(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】MIセンサ、及び、MIセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01R 33/02 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
G01R33/02 D
G01R33/02 L
(21)【出願番号】P 2020527282
(86)(22)【出願日】2019-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2019020076
(87)【国際公開番号】W WO2020003815
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2018121668
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】392019709
【氏名又は名称】ニデックアドバンステクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】楠田 達文
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-004726(JP,A)
【文献】特開2009-229101(JP,A)
【文献】特開2016-194531(JP,A)
【文献】特開2006-047267(JP,A)
【文献】特開2006-300906(JP,A)
【文献】特開2002-286823(JP,A)
【文献】特開平11-074582(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104820196(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105699921(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状の磁性導体と、
前記磁性導体の外周面に形成される絶縁体層と、
前記絶縁体層の外周面に螺旋状に形成される第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルと、を備えるMIセンサであって、
前記第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルは、導電層で形成され、
前記第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルが互いに直交する方向に配置され
、
前記磁性導体は、前記第一コイルと前記第二コイルとの間、及び、前記第二コイルと前記第三コイルとの間で折り曲げられた、MIセンサ。
【請求項2】
前記第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルが固定部で固定される、請求項1に記載のMIセンサ。
【請求項3】
前記第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルの両端部が前記絶縁体層を一周する環状のコイル電極として形成される、請求項1又は請求項2に記載のMIセンサ。
【請求項4】
線状の磁性導体の外周面に絶縁体層を形成する、絶縁工程と、
前記絶縁体層の外周面に導電層を形成する、導電層形成工程と、
前記導電層の外周面にレジスト層を形成する、レジスト工程と、
前記レジスト層をレーザーで露光することにより、前記レジスト層の外周面にそれぞれ螺旋状の第一溝条部、第二溝条部、及び、第三溝条部を形成し、前記レジスト層の外周面における前記第一溝条部と前記第二溝条部との間で前記レジスト層を一周する第一間隙を形成し、前記レジスト層の外周面における前記第二溝条部と前記第三溝条部との間で前記
レジスト層を一周する第二間隙を形成する、露光工程と、
前記レジスト層をマスキング材としてエッチングを行い、前記第一溝条部、第二溝条部、第三溝条部、第一間隙、及び、第二間隙における前記導電層を除去することにより、前記第一溝条部の周囲に残存する前記導電層で第一コイルを形成し、前記第二溝条部の周囲に残存する前記導電層で第二コイルを形成し、前記第三溝条部の周囲に残存する前記導電層で第三コイルを形成する、エッチング工程と、
前記磁性導体及び前記絶縁体層を、前記第一コイルと前記第二コイルとの間、及び、前記第二コイルと前記第三コイルとの間で折り曲げることにより、前記第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルを互いに直交する方向に配置する、折り曲げ工程と、を備える、MIセンサの製造方法。
【請求項5】
前記折り曲げ工程で配置した前記第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルを固定部で固定する、固定工程を備える、請求項4に記載のMIセンサの製造方法。
【請求項6】
前記露光工程において、前記レジスト層の外周面における前記第一溝条部よりも外端側に前記レジスト層を一周する第一端部を形成し、前記レジスト層の外周面における前記第三溝条部よりも外端側に前記レジスト層を一周する第二端部を形成し、前記第一端部、前記第一溝条部、前記第一間隙、前記第二溝条部、前記第二間隙、前記第三溝条部、及び、前記第二端部を互いに離間して形成し、
前記エッチング工程において、前記第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルのそれぞれの両端部で残存する前記導電層が前記絶縁体層を一周する環状のコイル電極として形成される、請求項4又は請求項5に記載のMIセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はMIセンサ、及び、MIセンサの製造方法に関し、詳細には、簡易な構成でMIセンサを製造する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アモルファスワイヤからなる磁性導体と、絶縁体を介して磁性導体の周囲に巻回される電磁コイルと、を備えたMI(Magneto Impedance:磁気インピーダンス)センサが知られている(例えば、特許文献1を参照)。上記の特許文献には、絶縁体の外周面に銅を含む金属材料を真空蒸着して金属膜を形成し、その後選択エッチングにより電磁コイルを形成するMIセンサが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
MIセンサは通常、対象物の静特性や動特性を三次元(又は二次元)でセンシングするために、上記従来技術の如く三個(又は二個)のMI素子を互いに直交してX、Y、Z方向に配置することにより構成される。それぞれのMI素子は中心軸にアモルファス系の磁性導体が用いられ、この磁性導体の周囲を巻くようにコイル(ピックアップコイル)が形成されている。そして、磁性導体にパルス電流を流し、その反応をコイルで検出する。
【0005】
上記の構成においては、MI素子自身が小さいために、複数のMI素子を組み合わせて基板に実装する作業が煩雑になっていた。また、中心に備えられた磁性導体の両端にパルス電流を流すために、それぞれの両端に接続された配線を個別に外部に取り出す必要がある。即ち、例えば三次元のMIセンサでは三個のMI素子におけるそれぞれの磁性導体から、合計6本の配線を取り出す必要があった。
【0006】
また、半導体プロセスを使用したMI素子の場合、コイルの上部と下部を分けて形成する必要があるため、巻き数を自由に増やすことはできない。加えて、コイルの断面を円形にすることはできず、磁性導体とコイル間の距離が一定にならないため、電気的なロスが生じていた。
【0007】
さらに、エナメル線などの線材を空芯の円筒形材料に巻くことによりコイルを形成したMI素子の場合、コイルの巻き数を比較的自由に設定することができる。しかし、コイル形成後に芯線として磁性導体を挿通しなければならず、結果的に芯線とコイル間の空間が生じてしまうため、電気的なロスが生じていた。このような電気的ロスはMI素子における検知精度のばらつきの要因になるとともに、MI素子の個体差の原因になっていた。
【0008】
加えて、X、Y、Zの各方向の磁性導体には別々の回路から高周波パルスを加えるか、または磁性導体同士を外部で接続してパルスを加える必要がある。しかし、前者では各方向への高周波パルスを厳密に同一にすることが難しく、また後者では接続部分の抵抗によって出力が変動しやすくなることから、MIセンサにおいてX、Y、Z方向の個体差が生じる原因となっていた。
【0009】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、実装作業を簡素化でき、磁性導体とコイルとの間に空間を開けずに距離を一定にすることにより電気的なロスを低減でき、MIセンサごとの個体差及びMIセンサにおけるX、Y、Z方向の個体差の発生を抑制することのできる、MIセンサ、及び、MIセンサの製造方法を提供することである。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、以下に構成するMIセンサ、及び、MIセンサの製造方法を提供する。
【0011】
本発明の一例に係るMIセンサは、線状の磁性導体と、前記磁性導体の外周面に形成される絶縁体層と、前記絶縁体層の外周面に螺旋状に形成される第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルと、を備えるMIセンサであって、前記第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルは、導電層で形成され、前記第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルが互いに直交する方向に配置されるものである。
【0012】
また、本発明の一例に係るMIセンサの製造方法は、線状の磁性導体の外周面に絶縁体層を形成する、絶縁工程と、前記絶縁体層の外周面に導電層を形成する、導電層形成工程と、前記導電層の外周面にレジスト層を形成する、レジスト工程と、前記レジスト層をレーザーで露光することにより、前記レジスト層の外周面にそれぞれ螺旋状の第一溝条部、第二溝条部、及び、第三溝条部を形成し、前記レジスト層の外周面における前記第一溝条部と前記第二溝条部との間で前記レジスト層を一周する第一間隙を形成し、前記レジスト層の外周面における前記第二溝条部と前記第三溝条部との間で前記レジスト層を一周する第二間隙を形成する、露光工程と、前記レジスト層をマスキング材としてエッチングを行い、前記第一溝条部、第二溝条部、第三溝条部、第一間隙、及び、第二間隙における前記導電層を除去することにより、前記第一溝条部の周囲に残存する前記導電層で第一コイルを形成し、前記第二溝条部の周囲に残存する前記導電層で第二コイルを形成し、前記第三溝条部の周囲に残存する前記導電層で第三コイルを形成する、エッチング工程と、前記磁性導体及び前記絶縁体層を、前記第一コイルと前記第二コイルとの間、及び、前記第二コイルと前記第三コイルとの間で折り曲げることにより、前記第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルを互いに直交する方向に配置する、折り曲げ工程と、を備えるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第一実施形態に係るMIセンサを示す斜視図。
【
図4】第一実施形態に係るMIセンサの各製造工程を示す図。
【
図5】第二実施形態に係るMIセンサを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<MIセンサ1A(第一実施形態)>
まず、
図1から
図3を用いて、本発明の第一実施形態に係る磁気インピーダンスセンサ(以下、単に「MIセンサ」と記載する)1Aの構成について説明する。MIセンサ1Aは、線状の磁性導体(本実施形態においてはアモルファスワイヤ2)に通電する電流の変化に応じてコイル6(X軸コイル6X、Y軸コイル6Y、及び、Z軸コイル6Z)に誘起電圧が生じる、いわゆるMI現象を利用して磁気センシングを行うものである。
【0015】
上記のMI現象は、供給する電流方向に対して周回方向に電子スピン配列を有する磁性材料からなる磁性導体について生じるものである。この磁性導体の通電電流を急激に変化させると、周回方向の磁界が急激に変化し、その磁界変化の作用によって周辺磁界に応じて電子のスピン方向の変化が生じる。そして、その際の磁性導体の内部磁化及びインピーダンス等の変化が生じる現象がMI現象である。
【0016】
図1及び
図3に示す如く、本実施形態に係るMIセンサ1Aには、線状の磁性導体として直径数十μm以下のCoFeSiB等の、外周形状が円形状の線条体であるアモルファスワイヤ2を用いている。本実施形態においては、磁性導体として感磁性能に優れたアモルファスワイヤ2を利用することにより、コイル6のひと巻あたりの出力電圧を増加させて巻き線数を減らすとともに、MIセンサ1Aの軸方向の長さを短く構成している。アモルファスワイヤ2の外周にはアクリル系樹脂である絶縁体層3が、横断面における外周形状が円形状となるように形成されている。なお、MIセンサ1Aに適用する磁性導体としては、本実施形態において採用したアモルファスワイヤ2に代えて、線状体に磁気異方性薄膜を被覆したもの、又は、Ni-Fe合金であるパーマロイ等を採用することも可能である。
【0017】
詳細には、絶縁体層3の外周形状は、アモルファスワイヤ2の外周形状と同心円状の円形状に、即ち、絶縁体層3の厚さが周方向で均一となるように形成されている。より具体的には、アクリル系の樹脂材が液中にイオン状態で分散している電着塗料の中にアモルファスワイヤ2を浸漬し、アモルファスワイヤ2と槽中の電着塗料との間に電圧を印加することにより、イオン状態のアクリル系樹脂がアモルファスワイヤに電着する。この方法によれば、印加する電圧によって絶縁層の厚みをコントロールできる。このようにしてアモルファスワイヤ2の表面に形成された電着塗料を、例えば100度以上の高温で焼き固めることにより、絶縁体層3を形成している。本実施形態において、アモルファスワイヤ2と絶縁体層3とで芯線Sを構成している。
【0018】
絶縁体層3の外周面には、第一コイルであるX軸コイル6X、第二コイルであるY軸コイル6Y、及び、第三コイルであるZ軸コイル6Zがそれぞれ螺旋状に形成されている。
図1に示す如く、各コイル6X~6Zは導電層で形成されている。具体的に、コイル6X~6Zの導電層は、無電解めっき層4と、無電解めっき層4の外周面に形成される電解めっき層5と、の二層で形成される(
図3を参照)。なお、本実施形態におけるコイル6X~6Zの導電層の構成は一例であり、導電層を他の構成とすることも可能である。例えば、スパッタリング等の手法を用いてコイル6X~6Zの導電層を形成することも可能である。
【0019】
X軸コイル6X、Y軸コイル6Y、及び、Z軸コイル6Zは
図1に示す如く、芯線SがX軸コイル6XとY軸コイル6Yとの間、及び、Y軸コイル6YとZ軸コイル6Zとの間で折り曲げられることにより、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向に軸心を向けて配置される。即ち、X軸コイル6X、Y軸コイル6Y、及び、Z軸コイル6Zは互いに直交する方向に配置されている。なお、X軸コイル6XとY軸コイル6Yとの間、及び、Y軸コイル6YとZ軸コイル6Zとの間で芯線Sを部分的に切り落とし、再度芯線Sを接続した状態で、X軸コイル6X、Y軸コイル6Y、及び、Z軸コイル6Zを互いに直交する方向に配置することも可能である。
【0020】
図1に示す如く、X軸コイル6X、Y軸コイル6Y、及び、Z軸コイル6Zのそれぞれの両端部は、絶縁体層3を一周する環状のコイル電極6Tとして形成されている。それぞれのコイル電極6Tには、各コイル6X~6Zに生じる誘起電圧を計測するための配線7X~7Zが接続されている。
【0021】
図2は芯線Sを折り曲げる前の状態のMIセンサ(以下、「直線状センサ」と記載する)1を示した正面図である。直線状センサ1においては、第一コイル6A、第二コイル6B、及び第三コイル6Cが形成されている。第一コイル6Aには螺旋状の第一溝部GP1が形成されており、同様に第二コイル6Bには第二溝部GP2、第三コイル6Cには第三溝部GP3が形成されている。
【0022】
第一コイル6Aと第二コイル6Bとの間には芯線Sのみの第一間隙部GQ1が形成されており、第二コイル6Bと第三コイル6Cとの間には芯線Sのみの第二間隙部GQ2が形成されている。また、第一コイル6Aの外端側には芯線Sのみの第一端子GT1が形成されており、第三コイル6Cの外端側には芯線Sのみの第二端子GT2が形成されている。このように構成された直線状センサ1において、芯線Sは第一間隙部GQ1及び第二間隙部GQ2において直交して屈曲されている。これにより、第一コイル6A、第二コイル6B、及び第三コイル6CがそれぞれX軸コイル6X、Y軸コイル6Y、及びZ軸コイル6Zとして互いに直交するMIセンサ1Aが構成されるのである。
【0023】
次に、
図4を用いて、MIセンサ1Aの製造方法(直線状センサ1を製造するまでの工程)について説明する。
図4において、(a)は絶縁工程前のアモルファスワイヤ2、(b)は絶縁工程後の状態、(c)は無電解めっき工程後の状態、(d)は電解めっき工程後の状態、(e)はレジスト工程後の状態、(f)は露光工程後の状態、(g)はエッチング工程後の状態、(h)はレジスト除去工程後の状態をそれぞれ示している。なお、直線状センサ1は長手方向に同様の構成が繰り返して形成されるため、
図4においては一端部(第一コイル6Aの周辺)側のみを図示し、他端部側については図示を省略している。
【0024】
本実施形態に係るMIセンサ1Aを製造する際には、
図4中の(a)に示す如く、外周形状が円形状の線条体であるアモルファスワイヤ2を用意する。そして、
図4中の(b)に示す如く、アモルファスワイヤ2の外周に絶縁体を塗布し、絶縁体層3を形成する(絶縁工程)。この際、
図3に示す如く、絶縁体層3の横断面における外周形状を、アモルファスワイヤ2の外周形状と同心円状の円形状に、即ち、絶縁体層3の厚さが周方向で均一となるように形成する。
【0025】
次に、絶縁体層3の外周面に、無電解めっき層4及び電解めっき層5で構成される導電層を形成する(導電層形成工程)。具体的には
図4中の(c)に示す如く、無電解Cuめっきを施すことにより、絶縁体層3の外周面に無電解めっき層4を形成する(無電解めっき工程)。なお、本工程において、無電解Auめっきを採用することも可能である。そして、
図4中の(d)に示す如く、電解Cuめっきを施すことにより、無電解めっき層4の外周面に電解めっき層5を形成する(電解めっき工程)。なお、本工程において、電解Auめっきを採用することも可能である。このように、本実施形態においては、無電解めっき及び電解めっきを用いて、絶縁体層3に金属膜を形成している。
【0026】
次に、電解めっき層5が形成されたアモルファスワイヤ2を、フォトレジスト液の入ったフォトレジスト槽に浸漬した後、所定速度(例えば、1mm/secの速度)で引き上げることにより、
図4中の(e)に示す如く電解めっき層5の外周面にレジスト層Rを形成する(レジスト工程)。
【0027】
次に、
図4中の(f)に示す如く、レジスト層Rをレーザーで露光し、レーザーで露光した部分を現像液で溶解することにより、レジスト層Rの外周面に螺旋状の第一溝条部GA1、第二溝条部GA2(及び、不図示の第三溝条部GA3)を形成する。さらに、レジスト層Rの外周面における第一溝条部GA1と第二溝条部GA2との間でレジスト層Rを一周する第一間隙GB1(及び、第二溝条部GA2と第三溝条部GA3との間でレジスト層Rを一周する不図示の第二間隙GB2)を形成する。さらに、レジスト層Rの外周面における第一溝条部GA1より外端側でレジスト層Rを一周する第一端部GC1(及び、第三溝条部GA3より外端側でレジスト層Rを一周する不図示の第二端部GC2)を形成する。これにより、第一溝条部GA1、第二溝条部GA2、第三溝条部GA3、第一間隙GB1、第二間隙GB2、第一端部GC1、及び、第二端部GC2の電解めっき層5が露出する(露光工程)。
【0028】
上記の露光工程におけるレーザーによる露光は、レジスト層Rが形成されたアモルファスワイヤ2の中心軸を軸として回転させつつ、軸方向に変位させながら行う。本実施形態においては、レーザーで露光した部分が現像液に溶解することにより、レジスト層Rに各種の溝(第一溝条部GA1、第二溝条部GA2、第三溝条部GA3、第一間隙GB1、第二間隙GB2、第一端部GC1、及び、第二端部GC2)が形成される、ポジ型フォトレジストを採用している。なお、本工程において、レーザーに露光しなかった部分が現像液に溶解してレジスト層に各種の溝が形成される、ネガ型フォトレジストを用いることも可能である。
【0029】
本実施形態においては
図4中の(f)に示す如く、第一端部GC1、第一溝条部GA1、第一間隙GB1、及び、第二溝条部GA2を互いに離間して形成している。同様に、第二溝条部GA2、第二間隙GB2、第三溝条部GA3、及び、第二端部GC2を互いに離間して形成している。
【0030】
次に、レジスト層Rに各種の溝が形成されたアモルファスワイヤ2を酸性の電解研磨液中に浸漬して電解研磨することにより、電解めっき層5の外周に残っているレジスト層をマスキング材としたエッチングを行う。これにより、
図4中の(g)に示す如く、レジスト層Rに各種の溝が形成されていた部分の無電解めっき層4及び電解めっき層5を除去する(エッチング工程)。
【0031】
図4中の(g)に示す如く、無電解めっき層4及び電解めっき層5のうち、第一溝条部GA1が形成されていた部分には螺旋状の第一溝部GP1が形成される。同様に、第二溝条部GA2が形成されていた部分には螺旋状の第二溝部GP2が、第三溝条部GA3が形成されていた部分には螺旋状の第三溝部GP3が形成される。即ち、本工程において、第一溝条部GA1の周囲に残存する無電解めっき層4及び電解めっき層5で第一コイル6Aを形成する。同様に、第二溝条部GA2及び第三溝条部GA3の周囲に残存する無電解めっき層4及び電解めっき層5で第二コイル6B及び第三コイル6Cを形成するのである。
【0032】
また、第一間隙GB1及び第二間隙GB2が形成されていた部分には第一間隙部GQ1及び第二間隙部GQ2が形成される。また、第一端部GC1及び第二端部GC2が形成されていた部分には第一端子GT1及び第二端子GT2が形成される。
【0033】
本実施形態においては上述の如く、第一溝条部GA1を第一端部GC1及び第一間隙GB1から離間して形成している。これにより、エッチング工程において、第一コイル6Aの両端部で残存する無電解めっき層4及び電解めっき層5が絶縁体層3を一周する環状のコイル電極6Tとして形成される。同様に、第二溝条部GA2を第一間隙GB1及び第二間隙GB2から離間して形成することにより、第二コイル6Bの両端部にコイル電極6Tが形成される。同様に、第三溝条部GA3を第二間隙GB2及び第二端部GC2から離間して形成することにより、第三コイル6Cの両端部にコイル電極6Tが形成される。
【0034】
次に、
図4中の(h)に示す如く、剥離液等を用いて第一~第三コイル6A~6Cの表面に残存するレジスト層Rを除去する(レジスト除去工程)。
【0035】
その後、直線状センサ1を第一間隙部GQ1及び第二間隙部GQ2で直交して折り曲げることにより、X軸コイル6X、Y軸コイル6Y、及びZ軸コイル6Zが互いに直交するMIセンサ1Aを形成する(折り曲げ工程)。
【0036】
上記の如く、本実施形態に係るMIセンサ1Aの製造方法においては、X軸コイル6X、Y軸コイル6Y、及びZ軸コイル6Zを一体的に備えるMIセンサ1Aを製造することができる。これにより、MIセンサ1Aを実装する際に、複数のMI素子を組み合わせる必要がないため、実装作業を簡素化することができる。
【0037】
また、本実施形態に係るMIセンサ1Aによれば、アモルファスワイヤ2に通電する際に、第一端子GT1と第二端子GT2とのそれぞれに配線を接続してパルス電流を流せば良い。即ち、アモルファスワイヤ2に通電するための配線を2本とすることができるため、従来技術において三個のMI素子のそれぞれに配線する構成と比較して容易に実装することが可能となる。
【0038】
また、本実施形態に係るMIセンサ1Aの製造方法においては、絶縁工程において、絶縁体層3の横断面における外周形状を円形状に形成することにより、絶縁体層3の厚さを周方向で均一に形成している。これにより、アモルファスワイヤ2と、絶縁体層3の外周面に形成されるコイル6と、の間に空間を開けずに距離を一定にすることができる。具体的には、透磁率や誘電率が既知の物質である絶縁体層3で、アモルファスワイヤ2とコイル6との間を同心状に埋めることが可能となる。このため、コイル6における電気的なロスを低減できるため、MIセンサ1Aの感度を向上させることが可能となる。
【0039】
より詳細には、本実施形態に係るMIセンサ1Aにおいては、横断面が円形状のアモルファスワイヤ2の表面に円形状の絶縁体層3が形成されることにより、絶縁体層3の厚さが周方向で均一に形成されている。このため、アモルファスワイヤ2とコイル6との距離を、周方向の位置によらず一定とすることができる。その結果、MIセンサ1Aの検知精度のばらつきを低減することができるため、MIセンサ1Aの個体差を抑制することが可能となる。また、本実施形態に係るMIセンサ1Aの製造方法においては、同一プロセスで一度に多数のMIセンサ1Aを作ることができることによっても、MIセンサ1Aの個体差を抑制することが可能となる。
【0040】
さらに、本実施形態に係るMIセンサ1Aにおいては、X、Y、Zの各方向に配置されたコイル6の芯線に与えるパルスを、外部で接続することなく一元化することが可能となる。即ち、各方向のセンサ(コイル6)に同一の刺激パルスを厳密に管理することなく与えることができる。これにより、MIセンサ1AにおけるX、Y、Z方向の個体差の発生を抑制することが可能となる。なお、X軸コイル6X、Y軸コイル6Y、及び、Z軸コイル6Zのそれぞれは直交するので相互インダクタンスは発生しない。
【0041】
上記の如く、本実施形態に係るMIセンサ1Aの製造方法によれば、実装作業を簡素化でき、アモルファスワイヤ2とコイル6との間に空間を開けずに距離を一定にすることにより電気的なロスを低減でき、個体差及びX、Y、Z方向の個体差の発生を抑制することのできる、MIセンサ1Aを製造することが可能となるのである。
【0042】
また、本実施形態に係るMIセンサ1Aにおいては、X軸コイル6X、Y軸コイル6Y、及び、Z軸コイル6Zの両端部に、絶縁体層3を一周する環状のコイル電極6Tが形成されている。これにより、各コイル6X~6Zの姿勢に関わらず、コイル電極6Tに配線7X~7Zを接続することができるため、実装作業をより簡易に行うことが可能となる。
【0043】
<MIセンサ1B(第二実施形態)>
次に、
図5を用いて、本発明の第二実施形態に係るMIセンサ1Bの構成について説明する。本実施形態においては、前記第一実施形態に係るMIセンサ1Aと共通する構成については詳細な説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0044】
図5に示す如く、本実施形態に係るMIセンサ1Bは、折り曲げ工程で配置した第一コイルであるX軸コイル6X、第二コイルであるY軸コイル6Y、及び、第三コイルであるZ軸コイル6Zを、固定部である樹脂モールドPで固定する(固定工程)を経ることにより製造される。詳細には、樹脂モールドPは正六面体に形成され、各面はX軸、Y軸、及びZ軸と直交する形状に形成されている。換言すれば、X軸コイル6X、Y軸コイル6Y、及び、Z軸コイル6Zのそれぞれは、樹脂モールドPで形成される正六面体の内部領域(樹脂モールドPが充填される領域)内に収容され、樹脂モールドPの表面を形成する各面に対して直交する方向に固定して配置されている。
【0045】
本実施形態によれば、X軸コイル6X、Y軸コイル6Y、及び、Z軸コイル6Zの相対位置を固定化できるため、樹脂モールドPの位置を決めるだけでX軸コイル6X、Y軸コイル6Y、及び、Z軸コイル6Zの位置を決めることが可能となる。即ち、MIセンサ1Bは、前記実施形態に係るMIセンサ1Aと比較して、実装作業をより簡素化することが可能となるのである。
【0046】
なお、MIセンサ1BにおいてX軸コイル6X、Y軸コイル6Y、及び、Z軸コイル6Zを固定部で固定する方法としては、本実施形態において採用した樹脂モールドPによる方法に代えて、クリップによる固定方法や、シール剤を各コイルの周囲に充填して固定する方法等、他の方法を採用することも可能である。
【0047】
即ち、本発明の一例に係るMIセンサは、線状の磁性導体と、前記磁性導体の外周面に形成される絶縁体層と、前記絶縁体層の外周面に螺旋状に形成される第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルと、を備えるMIセンサであって、前記第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルは、導電層で形成され、前記第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルが互いに直交する方向に配置されるものである。
【0048】
この構成によれば、実装作業を簡素化でき、磁性導体とコイル間に空間を開けずに距離を一定にすることにより電気的なロスを低減でき、MIセンサごとの個体差及びMIセンサにおけるX、Y、Z方向の個体差の発生を抑制することが可能となる。
【0049】
また、前記MIセンサは、前記第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルが固定部で固定されることが好ましい。
【0050】
この構成によれば、実装作業をより簡素化できる。
【0051】
また、前記MIセンサは、前記第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルの両端部が前記絶縁体層を一周する環状のコイル電極として形成されることが好ましい。
【0052】
この構成によれば、実装作業をさらに簡素化できる。
【0053】
また、本発明の一例に係るMIセンサの製造方法は、線状の磁性導体の外周面に絶縁体層を形成する、絶縁工程と、前記絶縁体層の外周面に導電層を形成する、導電層形成工程と、前記導電層の外周面にレジスト層を形成する、レジスト工程と、前記レジスト層をレーザーで露光することにより、前記レジスト層の外周面にそれぞれ螺旋状の第一溝条部、第二溝条部、及び、第三溝条部を形成し、前記レジスト層の外周面における前記第一溝条部と前記第二溝条部との間で前記レジスト層を一周する第一間隙を形成し、前記レジスト層の外周面における前記第二溝条部と前記第三溝条部との間で前記レジスト層を一周する第二間隙を形成する、露光工程と、前記レジスト層をマスキング材としてエッチングを行い、前記第一溝条部、第二溝条部、第三溝条部、第一間隙、及び、第二間隙における前記導電層を除去することにより、前記第一溝条部の周囲に残存する前記導電層で第一コイルを形成し、前記第二溝条部の周囲に残存する前記導電層で第二コイルを形成し、前記第三溝条部の周囲に残存する前記導電層で第三コイルを形成する、エッチング工程と、前記磁性導体及び前記絶縁体層を、前記第一コイルと前記第二コイルとの間、及び、前記第二コイルと前記第三コイルとの間で折り曲げることにより、前記第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルを互いに直交する方向に配置する、折り曲げ工程と、を備えるものである。
【0054】
この構成によれば、実装作業を簡素化でき、磁性導体とコイルとの間に空間を開けずに距離を一定にすることにより電気的なロスを低減でき、MIセンサごとの個体差及びMIセンサにおけるX、Y、Z方向の個体差の発生を抑制することのできる、MIセンサを製造することができる。
【0055】
また、前記MIセンサの製造方法は、前記折り曲げ工程で配置した前記第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルを固定部で固定する、固定工程を備えることが好ましい。
【0056】
この構成によれば、実装作業をより簡素化できるMIセンサを製造することができる。
【0057】
また、前記MIセンサの製造方法は、前記露光工程において、前記レジスト層の外周面における前記第一溝条部よりも外端側に前記レジスト層を一周する第一端部を形成し、前記レジスト層の外周面における前記第三溝条部よりも外端側に前記レジスト層を一周する第二端部を形成し、前記第一端部、前記第一溝条部、前記第一間隙、前記第二溝条部、前記第二間隙、前記第三溝条部、及び、前記第二端部を互いに離間して形成し、前記エッチング工程において、前記第一コイル、第二コイル、及び、第三コイルのそれぞれの両端部で残存する前記導電層が前記絶縁体層を一周する環状のコイル電極として形成されることが好ましい。
【0058】
この構成によれば、実装作業をさらに簡素化できるMIセンサを製造することができる。
【0059】
本発明の一例に係るMIセンサの製造方法、及び、MIセンサによれば、実装作業を簡素化でき、磁性導体とコイル間に空間を開けずに距離を一定にすることにより電気的なロスを低減でき、MIセンサごとの個体差及びMIセンサにおけるX、Y、Z方向の個体差の発生を抑制することが可能となる。
【0060】
この出願は、2018年6月27日に出願された日本国特許出願特願2018-121668を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。なお、発明を実施するための形態の項においてなされた具体的な実施態様又は実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、本発明は、そのような具体例のみに限定して狭義に解釈されるべきものではない。
【符号の説明】
【0061】
1 直線状センサ
1A 磁気インピーダンスセンサ(MIセンサ)
1B MIセンサ
2 アモルファスワイヤ(磁性導体)
3 絶縁体層 4 無電解めっき層
5 電解めっき層 6 コイル
6A 第一コイル 6B 第二コイル
6C 第三コイル 6T コイル電極
6X X軸コイル 6Y Y軸コイル
6Z Z軸コイル 7X 配線
7Y 配線 7Z 配線
R レジスト層 P 樹脂モールド(固定部)
GA1 第一溝条部 GA2 第二溝条部
GA3 第三溝条部 GB1 第一間隙
GB2 第二間隙 GC1 第一端部
GC2 第二端部 GP1 第一溝部
GP2 第二溝部 GP3 第三溝部
GQ1 第一間隙部 GQ2 第二間隙部
GT1 第一端子 GT2 第二端子