(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】バイオマス固体燃料
(51)【国際特許分類】
C10L 5/44 20060101AFI20240408BHJP
【FI】
C10L5/44
(21)【出願番号】P 2022194534
(22)【出願日】2022-12-05
(62)【分割の表示】P 2019546693の分割
【原出願日】2018-10-01
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2017194513
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】平岩 友祐
(72)【発明者】
【氏名】林 茂也
(72)【発明者】
【氏名】大井 信之
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/056608(WO,A1)
【文献】特開2016-079374(JP,A)
【文献】国際公開第2017/175733(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス粉を成型して塊状物とする成型工程、および、成型工程後の塊状物を加熱する加熱工程を経て得られ、
バイオマス粉同士の接続または接着が維持され、
「国際連合:危険物輸送に関する勧告:試験方法および及び判定基準のマニュアル:第5版:自己発熱性試験」に基づく自己発熱性試験における最高到達温度が200℃未満であり、かつ、
下記条件(a1)~条件(f1)のいずれかを満たす、バイオマス固体燃料;
条件(a1):前記バイオマス粉の原料がゴムの木を含み
、原料中のゴムの木の含有量が100wt%であり、バイオマス固体燃料の無水無灰ベース揮発分が74.0wt%以上であり、加熱工程における加熱温度が230~249℃である;
条件(d1):前記バイオマス粉の原料がラジアータパインを含み
、原料中のラジアータパインの含有量が100wt%であり、バイオマス固体燃料の無水無灰ベース揮発分が77.5wt%以上であり、加熱工程における加熱温度が250~270℃である;
条件(e1):前記バイオマス粉の原料がカラマツとスプルースとカバノキとの混合物を含み
、原料中のカラマツとスプルースとカバノキとの混合物の含有量が100wt%であり、カラマツ:スプルース:カバノキの重量比が、30~70:25~65:0~25であり、バイオマス固体燃料の無水無灰ベース揮発分が71.0wt%以上であり、加熱工程における加熱温度が230~270℃である;
条件(f1):前記バイオマス粉の原料がスプルースとマツとモミとの混合物を含み
、原料中のスプルースとマツとモミとの混合物の含有量が100wt%であり、スプルース:マツ:モミの重量比が20~40:30~60:10~40であり、バイオマス固体燃料の無水無灰ベース揮発分が74.3wt%以上であり、加熱工程における加熱温度が250~275℃である。
【請求項2】
前記固体燃料の無水無灰ベース揮発分が95.0wt%以下であり、燃料比が0.10~0.45である、請求項1に記載のバイオマス固体燃料。
【請求項3】
水中浸漬後、バイオマス粉同士の接続または接着が維持される、請求項1または請求項2に記載のバイオマス固体燃料。
【請求項4】
下記条件(a2)~条件(f2)のいずれかを満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載のバイオマス固体燃料;
条件(a2):前記条件(a1)を満たし、かつ、バイオマス固体燃料の燃料比が0.365以下である;
条件(d2):前記条件(d1)を満たし、かつ、バイオマス固体燃料の燃料比が0.295以下である;
条件(e2):前記条件(e1)を満たし、かつ、バイオマス固体燃料の燃料比が0.405以下である;
条件(f2):前記条件(f1)を満たし、かつ、バイオマス固体燃料の燃料比が0.34以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス固体燃料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木質系バイオマスを成型した固体燃料が知られているが、屋外貯蔵時の雨水等により崩壊してしまうためハンドリングが困難であり、またタール等の有機物が溶出するため排水のCOD(化学的酸素要求量)が増加してしまう、という問題があった。特許文献1には、植物系原料を水蒸気爆砕した後に成型、加熱を行うことで、バインダー等を使用せず、貯蔵時の雨水等によっても崩壊することなく、またタール分溶出を防止し、排水のCODを低減した固体燃料を得る方法が記載されている。また、特許文献2には、排水中のCODを低減しつつ、粉化も低減されたバイオマス固体燃料が記載されている。特許文献2に記載のバイオマス固体燃料は、バイオマスを成型して未加熱塊状物とし、これを加熱して得られるが、この方法は、特許文献1に記載のバイオマス固体燃料の製造方法に比べて、水蒸気爆砕工程を含まないためコストアップが抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/087949号
【文献】国際公開第2016/056608号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2においては、固体燃料の自己発熱性に関する検討が不十分であった。そこで、本発明は、自己発熱性が低く、運搬および貯蔵が容易なバイオマス固体燃料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、以下の事項に関する。
【0006】
1. バイオマス粉同士の接続または接着が維持され、
「国際連合:危険物輸送に関する勧告:試験方法および及び判定基準のマニュアル:第5版:自己発熱性試験」に基づく自己発熱性試験における最高到達温度が200℃未満である、バイオマス固体燃料。
【0007】
2. 前記固体燃料の無水無灰ベース揮発分が65.0~95.0wt%、燃料比が0.10~0.45である、上記1に記載のバイオマス固体燃料。
【0008】
3. 水中浸漬後、バイオマス粉同士の接続または接着が維持される、上記1または2に記載のバイオマス固体燃料。
【0009】
4. 前記バイオマス粉の原料がゴムの木を含み、バイオマス固体燃料の、無水無灰ベース揮発分が74.0wt%以上、燃料比が0.37以下である、バイオマス固体燃料;
前記バイオマス粉の原料がアカシアを含み、バイオマス固体燃料の、無水無灰ベース揮発分が77.5wt%以上、燃料比が0.285以下である、バイオマス固体燃料;
前記バイオマス粉の原料がフタバガキ科の樹種を含み、バイオマス固体燃料の、無水無灰ベース揮発分が77.2wt%以上、燃料比が0.295以下である、バイオマス固体燃料;
前記バイオマス粉の原料がラジアータパインを含み、バイオマス固体燃料の、無水無灰ベース揮発分が77.5wt%以上、燃料比が0.295以下である、バイオマス固体燃料;
前記バイオマス粉の原料がカラマツとスプルースとカバノキとの混合物を含み、バイオマス固体燃料の、無水無灰ベース揮発分が71.0wt%以上、燃料比が0.405以下である、バイオマス固体燃料、または
前記バイオマス粉の原料がスプルースとマツとモミとの混合物を含み、バイオマス固体燃料の、無水無灰ベース揮発分が74.3wt%以上、燃料比が0.34以下である、バイオマス固体燃料である、
上記1ないし3のいずれかに記載のバイオマス固体燃料。
【0010】
5.バイオマス粉を成型して未加熱塊状物とし、この未加熱塊状物を加熱して得られる、上記1ないし4のいずれかに記載のバイオマス固体燃料。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、自己発熱性が低く、運搬および貯蔵がしやすいバイオマス固体燃料、およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】固体燃料の固体温度と、自己発熱性試験における最高到達温度との関係を示す図である。
【
図2】固体燃料の固体温度と、BET比表面積との関係を示す図である。
【
図3A】発生ガス分析における、固体燃料の固体温度と、発生したO
2ガス濃度との関係を示す図である。
【
図3B】発生ガス分析における、固体燃料の固体温度と、発生したCOガス濃度との関係を示す図である。
【
図3C】発生ガス分析における、固体燃料の固体温度と、発生したCO
2ガス濃度との関係を示す図である。
【
図4】PBTにおける固架橋発達のメカニズム(推定)を示す図である。
【
図5】固体燃料のペレットの外表面のFT-IR分析の結果を示す図である。
【
図6】固体燃料のペレットの断面中心のFT-IR分析の結果を示す図である。
【
図7】固体燃料のアセトン抽出液のFT-IR分析の結果を示す図である。
【
図8】固体燃料のアセトン抽出後の固体のFT-IR分析の結果を示す図である。
【
図9】固体燃料のアセトン抽出液のGC-MS分析の結果を示す図である
【
図10】固体燃料を生理食塩水に浸漬した後のペレットの形状を示す図である。
【
図11】固体燃料を生理食塩水に浸漬する前と後のナトリウムの分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のバイオマス固体燃料の一態様は、原料のバイオマス粉を成型したバイオマス固体燃料であって、前記バイオマス粉同士の接続または接着が維持されるものであり、「国際連合:危険物輸送に関する勧告:試験方法および及び判定基準のマニュアル:第5版:自己発熱性試験」に基づく自己発熱性試験の最高到達温度が200℃未満であるため、運搬や貯蔵が容易な固体燃料である。
【0014】
本発明の固体燃料は、バイオマスを破砕後粉砕し、屑または粉状となったバイオマス粉を圧縮・成型して塊状物とする成型工程、成型工程後の塊状物を加熱する加熱工程を経て得られた加熱済固体物を燃料とするものである(後述のPBTに相当する)。本発明のバイオマス固体燃料は、例えば、原料として用いるバイオマスの樹種、加熱工程における加熱温度(本明細書において、「固体温度」と記載することがある)等を調整することにより、自己発熱性試験の最高到達温度が200℃未満と低く、かつ、好ましい性状(例えば、耐水性、粉砕性)を有するものを得ることができる。なお本明細書における工業分析値、元素分析値、高位発熱量はJIS M 8812、8813、8814に基づく。また、本明細書においては、原料であるバイオマスのことを単に「原料」または「バイオマス」とも記載し、成型工程により得られ、加熱工程前の塊状物のことを「未加熱塊状物」とも記載し、得られたバイオマス固体燃料のことを単に「固体燃料」とも記載する。
【0015】
本発明のバイオマス固体燃料の一態様は、例えばその無水無灰ベース(「daf」とも記載する)揮発分が、好ましくは65.0wt%以上、より好ましくは68.0wt%以上、さらに好ましくは70.0wt%以上であり、上限は、同じ原料のバイオマス粉を成型した未加熱の固体燃料(未加熱塊状物、後述のWPに相当する)の無水無灰ベース揮発分よりは低く、例えば95wt%以下、好ましくは88wt%以下である。後述の実施例に示すように、本発明の発明者は、固体燃料の自己発熱による温度上昇と、固体燃料の無水無灰ベース揮発分の量との間に相関関係があることを見出した。すなわち、固体燃料の無水無灰ベース揮発分の量を調整することにより、自己発熱性試験の最高到達温度を200℃未満に抑制することができる。
【0016】
本発明のバイオマス固体燃料の一態様は、例えばその燃料比(固定炭素/揮発分)が、好ましくは0.45以下、より好ましくは0.42以下、さらに好ましくは0.40以下である。下限は同じ原料のバイオマス粉を成型した未加熱の固体燃料(未加熱塊状物、後述のWPに相当する)の燃料比よりは高く、例えば0.10以上である。
【0017】
本発明のバイオマス固体燃料の一態様は、例えば、その無水ベース高位発熱量が、好ましくは4500~7000(kcal/kg)、より好ましくは4500~6000(kcal/kg)である。
【0018】
本発明のバイオマス固体燃料の一態様は、例えば、その酸素Oと炭素Cのモル比(O/C)が0.440~0.700であるのが好ましく、0.440~0.650であるのが好ましく、0.500~0.650であるのがさらに好ましく、0.500~0.600であるのがよりさらに好ましい。水素Hと炭素Cのモル比(H/C)が1.100~1.350にあるのが好ましい。
【0019】
本発明のバイオマス固体燃料は、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が、3000mg/L以下であることが好ましく、1000mg/L以下であることがより好ましい。ここで、バイオマス固体燃料を水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)(単に、「COD」とも記載する)とは、COD測定用浸漬水試料の調製を昭和48年環境庁告示第13号(イ)産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法に従って行い、JIS K0102(2010)-17によって分析したCOD値のことをいう。
【0020】
加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料は、特に限定はされないが、JIS M 8801に基づく粉砕性指数(HGI)が、15以上70以下であることが好ましく、より好ましくは20以上60以下である。また、BET比表面積が0.10m2/g~0.80m2/gであることが好ましく、0.11m2/g~0.80m2/gであることがより好ましく、0.15m2/g~0.80m2/gであることがさらに好ましい。また、本発明のバイオマス固体燃料は、水中浸漬後もバイオマス粉同士の接続または接着が維持され、水中浸漬後の平衡水分が10~65wt%であることが好ましく、15~65wt%であることがより好ましく、15~50wt%であることがさらに好ましく、15~45wt%であることがさらに好ましい。バイオマス固体燃料の物性値が該範囲内にあることにより、貯蔵時の排水中のCODを低減しつつ粉化を低減し、貯蔵時のハンドリング性を向上させることができる。
【0021】
本発明のバイオマス固体燃料の原料は、特に限定されないが、一態様として、ゴムの木;アカシア;フタバガキ科の樹種;ラジアータパイン;カラマツ、スプルース、およびカバノキの混合物;ならびにスプルース、マツ、およびモミの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のバイオマスを含む原料であるのが好ましい。カラマツ、スプルース、およびカバノキはそれぞれ単独で原料のバイオマスとして用いてもよいが、これらのうちの2種以上、好ましくは3種の混合物であるのが好ましい。また、スプルース、マツ、およびモミは、それぞれ単独で原料のバイオマスとして用いてもよいが、これらのうちの2種以上、好ましくは3種の混合物であるのが好ましい。本発明のバイオマス固体燃料は、その製造方法において、水蒸気爆砕の工程、およびバインダーを要しないため、コストアップを抑制することができる。
【0022】
また、原料として、上記以外のその他の樹種をさらに含んでもよい。本発明の一態様においては、原料のバイオマスの総重量に対する、ゴムの木;アカシア;フタバガキ科の樹種;ラジアータパイン;カラマツ、スプルース、およびカバノキの混合物;ならびに、スプルース、マツ、およびモミの混合物からなる群から選ばれる1種以上のバイオマスの含有量が、50重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、100重量%であってもよい。
【0023】
バイオマス粉の粒径は、特に限定されないが、好ましくは平均で約100μm~3000μm、より好ましくは平均で400μm~1000μmである。なお、バイオマス粉の粒径の測定方法は公知の測定方法を用いてよい。後述のとおり、本発明のバイオマス固体燃料(PBT)においては固架橋によりバイオマス粉同士の接続または接着が維持されるため、成型可能な範囲であればバイオマス粉同士の粒径は特に限定しない。また微粉砕はコストアップ要因となるため、コストと成型性を両立可能な範囲の粒径であれば公知の範囲でよい。
【0024】
上述のとおり、本発明のバイオマス固体燃料は、成型工程とこれに続く加熱工程とを含む方法により製造される。成型工程では、公知の成型技術を用いて塊状物とする。塊状物はペレットまたはブリケットであることが好ましく、大きさは任意である。加熱工程では、酸素濃度10%以下の雰囲気で成型された塊状物を加熱する。
【0025】
本発明のバイオマス固体燃料の製造方法は、破砕及び粉砕されたバイオマスのバイオマス粉を成型して未加熱塊状物を得る成型工程と、該未加熱塊状物を加熱し、加熱済固体物を得る加熱工程とを有し、加熱工程における加熱温度は、170℃~400℃であることが好ましい。この加熱温度は原料となるバイオマスおよび塊状物の形状、大きさによって適宜決定されるが、例えば、170~400℃が好ましく、200~350℃がより好ましく、230~300℃がさらに好ましく、230~280℃が特に好ましい。また、加熱工程における加熱時間は、特に限定されないが、0.2~3時間が好ましい。
【0026】
加熱工程前の未加熱塊状物の嵩密度をA、加熱工程後の加熱済固体物の嵩密度をBとすると、B/A=0.6~1であることが好ましい。嵩密度Aの値はバイオマス粉を成型して未加熱塊状物を得られる公知の範囲であれば特に限定されない。また原料バイオマスの種類によっても嵩密度は変化するため適宜設定されてよい。嵩密度は、後述の実施例に記載の方法により測定できる。また、未加熱塊状物のHGI(JIS M8801のハードグローブ粉砕性指数)をH1、前記加熱済固体物のHGIをH2とすると、H2/H1(HGI比)が、1.1~4.0であることが好ましく、1.1~2.5であることがより好ましい。B/A(嵩密度比)とH2/H1(HGI比)のいずれかまたは両方の値がこの範囲となるように加熱を行うことで、貯蔵時の排水中のCODを低減しつつ粉化を低減し、貯蔵時のハンドリング性を向上させたバイオマス固体燃料を得ることができる。
【0027】
[原料バイオマスの種類と固体燃料の性状]
バイオマス固体燃料の特性は、原料として用いるバイオマスの樹種によって、好適な範囲を定めてもよい。以下、バイオマス原料の種類と得られる固体燃料の性状、およびその製造方法について、好ましい範囲をそれぞれ記載するが、これらは一例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
(ゴムの木:固体燃料a)
本発明の一態様として、原料がゴムの木を含む場合のバイオマス固体燃料(以下、固体燃料aと記載することがある)の性状は以下のとおりである。なお、固体燃料aの原料中、ゴムの木の含有量は50wt%以上であるのが好ましく、70wt%以上であるのがより好ましく、80wt%以上であるのがさらに好ましく、100wt%であってもよい。
【0029】
固体燃料aの「国際連合:危険物輸送に関する勧告:試験方法および及び判定基準のマニュアル:第5版:自己発熱性試験」に基づく自己発熱性試験(本明細書においては、単に「自己発熱性試験」とも記載する)の最高到達温度は200℃未満である。
【0030】
固体燃料aの無水無灰ベース揮発分は、74.0wt%以上であるのが好ましく、75.0wt%以上であるのがより好ましく、76.0wt%以上であるのがさらに好ましく、80.1wt%超過がよりさらに好ましい。また83.0wt%未満であることが好ましい。無水無灰ベース揮発分がこの範囲内にあることにより、自己発熱性が抑制された固体燃料aを得やすい。
【0031】
BET比表面積は、0.350m2/g~0.442m2/gであることが好ましい。
【0032】
HGIについては20~34が好ましく、25~33がより好ましい。HGI比については1.1~2.5が好ましく、1.5~2.0がより好ましい。
【0033】
燃料比については、0.37以下が好ましく、0.365以下がより好ましく、0.34以下がより好ましく、0.32以下がさらに好ましい。下限は特に限定されないが、0.21超過が好ましく、0.25以上がより好ましい。
【0034】
無水ベース高位発熱量は4650~5180kcal/kgが好ましく、4700~5150kcal/kgがより好ましく、4750~5050kcal/kgがさらに好ましく、4885kcal/kg以上がよりさらに好ましい。
【0035】
酸素Oと炭素Cのモル比O/Cは0.50~0.65が好ましく、0.50~0.60がより好ましい。
【0036】
水素Hと炭素Cのモル比H/Cは1.145~1.230が好ましく、1.145~1.220がより好ましい。O/CおよびH/Cが上記範囲内にあると、自己発熱性試験における最高到達温度が200℃未満の固体燃料aを得やすい。
【0037】
固体収率(算出方法は後述の実施例を参照、以下同じ)は、好ましくは77wt%以上、より好ましくは80wt%以上、さらに好ましくは83wt%以上、よりさらに好ましくは88wt%以上である。上限は、特に限定されないが、好ましくは95wt%以下である。
【0038】
以上、固体燃料aの性状における好ましい範囲を記載した。
【0039】
また固体燃料aを製造する際、加熱工程における加熱温度は、特に限定されないが、好ましくは170℃~254℃、より好ましくは200℃~254℃、さらに好ましくは225℃~254℃である。
【0040】
(アカシア:固体燃料b)
本発明の一態様として、原料がアカシアを含む場合のバイオマス固体燃料(以下、固体燃料bと記載することがある)の性状は以下のとおりである。なお、固体燃料bの原料中、アカシアの含有量は50wt%以上であるのが好ましく、70wt%以上であるのがより好ましく、80wt%以上であるのがさらに好ましく、100wt%であってもよい。
【0041】
固体燃料bの自己発熱性試験における最高到達温度は200℃未満である。
【0042】
固体燃料bの無水無灰ベース揮発分が、77.5wt%以上であるのが好ましく、77.8wt%以上であるのがより好ましく、78.0wt%以上であるのがさらに好ましい。また83.1wt%未満であることが好ましい。無水無灰ベース揮発分がこの範囲内にあることにより、自己発熱性が抑制された固体燃料bを得やすい。
【0043】
HGIは25~60が好ましく、35~55がより好ましい。HGI比は1.35~3.5が好ましく、1.5~3.2がより好ましい。
【0044】
BET比表面積は0.250m2/g~0.500m2/gであることが好ましく、0.300m2/g~0.480m2/gであることがより好ましく、0.350m2/g~0.450m2/gであることがさらに好ましい。
【0045】
燃料比は、0.285以下が好ましく、0.280以下がより好ましい。また0.20超過が好ましい。
【0046】
無水ベース高位発熱量は、4800~5260kcal/kgが好ましく、4900~5260kcal/kgがより好ましく、4900~5250kcal/kgがさらに好ましい。
【0047】
酸素Oと炭素Cのモル比O/Cは0.52~0.62が好ましく、0.52~0.60がより好ましい。水素Hと炭素Cのモル比H/Cは、1.205~1.300が好ましく、1.205~1.290がより好ましい。
【0048】
固体収率は、好ましくは84.0wt%以上、より好ましくは84.5wt%以上、さらに好ましくは85.0wt%以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは95wt%以下である。
【0049】
以上、固体燃料bの性状における好ましい範囲を記載した。
【0050】
また固体燃料bを製造する際、加熱工程における加熱温度は、特に限定されないが、170~252℃が好ましく、200~252℃がより好ましく、225~252℃がさらに好ましい。
【0051】
(フタバガキ科:固体燃料c)
本発明の一態様として、原料がフタバガキ科の樹種を含む場合のバイオマス固体燃料(以下、固体燃料cと記載することがある)の性状は以下のとおりである。なお、固体燃料cの原料中、フタバガキ科の含有量は50wt%以上であるのが好ましく、70wt%以上であるのがより好ましく、80wt%以上であるのがさらに好ましく、100wt%であってもよい。フタバガキ科の樹種としては、例えば、セランガンバツ、メランティ、クルイン、カプール等が挙げられる。固体燃料cは、さらにフタバガキ科以外の科のバイオマスを原料として含んでもよい。フタバガキ科以外の科のバイオマスは、特に限定されないが、例えば、セプター、メルバウ等のマメ科、スカフィウム等のアオイ科等の、熱帯広葉樹であるのが好ましい。
【0052】
固体燃料cの自己発熱性試験における最高到達温度は200℃未満である。
【0053】
固体燃料cの無水無灰ベース揮発分が、77.2wt%以上であるのが好ましく、77.5wt%以上であるのがより好ましく、78.0wt%以上であるのがさらに好ましく、78.5wt%以上であるのがよりさらに好ましい。また84.4wt%未満が好ましい。無水無灰ベース揮発分がこの範囲内にあることにより、自己発熱性が抑制された固体燃料cを得やすい。
【0054】
HGIは、25~60であることが好ましく、30~60であることがより好ましい。HGI比は1.05~3.0が好ましく、1.2~3.0がより好ましい。
【0055】
BET比表面積は、0.250~0.400m2/gであることが好ましく、0.300~0.400m2/gであることがさらに好ましい。
【0056】
燃料比は、0.295以下が好ましく、0.29以下が好ましく、0.28以下がより好ましい。また、0.18超過が好ましい。
【0057】
無水ベース高位発熱量は、4800~5300kcal/kgが好ましく、4900~5300kcal/kgがより好ましく、4950~5270kcal/kgがさらに好ましい。
【0058】
酸素Oと炭素Cのモル比O/Cは0.515~0.620が好ましく、0.520~0.620がより好ましく、0.545~0.620がさらに好ましい。
【0059】
水素Hと炭素Cのモル比H/Cは1.21~1.30が好ましい。
【0060】
固体収率は、好ましくは84.5wt%以上、より好ましくは85.0wt%以上、さらに好ましくは85.5wt%以上であり、よりさらに好ましくは87.8wt%以上である。上限は、特に限定されないが、好ましくは95wt%以下である。
【0061】
以上、固体燃料cの性状における好ましい範囲を記載した。
【0062】
また固体燃料cを製造する際、加熱工程における加熱温度は、特に限定されないが、好ましくは170~259℃、より好ましくは200~259℃、さらに好ましくは225~259℃である。
【0063】
(ラジアータパイン:固体燃料d)
本発明の一態様として、原料がラジアータパインを含む場合のバイオマス固体燃料(以下、固体燃料dと記載することがある)の性状は以下のとおりである。なお、固体燃料dの原料中、ラジアータパインの含有量は50wt%以上であるのが好ましく、70wt%以上であるのがより好ましく、80wt%以上であるのがさらに好ましく、100wt%であってもよい。
【0064】
固体燃料dの自己発熱性試験における最高到達温度は200℃未満である。
【0065】
固体燃料dの無水無灰ベース揮発分が、77.5wt%以上であるのが好ましく、77.8wt%以上であるのがより好ましく、78.0wt%以上であるのがさらに好ましい。また87.2wt%未満が好ましい。無水無灰ベース揮発分がこの範囲内にあることにより、自己発熱性が抑制された固体燃料dを得やすい。
【0066】
BET比表面積は、0.250m2/g~0.350m2/gが好ましく、0.250m2/g~0.333m2/gであることがより好ましく、0.250m2/g~0.330m2/gであることがさらに好ましい。
【0067】
HGIは、25~45が好ましく、30~40がより好ましい。HGI比は1.01~2.0が好ましく、1.2~1.7がより好ましい。
【0068】
燃料比は、0.295以下が好ましく、0.290以下がより好ましく、0.285以下がさらに好ましい。また、0.15超過が好ましい。
【0069】
無水ベース高位発熱量は、4800~5440kcal/kgが好ましく、4900~5440kcal/kgがより好ましく、5000~5440kcal/kgがさらに好ましい。
【0070】
酸素Oと炭素Cのモル比O/Cは、0.505~0.650が好ましく、0.505~0.600がより好ましい。水素Hと炭素Cのモル比H/Cは、1.18~1.35が好ましく、1.18~1.30がより好ましい。
【0071】
固体収率は、好ましくは80.0wt%以上であり、より好ましくは80.5wt%以上であり、さらに好ましくは81.0wt%以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは95wt%以下である。
【0072】
以上、固体燃料dの性状における好ましい範囲を記載した。
【0073】
また、固体燃料dを製造する際、加熱工程における加熱温度は、特に限定されないが、170~274℃が好ましく、200~274℃がより好ましく、230~274℃がさらに好ましい。
【0074】
(カラマツ、スプルースおよびカバノキの混合物:固体燃料e)
本発明の一態様として、原料がカラマツとスプルースとカバノキとの混合物を含む場合のバイオマス固体燃料(以下、固体燃料eと記載することがある)の性状は以下のとおりである。カラマツ、スプルースおよびカバノキの混合割合は、特に限定されないが、例えば重量比で、カラマツ:スプルース:カバノキ=30~70:25~65:0~25で混合してもよい。なお、固体燃料eの原料中、カラマツ、スプルースおよびカバノキの混合物の含有量は、50wt%以上であるのが好ましく、70wt%以上であるのがより好ましく、80wt%以上であるのがさらに好ましく、100wt%であってもよい。
【0075】
固体燃料eの自己発熱性試験における最高到達温度は200℃未満である。
【0076】
固体燃料eの無水無灰ベース揮発分が、71.0wt%以上であるのが好ましく、73.0wt%以上であるのがより好ましく、76.0wt%以上であるのがさらに好ましい。また85.9wt%未満が好ましい。無水無灰ベース揮発分がこの範囲内にあることにより、自己発熱性が抑制された固体燃料eを得やすい。
【0077】
BET比表面積は、0.120m2/g~0.250m2/gであることが好ましく、0.150m2/g~0.250m2/gであることがより好ましく、0.150m2/g~0.230m2/gであることがさらに好ましく、0.155m2/g~0.230m2/gであることがよりさらに好ましい。
【0078】
HGIは、18~40が好ましく、20~35がより好ましい。HGI比は1.01~2.5が好ましく、1.15~2.2がより好ましい。
【0079】
燃料比は、0.405以下が好ましく、0.35以下がより好ましく、0.30以下がさらに好ましい。また0.16超過が好ましい。
【0080】
無水ベース高位発熱量は、4800~5700kcal/kgが好ましく、4800~5600kcal/kgがより好ましく、4900~5500kcal/kgがさらに好ましい。
【0081】
酸素Oと炭素Cのモル比O/Cは、0.44~0.64が好ましく、0.50~0.63がより好ましい。水素Hと炭素Cのモル比H/Cは、1.10~1.30が好ましい。
【0082】
固体収率は、好ましくは71.0wt%以上、より好ましくは75.0wt%以上、さらに好ましくは78.0wt%以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは95wt%以下である。
【0083】
以上、固体燃料eの性状における好ましい範囲を記載した。
【0084】
また、固体燃料eを製造する際、加熱工程における加熱温度は、特に限定されないが、170~289℃が好ましく、200~285℃がより好ましく、220~280℃がさらに好ましい。
【0085】
(スプルース、マツおよびモミの混合物:固体燃料f)
本発明の一態様として、原料がスプルースとマツとモミとの混合物を含む場合のバイオマス固体燃料(以下、固体燃料fと記載することがある)の性状は以下のとおりである。スプルース、マツおよびモミの混合割合は、特に限定されないが、例えば重量比で、スプルース:マツ:モミ=20~40:30~60:10~40で混合してもよい。なお、固体燃料fの原料中、スプルース、マツおよびモミの混合物の含有量は、50wt%以上であるのが好ましく、70wt%以上であるのがより好ましく、80wt%以上であるのがさらに好ましく、100wt%であってもよい。
【0086】
固体燃料fの自己発熱性試験における最高到達温度は200℃未満である。
【0087】
固体燃料fの無水無灰ベース揮発分が、74.3wt%以上であるのが好ましく、74.5wt%以上であるのがより好ましく、75.0wt%以上であるのがさらに好ましい。また85.6wt%未満が好ましく、85.0wt%以下がより好ましい。無水無灰ベース揮発分がこの範囲内にあることにより、自己発熱性が抑制された固体燃料fを得やすい。
【0088】
BET比表面積は、0.200m2/g~0.317m2/gであることが好ましく、0.230m2/g~0.317m2/gであることがより好ましい。
【0089】
HGIは、19~39が好ましく、20~38がより好ましい。HGI比は1.20~2.20が好ましく、1.50~2.10がより好ましい。
【0090】
燃料比は、0.34以下が好ましく、0.33以下がより好ましい。また、0.17超過が好ましく、0.18以上がより好ましい。
【0091】
無水ベース高位発熱量は、4800~5560kcal/kgが好ましく、4800~5550kcal/kgがより好ましく、4900~5500kcal/kgがさらに好ましい。
【0092】
酸素Oと炭素Cのモル比O/Cは、0.47超過~0.61が好ましく、0.48~0.60がより好ましい。水素Hと炭素Cのモル比H/Cは、1.10超過~1.26が好ましく、1.11~1.25がより好ましい。
【0093】
固体収率は、好ましくは75.5wt%以上、より好ましくは76.0wt%以上、さらに好ましくは76.5wt%以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは95wt%以下である。
【0094】
以上、固体燃料fの性状における好ましい範囲を記載した。
【0095】
また、固体燃料fを製造する際、加熱工程における加熱温度は、特に限定されないが、170~280℃未満が好ましく、200~279℃がより好ましく、220~279℃がさらに好ましい。
【0096】
上記のとおり、本発明のバイオマス固体燃料は、自己発熱性が低くて運搬および貯蔵が容易なバイオマス固体燃料であり、かつ、燃料として良好な性状を有する。
【0097】
本発明者らは、バイオマス固体燃料の製造方法において、成型工程の後、未加熱塊状物を加熱する加熱工程を行うという工程の順序により、バインダーを使用することなく原料であるバイオマス由来の成分を用いてバイオマス粉同士の接続または接着が維持され、水中浸漬によっても崩壊することがない耐水性の高いバイオマス固体燃料を製造することができると推察している。本発明者らの解析により、バイオマス固体燃料が耐水性を獲得するメカニズムについて下記の知見が得られた。
【0098】
本発明者は、製造方法の異なる3種類のバイオマス固体燃料、具体的には、粉砕されたバイオマスを成型した未加熱の固体燃料(White Pellet:「WP」と記載することがある)、および粉砕されたバイオマスを成型した後加熱して得られた固体燃料(Pelletizing Before Torrefaction:「PBT」と記載することがある)について、FT-IR分析、GC-MS分析、SEMによる観察等を行い、バイオマス固体燃料の耐水性のメカニズムについて解析を行った。なおWP、PBTいずれにおいてもバインダーは使用されない。
図5~8にバイオマス固体燃料のFT-IR分析の結果の一例を示し、
図9にバイオマス固体燃料のアセトン抽出液のGC-MS分析の結果を示す(詳細は実施例を参照)。
【0099】
まず、各固体燃料のアセトン抽出物についてFT-IRにより分析したところ、加熱工程を経て得られるPBTは、未加熱のWPに比べて親水性のCOOH基の含有量は少ないが、C=C結合の含有量が多いことから、加熱によりバイオマスを構成する成分の化学構造が変化して疎水性になっていることが示唆された。
【0100】
さらに、各固体燃料のアセトン抽出成分についてGC-MS分析を行ったところ、アビエチン酸とその誘導体(以下、「アビエチン酸等」とも呼ぶ)等のテルペン類が加熱により熱分解することが、バイオマス固体燃料の耐水性に関与していることが示唆された。アビエチン酸等は、マツ等に含まれるロジンの主成分である。
【0101】
図4はPBTにおける固架橋発達のメカニズム(推定)を示す図である。PBTの場合は、成型工程後の加熱工程において、温度上昇にしたがいアビエチン酸の溶融による液が、粉砕されたバイオマス(「バイオマス粉」とも記載する)同士の間隙(粉砕後成型により圧密され、隣接するバイオマス粉の間隙)に溶出し、さらにアビエチン酸の蒸発と熱分解がおこり、疎水物が上記バイオマス粉同士の間隙に固着して架橋(固架橋)が発達する。これにより、バインダーを添加することなく、原料であるバイオマス由来のアビエチン酸等によりバイオマス粉同士の接続または接着が維持される。よってバイオマス粉同士が接続または接着されて水の進入を抑制し、耐水性が向上すると考えられる。
【0102】
一方、WPの場合は単にバイオマス粉を成型したに留まるのみで加熱を行わないため、上記PBTのようにバイオマス粉同士の固架橋が存在しない。WPを構成する生のバイオマス粉の表面には上述のとおり親水性のCOOH基等が多く存在するため水の浸入が容易であり、侵入した水がバイオマス粉同士の間隙を大きく広げ、成型したペレット等が崩壊しやすくなってしまう。
【0103】
また、バイオマス粉を加熱した後に成型した固体燃料(Pelletizing After Torrefaction:以下PATと記載することがある)の場合、加熱により個々のバイオマス粉そのものはアビエチン酸等の溶出により表面が疎水性になるが、あくまでも加熱により疎水性になった後に粉砕して成型を行うため、PBTのようにバイオマス粉同士の架橋は形成されないと考えられる。したがって成型前に加熱を行うPATでは、圧密されたバイオマス粉同士の間隙に容易に水が浸入し、PBTに比べて耐水性が劣るものと推察される。
【0104】
アビエチン酸またはその誘導体の融点は約139~142℃であり、沸点は約250℃である。よって、加熱により融点付近でアビエチン酸等が溶融して液架橋がおこり、沸点付近でアビエチン酸等が熱分解して固架橋が発達するものと推察される。
【0105】
なおアビエチン酸を始めとするテルペン類はバイオマス一般に含まれている(北海道立林産試験場月報 171号 1966年4月、公益社団法人日本木材保存協会「木材保存」Vol.34‐2(2008)等)。バイオマスの種類によって若干含有量に差はあるものの(『精油の利用』大平辰朗 日本木材学会第6期研究分科会報告書p72 第1表日本木材学会1999年等)、下記実施例ではいずれも230℃以上の加熱により耐水性(水中浸漬後でも崩壊しない、表2参照)の発現がみられるため、バイオマス一般について少なくとも230℃以上~250℃以上の加熱により耐水性が付与されるものと考えられる。
【0106】
また、PBTでは固架橋の発達により固体燃料の強度が向上し、耐水性同様に少なくとも230℃以上~250℃以上の加熱によって、バインダーを添加することなく良好な粉砕性(HGI、ボールミル粉砕性)及び良好なハンドリング性(機械的耐久性、粉化試験)が得られると推察される。さらにPBTでは前述のとおりCODが低減されるが、これは加熱によってバイオマス原料のタール分が揮発すると同時に、PBTの固体燃料表面が固化したアビエチン酸等によって被覆され、さらに固体燃料表面が疎水性となってバイオマス原料内に残存するタール分の溶出が抑制されるためと考えられる。
【0107】
図1および後述の実施例に示されるように、バイオマス固体燃料(PBT)の製造時の加熱工程における加熱温度(「固体温度」または「目標温度」とも記載する)が上昇するほど、自己発熱性試験の最高到達温度は高くなる傾向にある。本発明者は、この固体温度と自己発熱性との関係について詳細に検討し、以下の知見を得た。
【0108】
固体燃料の固体温度が高くなるにつれて、固体燃料のBET比表面積が増加する(
図2)。これは、固体温度の上昇に伴い、固体燃料の熱分解が進んで揮発分の含有量が低下し、固体燃料の表面で細孔が発達してポーラスになるからであると考えられる。各固体燃料から発生するガスについて詳細に検討したところ、固体温度が上昇するほど発生ガス中のO
2濃度が減少していることから、固体燃料の表面へのO
2吸着量が増加していることが示された(
図3A)。一方、固体温度の上昇に伴い、COおよびCO
2濃度は増加しており、吸着したO
2により酸化反応(発熱反応)が進行していることが示唆された(
図3Bおよび
図3C)。
図1~
図3Cは、原料としてゴムの木を用いた場合の分析結果であるが、ラジアータパインを原料として用いた場合も同様の結果が得られた(詳細は後述の実施例参照)。
【0109】
これらの結果から、固体燃料の固体温度と自己発熱性との関係について、下記のような反応メカニズムが考えられる。まず、固体燃料を製造する際の加熱温度が上昇すると、固体燃料中で熱分解が進んで揮発分が低下し、ペレット表面がポーラスとなりBET比表面積が増加する。これにより、固体燃料の表面へのO2吸着量が上昇し、酸化反応(発熱反応)が進行する。したがって、固体温度がある温度を超えると、蓄熱量が放熱量を上回り、自己発熱性試験の最高到達温度が200℃以上になってしまうと推察される。
【実施例】
【0110】
以下、実施例により本発明について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0111】
本明細書中において、用いた略号は下記のとおりである。
FC:固定炭素
VM:揮発分
HHV:無水ベース高位発熱量
HGI:ハードグローブ粉砕性指数
AD:気乾ベース
daf:無水無灰ベース
dry:無水ベース
【0112】
実施例において行った、各バイオマス固体燃料の分析方法を以下記載する。
【0113】
<水中浸漬前>
[収率]
固体収率は加熱前後の重量比(100×加熱後の乾重量/加熱前の乾重量(%))、熱収率は加熱前後の発熱量比(加熱後の高位発熱量(無水ベース)×固体収率/加熱前の高位発熱量(無水ベース))である。なお、後述のとおり、各例の目標温度(加熱温度)における保持は行っていない。
【0114】
さらに、高位発熱量(無水ベース)、工業分析値(気乾ベース)に基づき算出された燃料比、および元素分析値(無水ベース)の結果とこれに基づき得られた酸素O、炭素C、水素Hのモル比をそれぞれ算出した。また、HGIは、上記のとおりJIS M 8801に基づくものであり、高いほど粉砕性が良好であることを示す。HGI比は、加熱後のHGI/加熱前のHGIにより算出される。後述の表1A、表1Bおよび表3A中、「HHV」は高位発熱量(無水ベース)、「FC」は固定炭素(気乾ベース)、「VM」は揮発分(ADは気乾ベース、dafは無水無灰ベース)、燃料比は、「FC(AD)/VM(AD)」で算出された値を表す。
【0115】
[BET比表面積]
各例の固体燃料につき、自動比表面積/細孔径分布測定装置(日本ベル(株)製BELSORP-min II)を用い、前処理として試料を2~6mmにカットして容器内に充填した後に、100℃で2時間真空脱気してBET比表面積を求めた。なお吸着ガスには窒素ガスを用いた。
【0116】
[ボールミル粉砕性]
各バイオマス固体燃料の粉砕時間を20分として、20分後の150μm篩下の重量比を粉砕ポイントとした。なお、ボールミルはJIS M4002に準拠したものを用い、内径305mm×軸方向長さ305mmの円筒容器にJIS B1501に規定された並級ボールベアリング(Φ36.5mm×43個、Φ30.2mm×67個、Φ24.4mm×10個、Φ19.1mm×71個、Φ15.9mm×94個)を入れて70rpmの速度で回転させて測定した。数値が高い方が粉砕性は向上していることを示す。
【0117】
[水中浸漬前の寸法(径と長さ)]
各固体燃料につき水中浸漬前のペレット長さ(L1(mm))とペレット径(φ1(mm))を測定した。ペレット長さについては、浸漬前のペレットを固体燃料ごとに無作為に10個選択し、電子ノギス(ミツトヨ製:CD-15CX、繰り返し精度は0.01mmであり小数点2桁の部分を四捨五入した。)により測定した。なおペレット端が斜めの場合は最も先端部分までを長さとして計測した。ペレット径についても同様の電子ノギスを用いて測定した。ペレット長さと径の測定値は、10個の平均値である。
【0118】
[水中浸漬前の固体強度(機械的耐久性)]
各固体燃料について、アメリカ農業工業者規格ASAE S 269.4、およびドイツ工業規格DIN EN 15210-1に準拠して機械的耐久性DUを以下の式に基づいて測定した。式中、m0は回転処理前の試料重量、m1は回転処理後の篩上試料重量であり、篩は円孔径3.15mmの板ふるいを用いた。
【0119】
DU=(m1/m0)×100
【0120】
[嵩密度]
各固体燃料について、英国国家規格BS EN15103:2009に準拠して嵩密度BDを下記式:
BD=(m2-m1)/V
により算出した。測定には、内径167mm×高さ228mmの容器を用いた。式中m1は容器重量、m2は容器重量+試料重量、Vは容器容積である。
【0121】
<水中浸漬後>
固体燃料を水中に浸漬した際の浸漬水のCODの測定方法、ならびに、固体燃料を水中に168時間浸漬した後の径、長さ、pH、固体水分、および機械的耐久性についての測定方法は下記のとおりである。
【0122】
[COD]
各バイオマス固体燃料を水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)を測定した。COD測定用浸漬水試料の調製は、昭和48年環境庁告示第13号(イ)産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法に従い、CODはJIS K0102(2010)-17によって分析した。
【0123】
[水中浸漬後の寸法(径と長さ)]
水中浸漬後の各固体燃料につき、水中浸漬前と同様にペレット長さ(L2(mm))とペレット径(φ2(mm))を測定した。ペレット長さについては、浸漬前に無作為に選択した10個について電子ノギス(ミツトヨ製:CD-15CX、繰り返し精度は0.01mmであり小数点2桁の部分を四捨五入した。)により測定した。なおペレット端が斜めの場合は最も先端部分までを長さとして計測した。ペレット径についても同様の電子ノギスを用いて測定した。ペレット長さと径の測定値は、10個の平均値である。
【0124】
[pH]
各固体燃料を固液比1:3で水中に浸漬し、pHを測定した。
【0125】
[水中浸漬後の固体水分]
各例の固体燃料を水中に浸し、168時間経過後に取り出して固体表面の水分をウェスで拭き取って固体水分を測定した。固体水分量は、
100×(水中浸漬後の固体の重量-水中浸漬後の固体の乾重量)/水中浸漬後の固体の重量
により算出した。
【0126】
[水中浸漬後の機械的耐久性]
水中浸漬前と同様の方法により、168時間水中浸漬後の各例のペレットの機械的耐久性を測定した。
【0127】
[自己発熱性]
「国際連合:危険物輸送に関する勧告:試験方法および及び判定基準のマニュアル:第5版:自己発熱性試験」に基づき評価を行った。試料容器(一辺が10cmのステンレス網立方体)にバイオマス固体燃料を充填し、恒温槽内部に吊り下げ、140℃の温度で24時間連続して物質の温度を測定し、最も高い温度を「最高到達温度」とした。発火又は200℃以上にまで温度が上昇したと認められた物質は、自己発熱性物質と認めた。
【0128】
以下の例a~例fにおいては、下記の製造方法によりそれぞれバイオマス固体燃料を製造した。なお、すべての例、比較例において、バイオマス固体燃料の製造にバインダーは用いていない。これら固体燃料の性状等を表1A、表1B、表2、表3A、および表3Bに示す。
【0129】
<例a:ゴムの木>
以下の例a1~a5および比較例a1~a3においては、原料のバイオマスとして、ゴムの木を用いて下記のようにバイオマス固体燃料を製造した。
【0130】
(例a1~例a5、比較例a2~a3)
バイオマスを破砕後粉砕し、粉砕されたバイオマスを成型する成型工程およびその後の加熱工程を経てバイオマス固体燃料(PBT)を得た。いずれの工程においてもバインダーは使用されない。各例の成型工程においては、直径7.5mmのペレット形状に成型した。各実施例における加熱工程ではφ600mm電気式バッチ炉にそれぞれの原料(成型したバイオマス)を4kg投入し、2℃/minの昇温速度で各例における目標温度(表1Aにおける加熱温度)まで昇温させ、窒素パージして酸素濃度5%以下で加熱した。以下、目標温度と加熱温度は同一のものを指す。例a1~例a5、比較例a2および比較例a3のいずれにおいても目標温度(加熱温度)における保持は行っていない(以下の例b~例fも同様)。例a1~例a5、および比較例a2、比較例a3の加熱工程における加熱温度と、加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料の性状を表1Aおよび表2に示す。なお、水中浸漬後の水分は168時間浸漬後のものであるため、実質的に固体燃料内の水分は平衡に達していると看做す。
【0131】
(比較例a1)
比較例a1は破砕、粉砕後に成型したのみで加熱工程を経ていない、未加熱のバイオマス固体燃料(WP)である。比較例a1についてもバインダーは不使用である。比較例a1の固体燃料の性状についても表1Aおよび表2に示す。比較例a1の未加熱のバイオマス固体燃料(WP)は、168時間の水中浸漬後、ペレットが崩壊してしまい、各性状の測定を行うことができなかった。
【0132】
比較例a2およびa3の固体燃料(PBT)は自己発熱性試験の最高到達温度が200℃以上であった。これに対し、例a1~例a5の固体燃料は、自己発熱性試験の最高到達温度が低く、運搬および貯蔵が容易であることが示された。表1Aおよび表2の結果から、固体燃料(PBT)の揮発分(無水無灰ベース)が大きいほど、この自己発熱性試験の最高到達温度は、低くなることが示された。
【0133】
比較例a1(WP:成型したのみで加熱工程を経ていないバイオマス固体燃料)は、上記のとおり水中浸漬(168時間)によりペレット形状を維持できずに崩壊してしまった。これに対し、例a1~例a5の固体燃料は、バイオマス粉同士の接続または接着が維持され、水中浸漬により崩壊することはなく、屋外貯蔵した際に出る排水のCODが低く、屋外貯蔵されることが多い固体燃料として有利な特性を示した。
【0134】
一般的な石炭(瀝青炭)のHGI(JIS M 8801に基づく)は50前後であるが、例a1~例a5の固体燃料では、加熱により性状が変化し、比較例a1(WP)よりもHGI(JIS M 8801に基づく)の値が上昇している。一般的な石炭(瀝青炭)のHGIは50前後であり、例a1~例a5の粉砕特性は、比較例a1よりも石炭に近接した良好なものといえる。
【0135】
機械的耐久性(DU)については、加熱工程を経た例a1~例a5(PBT)の強度はほとんど低下しておらず、水中浸漬前の比較例a1(WP)および対応する水中浸漬前のPBTと比べても粉化が発生しにくく、ハンドリング性を維持できることが示された。なお、比較例a1の固体燃料は、水中浸漬によって崩壊したため、機械的耐久性を測定することができなかった。
【0136】
水中浸漬後のpHは、概ね6前後であり、屋外貯蔵した際に出る排水のpHについては、特に問題ないことが示された。
【0137】
ボールミル粉砕性の結果から、粉砕ポイントは良好であることを確認した。
【0138】
これらの結果は、加熱に伴うタール等有機成分の溶出・固化により、バイオマス固体燃料の表面が疎水性に変化したことによると考えられ、屋外貯蔵されることが多い固体燃料として有利な特性を示している。また、固体燃料はペレット形状であるため、主として径方向に圧密されており、そのため膨張も径方向が大きくなると考えられる(例b~例fにおいても同様)。
【0139】
<例b:アカシア>
例b1~例b3(PBT)、比較例b2~b4(PBT)においては、原料のバイオマスとしてアカシアを用いて、成型工程において直径8mmのペレット形状に成型し、表1Aに記載の加熱温度にまで加熱して昇温した以外は、例a1と同様にしてバイオマス固体燃料を製造した。加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料(例b1~例b3、比較例b2~b4)の性状を上述の方法により測定した。比較例b1(WP)においては、加熱工程を行わなかった以外は例b1~b3、比較例b2~b4と同様の原料を用いてその性状を測定した。水中浸漬後の水分は168時間浸漬後のものであるため、実質的に固体燃料内の水分は平衡に達しているとみなす。比較例b1は水中浸漬後直ちにペレットが崩壊してしまい、各性状の測定を行うことができなかった。結果を表1A及び表2に示す。
【0140】
比較例b2~b4(PBT)は自己発熱性試験の最高到達温度が200℃であった。これに対し、例b1~例b3の固体燃料は、自己発熱性試験の最高到達温度が低くて運搬および貯蔵が容易であることが示された。表1Aおよび表2の結果から、固体燃料(PBT)の揮発分(無水無灰ベース)が大きいほど、この自己発熱性試験の最高到達温度は、低くなることが示された。
【0141】
比較例b1(WP)は、上記のとおり水中浸漬(168時間)によりペレット形状を維持できずに崩壊してしまった。これに対し、例b1~例b3の固体燃料は水中浸漬により崩壊することはなく、バイオマス粉同士の接続または接着が維持され、屋外貯蔵した際に出る排水のCODが低く、屋外貯蔵されることが多い固体燃料として有利な特性を示した。
【0142】
さらに、例b1~例b3の固体燃料は、HGI、機械的耐久性(DU)、水中浸漬後のpH、ボールミル粉砕性等の物性も良好であった。
【0143】
<例c:フタバガキ科>
例c1~例c4、および比較例c2(PBT)においては、原料として、フタバガキ科の樹種を主に含むバイオマス(セランガンバツ:55wt%、クルイン:24wt%、セプター:4wt%、スカフィウム:9wt%、その他の熱帯広葉樹:8wt%、各wt%は、バイオマス総重量に対する割合を示す)を用い、直径8mmのペレット形状に成型し、表1Aに記載の加熱温度にまで加熱して昇温した以外は、例a1と同様にしてバイオマス固体燃料を製造した。加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料(例c1~例c4、比較例c2)の性状を上述の方法により測定した。比較例c1(WP)においては、加熱工程を行わなかった以外は例c1~c4、比較例c2と同様の原料を用いてその性状を測定した。水中浸漬後の水分は168時間浸漬後のものであるため、実質的に固体燃料内の水分は平衡に達しているとみなす。比較例c1は水中浸漬後直ちにペレットが崩壊してしまい、各性状の測定を行うことができなかった。結果を表1A及び表2に示す。
【0144】
比較例c2(PBT)は自己発熱性試験の最高到達温度が200℃であった。これに対し、例c1~例c4の固体燃料は、自己発熱性試験の最高到達温度が低くて運搬および貯蔵が容易であることが示された。表1Aおよび表2の結果から、固体燃料(PBT)の揮発分(無水無灰ベース)が大きいほど、この自己発熱性試験の最高到達温度は、低くなることが示された。
【0145】
比較例c1(WP)は、上記のとおり水中浸漬(168時間)によりペレット形状を維持できずに崩壊してしまった。これに対し、例c1~例c4の固体燃料は水中浸漬により崩壊することはなく、バイオマス粉同士の接続または接着が維持され、屋外貯蔵した際に出る排水のCODが低く、屋外貯蔵されることが多い固体燃料として有利な特性を示した。
【0146】
さらに、例c1~例c4の固体燃料は、HGI、機械的耐久性(DU)、水中浸漬後のpH、ボールミル粉砕性等の物性も良好であった。
【0147】
<例d:ラジアータパイン>
例d1~例d4、比較例d2(PBT)においては、原料のバイオマスとしてラジアータパインを用いて、成型工程において直径6mmのペレット形状に成型し、表1Bに記載の加熱温度にまで加熱して昇温した以外は、例a1と同様にしてバイオマス固体燃料を製造した。加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料(例d1~例d4、比較例d2)の性状を上述の方法により測定した。比較例d1(WP)においては、加熱工程を行わなかった以外は例d1~d4、比較例d2と同様の原料を用いてその性状を測定した。水中浸漬後の水分は168時間浸漬後のものであるため、実質的に固体燃料内の水分は平衡に達しているとみなす。比較例d1は水中浸漬後直ちにペレットが崩壊してしまい、各性状の測定を行うことができなかった。結果を表1B及び表2に示す。
【0148】
比較例d2(PBT)は自己発熱性試験の最高到達温度が200℃であった。これに対し、例d1~例d4の固体燃料は、自己発熱性試験の最高到達温度が低く、運搬および貯蔵が容易であることが示された。表1Bおよび表2の結果から、固体燃料(PBT)の揮発分(無水無灰ベース)が大きいほど、この自己発熱性試験の最高到達温度は、低くなることが示された。
【0149】
比較例d1(WP)は、上記のとおり水中浸漬(168時間)によりペレット形状を維持できずに崩壊してしまった。これに対し、例d1~例d4の固体燃料は水中浸漬により崩壊することはなく、バイオマス粉同士の接続または接着が維持され、屋外貯蔵した際に出る排水のCODが低く、屋外貯蔵されることが多い固体燃料として有利な特性を示した。
【0150】
さらに、例d1~例d4の固体燃料は、HGI、機械的耐久性(DU)、水中浸漬後のpH、ボールミル粉砕性等の物性も良好であった。
【0151】
<例e:カラマツとスプルースとカバノキとの混合物>
例e1~例e3、および比較例e2(PBT)においては、原料のバイオマスとしてカラマツ50wt%とスプルース45wt%とカバノキ5wt%との混合物を用いて、成型工程において直径8mmのペレット形状に成型し、表1Bに記載の加熱温度にまで加熱して昇温した以外は、例a1と同様にしてバイオマス固体燃料を製造した。加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料(例e1~例e3、比較例e2)の性状を上述の方法により測定した。比較例e1(WP)においては、加熱工程を行わなかった以外は例e1~例e3、および比較例e2と同様の原料を用いてその性状を測定した。水中浸漬後の水分は168時間浸漬後のものであるため、実質的に固体燃料内の水分は平衡に達しているとみなす。比較例e1は水中浸漬後直ちにペレットが崩壊してしまい、各性状の測定を行うことができなかった。結果を表1B及び表2に示す。
【0152】
比較例e2(PBT)は自己発熱性試験の最高到達温度が200℃であった。これに対し、例e1~例e3の固体燃料は、自己発熱性試験の最高到達温度が低くて運搬および貯蔵が容易であることが示された。表1Bおよび表2の結果から、固体燃料(PBT)の揮発分(無水無灰ベース)が大きいほど、この自己発熱性試験の最高到達温度は、低くなることが示された。
【0153】
比較例e1(WP)は、上記のとおり水中浸漬(168時間)によりペレット形状を維持できずに崩壊してしまった。これに対し、例e1~例e3の固体燃料は水中浸漬により崩壊することはなく、バイオマス粉同士の接続または接着が維持され、屋外貯蔵した際に出る排水のCODが低く、屋外貯蔵されることが多い固体燃料として有利な特性を示した。
【0154】
さらに、例e1~例e3の固体燃料は、HGI、機械的耐久性(DU)、水中浸漬後のpH、ボールミル粉砕性等の物性も良好であった。
【0155】
<例f:スプルースとマツとモミとの混合物>
例f1~例f6、および比較例f2(PBT)においては、原料のバイオマスとしてスプルース30wt%とマツ45wt%とモミ25wt%との混合物を用いて、成型工程において直径6mmのペレット形状に成型し、表3Aに記載の加熱温度にまで加熱して昇温した以外は、例a1と同様にしてバイオマス固体燃料を製造した。加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料(例f1~例f6、比較例f2)の性状を上述の方法により測定した。比較例f1(WP)においては、加熱工程を行わなかった以外は例f1~例f6、および比較例f2と同様の原料を用いてその性状を測定した。水中浸漬後の水分は168時間浸漬後のものであるため、実質的に固体燃料内の水分は平衡に達しているとみなす。比較例f1は水中浸漬後直ちにペレットが崩壊してしまい、各性状の測定を行うことができなかった。結果を表3Aおよび表3Bに示す。
【0156】
比較例f2(PBT)は自己発熱性試験の最高到達温度が200℃であった。これに対し、例f1~例f6の固体燃料は、自己発熱性試験の最高到達温度が低くて運搬および貯蔵が容易であることが示された。表3Aおよび表3Bの結果から、固体燃料(PBT)の揮発分(無水無灰ベース)が大きいほど、この自己発熱性試験の最高到達温度は、低くなることが示された。
【0157】
比較例f1(WP)は、上記のとおり水中浸漬(168時間)によりペレット形状を維持できずに崩壊してしまった。これに対し、例f1~例f6の固体燃料は水中浸漬により崩壊することはなく、バイオマス粉同士の接続または接着が維持され、屋外貯蔵した際に出る排水のCODが低く、屋外貯蔵されることが多い固体燃料として有利な特性を示した。
【0158】
さらに、例f1~例f6の固体燃料は、HGI、機械的耐久性(DU)、水中浸漬後のpH、ボールミル粉砕性等の物性も良好であった。
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
<固体燃料の製造時の加熱温度と自己発熱性との関係について>
上記例a(原料としてゴムの木を使用)の、例a1、例a3、比較例a2および比較例a3について、バイオマス固体燃料のワイヤーバスケット試験(上述の自己発熱性試験と同じ)における、固体燃料の固体温度と、最高到達温度の関係を
図1に示す。例a1および例a3の最高到達温度は200℃未満であったが、比較例a2および比較例a3は200℃以上にまで温度が上昇した。発明者らは、このような固体燃料の加熱温度と自己発熱性との関係についてさらに詳細に検討すべく、例a1、例a3、比較例a2および比較例a3で製造した固体燃料を用いて、下記の測定を行った。
【0164】
(BET比表面積)
上記例a1、例a3、比較例a2および比較例a3の固体燃料の固体温度とBET比表面積との関係を
図2に示す。固体温度が上昇するとBET比表面積が増加しており、温度の上昇に伴い熱分解が進み、揮発分が低下し(表1A参照)、ペレット表面で細孔が発達し、ポーラスになっていると考えられた。
【0165】
(発生ガス分析)
さらに、固体燃料の発生ガスについて測定した。発生ガス分析は、サンプルを500mLのガラス広口瓶に95%容量となるよう充填し、セプタム付きのシリコンゴム栓で密閉した。この瓶を40℃,55%RHの恒温恒湿機に投入し、1日経過後に発生したガス(H
2,O
2,N
2,CO,CH
4,CO
2)をガスクロマトグラフィーにて分析した。固体温度と、O
2,CO,CO
2濃度の関係をそれぞれを、
図3A、
図3B、および
図3Cに示す。固体温度が上昇するとO
2濃度が減少していることから、固体燃料の表面へのO
2吸着量が増加していることが確認された(
図3A)。一方、固体温度が上昇すると、COおよびCO
2濃度が増加しており、吸着したO
2により酸化反応(発熱反応)が進行していることが示唆された(
図3B、
図3C)。
【0166】
同様に、例d2、例d3および比較例d2の固体燃料(原料はラジアータパイン)についても分析を行った。固体温度と、自己発熱性試験の最高到達温度、BET比表面積および発生ガス分析によるO2濃度との関係を表4に示す。原料がラジアータパインの場合も、固体温度と、BET比表面積および発生ガス分析によるO2濃度との間に同様の関係があることが示された。
【0167】
【0168】
図1~
図3C、および表4の結果より、固体燃料の固体温度と自己発熱性との関係について、下記のような反応メカニズムが考えられる。まず、固体燃料を製造する際の加熱温度が上昇すると揮発分が低下して、ペレット表面がポーラスとなりBET比表面積が増加する。これにより、固体燃料の表面へのO
2吸着量が上昇し、酸化反応(発熱反応)が進行する。したがって、固体温度がある温度を超えると、蓄熱量が放熱量を上回り、自己発熱性が200℃以上になってしまうと推察される。
【0169】
<着火性>
さらに、本発明者らは、本発明のバイオマス固体燃料と、特許文献1に記載されているようにバイオマスを水蒸気爆砕する工程を経て得られる固体燃料の熱物性をそれぞれ調べ、本願発明のバイオマス固体燃料が着火性に優れることを見出した。着火性についての試験に用いたバイオマス固体燃料は下記のとおりである。
【0170】
・例a11:ゴムの木を原料とし、成型工程において、直径8mmのペレット形状に成型し、その後の加熱工程で250℃を目標温度として加熱した以外は例a1と同様にして得られた固体燃料(PBT)
・例b3:アカシアを原料とし、上記例b3で得られた固体燃料(PBT)
・例c3:フタバガキ科の樹種を原料とし、上記例c3で得られた固体燃料(PBT)
・比較例q:針葉樹と広葉樹の混合物を原料のバイオマスとして水蒸気爆砕し成形した塊状物を250℃で加熱して得られた固体燃料q(特許文献1記載の製法により得られる)
【0171】
上記例a11、例b3、および例c3と、比較例qについて、熱重量測定(TG)と示差熱分析(DTA)を行った。TGとDTAの測定方法は下記のとおりである。
【0172】
(TGおよびDTA)
TGおよびDTAは日立ハイテクサイエンス製示差熱熱重量同時測定装置STA7300を用いて測定した。カッターミルにて45-90μmに粒度調整した試料5mgを上記装置にて昇温速度5℃/minで4vol.%酸素-窒素混合ガスを200cc/minで流通させながら、600℃まで昇温し、60min保持した。
【0173】
結果を
図12および
図13に示す。TGの結果から、比較例qは重量減少が遅いため、例a11、例b3および例c3と比べて揮発分が少なく着火性が低いといえる。また、DTAの結果からも、比較例qは、例a11、例b3および例c3と比べ発熱は高温側から起こっており着火性が低いといえる。その理由は、比較例qではバイオマスを粉砕・乾燥、水蒸気爆砕、成型、加熱の順の工程でバイオマス固体燃料を得ているが、水蒸気爆砕の際に有機成分がバイオマス粉の表面に浮き出てしまい、その後の加熱(炭化)で揮発してしまうためと推察される。一方、例a11、例b3および例c3をはじめとするPBTでは、爆砕工程を経ない分揮発分の残留量が多いと推察される。
【0174】
よって、本願発明のバイオマス固体燃料は水蒸気爆砕の工程を含まないので、比較例qと比べてコストを抑えることができることに加え、着火性に優れると考えられる。
【0175】
また、PBTの固架橋を形成するテルペン類についても同様の理由から残留量が多くなり、より強固な固架橋が得られるため、PBTは比較例qと比べて強度および耐水性に優れると推察される。
【0176】
<PBTとWPのFT-IR分析>
図5~
図9は欧州アカマツを原料として、上記例b3と同様の方法により得られたバイオマス固体燃料r(粉砕後ペレット状に成型したものを250℃で加熱した固体燃料(PBT))のFT-IR分析の結果を示す図である。また同じ原料を粉砕し、成型後未加熱のもの(WP)についても併せて示す。ペレットの外表面(
図5)、断面中心(
図6)いずれにおいてもCOOH基の量はWP>PBTであり、C=C結合の量はPBT>WPである。またアセトン抽出液(
図7)へのCOOH基溶出量はWP>PBTであり、PBTは親水性のCOOH基が少ないことが示される。さらにアセトン抽出後の固体(
図8)ではPBTのほうがWPよりもC=C結合が多い。したがってPBTのほうが耐水性に優れることが分かる。
【0177】
図9はアセトン抽出液のGC-MS分析の結果を示す図である。上記
図5~
図8と同様の固体燃料r(PBT)、および未加熱のもの(WP)を用いた。
図9に記載のとおりPBTにおいてはテルペン類の一種であるアビエチン酸等のアセトンへの溶出量がWPよりも少なく、加熱によりアビエチン酸が溶融して液架橋を形成した後、アビエチン酸等の揮発によって固架橋が形成されたことを示すと考えられる。本願発明のバイオマス固体燃料も、バイオマス粉を成型して加熱したPBTであるため、バイオマス固体燃料rと同様のメカニズムにより、PBTが耐水性に優れるものと推察される。
【0178】
<PBTとPATの吸水分布>
さらに、本発明者らは、PATとPBTの耐水性を比較するため、これらバイオマス固体燃料について、食塩水を用いて、吸水後のナトリウムの分布を調べた。PATの試料としては、原料の欧州アカマツを250℃で加熱した後直径6mmのペレットに成型した固体燃料を用いた。PBTの試料としては、原料の欧州アカマツを直径6mmのペレットに成型した後250℃で加熱した固体燃料を用いた。PBTとPATを0.9wt%の生理食塩水に5日間浸漬した。その結果、ペレット外観は
図10に示したとおり、PBTはペレット形状を保持した(
図10の左)が、PATは大きく崩壊した(
図10の右)。また、PATおよびPBTを、それぞれ、生理食塩水に浸漬する前と0.9wt%の生理食塩水に5日間浸漬後について、その断面をEPMA(Electron Probe MicroAnalyser)分析にかけ、Na分布を比較した。Na分布は、PBTはペレット表面にとどまり内部に浸透していないのに対し、PATでは内部にまで広く分布していた(
図11参照)。これはPBTの方がPATより生理食塩水の浸入が少ないことを意味する。この結果からも、PBTは隣接するバイオマス粉同士の間隙を抽出成分の熱分解物が固架橋し、疎水性になったために水の侵入を防いでいるのに対し、PATでは、バイオマス粉同士の間隙に水が浸入できるため水がペレット内部にまで浸透し、バイオマス粉同士の間隙を押し広げた結果、崩壊に至ったと推察される。