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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】ソフトチョコレート
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/32 20060101AFI20240408BHJP
   A23G 1/50 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
A23G1/32
A23G1/50
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020055639
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021153438
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】397059157
【氏名又は名称】大東カカオ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺井 悠晃
(72)【発明者】
【氏名】安藤 雅崇
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-289147(JP,A)
【文献】特開2018-046761(JP,A)
【文献】特開2015-100324(JP,A)
【文献】国際公開第2014/148388(WO,A1)
【文献】特開2015-133954(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098932(WO,A1)
【文献】特開2013-201907(JP,A)
【文献】特公平7-40879(JP,B2)
【文献】藤田 哲,食用油脂-その利用と油脂食品-,2000年04月05日,第44、110-111頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00 - 9/06
A23G 1/00 - 9/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョコレートに含まれる油脂が下記の(a)から(c)の条件を満たし、レオメーター(プランジャー:直径8mm、高さ22mm)で測定速度1mm/秒の条件にて測定した時の20℃でのチョコレートの硬さが30N以下であるチョコレートであって、該チョコレートに含まれる油脂100質量部に対して3鎖長β型油脂結晶が0.10~5.0質量部配合されたチョコレート。
(a)XOXを6.0~26.1質量%含有する。
(b)XOX/X2Oの質量比が0.78以上である。
(c)XU2+U3を45.0~85.0質量%含有する。
上記の(a)から(c)の条件において、X、U、O、XOX、X2O、XU2、U3はそれぞれ以下のものを示す。
X:炭素数16~20の直鎖飽和脂肪酸
U:炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸
O:オレイン酸
XOX:1位と3位にX、2位にOが結合しているトリグリセリド
X2O:Xが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド
XU2:Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
【請求項2】
チョコレートに含まれる油脂がさらに下記の(d)の条件を満たす請求項1に記載のチョコレート。
(d)POSt/XOXの質量比が0.35~0.55である。
上記の(d)の条件において、P、St、POStはそれぞれ以下のものを示す。
P:パルミチン酸
St:ステアリン酸
POSt:1位にP、2位にO、3位にStが結合しているトリグリセリド又は1位にSt、2位にO、3位にPが結合しているトリグリセリド
【請求項3】
油脂を25~45質量%、糖質を30~55質量%含有する請求項1又は請求項2に記載のチョコレート。
【請求項4】
チョコレートに含まれる油脂が下記XOX高含有油脂を8~50質量%、液状油を45~90質量%含有する請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のチョコレート。
XOX高含有油脂:XOXを50質量%以上含有する油脂。
【請求項5】
チョコレートに含まれる油脂が下記の(a)から(c)の条件を満たし、レオメーター(プランジャー:直径8mm、高さ22mm)で測定速度1mm/秒の条件にて測定した時の20℃でのチョコレートの硬さが30N以下であるチョコレートの製造方法であって、該チョコレートがシーディング工程を経て製造され、該シーディング工程でチョコレートに含まれる油脂100質量部に対して3鎖長β型油脂結晶が0.10~5.0質量部配合されることを特徴とするチョコレートの製造方法。
(a)XOXを6.0~26.1質量%含有する。
(b)XOX/X2Oの質量比が0.78以上である。
(c)XU2+U3を45.0~85.0質量%含有する。
上記の(a)から(c)の条件において、X、U、O、XOX、X2O、XU2、U3はそれぞれ以下のものを示す。
X:炭素数16~20の直鎖飽和脂肪酸
U:炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸
O:オレイン酸
XOX:1位と3位にX、2位にOが結合しているトリグリセリド
X2O:Xが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド
XU2:Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
【請求項6】
チョコレートに含まれる油脂が下記XOX高含有油脂を8~50質量%、液状油を45~90質量%含有する請求項5に記載のチョコレートの製造方法。
XOX高含有油脂:XOXを50質量%以上含有する油脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グレインが発生しにくいソフトチョコレートに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
チョコレートは、菓子の中でも一般消費者に広く好まれている商品である。チョコレートの中には、カカオマス等のカカオ分が少量である製品が存在する。このカカオ分が低いチョコレートは、通常、ココアバターやテンパリング型油脂の含有量が低い。そのため、カカオ分が低いチョコレートは、ココアバターやテンパリング型油脂に特徴的に含まれる対称型トリグリセリドの含有量が低い。そして、対称型トリグリセリドの含有量が低いチョコレートは、通常、テンパリングが取れないことから、低温領域でグレインが発生しやすいことが知られている。
【0003】
一方、チョコレートには、様々な食感の商品が存在しており、板チョコのような硬いチョコレート以外に、軟らかくてクリーム状のチョコレートが存在する。軟らかくてクリーム状のチョコレートは、通常、ソフトチョコレートと呼ばれている。ソフトチョコレートとしては、特許文献1~4等のソフトチョコレートが提案されている。
【0004】
通常、ソフトチョコレートには、物性を軟らかくするために、液状油が多く配合されることが多い。液状油が多く配合されたチョコレートは、常温よりも高い温度帯で固液分離しやすいことから、低温領域で流通、保管される場合が多い。
【0005】
そして、前述したように、対称型トリグリセリドの含有量が少量であるチョコレートは、低温領域でグレインが発生しやすいことが知られている。そのため、カカオ分が低い等で、対称型トリグリセリドの含有量が低いソフトチョコレートは、流通、保管時にグレインが発生しやすいという問題があった。
【0006】
以上のような背景から、カカオ分が少量である等で、対称型トリグリセリドの含有量が低いソフトチョコレートであるにも関わらず、グレインが発生しにくいソフトチョコレートの開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-4657号公報
【文献】特開2003-313582号公報
【文献】特開2006-115724号公報
【文献】特開2008-228641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、グレインが発生しにくいソフトチョコレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、3鎖長β型油脂結晶を特定量配合してすると、グレインが発生しにくいソフトチョコレートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明は、チョコレートに含まれる油脂が下記の(a)から(c)の条件を満たし、レオメーター(プランジャー:直径8mm、高さ22mm)で測定速度1mm/秒の条件にて測定した時の20℃での硬さが30N以下であるチョコレートであって、該チョコレートに含まれる油脂100質量部に対して3鎖長β型油脂結晶が0.10~5.0質量部配合されたチョコレートである。
(a)XOXを6.0~26.1質量%含有する。
(b)XOX/X2Oの質量比が0.78以上である。
(c)XU2+U3を45.0~85.0質量%含有する。
上記の(a)から(c)の条件において、X、U、O、XOX、X2O、XU2、U3はそれぞれ以下のものを示す。
X:炭素数16~20の直鎖飽和脂肪酸
U:炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸
O:オレイン酸
XOX:1位と3位にX、2位にOが結合しているトリグリセリド
X2O:Xが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド
XU2:Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
本発明の第2の発明は、チョコレートに含まれる油脂がさらに下記の(d)の条件を満たす第1の発明に記載のチョコレートである。
(d)POSt/XOXの質量比が0.35~0.55である。
上記の(d)の条件において、P、St、POStはそれぞれ以下のものを示す。
P:パルミチン酸
St:ステアリン酸
POSt:1位にP、2位にO、3位にStが結合しているトリグリセリド又は1位にSt、2位にO、3位にPが結合しているトリグリセリド
本発明の第3の発明は、油脂を25~45質量%、糖質を30~55質量%含有する第1の発明又は第2の発明に記載のチョコレートである。
本発明の第4の発明は、チョコレートに含まれる油脂が下記XOX高含有油脂を8~50質量%、液状油を45~90質量%含有する第1の発明~第3の発明のいずれか1つの発明に記載のチョコレートである。
XOX高含有油脂:XOXを50質量%以上含有する油脂。
本発明の第5の発明は、チョコレートに含まれる油脂が下記の(a)から(c)の条件を満たし、レオメーター(プランジャー:直径8mm、高さ22mm)で測定速度1mm/秒の条件にて測定した時の20℃でのチョコレートの硬さが30N以下であるチョコレートの製造方法であって、該チョコレートがシーディング工程を経て製造され、該シーディング工程でチョコレートに含まれる油脂100質量部に対して3鎖長β型油脂結晶が0.10~5.0質量部配合されることを特徴とするチョコレートの製造方法である。
(a)XOXを6.0~26.1質量%含有する。
(b)XOX/X2Oの質量比が0.78以上である。
(c)XU2+U3を45.0~85.0質量%含有する。
上記の(a)から(c)の条件において、X、U、O、XOX、X2O、XU2、U3はそれぞれ以下のものを示す。
X:炭素数16~20の直鎖飽和脂肪酸
U:炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸
O:オレイン酸
XOX:1位と3位にX、2位にOが結合しているトリグリセリド
X2O:Xが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド
XU2:Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
本発明の第6の発明は、チョコレートに含まれる油脂が下記XOX高含有油脂を8~50質量%、液状油を45~90質量%含有する第5の発明に記載のチョコレートの製造方法である。
XOX高含有油脂:XOXを50質量%以上含有する油脂。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、グレインが発生しにくいソフトチョコレートを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂が下記の(a)から(c)の条件を満たし、レオメーター(プランジャー:直径8mm、高さ22mm)で測定速度1mm/秒の条件にて測定した時の20℃での硬さが30N以下であるチョコレートであって、該チョコレートに含まれる油脂100質量部に対して3鎖長β型油脂結晶が0.10~5.0質量部配合されたチョコレートである。
(a)XOXを6.0~40.0質量%含有する。
(b)XOX/X2Oの質量比が0.78以上である。
(c)XU2+U3を45.0~85.0質量%含有する。
【0013】
本発明で、チョコレートとは、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(全国チョコレート業公正取引協議会)乃至法規上の規定により限定されるものではなく、食用油脂、糖類を主原料とし、必要によりカカオ成分(カカオマス、ココアパウダー等)、乳製品、香料、乳化剤等を加え、チョコレート製造の工程(混合工程、微粒化工程、精練工程、調温工程、成形工程、冷却工程等の全部乃至一部)を経て製造され、油脂が連続相をなし、実質的に水を含まない(水分が好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。)食品のことである。また、本発明でチョコレートは、ダークチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレート、カラーチョコレートのいずれであってもよい。
【0014】
本発明で、油脂は、チョコレートに含まれる油脂の全てを合わせた全油脂分である。例えば、チョコレートがカカオマス、全脂粉乳、油脂aを含む場合、油脂は、カカオマスに含まれるココアバターと、全脂粉乳に含まれる乳脂と、油脂aとの混合油である。すなわち、本発明で、油脂は、配合される油脂の他に、含油原料(カカオマス、ココアパウダー、全脂粉乳等)に含まれる油脂(ココアバター、乳脂等)を含む。なお、本発明での油脂は、後述するシーディング工程で添加される3鎖長β型の油脂結晶を含まない。
【0015】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂がXOXを6.0~40.0質量%含有し、好ましくは8.0~36.0質量%含有し、より好ましくは10.0~25.0質量%含有する(条件(a))。
なお、本発明で、XOXは1位と3位にX、2位にOが結合しているトリグリセリドである(トリグリセリドとは、グリセロールに3分子の脂肪酸が結合したトリアシルグリセロールのことである。)。また、本発明で、Xは炭素数16~20の直鎖飽和脂肪酸である。また、本発明で、Oはオレイン酸(炭素数18の1価の直鎖不飽和脂肪酸)である。
【0016】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂中のXOX/X2Oの質量比が0.78以上であり、好ましくは0.80以上であり、より好ましくは0.85~1である(条件(b))。
なお、本発明で、XOX/X2Oの質量比は、X2O含有量(質量%)に対するXOX含有量(質量%)の比のことである。また、本発明で、X2OはXが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド(XXO+XOX+OXX)である。
【0017】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂がXU2+U3を好ましくは45.0~85.0質量%含有し、より好ましくは50.0~84.0質量%含有し、さらに好ましくは60.0~83.0質量%含有する(条件(c))。
なお、本発明で、XU2+U3は、XU2とU3の合計含有量(質量%)のことである。また、本発明で、XU2はXが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド(XUU+UXU+UUX)である。また、本発明で、U3はUが3分子結合しているトリグリセリド(UUU)である。また、本発明で、Uは炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸である。
【0018】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂中のPOSt/XOXの質量比が好ましくは0.08~0.55であり、より好ましくは0.10~0.53であり、さらに好ましくは0.35~0.50である(条件(d))。
なお、本発明で、POSt/XOXの質量比は、XOX含有量(質量%)に対するPOSt含有量(質量%)の比のことである。また、本発明でPOStは1位にP、2位にO、3位にStが結合しているトリグリセリド(POSt)又は1位にSt、2位にO、3位にPが結合しているトリグリセリド(StOP)である。また、本発明で、Pはパルミチン酸(炭素数16の直鎖飽和脂肪酸)である。また、本発明で、Stはステアリン酸(炭素数18の直鎖飽和脂肪酸)である。
【0019】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂がX3を好ましくは5.0質量%以下含有し、より好ましくは3.0質量%以下含有し、さらに好ましくは1.0質量%以下含有する。
なお、本発明で、X3はXが3分子結合しているトリグリセリド(XXX)である。
【0020】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂がX2Uを好ましくは6.0~45.0質量%含有し、より好ましくは8.0~40.0質量%含有し、さらに好ましくは12.0~25.0質量%含有する。
なお、本発明で、X2UはXが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド(XXU+XUX+UXX)である。
【0021】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂がX2Oを好ましくは6.0~40.0質量%含有し、より好ましくは8.0~36.0質量%含有し、さらに好ましくは10.0~25.0質量%含有する。
【0022】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂がPOStを3.0~20.0質量%含有し、好ましくは3.5~18.0質量%含有し、より好ましくは5.0~10.0質量%含有する。
【0023】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂がXU2を好ましくは5.0~60.0質量%含有し、より好ましくは7.0~52.0質量%含有し、さらに好ましくは8.0~40.0質量%含有する。
【0024】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂がU3を好ましくは3.0~85.0質量%含有し、より好ましくは5.0~83.5質量%含有し、さらに好ましくは35.0~80.0質量%含有する。
【0025】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂が構成脂肪酸として炭素数16~18の脂肪酸を好ましくは85質量%以上含有し、より好ましくは90質量%以上含有し、さらに好ましくは93~99質量%含有する。
なお、本発明で、炭素数16~18の脂肪酸はC16~18FAと記載することもある。
【0026】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂中の構成脂肪酸におけるP/Stの質量比が好ましくは0.75~4.50であり、より好ましくは0.80~3.70であり、さらに好ましくは0.95~1.80である。
なお、本発明で、P/Stの質量比は、St含有量(質量%)に対するP含有量(質量%)の比のことである。
【0027】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂が構成脂肪酸として炭素数14以下の脂肪酸を好ましくは5.0質量%以下含有し、より好ましくは4.0量%以下含有し、さらに好ましくは0.1~3.0質量%含有する。
なお、本発明で、炭素数14以下の脂肪酸はC14以下FAと記載することもある。
【0028】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂が構成脂肪酸として炭素数20以上の脂肪酸を好ましくは5.0質量%以下含有し、より好ましくは4.5量%以下含有し、さらに好ましくは1.0~4.0質量%含有する。
なお、本発明で、炭素数20以上の脂肪酸はC20以上FAと記載することもある。
【0029】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂が構成脂肪酸としてトランス脂肪酸を好ましくは5.0質量%未満含有し、より好ましくは3.0質量%未満含有し、さらに好ましくは2.0質量%未満含有する。なお、本発明において、トランス脂肪酸はTFAと記載することもある。
【0030】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂は、チョコレートに含まれる油脂のトリグリセリド組成、脂肪酸組成等が前記範囲であれば、特に制限されることなく、通常の食用油脂を使用することができる。食用油脂としては、ココアバター、パーム油、パーム分別油(パーム中融点部等)、シア脂、シア分別油(シアステアリン等)、サル脂、サル分別油(サルステアリン等)、イリッペ脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、乳脂等や、これらの加工油脂(水素添加油、分別油、エステル交換油)等が挙げられる。前記食用油脂は2種以上組み合せて使用することもできる。
【0031】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂は、例えば、XOX高含有油脂、液状油等を使用することで製造することができる。
【0032】
本発明で、XOX高含有油脂とは、XOXの含有量の高い油脂のことである。前記XOX高含有油脂としては、例えば、ココアバター、パーム中融点部、シア分別油(シアステアリン等)、サル分別油(サルステアリン等)、イリッペ脂、オレイン酸高含有油(ハイオレイン酸ヒマワリ油等)と脂肪酸エステル(ステアリン酸エチルエステル等)との1,3位特異的エステル交換油の分別油等を使用することができる。前記XOX高含有油脂は、XOXを好ましくは50質量%以上含有し、より好ましくは70~95質量%含有し、さらに好ましくは75~90質量%含有する。前記XOX高含有油脂は、好ましくはココアバター、テンパリング型ココアバター代用脂(以下、テンパリング型ココアバター代用脂は、CBEとする。)であり、より好ましくはココアバターである。
なお、本発明で、ココアバターは、配合されるココアバターの他に、カカオマス、ココアパウダー等の含油原料含まれるココアバターを含む。
【0033】
本発明で、液状油とは、25℃で液状の油脂のことである。前記液状油としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、ごま油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油、パームオレイン、パームスーパーオレインや、これらの油脂の加工油脂(エステル交換油、分別油、硬化油(水素添加油)等)や、市販品のソフトチョコレート用油脂等を使用することができる。前記液状油は、好ましくは20℃で液状の油脂であり、より好ましくは大豆油、菜種油である。
【0034】
本発明の実施の形態のチョコレートに含まれる油脂は、好ましくはXOX高含有油脂を8~50質量%、液状油を45~90質量%含有し、より好ましくはXOX高含有油脂を10~45質量%、液状油を50~87質量%含有し、さらに好ましくはXOX高含有油脂を13~28質量%、液状油を68~85質量%含有する。
【0035】
本発明の実施の形態のチョコレートは、油脂を好ましくは20~60質量%含有し、より好ましくは23~55質量%含有し、さらに好ましくは25~52質量%含有する。
【0036】
油脂のトリグリセリド含有量は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993)準拠)及び銀イオンカラム-HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105-107(1995)準拠)で測定することができる。
油脂の脂肪酸含有量は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f-96準拠)で測定することができる。
【0037】
本発明の実施の形態のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂100質量部に対して3鎖長β型の油脂結晶を0.10~5.0質量部配合し、好ましくは0.15~2.0質量部配合し、より好ましくは0.25~1.5質量部配合する。チョコレートに3鎖長β型の油脂結晶が前記範囲で配合されると、グレインが発生しにくいソフトチョコレートが得られる。
なお、本発明で、3鎖長β型の油脂結晶とは、チョコレートの製造時に、シーディング工程で添加される3鎖長β型の油脂結晶のことである。3鎖長β型の油脂結晶は、シーディング法でチョコレートに添加される。シーディング法は、テンパリング型チョコレートの製造時に行われるテンパリング操作を代替する方法として知られており、3鎖長β型の油脂結晶が融解しない温度に調温された融解状態のチョコレートに、3鎖長β型の油脂結晶を添加することにより、テンパリング型チョコレートの油脂に含まれる対称型トリグリセリドを安定な3鎖長β型の結晶形にすることである。3鎖長β型の油脂結晶は、3鎖長β型のStOSt(1,3位にステアリン酸、2位にオレイン酸が結合したトリグリセリド)、BOB(1,3位にベヘン酸、2位にオレイン酸が結合したトリグリセリド)等が挙げられる。
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される3鎖長β型の油脂結晶は、好ましくは3鎖長β型のStOStである。
【0038】
3鎖長β型の油脂結晶は、X線回折(粉末法)の測定により得られる回折ピークから判断される。すなわち、油脂結晶について、その短面間隔を2θが17~26度の範囲でX線回折を測定し、4.5~4.7Åの面間隔に対応する強い回折ピークを検出し、4.1~4.3Å及び3.8~3.9Åの面間隔に対応する回折ピークを検出しないか、微小な回折ピークである場合に、β型結晶であると判断される。また、油脂結晶について、その長面間隔を2θが0~8度の範囲で測定し、StOSt結晶の場合は、60~65Åに相当する強い回折ピークを検出し、BOB結晶の場合は、70~75Åに相当する強い回折ピークを検出する場合に、3鎖長構造であると判断される。
【0039】
3鎖長β型の油脂結晶は、20℃以下の温度(好ましくは0~20℃、さらに好ましくは10℃)でのX線回折によって得られる4.1~4.3Åの面間隔に対応する回折ピークの強度G’と4.5~4.7Åの面間隔に対応する回折ピークの強度Gとの強度比(G’/G)が、好ましくは0~0.3であり、より好ましくは0~0.2であり、さらに好ましくは0~0.1である。
【0040】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される3鎖長β型の油脂結晶は、シーディング剤の形態でチョコレートに添加することもできる。なお、本発明で、シーディング剤とは、3鎖長β型の油脂結晶が、液状油、ショートニングや糖質等の賦形剤等に分散した組成物のことである。シーディング剤は、市販品を使用することができる。
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用されるシーディング剤は、好ましくは3鎖長β型の油脂結晶を10~60質量%含有し、より好ましくは3鎖長β型のStOSt結晶を10~60質量%含有し、さらに好ましくは3鎖長β型のStOSt結晶を30~50質量%含有する。
【0041】
本発明の実施の形態のチョコレートは、ココアバターを好ましくは3.0~17.5質量%含有し、より好ましくは3.5~16.5質量%含有し、より好ましくは4.5~16.0質量%含有する。
【0042】
本発明の実施の形態のチョコレートは、好ましくは糖質を含有する。なお、本発明で、糖質は、炭水化物から食物繊維を除いたもののことである。糖質の具体例は、糖類、糖アルコール(マルチトール、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、ラクチトール、マンニトール、還元水飴等)、でんぷん、オリゴ糖、デキストリン等である。また、本発明で、糖類は、単糖類、二糖類(ブドウ糖、果糖、ガラクトース、砂糖(ショ糖)、乳糖、麦芽糖等)のことである。
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される糖質は、好ましくは糖類であり、より好ましくは砂糖、乳糖である。
本発明の実施の形態のチョコレートは、糖質を好ましくは25~65質量%含有し、より好ましくは28~63質量%含有し、さらに好ましくは30~60質量%含有する。
【0043】
本発明の実施の形態のチョコレートは、油脂、3鎖長β型の油脂結晶、糖質以外にも、チョコレートに一般的に配合される原料を使用することができる。具体的には、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳等の乳製品、カカオマス、ココアパウダー等のカカオ成分、乳化剤(レシチン、リゾレシチン、酵素分解レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等)、大豆粉、大豆蛋白、果実加工品、野菜加工品、抹茶粉末、コーヒー粉末等の各種粉末、ガム類、澱粉類、酸化防止剤、着色料、香料等を使用することができる。
【0044】
本発明の実施の形態のチョコレートは、シーディング工程を経て製造される。なお、本発明で、シーディング工程を経て製造されるとは、シーディング法が実施されることである。前記シーディング工程は、3鎖長β型の油脂結晶が融解しない温度に調温された融解状態のチョコレートに、3鎖長β型の油脂結晶を添加することで、シーディング法が実施される。
本発明の実施の形態のチョコレートの製造工程におけるシーディング工程では、好ましくはシーディング剤を添加することで、チョコレートに3鎖長β型の油脂結晶が配合される。前記シーディング工程におけるチョコレートへのシーディング剤の添加量は、チョコレートに含まれる油脂100質量部に対して、好ましくは0.3~10質量部であり、より好ましくは0.5~5質量部であり、さらに好ましくは0.6~4質量部である。
【0045】
本発明の実施の形態のチョコレートは、シーディング工程を経て製造される以外、従来公知のチョコレートの製造方法で製造することができる。本発明の実施の形態のチョコレートは、例えば、油脂、カカオ成分、糖質、乳製品、乳化剤等を原料として、混合工程、微粒化工程(リファイニング)、精練工程(コンチング)、シーディング工程、冷却工程等を経て製造することができる。また、本発明の実施の形態のチョコレートは、好ましくは微粒化工程を経て製造される。さらに、本発明の実施の形態に係るチョコレートは、好ましくはテンパリング操作を行わずに製造される。なお、本発明で、テンパリング操作は、シーディング法を含まない。
【0046】
本発明の実施の形態のチョコレートは、20℃での硬さが30N(ニュートン)以下であり、好ましく20N以下であり、より好ましくは10N以下であり、最も好ましくは7N以下である。本発明の実施の形態のチョコレートの20℃での硬さが前記範囲であると、チョコレートはソフトチョコレートになる。なお、ソフトチョコレートは、一般的にチョコレートクリームと呼ばれることもある。また、ソフトチョコレートは、性状がカスタードクリームのようなクリーム状で可塑性を有するチョコレートのことである。
また、本発明の実施の形態のチョコレートは、油脂のトリグリセリド組成、脂肪酸組成、油脂の含有量等を前記範囲に調整すること等で、20℃での硬さを前記範囲とすることができる。
【0047】
本発明の実施の形態のチョコレートの硬さは、レオメーターで測定する。また、本発明の実施の形態のチョコレートの硬さの測定に使用するレオメーターは、直径8mm、高さ22mmのプランジャーを使用する。また、本発明の実施の形態のチョコレートの硬さの測定に使用するレオメーターのプランジャーは、形状が円柱状である。また、本発明の実施の形態のチョコレートの硬さを測定する時のレオメーターの測定速度は1mm/秒である。また、本発明の実施の形態のチョコレートのレオメーターでの硬さの測定には、チョコレートを直径70mm、高さ40mmの円柱状のプラスチック容器に40g充填した試料を使用する。また、本発明の実施の形態のチョコレートのレオメーターでの硬さは、50%変形時(プランジャーが7.5mm貫入した時)の最大荷重とする。
【0048】
本発明の実施の形態のチョコレートは、低温領域でグレインが発生しにくい。また、本発明の実施の形態のチョコレートは、XOX含有量が低いにも関わらず、低温領域でグレインが発生しにくい。なお、本発明で、低温領域とは、5~20℃である。
本発明の実施の形態のチョコレートは、XOX含有量が低いにも関わらず、低温領域でグレインが発生しにくいことから、ソフトチョコレートに適している。本発明の実施の形態のチョコレートは、好ましくはソフトチョコレートである。
【0049】
本発明の実施の形態のチョコレートは、複合食品用に使用することができる。なお、本発明で、複合食品とは、チョコレートと食品を組み合わせることで得られるチョコレート複合食品のことである。本発明で、食品は、チョコレート以外の食品のことである。
【0050】
前記複合食品の製造に使用される食品としては、例えば、ドーナツ、食パン、コッペパン、フルーツブレッド、バターロール、フランスパン、ロールパン、菓子パン、スイートドウ、乾パン、マフィン、ベーグル、クロワッサン、デニッシュペーストリー等のベーカリー製品、カステラ、ワッフル、ボーロ、八つ橋、あられ、揚げせんべい、かりんとう、スポンジケーキ、ロールケーキ、パウンドケーキ、バウムクーヘン、フルーツケーキ、マドレーヌ、シュー、エクレア、ミルフィーユ、パイ、タルト、マカロン、ビスケット、クッキー、クラッカー、サブレ、蒸しパン、プレッツェル、ウエハース、スナック菓子、クレープ、スフレ、ポテトチップス等の菓子、バナナ、りんご、イチゴ等の果物等が挙げられる。
【0051】
前記複合食品は、従来公知の複合食品の製造方法を用いることによって、本発明の実施の形態のチョコレートと食品とを組み合わせることで製造することができる。本発明の実施の形態のチョコレートと食品とを組み合わせる方法としては、例えば、被覆、包餡、注入、巻く、挟む、付着等が挙げられる。
【実施例
【0052】
次に実施例により本発明を説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0053】
<油脂のトリグリセリド含有量及び脂肪酸含有量の測定>
油脂のトリグリセリド含有量は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993)準拠)及び銀イオンカラム-HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105-107(1995)準拠)で測定した。
油脂の脂肪酸含有量は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f-96準拠)で測定した。
【0054】
<原料油脂>
ココアバター:XOX含有量 84.3質量%
CBE1:XOX含有量 78.5質量%
菜種油:20℃で液状の油脂
パームスーパーオレイン(下記表ではPSOとする。):25℃で液状の油脂
ソフトチョコレート用油脂(下記表ではSCOとする。):25℃で液状の油脂
【0055】
<X線回折の測定>
油脂のX線回折は、X線回折装置UltimaIV(株式会社リガク社製)を用いて、CuKα(λ=1.542Å)を線源とし、Cu用フィルタ使用、出力1.6kW、操作角0.96~30.0°、測定速度2°/分の条件で測定した。
【0056】
<シーディング剤>
X線回折の測定により得られる回折ピークから、使用したシーディング剤は、油脂結晶型が3鎖長β型であった。また、使用したシーディング剤は、4.1~4.3Åの面間隔に対応する回折ピークの強度G’と4.5~4.7Åの面間隔に対応する回折ピークの強度Gとの強度比(G’/G)が0だった。また、使用したシーディング剤は、3鎖長β型StOSt結晶含有量が37.0質量%であった。
【0057】
<チョコレートの製造及び評価>
表1~7に示された配合でチョコレートを製造した(配合の単位は質量部である。)。実施例1~16のチョコレート、比較例2、6のチョコレートは、シーディング剤以外の原料を混合、微粒化、精練し、30℃に調温した後、シーディング剤を添加して十分に撹拌した後に冷却することで製造した。比較例1、3~5、7~11のチョコレートは、原料を混合、微粒化、精練後、冷却することで製造した。得られた全てのチョコレートは、20℃での性状がクリーム状で可塑性を有しており、水分が3質量%以下だった。チョコレート中及び油脂中の各種の含有量、質量比、油脂に対する3鎖長β型油脂結晶の配合量を表8~14に示した(配合量の単位は質量部であり、含有量の単位は質量%である(質量比の単位はなし。)。)。また、チョコレートの硬さを下記測定方法で測定した。硬さの測定結果を表8~14に示した。
得られた全てのチョコレートを5℃、10℃、15℃、20℃で1週間保存し、グレインの有無を下記基準に従い評価した。各評価は◎又は○である場合を良好と判断した。評価結果を表8~14に示した。
【0058】
<チョコレートの硬さの測定方法>
レオメーター(山電製、クリープメータRE2―33005B)を使用して、下記1)~4)の手順に従ってチョコレートの硬さを測定した。レオメーターでの測定には、直径8mm、高さ22mmの円柱状のプランジャー(山電製)を使用した。なお、レオメーターでの硬さは、50%変形時(プランジャーが7.5mm貫入した時)の最大荷重とした。なお、硬さの単位はN(ニュートン)である。
1)精練した後の30℃に調温されたチョコレートに、シーディング剤を添加して十分に撹拌する。
2)チョコレートを直径70mm、高さ40mmの円柱状のプラスチック容器に40g充填する。
3)チョコレートが充填されたプラスチック容器を冷却後、20℃にて1週間調温する。
4)レオメーターを使用して、測定速度1mm/秒の条件にて、20℃のチョコレートの硬さを測定する。
【0059】
<グレインの評価基準>
◎:グレインの発生がない
○:グレインの発生がわずかにある
×:グレインの発生がある
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
【表6】
【0066】
【表7】
【0067】
【表8】
【0068】
【表9】
【0069】
【表10】
【0070】
【表11】
【0071】
【表12】
【0072】
【表13】
【0073】
【表14】
【0074】
表9~14から分かるように、実施例のチョコレートは、グレインが発生しにくかった。
一方、表8~13から分かるように、比較例のチョコレートは、グレインが発生した。
なお、全てのチョコレートは、20℃での硬さが30N以下であり、ソフトチョコレートだった。