(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ゼオライト膜複合体、並びにそれを用いた分岐鎖状ジオレフィンの分離方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20240409BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240409BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240409BHJP
C01B 39/26 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/12
B01D69/10
C01B39/26
(21)【出願番号】P 2021509264
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020012057
(87)【国際公開番号】W WO2020196176
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019059017
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴博
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-067091(JP,A)
【文献】国際公開第2011/118777(WO,A1)
【文献】特開2003-144871(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084845(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
C01B39/00-39/54
C07C7/00-7/20
C07C11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性支持体と、該多孔性支持体の少なくとも一つの表面に形成されたゼオライト膜と、を含むゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜は、X-MOR型ゼオライトよりなり、
前記Xは、少なくとも一種の遷移金属イオンを含む、
分岐鎖状炭化水素混合物から分岐鎖状ジオレフィンを分離するためのゼオライト膜複合体。
【請求項2】
前記遷移金属イオンが、Ruイオン、Ptイオン、及びMoイオンの内の少なくとも一種を含む、請求項1に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項3】
前記遷移金属イオンがRuイオンである、請求項2に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項4】
前記Ruイオンが3価のRuイオンである、請求項3に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載のゼオライト膜複合体を用いて、炭素数nが等しい、分岐鎖状ジオレフィンと、少なくとも一種の、炭素-炭素二重結合の数が1以下である分岐鎖状炭化水素とを含む、分岐鎖状炭化水素混合物から、前記分岐鎖状ジオレフィンを分離する分離工程を含む、分岐鎖状ジオレフィンの分離方法。
【請求項6】
前記炭素数nが4又は5である、請求項5に記載の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法に従って、前記分岐鎖状ジオレフィンを分離することを含む、分岐鎖状ジオレフィンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜複合体、並びにそれを用いた分岐鎖状ジオレフィンの分離方法及び製造方法に関し、特に、分岐鎖状炭化水素混合物から分岐鎖状ジオレフィンを分離する際に好適に使用し得るゼオライト膜複合体、並びに当該ゼオライト膜複合体を用いた分岐鎖状ジオレフィンの分離方法及び製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の炭化水素を含有する炭化水素混合物から特定の炭化水素を低エネルギーで分離する方法として、膜分離法が用いられている。そして、分離膜としては、支持体上にゼオライトを膜状に形成してなるゼオライト膜が広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、多孔性支持体上にX型ゼオライトを成膜したゼオライト膜複合体によりオレフィン/パラフィン混合流体からオレフィンを選択的に分離する方法が開示されている。特許文献1では、X型ゼオライトとして、X型ゼオライト中のイオン交換可能なカチオンをAgイオンでイオン交換したAg-X型ゼオライトを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のAg-X型ゼオライトによれば、上記特許文献1にて検証がなされたように、オレフィン/パラフィン混合流体として、エチレン/エタン混合流体、エチレン/プロパン混合流体、プロピレン/エタン混合流体、プロピレン/プロパン混合流体等の、モノオレフィン/パラフィン混合流体から、パラフィンを良好に分離することができる。近年、炭素-炭素不飽和結合を2つ含む分岐鎖状炭化水素、即ち、分岐鎖状ジオレフィンを、炭素数は等しいが、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から分離することができる膜分離技術が必要とされている。
【0006】
しかし、上記従来のAg-X型ゼオライトによっては、炭素数は等しいが、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することが出来なかった。
【0007】
そこで、本発明は、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することが可能な、ゼオライト膜複合体を提供することを目的とする。
また、本発明は、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することが可能な、分岐鎖状ジオレフィンの分離方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、本発明の分離方法に従って分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することを含む、分岐鎖状ジオレフィンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、MOR型ゼオライトのカチオンサイトに対して、特定の金属イオンXをイオン結合させてなる、X-MOR型ゼオライトを、多孔性支持体上に成膜させてなる、ゼオライト膜複合体によれば、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することが可能となることを新たに見出した。そして、本発明者は、上述した新たな知見に基づき、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のゼオライト膜複合体は、多孔性支持体と、該多孔性支持体の少なくとも一つの表面に形成されたゼオライト膜と、を含むゼオライト膜複合体であって、前記ゼオライト膜は、X-MOR型ゼオライトよりなり、前記Xは、少なくとも一種の遷移金属イオンを含むことを特徴とする。
このように、カチオンサイトに対して少なくとも一種の遷移金属イオンがイオン結合してなるMOR型ゼオライトよりなるゼオライト膜を有するゼオライト膜複合体によれば、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することができる。
【0010】
また、本発明のゼオライト膜複合体においては、前記遷移金属イオンが、Ruイオン、Ptイオン、及びMoイオンの内の少なくとも一種を含むことが好ましい。このように、カチオンサイトに対してRuイオン、Ptイオン、及びMoイオンの内の少なくとも一種がイオン結合してなるMOR型ゼオライトよりなるゼオライト膜を有するゼオライト膜複合体によれば、分岐鎖状ジオレフィンを一層選択的に分離することができる。
【0011】
また、本発明のゼオライト膜複合体においては、前記遷移金属イオンがRuイオンであることが好ましい。カチオンサイトに対してRuイオンがイオン結合してなるMOR型ゼオライトよりなるゼオライト膜を有するゼオライト膜複合体によれば、分岐鎖状ジオレフィンを一層選択的に分離することができる。
【0012】
さらに、本発明のゼオライト膜複合体においては、前記Ruイオンが3価のRuイオンであることが好ましい。本発明のゼオライト膜複合体において、MOR型ゼオライトのカチオンサイトに対してイオン結合するRuイオンが3価のRuイオンであれば、分岐鎖状ジオレフィンを一層選択的に分離することができる。また、カチオンサイトに対してイオン結合するRuイオンが3価のRuイオンであるゼオライト膜複合体は、製造容易性に優れる。
【0013】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法は、上述した何れかのゼオライト膜複合体を用いて、炭素数nが等しい、分岐鎖状ジオレフィンと、少なくとも一種の、炭素-炭素二重結合の数が1以下である分岐鎖状炭化水素とを含む、分岐鎖状炭化水素混合物から、前記分岐鎖状ジオレフィンを分離する分離工程を含むことを特徴とする。上述した本発明のゼオライト膜複合体を用いて、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物を分離すれば、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することができる。
【0014】
また、本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法においては、前記炭素数nが4又は5であることが好ましい。本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法によれば、共に炭素数が4又は5で等しく、且つ、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することができる。
【0015】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の分岐鎖状ジオレフィンの製造方法は、上述した何れかの分岐鎖状ジオレフィンの分離方法に従って、前記分岐鎖状ジオレフィンを分離することを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することが可能な、ゼオライト膜複合体を提供することができる。
また、本発明によれば、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することが可能な、分岐鎖状ジオレフィンの分離方法を提供することができる。
また、本発明によれば、本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法に従って分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することにより、分岐鎖状ジオレフィンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例及び比較例で用いた試験装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明のゼオライト膜複合体は、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを分離する際に用いられる。
【0019】
(ゼオライト膜複合体)
本発明のゼオライト膜複合体は、多孔性支持体と、該多孔性支持体の少なくとも一つの表面に形成されたゼオライト膜と、を含むゼオライト膜複合体である。特に、かかるゼオライト膜は、X-MOR型ゼオライトよりなる。本明細書において、ゼオライト膜が「X-MOR型ゼオライトよりなる」とは、ゼオライト膜がX-MOR型ゼオライトを含むことを意味し、好ましくは、ゼオライト膜を構成するゼオライトの50質量%超がX-MOR型ゼオライトであり、より好ましくはゼオライト膜を構成する全てのゼオライトが、X-MOR型ゼオライトであることを意味する。また、「X」は、少なくとも一種の遷移金属イオンを含む。ここで、「X-MOR型ゼオライト」とは、MOR型ゼオライトのカチオンサイトに対して、金属イオンXがイオン結合してなるMOR型ゼオライトを意味する。
【0020】
そして、本発明のゼオライト膜複合体は、カチオンサイトに対して少なくとも一種の遷移金属イオンがイオン結合してなるMOR型ゼオライトよりなるゼオライト膜を有するため、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することができる。
【0021】
従来、種々のタイプのゼオライトよりなるゼオライト膜をイオン交換して、ゼオライトのカチオンサイトにイオンを結合させて、ゼオライトの細孔のサイズを所望のサイズとしていた。そして、ゼオライト種及びイオン交換に用いるイオンの組み合わせを種々変更することにより、所望の細孔サイズを有するゼオライト膜を製造することが試みられてきた。分岐鎖状ジオレフィンが、従来膜分離の対象とされてきた直鎖状炭化水素よりも、サイズが大きい。従って、分岐鎖状ジオレフィンを通過させるためには、それに適した細孔サイズのゼオライト膜を採用する必要がある。その一方で、ゼオライトをイオン交換してカチオンサイトに対してあるイオンをイオン結合させた場合には、細孔のサイズがその分小さくなる。
そこで、本発明者が鋭意検討したところ、種々のタイプのゼオライトの中でも、MOR型ゼオライトを採用し、さらに、イオン交換に用いる金属イオンとして、少なくとも一種の遷移金属イオンを採用することで、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することに成功した。その理由は明らかではないが、以下の通りであると推察される。MOR型ゼオライトにイオン結合した遷移金属イオンは、HSAB(Hard and Soft Acids and Bases)理論に従って解釈すると、分岐鎖状ジオレフィンとの親和性が高いと考えられる。このため、これらのイオンがイオン結合してなるX-MOR型ゼオライトと、分岐鎖状ジオレフィンを含む所定の炭化水素混合物とを接触させると、X-MOR型ゼオライトに対してイオン結合している遷移金属イオンに対して、分岐鎖状ジオレフィンが適度な強度で配位結合しうる。そして、一旦、配位結合した分岐鎖状ジオレフィンは、後続して供給されてきた他の分岐鎖状ジオレフィンと容易に置換し得る。そして、配位結合から外れた分岐鎖状ジオレフィンは、ゼオライト膜の細孔を通じて透過側に移動し得る。このような現象が連続的に発生することにより、結果的に、X-MOR型ゼオライトよりなるゼオライト膜を、分岐鎖状ジオレフィンが選択的に透過すると考えられる。さらに、このような傾向は、遷移金属イオンの中でも、Ruイオン、Ptイオン、及びMoイオンに特に顕著となり得ると考えられる。よって、Xとしての遷移金属イオンが、Ruイオン、Ptイオン、及びMoイオンの内の少なくとも一種を含むことが、分岐鎖状ジオレフィンの選択透過性を高める観点から、好ましい。
【0022】
<多孔性支持体>
本発明のゼオライト膜複合体において、ゼオライト膜を少なくとも一つの表面上に支持する多孔性支持体は、複数の細孔を有する多孔質体である。多孔性支持体の形状は、特に限定されることなく、例えば、平膜状、平板状、管状、ハニカム状などの任意の形状とすることができる。また、多孔性支持体の材質は、特に限定されることなく、アルミナ、ムライト、ジルコニア、コージライト、シリコンカーバイド等の多孔質セラミックス;シラスポーラスガラス等のガラス;及びステンレス鋼等の多孔質焼結金属からなる多孔質体である支持体上に配置されてなる。そして、多孔性支持体の平均細孔径は、例えば、100nm以上5μm以下でありうる。
【0023】
<ゼオライト膜>
ゼオライト膜は、X-MOR型ゼオライトが成膜されてなる膜である。MOR型ゼオライトは、モルデナイト(Mordenite:MOR)型の結晶構造を有するゼオライトである。MOR型の結晶構造は、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)の提供するデータベースにて定義されている。
【0024】
そして、ゼオライト膜の膜厚は、例えば、1μm以上50μm以下でありうる。ゼオライト膜の膜厚が上記範囲内であるゼオライト膜複合体によれば、分岐鎖状ジオレフィンを一層選択的に分離することができる。
ここで、「ゼオライト膜の膜厚」は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。また、ゼオライト膜の膜厚は、例えば、ゼオライト膜の形成に用いる種結晶の平均粒子径や、ゼオライトの合成条件(例えば、温度及び時間)等を調整することにより制御することができる。
【0025】
<金属イオンX>
金属イオンXは、MOR型ゼオライトのカチオンサイトに対してイオン結合して存在する。そして、金属イオンXは、少なくとも一種の遷移金属イオンを含む。
【0026】
なお、遷移金属イオンの中でも従来から炭化水素を分離するために用いられるゼオライト膜複合体のゼオライト膜のイオン交換に汎用されてきたAgイオン、Cuイオン、及びAuイオン、並びに、種々のアルカリ金属イオン等は、分離対象物がアセチレンを含有する場合には、爆発性を有するアセチリドを形成する可能性があった。例えば、石油精製工程で種々の精製操作を経て得られた、炭化水素混合物を分離対象物とする場合に、アセチレンが含有されることがある。従って、従来は、石油精製工程における特定段階での精製操作では、ゼオライト膜複合体を用いた分離方法を適用することが難しかった。しかし、金属イオンXとしての遷移金属イオンが、Ruイオン、Ptイオン、及びMoイオンは、アセチリドを形成しない。従って、本発明のゼオライト膜複合体において、金属イオンXとしてRuイオン、Ptイオン、及びMoイオンのうちの何れかを用いた場合には、従来は膜分離による分離方法を適用することが出来なかった石油精製工程における特定段階での精製操作にも、膜分離による分離操作を適用することが可能となる。
【0027】
そして、遷移金属イオンの中でも、金属イオンXとしての遷移金属イオンがRuイオンを含むことが好ましく、3価のRuイオンを含むことがより好ましい。Ruイオン、特には、3価のRuイオンがカチオンサイトに対してイオン結合してなるMOR型ゼオライトよりなるゼオライト膜を含むゼオライト膜複合体によれば、分岐鎖状ジオレフィンを一層選択的に分離することができる。なお、Ruイオンは、理論的には2価のものも想定することができるが、2価のRuイオンをカチオンサイトにイオン結合させるために用い得る化合物よりも、3価のRuイオンをカチオンサイトにイオン結合させるために用い得る化合物の方が入手容易である。このため、金属イオンXとして3価のRuイオンを含むゼオライト膜複合体は、製造容易性にも優れる。
【0028】
<ゼオライト膜複合体の製造方法>
上述した性状のゼオライト膜を有する本発明のゼオライト膜複合体は、多孔性支持体に対してゼオライト種結晶を付着させて、種結晶付着済支持体を得る種結晶付着工程と、種結晶付着済支持体上にゼオライトからなるゼオライト膜を形成するゼオライト膜形成工程と、ゼオライト膜をイオン交換処理するイオン交換工程と、を経て製造することができる。
各工程における操作は、特に限定されることなく、既知のゼオライト膜の製膜方法に従うことができる。
【0029】
<種結晶付着工程>
種結晶付着工程では、塗布又は擦り込み等の既知の手法を用いてゼオライト種結晶を多孔性支持体に付着(担持)させることができる。より具体的には、種結晶付着工程では、MOR型ゼオライト種結晶を水中に分散させて得た分散液を多孔性支持体に塗布し、塗布した分散液を乾燥することにより、MOR型ゼオライト種結晶を多孔性支持体に付着させることができる。
【0030】
なお、MOR型ゼオライト種結晶は、市販のMOR型ゼオライトを用いても良いし、既知の方法に従って調製しても良い。なお、必要に応じて、MOR型ゼオライトを微粉化する等しても良い。
【0031】
<ゼオライト膜形成工程>
ゼオライト膜形成工程では、MOR型ゼオライト種結晶を付着させた多孔性支持体を、シリカ源、鉱化剤、及びアルミニウム源等を含む水性ゾルに浸漬し、水熱合成によりMOR型ゼオライトを含むゼオライト膜を合成する。なお、ゼオライト膜形成工程において得られたゼオライト膜を有する多孔性支持体には、任意に、煮沸洗浄操作及び焼成操作を施してもよい。
【0032】
シリカ源としては、特に限定されることなく、例えば、コロイダルシリカ、湿式シリカ、無定形シリカ、ヒュームドシリカ、ケイ酸ナトリウム、シリカゾル、シリカゲル、カオリナイト、珪藻土、ホワイトカーボン、テトラブトキシシラン、テトラブチルオルソシリケート、テトラエトキシシラン等が挙げられる。中でも、コロイダルシリカを好適に用いることができる。
【0033】
鉱化剤としては、特に限定されることなく、例えば、NaOH等が挙げられる。
【0034】
アルミニウム源としては、特に限定されることなく、例えば、NaAlO2及びAl(OH)3が挙げられる。中でも、NaAlO2を好適に用いることができる。
【0035】
ゼオライト膜形成工程において用いる水性ゾルを調製する際の各種配合剤の配合比は、特に限定されないが、中でも、シリカ源:アルミニウム源の配合比が、モル比で、「1:0.003~0.1」であることが好ましい。
【0036】
<<浸漬>>
MOR型ゼオライト種結晶を付着させた多孔性支持体を水性ゾルに浸漬する方法は、特に限定されないが、例えば、MOR型ゼオライト種結晶を付着させた多孔性支持体を収容した耐圧容器に水性ゾルを入れる方法などが挙げられる。或いは、水性ゾルを収容した耐圧容器にMOR型ゼオライト種結晶を付着させた多孔性支持体を入れる方法を採用してもよい。
【0037】
<<水熱合成>>
MOR型ゼオライト種結晶を付着させた多孔性支持体が浸漬された水性ゾルを加熱し、水熱合成によりMOR型ゼオライトを合成して多孔性支持体上にゼオライト膜を形成する際の加熱温度は、好ましくは100℃以上250℃以下、より好ましくは150℃以上200℃以下である。また、加熱時間は、好ましくは1時間以上50時間以下、より好ましくは2時間以上20時間以下である。なお、耐圧容器中の水性ゾル及び多孔性支持体を加熱する方法としては、耐圧容器を熱風乾燥器に入れて加熱する方法や、耐圧容器にヒーターを直接取り付けて加熱する方法などが挙げられる。なお、水熱合成が完了した後に、得られたゼオライト膜を有する多孔性支持体を、ブラッシングしても良い。ブラッシングにより、水熱合成の結果得られたゼオライト膜に付着している非晶質体を除去することができる。ブラッシングを行うことで、ゼオライト膜による分離の選択性を一層高めることができる。
【0038】
<<煮沸洗浄操作>>
上記のようにして得られたゼオライト膜を有する多孔性支持体を煮沸洗浄する際の洗浄液としては、たとえば、蒸留水を用いることができる。また、煮沸洗浄時間は、好ましくは10分以上2時間以下であり、より好ましくは30分以上1.5時間以下である。また、煮沸洗浄は、複数回(例えば、2~3回)行ってもよく、煮沸洗浄を複数回実施する場合における煮沸洗浄条件は、互いに同一としてもよいし、それぞれ異なるものとしてもよい。更に、煮沸洗浄を行った後、必要に応じて乾燥処理を行ってもよく、煮沸洗浄後のゼオライト膜を有する多孔性支持体の乾燥温度は、好ましくは70℃以上であり、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは180℃以下である。また、乾燥時間は、例えば、1時間以上48時間以下であり得る。
【0039】
<イオン交換工程>
イオン交換工程では、多孔性支持体上に形成されたゼオライト膜を、イオン交換処理してカチオンサイトに対して所望の金属イオンXをイオン結合させる。イオン交換処理は、例えば、所望の金属イオンXを含む溶液に対して、ゼオライト膜を浸漬させることにより、行うことが出来る。更に、浸漬後に、任意で、洗浄操作及び減圧乾燥操作を行い得る。
【0040】
金属イオンXを含む溶液は、金属イオンXを含む化合物を蒸留水又は超純水等に対して溶解してなる溶液が挙げられる。溶液の調製に用いる金属イオンXを含む化合物としては、特に限定されることなく、例えば、RuCl3、Ru(NH3)6Cl3等が挙げられる。そして、金属イオンXを含む溶液に対してゼオライト膜の浸漬する際の温度は、特に限定されることなく、例えば、10℃以上100℃以下であり得る。
【0041】
(分岐鎖状ジオレフィンの分離方法)
本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法では、上述した本発明のゼオライト膜複合体を用いて、炭素数nが等しい、分岐鎖状ジオレフィンと、少なくとも一種の、炭素-炭素二重結合の数が1以下である分岐鎖状炭化水素とを含む、分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを分離する分離工程を実施する。本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法では、本発明のゼオライト膜複合体を用いて、分岐鎖状炭化水素混合物を分離するので、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することができる。さらに、本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法において分離対象物とする分岐鎖状炭化水素混合物の炭素数nが、4又は5であることが好ましい。
【0042】
<分岐鎖状炭化水素混合物>
分岐鎖状炭化水素混合物は、互いに炭素数nの等しい、分岐鎖状ジオレフィン、分岐鎖状モノオレフィン、及び分岐鎖状アルカン、並びに、その他の炭化水素を含みうる。なお、炭素数nは整数であり、好ましくは4又は5であり、より好ましくは5である。より詳細には、分岐鎖状炭化水素混合物は、炭素数nの分岐鎖状ジオレフィンと、炭素数nの分岐鎖状モノオレフィン及び炭素数nの分岐鎖状アルカンの少なくとも一方と、を主成分として含み、任意の炭素数の炭化水素を更に含む場合がある。なお、本明細書において、分岐鎖状炭化水素混合物が「炭素数nの分岐鎖状ジオレフィンと、炭素数nの分岐鎖状モノオレフィン及び炭素数nの分岐鎖状アルカンの少なくとも一方と、を主成分として含む」とは、炭素数nの分岐鎖状ジオレフィンと、炭素数nの分岐鎖状モノオレフィン及び炭素数nの分岐鎖状アルカンの少なくとも一方と、を合計で50質量%以上含有することを指す。例えば、分岐鎖状炭化水素混合物の炭素数nが5である場合には、分岐鎖状炭化水素混合物は、イソプレン(炭素-炭素二重結合の数:2)を含み、イソペンタン(炭素-炭素二重結合の数:0)、並びに、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、3-メチル-1-ブテン等の炭素-炭素二重結合の数が1つの化合物の何れか、の少なくとも一方をさらに含み、これらの合計割合が、分岐鎖状炭化水素混合物全体の50質量%以上であり得る。
【0043】
<分離工程>
そして、本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法の分離工程では、上記のような分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを分離する。なお、分離工程は、特に限定されることなく、蒸気透過法(Vapor Permeation法:VP法)及び浸透気化法(PerVaporation法:PV法)等に従って実施することができる。また、分離工程は、加温条件下で行うことが好ましい。具体的には、分離工程は、好ましくは20℃以上300℃以下、より好ましくは25℃以上250℃以下、さらに好ましくは50℃以上200℃以下の条件下で行うことができる。
【0044】
さらに、分離工程は、繰り返し実施してもよい。即ち、m回めの分離工程により得られた分離物を、(m+1)回めの分離工程に供してもよい。このように、得られた分離物を更なる分離工程の分離対象物として供することで、単回の分離工程にて達成可能な分離選択性よりも、総合して高い分離選択性を発揮することが可能となる。分離工程を繰り返し実施する回数は、例えば、本明細書の実施例に記載した方法により算出可能な分離係数αに応じて、任意に設定することができる。
【0045】
(分岐鎖状ジオレフィンの製造方法)
本発明の分岐鎖状ジオレフィンの製造方法は、上述した本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法に従って、所定の分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを分離することを含む。本発明の分岐鎖状ジオレフィンの製造方法では、膜分離により分岐鎖状ジオレフィンを分離することができるので、従来的な方法よりも低エネルギーで、即ち、効率的に分岐鎖状ジオレフィンを製造することが可能になる。所定の分岐鎖状炭化水素混合物は、上述したように、炭素数nが等しい、分岐鎖状ジオレフィンと、少なくとも一種の、炭素-炭素二重結合の数が1以下である分岐鎖状炭化水素とを含む混合物である。また、かかる混合物の詳細は、<分岐鎖状炭化水素混合物>の項目にて詳述した通りである。さらに、分岐鎖状ジオレフィンの分離にあたり、<分離工程>の項目にて詳述した操作を好適に実施することができる。そして、本発明の分岐鎖状ジオレフィンの製造方法は、分離工程の後段に、得られた分岐鎖状ジオレフィンを精製する精製工程を実施しても良い。実施し得る精製工程としては、特に限定されないが、例えば、蒸留法又はクロマト分離法に従う工程が挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」等は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例及び比較例において、得られたゼオライト膜複合体の解析は下記の方法で実施し、ゼオライト膜複合体の分離性能は下記の方法で算出した。
【0047】
<ゼオライト膜複合体の解析>
<<X線回折パターン>>
X線回折装置(Bruker AXS製、Discover D8)を使用して多孔性分離層のX線回折パターンを得た。測定条件は、X線源:Cu-Kα線、波長λ:1.54Å、管電圧:30kV、管電流:15mA、出力:0.9kW、入光スリット:縦1.0mm×横1.0mm、受光スリット:ソーラースリット(角度分解能0.35deg)、検出器:シンチレーションカウンター、測定速度:0.01deg/秒、である。
<<SEM-EDX分析>>
実施例、比較例で得られたゼオライト膜複合体のゼオライト膜のカチオンサイトにイオン結合したイオンについて、SEM-EDX(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法:Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)分析法に従って分析した。分析条件は以下の通りであった。
SEM本体:日立ハイテクノロジーズ製、「S-3400N EDX」
検出器:Bruker製、「XFlash Detector 4010」
加速電圧:15kV
電流:60~90μA
倍率:3k
ICR:1.5kcps
【0048】
<ゼオライト膜複合体の分離性能>
分離試験の結果から、下記式(I)を用いて透過流束Fを算出した。また、下記式(II)を用いて分離係数αを算出した。なお、分離対象物としては、イソペンタン(炭素数5の分岐鎖状アルカン)とイソプレン(炭素数5の分岐鎖状ジオレフィン)とを含む炭化水素混合物を用いた。
F=W/(A×t) ・・・(I)
α=(Yd/Ya)/(Xd/Xa)・・・(II)
なお、式(I)中、Wは、ゼオライト膜複合体を透過した成分の質量[kg]であり、Aは、ゼオライト膜複合体の有効面積[m2]であり、tは、処理時間[時間]である。また、式(II)中、Ydは、透過側サンプル中のイソプレンの含有割合[質量%]であり、Yaは、透過側サンプル中のイソペンタンの含有割合[質量%]であり、Xdは、分離対象物中のイソプレンの含有割合[質量%]であり、Xaは、分離対象物中のイソペンタンの含有割合[質量%]である。
なお、分離係数αの値が大きい程、ゼオライト膜複合体のイソプレン選択性が高いことを意味する。
【0049】
(実施例1)
<種結晶付着工程>
MOR型ゼオライト種結晶(東ソー社製、NSZ-642NAA)を多孔性支持体としての管状多孔質α-アルミナ支持体(外径:2.5mm、平均細孔径:150nm)に対して塗布法にて塗布し、乾燥させて、MOR型ゼオライト種結晶を付着させた多孔性支持体(以下、「種結晶付き支持体」)を得た。
<ゼオライト膜形成工程>
鉱化剤としてのNaOHを2.16g、アルミニウム源としてのNaAlO2を0.09g、シリカ源としてのコロイダルシリカを20.13g、及び超純水34.77gを50℃で4時間にわたり撹拌し、ゼオライト膜形成用の水性ゾルを得た。なお、かかる水性ゾルの組成は、モル比で、SiO2:Na2O:Al2O3:H2O=36:10:0.2:960であった。
そして、このようにして得られた水性ゾルを耐圧合成容器内に入れた。次に、<種結晶付着工程>で得られた種結晶付き支持体シリカライトを、耐圧合成容器内の水性ゾルに対して浸漬して、165℃で6時間反応(水熱合成)させて、多孔性支持体上にゼオライト膜を形成した。そして、得られたゼオライト膜を有する多孔性支持体をブラッシングした後に、沸騰させた蒸留水で60分間煮沸洗浄した。その後、ゼオライト膜を有する多孔性支持体を85℃の恒温乾燥器で12時間乾燥させた。
<イオン交換工程>
そして、上記工程で得られたゼオライト膜を有する多孔性支持体を、濃度0.005MのRuCl3水溶液に対して浸漬して、50℃で3時間保持し、イオン交換した。得られたイオン交換済みのゼオライト膜を有する多孔性支持体を、水洗いしてから85℃で12時間乾燥して、ゼオライト膜複合体を得た。
【0050】
そして、上記工程を経て得られたゼオライト膜複合体について、ゼオライト膜のX線回折測定を行い、X線回折パターンを得た。得られたX線回折パターンより、ゼオライト膜がMOR型構造を有していることが確認された。さらに、SEM-EDX分析の結果、得られたMOR型ゼオライト膜のカチオンサイトに対して、Ruイオンがイオン結合していることを確認した。
【0051】
<分離試験>
また、上記にて得られたゼオライト膜複合体を使用し、
図1に示すような試験装置1を用いて、分離試験を行った。
【0052】
<<試験装置>>
図1に示す試験装置1は、原料タンク2と、ゼオライト膜複合体3と、コールドトラップ4とを備えている。また、試験装置1は、コールドトラップ4の下流に、減圧ポンプ5を備えている。原料タンク2は、外部の温度を調整することにより、内部の圧力が、圧力計6が示す圧力にコントロールされる。さらに、原料タンク2内のゼオライト膜複合体3は、図示しない制御機構により、液相又は気相の炭化水素混合物7の何れかに接するように、移動される。
図1に示すゼオライト膜複合体3は管状体であり、ゼオライト膜を選択的に透過してきた成分が管内部に侵入する。
【0053】
ここで、試験装置1においては、減圧ポンプ5によりゼオライト膜複合体3の透過側は減圧状態とされており、ゼオライト膜複合体3を透過した成分は、コールドトラップ4へと送られる。そして、コールドトラップ4にて冷却され再び液相となった透過成分を、透過側のサンプルとして抽出することができる。
【0054】
<<膜分離>>
図1に示す試験装置1を用いた分離試験は、以下のようにして実施した。
具体的には、まず、イソプレン及びイソペンタンをそれぞれ50質量%ずつ含有する炭化水素混合物を、原料タンク2に充填し、図示しない加熱機構により70℃に加温した。また、図示しない制御機構によりゼオライト膜複合体3を移動させて、液相の炭化水素混合物がゼオライト膜複合体3に接触するようにした。そして、コールドトラップ4の下流側に配置された減圧ポンプ5により透過側を減圧状態(3kPaA)とした。即ち、実施例1では、分離工程を浸透気化法(PV法)に従って行った場合の、分離性能について評価した。ゼオライト膜複合体3を透過した透過成分(気相)を、コールドトラップ4にて冷却して再度液相として、分離開始時点から30分間に透過した透過成分をサンプリングした。採取された透過側のサンプルについて、質量を測定するとともに、ガスクロマトグラフにてイソプレン及びイソペンタンの濃度(質量%)を測定した。そして、それらの測定値を用いて分離係数α、及び透過流束Fの値を求めた。結果を表1に示す。
【0055】
(実施例2)
分離工程を蒸気透過法(VP法)に従って行った場合の、分離性能について評価した。具体的な操作としては、<<膜分離>>の操作において、図示しない制御機構によりゼオライト膜複合体3を移動させて、気相の炭化水素混合物がゼオライト膜複合体3に接触するようにした。かかる点以外は実施例1と同様にして、分離試験を行い、分離係数α、及び透過流束Fの値を求めた。結果を表1に示す。
【0056】
(比較例1)
<イオン交換工程>を行わなかった以外は実施例1と同様にして、ゼオライト膜複合体を得て、得られたゼオライト膜複合体を用いて、実施例1と同様の分離試験を行った。言い換えると、比較例1では、MOR型ゼオライト膜のカチオンサイトに対して、3価のRuイオンがイオン結合しておらず、Naイオンがイオン結合してなるゼオライト膜複合体を用いて、PV法に従う分離試験を行った。得られた分離係数α、及び透過流束Fの値を、表1に示す。また、得られたゼオライト膜複合体について、上記に従って分析したところ、Na-MOR型であった。
【0057】
【0058】
表1に示したように、Ru-MOR型ゼオライトよりなるゼオライト膜を有する実施例1及び2のゼオライト膜複合体を用いた場合に、分離係数αの値が大きく、イソプレン及びイソペンタンを含む分岐鎖状炭化水素混合物から、イソプレン(分岐鎖状ジオレフィン)を選択的に分離することができたことが分かる。一方、イオン交換していないMOR型ゼオライト(Na-MOR型ゼオライト)よりなるゼオライト膜を有する比較例1のゼオライト膜複合体を用いた場合には、分離係数αの値が実施例よりも小さく、イソプレンを選択的に分離することができなかったことが分かる。
なお、透過流束Fは、実施例1~2よりも比較例1の方が高いが、分離係数αを透過流束Fに対して乗じて得た指数(F×α)の値は、実施例1~2の方が比較例1よりも大きく、所望の分岐鎖状ジオレフィンを効率的に分離するという性能に関しては、実施例1~2の方が比較例1よりも優れていたことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することが可能な、ゼオライト膜複合体を提供することができる。
また、本発明によれば、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することが可能な、分岐鎖状ジオレフィンの分離方法を提供することができる。
また、本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法に従って分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することにより、分岐鎖状ジオレフィンを製造することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 試験装置
2 原料タンク
3 ゼオライト膜複合体
4 コールドトラップ
5 減圧ポンプ
6 圧力計
7 炭化水素混合物