(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】有機ケイ素化合物を含有する水溶液組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 55/10 20060101AFI20240409BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20240409BHJP
A01N 33/12 20060101ALI20240409BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240409BHJP
D06M 13/513 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
A01N55/10
C09K3/18 104
A01N33/12
A01P3/00
D06M13/513
(21)【出願番号】P 2021105391
(22)【出願日】2021-06-25
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣神 宗直
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】土田 和弘
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-070311(JP,A)
【文献】特開2016-150558(JP,A)
【文献】特開平04-265284(JP,A)
【文献】国際公開第2015/141516(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102850930(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111363550(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
D06M 13/00-15/715
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(2)で表される有機ケイ素化合物との共加水分解物、共加水分解縮合物またはそれらの両方を含む水溶液組成物。
【化1】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基であり、R
3は、炭素数12~24のアルキル基であり、R
4およびR
5は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基であり、Xは、ハロゲン原子であり、mは、1~20の整数であり、nは、1~3の整数である。)
【請求項2】
アルコールの含有量が、水溶液組成物全体に対して0.3質量%以下である請求項1記載の水溶液組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の水溶液組成物で処理された物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の有機ケイ素化合物の共加水分解物等を含有する水溶液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗ウイルス志向が高まっており、持続性のある抗ウイルス剤が求められている。例えば、オクタデシルジメチル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドを主成分とする組成物が、固定化可能な抗ウイルス剤として知られている(特許文献1,2)。
【0003】
オクタデシルジメチル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドを加水分解させ、生成したアルコールを除去した水溶液組成物が市販され、使用されているが、高濃度品を得ようとすると、ゲル化してしまうという欠点がある。また、低濃度であっても、経時で析出物が発生してしまうという問題点があり、安定性の高い4級アンモニウム塩官能基含有有機ケイ素化合物の水溶液組成物が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-98976号公報
【文献】国際公開第2015/141516号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、保存安定性の高い、4級アンモニウム塩官能基含有有機ケイ素化合物を含む水溶液組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の有機ケイ素化合物の共加水分解物等を含む水溶液組成物が、保存安定性に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
1. 下記式(1)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(2)で表される有機ケイ素化合物との共加水分解物、共加水分解縮合物またはそれらの両方を含む水溶液組成物、
【化1】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基であり、R
3は、炭素数12~24のアルキル基であり、R
4およびR
5は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基であり、Xは、ハロゲン原子であり、mは、1~20の整数であり、nは、1~3の整数である。)
2. アルコールの含有量が、水溶液組成物全体に対して0.3質量%以下である1記載の水溶液組成物、
3. 1または2記載の水溶液組成物で処理された物品
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水溶液組成物は、保存安定性に優れ、ゲル化および析出物の発生を抑制することができる。また、本発明の水溶液組成物を用いて繊維等の物品を処理することにより、物品に抗ウイルス性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の水溶液組成物は、下記式(1)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(2)で表される有機ケイ素化合物との共加水分解物および/または共加水分解縮合物を含有する。
【0010】
【0011】
R1の炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル基等が挙げられる。
炭素数6~10、好ましくは炭素数6~8のアリール基の具体例としては、フェニル基、トリル基などが挙げられる。
これらの中でも、R1は、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0012】
R2の炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基としては、それぞれR1と同じものが挙げられ、それらの中でもメチル基がより好ましい。
【0013】
R3の炭素数12~24、好ましくは炭素数12~20、より好ましくは12~18のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、n-ドデシル、2-メチルウンデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、n-エイコシル、n-ヘンエイコシル、n-ドコシル、n-トリコシル、n-テトラコシル、シクロドデシル基等が挙げられる。これらの中でも、R3は、炭素数14~18のものが好ましく、原料の入手性や使用時の環境負荷の観点から、n-オクタデシル基がより好ましい。
【0014】
R4およびR5の炭素数1~6のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-へキシル、シクロヘキシル基等を例示することができる。これらの中でも、R4およびR5は、いずれも炭素数1~3のアルキル基が好ましく、原料の入手性や使用時の環境負荷の観点から、メチル基がより好ましい。
【0015】
mは、1~20の整数を表すが、3~12の整数が好ましい。mが20を超えると、単位質量当たりの4級アンモニウム塩含有量が低下することにより、抗ウイルス性が低下する。
Xのハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0016】
上記式(1)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、オクタデシルジメチル(1-トリメトキシシリルメチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(1-トリエトキシシリルメチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(4-トリメトキシシリルブチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(4-トリエトキシシリルブチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(6-トリメトキシシリルヘキシル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(6-トリエトキシシリルヘキシル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-トリメトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-トリエトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-ジメトキシメチルシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-ジエトキシメチルシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(10-トリメトキシシリルデシル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(10-トリエトキシシリルデシル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(11-トリメトキシシリルウンデシル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(11-トリエトキシシリルウンデシル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(12-トリメトキシシリルドデシル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(12-トリエトキシシリルドデシル)アンモニウムクロライド等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、オクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(4-トリメトキシシリルブチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(6-トリエトキシシリルヘキシル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-トリメトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-トリエトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-ジメトキシメチルシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-ジエトキシメチルシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(11-トリメトキシシリルウンデシル)アンモニウムクロライドが好ましく、オクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-トリメトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-トリエトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-ジメトキシメチルシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-ジエトキシメチルシリルオクチル)アンモニウムクロライドがより好ましい。
【0017】
上記式(1)で表される有機ケイ素化合物は、下記式(A)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(B)で表される3級アミンとを、大気雰囲気下または窒素等の不活性ガス雰囲気下で反応させることにより得られる。
【0018】
【化3】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、X、mおよびnは、上記と同じである。)
【0019】
上記式(A)で表される化合物としては、例えば、クロロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、4-クロロブチルトリメトキシシラン、4-クロロブチルトリエトキシシラン、4-ブロモブチルトリメトキシシラン、4-ブロモブチルトリエトキシシラン、6-クロロヘキシルトリメトキシシラン、6-クロロヘキシルトリエトキシシラン、6-ブロモヘキシルトリメトキシシラン、6-ブロモヘキシルトリエトキシシラン、8-クロロオクチルトリメトキシシラン、8-クロロオクチルトリエトキシシラン、8-クロロオクチルジメトキシメチルシラン、8-クロロオクチルジエトキシメチルシラン、8-ブロモオクチルトリメトキシシラン、8-ブロモオクチルトリエトキシシラン、8-ブロモオクチルジメトキシメチルシラン、8-ブロモオクチルジエトキシメチルシラン、10-クロロデシルトリメトキシシラン、10-クロロデシルトリエトキシシラン、10-ブロモデシルトリメトキシシラン、10-ブロモデシルトリエトキシシラン、11-クロロウンデシルトリメトキシシラン、11-クロロウンデシルトリエトキシシラン、11-ブロモウンデシルトリメトキシシラン、11-ブロモウンデシルトリエトキシシラン、12-クロロドデシルトリメトキシシラン、12-クロロドデシルトリエトキシシラン、12-ブロモドデシルトリメトキシシラン、12-ブロモドデシルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの中でも、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、4-クロロブチルトリメトキシシラン、4-クロロブチルトリエトキシシラン、6-クロロヘキシルトリメトキシシラン、6-クロロヘキシルトリエトキシシラン、8-クロロオクチルトリメトキシシラン、8-クロロオクチルトリエトキシシラン、8-クロロオクチルジメトキシメチルシラン、8-クロロオクチルジエトキシメチルシラン、11-クロロウンデシルトリメトキシシラン、11-クロロウンデシルトリエトキシシランが好ましく、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、8-クロロオクチルトリメトキシシラン、8-クロロオクチルトリエトキシシラン、8-クロロオクチルジメトキシメチルシラン、8-クロロオクチルジエトキシメチルシランがより好ましい。
【0020】
上記式(B)で表される3級アミンとしては、ドデシルジメチルアミン、ドデシルジエチルアミン、トリデシルジメチルアミン、トリデシルジエチルアミン、テトラデシルジメチルアミン、テトラデシルジエチルアミン、ペンタデシルジメチルアミン、ペンタデシルジエチルアミン、ヘキサデシルジメチルアミン、ヘキサデシルジエチルアミン、ヘプタデシルジメチルアミン、ヘプタデシルジエチルアミン、オクタデシルジメチルアミン、オクタデシルジエチルアミン、ノナデシルジメチルアミン、ノナデシルジエチルアミン、エイコシルジメチルアミン、エイコシルジエチルアミン、ヘンエイコシルジメチルアミン、ヘンエイコシルジエチルアミン、ドコシルジメチルアミン、ドコシルジエチルアミン、トリコシルジメチルアミン、トリコシルジエチルアミン、テトラコシルジメチルアミン、テトラコシルジエチルアミン等が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの中でも、オクタデシルジメチルアミン、オクタデシルジエチルアミンが好ましく、オクタデシルジメチルアミンがより好ましい。
【0021】
上記反応は、無溶媒で行うこともできるが、反応を阻害しない範囲で、必要に応じて、メタノール、エタノール等のアルコール溶媒中で行うことができる。
反応温度としては、80~150℃が好ましく、100~130℃がより好ましい。反応時間は、1~30時間が好ましく、5~25時間がより好ましい。
反応の際の上記式(A)で表される有機ケイ素化合物と、上記式(B)で表される3級アミンとの使用比率は、3級アミン(B)1モルに対して、有機ケイ素化合物(A)が0.7~1.3モルが好ましい。
【0022】
上記式(2)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、6-グリシドキシヘキシルトリメトキシシラン、6-グリシドキシヘキシルトリエトキシシラン、6-グリシドキシヘキシルメチルジメトキシシラン、6-グリシドキシヘキシルメチルジエトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリエトキシシラン、8-グリシドキシオクチルメチルジメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0023】
上記式(1)で表される有機ケイ素化合物と、上記式(2)で表される有機ケイ素化合物の割合は、特に限定されないが、保存安定性や生産性の観点から、上記式(1)で表される有機ケイ素化合物1モルに対し、上記式(2)で表される有機ケイ素化合物が、0.1~100モルが好ましく、0.5~20モルがより好ましく、1~10モルがさらに好ましい。
【0024】
本発明の水溶液組成物は、上記式(1)で表される有機ケイ素化合物と、上記式(2)で表される有機ケイ素化合物とを大気雰囲気下または窒素等の不活性ガス雰囲気下で水に希釈し、上記式(1)および上記式(2)においてSi-OR1(R1は、上記と同じである。)で表される基の一部または全部をシラノール基(Si-OH基)へと加水分解させることにより得られる。また、水を添加する際は、加水分解反応中に継続的に行ってもよいし、反応を始める前に加えてもよい。なお、上記反応により得られた式(1)で表される有機ケイ素化合物のアルコール溶液は、そのまま加水分解反応に用いることができる。
【0025】
加水分解反応の温度としては、50~110℃が好ましく、60~105℃がより好ましい。反応時間は、1~30時間が好ましく、5~25時間がより好ましい。
【0026】
上記加水分解反応によって副生するアルコール成分(R1OH(R1は、上記と同じである。))および加水分解反応に際して必要に応じて水と共に加えられたアルコール成分は、蒸留等の分離方法によって除去することが好ましい。なお、蒸留は、上記加水分解反応と同時に行うことが好ましい。
【0027】
本発明の水溶液組成物に含まれる上記式(1)で表される有機ケイ素化合物と、上記式(2)で表される有機ケイ素化合物との共加水分解物の量は、特に限定されないが、保存安定性や生産性の観点から、水溶液組成物全体に対して0.1~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。
また、本発明の水溶液組成物は、上記式(1)で表される有機ケイ素化合物および上記式(2)で表される有機ケイ素化合物の加水分解により生じるシラノール基同士の分子間縮合による縮合物を含んでいてもよいし、加水分解物および加水分解縮合物の両方を含んでいてもよい。
【0028】
本発明の水溶液組成物に含まれるアルコールの量は、安全性の観点から水溶液組成物全体に対して0.3質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。なお、水溶液組成物中のアルコールの量は、ガスクロマトグラフ(GC)分析にて確認することができる。
【0029】
本発明の水溶液組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、クエン酸等の有機酸、界面活性剤等の添加剤などを含んでいてもよく、水溶液の保存安定性の観点からクエン酸等の有機酸を添加することが好ましい。
【0030】
本発明の水溶液組成物は、各種材料、物品等に適用することで、これらに抗菌性、抗ウイルス性を付与することができる。上記材料、物品の具体例としては、例えば、綿、絹、ウール等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、ビニロン、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリアラミド繊維等の合成繊維、これらの繊維の複合繊維(ポリエステル/綿等)等の各種繊維材料;鉄、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、銅等の各種金属材料;アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の各種合成樹脂材料;ガラス、チタン、セラミック、セメント、モルタル等の各種無機材料;これらの材料を用いた各種物品などが挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、合成例、実施例および比較例を示して本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
<有機ケイ素化合物の合成>
[合成例1-1]
窒素置換した300mL加圧反応容器に、3-クロロプロピルトリメトキシシラン39.7g、オクタデシルジメチルアミン(リポミンDM18D、ライオン(株)製、以下同じ。)59.6g、メタノール99.3gを入れ、120℃で20時間反応させた。反応後、濾過することにより、オクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液190g(固形分濃度50質量%)を得た。
【0033】
[合成例1-2]
窒素置換した300mL加圧反応容器に、8-クロロオクチルトリメトキシシラン53.8g、オクタデシルジメチルアミン59.6g、メタノール113gを入れ、120℃で20時間反応させた。反応後、濾過することにより、オクタデシルジメチル(8-トリメトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液220g(固形分濃度50質量%)を得た。
【0034】
<水溶液組成物の製造>
[実施例1-1]
窒素置換した1000mL加圧反応容器に、合成例1-1で得たオクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液(固形分濃度50質量%)50g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-403、信越化学工業(株)製、以下同じ。)70g、イオン交換水500g、クエン酸2gを加え、内温が100℃になるまで水-メタノール混合溶媒を留去し、その後、濃度が30質量%になるようにイオン交換水を加え、水溶液組成物Aを得た。
得られた水溶液組成物の外観は透明であり、GC分析においてメタノールは検出されなかった。
【0035】
[実施例1-2]
窒素置換した1000mL加圧反応容器に、合成例1-1で得たオクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液(固形分濃度50質量%)80g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン50g、イオン交換水500g、クエン酸2gを加え、内温が100℃になるまで水-メタノール混合溶媒を留去し、その後、濃度が30質量%になるようにイオン交換水を加え、水溶液組成物Bを得た。
得られた水溶液組成物の外観は透明であり、GC分析においてメタノールは検出されなかった。
【0036】
[実施例1-3]
窒素置換した1000mL加圧反応容器に、合成例1-1で得たオクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液(固形分濃度50質量%)30g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン90g、イオン交換水500g、クエン酸2gを加え、内温が100℃になるまで水-メタノール混合溶媒を留去し、その後、濃度が30質量%になるようにイオン交換水を加え、水溶液組成物Cを得た。
得られた水溶液組成物の外観は透明であり、GC分析においてメタノールは検出されなかった。
【0037】
[実施例1-4]
窒素置換した1000mL加圧反応容器に、合成例1-2で得たオクタデシルジメチル(8-トリメトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液(固形分濃度50質量%)50g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン70g、イオン交換水500g、クエン酸2gを加え、内温が100℃になるまで水-メタノール混合溶媒を留去し、その後、濃度が30質量%になるようにイオン交換水を加え、水溶液組成物Dを得た。
得られた水溶液組成物の外観は透明であり、GC分析においてメタノールは検出されなかった。
【0038】
[比較例1-1]
窒素置換した500mL加圧反応容器に、合成例1-1で得たオクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液(固形分濃度50質量%)10g、イオン交換水150g、クエン酸0.4gを加え、内温が100℃になるまで水-メタノール混合溶媒を留去し、その後、濃度が5質量%になるようにイオン交換水を加え、水溶液組成物Eを得た。
得られた水溶液組成物の外観は透明であり、GC分析においてメタノールは検出されなかった。
【0039】
[比較例1-2]
窒素置換した500mL加圧反応容器に、合成例1-1で得たオクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液(固形分濃度50質量%)100g、イオン交換水200g、クエン酸0.4gを加え、内温が100℃になるまで水-メタノール混合溶媒を留去したところ、留去中にゲル化した。
【0040】
<保存安定性の評価>
実施例1-1~1-4、比較例1-1で得た水溶液組成物A~Eを50℃、密閉条件で所定の期間(1週間、1か月、3か月)保管後の外観を目視で観察し、安定性を評価した。析出物が観察されず、透明溶液であった場合を〇、析出物が観察された場合を×とした。結果を表1に示す。
【0041】
【0042】
<処理物品の製造>
[実施例2-1~2-4、比較例2-1]
実施例1-1~1-4、比較例1-1で得られた水溶液組成物A~Eを更にイオン交換水で濃度0.5質量%に希釈し、それぞれにT/C繊維(ポリエステル/コットンの複合繊維)5gを30秒間浸漬させ、繊維を取り出して80℃で10分間乾燥させることにより、処理されたT/C繊維を作製した。
【0043】
<抗ウイルス性の評価>
得られた繊維について下記方法により抗ウイルス性を評価した。評価は、下記の方法により算出したウイルス減少率により行った。結果を表2に示す。
[繊維]:抗ウイルス剤組成物で処理されたT/C繊維
[使用ウイルス]:インフルエンザウイルスH1N1 IOWA株
[培養細胞]:MDCK細胞
[ウイルス液調整方法]:インフルエンザウイルスをMDCK細胞に接種した。37℃で1時間吸着後、接種ウイルス液を除去し、滅菌PBSで2回洗浄した。MEM培地を加え、37℃、5%CO2存在下で5日間培養した。培養上清を回収し、3000rpmで30分間遠心後、遠心上清を分注し、-70℃以下で保存したものをウイルス液とした。
[ウイルス力価測定]:上記繊維にウイルス液を0.4mL添加し、滅菌バイアルに入れて密閉した。室温(25℃)下で2時間静置し、感作時間とした。感作時間経過後、バイアル中に細胞維持培地20mLを添加し、よく混合してウイルスを洗い出した。洗い出し液について、さらに細胞維持培地で10倍段階希釈を行い、各希釈液をマイクロプレートの培養細胞に接種し、37℃、5日間培養した。培養後の各培養液を回収し、赤血球凝集反応によりウイルスの増殖の有無を確認し、ウイルス力価(TCID50)を測定した。
[ウイルス減少率(%)]:100×[(未処理の繊維におけるウイルス力価-上記繊維におけるウイルス力価)/(未処理の繊維におけるウイルス力価)]
【0044】
【0045】
表1、表2に示されるように、実施例1-1~1-4の水溶液組成物は、比較例1-1の水溶液組成物に比べ、処理した繊維の抗ウイルス性は同等であるが、保存安定性に優れる結果であった。