(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/035 20060101AFI20240409BHJP
G02B 6/122 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
G02F1/035
G02B6/122 311
(21)【出願番号】P 2020165004
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】村田 祐美
(72)【発明者】
【氏名】高野 真悟
(72)【発明者】
【氏名】岡橋 宏佑
(72)【発明者】
【氏名】片岡 優
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-350659(JP,A)
【文献】特開平11-064668(JP,A)
【文献】特開2004-053827(JP,A)
【文献】特開2009-042400(JP,A)
【文献】特開2004-354947(JP,A)
【文献】国際公開第2004/049526(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/004637(WO,A1)
【文献】米国特許第09547129(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
G02B 6/12-6/14
G02B 6/26-6/27
G02B 6/30-6/34
G02B 6/42-6/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する材料で形成されるリブ型の光導波路と、該光導波路を支持する補強基板とを備えた光導波路素子において、
該光導波路の一端には、該光導波路を伝搬する光波のモードフィールド径を変化するスポットサイズ変換部を備え、
該スポットサイズ変換部は、コア部となるブロック部と、該ブロック部を取り囲み該ブロック部を構成する材料よりも屈折率が低い有機硬化物で構成され、
該スポットサイズ変換部を挟むように、該スポットサイズ変換部から離間して配置されると共に、該補強基板上に配置される構造体を備え、
さらに、該スポットサイズ変換部と該構造体の上側に配置される上部基板
を有し、
該有機硬化物は、該ブロック部と該構造体及び該上部基板が形成された空間に充填された接着剤で形成され、
該構造体の高さは、該スポットサイズ変換部の最大の高さ以上となるように設定されている
と共に、該構造体の該上部基板に対向する面には、該ブロック部から離れる方向に該接着剤を流す溝が形成されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路素子において、
該構造体の該上部基板に対向する面は、複数の突起部と該突起部の周り形成される該溝で構成され、該突起部が該面に占める面積は、10%から60%の範囲に設定されることを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の光導波路素子において、
該構造体の高さは、1μmから3.5μmの範囲に設定されることを特徴とする光導波路素子。
【請求項4】
請求項
1乃至3のいずれかに記載の光導波路素子において
、該スポットサイズ変換部から
該光導波路の方向に、該接着剤が流出するのを抑制するための接着剤流出防止手段が配置されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項5】
請求項4に記載の光導波路素子において、該接着剤流出防止手段から該スポットサイズ変換部と反対側
に位置する該光導波路の表面には、該接着剤流出防止手段と同じ材料で被覆
した被覆部を有することを特徴とする光導波路素子。
【請求項6】
請求項4又は5のいずれかに記載の光導波路素子において、該接着剤流出防止手段の材料の屈折率は、前記リブ型の光導波路を構成する材料の屈折率よりも低いことを特徴とする光導波路素子。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載の光導波路素子は、該光導波路素子は筐体内に収容され、該光導波路に光波を入力又は出力する光ファイバを備えることを特徴とする光変調デバイス。
【請求項8】
請求項7に記載の光変調デバイスにおいて、該光導波路素子は該光導波路を伝搬する光波を変調するための変調電極を備え、該光導波路素子の変調電極に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする光変調デバイス。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置に関し、特に、リブ型の光導波路と、該光導波路を支持する補強基板とを備えた光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光計測技術分野や光通信技術分野において、電気光学効果を有する基板を用いた光変調器などの光導波路素子が多用されている。特に、近年の情報通信量の増大に伴い、長距離の都市間やデータセンター間に用いられる光通信の高速化や大容量化が望まれている。しかも、基地局のスペースの制限もあり、光変調器の高速化と小型化が必要となっている。
【0003】
光変調器の小型化には、光導波路の幅を狭くする微細化を施すことで、光の閉じ込め効果を大きくすることができ、結果として、光導波路の曲げ半径を小さくし、小型化が可能となる。例えば、電気光学効果を有するニオブ酸リチウム(LN)は、電気信号を光信号に変換する際に、歪みが少なく、光損失が少ないことから、長距離向け光変調器として用いられる。LN光変調器の従来の光導波路では、モードフィールド径(MFD)は10μm程度であり、光導波路の曲げ半径は数十mmと大きいため、小型化が困難であった。
【0004】
近年、基板の研磨技術や基板の貼り合わせ技術が向上し、LN基板の薄板化が可能となり、光導波路のMFDも3μm以下、1μm程度が研究開発されている。MFDが小さくなるに従い、光の閉じ込め効果も大きくなるため、光導波路の曲げ半径もより小さくすることができる。
【0005】
一方、光ファイバのMFDである10μmφよりも小さいMFDを有する微細光導波路を使用する場合には、光導波路素子に設けられた光導波路の端部(素子端面)と、光ファイバとを直接接合すると、大きな挿入損失が発生する。
【0006】
このような不具合を解消するには、光導波路の端部にスポットサイズ変換部(スポットサイズコンバーター,SSC)を配置することが考えらえる。一般的なSSCは、二次元又は三次元に光導波路を拡大する、テーパー形状の光導波路部分を設けることである。参考までに、特許文献1乃至3には、テーパー型導波路の例が示されている。
【0007】
光導波路のコア部の拡大に伴いスポットサイズが拡大するテーパー型導波路は、スポットサイズに適したコア部とクラッド部の屈折率調整の難易度が高く、マルチモードを誘起し易いため、光導波路素子のSSCとしては、使用可能なデザインに制限がある。さらに、必要なスポットサイズに変換するためには比較的長くテーパー部分を形成する必要が有り、光導波路素子の小型化が難しい課題があった。
【0008】
さらに、本出願人においては、
図1乃至3に示すようなSSCを検討しているが、リブ型の光導波路10の先端を幅が狭くなるテーパー形状12とし、それを取り囲むようにコア部となるブロック部2を配置している。ブロック部2の屈折率は光導波路10の屈折率よりも低く設定されており、さらに、ブロック部2よりも屈折率が0.01~0.03程度低い有機材料(5)で、ブロック体を取り囲んでいる。この有機材料は、接着剤を硬化したもの等で構成することが可能である。このSSCは、ブロック部2で覆われた状態で光導波路10のテーパー形状12となることで、光導波路10の実効屈折率が低下し、光の閉じ込めが弱くなることで、ブロック部2に光のモードが移行し、光導波路10よりも大きなMFDを実現している。
【0009】
図1の点線A-A’及びB-B’における断面図を
図2に示し、
図1の点線C-C’における断面図を
図3に示している。符号1は、ニオブ酸リチウムなど電気光学効果を有する材料の薄板(膜体)であり、光導波路10は、当該薄板を局所的に除去して残ったリブ部に形成されている。符号3は、光導波路10を含む薄板1を支持する補強基板である。
【0010】
符号4は、光導波路素子の端面に光ファイバや光学ブロックを接続する際の補強部材となる上部基板である。符号5は、補強基板3と上部基板4とを接合する接着剤が硬化した有機硬化物である。また、符号11は、薄板1の一部であり、光導波路のテーパー部12を形成する際のエッチングで残留した部分を示している。
【0011】
特許文献1乃至3や
図1乃至3に示すSSCにおいては、リブ型の光導波路だけでなく、該光導波路よりも厚みが大きく、補強基板3の表面から上側に大きく突出する特許文献3のテーパー部や
図2のブロック部2などが存在する。このように、補強基板3の表面から大きく突出した部分は、上部基板4を貼り付ける際に、当該突出部分の存在が、該上部基板を補強基板3の表面に対して平行に貼り合わせることを難しくする。しかも、上部基板4を接合のため上側から押し付けると、押圧力が当該突起部分に集中し、当該突起部分を破損するなどの不具合も生じる。また、上部基板4を平行に貼れず接着層厚が不均一になると、MFDが不均一になったり、熱応力により上部基板4が外れたりするなどの不具合も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2006-284961号公報
【文献】特開2007-264487号公報
【文献】国際公開WO2012/042708号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、光導波路の端部にスポットサイズ変換部を設けた場合でも、上部基板を補強基板に対して平行に貼り付け、該スポットサイズ変換部を破損することを防止し、接着層厚を均一化することによりMFDが安定化され、更には、熱応力が均一化され上部基板の剥がれを抑制した光導波路素子を提供することである。さらには、その光導波路素子を用いた光変調デバイスと光送信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置は、以下の技術的特徴を有する。
(1) 電気光学効果を有する材料で形成されるリブ型の光導波路と、該光導波路を支持する補強基板とを備えた光導波路素子において、該光導波路の一端には、該光導波路を伝搬する光波のモードフィールド径を変化するスポットサイズ変換部を備え、該スポットサイズ変換部は、コア部となるブロック部と、該ブロック部を取り囲み該ブロック部を構成する材料よりも屈折率が低い有機硬化物で構成され、該スポットサイズ変換部を挟むように、該スポットサイズ変換部から離間して配置されると共に、該補強基板上に配置される構造体を備え、さらに、該スポットサイズ変換部と該構造体の上側に配置される上部基板を有し、該有機硬化物は、該ブロック部と該構造体及び該上部基板が形成された空間に充填された接着剤で形成され、該構造体の高さは、該スポットサイズ変換部の最大の高さ以上となるように設定されていると共に、該構造体の該上部基板に対向する面には、該ブロック部から離れる方向に該接着剤を流す溝が形成されていることを特徴とする。
【0015】
(2) 上記(1)に記載の光導波路素子において、該構造体の該上部基板に対向する面は、複数の突起部と該突起部の周り形成される該溝で構成され、該突起部が該面に占める面積は、10%から60%の範囲に設定されることを特徴とする。
【0016】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の光導波路素子において、該構造体の高さは、1μmから3.5μmの範囲に設定されることを特徴とする。
【0017】
(4) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の光導波路素子において、該スポットサイズ変換部から該光導波路の方向に、該接着剤が流出するのを抑制するための接着剤流出防止手段が配置されていることを特徴とする。
【0018】
(5) 上記(4)に記載の光導波路素子において、該接着剤流出防止手段から該スポットサイズ変換部と反対側に位置する該光導波路の表面には、該接着剤流出防止手段と同じ材料で被覆した被覆部を有することを特徴とする。
【0019】
(6) 上記(4)又は(5)のいずれかに記載の光導波路素子において、該接着剤流出防止手段の材料の屈折率は、前記リブ型の光導波路を構成する材料の屈折率よりも低いことを特徴とする。
【0020】
(7) 上記(1)乃至(6)いずれかに記載の光導波路素子は、該光導波路素子は筐体内に収容され、該光導波路に光波を入力又は出力する光ファイバを備えることを特徴とする光変調デバイスである。
【0021】
(8) 上記(7)に記載の光変調デバイスにおいて、該光導波路素子は該光導波路を伝搬する光波を変調するための変調電極を備え、該光導波路素子の変調電極に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする。
【0022】
(9) 上記(7)又は(8)に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置である。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、電気光学効果を有する材料で形成されるリブ型の光導波路と、該光導波路を支持する補強基板とを備えた光導波路素子において、該光導波路の一端には、該光導波路を伝搬する光波のモードフィールド径を変化するスポットサイズ変換部を備え、該スポットサイズ変換部は、コア部となるブロック部と、該ブロック部を取り囲み該ブロック部を構成する材料よりも屈折率が低い有機硬化物で構成され、該スポットサイズ変換部を挟むように、該スポットサイズ変換部から離間して配置されると共に、該補強基板上に配置される構造体を備え、さらに、該スポットサイズ変換部と該構造体の上側に配置される上部基板を有し、該有機硬化物は、該ブロック部と該構造体及び該上部基板が形成された空間に充填された接着剤で形成され、該構造体の高さは、該スポットサイズ変換部の最大の高さ以上となるように設定されていると共に、該構造体の該上部基板に対向する面には、該ブロック部から離れる方向に該接着剤を流す溝が形成されているため、構造体が上部基板を補強基板に対して平行に支持することができ、さらに、上部基板がスポットサイズ変換部に接触することも抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】光導波路素子に使用されるスポットサイズ変換部の一例を示す平面図である。
【
図2】
図1の点線A-A’及びB-B’における断面図である。
【
図4】本発明の光導波路素子に係る第1の実施例を示す平面図である。
【
図5】
図4の点線A-A’及びB-B’における断面図である。
【
図6】本発明の光導波路素子に係る第2の実施例を示す平面図である。
【
図7】
図6の点線A-A’及びB-B’における断面図である。
【
図8】本発明の光導波路素子に係る第3の実施例を示す平面図である。
【
図10】本発明の光変調デバイス及び光送信装置を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の光導波路素子について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の光導波路素子は、
図4及び5に示すよう、電気光学効果を有する材料で形成されるリブ型の光導波路10と、該光導波路を支持する補強基板3とを備えた光導波路素子において、該光導波路の一端には、該光導波路を伝搬する光波のモードフィールド径を変化するスポットサイズ変換部2を備え、該スポットサイズ変換部を挟むように、該スポットサイズ変換部から離間して配置されると共に、該補強基板3上に配置される構造体Sを備え、該スポットサイズ変換部2と該構造体Sの上側に配置される上部基板4と、該構造体Sの高さHは、該スポットサイズ変換部2の最大の高さ以上となるように設定されていることを特徴とする。
【0026】
本発明の光導波路素子に使用される電気光学効果を有する材料1は、ニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)などの基板や、これらの材料による気相成長膜などが利用可能である。
また、半導体材料や有機材料など種々の材料も光導波路として利用可能である。
【0027】
光導波路10の形成方法としては、光導波路以外の基板1をエッチングしたり、光導波路の両側に溝を形成するなど、基板に光導波路に対応する部分を凸状としたリブ型の光導波路を利用することが可能である。さらに、リブ型の光導波路に合わせて、Tiなどを熱拡散法やプロトン交換法などで基板表面に拡散させることにより、屈折率をより高くすることも可能である。
【0028】
光導波路10を形成した基板(薄板)の厚さは、変調信号のマイクロ波と光波との速度整合を図るため、10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下に設定される。また、リブ型光導波路の高さは、4μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下や0.4μm以下に設定される。また、補強基板3の上に気相成長膜を形成し、当該膜を光導波路の形状に加工することも可能である。
【0029】
光導波路を形成した基板は、機械的強度を高めるため、直接接合又は樹脂等の接着層を介して、補強基板3に接着固定される。直接接合する補強基板3としては、光導波路や光導波路を形成した基板よりも屈折率が低く、光導波路などと熱膨張率が近い材料、例えば水晶やガラス等の酸化物層を含む基板が好適に利用される。SOI、LNOIと略されるシリコン基板上に酸化ケイ素層やLN基板上に酸化ケイ素層を形成した複合基板も利用可能である。
【0030】
図4及び5は、本発明の光導波路素子の第1の実施例を説明する図であり、
図4は平面図、
図5は、
図4の点線A-A’における断面図(a)と、点線B-B’における断面図(b)である。
【0031】
図4及び5では、
図1乃至3と同様のスポットサイズ変換部(ブロック体2)を用いた例を示しているが、本発明はこれらに限定されず、特許文献1乃至3に示すようなテーパー形状のスポットサイズ変換部であっても良い。
【0032】
本発明の光導波路素子の特徴は、
図4又は5に示すように、光導波路の一端にスポットサイズ変換部を配置し、当該スポットサイズ変換部(ブロック体2)を挟むように、構造体Sを備えることである。この構造体Sは、光導波路10よりも低い屈折率を持ち、さらにはブロック体2の屈折率以下であり、より好ましくは、有機硬化物5よりも低い屈折率を有する。また、構造体Sの屈折率は、ブロック体2と同等の屈折率でもよいが、その場合にはブロック体2と構造体Sとの間に、低屈折率を有する材料を配置する必要がある。一方、ブロック体2よりも低い屈折率とした場合は、有機硬化物5や補強基板3と同じ程度の屈折率であっても良い。構造体Sには、紫外線(UV)硬化樹脂が利用可能である。さらに、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂等の樹脂であり、一例として、ポリアミド系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、アミノ系樹脂、エポキシ系樹脂等を含み、低屈折率材として、ラバー材や酸化ケイ素化合物を含むことも可能である。また、構造体Sは、例えば永久レジストである。熱硬化型の樹脂を材料とするフォトレジストを補強基板3上に塗布し、通常の一般的なフォトリソグラフィプロセスによってパターニングを行った後に熱硬化させることにより、構造体Sを配設することができる。
【0033】
スポットサイズ変換部や構造体Sの上側には、上部基板4が配置される。上部基板には、補強基板3と同じ程度の屈折率や線膨張係数を有する材料が利用される。線膨張係数が一致していると、上部基板が熱応力で外れるなど不具合を低減することが可能となり、耐熱性に優れた光導波路素子が得られる。上部基板4と補強基板3とを接合する接着剤には、UV硬化樹脂や、アクリル系やエポキシ系等の樹脂などによる接着剤が使用可能である。
【0034】
本発明の光導波路素子の特徴は、構造体Sの高さHをスポットサイズ変換部の最大高さよりも高くし、上部基板4によるスポットサイズ変換部(ブロック体2)の破損を抑制することである。
【0035】
図6及び7は、本発明の光導波路素子に係る第2の実施例を示す図である。第2の実施例の特徴は、構造体Sの上面(上部基板に対向する面)に、凸状部S1を設け、隣接する凸状部の間に溝を形成することである。この溝は、補強基板3と上部基板4との間にある余分な接着剤を効率的に排出することに寄与する。そのため、補強基板3又は構造体Sと上部基板4との間隔をより均一な厚さに維持することができる。
【0036】
特に、有機硬化物5をスポットサイズ変換部(SSC)のコア部の一部とする場合には、有機硬化物が形成する層の厚みが一定となることにより、光波のMFDのサイズを安定化できるだけでなく、マルチモードが発生し難いSSCを実現することが可能となる。
【0037】
図7に示す構造体S(突起部S1の上面まで)の厚さHは、スポットサイズ変換部の高さにも依存するが、接着剤をコア部の一部として利用する場合は、1μm~3.5μmの範囲が設定される。また、構造体Sの上面の全面積に占める突起部S1の面積は、10%から60%程度の範囲に設定される。これは、突起部の機械的強度をある程度高くする必要があることと、溝等の隙間が狭くなり過ぎると、空気が入り込み排出できないなどの不具合を生じるためである。構造体の突起部S1の上面の面積が大きくなると上部基板を貼り合わせる際に、構造体とリッドとの接触面における摩擦力が高くなりリッドが固着化され、プロセス作業性に悪影響を及ぼす。
【0038】
図8及び9は、本発明の光導波路素子に係る第3の実施例を示す図である。第3の実施例の特徴は、光導波路10のスポットサイズ変換部(ブロック体2)から離れる方向に、接着剤(5)が流出するのを抑制するための接着剤流出防止手段EBが配置されていることである。
【0039】
接着剤(5)が、光導波路10の表面を覆うように光導波路素子内に広がると、光変調器を構成する場合に必要な光検出器などの設置する場所をSSC部よりも離れた場所に設ける必要が生じるため、小型化ができないなどの問題が生じる。また、光導波路の設計にない部分に接着剤が付着することで伝搬する光波の一部が漏出したり、光導波路の曲げに対応する光の閉じ込めが出来ず伝搬損失が大きくなる。
【0040】
接着剤流出防止手段EBを構成する材料の屈折率は、光導波路10を構成する材料の屈折率よりも低いことが必要であり、特に、構造体Sと同じ材料を使用し、構造体Sを形成するプロセスを利用して接着剤流出防止手段を形成することも可能である。
【0041】
さらに、接着剤流出防止手段EBからスポットサイズ変換部(ブロック体2)側又はブロック体2と反対側の光導波路10の表面には、接着剤流出防止手段EBと同じ材料で被覆する被覆部COが形成されている。このような被覆部は、光導波路10の荒れた表面を埋める役割を果たすと共に、光導波路10の周辺の材料を被覆層CO、接着剤流出防止手段EB、ブロック体2と順番に配置することにより、急激な屈折率変化を抑制することからも伝搬損失の低減に寄与する。
【0042】
本発明の光導波路素子は、光導波路10を伝搬する光波を変調する変調電極を設け、
図10のように、筐体8内に収容される。さらに、光導波路に光波を入出力する光ファイバ(F)を設けることで、光変調デバイスMDを構成することができる。
図10では、光ファイバは、筐体の側壁を貫通する貫通孔を介して筐体内に導入し、光導波路素子に直接接合されている。光導波路素子と光ファイバとは、空間光学系を介して光学的に接続することも可能である。
【0043】
光変調デバイスMDに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路(デジタル信号プロセッサーDSP)を、光変調デバイスMDに接続することにより、光送信装置OTAを構成することが可能である。光導波路素子に印加する変調信号は増幅する必要があるため、ドライバ回路DRVが使用される。ドライバ回路DRVやデジタル信号プロセッサーDSPは、筐体8の外部に配置することも可能であるが、筐体8内に配置することも可能である。特に、ドライバ回路DRVを筐体内に配置することで、ドライバ回路からの変調信号の伝搬損失をより低減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上説明したように、本発明によれば、光導波路の端部にスポットサイズ変換部を設けた場合でも、上部基板を補強基板に対して平行に貼り付け、該スポットサイズ変換部を破損することを防止し、接着層厚を均一化することによりMFDが安定化され、更には、熱応力が均一化され上部基板の剥がれを抑制した光導波路素子を提供することが可能となる。さらには、その光導波路素子を用いた光変調デバイスと光送信装置を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1 光導波路を形成する基板(薄板,膜体)
2 スポットサイズ変換部を構成するブロック体
3 補強基板
4 上部基板
5 接着剤
10 光導波路
S 構造体
S1 突起部
EB 接着剤流出防止手段
CO 被覆部