(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】モノチオカーボネート基及びエチレン性不飽和基を含む化合物のポリマー
(51)【国際特許分類】
C08G 75/02 20160101AFI20240408BHJP
C08G 59/66 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C08G75/02
C08G59/66
(21)【出願番号】P 2021510637
(86)(22)【出願日】2019-08-19
(86)【国際出願番号】 EP2019072074
(87)【国際公開番号】W WO2020043517
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-08-17
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ティール,アンドル
(72)【発明者】
【氏名】ジェゲルカ,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ,ピーター
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-062190(JP,A)
【文献】特開2012-232954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G,C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~3個の5員環式モノチオカーボネート基及び
1~3個の重合性エチレン性不飽和基を含む化合物A)、
第一級又は第二級アミノ基から選択される少なくとも1個のアミノ基を含む化合物B)、並びに任意選択で
化合物A)とは異なり、少なくとも1個の5員環式モノチオカーボネート基を含む化合物C)、
並びに任意選択で、
化合物A)とは異なり、-SH基と反応する少なくとも1個の官能基を含む化合物D)
を反応させることによって得られるポリマー。
【請求項2】
化合物A)が、1個の5員環式モノチオカーボネート基及び1個の重合性エチレン性不飽和基を含む、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
重合性エチレン性不飽和基が、ビニル基又はアクリル基若しくはメタクリル基(略称(メタ)アクリル基)である、請求項1又は2に記載のポリマー。
【請求項4】
化合物A)が式I
【化1】
[式中、R1~R4のうちの1個は、ビニル基又は(メタ)アクリル基を含む有機基を表し、R1~R4の残りの3個は、水素又は最大20個の炭素原子を有する有機基を表す]
の化合物である、請求項1から3のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項5】
化合物A)が、5-(メタクリロイルオキシ)メチル-1,3-オキサチオラン-2-オン又は5-(アクリロイルオキシ)メチル-1,3-オキサチオラン-2-オンである、請求項1から4のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項6】
化合物B)が1~5個のアミノ基を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項7】
-SHと反応する化合物D)の官能基が、重合性エチレン性不飽和基又はエポキシ基から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項8】
少なくとも40重量%の化合物A)及びB)から成る、請求項1から7のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項9】
化合物B)が、化合物A)及び任意選択でC)のモノチオカーボネート基の少なくとも10mol%を-SH基に変換させるための量で使用される、請求項1から8のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項10】
化合物A)、B)、並びに任意選択でC)及びD)が、-SH基1molに対して-SHと反応性の基0.8~1.2molのモル比を与える量で使用される、請求項9に記載のポリマー。
【請求項11】
請求項1において定義された化合物A)と、任意選択で請求項1において定義された化合物C)と、任意選択で請求項1において定義された化合物D)とを含む第1成分、及び
請求項1において定義された化合物B)を含む第2成分からなる、二成分硬化型システム。
【請求項12】
1~3個の5員環式モノチオカーボネート基及び
1~3個の重合性エチレン性不飽和基を含む化合物A)、並びに
第一級又は第二級アミノ基から選択される少なくとも1個のアミノ基を含む化合物B)、並びに任意選択で
化合物A)とは異なり、少なくとも1個の5員環式モノチオカーボネート基を含む化合物C)、
並びに任意選択で、
化合物A)とは異なり、-SH基と反応する少なくとも1個の官能基を含む化合物D)
を反応させる、
ポリマーを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、
少なくとも1個の5員環式モノチオカーボネート基及び少なくとも1個の重合性エチレン性不飽和基を含む化合物A)、
第一級又は第二級アミノ基から選択される少なくとも1個のアミノ基を含む化合物B)、並びに任意選択で
化合物A)とは異なり、少なくとも1個の5員環式モノチオカーボネート基を含む化合物C)、
並びに任意選択で
化合物A)とは異なり、-SH基と反応する少なくとも1個の官能基を含む化合物D)
を反応させることによって得られるポリマーである。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは重要な工業用ポリマーである。ポリウレタンは非常に良好な機械的特性を有し、したがって、多くの技術的用途において使用される。ポリウレタンは例えば、熱可塑性物質、発泡体、又はコーティング剤として又はそれらにおいて使用される。ポリウレタンは通常、イソシアネート基、特にジイソシアネートを有する化合物をジオールと反応させることによって調製される。イソシアネート基を有する化合物は通常、反応性が高い。そのような反応性により感湿性が増大し、これはいくつかの技術的用途において問題となる。イソシアネート基を有するいくつかの化合物は、有害であると考えられ、皮膚接触又は吸入時にアレルギーを引き起こすことがある。
【0003】
ポリウレタンを製造する代替的な方法を見出すことにより、イソシアネート基を有する化合物の使用を回避する必要がある。
【0004】
WO 2013/144299には、環式5員カーボネート環系(アルキリデン-1,3-ジオキソラン-2-オン)を有するラジカル重合性化合物が開示されている。ウレタン基は、これらの化合物のポリマーとアミノ化合物とを反応させることによって形成される。WO 2011/157671には、エポキシ樹脂において反応性希釈剤として使用するための同様の化合物が開示されている。しかしながら、そのような化合物の合成は冗長である。必要な合成の前駆体は市販されていない。
【0005】
EP-A 1506964及びUS 6,372,871から、環式ジチオカーボネートが公知である。チオウレタン基(-NH-(C=S)-O)は、環式ジチオカーボネートとアミンとを反応させることによって得られる。
【0006】
ポリチオウレタンは、ポリウレタンの適切な代替物ではない。
【0007】
EP-A 2468791の対象は、酸素及び硫黄を含む5員環式環系を有する化合物を含むエポキシ組成物である。EP-A 2468791で使用される化合物はジチオカーボネートである。EP-A 2468791において引用されるJ. Org. Chem. 1995、60、473~475には、ジチオカーボネートのみ開示されている。
【0008】
JP2007-178903には、5-(メタクリロイルオキシ)メチル-1,3-オキサチオラン-2-オンと他の(メタ)アクリル酸モノマーとのラジカル共重合によって得られるポリマーが開示されている。5-(メタクリロイルオキシ)メチル-1,3-オキサチオラン-2-オンは、少なくとも1個のモノチオカーボネート基及び少なくとも1個の不飽和基を有する化合物である。
【0009】
D.D. Reynolds、D. L.Fields及びD. L. Johnson、Journal of Organic Chemistry、1961、5111~5115ページには、5員環式チオカーボネート環系を有する化合物及びその反応が開示されている。中でも、アミノ化合物との反応が言及されている。
【0010】
出願番号17186542.1(INV 170282)及び17186545.4(INV 170283)の非公開欧州特許出願は、少なくとも1個のモノチオカーボネート基を有する化合物の合成のプロセスに関する。
【0011】
出願番号17186543.9(INV 170338)及び17186544.7(INV 170938)の非公開欧州特許出願は、少なくとも1個のモノチオカーボネート基を有する化合物を反応させることによって得られるポリマーに関する。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、ウレタン基を有するポリマーを製造する代替的な方法を提供し、イソシアネート基を有する化合物の使用を回避することであった。更に、本発明の目的は、ウレタン基を含むハイブリッドポリマーを提供することであった。ポリマーは、温和な温度、水又はアルコールのような縮合副生成物の欠如、及び溶媒の不存在又は少なくとも低減された量の溶媒を含む、容易で効率的な製造方法によって、得られるべきである。得られるポリマーは、満足な、又は更に改善された特性を有するべきであり、そのような特性は、例えば機械的特性、光学特性、UV保護及び腐食防止としての安定性である。化学反応を容易に受け、したがってポリマーの容易な改変又は架橋を可能にする官能基を有するポリマーも関心対象となっている。
【0013】
したがって、上に記載される方法及び当該方法によって得ることができるポリマーが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0014】
化合物A)について
化合物A)は、少なくとも1個の5員環式モノチオカーボネート基及び少なくとも1個の重合性エチレン性不飽和基を含む。
【0015】
5員環式モノチオカーボネート基は5員の環系であり、そのうち3員はモノチオカーボネート-O-C(=O)-S-に由来し、更なる2員は5員環を閉じる炭素原子である。
【0016】
化合物A)は、低分子化合物又はポリマー化合物であってもよく、例えば最大1000個までの、特に最大500個までの、好ましくは最大100個までの5員環式モノチオカーボネート基、及び最大1000個までの、特に最大500個までの、好ましくは最大100個までの重合性エチレン性不飽和基を含んでもよい。
【0017】
好ましい実施形態において、化合物A)は、1~3個の環式モノチオカーボネート基及び1~3個の重合性エチレン性不飽和基を含む。
【0018】
最も好ましい実施形態において、化合物A)は、1個の5員環式モノチオカーボネート基及び1個の重合性エチレン性不飽和基を含む。
【0019】
重合性エチレン性不飽和基の好ましい例は、ビニル基H2C=CH-、オレフィン基-HC=CH-であり、ここで、二重結合の2個の炭素原子はそれぞれ1個のみの水素が置換されており、更なる置換基は特に炭素原子、及びアクリル基又はメタクリル基(略称は(メタ)アクリル基)である。この特許出願において、「ビニル基」という用語は(メタ)アクリル基を含まない。
【0020】
特に好ましいエチレン性不飽和基は、ビニル基及び(メタ)アクリル基である。
【0021】
より好ましいエチレン性不飽和基は、アクリル基又はメタクリル基である。
【0022】
最も好ましいエチレン性不飽和基は、メタクリル基である。
【0023】
好ましい化合物A)は最大1000g/molまでの分子量を有する。最も好ましいのは、最大500g/molまでの分子量を有する化合物C)である。
【0024】
好ましい実施形態において、化合物A)は、環式モノチオカーボネート基及び重合性エチレン性不飽和基及び任意選択でエーテル基以外の官能基を含まない。
【0025】
より好ましい実施形態において、化合物A)は、環式モノチオカーボネート基及び重合性エチレン性不飽和基以外の官能基を含まない。
【0026】
好ましい化合物A)の例は、式I
【0027】
【化1】
[式中、R
1~R
4のうちの1個は、(メタ)アクリル基又はビニル基を含む有機基を表し、R
1~R
4の残りの3個は、水素又は最大20個の炭素原子を有する有機基を表す]
の化合物である。
【0028】
R1~R4は、好ましくは最大20個の炭素原子、より好ましくは最大10個の炭素原子を有する有機基を表す。
【0029】
ビニル基の場合、有機基は好ましくは炭素、水素以外、及びビニルエーテル基の場合、酸素以外のいかなる原子も含まない。(メタ)アクリル基の場合、有機基は好ましくは炭素、水素、及び(メタ)アクリル基の2つの酸素原子以外のいかなる原子も含まない。
【0030】
本発明のより好ましい実施形態において、R1~R4は(メタ)アクリル基を含む有機基を表す。
【0031】
好ましい化合物A)及びより好ましい化合物A)の例は、式:
【0032】
【化2】
の5-ブテニル-1,3-オキサチオラン-2-オン、
式:
【0033】
【化3】
の5-エテニル-1,3-オキサチオラン-2-オン、
式:
【0034】
【化4】
の5-(エテニルオキシ)メチル-1,3-オキサチオラン-2-オン、
式:
【0035】
【化5】
の5-(2-プロペン-1-イルオキシ)メチル-1,3-オキサチオラン-2-オン、
式:
【0036】
【化6】
の5-(メタクリロイルオキシ)メチル-1,3-オキサチオラン-2-オン、
及び式:
【0037】
【化7】
の5-(アクリロイルオキシ)メチル-1,3-オキサチオラン-2-オンである。
【0038】
最も好ましいのは、5-(メタクリロイルオキシ)メチル-1,3-オキサチオラン-2-オン及び5-(アクリロイルオキシ)メチル-1,3-オキサチオラン-2-オンである。
【0039】
化合物B)について
化合物B)は、第一級又は第二級アミノ基から選択される少なくとも1個のアミノ基を有する化合物である。この特許出願において、アミノ基という単語は、別段の指示がない場合、又は内容からそれ以外が明白でない場合、第一級又は第二級アミノ基を意味するものとする。
【0040】
化合物B)は、例えば最大500.000g/molまでの分子量を有してもよい。化合物B)が高分子化合物、例えばアミノ基を含むポリマーである場合、後半が当てはまり得る。
【0041】
好ましい化合物B)は最大1000g/molまでの分子量を有する。最も好ましいのは、60g/mol~500g/molの分子量を有する化合物B)である。
【0042】
好ましい実施形態において、化合物B)は、いかなるモノチオカーボネート基も含まず、化合物D)に関して列挙される、-SH基と反応するいかなる官能基も含まない。
【0043】
特に好ましい実施形態において、化合物B)は、第一級又は第二級アミノ基、カルボン酸エステル基、又はエーテル基以外の官能基を含まない。
【0044】
好ましい実施形態において、化合物B)は、1~10個のアミノ基、好ましくは1個又は5個のアミノ基を含み、最も好ましい実施形態において化合物B)は1~5個のアミノ基を含む。
【0045】
好ましい実施形態において、アミノ基のうちの少なくとも1個は第一級アミノ基である。
【0046】
特に好ましい実施形態において、アミノ基のうちの少なくとも2個は第一級アミノ基である。
【0047】
最も好ましい実施形態において、化合物B)のすべてのアミノ基は第一級アミノ基である。
【0048】
1個のアミノ基を有する化合物B)は、例えば、第一級アミノ基を有するモノアルキルアミン、例えばC1~C20アルキルアミン若しくはシクロアルキルアミン、又はエーテルアミン、例えば2-メトキシエチルアミン若しくは3-メトキシプロピルアミン、又はジエーテルアミン若しくはポリエーテルアミン、例えばジグリコールアミン若しくはポリグリコールアミン、ポリオキシプロピレンアミンである。
【0049】
2個以上のアミノ基を有する化合物B)は、例えば
- アルキレンジアミン又はアルキレンポリアミン、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ネオペンタンジアミン、オクタメチレンジアミン、1,3ジアミノペンタン、2-メチルペンタン-1,5-ジアミン
- エーテル基を含むアルキレンジアミン又はアルキレンポリアミン(ポリエーテルアミン)、例えばそのようなポリグリコールジアミン、オキシプロピレンジアミン、又はポリオキシプロピレンジアミン
- 脂環式ジアミン、例えばシクロヘキシルジアミン、例えば1,2ジアミノシクロヘキサン、1-メチル-2,4-ジアミノシクロヘキサン、1-メチル-2,6-ジアミノシクロヘキサン又はこれらの混合物、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノ-シクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、2,5-ビスアミノメチルテトラヒドロフラン、3,3'-ジメチル-4,4'ジアミノ-ジシクロヘキシルメタン、及び
- 芳香族ジアミン、例えば1,2-フェニレンジアミン又は1,4フェニレンジアミン、トルエンジアミン、4,4'ジアミノ-ジフェニルメタン、4,4'ジアミノジフェニルスルホン、2,5-ビスアミノメチルフランである。
【0050】
化合物Bはまた、アミノ基が保護基で保護された形態で使用してもよい。必要になった又は所望された際にはすぐに、保護基は除去され、それにより遊離アミノ基を有する上記の化合物B)が得られる。通常は、保護基の除去は反応条件下で行われる。一般的な、アミノ基に関して保護されたアミノ基は、例えばケタミン、アルジミン、イミダゾリジン、オキサゾリジン、ルイス酸錯体化アミン、カルバメート、ベンジルオキシカルボニルアミン、アシルオキシム、ホルムアニリジンである。脱保護反応は、例えば温度、光、pH、又は水/湿度の存在によって引き起こすことができる。
【0051】
更なる適切な化合物B)は、例えば出願番号17186543.9(INV 170338)及び17186544.7(INV 170938)の非公開欧州特許出願に列挙される。
【0052】
化合物C)について
化合物C)は、化合物A)とは異なるが、少なくとも1個の5員環式モノチオカーボネート基も含む化合物である。
【0053】
化合物C)は、例えば最大1000個までの、特に最大500個までの、好ましくは最大100個までの5員環式モノチオカーボネート基を含んでもよい。
【0054】
好ましい実施形態において、化合物C)は、1~10個の、特に1~5個の5員環式モノチオカーボネート基を含む。最も好ましい実施形態において、化合物C)は、1個又は3個の、特に1個又は2個の5員環式モノチオカーボネート基を含む。
【0055】
化合物C)は、例えば最大500.000g/molまでの分子量を有してもよい。化合物C)が高分子化合物である場合、後半が当てはまり得る。
【0056】
好ましい実施形態において、化合物C)は、1~3個の環式モノチオカーボネート基を含む。
【0057】
化合物C)は、例えば最大500.000g/molまでの分子量を有してもよい。化合物A)が高分子化合物である場合、後半が当てはまり得る。
【0058】
好ましい化合物C)は最大1000g/molまでの分子量を有する。最も好ましいのは、最大500g/molまでの分子量を有する化合物C)である。
【0059】
好ましい実施形態において、化合物C)は、いかなる第一級又は第二級アミノ基も含まず、化合物D)に関して列挙される、-SH基と反応するいかなる官能基も含まない。
【0060】
特に好ましい実施形態において、化合物C)は、モノチオカーボネート基、カルボン酸エステル基、又はエーテル基以外の官能基を含まない。
【0061】
1個の5員環式モノチオカーボネート基を有する好ましい化合物C)は、式II
【0062】
【化8】
の化合物であり、
R
1a~R
4aは、互いに独立して水素又は最大50個までの炭素原子を有する有機基を表し、それによってまた代替的に、R
2a、R
4a、及びチオカーボネート基の2個の炭素原子は、5~10員の炭素環を一緒に形成してもよい。
【0063】
R1a~R4aのうちのいずれかが有機基を表す場合、そのような有機基は、好ましくは最大30個までの、より好ましくは最大20個までの炭素原子を有する有機基である。更なる好ましい実施形態において、R2a及びR4aは、チオカーボネート基の2個の炭素原子と一緒に5~10員の炭素環を形成しない。
【0064】
R1a~R4aのうちのいずれかが有機基を表す場合、そのような有機基は、上に列挙されるヘテロ原子及び官能基を含んでもよい。具体的には、そのような有機基は、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、及びクロライド(chloride)を含んでもよい。好ましい実施形態において、有機基は酸素又はクロライドを含んでもよい。R1a~R4aは、例えばエーテル基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、ケト基、又はカルボキシ基の形態で酸素を含んでもよい。好ましい実施形態において、有機基は、酸素、窒素、又はクロライド、特に酸素を含んでもよい最大30個までの炭素原子を有する脂肪族有機基である。
【0065】
より好ましい実施形態において、有機基は、アルキル基から、-CH2-O-R5a基、又は-CH2-O-C(=O)-R6a基、又は-CH2-NR7aR8a基から選択され、R5a~R8aは最大30個までの炭素原子、好ましくは最大20個までの炭素原子を有する有機基である。具体的には、R5a~R8aは脂肪族基又は芳香族基を表し、脂肪族基又は芳香族基は、酸素を、例えばエーテル基の形態で含んでもよい。好ましい実施形態において、R5a~R8aは、脂肪族炭化水素基、例えば1~10個の炭素原子を有するアルキル基、アルコキシ基、又はポリアルコキシ基を表す。最も好ましい実施形態において、R5a~R8aは、脂肪族炭化水素基、特に1~10個の炭素原子を有するアルキル基を表す。
【0066】
最も好ましい実施形態において、有機基は、-CH2-O-R5a基又は-CH2-O-C(=O)-R6a基である。
【0067】
式II中のR1a~R4aのうちの2~4個すべてが水素を表し、残りのR1a~R4a基が有機基を表すことが好ましい。
【0068】
式II中のR1a~R4aのうちの2個及び/又は3個が水素を表し、残りのR1a~R4a基が有機基を表すことがより好ましい。
【0069】
式II中のR1a~R4aのうちの3個が水素を表し、R1~R4のうちの残りの基が有機基を表すことが最も好ましい。好ましい実施形態において、R1a又はR2aは有機基を表す残りの基である。
【0070】
1個の5員モノチオカーボネート基を有する好ましい化合物C)としては、
【0071】
【0072】
2個以上の5員環式モノチオカーボネート基を有する好ましい化合物C)は、式III
【0073】
【化10】
の化合物であり、
R
1b~R
4bは、互いに独立して水素又は最大50個までの炭素原子を有する有機基を表し、それによってまた代替的に、R
2b、R
4b、及びモノチオカーボネート基の2個の炭素原子は、5~10員の炭素環を一緒に形成してもよく、R
1b~R
4b基のうちの1個はZへの連結基であり、nは、少なくとも2の整数を表し、Zは、n価の有機基を表す。
【0074】
R1b~R4bのうちのいずれかが有機基を表す場合、そのような有機基は、好ましくは最大30個までの炭素原子を有する有機基である。更なる好ましい実施形態において、R2b及びR4bは、エポキシ基の2個の炭素原子と一緒に5~10員の炭素環を形成しない。
【0075】
R1b~R4bのうちのいずれかが有機基を表す場合、そのような有機基は炭素及び水素以外の元素を含んでもよい。具体的には、そのような有機基は、酸素、窒素、硫黄、及びクロライドを含んでもよい。好ましい実施形態において、有機基は酸素又はクロライドを含んでもよい。R1b~R4bは、例えばエーテル基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、ケト基、又はカルボキシ基の形態で酸素を含んでもよい。
【0076】
R1b~R4b基のうちの1個は、Zへの連結基である。
【0077】
連結基は、単に結合であるか、又はCH2-O-基又はCH2-O-C(=O)-基又はCH2-NR5b-基であり、R5bは、脂肪族基、特に最大20個の炭素原子を有するアルキル基であることが好ましい。
【0078】
連結基は、単に結合であるか、又はCH2-O-基又はCH2-O-C(=O)-基であることがより好ましい。
【0079】
最も好ましい実施形態において、連結基はCH2-O-基である。
【0080】
式I中R1b~R4b基のうちの2個又は3個は水素であることが好ましい。
【0081】
最も好ましい実施形態において、R1b~R4b基のうちの3個は水素を表し、R1b~R4bのうちの残りの基はZへの連結基である。
【0082】
最も好ましい実施形態においてR1b又はR2b基はZへの連結基である。
【0083】
nは少なくとも2の整数を表す。例えば、nは、2~1000、特に2~100、個別には2~10の整数であってもよい。
【0084】
好ましい実施形態において、nは2~5の整数であり、特にnは2又は3である。
【0085】
最も好ましい実施形態において、nは2である。
【0086】
Zはn価の有機基を表す。nが、例えば10~1000のように大きな数字である場合、Zは、例えば重合又は共重合、例えばエチレン性不飽和モノマーのラジカル重合、重縮合、又は重付加によって得られるポリマー基、特にポリマー骨格であってもよい。例えば、ポリエステル又はポリアミドは、水又はアルコールを除去しながらの重縮合によって得られ、ポリウレタン又はポリ尿素は重付加により得られる。
【0087】
式IIIのそのような化合物は、例えばモノチオカーボネート基を含むエチレン性不飽和モノマーの、又はその後モノチオカーボネート基に変換されるエポキシ基を含むモノマーのラジカル重合又は共重合によって得られるポリマーである。
【0088】
好ましい実施形態において、Zは、最大50個までの炭素原子、特に最大30個までの炭素原子を有し、且つ炭素及び水素以外の元素を含んでもよいn価の有機基であり、nは2~5、特に2又は3、最も好ましくは2の整数である。
【0089】
特に好ましい実施形態において、Zは、最大50個までの炭素原子、特に最大30個までの炭素原子を有し、且つ炭素、水素、及び任意選択で酸素のみを含み、且つ更なる元素を含まないn価の有機基であり、nは2~5、特に2又は3、最も好ましくは2の整数である。
【0090】
好ましい実施形態において、Zは式G1
(V-O-)mV
[式中、VはC2~C20アルキレン基を表し、mは少なくとも1の整数である]
のポリアルコキシレン基である。末端アルキレン基Vは、R1b~R4b基のうちの1個である連結基に結合されている(上述を参照されたい)。
【0091】
C2~C20アルキレン基はC2~C4アルキレン基、特にエチレン又はプロピレンであることが好ましい。mは、例えば1~100、特に1~50の整数であってもよい。
【0092】
更に好ましい実施形態において、Zは式G2
【0093】
【化11】
[式中、Wは、最大10個の炭素原子を有する二価の有機基であり、nは2であり、R
10b~R
17bは互いに独立して、H又はC1~C4アルキル基を表し、Wに対してパラ位にある2個の水素原子は、R
1b~R
4b基(上述を参照されたい)のうちの1個である連結基への結合によって置き換えられる]
の基である。
【0094】
R10b~R17bのうちの少なくとも6個は水素であることが好ましい。最も好ましい実施形態において、R10b~R17bのすべては水素である。
【0095】
W基は、例えば
【0096】
【0097】
Wは、炭素及び水素のみから成る有機基であることが好ましい。
【0098】
最も好ましいWは、ビスフェノールAの構造に対応する
【0099】
【0100】
更なる好ましい実施形態において、ZはG3基であり、ここでG3は、アルキレン基、特にC2~C8アルキレン基を表し、そのようなアルキレン基の好ましい例は、エチレン(CH2-CH2)、n-プロピレン(CH2-CH2-CH2)、特にn-ブチレン(CH2-CH2-CH2-CH2)である。
【0101】
少なくとも2個の5員環式モノチオカーボネート基を有する好ましい化合物の例は、特に、以下のエポキシ化合物のすべてのエポキシ基を5員環式モノチオカーボネート基に変換させることによって得られる化合物である。
【0102】
非グリシジルエポキシド:
1,2:5,6-ジエポキシヘキサヒドロ-4,7-メタノインダン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、1,4-シクロヘキサンジメタノールビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1-メチル-4-(2-メチルオキシラニル)-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、4-ビニルシクロヘキセンジオキシド、1,2,5,6-ジエポキシシクロオクタン、1,2,7,8-ジエポキシオクタン、ジシクロペンタジエンジオキシド、エポキシ化植物油又はその誘導体、例えばダイズ油又はその誘導体。
【0103】
グリシジルエーテル:
ビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)、水素化BADGE、その他のジオール、トリオール、テトラオール及びポリオールのグリシジルエーテル、例えばブタンジオール-ジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパン-トリグリシジルエーテル、ペンタエリトリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、イソソルビドジグリシジルエーテル、メチルフェニルプロパンジオールジグリシジルエーテル。これは、オリゴマー状/ポリマー状のグリシジルエーテル、例えばポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、ビスフェノールAと過剰なエピクロロヒドリンとを反応させることによって得られるオリゴマー又はポリマーも含む。
【0104】
グリシジルエステル:
テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル、オルトフタル酸ジグリシジル
【0105】
グリシジルアミン:
N,N-ジグリシジル-4-グリシジルオキシアニリン、テトラグリシジルメチレンジアニリン
【0106】
グリシジルイミド:
トリグリシジルイソシアヌレート
【0107】
少なくとも1個の5員モノチオカーボネート基を有する化合物(化合物A及びC)の合成について
1個のモノチオカーボネート基を有する化合物を合成するいくつかの方法は、技術水準において記載されている。
【0108】
US 3,072,676及び3,201,416によれば、エチレンモノチオカーボネートは2段階プロセスによって調製され得る。第1の段階において、メルカプトエタノールとクロロカルボキシレートとを反応させてヒドロキシエチルチオカーボネートを得て、第2の段階において、これを金属塩触媒の存在下で加熱してエチレンモノチオカーボネートを得る。
【0109】
US 3,517,029によれば、アルキレンモノチオカーボネートは、メルカプトエタノールと炭酸ジエステルとをトリウムの触媒活性塩の存在下で反応させることにより得られる。
【0110】
US 3,349,100に開示されるプロセスによれば、アルキレンモノチオカーボネートは、エポキシドと硫化カルボニルとを反応させることによって得られる。硫化カルボニルの入手可能性(availability)は限定されている。得られるアルキレンモノチオカーボネートの収率及び選択率は低い。M。
【0111】
ホスゲンを出発材料として使用する合成は、US 2,828,318から公知である。ホスゲンをヒドロキシメルカプタンと反応させる。モノチオカーボネートの収率はなおも低く、重合による副生成物が観察される。
【0112】
化合物A)及びC)を調製する好ましいプロセスは、
a)少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物(略称はエポキシ化合物)を出発材料として使用し、
b)化合物をホスゲン又はクロロギ酸アルキルと反応させ、それにより付加物を得、
c)付加物を、アニオン性硫黄を含む化合物と反応させ、少なくとも1個の5員環式モノチオカーボネート基を有する化合物を得る、
プロセスである。
【0113】
このプロセスは、出願番号17186545.4(INV 170283)の非公開欧州特許出願に詳細に記載されている。
【0114】
化合物D)について
化合物D)は、-SH基と反応する少なくとも1個の官能基を含む。
【0115】
化合物D)は、5員環式モノチオカーボネート基を含まない。
【0116】
化合物D)は、第一級又は第二級アミノ基から選択されるアミノ基を含まないことが好ましい。
【0117】
特に好ましい実施形態において、化合物C)は、-SH基と反応する官能基から、又はカルボン酸エステル基又はエーテル基から選択される官能基以外の官能基を含まない。
【0118】
化合物D)は、例えば最大500.000g/molまでの分子量を有してもよい。化合物D)が高分子化合物、例えば-SH基と反応する官能基を含むポリマーである場合、後半が当てはまり得る。
【0119】
好ましい化合物D)は最大1000g/molまでの分子量を有する。最も好ましいのは、60g/mol~500g/molの分子量を有する化合物D)である。
【0120】
化合物D)は、例えば、-SH基と反応する最大1000個までの官能基、-SH基と反応する特に最大500個までの、好ましくは最大100個までの官能基を有してもよい。
【0121】
好ましい実施形態において、化合物D)は、-SH基と反応する1~10個の官能基を含む。
【0122】
最も好ましい実施形態において、化合物D)は、-SH基と反応する1~3個の、特に1又は2個の官能基を含む。
【0123】
好ましい実施形態において、化合物D)の官能基と-SH基との反応は、硫黄-炭素結合の形成をもたらす。
【0124】
D)の官能基と-SH基との反応は、付加反応、縮合反応、又は求核置換反応であってもよい。
【0125】
官能基が-SH基と付加反応、縮合反応、又は求核置換反応を起こす化合物D)の例は、出願番号17186543.9(INV 170338)及び17186544.7(INV 170938)の非公開欧州特許出願に列挙される。
【0126】
好ましいのは、-SH基と付加反応を起こす少なくとも1個の官能基、例えば重合性エチレン性不飽和基、エポキシ基、又はイソシアネート基を有する化合物D)である。
【0127】
好ましくは、化合物D)の官能基は重合性エチレン性不飽和基又はエポキシ基から選択される。
【0128】
官能基としてエチレン性不飽和基を有する化合物D)について
1個のエチレン性不飽和基を有する化合物D)は、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、ビニルエステル、例えば酢酸ビニル、ビニルエーテル、ビニルラクタム、例えばN-ビニルピロリドン、スチレンのようなビニル芳香族化合物、塩化ビニル若しくはフッ化ビニルのようなビニルハロゲン化物、又は1個の炭素-炭素二重結合を有するオレフィン、例えばエチレン、プロピレンである。
【0129】
2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物は、例えば、少なくとも2個の(メタ)アクリル基、少なくとも2個のビニル基を有する化合物、又は少なくとも2個の炭素-炭素二重結合を有するオレフィン、不飽和ポリエステルである。
【0130】
2個の炭素-炭素二重結合を有するオレフィンは、例えばブタジエン、シクロオクタジエン、シクロドデカトリエン、イソプレン、リモネン、ジビニルシクロヘキサン、又はポリブタジエン、又はポリイソプレンである。
【0131】
少なくとも2個のアクリル基又はメタクリル基を有するオリゴマーは、特に多官能性アルコールの(メタ)アクリル酸エステル、又はアルコキシル化多官能性アルコールの(メタ)アクリル酸エステルである。
【0132】
ポリエステロールの(メタ)アクリル酸エステルもオリゴマーとして挙げることができる。
【0133】
エポキシド(メタ)アクリレート又はウレタン(メタ)アクリレートも適切なオリゴマーであり得る。
【0134】
少なくとも2個のビニル基を有するオリゴマーは、例えばジビニルエーテル、例えばジエチレングリコール-ジビニルエーテル、又はトリエチレングリコール-ジビニルエーテルである。
【0135】
2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物はまた、不飽和ポリエステル、特にマレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、又はイタコン酸のポリエステルであってもよい。
【0136】
好ましい実施形態において、-SH反応性基としてエチレン性不飽和基を有する化合物D)は、(メタ)アクリル化合物、特に多官能性アルコールの(メタ)アクリレート、又はビニルエーテル基を有する化合物、又は不飽和ポリエステルである。特に好ましい実施形態において、-SH反応性基としてエチレン性不飽和基を有する化合物D)は、(メタ)アクリル化合物である。
【0137】
官能基としてエポキシ基を有する化合物D)について
少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物D)は、例えば、少なくとも1個のアルコール基を有する化合物とエピクロロヒドリンとを反応させることによって得られる化合物である。
【0138】
1個のエポキシ基を有する化合物D)は、例えばエピクロロヒドリン又はその誘導体(エピクロロヒドリンのクロライドは、ヒドロキシ基(グリシドール)、エーテル基(グリシジルエーテル)、エステル基(グリシジルエステル)、又はアミノ基(グリシジルアミン)によって置き換えられている)である。
【0139】
挙げることができる少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物D)の例は、ビスフェノールA又はビスフェノールF又はビスフェノールSのジグリシジルエーテル、及び水素化ビスフェノールA若しくはビスフェノールFのジグリシジルエーテル、又は脂肪族ジオールのジグリシジルエーテル、例えばポリアルコキシレンジオールのジグリシジルエーテルである。オリゴアルコールに基づくオリゴグリシジルエーテルも挙げることができる。例としては、少なくとも2個のアルコール基を有する化合物をエピクロロヒドリンと比較して過剰に使用することによって得ることができるエポキシ樹脂もある。そのようなエポキシ樹脂において、少なくとも2個のアルコール基を有する化合物の重合度は、好ましくは2~25、特に2~10である。
【0140】
更なる例は、少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化脂肪酸、脂肪酸エステル、又は脂肪酸アルコールである。
【0141】
ポリマーの合成について
A)とB)との反応の原理を、1個の環式モノチオカーボネート基及び1個の重合性エチレン性不飽和基を有する化合物A)、並びに1個のアミノ基を有する化合物B)に関して以下に記載する。
【0142】
A)の環式モノチオカーボネート基は、化合物B)のアミノ基との反応によって開環される。この付加反応から得られる付加物は、1個の-SH基及び1個の重合性エチレン性不飽和基を含む化合物である。
【0143】
-SH基は、重合性エチレン性不飽和基と付加反応し、頭尾重付加(head to tail polyaddition)をもたらす。
【0144】
開環及びそれに続く重付加は、特定の化合物A)及びB)に関して以下に例示的に示される。
【0145】
【0146】
5-(メタクリロイルオキシ)メチル-1,3-オキサチオラン-2-オンのモノチオカーボネート環は、室温でのブチルアミンとの反応によって開環され、付加物を生じる。付加物は、上に記載されるように直接に重合するその場内中間体(in-situ intermediate)である。
【0147】
上述の例において、ウレタン基を有するポリマーが形成される。
【0148】
反応の原理を、2個の環式モノチオカーボネート基及び1個の重合性エチレン性不飽和基を有する化合物A)に関して更に記載する。この場合において、化合物B)の量は、好ましくは、すべての環式モノチオカーボネート基の環が開環するように等モル量の環式モノチオカーボネート基及びアミノ基を与えるように選ばれる。結果は、2個の-SH基及び1個のみの重合性エチレン性不飽和基を有する化合物である。
【0149】
それに続く重付加において、上に記載されるように、1個の-SH基のみが頭尾重付加において消費される。1個の-SH基は残り、化合物D)と反応し得、最終的にA)、B)、及びD)のポリマーを生じ得る。
【0150】
モル過剰の-SH基は、化合物C)を反応組成物に加えることによって、換言すると化合物C)をコモノマーとして使用することによっても達成し得る。この場合において、化合物B)の量はここでも、好ましくは、等モル量のモノチオカーボネート基及びアミノ基を生じるように選ばれる。残りの-SH基を反応させるために化合物D)を加えることが必要であり、最終的にA)、B)、C)、及びD)のポリマーを生じる。
【0151】
化合物D)を加えなければ、-SH基は酸化することがあり、ジスルフィド架橋を形成することになる。そのような酸化は、酸素の存在下室温で起こり得る。ジスルフィド架橋は、得られるポリマーの機械的特性を向上し得る。
【0152】
得られるポリマーは、構造成分として、エチレン基を介してウレタン基の酸素に結合された硫黄原子を有するウレタン基を含む。この構造成分は以下の式によって、表すことができる。
【0153】
【0154】
可変要素A~Eは、置換基による任意の可能な置換を表す。
【0155】
A)及びB)の重合は単純な1段階反応である。
【0156】
A)、B)、C)、及びD)の重合は1段階又は2段階で実行してもよい。
【0157】
1段階反応とは、すべての化合物A)、B)、C)、及びD)を同時に反応させることを意味する。この場合において、B)のアミノ基は、化合物C)の環式モノチオカーボネート基と反応してもよく(開環)、又はアミノ基とD)の官能基との反応性が開環反応と競合するのに十分に高い場合、化合物D)の官能基と反応してもよい。
【0158】
2段階反応とは、A)、C)及びB)を最初に反応させ、次いで形成された付加物をD)と反応させることを意味する。
【0159】
したがって、2段階反応は明確なポリマーをもたらすのに対して、1段階反応は、アミノ基とD)の官能基との反応性が十分に高い場合、それほど明確でないハイブリッド系をもたらし得る。
【0160】
例えば、エポキシ基はアミノ基との高い反応性を有する。したがって、エポキシ基を有する化合物D)の使用はハイブリッド系をもたらすことになる。メタクリル基は、アミノ基との低い反応性を有すると考えられている。したがって、メタクリル基を有する化合物D)を使用すると、1段階反応が実施されたか2段階反応が実施されたかに関わらず、本質的に同じか又は類似のポリマーをもたらすことになる。
【0161】
ポリマーは、少なくとも40重量%、特に少なくとも60重量%の化合物A)及びB)から成ることが好ましい。
【0162】
ポリマーは、少なくとも80重量%、特に少なくとも90重量%の化合物A)及びB)から成ることがより好ましい。
【0163】
化合物C)及び/又はD)は、少量でしか使用されないか又は全く使用されないことが最も好ましい。したがって、ポリマーは、最も好ましくは少なくとも95重量%、個別には少なくとも98重量%、特に100重量%の化合物A)及びB)から成る。
【0164】
ポリマーの合成において、化合物B)は、化合物A)及び任意選択でC)の環式モノチオカーボネート基の少なくとも10mol%、より好ましくは少なくとも50mol%、最も好ましくは少なくとも90mol%を-SH基に変換させるための量で使用されることが好ましい。特に好ましい実施形態において、化合物B)は、化合物A)及び任意選択でC)の環式モノチオカーボネート基の100mol%を-SH基に変換させるための量で使用される。
【0165】
一実施形態において、化合物A)の重合性エチレン性不飽和基の含有量を有するポリマーが望ましくあり得る。そのような残りの化合物A)の重合性エチレン性不飽和基は、例えば後の架橋反応のために使用し得る。この場合において、化合物B)は、好ましくは、化合物A)の環式モノチオカーボネート基の最大99mol%で、又は最大70若しくは50mol%で-SH基に変換させるための量で使用され、得られる-SH基の量は、化合物A)のすべての重合性エチレン性不飽和基と反応するのに十分でなく、したがって化合物A)の重合性エチレン性不飽和基の所望の量を未反応のままにし、後の架橋に利用可能にする。
【0166】
化合物A)、B)、並びに任意選択でC)及びD)は、-SH基1molに対して-SHと反応性の基0.8~1.2molのモル比を与える量で使用されることが好ましい。化合物A)、B)、並びに任意選択でC)及びD)は、-SH基1molに対して-SHと反応性の基0.95~1.05molのモル比を与える量で使用されることがより好ましい。化合物A)、B)、並びに任意選択でC)及びD)は、-SH基1molに対して-SHと反応性の基1molのモル比を与える量で使用されることが最も好ましく、これは化合物A)及びB)のみが使用され、B)の量がA)のすべての環式モノチオカーボネート基を開環するのに十分である場合、自動的に当てはまる。
【0167】
好ましくは、A)、B)、並びに任意選択でC)及びD)の反応は、-20~250℃の、好ましくは20~100℃の間の温度で実施し得る。これは1段階反応及び2段階反応の両方の段階に当てはまる。代替的には、高エネルギー放射線、例えば可視光又はUV光によって、反応のための任意の活性化エネルギーを与えてもよい。
【0168】
例えば化合物D)が付加反応によって-SH基に付加する場合、触媒を使用して、化合物A)、B)、並びに任意選択でC)及びD)の重合を補助してもよい。付加反応はイオン機構又はラジカル機構に続いて起こってもよい。イオン機構では通常、触媒として塩基性化合物の存在が必要である。塩基性触媒は化合物B)それ自体であってもよい。重合性エチレン性不飽和基を有する化合物D)の場合、化合物B)が存在すれば十分であることが多い。官能基がエポキシ基の場合、好ましくは、塩基性触媒、例えば第三級アミン、例えばVersamin(登録商標)を使用してもよい。そのような触媒は通常、エポキシ基1mol当たり触媒0.1~3mol、好ましくは0.1~1molの量で使用される。他の触媒はアミジン若しくはグアニジンベース系又はホスフィンであってもよい。付加反応のラジカル機構は、ラジカルを形成する開始剤によって補助される。そのような開始剤は、ラジカル重合から周知の熱開始剤、レドックス開始剤、電気化学的開始剤、又は光活性開始剤のいずれかである。
【0169】
1段階又は2段階反応は溶媒を用いて実施してもよい。化合物A)、B)、及びC)のうち少なくとも1種が固体であり、その他の液体化合物A)、B)、C)、又はD)が固体化合物に対して溶媒としてまだ作用していない場合、溶媒の使用は有用となり得る。適切な溶媒は、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、ジオキサン、メタノール、エタノール、水、テトラヒドロフラン、及びジメチルホルムアミドである。化合物A)、B)並びに任意選択でC)及びD)のうちの少なくとも1個が通常液体であり、すでに溶媒として機能し得るため、追加の溶媒が通常必要とされないことが、このプロセスの利点である。
【0170】
化合物A)及び化合物B)、並びに任意の更なる化合物C)及びD)の両方が、特に21℃で固体である場合、化合物A)及びB)の溶媒を含まない粉体混合物を調製し、保存してもよい。反応は、化合物の融点より上で粉体混合物を加熱することによって起こる。
【0171】
反応前は、化合物A)、B)並びに任意選択でC)及びD)は、2Kシステムとして公知の二成分硬化型システム(two-component curable system)の形態で保ち、保存してもよい。そのような2Kシステムは、個別に保存され、その適用の直前に混合される二成分を含む。好ましい実施形態において、2Kシステムの二成分は21℃で液体である。
【0172】
2Kシステムの第1成分(first component)は、モノチオカーボネート基を有するすべての化合物を含み、第2成分(second component)は第一級又は第二級アミノ基を有するすべての化合物を含む。
【0173】
したがって、第1成分は化合物A)及び任意選択でC)を含み、第2成分は化合物B)を含む。
【0174】
化合物D)はアミノ基との高い反応性、又は少なくともいくらかの反応性を有し得るため、化合物D)も第1成分の一部を形成することが好ましい。
【0175】
したがって、本発明の好ましい実施形態において、2Kシステムは、
- 化合物A)並びに任意選択でC)及びD)を含む第1成分、並びに
- 化合物B)を含む第2成分
を含む。
【0176】
反応前は、化合物A)、B)並びに任意選択でC)及びD)は、1Kシステムとして公知の、すべての化合物A)、B)、C)及びD)を含む一成分硬化型システムの形態でも保ち、保存してもよい。しかしながら、そのような1Kシステムでは、化合物B)のアミノ基がブロッキング剤によってブロッキングされる必要がある。ブロッキングされたアミノ基は、より高い温度(脱ブロッキング温度)で遊離アミノ基及びブロッキング剤に分解する。したがって、そのような1Kシステムは脱ブロッキング温度より高い温度で適用すべきである。
【0177】
更に、上に記載した2Kシステムは更なる添加剤、例えば触媒、又は阻害剤、又は重合を補助する添加剤、又は得られるポリマーの意図される使用のために必要とされるか若しくは所望される添加剤を含んでもよい。添加剤は、2Kシステムの第1成分又は第2成分又は両成分のいずれかの一部を形成してもよい。
【0178】
そのような添加剤は、触媒(上述を参照されたい)又は安定剤であってもよい。
【0179】
具体的には、副反応であるS-H基の酸化を低減するか又は回避するレドックス安定剤を加えてもよい。S-H基の酸化により近隣の分子間でジスルフィド架橋が形成されることにより、化合物Cとの反応に利用可能なS-H基の量を低減するおそれがある。そのような安定剤の例は、トリアルキルホスフィン又はトリアリールホスフィンである。
【0180】
代替的にはまた、反応後に、得られるポリマーに任意の添加剤又は安定剤を加えてもよい。
【0181】
得られるポリマーは通常、透明で非粘着性であり、室温で固体である。
【0182】
本発明の方法は、ウレタン基を有するポリマーを製造する代替的な方法を提供する。この方法において、イソシアネート基を有する化合物の使用は回避される。本発明の方法は容易で効率的な製造方法、特に高いエネルギー又は高温を必要としない方法である。固体の透明なポリマーが容易に入手可能であり、様々な技術的用途、例えばコーティング剤、接着剤、任意の形態の成形型を形成するための熱可塑性又は熱硬化性(duroplastic)材料に有用である。ポリマー、例えばエポキシ樹脂にウレタン基を導入することにより改変された特性を有するハイブリッドポリマーが入手可能である。高屈折率を有する光学ポリマーが入手可能である。得られるポリマーは高い熱安定性を示す。方法は、酸素の存在に適合する、低温硬化のための硬化機構を更に提供する。
【実施例】
【0183】
[実施例1]
1個のメタクリル基を有する化合物A)及び1個のアミノ基を有する化合物B)のポリマー
マグネチックスターラーが装備された10mlフラスコ中で、5-(メタクリロイルオキシ)メチル-1,3-オキサチオラン-2-オン(1.01g)を融解した。ブチルアミン(0.37g)を40℃で撹拌しながら加えた。混合物の粘度は経時的に増大した。ポリマーは24時間後もなお粘性であった。
【0184】
[実施例2]
溶媒の存在下での、1個のメタクリル基を有する化合物A)及び2個のアミノ基を有する化合物B)のポリマー
マグネチックスターラーが装備された50mlフラスコ中で、1,4ジオキサン(0.75g)及び5-(メタクリロイルオキシ)メチル-1,3-オキサチオラン-2-オン(2.02g)を、均一溶液が得られるまで、撹拌し50℃まで加熱した。溶液を25℃まで冷却した。その後、1,3ジアミノシクロヘキサン(0.71g)を撹拌しながら加えた。ポリマーは、室温にて30分以内で固化し、2時間後に粘着性のないポリマーを得た。
【0185】
[実施例3]
溶媒の存在下での、1個のメタクリル基を有する化合物A)及び3個のアミノ基を有する化合物B)のポリマー
マグネチックスターラーが装備された50mlフラスコ中で、1,4ジオキサン(1.5g)及び5-(メタクリロイルオキシ)メチル-1,3-オキサチオラン-2-オン(3.03g)を、均一溶液が得られるまで、撹拌し50℃まで加熱した。溶液を30℃まで冷却した。その後、トリス(2-アミノエチル)アミン(0.74g)を撹拌しながら加えた。ポリマーは4分以内で固化した。
【0186】
[実施例4]
無溶媒での、1個のメタクリル基を有する化合物A)及び3個のアミノ基を有する化合物B)のポリマー
マグネチックスターラーが装備された50mlフラスコ中で、5-(メタクリロイルオキシ)メチル-1,3-オキサチオラン-2-オン(3.03g)を加熱し、その後40℃まで冷却した。融解物にトリス(2-アミノエチル)アミン(0.74g)を加えた。反応混合物は、温度の急上昇下、数秒以内で固化した。
本発明は例えば以下の態様を含む。
[項1]
少なくとも1個の5員環式モノチオカーボネート基及び少なくとも1個の重合性エチレン性不飽和基を含む化合物A)、
第一級又は第二級アミノ基から選択される少なくとも1個のアミノ基を含む化合物B)、並びに任意選択で
化合物A)とは異なり、少なくとも1個の5員環式モノチオカーボネート基を含む化合物C)、
並びに任意選択で、
化合物A)とは異なり、-SH基と反応する少なくとも1個の官能基を含む化合物D)
を反応させることによって得られるポリマー。
[項2]
化合物A)が、1個の5員環式モノチオカーボネート基及び1個の重合性エチレン性不飽和基を含む、項1に記載のポリマー。
[項3]
重合性エチレン性不飽和基が、ビニル基又はアクリル基若しくはメタクリル基(略称(メタ)アクリル基)である、項1又は2に記載のポリマー。
[項4]
化合物A)が式I
【化16】
[式中、R1~R4のうちの1個は、ビニル基又は(メタ)アクリル基を含む有機基を表し、R1~R4の残りの3個は、水素又は最大20個の炭素原子を有する有機基を表す]
の化合物である、項1から3のいずれか一項に記載のポリマー。
[項5]
化合物A)が、5-(メタクリロイルオキシ)メチル-1,3-オキサチオラン-2-オン又は5-(アクリロイルオキシ)メチル-1,3-オキサチオラン-2-オンである、項1から4のいずれか一項に記載のポリマー。
[項6]
化合物B)が1~5個のアミノ基を含む、項1から5のいずれか一項に記載のポリマー。
[項7]
-SHと反応する化合物D)の官能基が、重合性エチレン性不飽和基又はエポキシ基から選択される、項1から6のいずれか一項に記載のポリマー。
[項8]
少なくとも40重量%の化合物A)及びB)から成る、項1から7のいずれか一項に記載のポリマー。
[項9]
化合物B)が、化合物A)及び任意選択でC)のモノチオカーボネート基の少なくとも10mol%を-SH基に変換させるための量で使用される、項1から8のいずれか一項に記載のポリマー。
[項10]
化合物A)、B)、並びに任意選択でC)及びD)が、-SH基1molに対して-SHと反応性の基0.8~1.2molのモル比を与える量で使用される、項9に記載のポリマー。
[項11]
モノチオカーボネート基を有するすべての化合物を含む第1成分、及び第一級又は第二級アミノ基を有するすべての化合物を含む第2成分からなる、二成分硬化型システム。
[項12]
少なくとも1個の5員環式モノチオカーボネート基及び少なくとも1個の重合性エチレン性不飽和基を含む化合物A)、並びに
第一級又は第二級アミノ基から選択される少なくとも1個のアミノ基を含む化合物B)、並びに任意選択で
化合物A)とは異なり、少なくとも1個の5員環式モノチオカーボネート基を含む化合物C)、
並びに任意選択で、
化合物A)とは異なり、-SH基と反応する少なくとも1個の官能基を含む化合物D)
を反応させる、
ポリマーを製造する方法。