(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】カチオン重合性組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/20 20060101AFI20240409BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240409BHJP
C08K 5/5435 20060101ALI20240409BHJP
C08K 5/1515 20060101ALI20240409BHJP
C08G 59/36 20060101ALI20240409BHJP
C08G 59/38 20060101ALI20240409BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C08G59/20
C08L63/00 C
C08K5/5435
C08K5/1515
C08G59/36
C08G59/38
B32B27/38
(21)【出願番号】P 2020059788
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 和也
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/037565(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/159637(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/046095(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/111765(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/20
C08L 63/00
C08K 5/5435
C08K 5/1515
C08G 59/36
C08G 59/38
B32B 27/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物(A)、カチオン重合性化合物(B)(ただし、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物、並びにキレート変性エポキシ樹脂を除く。)、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)、キレート変性エポキシ樹脂(D)、を含み、
前記カチオン重合性化合物(B)が、少なくとも式(B-1)で表される化合物、又は式(B-2)で表される化合物を含み、
前記キレート変性エポキシ樹脂(D)が、リン酸エステルを有するリン原子含有キレート変性エポキシ樹脂であり、
前記式(1)で表される化合物(A)、前記カチオン重合性化合物(B)、前記ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)、前記キレート変性エポキシ樹脂(D)の合計量が20~98.5質量%であり、
前記式(1)で表される化合物(A)、前記カチオン重合性化合物(B)、前記ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)、前記キレート変性エポキシ樹脂(D)の合計量に対し、前記式(1)で表される化合物(A)の含有量が5~30質量%、前記カチオン重合性化合物(B)の含有量が20~80質量%、前記ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)の含有量が1~30質量%、前記キレート変性エポキシ樹脂(D)の含有量が10~50質量%である、
カチオン重合性組成物。
【化1】
上記式(1)において、R
1及びR
2は、独立して炭素数1~10のアルキル基またはフェニル基であり、Xは、独立して脂環式エポキシを含む基である。
【化2】
【請求項2】
前記式(1)において、R
1及びR
2が全てメチル基またはエチル基のいずれかである、請求項1に記載のカチオン重合性組成物。
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物(A)が、式(2)で表される化合物である、請求項1又は2に記載のカチオン重合性組成物。
【化3】
【請求項4】
前記カチオン重合性化合物(B)が、少なくとも前記式(B-1)で表される化合物及び前記式(B-2)で表される化合物を含み、前記カチオン重合性組成物において前記式(B-1)で表される化合物の含有量(質量%)が前記式(B-2)で表される化合物の含有量(質量%)より多い、請求項1~3のいずれか1項に記載のカチオン重合性組成物。
【請求項5】
前記カチオン重合性化合物(B)が少なくとも前記式(B-1)で表される化合物及び前記式(B-2)で表される化合物を含み、前記カチオン重合性組成物において前記式(B-1)で表される化合物の含有量(質量%)と前記式(B-2)で表される化合物の含有量(質量%)との比が10:1~2:1である、請求項1~3のいずれか1項に記載のカチオン重合性組成物。
【請求項6】
前記ビニル基及び環状エーテルを有する化合物(C)が、式(3)で表される化合物である、請求項1~5のいずれか1項に記載のカチオン重合性組成物。
【化4】
上記式中、R
3は、水素原子、又は炭素数1~40のアルキルを表し、前記炭素数1~40のアルキルは、任意の水素原子が独立してフッ素原子で置き換えられてもよく、任意の-CH
2-が独立して-O-又は炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく;R
4は、末端にビニル基を有する炭素数2~20のアルケニル基を表し、任意の水素原子が独立してフッ素原子で置き換えられてもよく、任意の-CH
2-が独立して-O-又は炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよい。
【請求項7】
前記式
(3)で表されるビニル基及び環状エーテルを有する化合物(C)が、式(4)で表される化合物である、請求項6に記載のカチオン重合性組成物。
【化5】
【請求項8】
基材と、前記基材上に形成された請求項1~7のいずれか1項に記載のカチオン重合性組成物を硬化してなる硬化膜とを含む積層体。
【請求項9】
前記基材が、金属酸化物、金属基板、およびプラスチックフィルムからなる群より選ばれる1種である請求項8に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン重合性組成物に関し、詳しくは、密着性に優れる硬化物を与えるカチオン重合性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高性能化や集積技術の向上が著しく、電子機器を構成する材料には、さらなる高性能化や高機能化が求められている。シリカやシリコーンに代表される、ケイ素-酸素化合物は、有機材料単独では見られない特性を発現することから、有機-無機ハイブリッド材料として注目されている。
特許文献1には、特定のシルセスキオキサン誘導体、シクロヘキサン-1,3,4-トリカルボン酸-3,4-無水物およびその他の酸無水物を含有してなる熱硬化性樹脂組成物とすることで、耐熱性と透明性が良好な硬化物を得ることができることが開示されている。
特許文献2には、化合物(a)1分子中にSiHを2個以上有する、シルセスキオキサン誘導体と、化合物(b)1分子中にエポキシおよび/またはオキセタニルと、炭素数が2~18のアルケニルとを有する化合物と、化合物(c)1分子中にアルコキシシリルと、炭素数が2~18のアルケニルとを有する化合物と、をヒドロシリル化反応することにより得られる、新規なケイ素化合物が開示されている。そして、当該ケイ素化合物を含む樹脂組成物により、耐熱性、耐熱黄変性、耐光性、透明性および屈折率が高く、基材との密着性、ヒートサイクル耐性、機械物性、ガスバリア性および長期間高温試験後の耐久性に優れるなどの特性において、少なくとも1つの特性を充足または向上した硬化物を得られることが開示されている。
特許文献3には、(A)エポキシ樹脂、(B)特定のシルセスキオキサン化合物、(C)ナノシリカフィラーを含むエポキシ樹脂組成物により、硬化の際の硬化収縮が抑制され、低反り性かつ高密着性の硬化膜が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-167390号公報
【文献】国際公開第2014/046095号
【文献】国際公開第2018/037565号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子機器等の用途に応じ、様々な基材が用いられている。中でも、銀基材との密着性に優れる材料が求められている。
本発明は、ハンドリング性に優れ、各種基材、特に銀基材との密着性のバランスに優れる硬化物を与えうるカチオン重合性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、カチオン重合性化合物に、ダブルデッカー構造を有するシルセスキオキサン化合物、ビニル基とカチオン重合性環状エーテルを有する化合物、及びキレート変性エポキシ樹脂を組み合わせたカチオン重合性組成物とすることで、ハンドリングが容易な粘度のカチオン重合性組成物が実現できることを見出した。ビニル基を有する化合物は、一般的に、カチオン重合で硬化速度を速める効果がある一方で、急激な硬化により得られる硬化物と基材との密着性を悪化させる恐れがある。驚くべきことに、カチオン重合性化合物に、ビニル基とカチオン重合性環状エーテルを有する化合物、ダブ
ルデッカー構造を有するシルセスキオキサン化合物、及びキレート変性エポキシ樹脂を組み合わせることで、硬化して得られる硬化物が各種基材、特に銀基材との密着性に優れることを本発明者らは見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明の実施形態には、以下の構成が含まれる。
[1] 式(1)で表される化合物(A)、カチオン重合性化合物(B)、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)、キレート変性エポキシ樹脂(D)、を含むカチオン重合性組成物。
【化1】
上記式(1)において、R
1及びR
2は、独立して炭素数1~10のアルキル基またはフェニル基であり、Xは、独立して水素又は1価の有機基であり、少なくとも1個のXは脂環式エポキシを含む基である。
[2] 前記式(1)において、R
1及びR
2が全てメチル基またはエチル基のいずれかである、[1]に記載のカチオン重合性組成物。
[3] 前記式(1)において、全てのXが脂環式エポキシを含む基である、[1]又は[2]に記載のカチオン重合性組成物。
[4]前記式(1)で表される化合物(A)が、式(2)で表される化合物である、[1]~[3]のいずれかに記載のカチオン重合性組成物。
【化2】
[5] 前記カチオン重合性化合物(B)が、少なくとも1種のエポキシ化合物及び少なくとも1種のオキセタン化合物を含み、前記カチオン重合性組成物において前記エポキシ化合物の含有量(質量%)が前記オキセタン化合物の含有量(質量%)より多い、[1]~[4]のいずれかに記載のカチオン重合性組成物。
[6]前記カチオン重合性化合物(B)が少なくとも1種の2官能性以上のエポキシ化合物及び少なくとも1種の2官能性以上のオキセタン化合物を含み、前記カチオン重合性組成物において前記エポキシ化合物の含有量(質量%)と前記オキセタン化合物の含有量(質量%)との比が10:1~2:1である、[1]~[4]のいずれかに記載のカチオン
重合性組成物。
【0007】
[7] 前記ビニル基及び環状エーテルを有する化合物(C)が、式(3)で表される化合物である、[1]~[6]のいずれかに記載のカチオン重合性組成物。
【化3】
上記式中、R
3は、水素原子、又は炭素数1~40のアルキルを表し、前記炭素数1~40のアルキルは、任意の水素原子が独立してフッ素原子で置き換えられてもよく、任意の-CH
2-が独立して-O-又は炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく;R
4は、末端にビニル基を有する炭素数2~20のアルケニル基を表し、任意の水素原子が独立してフッ素原子で置き換えられてもよく、任意の-CH
2-が独立して-O-又は炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよい。
[8] 前記式ビニル基及び環状エーテルを有する化合物(C)が、式(4)で表される化合物である、[7]に記載のカチオン重合性組成物。
【化4】
[9] 基材と、前記基材上に形成された[1]~[8]のいずれかに記載のカチオン重合性組成物を硬化してなる硬化膜とを含む積層体。
[10] 前記基材が、金属酸化物、金属基板、およびプラスチックフィルムからなる群より選ばれる1種である[9]に記載の積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ハンドリング性に優れ、各種基材、特に銀基材との密着性に優れる硬化物を与えうる、カチオン重合性組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に何ら限定されない。また、本発明の実施態様は適宜組み合わせることもできる。
【0010】
1.カチオン重合性組成物
本発明の第一の実施形態のカチオン重合性組成物は、式(1)で表される化合物(A)、カチオン重合性化合物(B)、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)、キレート変性エポキシ樹脂(D)、を含むことを特徴とする。カチオン重合性組成物中、(A)~(D)の合計量は、好ましくは80%以上、好ましくは90%以上、好ましくは99%以下、より好ましくは98.5%以下である。
以下、「式(1)で表される化合物(A)」、「カチオン重合性化合物(B)」、「ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)」、「キレート変性エポキシ樹脂(D)」等について説明する。
【0011】
1.1 式(1)で表される化合物(A)
本発明の一実施形態であるカチオン重合性組成物は、式(1)で表される化合物(A)を含む。式(1)で表される化合物(A)は、1分子中に少なくとも1個の脂環式エポキシ基を含む、ダブルデッカー型シルセスキオキサン化合物である。
【化5】
上記式(1)において、R
1及びR
2は、独立して炭素数1~10のアルキル基またはフェニル基であり、Xは、独立して水素又は1価の有機基であり、少なくとも1個のXは脂環式エポキシを含む基である。
【0012】
(R1、R2)
R1及びR2は、独立して炭素数1~10のアルキル基またはフェニル基である。
R1及びR2は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。アルキル基とは、アルカンの末端から水素原子を1つ取り除いた官能基で、CnH2n+1で表される。R1及びR2は直鎖状及び分枝鎖状のアルキル基のいずれであってもよい。なお、分枝鎖状の場合、分枝鎖の炭素も炭素数に含めるものとする。炭素数1~10のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、1-メチルエチル基、ブチル基、2-メチルプロピル基、1,1-ジメチルエチル基、2、2-ジメチルプロピル基、1-メチルプロピル基、ペンチル基、ヘキシル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基」が挙げられる。
R1の炭素数は、合成の容易性の観点から、好ましくは1~8であり、より好ましくは1~6である。
R2の炭素数は、合成の容易性の観点から、好ましくは1~8であり、より好ましくは1~6である。
耐熱性、生産性の観点から、好ましくはR1とR2とは同一のアルキル基であり、全てのR1及びR2がメチル基またはエチル基であることが特に好ましく、全てのR1及びR2がメチル基であることが最も好ましい。
【0013】
(X)
Xは、独立して水素又は1価の有機基であり、少なくとも1個のXは脂環式エポキシを含む基である。本明細書において脂環式エポキシ基とは、エポキシ環と置換若しくは無置換の飽和炭化水素環との縮環を有する1価の置換基をいい、好ましくはエポキシ環とシクロアルカン環との縮環を有する1価の置換基である。より好ましい脂環式エポキシ基としては、エポキシ環とシクロヘキサン環が縮環した構造を1分子中に1つ以上有するものを挙げることができる。
式(1)中、Xはそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。式(1)で表される化合物1分子中、少なくとも1個のXは脂環式エポキシ基を含み、2個のXが脂環式エポキシを含む基であることが好ましく、3個のXが脂環式エポキシを含む基であることがより好ましく、反応性、(B)~(D)との相溶性、耐熱性、硬化物の安定性の観点から、4個のX全てが脂環式エポキシを含む基であることが最も好ましい。
なお、1価の有機基は、脂環式エポキシ基以外の基を含んでもよく、例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、エポキシ基、ビニルエーテル基、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい脂肪族複素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基などが挙げられる。置換基としては、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、エポキシ基、脂環式エポキシ基、ビニルエーテル基、ハロゲンなどが挙げられる。また、当該置換基の数に特段の制限はなく、置換可能な範囲であれば、複数の置換基を有していてもよい。また、2種以上の置換基を有していてもよい。また、隣接しない任意の-CH2-は-O-または-CH=CH-などで置き換えられてもよい。
【0014】
式(1)で表される化合物(A)としては、得られる硬化物の各種基材、特に銀基材との密着性の観点から、式(2)で表される化合物が特に好ましい。
【0015】
【0016】
式(1)で表される化合物(A)は、例えば、国際公開第2004/024741号に記載された方法に従って合成することができる。式(2)で表される化合物は、例えば、国際公開第2012/111765号の合成例1に記載の方法により製造することができる。
【0017】
本発明の一実施形態であるカチオン重合性組成物における式(1)で表される化合物(A)の含有量は、(A)~(D)の合計量に対し、5質量%~30質量%であることが好ましく、10質量%~25質量%であることがより好ましい。式(1)で表される化合物(A)の含有量をこの範囲とすることで、得られる硬化物の耐熱性、透明性、耐黄変性、耐熱黄変性、耐光性、表面硬度及び密着性、並びに光カチオン硬化性に関して優れた特性を示す。
【0018】
1.2 カチオン重合性化合物(B)
本発明の一実施形態であるカチオン重合性組成物は、カチオン重合性化合物(B)を含む。カチオン重合性化合物(B)は、光カチオン重合性化合物であってもよいし、熱カチオン重合性化合物であってもよい。
【0019】
カチオン重合性化合物(B)としては、環状エーテル化合物が挙げられる。環状エーテル化合物としては、エポキシ化合物、オキセタン化合物、オキソラン化合物(テトラヒドロフラン、置換テトラヒドロフランなど)などのカチオン重合性(開環重合性)化合物が挙げられる。
【0020】
エポキシ化合物は、エポキシ基を有する化合物であり、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、又は脂環式エポキシ化合物が挙げられる。
エポキシ化合物において、エポキシ基の数は1以上であればよいが、少なくとも2以上のエポキシ基を有する化合物を含んでいてもよい。
エポキシ化合物の具体例としては、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル、3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4,3',4’-ジエポキシビシクロヘキシル、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、ε-カプロラクトン変性 3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル、3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン、2-[4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]-2-[4-[1,1-ビス[4-([2,3-エポキシプロポキシ]フェニル)]エチル]フェニル]プロパンと1,3-ビス[4-[1-[4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]-1-[4-[1-[4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]-1-メチルエチル]フェニル]エチル]フェノキシ]-2-プロパノールとの混合物、及び2-[4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]-2-[4-[1,1-ビス[4-([2,3-エポキシプロポキシ]フェニル)]エチル]フェニル]プロパンなどが挙げられる。
また、エポキシ化合物としては、エポキシモノマー、エポキシオリゴマー及びエポキシ樹脂のいずれであってもよく、下記のような市販品を用いることができる。エポキシ基を1分子あたり3~20個含み、かつ重量平均分子量が5,000未満であるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、TECHMORE VG3101L((株)プリンテック)、EPPN-501H、502H(日本化薬(株))、JER 1032H60(三菱化学(株))など、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂としては、JER 157S65、157S70(三菱化学(株))など、フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、EPPN-201(日本化薬(株))、JER 152、154(三菱化学(株))など、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、EOCN-102S、103S、104S、1020(日本化薬(株))などを挙げることができる。また、多官能エポキシモノマーとしては、セロキサイド(登録商標)CEL2021P、CEL2000、CEL8000(株式会社ダイセル)が挙げられる。
【0021】
オキセタン化合物としては、3,7-ビス(3-オキセタニル)-5-オキサ-ノナン、1,4-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、1,2-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]エタン、1,3-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]プロパン、エチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、1,4-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)ブタン、1,6-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)ヘキサン、3-エチル-3-(3-エチル-3-オキセタニルメチルオキシメチル)オキセタン、キシリレンビスオキセタン等の二官能オキセタン化合物、3-エチル-3-[(フェノキシ)メチル]オキセタン、3-エチル-3-(ヘキシロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(2-エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(ヒドロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(クロロメチル)オキセタン等の一官能オキセタン化合物等が挙げられる。
【0022】
カチオン重合性化合物(B)としては、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。カチオン重合性組成物のハンドリング容易性、カチオン硬重合性組成物が与える硬化物と各種基材、特に銀基材との密着性向上の観点からは、カチオン硬化性組成物は、好ましくはエポキシ化合物又はオキセタン化合物を含み、より好ましくは2官能性以
上のエポキシ化合物又は2官能性以上のオキセタン化合物を含み、更に好ましくは少なくとも1種のエポキシ化合物及び少なくとも1種のオキセタン化合物を含み、カチオン重合性組成物においてエポキシ化合物の含有量(質量%)がオキセタン化合物の含有量(質量%)より多い。
【0023】
2官能性以上のエポキシ化合物としては、例えば、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル、3,4,3’,4’-ジエポキシビシクロヘキシル、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]へプト-3-イル)エチル]ジシロキサン、2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラキス[2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル]シクロテトラシロキサン、が好ましく挙げられる。市販品としては、例えば、セロキサイド(登録商標)CEL2021P、CEL8000(株式会社ダイセル)として入手可能である。中でも、以下の化合物(3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル)が好ましい。
【化7】
【0024】
2官能性以上のオキセタン化合物としては、例えば、ジオキセタニルエーテルが好ましく挙げられる。市販品としては、例えば、東亞合成(株)製オキセタン化合物[アロンオキセタン(登録商標)(商品名)OXT-221(DOX)]、[アロンオキセタン(登録商標)(商品名)OXT-121(XDO)]として入手可能である。中でも、以下の化合物(3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン)が好ましい。
【化8】
【0025】
本発明の一実施形態であるカチオン重合性組成物におけるカチオン重合性化合物(B)の含有量は、(A)~(D)の合計量に対し、20質量%~80質量%であることが好ましく、30質量%~60質量%であることがより好ましい。この範囲とすることで、カチオン重合性組成物の粘度が低くハンドリング性に優れ、得られる硬化物の耐熱性、透明性、耐黄変性、耐熱黄変性、耐光性、表面硬度及び密着性、並びに光カチオン硬化性に関して優れた特性を示す。
本発明の一実施形態においては、カチオン重合性組成物のハンドリング、硬化物の各種基材、特に銀基材との密着性、組成物の硬化性(硬化速度)の観点から、前記カチオン重合性化合物(B)が少なくとも1種の2官能性以上のエポキシ化合物及び少なくとも1種の2官能性以上のオキセタン化合物を含み、前記カチオン重合性組成物において前記エポキシ化合物の含有量(質量%)と前記オキセタン化合物の含有量(質量%)の比(2官能性以上のエポキシ化合物の含有量(質量%):オキセタン化合物の含有量(質量%))が10:1~2:1であることが好ましい。
本発明のカチオン重合性組成物は溶剤を含まなくても、液状である。本発明の一実施形態においては、カチオン重合性組成物の回転粘度を、25℃において、通常1~3000mPa・secとすることができ、(A)~(D)の含有量、種類を選択して、ハンドリングに特に優れる1~500mPa・secとすることができる。特に、前記カチオン重合性化合物(B)として、少なくとも1種の2官能性以上のエポキシ化合物及び少なくとも1種の2官能性以上のオキセタン化合物を特定の比で用いることで、カチオン重合性組成物の粘度を容易に調整することができる。
【0026】
1.3 ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)
本発明の一実施形態であるカチオン重合性組成物は、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)を含む。
ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物としては、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物であれば特に限定されないが、好ましくは、式(3)で表される化合物である。
【化9】
上記式中、R
3は、水素原子、又は炭素数1~40のアルキルを表し、前記炭素数1~40のアルキルは、任意の水素原子が独立してフッ素原子で置き換えられてもよく、任意の-CH
2-が独立して-O-又は炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく;R
4は、末端にビニル基を有する炭素数2~20のアルケニル基を表し、任意の水素原子が独立してフッ素原子で置き換えられてもよく、任意の-CH
2-が独立して-O-又は炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよい。
式(3)で表される化合物は、カチオン重合性環状エーテルとしてエポキシシクロヘキシル基を有し、R
4の末端に重合性官能基のビニル基(CH
2=CH-)を有する。
【0027】
中でも、硬化物の各種基材、特に銀基材との密着性向上、硬化性、低粘度化、入手容易性の観点から、式(4)で表される化合物が特に好ましい。市販品としては、セロキサイド(登録商標)CEL2000(株式会社ダイセル)として入手可能である。
【化10】
【0028】
本発明の一実施形態であるカチオン重合性組成物におけるビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)の含有量は、(A)~(D)の合計量に対し、1~30質量%であることが好ましく、5~15質量%であることがより好ましい。この範囲とすることで、カチオン重合性組成物のハンドリングが優れ、得られる硬化物の耐熱性、透明性、耐黄変性、耐熱黄変性、耐光性、表面硬度及び密着性、並びに光カチオン硬化性に関して優れた特性を示す。なお、カチオン重合性組成物における含有量を算出する際は、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物は、「カチオン重合性化合物(B)」には含めない。
【0029】
1.4 キレート変性エポキシ樹脂(D)
本発明の一実施形態であるカチオン重合性組成物は、基本骨格、側鎖又は末端にキレート形成基を有するエポキシ樹脂であるキレート変性エポキシ樹脂(D)を含む。キレート形成基は、N原子、S原子、O原子、P原子等の電子供与元素を含み、例えばカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、水酸基などの造塩能を有する酸性基や、アミン類、カルボニル基などの配位能を有する原子団をもったものを用いることができる。
硫黄原子含有エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジフェニルスルフィド型エポキシ樹脂のYSLV-120TE(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社)が挙げられる。
窒素原子含有エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、TEPIC(登録商標)-S、
-L、-VL(商品名)(株式会社ADEKA)が挙げられる。 リン原子含有キレート変性エポキシ樹脂しては、例えば、リン酸エステルを有しているものが好ましく挙げられる。リン原子含有キレート変性エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、アデカレジン(登録商標)EP-49-10P、EP-49-10P2(株式会社ADEKA)が挙げられる。金属との密着性を向上させる観点から、リン原子含有キレート変性エポキシ樹脂が特に好ましい。
本発明の一実施形態であるカチオン重合性組成物におけるキレート変性エポキシ樹脂(D)の含有量は、(A)~(D)の合計量に対し、10~50質量%であることが好ましく、15~30質量%であることがより好ましい。キレート変性エポキシ樹脂(D)の含有量がこの範囲であれば、カチオン重合性組成物のハンドリングが優れ、得られる硬化物の耐熱性、透明性、耐黄変性、耐熱黄変性、耐光性、及び密着性、並びに光カチオン硬化性に関して優れた特性を示す。なお、カチオン重合性組成物における含有量を算出する際は、キレート変性エポキシ樹脂(D)は、「カチオン重合性化合物(B)」には含めない。
【0030】
カチオン重合性組成物には、必要に応じて、溶剤(E)、カチオン重合開始剤(F)、酸化防止剤(G)、界面活性剤(H)、光増感剤(I)、硬化剤(J)、硬化促進剤(K)、カップリング剤(L)その他の樹脂等、種々の成分を添加してもよい。
【0031】
溶剤(E)
本発明の一実施形態であるカチオン重合性組成物は、溶剤(E)を含んでいてもよい。溶剤(E)としては、例えば、炭化水素系溶剤(ヘキサン、ベンゼン、トルエンなど)、エーテル系溶剤(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)など)、ハロゲン化炭化水素系溶剤(塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼンなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、アルコール系溶剤(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコールなど)、ニトリル系溶剤(アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなど)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、カーボネート系溶剤(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなど)、アミド系溶剤(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン)、ハイドロクロロフルオロカーボン系溶剤(HCFC-141b、HCFC-225)、ハイドロフルオロカーボン(HFCs)系溶剤(炭素数2~4、5および6以上のHFCs)、パーフルオロカーボン系溶剤(パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン)、脂環式ハイドロフルオロカーボン系溶剤(フルオロシクロペンタン、フルオロシクロブタン)、酸素含有フッ素系溶剤(フルオロエーテル、フルオロポリエーテル、フルオロケトン、フルオロアルコール)、芳香族系フッ素溶剤(α,α,α-トリフルオロトルエン、ヘキサフルオロベンゼン)、水が含まれる。これらを単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
用いられる溶剤(E)の量は、例えば塗布性の観点から、カチオン重合性組成物全量中、(A)~(D)の濃度が20~98.5質量%となる量であることが好ましく、40~95質量%となる量であることがより好ましく、60~90質量%となる量であることがさらに好ましい。
【0032】
カチオン重合開始剤(F)
カチオン重合開始剤(F)としては、例えば紫外線などの活性エネルギー線によりカチオン種またはルイス酸を発生する活性エネルギー線重合開始剤、および熱によりカチオン種またはルイス酸を発生する熱重合開始剤などを挙げることができる。また、カチオン重合開始剤は、単独でもしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
活性エネルギー線カチオン重合開始剤の例は、アリールスルホニウム錯塩、ハロゲン含有錯イオンの芳香族スルホニウムまたはヨードニウム塩、並びにII族、V族およびVI族元素の芳香族オニウム塩などである。これらの塩のいくつかは商品として入手できる。活性エネルギー線カチオン重合開始剤の具体例としては、サンアプロ(株)製[CPI-110P(登録商標)]、[CPI-210K(登録商標)]、[CPI-210S(登録商標)]、[CPI-300PG(登録商標)]、[CPI-410S(登録商標)]、(株)ADEKA製[アデカオプトマー(登録商標)SP-130]、[アデカオプトマー(登録商標)SP-140]、[アデカオプトマー(登録商標)SP-150]、[アデカオプトマー(登録商標)SP-170]、[アデカオプトマー(登録商標)SP-171]、BASF製[IRGACURE(登録商標)250]、[IRGACURE(登録商標)270]、[IRGACURE(登録商標)290]などが挙げられる。
【0034】
熱カチオン重合開始剤としては、トリフル酸(Triflic acid)塩、三フッ化ホウ素等のようなカチオン系またはプロトン酸触媒などが用いられる。好ましい熱カチオン重合開始剤の例はトリフル酸塩であり、その具体例はトリフル酸ジエチルアンモニウム、トリフル酸ジイソプロピルアンモニウム、およびトリフル酸エチルジイソプロピルアンモニウムである。一方、活性エネルギー線カチオン重合開始剤としても用いられる芳香族オニウム塩のうち、熱によりカチオン種を発生するものがあり、これらも熱カチオン重合開始剤として用いることができる。
熱カチオン重合開始剤は、カチオン重合性組成物中に均一に配合でき、触媒型で硬化できるため、低温、短時間での硬化が可能となり、溶剤安定性もよいため、好ましい。また、これらのカチオン重合開始剤の中で、芳香族オニウム塩が、取り扱い性および潜在性と硬化性のバランスに優れるという点で好ましく、その中で、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩およびホスホニウム塩が取り扱い性および潜在性のバランスに優れるという点で好ましい。
熱カチオン重合開始剤の市販品としては、具体的には、株式会社ADEKA製:商品名「アデカオプトンCP-66」、「CP-77」、三新化学工業株式会社製:商品名「サンエイドSI-45L」、「SI-60L」、「SI-80L」、「SI-100L」、「SI-110L」、「SI-180L」、「SI-B2A」、「SI-B3」、「SI-B3A」、住友スリーエム株式会社製:商品名「FC-520」等を挙げることができる。これらの熱カチオン重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0035】
酸化防止剤(G)
本発明の一実施形態に係るカチオン重合性組成物は、酸化防止剤(G)を含んでもよい。酸化防止剤(G)を含有することにより、耐熱性および耐候性の向上が期待できる。また、酸化防止剤(G)を含有することにより、硬化時の酸化劣化を防止し着色を抑えることができる。カチオン重合性組成物における酸化防止剤(G)の配合割合は、カチオン重合性組成物全量を基準として0.1質量%~2.0質量%であることが好ましい。
【0036】
酸化防止剤(G)としては、フェノール系およびリン系の酸化防止剤が挙げられ、例えば、モノフェノール類、ビスフェノール類、高分子型フェノール類、ホスファイト類およびオキサホスファフェナントレンオキサイド類が挙げられる。
【0037】
モノフェノール類としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-p-エチルフェノールおよびステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどが挙げられる。
【0038】
ビスフェノール類としては、例えば、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-
ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)および3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-{β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが挙げられる。
【0039】
高分子型フェノール類としては、例えば、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-t-ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-S-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオンおよびトコフェロールなどが挙げられる。
【0040】
ホスファイト類としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビ(2,4-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイトおよびビス[2-t-ブチル-6-メチル-4-{2-(オクタデシルオキシカルボニル)エチル}フェニル]ヒドロゲンホスファイトなどが挙げられる。
【0041】
オキサホスファフェナントレンオキサイド類としては、例えば、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイドおよび10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイドなどが挙げられる。
【0042】
市販の酸化防止剤としては、例えば、Irgafos(登録商標) 168、Irgafos(登録商標) XP40、Irgafos(登録商標) XP60、Irganox(登録商標) 1010、Irganox(登録商標) 1035、Irganox(登録商標) 1076、Irganox(登録商標) 1135、Irganox(登録商標) 1520L(BASFジャパン(株))、アデカスタブ(登録商標)AO-20、AO-30、AO-40、AO-50、AO-60、AO-75、AO-80、AO-330((株)ADEKA)などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0043】
界面活性剤(H)
界面活性剤(H)は、基材への濡れ性、レベリング性又は塗布性を向上させるために使用することもでき、カチオン重合性組成物100質量%に対し、通常0.01~1質量%添加して用いられ、好ましくは0.1~0.3質量%である。界面活性剤(H)は、1種の化合物であっても、2種以上の化合物を併用してもよい。
【0044】
界面活性剤(H)としては、ポリフローNo.45、ポリフローKL-245、ポリフローNo.75、ポリフローNo.90、ポリフローNo.95(共栄社化学(株))、ディスパーベイク(Disperbyk)161、ディスパーベイク162、ディスパー
ベイク163、ディスパーベイク164、ディスパーベイク166、ディスパーベイク170、ディスパーベイク180、ディスパーベイク181、ディスパーベイク182、BYK(登録商標)300、BYK(登録商標)306、BYK(登録商標)310、BYK(登録商標)320、BYK(登録商標)330、BYK(登録商標)342、BYK(登録商標)346、BYK(登録商標)-UV3500、BYK(登録商標)-UV3570(ビックケミー・ジャパン(株))、KP-341、KP-358、KP-368、KF-96-50CS、KF-50-100CS(信越化学工業(株))、サーフロン(登録商標)SC-101、サーフロン(登録商標)KH-40(AGCセイミケミカル(株))、フタージェント(登録商標)222F、フタージェント(登録商標)251、FTX-218((株)ネオス)、EFTOP(登録商標) EF-351、EFTOP(登録商標) EF-352、EFTOP(登録商標) EF-601、EFTOP(登録商標) EF-801、EFTOP(登録商標) EF-802(三菱マテリアル(株))、メガファック(登録商標)F-410、メガファック(登録商標)F-430、メガファック(登録商標)F-444、メガファック(登録商標)F-472SF、メガファック(登録商標)F-475、メガファック(登録商標)F-477、メガファック(登録商標)F-552、メガファック(登録商標)F-553、メガファック(登録商標)F-554、メガファック(登録商標)F-555、メガファック(登録商標)F-556、メガファック(登録商標)F-558、メガファック(登録商標)F-563、メガファック(登録商標)R-94、メガファック(登録商標)RS-75、メガファック(登録商標)RS-72-K(DIC(株))、TEGO(登録商標) Rad 2200N、TEGO(登録商標) Rad 2250N(エボニック デグサ ジャパン(株))、サイラプレーン(登録商標)FM-0511(JNC株式会社)などが挙げられる。
【0045】
光増感剤(I)
本発明の一実施形態に係るカチオン重合性組成物は、添加剤として、光増感剤(I)を用いてもよい。光増感剤(I)の添加により長波長側の領域でも効率良く重合反応を行なうことができる。
光増感剤(I)としては、芳香族ニトロ化合物、クマリン類(7-ジエチルアミノ-4-メチルクマリン、7-ヒドロキシ4-メチルクマリン、ケトクマリン、カルボニルビスクマリン)、芳香族2-ヒドロキシケトン、およびアミノ置換された、芳香族2-ヒドロキシケトン類(2-ヒドロキシベンゾフェノン、モノ-もしくはジ-p-(ジメチルアミノ)-2-ヒドロキシベンゾフェノン)、アセトフェノン、アントラキノン、キサントン、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、ベンズアントロン)、チアゾリン類(2-ベンゾイルメチレン-3-メチル-β-ナフトチアゾリン、2-(β-ナフトイルメチレン)-3-メチルベンゾチアゾリン、2-(α-ナフトイルメチレン)-3-メチルベンゾチアゾリン、2-(4-ビフェノイルメチレン)-3-メチルベンゾチアゾリン、2-(β-ナフトイルメチレン)-3-メチル-β-ナフトチアゾリン、2-(4-ビフェノイルメチレン)-3-メチル-β-ナフトチアゾリン、2-(p-フルオロベンゾイルメチレン)-3-メチル-β-ナフトチアゾリン)、オキサゾリン類(2-ベンゾイルメチレン-3-メチル-β-ナフトオキサゾリン、2-(β-ナフトイルメチレン)-3-メチルベンゾオキサゾリン、2-(α-ナフトイルメチレン)-3-メチルベンゾオキサゾリン、2-(4-ビフェノイルメチレン)-3-メチルベンゾオキサゾリン、2-(β-ナフトイルメチレン)-3-メチル-β-ナフトオキサゾリン、2-(4-ビフェノイルメチレン)-3-メチル-β-ナフトオキサゾリン、2-(p-フルオロベンゾイルメチレン)-3-メチル-β-ナフトオキサゾリン)、ベンゾチアゾール、ニトロアニリン(m-もしくはp-ニトロアニリン、2,4,6-トリニトロアニリン)またはニトロアセナフテン(5-ニトロアセナフテン)、2-[(m-ヒドロキシ-p-メトキシ)スチリル]ベンゾチアゾール、ベンゾインアルキルエーテル、N-アルキル化フタ
ロン、アセトフェノンケタール(2,2-ジメトキシフェニルエタノン)、ナフタレン、2-ナフタレンメタノール、2-ナフタレンカルボン酸、アントラセン、9-アントラセンメタノール、9-アントラセンカルボン酸、9,10-ジフェニルアントラセン、9,10-ビス(フェニルエチニル)アントラセン、2-メトキシアントラセン、1,5-ジメトキシアントラセン、1,8-ジメトキシアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、6-クロロアントラセン、1,5-ジクロロアントラセン、5,12-ビス(フェニルエチニル)ナフタセン、クリセン、ピレン、ベンゾピラン、アゾインドリジン、フロクマリン、フェノチアジン、ベンゾ[c]フェノチアジン、7-H-ベンゾ[c]フェノチアジン、トリフェニレン、1,3-ジシアノベンゼン、フェニル-3-シアノベンゾエート等がある。
好ましくは、9,10-ジフェニルアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、9,10-ジブトキシアントラセン、などである。
市販品として、関東化学(株)製光増感剤[9,10-ジフェニルアントラセン(商品名)]、川崎化成工業(株)製光カチオン増感剤[アントラキュアー(登録商標)UVS-1101]、[アントラキュアー(登録商標)UVS-1331]、川崎化成工業(株)製光ラジカル増感剤[アントラキュアー(登録商標)UVS-581]などが挙げられる。
【0046】
硬化剤(J)
本発明の一実施形態に係るカチオン重合性組成物は、添加剤として、硬化剤(J)を用いてもよい。硬化剤(J)としては、酸無水物やアミンが挙げられる。
【0047】
(酸無水物)
硬化剤(J)として用いられる酸無水物の具体例は、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、3-メチル-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、4-メチル-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、3-メチル-シクロヘキサンジカルボン酸無水物と4-メチル-シクロヘキサンジカルボン酸無水物の混合物、テトラヒドロ無水フタル酸、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、ノルボルナン-2,3-ジカルボン酸無水物、メチルノルボルナン-2,3-ジカルボン酸無水物、シクロヘキサン-1,3,4-トリカルボン酸-3,4-無水物およびその誘導体を例示することができる。なかでも4-メチル-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、及び、3-メチル-シクロヘキサンジカルボン酸無水物と4-メチル-シクロヘキサンジカルボン酸無水物の混合物は室温で液体のため、取り扱いが容易であり好適である。
【0048】
(アミン)
硬化剤(J)として用いられるアミンの具体例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレントリアミン、ビスシアノエチルアミン、およびテトラメチルグアニジン、ピリジン、ピペリジン、メタンジアミン、イソホロンジアミン、1,3-ビスアミノメチル-シクロヘキサン、ビス(4-アミノ-シクロヘキシル)メタン、およびビス(4-アミノ-3-メチル-シクロヘキシル)メタン、ベンジルメチルアミン、α-メチル-ベンジルメチルアミン、m-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、およびジアミノジフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0049】
硬化剤(J)として酸無水物あるいはアミンを用いる場合、その好ましい使用割合は、式(1)で表される化合物(A)に含まれている脂環式エポキシ基及び(B)ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物のカチオン重合性環状エーテル1当量に対して酸無水物またはアミン0.7~1.2当量であり、より好ましくは0.9~1.1当量である。硬化剤(J)の配合量が前記範囲内であると、硬化反応が速やかに進行し、ま
た、得られる硬化物に着色が生じず、好ましい。
【0050】
硬化促進剤(K)
硬化促進剤(K)は、カチオン重合性化合物(B)と硬化剤(J)の反応を促進し、硬化膜の耐熱性、耐薬品性、硬度を向上するために使用することができる。硬化促進剤(K)は、カチオン重合性組成物の固形分100質量%(該カチオン重合性組成物から溶剤(E)を除いた残りの成分)に対し、通常0.01~5質量%添加して用いられる。硬化促進剤(K)は単独で使用してもよく、2つ以上を混合して使用してもよい。
【0051】
硬化促進剤(K)としては、カチオン重合性化合物(B)と硬化剤(J)の反応を促進する機能のあるものであればいずれも使用可能であり、例えば、エポキシ化合物とエポキシ硬化剤の反応を促進させる、イミダゾール系硬化促進剤、ホスフィン系硬化促進剤、アンモニウム系硬化促進剤などが挙げられる。具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、エピクロルヒドリン変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ジグリセリンEO変性アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル環トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エピクロルヒドリン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジ/トリアクリレート、ペンタエリスリトールトリ/テトラアクリレート(アロニックスM305、M450;東亞合成(株))、ジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサアクリレート(アロニックスM402;東亞合成(株))、ジグリセリンEO変性アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾールなどが挙げられる。
【0052】
カップリング剤(L)
カップリング剤(L)は、カチオン重合性組成物から形成される硬化膜と基材との密着性を向上させるために使用することもでき、カチオン重合性組成物の固形分総量に対し、通常0.01~10質量%添加して用いることができる。
【0053】
カップリング剤(L)としては、シラン系、アルミニウム系及びチタネート系の化合物を用いることができる。具体的には、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのシラン系;アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートなどのアルミニウム系;並びにテトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネートなどのチタネート系を挙げることができる。これらのなかでも、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランが、密着性を向上させる効果が大きいため好ましい。市販品のカップリング剤としては、サイラエースS510(J
NC(株))、サイラエースS530(JNC(株))などが挙げられる。
【0054】
その他の樹脂
本発明の一実施形態であるカチオン重合性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、カチオン重合性化合物(B)、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)、キレート変性エポキシ樹脂(D)以外の樹脂(その他の樹脂)を含んでもよい。その他の樹脂としては、架橋性官能基を含む樹脂が好ましい。例えば、アクリレートやメタクリレートを含むラジカル重合性の樹脂、ビニル基等と重合可能なチオール樹脂などを用いることができる。
【0055】
[ワニス調製方法]
本発明の一実施形態に係るカチオン重合性組成物は溶剤(E)を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。溶剤(E)を用いる場合、式(1)で表される化合物(A)、カチオン重合性化合物(B)、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)、キレート変性エポキシ樹脂(D)を溶剤(E)に溶解させることによりワニスとすることができる。成分(A)の濃度が高い場合には、塗布性の観点から、溶剤(E)を用いて、ワニスとすることが好ましい。
具体的には、例えば、カチオン重合開始剤以外の成分、成分(A)~(D)、成分(G)~成分(I)を混合し、70℃以下で加熱攪拌・溶解し、次にカチオン重合開始剤(F)を加え溶解し、ワニスを調製することができる。
ワニスはスピンコーティング等の汎用の塗布方法または種々の印刷法を適用可能であり、ワニスをコーティング剤として用いることにより、安価で簡便に硬化物を製造することができる。カチオン重合性組成物の塗工方法、カチオン重合性組成物の硬化方法については、以下2.積層体の項で説明する。
【0056】
2.積層体
本発明の第二の実施形態は、基材と、該基材上に形成された、少なくとも式(1)で表される化合物(A)、カチオン重合性化合物(B)、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)、キレート変性エポキシ樹脂(D)を含むカチオン重合性組成物を硬化してなる硬化膜と、を含む積層体である。
カチオン重合性組成物が含む式(1)で表される化合物(A)、カチオン重合性化合物(B)、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)、キレート変性エポキシ樹脂(D)は、第一の実施形態で説明した式(1)で表される化合物(A)、カチオン重合性化合物(B)、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)、キレート変性エポキシ樹脂(D)と同様であり、上記の説明が適用される。また、カチオン重合性組成物の(A)~(D)以外の各構成成分等についても、上記に記載の本発明の第一の実施形態のカチオン重合性組成物に関する説明が適用できる。カチオン重合性組成物を低粘度とする観点、硬化時の硬化収縮抑制、硬化物の高密着性、組成物の硬化性(硬化速度)の観点から、カチオン重合性組成物中の、カチオン重合性化合物(B)が少なくとも1種の2官能性以上のエポキシ化合物及び少なくとも1種の2官能性以上のオキセタン化合物を含み、カチオン重合性組成物において前記エポキシ化合物の含有量(質量%)と前記オキセタン化合物の含有量(質量%)の比が10:1~2:1であることが好ましく、より好ましくは8:1~2:1であり、さらに好ましくは、5:1~2:1である。カチオン重合性組成物の硬化方法は、後述する[硬化工程]の項の説明が適用できる。
【0057】
(基材)
基材は特に限定されず、積層体の用途に応じて選べばよい。例えば、石英、バリウムホウケイ酸ガラスや、アルミノホウケイ酸ガラスなどのガラス基板;フッ化カルシウム基板;ITO(酸化インジウム・スズ)などの金属酸化物基板;セラミック基板;ポリカーボ
ネート(PC)フィルム、シリコーン系フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、シクロオレフィンポリマー(COP)フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、アクリルポリマーフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリイミド(PI)フィルム、液晶ポリマーフィルム等のプラスチックフィルム;炭素繊維フィルム、シリコンウエハ等の半導体基板;SUS、アルミニウム、銅、銀等の金属基板;等を用いることができる。
第一の実施形態であるカチオン重合性組成物を硬化してなる硬化物は、ITO、アルミニウム、銅のみならず、PET、銀、PI、COPとの優れた密着性を実現できる。
【0058】
本発明の第二の実施形態に係る積層体の製造方法は、基材上にカチオン重合性組成物を塗工する塗工工程、基材上に形成されたカチオン重合性組成物層を硬化する硬化工程とを備える。
【0059】
[塗工工程]
カチオン重合性組成物を基材上に塗布する方法は制限されず、基材上にカチオン重合性組成物を滴下しワイヤーバーにより塗布する方法や、グラビアコーター、リップコーター、スリットダイ、インクジェット法により塗布する方法等が挙げられる。一定量のワニスをムラなく塗布することができる点で、基材上にカチオン重合性組成物を滴下しワイヤーバーにより塗布する方法や、グラビアコーター、スリットダイにより塗布することがより好ましい。
塗工量は、目的に応じて、適宜設定すればよい。
取扱性とコストの観点から、カチオン重合性組成物の塗布は常温で行うことが好ましい。そのため、カチオン重合性組成物の回転粘度は、25℃において、1~3000mPa・secであることが好ましく、1~500mPa・secであることがより好ましい。
【0060】
[硬化工程]
式(1)で表される化合物(A)、カチオン重合性化合物(B)、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)、キレート変性エポキシ化合物を含むカチオン重合性組成物(D)はカチオン重合して硬化するが、加熱及び活性光線の照射の少なくとも一方により硬化することができ、好ましくは、紫外線により硬化する。
活性光線により硬化する場合、従来公知の方法を用いることができ、上記活性光線は、紫外線を用いることができる。紫外線を照射するための光源としては、例えば、メタルハライドタイプ、高圧水銀灯ランプ、及びUV-LEDランプ等が挙げられる。
硬化工程には市販の装置を用いることができる。例えば、紫外線露光装置[Heraeus(株)製 LH10-10Q(商品名)、 H bulb(商品名)]、LED紫外線露光装置[あすみ技研工業(株)製 ASM1503NM-UV-LED(商品名)]が挙げられる。塗工工程と硬化工程を連続して行えるように装置を設計してもよい。
活性光線により硬化する場合、硬化工程の条件は、カチオン重合性組成物の厚さ等に応じ、適宜設定すればよい。
具体的には、例えば、基材上に厚さ4~5μmに塗布形成されたカチオン重合性組成物層に、紫外線露光装置[Heraeus(株)製 LH10-10Q(商品名)、 H bulb(商品名)]を用い、波長254nm、365nmの紫外線を、積算露光量0.5~1.5J/cm2照射する。
なお、照射は通常塗布面側から行うが、紫外線が透過可能な基材を用いることにより、紫外線照射を塗布面の裏面側より行うこともできる。
熱硬化の場合、加熱方式は特に限定されるものではなく、例えば、熱循環方式、熱風加熱方式、誘導加熱方式等、所定の温度で加熱し得る従来公知の方式を採用した加熱手段を用いることができる。より好ましく用いられる方法としては、熱風循環による硬化炉、もしくは、赤外線による硬化炉を採用することができる。あるいは熱風循環硬化炉と赤外線
による硬化炉を併用したり、熱風循環硬化炉に赤外線ヒーターを組み込み同時に加熱を行ってもよい。また光硬化炉と熱硬化炉を併用したり、加熱及び活性光線の照射を同時に行ってもよい。
熱硬化する場合の硬化条件は、カチオン重合性組成物の厚さ等に応じ、適宜設定すればよい。
【0061】
3.硬化物
本発明の一実施形態に係るカチオン重合性組成物の硬化物、本発明の一実施形態に係る積層体は、各種基材、特に銀に対し高密着性である。また、高い透明性を有することもできる。
本発明の一実施形態に係る積層体は、少なくとも式(1)で表される化合物(A)、カチオン重合性化合物(B)、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)、キレート変性エポキシ樹脂(D)を含むカチオン重合性組成物について、評価方法1による密着性評価において、3種の基材に対する密着性が全て4B以上という高密着性を有する。密着性は全て5B以上であることがより好ましい。
また、本発明の一実施形態に係るカチオン重合性組成物の硬化物、本発明の一実施形態に係る積層体を透明性が要求される用途に用いる場合、全光線透過率が90%以上であることが好ましい。
【0062】
[評価方法1]
厚さ50μmの金属酸化物基板、銀基板、及びプラスチックフィルムの3種の基材上に、該少なくとも式(1)で表される化合物(A)、カチオン重合性化合物(B)、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)、キレート変性エポキシ樹脂(D)を含むカチオン重合性組成物よりなる4~5μmの厚さの硬化膜をそれぞれ形成する。
形成された硬化膜について、ASTM D3359(Method B)に準拠し、すきま間隔1mm、25個(5×5)又は100個(10×10)のます目で付着性クロスカット法を用いて密着性試験を行い、下記の基準で評価する。
(評価基準)
5B:剥離面積0%
4B:剥離面積5%未満
3B:剥離面積5%以上15%未満
2B:剥離面積15%以上35%未満
1B:剥離面積35%以上65%未満
0B:剥離面積65%以上
【0063】
硬化物の透明性は、50μm厚PET基材上に、該少なくとも式(1)で表される化合物(A)、カチオン重合性化合物(B)、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)、キレート変性エポキシ樹脂(D)を含むカチオン重合性組成物よりなる4~5μmの厚さの硬化膜を形成し、ヘーズメーター(日本電色工業(株)製 NDH
5000)を用いて、硬化膜付PET基材の全光線透過率を測定すればよい。
【0064】
<用途>
本発明の一実施形態に係るカチオン重合性組成物の硬化物、本発明の一実施形態に係る積層体は、その優れた密着性から、各種電子部品の接着層として好適に用いられる。また、電子回路を有するプリント配線板の配線部の上に使用される絶縁材料、保護膜にも好適に用いられる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要
旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
以下、実施例及び比較例で用いた化合物について説明する。
<式(1)で表される化合物(A)>
式(2)で表される化合物を合成して用いた。
【0067】
【化11】
<カチオン重合性化合物(B)>
(株)ダイセル製エポキシ化合物[セロキサイド(登録商標)CEL2021P]
東亞合成(株)製オキセタン化合物[アロンオキセタン(登録商標)OXT-221(DOX)]
<ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)>
(株)ダイセル製エポキシ化合物[セロキサイド(登録商標)CEL2000]
<キレート変性エポキシ樹脂(D)>
・(株)ADEKA[アデカレジン(登録商標)EP-49-10P2]
・(株)ADEKA[アデカレジン(登録商標)EP-49-10P]
(リン含有エポキシ樹脂含有量 40質量%)
<カチオン重合開始剤(F)>
・サンアプロ(株)製[CPI-110P(商品名)]
<酸化防止剤(G)>
・(株)ADEKA製酸化防止剤[アデカスタブ(商品名)AO-60]
<界面活性剤(H)>
・DIC(株)製界面活性剤[メガファック(登録商標)F563]
<光増感剤(I)>
・I1:関東化学(株)製光増感剤[9,10-ジフェニルアントラセン(商品名)]
・I2:川崎化成工業(株)製光カチオン増感剤[アントラキュアー(登録商標)UVS-1101]
<その他>
・日本カーバイド工業(株)製[シクロへキサンジメタノールジビニルエーテル(略称)CHDVE]
【0068】
<合成例1:4官能脂環式エポキシ含有ダブルデッカー型シルセスキオキサン(式(2)で表される化合物)の合成>
以下の方法により、式(2)で表される化合物を製造した。
国際公開第2004/024741号に開示されている方法により合成した式(α)で表される化合物(以下、化合物(α)と表記する)200g、脱水酢酸エチル(関東化学(株)製)306gを反応容器に仕込み、75℃に昇温し撹拌した。そこにPT-VTSC-3.0X(ユミコアジャパン製)0.13mLを添加し、セロキサイド2000(ダイセル化学(株)製)96gを滴下した。その後反応液を還流させ、FT-IRで214
0cm-1のピークが消失したことを確認後、加熱を停止し室温まで冷却した。その後、酢酸エチル(和光純薬工業(株)製)を40gと活性炭素(和光純薬工業(株)製)を15g加え一晩撹拌し、セライトを用いて活性炭素をろ過し除去した。ろ液を固形分濃度80%程度になるまでエバポレーターで濃縮し、溶液を撹拌しながらメタノール(和光純薬工業(株)製)を750g加え、白色沈殿を得た。得られた沈殿をろ過、さらにメタノールで洗浄し、減圧乾燥し255gの式(2)で表される化合物を得た。
【0069】
【0070】
(カチオン重合性組成物の調製)
紫外線を遮光した環境下で、式(2)で表される化合物 15.0g、セロキサイド(登録商標)CEL2021P 39.4g、アロンオキセタン(登録商標)OXT-221 9.9g、セロキサイド(登録商標)CEL2000 10.0g、アデカレジン(登録商標)EP-49-10P2 24.2g、アデカスタブ(商品名)AO-60 1.0g、メガファック(登録商標)F563 0.2g、9,10-ジフェニルアントラセン(商品名)0.2g、アントラキュアー(登録商標)UVS-1101 0.1gを、窒素下で50~100℃で加熱撹拌し溶解させた。この液状組成物に対して、光カチオン重合開始剤として光酸発生剤CPI-110P(商品名)を1%加え、撹拌溶解し、実施例1のカチオン重合性組成物を調製した。
セロキサイド(登録商標)CEL2000の代わりにCHDVE 10gを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1のカチオン重合性組成物を調製した。
式(2)で表される化合物の量を19.7gに変更し、セロキサイド(登録商標)CEL2000の代わりにEOXTVE10.0gを用い、アデカレジン(登録商標)EP-49-10P2の代わりに、アデカレジン(登録商標)EP-49-10P 29.5gを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例2のカチオン重合性組成物を調製した。
【0071】
<カチオン重合性組成物の粘度の測定>
東機産業(株)製のTV-22形粘度計コーンプレートタイプを使用し、恒温槽温度25℃にて、実施例1、比較例1及び2のカチオン重合性組成物粘度をそれぞれ測定した。
【0072】
(硬化膜の作製)
各種基材上に実施例1、比較例1及び2のカチオン重合性組成物をワイヤーバーコーターで4~5μmの厚さにそれぞれ塗工し、紫外線露光装置[Heraeus(株)製 LH10-10Q(商品名)、H bulb(商品名)]で紫外線(波長:254nm、365nm)を照射し、硬化膜を得た。得られた硬化膜の厚みを表1に示す。表中、UV硬化(J/cm2)は紫外線積算露光量である。
【0073】
<密着性試験:密着性評価>
調製したワニスを、ITO膜付PET基材(5mm厚、シグマアルドリッチ製)のITO膜上、3mm厚アルミニウム基材(アズワン(株)製)上、3mm厚銅基材(アズワン(株)製)上、0.3mm厚銀基材(ケニス(株)より購入)上、50μm厚PET基材(東レ(株)製 ルミラー(登録商標))上、50μm厚PI基材(カプトン(登録商標)、東レ・デュポン(株)製)上、100μm厚COP基材(ZEONOR(登録商標)、日本ゼオン(株)製)上にそれぞれ塗布し、上述の同様の条件にて4~5μm厚の硬化膜を作製した。ASTM D3359(Method B)に準拠し、すきま間隔1mm、100個のます目で付着性クロスカット法を用いて密着性試験を行い、下記の基準で評価した。評価結果を表1に示す。表中、ITOはITO膜付きPET基材を、Alはアルミニウム基材を、Cuは銅基材を、Agは銀基材を、PETはPET基材を、PIはPI基材を、COPはCOP基材をそれぞれ示す。
5B:剥離面積0%
4B:剥離面積5%未満
3B:剥離面積5%以上15%未満
2B:剥離面積15%以上35%未満
1B:剥離面積35%以上65%未満
0B:剥離面積65%以上
【0074】
【0075】
実施例1の結果から、(A)~(D)の全てを含むカチオン重合性組成物はハンドリング性に優れ、また、該カチオン重合性組成物は金属酸化物であるITO、金属であるアルミニウム、銅、銀、プラスチックであるPET、PI、COPのいずれのフィルムに対しても高密着性を有する硬化膜が得られることが示された。
比較例1の結果から、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)を含まずに、ビニル基のみを有する化合物を含む場合、組成物の粘度は約800mPa・sであったが、各種基材との密着性が非常に低いことがわかる。
比較例2の結果から、ビニル基及びカチオン重合性環状エーテルを有する化合物(C)を含まずに、ビニル基のみを有する化合物も含まない場合、組成物の粘度は約2500mPa・sで、COP基材との密着性が非常に低いことがわかる。
【0076】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本明細書に記載された各実施形態は、その趣旨を逸脱しない範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係るカチオン重合性組成物はハンドリング性に優れ、本発明に係るカチオン重合性組成物を硬化し手えられる硬化物は、各種基材との密着性に優れるため、特に、エレクトロニクスの部材、例えば、電子部品の接着層や、電子回路を有するプリント配線板の配線部の上に使用される絶縁材料、保護膜として好適に用いられる。