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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】液状組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20240409BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240409BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C08L27/18
C08L79/08
C08L71/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021522768
(86)(22)【出願日】2020-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2020020648
(87)【国際公開番号】W WO2020241607
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019100401
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019120225
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019183975
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019183974
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019214974
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】光永 敦美
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
(72)【発明者】
【氏名】寺田 達也
(72)【発明者】
【氏名】結城 創太
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-034289(JP,A)
【文献】特開2018-002980(JP,A)
【文献】特開2018-141053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/00-27/24
C08L 79/00-79/08
C08L 71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、結着樹脂と、液状分散媒とを含み、前記結着樹脂が、前記液状分散媒に可溶でかつ20%重量減少温度が260℃以上の、芳香族ポリアミドイミド又は芳香族ポリイミドであり、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記結着樹脂の含有量の質量比が、0.001以上0.05以下である、液状組成物。
【請求項2】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーであり、かつ、前記結着樹脂のガラス転移点が前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度以下である、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量が10~50質量%である、請求項1又は2に記載の液状組成物。
【請求項4】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含む、溶融温度が260~320℃のテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1~3のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項5】
前記芳香族ポリイミドが、芳香族テトラカルボン酸の酸二無水物と、2個以上のアリーレン基が連結基を介して連結された構造を有する芳香族ジアミン、又は、脂肪族ジアミンとに基づく単位を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項6】
水酸基及びオキシアルキレン基を有する界面活性剤をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の液状組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと所定の芳香族ポリマーを含む液状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のテトラフルオロエチレン系ポリマーは、耐薬品性、撥水撥油性、耐熱性、電気特性等の物性に優れており、その物性を活用して、種々の産業用途に利用されている。
テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを含有する液状組成物は、各種基材の表面に塗布すれば、その表面にテトラフルオロエチレン系ポリマーに基づく物性を有する成形物を形成できる。
このため、かかる液状組成物は、高周波信号を伝送するプリント配線基板に用いる、金属箔の表面に絶縁ポリマー層を有するポリマー層付金属箔の材料として有用である(特許文献1及び2参照)。
【0003】
また、かかる液状組成物に、機能性材料をさらに配合して、それから形成される成形品の物性を向上させる試みがなされている。しかし、テトラフルオロエチレン系ポリマーは、表面張力が低く、他の成分と相互作用しにくい。
このため、かかる液状組成物に、各種の機能性材料を配合すると、その分散性がさらに低下して、使用に耐えなくなりやすい。
特許文献3、4には、かかる液状組成物にポリイミド前駆体のワニスを主成分として配合する際に、予め、液状組成物に疎水性の高いフッ素系添加剤を配合し、その含水量をコントロールして、ワニス配合後の液状組成物の分散性を向上させる提案がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/159102号
【文献】特開2017-078102号公報
【文献】特開2017-066327号公報
【文献】特開2016-210886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むプリント基板の作製に際して、特に、その伝送損失を抑制するために、表面粗さの低い金属箔(低粗化金属箔)の使用が検討されている。その際の絶縁ポリマー層には、電気特性に加え、金属箔との強固な密着性が、後の加工における不具合(剥がれ、膨れ、反り等)を抑制する観点から、一層求められる。
【0006】
テトラフルオロエチレン系ポリマーは、電気特性(低誘電率、低誘電正接等)や耐熱性(そのポリマー層付金属箔を加工する際の半田リフロー工程に耐える耐熱性等)に優れる反面、その表面張力の低さにより、金属との接着性が乏しい。特に、低粗化金属箔を用いたポリマー層付金属箔のポリマー層とする場合、ポリマー層と銅箔との間の物理的な接着効果(アンカー効果)が低下するため、両者を強固に密着させるのが一層むずかしい。さらに、テトラフルオロエチレン系ポリマーの線膨張係数は、金属のそれに比較して概して高く、そのポリマー層付金属箔は、加工における加熱に際して、不具合(剥がれ、膨れ、反り)が発生しやすい。
【0007】
そして、本発明者らは、低粗化金属箔とテトラフルオロエチレン系ポリマーを含む層とをこの順に有するポリマー層付金属箔において、その電気特性を損なわずに両者を強固に密着させ、加熱に対する不具合を抑制するのが、一層困難になる課題を知見している。
本発明は、かかる課題を解決し、ポリマー層付金属箔を容易に製造できる、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを含む液状組成物の提供を目的とする。
【0008】
また、本発明者らの検討によれば、特許文献3、4の態様における、ワニス配合後の液状組成物の分散性は未だ充分ではない。特に、テトラフルオロエチレン系ポリマーの量が多いと、その分散性が顕著に低下しやすい。それから形成される成形品中でのテトラフルオロエチレン系ポリマーの分散状態や、その物性も未だ充分ではない。
また、特許文献4の態様の液状組成物から薄い成形品(薄膜等)を形成する場合、欠陥が形成されやすく、緻密な薄膜が得られない。
本発明者らは、イミド化が進行していないポリアミック酸(ポリイミド前駆体)ではなく、イミド化が進行した所定のポリイミドを使用すれば、その液状組成物における分散性が向上する点と、それから形成される層の物性が向上する、特にテトラフルオロエチレン系ポリマーの物性が高度に発現する点とを知見した。
【0009】
また、本発明者らは、親水性が所定の範囲にある界面活性剤を使用すれば、液状組成物の分散性が向上する点と、それから形成される層の物性が向上する、特にテトラフルオロエチレン系ポリマーの物性が高度に発現する点とを知見した。
さらに、本発明者らは、液状組成物に所定量の水を敢えて含有させれば、緻密なポリマー層を形成し得る点と、この場合、テトラフルオロエチレン系ポリマーの物性を強く発現させるために液状組成物に含まれるテトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量を高くしても、緻密なポリマー層を形成し得る点とを知見した。
本発明は、かかる知見に基づく発明であり、分散性に優れ、緻密なポリマー層を形成し得る液状組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダー、液状分散媒、及び、主鎖にアミド構造、イミド構造又はエステル構造を有する、前記液状分散媒に可溶な芳香族ポリマーを含む、液状組成物。
[2] テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、結着樹脂と、液状分散媒とを含み、前記結着樹脂が、前記液状分散媒に可溶でかつ20%重量減少温度が260℃以上の、芳香族ポリアミドイミド又は芳香族ポリイミドである、液状組成物。
[3] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記結着樹脂の含有量の質量比が、0.05以下である、[2]の液状組成物。
[4] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーであり、かつ、前記結着樹脂のガラス転移点が前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度以下である、[2]又は[3]の液状組成物。
[5] テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、イミド化率が1%以上の芳香族ポリイミドと、非プロトン性極性液状分散媒とを含む、液状組成物。
[6] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量が10~50質量%であり、前記芳香族ポリイミドの含有量が0.01~50質量%である、[5]の液状組成物。
[7] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含む、溶融温度が260~320℃のテトラフルオロエチレン系ポリマーである、[5]又は[6]の液状組成物。
[8] 前記芳香族ポリイミドが、芳香族テトラカルボン酸の酸二無水物と、2個以上のアリーレン基が連結基を介して連結された構造を有する芳香族ジアミン、又は、脂肪族ジアミンとに基づく単位を含む、[5]~[7]のいずれかの液状組成物。
[9] テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、芳香族ポリアミドイミド、芳香族ポリイミド及び芳香族ポリエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族ポリマー又はその前駆体と、水酸基及びオキシアルキレン基を有する界面活性剤と、非プロトン性極性液状分散媒とを含み、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量が前記芳香族ポリマー又はその前駆体の含有量以上であり、前記界面活性剤の水酸基価が100mgKOH/g以下かつ前記オキシアルキレン基の含有量が10質量%以上である、液状組成物。
[10] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量が10~50質量%であり、前記芳香族ポリマー又はその前駆体の含有量が0.01~50質量%である、[9]の液状組成物。
[11] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含む、溶融温度が260~320℃のテトラフルオロエチレン系ポリマーである、[9]又は[10]の液状組成物。
[12] 前記界面活性剤が、さらに、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基を有する、[9]~[11]のいずれかの液状組成物。
[13] テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、芳香族ポリイミド又はその前駆体と、非水系液状分散媒とを含み、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量が10質量%以上であり、かつ、含水量が1000~50000ppmである、液状組成物。
[14] 前記芳香族ポリイミド又はその前駆体の含有量が、10質量%以上である、[13]の液状組成物。
[15] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含むテトラフルオロエチレン系ポリマーである、[13]又は[14]の液状組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分散性に優れ、接着性及び高度なテトラフルオロエチレン系ポリマー物性を具備した緻密な成形物を形成できる、液状組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「パウダーの平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められる、パウダーの体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によってパウダーの粒度分布を測定し、その粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「パウダーのD90」は、同様にして求められる、パウダーの体積基準累積90%径である。
パウダーの粒径は、パウダーを水中に分散させ、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920測定器)を用いて測定できる。
「ポリマーの溶融粘度」は、ASTM D 1238に準拠し、フローテスター及び2Φ-8Lのダイを用い、予め測定温度にて5分間加熱しておいたポリマーの試料(2g)を0.7MPaの荷重にて測定温度に保持して測定した値である。
「ポリマーの溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ポリマーのガラス転移点」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「粘度」は、B型粘度計を用いて、室温下(25℃)で回転数が30rpmの条件下で測定される液の粘度である。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「チキソ比」とは、回転数が30rpmの条件で測定される液の粘度η1を回転数が60rpmの条件で測定される液の粘度η2で除して算出される値(η1/η2)である。
「十点平均粗さ(Rzjis)」は、JIS B 0601:2013の附属書JAで規定される値である。
ポリマーにおける「単位」は、重合反応によってモノマーから直接形成された原子団であってもよく、重合反応によって得られたポリマーを所定の方法で処理して、構造の一部が変換された原子団であってもよい。ポリマーに含まれる、モノマーAに基づく単位を、単に「モノマーA単位」とも記す。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートとの総称である。
「重量平均分子量(Mw)」は、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されたポリマーの標準ポリスチレン換算値である。
【0013】
本発明の液状組成物(本組成物)は、テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)のパウダー(以下、「Fパウダー」とも記す。)、液状分散媒、及び、主鎖にアミド構造、イミド構造又はエステル構造を有する、上記液状分散媒に可溶な芳香族ポリマー(以下、「芳香族ポリマー」とも記す。)を含む。
本組成物は、芳香族ポリマーのワニスにFパウダーが高度に分散した分散液であるとも言える。芳香族ポリマーは、Fポリマーとは異なる化合物であり、液状分散媒に対する25℃における溶解度(g/液状分散媒100g)が5以上の化合物であるのが好ましい。なお、芳香族ポリマーの溶解度は、30以下であるのが好ましい。
【0014】
本組成物の第1の態様(以下、本組成物(1)とも記す。)としては、Fパウダーと、結着樹脂と、液状分散媒とを含み、上記結着樹脂が、上記液状分散媒に可溶でかつ20%重量減少温度が260℃以上の、芳香族ポリアミドイミド又は芳香族ポリイミドである、態様が挙げられる。
本組成物(1)から形成される層(塗膜)(成形品等の態様を含む。)(以下、単に「層(塗膜)」とも記す。)が、基材密着性及び表面平滑性に優れる理由は、必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
【0015】
本組成物(1)において、層(塗膜)の形成は、Fパウダーのパッキングと、Fポリマーの焼成(通常、260℃以上の温度での加熱)とによって進行する。パッキングに際して、結着樹脂は、Fパウダーに結着して、Fパウダーの粉落ちを抑制する効果を発現する。分子同士の間の相互作用が低いFポリマーを使用する本発明において、かかる効果は大きいと考えられる。
一方、焼成に際して、結着樹脂は、層(塗膜)の性状や物性を低下させ得る。具体的には、結着樹脂の分解に伴う残渣(分解ガス)や結着樹脂自体の反応に伴う副生物(水、炭酸ガス等)が、形成される層(塗膜)の界面を荒らしやすい点を、本発明者らは知見している。特に、層(塗膜)が形成される基材の平滑性が高い場合、かかる荒れが、層(塗膜)と基材との密着性を顕著に低下させる点を、本発明者らは知見している。
本発明者らは、鋭意検討の結果、所定の結着樹脂を用いれば、かかる密着性の低下を抑制しつつ、Fポリマーが有する元来の物性をも損なわずに、容易に層(塗膜)を形成できる点を知見して、本発明を完成したのである。
【0016】
本組成物(1)におけるFポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位(TFE単位)を含むポリマーである。Fポリマーは、TFEのホモポリマーであってもよく、TFEと、TFEと他のコモノマーとのコポリマーであってもよい。また、Fポリマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
Fポリマーは、ポリマーを構成する全単位に対して、TFE単位を90~100モル%含むのが好ましい。また、Fポリマーのフッ素含有量は、70~76質量%が好ましく、72~76質量%がより好ましい。
【0017】
Fポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、TFEとエチレンとのコポリマー(ETFE)、TFEとプロピレンとのコポリマー、TFEとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)とのコポリマー(PFA)、TFEとヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマー(FEP)、TFEとフルオロアルキルエチレン(FAE)とのコポリマー、TFEとクロロトリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマーが挙げられる。コポリマーは、さらに他のコモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。
なお、PTFEとしては、フィブリル性を有する高分子量PTFE、低分子量PTFE、変性PTFEが挙げられる。また、低分子量PTFE又は変性PTFEには、TFEと極微量のコモノマー(HFP、PAVE、FAE等)とのコポリマーも包含される。
【0018】
Fポリマーは、TFE単位及び官能基を有するのが好ましい。官能基は、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基又はイソシアネート基が好ましい。
官能基は、Fポリマー中の単位に含まれていてもよく、ポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよい。また、Fポリマーを、プラズマ処理や電離線処理して得られる、官能基を有するFポリマーも使用できる。
官能基を有するFポリマーは、本組成物(1)中におけるFパウダーの分散性の観点から、TFE単位及び官能基を有する単位を有するFポリマーが好ましい。官能基を有する単位は、官能基を有するモノマーに基づく単位が好ましく、上述した官能基を有するモノマーに基づく単位がより好ましい。
【0019】
官能基を有するモノマーは、酸無水物残基を有するモノマーが好ましく、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸;以下、「NAH」とも記す。)又は無水マレイン酸がより好ましい。
官能基を有するFポリマーの好適な具体例としては、TFE単位と、HFP単位、PAVE単位又はFAE単位と、官能基を有する単位とを有するFポリマーが挙げられる。
PAVEとしては、CF=CFOCF(PMVE)、CF=CFOCFCF、CF=CFOCFCFCF(PPVE)が挙げられる。
FAEとしては、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CF(CFH、CH=CF(CFHが挙げられる。
【0020】
かかるFポリマーの具体例として、ポリマーを構成する全単位に対して、TFE単位を90~99モル%、HFP単位、PAVE単位又はFAE単位を0.5~9.97モル%、官能基を有する単位を0.01~3モル%、それぞれ含有するFポリマーが挙げられる。かかるFポリマーの具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0021】
Fポリマーは、熱溶融性であるのが好ましい。
Fポリマーの380℃における溶融粘度は、1×10~1×10Pa・sが好ましく、1×10~1×10Pa・sがより好ましい。
Fポリマーの溶融温度は、200~320℃が好ましく、260~320℃がより好ましい。かかるFポリマーを使用すれば、緻密かつ密着性に優れた層(塗膜)が形成されやすい。また、層(塗膜)の形成における加熱において、Fポリマーと結着樹脂とが高度に流動して、層(塗膜)の物性が向上しやすい。
【0022】
本組成物(1)におけるFパウダーのD50は、0.05~8μmが好ましく、0.1~6.0μmがより好ましく、0.2~3.0μmがさらに好ましい。
FパウダーのD90は、10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、6μm以下がさらに好ましい。この範囲のD50及びD90において、Fパウダーの流動性と分散性とが良好となり、層(塗膜)の電気物性や耐熱性がより発現しやすい。
Fパウダーは、Fポリマー以外の樹脂を含んでいてもよいが、Fポリマーを主成分とするのが好ましく、Fポリマーからなるのがより好ましい。パウダーにおけるFポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
上記樹脂としては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシドが挙げられる。
【0023】
本組成物(1)における液状分散媒は、25℃で液状の不活性かつFパウダーと反応しないFパウダーを分散させる液体であり、結着樹脂を溶解する液体(化合物)である。液状分散媒は、本組成物(1)に含まれる液状分散媒の以外の成分よりも低沸点かつ揮発性の液体が好ましい。液状分散媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用して混合液状分散媒としてもよい。
液状分散媒は、極性液状分散媒であってもよく、非極性液状分散媒であってもよく、極性液状分散媒が好ましい。
液状分散媒は、水性であってもよく、非水性であってもよく、非水性が好ましい。
液状分散媒の沸点は、80~275℃が好ましく、125~250℃がより好ましい。この範囲において、本組成物(1)から液状分散媒を揮発させて層(塗膜)を形成させる際に、Fパウダーが効果的に流動して、緻密なパッキングが進行しやすい。
【0024】
液状分散媒の具体例としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、ジオキサン、乳酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、セロソルブ(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)が挙げられる。
【0025】
本組成物(1)における液状分散媒は、本組成物(1)の液物性(粘度、チキソ比等)の調整と、結着樹脂の溶解性との観点から、有機液体(有機化合物)が好ましく、本組成物(1)の分散安定性の観点から、ケトン又はアミドがより好ましく、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン又はN-メチル-2-ピロリドンがさらに好ましい。
【0026】
本組成物(1)における結着樹脂の20%重量減少温度は、260℃以上であり、300℃以上が好ましく、320℃以上がより好ましい。結着樹脂の20%重量減少温度は、600℃以下が好ましい。結着樹脂の5%重量減少温度は、260℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、320℃以上がさらに好ましい。結着樹脂の5%重量減少温度は、600℃以下が好ましい。この範囲において、結着樹脂の分解ガス(気泡)や結着樹脂自体の反応に伴う副生物であるガス(気泡)による、層(塗膜)の界面荒れを効果的に抑制でき、層(塗膜)の密着性が一層向上しやすい。
【0027】
本組成物(1)における結着樹脂は、液状分散媒に可溶なポリマーである。かかる結着樹脂は、本組成物(1)中において他成分(Fポリマー、液状分散媒)との相互作用が高まり、本組成物(1)の分散性が向上しやすい。さらに、層(塗膜)の形成における加熱において、結着樹脂の流動性が高まり、高度に均一なマトリックスが形成されやすい。その結果、電気特性等のFポリマーの元来の物性がそのまま発現しつつ、基材密着性の高い層(塗膜)が形成されたと考えられる。特に、本組成物(1)中の結着樹脂の含有量が少ない場合(特に、Fポリマーの含有量に対する結着樹脂の含有量の質量比が低い場合)、かかる効果が一層亢進しやすい。
【0028】
本組成物(1)における結着樹脂は、芳香族ポリアミドイミド又は芳香族ポリイミドであり、芳香族ポリイミドであるのがより好ましい。
結着樹脂は、非反応型の樹脂であってもよく、反応型の樹脂であってもよい。
非反応型の樹脂とは、本組成物(1)の使用条件において反応が生じる反応性基を有しないポリマーを意味する。例えば、非反応型の芳香族ポリイミドとは、既にイミド化が完了した芳香族ポリイミドであり、イミド化反応がさらに生じない芳香族ポリイミドを意味する。
一方、反応型の樹脂とは、上記反応性基を有し、本組成物(1)の使用条件において、反応(縮合反応、付加反応等)が生じるポリマーを意味する。例えば、反応型の芳香族ポリイミドとは、芳香族ポリイミドの前駆体(ポリアミック酸等の部分的にイミド化反応が進行したポリイミド等)であり、本組成物(1)の使用条件(加熱等)においてイミド化反応がさらに生じるポリマーを意味する。
【0029】
結着樹脂は、熱可塑性であってもよく、熱硬化性であってもよい。
結着樹脂が熱可塑性であれば、本組成物(1)から層(塗膜)を形成する際の加熱において、結着樹脂の流動性が亢進し、緻密かつ均一なポリマー層が形成され、層(塗膜)の密着性が向上しやすい。熱可塑性の結着樹脂は、非反応型の熱可塑性樹脂が好ましい。
熱可塑性である結着樹脂のガラス転移点は、500℃以下が好ましい。ガラス転移点は、0℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。この範囲において、層(塗膜)の形成において、結着樹脂の流動性とFパウダーの緻密なパッキングとが亢進しやすい。
一方、結着樹脂が熱硬化性であれば、層(塗膜)に、その硬化物が含まれることにより、層(塗膜)の線膨張性が一層低下し、反りの発生がより抑制されやすい。熱硬化性の結着樹脂は、反応型の熱硬化性樹脂が好ましい。
結着樹脂は、非反応型の熱可塑性樹脂又は反応型の熱硬化性樹脂が好ましく、非反応型の熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0030】
結着樹脂の具体例としては、「HPC」シリーズ(日立化成社製)等のポリアミドイミド樹脂、「ネオプリム」シリーズ(三菱ガス化学社製)、「スピクセリア」シリーズ(ソマール社製)、「Q-PILON」シリーズ(ピーアイ技術研究所製)、「WINGO」シリーズ(ウィンゴーテクノロジー社製)、「トーマイド」シリーズ(T&K TOKA社製)、「KPI-MX」シリーズ(河村産業社製)、「ユピア-AT」シリーズ(宇部興産社製)等のポリイミド樹脂が挙げられる。
【0031】
本組成物(1)におけるFポリマー及び結着樹脂の好適な態様としては、Fポリマーが熱溶融性のFポリマーであり、かつ、結着樹脂のガラス転移点がFポリマーの溶融温度以下である態様が挙げられる。この場合、Fポリマーの溶融温度は、260~320℃が好ましく、280~320℃がより好ましい。また、結着樹脂のガラス転移点は、80~320℃が好ましく、150~320℃がより好ましく、180~300℃がさらに好ましい。
【0032】
上記態様においては、本組成物(1)を加熱してポリマー層を形成する際、Fポリマーが溶融し、結着樹脂が軟化した状態を形成しやすい。その結果、Fポリマーと結着樹脂とが高度に相互流動するため、形成されるポリマー層において、それぞれの物性が顕著に発現しやすい。例えば、結着樹脂が芳香族ポリマーであるため、ポリマー層のUV吸収性もより向上しやすい。また、Fポリマーが、TFE単位及びPAVE単位を有するFポリマー(PFA)、特に、TFE単位、PAVE単位及び官能基を有するFポリマーであれば、電気特性がより向上したポリマー層付金属箔が得られやすい。かかるポリマー層付金属箔を、波長355nm等のUV-YAGレーザーを用いて加工すれば、高周波信号の伝送に適したプリント基板を効率よく製造できる。
【0033】
本組成物(1)は、本組成物(1)中のFパウダーの分散及び結着樹脂との相互作用を促し、層(塗膜)の形成性を向上させる観点から、さらに界面活性剤を含むのが好ましい。なお、界面活性剤は、Fポリマーとも結着樹脂とも異なる成分(化合物)である。
界面活性剤は、親水部位と疎水部位とを有するノニオン性の界面活性剤が好ましい。
親水部位は、ノニオン性の官能基(アルコール性水酸基、ポリオキシアルキレン基等)を含む分子鎖が好ましい。
疎水部位は、親油性基(アルキル基、アセチレン基等)、ポリシロキサン基又は含フッ素基を含む分子鎖が好ましく、含フッ素基を含む分子鎖がより好ましい。
界面活性剤の好適な態様としては、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基とポリオキシアルキレン基又はアルコール性水酸基とをそれぞれ側鎖に有する界面活性剤が挙げられる。
【0034】
界面活性剤は、ノニオン性であるのが好ましい。
界面活性剤の重量平均分子量は、2000~80000が好ましく、6000~20000がより好ましい。
界面活性剤のフッ素含有量は、10~60質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましい。
界面活性剤がオキシアルキレン基を有する場合、界面活性剤のオキシアルキレン基の含有量は、10~60質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましい。
界面活性剤がアルコール性水酸基を有する場合、界面活性剤の水酸基価は、10~300mgKOH/gが好ましい。
【0035】
上記ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基の炭素数は、4~16が好ましい。また、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基の炭素原子-炭素原子間には、エーテル性酸素原子が挿入されていてもよい。
上記ポリオキシアルキレン基は、1種のポリオキシアルキレン基から構成されていてもよく、2種以上のポリオキシアルキレン基から構成されていてもよい。後者の場合、種類の違うポリオキシアルキレン基は、ランダム状に配置されていてもよく、ブロック状に配置されていてもよい。
ポリオキシアルキレン基は、ポリオキシエチレン基又はポリオキシプロピレン基が好ましく、ポリオキシエチレン基がより好ましい。
界面活性剤の好適な具体例としては、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基を有する(メタ)アクリレートと、ポリオキシアルキレン基又はアルコール性水酸基を有する(メタ)アクリレートとのコポリマーが挙げられる。
【0036】
前者の(メタ)アクリレートの具体例としては、CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFF、CH=CHC(O)OCHCH(CFF、CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFF、CH=CHC(O)OCHCHOCF(CF)C(=C(CF)(CF(CF)、CH=C(CH)C(O)OCHCHOCF(CF)C(=C(CF)(CF(CF)、CH=CHC(O)OCHCHCHCHOCF(CF)C(=C(CF)(CF(CF)、CH=C(CH)C(O)OCHCHCHCHOCF(CF)C(=C(CF)(CF(CF)、CH=C(CH)C(O)CHCF(OCFf1・(OCFCFf2OCFが挙げられる(ただし、式中のf1とf2とは、それぞれ自然数であり、その和は20である。)。
【0037】
後者の(メタ)アクリレートの具体例としては、CH=C(CH)C(O)OCHCHOH、CH=C(CH)C(O)OCHCHCHCHOH、CH=C(CH)C(O)(OCHCHOH、CH=C(CH)C(O)(OCHCHOH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH23OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCHOCH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH23OCH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH66OCH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH120OCHが挙げられる。
界面活性剤の具体例としては、「フタージェント」シリーズ(ネオス社製)、「サーフロン」シリーズ(AGCセイミケミカル社製)、「メガファック」シリーズ(DIC社製)、「ユニダイン」シリーズ(ダイキン工業社製)が挙げられる。
【0038】
本組成物(1)は、本発明の効果を損なわない範囲で、チキソ性付与剤、消泡剤、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤を含んでいてもよい。
本組成物(1)の25℃における粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、50~5000mPa・sがより好ましく、100~1000mPa・sがさらに好ましい。この場合、本組成物(1)が液物性(分散性及び塗工性)と、異種の材料との相溶性とに優れやすい。
本組成物(1)のチキソ比は、1~2.5が好ましく、1.2~2がより好ましい。この場合、本組成物(1)の液物性に優れるだけでなく、層(塗膜)の均質性がより向上しやすい。
【0039】
本組成物(1)中のFポリマーの含有量(割合)は、5~60質量%が好ましく、15~50質量%がより好ましく、30~45質量%がさらに好ましい。この範囲において、電気特性と基材密着性とに優れた層(塗膜)を形成しやすい。
本組成物(1)中の結着樹脂の含有量(割合)は、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。上記含有量は、0.01質量%以上が好ましい。
本組成物(1)における、Fポリマーの含有量に対する結着樹脂の含有量の質量比は、0.05以下が好ましく、0.02以下がより好ましく、0.01以下がさらに好ましい。上記比は、0.001以上が好ましい。結着樹脂の含有量とFポリマーの含有量とが、かかる範囲にある場合、層(物性)におけるFポリマーが有する元来の物性を損なわずに、本組成物(1)の分散性をより向上させやすい。
本組成物(1)が界面活性剤を含む場合、本組成物(1)中の界面活性剤の含有量(割合)は、1~15質量%が好ましく、3~10質量%がより好ましい。また、この場合、Fポリマーの含有量に対する界面活性剤の含有量の質量比は、0.01~0.25が好ましく、0.05~0.15がより好ましい。この範囲において、層(塗膜)の物性をより向上させやすい。
【0040】
本組成物(1)は、基材の表面にFポリマーを含む層(塗膜)を形成するコーティング剤として有用である。
基材の材質は、特に限定されず、ガラス又は金属が好ましい。
基材の形状は、特に限定されず、板状、球状、繊維状等のいずれの形状でもよい。
形成する層(塗膜)の厚さは、特に限定されず、0.1~1000μmが好ましい。
本組成物(1)を用いれば、基材の材質及び形状、層(塗膜)の厚さ等によらず、密着性に優れ、Fポリマーが有する元来の物性が充分に発現する、層、塗膜、成形品が得られる。
【0041】
本組成物(1)は、フィルム、含浸物(プリプレグ等)、積層板(ポリマー層付金属箔等の金属積層板)等の成形品の製造や、離型性、電気特性、撥水撥油性、耐薬品性、耐候性、耐熱性、滑り性、耐摩耗性等が要求される用途の成形品の製造に使用できる。
また、得られる成形品は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、塗料、化粧品等として有用であり、具体的には、電線被覆材(航空機用電線等)、電気絶縁性テープ、石油掘削用絶縁テープ、プリント基板用材料、分離膜(精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、透析膜、気体分離膜等)、電極バインダー(リチウム二次電池用、燃料電池用等)、コピーロール、家具、自動車ダッシュボート、家電製品のカバー、摺動部材(荷重軸受、すべり軸、バルブ、ベアリング、歯車、カム、ベルトコンベア、食品搬送用ベルト等)、工具(シャベル、やすり、きり、のこぎり等)、ボイラー、ホッパー、パイプ、オーブン、焼き型、シュート、ダイス、便器、コンテナ被覆材として有用である。
【0042】
本組成物(1)を、表面の十点平均粗さが0.5μm以下の金属箔(以下、「金属箔F」とも記す。)の表面に塗布し、260℃以上の温度に加熱し、金属箔Fの表面にFポリマーを含むポリマー層(以下、「F層」とも記す。)を形成すると、金属箔FとF層とをこの順に有するポリマー層付金属箔を製造できる。
かかるポリマー層付金属箔は、金属箔FとF層との密着性が高く、さらに、それを加工する際の加熱(例えば、ポリマー層付金属箔を加工する際の半田リフロー工程における加熱)において、剥がれ、膨れ及び反りの発生が高度に抑制される。その理由は、必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
【0043】
本組成物(1)は、Fポリマーを焼成する高温領域における重量減少率が所定の低い範囲にある結着樹脂を含む。その結果、焼成の際に生じる可能性がある結着樹脂の分解に伴う残渣や結着樹脂の反応に伴う副生物によるF層の界面荒れが抑制され、表面平滑性が高い金属箔FとF層とが高度に密着したためであると考えられる。
さらに、F層の厚さが所定の範囲にありF層の熱膨張も抑制されるため、加熱における膨れ及び反りの発生が抑制され、電気特性に優れたポリマー層付金属箔が得られたと考えられる。
【0044】
金属箔Fの表面の十点平均粗さは、0.5μm以下であり、0.2μm以下が好ましく、0.1μm未満がより好ましい。金属箔Fの表面の十点平均粗さは、0.01μm以上が好ましい。
金属箔Fの材質としては、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金(42合金も含む。)、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金等が挙げられる。
金属箔Fは、圧延銅箔又は電解銅箔が好ましい。
金属箔Fの表面は、防錆処理(クロメート等の酸化物皮膜等)がされていてもよい。また、金属箔Fの表面は、シランカップリング剤により処理されていてもよい。その際、金属箔Fの表面の全体がシランカップリング剤により処理されていてもよく、金属箔Fの表面の一部がシランカップリング剤により処理されていてもよい。
金属箔Fの厚さは、0.1~20μmが好ましく、1~20μmがより好ましく、2~5μmがさらに好ましい。
【0045】
また、金属箔Fとして、2層以上の金属箔を含むキャリア付金属箔を使用してもよい。キャリア付金属箔としては、キャリア銅箔(厚さ:10~35μm)と、剥離層を介してキャリア銅箔上に積層された極薄銅箔(厚さ:2~5μm)とからなるキャリア付銅箔が挙げられる。かかるキャリア付銅箔のキャリア銅箔のみを剥離すれば、極薄銅箔を有する金属張積層体を容易に形成できる。この金属張積層体を使用すれば、MSAP(モディファイドセミアディティブ)プロセスによる、極薄銅箔層をめっきシード層として利用する、ファインパターンの形成が可能である。
上記剥離層としては、耐熱性の観点から、ニッケル又はクロムを含む金属層か、この金属層を積層した多層金属層が好ましい。かかる剥離層であれば、300℃以上の工程を経ても、キャリア銅箔を容易に極薄銅箔から剥離できる。
キャリア付金属箔の具体例としては、福田金属箔粉工業株式会社製の商品名「FUTF-5DAF-2」が挙げられる。
【0046】
F層は、本発明の効果を損なわない範囲において、無機フィラーや、Fポリマー及び結着樹脂以外の有機成分を含んでいてもよい。
F層の厚さは、0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。F層の厚さは、10μm未満が好ましく、8μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。F層の厚さの好適な態様としては、1~5μmが挙げられる。
かかる構成においても、本組成物(1)からは、表面平滑性が高い低粗化金属箔(金属箔F)と、Fポリマーの元来の物性(低誘電率、低誘電正接、低吸水率等)を損なわない、薄膜状のポリマー層(F層)とをこの順に有し、両者が強固に密着し、加熱における不具合が抑制されたポリマー層付金属箔が得られる。
金属箔Fの厚さに対するF層の厚さの比は、0.1~5.0が好ましく、0.2~2.5がより好ましい。かかる範囲に両者の厚さの比があれば、プリント基板としての伝送特性がさらに向上する。
【0047】
本組成物(1)の塗布方法は、金属箔の表面に安定した液状被膜(ウェット膜)が形成される方法であればよく、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法、コンマコート法が挙げられる。
本組成物(1)の塗布後、260℃以上の温度に加熱する前に、上記温度未満の温度に加熱して、ウェット膜中の液状分散媒を除去するのが好ましい。この際の加熱温度は、液状分散媒の沸点に応じて設定すればよく、90~250℃が好ましく、100~200℃がより好ましい。また、この際の加熱は、1段階で実施してもよく、異なる温度にて2段階以上で実施してもよい。さらに、この際の加熱時間は、0.1~10分間が好ましく、0.5~5分間がより好ましい。
【0048】
本組成物(1)の塗布後に加える260℃以上の温度は、Fポリマーが焼成する温度が好ましい。この際の温度は、Fポリマーの種類に応じて設定すればよく、300~400℃が好ましく、310~390℃がより好ましく、320~380℃がさらに好ましい。また、この際の加熱は、1段階で実施してもよく、異なる温度にて2段階以上で実施してもよい。さらに、この際の加熱時間は、1~60分間が好ましく、3~20分間がより好ましい。
両者の加熱における手段としては、オーブンを用いる方法、通風乾燥炉を用いる方法、赤外線等の熱線を照射する方法が挙げられる。
両者の加熱における雰囲気は、常圧下、減圧下のいずれの状態であってよい。また、上記雰囲気は、酸化性ガス(酸素ガス等)雰囲気、還元性ガス(水素ガス等)雰囲気、不活性ガス(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガス等)雰囲気のいずれであってもよく、結着樹脂の分解を抑制する観点から、不活性ガス雰囲気が好ましい。
【0049】
ポリマー層付金属箔の製造方法の好適な態様としては、Fポリマーが熱溶融性のFポリマーであり、結着樹脂がFポリマーの溶融温度以下のガラス転移点の結着樹脂である本組成物(1)を用い、Fポリマーを上記溶融温度以上にて焼成させる態様が挙げられる。かかる態様においては、Fポリマーが溶融し、結着樹脂が軟化し、両者が高度に相互流動した状態を経てF層が形成されやすい。その結果、形成されるポリマー層付金属箔のF層において、それぞれのポリマー物性が顕著に発現しやすい。例えば、結着樹脂が芳香族ポリマー(芳香族ポリイミド等)であれば、接着性と耐熱性とに優れるだけでなく、F層のUV吸収性も向上しやすい。また、Fポリマーが、TFE単位及びPAVE単位を有するFポリマー(PFA)、特に、TFE単位、PAVE単位及び官能基を有するFポリマーであれば、電気特性がより向上しやすい。かかる好適なポリマー層付金属箔の製造方法の態様によれば、高周波信号の伝送に適したプリント基板を効率よく製造できる。
【0050】
ポリマー層付金属箔のF層の最表面は、その熱膨張性や接着性を一層向上させるために、表面処理してもよい。
表面処理の方法としては、アニール処理、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、エキシマ処理、シランカップリング処理が挙げられる。
アニール処理における条件は、温度を120~180℃とし、圧力を0.005~0.015MPaとし、時間を30~120分間とするのが好ましい。
プラズマ処理におけるプラズマ照射装置としては、高周波誘導方式、容量結合型電極方式、コロナ放電電極-プラズマジェット方式、平行平板型、リモートプラズマ型、大気圧プラズマ型、ICP型高密度プラズマ型が使用できる。
プラズマ処理に用いるガスとしては、酸素ガス、窒素ガス、希ガス(アルゴン等)、水素ガス、アンモニアガス、酢酸ビニルが挙げられる。これらのガスは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用して混合ガスとしてもよい。
【0051】
ポリマー層付金属箔のF層の最表面には、さらに他の基板を積層してもよい。
他の基板としては、耐熱性樹脂フィルム、繊維強化樹脂板の前駆体であるプリプレグ、耐熱性樹脂フィルム層を有する積層体、プリプレグ層を有する積層体が挙げられる。
なお、プリプレグは、強化繊維(ガラス繊維、炭素繊維等)の基材(トウ、織布等)に熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含浸させたシート状の基板である。
耐熱性樹脂フィルムは、耐熱性樹脂の1種以上を含むフィルムであり、単層フィルムであっても多層フィルムであってもよい。
耐熱性樹脂としては、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリールスルホン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリールエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミドが挙げられる。
【0052】
接合の方法としては、積層体と他の基板とを熱プレスする方法が挙げられる。
他の基板がプリプレグである場合の熱プレスの条件は、温度を120~300℃とし、雰囲気の圧力を20kPa以下の減圧(真空)とし、プレス圧力を0.2~10MPaとするのが好ましい。他の基板が耐熱性樹脂フィルムである場合の熱プレスの条件は、この内の温度を310~400℃とするのが好ましい。
本組成物(1)から形成するポリマー層付金属箔は、上述した通り、電気特性、耐薬品性(エッチング耐性)、耐熱性等の物性に優れた、薄膜状のF層と、低粗化金属箔とを有する。かかるポリマー層付金属箔は、フレキシブル金属張積層板やリジッド金属張積層板としてプリント基板の製造に使用でき、特に、フレキシブル金属張積層板としてフレキシブルプリント基板の製造に好適に使用できる。
【0053】
ポリマー層付金属箔の金属箔Fをエッチング加工し、伝送回路を形成すると、プリント基板が得られる。具体的には、金属箔Fをエッチング処理して所定の伝送回路に加工する方法や、金属箔Fを電解めっき法(セミアディティブ法(SAP法)、モディファイドセミアディティブ法(MSAP法)等)によって所定の伝送回路に加工する方法によって、上記製造方法により得られたポリマー層付金属箔からプリント基板を製造できる。
本組成物(1)から形成したポリマー層付金属箔から製造されたプリント基板は、金属箔Fから形成された伝送回路とF層とをこの順に有する。プリント基板の構成の具体例としては、伝送回路/F層/プリプレグ層、伝送回路/F層/プリプレグ層/F層/伝送回路が挙げられる。
プリント基板の製造においては、伝送回路上に層間絶縁膜を形成してもよく、伝送回路上にソルダーレジストを積層してもよく、伝送回路上にカバーレイフィルムを積層してもよい。これらの層間絶縁膜、ソルダーレジスト及びカバーレイフィルムの材料として、本組成物(1)を使用してもよい。
【0054】
ポリマー層付金属箔から製造されるプリント基板の具体的な態様としては、本発明により得られたプリント基板を多層化した多層プリント回路基板が挙げられる。
多層プリント回路基板の好適な態様としては、多層プリント回路基板の最外層がF層であり、金属箔F又は伝送回路とF層とプリプレグ層とがこの順に積層された構成を1以上有する態様が挙げられる。なお、上記構成の数は複数(2以上)が好ましい。また、F層とプリプレグ層との間に、伝送回路がさらに配置されていてもよい。
かかる態様の多層プリント回路基板は、最外層のF層により、耐熱加工性に特に優れている。具体的には、288℃においても、F層とプリプレグ層との界面膨れや、金属箔F(伝送回路)とF層との界面剥離が発生しにくい。特に、金属箔Fが伝送回路を形成している場合でも、F層が薄膜状であり金属箔(伝送回路)と強固に密着しているため、反りが発生しにくく耐熱加工性に優れている。
【0055】
多層プリント回路基板の好適な態様としては、多層プリント回路基板の最外層がプリプレグ層であり、金属箔F又は伝送回路とF層とプリプレグ層とがこの順に積層された構成を1以上有する態様も挙げられる。なお、上記構成の数は複数(2以上)が好ましい。また、F層とプリプレグ層との間に、伝送回路がさらに配置されていてもよい。
かかる態様の多層プリント回路基板は、最外層にプリプレグ層を有していても、耐熱加工性に優れている。具体的には、300℃においても、F層とプリプレグ層との界面膨れや金属箔F(伝送回路)とF層との界面剥離が発生しにくい。特に、金属箔Fが伝送回路を形成している場合でも、F層が薄膜状であり金属箔(伝送回路)と強固に密着しているため、反りが発生しにくく耐熱加工性に優れている。
つまり、本組成物(1)を使用すれば、各種表面処理を施さずとも、それぞれの界面が強固に密着し、加熱における界面膨れや界面剥離の発生、特に、最外層における膨れや剥離の発生が抑制された、種々の構成を有するプリント基板が容易に得られる。
【0056】
本組成物の第2の態様(以下、本組成物(2)とも記す。)としては、Fパウダーと、イミド化率が1%以上の芳香族ポリイミドと、非プロトン性極性液状分散媒とを含む、態様が挙げられる。
本組成物(2)は、Fパウダーの分散性に優れる。その理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
【0057】
本組成物(2)における芳香族ポリイミドは、実質的にイミド化が進行していないポリイミド前駆体であるポリアミック酸(イミド化率:0%)ではなく、ポリマーを構成するカルボン酸二無水物とジアミンとのイミド化反応が所定の割合で進行したポリイミド(イミド化率:1%以上;以下、「PI(2)」とも記す。)である。
かかるポリイミドでは、イミド化反応に伴ってイミド基が形成(閉環)されるため、その極性(解離性プロトン)が低下している。かかるポリイミドは、液状分散媒中での溶解性(又は分散性)が低下する傾向にある一方、Fポリマーとの親和性が上昇する傾向にあると考えられる。
【0058】
本発明者らは、鋭意検討した結果、PI(2)を使用すれば、液状分散媒中での溶解性(又は分散性)の低下効果よりも、Fポリマーとの親和性の上昇効果の方が優位になる点を知見した。PI(2)がFポリマーの分散剤として、パウダーの分散を促し、液状組成物全体での分散性を向上させたと考えられる。さらに、かかるPI(2)の含有により、液状組成物の粘度又はチキソトロピー性が保持され、それぞれの成分の沈降、凝集及び相分離が抑制されたとも考えられる。
その結果、本組成物(2)から形成される成形品(F層(塗膜)等)においては、FポリマーとPI(2)との高度な相互作用により、それぞれのポリマーの物性が高度に発現したと考えられる。例えば、上記成形品は、PI(2)を含むため、その線膨張係数が低く、よって反りが発生しにくく、密着接着性に優れている。また、PI(2)が有する芳香族環の良好なUV吸収性によりUV-YAGレーザー等による加工性にも優れる。そして、上記成形品はFポリマーを含むので、Fポリマーの物性(特に、低誘電率、低誘電正接等の電気特性)が高度に発現する。
以上のような効果は、後述する本組成物(2)の好ましい態様において、より顕著に発現する。
【0059】
本組成物(2)におけるFポリマー及びFパウダーの定義は、好適な態様も含めて、本組成物(1)におけるそれらと同様である。なお、本組成物(2)におけるFポリマーは、TFE単位及びPAVE単位を含む、溶融温度が260~320℃のPFAが好ましい。
本組成物(2)におけるFパウダーのD50は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。FパウダーのD50は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。
また、FパウダーのD90は、40μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。この範囲のD50及びD90において、Fパウダーの流動性と分散性とが良好となり、得られる成形品の電気特性(低誘電率等)や耐熱性が最も発現しやすい。
Fパウダーの疎充填嵩密度は、0.08~0.5g/mLが好ましい。Fパウダーの密充填嵩密度は、0.1~0.8g/mLが好ましい。疎充填嵩密度又は密充填嵩密度が上記範囲にある場合、Fパウダーのハンドリング性に優れる。
【0060】
また、Fパウダーは、Fポリマー以外の成分を含んでいてもよいが、Fポリマーからなるのが好ましい。FパウダーにおけるFポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
Fポリマー以外の成分としては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシドが挙げられる。
【0061】
本組成物(2)におけるPI(2)は、イミド化率が1%以上の芳香族ポリイミドである。
PI(2)は、カルボン酸二無水物とジアミンとに基づく単位であり、両者の化合物のイミド化反応により形成された単位(イミド構造を有する単位;以下、「イミド単位」とも記す。)を有する。カルボン酸二無水物及びジアミンの少なくとも一方、かつ、その少なくとも一部は、芳香族性の化合物である。
PI(2)は、イミド単位のみからなっていてもよく、イミド単位と上記両者の化合物のアミド化反応により形成された単位(アミック酸構造を有する単位;以下、「アミック酸単位」とも記す。)とを有していてもよい。また、カルボン酸二無水物とジアミンとは、それぞれ1種の化合物を使用してもよく、それぞれ複数の化合物を使用してもよい。カルボン酸二無水物として、少なくとも1種の芳香族カルボン酸二無水物を使用するのが好ましい。
【0062】
PI(2)におけるイミド化率とは、アミック酸単位とイミド単位との合計のモル数に対するイミド単位のモル数の比、すなわち、イミド単位のモル数/(アミック酸単位のモル数+イミド単位のモル数)の式で計算される値である。つまり、PI(2)がイミド単位のみからなる場合には、そのイミド化率は100%となる。
イミド化率の下限は、10%以上が好ましく、25%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましく、75%以上が特に好ましい。かかる下限範囲にイミド化率があれば、PI(2)の極性(解離性プロトン)がより低下して、Fポリマーの分散性をより促しやすい。
【0063】
イミド化率の上限は、100%未満が好ましく、98%以下がより好ましく、96%以下がさらに好ましい。かかる上限範囲にイミド化率があれば、PI(2)が、その極性(解離性プロトン)を充分に保持しつつ、各成分(液状分散媒及びFポリマー)との相互作用を促し、液状組成物の物性(粘度、チキソトロピー性等)をより向上させやすい。
なお、PI(2)のイミド化率は、その製造条件により制御できる。例えば、ディーンスターク等の脱水装置を使用し、水と共沸する液状分散媒(トルエン等)の存在下、副生する水を共沸により除去しながら、カルボン酸二無水物及びジアミンを反応させれば、任意のイミド化率のPI(2)を製造できる。
PI(2)のイミド化率は、PI(2)をNMR分析に供すれば測定できる。
【0064】
PI(2)は、芳香族テトラカルボン酸の酸二無水物と、2個以上のアリーレン基が連結基を介して連結された連結構造を有する芳香族ジアミン、又は、脂肪族ジアミンとに基づく単位を含むのが好ましい。かかるPI(2)は、Fポリマーとの親和性がより高まる傾向を示し、本組成物(2)の分散性をより高めるだけでなく、それから形成される成形品の密着接着性が向上しやすい。つまり、かかるPI(2)は、本組成物(2)において分散剤としても、成形品における接着成分としても機能しやすい。
【0065】
芳香族テトラカルボン酸の酸二無水物は、下式AN1~AN6で表される化合物が好ましい。
【化1】
【0066】
上記芳香族ジアミンにおける連結構造は、2~4個のアリーレン基が連結された構造が好ましい。この場合、PI(2)の極性がバランスして、上記傾向を一層示しやすい。
アリーレン基は、フェニレン基が好ましい。なお、アリーレン基の水素原子は、水酸基、フッ素原子又はトリフルオロメチル基で置換されていてもよい。
上記芳香族ジアミンにおける連結基は、エーテル性酸素原子、プロパン-2,2-ジイル基又はペルフルオロプロパン-2,2-ジイル基が好ましい。連結基は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよく、エーテル性酸素原子を必須とするのがより好ましい。この場合、PI(2)は、その立体効果により、上記傾向を一層示しやすい。
【0067】
上記芳香族ジアミンは、下式DA1~DA6で表される化合物が好ましい。
【化2】
【0068】
脂肪族ジアミンとしては、ダイマージアミン、アルキレンジアミン(2-メチル-1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,9-ノナンジアミン、2,7-ジメチル-1,8-オクタンジアミン等)、脂環式ジアミン(1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン等)が挙げられる。
ダイマージアミンは、不飽和脂肪酸の二量体であるダイマー酸の2個のカルボキシル基がアミノ基又はアミノメチル基に置換された化合物である。不飽和脂肪酸は、炭素数が11~22の不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等)が好ましい。
脂肪族アミンを使用すると、上記傾向を一層示しやすいだけでなく、成形品におけるFポリマー物性(特に、比誘電率、誘電正接等の電気物性)が高度に発現しやすく、その柔軟性がより向上しやすい。
【0069】
市販されているダイマージアミンの具体例としては、バーサミン551(BASFジャパン社製)、バーサミン552(BASFジャパン社製、バーサミン551の水添物)、PRIAMINE1075(クローダジャパン社製)、PRIAMINE1074(クローダジャパン社製)が挙げられる。
【0070】
なお、PI(2)を構成する、カルボン酸二無水物として、以下に示す、脂環構造を有するカルボン酸二無水物を使用してもよい。PI(2)が含有する単位に、かかる脂環構造が含まれれば、PI(2)と液状分散媒との親和性が高まり、液状組成物全体での分散性がより向上し、液状組成物の塗布性も良好となる。また、それから形成される成形品における着色が抑制されやすい。
【化3】
【0071】
本組成物(2)における非プロトン性極性液状分散媒は、Fパウダーの分散媒として機能する、25℃で不活性な液状化合物である。
かかる分散媒としては、本組成物(2)に含まれる液状分散媒以外の成分よりも低沸点かつ揮発性の化合物が好ましい。かかる液状分散媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合してもよい。
かかる液状分散媒の沸点は、125~250℃が好ましい。この場合、本組成物(2)から液状被膜を乾燥して乾燥被膜を形成する際、液状分散媒の揮発に伴う、Fパウダーの流動が効果的に進行して、Fパウダーが緻密にパッキングしやすい。
【0072】
非プロトン性極性液状分散媒の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、酢酸ブチル、メチルイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンが挙げられる。
中でも、非プロトン性極性液状分散媒としては、本組成物(2)の液物性(粘度、チキソ比等)を調整する観点から、アミド又はケトンが好ましく、N,N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N-メチル-2-ピロリドン又はγ-ブチロラクトンがより好ましい。
【0073】
本組成物(2)は、親水部分として水酸基とオキシアルキレン基とを有する界面活性剤(以下、「界面活性剤」とも記す。)を含有するのが好ましい。これらの基を有する界面活性剤は、適度な親水性(極性)を有するため、本組成物(2)中でのパウダーの分散を促すのみならず、極性を有するPI(2)とFポリマーとの親和性を高め、本組成物(2)全体での分散性をより向上させやすい。
かかる界面活性剤としては、本組成物(1)における界面活性剤が好ましい。
【0074】
本組成物(2)は、水を50ppm以上で含有するのが好ましい。少量の水は、本組成物(2)に含まれる各成分同士の間での親和性を高める作用が期待できる。水の含有量は、100ppm以上がより好ましい。なお、本組成物(2)における水の含有量(割合)の上限は、5000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましい。
本組成物(2)の粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、10~1000mPa・sがより好ましい。
本組成物(2)のチキソ比は、1~2が好ましい。
【0075】
本組成物(2)は、本発明の効果を損なわない範囲で、Fポリマー及びPI(2)以外のポリマー、無機フィラー、チキソ性付与剤、消泡剤、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤等の他の成分を含んでいてもよい。
【0076】
無機フィラーは、本組成物(2)から形成される層に付与する物性に応じて決定すればよい。本組成物(2)は、PI(2)を含み、その液物性(粘度、チキソ比等)に優れ、無機フィラーを含んでも分散性に優れる。また、それから層を形成する際、無機フィラーが粉落ちしにくいだけでなく、それが均一に分布した層が形成されやすい。
無機フィラーとしては、窒化物フィラー、無機酸化物フィラーが挙げられ、窒化ホウ素フィラー、べリリア(ベリリウムの酸化物)、シリカフィラー又は金属酸化物(酸化セリウム、アルミナ、ソーダアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)フィラーが好ましい。
【0077】
無機フィラーの形状は、粒状であってもよく、非粒状(鱗片状、層状)であってもよく、繊維状であってもよく、微細構造を有するのが好ましい。
かかる微細構造を有する無機フィラーの具体例としては、球状の無機フィラー、繊維状の無機フィラーが挙げられる。
前者の無機フィラーの平均粒子径は、0.001~3μmが好ましく、0.01~1μmがより好ましい。この場合、無機フィラーは、本組成物(2)中の分散性により優れ、層中においてより均一に分布しやすい。
後者の無機フィラーにおいて、長さは繊維長であり、径は繊維径である。繊維長は、1~10μmが好ましい。繊維径は、0.01~1μmが好ましい。
本組成物(2)が無機フィラーを含む場合、その含有量は、Fポリマーの含有量に対して1以下が好ましい。
【0078】
無機フィラーは、その表面の少なくとも一部が、有機物、無機物(ただし、無機フィラーを形成する無機物とは異なる無機物である。)、又は、その両方によって、表面処理されていてもよい。
かかる被覆処理に用いられる有機物としては、多価アルコール(トリメチロールエタン、ペンタエリストール、プロピレングリコール等)、飽和脂肪酸(ステアリン酸、ラウリン酸等)、そのエステル、アルカノールアミン、アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン等)、パラフィンワックス、シランカップリング剤、シリコーン、ポリシロキサンが挙げられる。
かかる被覆処理に用いられる無機物としては、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、スズ、チタニウム、アンチモン等の、酸化物、水酸化物、水和酸化物又はリン酸塩が挙げられる。
【0079】
本組成物(2)から形成される層のUV加工性を一層向上させつつ、その反りを高度に抑制する場合、本組成物(2)は、球状の無機フィラーを含むのが好ましい。
この場合、球状の無機フィラーの平均粒子径は、Fパウダーの平均粒子径(D50)より小さいのが好ましい。具体的には、Fパウダーの平均粒子径が0.2~3μmであり、球状のシリカフィラーの平均粒子径が0.01~0.1μmであるのが好ましい。また、この場合の球状の無機フィラーの含有量は、Fポリマーの含有量に対して0.01~0.1が好ましい。かかる構成により、層の表面における無機フィラーの露出を抑制しつつ、無機フィラーが均一分散した層を容易に形成できる。
【0080】
かかる無機フィラーの好適な具体例としては、アミノシランカップリング剤で表面処理された平均粒子径1μm以下のシリカフィラー(アドマテックス社製の「アドマファイン」シリーズ等)、ジカプリン酸プロピレングリコール等のエステルで表面処理された平均粒子径0.1μm以下の酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製の「FINEX」シリーズ等)、平均粒子径0.5μm以下かつ最大粒子径1μm未満の球状溶融シリカ(デンカ社製のSFPグレード等)、多価アルコール及び無機物で被覆処理された平均粒子径0.5μm以下のルチル型酸化チタン(石原産業社製の「タイペーク」シリーズ等)、アルキルシランで表面処理された平均粒子径0.1μm以下のルチル型酸化チタン(テイカ社製の「JMT」シリーズ等)が挙げられる。
【0081】
本組成物(2)におけるFポリマーの含有量(割合)は、PI(2)の含有量(割合)以上であるのが好ましい。この場合、得られる成形品に対して、Fポリマーに基づく特性とPI(2)に基づく特性とを良好なバランスで付与できるだけでなく、Fポリマーの物性が高度に発現しやすい。
具体的には、本組成物(2)におけるFポリマーの含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%がさらに好ましい。上記含有量は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。この場合、電気特性と基材に対する密着性とに優れた成形品を形成しやすい。
【0082】
本組成物(2)におけるPI(2)の含有量は、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。上記含有量は、50質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。この場合、UV加工性がより向上した成形品を形成しやすい。
また、本組成物(2)におけるFポリマーの含有量(割合)に対するPI(2)の含有量(割合)の比は、1以下が好ましく、0.5以下より好ましく、0.1以下がさらに好ましい。
本組成物(2)における非プロトン性極性液状分散媒の含有量(割合)は、40~90質量%が好ましく、50~80質量%がより好ましい。
本組成物(2)が界面活性剤を含む場合、本組成物(2)における界面活性剤の含有量(割合)は、1~15質量%が好ましい。この場合、成形品におけるFポリマーの元来の物性がより向上しやすい。
【0083】
本組成物(2)を、基材の表面に塗布し加熱して、Fポリマーを含むポリマー層(F層)を形成すれば、基材とF層とを、この順で有する積層体が得られる。
かかる積層体の製造において、基材の表面に本組成物(2)を塗布して液状被膜を形成し、この液状被膜を加熱して乾燥した後、さらに焼成して、F層を形成する。つまり、F層は、Fポリマーと芳香族ポリイミド(PI)とを含む層である。F層におけるPIは、本組成物(2)に含まれるPI(2)自体であってもよく、F層の形成における加熱によって、さらにイミド化反応が進行したPIであってもよい。
積層体の製造における、本組成物(2)の塗布方法及び加熱方法は、それらの好適な態様も含めて、上述した本組成物(1)のそれらと同様である。
本組成物(2)を塗布する基材としては、金属箔又は耐熱性樹脂フィルムが好ましい。
かかる金属箔の定義は、それの好適な態様と範囲も含めて、上述した本組成物(1)のそれらと同様である。
【0084】
耐熱性樹脂フィルムは、耐熱性樹脂の1種以上を含むフィルムであり、単層フィルムであっても多層フィルムであってもよい。耐熱性樹脂フィルムには、ガラス繊維又は炭素繊維等が埋設されていてもよい。
基材が耐熱性樹脂フィルムである場合は、基材の両面にF層を形成するのが好ましい。この場合、F層が耐熱性樹脂フィルムの両面に形成されるため、積層体の線膨張係数が顕著に低下し、反りが生じにくい。具体的には、かかる態様における積層体の線膨張係数の絶対値は、1~25ppm/℃が好ましい。
【0085】
耐熱性樹脂としては、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリールスルホン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリールエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミドが挙げられ、ポリイミド(特に、芳香族ポリイミド)が好ましい。
この場合、F層のPIが有する芳香族環及び耐熱性樹脂フィルム(基材)の芳香族ポリイミドが有する芳香族環がスタックするため、F層の耐熱性樹脂フィルムに対する密着性が向上すると考えられる。また、この場合、F層と耐熱性樹脂フィルムとが相溶した一体化物でなく、互いに独立した層として存在するため、Fポリマーの低い吸水性が芳香族ポリイミドの高い吸水性を補完して、積層体は、低い吸水性(高い水バリア性)を発揮すると考えられる。
【0086】
両面にF層を有する耐熱性樹脂フィルムである積層体において、その厚さ(総厚)は、25μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。上記厚さは、150μm以下が好ましい。
かかる構成において、耐熱性樹脂フィルムの厚さに対する2つのF層の合計での厚さの比は、0.5以上が好ましく、0.8以上がより好ましい。上記比は、5以下が好ましい。
この場合、耐熱性樹脂フィルムの特性(高い降伏強度、難塑性変形性)とF層の特性(低い吸水性)とがバランスよく発揮される。
【0087】
本組成物(2)から形成される積層体であり、基材が耐熱性樹脂フィルムである積層体の好適な態様としては、耐熱性樹脂フィルムが厚さ20~100μmのポリイミドフィルムであり、F層、ポリイミドフィルム、F層がこの順に直接接触して積層された3層構成のフィルムが挙げられる。かかる態様における、2つのF層の厚さは、同じであり、15~50μmであるのが好ましい。また、ポリイミドフィルムの厚さに対する2つのF層の合計での厚さの比は、0.5~5が好ましい。かかる態様の積層体が、上述した積層体の効果を最も発現しやすい。
【0088】
積層体のF層の最表面は、その線膨張性や接着性を一層向上させるために、さらに表面処理されてもよい。表面処理方法としては、上述した、本組成物(1)から形成されるポリマー層付金属箔のF層の表面処理方法と同様の方法が挙げられる。
【0089】
本組成物(2)から形成される積層体の、F層の最表面には、さらに他の基板を積層してもよい。
他の基板の定義及び積層方法は、それらの好適な態様及び範囲も含めて、本組成物(1)から形成されるポリマー層付金属箔におけるそれらと同様である。
【0090】
本組成物(2)を、織布に含浸させ加熱すると、Fポリマー及びPIが含浸された含浸織布が得られる。
本組成物(2)の加熱条件は、それらの好適な態様と範囲も含めて、上述した本組成物(1)の加熱条件と同様である。
織布としては、加熱に耐える耐熱性織布が好ましく、ガラス繊維織布、カーボン繊維織布、アラミド繊維織布又は金属繊維織布がより好ましく、ガラス繊維織布又はカーボン繊維織布がさらに好ましい。
特に、含浸織布の電気絶縁性を高める観点からは、織布として、JIS R 3410:2006で定められる電気絶縁用Eガラスヤーンより構成される平織のガラス繊維織布を使用するのが好ましい。この際、織布をシランカップリング剤で処理すれば、Fポリマーとの密着性がより向上する。
【0091】
本組成物の第3の態様(以下、本組成物(3)とも記す。)としては、Fポリマーのパウダー(Fパウダー)と、芳香族ポリアミドイミド、芳香族ポリイミド及び芳香族ポリエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族ポリマー又はその前駆体(以下、「AR(3)」とも記す。)と、水酸基及びオキシアルキレン基を有する界面活性剤と、非プロトン性極性液状分散媒とを含み、Fポリマーの含有量が芳香族ポリマー又はその前駆体の含有量以上であり、界面活性剤の水酸基価が100mgKOH/g以下かつ上記オキシアルキレン基の含有量が10質量%以上である、態様が挙げられる。
本組成物(3)は、Fパウダーの分散性に優れる。その理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
【0092】
低極性のFパウダーと芳香族性の化合物であるAR(3)とを含む液状組成物の液状分散媒が非プロトン性極性液状分散媒である場合、各成分同士の間での相互作用を促す、高度な分散作用を有する界面活性剤を見出すのは容易ではない。例えば、疎水性の高い界面活性剤を使用すれば、Fパウダー自体の分散性は上昇するが、AR(3)と液状分散媒との相互作用は低下するとも考えられる。本発明者らは、液状組成物におけるFポリマーの含有量が増える場合、この現象が顕著となり、Fパウダーの沈降、凝集及び相分離が発生しやすくなる点を知見した。
さらに、本発明者らは、鋭意検討した結果、かかる場合における界面活性剤には、一定の親水性が必要であり、具体的には、水酸基及びAO基を、それぞれ所定量で含有する必要がある点を知見したのである。つまり、界面活性剤が、強親水性の水酸基とマイルドな親水性のAO基とを、それぞれ所定の範囲で含有すれば、その親水性がバランスして、各成分の分散と相互作用とを促す点を知見したのである。
【0093】
本組成物(3)における界面活性剤は、水酸基量の変化による親水性の極端な変動が、AO含有量の調整により抑制されているとも言える。これにより、界面活性剤の、Fポリマー及びAR(3)の双方に対する親和性がバランスし、本組成物(3)全体での分散性が向上したと考えられる。
その結果、本組成物(3)から形成される成形品(F層(塗膜)等)においては、FポリマーとAR(3)との高度な相互作用により、それぞれのポリマーの物性が高度に発現したと考えられる。例えば、上記成形品は、AR(3)を含むため、その線膨張係数が低く、よって反りが発生しにくく、密着接着性に優れている。また、AR(3)が有する芳香族環の良好なUV吸収性によりUV-YAGレーザー等による加工性にも優れる。そして、上記成形品はFポリマーを含み、Fポリマーの物性(特に、低誘電率、低誘電正接等の電気特性)が顕著に優れている。
以上のような効果は、後述する本発明の好ましい態様において、より顕著に発現する。
【0094】
本組成物(3)におけるFポリマー及びFパウダーの定義は、好適な態様も含めて、本組成物(1)又は(2)におけるそれらと同様である。なお、本組成物(3)におけるFポリマーは、TFE単位及びPAVE単位を含む、溶融温度が260~320℃のPFAが好ましい。
本組成物(3)におけるAR(3)は、Fポリマー以外の材料であり、芳香族ポリアミドイミド、芳香族ポリイミド及び芳香族ポリエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の主鎖に芳香環を有するポリマーであるか、上記ポリマーを形成するプレポリマーである。
AR(3)は、芳香族ポリイミド又はその前駆体か、液晶性の芳香族ポリエステルかがより好ましく、芳香族ポリイミド又はその前駆体がさらに好ましい。
【0095】
芳香族ポリイミドの態様としては、上述した本組成物(2)におけるPI(2)の態様と同様である。
芳香族ポリエステルの態様としては、液晶ポリエステルが挙げられる。液晶ポリエステルとしては、特開2000-248056号公報の段落[0010]~[0015]に記載されるポリマーが挙げられる。芳香族ポリエステルの具体的な例としては、ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸、無水酢酸等)、ジヒドロキシ化合物(4,4’-ビフェノール等)、芳香族ヒドロキシカルボン酸(4-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸等)、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族アミノカルボン酸等の重合物が挙げられる。芳香族ポリエステルのより具体的な例としては、4-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸の反応物、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸とテレフタル酸とアセトアミノフェンの反応物、4-ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸及び4,4’-ビフェノールの反応物が挙げられる。
【0096】
本組成物(3)における非プロトン性極性液状分散媒の態様は、上述した本組成物(2)におけるそれと同様である。
【0097】
本組成物(3)における界面活性剤は、界面活性剤の水酸基価が100mgKOH/g以下かつオキシアルキレン基の含有量が10質量%以上である。
界面活性剤の水酸基価は、100mgKOH/g以下が好ましく、75mgKOH/g以下がより好ましく、50mgKOH/g以下がさらに好ましい。水酸基価の下限は、10mgKOH/g以上が好ましい。
界面活性剤のオキシアルキレン基の含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。オキシアルキレン基の含有量の上限は、50質量%以下が好ましい。
また、界面活性剤における親水部分としての水酸基及びオキシアルキレン基の態様は、その好適な範囲も含めて、本組成物(1)における界面活性剤と同様である。
さらに、界面活性剤は、疎水部分として、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基を有するのが好ましい。
【0098】
本組成物(3)における界面活性剤としては、下式(F)で表される化合物と下式(H)で表される化合物とのコポリマーが好ましく、下記コポリマーに含まれる全単位に対する式(F)で表される化合物に基づく単位の量は、60~90モル%が好ましく、70~90モル%がより好ましい。
下記コポリマーに含まれる全単位に対する式(H)で表される化合物に基づく単位の量は、10~40モル%が好ましく、10~30モル%がより好ましい。
下記コポリマーに含まれる全単位に対する、式(F)で表される化合物に基づく単位と式(H)で表される化合物との合計での量は、90~100モル%が好ましく、100モル%がより好ましい。
CH=CHR-C(O)O-Q-X ・・・ (F)
CH=CHR-C(O)O-(Q-OH ・・・ (H)
は、水素原子又はメチル基を表す。
は、炭素数1~4のアルキレン基又は炭素数1~4のオキシアルキレン基を表す。
は、炭素数4~6のペルフルオロアルキル基又は炭素数4~12のペルフルオロアルケニル基を表す。
は、水素原子又はメチル基を表す。
は、炭素数2~4のオキシアルキレン基を表す。
mは、1~120の整数を表す。
【0099】
本組成物(3)の粘度、チキソ比、水の含有量の定義は、好適な態様も含めて、本組成物(1)又は(2)におけるそれらと同様である。
本組成物(3)は、Fポリマー及びAR(3)以外のポリマー、無機フィラー、チキソ性付与剤、消泡剤、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤を含んでいてもよい。
本組成物(3)における無機フィラーの好適な態様及び範囲は、本組成物(2)における無機フィラーのそれらと同様である。
【0100】
本組成物(3)におけるFポリマーの含有量(割合)は、AR(3)の含有量(割合)以上であるのが好ましい。この場合、得られる成形品に対して、Fポリマーに基づく特性とAR(3)に基づく特性とを良好なバランスで付与できるだけでなく、Fポリマーの物性が高度に発現しやすい。
具体的には、本組成物(3)におけるFポリマーの含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%がさらに好ましい。上記含有量は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。この場合、電気特性と基材に対する密着性とに優れた成形品を形成しやすい。
【0101】
本組成物(3)におけるAR(3)の含有量は、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。上記含有量は、50質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。この場合、UV加工性がより向上した成形品を形成しやすい。
また、本組成物(3)におけるFポリマーの含有量(割合)に対するAR(3)の含有量(割合)の質量比は、1以下が好ましく、0.5以下より好ましく、0.1以下がさらに好ましい。
本組成物(3)における非プロトン性極性液状分散媒の含有量(割合)は、40~90質量%が好ましく、50~80質量%がより好ましい。
本組成物(3)における界面活性剤の含有量(割合)は、1~15質量%が好ましい。この場合、成形品におけるFポリマーの元来の物性がより向上しやすい。
【0102】
本組成物(3)を、基材の表面に塗布し加熱して、Fポリマー及び芳香族ポリマー(AR)を含むポリマー層(F層)を形成すれば、基材とF層とを、この順で有する積層体が得られる。
また、本組成物(3)を、織布に含浸させ加熱すると、Fポリマー及び芳香族ポリマー(AR)が含浸された含浸織布を得られる。
F層又は含浸織布におけるARは、本組成物(3)に含まれるAR(3)自体であってもよく、F層又は含浸織布の形成における加熱によって、構造変換(例えば、イミド化反応)が進行したARであってもよい。
本組成物(3)から形成される積層体又は含浸織布、並びにその製造方法に関する態様は、その好適な態様も含めて、本組成物(2)のそれらと同様である。
【0103】
本組成物の第4の態様(以下、本組成物(4)とも記す。)としては、Fポリマーのパウダー(Fパウダー)と、芳香族ポリイミド又はその前駆体(以下、「PI(4)」とも記す。)と、非水系液状分散媒(非水系液状媒体)とを含み、Fポリマーの含有量は、10質量%以上であり、かつ、水の含有量(含水量)が、1000~50000ppmである、態様が挙げられる。
本組成物(4)を用いれば、穴等の欠陥を抑制しつつ、Fポリマーと芳香族ポリイミドとを緻密に(高密度で)含み、Fポリマーの含有量が高く、比較的薄いF層を形成しやすい。その理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
【0104】
本組成物(4)からF層を形成する過程では、加熱により、Fパウダーのパッキング及び溶融焼成とPI(4)の反応とが並行して進行すると考えられる。ここで、PI(4)の反応とは、PI(4)の末端基同士の間での反応(末端基に含まれるアミノ基と、末端基に含まれる酸無水物基又はカルボキシル基とのイミド化反応等)や、ポリイミド又はその前駆体中のアミック酸単位の閉環反応であり、脱水を伴う反応である。PI(4)の反応に伴い発生する水量(水の蒸発量)は、反応基質量と加熱温度とに依存し、加熱初期に特に多くなり、上記過程中に大きく変動してしまう。特に、加熱初期における水の急激な蒸発が、Fパウダーのパッキングを阻害し、F層の欠陥を増大させてしまうと考えられる。
【0105】
そこで、本組成物(4)では、所定量の水を敢えて含有させている。つまり、所定量の水の含有により、加熱初期のPI(4)の反応の進行が抑制され、加熱により水が蒸発するに伴ってPI(4)の反応が漸増することで、加熱過程における水の蒸発量をバランスさせている。これにより、形成されるF層に欠陥が生じなくなったと考えられる。また、PI(4)の反応に伴う発熱や体積変化も加熱過程においてバランスし、形状の安定性の高いF層が形成されるため、F層の欠陥が抑制されるとも考えられる。
さらに、本組成物(4)は、所定量の水を含有するため、その保管に際して、PI(4)の反応による変質を抑制できるので、分散安定性にも優れていると考えられる。
【0106】
具体的には、本組成物(4)は、比較的多量のPI(4)を含有していても、その粘度又はチキソトロピー性が保持され、それぞれの成分の沈降、凝集及び相分離を抑制できる。その結果、本組成物(4)から形成されるF層(成形品)においては、Fポリマー及びポリイミドのそれぞれの物性が高度に発現すると考えられる。例えば、F層は、芳香族ポリイミドを含むため、その線膨張係数が低く、よって反りが発生しにくく、厚膜化にも有利である。また、芳香族ポリイミドが有する芳香族環の良好なUV吸収性により、UV-YAGレーザー等による加工性にも優れる。さらに、F層は、Fポリマーの物性(特に、低誘電率、低誘電正接等の電気特性)が高度に発現する。
以上のような効果は、後述する本組成物(4)の好ましい態様において、より顕著に発現する。
【0107】
本組成物(4)におけるFポリマーの定義は、その好適な態様も含めて、本組成物(1)におけるそれと同様である。なお、本組成物(4)におけるFポリマーは、TFE単位及びPAVE単位を含むPFAが好ましい。
特に、本組成物(4)におけるFポリマーの溶融温度は、280~325℃が好ましく、285~320℃がより好ましい。
また、Fポリマーのガラス転移点は、75~125℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。
本組成物(4)におけるFパウダーの定義は、好適な態様及び範囲も含めて、本組成物(2)におけるそれと同様である。
【0108】
PI(4)は、芳香族ポリイミド又は芳香族ポリアミック酸であるのが好ましい。
芳香族ポリイミドは、カルボン酸二無水物とジアミンとに基づく単位であり、両者の化合物のイミド化反応により形成された単位(イミド構造を有する単位;以下、「イミド単位」とも記す。)を有する。なお、芳香族ポリイミドは、イミド単位のみからなっていてもよく、イミド単位と上記両者の化合物のアミド化反応により形成された単位(アミック酸構造を有する単位;以下、「アミック酸単位」とも記す。)とを有していてもよい。一方、芳香族ポリアミック酸とは、アミック酸単位のみからなるポリマーである。
【0109】
かかるPI(4)において、カルボン酸二無水物及びジアミンの少なくとも一方、かつ、その少なくとも一部は、芳香族性の化合物である。また、カルボン酸二無水物とジアミンとは、それぞれ1種の化合物を使用してもよく、それぞれ複数の化合物を使用してもよい。カルボン酸二無水物として、少なくとも1種の芳香族カルボン酸二無水物を使用するのが好ましい。
ただし、PI(4)は、イミド化率が99%未満である芳香族ポリイミド又はポリアミック酸が好ましい。かかるPI類は、反応基質濃度が高く、加熱により反応が急激に進行するため、所定量の水を含有させた本組成物(4)の反応緩和効果が、より顕著に発現しやすい。
なお、本組成物(4)におけるPI(4)のイミド化率の定義、その制御方法及びその測定方法は、上述したPI(2)におけるそれらと同様である。
【0110】
PI(4)のイミド化率は、10~95%がより好ましく、25~90%がさらに好ましく、50~80%が特に好ましい。所定のイミド化率のPI(4)は、イミド化反応に伴ってイミド基が形成(閉環)され、その極性(解離性プロトン)が低下するため、本組成物(4)への溶解性(又は分散性)が低下する傾向にある一方、Fポリマーとの親和性が上昇する傾向にある。このため、かかるPI(4)は、分散剤として機能して、Fパウダーの分散を促すとも考えられる。また、かかるPI(4)の含有により、本組成物(4)の粘度又はチキソトロピー性が保持され、それぞれの成分の沈降、凝集及び相分離をより抑制しやすい。
なお、芳香族ポリアミック酸のイミド化率は、0%である。
【0111】
PI(4)は、芳香族テトラカルボン酸の酸二無水物と、2個以上のアリーレン基が連結基を介して連結された連結構造を有する芳香族ジアミン、又は、脂肪族ジアミンとに基づく単位を含むのが好ましい。かかるPI(4)は、Fポリマーとの親和性がより高まる傾向を示し、本組成物(4)の分散性をより高めるだけでなく、それから形成されるF層の接着性が向上しやすい。つまり、かかるPI(4)は、本組成物(4)において分散剤としても、F層における接着成分としても機能しやすい。
PI(4)における、芳香族テトラカルボン酸の酸二無水物、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミンの好適な態様は、上述した本組成物(2)におけるそれらと同様である。
【0112】
本組成物(4)における非水系液状分散媒は、アミド、ケトン及びエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の液状化合物であるのが好ましい。非水系液状分散媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合してもよい。
非水系液状分散媒の沸点は、125~250℃が好ましい。この場合、本組成物(4)による液状被膜を乾燥して乾燥被膜を形成する際、非水系液状分散媒の揮発に伴う、Fパウダーの流動が効果的に進行して、Fパウダーが緻密にパッキングしやすい。
本組成物(4)における非水系液状分散媒の好適な具体例は、本組成物(2)における非プロトン性極性液状分散媒と同様である。
【0113】
本組成物(4)は、親水部分として水酸基又はオキシアルキレン基を有する界面活性剤を含有するのが好ましい。
本組成物(4)における界面活性剤の定義は、好適な態様も含めて、本組成物(1)におけるそれと同様である。
【0114】
本組成物(4)の含水量は、1000~50000ppmである。
本組成物(4)の含水量は、5000ppm超が好ましく、7500ppm以上がより好ましい。本組成物(4)の含水量は、30000ppm以下が好ましく、20000ppm以下がより好ましい。本組成物(4)の含水量が上記範囲であれば、PI(4)の反応自体を損わずに、加熱過程における水の蒸発量がよりバランスさせ、形成されるポリマー層に欠陥が一層低減できる。また、本組成物(4)は、分散安定性とハンドリング性とに優れた液状組成物となりやすい。
本組成物(4)の粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、10~1000mPa・sがより好ましい。
本組成物(4)のチキソ比は、1~2が好ましい。
【0115】
本組成物(4)の粘度、チキソ比の定義は、好適な態様及び範囲も含め、本組成物(2)におけるそれらと同様である。
本組成物(4)は、Fポリマー及びPI(4)以外のポリマー、無機フィラー、チキソ性付与剤、消泡剤、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤を含んでいてもよい。
本組成物(4)における無機フィラーの好適な態様及び範囲は、本組成物(2)における無機フィラーのそれらと同様である。
【0116】
本組成物(4)におけるFポリマーの含有量は、PI(4)の含有量以上であるのが好ましい。この場合、Fポリマーの物性を高度に具備した緻密なF層が得られやすく、また、得られるF層に対して、Fポリマーに基づく特性とPI(4)に基づく特性とを良好なバランスで付与しやすい。
具体的には、本組成物(4)におけるFポリマーの含有量は、10質量%以上であり、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。上記含有量は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。この場合、電気特性と基材に対する密着性とに優れたF層を形成しやすい。
【0117】
本組成物(4)におけるPI(4)の含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。上記含有量は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。この場合、UV加工性がより向上したF層を形成しやすい。
本組成物(4)における非水系液状分散媒の含有量は、40~90質量%が好ましく、50~80質量%がより好ましい。
本組成物(4)が界面活性剤を含む場合、その含有量は、1~15質量%が好ましい。この場合、F層におけるFポリマーの元来の物性がより向上しやすい。
【0118】
本組成物(4)を、基材の表面に塗布し加熱して、Fポリマー及び芳香族ポリイミド(PI)を含むF層を形成すれば、基材とF層とを、この順で有する積層体が得られる。
F層におけるPIは、本組成物(4)に含まれるPI(4)自体であってもよく、F層の形成における加熱によって、さらにイミド化反応が進行したPIであってもよい。
本組成物(4)から形成される積層体の定義は、好適な態様及び範囲も含めて、本組成物(2)から形成される積層体それと同様である。
【0119】
以上、本発明の液状組成物と、かかる液状組成物から得られる本発明の積層体又は含浸織布とについて説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本発明の液状組成物と、かかる液状組成物から得られる本発明の積層体又は含浸織布とは、それぞれ上記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の構成と置換されていてよい。
【実施例
【0120】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0121】
1.液状組成物の製造例及びその評価例(その1)
1-1.各成分の準備
[パウダー]
パウダー11:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に98.0モル%、0.1モル%、1.9モル%含むFポリマー11(溶融温度:300℃)からなるパウダー(D50:1.7μm)
パウダー12:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%含むFポリマー12(溶融温度:305℃)からなるパウダー(D50:1.3μm)
[溶媒(液状分散媒)]
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
【0122】
[結着樹脂]
結着樹脂11:非反応型の熱可塑性ポリイミド(三菱ガス化学社製、「ネオプリム」;20%重量減少温度:300℃以上、5%重量減少温度:300℃以上、ガラス転移点:260℃)
結着樹脂12:非反応型の熱可塑性ポリイミド(ソマール社製、「スピクセリア」;20%重量減少温度:300℃以上、5%重量減少温度:300℃以上)
結着樹脂13:脱水縮合反応型の熱硬化性ポリイミド(ポリアミック酸を含むポリイミド前駆体;20%重量減少温度:300℃以上、5%重量減少温度:300℃以上)
結着樹脂14:非反応型の熱可塑性アクリル樹脂(20%重量減少温度:260℃未満)
なお、上記結着樹脂は、いずれもNMPに可溶な樹脂である。
【0123】
[分散剤(界面活性剤)]
分散剤11:ペルフルオロアルケニル基と、ポリオキシエチレン基及びアルコール性水酸基とをそれぞれ側鎖に有する、ノニオン性の(メタ)アクリレート系ポリマー(ネオス社製、「フタージェント710FL」)
[金属箔]
銅箔11:低粗化電解銅箔(厚さ:12μm、表面の十点平均粗さ:0.08μm)
【0124】
1-2.液状組成物の製造
ポットに、NMP(66.7質量部)と分散剤11(3質量部)とを入れて溶液とした後、パウダー11(30質量部)と結着樹脂11(0.3質量部)とを入れた。その後、ジルコニアボールを投入し、150rpmにて1時間、ポットを転がして、パウダー11が分散した液状組成物11を製造した。
なお、液状組成物11は、25℃における粘度が1000mPa・s以下(25mPa・s)であり、25℃にて静置しても顕著な沈降物が発生せず分散性に優れていた。
(液状組成物12~15)
成分の種類と成分の量とを以下の表1に示すように変更した以外は、液状組成物11と同様にして、液状組成物12~15を製造した。
各液状組成物の成分の種類及び量をまとめて表1に示す。なお、表1中、括弧内の数値は使用した量(質量部)を示し、「結着樹脂/Fポリマー」は液状組成物中のFポリマーの含有量に対する結着樹脂の含有量の質量比を示す。
【0125】
【表1】
【0126】
1-3.ポリマー層付銅箔の製造
(ポリマー層付銅箔11)
銅箔11の表面に、液状組成物11を小径グラビアリバース法によりロールツーロールで塗工して、液状被膜を形成した。次いで、この銅箔を、乾燥炉に通し、100℃、120℃、130℃の順で計5分間、加熱して乾燥させた。その後、窒素雰囲気下の遠赤外線オーブン中で、乾燥被膜を340℃にて3分間加熱した。これにより、銅箔11の表面にF層11(厚さ:4μm)が形成されたポリマー層付銅箔11を製造した。
(ポリマー層付銅箔12~15)
液状組成物11に代えて、液状組成物12~15をそれぞれ使用した以外は、ポリマー層付銅箔11と同様にして、ポリマー層付銅箔12~15を製造した。
得られたポリマー層付銅箔について、以下の評価を行った。
【0127】
1-4.ポリマー層付銅箔の評価
<密着性>
ポリマー層付銅箔の断面をSEMにより観察して、銅箔とF層との界面の状態を、以下の基準に従って評価した。
A:界面が全面にわたって緻密に密着している。
B:界面が全面にわたって密着しているが、空隙が存在する部分がある。
C:界面の全面にわたって空隙が存在している。
【0128】
<剥離強度>
ポリマー層付銅箔から矩形状(長さ100mm、幅10mm)の試験片に切り出した。そして、試験片の長さ方向の一端から50mmの位置を固定し、引張り速度50mm/分、長さ方向の片端から試験片に対して90°で、銅箔とF層とを剥離させた。この際の最大荷重を剥離強度(N/cm)として測定し、以下の基準に従って評価した。
A:剥離強度が12N/cm以上である。
B:剥離強度が8N/cm以上、12N/cm未満である。
C:剥離強度が8N/cm未満である。
【0129】
<はんだ耐熱性>
ポリマー層付銅箔を、288℃の半田浴に5秒間浮かべる半田耐熱性試験に供した際、F層から銅箔が浮く現象が発生するかを目視で確認し、以下の基準に従って評価した。
A:試験を繰り返しても、上記現象が発生しない。
B:1回の試験で上記現象は発生しないが、試験を繰り返すと上記現象が発生する。
C:1回の試験で上記現象が発生する。
【0130】
<反り性>
ポリマー層付銅箔のF層の表面にポリイミドフィルムを重ね、真空熱プレス法(プレス温度:340℃、プレス圧力:4MPa、プレス時間:60分間)によって積層させて、以下の基準に従って評価した。
A:ポリマー層付銅箔とポリイミドフィルムを問題なく積層できる。
B:ポリマー層付銅箔が、一部カールするが、ポリイミドフィルムと問題なく積層できる。
C:ポリマー層付銅箔が、大きくカールして、ポリイミドフィルムと積層できない。
【0131】
【表2】
【0132】
ポリマー層付銅箔11における銅箔11とF層11との界面は、緻密であり空隙が確認されなかった。また、ポリマー層付銅箔11のF層11の最表面をSEMにより観察した結果、その表面は平滑性が高く欠陥が確認されなかった。さらに、ポリマー層付銅箔11の銅箔11の光沢を、F層11側から目視で確認した結果、使用した元の銅箔11の光沢から変化が無かった。そして、ポリマー層付銅箔11の銅箔11をエッチング処理して形成した伝送回路を有するプリント基板は、加熱において反りにくかった。
【0133】
ポリマー層付銅箔11は、分散液11(結着樹脂のガラス転移点がFポリマーの溶融温度より低い、Fポリマー及び結着樹脂を使用した分散液)から製造され、そのF層11は良好なUV吸収性を示し、誘電率と誘電正接(測定周波数:10GHz)とがこの順に2.0、0.0061であり電気特性に優れていた。
なお、表2の結果から、Fポリマー及び結着樹脂の種類の変更に伴って、各評価の結果に変動が確認された。
【0134】
2.液状組成物の製造例及びその評価例(その2)
2-1.各成分の準備
[Fポリマー]
Fポリマー21:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に98.0モル%、0.1モル%、1.9モル%で含有し、極性官能基を有するポリマー(溶融温度:300℃、ガラス転移点:95℃)
Fポリマー22:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%で含有し、極性官能基を有さないポリマー(溶融温度:305℃、ガラス転移点:85℃)
[パウダー]
パウダー21:Fポリマー21からなるパウダー(D50:1.7μm)
パウダー22:Fポリマー22からなるパウダー(D50:3.2μm)
【0135】
[PI又はポリアミック酸]
PI21:上記式AN1で表される化合物と、上記式DA5で表される化合物とに基づく単位を含むポリイミド(イミド化率:50%以上)
PI22:上記式AN6で表される化合物と、脂肪族ジアミンとに基づく単位を含むポリイミド(イミド化率:50%以上)
PI23:上記式AN1で表される化合物と、上記式DA5で表される化合物とに基づく単位を含むポリイミド(イミド化率:5%)
PA21:上記式AN1で表される化合物と、上記式DA5で表される化合物とに基づく単位を含むポリアミック酸(イミド化率:0%)
【0136】
[非プロトン性極性液状分散媒]
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
[界面活性剤]
界面活性剤21:ペルフルオロアルキル基を有するメタクリレートと、水酸基及びオキシメチレン基を有するメタアクリレートのコポリマー
【0137】
なお、PI又はポリアミック酸のイミド化率は、以下の方法にしたがって測定した。
溶媒としてジメチルスルホキシド-dを用いて、それぞれのPI溶液又はポリアミック酸溶液のH-NMRを測定し、芳香族プロトンのピークの積分値とカルボン酸プロトンのピークの積分値との比から、下記式(I)に従ってイミド化率を算出した。
イミド化率(%)={1-(Y/Z)×(1/X)}×100 ・・・ (I)
X:モノマーの仕込み量から求められる、イミド化率0%の場合のカルボン酸プロトンピークの積分値/芳香族プロトンピークの積分値
Y:H-NMR測定から得られるカルボン酸プロトンピークの積分値
Z:H-NMR測定から得られる芳香族プロトンピークの積分値
【0138】
2-2.液状組成物の製造
(例21)
ポットに、NMP(64質量部)と界面活性剤21(3質量部)とを入れて溶液とした後、パウダー21(30質量部)及びPI21(3質量部)とを入れた。その後、ジルコニアボールを投入し、150rpmにて1時間、ポットを転がして、パウダー21が分散した液状組成物21を製造した。
(例22)
ポットに、NMPと界面活性剤21とを入れて溶液とした後、パウダー21を入れ、150rpmにて1時間、ポットを転がして、パウダー21が分散した分散液を調製した。この分散液と、PI22のワニスとを混合して、パウダー21及びPI22を、それぞれ30質量%含む、パウダー21が分散した液状組成物22を製造した。
(例23)
PI21に代えてPI23を使用した以外は、液状組成物21と同様にして、液状組成物23を得た。
【0139】
(例24)
パウダー21に代えてパウダー22を使用した以外は、液状組成物21と同様にして、液状組成物24を得た。
(例25)
PI21に代えてPA21を使用した以外は、液状組成物24と同様にして、液状組成物25を得た。
【0140】
各液状組成物を長期保存後、その分散状態を目視にて確認し、下記の基準に従って、分散性を評価した。
A:軽く撹拌するだけで、均一に再分散した。
B:せん断をかけて撹拌すると、均一に再分散した。
C:せん断をかけて撹拌下では、均一に再分散するが、不均化した。
結果をまとめて、以下の表3に示す。
【0141】
【表3】
【0142】
2-3.積層体の製造
厚さ50μmの芳香族ポリイミドフィルム(SKC Kolon PI社製、品番「FS-200」)を用意した。このフィルムの一方の面に、液状組成物21を小径グラビアリバース法で塗布し、通風乾燥炉(炉温:150℃)に3分間で通過させて、NMPを除去して乾燥被膜を形成した。さらに、フィルムの他方の面にも、同様に、液状組成物21を塗布、乾燥し、乾燥被膜を形成した。
次いで、両面に乾燥被膜が形成されたフィルムを、遠赤外線炉(炉温:380℃)に20分間で通過させて、パウダー(Fポリマー)を溶融焼成した。これにより、両面に、Fポリマー21及びPI21を含むF層(厚さ:25μm)が形成された芳香族ポリイミドフィルム、すなわち積層体21を得た。積層体21の線膨張係数の絶対値は25ppm/℃以下であり、接着性と電気特性(低誘電率性及び低誘電正接性)とを具備していた。
【0143】
積層体21の両面に銅箔21(厚さが12μmかつ表面の十点平均粗さが0.08μmである低粗化電解銅箔)を配し、340℃にて20分間、真空下でプレスすると、両面銅張積層体21が得られた。両面銅張積層体21は、各層が強固に接着されており、288℃のはんだ浴に60秒間、10回浮かべる、はんだリフロー試験に供しても、上記層の界面に膨れ及び剥離のいずれも発生しなかった。
両面銅張積層体21に対して、UV-YAGレーザー(レーザー出力:1.5W、レーザー焦点径:25μm、円周上の周回回数:16回、発振周波数:40kHz)を照射すると、良好な円形の貫通孔を形成できた。
液状組成物21に代えて液状組成物22を使用しても、同等の両面銅張積層体が得られた。
【0144】
また、銅箔21の表面に、液状組成物22を塗工して加熱すると、銅箔21及びF層を、この順で有する積層体が得られた。この積層体は、銅箔21の表面にポリマー層が強固に接着積層されるとともに、反りの発生が抑制されており、高い接着性と優れた電気特性(低誘電率性及び低誘電正接性)とを具備していた。
【0145】
3.液状組成物の製造例及びその評価例(その3)
3-1.各成分の準備
[Fポリマー]
Fポリマー31:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に98.0モル%、0.1モル%、1.9モル%で含有し、極性官能基を有するポリマー(溶融温度:300℃、ガラス転移点:95℃)
Fポリマー32:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%で含有し、極性官能基を有さないポリマー(溶融温度:305℃、ガラス転移点:85℃)
[パウダー]
パウダー31:Fポリマー31からなるパウダー(D50:1.7μm)
パウダー32:Fポリマー32からなるパウダー(D50:3.2μm)
【0146】
[AR類]
PI31:上記式AN1で表される化合物と、上記式DA5で表される化合物とに基づく単位を含むポリイミド(イミド化率:50%以上)
PI32:上記式AN6で表される化合物と、脂肪族ジアミンとに基づく単位を含むポリイミド(イミド化率:50%以上)
PA31:上記式AN1で表される化合物と、上記式DA5で表される化合物とに基づく単位を含むポリアミック酸(イミド化率:0%)
PES31:2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸(HNA)、4-ヒドロキシアセトアニリド(APAP)、イソフタル酸(IPA)、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸(DEDA)及び無水酢酸を反応させて得られる芳香族性ポリエステル(液晶ポリエステル)
【0147】
[非プロトン性極性液状分散媒]
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
[無機フィラー]
フィラー31:アミノシランカップリング剤で表面処理された平均粒子径が0.5μmのシリカフィラー(アドマテックス社製、商品名「アドマファインSO-C2」)
【0148】
[界面活性剤]
CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFFと、式CH=C(CH)C(O)(OCHCHOHで表される化合物(ただし、xは、1、10又は23である。)の少なくとも1種とのコポリマーであって、下記表4に示す、フッ素含有量、水酸基価、及びオキシエチレン基の含有量を有する3種類の界面活性剤
【0149】
【表4】
【0150】
なお、PI又はポリアミック酸のイミド化率は、2-1と同様の方法で測定した。
【0151】
また、PES31は、以下の方法によって調製した。
窒素ガス雰囲気下の反応器に、HNA、APAP、IPA、DEDA及び無水酢酸(1.1モル)を、この順に21モル%、13モル%、2モル%、11モル%、52モル%の割合で仕込み、撹拌下に還流保持(150℃、3時間)した。さらに、低沸成分(副生酢酸、未反応の無水酢酸等)を留去しつつ320℃にて反応を継続した(昇温時間:170分)。反応器内のトルクが上昇した時点を反応終了とし、その内容物を取り出し、冷却して粉砕した。粉砕物をさらに、窒素ガス雰囲気下にて、240℃にて3時間保持し、固相反応させてPES31を得た。
【0152】
3-2.液状組成物の製造
(例31)
ポットに、NMP(64質量部)と界面活性剤31(3質量部)とを入れて溶液とした後、パウダー31(30質量部)及びPI31(3質量部)とを入れた。その後、ジルコニアボールを投入し、150rpmにて1時間、ポットを転がして、パウダー31が分散した液状組成物31を製造した。
(例32)
ポットに、NMPと界面活性剤31とを入れて溶液とした後、パウダー31を入れ、150rpmにて1時間、ポットを転がして、パウダー31が分散した分散液を調製した。この分散液と、PI32のワニスと、フィラー31とを混合して、パウダー31、PI32及びフィラー31とを、この順に、30質量%、30質量%、1質量%含む、パウダー31が分散した液状組成物2を製造した。
【0153】
(例33)
ポットに、NMPと界面活性剤31とを入れて溶液とした後、パウダー31を入れ、150rpmにて1時間、ポットを転がして、パウダー31が分散した分散液を調製した。この分散液と、PES31のワニス(PES31を10質量%含むNMP溶液)と、フィラー31とを混合して、パウダー31、PES31及びフィラー31を、それぞれ15質量%含む、パウダー31が分散した液状組成物33を製造した。
(例34)
パウダー31に代えてパウダー32を使用した以外は、液状組成物31と同様にして、液状組成物34を得た。
【0154】
(例35)
PI31に代えてPA31を使用した以外は、液状組成物34と同様にして、液状組成物35を得た。
(例36)
パウダー32の量を30質量部に、PI31の量を30質量部に変更した以外は、液状組成物34と同様にして、液状組成物36を得た。
(例37)
パウダー32の量を20質量部に、PI31の量を40質量部に変更した以外は、液状組成物36と同様にして、液状組成物37を得た。
【0155】
(例38)
界面活性剤31に代えて界面活性剤32を使用した以外は、液状組成物35と同様にして、液状組成物38を得た。
(例39)
界面活性剤31に代えて界面活性剤33を使用した以外は、液状組成物35と同様にして、液状組成物39を得た。
【0156】
各液状組成物を長期保存後、その分散状態を目視にて確認し、下記の基準に従って、分散性を評価した。
A:軽く撹拌するだけで、均一に再分散した。
B:せん断をかけた撹拌すると、均一に再分散した。
C:せん断をかけた撹拌下では、均一に再分散するが、不均化した。
D:せん断をかけた撹拌下では、均一に再分散するが、増粘して不均化した。
E:せん断をかけた撹拌下では、ハードケーキ化して、再分散が困難である。
結果をまとめて、以下の表5に示す。
【0157】
【表5】
【0158】
3-3.剥離強度の測定
厚さ50μmの芳香族ポリイミドフィルム(SKC Kolon PI社製、品番「FS-200」)を用意した。このフィルムの一方の面に、液状組成物31を小径グラビアリバース法で塗布し、通風乾燥炉(炉温:150℃)に3分間で通過させて、NMPを除去して乾燥被膜を形成した。さらに、フィルムの他方の面にも、同様に、液状組成物31を塗布、乾燥し、乾燥被膜を形成した。
次いで、両面に乾燥被膜が形成されたフィルムを、遠赤外線炉(炉温:380℃)に20分間で通過させて、パウダー(Fポリマー)を溶融焼成した。これにより、両面に、Fポリマー31及びPI31を含むF層(厚さ:25μm)が形成された芳香族ポリイミドフィルム、すなわち積層体31を得た。積層体31の線膨張係数の絶対値は25ppm/℃以下であり、接着性と電気特性(低誘電率性及び低誘電正接性)とを具備していた。
【0159】
積層体31の両面に銅箔31(厚さが12μmかつ表面の十点平均粗さが0.08μmである低粗化電解銅箔)を配し、340℃にて20分間、真空下でプレスすると、両面銅張積層体31が得られた。両面銅張積層体31は、各層が強固に接着されており、288℃のはんだ浴に60秒間、10回浮かべる、はんだリフロー試験に供しても、上記層の界面に膨れ及び剥離のいずれも発生しなかった。
両面銅張積層体31に対して、UV-YAGレーザー(レーザー出力:1.5W、レーザー焦点径:25μm、円周上の周回回数:16回、発振周波数:40kHz)を照射すると、良好な円形の貫通孔を形成できた。
液状組成物31に代えて液状組成物32を使用しても、同等の両面銅張積層体が得られた。
【0160】
また、銅箔31の表面に、液状組成物32を塗工して加熱すると、銅箔31及びF層を、この順で有する積層体が得られた。この積層体は、銅箔31の表面にポリマー層が強固に接着積層されるとともに、反りの発生が抑制されており、高い接着性と優れた電気特性(低誘電率性及び低誘電正接性)とを具備していた。
【0161】
4.液状組成物の製造例及びその評価例(その4)
4-1.各成分の準備
[Fポリマー]
Fポリマー41:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に98.0モル%、0.1モル%、1.9モル%で含有し、極性官能基を有するポリマー(溶融温度:300℃、ガラス転移点:95℃)
Fポリマー42:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%で含有し、極性官能基を有さないポリマー(溶融温度:305℃、ガラス転移点:85℃)
[パウダー]
パウダー41:Fポリマー1からなるパウダー(D50:1.7μm)
パウダー42:Fポリマー2からなるパウダー(D50:3.2μm)
【0162】
[PI類]
PI41:上記式AN1で表される化合物と、上記式DA5で表される化合物とに基づく単位を含むポリイミド
PA41:上記式AN1で表される化合物と、上記式DA5で表される化合物とに基づく単位を含むポリアミック酸
[非水系液状分散媒]
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
[界面活性剤]
界面活性剤41:CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFFとCH=C(CH)C(O)(OCHCH23OHのコポリマー
【0163】
4-2.液状組成物の製造
(例41)
ポットに、NMPと界面活性剤41とを入れて溶液とした後、パウダー41及びPI41のワニス(溶媒:NMP)とを入れた。その後、ジルコニアボールを投入し、150rpmにて1時間、ポットを転がして、NMP、界面活性剤41、パウダー41及びPI41をこの順に、57質量部、3質量部、25質量部、15質量部含み、パウダー41が分散した液状組成物41を製造した。なお、液状組成物41における含水量は、8000ppmに調整した。
(例42)
パウダー41をパウダー42に変更した以外は、例41と同様にして、液状組成物42を得た。なお、液状組成物42における含水量は、8000ppmに調整した。
【0164】
(例43)
界面活性剤41を使用しなかった以外は、例42と同様にして、NMP、パウダー42及びPI41をこの順に、60質量部、25質量部、15質量部含み、パウダー42が分散した液状組成物43を製造した。なお、液状組成物43における含水量は、8000ppmに調整した。
(例44)
含水量を60000ppmに調整した以外は、例42と同様にして、液状組成物44を得た。
【0165】
(例45)
含水量を800ppmに調整した以外は、例42と同様にして、液状組成物45を得た。
(例46)
PI41をPA41に変更した以外は、例41と同様にして、液状組成物46を得た。なお、液状組成物46における含水量は、20000ppmであった。
【0166】
4-3.液状組成物の評価
各液状組成物を長期間保存した後、その分散状態を目視にて確認し、下記の基準に従って、分散性を評価した。
A:軽く撹拌するだけで、均一に再分散した。
B:せん断をかけて撹拌すると、均一に再分散した。
C:せん断をかけて撹拌下では、均一に再分散するが、不均化した。
結果をまとめて、以下の表6に示す。
【0167】
【表6】
【0168】
4-4.積層体の製造
厚さ50μmの芳香族ポリイミドフィルム(SKC Kolon PI社製、品番「FS-200」)を用意した。このフィルムの一方の面に、各液状組成物を小径グラビアリバース法で塗布し、通風乾燥炉(炉温:150℃)に3分間で通過させて、NMPを除去して乾燥被膜を形成した。さらに、フィルムの他方の面にも、同様に、各液状組成物を塗布、乾燥し、乾燥被膜を形成した。
次いで、両面に乾燥被膜が形成されたフィルムを、遠赤外線炉(炉温:380℃)に20分間で通過させて、パウダー(Fポリマー)を溶融焼成した。これにより、両面にポリマー層(厚さ:8μm)が形成された芳香族性ポリイミドフィルム、すなわち積層体41を得た。
【0169】
4-5.積層体の評価
各積層体が有するポリマー層の表面について、10cm×10cmの範囲に存在する穴の数を目視にてカウントし、下記の基準に従って、欠陥の程度を評価した。
A:穴の数が10個未満であった。
B:穴の数が10個以上25個未満であった。
C:穴の数が25個以上であった。
結果をまとめて、以下の表7に示す。
【0170】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明の液状組成物は、分散性に優れ、テトラフルオロエチレン系ポリマー及びアミド構造、イミド構造又はエステル構造と芳香族環構造とを主鎖に有するポリマーに基づく特性(電気特性、UV加工性、低吸水率等)に優れる成形物を形成できる。本発明の液状組成物は、プリント基板材料として好適である。