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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ホットメルト粘接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 123/26 20060101AFI20240409BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20240409BHJP
   C09J 123/08 20060101ALI20240409BHJP
   C09J 131/04 20060101ALI20240409BHJP
   C09J 153/02 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C09J123/26
C09J11/08
C09J123/08
C09J131/04
C09J153/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020548557
(86)(22)【出願日】2019-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2019036581
(87)【国際公開番号】W WO2020066791
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2018182188
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 祥史
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貞治
(72)【発明者】
【氏名】亀山 涼嗣
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/057500(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/171025(WO,A1)
【文献】特表2007-525562(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0305528(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0260021(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-5/10
C09J 9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性炭化水素樹脂と、熱可塑性エラストマーとを含有するホットメルト粘接着剤組成物であって、
前記変性炭化水素樹脂が、
1,3-ペンタジエン単量体単位20~70質量%、
炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位10~50質量%、
炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位5~40質量%、
脂環式ジオレフィン単量体単位0~1質量%、および
芳香族モノオレフィン単量体単位0~40質量%を含む炭化水素樹脂を水添してなる樹脂に、不飽和カルボン酸または不飽和ジカルボン酸無水物に由来するカルボキシル基または酸無水物基が導入されてなるものであり、
前記変性炭化水素樹脂のヨウ素価が45~125gI/100gの範囲内であるホットメルト粘接着剤組成物。
【請求項2】
前記変性炭化水素樹脂は、
重量平均分子量(Mw)が1,000~5,000の範囲内であり、
Z平均分子量(Mz)が1,500~12,500の範囲内であり、
重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)が1.5~2.5の範囲内であり、
50質量%トルエン溶液のガードナー色数が5以下であり、
軟化点が30℃以上であり、かつ
酸価が0.5~20KOHmg/gである請求項1に記載のホットメルト粘接着剤組成物。
【請求項3】
前記不飽和ジカルボン酸無水物が無水マレイン酸である請求項1または2に記載のホットメルト粘接着剤組成物。
【請求項4】
前記変性炭化水素樹脂中の、未反応の前記不飽和カルボン酸および未反応の前記不飽和ジカルボン酸無水物の合計の含有量が3000重量ppm以下である請求項1~3のいずれかに記載のホットメルト粘接着剤組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマーが、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン系熱可塑性エラストマー、およびポリオレフィン系熱可塑性エラストマーから選択される少なくとも1種である請求項1~4のいずれかに記載のホットメルト粘接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットメルト粘接着剤組成物に関し、さらに詳しくは、接着性能が高く、色相および耐熱色相安定性に優れ、低臭気なホットメルト粘接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト粘接着剤は、短時間で固化することから、種々の製品を効率的に接着させることが可能であり、しかも、溶剤を必要としないことから、人体への安全性が高い粘接着剤であるため、様々な分野で用いられている。例えば、食品、衣料、電子機器、化粧品などの紙、段ボール、フィルムの包装用の封緘用接着剤、紙おむつや生理用品などの衛生用品を製造する際には、それらを構成するための部材を接着させるための接着剤として、また、粘着テープやラベルの粘着層を構成する粘着剤として、ホットメルト粘接着剤が賞用されている。
【0003】
ホットメルト粘接着剤は、通常、ベースポリマーに粘着付与樹脂などを配合して製造される。近年、粘着付与樹脂として、炭化水素樹脂に酸や酸無水物を作用させて得られる変性炭化水素樹脂を用いる試みが注目を集めている。このような変性炭化水素樹脂は、ホットメルト粘接着剤に対し、従来の粘着付与樹脂にはない新規な特性(たとえば、耐水接着性等)を付与できることが知られている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、ビニル芳香族炭化水素100重量部と、炭素数4~5の不飽和炭化水素を主成分とする炭化水素分5~100重量部とを共重合させてなる炭化水素樹脂に、モノオレフィンジカルボン酸およびその無水物から選ばれる少なくとも1種をグラフト共重合させてなる、酸価1~150(mgKOH/g)、かつ重量平均分子量300~5000の変性炭化水素樹脂が開示されている。しかしながら、当該変性炭化水素樹脂は、一部のアクリル系ベースポリマーを用いた粘接着剤では有効であるが、エチレン系ベースポリマーやゴム系ベースポリマーを用いた粘接着剤においては相溶性が悪く、十分な接着力を得られない。また、ビニル芳香族炭化水素の共重合量が多いため、残留モノマーに由来する臭気も問題であった。
【0005】
また、特許文献2には、炭素数5の不飽和脂肪族炭化水素モノマー、イソオレフィンモノマー、およびジカルボン酸又は酸無水物等の反応生成物を含んでなり、かつ所定の酸価および組成比を有する酸改質炭化水素樹脂が開示されている。しかしながら、当該酸改質炭化水素樹脂は、色相が非常に悪く、かつホットメルト状態での高温時の臭気が問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-188352号公報
【文献】特表2004-502839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、接着性能が高く、色相および耐熱色相安定性に優れ、低臭気なホットメルト粘接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく検討を行ったところ、特定の組成を有する炭化水素樹脂を、特定のヨウ素価範囲となるように水添した樹脂を、さらに酸変性することによって得られる変性炭化水素樹脂を、熱可塑性エラストマーと組み合わせることにより、接着性能が高く、色相および耐熱色相安定性に優れ、低臭気なホットメルト粘接着剤組成物を得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、変性炭化水素樹脂と、熱可塑性エラストマーとを含有するホットメルト粘接着剤組成物であって、
前記変性炭化水素樹脂が、
1,3-ペンタジエン単量体単位20~70質量%、
炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位10~50質量%、
炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位5~40質量%、
脂環式ジオレフィン単量体単位0~1質量%、および
芳香族モノオレフィン単量体単位0~40質量%を含む炭化水素樹脂を水添してなる樹脂に、不飽和カルボン酸または不飽和ジカルボン酸無水物に由来するカルボキシル基または酸無水物基が導入されてなるものであり、
前記変性炭化水素樹脂のヨウ素価が45~125gI/100gの範囲内であるホットメルト粘接着剤組成物が提供される。
【0010】
本発明のホットメルト粘接着剤組成物において、前記変性炭化水素樹脂は、重量平均分子量(Mw)が1,000~5,000の範囲内であり、Z平均分子量(Mz)が1,500~12,500の範囲内であり、重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)が1.5~2.5の範囲内であり、50質量%トルエン溶液のガードナー色数が5以下であり、軟化点が30℃以上であり、かつ酸価が0.5~20KOHmg/gであることが好ましい。
本発明のホットメルト粘接着剤組成物において、前記不飽和ジカルボン酸無水物が無水マレイン酸であることが好ましい。
本発明のホットメルト粘接着剤組成物において、前記変性炭化水素樹脂中の、未反応の前記不飽和カルボン酸および未反応の前記不飽和ジカルボン酸無水物の合計の含有量が3000重量ppm以下であることが好ましい。
本発明のホットメルト粘接着剤組成物において、前記熱可塑性エラストマーが、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン系熱可塑性エラストマー、およびポリオレフィン系熱可塑性エラストマーから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、接着性能が高く、色相および耐熱色相安定性に優れ、低臭気なホットメルト粘接着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のホットメルト粘接着剤組成物は、変性炭化水素樹脂と、熱可塑性エラストマーとを含有する。
以下、本発明のホットメルト粘接着剤組成物の各成分について説明する。
【0013】
<変性炭化水素樹脂>
本発明で用いる変性炭化水素樹脂は、
1,3-ペンタジエン単量体単位20~70質量%、
炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位10~50質量%、
炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位5~40質量%、
脂環式ジオレフィン単量体単位0~1質量%、および
芳香族モノオレフィン単量体単位0~40質量%を含む炭化水素樹脂を水添してなる樹脂に、不飽和カルボン酸または不飽和ジカルボン酸無水物に由来するカルボキシル基または酸無水物基が導入されてなるものであり、
ヨウ素価が45~125gI/100gの範囲内である。
【0014】
本発明で用いる変性炭化水素樹脂は、上記特定組成の炭化水素樹脂について水添を行うことにより得られる樹脂を、さらに酸変性したものである。
以下においては、まず、酸変性前であって水添前の炭化水素樹脂(以下、単に、変性前樹脂と称する場合がある。)ついて詳細に説明し、次いで、この変性前樹脂を水添した樹脂を、さらに酸変性することにより得られる変性炭化水素樹脂について、説明する。
【0015】
<変性前樹脂>
変性前樹脂は、酸変性前であって水添前の原料樹脂であり、1,3-ペンタジエン単量体単位20~70質量%、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位10~50質量%、炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位5~40質量%、脂環式ジオレフィン単量体単位0~1質量%、および芳香族モノオレフィン単量体単位0~40質量%を含むものである。
なお、上記単量体単位の含有割合は、変性炭化水素樹脂においても同様であり、当該含有割合の好適範囲も変性前樹脂と同様である。
【0016】
1,3-ペンタジエン単量体単位の変性前樹脂中の含有量としては、20~70質量%の範囲内であればよく、25~65質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも30~60質量%の範囲内であることが好ましく、35~55質量%の範囲内であることがより好ましく、40~50質量%の範囲であることが特に好ましい。変性前樹脂中の1,3-ペンタジエン単量体単位量が少なすぎると、得られるホットメルト粘接着剤組成物が耐熱劣化性に劣るものとなってしまう。一方、変性前樹脂中の1,3-ペンタジエン単量体単位量が多すぎると、変性炭化水素樹脂の軟化点が高くなり、得られるホットメルト粘接着剤組成物は、オープンタイムが短く、接着力が低く、塗工容易性に劣るものとなってしまう。なお、1,3-ペンタジエン単量体単位中におけるシス/トランス異性体比は任意の比でよく、特に限定されない。
【0017】
炭素数4~6の脂環式モノオレフィンは、その分子構造中に、1つのエチレン性不飽和結合と非芳香族性の環構造とを有する炭素数が4~6の炭化水素化合物である。炭素数4~6の脂環式モノオレフィンの具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロブテン、メチルシクロペンテンなどを挙げることができる。
【0018】
炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位の変性前樹脂中の含有量としては、10~50質量%の範囲内であればよく、15~50質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも19~50質量%の範囲内であることが好ましく、23~50質量%の範囲内であることがより好ましく、24~40質量%の範囲であることが特に好ましい。変性前樹脂中の炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位量が少なすぎると、変性炭化水素樹脂の軟化点が高くなり、得られるホットメルト粘接着剤組成物は、オープンタイムが短く、接着力が低く、塗工容易性に劣るものとなってしまう。一方、変性前樹脂中の炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位量が多すぎると、得られるホットメルト粘接着剤組成物が耐熱劣化性に劣るものとなってしまう。
【0019】
なお、炭素数4~6の脂環式モノオレフィンとしては、これに該当する各化合物の割合は任意の割合でよく、特に限定されないが、少なくともシクロペンテンが含まれることが好ましく、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン中にシクロペンテンの占める割合が50質量%以上であることがより好ましい。
【0020】
炭素数4~8の非環式モノオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合1つを有し、環構造を有さない炭素数が4~8の鎖状炭化水素化合物である。炭素数4~8の非環式モノオレフィンの具体例としては、1-ブテン、2-ブテン、イソブチレン(2-メチルプロペン)などのブテン類;1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテンなどのペンテン類;1-ヘキセン、2-ヘキセン、2-メチル-1-ペンテンなどのヘキセン類;1-ヘプテン、2-ヘプテン、2-メチル-1-ヘキセンなどのヘプテン類;1-オクテン、2-オクテン、2-メチル-1-ヘプテン、ジイソブチレン(2,4,4-トリメチル-1-ペンテン、2,4,4-トリメチル-2-ペンテン)などのオクテン類;などを挙げることができる。
【0021】
炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位の変性前樹脂中の含有量としては、5~40質量%の範囲内であればよく、5~35質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも5~30質量%の範囲内であることが好ましく、5~25質量%の範囲内であることがより好ましく、5~15質量%の範囲であることが特に好ましい。変性前樹脂中の炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位量が少なすぎると、変性炭化水素樹脂の軟化点が高くなり、得られるホットメルト粘接着剤組成物は、オープンタイムが短く、接着力が低く、塗工容易性に劣るものとなってしまう。一方、変性前樹脂中の炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位量が多すぎると、得られるホットメルト粘接着剤組成物が耐熱劣化性に劣るものとなってしまう。
【0022】
なお、炭素数4~8の非環式モノオレフィンとしては、これに該当する各化合物(異性体を含む)の割合は任意の割合でよく、特に限定されないが、少なくとも2-メチル-2-ブテン、イソブチレンおよびジイソブチレンからなる群から選択される少なくとも1種が含まれることが好ましく、炭素数4~8の非環式モノオレフィン中に2-メチル-2-ブテン、イソブチレンおよびジイソブチレンの合計量が占める割合が50質量%以上であることがより好ましい。
【0023】
また、本発明で用いる変性前樹脂は、脂環式ジオレフィンをその原料に含んでいてもよい。脂環式ジオレフィンは、その分子構造中に、2つ以上のエチレン性不飽和結合と非芳香族性の環構造とを有する炭化水素化合物である。脂環式ジオレフィンの具体例としては、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどのシクロペンタジエンの多量体、メチルシクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンの多量体などを挙げることができる。
【0024】
脂環式ジオレフィン単量体単位の変性前樹脂中の含有量としては、0~1質量%の範囲内であればよく、0~0.8質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも0~0.6質量%の範囲内であることが好ましく、0~0.4質量%の範囲内であることがより好ましく、0.01~0.4質量%の範囲であることが特に好ましい。上記含有量が上述の範囲内であることにより、得られるホットメルト粘接着剤組成物を低臭気なものとすることができる。
【0025】
また、本発明で用いる変性前樹脂は、芳香族モノオレフィンをその原料に含んでいてもよい。芳香族モノオレフィンは、その分子構造中に、1つのエチレン性不飽和結合を有する芳香族化合物である。芳香族モノオレフィンの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン、クマロンなどが挙げられる。
【0026】
芳香族モノオレフィン単量体単位の変性前樹脂中の含有量としては、0~40質量%の範囲内であればよく、0~38質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも0~36質量%の範囲内であることが好ましく、0~34質量%の範囲内であることがより好ましく、3~28質量%の範囲であることが特に好ましい。上記含有量が上述の範囲内であることにより、得られるホットメルト粘接着剤組成物を、低臭気で、色調に優れるものとすることができる。
【0027】
なお、芳香族モノオレフィンとして、これに該当する各化合物(異性体を含む)の割合は任意の割合でよく、特に限定されないが、少なくともスチレンが含まれることが好ましく、芳香族モノオレフィン中にスチレンが占める割合が50質量%以上であることがより好ましい。
【0028】
本発明で用いる変性前樹脂は、1,3-ペンタジエン単量体単位、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位、炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位、脂環式ジオレフィン単量体単位、および芳香族モノオレフィン単量体単位以外に、本発明の効果が得られる範囲で、その他の単量体単位を含んでいてもよい。
【0029】
このようなその他の単量体単位を構成するために用いられるその他の単量体は、前述した単量体以外の化合物であって、1,3-ペンタジエンなどと付加共重合され得る付加重合性を有する化合物であれば、特に限定されない。上記その他の単量体としては、たとえば、1,3-ブタジエン、1,2-ブタジエン、イソプレン、1,3-ヘキサジエン、1,4-ペンタジエンなどの1,3-ペンタジエン以外の炭素数4~6の不飽和炭化水素;シクロヘプテンなどの炭素数7以上の脂環式モノオレフィン;エチレン、プロピレン、ノネンなどの炭素数4~8以外の非環式モノオレフィン;などが挙げられる。
【0030】
上記その他の単量体単位の変性前樹脂中の含有量としては、本発明の効果が得られる範囲であればよく、特に限定されないが、0~30質量%の範囲内であることが好ましく、0~25質量%の範囲内であることがより好ましく、0~20質量%の範囲内であることがさらに好ましい。上記含有量が多すぎると、得られるホットメルト粘接着剤組成物は、オープンタイムが短くなり、接着力が低下する場合がある。
【0031】
変性前樹脂を製造する方法としては、上記した各単量体単位を構成可能な各単量体を有する重合性成分(単量体混合物A)を、好適には付加重合する限りにおいて、特に限定されない。たとえば、フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒を用いた付加重合によって、変性前樹脂を得ることができる。
【0032】
変性前樹脂を製造するために好適に用いられる方法としては、たとえば、次に述べる、ハロゲン化アルミニウム(A)と、3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B1)および炭素-炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B2)からなる群より選ばれるハロゲン化炭化水素(B)とを組み合わせて、重合触媒とし、1,3-ペンタジエン20~70質量%、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン10~50質量%、炭素数4~8の非環式モノオレフィン5~40質量%、脂環式ジオレフィン0~1質量%、および芳香族モノオレフィン0~40質量%を含む単量体混合物Aを重合する重合工程を有する方法を挙げることができる。
【0033】
ハロゲン化アルミニウム(A)の具体例としては、塩化アルミニウム(AlCl)、臭化アルミニウム(AlBr)などを挙げることができる。なかでも汎用性などの観点から、塩化アルミニウムが好適に用いられる。
【0034】
ハロゲン化アルミニウム(A)の使用量は、特に限定されないが、重合性成分(単量体混合物A)100質量部に対し、好ましくは0.05~10質量部の範囲内、より好ましくは0.1~5質量部の範囲内である。
【0035】
また、重合に際しては、ハロゲン化炭化水素(B)を、ハロゲン化アルミニウム(A)と併用することにより、重合触媒の活性が極めて良好なものとなる。
【0036】
ハロゲン化炭化水素(B)としての、3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B1)の具体例としては、t-ブチルクロライド、t-ブチルブロマイド、2-クロロ-2-メチルブタン、トリフェニルメチルクロライドなどを挙げることができる。これらのなかでも、活性と取り扱いやすさとのバランスに優れる点で、t-ブチルクロライドが特に好適に用いられる。
【0037】
ハロゲン化炭化水素(B)としての、炭素-炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B2)における不飽和結合としては、炭素-炭素二重結合および炭素-炭素三重結合が挙げられ、芳香族環などにおける炭素-炭素共役二重結合も含むものである。このような化合物の具体例としては、ベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、(1-クロロエチル)ベンゼン、アリルクロライド、3-クロロ-1-プロピン、3-クロロ-1-ブテン、3-クロロ-1-ブチン、ケイ皮クロライドなどが挙げられる。これらのなかでも、活性と取り扱いやすさとのバランスに優れる点で、ベンジルクロライドが好適に用いられる。
【0038】
なお、ハロゲン化炭化水素(B)は、1種類で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
ハロゲン化炭化水素(B)の使用量は、ハロゲン化アルミニウム(A)に対するモル比で、好ましくは0.05~50の範囲内、より好ましくは0.1~10の範囲内である。
【0040】
重合反応を行うに当たり、単量体混合物や重合触媒のそれぞれの成分を重合反応器に添加する順序は特に限定されず、任意の順で添加すればよいが、重合反応を良好に制御して、より色相に優れる変性炭化水素樹脂を得る観点からは、単量体混合物と重合触媒の成分の一部とを重合反応器に添加して、重合反応を開始した後に、重合触媒の残部を重合反応器に添加することが好ましい。
【0041】
具体的には、変性前樹脂の製造に当たっては、まず、ハロゲン化アルミニウム(A)と脂環式モノオレフィンとを予め混合することが好ましい。ハロゲン化アルミニウム(A)と脂環式モノオレフィンとを予め混合する接触処理をすることにより、ゲルの生成を防止でき、色相の優れた変性前樹脂を好適に得ることができる。
【0042】
ハロゲン化アルミニウム(A)と混合する脂環式モノオレフィンの量は、ハロゲン化アルミニウム(A)の量の少なくとも5倍(質量比)とすることが好ましい。脂環式モノオレフィンの量が少なすぎると、ゲル生成防止、および色相改良の効果が小さくなってしまうおそれがある。脂環式モノオレフィンとハロゲン化アルミニウム(A)との質量比は、「脂環式モノオレフィン:ハロゲン化アルミニウム(A)」の質量比で、好ましくは5:1~120:1、より好ましくは10:1~100:1、さらに好ましくは15:1~80:1である。この割合より脂環式モノオレフィンを多く使用すると、触媒活性が低下し、重合が十分に進行しなくなるおそれがある。
【0043】
ハロゲン化アルミニウム(A)と脂環式モノオレフィンとを予め混合するに際し、これらの投入順序は特に制限されず、脂環式モノオレフィン中にハロゲン化アルミニウム(A)を投入してもよいし、逆に、ハロゲン化アルミニウム(A)中に脂環式モノオレフィンを投入してもよい。混合は通常、発熱をともなうので、適当な希釈剤を用いることもできる。希釈剤としては後述する溶媒を用いることができる。
【0044】
上記のようにして、ハロゲン化アルミニウム(A)と脂環式モノオレフィンとの混合物Mを調製した後、少なくとも1,3-ペンタジエンおよび非環式モノオレフィンを含む混合物aと、混合物Mとを混合することが好ましい。上記混合物aには脂環式ジオレフィンおよび/または芳香族モノオレフィンが含まれていてもよい。
【0045】
混合物aの調製方法は特に限定されず、それぞれ純粋な化合物を混合して目的の混合物aを得てもよいし、たとえば、ナフサ分解物の留分などに由来する、目的の単量体を含む混合物を用いて、目的の混合物aを得てもよい。たとえば、混合物aに1,3-ペンタジエンなどを配合するためには、イソプレンおよびシクロペンタジエン(その多量体を含む)を抽出した後のC5留分を好適に用いることができる。
【0046】
混合物aと混合物Mと共に、ハロゲン化炭化水素(B)をさらに混合することが好ましい。これら3者の投入順序は特に制限されない。
【0047】
重合反応をより良好に制御する観点からは、重合反応系に溶媒を添加して、重合反応を行うことが好ましい。溶媒の種類は、重合反応を阻害しないものであれば特に制限はないが、飽和脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素が好適である。溶媒として用いられる飽和脂肪族炭化水素としては、たとえば、n-ペンタン、n-ヘキサン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、n-ヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、3-エチルペンタン、2,2-ジメチルペンタン、2,3-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン、3,3-ジメチルペンタン、2,2,3-トリメチルブタン、2,2,4-トリメチルペンタンなどの炭素数5~10の鎖状飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの炭素数5~10の環状飽和脂肪族炭化水素などが挙げられる。溶媒として用いられる芳香族炭化水素としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭素数6~10の芳香族炭化水素が挙げられる。溶媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上の混合溶媒として用いてもよい。
【0048】
溶媒の使用量は、特に限定されないが、重合性成分(単量体混合物A)100質量部に対して、10~1,000質量部の範囲内であることが好ましく、50~500質量部の範囲内であることがより好ましい。なお、たとえば、C5留分に由来するシクロペンタンとシクロペンテンとの混合物のような、付加重合性成分と非付加重合性成分との混合物を重合反応系に添加して、付加重合性成分は単量体混合物の成分として用い、非付加重合性成分は溶媒として用いるようにすることもできる。
【0049】
重合反応を行う際の重合温度は、特に限定されないが、-20℃~100℃の範囲内であることが好ましく、10℃~70℃の範囲内であることが好ましい。重合温度が低すぎると重合活性が低下して生産性が劣る可能性があり、重合温度が高すぎると得られる変性前樹脂の色相に劣るおそれがある。重合反応を行う際の圧力は、大気圧下でも加圧下でもよい。重合反応時間は、適宜選択できるが、通常10分間~12時間、好ましくは30分間~6時間の範囲内で選択される。
【0050】
重合反応は、所望の重合転化率が得られた時点で、メタノール、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液などの重合停止剤を重合反応系に添加することにより停止することができる。
【0051】
上記変性前樹脂の製造方法においては、上記重合工程を少なくとも備えるものとすればよいが、必要に応じて、その他の工程を備えるものであってもよい。
【0052】
その他の工程としては、たとえば、重合工程後に、重合工程において重合停止剤を添加して、重合触媒を不活性化した際に生成する、溶媒に不溶な触媒残渣を濾過などにより除去する触媒残渣除去工程や、重合工程による重合反応停止後、未反応の単量体と溶媒とを除去し、さらに水蒸気蒸留などにより低分子量のオリゴマー成分を除去し、冷却することにより、固体状の変性前樹脂を得る回収工程などを挙げることができる。
【0053】
また、その他の工程として、触媒残渣除去工程後、かつ、回収工程前に、溶媒に不溶な触媒残渣を除去した後の触媒残渣除去混合物を吸着剤と接触させて、吸着剤処理混合物を得る接触処理工程を備えていてもよい。接触処理工程を備えていることにより、変性前樹脂、および変性前樹脂を水添した樹脂をさらに酸変性した変性炭化水素樹脂を、より低臭気なものとすることができる。
【0054】
なお、上記その他の工程は、後述する変性炭化水素樹脂の製造方法における水添工程後または酸変性工程後に行ってもよい。
【0055】
また、上記接触処理工程において用いる吸着剤は特に限定されず、化学吸着剤であってもよいし、物理吸着剤であってもよい。
【0056】
上記化学吸着剤としては、たとえば、塩基性炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛などの亜鉛系吸着剤;酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、リン酸ジルコニウムなどのジルコニウム系吸着剤;二酸化マンガンなどのマンガン系吸着剤;塩化コバルトなどのコバルト系吸着剤;塩化銅、酸化銅などの銅系吸着剤、ポリアミン化合物などのアミン系吸着剤;などが挙げられる。
【0057】
上記物理吸着剤としては、たとえば、ケイ酸アルミニウムナトリウムなどの含水アルミノケイ酸塩鉱物群で総称されるゼオライト系吸着剤、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、シリカゲル、シリカ・アルミナ、アルミニウムシリケート、活性アルミナ、酸性白土、活性白土、ドーソナイト類化合物、ハイドロタルサイト類化合物などが挙げられる。
【0058】
吸着剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、2種以上の吸着剤を併用する場合は、2種以上の化学吸着剤を併用してもよいし、2種以上の物理吸着剤を併用してもよいし、1種以上の化学吸着剤と1種以上の物理吸着剤とを併用してもよく、たとえば、物理吸着剤に化学吸着剤を担持させてもよい。特に、低臭気性により優れた変性前樹脂および変性炭化水素樹脂を得る観点からは、これらの吸着剤のなかでも、化学吸着剤を用いることが好ましく、亜鉛系吸着剤を用いることがより好ましく、塩基性炭酸亜鉛を用いることが特に好ましい。
【0059】
上記接触処理工程において、触媒残渣除去混合物に吸着剤に接触させる方法は、特に限定されない。たとえば、適宜選択される容器に触媒残渣除去混合物と吸着剤とを共存させて、必要に応じて撹拌して、接触させるバッチ処理法や、予め充填塔中に吸着剤を充填しておき、これに触媒残渣除去混合物を流通して接触させる連続処理法などが挙げられる。
【0060】
触媒残渣除去混合物と吸着剤とをバッチ処理法で接触させる場合における、吸着剤の使用量は、特に限定されないが、触媒残渣除去混合物に含まれる変性前樹脂100質量部に対して、通常0.01質量部~5.0質量部の範囲内であり、好ましくは0.03質量部~3.0質量部の範囲内であり、より好ましくは0.05質量部~2.0質量部の範囲内である。
【0061】
触媒残渣除去混合物と吸着剤と接触させる際の温度は、特に限定されないが、通常10℃~70℃の範囲内で選択される。また、処理時間も、特に限定されないが、通常0.1時間~2時間の範囲内で選択される。
【0062】
触媒残渣除去混合物と吸着剤とをバッチ処理法で接触させた場合、必要に応じて、ろ過などにより触媒残渣除去混合物から吸着剤を除去することができる。また、吸着剤が残存していても変性前樹脂および変性炭化水素樹脂の使用に問題がない場合には、触媒残渣除去混合物から吸着剤を除去せずに次の工程に供してもよい。
【0063】
<変性炭化水素樹脂>
本発明で用いる変性炭化水素樹脂は、上記変性前樹脂について水添を行った樹脂を、さらに酸変性することにより得られる変性炭化水素樹脂である。
【0064】
変性炭化水素樹脂は、ヨウ素価が45~125gI/100gの範囲内である。ヨウ素価は、変性炭化水素樹脂中に含有される、水素化されていない非芳香族性炭素-炭素二重結合の含有量を表す指標であり、たとえば、JIS K0070に準拠して測定することができる。
【0065】
本発明で用いる変性炭化水素樹脂は、ヨウ素価が45~125gI/100gの範囲内であればよいが、50~120gI/100gの範囲内であることが好ましく、なかでも55~115gI/100gの範囲内であることが好ましく、特に60~110gI/100gの範囲内であることが好ましい。本発明によれば、ヨウ素価が上述の範囲内であることにより、得られるホットメルト粘接着剤組成物を、低臭気で、熱劣化等による色相の変化が少ないものとすることができる。一方、ヨウ素価が低すぎると、変性前樹脂を水添した樹脂に不飽和カルボン酸または不飽和ジカルボン酸無水物を反応させて酸変性させることが困難となり、得られる変性炭化水素樹脂中に未反応の不飽和カルボン酸および不飽和ジカルボン酸無水物が多く残存し、最終的に得られるホットメルト粘接着剤組成物が、接着性能に劣るとともに、臭気の強いものとなってしまう。
【0066】
なお、本発明で用いる変性炭化水素樹脂は、ヨウ素価が上記範囲であればよいが、オレフィンの水添率(以下、単に水添率と称する場合がある。)が、0.1%~80%の範囲内であることが好ましく、1%~70%の範囲内であることがより好ましく、5%~60%の範囲内であることがさらに好ましく、10%~50%の範囲内であることがより好ましい。なお、オレフィンの水添率とは、変性前樹脂の全非芳香族性炭素-炭素二重結合のうち、水素化されたものの割合を意味する。
【0067】
また、上記変性前樹脂中の炭素-炭素二重結合としては、非芳香族性炭素-炭素二重結合(主に主鎖の炭素-炭素二重結合)の他、芳香族性炭素-炭素二重結合(芳香環内の炭素-炭素二重結合)が存在するが、芳香族性炭素-炭素二重結合は出来るだけ水素化されていないのが好ましく、全芳香族性炭素-炭素二重結合のうち、水素化された割合としては、好ましくは10%以下、より好ましくは7%以下、さらに好ましくは0%である。
【0068】
オレフィンの水添率は、変性前樹脂および変性炭化水素樹脂が有するオレフィン量の差から求めることができる。ここで、各樹脂が有するオレフィン量については、H-NMRスペクトル測定により求めることができる。H-NMRスペクトル測定は、溶媒に重クロロホルムを用い、NMR測定装置としては、JMN-AL seriesAL400、JEOL社製を用いて行うことができる。
【0069】
また、本発明で用いる変性炭化水素樹脂は、不飽和カルボン酸または不飽和ジカルボン酸無水物に由来するカルボキシル基または酸無水物基を有する。
【0070】
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などの炭素数8以下のエチレン性不飽和カルボン酸;3,6-エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸などの共役ジエンと炭素数8以下のα,β-不飽和ジカルボン酸とのディールス・アルダー付加物;などが挙げられる。
【0071】
不飽和ジカルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などの炭素数8以下のα,β-不飽和ジカルボン酸無水物;3,6-エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸などの共役ジエンと炭素数8以下のα,β-不飽和ジカルボン酸無水物とのディールス・アルダー付加物;などが挙げられる。
【0072】
変性前樹脂との反応の容易さ、経済性などの面より、炭素数8以下のα,β-不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物が好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。
【0073】
変性炭化水素樹脂は、これらの不飽和カルボン酸および不飽和ジカルボン酸無水物に由来するカルボキシル基および酸無水物基を1種または2種以上有することができる。
【0074】
変性炭化水素樹脂の酸価は、0.5~20KOHmg/gであることが好ましく、なかでも0.7~17KOHmg/gであることが好ましく、1.0~15KOHmg/gであることがより好ましい。酸価を上記範囲内であることにより、得られるホットメルト粘接着剤組成物を、より低臭気で、熱劣化等による色相の変化がより少ないものとすることができる。なお、変性炭化水素樹脂の酸価は、たとえば、JIS K0070に準拠して測定することができる。
【0075】
本発明で用いる変性炭化水素樹脂は、上記変性前樹脂を水添することにより得られた樹脂を、不飽和カルボン酸または不飽和ジカルボン酸無水物で変性したものであり、そのため、変性炭化水素樹脂には、未反応の不飽和カルボン酸および不飽和ジカルボン酸が含まれ得る。変性炭化水素樹脂中の、未反応の不飽和カルボン酸および未反応の不飽和ジカルボン酸無水物の合計の含有量が、3000重量ppm以下であることが好ましく、2000重量ppm以下であることがより好ましく、1000重量ppm以下であることがさらに好ましい。上記含有量が上記範囲内であることにより、得られるホットメルト粘接着剤組成物の臭気をより低減することができる。
【0076】
ここで、未反応の不飽和カルボン酸および未反応の不飽和ジカルボン酸無水物の合計の含有量とは、変性炭化水素樹脂を製造する際に酸変性剤として用いた不飽和カルボン酸および不飽和ジカルボン酸無水物のうち、上記変性前樹脂を水添することにより得られた樹脂と反応せずに、遊離状態で変性炭化水素樹脂中に含まれる不飽和カルボン酸および不飽和ジカルボン酸無水物の合計の含有量である。
【0077】
未反応の不飽和カルボン酸および未反応の不飽和ジカルボン酸無水物の合計の含有量は、変性炭化水素樹脂をトルエン等の溶媒に溶解した後、水と混合し、水に抽出された不飽和カルボン酸および不飽和ジカルボン酸の合計の含有量を液体クロマトグラフィで定量することにより測定することができる。
【0078】
変性炭化水素樹脂の重量平均分子量(Mw)は、1,000~5,000の範囲内であることが好ましく、なかでも1,500~4,700の範囲内であることが好ましく、特に1,800~4,500の範囲内であることがより好ましい。重量平均分子量(Mw)が上述の範囲内であることにより、優れた熱安定性を得ることができ、さらには、得られるホットメルト粘接着剤組成物において、熱可塑性エラストマーとの相溶性が良好となるため、オープンタイムが長く、接着力および塗工容易性に優れたものとすることができる。
【0079】
変性炭化水素樹脂のZ平均分子量(Mz)は、1,500~12,500の範囲内であることが好ましく、なかでも2,500~11,000の範囲内であることが好ましく、特に3,500~10,000の範囲内であることが好ましい。Z平均分子量(Mz)が上述の範囲内であることにより、優れた熱安定性を得ることができ、さらには、得られるホットメルト粘接着剤組成物において、熱可塑性エラストマーとの相溶性が良好となるため、オープンタイムが長く、接着力および塗工容易性に優れたものとすることができる。
【0080】
なお、本発明において、変性炭化水素樹脂の重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)は、高速液体クロマトグラフィの測定による、ポリスチレン換算の値として求めるものとする。
【0081】
変性炭化水素樹脂の重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)は、1.5~2.5の範囲内であることが好ましく、なかでも1.6~2.4の範囲内であることが好ましく、特に1.65~2.35の範囲内であることがより好ましい。上記比が上述の範囲内であることにより、優れた熱安定性を得ることができ、さらには、得られるホットメルト粘接着剤組成物において、熱可塑性エラストマーとの相溶性が良好となるため、オープンタイムが長く、接着力および塗工容易性に優れたものとすることができる。
【0082】
変性炭化水素樹脂の50質量%トルエン溶液のガードナー色数は、5以下であることが好ましく、なかでも4以下であることが好ましい。この値が大きすぎるものは、色相に劣ることとなる。ガードナー色数は、変性炭化水素樹脂の50質量%トルエン溶液を調製し、調製した溶液のガードナー色数をJIS K0071-2に従って測定することができる。
【0083】
変性炭化水素樹脂の軟化点は、30℃以上であることが好ましく、なかでも50℃~125℃の範囲内であることが好ましく、60℃~120℃の範囲内であることがより好ましい。上記軟化点が上述の範囲内であることにより、優れた熱安定性を得ることができ、さらには、得られるホットメルト粘接着剤組成物において、熱可塑性エラストマーとの相溶性が良好となるため、オープンタイムが長く、接着力および塗工容易性に優れたものとすることができる。変性炭化水素樹脂の軟化点は、JIS K2531によって規定される環球法により測定することができる。
【0084】
変性炭化水素樹脂の製造方法としては、たとえば、変性前樹脂を水添する水添工程と、水添工程で得られた樹脂に不飽和カルボン酸または不飽和ジカルボン酸無水物を反応させることにより酸変性させる変性工程とを有する方法を用いることができる。
【0085】
水添工程において、変性前樹脂の水添は、水素化触媒の存在下に、変性前樹脂を水素と接触させることにより行うことができる。
【0086】
用いる水素化触媒としては、特開昭58-43412号公報、特開昭60-26024号公報、特開昭64-24826号公報、特開平1-138257号公報、特開平7-41550号公報等に記載されているものを使用することができ、均一系触媒でも不均一系触媒でもよい。
【0087】
均一系触媒としては、たとえば、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリド/n-ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリド/sec-ブチルリチウム、テトラブトキシチタネート/ジメチルマグネシウムなどの組み合わせ等の遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の組み合わせからなる触媒系;ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウムなどの貴金属錯体触媒;などが挙げられる。
【0088】
不均一系触媒としては、Ni、Pdなどの水素添加触媒金属を担体に担持させたものなどが挙げられる。担体としては、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、ケイソウ土などが挙げられる。中でも、シリカに担持したNi触媒が好ましい。
【0089】
水素化反応は、変性前樹脂に対し直接行っても、あるいは、変性前樹脂を有機溶媒に溶解し、有機溶媒中で行ってもよい。操作容易性の観点から、変性前樹脂に対し直接行うのが好ましい。変性前樹脂の溶解に用いる有機溶媒としては、触媒に不活性なものであれば格別な限定はないが、生成する水素添加物の溶解性に優れていることから、通常は炭化水素系溶媒が用いられる。
【0090】
炭化水素系溶媒としては、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類;n-ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、デカリンなどの脂環族炭化水素類;などを挙げることができ、これらの中でも、環状の芳香族炭化水素類や脂環族炭化水素類が好ましい。これらの有機溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、有機溶媒としては、変性前樹脂の重合に用いた溶媒を用いてもよい。
【0091】
水素化触媒の存在下に、変性前樹脂を水素と接触させる方法は、特に限定されない。たとえば、適宜選択される容器に変性前樹脂と水素化触媒とを共存させて、必要に応じて撹拌して、水素と接触させるバッチ処理法や、予め充填塔中に水素化触媒を充填しておき、これに変性前樹脂を流通しながら、水素と接触させる連続処理法が挙げられる。
【0092】
水素化反応は、常法に従って行うことができる。水素化触媒の種類や反応温度等の反応条件を適宜調整することにより、変性前樹脂の水素化の割合や変性炭化水素樹脂のヨウ素価を調整することができる。
【0093】
水素化触媒として均一系触媒を用いると変性前樹脂の水素化の割合を高めることができる。均一系触媒としては、ルテニウム均一系触媒が好適である。反応温度は、100℃~200℃の範囲内が好ましく、130℃~195℃の範囲内がより好ましい。また、水素化触媒として不均一系触媒を用いると変性前樹脂の水素化の割合を抑えることができる。不均一系触媒としては、ニッケル不均一系触媒が好適である。反応温度は、150℃~300℃の範囲内が好ましく、180℃~260℃の範囲内がより好ましい。
【0094】
水素化反応における水素圧は、絶対圧力で、通常0.01MPa~10MPaの範囲内、好ましくは0.05MPa~6MPaの範囲内、さらに好ましくは0.1MPa~5MPaの範囲内である。また、水素量は、通常、理論上必要な水素量以上であればよいが、目的のヨウ素価の樹脂を得るために理論上必要な水素量の1倍~20倍の範囲内とすることができる。
【0095】
水素化反応終了後においては、必要に応じて反応液から、遠心分離やろ過等により水素化触媒を除去する。遠心方法やろ過方法は、用いた触媒を除去できる条件であれば、特に限定されない。ろ過による除去は、簡便かつ効率的であるので好ましい。ろ過する場合、加圧ろ過しても、吸引ろ過してもよく、また、効率の点から、ケイソウ土、パーライト等のろ過助剤を用いることが好ましい。また、必要に応じて、水やアルコール等の触媒不活性化剤を利用したり、活性白土やアルミナ等の吸着剤を添加することができる。
【0096】
変性工程は、上記水添工程により変性前樹脂を水添して得られた樹脂を、不飽和カルボン酸または不飽和ジカルボン酸無水物で処理することにより、カルボキシル基または酸無水物基を、水添して得られた樹脂に導入し、これにより、本発明で用いる変性炭化水素樹脂を得る工程である。すなわち、上記水添工程により得られた樹脂に不飽和カルボン酸または不飽和ジカルボン酸無水物を反応(酸変性反応)させて酸変性させ、変性炭化水素樹脂を得る工程である。
【0097】
酸変性反応において酸変性剤として用いられる不飽和カルボン酸および不飽和ジカルボン酸無水物の量は、得られる樹脂の色相を考慮して、変性前樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.05~5質量部である。なお、酸変性剤として用いられる不飽和カルボン酸および不飽和ジカルボン酸無水物は、1種単独でまたは2種以上を組合せて用いることができる。
【0098】
上記の酸変性反応の反応温度は、通常、50~300℃の範囲内とすることができる。反応温度が低すぎると反応効率に劣り、変性炭化水素樹脂中の、未反応の不飽和カルボン酸および未反応の不飽和ジカルボン酸無水物の合計の含有量が増加するおそれがある。また、反応時間は、通常、5分~20時間の範囲内とすることができる。反応時間が短すぎると反応効率に劣り、変性炭化水素樹脂中の、未反応の不飽和カルボン酸および未反応の不飽和ジカルボン酸無水物の合計の含有量が増加するおそれがある。また、酸変性反応においては、必要に応じて希釈剤、ゲル化防止剤、反応促進剤などを存在させてもよい。
【0099】
なお、変性炭化水素樹脂のヨウ素価、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)、ガードナー色数、軟化点、酸価、および未反応の不飽和カルボン酸および未反応の不飽和ジカルボン酸無水物の合計の含有量等は、上記の通りの配合および製造方法に従って変性炭化水素樹脂を調製することで容易に所望の範囲に調整することができる。
【0100】
<熱可塑性エラストマー>
本発明のホットメルト粘接着剤組成物は、上述した変性炭化水素樹脂に加えて、熱可塑性エラストマーを含有する。熱可塑性エラストマーとしては特に限定されないが、ホットメルト粘接着剤のベースポリマーとして用いられている熱可塑性エラストマーを制限なく用いることができるが、本発明の作用効果をより高めることできるという点より、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン系熱可塑性エラストマー、およびポリオレフィン系熱可塑性エラストマーから選択される少なくとも1種が好ましい。
【0101】
エチレン-酢酸ビニル共重合体としては、特に限定されないが、酢酸ビニル単量体単位含有量が、10~50質量%の範囲であるものが好ましく、15~40質量%の範囲であるものがより好ましく、15~35質量%の範囲であるものがさらに好ましい。また、エチレン-酢酸ビニル共重合体としては、メルトフローレイトが1~500g/10分のものが好ましく使用できる。
【0102】
なお、エチレン-酢酸ビニル共重合体としては、市販品として入手可能であり、たとえば、三井・デュポンポリケミカル社製の「EVAFLEX EV220(商品名)」やロッテケミカル社製の「VA900(商品名)」などを好適に用いることができる。
【0103】
また、スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されず、スチレン系モノマーと、スチレン系モノマーと共重合し得る他のモノマーとのランダム、ブロック、グラフト等の共重合体、およびこのような共重合体の水添物などが挙げられ、少なくとも1つの芳香族ビニル重合体ブロックおよび少なくとも1つの共役ジエン重合体ブロックを含むブロック共重合体などが挙げられる。このようなブロック共重合体の具体例としては、スチレン-イソプレンジブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体、イソプレン-スチレン-イソプレントリブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン-イソプレンテトラブロック共重合体、およびこれらの混合物を好適に用いることができる。
【0104】
また、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されないが、たとえば、エチレン/α-オレフィン共重合体が挙げられる。エチレン/α-オレフィン共重合体を得るために、エチレンと共重合されるα-オレフィンは、特に限定されないが、たとえば、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンなどの炭素数3~20のα-オレフィンが好ましく、炭素数6~8のα-オレフィンがより好ましく、1-オクテンがさらに好ましい。α-オレフィンは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0105】
エチレン/α-オレフィン共重合体におけるα-オレフィン単位の含有割合は、特に限定されないが、全単量体単位に対してα-オレフィン単位が占める割合が、20~40モル%であることが好ましい。また、エチレン/α-オレフィン共重合体としては、メルトフローレイトが200~1500g/10分のものが好ましく使用できる。
【0106】
本発明のホットメルト粘接着剤組成物における、熱可塑性エラストマーと上記変性炭化水素樹脂との配合割合は、特に限定されないが、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、変性炭化水素樹脂が50~500質量部配合されることが好ましく、80~400質量部配合されることがより好ましい。変性炭化水素樹脂の配合割合がこの範囲にあると、本発明のホットメルト粘接着剤組成物の接着力が特に良好なものとなる。
【0107】
本発明のホットメルト粘接着剤組成物は、変性炭化水素樹脂および熱可塑性エラストマーのみからなるものであってよいが、さらに、他の成分を含有するものであってもよい。本発明のホットメルト粘接着剤組成物に含有され得る他の成分としては、ワックス、軟化剤、酸化防止剤、本発明の変性炭化水素樹脂以外の粘着付与樹脂、前述したもの以外の重合体、熱安定剤、紫外線吸収剤、充填剤など、その他の配合剤を添加することができる。なお、本発明のホットメルト粘接着剤組成物は、溶剤を含まない、無溶剤の組成物であることが好ましい。
【0108】
本発明のホットメルト粘接着剤組成物に配合され得るワックスは、特に限定されず、たとえば、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、Fischer-Tropshワックス、酸化Fischer-Tropshワックス、水素添加ひまし油ワックス、ポリプロピレンワックス、副産ポリエチレンワックス、水酸化ステアラミドワックスなどを用いることができる。ワックスは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ホットメルト粘接着剤組成物におけるワックスの含有量は、特に限定されないが、熱可塑性エラストマー100質量部当り、10~200質量部であることが好ましく、20~100質量部であることがより好ましい。ワックスの含有量がこの範囲であることにより、得られるホットメルト粘接着剤組成物が、塗工容易性に特に優れたものとなる。
【0109】
本発明のホットメルト粘接着剤組成物に配合され得る酸化防止剤は、特に限定されず、たとえば、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールなどのヒンダードフェノール系化合物;ジラウリルチオプロピオネートなどのチオジカルボキシレートエステル類;トリス(ノニルフェニル)ホスファイトなどの亜燐酸塩類;を使用することができる。酸化防止剤の使用量は、特に限定されないが、熱可塑性エラストマー100質量部当り、通常10質量部以下であり、好ましくは0.5~5質量部である。なお、酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0110】
本発明のホットメルト粘接着剤組成物に配合され得る軟化剤は、特に限定されず、たとえば、芳香族系、パラフィン系またはナフテン系のプロセスオイル;ポリブテン、ポリイソブチレンなどの液状重合体;などを使用することができる。軟化剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0111】
本発明のホットメルト粘接着剤組成物に配合され得る上記変性炭化水素樹脂以外の粘着付与樹脂としては、従来公知の粘着付与樹脂が使用できる。具体的には、ロジン;不均化ロジン、二量化ロジンなどの変性ロジン類;グリコール、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールとロジンまたは変性ロジン類とのエステル化物;テルペン系樹脂;脂肪族系、芳香族系、脂環族系または脂肪族-芳香族共重合系の炭化水素樹脂またはこれらの水素化物;フェノール樹脂;クマロン-インデン樹脂;などが挙げられる。これらの粘着付与樹脂は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0112】
本発明のホットメルト粘接着剤組成物を得るにあたり、上記した変性炭化水素樹脂、熱可塑性エラストマー、およびさらに必要に応じて添加されるその他の成分を混合する方法は特に限定されず、たとえば、それぞれの成分を溶剤に溶解し均一に混合した後、溶剤を加熱などにより除去する方法、各成分をニーダーなどで溶融混合する方法などを挙げることができる。混合をより効率的に行う観点からは、これらの方法のなかでも溶融混合が好適である。なお、溶融混合を行う際の温度は、特に限定されるものではないが、通常100~200℃の範囲である。
【0113】
本発明のホットメルト粘接着剤組成物は、上記した変性炭化水素樹脂を粘着付与樹脂として含有しているため、接着性能が高く、色相および耐熱色相安定性に優れ、臭気が低減されたもの(たとえば、160℃と比較的高い温度で加熱した場合でも、臭気が低減されたもの)である。したがって、本発明のホットメルト粘接着剤組成物は、このような特性を活かし、種々の部材の接着に適用することが可能であり、しかも、省エネルギーで、生産性よく、保持力の高い接着を行うことができるものである。本発明のホットメルト粘接着剤組成物は、たとえば、各種の粘着テープやラベルの粘着剤として好適に使用される。具体的には、粘着テープやラベルを構成するシート状の基材上に、本発明のホットメルト粘接着剤組成物からなる粘着剤層を形成することで、基材と、本発明のホットメルト粘接着剤組成物からなる粘着剤層とからなる、粘着テープやラベルとして好適に使用される。
【実施例
【0114】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
本実施例および比較例において行った試験方法は以下のとおりである。
【0115】
(1)変性炭化水素樹脂の重量平均分子量、Z平均分子量および分子量分布
変性炭化水素樹脂について、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析し、標準ポリスチレン換算値の重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)を求め、分子量分布はMz/Mwの比で示した。なお、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析は、測定装置として、東ソー社製「HLC-8320GPC」を使用し、カラムは東ソー社製「TSKgel SuperMultiporeHZ」を3本連結したものを用い、テトラヒドロフランを溶媒として、40℃、1.0mL/minの流量で測定した。
【0116】
(2)変性炭化水素樹脂のヨウ素価
変性炭化水素樹脂のヨウ素価を、JIS K0070に準拠して測定した。
【0117】
(3)変性炭化水素樹脂の酸価
変性炭化水素樹脂の酸価を、JIS K0070に準拠して測定した。
【0118】
(4)変性炭化水素樹脂の軟化点(℃)
変性炭化水素樹脂の軟化点(℃)を、JIS K2531によって規定されている環球法により測定した。
【0119】
(5)変性炭化水素樹脂の溶液色相(ガードナー色数)
変性炭化水素樹脂の50質量%トルエン溶液を調製し、当該溶液のガードナー色数をJIS K0071-2に従い測定した。数値が小さいほど、色相に優れる。
【0120】
(6)変性炭化水素樹脂の耐熱色相(ガードナー色数)
変性炭化水素樹脂を、200℃のオーブン中に3時間静置し、その後放冷した後に、ガードナー色数をJIS K0071-2に従い測定した。数値が小さいほど、変性炭化水素樹脂は、耐熱色相安定性に優れると判断でき、これにより、このような変性炭化水素樹脂を用いて得られるホットメルト粘接着剤組成物も、耐熱色相安定性に優れるものと判断できる。
【0121】
(7)変性炭化水素樹脂中の、未反応の無水マレイン酸の含有量
変性炭化水素樹脂をトルエンに溶解させた後、水でマレイン酸として抽出して、水相をイオンクロマトグラフィで測定した。
【0122】
(8)ホットメルト粘接着剤組成物の曇点(℃)
ホットメルト粘接着剤組成物を試験管に入れ、温度計を底部まで差し込んだ後、180℃まで加熱溶融させた。その後、放冷して、試験管底部に曇りを生じた温度を曇点として記録した。値が低いものほど、ホットメルト粘接着剤組成物を構成する成分同士の相溶性に優れ、その結果として、ホットメルト粘接着剤組成物は、オープンタイムが長く、接着力が高いものとなる。
【0123】
(9)ホットメルト粘接着剤組成物の色相
ホットメルト粘接着剤組成物の色相を目視にて確認した。
【0124】
(10)ホットメルト粘接着剤組成物の剥離接着力(N/25mm)
ホットメルト粘接着剤組成物を、180℃にて溶融させて、アルミ基材上に30μmの厚さで塗工することによりホットメルト粘接着剤組成物からなる粘接着剤層を形成したサンプルを調製した。そして、得られたサンプルについて、23℃で、PSTC-1(粘着テープ委員会(米)による180°剥離接着試験)に準じて、剥離接着力の測定を行った。剥離接着力の値が高いほど、接着性能に優れる。
【0125】
(11)臭気評価試験
ホットメルト粘接着剤組成物についての官能試験は、におい・かおり環境協会発行の臭気の嗅覚測定法における臭気の嗅覚測定法-5訂に従って行った。
具体的には、まず、1粒の大きさを約10mm×5mm×5mmとしたホットメルト粘接着剤組成物10gを120mLの耐熱性容器に入れて、アルミ箔でフタをした。そして、このホットメルト粘接着剤組成物の入った耐熱性容器を、オーブンに入れて、温度160℃、30分間の条件で加熱し、加熱後の臭気の確認を行った。
臭気の確認は、石油樹脂の臭気に慣れていない(すなわち、普段の生活において、石油樹脂の臭気に触れることのない)6人のパネルにより行った。本試験においては、嗅覚疲労を防ぐため、6人のパネルを3人ずつの2班に分けて、1班ずつ臭気を嗅ぐという方法を採用した。また、臭気を嗅ぐサンプルの順番は、無作為とした。
0:無臭
1:やっと認知できる臭い(検知閾値濃度)
2:何の臭いであるか判る弱い臭い(認知閾値濃度)
3:楽に感知できる臭い
4:強い臭い
5:強烈な臭い
なお、官能試験の結果は、6人のパネルの判定値のうち、最大値と最小値をそれぞれ除き、残りの4人の判定値を平均することにより求めた。官能試験の値は、小さいほうが好ましい。
【0126】
〔実施例1〕
1.変性炭化水素樹脂の調製
重合反応器にシクロペンタン34.5部およびシクロペンテン26.7部の混合物を重合反応器に仕込み、60℃に昇温した後、塩化アルミニウム0.7部を添加した(混合物M1)。引き続き、1,3-ペンタジエン42.7部、イソブチレン6.8部、スチレン21.3部、C4-C6不飽和炭化水素0.6部、ジシクロペンタジエン0.1部、およびC4-C6飽和炭化水素8.2部からなる混合物a1と、t-ブチルクロライド0.5部とを、それぞれ、別のラインを通して、60分間に亘り温度(80℃)を維持して、上記混合物M1を含む重合反応器に連続的に添加しながら重合を行った。その後、水酸化ナトリウム水溶液を重合反応器に添加して、重合反応を停止した。なお、重合反応時の重合反応器中の成分の種類および量を表1にまとめて示した。重合停止により生成した沈殿物をろ過により除去し、変性前樹脂および未反応単量体等を含む重合体溶液を得た。
また、重合体溶液の一部を取り出し、これを蒸留釜に仕込み、窒素雰囲気下で加熱し、重合溶媒と未反応単量体を除去し、変性前樹脂とした。
【0127】
また、多管式熱交換型水素添加反応装置に、原料として重合体溶液を供給し、変性前樹脂を水素添加した。水素添加反応は、水素化触媒としてニッケルシリカ触媒(日揮触媒化成株式会社製、N108F)を使用し、水素圧2MPa、反応温度200℃、反応管内の滞留時間30分間とし、水素量は、変性前樹脂100部に対して、2部とした。
【0128】
変性前樹脂が水添された樹脂を含む重合体溶液を蒸留釜に仕込み、窒素雰囲気下で加熱し、重合溶媒と未反応単量体を除去した。次いで、200℃以上で、飽和水蒸気を吹き込みながら、低分子量のオリゴマー成分を留去した。
【0129】
次に、溶融状態の樹脂100部に対して、無水マレイン酸1.8部を添加し、230℃で1時間付加反応させた。その後、蒸留釜から溶融樹脂を取り出し、室温まで放冷して、実施例1の変性炭化水素樹脂を得た。
【0130】
得られた実施例1の変性炭化水素樹脂について、重量平均分子量、Z平均分子量、分子量分布、ヨウ素価、酸価、軟化点、溶液色相(ガードナー色数)、耐熱色相(ガードナー色数)および未反応無水マレイン酸量の測定を行った。結果を表1に示す。
【0131】
2.ホットメルト粘接着剤組成物の調製
上記にて得られた変性炭化水素樹脂50部、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(三井・デュポンポリケミカル社製、商品名:EVAFLEX EV220)40部、パラフィンワックス(融点:63℃)10部および酸化防止剤(BASF社製、イルガノックス1010(商品名))1.25部を、180℃で、1時間混練して、実施例1のホットメルト粘接着剤組成物を得た。得られたホットメルト粘接着剤組成物について、曇点、色相、および剥離接着力の測定、ならびに臭気評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0132】
〔実施例2~4〕
重合反応器に添加する成分の種類および量、ならびに重合温度および水添条件を表1に示すとおりにそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~4の変性炭化水素樹脂をそれぞれ得た。なお、実施例1に記載のないジイソブチレン、およびシクロペンタジエンは、1,3-ペンタジエン等と共にt-ブチルクロライドと混合し、重合に供した。また、実施例4においては、t-ブチルクロライドの代わりに、ベンジルクロライドを使用し、1,3-ペンタジエン等は、t-ブチルクロライドに代えて、ベンジルクロライドと共に混合し、重合に供した。得られた実施例2~4の変性炭化水素樹脂について、実施例1と同様に、測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0133】
そして、上記にて得られた実施例2~4の変性炭化水素樹脂を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~4のホットメルト粘接着剤組成物を得て、同様に、測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0134】
〔実施例5〕
エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂40部に代えて、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(日本ゼオン社製、商品名:Quintac 3620)45.5部を使用するとともに、変性炭化水素樹脂の使用量を50部から45.5部に、パラフィンワックスをナフテンオイルに変更し、その使用量を10部から9部に変更し、酸化防止剤の使用量を1.25部から1.5部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例5のホットメルト粘接着剤組成物を得て、同様に、測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0135】
〔実施例6〕
エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂40部に代えて、エチレン/α-オレフィン共重合体(ダウケミカル社製、商品名:Affinity GA1950)40部を使用するとともに、変性炭化水素樹脂の使用量を50部から40部に、パラフィンワックスの使用量を10部から20部に、酸化防止剤の使用量を1.25部から1.5部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例6のホットメルト粘接着剤組成物を得て、同様に、測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0136】
〔比較例1〕
重合反応器に添加する成分の種類および量、ならびに重合温度を表1に示すとおりにそれぞれ変更し、かつ、水添反応および無水マレイン酸による酸変性を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1の炭化水素樹脂を得た。なお、実施例1に記載のないシクロペンタジエンは、1,3-ペンタジエン等と共に混合し、重合に供した。得られた比較例1の変性炭化水素樹脂について、実施例1と同様に、測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0137】
そして、上記にて得られた比較例1の変性炭化水素樹脂を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例1のホットメルト粘接着剤組成物を得て、同様に、測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0138】
〔比較例2〕
重合反応器に添加する成分の種類および量、ならびに重合温度を表1に示すとおりにそれぞれ変更し、かつ、水添反応を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例2の炭化水素樹脂を得た。なお、実施例1に記載のないジイソブチレン、およびシクロペンタジエンは、1,3-ペンタジエン等と共にt-ブチルクロライドと混合し、重合に供した。得られた比較例2の変性炭化水素樹脂について、実施例1と同様に、測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0139】
そして、上記にて得られた比較例2の変性炭化水素樹脂を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例2のホットメルト粘接着剤組成物を得て、同様に、測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0140】
〔比較例3〕
重合反応器に添加する成分の種類および量、ならびに重合温度および水添条件を表1に示すとおりにそれぞれ変更し、かつ、無水マレイン酸による酸変性を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例3の炭化水素樹脂を得た。なお、実施例1に記載のないシクロペンタジエンは、1,3-ペンタジエン等と共に混合し、重合に供した。得られた比較例3の変性炭化水素樹脂について、実施例1と同様に、測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0141】
そして、上記にて得られた比較例3の変性炭化水素樹脂を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例3のホットメルト粘接着剤組成物を得て、同様に、測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0142】
〔比較例4〕
重合反応器に添加する成分の種類および量、ならびに重合温度および水添条件を表1に示すとおりにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例4の炭化水素樹脂を得た。なお、実施例1に記載のないキシレンは、シクロペンタン等と共に混合した。得られた比較例4の変性炭化水素樹脂について、実施例1と同様に、測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0143】
そして、上記にて得られた比較例4の変性炭化水素樹脂を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例4のホットメルト粘接着剤組成物を得て、同様に、測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0144】
【表1】
【0145】
表1に示すように、特定の組成を有する炭化水素樹脂を水添した樹脂を、さらに酸変性することによって得られ、ヨウ素価が45~125gI/100gの範囲にある変性炭化水素樹脂と、熱可塑性エラストマーとを含有してなるホットメルト粘接着剤組成物によれば、接着性能が高く、色相および耐熱色相安定性に優れ、160℃という高温においても臭気が抑えられたものであった(実施例1~6)。
【0146】
一方、ヨウ素価が125gI/100gを超えた場合には、臭気が強くなる結果となり、また、酸変性を行わなかった場合には、さらに、接着性能にも劣るものであった(比較例1,2)。
また、ヨウ素価が45~125gI/100gの範囲にある場合でも、酸変性を行わなかった場合には、接着性能および色相に劣るものであった(比較例3)。
さらに、ヨウ素価が45I/100g未満である場合には、接着性能および色相に劣るとともに、臭気が強くなる結果となった(比較例4)。