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特許7468045フェライト仮焼体粉末、フェライト焼結磁石及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】フェライト仮焼体粉末、フェライト焼結磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/10 20060101AFI20240409BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240409BHJP
   C04B 35/40 20060101ALI20240409BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20240409BHJP
   C01B 33/12 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
H01F1/10
H01F41/02 G
C04B35/40
C01G51/00 B
C01B33/12 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020052528
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021153093
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】谷奥 泰明
(72)【発明者】
【氏名】小林 義徳
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/216594(WO,A1)
【文献】特開2001-052912(JP,A)
【文献】特開2009-246243(JP,A)
【文献】特開2015-020926(JP,A)
【文献】特開2018-160672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/10
H01F 41/02
C04B 35/40
C01G 51/00
C01B 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ca、R、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも一種であってLaを必須に含む元素)の原子比を示す一般式:Ca1-xFe2n-y-zCoZnにおいて、
前記x、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される)が、
0.4<x≦0.5、
0.15≦y≦0.25、
0<z<0.11、及び
4.5≦n≦5.5、
を満足するCa、R、Fe、Co及びZnと、
焼結助剤である、
0.4~0.7mass%のSiOと、
0mass%以上、0.2mass%未満のCaCOと、
を含有し、
平均粒径が、0.7~0.8μmである、フェライト仮焼体粉末。
【請求項2】
Ca、R、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも一種であってLaを必須に含む元素)の原子比を示す一般式:Ca1-xFe2n-y-zCoZnにおいて、
前記x、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される)が、
0.35<x≦0.5、
0.15≦y≦0.25、
0<z<0.11、及び
4.0≦n≦5.5、
を満足するCa、R、Fe、Co及びZnと、
SiO換算で0.4~0.7mass%のSiと、
を含有するフェライト焼結磁石。
【請求項3】
Ca、R、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも一種であってLaを必須に含む元素)の原子比を示す一般式:Ca1-xFe2n-y-zCoZnにおいて、
前記x、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される)が、
0.4<x≦0.5、
0.15≦y≦0.25、
0<z<0.11、及び
4.5≦n≦5.5、
を満足する原料粉末を混合し、混合原料粉末を得る原料粉末混合工程と、
前記混合原料粉末を仮焼し、仮焼体を得る仮焼工程と、
前記仮焼体を粉砕し、平均粒径が0.7~0.8μmの仮焼体の粉末を得る粉砕工程と、
前記仮焼体の粉末を成形し、成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程と、
を含み、
前記仮焼工程後、前記成形工程前に、添加する対象となる仮焼体又は仮焼体の粉末100mass%に対して、
0.4~0.7mass%のSiOと、
0mass%以上、0.2mass%未満のCaCOと、
を添加する工程を更に含む、フェライト焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フェライト仮焼体粉末、フェライト焼結磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結磁石は最大エネルギー積が希土類系焼結磁石(例えばNdFeB系焼結磁石)の1/10にすぎないが、主原料が安価な酸化鉄であることからコストパフォーマンスに優れており、化学的に極めて安定であるという特長を有している。そのため、各種モータやスピーカなど様々な用途に用いられており、世界的な生産重量は現在でも磁石材料の中で最大である。
【0003】
代表的なフェライト焼結磁石は、マグネトプランバイト構造を有するSrフェライトであり、基本組成はSrFe1219で表される。1990年代後半にSrFe1219のSr2+の一部をLa3+で置換し、Fe3+の一部をCo2+で置換したSr-La-Co系フェライト焼結磁石が実用化されたことによりフェライト磁石の磁石特性は大きく向上した。また、2007年には、磁石特性をさらに向上させたCa-La-Co系フェライト焼結磁石が実用化された。
【0004】
前記のSr-La-Co系フェライト焼結磁石及びCa-La-Co系フェライト焼結磁石ともに、高い磁石特性を得るためにはCoが不可欠である。Sr-La-Co系フェライト焼結磁石は原子比で0.2程度(Co/Fe=0.017、すなわちFe含有量の1.7%程度)、Ca-La-Co系フェライト焼結磁石では原子比で0.3程度(Co/Fe=0.03、すなわちFe含有量の3%程度)のCoを含有している。Co(酸化Co)の価格はフェライト焼結磁石の主原料である酸化鉄の十倍から数十倍に相当する。従って、Ca-La-Co系フェライト焼結磁石では、Sr-La-Co系フェライト焼結磁石に比べ原料コストの増大が避けられない。フェライト焼結磁石の最大の特徴は安価であるという点にあるため、たとえ高い磁石特性を有していても、価格が高いと市場では受け入れられ難い。従って、世界的には、未だSr-La-Co系フェライト焼結磁石の需要が高い。
【0005】
近年、電気自動車の供給量増加によるLiイオン電池の需要増大に伴い、Coの価格が急騰している。その余波を受け、コストパフォーマンスに優れるSr-La-Co系フェライト焼結磁石においても、製品価格を維持することが困難な状況にある。このような背景から、磁石特性を維持しながら、いかにしてCoの使用量を削減するかが喫緊の課題となっている。
【0006】
特許文献1などから、Co量低減を目的とするものではないが、例えば、Sr-La-Co系フェライト焼結磁石において、Coの一部をZnで置換することにより、残留磁束密度(以下「B」という)が向上することが知られている。
【0007】
また、特許文献2などから、Ca-La-Co系フェライト焼結磁石においてもCoの一部をZnで置換することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平11-154604号公報
【文献】韓国公開特許第10-2017-0044875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、安価なフェライト磁石を提供するために、特許文献2のようにCoの一部をZnで置換するだけでなく、磁石特性の低下を少なくしつつ、更に安価に製造する手段が求められている。
【0010】
本開示の目的は、磁石特性の低下が少なく、フェライト焼結磁石を安価に提供することが可能なフェライト仮焼体粉末、フェライト焼結磁石及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本開示のフェライト仮焼体粉末は、
Ca、R、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも一種であってLaを必須に含む元素)の原子比を示す一般式:Ca1-xFe2n-y-zCoZnにおいて、
前記x、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される)が、
0.4<x≦0.5、
0.15≦y≦0.25、
0<z<0.11、及び
4.5≦n≦5.5、
を満足するCa、R、Fe、Co及びZnと、
焼結助剤である、
0mass%より多く、1.0mass%以下のSiOと、
0mass%以上、0.3mass%未満のCaCOと、
を含有し、
平均粒径が、0.6μmより大きく0.9μm以下を満足する。
【0012】
本開示のフェライト仮焼体粉末において、SiOが、0.4~0.7mass%、CaCOが、0mass%以上、0.2mass%未満を満足するのが好ましい。
【0013】
本開示のフェライト仮焼体粉末において、平均粒径が、0.7~0.8μmを満足するのが好ましい。
【0014】
本開示のフェライト焼結磁石は、 Ca、R、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも一種であってLaを必須に含む元素)の原子比を示す一般式:Ca1-xFe2n-y-zCoZnにおいて、 前記x、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される)が、 0.35<x≦0.5、 0.15≦y≦0.25、 0<z<0.11、及び 4.0≦n≦5.5、を満足するCa、R、Fe、Co及びZnと、 SiO 換算で0mass%より多く、1.0mass%以下のSiと、を含有する。
【0015】
本開示のフェライト焼結磁石において、SiがSiO 換算で0.4~0.7mass%を満足するのが好ましい。
【0016】
本開示のフェライト焼結磁石の製造方法は、
Ca、R、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも一種であってLaを必須に含む元素)の原子比を示す一般式:Ca1-xFe2n-y-zCoZnにおいて、
前記x、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される)が、
0.4<x≦0.5、
0.15≦y≦0.25、
0<z<0.11、及び
4.5≦n≦5.5、
を満足する原料粉末を混合し、混合原料粉末を得る原料粉末混合工程と、
前記混合原料粉末を仮焼し、仮焼体を得る仮焼工程と、
前記仮焼体を粉砕し、平均粒径が0.6μmより大きく0.9μm以下の仮焼体の粉末を得る粉砕工程と、
前記仮焼体の粉末を成形し、成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程と、
を含み、
前記仮焼工程後、前記成形工程前に、添加する対象となる仮焼体又は仮焼体の粉末100mass%に対して、
0mass%より多く、1.0mass%以下のSiOと、
0mass%以上、0.3mass%未満のCaCOと、
を添加する工程を更に含む。
【0017】
本開示のフェライト焼結磁石の製造方法において、SiOが、0.4~0.7mass%、CaCOが、0mass%以上、0.2mass%未満を満足するのが好ましい。
【0018】
本開示のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記仮焼体の粉末の平均粒径が、0.7~0.8μmを満足するのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、磁石特性の低下が少なく、フェライト焼結磁石を安価に提供することが可能なフェライト仮焼体粉末、フェライト焼結磁石及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.フェライト仮焼体粉末
本開示のフェライト仮焼体粉末は、
Ca、R、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも一種であってLaを必須に含む元素)の原子比を示す一般式:Ca1-xFe2n-y-zCoZnにおいて、
前記x、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される)が、
0.4<x≦0.5、
0.15≦y≦0.25、
0<z<0.11、及び
4.5≦n≦5.5、
を満足するCa、R、Fe、Co及びZnと、
焼結助剤である、
0mass%より多く、1.0mass%以下のSiOと、
0mass%以上、0.3mass%未満のCaCOと、
を含有し、
平均粒径が、0.6μmより大きく0.9μm以下を満足する。
【0021】
本開示のフェライト仮焼体粉末において、原子比x(Rの含有量)は、0.4<x≦0.5である。xが0.4以下又は0.5を超えると高いBを得ることができない。Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素である。La以外の希土類元素の含有量はモル比でRの合計量の50%以下であるのが好ましい。
【0022】
原子比y(Coの含有量)は、0.15≦y≦0.25である。yが0.25を超えるとCo使用量の削減効果を得ることができない。yが0.15未満ではHcJの低下が大きくなるため好ましくない。また、yが0.15≦y≦0.25の範囲では、一般的なCa-La-Co系フェライト焼結磁石とほぼ同等の磁石特性を有し、一般的なCa-La-Co系フェライト焼結磁石(原子比で0.3程度のCoを含有)よりもCoの使用量を削減したフェライト焼結磁石が得られる。
【0023】
原子比z(Znの含有量)は、0<z<0.11である。zが0(含有しない)では高いBを得ることができず、zが0.11以上になるとHcJの低下が大きくなるため好ましくない。
【0024】
前記一般式において、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される。nは4.5≦n≦5.5である。nが4.5未満又は5.5を超えると高いBを得ることができない。
【0025】
前記一般式は、金属元素の原子比で示したが、酸素(O)を含む組成は、一般式:Ca1-xFe2n-y-zCoZnαで表される。酸素のモル数αは基本的にはα=19であるが、Fe及びCoの価数、x、y及びzやnの値などによって異なってくる。また、還元性雰囲気で焼成した場合の酸素の空孔(ベイカンシー)、フェライト相におけるFeの価数の変化、Coの価数の変化等により金属元素に対する酸素の比率が変化する。従って、実際の酸素のモル数αは19からずれる場合がある。そのため、本開示においては、最も組成が特定し易い金属元素の原子比で組成を表記している。
【0026】
本開示のフェライト仮焼体を構成する主相は、六方晶のマグネトプランバイト(M型)構造を有する化合物相(フェライト相)である。一般に、磁性材料、特に焼結磁石は、複数の化合物から構成されており、その磁性材料の特性(物性、磁石特性など)を決定づけている化合物が「主相」と定義される。
【0027】
「六方晶のマグネトプランバイト(M型)構造を有する」とは、フェライト仮焼体のX線回折を一般的な条件で測定した場合に、六方晶のマグネトプランバイト(M型)構造のX線回折パターンが主として観察されることを言う。
【0028】
上述した本開示のフェライト仮焼体粉末の製造方法を含む、本開示のフェライト焼結磁石の製造方法の一例を以下に説明する。
【0029】
2.フェライト焼結磁石の製造方法
原料粉末としては、価数にかかわらず、それぞれの金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、塩化物等の化合物を使用することができる。原料粉末を溶解した溶液であってもよい。Caの化合物としては、Caの炭酸塩、酸化物、塩化物等が挙げられる。Laの化合物としては、La等の酸化物、La(OH)等の水酸化物、La(CO・8HO等の炭酸塩等が挙げられる。Feの化合物としては、酸化鉄、水酸化鉄、塩化鉄、ミルスケール等が挙げられる。Coの化合物としては、CoO、Co等の酸化物、CoOOH、Co(OH)等の水酸化物、CoCO等の炭酸塩、及びmCoCo3・mCo(OH)・mO等の塩基性炭酸塩(m、m、mは正の数である)が挙げられる。Znの化合物としてはZnOが挙げられる
【0030】
仮焼時の反応促進のため、必要に応じてB、HBO等のB(硼素)を含む化合物を1mass%程度まで添加してもよい。特にHBOの添加は、磁石特性の向上に有効である。HBOの添加量は0.3mass%以下であるのが好ましく、0.1mass%程度が最も好ましい。HBOは、焼成時に結晶粒の形状やサイズを制御する効果も有するため、仮焼後(微粉砕前や焼成前)に添加してもよく、仮焼前及び仮焼後の両方で添加してもよい。
【0031】
上述した本開示のフェライト仮焼体の成分、組成を満足する原料粉末を混合し、混合原料粉末とする。原料粉末の配合、混合は、湿式及び乾式のいずれで行ってもよい。スチールボール等の媒体とともに撹拌すると原料粉末をより均一に混合することができる。湿式の場合は、分散媒に水を用いるのが好ましい。原料粉末の分散性を高める目的でポリカルボン酸アンモニウム、グルコン酸カルシウム等の公知の分散剤を用いてもよい。混合した原料スラリーはそのまま仮焼してもよいし、原料スラリーを脱水した後、仮焼してもよい。
【0032】
乾式混合又は湿式混合することによって得られた混合原料粉末は、電気炉、ガス炉等を用いて加熱することで、固相反応により、六方晶のマグネトプランバイト(M型)構造のフェライト化合物を形成する。このプロセスを「仮焼」と呼び、得られた化合物を「仮焼体」と呼ぶ。
【0033】
仮焼工程では、温度の上昇とともにフェライト相が形成される固相反応が進行する。仮焼温度が1100℃未満では、未反応のヘマタイト(酸化鉄)が残存するため磁石特性が低くなる。一方、仮焼温度が1450℃を超えると結晶粒が成長し過ぎるため、粉砕工程において粉砕に多大な時間を要することがある。従って、仮焼温度は1100℃~1450℃であるのが好ましい。仮焼時間は0.5時間~5時間であるのが好ましい。
【0034】
粉砕工程では、仮焼体をハンマーミル等によって粉砕(粗粉砕)後、振動ミル、ジェットミル、ボールミル、アトライター等によって粉砕(微粉砕)し、仮焼体粉末(微粉砕粉末)とする。仮焼体粉末の平均粒径は0.6μmより大きく0.9μm以下にするのが好ましい。なお、本開示においては、粉体比表面積測定装置(例えば島津製作所製SS-100)などを用いて空気透過法によって測定した値を粉末の平均粒径(平均粒度)という。
【0035】
平均粒径が0.6μm以下になると、粉砕時間が長くなるだけでなく、後述する成形工程でのプレス成型時における脱水時間や、プレスのサイクルが長くなり、工程費が高くなる。また、プレスのサイクルが長くなるため、プレス成型時の金型寿命が短くなり、製造コストが高くなる。さらに、各結晶粒の比表面積が相対的に大きくなるため、液相焼結を促進させるために焼結助剤の添加量を増加させる必要があり、材料コストが高くなる。平均粒径が0.9μmより大きくなると、磁石特性が低下する可能性がある。平均粒径は0.7~0.8μmがより望ましい。
【0036】
粉砕工程は乾式粉砕及び湿式粉砕のいずれでもよく、双方を組み合わせてもよい。湿式粉砕の場合は、分散媒として水及び/又は非水系溶剤(アセトン、エタノール、キシレン等の有機溶剤)を用いて行う。典型的には、水(分散媒)と仮焼体とを含むスラリーを生成する。スラリーには公知の分散剤及び/又は界面活性剤を固形分比率で0.2~2mass%を添加してもよい。湿式粉砕後は、スラリーを濃縮してもよい。
【0037】
以上のような工程を経ることによって、本開示のフェライト仮焼体粉末を得ることができる。引き続き、本開示のフェライト焼結磁石の製造方法を説明する。
【0038】
成形工程は、粉砕工程後のスラリーを、分散媒を除去しながら磁界中又は無磁界中でプレス成形する。磁界中でプレス成形することにより、粉末粒子の結晶方位を整列(配向)させることができ、磁石特性を飛躍的に向上させることができる。さらに、配向を向上させるために、成形前のスラリーに分散剤及び潤滑剤をそれぞれ0.1~1mass%添加してもよい。また成形前にスラリーを必要に応じて濃縮してもよい。濃縮は遠心分離、フィルタープレス等により行うのが好ましい。
【0039】
前記仮焼工程後、成形工程前に、仮焼体又は仮焼体の粉末(粗粉砕粉末又は微粉砕粉末)に焼結助剤を添加する。焼結助剤としてはSiOのみ、あるいはSiOとCaCOの両方を添加することが好ましい。SiOの添加量は、添加する対象となる仮焼体又は仮焼体の粉末100mass%に対して0mass%より多く、1.0mass%以下が好ましい。SiOを添加しない場合、HcJが低下してしまう。また、1.0mass%より多くなると、焼結助剤の使用量が多くなり材料コストが高くなる。SiOの添加量は、0.4~0.7mass%がより好ましい。
【0040】
CaCOの添加量は、添加する対象となる仮焼体又は仮焼体の粉末100mass%に対してCaO換算で0mass%以上、0.3mass%未満が好ましい。本開示のフェライト焼結磁石は、その組成から明らかなようにCa-La-Co系フェライト焼結磁石に属しており、主相成分としてCaが含まれているため、液相が生成する。そのため、CaCOを添加しなくてもよい。0.3mass%以上添加すると、焼結助剤の使用量が多くなり材料コストが高くなる。CaCOの添加量は、0mass%以上、0.2mass%以下がより好ましく、0mass%以上、0.2mass%未満が更に好ましい。
【0041】
焼結助剤の添加は、例えば、仮焼工程によって得られた仮焼体に添加した後、粉砕工程を実施する、粉砕工程の途中で添加する、又は粉砕工程後の仮焼体の粉末(微粉砕粉末)に添加、混合した後成形工程を実施する、などの方法を採用することができる。焼結助剤として、SiO及びCaCOの他に、Cr、Al等を添加してもよい。
【0042】
なお、本開示においては、CaCOの添加量は全てCaO換算で表記する。CaO換算での添加量からCaCOの添加量は、式:(CaCOの分子量×CaO換算での添加量)/CaOの分子量によって求めることができる。例えば、CaO換算で0.5mass%のCaCOを添加する場合、{(40.08[Caの原子量]+12.01[Cの原子量]+48.00[0の原子量×3]=100.09[CaCOの分子量])×0.5mass%[CaO換算での添加量]}/(40.08[Caの原子量]+16.00[0の原子量]=56.08[CaOの分子量])=0.892mass%[CaCOの添加量]、となる。
【0043】
プレス成形により得られた成形体を、必要に応じて脱脂した後、焼成(焼結)する。焼成は電気炉、ガス炉等を用いて行う。焼成は酸素濃度が10体積%以上の雰囲気中で行うことが好ましい。より好ましくは20体積%以上であり、最も好ましくは100体積%である。焼成温度は1150℃~1250℃が好ましい。焼成時間は0時間(焼成温度での保持無し)~2時間が好ましい。
【0044】
焼成工程の昇温時において、室温から1100℃までの温度範囲における平均昇温速度を600℃/時以上1000℃/時以下で昇温し、1100℃から焼成温度までの温度範囲における平均昇温速度を1℃/分以上10℃/分以下で昇温するとよい。また、焼成工程の焼成時間キープ後(保持無しの場合も含む)の降温時において、焼成温度から800℃までの温度範囲における平均降温速度を1000℃/時以上とすると、磁石特性がより向上するため好ましい。なお、これらの効果は、前記降温速度のみ採用することで得ることができるが、前記昇温速度と降温速度の両方を採用する方がより好ましい。
【0045】
昇温時において、室温から1100℃までの温度範囲での平均昇温速度が600℃/時未満であると、磁石特性の向上効果を十分に得ることができない。平均昇温速度が1000℃/時を超えても磁石特性の向上効果を奏することは可能であるが、焼成炉の構造や大きさによっては、被焼成物(成形体)の温度が炉内温度(又は焼成炉の設定温度)に追随することが困難となる場合がある。従って、平均昇温速度の上限は1000℃/時とした。また、1100℃から焼成温度までの温度範囲での平均速度が1℃/分未満になると磁石特性の向上効果は得られるが時間がかかり、10℃/分を超えると磁石特性の向上効果は得られるが小さくなる。平均昇温速度は1℃/分以上4℃/分以下がより好ましく、1℃/分以上2℃/分以下が更に好ましい。なお、本発明の実施形態において、温度を記載する場合は全て被熱処理物の温度を指す。温度の測定は、焼成炉内の被熱処理物にR熱電対を接触させることにより測定する
【0046】
焼成温度で所定時間(保持無しの場合も含む)キープ後の降温時において、焼成温度から800℃までの温度範囲での平均降温速度が1000℃/時未満であると、リードタイムの短縮及び磁石特性の向上効果を十分に得ることができない。800℃以下の降温速度は特に問わないが、リードタイムの短縮を考慮すれば、焼成温度から800℃までの温度範囲と同様、あるいはそれに近い降温速度で室温付近まで冷却することが好ましい。
【0047】
焼成工程の後は、加工工程、洗浄工程、検査工程等の公知の製造プロセスを経て、最終的にフェライト焼結磁石を製造する。
【0048】
3.フェライト焼結磁石
焼結助剤を添加した場合、特にフェライト仮焼体の主成分でもあるCa成分(例えばCaCO)を焼結助剤として添加した場合は、フェライト焼結磁石全体としてはCa成分が増加するため、相対的に他の元素が減少することとなる。例えば、本発明のフェライト仮焼体を用いて、焼結助剤としてCaCOを本開示の上限値で添加したときCaCO換算ですると、最も変動する場合で、0.4<x≦0.5(仮焼体)が0.35<x≦0.5(焼結磁石)に、4.5≦n≦5.5(仮焼体)が4.0≦n≦5.5(焼結磁石)となる。
【0049】
従って、本開示のフェライト焼結磁石は、 Ca、R、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも一種であってLaを必須に含む元素)の原子比を示す一般式:Ca1-xFe2n-y-zCoZnにおいて、 前記x、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R)で表される)が、 0.35<x≦0.5、 0.15≦y≦0.25、 0<z<0.11、及び 4.0≦n≦5.5、を満足するCa、R、Fe、Co及びZnと、 SiO 換算で0mass%より多く、1.0mass%以下のSiと、を満足するものとなる。
【0050】
なお、本発明のフェライト焼結磁石の、酸素(O)を含む組成、フェライト焼結磁石を構成する主相、六方晶のマグネトプランバイト(M型)構造の定義などは、本発明のフェライト仮焼体と同様である。また、前記の通り、フェライト仮焼体からx、nの範囲が変動しているものの、原子比x、y、zの限定理由、nの限定理由も前記フェライト仮焼体と同様であるため説明を省略する。
【0051】
前記の通り、本発明のフェライト焼結磁石の製造方法において、焼結助剤としてSiOを、仮焼体又は仮焼体の粉末100mass%に対して1.0mass%以下添加する場合がある。焼結助剤として添加されたSiOは焼成(焼結)時に液相成分となり、フェライト焼結磁石において粒界相の一成分として存在することとなる。従って、焼結助剤として前記添加量のSiOを添加した場合は、得られるフェライト焼結磁石はSiO 換算で1.0mass%以下のSiを含有する。この時、Siの含有により、前記一般式:Ca1-xFe2n-y-zCoZnで示される各元素の含有量が相対的に減少することとなるが、前記一般式におけるx、y、z、nなどの範囲は基本的に変化しない。なお、Siの含有量は、フェライト焼結磁石の成分分析結果(例えば、ICP発光分光分析装置による結果)におけるCa、R、Fe、Co、Zn及びSiの各組成(mass%)から、CaCO、La(OH)、Fe、Co、ZnO及びSiOの質量に換算し、それらの合計100mass%に対する含有比率(mass%)である。
【実施例
【0052】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0053】
実験例1
一般式Ca1-xFe2n-y-zCoZnにおいて、原子比が表1の試料No.1~11に示すように1-x、x、y、z及び2n-y-zが全て同じになるようにCaCO粉末、La(OH)粉末、Fe粉末、Co粉末及びZnO粉末を所定の組成で秤量し、秤量後の粉末の合計100mass%に対してHBO粉末を0.1mass%添加後、それぞれ湿式ボールミルで4時間混合した後、乾燥、整粒して11種類の混合原料粉末を得た。
【0054】
得られた全11種類の混合原料粉末をそれぞれ大気中において表1に示す仮焼温度で3時間仮焼し、11種類の仮焼体を得た。そして、得られた各仮焼体を小型ミルで粗粉砕して11種類の仮焼体の粗粉砕粉末を得た。
【0055】
実験例として、試料No.1~6は、得られた各仮焼体の粗粉砕粉末100mass%に対して、表1に示すCaCO(添加量はCaO換算)及びSiOを添加し、水を分散媒とした湿式ボールミルで微粉砕し、微粉砕スラリーを得た。試料No.1~4は平均粒度(粉体比表面積測定装置(島津製作所製SS-100)を用いて空気透過法により測定)が0.80μmになるまで微粉砕し、試料No.5、6は平均粒度が0.70μmになるまで微粉砕した。
【0056】
また、比較例として、試料No.7~11は、得られた各仮焼体の粗粉砕粉末100mass%に対して、表1に示すCaCO(添加量はCaO換算)及びSiOを添加し、水を分散媒とした湿式ボールミルで微粉砕し、微粉砕スラリーを得た。試料No.7~11は平均粒度が0.60μmになるまで微粉砕した。
【0057】
粉砕工程により得られた各微粉砕スラリーを、分散媒を除去しながら、加圧方向と磁界方向とが平行である平行磁界成形機(縦磁界成形機)を用い、約1Tの磁界を印加しながら約2.4MPaの圧力で成形し、11種類の成形体を得た。
【0058】
得られた各成形体を焼結炉内に挿入し、大気中で、1100℃まで昇温速度1000℃/時で昇温し、1100℃から表1に示す焼成温度まで1℃/分で昇温した後、1時間焼成し、40L/分の空気を送りながら表1に示す焼成温度から900℃まで25℃/分で降温し、その後室温まで6時間かけて冷却することにより11種類のフェライト焼結磁石を得た。得られたフェライト焼結磁石のB、HcJ及びH/HcJの測定結果を表1に示す。表1において試料No.の横に*印を付していない試料No.1~6が本開示の実施形態に基づく実験例であり、*印を付した試料No.7~11は本開示の実施形態を満足しない実験例(比較例)である。なお、表1におけるHは、J(磁化の大きさ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.95×J(Jは残留磁化、J=B)の値になる位置のHの値である。
【0059】
なお、表1における原子比は原料粉末の配合時の原子比(配合組成)を示す。焼成後の焼結体(フェライト焼結磁石)における原子比(焼結磁石の組成)は、配合時の原子比を元に、仮焼工程前に添加される添加物(HBOなど)の添加量や、仮焼工程後成形工程前に添加される焼結助剤(CaCO及びSiO)の添加量を考慮し、計算によって求めることができ、その計算値は、フェライト焼結磁石をICP発光分光分析装置(例えば、島津製作所製ICPV-1017など)で分析した結果と基本的に同様となる。
【0060】
【表1】
【0061】
比較例である平均粒度が0.60μmの試料No.7~11の磁石特性と、実施例である平均粒度が0.7μmの試料No.5、6の磁石特性を比較すると、B、HcJ、H/HcJのいずれも同等程度の特性が得られていることが分かる。また、実施例である平均粒度が0.8μmの試料No.1~4も同様に、比較例と磁石特性を比較すると、B、HcJ、H/HcJのいずれも同等程度の特性が得られていることが分かる。
【0062】
また、焼結助剤であるCaCOの添加量を、比較例である試料No.7~11と実施例である試料No.1~6とで比較すると、比較例の添加量に比べて実施例の添加量が少ないことが分かる。更に、試料No.1、2、5ではCaCOを添加しなくても良いことが分かった。
【0063】
このことから、比較例よりも平均粒度を大きくしても、比較例と同等の特性を得られると共に、焼結助剤の使用量を減らすことができるため、より安価にフェライト焼結磁石を提供することができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本開示によれば、磁石特性の低下が少なく、フェライト焼結磁石を安価に提供することが可能となるので、各種モータなどに好適に利用することができる。