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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/06 20060101AFI20240408BHJP
   C10M 115/08 20060101ALN20240408BHJP
   C10M 135/00 20060101ALN20240408BHJP
   C10M 137/00 20060101ALN20240408BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240408BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20240408BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M115/08
C10M135/00
C10M137/00
C10N40:04
C10N50:10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021504010
(86)(22)【出願日】2020-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2020007937
(87)【国際公開番号】W WO2020179595
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2019040945
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宍倉 昭弘
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/125859(WO,A1)
【文献】特開2017-115109(JP,A)
【文献】特開2004-075041(JP,A)
【文献】特開2004-231714(JP,A)
【文献】特開2005-047938(JP,A)
【文献】特開2008-309336(JP,A)
【文献】特開平11-021580(JP,A)
【文献】特開2018-115235(JP,A)
【文献】特開2005-247971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)、ウレア系増ちょう剤(B)、及び極圧剤(C)を含有するグリース組成物であって、
前記グリース組成物中の前記ウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子が下記要件(I)を満たし、
・要件(I):前記粒子をレーザー回折・散乱法により測定した際の面積基準での算術平均粒子径が2.0μm以下である。
前記極圧剤(C)が、有機金属系極圧剤、硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、及び硫黄-リン系極圧剤から選択される1種以上であり、
25℃における混和ちょう度が、340~450である、グリース組成物。
【請求項2】
前記グリース組成物中の前記ウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子が、さらに下記要件(II)を満たす、請求項1に記載のグリース組成物。
・要件(II):前記粒子をレーザー回折・散乱法により測定した際の比表面積が、0.5×10cm/cm以上である。
【請求項3】
前記極圧剤(C)の含有量が、前記グリース組成物の全量基準で、0.1~10質量%である、請求項1又は2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記基油(A)は、鉱油、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、及びエーテル系油から選択される1種以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のグリース組成物。
【請求項5】
前記基油(A)の40℃における動粘度が、10~400mm/sである、請求項1~4のいずれか1項に記載のグリース組成物。
【請求項6】
前記ウレア系増ちょう剤(B)の含有量が、前記グリース組成物の全量基準で、1~15質量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載のグリース組成物。
【請求項7】
前記ウレア系増ちょう剤(B)が、下記一般式(b1)で表されるジウレア化合物から選択される1種以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のグリース組成物。
-NHCONH-R-NHCONH-R (b1)
[上記一般式(b1)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数6~24の1価の炭化水素基を示す。R及びRは、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。Rは、炭素数6~18の2価の芳香族炭化水素基を示す。]
【請求項8】
更に、酸化防止剤、防錆剤、分散剤、及び金属不活性化剤から選択される添加剤(D)を1種以上含む、請求項1~のいずれか1項に記載のグリース組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載のグリース組成物を潤滑部位に有する減速機。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載のグリース組成物を潤滑部位に有する増速機。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載のグリース組成物により、減速機又は増速機の潤滑部位を潤滑する、潤滑方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物に関する。更に詳述すると、本発明は、極圧剤を含有するグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グリースは、潤滑油に比べて封止が容易であり、適用される機械の小型化及び軽量化が可能である。そのため、自動車、電気機器、産業機械、及び工業機械等の種々の摺動部分の潤滑のために従来から広く用いられている。
近年では、産業用ロボット等に用いられる減速機及び風力発電設備等に用いられる増速機等においてもグリースが用いられている。
減速機は、入力側にトルクを加えることで、出力側に減速してトルクを伝達する機構を有する。
増速機は、入力側にトルクを加えることで、出力側に増速してトルクを伝達する機構を有する。
減速機及び増速機の潤滑部位に用いられるグリースには、入力側に加えられたトルクを無駄なく出力側に伝達する観点から、優れたトルク伝達効率が要求される。
【0003】
ここで、減速機及び増速機の潤滑部位等に用いられるグリースのように、優れたトルク伝達効率が要求されるグリースは、トルク伝達時に潤滑部位に高荷重がかかりやすいことを考慮して、当該潤滑部位における摩耗及び焼き付きを極力低減する性能も求められる。
【0004】
例えば特許文献1には、基油、増ちょう剤、モリブデンジチオホスフェート、及びカルシウムスルホネート等のカルシウム塩を含むグリース組成物を減速機に用いることで、高温下で金属接触部の損傷を低減し、減速機を長寿命にできることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-042747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、トルク伝達効率に優れるグリースを調製する場合、混和ちょう度を高めて軟らかいグリースとすることが一般的である。しかし、混和ちょう度の高い、軟らかいグリースを用いた場合、グリースの漏れ防止性能が低下する問題がある。漏れ防止性能に劣るグリースを用いると、潤滑部位におけるグリース供給量が徐々に減少し、当該潤滑部位を構成する部材に摩耗及び焼き付きが生じやすくなる恐れがある。
したがって、グリースの漏れ防止性能を向上させることが望まれるものの、グリースのトルク伝達効率を向上させるためにグリースの混和ちょう度を高めると、グリースの漏れ防止性能を十分に確保することができず、結果として耐摩耗性及び耐荷重性も十分に確保できない問題があった。
【0007】
ここで、増ちょう剤としてウレア系増ちょう剤を用いたグリースは、耐熱性及び酸化安定性に優れることから、近年、自動車、電気機器、産業機械、及び工業機械等の種々の摺動部分の潤滑のために用いられつつある。しかしながら、増ちょう剤としてウレア系増ちょう剤を用いたグリースに極圧剤を配合しても、耐摩耗性及び耐荷重性を十分に向上させることができない問題があった。
【0008】
本発明は、増ちょう剤としてウレア系増ちょう剤を用いた、極圧剤を含有するグリース組成物であって、トルク伝達効率及び漏れ防止性能の双方に優れ、耐摩耗性及び耐荷重性にも優れる、グリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、基油及びウレア系増ちょう剤を含有するグリース組成物において、当該グリース組成物中のウレア系増ちょう剤を含む粒子の粒子径に着目すると共に、極圧剤の種類に着目した。そして、当該粒子をレーザー回折・散乱法により測定した際の面積基準での算術平均粒子径を所定の範囲に調整すると共に、特定の極圧剤を配合したグリース組成物が、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、下記[1]~[12]に関する。
[1] 基油(A)、ウレア系増ちょう剤(B)、及び極圧剤(C)を含有するグリース組成物であって、
前記グリース組成物中の前記ウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子が下記要件(I)を満たし、
・要件(I):前記粒子をレーザー回折・散乱法により測定した際の面積基準での算術平均粒子径が2.0μm以下である。
前記極圧剤(C)が、有機金属系極圧剤、硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、及び硫黄-リン系極圧剤から選択される1種以上である、
グリース組成物。
[2] 前記グリース組成物中の前記ウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子が、さらに下記要件(II)を満たす、上記[1]に記載のグリース組成物。
・要件(II):前記粒子をレーザー回折・散乱法により測定した際の比表面積が、0.5×10cm/cm以上である。
[3] 前記極圧剤(C)の含有量が、前記グリース組成物の全量基準で、0.1~10質量%である、上記[1]又は[2]に記載のグリース組成物。
[4] 前記基油(A)は、鉱油、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、及びエーテル系油から選択される1種以上である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のグリース組成物。
[5] 前記基油(A)の40℃における動粘度が、10~400mm/sである、上記[1]~[4]のいずれかに記載のグリース組成物。
[6] 前記ウレア系増ちょう剤(B)の含有量が、前記グリース組成物の全量基準で、1~15質量%である、上記[1]~[5]のいずれかに記載のグリース組成物。
[7] 25℃における混和ちょう度が、240~450である、上記[1]~[6]のいずれかに記載のグリース組成物。
[8] 前記ウレア系増ちょう剤(B)が、下記一般式(b1)で表されるジウレア化合物から選択される1種以上である、上記[1]~[7]のいずれかに記載のグリース組成物。
-NHCONH-R-NHCONH-R (b1)
[上記一般式(b1)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数6~24の1価の炭化水素基を示す。R及びRは、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。Rは、炭素数6~18の2価の芳香族炭化水素基を示す。]
[9] 更に、酸化防止剤、防錆剤、分散剤、及び金属不活性化剤から選択される添加剤(D)を1種以上含む、上記[1]~[8]のいずれかに記載のグリース組成物。
[10] 上記[1]~[9]のいずれかに記載のグリース組成物を潤滑部位に有する減速機。
[11] 上記[1]~[9]のいずれかに記載のグリース組成物を潤滑部位に有する増速機。
[12] 上記[1]~[9]のいずれかに記載のグリース組成物により、減速機又は増速機の潤滑部位を潤滑する、潤滑方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、増ちょう剤としてウレア系増ちょう剤を用いた、極圧剤を含有するグリース組成物であって、トルク伝達効率及び漏れ防止性能の双方に優れ、耐摩耗性及び耐荷重性にも優れる、グリース組成物を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一態様で使用される、グリース製造装置の断面の模式図である。
図2図1のグリース製造装置の容器本体側の第一凹凸部における、回転軸に直交する方向の断面の模式図である。
図3】比較例で使用した、グリース製造装置の断面の模式図である。
図4】本実施例において、トルク伝達効率を測定する際に使用した測定装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることができる。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0014】
[グリース組成物]
本発明のグリース組成物は、基油(A)、ウレア系増ちょう剤(B)、及び極圧剤(C)を含有する。
極圧剤(C)は、有機金属系極圧剤、硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、及び硫黄-リン系極圧剤から選択される1種以上である。
以降の説明では、「基油(A)」、「ウレア系増ちょう剤(B)」、及び「極圧剤(C)」を、それぞれ「成分(A)」、「成分(B)」、及び「成分(C)」ともいう。
【0015】
本発明の一態様のグリース組成物において、成分(A)、(B)、及び(C)の合計含有量は、好ましくは65質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは85質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、更になお好ましくは95質量%以上である。また、通常100質量%以下、好ましくは100質量%未満、より好ましくは99質量%以下、更に好ましくは98質量%以下である。
なお、本発明の一態様のグリース組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)、(B)、及び(C)以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0016】
<要件(I)>
本発明のグリース組成物は、前記グリース組成物中の前記ウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子が、下記要件(I)を満たす。
・要件(I):前記粒子をレーザー回折・散乱法により測定した際の面積基準での算術平均粒子径が2.0μm以下である。
【0017】
上記要件(I)は、グリース組成物中のウレア系増ちょう剤(B)の凝集の状態を示したパラメータともいえる。
ここで、レーザー回折・散乱法により測定する対象となる「ウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子」とは、グリース組成物に含まれるウレア系増ちょう剤(B)が凝集してなる粒子を指す。
なお、グリース組成物中にウレア系増ちょう剤(B)以外の添加剤が含まれる場合、上記要件(I)で規定する粒子径は、当該添加剤を配合せずに同一条件で調製したグリース組成物をレーザー回折・散乱法により測定することで得られる。但し、当該添加剤が室温(25℃)で液状である場合、又は当該添加剤が基油(A)に溶解する場合には、当該添加剤が配合されたグリース組成物を測定対象としても構わない。
【0018】
ウレア系増ちょう剤(B)は、通常、イソシアネート化合物と、モノアミンとを反応させることによって得られるが、反応速度が非常に速いため、ウレア系増ちょう剤(B)が凝集し、大きな粒子(ミセル粒子、所謂「ダマ」)が過剰に生じ易い。本発明者が鋭意検討した結果、上記要件(I)で規定する粒子径が2.0μmを超えると、グリース組成物の混和ちょう度を高めた場合に、グリース組成物の漏れ防止性能を確保できないことがわかった。一方で、グリース組成物の混和ちょう度を低くした場合、グリース組成物の漏れ防止性能は確保できるものの、トルク伝達効率に劣ることがわかった。つまり、上記要件(I)で規定する粒子径が2.0μmを超えると、トルク伝達効率及び漏れ防止性能の双方に優れるグリース組成物とすることは困難であることがわかった。
これに対し、本発明者が鋭意検討した結果、上記要件(I)で規定する粒子径を2.0μm以下に微細化することで、グリース組成物の混和ちょう度を高めた場合にも、グリース組成物の漏れ防止性能に優れたものとでき、トルク伝達効率及び漏れ防止性能の双方に優れるグリース組成物とできることがわかった。その結果、グリース組成物の耐摩耗性及び耐荷重性にも優れることがわかった。しかも、上記要件(I)で規定する粒子径を2.0μm以下に微細化することで、特定の極圧剤(C)を配合したときに、極圧剤(C)の効きに優れ、耐摩耗性及び耐荷重性を大きく高めることができることもわかった。
この効果は、上記要件(I)で規定する粒子径を2.0μm以下に微細化することで、ウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子が、潤滑部位(摩擦面)に入り込みやすくなると共に、当該潤滑部位からも除去されにくくなることにより、当該潤滑部位におけるグリース組成物の保持力が向上するものにより奏されるものと推察される。また、上記要件(I)で規定する粒子径を2.0μm以下に微細化することで、当該粒子による基油(A)の保持力が向上する。そのため、潤滑部位(摩擦面)に基油(A)を良好に行き渡らせると共にこれに随伴して極圧剤(C)も潤滑部位に良好に行き渡らせる作用が向上し、グリース組成物の耐摩耗性及び耐荷重性も向上するものと推察される。
上記観点から、本発明の一態様のグリース組成物において、上記要件(I)で規定する粒子径は、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.0μm以下、更に好ましくは0.9μm以下、より更に好ましくは0.8μm以下、更になお好ましくは0.7μm以下、一層好ましくは0.6μm以下、より一層好ましくは0.5μm以下、更に一層好ましくは0.4μm以下である。また、通常0.01μm以上である。
【0019】
<要件(II)>
ここで、本発明の一態様のグリース組成物は、さらに下記要件(II)を満たすことが好ましい。
・要件(II):前記粒子をレーザー回折・散乱法により測定した際の比表面積が0.5×10cm/cm以上である。
上記要件(II)で規定する比表面積は、グリース組成物中のウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子の微細化の状態と大きな粒子(ダマ)の存在とを示す副次的な指標である。すなわち、上記要件(I)を満たし、さらに上記要件(II)を満たすことで、グリース組成物中のウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子の微細化の状態がより良好であり、大きな粒子(ダマ)の存在もより抑えられていることを表す。したがって、トルク伝達効率及び漏れ防止性能の双方に優れ、極圧剤(C)も効きやすくなって耐摩耗性及び耐荷重性にもより優れるグリース組成物としやすい。
上記観点から、上記要件(II)で規定する比表面積は、好ましくは0.7×10cm/cm以上、より好ましくは0.8×10cm/cm以上、更に好ましくは1.2×10cm/cm以上、より更に好ましくは1.5×10cm/cm以上、更になお好ましくは1.8×10cm/cm以上、一層好ましくは2.0×10cm/cm以上である。なお、比表面積は、通常、1.0×10cm/cm以下である。
【0020】
本明細書において、上記要件(I)、さらには上記要件(II)で規定する値は、後述する実施例に記載の方法により測定される値である。
また、上記要件(I)、さらには上記要件(II)で規定する値は、主にウレア系増ちょう剤(B)の製造条件により調整可能である。
以下、上記要件(I)、さらには上記要件(II)で規定する値の調整するための具体的な手段に着目しながら、本発明のグリース組成物に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0021】
<基油(A)>
本発明のグリース組成物に含まれる基油(A)は、グリース組成物に一般的に用いられる基油であればよく、例えば鉱油及び合成油から選ばれる1種以上が挙げられる。
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、又はナフテン系原油を常圧蒸留もしくは減圧蒸留して得られる留出油、これらの留出油を精製することによって得られる精製油が挙げられる。
精製油を得るための精製方法としては、例えば、水素化改質処理、溶剤抽出処理、溶剤脱ろう処理、水素化異性化脱ろう処理、水素化仕上げ処理、白土処理等が挙げられる。
【0022】
合成油としては、例えば、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、及びエーテル系油が挙げられる。また、フィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス)を異性化することで得られる合成油等も挙げられる。
【0023】
炭化水素系油としては、例えば、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセンとエチレンコオリゴマー等のポリ-α-オレフィン(PAO)及びこれらの水素化物等が挙げられる。
【0024】
芳香族系油としては、例えば、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン;モノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン;等が挙げられる。
【0025】
エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチルアセチルリシノレート等のジエステル系油;トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル系油;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンベラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル系油;多価アルコールと二塩基酸及び一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステル等のコンプレックスエステル系油;等が挙げられる。
【0026】
エーテル系油としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール;モノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル系油;等が挙げられる。
【0027】
ここで、グリース組成物に高温下での酸化安定性が求められる場合には、合成油を用いることが好ましく、炭化水素系油、エステル系油、及びエーテル系油から選択される1種以上を用いることがより好ましい。また、炭化水素系油、エステル系油、及びエーテル系油を混合して用いることで、耐熱性、耐シール性、及び低温特性のバランスをとることもできる。
【0028】
本発明の一態様で用いる基油(A)の40℃における動粘度(以下、「40℃動粘度」ともいう)としては、好ましくは10~400mm/s、より好ましくは15~300mm/s、更に好ましくは20~150mm/sである。
なお、本発明の一態様で用いる基油(A)は、高粘度の基油と、低粘度の基油とを組み合わせて、動粘度を上記範囲に調製した混合基油を用いてもよい。
【0029】
本発明の一態様で用いる基油(A)の粘度指数としては、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは100以上である。
なお、本明細書において、動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定又は算出した値を意味する。
【0030】
本発明の一態様のグリース組成物において、基油(A)の含有量は、当該グリース組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、より更に好ましくは65質量%以上であり、また、好ましくは98.5質量%以下、より好ましくは97質量%以下、更に好ましくは95質量%以下、より更に好ましくは93質量%以下である。
【0031】
<ウレア系増ちょう剤(B)>
本発明のグリース組成物に含まれるウレア系増ちょう剤(B)としては、ウレア結合を有する化合物であればよいが、2つのウレア結合を有するジウレア化合物が好ましく、下記一般式(b1)で表されるジウレア化合物がより好ましい。
-NHCONH-R-NHCONH-R (b1)
なお、本発明の一態様で用いるウレア系増ちょう剤(B)は、1種からなるものであってもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0032】
上記一般式(b1)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数6~24の1価の炭化水素基を示す。R及びRは、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。Rは、炭素数6~18の2価の芳香族炭化水素基を示す。
【0033】
前記一般式(b1)中のR及びRとして選択し得る1価の炭化水素基の炭素数としては、6~24であるが、好ましくは6~20、より好ましくは6~18である。
また、R及びRとして選択し得る1価の炭化水素基としては、飽和又は不飽和の1価の鎖式炭化水素基、飽和又は不飽和の1価の脂環式炭化水素基、1価の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0034】
ここで、前記一般式(b1)中のR及びRにおける、鎖式炭化水素基の含有率をXモル当量、脂環式炭化水素基の含有率をYモル当量、及び芳香族炭化水素基の含有率をZモル当量とした際、下記要件(a)及び(b)を満たすことが好ましい。
・要件(a):[(X+Y)/(X+Y+Z)]×100の値が90以上(好ましくは95以上、より好ましくは98以上、更に好ましくは100)である。
・要件(b):X/Y比が、0/100(X=0、Y=100)~100/0(X=100、Y=0)(好ましくは10/90~90/10、より好ましくは20/80~80/20、更に好ましくは40/60~80/20)である。
なお、前記脂環式炭化水素基、前記鎖式炭化水素基、及び前記芳香族炭化水素基は、上記一般式(b1)中のR及びRとして選択される基であることから、X、Y、及びZの値の総和は、上記一般式(b1)で示される化合物1モルに対して、2モル当量である。また、上記要件(a)及び(b)の値は、グリース組成物中に含まれる、上記一般式(b1)で示される化合物群全量に対する平均値を意味する。
上記要件(a)及び(b)を満たす、上記一般式(b1)で表される化合物を用いることで、グリース組成物の潤滑寿命と潤滑性能とを両立させながらも、トルク伝達効率及び漏れ防止性能の双方に優れ、耐摩耗性及び耐荷重性にも優れるグリース組成物としやすい。
なお、X、Y、及びZの値は、原料として使用する各アミンのモル当量から算出することができる。
【0035】
1価の飽和鎖式炭化水素基としては、炭素数6~24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられ、具体的には、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、オクタデセニル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。
1価の不飽和鎖式炭化水素基としては、炭素数6~24の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基が挙げられ、具体的には、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、オレイル基、ゲラニル基、ファルネシル基、リノレイル基等が挙げられる。
なお、1価の飽和鎖式炭化水素基及び1価の不飽和鎖式炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
【0036】
1価の飽和脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基等のシクロアルキル基;メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基、イソプロピルシクロヘキシル基、1-メチル-プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、ペンチルシクロヘキシル基、ペンチル-メチルシクロヘキシル基、ヘキシルシクロヘキシル基等の炭素数1~6のアルキル基で置換されたシクロアルキル基(好ましくは、炭素数1~6のアルキル基で置換されたシクロヘキシル基);等が挙げられる。
【0037】
1価の不飽和脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、シクロオクテニル基等のシクロアルケニル基;メチルシクロヘキセニル基、ジメチルシクロヘキセニル基、エチルシクロヘキセニル基、ジエチルシクロヘキセニル基、プロピルシクロヘキセニル基等の炭素数1~6のアルキル基で置換されたシクロアルケニル基(好ましくは、炭素数1~6のアルキル基で置換されたシクロヘキセニル基);等が挙げられる。
【0038】
1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、ジフェニルメチル基、ジフェニルエチル基、ジフェニルプロピル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基等が挙げられる。
【0039】
前記一般式(b1)中のRとして選択し得る2価の芳香族炭化水素基の炭素数としては、6~18であるが、好ましくは6~15、より好ましくは6~13である。
として選択し得る2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニレン基、ジフェニルメチレン基、ジフェニルエチレン基、ジフェニルプロピレン基、メチルフェニレン基、ジメチルフェニレン基、エチルフェニレン基等が挙げられる。
これらの中でも、フェニレン基、ジフェニルメチレン基、ジフェニルエチレン基、又はジフェニルプロピレン基が好ましく、ジフェニルメチレン基がより好ましい。
【0040】
本発明の一態様のグリース組成物において、成分(B)の含有量は、当該グリース組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは1.0~15.0質量%、より好ましくは1.5~13.0質量%、更に好ましくは2.0~10.0質量%、より更に好ましくは2.5~8.0質量%、更になお好ましくは2.5~6.0質量%である。
成分(B)の含有量が1.0質量%以上であれば、得られるグリース組成物の混和ちょう度を適度な範囲に調製し易い。また、漏れ防止性能を良好なものとしやすい。
一方、成分(B)の含有量が15.0質量%以下であれば、得られるグリース組成物を軟らかく調整できるため、潤滑性を良好なものとしやすく、トルク伝達効率を向上させやすい。
【0041】
<ウレア系増ちょう剤(B)の製造方法>
ウレア系増ちょう剤(B)は、通常、イソシアネート化合物と、モノアミンとを反応させることによって得ることができる。当該反応は、上述の基油(A)にイソシアネート化合物を溶解させて得られる加熱した溶液αに、基油(A)にモノアミンを溶解させた溶液βを添加する方法が好ましい。
例えば、前記一般式(b1)で表される化合物を合成する場合に、イソシアネート化合物としては、前記一般式(b1)中のRで示される2価の芳香族炭化水素基に対応する基を有するジイソシアネートを用い、モノアミンとしては、R及びRで示される1価の炭化水素基に対応する基を有するアミンを用いて、上記の方法により、所望のウレア系増ちょう剤(B)を合成することができる。
【0042】
なお、上記要件(I)、さらには上記要件(II)を満たすように、グリース組成物中のウレア系増ちょう剤(B)を微細化する観点から、下記[1]に示すようなグリース製造装置を用いて、成分(A)及び成分(B)を含むグリース組成物を製造することが好ましい。
[1]グリース原料が導入される導入部、及び外部にグリースを吐出させる吐出部を有する容器本体と、
前記容器本体の内周の軸方向に回転軸を有し、前記容器本体の内部に回転可能に設けられた回転子とを備え、
前記回転子は、
(i)前記回転子の表面に沿って、凹凸が交互に設けられて、当該凹凸が前記回転軸に対して傾斜し、
(ii)前記導入部から前記吐出部方向への送り能力を有する
第一凹凸部を備えている、グリース製造装置。
【0043】
以下、上記[1]に記載のグリース製造装置について説明するが、以下の記載の「好ましい」とされる規定は、特に断りが無い限り、上記要件(I)、さらには上記要件(II)を満たすように、グリース組成物中のウレア系増ちょう剤(B)を微細化する観点からの態様である。
【0044】
図1は、本発明の一態様で使用し得る、上記[1]のグリース製造装置の断面の模式図である。
図1に示すグリース製造装置1は、グリース原料を内部に導入する容器本体2と、容器本体2の内周の中心軸線上に回転軸12を有し、回転軸12を中心軸として回転する回転子3とを備える。
回転子3は、回転軸12を中心軸として高速回転し、容器本体2の内部でグリース原料に高いせん断力を与える。これにより、ウレア系増ちょう剤を含むグリースが製造される。
容器本体2は、図1に示すように、上流側から順に、導入部4、滞留部5、第一内周面6、第二内周面7、及び吐出部8に区画されていることが好ましい。
容器本体2は、図1に示すように、導入部4から吐出部8に向かうにしたがって、次第に内径が拡径する円錐台状の内周面を有していることが好ましい。
容器本体2の一端となる導入部4は、容器本体2の外部からグリース原料を導入する複数の溶液導入管4A、4Bを備える。
【0045】
滞留部5は、導入部4の下流部に配置され、導入部4から導入されたグリース原料を一時的に滞留させる空間である。この滞留部5にグリース原料が長時間滞留すると、滞留部5の内周面に付着したグリースが、大きなダマを形成してしまうので、なるべく短時間で下流側の第一内周面6に搬送するのが好ましい。さらに好ましくは、滞留部5を経ず、直接第一内周面6に搬送することが好ましい。
第一内周面6は、滞留部5に隣接した下流部に配置され、第二内周面7は、第一内周面6に隣接した下流部に配置される。詳しくは後述するが、第一内周面6に第一凹凸部9を設けること、および第二内周面7に第二凹凸部10を設けることが、第一内周面6及び第二内周面7をグリース原料またはグリースに高いせん断力を付与する高せん断部として機能させる上で好ましい。
容器本体2の他端となる吐出部8は、第一内周面6と第二内周面7で撹拌されたグリースを吐出する部分であり、グリースを吐出する吐出口11を備える。吐出口11は、回転軸12に直交する方向又は略直交する方向に形成されている。これにより、グリースが吐出口11から回転軸12に直交する方向又は略直交する方向に吐出される。但し、吐出口11は、必ずしも回転軸12に直交せずともよく、回転軸12と平行方向又は略平行方向に形成されていてもよい。
【0046】
回転子3は、容器本体2の円錐台状の内周面の中心軸線を回転軸12として回転可能に設けられ、図1に示すように容器本体2を上流部から下流部に向けてみたときに、反時計回りに回転する。
回転子3は、容器本体2の円錐台の内径の拡大に応じて拡大する外周面を有し、回転子3の外周面と、容器本体2の円錐台の内周面とは、一定の間隔が維持されている。
回転子3の外周面には、回転子3の表面に沿って凹凸が交互に設けられた回転子の第一凹凸部13が設けられている。
【0047】
回転子の第一凹凸部13は、導入部4から吐出部8方向に、回転子3の回転軸12に対して傾斜し、導入部4から吐出部8方向への送り能力を有する。すなわち、回転子の第一凹凸部13は、回転子3が図1に示された方向に回転する時に、溶液を下流側に押し出す方向に傾斜している。
【0048】
回転子の第一凹凸部13の凹部13Aと凸部13Bの段差は、回転子3の外周面の凹部13Aの直径を100とした際、好ましくは0.3~30、より好ましくは0.5~15、更に好ましくは2~7である。
円周方向における回転子の第一凹凸部13の凸部13Bの数は、好ましくは2~1000個、より好ましくは6~500個、更に好ましくは12~200個である。
【0049】
回転子3の回転軸12に直交する断面における回転子の第一凹凸部13の凸部13Bの幅と、凹部13Aの幅との比〔凸部の幅/凹部の幅〕は、好ましくは0.01~100、より好ましくは0.1~10、更に好ましくは0.5~2である。
回転軸12に対する、回転子の第一凹凸部13の傾斜角度は、好ましくは2~85度、より好ましくは3~45度、更に好ましくは5~20度である。
【0050】
容器本体2の第一内周面6には、内周面に沿って凹凸が複数形成された第一凹凸部9が備えられていることが好ましい。
また、容器本体2側の第一凹凸部9の凹凸は、回転子の第一凹凸部13とは逆向きに傾斜していることが好ましい。
すなわち、容器本体2側の第一凹凸部9の複数の凹凸は、回転子3の回転軸12が図1に示される方向に回転する時に、溶液を下流側に押し出す方向に傾斜していることが好ましい。容器本体2の第一内周面6に備えられた複数の凹凸を有する第一凹凸部9によって、撹拌能力と吐出能力が更に増強される。
【0051】
容器本体2側の第一凹凸部9の凹凸の深さは、容器内径(直径)を100とした際、好ましくは0.2~30、より好ましくは0.5~15、更に好ましくは1~5である。
容器本体2側の第一凹凸部9の凹凸の本数は、好ましくは2~1000本、より好ましくは6~500本、更に好ましくは12~200本である。
【0052】
容器本体2側の第一凹凸部9の凹凸の凹部の幅と、溝間の凸部の幅との比〔凹部の幅/凸部の幅〕は、好ましくは0.01~100、より好ましくは0.1~10、更に好ましくは0.5~2以下である。
回転軸12に対する、容器本体2側の第一凹凸部9の凹凸の傾斜角度は、好ましくは2~85度、より好ましくは3~45度、更に好ましくは5~20度である。
なお、容器本体2の第一内周面6に第一凹凸部9を備えることによって、第一内周面6をグリース原料またはグリースに高いせん断力を付与するせん断部として機能させることができるが、第一凹凸部9は必ずしも設けずともよい。
【0053】
回転子の第一凹凸部13の下流部の外周面には、回転子3の表面に沿って、凹凸が交互に設けられた回転子の第二凹凸部14が設けられていることが好ましい。
回転子の第二凹凸部14は、回転子3の回転軸12に対して傾斜し、導入部4から吐出部8に向けて、溶液を上流側に押し戻す送り抑制能力を有する。
【0054】
回転子の第二凹凸部14の段差は、回転子3の外周面の凹部の直径を100として際、好ましくは0.3~30、より好ましくは0.5~15、更に好ましくは2~7である。
円周方向における回転子の第二凹凸部14の凸部の数は、好ましくは2~1000個、より好ましくは6~500個、更に好ましくは12~200個である。
【0055】
回転子3の回転軸に直交する断面における回転子の第二凹凸部14の凸部の幅と、凹部の幅との比〔凸部の幅/凹部の幅〕は、好ましくは0.01~100、より好ましくは0.1~10、更に好ましくは0.5~2である。
回転軸12に対する、回転子の第二凹凸部14の傾斜角度は、好ましくは2~85度、より好ましくは3~45度、更に好ましくは5~20度である。
【0056】
容器本体2の第二内周面7には、容器本体2側の第一凹凸部9における凹凸の下流部に隣接して、複数の凹凸が形成された第二凹凸部10が備えられていることが好ましい。
凹凸は、容器本体2の内周面に複数形成され、それぞれの凹凸は、回転子の第二凹凸部14の傾斜方向とは逆向きに傾斜していることが好ましい。
すなわち、容器本体2側の第二凹凸部10の複数の凹凸は、回転子3の回転軸12が図1に示される方向に回転する時に、溶液を上流側に押し戻す方向に傾斜していることが好ましい。容器本体2の第二内周面7に備えられた第二凹凸部10の凹凸によって、撹拌能力が更に増強される。また、容器本体の第二内周面7をグリース原料またはグリースに高いせん断力を付与するせん断部として機能させ得る。
【0057】
容器本体2側の第二凹凸部10の凹部の深さは、容器本体2の内径(直径)を100とした際、好ましくは0.2~30、より好ましくは0.5~15、更に好ましくは1~5である。
容器本体2側の第二凹凸部10の凹部の本数は、好ましくは2~1000本、より好ましくは6~500本、更に好ましくは12~200本である。
【0058】
回転子3の回転軸12に直交する断面における容器本体2側の第二凹凸部10の凹凸の凸部の幅と、凹部の幅との比〔凸部の幅/凹部の幅〕は、好ましくは0.01~100、より好ましくは0.1~10、更に好ましくは0.5~2以下である。
回転軸12に対する、容器本体2側の第二凹凸部10の傾斜角度は、好ましくは2~85度、より好ましくは3~45度、更に好ましくは5~20度である。
容器本体2側の第一凹凸部9の長さと、容器本体2側の第二凹凸部10の長さとの比〔第一凹凸部の長さ/第二凹凸部の長さ〕は、好ましくは2/1~20/1である。
【0059】
図2は、グリース製造装置1の容器本体2側の第一凹凸部9における、回転軸12に直交する方向の断面の図である。
図2に示す、回転子の第一凹凸部13には、第一凹凸部13の凸部13Bの突出方向先端よりも、先端が容器本体2の内周面側に突出したスクレーパー15が複数設けられている。また、図示省略するが、第二凹凸部14にも、第一凹凸部13と同様、凸部の先端が容器本体2の内周面側に突出したスクレーパーが複数設けられている。
スクレーパー15は、容器本体2側の第一凹凸部9、及び、容器本体2側の第二凹凸部10の内周面に付着したグリースを掻き取るものである。
回転子の第一凹凸部13の凸部13Bの突出量に対する、スクレーパー15の先端の突出量は、スクレーパー15の先端の半径(R2)と、凸部13Bの先端の半径(R1)との比〔R2/R1〕が、1.005を超え、2.0未満となるのが好ましい。
【0060】
スクレーパー15の数は、好ましくは2~500箇所、より好ましくは2~50箇所、更に好ましくは2~10箇所である。
なお、図2に示すグリース製造装置1では、スクレーパー15を設けているが、設けないものであってもよく、間欠的に設けたものであってもよい。
【0061】
グリース製造装置1により、ウレア系増ちょう剤(B)を含むグリースを製造するには、前述したグリース原料である、溶液αと溶液βとを、容器本体2の導入部4の溶液導入管4A、4Bからそれぞれ導入し、回転子3を高速回転させることにより、ウレア系増ちょう剤(B)を含むグリース基材を製造することができる。
そして、このようにして得られたグリース基材に、極圧剤(C)及び他の添加剤(D)を配合しても、上記要件(I)、さらには上記要件(II)を満たすように、グリース組成物中のウレア系増ちょう剤を微細化することができる。
【0062】
回転子3の高速回転条件として、グリース原料に与えるせん断速度としては、好ましくは10-1以上、より好ましいは10-1以上、さらに好ましくは10-1以上であり、また、通常10-1以下である。
【0063】
また、回転子3の高速回転する際のせん断における、最高せん断速度(Max)と最低せん断速度(Min)の比(Max/Min)は、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは10以下である。
混合液に対するせん断速度ができるだけ均一であることにより、グリース組成物中のウレア系増ちょう剤やその前駆体を微細化しやすくなり、より均一なグリース構造となる。
【0064】
ここで、最高せん断速度(Max)とは、混合液に対して付与される最高のせん断速度であり、最低せん断速度(Min)とは、混合液に対して付与される最低のせん断速度であって、下記のように定義されるものである。
・最高せん断速度(Max)=(回転子の第一凹凸部13の凸部13B先端の線速度)/(回転子の第一凹凸部13の凸部13B先端と容器本体2の第一内周面6の第一凹凸部9の凸部のギャップA1)
・最低せん断速度(Min)=(回転子の第一凹凸部13の凹部13Aの線速度)/(回転子の第一凹凸部13の凹部13Aと容器本体2の第一内周面6の第一凹凸部9の凹部のギャップA2)
なお、ギャップA1とギャップA2は、図2に示されるとおりである。
【0065】
グリース製造装置1がスクレーパー15を備えていることにより、容器本体2の内周面に付着したグリースを掻き取ることができるため、混練中にダマが発生することを防止することができ、ウレア系増ちょう剤を微細化したグリースを連続して短時間で製造することができる。
また、スクレーパー15が、付着したグリースを掻き取ることにより、滞留グリースが回転子3の回転の抵抗となるのを防止することができるため、回転子3の回転トルクを低減することができ、駆動源の消費電力を低減して、効率的にグリースの連続製造を行うことができる。
【0066】
容器本体2の内周面が、導入部4から吐出部8に向かうにしたがって、内径が拡大する円錐台状であるので、遠心力がグリースまたはグリース原料を下流方向に排出する効果を持ち、回転子3の回転トルクを低減して、グリースの連続製造を行うことができる。
回転子3の外周面に、回転子の第一凹凸部13が設けられ、回転子の第一凹凸部13が回転子3の回転軸12に対して傾斜し、導入部4から吐出部8への送り能力を有し、回転子の第二凹凸部14が回転子3の回転軸12に対して傾斜し、導入部4から吐出部8への送り抑制能力を有しているため、溶液に高いせん断力を付与することができ、添加剤を配合後も、上記要件(I)、さらには上記要件(II)を満たすように、グリース組成物中のウレア系増ちょう剤(B)を微細化することができる。
【0067】
容器本体2の第一内周面6に第一凹凸部9が形成され、回転子の第一凹凸部13とは逆向きに傾斜しているため、回転子の第一凹凸部13の効果に加え、さらに、グリースまたはグリース原料を下流方向に押し出しながら、十分なグリース原料の撹拌を行うことができ、添加剤を配合後も、上記要件(I)、さらには上記要件(II)を満たすように、グリース組成物中のウレア系増ちょう剤(B)を微細化することができる。
また、容器本体2の第二内周面7に第二凹凸部10が設けられると共に、回転子3の外周面に回転子の第二凹凸部14が設けられることにより、グリース原料が必要以上に容器本体の第一内周面6から流出することを防止できるので、溶液に高いせん断力を与えてグリース原料を高分散化して、添加剤を配合後も、上記要件(I)、さらには上記要件(II)を満たすように、ウレア系増ちょう剤(B)を微細化することができる。
【0068】
<極圧剤(C)>
本発明のグリース組成物は、成分(A)及び(B)と共に、極圧剤(C)を含む。
一般に、ウレア系増ちょう剤(B)を含有するグリース組成物は、極圧剤(C)を添加しても、極圧剤(C)の性能が発揮されにくく、極圧剤(C)によるグリース組成物への耐摩耗性及び耐荷重性の付与が難しい。ところが、本発明者が鋭意検討した結果、意外なことに、上記要件(I)、さらには上記要件(II)を満たすグリース組成物においては、極圧剤(C)の性能が極めて発揮されやすく、耐摩耗性及び耐荷重性に優れたグリース組成物となりやすいことがわかった。
【0069】
本発明のグリース組成物において用いられる極圧剤(C)は、有機金属系極圧剤、硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、及び硫黄-リン系極圧剤から選択される1種以上である。
これらの中でも、耐摩耗性及び耐荷重性をより向上させる観点から、有機金属系極圧剤から選択される1種以上、又は、硫黄系極圧剤とリン系極圧剤と硫黄-リン系極圧剤とを組み合わせが好ましく、有機金属系極圧剤から選択される1種以上を用いることがより好ましい。
以下、有機金属系極圧剤、硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、及び硫黄-リン系極圧剤について説明する。
【0070】
(有機金属系極圧剤)
有機金属系極圧剤としては、例えば、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)及びジアルキルジチオリン酸モリブデン(MoDTP)等の有機モリブデン系化合物、並びにジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)及びジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)等の有機亜鉛系化合物から選択される1種以上を用いることができる。
これらの中でも、耐摩耗性及び耐荷重性をさらに向上させる観点から、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)及びジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)のいずれかを用いることが好ましく、これらを組み合わせて用いることがより好ましい。
なお、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)及びジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を組み合わせて用いる場合、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)とジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)との含有量比[(MoDTC)/(ZnDTP)]は、質量比で、好ましくは1/10~10/1、より好ましくは1/5~5/1、更に好ましくは1/3~3/1である。
【0071】
(硫黄系極圧剤)
硫黄系極圧剤としては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、モノサルファイド、ポリサルファイド、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物、チオテルペン化合物、及びジアルキルチオジプロピオネート化合物から選択される1種以上を用いることができる。
これらの中でも、耐摩耗性及び耐荷重性をさらに向上させる観点から、硫化油脂及びチオカーバメート化合物のいずれかを用いることが好ましく、これらを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0072】
(リン系極圧剤)
リン系極圧剤としては、例えば、アリールホスフェート、アルキルホスフェート、アルケニルホスフェート、アルキルアリールホスフェート等のリン酸エステル;モノアリールアシッドホスフェート、ジアリールアシッドホスフェート、モノアルキルアシッドホスフェート、ジアルキルアシッドホスフェート、モノアルケニルアシッドホスフェート、ジアルケニルアシッドホスフェート等の酸性リン酸エステル;アリールハイドロゲンホスファイト、アルキルハイドロゲンホスファイト、アリールホスファイト、アルキルホスファイト、アルケニルホスファイト、アリールアルキルホスファイト等の亜リン酸エステル;モノアルキルアシッドホスファイト、ジアルキルアシッドホスファイト、モノアルケニルアシッドホスファイト、ジアルケニルアシッドホスファイト等の酸性亜リン酸エステル;及びこれらのアミン塩から選択される1種以上を用いることができる。
これらの中でも、耐摩耗性及び耐荷重性をさらに向上させる観点から、酸性リン酸エステルのアミン塩を用いることが好ましい。
【0073】
(硫黄-リン系極圧剤)
硫黄-リン系極圧剤としては、例えば、モノアルキルチオホスフェート、ジアルキルジチオホスフェート、トリアルキルトリチオホスフェート、及びこれらのアミン塩、並びにジアルキルジチオリン酸亜鉛(Zn-DTP)から選択される1種以上を用いることができる。
これらの中でも、耐摩耗性及び耐荷重性をさらに向上させる観点から、モノアルキルチオホスフェートを用いることが好ましい。
【0074】
(硫黄系極圧剤とリン系極圧剤と硫黄-リン系極圧剤との組み合わせの態様)
硫黄系極圧剤とリン系極圧剤と硫黄-リン系極圧剤との組み合わせの態様としては、上記例示化合物の組み合わせが挙げられるが、耐摩耗性及び耐荷重性をさらに向上させる観点から、硫化油脂、チオカーバメート化合物、酸性リン酸エステルのアミン塩、及びモノアルキルチオホスフェートの組み合わせが好ましい。
なお、硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、及び硫黄-リン系極圧剤は、金属非含有化合物であることが好ましい。
【0075】
本発明の一態様のグリース組成物中の極圧剤(C)の含有量は、当該グリース組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~8.0質量%、更に好ましくは1.0~6.0質量%である。
【0076】
<添加剤(D)>
本発明の一態様のグリース組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、一般的なグリースに配合される、成分(B)及び成分(C)以外の添加剤(D)を含有していてもよい。
添加剤(D)としては、例えば、酸化防止剤、防錆剤、分散剤、及び金属不活性化剤等が挙げられる。
添加剤(D)は、それぞれ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
酸化防止剤としては、例えば、ジフェニルアミン系化合物及びナフチルアミン系化合物等のアミン系酸化防止剤、単環フェノール系化合物及び多環フェノール系化合物等のフェノール系酸化防止剤等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、アルケニルコハク酸多価アルコールエステル等のカルボン酸系防錆剤、ステアリン酸亜鉛、チアジアゾール及びその誘導体、ベンゾトリアゾール及びその誘導体等が挙げられる。
分散剤としては、例えば、コハク酸イミド、ボロン系コハク酸イミド等の無灰分散剤が挙げられる。
金属不活性剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。
【0078】
本発明の一態様のグリース組成物において、添加剤(D)の含有量は、それぞれ独立に、当該グリース組成物の全量(100質量%)基準で、通常0.01~20質量%、好ましくは0.01~15質量%、より好ましくは0.01~10質量%、更に好ましくは0.01~7質量%である。
【0079】
<極圧剤(C)及び添加剤(D)の配合方法>
本発明のグリース組成物は、上述の方法により合成した、基油(A)及びウレア系増ちょう剤(B)を含むグリースと、極圧剤(C)さらには必要に応じて添加剤(D)とを混合することにより製造することができる。
例えば、極圧剤(C)さらには必要に応じて添加剤(D)をグリースに配合した後に撹拌すること、あるいは当該グリースを撹拌しながら極圧剤(C)さらには必要に応じて添加剤(D)を当該グリースに配合することにより製造することができる。
【0080】
<本発明のグリース組成物の物性>
(25℃における混和ちょう度)
本発明の一態様のグリース組成物の25℃における混和ちょう度としては、好ましくは240~450、より好ましくは260~450、更に好ましくは300~450、より更に好ましくは340~450、更になお好ましくは380~450である。
本発明の一態様のグリース組成物は、25℃における混和ちょう度を上記範囲に調整した場合であっても、グリース組成物の漏れ防止性能に優れ、トルク伝達効率及び漏れ防止性能に優れるグリース組成物となる。
なお、本明細書において、グリース組成物の混和ちょう度は、ASTM D 217法に準拠して、25℃にて測定された値を意味する。
【0081】
(トルク伝達効率)
本発明の一態様のグリース組成物について、後述する実施例に記載の方法により測定及び算出したトルク伝達効率は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上、より更に好ましくは80%以上である。
【0082】
(漏れ防止性能)
本発明の一態様のグリース組成物について、後述する実施例に記載の方法により測定及び算出したグリース漏れ率としては、好ましくは5.0%未満、より好ましくは2.0%以下、更に好ましくは1.0%以下、より更に好ましくは0.5%以下、更になお好ましくは0%である。
【0083】
(耐摩耗性)
本発明の一態様のグリース組成物について、ASTM D 4170に準拠し、後述する実施例に記載の方法により測定した耐摩耗性(フレッチング摩耗)としては、好ましくは15mg以下、より好ましくは10mg以下、更に好ましくは8mg以下、より更に好ましくは7mg以下である。
【0084】
(耐荷重性)
本発明の一態様のグリース組成物について、ASTM D 2596に準拠し、後述する実施例に記載の方法により測定及び算出した、耐荷重性(融着荷重:WL)としては、好ましくは1961N超、より好ましくは2452N以上、更に好ましくは3089N以上である。
【0085】
<本発明のグリース組成物の用途>
本発明のグリース組成物は、トルク伝達効率及び漏れ防止性能の双方に優れ、耐摩耗性及び耐荷重性にも優れる。
そのため、本発明の一態様のグリース組成物は、このような特性が求められる装置の軸受部分、摺動部分、ギヤ部分、接合部分等の潤滑部分に潤滑用途として用いることができるが、より具体的には、ハブユニット、電動パワーステアリング、駆動用電動モータフライホイール、ボールジョイント、ホイールベアリング、スプライン部、等速ジョイント、クラッチブースター、サーボモータ、ブレードベアリング又は発電機の軸受部分に用いられることが特に好ましい。
また、本発明のグリース組成物を好適に使用し得る装置の分野としても、自動車分野、事務機器分野、工作機械分野、風車分野、建設用分野、農業機械用分野又は産業ロボット分野等が挙げられる。本発明のグリース組成物を好適に使用し得る、自動車用分野の装置内での潤滑部分としては、例えば、ラジエータファンモータ、ファンカップリング、オルターネータ、アイドラプーリ、ハブユニット、ウォーターポンプ、パワーウィンドウ、ワイパ、電動パワーステアリング、駆動用電動モータフライホイール、ボールジョイント、ホイールベアリング、スプライン部、等速ジョイント等の装置内の軸受部分;ドアロック、ドアヒンジ、クラッチブースタ等の装置内の軸受部分、ギヤ部分、摺動部分;等が挙げられる。
本発明のグリース組成物を好適に使用し得る、事務機器分野の装置内での潤滑部分としては、例えば、プリンタ等の装置内の定着ロール、ポリゴンモーター等の装置内の軸受及びギヤ部分等が挙げられる。
本発明のグリース組成物を好適に使用し得る、工作機械分野の装置内での潤滑部分としては、例えば、スピンドル、サーボモータ、工作用ロボット等の減速機内の軸受部分等が挙げられる。
本発明のグリース組成物を好適に使用し得る、風車分野の装置内での潤滑部分としては、例えば、ブレードベアリング及び発電機等の軸受部分等が挙げられる。本発明のグリース組成物を好適に使用し得る、建設用又は農業機械用分野の装置内での潤滑部分としては、例えば、ボールジョイント、スプライン部等の軸受部分、ギヤ部分及び摺動部分等が挙げられる。産業用ロボット等が備える減速機及び風力発電設備が備える増速機に好適に使用することができる。
当該減速機及び増速機としては、例えば歯車機構からなる減速機及び歯車機構からなる増速機等が挙げられる。但し、本発明の一態様のグリース組成物の適用対象は、歯車機構からなる減速機及び歯車機構からなる増速機には限定されず、例えばトラクションドライブ等にも適用することができる。
また、本発明の一態様では、本発明のグリース組成物を、軸受部分、摺動部分、ギヤ部分、接合部分等の潤滑部位に有する装置、好ましくは減速機又は増速機が提供される。
さらに、本発明の一態様では、本発明のグリース組成物により、減速機又は増速機等の装置の潤滑部位(例えば、軸受部分、摺動部分、ギヤ部分、接合部分等)を潤滑する、潤滑方法が提供される。
【実施例
【0086】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
[各種物性値]
各種物性値の測定法は、以下のとおりとした。
(1)40℃動粘度、100℃動粘度、粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
(2)混和ちょう度
ASTM D217法に準拠して、25℃にて測定した。
【0088】
[原料]
実施例1~8及び比較例1~7において、グリース組成物を調製するための原料として使用した基油(A)、極圧剤(C)、及び添加剤(D)は、以下のとおりとした。
(1)基油(A)
・基油(A1):40℃動粘度が50mm/sであるパラフィン系鉱油
・基油(A2):40℃動粘度が100mm/sであるパラフィン系鉱油
・基油(A3):40℃動粘度が50mm/sであるポリαオレフィン(PAO)
・基油(A4):40℃動粘度が100mm/sであるポリαオレフィン(PAO)
(2)極圧剤(C)
・極圧剤(C1):リン系極圧剤1(酸性リン酸エステルアミン塩)
・極圧剤(C2):硫黄系極圧剤1(ジチオカーバメート化合物)
・極圧剤(C3):硫黄-リン系極圧剤1(モノアルキルチオホスフェート)
・極圧剤(C4):硫黄系極圧剤2(硫化油脂)
・極圧剤(C5):有機金属系極圧剤1(ジチオリン酸亜鉛)
・極圧剤(C6):有機金属系極圧剤2(ジチオカルバミン酸モリブデン)
(3)添加剤(D)
・添加剤(D1):防錆剤(Znステアレート)
・添加剤(D2):酸化防止剤(モノブチルフェニルモノオクチルフェニルアミン)
・添加剤(D3):銅不活性化剤(Naスルホネート)
【0089】
<実施例1>
(1)ウレアグリース(x-1)の合成
基油(A1)41.39質量部に、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)4.71質量部を加えて、溶液αを調製した。
また、別に用意した、基油(A1)38.74質量部に、オクタデシルアミン5.91質量部と、シクロヘキシルアミン1.45質量部とを加えて、溶液βを調製した。
そして、図1に示すグリース製造装置1を用いて、70℃に加熱した溶液αを溶液導入管4Aから流量150L/hで、70℃に加熱した溶液βを溶液導入管4Bから流量150L/hで、それぞれを同時に容器本体2内へ導入し、回転子3を回転させた状態で溶液αと溶液βとを容器本体2内へ連続的に導入し続けて、ウレアグリース(x-1)を合成した。
なお、使用したグリース製造装置1の回転子3の回転数は8000rpmとした。また、この際の最高せん断速度(Max)は10,500s-1であり、最高せん断速度(Max)と最低せん断速度(Min)との比〔Max/Min〕は3.5として、撹拌を行った。
ウレアグリース(x-1)に含まれるウレア系増ちょう剤は、前記一般式(b1)中のR及びRがオクタデシル基及びシクロヘキシル基から選択され、Rがジフェニルメチレン基である化合物に相当する。
また、原料として用いたオクタデシルアミンとシクロヘキシルアミンのモル比(オクタデシルアミン/シクロヘキシルアミン)は60/40である。
(2)グリース組成物(X1)の調製
上記(1)において、図1に示すグリース製造装置1から吐出されたウレアグリース(x-1)を撹拌した後、自然放冷で冷却し、極圧剤(C5)及び極圧剤(C6)、並びに、添加剤(D1)、添加剤(D2)、及び添加剤(D3)を、表1に示す配合量で添加し、グリース組成物(X1)を得た。
【0090】
<実施例2>
(1)ウレアグリース(x-2)の合成
基油(A1)42.22質量部に、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)3.88質量部を加えて、溶液αを調製した。
また、別に用意した、基油(A1)38.00質量部に、オクタデシルアミン8.10質量部を加えて、溶液βを調製した。
そして、図1に示すグリース製造装置1を用いて、実施例1の(1)と同様の条件で、ウレアグリース(x-2)を合成した。
ウレアグリース(x-2)に含まれるウレア系増ちょう剤は、前記一般式(b1)中のR及びRがオクタデシル基であり、Rがジフェニルメチレン基である化合物に相当する。
また、原料として用いたオクタデシルアミンとシクロヘキシルアミンのモル比(オクタデシルアミン/シクロヘキシルアミン)は100/0である。
(2)グリース組成物(X2)の調製
上記(1)において、図1に示すグリース製造装置1から吐出されたウレアグリース(x-2)を撹拌した後、自然放冷で冷却し、極圧剤(C5)及び極圧剤(C6)、並びに、添加剤(D1)、添加剤(D2)、及び添加剤(D3)を、表1に示す配合量で添加し、グリース組成物(X2)を得た。
【0091】
<実施例3>
(1)ウレアグリース(x-3)の合成
基油(A1)40.61質量部に、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)5.49質量部を加えて、溶液αを調製した。
また、別に用意した、基油(A1)40.60質量部に、オクチルアミン5.50質量部を加えて、溶液βを調製した。
そして、図1に示すグリース製造装置1を用いて、実施例1の(1)と同様の条件で、ウレアグリース(x-3)を合成した。
ウレアグリース(x-3)に含まれるウレア系増ちょう剤は、前記一般式(b1)中のR及びRがオクチル基であり、Rがジフェニルメチレン基である化合物に相当する。
また、原料として用いたオクチルアミンとシクロヘキシルアミンのモル比(オクチルアミン/シクロヘキシルアミン)は100/0である。
(2)グリース組成物(X3)の調製
上記(1)において、図1に示すグリース製造装置1から吐出されたウレアグリース(x-3)を撹拌した後、自然放冷で冷却し、極圧剤(C5)及び極圧剤(C6)、並びに、添加剤(D1)、添加剤(D2)、及び添加剤(D3)を、表1に示す配合量で添加し、グリース組成物(X3)を得た。
【0092】
<実施例4>
(1)ウレアグリース(x-4)の合成
基油(A1)44.25質量部に、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)1.95質量部を加えて、溶液αを調製した。
また、別に用意した、基油(A1)43.15質量部に、オクタデシルアミン2.45質量部と、シクロヘキシルアミン0.60質量部とを加えて、溶液βを調製した。
そして、図1に示すグリース製造装置1を用いて、実施例1の(1)と同様の条件で、ウレアグリース(x-4)を合成した。
ウレアグリース(x-4)に含まれるウレア系増ちょう剤は、前記一般式(b1)中のR及びRがオクタデシル基及びシクロヘキシル基から選択され、Rがジフェニルメチレン基である化合物に相当する。
また、原料として用いたオクタデシルアミンとシクロヘキシルアミンのモル比(オクタデシルアミン/シクロヘキシルアミン)は60/40である。
(2)グリース組成物(X4)の調製
上記(1)において、図1に示すグリース製造装置1から吐出されたウレアグリース(x-4)を撹拌した後、自然放冷で冷却し、極圧剤(C1)、極圧剤(C2)、極圧剤(C3)、及び極圧剤(C4)、並びに、添加剤(D1)、添加剤(D2)、及び添加剤(D3)を、表1に示す配合量で添加し、グリース組成物(X4)を得た。
【0093】
<実施例5>
(1)ウレアグリース(x-5)の合成
基油(A3)44.34質量部に、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)1.76質量部を加えて、溶液αを調製した。
また、別に用意した、基油(A3)43.36質量部に、オクタデシルアミン2.20質量部と、シクロヘキシルアミン0.54質量部とを加えて、溶液βを調製した。
そして、図1に示すグリース製造装置1を用いて、実施例1の(1)と同様の条件で、ウレアグリース(x-5)を合成した。
ウレアグリース(x-5)に含まれるウレア系増ちょう剤は、前記一般式(b1)中のR及びRがオクタデシル基及びシクロヘキシル基から選択され、Rがジフェニルメチレン基である化合物に相当する。
また、原料として用いたオクタデシルアミンとシクロヘキシルアミンのモル比(オクタデシルアミン/シクロヘキシルアミン)は60/40である。
(2)グリース組成物(X5)の調製
上記(1)において、図1に示すグリース製造装置1から吐出されたウレアグリース(x-5)を撹拌した後、自然放冷で冷却し、極圧剤(C5)及び極圧剤(C6)、並びに、添加剤(D1)、添加剤(D2)、及び添加剤(D3)を、表1に示す配合量で添加し、グリース組成物(X5)を得た。
【0094】
<実施例6>
(1)ウレアグリース(x-6)の合成
基油(A2)44.90質量部に、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)1.20質量部を加えて、溶液αを調製した。
また、別に用意した、基油(A2)44.22質量部に、オクタデシルアミン1.51質量部と、シクロヘキシルアミン0.37質量部とを加えて、溶液βを調製した。
そして、図1に示すグリース製造装置1を用いて、実施例1の(1)と同様の条件で、ウレアグリース(x-6)を合成した。
ウレアグリース(x-6)に含まれるウレア系増ちょう剤は、前記一般式(b1)中のR及びRがオクタデシル基及びシクロヘキシル基から選択され、Rがジフェニルメチレン基である化合物に相当する。
また、原料として用いたオクタデシルアミンとシクロヘキシルアミンのモル比(オクタデシルアミン/シクロヘキシルアミン)は60/40である。
(2)グリース組成物(X6)の調製
上記(1)において、図1に示すグリース製造装置1から吐出されたウレアグリース(x-6)を撹拌した後、自然放冷で冷却し、極圧剤(C5)及び極圧剤(C6)、並びに、添加剤(D1)、添加剤(D2)、及び添加剤(D3)を、表1に示す配合量で添加し、グリース組成物(X6)を得た。
【0095】
<実施例7>
(1)ウレアグリース(x-7)の合成
基油(A2)45.00質量部に、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)1.20質量部を加えて、溶液αを調製した。
また、別に用意した、基油(A2)44.32質量部に、オクタデシルアミン1.51質量部と、シクロヘキシルアミン0.37質量部とを加えて、溶液βを調製した。
そして、図1に示すグリース製造装置1を用いて、実施例1の(1)と同様の条件で、ウレアグリース(x-7)を合成した。
ウレアグリース(x-7)に含まれるウレア系増ちょう剤は、前記一般式(b1)中のR及びRがオクタデシル基及びシクロヘキシル基から選択され、Rがジフェニルメチレン基である化合物に相当する。
また、原料として用いたオクタデシルアミンとシクロヘキシルアミンのモル比(オクタデシルアミン/シクロヘキシルアミン)は60/40である。
(2)グリース組成物(X7)の調製
上記(1)において、図1に示すグリース製造装置1から吐出されたウレアグリース(x-7)を撹拌した後、自然放冷で冷却し、極圧剤(C1)、極圧剤(C2)、極圧剤(C3)、及び極圧剤(C4)、並びに、添加剤(D1)、添加剤(D2)、及び添加剤(D3)を、表1に示す配合量で添加し、グリース組成物(X7)を得た。
【0096】
<実施例8>
(1):ウレアグリース(x-8)の合成
基油(A1)44.15質量部に、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)1.95質量部を加えて、溶液αを調製した。
また、別に用意した、基油(A1)43.05質量部に、オクタデシルアミン2.45質量部と、シクロヘキシルアミン0.60質量部とを加えて、溶液βを調製した。
そして、図1に示すグリース製造装置1を用いて、実施例1の(1)と同様の条件で、ウレアグリース(x-8)を合成した。
ウレアグリース(x-8)に含まれるウレア系増ちょう剤は、前記一般式(b1)中のR及びRがオクタデシル基及びシクロヘキシル基から選択され、Rがジフェニルメチレン基である化合物に相当する。
また、原料として用いたオクタデシルアミンとシクロヘキシルアミンのモル比(オクタデシルアミン/シクロヘキシルアミン)は60/40である。
(2)グリース組成物(X8)の調製
上記(1)において、図1に示すグリース製造装置1から吐出されたウレアグリース(x-8)を撹拌した後、自然放冷で冷却し、極圧剤(C5)及び極圧剤(C6)、並びに、添加剤(D1)、添加剤(D2)、及び添加剤(D3)を、表1に示す配合量で添加し、グリース組成物(X8)を得た。
【0097】
<比較例1>
(1)ウレアグリース(y-1)の合成
基油(A1)40.25質量部に、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)5.85質量部を加えて、溶液αを調製した。
また、別に用意した、基油(A1)36.96質量部に、オクタデシルアミン7.34質量部と、シクロヘキシルアミン1.80質量部とを加えて、溶液βを調製した。
そして、図3に示すグリース製造装置を用いて、70℃に加熱した溶液αを溶液導入管から流量504L/hで容器本体内へ導入した。その後、70℃に加熱した溶液βを溶液導入管から流量144L/hで溶液αの入った容器本体内へ導入した。全ての溶液βを容器本体内へ導入した後、撹拌翼を回転させ、撹拌を継続しながら160℃に昇温し、1時間保持してウレアグリース(y-1)を合成した。
なお、この際の最高せん断速度(Max)は42,000s-1であり、最高せん断速度(Max)と最低せん断速度(Min)との比〔Max/Min〕は1.03として、撹拌を行った。
ウレアグリース(y-1)に含まれるウレア系増ちょう剤は、前記一般式(b1)中のR及びRがシクロヘキシル基及びオクタデシル基から選択され、Rがジフェニルメチレン基である化合物に相当する。
また、原料として用いたオクタデシルアミンとシクロヘキシルアミンのモル比(オクタデシルアミン/シクロヘキシルアミン)は60/40である。
(2)グリース組成物(Y1)の調製
上記(1)において、図3に示すグリース製造装置から吐出されたウレアグリース(y-1)を撹拌した後、自然放冷で冷却し、極圧剤(C5)及び極圧剤(C6)並びに添加剤(D1)、添加剤(D2)、及び添加剤(D3)を、表2に示す配合量で添加し、グリース組成物(Y1)を得た。
【0098】
<比較例2>
(1):ウレアグリース(y-2)の合成
基油(A3)45.09質量部に、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)1.01質量部を加えて、溶液αを調製した。
また、別に用意した、基油(A3)44.53質量部に、オクタデシルアミン1.26質量部と、シクロヘキシルアミン0.31質量部とを加えて、溶液βを調製した。
そして、図3に示すグリース製造装置を用いて、比較例1の(1)と同様の条件で、ウレアグリース(y-2)を合成した。
ウレアグリース(y-2)に含まれるウレア系増ちょう剤は、前記一般式(b1)中のR及びRがシクロヘキシル基及びオクタデシル基から選択され、Rがジフェニルメチレン基である化合物に相当する。
また、原料として用いたオクタデシルアミンとシクロヘキシルアミンのモル比(オクタデシルアミン/シクロヘキシルアミン)は60/40である。
(2)グリース組成物(Y2)の調製
上記(1)において、図3に示すグリース製造装置から吐出されたウレアグリース(y-2)を撹拌した後、自然放冷で冷却し、極圧剤(C5)及び極圧剤(C6)並びに添加剤(D1)、添加剤(D2)、及び添加剤(D3)を、表2に示す配合量で添加し、グリース組成物(Y2)を得た。
【0099】
<比較例3>
(1):ウレアグリース(y-3)の合成
基油(A4)44.35質量部に、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)3.90質量部を加えて、溶液αを調製した。
また、別に用意した、基油(A4)42.16質量部に、オクタデシルアミン4.89質量部と、シクロヘキシルアミン1.20質量部とを加えて、溶液βを調製した。
そして、図3に示すグリース製造装置を用いて、比較例1の(1)と同様の条件で、ウレアグリース(Y3)を合成した。
ウレアグリース(y-3)に含まれるウレア系増ちょう剤は、前記一般式(b1)中のR及びRがシクロヘキシル基及びオクタデシル基から選択され、Rがジフェニルメチレン基である化合物に相当する。
また、原料として用いたオクタデシルアミンとシクロヘキシルアミンのモル比(オクタデシルアミン/シクロヘキシルアミン)は60/40である。
(2)グリース組成物(Y3)の調製
上記(1)において、図3に示すグリース製造装置から吐出されたウレアグリース(y-3)を撹拌した後、自然放冷で冷却し、添加剤(D1)、添加剤(D2)、及び添加剤(D3)を、表2に示す配合量で添加し、グリース組成物(Y3)を得た。
【0100】
<比較例4>
(1)ウレアグリース(y-4)の合成
基油(A1)44.15質量部に、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)1.95質量部を加えて、溶液αを調製した。
また、別に用意した、基油(A1)43.05質量部に、オクタデシルアミン2.45質量部と、シクロヘキシルアミン0.60質量部とを加えて、溶液βを調製した。
そして、図3に示すグリース製造装置を用いて、比較例1の(1)と同様の条件で、ウレアグリース(y-4)を合成した。
ウレアグリース(y-4)に含まれるウレア系増ちょう剤は、前記一般式(b1)中のR及びRがシクロヘキシル基及びオクタデシル基から選択され、Rがジフェニルメチレン基である化合物に相当する。
また、原料として用いたオクタデシルアミンとシクロヘキシルアミンのモル比(オクタデシルアミン/シクロヘキシルアミン)は60/40である。
(2)グリース組成物(Y4)の調製
上記(1)において、図3に示すグリース製造装置から吐出されたウレアグリース(y-4)を撹拌した後、自然放冷で冷却し、極圧剤(C5)及び極圧剤(C6)並びに添加剤(D1)、添加剤(D2)、及び添加剤(D3)を、表2に示す配合量で添加し、グリース組成物(Y4)を得た。
【0101】
<比較例5>
(1)ウレアグリース(y-5)の合成
基油(A1)46.40質量部に、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)1.95質量部を加えて、溶液αを調製した。
また、別に用意した、基油(A1)45.30質量部に、オクタデシルアミン2.45質量部と、シクロヘキシルアミン0.60質量部とを加えて、溶液βを調製した。
そして、図3に示すグリース製造装置を用いて、比較例1の(1)と同様の条件で、ウレアグリース(y-5)を合成した。
ウレアグリース(y-5)に含まれるウレア系増ちょう剤は、前記一般式(b1)中のR及びRがシクロヘキシル基及びオクタデシル基から選択され、Rがジフェニルメチレン基である化合物に相当する。
また、原料として用いたオクタデシルアミンとシクロヘキシルアミンのモル比(オクタデシルアミン/シクロヘキシルアミン)は60/40である。
(2)グリース組成物(Y5)の調製
上記(1)において、図3に示すグリース製造装置から吐出されたウレアグリース(y-5)を撹拌した後、自然放冷で冷却し、添加剤(D1)、添加剤(D2)、及び添加剤(D3)を、表2に示す配合量で添加し、グリース組成物(Y5)を得た。
【0102】
<比較例6>
(1)ウレアグリース(y-6)の合成
基油(A1)44.25質量部に、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)1.95質量部を加えて、溶液αを調製した。
また、別に用意した、基油(A1)43.15質量部に、オクタデシルアミン2.45質量部と、シクロヘキシルアミン0.60質量部とを加えて、溶液βを調製した。
そして、図3に示すグリース製造装置を用いて、合成例Y1と同様の条件で、ウレアグリース(y-6)を合成した。
ウレアグリース(y-6)に含まれるウレア系増ちょう剤は、前記一般式(b1)中のR及びRがシクロヘキシル基及びオクタデシル基から選択され、Rがジフェニルメチレン基である化合物に相当する。
また、原料として用いたオクタデシルアミンとシクロヘキシルアミンのモル比(オクタデシルアミン/シクロヘキシルアミン)は60/40である。
(2)グリース組成物(Y6)の調製
上記(1)において、図3に示すグリース製造装置から吐出されたウレアグリース(y-6)を撹拌した後、自然放冷で冷却し、極圧剤(C1)、極圧剤(C2)、極圧剤(C3)、及び極圧剤(C4)並びに添加剤(D1)、添加剤(D2)、及び添加剤(D3)を、表2に示す配合量で添加し、グリース組成物(Y6)を得た。
【0103】
<比較例7>
(1)ウレアグリース(y-7)の合成
基油(A1)46.40質量部に、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)1.95質量部を加えて、溶液αを調製した。
また、別に用意した、基油(A1)45.30質量部に、オクタデシルアミン2.45質量部と、シクロヘキシルアミン0.60質量部とを加えて、溶液βを調製した。
そして、図1に示すグリース製造装置1を用いて、実施例1の(1)と同様の条件で、ウレアグリース(y-7)を合成した。
ウレアグリース(y-7)に含まれるウレア系増ちょう剤は、前記一般式(b1)中のR及びRがオクタデシル基及びシクロヘキシル基から選択され、Rがジフェニルメチレン基である化合物に相当する。
また、原料として用いたオクタデシルアミンとシクロヘキシルアミンのモル比(オクタデシルアミン/シクロヘキシルアミン)は60/40である。
(2)グリース組成物(Y7)の調製
上記(1)において、図1に示すグリース製造装置1から吐出されたウレアグリース(y-7)を撹拌した後、自然放冷で冷却し、添加剤(D1)、添加剤(D2)、及び添加剤(D3)を、表2に示す配合量で添加し、グリース組成物(Y7)を得た。
【0104】
[評価方法]
実施例1~8及び比較例1~7において合成したウレアグリース(x-1)~(x-8)及びウレアグリース(y-1)~(y-7)又はグリース組成物(X1)~(X8)及びグリース組成物(Y1)~(Y7)について、下記の評価を行った。
【0105】
<粒子径の評価:要件(I)>
グリース組成物中のウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子の粒子径を評価した。具体的には、実施例1~8及び比較例1~7において合成したウレアグリース(x-1)~(x-8)及びウレアグリース(y-1)~(y-7)を測定試料とし、以下の手順によりウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子の粒子径を評価した。
まず、測定試料を真空脱泡した後1mLシリンジに充填し、シリンジから0.10~0.15mLの試料を押し出し、ペーストセル用固定治具の板状のセルの表面に押し出した試料を載せた。
そして、試料の上に、さらに別の板状のセルを重ねて、2枚のセルで試料を挟持した測定用セルを得た。
レーザー回折型粒径測定機((株)堀場製作所製、商品名:LA-920)を用いて、測定用セルの試料中の粒子(ウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子)の面積基準での算術平均粒子径を測定した。
ここで、「面積基準での算術平均粒子径」とは、面積基準での粒子径分布を算術平均した値を意味する。
面積基準での粒子径分布は、測定対象である粒子全体における粒子径の頻度分布を、当該粒子径から算出される面積(詳細には、当該粒子径を有する粒子の断面積)を基準として示したものである。
また、面積基準での粒子径分布を算術平均した値は、下記式(1)により計算することができる。
【0106】
【数1】

上記式(1)中、Jは、粒子径の分割番号を意味する。q(J)は、頻度分布値(単位:%)を意味する。X(J)は、J番目の粒子径範囲の代表径(単位:μm)である。
【0107】
<比表面積の評価:要件(II)>
上記の<粒子径の評価:要件(I)>の欄において測定した、グリース組成物中のウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子の粒子径分布を用い、比表面積を算出した。具体的には、当該粒子径分布を用い、単位体積(1cm)当たりの粒子の表面積(単位:cm)の総計を算出し、これを比表面積(単位:cm/cm)とした。
【0108】
<トルク伝達効率の評価>
図4は、本実施例において、トルク伝達効率を測定する際に使用した装置の概略図である。
図4に示す測定装置100は、入力側モーター部111、入力側トルク測定器112、入力側減速機113(ナブテスコ株式会社製、製品名「RV-42N」)、出力側トルク測定器122、出力側減速機123(ナブテスコ株式会社製、製品名「RV-125V」)、及び出力側モーター部121をこの順で連結したものである。
図4に示す測定装置1の入力側減速機113が有するグリース充填ケース(ケース内温度:30℃)に、285mLの混合グリースを充填し、負荷トルク412Nm、回転数15rpmの条件にて測定装置100を作動させ、入力側および出力側の回転数及びトルクを測定し、下記式(2)からトルク伝達効率を算出した。
・(トルク伝達効率(%))=(出力側トルク(Nm))/[(入力側トルク(Nm))×(減速比)]×100・・・(2)
減速比は141である。
トルク伝達効率は、入力した動力が出力されるまでに損失する量を示す指標であり、トルク伝達効率が低いほど動力損失が大きく、逆にトルク伝達効率が高いほど動力損失が小さいことを意味する。
【0109】
<耐摩耗性の評価>
ASTM D 4170に準拠して、調製したグリース組成物を用いて、下記条件にて揺動運転を行い、摩耗量(フレッティング摩耗による質量減少量)を測定した。
・軸受:Thrust bearing 51203
・荷重:2940N
・揺動角:±0.105rad
・揺動サイクル:25Hz
・時間:22h
・温度:室温(25℃)
・グリース組成物の封入量:軸受1組あたり1.0g
摩耗量が小さいほど、耐摩耗性に優れているといえる。
【0110】
<耐荷重性の評価>
ASTM D2596に準拠して、四球試験機により、回転数1,800rpm、油温(18.3~35.0℃)の条件にて、融着荷重(WL)を算出した、当該値が大きいほど、耐荷重性に優れているといえる。
【0111】
<グリース漏れ防止性能の評価>
トルク伝達効率の評価において使用した、図5に示す測定装置100を用いて、入力側減速機113が有するグリース充填ケース(ケース内温度:60℃)に、285mL(270.75g)のグリース組成物を充填し、負荷トルク1030Nm、回転数15rpmの条件にて測定装置100を作動させ、作動中に入力側減速機113から漏れたグリース組成物を、入力側減速機113の下方に設置した受け皿130にて回収した。
そして、測定装置100を280時間作動後に、受け皿130に溜まった「漏れたグリース量」を測定し、下記式から、グリース漏れ率を算出して、グリース漏れ防止性能を評価した。
・[グリース漏れ率(%)]=[漏れたグリース量(g)]/[充填したグリース量(=270.75g)]×100
グリース漏れ率が小さいほど、グリース漏れ防止性能に優れているといえる。
【0112】
評価結果を表1及び表2に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
表1及び表2に示す結果から、以下のことがわかる。
まず、比較例1と比較例2~6の比較から、混和ちょう度を高めて軟らかいグリース組成物にすると、グリース漏れ防止性能を確保できなくなることがわかる。
また、比較例3及び5と比較例1,2,4,及び6との比較、比較例7と実施例1~8との比較により、極圧剤(C)を配合し、且つ、要件(I)を満たす実施例1~8のグリース組成物は、トルク伝達効率及びグリース漏れ防止性能の双方に優れ、極圧剤(C)の効きに優れる結果として、耐摩耗性及び耐荷重性も極めて良好であることがわかる。特に、実施例1~3と実施例4~8との比較から、混和ちょう度を高めた場合にも、グリース漏れ防止性能を優れたものとしながらも、トルク伝達効率により優れ、しかも、耐摩耗性及び耐荷重性も極めて良好であるグリース組成物とできることがわかる。
【符号の説明】
【0116】
1 グリース製造装置
2 容器本体
3 回転子
4 導入部
4A、4B 溶液導入管
5 滞留部
6 第一凹凸部
7 第二凹凸部
8 吐出部
9 容器本体側の第一凹凸部
10 容器本体側の第二凹凸部
11 吐出口
12 回転軸
13 回転子の第一凹凸部
13A 凹部
13B 凸部
14 回転子の第二凹凸部
15 スクレーパー
A1、A2 ギャップ
図1
図2
図3
図4