(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ルテニウム酸鉛粉末、およびルテニウム酸鉛粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 55/00 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
C01G55/00
(21)【出願番号】P 2020159528
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001405
【氏名又は名称】弁理士法人篠原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100065824
【氏名又は名称】篠原 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100104983
【氏名又は名称】藤中 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100166394
【氏名又は名称】鈴木 和弘
(72)【発明者】
【氏名】矢田 久貴
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-302327(JP,A)
【文献】特開2013-001623(JP,A)
【文献】特開2009-105263(JP,A)
【文献】特開平08-119637(JP,A)
【文献】特開2012-049075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 55/00
H01C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10箇所から任意に抽出した粉末のBET比表面積の平均値が14m
2
/g以上16m
2
/g以下であるルテニウム酸鉛粉末において、
10箇所から任意に抽出した粉末のBET比表面積の標準偏差が
0.235以下であることを特徴とするルテニウム酸鉛粉末。
【請求項2】
10箇所から任意に抽出した粉末のBET比表面積の平均値が14m
2/g以上
15.2m
2/g以下であることを特徴とする請求項1に記載のルテニウム酸鉛粉末。
【請求項3】
有効塩素濃度が
13.4質量%以上14
質量%以下の次亜塩素酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウムを用いて金属ルテニウムをアルカリ溶融させたルテニウム酸溶液を作製した後、該ルテニウム酸溶液中のルテニウムと当量の鉛イオンとなるように硝酸鉛溶液を添加して沈殿物を発生させ、得られた沈殿物を洗浄し、乾燥した後、焙焼すること
により、10箇所から任意に抽出した粉末のBET比表面積の平均値が14m
2
/g以上16m
2
/g以下、標準偏差が0.235以下のルテニウム酸鉛粉末を得ることを特徴とするルテニウム酸鉛粉末の製造方法。
【請求項4】
前記硝酸鉛溶液を添加する際に、過酸化水素および硝酸の水溶液を用いて、pHを7以上9以下に調整することを特徴とする請求項3に記載のルテニウム酸鉛粉末の製造方法。
【請求項5】
前記焙焼時の温度を600℃以上800℃以下とすることを特徴とする請求項3または4に記載のルテニウム酸鉛粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウム酸鉛粉末、および、その製造方法に関し、更に詳しくは、粒径が制御されたルテニウム酸鉛粉末、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、絶縁基板上にペーストを印刷して形成する抵抗器、コンデンサ等の電子部品で構成される回路配線基板が電子機器に多用されている。特に、絶縁体基板の表面に形成された導電体回路パターン又は電極の上に抵抗ペーストを印刷し、これを焼成することによって作製される厚膜抵抗体が、チップ抵抗器、厚膜ハイブリッドIC、および抵抗ネットワーク等に広く用いられている。
【0003】
厚膜抵抗体の製造に用いる抵抗ペーストは、導電粉末とガラス結合剤とをビヒクルと呼ばれる有機媒体中に均一に分散させることにより調製されている。このうち、導電粉末は厚膜抵抗体の電気的特性を決定する上で特に重要な役割を担っており、酸化ルテニウム(RuO2)やルテニウム酸鉛(Pb2Ru2O6.5)の粉末が広く用いられている。
【0004】
上記ルテニウム酸鉛粉末は、二酸化ルテニウム粉末と硝酸鉛粉末とを機械的に混合し、これを熱処理した後に粉砕してルテニウム酸鉛の微粉末を得る乾式方法の他、以下に示す湿式方法で製造することができる。
すなわち、先ず金属ルテニウム(Ru)を酸化剤共存下でアルカリ溶解して得たルテニウム酸アルカリ金属塩の水溶液か、あるいは金属ルテニウムを過剰の水酸化カリウムおよび硝酸カリウムを用いてアルカリ溶融して得たルテニウム酸カリウムを水に溶解して得た水溶液を用意する。
次に、この水溶液中のルテニウムと当量の鉛イオンを含む溶液を当該水溶液に添加し、酸あるいはアルコールで還元する。これによりPb2Ru2O6.5水酸化物を析出させる。そして、この析出した水酸化物を洗浄および乾燥した後、焼成することによってルテニウム酸鉛粉末が得られる(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
厚膜抵抗体の用途に用いられるルテニウム酸鉛粉末の大きさは、50nm以下(BET比表面積値が10m2/g以上)のものが多く用いられている。ルテニウム酸鉛粉末の粒径は、厚膜抵抗体の特性に大きく影響する。例えば平均粒径が少し変わるだけで厚膜抵抗体特性の抵抗値に差が生じてしまう。
市場から要求される厚膜抵抗体のサイズは年々小さくなる傾向にあるため、厚膜抵抗体に使用する導電粉末の粒径も小さく、かつ、ばらつきの小さいものがより求められるようになってきている。
【0006】
このように、ルテニウム酸鉛粉末の製造においては、より精確な粒径コントロールが要求されている。例えば、特許文献3には、ルテニウム酸鉛水和物に硫黄を少量添加し、焼成時の粒子成長を抑制することによって粒径を安定化させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平02-302327号公報
【文献】特開平08-119637号公報
【文献】特開2013-001623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、ルテニウム酸鉛粉末の製造では、より精確な粒径のコントロールが要求されているが、特許文献1、2に示すルテニウム酸鉛粉末の製造方法では、ルテニウム酸鉛粉末の粒径を精確にコントロールすることは困難であった。これは、金属ルテニウムの溶解から始まり、中和・還元、洗浄、乾燥、焼成のそれぞれの工程で反応が容易に進みすぎるため、製造条件のばらつきが、各工程で生成される粒子の粒径にばらつきを与え、最終的に生成されるルテニウム酸鉛粉末の粒径がばらついてしまうためであると考えられる。
【0009】
特許文献3には上述したように化学的方法で粒度を安定化させる技術が示されているものの、添加元素である硫黄が焙焼後の粉末に不純物として残留してしまう場合がある。硫黄は、半導体電子部品の配線や電極などを腐食させてしまい、厚膜チップ抵抗器の電気特性を悪化させる元素であるため、残留は好ましくない。
【0010】
このような状況から、ルテニウム酸鉛粉末の製造において、半導体電子部品に悪影響をおよぼすことなく、ばらつきが小さく粒径の揃ったルテニウム酸鉛粉末、および、そのルテニウム酸鉛粉末を再現性良く製造できる方法が強く望まれていた。
本発明はかかる状況に鑑みてなされたものであり、厚膜抵抗体の形成用ペーストに好適な、ばらつきが小さく粒径の揃ったルテニウム酸鉛粉末、および、そのルテニウム酸鉛粉末を再現性良く製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本件発明者は、厚膜抵抗体の用途に用いられる50nm以下(BET比表面積値が10m
2
/g以上)のルテニウム酸鉛粉末において、ばらつきが小さく粒径の揃ったルテニウム酸鉛(Pb2Ru2O6.5)粉末を再現性良く製造する方法について研究を重ねた結果、中和・還元工程での次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度、硝酸鉛溶液のPH、焙焼工程での焙焼温度を制御することが、焙焼後に得られるルテニウム酸鉛粉末の粒径ばらつきが減少し粒径を揃えることに最も効果があることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の一態様によるルテニウム酸鉛粉末の製造方法は、有効塩素濃度が13.4質量%以上14質量%以下の次亜塩素酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウムを用いて金属ルテニウムをアルカリ溶融させたルテニウム酸溶液を作製した後、該ルテニウム酸溶液中のルテニウムと当量の鉛イオンとなるように硝酸鉛溶液を添加して沈殿物を発生させ、得られた沈殿物を洗浄し、乾燥した後、焙焼することにより、10箇所から任意に抽出した粉末のBET比表面積の平均値が14m
2
/g以上16m
2
/g以下、標準偏差が0.235以下のルテニウム酸鉛粉末を得ることを特徴としている。
【0013】
また、本発明のルテニウム酸鉛粉末の製造方法においては、硝酸鉛溶液を添加する際に、過酸化水素および硝酸の水溶液を用いて、pHを7以上9以下に調整することが好ましい。
【0014】
また、本発明のルテニウム酸鉛粉末の製造方法においては、焙焼時の温度を600℃以上800℃以下とすることが好ましい。
【0015】
また、本発明の一態様によるルテニウム酸鉛粉末は、10箇所から任意に抽出した粉末のBET比表面積の平均値が14m
2
/g以上16m
2
/g以下であるルテニウム酸鉛粉末において、10箇所から任意に抽出した粉末のBET比表面積の標準偏差が0.235以下のルテニウム酸鉛粉末であることを特徴としている。
【0016】
また、本発明のルテニウム酸鉛粉末においては、10箇所から任意に抽出した粉末のBET比表面積の平均値が14m2/g以上15.2m2/g以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、半導体電子部品に悪影響をおよぼすことなく、粒径ばらつきの小さい粒径の揃ったルテニウム酸鉛粉末、および、ルテニウム酸鉛粉末の製造方法を得ることが可能となる。そのため、本発明の製造方法によって得たルテニウム酸鉛粉末を導電粉末として用いた抵抗ペーストを使用して作製した厚膜抵抗体は、その面積抵抗値のばらつきを極めて小さくすることができる。このように、本発明のルテニウム酸鉛粉末、および、ルテニウム酸鉛粉末の製造方法の工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されるものではなく、本発明の範囲内で、下記実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0019】
(溶解・還元工程)
ルテニウム酸鉛粉末の製造には、ルテニウムと鉛の水和物または水酸化物の共沈物を用いる。すなわち、酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムの共存下で、アルカリである水酸化ナトリウムを用いて、金属ルテニウムをアルカリ溶解し、これによりルテニウム酸アルカリ金属塩の水溶液を作製する。
本件発明者は、このルテニウム酸アルカリ金属塩の水溶液を作製する際に用いる次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度を、一般に市販されている12%以下の濃度(例えば、5%、6%、10%、12%)よりも高い濃度に調整し、高い有効塩素濃度に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いてルテニウム酸アルカリ金属塩の水溶液を作製し、後述の還元工程により水酸化ルテニウム鉛の共沈物を得、得られた水酸化ルテニウム鉛の共沈物を後述の洗浄工程、焙焼工程により、洗浄し、乾燥した後、焙焼することによりルテニウム酸鉛粉末を製造し、製造したルテニウム酸鉛粉末の粒径ばらつきをBET比表面積で評価した。
その結果、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度を、13.4質量%以上14質量%以下とすることで、一般に市販されている有効塩素濃度が12%以下である次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いた場合と比べて、後述の還元工程、洗浄工程、および焙焼工程を経て得られるルテニウム酸鉛粉末の粒径ばらつきを抑えることができる(詳しくは、10箇所から任意に抽出した粉末のBET比表面積の平均値が14m
2
/g以上16m
2
/g以下であるルテニウム酸鉛粉末において、10箇所から任意に抽出した粉末のBET比表面積の標準偏差を0.235以下に抑えることができる)ことが判明した。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度が12%以下である場合、金属ルテニウムを完全に溶解できるようにするための必要量が多くなり、還元後の洗浄廃液量が増え経済的でない。また、後述のpH調整する際、有効塩素濃度が低く容易にpH値が低下するため、還元液の必要液量は少なくなり、水酸化ルテニウム鉛の共沈物を洗浄工程、および焙焼工程を経て得られるルテニウム酸鉛粉末の粒径がばらつくので好ましくない。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度が14%より高い場合、次亜塩素酸ナトリウム水溶液としての流通があまりなく入手困難であり、また、入手、作製できたとしても高価となり経済的でないため好ましくない。
【0020】
得られたルテニウム酸アルカリ金属塩の水溶液に、水溶液中のルテニウムと当量の鉛イオンを含む硝酸鉛溶液を添加し、pHを調整し、還元することで、水酸化ルテニウム鉛の共沈物を得ることができる。
pH調整では、pHが高すぎるとルテニウムや鉛が完全に沈殿せず、収率を悪化させるため、水溶液のpHを7以上9以下に調整してルテニウム酸鉛を完全に沈殿させることが望ましい。pH調整には過酸化水素および硝酸の水溶液を用いることができる。
【0021】
(洗浄工程)
溶解・還元工程で得られた共沈物であるルテニウム酸鉛の水和物または水酸化物を水で洗浄することにより、還元を終えた共沈物に付着している、アルカリ金属イオンである過剰なナトリウムイオンやカリウムイオンを除去する。
【0022】
(焙焼工程)
ルテニウム酸鉛水酸化物もしくは水和物は、乾燥処理して水分を除去した後、大気中で600℃以上800℃以下×2時間の条件で焙焼するのが好ましい。この時、焙焼前のルテニウム酸鉛水酸化物の粒径が揃っていることにより、その後の焙焼工程においても、粒径ばらつきの抑えられたルテニウム酸鉛粉末を得ることができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度13.4%)500ml、水酸化ナトリウム50gを純水1000mlに溶解して作成したアルカリ溶液に、金属ルテニウム0.2molを加えて溶解し、ルテニウム酸溶液1500mlを得た。また、0.2molの硝酸鉛を15%硝酸溶液300mlに溶解して硝酸鉛溶液300mlを得た。次いで、40℃に維持したルテニウム酸溶液1500mlに、硝酸鉛溶液300mlを攪拌しながら添加し、過酸化水素および硝酸の水溶液を用いて、pHを7.5に調整し黒色沈殿物を得た。この沈殿物を温水で洗浄し固液分離した後、110℃で一晩乾燥した。
このようにして得た黒色沈澱物を700℃で2時間焙焼し、Pb2Ru2O6.5の組成式で表されるルテニウム酸鉛粉末を得た。
得られたルテニウム酸鉛粉末の10箇所から任意に粉末サンプルを抽出し、10箇所から任意に抽出した粉末サンプル夫々のBET比表面積をマウンテック製の全自動比表面積測定装置を用いて測定した。
次に、得られた夫々のBET比表面積の測定値を用いて、10箇所から任意に抽出した粉末サンプルのBET比表面積の平均値、および標準偏差の値を求めた。
得られた粉末サンプルのBET比表面積の平均値、および標準偏差の値を、ルテニウム酸鉛粉末の製造条件と共に表1に示す。
【0025】
(参考例)
有効塩素濃度が12.4%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いた以外は実施例1と同様の方法でルテニウム酸鉛粉末を得た。また、実施例1と同様の方法で、10箇所から任意に抽出した粉末サンプル夫々のBET比表面積を測定した。
次に、得られた夫々のBET比表面積の測定値を用いて、10箇所から任意に抽出した粉末サンプルのBET比表面積の平均値、および標準偏差の値を求めた。
得られた粉末サンプルのBET比表面積の平均値、および標準偏差の値を、ルテニウム酸鉛粉末の製造条件と共に表1に示す。
【0026】
(比較例1)
有効塩素濃度が11.3%の次亜塩素酸ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様の方法でルテニウム酸鉛粉末を得た。また、実施例1と同様の方法で、10箇所から任意に抽出した粉末サンプル夫々のBET比表面積を測定した。
次に、得られた夫々のBET比表面積の測定値を用いて、10箇所から任意に抽出した粉末サンプルのBET比表面積の平均値、および標準偏差の値を求めた。
得られた粉末サンプルのBET比表面積の平均値、および標準偏差の値を、ルテニウム酸鉛粉末の製造条件と共に表1に示す。
【0027】
(比較例2)
有効塩素濃度が8.79%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いた以外は実施例1と同様の方法でルテニウム酸鉛粉末を得た。また、実施例1と同様の方法で、10箇所から任意に抽出した粉末サンプル夫々のBET比表面積を測定した。
次に、得られた夫々のBET比表面積の測定値を用いて、10箇所から任意に抽出した粉末サンプルのBET比表面積の平均値、および標準偏差の値を求めた。
得られた粉末サンプルのBET比表面積の平均値、および標準偏差の値を、ルテニウム酸鉛粉末の製造条件と共に表1に示す。
【0028】
【表1】
※表1中、BET比表面積の平均値、および標準偏差は、10箇所から任意に抽出した粉末サンプル夫々のBET比表面積の測定値を用いて算出。
【0029】
表1に示す結果から、本発明の実施例1の製造方法によれば、10箇所から任意に抽出した粉末サンプルのBET比表面積の平均値が15.2(m2/g)と微細な粉末で、10箇所から任意に抽出した粉末サンプルのBET比表面積の標準偏差が0.235と粒径の揃ったルテニウム酸鉛粉末が得られることが認められた。
これに対し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度が、本発明の範囲の下限値(13.4質量%)に比べて低い比較例1、2、参考例の製造方法では、10箇所から任意に抽出した粉末サンプルのBET比表面積の平均値、および標準偏差が実施例よりも大きくなることが認められた。
有効塩素濃度が比較的実施例1に近い比較例1は、10箇所から任意に抽出した粉末サンプルのBET比表面積の平均値は15.9m2/g、参考例は、10箇所から任意に抽出した粉末サンプルのBET比表面積の平均値は15.3m
2
/gと実施例1に近い粒径が得られるものの、10箇所から任意に抽出した粉末サンプルのBET比表面積の標準偏差が0.360、0.286と大きく、実施例1と比べてばらつきが低減できないことが認められた。
また、有効塩素濃度が8.79と低い比較例2は、10箇所から任意に抽出した粉末サンプルのBET比表面積の平均値が17.5m2/gと微細になりすぎ、また、10箇所から任意に抽出した粉末サンプルのBET比表面積の標準偏差も0.488と粒径がばらつくことが認められた。
【0030】
一般に市販されている次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、有効塩素濃度が4~12%のものがほとんどである。
上記比較例、参考例の結果に示すとおり、ルテニウム酸鉛粉末を作製する際に、有効塩素濃度を考慮することなく一般に市販されている次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用すると、作製されたルテニウム酸鉛粉末が、実施例1と比べて近年の小型化の進む電子部品向けの高精度製品に用いる厚膜抵抗体特性を得るための厚膜抵抗体形成用ペーストには不十分な、粒度分布の広い粉末群になってしまうことが分かる。
これに対し、上記実施例の結果に示すとおり、本発明のルテニウム酸鉛粉末の製造方法によれば、ルテニウム酸鉛粉末を作製する際に、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度を、13.4質量%以上14質量%以下としたので、近年の小型化の進む電子部品向けの高精度製品に用いる厚膜抵抗体特性を得るための厚膜抵抗体形成用ペーストに好適な、粒度分布が狭く粒径の揃った粉末群になったルテニウム酸鉛粉末を得られることが分かる。