(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/88 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
C08G63/88
(21)【出願番号】P 2020042146
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】小澤 佳加
(72)【発明者】
【氏名】川口 高明
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-229419(JP,A)
【文献】特開2008-266660(JP,A)
【文献】特開2009-067897(JP,A)
【文献】特開平07-309863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状三量体の含有量が2500~4500重量ppm、かつチタン原子の含有量が2~20重量ppmであるポリエステル樹脂を、該ポリエステル樹脂に対して
2.0~10重量%の水の存在下に溶融混練することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記溶融混練後のポリエステル樹脂中の環状三量体の量と該溶融混練前のポリエステル樹脂中の環状三量体の量との差が0~200重量ppmである、請求項1に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記溶融混練後のポリエステル樹脂中の含水量が0.1~0.5重量%である、請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂の製造方法に関する。詳しくは、溶融混練時における環状三量体の増加が著しく少なく、かつ黄色味の増加が著しく少ないポリエステル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、機械的強度、化学的安定性、ガスバリア性、保香性、衛生性等に優れ、また、比較的安価なことから、ボトル等の容器、フィルム、シート、繊維等の各種用途に広範囲に使用されている。
【0003】
ポリエステル樹脂の代表例はポリエチレンテレフタレートである。ポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分を主たる構成成分とし、これらのエステル化反応生成物を得た後、重縮合触媒の存在下に溶融重縮合を行って製造される。溶融重縮合したポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂は、次工程に回すため、通常、ペレット(例えば長手方向が3~10mmの細片)状とされる。
【0004】
このようにして製造されたポリエステル樹脂には、環状三量体(シクロトリエチレンテレフタレート)を主成分とするオリゴマーが相当量、例えば1.0~3.0重量%程度含まれている。このオリゴマーは、ポリエステル樹脂製品の製造工程上の障害となることが知られている。例えば、ボトル等の中空容器を製造する際に金型を汚染してボトル品質の低下を招いたり、フィルムを製造する際にフィルムの白化やフィルム表面への異物の析出をもたらしたりする。このため、溶融重合後のペレット中に含まれるオリゴマーを低減することがしばしば行われる。その代表的な方法は固相重縮合を行う方法であり、例えば、固相重縮合によりオリゴマー含有量を0.1~1.0重量%程度に低減させることができる。固相重縮合を行うことで、ポリエステル樹脂の固有粘度を高めることができるため好都合であることが多い。また、溶媒を用いてオリゴマーを抽出する方法もある。
なお、ポリエチレンテレフタレートに含まれるオリゴマーの大半は環状三量体であり、従って、オリゴマーの低減を図ることは環状三量体の低減を図ることと同義である。
【0005】
しかしながら、このようにして、環状三量体の含有量を低減したペレットを用いて溶融混練(溶融成形)を行って製品を製造した場合、期せずして製品中の環状三量体の含有量が増加してしまうことがある。これはポリエステル樹脂を溶融混練したときに、熱平衡のため一旦減少した環状三量体が再び生成して増加してしまうためである。この現象にはポリエステル樹脂中の特に重縮合触媒が関与するとみられている。
【0006】
このようなことから、環状三量体による問題を解決するためには、固相重縮合などによって環状三量体含有量を低減した上で、溶融混練時の環状三量体の増加を抑制する必要がある。
【0007】
従来、この問題を解決するために種々の方法が試みられている。例えば、特許文献1には、ポリエチレンテレフタレートの固相重縮合後に熱水又は水蒸気処理を行い、ポリエチレンテレフタレート中に含まれている重縮合触媒を失活させることによって、溶融成形時の環状三量体の増加を抑制する方法が記載されている。しかし、この方法は、熱水または水蒸気処理のための工程を必要とし、生産サイクルが長くなる問題がある。また、特許文献1には、このような水処理後は乾燥することが記載され、例えば、特許文献1の実施例では、ポリエチレンテレフタレートペレットを熱水処理後、脱水し、140℃、窒素中で14時間乾燥する旨が記載されている。特許文献1には乾燥ペレットの含水量は記載されていないが、非特許文献1に記載されるグラフから、140℃、窒素中で14時間乾燥すると、ペレットの含水量は約0.02重量%又はそれ以下になると推定される。
【0008】
特許文献2には、ポリエチレンテレフタレート樹脂中の水分量を60~300重量ppmに調湿し、溶融成形時の環状三量体の増加を抑制する方法が記載されている。しかし、この方法では恒温恒湿設備が必要であり、コストが高くなる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平8-283393号公報
【文献】特開2010-229419号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」(1989年12月22日、発行所:日刊工業新聞社)p677
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、溶融混練時における環状三量体の増加が著しく少なく、かつ黄色味の増加も著しく少ないポリエステル樹脂の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、溶融混練に供するポリエステル樹脂として、環状三量体量が少なく、かつ特定の触媒を特定の割合で含むポリエステル樹脂を用い、所定量の水の存在下に溶融混練を行うことで、上記課題を解決することができるとの知見を得、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は、以下に存する。
【0014】
[1] 環状三量体の含有量が2500~4500重量ppm、かつチタン原子の含有量が2~20重量ppmであるポリエステル樹脂を、該ポリエステル樹脂に対して0.1~10重量%の水の存在下に溶融混練することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
【0015】
[2] 前記溶融混練後のポリエステル樹脂中の環状三量体の量と該溶融混練前のポリエステル樹脂中の環状三量体の量との差が0~200重量ppmである、[1]に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【0016】
[3] 前記溶融混練後のポリエステル樹脂中の含水量が0.1~0.5重量%である、[1]又は[2]に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、溶融混練時における環状三量体の増加が著しく少なく、かつ黄色味の増加も著しく少ないため、環状三量体含有量が少なく、色調に優れたポリエステル樹脂を製造することができる。
しかも、本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、特別な設備や特別な工程が不要であるため、製造コストの増加、生産サイクルの低下を引き起こすこともない。
【0018】
本発明の製造方法によって得られたポリエステル樹脂は、例えばボトルに成形する場合、金型汚れがないのでボトル品質の低下を招いたりすることがなく、またフィルムに成形する場合、白化や表面異物のない透明なポリエステルフィルムを与えることができる。さらにこれらの製品の黄色味の増加を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定されるものではない。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、環状三量体の含有量が2500~4500重量ppm、かつチタン原子の含有量が2~20重量ppmであるポリエステル樹脂を、該ポリエステル樹脂に対して0.1~10重量%の水の存在下に溶融混練することを特徴とする。
【0021】
即ち、本発明では、溶融混練する原料ポリエステル樹脂として環状三量体が少なく、かつ特定の触媒を特定の割合で含むポリエステル樹脂(このポリエステル樹脂は溶融混練される原料であるので、以下「溶融混練原料ポリエステル樹脂」という場合がある。)を用い、これに特定量の水を加えた混合物を、二軸押出機等を用いて水を含んだ状態で溶融混練する。
【0022】
通常、ポリエステル樹脂を溶融押出してボトル、フィルム、ペレットなどの製品を得ようとした場合、ポリエステル樹脂の加水分解を抑えるためできるだけ水分を除去すること、例えば含水量0.01重量%以下とすることが行われる。従って、本発明のように溶融混練時に0.1~10重量%というような大量の水を共存させることは従来行われておらず、ましてや、このような多量の水の存在下で溶融混練することで、環状三量体と黄色味の増加を同時に抑制することができるという効果が得られることは知られていない。本発明によれば、従来法における量を大幅に超えた量の水を用い、かつ特定の触媒を組み合わせることで、低コストかつ効率的に環状三量体含有量が少なく、色調に優れた高品質のポリエステル樹脂を製造することができる。
なお、本発明において、ポリエステル樹脂中の環状三量体の含有量は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0023】
[溶融混練原料ポリエステル樹脂]
<ポリエステル樹脂原料>
本発明で用いる溶融混練原料ポリエステル樹脂(以下、「本発明の溶融混練原料ポリエステル樹脂」と称す場合がある。)は、テレフタル酸成分を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分から製造されるポリエステル樹脂、即ち、ポリエチレンテレフタレートである。
【0024】
テレフタル酸成分を主成分とするジカルボン酸成分中のテレフタル酸成分の割合は通常の90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上である。また、エチレングリコールを主成分とするジオール成分中のエチレングリコールの含有量割合は、通常90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上である。
テレフタル酸成分及びエチレングリコールの占める割合が上記下限未満では、ポリエステル樹脂をボトルやフィルムなどに成形した場合その耐熱性や機械的強度が劣る傾向となる。
ここで、テレフタル酸成分とは、テレフタル酸、テレフタル酸のアルキルエステル等のテレフタル酸の誘導体である。
【0025】
テレフタル酸成分を主成分とするジカルボン酸成分は、テレフタル酸成分以外の共重合可能な他のジカルボン酸成分の1種又は2種以上を含んでいてもよい。
共重合可能な他のジカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、ジブロモイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸及びその誘導体が挙げられる。
また、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環式ジカルボン酸及びその誘導体や、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体が挙げられる。
【0026】
一方、エチレングリコールを主成分とするジオール成分はエチレングリコール以外の共重合可能な他のジオールの1種又は2種以上を含んでいてもよい。
共重合可能な他のジオールとしては、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどの脂肪族ジオールが挙げられる。
また、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,1-シクロヘキサンジメチロール、1,4-シクロヘキサンジメチロール、2,5-ノルボルナンジメチロールなどの脂環式ジオール、及び、キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸などの芳香族ジオールを用いることもできる。
【0027】
さらに、ポリエステル樹脂原料としては、前記ジカルボン酸成分及びジオール成分以外の共重合成分として、例えば、グリコール酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-βヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、及び、ステアリルアルコール、ヘネイコサノール、オクタコサノール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t-ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分;トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステルなどの三官能以上の多官能成分;などの1種又は2種以上を少量用いることができる。
【0028】
<触媒及び助剤>
本発明の溶融混練原料ポリエステル樹脂は、製造時に触媒としてチタン化合物を用いることで、チタン原子の所定量を含むことが特徴の一つである。ポリエステル樹脂製造時の触媒としてチタン化合物を用いると少量で効率よく重合を進めることができ、熱履歴も少なくて済むので、色調の悪化を防止すること、特に黄色味の増加を抑えることができる。
【0029】
チタン化合物としては、チタンの酸化物、水酸化物、アルコキシド、酢酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、及びハロゲン化物などが挙げられる。
具体的には、テトラ-n-プロピルチタネート、テトラ-i-プロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネートテトラマー、テトラ-t-ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネートなどのチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアルコキシドと珪素アルコキシドもしくはジルコニウムアルコキシドとの混合物の加水分解により得られるチタンと珪素もしくはジルコニウム複合酸化物、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸-水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン-塩化アルミニウム混合物、臭化チタン、フッ化チタン、六フッ化チタン酸カリウム、六フッ化チタン酸コバルト、六フッ化チタン酸マンガン、六フッ化チタン酸アンモニウム、チタンアセチルアセトナートなどが挙げられる。中でも、テトラ-n-プロピルチタネート、テトラ-i-プロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネートなどのチタンアルコキシド、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウムが好ましく、テトラ-n-ブチルチタネートが特に好ましい。これらのチタン化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
本発明の溶融混練原料ポリエステル樹脂は、チタン化合物を、チタン原子換算で2~20重量ppm含有する(以下、このチタン原子換算の含有量を「Ti含有量」と記載する。)。Ti含有量は3~10重量ppmが好ましく、より好ましくは4~8重量ppmである。Ti含有量が2重量ppm未満では重合性が著しく悪化し、生産性よく目的のポリエステル樹脂を生産することができず、また20重量ppmを超えるとポリエステル樹脂の黄色味が増し、色調が著しく悪化するようになる。
【0031】
本発明の溶融混練原料ポリエステル樹脂を溶融重縮合法により製造する際には、チタン化合物以外の触媒又は助剤として周期表第2族から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物を配合してもよい。この場合には、本発明の効果がより効果的に発揮される。
【0032】
このような化合物としては、マグネシウムおよびカルシウム化合物が好ましく、これらの金属の酸化物、水酸化物、アルコキシド、酢酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、及びハロゲン化物などが挙げられる。具体的には、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。中でも、マグネシウム化合物が好ましく、マグネシウム化合物の中でも酢酸マグネシウムが特に好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
これらの化合物は、ポリエステル樹脂中に金属原子換算で7~35重量ppm含まれることが好ましい。この量が7重量ppm以上であれば、固相重縮合反応による環状三量体の低減や固有粘度の上昇を促進することができる。一方、35重量ppm以下であれば溶融重縮合活性の低下を抑制して、所望の固有粘度とすることができる。
【0034】
また、本発明の溶融混練原料ポリエステル樹脂を溶融重縮合法により製造する際に、助剤としてリン化合物を配合すると本発明の効果がより効果的に発揮される。
【0035】
リン化合物としては、5価や3価のリン化合物を挙げることができるが、なかでも5価のリン化合物のリン酸エステルが好ましく、エチルアシッドホスフェートが特に好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
これらリン化合物は、ポリエステル樹脂中にリン原子換算で3~10重量ppm含まれることが好ましい。この量が3重量ppm以上であると樹脂の熱安定性の悪化を抑制することができる。一方、10重量ppm以下であれば固相重縮合反応における環状三量体の低減速度や固有粘度の上昇速度の低減を抑制することができる。
【0037】
<ポリエステル樹脂の製造方法>
本発明の溶融混練原料ポリエステル樹脂の製造方法としては公知の製造方法を用いることができる。例えば、前述のジカルボン酸成分とジオール成分とを原料調製槽に採り、反応槽に移したのち、エステル化反応あるいはエステル交換反応を行う。次いで、得られた反応生成物を重縮合槽に移送し、溶融重縮合する。そして必要に応じ重縮合工程で得られたポリエステル樹脂を固相重縮合する方法が挙げられる。
【0038】
(エステル化反応あるいはエステル交換反応)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸のエステル形成性誘導体を用いて行うエステル交換反応の場合は、通常、触媒を比較的多量に用いる必要があり、用いた触媒が得られるポリエステル樹脂物性を低下させることがあるので、本発明においては、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を用いて行うエステル化反応を経る方法が好ましく採用される。
エステル化反応の条件としては、例えば、大気圧に対する相対圧力は0~400kPa程度、温度は240~280℃程度、時間は1~10時間程度から選ばれる。
【0039】
(溶融重縮合工程)
得られたエステル化反応生成物を溶融重縮合工程に供する。溶融重縮合の反応条件としては、常圧から漸次減圧として、最終的に絶対圧力を1.3~0.01kPa程度とし、温度は250~290℃程度、時間は1~20時間程度から選ばれる。
この溶融重縮合でポリエステル樹脂を製造することができる。得られたポリエステル樹脂は、溶融状態でダイからストランド状もしくはシート状に押出し、冷却固化させたのちカッターで切断してペレットとする。
【0040】
溶融重縮合後のポリエステル樹脂は、固有粘度を例えば0.50~0.80dL/g程度とすることができる。このポリエステル樹脂には環状三量体が通常1.0~3.0重量%程度含まれている。
なお、ポリエステル樹脂の固有粘度は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0041】
(固相重縮合工程)
環状三量体の低減(低オリゴマー化)のために固相重縮合が行われる。固相重縮合は、固有粘度の上昇も同時に達成できるので好都合である。
【0042】
固相重縮合は、溶融重縮合工程で得られるプレポリマーと呼称される固有粘度0.40~0.75dL/g程度のポリエステル樹脂を出発原料として、連続法又は回分法で実施することができるが、操作性の面から連続法が好ましく用いられる。この際、プレポリマーは、固相重縮合に供する前に、固相重縮合を行う温度よりも低い温度で予備結晶化を行ってもよい。例えば、プレポリマーのペレットを乾燥状態で120~200℃、好ましくは130~190℃で1分間~4時間程度加熱するか、あるいはプレポリマーのペレットを、水蒸気を含む雰囲気中で120~200℃に1分間以上加熱してから、固相重縮合に供してもよい。
【0043】
連続式の固相重縮合法としては、窒素、二酸化炭素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下、大気圧に対する相対圧力として、通常100kPa以下、好ましくは20kPa以下の加圧下もしくは常圧下で、190~230℃、好ましくは195~220℃の温度で5~30時間程度加熱することにより行われる。この場合の反応時間は反応温度にもよるが、通常1~50時間の範囲から選ばれる。
【0044】
また、別の方法として回分式の固相重縮合法も用いることができる。回分式の固相重縮合では、絶対圧力として、通常0.01~6.5kPa、好ましくは0.065~5.0kPaの減圧下で、190~230℃、好ましくは195~225℃の温度条件で、1~25時間、好ましくは2~20時間、加熱することにより、目的のポリエステル樹脂を得ることができる。
【0045】
固相重縮合で得られるポリエステル樹脂の固有粘度は0.65~1.3dL/g、好ましくは0.68~1.1dL/gである。この値が0.65dL/g以上であれば、溶融混練した際、固有粘度の低下が防止され、ペレット化に有利である。また、この値が1.3dL/g以下であれば、二軸押出機のトルクの負荷を低減し、生産に有利である。
【0046】
固相重縮合で得られるポリエステル樹脂中の環状三量体の量はペレットの形状や大きさ、不活性ガス、圧力、温度、時間などの製造条件によりさまざまな値を取り得るが、本発明においては4500重量ppm以下、好ましくは4200重量ppm以下であるポリエステル樹脂を溶融混練原料ポリエステル樹脂として得る。環状三量体の含有量を4500重量ppm、好ましくは4200重量ppm以下にするためには、固相重縮合において、連続式の固相重縮合法を用い、窒素雰囲気下、195~220℃の温度で15~25時間加熱すればよい。環状三量体の含有量は少ない程好ましいが、環状三量体含有量を2500重量ppm未満とするためには、固相重縮合の条件を極めて厳しくするなど多大のエネルギー、コストを要し、実用的ではなくなる。また溶剤を用いて環状三量体を抽出、除去する場合も、同様にコスト高になってしまう。よって、本発明においては、固相重縮合により環状三量体含有量2500~4500重量ppm、好ましくは3000~4200重量ppmの溶融混練原料ポリエステル樹脂を製造する。
【0047】
<溶融混練>
前記の方法により得られた、環状三量体を低減したポリエステル樹脂を、本発明の方法によらず溶融混練した場合、得られる溶融混練物中の環状三量体の量は溶融混練前のそれより著しく多くなる。これは溶融混練中に、線状ポリエステルと環状三量体などの存在比を安定な一定割合に戻そうとする熱平衡のためと考えられる。本発明の方法によらず溶融混練した場合、溶融混練前に対する溶融混練後のポリエステル樹脂中の環状三量体の増加量は、溶融混練時の温度や時間などに左右されるが、例えば300~500重量ppmか或いはこの範囲を上回ることもある。従って、固相重縮合により環状三量体の量を低減したポリエステル樹脂を溶融混練の原料としても、得られるポリエステル樹脂は高級なフィルムやシート原料として用いるには不十分であり、また次工程のためのペレットとしても満足したものとはならない。
【0048】
これに対して、本発明のポリエステル樹脂の製造方法による溶融混練方法を採用すると、コスト的に有利に前記問題点を著しく改良することができる。すなわち、溶融混練前のポリエステル樹脂に対して溶融混練後のポリエステル樹脂中の環状三量体の増加量を0~200重量ppmと少なくすることができる。この上限としては、好ましくは100重量ppm以下、より好ましくは70重量ppmとすることができる。そして、溶融混練時の環状三量体の増加を抑制できるというこの効果は得られたペレットを再溶融したとしても、同じ傾向で発揮される。
【0049】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法では、前述の固相重縮合などを行って得られた環状三量体の含有量が2500~4500重量ppm、かつチタン原子の含有量が2~20重量ppmである溶融混練原料ポリエステル樹脂を、該溶融混練原料ポリエステル樹脂に対して0.1~10重量%の水の存在下に溶融混練する。具体的には、溶融混練原料ポリエステル樹脂に溶融混練原料ポリエステル樹脂に対して0.1~10重量%の水を加えて溶融混練する。
【0050】
溶融混練に供する溶融混練原料ポリエステル樹脂は、全体としての環状三量体及びチタン原子の含有量が満足される限り、2種類以上のポリエステル樹脂をブレンドして用いてもよい。例えば、滑剤としての粒子を含まないポリエステル樹脂と、滑剤を含むポリエステル樹脂とをブレンドしたものであってもよい。また、ポリエステル樹脂のほかに少量の滑剤や帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤などの添加剤が添加されたポリエステル樹脂組成物であってもよい。
【0051】
溶融混練のための装置としては、特に限定されないが、押出機が好ましく、溶融混練の効率が高い点で二軸押出機が好ましい。押出機に溶融混練原料ポリエステル樹脂と水とを供給する方法は、特に限定されないが、例えば、予め溶融混練原料ポリエステル樹脂と水を混合させたのちに二軸押出機に供給する方法、溶融混練原料ポリエステル樹脂を溶融させた後に水を供給する方法、あるいは溶融混練原料ポリエステル樹脂と水とを同時に二軸押出機に供給する方法等が挙げられる。
【0052】
溶融混練原料ポリエステル樹脂と水との溶融混練に用いる押出機は、添加した水を除去するため、また揮発分やポリエステル樹脂の供給口から侵入する空気等を除去するため、押出機のシリンダー中間部にベント孔を設けたベント式二軸押出機であることが好ましい。この場合、二軸押出機のスクリューの回転方向としては同方向、異方向が挙げられるが、滑剤などを配合した場合の分散の観点から同方向が好ましく用いられる。溶融混練原料ポリエステル樹脂に添加した水は大部分ベント孔から除去されるが、0.1~0.5重量%は溶融混練後のポリエステル樹脂中に含まれて残存する。
【0053】
水の添加量は、溶融混練に供する溶融混練原料ポリエステル樹脂に対し0.1~10重量%であり、2.0~6.0重量%が好ましい。この値が0.1重量%を下回ると、溶融混練後の環状三量体の増加量が大きくなる。また、この値が10重量%を上回ると、溶融混練後のポリエステル樹脂の固有粘度が大きく低下しペレット化が困難になる傾向にある。
【0054】
溶融混練時の温度は、245~290℃、特に275~285℃が好ましい。また、ベント式二軸押出機の場合、ベント口真空度は-0.080MPa以下、例えば-0.099~-0.085MPaとすることが好ましい。
【0055】
前記した本発明の方法を採用すると、溶融混練して得られるポリエステル樹脂の黄色味の増加も著しく抑えることができる。すなわち、溶融混練に供する溶融混練原料ポリエステル樹脂の黄色味(b値)は通常3.0程度であるが、本発明の方法を採用しない場合は、溶融混練後のb値は例えば10程度に増加する。これに対して、本発明の製造方法を採用した場合には、溶融混練後のb値は7.0以下、好ましくは5.5以下とすることができる。
【0056】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法により、このように、溶融混練による環状三量体の増加量、b値の増加量を著しく抑えることができるという従来知られていない好ましい効果が発揮される理由の詳細は明らかではないが、本発明においては、触媒として元来その使用量が少なくて足りるチタン化合物を採用していること、さらに溶融混練時に水を特定量作用させ、かつ好ましくは二軸押出機、特に好ましくはベント式二軸押出機を用いて効率よく溶融混練するため、その触媒活性をほとんど完全に消滅させることができるためであると考えられる。
【0057】
本発明の製造方法に従って、溶融混練後に得られるポリエステル樹脂の固有粘度は通常0.50dL/g以上、好ましくは0.53dL/g以上である。この値が0.50dL/g以上であれば、ペレット化に有利である。固有粘度の上限は通常1.0dL/g程度である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
[測定・評価方法]
以下の実施例及び比較例における試料(ポリエステル樹脂)は、以下の測定方法によって測定、評価を行った。
【0060】
<固有粘度>
粉砕した試料0.25gを、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒に、濃度(c)を1.0g/dLとして120℃、30分間で溶解させた後、ウベローデ型毛細粘度管を用いて、30℃で、原液との相対粘度(ηrel)を測定し、この相対粘度(ηrel)-1から求めた比粘度(ηsp)と濃度(c)との比(ηsp/c)を求めた。同じく濃度(c)を0.5g/dL、0.2g/dL、0.1g/dLとしたときについてもそれぞれの比(ηsp/c)を求め、これらの値より、濃度(c)を0に外挿したときの比(ηsp/c)を固有粘度〔η〕(dL/g)として求めた。
【0061】
<環状三量体>
凍結粉砕した試料4.0mgを、クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール(容量比3/2)の混合溶媒2mlに溶解させた後、更にクロロホルム20mlを加えて希釈し、これにメタノール10mlを加えて析出させ、引き続いて濾過して得た濾液を蒸発乾固後、ジメチルホルムアミド25mlに溶解し、その溶液中の環状三量体を、液体クロマトグラフィー(島津製作所製「LC-10A」)で定量した。
【0062】
<黄色味(b値)>
試料を、内径36mm、深さ15mmの円柱状の粉体測色用セルに充填し、測色色差計(日本電色工業社製「ND-300A」)を用いて、JIS Z8730の参考1に記載されるLab表色系におけるハンターの色差式の色座標b値(黄色味(b値))を、反射法により測定セルを90度ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値として求めた。
【0063】
[実施例1]
<ポリエステル樹脂の製造>
1個のスラリー調製槽、及びそれに直列に接続された2段のエステル化反応槽、及び2段目のエステル化反応槽に直列に接続された3段の溶融重縮合槽からなる連続式重合装置を用い、スラリー調製槽に、テレフタル酸とエチレングリコールを重量比で100:45の割合で連続的に供給すると共に、エチルアシッドホスフェートのエチレングリコール溶液を、生成ポリエステル樹脂に対してリン原子としての含有量が7重量ppmとなる量で連続的に添加して、撹拌、混合することによりスラリーを調製した。このスラリーを、第1段目のエステル化反応槽、次いで第2段目のエステル化反応槽に連続的に移送してエステル化反応を行った。その場合、第2段エステル化反応槽におけるエステル化率は97%であった。
【0064】
次いでこのエステル化反応生成物に、酢酸マグネシウム4水和物のエチレングリコール溶液を、生成ポリエステル樹脂に対してマグネシウム原子としての含有量が9重量ppmとなる量添加し、さらにテトラ-n-ブチルチタネートのエチレングリコール溶液を生成ポリエステル樹脂に対してチタン原子としての含有量が4.5重量ppmとなる量添加して、第1段重縮合反応槽、次いで第2段重縮合反応層で溶融重縮合を行った。
【0065】
次いで、第2段重縮合反応槽、さらに第3段重縮合反応槽で277℃、絶対圧力0.2kPa、平均滞留時間1時間で重縮合反応を行った。
【0066】
第3段重縮合反応槽から取り出した溶融重縮合反応生成物を、ダイからストランド状に押出して冷却固化し、カッターで切断して1個の重さが平均24mgのポリエステル樹脂ペレットとした。このペレットの固有粘度は0.560dL/gであった。このペレットに含まれる環状三量体の量は1.0重量%、黄色味(b値)は1.2であった。
【0067】
次いで、この溶融重縮合ポリエステル樹脂ペレットを、窒素雰囲気下で約160℃に保持された撹拌結晶化機内に滞留時間が約60分となるように連続的に供給して結晶化させた後、塔型の固相重縮合装置に連続的に供給し、窒素雰囲気下にて、210℃で18時間、固相重縮合を行った。
得られたポリエステル樹脂の固有粘度は0.700dL/g、環状三量体含有量は4050重量ppm、黄色味(b値)は3.4であった。
【0068】
<溶融混練>
得られたポリエステル樹脂を溶融混練原料ポリエステル樹脂として、ポリエステル樹脂に対して3.0重量%の水を添加した後、ベント式二軸押出機である二軸押出機(AUTOMATIK社製「ZCM」、スクリュー同方向回転、バレル内径D:71mm)へ投入し、ベント口真空度を-0.098MPaに設定し、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量120kg/hにて溶融混練し、押し出されたポリエステル樹脂を水中でカッティングしてペレット化した。このペレットの含水量は0.44重量%であった。得られたポリエステル樹脂の評価結果を表1に示す。
後掲の比較例1に比べ、本実施例では、溶融混練による環状三量体及び黄色味(b値)の増加は著しく少なかった。
【0069】
[実施例2]
実施例1において、ベント式二軸押出機による溶融混練の際の水の添加量を表1に示すように変えた他は実施例1と同様にしてペレット化し、同様に評価した。結果を表1に示す。
後掲の比較例1に比べ、本実施例では、溶融混練による環状三量体及び黄色味(b値)の増加は著しく少なかった。
【0070】
[比較例1]
実施例1において、ベント式二軸押出機による溶融混練の際に、水を添加しなかった他は実施例1と同様にしてペレット化し、同様に評価した。結果を表1に示した。
本比較例では、実施例1及び実施例2に比べ、溶融混練による環状三量体及び黄色味(b値)の増加が著しく多かった。
【0071】
【0072】
本発明の製造方法によれば、実施例の結果より明らかなように、溶融混練時の環状三量体や黄色味の増加が著しく抑制される。従って、製造されたポリエステル樹脂を例えば、ボトルに成形した場合、金型汚れがないのでボトル品質の低下を招いたりすることがなく、またフィルムに成形した場合、白化や表面異物のない透明なポリエステルフィルムを与えることができる。さらに黄色味の抑制されたこれらの製品を得ることができる。