(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】電解槽
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20240408BHJP
【FI】
C25B9/00
(21)【出願番号】P 2022033651
(22)【出願日】2022-03-04
【審査請求日】2023-06-13
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石丸 秀成
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕史
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特許第2866733(JP,B2)
【文献】特表平05-501737(JP,A)
【文献】国際公開第2002/093677(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極主壁部材と、該陰極主壁部材の内面に固定された陰極板と、陽極主壁部材と、該陽極主壁部材の内面に固定された陽極板とを含み、該陰極板及び該陽極板での電気分解を利用する電解槽において、
該陰極主壁部材には、該内面の上端部に幅方向に間隔をおいて配置された複数個の上側開口から延びる複数個の上側流路及び該内面の下端部に幅方向に間隔をおいて配置された複数個の下側開口から延びる複数個の下側流路が配設されており、
該陽極主壁部材には、該内面の上端部に幅方向に間隔をおいて配置された複数個の上側開口から延びる複数個の上側流路及び該内面の下端部に幅方向に間隔をおいて配置された複数個の下側開口から延びる複数個の下側流路が配設されており、
該陰極板は該陰極主壁部材の該上側開口よりも上方から該陰極主壁部材の該下側開口よりも下方まで連続して延在し、
該陰極板の上端部には該陰極主壁部材の該複数個の上側開口の各々に夫々整合する複数個の上側貫通開口が形成されており、該陰極板の下端部には該陰極主壁部材の該複数個の下側開口の各々に夫々整合する複数個の下側貫通開口が形成されており、
該陽極板は該陽極主壁部材の該上側開口よりも上方から該陽極主壁部材の該下側開口よりも下方まで連続して延在し、
該陽極板の上端部には該陽極主壁部材の該複数個の上側開口の各々に夫々整合する複数個の上側貫通開口が形成されており、該陽極板の下端部には該陽極主壁部材の該複数個の下側開口の各々に夫々整合する複数個の下側貫通開口が形成されている、
ことを特徴とする電解槽。
【請求項2】
該陰極主壁部材の該上側開口及び該下側開口並びに該陰極板の該上側貫通開口及び該下側貫通開口は円形断面形状を有し、
該陽極主壁部材の該上側開口及び該下側開口並びに該陽極板の該上側貫通開口及び該下側貫通開口は円形断面形状を有する、
請求項1記載の電解槽。
【請求項3】
該陰極板及び該陽極板は矩形板から構成されている、請求項1又は2記載の電解槽。
【請求項4】
該陰極主壁部材と該陰極板との間にガスケットが介在されており、該ガスケットには該陰極主壁部材の該上側開口の各々と該陰極板の該上側貫通開口の各々とを連通する複数個の上側連通開口及び該陰極主壁部材の該下側開口の各々と該陰極板の該下側貫通開口の各々とを連通する複数個の下側連通開口が形成されており、
該陽極主壁部材と該陽極板との間にガスケットが介在されており、該ガスケットには該陽極主壁部材の該上側開口の各々と該陽極板の該上側貫通開口の各々とを連通する複数個の上側連通開口及び該陽極主壁部材の該下側開口の各々と該陽極板の該下側貫通開口の各々とを連通する複数個の下側連通開口が形成されている、
請求項1から3までのいずれかに記載の電解槽。
【請求項5】
陰極主壁部材と、該陰極主壁部材の内面に固定された陰極板と、陽極主壁部材と、該陽極主壁部材の内面に固定された陽極板とを含み、該陰極板及び該陽極板での電気分解を利用する電解槽において、
該陰極主壁部材には、該内面の上端部に位置する上側開口から延びる少なくとも1個の上側流路及び該内面の下端部に位置する下側開口から延びる少なくとも1個の下側流路が配設されており、
該陽極主壁部材には、該内面の上端部に位置する上側開口から延びる少なくとも1個の上側流路及び該内面の下端部に位置する下側開口から延びる少なくとも1個の下側流路が配設されており、
該陰極板は該陰極主壁部材の該上側開口よりも上方から該陰極主壁部材の該下側開口よりも下方まで連続して延在し、
該陰極板の上端部には該陰極主壁部材の該上側開口に整合する少なくとも1個の上側貫通開口が形成されており、該陰極板の下端部には該陰極主壁部材の該下側開口に整合する少なくとも1個の下側貫通開口が形成されており、
該陽極板は該陽極主壁部材の該上側開口よりも上方から該陽極主壁部材の該下側開口よりも下方まで連続して延在し、
該陽極板の上端部には該陽極主壁部材の該上側開口に整合する少なくとも1個の上側貫通開口が形成されており、該陽極板の下端部には該陽極主壁部材の該下側開口に整合する少なくとも1個の下側貫通開口が形成されており、
該陰極主壁部材と該陰極板との間にガスケットが介在されており、該ガスケットには該陰極主壁部材の該上側開口と該陰極板の該上側貫通開口を連通する上側連通開口及び該陰極主壁部材の該下側開口と該陰極板の該下側貫通開口を連通する下側連通開口が形成されており、
該陽極主壁部材と該陽極板との間にガスケットが介在されており、該ガスケットには該陽極主壁部材の該上側開口と該陽極板の該上側貫通開口を連通する上側連通開口及び該陽極主壁部材の該下側開口と該陽極板の該下側貫通開口を連通する下側連通開口が形成されている、
ことを特徴とする電解槽。
【請求項6】
該上側連通開口は該上側開口及び該上側貫通開口より大きく、該下側連通開口は該下側開口及び該下側貫通開口よりも大きい、
請求項4又は5記載の電解槽。
【請求項7】
該上側開口、該上側貫通開口及び該上側連通開口並びに該下側開口、該下側貫通開口及び該下側連通開口は円形断面形状を有する、
請求項6記載の電解槽。
【請求項8】
該陰極板の該上側貫通開口及び該下側貫通開口並びに該陽極板の該上側貫通開口及び該下側貫通開口の各々には、該上側貫通開口及び該下側貫通開口の各々の内周面を覆うと共に、該陰極板及び該陽極板の裏面における該上側貫通開口及び該下側貫通開口の各々に隣接し且つ該ガスケットによって覆われていない部位を覆う被覆部材が付設されている、
請求項6又は7記載の電解槽。
【請求項9】
該被覆部材の各々は該上側貫通開口又は該下側貫通開口の各々に挿入される筒部と該筒部の後端から張り出すフランジ部とを有する、
請求項8記載の電解槽。
【請求項10】
該被覆部材の該筒部は円筒形状であり、該上側開口、該上側貫通開口及び該上側連通開口並びに該下側開口、下側貫通開口及び下側連通開口は円形断面形状であり、
該上側貫通開口及び該下側貫通開口の内径は夫々該上側開口及び該下側開口の内径よりも該被覆部材の該筒部の肉厚の2倍だけ大きく、該被覆部材の該筒部の内径は該上側開口及び該下側開口の内径と同一であり、
該筒部の長さは該陰極板及び該陽極板の厚さと同一であり、
該被覆部材の該フランジ部は円環形状であり、該フランジ部の外径は該上側連通開口及び該下側連通開口の内径と同一であり、
該フランジ部の厚さはガスケットの厚さと同一である、
請求項9記載の電解槽。
【請求項11】
該被覆部材の各々は合成樹脂から形成されている、
請求項8から10までのいずれかに記載の電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解槽、更に詳しくは、それに限定されるものではないが第4級アンモニウム塩水溶液を原料として水酸化第4級アンモニウム水溶液を製造するのに好適に使用することができる電解槽に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1乃至4には、第4級アンモニウム塩水溶液を原料として水酸化第4級アンモニウム水溶液を製造する製造方法が開示されている。かような製造方法の実施には、陰極主壁部材とこの陰極主壁部材の内面に固定された陰極板と陽極主壁部材とこの陽極主壁部材の内面に固定された陽極板とを含む電解槽が使用される。陰極板と陽極板との間には少なくとも1個の陽イオン交換膜が配設されている。イオン交換膜に仕切られた各室には液の供給を行う流路が備えられており、電解槽の外表面のいずれかの箇所に液の給排口を設け、各室と接する開口部よりの液供給および液排水が行われる。例えば、陰極主壁部材には幅方向に間隔をおいて配置された複数個の上側開口から延びる複数個の上側流路及び幅方向に間隔をおいて配置された複数個の下側開口から延びる複数個の下側流路が配設されており、同様に陽極主壁部材には幅方向に間隔をおいて配置された複数個の上側開口から延びる複数個の上側流路及び幅方向に間隔をおいて配置された複数個の下側開口から延びる複数個の下側流路が配設されている。陰極板及び陽極板は矩形板形状であり、上記上側開口と上記下側開口との間の領域に配設されている。陰極板及び陽極板の上縁は上記上側開口の下方に位置し、陰極板及び陽極板の下縁は上記下側開口の上方に位置する。陰極主壁部材に配設されている下側流路及び上側流路を通して水酸化第4級アンモニウム水溶液が循環され、(更に詳しくは、水酸化第4級アンモニウム水溶液が陰極主壁部材に配設されている上側流路及び下側流路の一方を通して流入され他方を通して流出される)。また、陽極主壁部材に配設されている上側流路及び下側流路を通して例えば原料である第4級アンモニウム塩水溶液が循環される(更に詳しくは、例えば原料である第4級アンモニウム塩水溶液が陽極主壁部材に配設されている上側流路及び下側流路の一方を通して流入され他方を通して流出される)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭62―142792号公報
【文献】特公平8―16274号公報
【文献】特公平8―19539号公報
【文献】特開2009―13477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
而して、上述したとおりの従来の電解槽には、陰極板及び陽極板が、夫々、陰極主壁部材の上側開口と下側開口との間及び陽極主壁部材の上側開口と下側開口との間に配設されているため、陰極主壁部材及び陽極主壁部材の大きさに対して陰極板及び陽極板の大きさが制限され、電解槽の大きさに対する陰極板及び陽極板の相対的通電面積が制限され、電解効率が必ずしも充分ではない、という解決すべき問題が存在する。
【0005】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、従来の電解槽と比べて、陰極主壁部材及び陽極主壁部材の大きさに対して陰極板及び陽極板が相対的に大きく、従って電解槽の大きさに対する陰極板及び陽極板の相対的通電面積が大きく電解効率が向上された、新規且つ改良された電解槽を提供することである。
【0006】
本発明の他の技術的課題は、上記主たる技術的課題の達成に加えて、電解槽を連続作動させても、陰極主壁部材と陰極板との間に介在されたガスケット及び陽極主壁部材と陽極板との間に介在されたガスケットに起因して液体の流動が阻害されることがない、新規且つ改良された電解槽を提供することである。
【0007】
本発明の更に他の技術的課題は、上記主たる技術的課題及び上記他の技術的課題に加えて、陰極板及び陽極板の電蝕及び腐食が効果的に回避される、新規且つ改良された電解槽を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面によれば、上記主たる技術的課題を達成する電解槽として、
陰極主壁部材と、該陰極主壁部材の内面に固定された陰極板と、陽極主壁部材と、該陽極主壁部材の内面に固定された陽極板とを含み、該陰極板及び該陽極板での電気分解を利用する電解槽において、
該陰極主壁部材には、該内面の上端部に幅方向に間隔をおいて配置された複数個の上側開口から延びる複数個の上側流路及び該内面の下端部に幅方向に間隔をおいて配置された複数個の下側開口から延びる複数個の下側流路が配設されており、
該陽極主壁部材には、該内面の上端部に幅方向に間隔をおいて配置された複数個の上側開口から延びる複数個の上側流路及び該内面の下端部に幅方向に間隔をおいて配置された複数個の下側開口から延びる複数個の下側流路が配設されており、
該陰極板は該陰極主壁部材の該上側開口よりも上方から該陰極主壁部材の該下側開口よりも下方まで連続して延在し、
該陰極板の上端部には該陰極主壁部材の該複数個の上側開口の各々に夫々整合する複数個の上側貫通開口が形成されており、該陰極板の下端部には該陰極主壁部材の該複数個の下側開口の各々に夫々整合する複数個の下側貫通開口が形成されており、
該陽極板は該陽極主壁部材の該上側開口よりも上方から該陽極主壁部材の該下側開口よりも下方まで連続して延在し、
該陽極板の上端部には該陽極主壁部材の該複数個の上側開口の各々に夫々整合する複数個の上側貫通開口が形成されており、該陽極板の下端部には該陽極主壁部材の該複数個の下側開口の各々に夫々整合する複数個の下側貫通開口が形成されている、
ことを特徴とする電解槽が提供される。
【0009】
好ましくは、該陰極主壁部材の該上側開口及び該下側開口並びに該陰極板の該上側貫通開口及び該下側貫通開口は円形断面形状を有し、該陽極主壁部材の該上側開口及び該下側開口並びに該陽極板の該上側貫通開口及び該下側貫通開口は円形断面形状を有する。該陰極板及び該陽極板は矩形板から構成されているのが好都合である。該陰極主壁部材と該陰極板との間にガスケットが介在されており、該ガスケットには該陰極主壁部材の該上側開口の各々と該陰極板の該上側貫通開口の各々とを連通する複数個の上側連通開口及び該陰極主壁部材の該下側開口の各々と該陰極板の該下側貫通開口の各々とを連通する複数個の下側連通開口が形成されており、該陽極主壁部材と該陽極板との間にガスケットが介在されており、該ガスケットには該陽極主壁部材の該上側開口の各々と該陽極板の該上側貫通開口の各々とを連通する複数個の上側連通開口及び該陽極主壁部材の該下側開口の各々と該陽極板の該下側貫通開口の各々とを連通する複数個の下側連通開口が形成されているのが好適である。
【0010】
本発明の他の局面によれば、上記他の技術的課題を達成する電解槽として、
陰極主壁部材と、該陰極主壁部材の内面に固定された陰極板と、陽極主壁部材と、該陽極主壁部材の内面に固定された陽極板とを含み、該陰極板及び該陽極板での電気分解を利用する電解槽において、
該陰極主壁部材には、該内面の上端部に位置する上側開口から延びる少なくとも1個の上側流路及び該内面の下端部に位置する下側開口から延びる少なくとも1個の下側流路が配設されており、
該陽極主壁部材には、該内面の上端部に位置する上側開口から延びる少なくとも1個の上側流路及び該内面の下端部に位置する下側開口から延びる少なくとも1個の下側流路が配設されており、
該陰極板は該陰極主壁部材の該上側開口よりも上方から該陰極主壁部材の該下側開口よりも下方まで連続して延在し、
該陰極板の上端部には該陰極主壁部材の該上側開口に整合する少なくとも1個の上側貫通開口が形成されており、該陰極板の下端部には該陰極主壁部材の該下側開口に整合する少なくとも1個の下側貫通開口が形成されており、
該陽極板は該陽極主壁部材の該上側開口よりも上方から該陽極主壁部材の該下側開口よりも下方まで連続して延在し、
該陽極板の上端部には該陽極主壁部材の該上側開口に整合する少なくとも1個の上側貫通開口が形成されており、該陽極板の下端部には該陽極主壁部材の該下側開口に整合する少なくとも1個の下側貫通開口が形成されており、
該陰極主壁部材と該陰極板との間にガスケットが介在されており、該ガスケットには該陰極主壁部材の該上側開口と該陰極板の該上側貫通開口を連通する上側連通開口及び該陰極主壁部材の該下側開口と該陰極板の該下側貫通開口を連通する下側連通開口が形成されており、
該陽極主壁部材と該陽極板との間にガスケットが介在されており、該ガスケットには該陽極主壁部材の該上側開口と該陽極板の該上側貫通開口を連通する上側連通開口及び該陽極主壁部材の該下側開口と該陽極板の該下側貫通開口を連通する下側連通開口が形成されている、
ことを特徴とする電解槽が提供される。
【0011】
該上側開口、該上側貫通開口及び該上側連通開口並びに該下側開口、下側貫通開口及び下側連通開口は円形断面形状を有するのが好都合である。
【0012】
本発明の上記更に他の技術的課題は、上記電解槽において、
該陰極板の該上側貫通開口及び該下側貫通開口並びに該陽極板の該上側貫通開口及び該下側貫通開口の各々には、該上側貫通開口及び該下側貫通開口の各々の内周面を覆うと共に、該陰極板及び該陽極板の裏面における該上側貫通開口及び該下側貫通開口の各々に隣接し且つ該ガスケットによって覆われていない部位を覆う被覆部材が付設されている、
形態によって達成される。
【0013】
好ましくは、該被覆部材の各々は該上側貫通開口又は該下側貫通開口の各々に挿入される筒部と該筒部の後端から張り出すフランジ部とを有する。
該被覆部材の該筒部は円筒形状であり、該上側開口、該上側貫通開口及び該上側連通開口並びに該下側開口、下側貫通開口及び下側連通開口は円形断面形状であり、
該上側貫通開口及び該下側貫通開口の内径は夫々該上側開口及び該下側開口の内径よりも該被覆部材の該筒部の肉厚の2倍だけ大きく、該被覆部材の該筒部の内径は該上側開口及び該下側開口の内径と同一であり、
該筒部の長さは該陰極板及び該陽極板の厚さと同一であり、
該被覆部材の該フランジ部は円環形状であり、該フランジ部の外径は該上側連通開口及び該下側連通開口の内径と同一であり、
該フランジ部の厚さはガスケットの厚さと同一であるのが好適である。
該被覆部材の各々は合成樹脂から形成されているのが好都合である。
【0014】
上記電解槽の好適使用形態においては、該陰極板と該陽極板との間には少なくとも1個の陽イオン交換膜が配置され、第4級アンモニウム塩水溶液を原料として水酸化第4級アンモニウム水溶液が製造される。
【発明の効果】
【0015】
上記主たる技術的課題を達成する、本発明に従って構成された電解槽においては、陰極板及び陽極板の各々は陰極主壁部材及び陽極主壁部材に形成されている上側開口よりも上方から下側開口よりも下方まで連続して延びる形態であり、陰極板及び陽極板の各々に上側開口及び下側開口に整合する上側貫通開口及び下側貫通開口を形成されている故に、陰極板及び陽極板は夫々陰極主壁部材及び陽極主壁部材の内面の略全体に渡って延在し、従って電解槽の大きさに対する陰極板及び陽極板の相対的通電面積が大きく、電解効率が向上される。
【0016】
上記他の技術的課題を達成する、本発明に従って構成された電解槽においては、上側連通開口は上側開口及び上側貫通開口より大きく、下側連通開口は下側開口及び下側貫通開口よりも大きく、それ故に電解槽の連続作動によりガスケットが膨張しても上側開口と上側貫通開口との連通及び下側開口と下側貫通との連通が阻害されることがない。
【0017】
上記更に他の技術的課題を達成する、本発明に従って構成された電解槽においては、陰極板の上側貫通開口及び下側貫通開口並びに陽極板の上側貫通開口及び下側貫通開口の各々には、上側貫通開口及び下側貫通開口の各々の内周面を覆うと共に、陰極板及び陽極板の裏面における上側貫通開口及び下側貫通開口の各々に隣接し且つガスケットによって覆われていない部位を覆う被覆部材が付設されている故に、陰極板及び陽極板の電蝕及び腐食が効果的に回避される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に従って構成された電解槽の好適実施形態を示す簡略断面図。
【
図2】
図1に示す電解槽における陰極
主壁部材及び陰極板を示す、
図1の線II-IIに沿った簡略断面図。
【
図3】
図1に示す電解槽における陰極
主壁部材上側開口、陰極板に形成されている上側貫通開口及びガスケットに形成されている上側連通開口を示す部分拡大断面図。
【
図4】陰極板(及び陽極板)の上側貫通開口に被覆部材が付設された変形例を示す部分拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に従って構成された電解槽の好適実施形態を図示している添付図面を参照して、更に詳述する。
【0020】
図1及び
図2を参照して説明すると、本発明に従って構成された図示の電解槽は、陰極
主壁部材4(
図1)、陽極
主壁部材6(
図1)、陰極側上壁部材8、陽極側上壁部材10、陰極側下壁部材12、陽極側下壁部材14、陰極側前壁部材16(
図2)、陽極側前壁部材(図示していない)、陰極側後壁部材18(
図2)及び陽極側後壁部材(図示していない)によって構成された、中空直方体形状のハウジング2を含んでいる。陰極
主壁部材4、陽極
主壁部材6、陰極側前壁部材16、陽極側前壁部材、陰極側後壁部材18及び陽極側後壁部材は実質上垂直に延在し、陰極側上壁部材8、陽極側上壁部材10、陰極側下壁部材12及び陽極側下壁部材14は実質上水平に延在している。陰極側上壁部材8の基端面(
図1において右端面)は、締結ねじ或いは接着剤の如き適宜の連結手段によって陰極
主壁部材4の内面上端縁部に連結され、陰極側下壁部材12の基端面(
図1において右端面)は適宜の連結手段によって陰極
主壁部材4の内面下端縁部に連結されている。同様に、陽極側上壁部材10の基端面(
図1において左端面)は、適宜の連結手段によって陽極
主壁部材6の内面上端縁部に連結され、陽極側下壁部材14の基端面(
図1において左端面)は適宜の連結手段によって陽極
主壁部材6の内面下端縁部に連結されている。陰極側前壁部材16は陰極
主壁部材4の前面に、陽極側前壁部材は陽極
主壁部材6の前面に、適宜の連結手段によって連結され、陰極側後壁部材18は陰極
主壁部材4の後面に、陽極側後壁部材は陽極
主壁部材6の後面に、適宜の連結手段によって連結されている。陰極側及び陽極側の各々の上壁部材8及び10、下壁部材12及び14、並びに前壁部材16及び後壁部材18は、上記のとおり陰極
主壁部材4又は陽極
主壁部材6に連結することに代えて、これら壁部材をあらかじめ一体に形成して、陰極
主壁部材4又は陽極
主壁部材6に連結することもできる。また、陰極
主壁部材4又は陽極
主壁部材6に壁部を一体に形成することもできる。更に、上壁部材8及び10、下壁部材12及び14、並びに前壁部材16及び後壁部材18を一体に形成した場合は、陰極
主壁部材4又は陽極
主壁部材6にシール部材を介在させて固定することもできる。シール部材としては、後述するガスケット38を陰極板32又は陽極板56に対応するサイズから陰極
主壁部材4又は陽極
主壁部材6に対応するサイズまで延在させて、延長部を利用することもできる。陰極
主壁部材4、陽極
主壁部材6、陰極側上壁部材8、陽極側上壁部材10、陰極側下壁部材12、陽極側下壁部材14、陰極側前壁部材16、陽極側前壁部材、陰極側後壁部材18及び陽極側後壁部材は、後述する開口及び流路を除いて中実ブロック乃至板形態でよく、ポリプロピレン及びポリエチレンの如きオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂並びにフッ素系樹脂の如き適宜の合成樹脂から形成することができる。陰極
主壁部材4、陽極
主壁部材6、陰極側上壁部材8、陽極側上壁部材10、陰極側下壁部材12、陽極側下壁部材14、陰極側前壁部材16、陽極側前壁部材、陰極側後壁部材18及び陽極側後壁部材の相互連結部位間にはガスケットの如き適宜の密封部材(図示していない)を介在在させることができる。
【0021】
図1及び
図2と共に
図3を参照して説明を続けると、上記陰極
主壁部材4の内面(
図1において右側面)の上端部には幅方向(
図1において紙面に垂直な方向、
図2において左右方向)に等間隔をおいて複数個(図示の場合は3個)の上側開口20(
図1及び
図3にそのうちの1個を夫々破線及び実線で図示している)が形成され、そして陰極
主壁部材4には上側開口20の各々から実質上水平に陰極
主壁部材4を貫通して延びる複数個(図示の場合は3個)の上側流路22(
図1及び
図3にそのうちの1個を夫々破線及び実線で図示している)が形成されている。同様に、上記陰極
主壁部材4の内面(
図1において右側面)の下端部には幅方向(
図1において紙面に垂直な方向、
図2において左右方向)に等間隔をおいて複数個(図示の場合は3個)の下側開口24(
図1にそのうちの1個を破線で図示している)が形成され、そして陰極
主壁部材4には下側開口24の各々から実質上水平に陰極
主壁部材4を貫通して延びる複数個(図示の場合は3個)の下側流路26(
図1にそのうちの1個を破線で図示している)が形成されている。上側開口20及び下側開口24は円形でよく、上側流路22の横断面形状及び下側流路26の横断面形状は上側開口20及び下側開口24の円形に合致した円形でよい。上側流路22と下側流路26とは、ハウジング2の外側に配設されている外側流路31(
図2にその一部を図示している)によって接続されており、外側流路31には循環用ポンプ、製品貯蔵用タンク及び流動制御のための複数個の弁部材等も配設されている(外側流路及びこれに配設された上記のとおりの構成要素は当業者には周知であるので、これらについての詳細な説明は本明細書においては省略する)。
【0022】
陰極
主壁部材4の内面には陰極板32が固定されている。陰極板32は陰極
主壁部材4に形成されている上記上側開口20よりも上方から陰極
主壁部材4に形成されている上記下側開口24よりも下方まで連続して延在していることが重要である。図示の実施形態においては、陰極板32はニッケルの如き適宜の導電性金属から形成された矩形板から構成されており、その上端面は上記陰極側上壁部材8の内面(即ち下面)に当接乃至近接し、その下端面は上記陰極側下壁部材12の内面(即ち上面)に当接乃至近接し、その前側面は前壁部材16の内面(即ち後面)に当接乃至近接し、その後側面は上記後壁部材18の内面(即ち前面)に当接乃至近接している。陰極
主壁部材4に対する陰極板32の固定は、例えば陰極板32の4角部において陰極板32を通して締結ねじ(図示していない)を陰極
主壁部材4に螺着することによって好都合に実施することができる。陰極板32の上端部には幅方向(
図1において紙面に垂直な方向、
図2において左右方向)に等間隔をおいて複数個(図示の場合は3個)の上側貫通開口34が形成され、陰極板32の下端部には幅方向(
図1において紙面に垂直な方向、
図2において左右方向)に等間隔をおいて複数個(図示の場合は3個)の下側貫通開口36が形成されている。陰極板32に形成されている上側貫通開口34の各々は陰極
主壁部材4の上端部に形成されている上記上側開口20の各々に夫々整合して位置していることが重要である。図示に実施形態においては、上側貫通開口34の各々は上記上側開口20の各々と同一形状(従って円形)で且つ同一寸法である。同様に、陰極板32に形成されている下側貫通開口36の各々は陰極
主壁部材4の下端部に形成されている上記下側開口24の各々に夫々整合して位置していることが重要である。図示の実施形態においては、下側貫通開口36の各々は上記下側開口24の各々と同一形状(従って円形)で且つ同一寸法である。上側貫通開口34(及び上側開口20)は陰極板32の上端に近接して位置し、下側貫通開口36(及び下側開口24)は陰極板32の下端に近接して位置するのが好ましい。
【0023】
図示の実施形態においては、陰極主壁部材4に幅方向に等間隔をおいて複数個の上側開口20及び下側開口24を形成すると共に陰極板32に幅方向に等間隔をおいて複数個の上側貫通開口34及び下側貫通開口36を形成しているが、所望ならば陰極主壁部材4に幅方向に細長く延在する1個の上側開口及び下側開口を形成すると共に陰極板32に幅方向に細長く延在する1個の上側貫通開口及び下側貫通開口を形成することもできる。
【0024】
図1と共に
図3を参照して説明を続けると、図示の実施形態においては、陰極
主壁部材4と陰極板32との間にはガスケット38が介在されているのが好適であり、ガスケット38によって陰極板32を陰極
主壁部材4に安定して固定することができ、そしてまた陰極
主壁部材4と陰極板32との界面への液体の浸透による腐食等を防止することができる。このガスケット38は陰極板32と実質上同一寸法の矩形板でよく(前述した如くガスケット38を陰極
主壁部材4に対応した大きさにすることもできる)、適宜のエラストマ、例えばシリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、軟質塩化ビニル、ブチルゴム、ブタジエンゴム又はフッ素ゴムから形成することができる。陰極
主壁部材4と陰極板32との間にガスケット38を介在させる場合には、陰極板32の4角部において陰極板32と共にガスケット38を通して締結ねじ(図示していない)を陰極
主壁部材4に螺着することができる。ガスケット38の上端部には、陰極板32に形成されている上側貫通開口34の各々と陰極
主壁部材4に形成されている上側開口20の各々とを連通する複数個(図示の場合は3個の上側連通開口40が形成され、ガスケット38の下端部には、陰極板32に形成されている下側貫通開口36の各々と陰極
主壁部材4に形成されている下側開口24の各々とを連通する複数個(図示の場合は3個)の下側連通開口42が形成されている。
図3を参照することによって明確に理解される如く、ガスケット38に形成される上側連通開口40及び下側連通開口42は、上側貫通開口34及び上側開口20並びに下側貫通開口36及び下側開口24よりも大きいことが望ましい。後述する実施例から理解されるとおり、ガスケット38に形成される上側連通開口40及び下側連通開口42が上側貫通開口34及び上側開口20並びに下側貫通開口36及び下側開口24と実質上同一寸法である場合には、電解槽を連続して作動させると、ガスケット38が幾分膨張されて上側連通開口40及び下側連通開口42が縮小及び変位され、これに起因して上側貫通開口34と上側開口20との連通並びに下側貫通開口36と下側開口24との連通が不充分になる或いは毀損されてしまう傾向がある。上側連通開口40及び下側連通開口42は、上側貫通開口34及び上側開口20並びに下側貫通開口36及び下側開口24の直径よりも所定長さ大きい直径を有する円形でよい。上側連通開口40及び下側連通開口42の各々は、必ずしも上側貫通開口34及び上側開口20並びに下側貫通開口36及び下側開口24の各々と同心である必要はなく偏心させることもできる。上側連通開口40及び下側連通開口42の直径並びに上側貫通開口34及び上側開口20並びに下側貫通開口36及び下側開口24に対する偏心度合いは、電解槽の連続的作動によるガスケット38の膨張及び変位に基いて実験的に設定することができる。ガスケット38に形成される上側連通開口40及び下側連通開口42を大きくする程、連通が不充分になる或いは毀損される可能性は低くなるが、後述する如く陰極板32の裏面に液が触れる面積が増大することで、電蝕乃至腐食が発生し、液中に混入する電極金属が増加してしまう。このため、ガスケット38に形成される上側連通開口40及び下側連通開口42としての好ましいサイズは、上側貫通開口34及び上側開口20並びに下側貫通開口36及び下側開口24のサイズの+30mm以下、好ましくは+20mm以下、より好ましくは+10mm以下である。また、ガスケット38に膨張しにくい材質を用いれば、上側連通開口40及び下側連通開口42のサイズが上側貫通開口34及び上側開口20並びに下側貫通開口36及び下側開口24のサイズに近い場合でも連通が不充分になる或いは毀損される可能性は低くなる。そのため、ガスケット38に使用する材質としては、線膨張係数が好ましくは3×10
-4(1/℃)以下、より好ましくは1.5×10
-4(1/℃)以下、最も好ましくは1×10
-4(1/℃)以下である。
【0025】
図示の実施形態においては、陽極
主壁部材6は上述した陰極
主壁部材4と実質上同一である。更に詳しくは、陰極
主壁部材4と陽極
主壁部材6とは両者間を
図1において紙面に垂直に延びる仮想面を対称面とする面対称をなす。従って、陽極
主壁部材6には、上側開口44、上側流路46、下側開口48及び下側流路50が配設されている。説明の重複を避けるため、上側開口44、上側流路46、下側開口48及び下側流路50の詳細な説明は省略する。上側流路46と下側流路50とはハウジング2の外側に配設されている外側流路(図示していない)によって接続されており、外側流路には循環用ポンプ、原料貯蔵用タンク及び流動制御のための複数個の弁部材等も配設されている(外側流路及びこれに配設された上記のとおりの構成要素は当業者には周知であるので、これらについての詳細な説明は本明細書においては省略する)。
【0026】
陽極
主壁部材6の内面には陽極板56が固定されている。図示の実施形態において、陽極板56は、陽極に適した適宜の導電性金属、例えば表面に酸化インジウムをメッキしたチタン、から形成されている点を除き、上述した陰極板32と実質上同一である。更に詳しくは、陰極板32と陽極板56とは両者間を
図1において紙面に垂直に延びる仮想面を対称面とする面対称をなす。従って、陽極板56は陽極
主壁部材6に形成されている上記上側開口44よりも上方から陽極
主壁部材6に形成されている上記下側開口48よりも下方まで連続して延在する矩形状である。そして、陽極板56には、陽極
主壁部材6に形成されている上側開口44及び下側開口48に夫々に整合して位置する上側貫通開口58及び下側貫通開口60が形成されている。説明の重複を避けるために、陽極板56の詳細な説明は省略する。
【0027】
図示の実施形態においては、陽極
主壁部材6と陽極板56との間にもガスケット62が介在されている。このガスケット62も、陰極
主壁部材4と陰極板32との間に介在されているガスケット38と実質上同一である。更に詳しくは、ガスケット38とガスケット62とは両者間を
図1において紙面に垂直に延びる仮想面を対称面とする面対称をなす。従って、ガスケット62には、陽極
主壁部材6に形成されている上側開口44と陽極板56に形成されている上側貫通開口58を連通する上側連通開口64と共に陽極
主壁部材6に形成されている下側開口48と陽極板56に形成されている下側貫通開口60を連通する下側連通開口66が形成されている。説明の重複を避けるために、ガスケット62並びに上側連通開口64及び下側連通開口66の詳細については説明を省略する。
【0028】
図1を参照することによって明確に理解されるとおり、図示の実施形態においては、陰極板32と陽極板56との間にはカチオン交換膜68が配設されている。それ自体は周知の形態でよいカチオン交換膜68は矩形板形状であり、その上端縁部は陰極側上壁部材8と陽極側上壁部材10の間に把持され、その下端縁部は陰極側下壁部材12と陽極側下壁部材14との間に把持され、陰極
主壁部材4及び陽極
主壁部材6の前面側縁部は陰極側前壁部材16と陽極側前壁部材の間に把持され、陰極
主壁部材4及び陽極
主壁部材6の後面側縁部は陰極側後壁部材18と陽極側後壁部材との間に把持されている。カチオン交換膜68と陰極側上壁部材8及び陽極側上壁部材10、陰極側下壁部材12及び陽極側下壁部材14、陰極側前壁部材16と陽極側前壁部材、並びに陰極側後壁部材18と陽極側後壁部材の各々との間には適宜のシール部材(図示していない)を介在させることができる。
【0029】
上述したとおりの電解槽においては、陰極板32とカチオン交換膜68との間に陰極室乃至製品室70が規定され、陽極板56とカチオン交換膜68との間に陽極室即ち原料室72が規定されている。そして、当初は希釈化された水酸化第4級アンモニウム水溶液(又は純水)が製品室70を通して循環され、更に詳しくは陰極主壁部材4に形成されている下側流路26と上側流路22との一方を通して製品室70に流入され他方を通して製品室70から流出される。同時に、第4級アンモニウム塩水溶液が原料室72を通して循環され、更に詳しくは陽極主壁部材6に形成されている下側流路50と上側流路46との一方を通して原料室72に流入され他方を通して流出される。陰極板32と陽極板56との間には電解電圧が印加される。かくして、製品室70を循環する水酸化第4級アンモニウム水溶液の濃度が漸次増大される。かような電解作用は当業者には周知であるので、その詳細な説明は本明細書においては省略する。而して、本発明に従って構成された電解槽においては、陰極板32及び陽極板56の各々は陰極主壁部材4及び陽極主壁部材6に形成されている上側開口20及び44よりも上方から下側開口24及び48よりも下方まで連続して延びる形態であり、陰極板32及び陽極板56の各々に上側開口20及び44並びに下側開口24及び48に整合する上側貫通開口34及び58並びに下側貫通開口36及び60が形成されている故に、陰極板32及び陽極板56は夫々陰極主壁部材4及び陽極主壁部材6の内面の略全体に渡って延在し、従って電解槽の大きさに対する陰極板32及び陽極板56の相対的通電面積が大きく、かくして向上された電解効率によって電解が遂行される。
【0030】
図4には、本発明に従って構成された電解槽の上述した好適実施形態の変形例が図示されている。
図4に図示する変形例においては、陰極板32の上側貫通開口34(及び下側貫通開口36)の内周面と共に陰極板32の裏面(
図4において右面)における上側貫通開口34(及び下側貫通開口36)の各々に隣接し且つガスケット38によって覆われていない部位を覆う被覆部材74が陰極板32に付設されている。
図4には陰極板32の1個の上側貫通開口34とこの上側貫通開口34に付設された1個の被覆部材74が図示されている。
図4と共に
図5を参照することによって明確に理解される如く、図示の被覆部材74は、上側貫通開口34に挿入される円筒形状の筒部76とこの筒部76の後端(
図4において右端)から張り出す円環形状のフランジ部78とを有する。被覆部材74の各々は、電気絶縁性、耐熱性、及び循環される水酸化第4級アンモニウム水溶液に対する耐性に優れ、且つ熱膨張係数が小さい合成樹脂、例えば及びポリプロピレン又はポリエチレンの如くオレフィン系樹脂或いはペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の如きフッ素系樹脂である合成樹脂から形成されているのが好ましい。
【0031】
図4に図示する変形例においては、陰極板32に形成されている上側貫通開口34の内径は、被覆部材74の筒部76の肉厚の2倍だけ陰極
主壁部材4に形成されている上側開口20の内径よりも大きく設定されている。そして、被覆部材74の筒部76の外径は上側貫通開口34の内径と同一であり、被覆部材74の筒部76の内径は上側流路22の内径と同一である。被覆部材74の筒部76の長さは陰極板32の厚さと同一である。被覆部材74のフランジ部78の外径はガスケット38に形成されている上側連通開口40の内径と同一であり、被覆部材74のフランジ部78の厚さはガスケット38の厚さと同一である。ガスケット38の伸縮性が高く、陰極板32を陰極
主壁部材4に固定する際にガスケット38が押し潰されて厚みが薄くなる場合は、被覆部材74のフランジ部78の厚さをガスケット38が薄くなった時の厚みに合わせるのが好都合である。陰極板32及びガスケット38を陰極
主壁部材4に固定するのに先立って、
図4に図示する如く、被覆部材74の筒部76は陰極板32の裏面(
図4において右面)側から上側貫通開口34内に挿入されフランジ部78の前面(
図4において左面)が陰極板32の裏面に当接され、かくして被覆部材74の筒部76が陰極板32に形成されている上側貫通開口34の内周面を覆い、被覆部材74のフランジ部78が陰極板32の裏面におけるガスケット38によって覆われていない部分を覆う。
【0032】
本発明者等の経験によれば、陰極板32の上側貫通開口34及び下側貫通開口36の各々に被覆部材74が付設されていない場合、電解槽を連続的に作動すると、
図4に二点鎖線80で示す如く、陰極板32の上側貫通開口34及び下側貫通開口36の内周面並びに陰極板32の裏面におけるガスケット38に覆われていない部位が電蝕乃至腐食されてしまう傾向がある。しかしながら、陰極板32の上側貫通開口34及び下側貫通開口36の各々に被覆部材74を付設すると、陰極板32の電蝕乃至腐食を効果的に回避することができる。
【0033】
陰極板32の上側貫通開口34に関して被覆部材74を説明したが、陰極板32の下側貫通開口36並びに陽極板56の上側貫通開口58及び下側貫通開口60の各々にも被覆部材74を付設することができる。
【0034】
実施例1乃至6
図1乃至3に図示するとおりの形態の電解槽、及び
図1乃至3に図示するとおりの形態の電解槽に
図4及び5に図示するとおりの被覆部材を付加した電解槽を作成して作動し、陰極板と陰極
主壁部材との間に介在されているガスケットに形成されている上側及び下側連通開口の状態及び製品中の混入金属(ニッケル)濃度を検出した。その結果を表1に示す。
【0035】
表1における連通開口状態における、「はみだしなし」は連通開口閉塞率が10%未満であったことを意味し、「はみだしあり」は連通開口閉塞率が10%以上で完全閉塞未満であったことを意味し、「閉塞」は連通開口が閉塞し製品が流動しないことを意味する。
電解槽の構成要素の詳細及び作動状態は、次のとおりである。
作動時間: 30日間
陰極:ニッケル板(厚さ2mm、表面積1m×1m)
陽極:表面に酸化インジウムをメッキしたチタン板(厚さ2mm、
表面積1m×1m)
陰極板の貫通開口数:上側貫通開口(出口)10個、下側貫通開口(入口)10個
陽極板の貫通開口数:上側貫通開口(出口)10個、下側貫通開口(入口)10個
カチオン交換膜:ケマーズ社(Chemours Company)から製品名
「N324」として販売されている交換膜(厚さ1mm)
原料:塩化テトラメチルアンモニウム水溶液
製品:水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液
流路横断面形状:陰極主壁部材及び陽極主壁部材の上側及び下側開口並びに上側
流路及び下側流路、陰極板及び陽極板の上側及び下側貫通開口
の横断面は全て直径10mmの円形
被覆部材:ポリプロピレン製で、筒部外径10mm、筒部内径8mm、筒
部長さ2mm、フランジ部外径16mm、フランジ部厚さ1
mm
電流:1000A(10A/dm2)
作動温度:70℃
電解槽組み立て時温度:20℃
【0036】
【0037】
本発明の好適実施形態を図示している添付図面を参照して詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲から逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能であることは多言を要しない。例えば、図示の実施形態においては、陰極板32と陽極板56との間に1個のカチオン交換膜68が配設されているが、陰極板32と陽極板56との間に複数個の交換膜(カチオン交換膜及びアニオン交換膜)が配設されている電解槽にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
2:電解槽のハウジング
4:陰極主壁部材
6:陽極主壁部材
8:陰極側上壁部材
10:陽極側上壁部材
12:陰極側下壁部材
14:陽極側下壁部材
16:陰極側前壁部材
18:陰極側後壁部材
20:上側開口
22:上側流路
24:下側開口
26:下側流路
31:外側流路
32:陰極板
34:上側貫通開口
36:下側貫通開口
38::ガスケット
40:上側連通開口
42:下側連通開口
44:上側開口
46:上側流路
48:下側開口
50:下側流路
56:陽極板
58:上側貫通開口
60:下側貫通開口
62:ガスケット
64:上側連通開口
66:下側連通開口
68:カチオン交換膜
70:製品室(陰極室)
72:原料室(陽極室)
74:被覆部材
76:筒部
78:フランジ部
80:電蝕乃至腐食状態