(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】分析試料およびその作製方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
G01N1/28 F
G01N1/28 G
(21)【出願番号】P 2020199615
(22)【出願日】2020-12-01
【審査請求日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2020058008
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 誠
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-078096(JP,A)
【文献】特開2010-095637(JP,A)
【文献】特開平09-264823(JP,A)
【文献】特表2015-531876(JP,A)
【文献】特開2019-045327(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0256812(US,A1)
【文献】特開2013-167525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00~ 1/44
G01N 35/00~35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも導電性粘着層を備える導電性粘着シートを準備する工程と、
前記導電性粘着シートの前記導電性粘着層上に粉体試料を散布する工程と、
前記導電性粘着層に保護フィルムを貼り合わせて積層体を形成する工程と、
前記積層体を切断して断面に前記粉体試料を露出させる工程と、を有する、分析試料の作製方法。
【請求項2】
前記保護フィルムはポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムおよびガラスフィルムから選択される、
請求項1に記載の分析試料の作製方法。
【請求項3】
前記導電性粘着シートは、基材と前記基材の両面に設けられる前記導電性粘着層とを備え、
前記両面にある前記導電性粘着層のそれぞれに前記粉体試料を散布し、前記保護フィルムを貼り合わせる、
請求項1又は2に記載の分析試料の作製方法。
【請求項4】
少なくとも導電性粘着層を備える導電性粘着シートと、
前記導電性粘着層上に散布される粉体試料と、
前記導電性粘着層に貼り合わせた保護フィルムと、を備え、
前記粉体試料が断面に露出するように構成される、分析試料。
【請求項5】
少なくとも導電性粘着層を備える導電性粘着シートと保護フィルムとを準備する工程と、
前記保護フィルム上に粉体試料を散布する工程と、
前記保護フィルムにおける前記粉体試料が散布される面に前記導電性粘着シートの前記導電性粘着層を貼り合わせて積層体を形成する工程と、
前記積層体を切断して断面に前記粉体試料を露出させる工程と、を有する、分析試料の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析試料およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体試料においては、粉体を構成する微小粒子の内部構造を解析すべく、走査電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)等を用いて微小粒子の断面を観察することがある。例えば、粉体試料を液状樹脂に添加して硬化させて樹脂包埋試料を作製して、この樹脂包埋試料を切断し、その断面に露出した粉体試料を観察する方法がある。
【0003】
ただし、粉体試料を樹脂に包埋する場合、粉体試料が少なかったり、粉体試料が樹脂中に広く分散したりすることで、粉体試料を効率よく観察できないことがある。また、樹脂包埋試料は切断した後にその断面を研磨することになるが、樹脂包埋試料を研磨装置へ装着するために切り出して加工する必要がある。例えば、樹脂包埋試料を円柱状から直方体に切り出す必要がある。そのため、切り出す回数が多くなると、測定効率が低くなることがある。
【0004】
そこで、例えば樹脂包埋試料における粉体試料の密度を高めるために、テーパー形状の貫通穴を有する鋳型を用いて樹脂包埋試料を作製する方法が提案されている(例えば特許文献1を参照)。このような鋳型によれば、粉体試料を液状樹脂内に沈めたときに、その底部に粉体試料を高い密度で集積させることができる。
【0005】
また例えば、樹脂包埋試料の切り出し回数を減らすために型枠を用いる方法が提案されている(例えば特許文献2を参照)。具体的には、粉体試料および液状樹脂を含む混合物を型枠に流し込み、型枠に接する2面をそのまま利用することで、樹脂包埋試料を直方体へ加工する際の切り出し回数を減らすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-167525号公報
【文献】特開2019-45327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の方法では、液状試料の底部で気泡が生じたりすることで、粉体試料が攪拌されるため、粉体試料を高い密度で包埋できないことがある。また、特許文献2の方法では、型枠を用いて得られる樹脂包埋試料が小さく、例えばバンドソーなどでの加工を行いにくくなるため、測定効率が低くなることがある。
【0008】
本発明は、粉体試料の量が少ない場合であっても粉体試料の密度を高めることができ、かつ、粉体試料の断面観察の効率を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、
少なくとも導電性粘着層を備える導電性粘着シートを準備する工程と、
前記導電性粘着シートの前記導電性粘着層上に粉体試料を散布する工程と、
前記導電性粘着層に保護フィルムを貼り合わせて積層体を形成する工程と、
前記積層体を切断して断面に前記粉体試料を露出させる工程と、を有する、
分析試料の作製方法である。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、
前記保護フィルムはポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムおよびガラスフィルムから選択される。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、
前記導電性粘着シートは、基材と前記基材の両面に設けられる前記導電性粘着層とを備え、
前記両面にある前記導電性粘着層のそれぞれに前記粉体試料を散布し、前記保護フィルムを貼り合わせる。
【0012】
本発明の第4の態様は、
少なくとも導電性粘着層を備える導電性粘着シートと、
前記導電性粘着層上に散布される粉体試料と、
前記導電性粘着層に貼り合わせた保護フィルムと、を備え、
前記粉体試料が断面に露出するように構成される、分析試料である。
【0013】
本発明の第5の態様は、
少なくとも導電性粘着層を備える導電性粘着シートと保護フィルムとを準備する工程と、
前記保護フィルム上に粉体試料を散布する工程と、
前記保護フィルムにおける前記粉体試料が散布される面に前記導電性粘着シートの前記導電性粘着層を貼り合わせて積層体を形成する工程と、
前記積層体を切断して断面に前記粉体試料を露出させる工程と、を有する、分析試料の作製方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粉体試料の量が少ない場合であっても粉体試料の密度を高めることができ、かつ、粉体試料の断面観察の効率を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、導電性粘着シートに粉体試料を散布する工程を示す図である。
【
図2】
図2は、導電性粘着シートに保護フィルムを貼り合わせる工程を示す図である。
【
図3】
図3は、保護フィルムを貼り合わせた積層体を切り出す工程を示す図である。
【
図4】
図4は、切り出した分析試料の断面に研磨を施す工程を示す図である。
【
図5】(a)は粉体試料を樹脂に埋め込む工程を、(b)は樹脂包埋試料を平行研磨する工程を、(c)は平行研磨した樹脂包埋試料を切り出す工程を、それぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述した方法では、例えば
図5(a)~(c)に示すように、粉体試料を液状樹脂で包埋して樹脂包埋試料を作製した後、樹脂包埋試料は断面加工装置へ導入するために切り出しを行う。
図5は、粉体試料を樹脂で包埋する方法のフロー図を示し、
図5(a)は粉体試料を樹脂に埋め込む工程を、
図5(b)は樹脂包埋試料を平行研磨する工程を、
図5(c)は平行研磨した樹脂包埋試料を切り出す工程を、それぞれ示す。
【0017】
例えば
図5(a)に示すように、まず、受け皿150bに円筒状容器150aを配置する。続いて、円筒状容器150a内に、脱泡処理した流動性を有する液状樹脂107を注ぎ、その後、粉体試料105を投入する。続いて、粉体試料105を投入した状態で、真空引きによる脱泡処理をする。このとき、液状樹脂107中で粉体試料105が撹拌されてしまうことがある。その後、液状樹脂107を時間をかけて硬化させる。液状樹脂107を硬化させた後、
図5(b)に示すような、粉体試料105が樹脂包埋された樹脂包埋試料108を取り出す。樹脂包埋試料108は、上面が湾曲しているため、例えば平行面112まで平行研磨する。これにより、樹脂包埋試料108を円柱状に加工する。そして、
図5(c)に示すように、バンドソー等を用いて4回の切断を行い、板状の直方体に仕上げられる。この直方体110の形状に加工されることで、はじめてイオンミリング(IM)などの研磨装置に装着することができる。
【0018】
図5(a)~(c)によれば、例えば液状樹脂107を真空引きで脱泡処理するときに粉体試料105が液状樹脂107中で拡散したりすることで、その密度が低くなることがある。また、樹脂包埋試料108を直方体に加工するために切り出しを4回行う必要があるため、測定効率が悪くなることがある。
【0019】
粉体試料を樹脂に包埋させる方法では上記課題が生じることから、本発明者は粉体試料を固定する別の方法について検討を行った。そして、樹脂包埋の代わりに粘着シートを用いて粉体試料を固定する方法に着目した。具体的には、導電性を有する粘着シートに粉体試料を散布し、その上からフィルムを貼り合わせることで、粉体試料を埋め込み固定する。この方法によれば、粉体試料の量が少ない場合でも、粘着シート上に粉体試料を一か所に集中して散布することで、粉体試料を高密度で分布させることができる。しかも、液状樹脂を硬化させる工程を省略できるので、粉体試料の断面観察の効率を向上させることができる。
【0020】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。
【0021】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態にかかる分析試料の作製方法について
図1~
図4を用いて説明する。
図1~
図4は本発明の一実施形態にかかる分析試料の作製方法のフロー図を示す。具体的には、
図1は、導電性粘着シートに粉体試料を散布する工程を示す図である。
図2は、導電性粘着シートに保護フィルムを貼り合わせる工程を示す図である。
図3は、保護フィルムを貼り合わせた積層体を切り出す工程を示す図である。
図4は、切り出した分析試料の断面に研磨を施す工程を示す図である。なお、各図で同一又は相当する部分には同一の符号を付してその説明を簡略化ないし省略することがある。
【0022】
まず、粉体試料10を準備する。粉体試料としては、例えば粒径が0.1μm~100μmのものを準備する。なお、粉体試料10は、
図5(a)における粉体試料105と同じものを示す。
【0023】
次に、導電性粘着シート20を準備する。導電性粘着シート20は、
図3に示すように、基材21と基材21の少なくとも一方の面に設けられる導電性粘着層22とを備えて構成される。本実施形態では、基材21の両面に導電性粘着層22が設けられるものを例として説明する。
【0024】
導電性粘着シート20における基材21は、導電性粘着層22を支持するものであり、例えば樹脂や導電性を有する金属箔から形成される。導電性粘着層22は、粘着性を有する樹脂にカーボンなどの導電性物質が添加された組成物から形成される。このような導電性粘着シート20としては、例えば、粉体の表面を観察する際に粉体を固定するために使用される粘着シート、または、金属箔に導電性粘着層が設けられた導電性テープなどを用いることができる。導電性粘着シート20によれば、導電性粘着層22で、散布する粉体試料10を固定するとともに、後述の断面を研磨する工程でのチャージアップを抑制することができる。
【0025】
なお、導電性粘着シート20の厚さは、特に限定されないが、強度と切断の容易さとの観点からは、例えば40μm~500μmであることが好ましい。40μm以上とすることにより、積層体40を適切な強度に構成することができ、取り扱い性を良好にすることができる。また500μm以下とすることにより、積層体40を切断するときの時間を過度に長くさせることなく、分析試料の作製効率を高めることが可能となる。
【0026】
続いて、
図1に示すように、導電性粘着シート20の一方の面(図中の下方の面)に設けられる導電性粘着層22に保護フィルム30を貼り合わせる。保護フィルム30は、積層体40を切断して得られる断面加工面においてエッジ部での凹凸を抑制し、良好な断面加工面を得るために、導電性粘着シート20に貼り合わせるものである。
【0027】
保護フィルム30としては、後述のイオンビーム加工装置で生じる熱で変形しないような耐熱性を有するものであれば特に限定されない。好ましくは、外側から内部にある粉体試料10を確認できるような透明性をさらに有するとよい。このような保護フィルム30としては、例えば、ポリイミドやポリエチレンテレフタレートなどの樹脂から形成される樹脂フィルム、もしくはガラスフィルムなどを用いることができる。この中でも、樹脂フィルムが好ましい。樹脂フィルムによれば、例えばトリミングナイフなどで簡易に切断することができ、バンドソーなどの機械を用いる必要がない。
【0028】
保護フィルムの厚さは、特に限定されないが、12.5μm以上125μm以下であることが好ましい。12.5μm以上とすることにより、積層体40の取扱い性を向上させるとともに、積層体40を断面加工したときのエッジ部での凹凸をより抑制することができる。また125μm以下とすることにより、積層体40をトリミングナイフ等で簡易に切断できるような厚さとすることができる。
【0029】
続いて、
図1に示すように、導電性粘着シート20のもう一方の面(図中の上方の面)に設けられる導電性粘着層22に粉体試料10を散布する。このとき、粉体試料10の量が少ない場合であれば、粉体試料10の密度が高くなるように1か所に集中して散布することが好ましい。
【0030】
次に、
図2に示すように、粉体試料10を散布した導電性粘着層22に対して保護フィルム30を貼り合わせる。これにより、粉体試料10を導電性粘着層22に埋め込むとともに保護フィルム30で覆い、積層体40を得る。粉体試料10は積層体40の内部に存在するものの、保護フィルム30越しに確認することができる。
【0031】
積層体40の厚さは、特に限定されないが、135μm以上360μm以下であることが好ましい。このような厚さとすることにより、積層体40をトリミングナイフ等で簡易に切断することを可能にしつつ、積層体40の取り扱い性を担保することができる。
【0032】
次に、積層体40を
図2に示す破線<1>~<4>に沿って順に切断する。これにより、
図3に示すような、切断面1aに粉体試料10が露出する、直方体の分析試料1を切り出す。このとき、分析試料1の切断面1aに粉体試料10が露出するように切断位置を決めて切断することが好ましい。切断位置は、保護フィルム30が透明であれば、保護フィルム30越しに粉体試料10の位置を確認して決めるとよい。この切断においては、積層体40は導電性粘着シート20および保護フィルム30が積層されて構成されているので、バンドソーなどの切断装置を使用する必要がなく、例えばトリミングナイフなどを用いて切断を容易に行うことができる。なお、切断は積層体40の厚さ方向に行うとよい。
【0033】
分析試料1の大きさは、特に限定されず、切断面1aを研磨する研磨装置へ導入できるような大きさであればよい。例えば、縦が5mm~8mm、横が5mm~10mmとなるような大きさとするとよい。
【0034】
次に、分析試料1をイオンビーム加工装置に導入し、
図4に示すように、粉体試料10が露出する切断面1aに断面処理を施す。具体的には、イオンビーム加工装置の試料台53に分析試料1を固定し、その上に遮蔽板54をセットする。そして、イオン銃51から切断面1aに向けてイオンビーム52を照射することで、切断面1aに断面処理を施す。これにより、粉体試料10の断面を露出させる。イオンビーム加工装置としては、例えばイオンミリング装置などを用いるとよい。
【0035】
以上により、分析試料1が得られる。この分析試料1は例えばSEMやTEMに導入して、切断面1aに露出する粉体試料10を観察することにより、その内部構造を解析することができる。
【0036】
なお、本実施形態では、導電性粘着シート20の片面に保護フィルム30を貼り合わせた後に、もう一方の片面に粉体試料10を散布して保護フィルム30を貼り合わせているが、この手順は逆にしてもよい。すなわち、導電性粘着シート20の片面に粉体試料10を散布して保護フィルム30を貼り合わせた後に、もう一方の片面に保護フィルム30を貼り合わせてもよい。
【0037】
<本実施形態に係る効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0038】
本実施形態では、粉体試料10を樹脂で包埋する代わりに、基材21上に導電性粘着層22が設けられた導電性粘着シート20を用いて粉体試料10を固定している。具体的には、導電性粘着シート20の導電性粘着層22に粉体試料10を散布し、その上から保護フィルム30を貼り合わせている。そして、張り合わせた積層体40を、断面に粉体試料10が露出するように切断する。これにより、断面観察に供する分析試料1を作製している。このように導電性粘着シート20を用いることで、樹脂包埋の際に必要となる液状樹脂107の脱泡や硬化を省略することができるとともに、粉体試料10の散布と保護フィルム30の貼り合わせという簡易な操作により、粉体試料10を固定することができる。しかも、得られる積層体40は、トリミングナイフなどで簡易に切断することができるので、イオンビーム加工装置へ導入するために、バンドソーなどの切断装置を用いることなく、寸法変更を容易に行うことができる。よって、粉体試料10を断面観察用の分析試料1に加工し、断面観察を行う時間を短縮して、分析効率を向上させることができる。
【0039】
また、導電性粘着シート20によれば、導電性粘着層22上に粉体試料10を散布するため、樹脂包埋のように粉体試料10が樹脂中に分散してしまうことを抑制することができる。そのため、粉体試料10の量が少なく、例えば0.2mg程度の量しかないような場合であっても、粉体試料10を高密度で分布させることができる。この結果、分析試料1の断面1aを観察したときに、その観察視野内に多くの粉体試料10を分布させることができ、測定効率を向上させることができる。
【0040】
また、導電性粘着シート20に貼り合わせる保護フィルム30は、ポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムおよびガラスフィルムから選択されることが好ましく、特にポリイミドフィルムおよびポリエチレンテレフタレートフィルムがより好ましい。これらのフィルムによれば、透明性を有するので、導電性粘着シート20に貼り合わせたときでも保護フィルム30越しに粉体試料10を確認することができ、粉体試料10を切断面1aに露出させやすい。しかも、これらの保護フィルム30によれば、耐熱性も有するので、断面をイオンビーム加工装置で加工する際に生じる熱で分析試料が変形してしまうことも抑制することができる。
【0041】
また、基材21の両面に導電性粘着層22が設けられる導電性粘着シート20を使用することで、保護フィルム30を両面に貼り合わせることができるので、積層体40としたときの強度を高めることができる。これにより、積層体40を切断しやすくすることができる。
【0042】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0043】
上述の実施形態では、導電性粘着シート20の一方の面に設けられる導電性粘着層22のみに粉体試料10を散布する場合を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、もう一方の面に設けられる導電性粘着層22にも粉体試料10を散布し、両面の導電性粘着層22にそれぞれ粉体試料10を埋め込み固定することができる。一方の面と他方の面とで異なる種類の粉体試料10をそれぞれ散布し埋め込むとよい。これにより、1つの分析試料1で2回の測定を行うことができ、測定効率をより向上させることができる。
【0044】
また上述の実施形態では、導電性粘着シート20が基材21の両方の面にそれぞれ導電性粘着層22を備える場合を説明したが、本発明はこれに限定されず、導電性粘着シート20は、基材21の一方の面のみに導電性粘着層22を備えてもよい。また、導電性粘着シート20は、基材21を持たず、導電性粘着層22のみで構成されてもよい。導電性粘着シート20が導電性粘着層22のみで構成される場合であっても、その両面に保護フィルム30を貼り合わせることにより積層体40の強度を高めて、取り扱い性を維持することができる。
【0045】
また上述の実施形態では、導電性粘着シート20の導電性粘着層22に粉体試料10を散布した後、保護フィルム30を貼り合わせる場合を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、保護フィルム30を準備し、その一方の面に粉体試料10を散布した後、保護フィルム30の粉体試料10が散布された面に導電性粘着シート20の導電性粘着層22を貼り合わせて、積層体40を作製してもよい。この場合でも、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0047】
(実施例1)
まず、保護フィルムとして、サイズ10mm×10mm、厚さ37μmのポリイミドフィルム(PIフィルム)を準備した。続いて、PIフィルム上に、直径8mm、厚さ110μmの導電性両面粘着シートを貼り合わせた。続いて、導電性両面粘着シートの、PIフィルムを貼り合わせた面とは反対側の面に、粉体試料を散布した。続いて、粉体試料を散布した面に、サイズ10mm×10mm、厚さ37μmのPIフィルムを貼り合わせ、積層体を作製した。作製された積層体の厚さは184μmであった。
【0048】
次に、積層体から、トリミングナイフによりイオンミリング加工装置に入る大きさの板状の直方体を切り出した。このときの直方体のサイズは8mm×9mmとした。切り出しの際は、
図2に示すような手順で積層体を切断した。具体的には、まず、<1>に沿って、粉末試料の密度が高くなるように切断した。その後、所定の大きさの直方体となるように<2>~<4>の順に切断を行った。これにより、分析試料を得た。得られた分析試料は、鋭利なトリミングナイフにより切断されているため、その切断面は凹凸が少なく、断面研磨を必要としない。
【0049】
続いて、得られた分析試料を、イオンビーム加工装置に導入し、切断面を断面処理する。このとき、照射するイオンビームのエネルギーを2~7keV程度に設定した。これにより、粉体試料の断面を露出させた。
【0050】
続いて、分析試料を走査電子顕微鏡に導入して、粉体試料の露出箇所を観察した。本実施例では、分析試料の切断面に露出する粉体試料の密度が高く、観察視野内に多くの粉体試料を入れることができたので、粉体試料を効率よく測定することができた。
【符号の説明】
【0051】
1 分析試料
1a 切断面
10 粉体試料
20 導電性粘着シート
21 基材
22 導電性粘着層
30 保護フィルム
40 積層体
51 イオン銃
52 イオンビーム
53 試料台
54 遮蔽板
105 粉体試料
107 液状樹脂
108 樹脂包埋試料
110 直方体
112 平行面
150a 円筒状容器
150b 受け皿