを、同一の気相成長装置内で連続的に行う
付記3~5のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【0218】
(付記7)
前記下地構造体を準備する工程では、
前記下地構造体として、全体にマンガンが添加されたマンガンドープ基板を準備する
付記1又は2に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【0219】
(付記8)
前記下地構造体を準備する工程では、
最も近い低指数の結晶面が凹の球面状に湾曲した(0001)面である主面を有する前記マンガンドープ基板を準備し、
前記窒化物結晶基板を取得する工程では、
(0001)面の曲率半径が前記マンガンドープ基板の(0001)面の曲率半径よりも大きい前記窒化物結晶基板を取得する
付記7に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【0220】
(付記9)
前記下地構造体を準備する工程では、
前記表層のIII族元素サイトの少なくとも一部をマンガンに置換する
付記1~8のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【0221】
(付記10)
前記本成長層をエピタキシャル成長させる工程では、
前記下地構造体の主面全体に亘って(0001)面を成長面として前記本成長層を成長させる
付記1~9のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【0222】
(付記11)
少なくとも表層がマンガンを含むIII族窒化物半導体の単結晶からなる下地構造体を準備する工程と、
前記下地構造体の前記表層のマンガン濃度よりも低いマンガン濃度を有するIII族窒化物半導体の単結晶からなる本成長層を、前記下地構造体上にエピタキシャル成長させる工程と、
を有し、
前記本成長層をエピタキシャル成長させる工程では、
自立する少なくとも1つの窒化物結晶基板を取得可能な厚さで前記本成長層を、気相成長法を用いて成長させる
積層構造体の製造方法。
【0223】
(付記12)
III族窒化物半導体の単結晶からなる自立基板として構成され、最も近い低指数の結晶面が(0001)面である主面を有する窒化物結晶基板であって、
厚さ方向に伝播する複数の貫通転位を有し、
前記複数の貫通転位の集合のうち、少なくとも一部の貫通転位が構成する転位線は、湾曲した部分を有する
窒化物結晶基板。
【0224】
(付記13)
前記主面からの深さが相対的に浅い側における前記主面の法線に対する湾曲した貫通転位の転位線の傾きは、前記主面からの深さが相対的に深い側におけるそれよりも大きい
付記12に記載の窒化物結晶基板。
【0225】
(付記14)
前記主面の法線に対する湾曲した貫通転位の転位線の傾きは、前記主面と反対側から前記主面側に向けて徐々に大きくなっている
付記12又は13に記載の窒化物結晶基板。
【0226】
(付記15)
前記複数の貫通転位の集合のうち、湾曲した貫通転位の割合は、10%以上90%以下である
付記12~14のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板。
【0227】
(付記16)
前記主面における転位密度は、1×10cm-2以上5×10cm-2以下である
付記12~15のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板。
【0228】
(付記17)
前記主面における湾曲した貫通転位の密度は、5×10cm-2以上4.5×10cm-2以下である
付記12~16のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板。
【0229】
(付記18)
前記(0001)面の曲率半径は、10m以上である
付記12~17のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板。
【0230】
(付記19)
前記主面の中心における<0001>軸は、所定のオフ角で前記主面の法線に対して傾斜しており、
前記オフ角の<1-100>軸方向成分と、前記オフ角の前記<1-100>軸に直交する<11-20>軸方向成分と、のうちいずれか一方は、他方よりも大きく、
前記<1-100>軸方向成分および前記<11-20>軸方向成分のうちいずれか大きいほうの方向における前記(0001)面の曲率半径の絶対値は、他方の方向における前記(0001)面の曲率半径の絶対値よりも大きい
付記12~18のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板。
【0231】
(付記20)
<1-100>軸に沿った方向における前記(0001)面の曲率半径の絶対値と、前記<1-100>軸に直交する<11-20>軸に沿った方向における前記(0001)面の曲率半径の絶対値との差は、これらのうち大きいほうの90%以下である
付記12~19のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板。
【0232】
(付記21)
2インチ以上の直径を有する
付記12~20のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板。
【0233】
(付記22)
4インチ以上の直径を有する
付記12~21のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板。
【0234】
(付記23)
少なくとも表層がマンガンを含むIII族窒化物半導体の単結晶からなる下地構造体と、
前記下地構造体上に設けられ、前記下地構造体の前記表層のマンガン濃度よりも低いマンガン濃度を有するIII族窒化物半導体の単結晶からなる本成長層と、
を有し、
前記本成長層は、自立する少なくとも1つの窒化物結晶基板を取得可能な厚さを有する
積層構造体。
【符号の説明】
【0235】
10 下地基板
24 Mnドープ層
26 Mnドープ基板
30 下地構造体
40 本成長層
50 窒化物結晶基板(基板)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16