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特許7468009フェライト仮焼体、フェライト焼結磁石及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】フェライト仮焼体、フェライト焼結磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/10 20060101AFI20240409BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240409BHJP
   C04B 35/40 20060101ALI20240409BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
H01F1/10
H01F41/02 G
C04B35/40
C01G51/00 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020043852
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2020161815
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2019053308
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】谷奥 泰明
(72)【発明者】
【氏名】小林 義徳
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/216594(WO,A1)
【文献】特開2018-160672(JP,A)
【文献】特開2015-020926(JP,A)
【文献】特開2009-246243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/10
H01F 41/02
C04B 35/40
C01G 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ca、R、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素)の原子比を示す一般式:Ca1-xRxFe2n-y-zCoyZnzにおいて、
前記x、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される)が、
0.4<x≦0.5、
0.2≦y≦0.25、
0<z<0.11、及び
9.0≦2n≦11.0
を満足するフェライト仮焼体。
【請求項2】
請求項1に記載のフェライト仮焼体において、
前記2nが、9.0≦2n≦10.31を満足することを特徴とするフェライト仮焼体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフェライト仮焼体において、
前記zが、0.02≦z≦0.1を満足することを特徴とするフェライト仮焼体。
【請求項4】
Ca、R、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素)の原子比を示す一般式:Ca1-xRxFe2n-y-zCoyZnzにおいて、
前記x、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される)が、
0.3<x≦0.5、
0.2≦y≦0.25、
0<z<0.11、及び
6.8≦2n≦11.0
を満足するフェライト焼結磁石。
【請求項5】
請求項4に記載のフェライト焼結磁石において、
前記2nが、6.8≦2n≦10.31を満足することを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のフェライト焼結磁石において、
前記zが、0.02≦z≦0.1を満足することを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項7】
請求項4~6のいずれかに記載のフェライト焼結磁石において、
SiO2換算で1.5質量%以下のSiをさらに含有することを特徴とするフェライト焼結磁石。
【請求項8】
Ca、R、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素)の原子比を示す一般式:Ca1-xRxFe2n-y-zCoyZnzにおいて、
前記x、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される)が、
0.4<x≦0.5、
0.2≦y≦0.25、
0<z<0.11、及び
9.0≦2n≦11.0
を満足する原料粉末を混合し、混合原料粉末を得る原料粉末混合工程、
前記混合原料粉末を仮焼し、仮焼体を得る仮焼工程、
前記仮焼体を粉砕し、仮焼体の粉末を得る粉砕工程、
前記仮焼体の粉末を成形し、成形体を得る成形工程、及び
前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程、
を含むフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、
前記2nが、9.0≦2n≦10.31を満足することを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、
前記zが、0.02≦z≦0.1を満足することを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項11】
請求項8~10のいずれかに記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、
前記仮焼工程後、前記成形工程前に、前記仮焼体又は仮焼体の粉末100質量%に対して1.5質量%以下のSiO2を添加する工程をさらに含むことを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項12】
請求項8~11のいずれかに記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、
前記仮焼工程後、前記成形工程前に、前記仮焼体又は仮焼体の粉末100質量%に対してCaO換算で1.5質量%以下のCaCO3を添加する工程をさらに含むことを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項13】
請求項8~12のいずれかに記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、
前記焼成工程の800℃から焼成温度までの温度範囲における平均昇温速度が600℃/時以上1000℃/時以下であることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、
前記焼成工程の焼成温度から800℃までの温度範囲における平均降温速度が1000℃/時以上であることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト仮焼体、フェライト焼結磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結磁石は最大エネルギー積が希土類系焼結磁石(例えばNdFeB系焼結磁石)の1/10にすぎないが、主原料が安価な酸化鉄であることからコストパフォーマンスに優れており、化学的に極めて安定であるという特長を有している。そのため、各種モータやスピーカなど様々な用途に用いられており、世界的な生産重量は現在でも磁石材料の中で最大である。
【0003】
代表的なフェライト焼結磁石は、マグネトプランバイト構造を有するSrフェライトであり、基本組成はSrFe12O19で表される。1990年代後半にSrFe12O19のSr2+の一部をLa3+で置換し、Fe3+の一部をCo2+で置換したSr-La-Co系フェライト焼結磁石が実用化されたことによりフェライト磁石の磁石特性は大きく向上した。また、2007年には、磁石特性をさらに向上させたCa-La-Co系フェライト焼結磁石が実用化された。
【0004】
前記のSr-La-Co系フェライト焼結磁石及びCa-La-Co系フェライト焼結磁石ともに、高い磁石特性を得るためにはCoが不可欠である。Sr-La-Co系フェライト焼結磁石は原子比で0.2程度、Ca-La-Co系フェライト焼結磁石では原子比で0.3程度のCoを含有している。Co(酸化Co)の価格はフェライト焼結磁石の主原料である酸化鉄の十倍から数十倍に相当する。従って、Ca-La-Co系フェライト焼結磁石では、Sr-La-Co系フェライト焼結磁石に比べ原料コストの増大が避けられない。フェライト焼結磁石の最大の特徴は安価であるという点にあるため、たとえ高い磁石特性を有していても、価格が高いと市場では受け入れられ難い。従って、世界的には、未だSr-La-Co系フェライト焼結磁石の需要が高い。
【0005】
近年、電気自動車の供給量増加によるLiイオン電池の需要増大に伴い、Coの価格が急騰している。その余波を受け、コストパフォーマンスに優れるSr-La-Co系フェライト焼結磁石においても、製品価格を維持することが困難な状況にある。このような背景から、磁石特性を維持しながら、いかにしてCoの使用量を削減するかが喫緊の課題となっている。
【0006】
Co量低減を目的とするものではないが、例えば、Sr-La-Co系フェライト焼結磁石において、Coの一部をZnで置換することにより、残留磁束密度(以下「Br」という)が向上することが知られている(特許文献1など)。
【0007】
Ca-La-Co系フェライト焼結磁石においてもCoの一部をZnで置換することが提案されている(特許文献2及び3など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平11-154604号公報
【文献】韓国公開特許第10-2017-0044875号公報
【文献】特開2009-246243号公報
【0009】
しかし、特許文献1のように、Sr-La-Co系フェライト焼結磁石においてCoの一部をZnで置換した場合、Brの向上幅はそれほど大きくなく、一方で保磁力(以下「HcJ」という)が著しく低下するという問題があり、実用化には至っていない。
【0010】
特許文献2では、Ca-Sr-La-Fe-Co-Znフェライト焼結磁石が開示されているが、磁気特性として飽和磁化(4πIs)、異方性磁界(HA)、最大エネルギー積は記載されるものの、Br及びHcJの値は記載されていない。
【0011】
特許文献3では、Ca-A(Sr,Ba)-La-Fe-Co-Znフェライト焼結磁石が開示されているが、実施例においては、第一の微粉砕工程と、第一の微粉砕工程によって得られた粉末に熱処理を施す工程と、熱処理が施された粉末を再度粉砕する第二の微粉砕工程とからなる粉砕工程(以下「熱処理再粉砕工程」という)が必須となっている。熱処理再粉砕工程は、長時間(88時間)の第一の微粉砕工程と熱処理(800℃で1時間)が必須となる一般的ではない粉砕工程であるため、量産規模での一般的な粉砕工程(粉砕は1回のみ、10時間程度)でどれくらいの磁石特性が得られるか記載されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、高いBrを有し、HcJの低下が少なく、かつ従来のフェライト焼結磁石よりもCoの使用量を削減したフェライト焼結磁石を提供することにある。
本発明のより具体的な目的は、原子比y(Coの含有量)が0.15≦y<0.2の場合、Sr-La-Co系フェライト焼結磁石においてCoの一部をZnで置換した場合よりもHcJが高く、一般的なSr-La-Co系フェライト焼結磁石(原子比で0.2程度のCoを含有)よりもCoの使用量を削減したフェライト焼結磁石を提供することにあり、原子比y(Coの含有量)が0.2≦y≦0.25の場合、一般的なCa-La-Co系フェライト焼結磁石とほぼ同等の磁石特性を有し、一般的なCa-La-Co系フェライト焼結磁石(原子比で0.3程度のCoを含有)よりもCoの使用量を削減したフェライト焼結磁石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明のフェライト仮焼体は、
Ca、R、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素)の原子比を示す一般式:Ca1-xRxFe2n-y-zCoyZnzにおいて、
前記x、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される)が、
0.4<x≦0.5、
0.2≦y≦0.25、
0<z<0.11、及び
9.0≦2n≦11.0
を満足する。
【0014】
本発明のフェライト仮焼体において、前記2nは、9.0≦2n≦10.31を満足するのが好ましい。
【0015】
本発明のフェライト仮焼体において、前記zは、0.02≦z≦0.1を満足するのが好ましい。
【0016】
本発明のフェライト焼結磁石は、
Ca、R、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素)の原子比を示す一般式:Ca1-xRxFe2n-y-zCoyZnzにおいて、
前記x、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される)が、
0.3<x≦0.5、
0.2≦y≦0.25、
0<z<0.11、及び
6.8≦2n≦11.0
を満足する。
【0017】
本発明のフェライト焼結磁石において、前記2nは、6.8≦2n≦10.31を満足するのが好ましい。
【0018】
本発明のフェライト焼結磁石において、前記zは、0.02≦z≦0.1を満足するのが好ましい。
【0019】
本発明のフェライト焼結磁石は、SiO 2 換算で1.5質量%以下のSiをさらに含有するのが好ましい。
【0020】
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法は、
Ca、R、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素)の原子比を示す一般式:Ca1-xRxFe2n-y-zCoyZnzにおいて、
前記x、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される)が、
0.4<x≦0.5、
0.2≦y≦0.25、
0<z<0.11、及び
9.0≦2n≦11.0
を満足する原料粉末を混合し、混合原料粉末を得る原料粉末混合工程、
前記混合原料粉末を仮焼し、仮焼体を得る仮焼工程、
前記仮焼体を粉砕し、仮焼体の粉末を得る粉砕工程、
前記仮焼体の粉末を成形し、成形体を得る成形工程、及び
前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程、
を含む。
【0021】
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記2nは、9.0≦2n≦10.31を満足するのが好ましい。
【0022】
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記zは、0.02≦z≦0.1を満足するのが好ましい。
【0023】
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記仮焼工程後、前記成形工程前に、前記仮焼体又は仮焼体の粉末100質量%に対して1.5質量%以下のSiO2を添加する工程をさらに含むのが好ましい。
【0024】
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記仮焼工程後、前記成形工程前に、前記仮焼体又は仮焼体の粉末100質量%に対してCaO換算で1.5質量%以下のCaCO3を添加する工程をさらに含むのが好ましい。
【0025】
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記焼成工程の800℃から焼成温度までの温度範囲における平均昇温速度が600℃/時以上1000℃/時以下であることが好ましい。
【0026】
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記焼成工程の焼成温度から800℃までの温度範囲における平均降温速度が1000℃/時以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、高いBrを有し、HcJの低下が少なく、かつ従来のフェライト焼結磁石よりもCoの使用量を削減したフェライト焼結磁石の提供が可能となる。
具体的には、原子比y(Coの含有量)が0.15≦y<0.2の場合、Sr-La-Co系フェライト焼結磁石においてCoの一部をZnで置換した場合よりもHcJが高く、一般的なSr-La-Co系フェライト焼結磁石(原子比で0.2程度のCoを含有)よりもCoの使用量を削減したフェライト焼結磁石の提供が可能となり、原子比y(Coの含有量)が0.2≦y≦0.25の場合、一般的なCa-La-Co系フェライト焼結磁石とほぼ同等の磁石特性を有し、一般的なCa-La-Co系フェライト焼結磁石(原子比で0.3程度のCoを含有)よりもCoの使用量を削減したフェライト焼結磁石の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1.フェライト仮焼体
本発明のフェライト仮焼体は、
Ca、R、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素)の原子比を示す一般式:Ca1-xRxFe2n-y-zCoyZnzにおいて、
前記x、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される)が、
0.4<x≦0.5、
0.15≦y≦0.25、
0<z<0.11、及び
4.5≦n≦5.5、
を満足する。
【0029】
本発明のフェライト仮焼体において、原子比x(Rの含有量)は、0.4<x≦0.5である。xが0.4以下又は0.5を超えると高いBrを得ることができない。Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素である。La以外の希土類元素の含有量はモル比でRの合計量の50%以下であるのが好ましい。
【0030】
原子比y(Coの含有量)は、0.15≦y≦0.25である。yが0.25を超えるとCo使用量の削減効果を得ることができない。yが0.15未満ではHcJの低下が大きくなるため好ましくない。原子比yが0.15≦y<0.2の範囲では、Sr-La-Co系フェライト焼結磁石においてCoの一部をZnで置換した場合よりもHcJが高く、一般的なSr-La-Co系フェライト焼結磁石(原子比で0.2程度のCoを含有)よりもCoの使用量を削減したフェライト焼結磁石が得られる。原子比y(Coの含有量)が0.2≦y≦0.25の範囲では、一般的なCa-La-Co系フェライト焼結磁石とほぼ同等の磁石特性を有し、一般的なCa-La-Co系フェライト焼結磁石(原子比で0.3程度のCoを含有)よりもCoの使用量を削減したフェライト焼結磁石が得られる。
【0031】
原子比z(Znの含有量)は、0<z<0.11である。zが0(含有しない)では高いBrを得ることができず、zが0.11以上になるとHcJの低下が大きくなるため好ましくない。原子比zは0.02≦z≦0.1であることが好ましい。
【0032】
前記一般式において、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される。nは4.5≦n≦5.5である。nが4.5未満又は5.5を超えると高いBrを得ることができない。
【0033】
前記一般式は、金属元素の原子比で示したが、酸素(O)を含む組成は、一般式:Ca1-xRxFe2n-y-zCoyZnzOαで表される。酸素のモル数αは基本的にはα=19であるが、Fe及びCoの価数、x、y及びzやnの値などによって異なってくる。また、還元性雰囲気で焼成した場合の酸素の空孔(ベイカンシー)、フェライト相におけるFeの価数の変化、Coの価数の変化等により金属元素に対する酸素の比率が変化する。従って、実際の酸素のモル数αは19からずれる場合がある。そのため、本発明においては、最も組成が特定し易い金属元素の原子比で組成を表記している。
【0034】
本発明のフェライト仮焼体を構成する主相は、六方晶のマグネトプランバイト(M型)構造を有する化合物相(フェライト相)である。一般に、磁性材料、特に焼結磁石は、複数の化合物から構成されており、その磁性材料の特性(物性、磁石特性など)を決定づけている化合物が「主相」と定義される。
【0035】
「六方晶のマグネトプランバイト(M型)構造を有する」とは、フェライト仮焼体のX線回折を一般的な条件で測定した場合に、六方晶のマグネトプランバイト(M型)構造のX線回折パターンが主として観察されることを言う。
【0036】
上述した本発明のフェライト仮焼体の製造方法を含む、本発明のフェライト焼結磁石の製造方法の一例を以下に説明する。
【0037】
2.フェライト焼結磁石の製造方法
原料粉末としては、価数にかかわらず、それぞれの金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、塩化物等の化合物を使用することができる。原料粉末を溶解した溶液であってもよい。Caの化合物としては、Caの炭酸塩、酸化物、塩化物等が挙げられる。Laの化合物としては、La2O3等の酸化物、La(OH)3等の水酸化物、La2(CO3)3・8H2O等の炭酸塩等が挙げられる。Feの化合物としては、酸化鉄、水酸化鉄、塩化鉄、ミルスケール等が挙げられる。Coの化合物としては、CoO、Co3O4等の酸化物、CoOOH、Co(OH)2等の水酸化物、CoCO3等の炭酸塩、及びm2CoCO3・m3Co(OH)2・m4H2O等の塩基性炭酸塩(m2、m3、m4は正の数である)が挙げられる。Znの化合物としてはZnOが挙げられる
【0038】
仮焼時の反応促進のため、必要に応じてB2O3、H3BO3等のB(硼素)を含む化合物を1質量%程度まで添加してもよい。特にH3BO3の添加は、磁石特性の向上に有効である。H3BO3の添加量は0.3質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%程度が最も好ましい。H3BO3は、焼成時に結晶粒の形状やサイズを制御する効果も有するため、仮焼後(微粉砕前や焼成前)に添加してもよく、仮焼前及び仮焼後の両方で添加してもよい。
【0039】
上述した本発明のフェライト仮焼体の成分、組成を満足する原料粉末を混合し、混合原料粉末とする。原料粉末の配合、混合は、湿式及び乾式のいずれで行ってもよい。スチールボール等の媒体とともに撹拌すると原料粉末をより均一に混合することができる。湿式の場合は、分散媒に水を用いるのが好ましい。原料粉末の分散性を高める目的でポリカルボン酸アンモニウム、グルコン酸カルシウム等の公知の分散剤を用いてもよい。混合した原料スラリーはそのまま仮焼してもよいし、原料スラリーを脱水した後、仮焼してもよい。
【0040】
乾式混合又は湿式混合することによって得られた混合原料粉末は、電気炉、ガス炉等を用いて加熱することで、固相反応により、六方晶のマグネトプランバイト(M型)構造のフェライト化合物を形成する。このプロセスを「仮焼」と呼び、得られた化合物を「仮焼体」と呼ぶ。
【0041】
仮焼工程では、温度の上昇とともにフェライト相が形成される固相反応が進行する。仮焼温度が1100℃未満では、未反応のヘマタイト(酸化鉄)が残存するため磁石特性が低くなる。一方、仮焼温度が1450℃を超えると結晶粒が成長し過ぎるため、粉砕工程において粉砕に多大な時間を要することがある。従って、仮焼温度は1100℃~1450℃であるのが好ましい。仮焼時間は0.5時間~5時間であるのが好ましい。仮焼後の仮焼体はハンマーミルなどによって粗粉砕することが好ましい。
【0042】
以上のような工程を経ることによって、本発明のフェライト仮焼体を得ることができる。引き続き、本発明のフェライト焼結磁石の製造方法を説明する。
【0043】
仮焼体を粗粉砕後、振動ミル、ジェットミル、ボールミル、アトライター等によって粉砕(微粉砕)し、仮焼体の粉末(微粉砕粉末)とする。仮焼体の粉末の平均粒径は0.4μm~0.8μm程度にするのが好ましい。なお、本発明においては、粉体比表面積測定装置(例えば島津製作所製SS-100)などを用いて空気透過法によって測定した値を粉末の平均粒径(平均粒度)という。粉砕工程は、乾式粉砕及び湿式粉砕のいずれでもよく、双方を組み合わせてもよい。湿式粉砕の場合は、分散媒として水及び/又は非水系溶剤(アセトン、エタノール、キシレン等の有機溶剤)を用いて行う。典型的には、水(分散媒)と仮焼体とを含むスラリーを生成する。スラリーには公知の分散剤及び/又は界面活性剤を固形分比率で0.2~2質量%を添加してもよい。湿式粉砕後は、スラリーを濃縮してもよい。
【0044】
成形工程は、粉砕工程後のスラリーを、分散媒を除去しながら磁界中又は無磁界中でプレス成形する。磁界中でプレス成形することにより、粉末粒子の結晶方位を整列(配向)させることができ、磁石特性を飛躍的に向上させることができる。さらに、配向を向上させるために、成形前のスラリーに分散剤及び潤滑剤をそれぞれ0.1~1質量%添加してもよい。また成形前にスラリーを必要に応じて濃縮してもよい。濃縮は遠心分離、フィルタープレス等により行うのが好ましい。
【0045】
前記仮焼工程後、成形工程前に、仮焼体又は仮焼体の粉末(粗粉砕粉末又は微粉砕粉末)に焼結助剤を添加してもよい。焼結助剤としてはSiO2のみ、あるいはSiO2とCaCO3の両方を添加することが好ましい。本発明のフェライト焼結磁石は、その組成から明らかなようにCa-La-Co系フェライト焼結磁石に属する。Ca-La-Co系フェライト焼結磁石においては、主相成分としてCaが含まれているため、従来のSr-La-Co系フェライト焼結磁石などのようにSiO2やCaCO3などの焼結助剤を添加しなくても、液相が生成し、焼結することができる。すなわち、フェライト焼結磁石において主として粒界相を形成するSiO2やCaCO3を添加しなくても本発明のフェライト焼結磁石を製造することができる。但し、HcJの低下を抑制するために、以下に示す量のSiO2及びCaCO3を添加してもよい。
【0046】
SiO2の添加量は、添加する対象となる仮焼体又は仮焼体の粉末100質量%に対して1.5質量%以下が好ましい。また、CaCO3の添加量は、添加する対象となる仮焼体又は仮焼体の粉末100質量%に対してCaO換算で1.5質量%以下が好ましい。焼結助剤の添加は、例えば、仮焼工程によって得られた仮焼体に添加した後、粉砕工程を実施する、粉砕工程の途中で添加する、又は粉砕工程後の仮焼体の粉末(微粉砕粉末)に添加、混合した後成形工程を実施する、などの方法を採用することができる。焼結助剤として、SiO2及びCaCO3の他に、Cr2O3、Al2O3等を添加してもよい。これらの添加量は、それぞれ1質量%以下であってよい。
【0047】
なお、本発明においては、CaCO3の添加量は全てCaO換算で表記する。CaO換算での添加量からCaCO3の添加量は、
式:(CaCO3の分子量×CaO換算での添加量)/CaOの分子量
によって求めることができる。例えば、CaO換算で0.5質量%のCaCO3を添加する場合、
{(40.08[Caの原子量]+12.01[Cの原子量]+48.00[Oの原子量×3]=100.09[CaCO3の分子量])×0.5質量%[CaO換算での添加量]}/(40.08[Caの原子量]+16.00[Oの原子量]=56.08[CaOの分子量])=0.892質量%[CaCO3の添加量]、となる。
【0048】
プレス成形により得られた成形体を、必要に応じて脱脂した後、焼成(焼結)する。焼成は電気炉、ガス炉等を用いて行う。焼成は酸素濃度が10体積%以上の雰囲気中で行うことが好ましい。より好ましくは20体積%以上であり、最も好ましくは100体積%である。焼成温度は1150℃~1250℃が好ましい。焼成時間は0時間(焼成温度での保持無し)~2時間が好ましい。
【0049】
焼成工程の昇温時において、800℃から焼成温度までの温度範囲における平均昇温速度を600℃/時以上1000℃/時以下とし、さらに、焼成工程の焼成時間キープ後(保持無しの場合も含む)の降温時において、焼成温度から800℃までの温度範囲における平均降温速度を1000℃/時以上とすると、リードタイムの短縮が図れるとともに、磁石特性がより向上するため好ましい。なお、これらの効果は、前記降温速度のみ採用することで得ることができるが、前記昇温速度と降温速度の両方を採用する方がより好ましい。
【0050】
昇温時において、800℃から焼成温度までの温度範囲での平均昇温速度が600℃/時未満であると、リードタイムの短縮及び磁石特性の向上効果を十分に得ることができない。平均昇温速度が1000℃/時を超えてもリードタイムの短縮及び磁石特性の向上効果を奏することは可能であるが、焼成炉の構造や大きさによっては、被焼成物(成形体)の温度が炉内温度(又は焼成炉の設定温度)に追随することが困難となる場合がある。従って、平均昇温速度の上限は1000℃/時とした。なお、本発明の実施形態において、温度を記載する場合は全て被熱処理物の温度を指す。温度の測定は、焼成炉内の被熱処理物にR熱電対を接触させることにより測定する
【0051】
800℃までの昇温速度は特に問わないが、リードタイムの短縮を考慮すれば、800℃から焼成温度までの温度範囲と同様の昇温速度、すなわち、室温あるいは炉内温度(予備加熱温度等)から焼成温度までの温度範囲全域において、平均昇温速度を600℃/時以上1000℃/時以下とすることが望ましい
【0052】
焼成温度で所定時間(保持無しの場合も含む)キープ後の降温時において、焼成温度から800℃までの温度範囲での平均降温速度が1000℃/時未満であると、リードタイムの短縮及び磁石特性の向上効果を十分に得ることができない。800℃以下の降温速度は特に問わないが、リードタイムの短縮を考慮すれば、焼成温度から800℃までの温度範囲と同様、あるいはそれに近い降温速度で室温付近まで冷却することが好ましい。
【0053】
焼成工程の後は、加工工程、洗浄工程、検査工程等の公知の製造プロセスを経て、最終的にフェライト焼結磁石を製造する。
【0054】
3.フェライト焼結磁石
前記の通り、本発明のフェライト仮焼体は、SiO2やCaCO3などの焼結助剤を添加しなくても、液相が生成し、焼結することができ、本発明のフェライト焼結磁石を得ることができる。この時、フェライト仮焼体の成分、組成と、フェライト焼結磁石の成分、組成は、基本的に同じとなる(製造工程における不純物の混入などは考慮しない)。
【0055】
一方、焼結助剤を添加した場合、特にフェライト仮焼体の主成分でもあるCa成分(例えばCaCO3)を焼結助剤として添加した場合は、フェライト焼結磁石全体としてはCa成分が増加するため、相対的に他の元素が減少することとなる。例えば、本発明のフェライト仮焼体を用いて、焼結助剤としてCaO換算でCaCO3を1.5質量%添加すると、最も変動する場合で、0.4<x≦0.5(仮焼体)が0.3<x≦0.5(焼結磁石)に、4.5≦n≦5.5(仮焼体)が3.4≦n≦5.5(焼結磁石)となる。
【0056】
従って、本発明のフェライト焼結磁石は、
Ca、R、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素)の原子比を示す一般式:Ca1-xRxFe2n-y-zCoyZnzにおいて、
前記x、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される)が、
0.3<x≦0.5、
0.15≦y≦0.25、
0<z<0.11、及び
3.4≦n≦5.5、
を満足するものとなる。
【0057】
なお、本発明のフェライト焼結磁石の、酸素(O)を含む組成、フェライト焼結磁石を構成する主相、六方晶のマグネトプランバイト(M型)構造の定義などは、本発明のフェライト仮焼体と同様である。また、前記の通り、フェライト仮焼体からx、nの範囲が変動しているものの、原子比x、y、zの限定理由、nの限定理由も前記フェライト仮焼体と同様であるため説明を省略する。
【0058】
前記の通り、本発明のフェライト焼結磁石の製造方法において、焼結助剤としてSiO2を、仮焼体又は仮焼体の粉末100質量%に対して1.5質量%以下添加する場合がある。焼結助剤として添加されたSiO2は焼成(焼結)時に液相成分となり、フェライト焼結磁石において粒界相の一成分として存在することとなる。従って、焼結助剤として前記添加量のSiO2を添加した場合は、得られるフェライト焼結磁石はSiO 2 換算で1.5質量%以下のSiを含有する。この時、Siの含有により、前記一般式:Ca1-xRxFe2n-y-zCoyZnzで示される各元素の含有量が相対的に減少することとなるが、前記一般式におけるx、y、z、nなどの範囲は基本的に変化しない。なお、Siの含有量は、フェライト焼結磁石の成分分析結果(例えば、ICP発光分光分析装置による結果)におけるCa、R、Fe、Co、Zn及びSiの各組成(質量%)から、CaCO3、La(OH)3、Fe2O3、Co3O4、ZnO及びSiO2の質量に換算し、それらの合計100質量%に対する含有比率(質量%)である。
【実施例
【0059】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0060】
実験例1
本発明に基づく実験例として、一般式Ca1-x-x'LaxSrx'Fe2n-y-zCoyZnzにおいて、原子比が表1の試料No.1~15及び18に示す1-x-x'、x、x'、y、z及び2nになるようにCaCO3粉末、La(OH)3粉末、SrCO3粉末、Fe2O3粉末、Co3O4粉末及びZnO粉末を所定の組成で秤量し、秤量後の粉末の合計100質量%に対してH3BO3粉末を0.1質量%添加後、それぞれ湿式ボールミルで4時間混合した後、乾燥、整粒して16種類の混合原料粉末を得た。
【0061】
また、比較例として、一般式Srx'LaxFe2n-y-zCoyZnzにおいて、Sr、La、Co、Znの原子比及びnが表1の試料No,16及び17に示す原子比になるようにSrCO3粉末、La(OH)3粉末、Fe2O3粉末、Co3O4粉末及びZnO粉末を所定の組成で秤量し、秤量後の粉末の合計100質量%に対してH3BO3粉末を0.1質量%添加後、それぞれ湿式ボールミルで4時間混合した後、乾燥、整粒して2種類の混合原料粉末を得た。
【0062】
得られた全18種類の混合原料粉末をそれぞれ大気中において表1に示す仮焼温度で3時間仮焼し、18種類の仮焼体を得た。
【0063】
得られた各仮焼体を小型ミルで粗粉砕して18種類の仮焼体の粗粉砕粉末を得た。得られた各仮焼体の粗粉砕粉末100質量%に対して、表1に示すCaCO3(添加量はCaO換算)及びSiO2を添加し、水を分散媒とした湿式ボールミルで、表1に示す平均粒度(粉体比表面積測定装置(島津製作所製SS-100)を用いて空気透過法により測定)になるまで微粉砕し、18種類の微粉砕スラリーを得た。
【0064】
粉砕工程により得られた各微粉砕スラリーを、分散媒を除去しながら、加圧方向と磁界方向とが平行である平行磁界成形機(縦磁界成形機)を用い、約1 Tの磁界を印加しながら約2.4 MPaの圧力で成形し、18種類の成形体を得た。
【0065】
得られた各成形体を焼成炉内に挿入し、試料No.1~14は、10L/分の流量のエアーを流気しながら、室温から焼成温度までの温度範囲を平均1000℃/時の速度で昇温し、表1に示す焼成温度で1時間焼成した。焼成後は、焼成炉のヒータを切り、エアーの流量を10L/分から40L/分にして、焼成温度から800℃までの温度範囲を平均1140℃/時の速度で降温し、そのまま炉内で室温まで冷却した。試料No.15~17は、10L/分の流量のエアーを流気しながら、室温から焼成温度までの温度範囲を平均400℃/時の速度で昇温し、表1に示す焼成温度で1時間焼成した。焼成後は、焼成炉のヒータを切り、エアーの流量を10L/分のままで、焼成温度から800℃までの温度範囲を平均300℃/時の速度で降温し、そのまま炉内で室温まで冷却した。試料No.18は、10L/分の流量のエアーを流気しながら、室温から1100℃までの温度範囲を平均400℃/時の速度で昇温し、1100℃から焼成温度までの温度範囲を平均1℃/分の速度で昇温し、表1に示す焼成温度で1時間焼成した。焼成後は、焼成炉のヒータを切り、エアーの流量を10L/分のままで、焼成温度から800℃までの温度範囲を平均300℃/時の速度で降温し、そのまま炉内で室温まで冷却した(特許第6217640号公報を参考)。
【0066】
得られた18種類のフェライト焼結磁石のBr、HcJ及びHk/HcJの測定結果を表1に示す。表1において試料No.の横に*印を付していない試料No.1~4、7~11が本発明に基づく実験例である。*印を付した試料No.5、6、12~18は本発明を満足しない実験例(比較例)である。*印を付した試料No.13及び14は前記特許文献2に記載されたCa-Sr-La-Fe-Co-Znフェライト焼結磁石の再現実験である。*印を付した試料No.15は前記特許文献3に記載されたCa- A(Sr)-La-Fe-Co-Znフェライト焼結磁石の再現実験である。*印を付した試料No.16及び17は従来のSr-La-Co系フェライト焼結磁石においてCoの一部をZnで置換した実験例(比較例)である。*印を付した試料No.18は一般的なCa-La-Co系フェライト焼結磁石(原子比で0.3のCoを含有)の実験例である。なお、表1におけるHkは、J(磁化の大きさ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.95×Jr(Jrは残留磁化、Jr=Br)の値になる位置のHの値である。
【0067】
表1における原子比は原料粉末の配合時の原子比(配合組成)を示す。焼成後の焼結体(フェライト焼結磁石)における原子比(焼結磁石の組成)は、配合時の原子比を元に、仮焼工程前に添加される添加物(H3BO3など)の添加量や、仮焼工程後成形工程前に添加される焼結助剤(CaCO3及びSiO2)の添加量を考慮し、計算によって求めることができ、その計算値は、フェライト焼結磁石をICP発光分光分析装置(例えば、島津製作所製ICPV-1017など)で分析した結果と基本的に同様となる。
【0068】
【表1】
【0069】
試料No.3、4のように原子比y(Coの含有量)が0.15≦y<0.2の場合、従来のSr-La-Co系焼結磁石においてCoの一部をZnで置換した実験例(比較例)である試料No.16及び17に比べ、ほぼ同量のCo含有量でありながら、Br及びHcJのいずれも高くなっており、かつ、一般的なSr-La-Co系焼結磁石(原子比で0.2程度のCoを含有)に比べCoの使用量を削減(0.2を0.15に)することができる。
【0070】
試料No.1、2、7~11のように原子比y(Coの含有量)が0.2≦y≦0.25の場合、一般的なCa-La-Co系フェライト焼結磁石(原子比で0.3のCoを含有)の実験例である試料No.18とほぼ同等の磁石特性を有し、かつ一般的なCa-La-Co系フェライト焼結磁石(原子比で0.3程度のCoを含有)よりもCoの使用量を削減(0.3を0.25以下に)することができる。
【0071】
また、本発明に基づく実験例である試料No.1、2と、本発明を満足しない実験例(比較例)であるNo.5、6(Znを含有しない)との対比から明らかなように、本発明によるフェライト焼結磁石は、優れたBr及びHcJを有することが分かる。また、本発明に基づく実験例である試料No.10と、本発明を満足しない実験例(比較例)であるNo.12(Caの含有量が少ない)との対比から明らかなように、本発明によるフェライト焼結磁石は、高いHcJを有することが分かる。
【0072】
さらに、本発明に基づく実験例であり、原子比y(Coの含有量)が0.2≦y≦0.25である試料No.1、2、7~11は、前記特許文献2に記載されたCa-Sr-La-Fe-Co-Znフェライト焼結磁石の再現実験である試料No.13及び14、並びに、前記特許文献3に記載されたCa- A(Sr)-La-Fe-Co-Znフェライト焼結磁石の再現実験である試料No.15に比べ、優れたBr及びHcJを有することが分かる。
【0073】
なお、前記特許文献2に記載されたCa-Sr-La-Fe-Co-Znフェライト焼結磁石の再現実験である試料No.13及び14については、特許文献2に記載される添加物条件(CaCO3=1.70質量%、SiO2=0.45質量%、Fe2O3=10質量%、La2O3=1.5質量%)を添加して実験を行ったが、磁石特性が著しく低かった(Br=0.44T、HcJ=180kA/m程度であった)ため、本発明に基づく実験例とほぼ同じ添加物(焼結助剤)の条件で実験を実施した。その結果、Br及びHcJは表1に記載の通りとなり、最大エネルギー積((BH)max)は4.89MGOe(試料No.13)、4.69MGOe(試料No.14)であり、特許文献2に記載される5.64MGOe、5.65MGOeは得られなかった。
【0074】
また、前記特許文献3に記載されたCa-A(Sr)-La-Fe-Co-Znフェライト焼結磁石の再現実験である試料No.15については、特許文献3に記載される熱処理再粉砕工程は実施せず、本発明に基づく実験例と同様の条件(粉砕は1回のみ)にて粉砕を行った。また、添加物(焼結助剤)についても、本発明に基づく実験例とほぼ同じ添加量(CaO換算でCaCO3=0.4質量%、SiO2=0.4質量%)で実験を実施した。その結果、Br及びHcJは表1に記載の通りとなった。
【0075】
実験例2
本発明に基づく実験例として、一般式Ca1-x-x'LaxSrx'Fe2n-y-zCoyZnzにおいて、原子比が表2の試料No.19~27に示す1-x-x'、x、x'、y、z及び2nになるようにCaCO3粉末、La(OH)3粉末、Fe2O3粉末、Co3O4粉末及びZnO粉末を所定の組成で秤量し、秤量後の粉末の合計100質量%に対してH3BO3粉末を0.1質量%添加後、それぞれ湿式ボールミルで4時間混合した後、乾燥、整粒して9種類の混合原料粉末を得た。得られた全9種類の混合原料粉末をそれぞれ大気中において表2に示す仮焼温度で3時間仮焼し、9種類の仮焼体を得た。
【0076】
得られた各仮焼体を小型ミルで粗粉砕して9種類の仮焼体の粗粉砕粉末を得た。得られた各仮焼体の粗粉砕粉末100質量%に対して、表2に示すCaCO3(添加量はCaO換算)及びSiO2を添加し、水を分散媒とした湿式ボールミルで、表2に示す平均粒度(粉体比表面積測定装置(島津製作所製SS-100)を用いて空気透過法により測定)になるまで微粉砕し、9種類の微粉砕スラリーを得た。
【0077】
粉砕工程により得られた各微粉砕スラリーを、分散媒を除去しながら、加圧方向と磁界方向とが平行である平行磁界成形機(縦磁界成形機)を用い、約1 Tの磁界を印加しながら約2.4 MPaの圧力で成形し、9種類の成形体を得た。
【0078】
得られた各成形体を焼成炉内に挿入し、10L/分の流量のエアーを流気しながら、室温から焼成温度までの温度範囲を平均1000℃/時の速度で昇温し、表2に示す焼成温度で1時間焼成した。焼成後は、焼成炉のヒータを切り、エアーの流量を10L/分から40L/分にして、焼成温度から800℃までの温度範囲を平均1140℃/時の速度で降温し、そのまま炉内で室温まで冷却した。
【0079】
得られた9種類のフェライト焼結磁石のBr、HcJ及びHk/HcJの測定結果を表2に示す。表2における試料No.19~27は全て本発明に基づく実験例である。表2におけるHkは、J(磁化の大きさ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.95×Jr(Jrは残留磁化、Jr=Br)の値になる位置のHの値である。
【0080】
表2における原子比は原料粉末の配合時の原子比(配合組成)を示す。焼成後の焼結体(フェライト焼結磁石)における原子比(焼結磁石の組成)は、配合時の原子比を元に、仮焼工程前に添加される添加物(H3BO3など)の添加量や、仮焼工程後成形工程前に添加される焼結助剤(CaCO3及びSiO2)の添加量を考慮し、計算によって求めることができ、その計算値は、フェライト焼結磁石をICP発光分光分析装置(例えば、島津製作所製ICPV-1017など)で分析した結果と基本的に同様となる。
【0081】
【表2】
【0082】
原子比y(Coの含有量)が0.2≦y≦0.25である試料No.19~27は、実験例1における一般的なCa-La-Co系フェライト焼結磁石(原子比で0.3のCoを含有)の実験例である試料No.18とほぼ同等の磁石特性を有し、かつ一般的なCa-La-Co系フェライト焼結磁石(原子比で0.3程度のCoを含有)よりもCoの使用量を削減(0.3を0.25以下に)することができる。
【0083】
また、試料No.19~27と、実験例1において本発明を満足しない実験例(比較例)であるNo.5、6(Znを含有しない)との対比から明らかなように、本発明によるフェライト焼結磁石は、優れたBr及びHcJを有することが分かる。また、試料No. 19~27と、実験例1において本発明を満足しない実験例(比較例)であるNo.12(Caの含有量が少ない)との対比から明らかなように、本発明によるフェライト焼結磁石は、高いHcJを有することが分かる。
【0084】
さらに、試料No.19~27は、前記特許文献2に記載されたCa-Sr-La-Fe-Co-Znフェライト焼結磁石の再現実験である試料No.13及び14、並びに、前記特許文献3に記載されたCa- A(Sr)-La-Fe-Co-Znフェライト焼結磁石の再現実験である試料No.15に比べ、優れたBr及びHcJを有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、高いBrを有し、HcJの低下が少なく、かつ従来のフェライト焼結磁石よりもCoの使用量を削減したフェライト焼結磁石の提供が可能となるので、各種モータなどに好適に利用することができる。