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特許7468522共沸組成物、共沸様組成物、組成物、洗浄剤、溶媒、熱移動媒体
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  • 特許-共沸組成物、共沸様組成物、組成物、洗浄剤、溶媒、熱移動媒体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】共沸組成物、共沸様組成物、組成物、洗浄剤、溶媒、熱移動媒体
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/50 20060101AFI20240409BHJP
   C11D 7/30 20060101ALI20240409BHJP
   C11D 17/08 20060101ALI20240409BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20240409BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20240409BHJP
   C07C 21/073 20060101ALI20240409BHJP
   C23G 5/028 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C11D7/50
C11D7/30
C11D17/08
C09K5/04 C
C07C21/18
C07C21/073
C23G5/028
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021524739
(86)(22)【出願日】2020-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2020019820
(87)【国際公開番号】W WO2020246231
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019107140
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】光岡 宏明
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/039521(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/101324(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/097300(WO,A1)
【文献】特表2022-516286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 7/50
C11D 7/30
C11D 17/04
C09K 5/04
C23G 5/028
C07C 21/073
C07C 21/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
34.5質量%の(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンと、65.5質量%のトランス-1,2-ジクロロエチレンとからなる共沸組成物。
【請求項2】
28~41質量%の(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンと、59~72質量%のトランス-1,2-ジクロロエチレンとからなる共沸様組成物。
【請求項3】
比揮発度が1.00±0.10である、請求項2に記載の共沸様組成物。
【請求項4】
(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンと、トランス-1,2-ジクロロエチレンとを含む組成物であって、
前記組成物における(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンとトランス-1,2-ジクロロエチレンの合計割合が組成物の全量に対して90質量%以上であり、
トランス-1,2-ジクロロエチレンに対する(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンの質量比が、28/72~41/59である組成物。
【請求項5】
前記組成物がさらに(E)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンを含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の共沸組成物を含む洗浄剤。
【請求項7】
請求項2または3に記載の共沸様組成物を含む洗浄剤。
【請求項8】
請求項4または5に記載の組成物を含む洗浄剤。
【請求項9】
請求項1に記載の共沸組成物を含む溶媒。
【請求項10】
請求項2または3に記載の共沸様組成物を含む溶媒。
【請求項11】
請求項4または5に記載の組成物を含む溶媒。
【請求項12】
請求項1に記載の共沸組成物を含むエアゾール組成物。
【請求項13】
請求項2または3に記載の共沸様組成物を含むエアゾール組成物。
【請求項14】
請求項4または5に記載の組成物を含むエアゾール組成物。
【請求項15】
請求項1に記載の共沸組成物を含む熱移動媒体。
【請求項16】
請求項2または3に記載の共沸様組成物を含む熱移動媒体。
【請求項17】
請求項4または5に記載の組成物を含む熱移動媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球環境への影響が小さく、不燃性であり、繰り返し蒸発、凝縮させても組成変化の生じにくい共沸組成物、共沸様組成物、および組成物、並びに、該共沸組成物、共沸様組成物または組成物を含む、洗浄剤、溶媒、および熱移動媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クロロフルオロカーボン(以下、「CFC」と記す。)、ハイドロクロロフルオロカーボン(以下、「HCFC」と記す。)およびハイドロフルオロカーボン(以下、「HFC」)は、不燃性であり、安定性、乾燥性等に優れることから、洗浄剤、溶媒、熱移動媒体、発泡剤、消火剤等の種々の用途で用いられてきた。しかし、CFC、HCFC、HFCは、オゾン層や地球温暖化への影響が懸念されている。
CFC、HCFC、HFCの代替として、フルオロオレフィンが提案されている。フルオロオレフィンは、分子中に炭素-炭素二重結合を有するため、大気中での寿命が短く、地球環境への影響が小さい。
【0003】
しかしながら、フルオロオレフィンを単独で上記用途に使用した場合、求める性能を十分に発現できない場合があった。このような問題を解決するため、目的に応じてフルオロオレフィンに他の成分を組合せて用いることが検討されている。
例えば、特許文献1には、モノクロロトリフルオロプロペン(HCFO-1233)および追加の成分を含む組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2011/031697号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、複数の成分を組合せて用いる場合、各成分の沸点が異なるため、使用中に組成が変化して、十分な性能を発現できない場合があった。また、追加の成分として引火点を有する成分を組合せる場合、安全のための対策を講じる必要があった。
本発明は、地球環境への影響が小さく、不燃性であり、繰り返し蒸発、凝縮させても組成変化の生じにくい共沸組成物、共沸様組成物および組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、該共沸組成物、共沸様組成物または組成物を含む、洗浄剤、溶媒および熱移動媒体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の[1]~[17]である。
[1] 34.5質量%の(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンと、65.5質量%のトランス-1,2-ジクロロエチレンとからなる共沸組成物。
[2] 28~41質量%の(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンと、59~72質量%のトランス-1,2-ジクロロエチレンとからなる共沸様組成物。
[3] 比揮発度が1.00±0.10である、[2]に記載の共沸様組成物。
[4] (Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンと、トランス-1,2-ジクロロエチレンとを含む組成物であって、
前記組成物における(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンとトランス-1,2-ジクロロエチレンの合計割合が組成物の全量に対して90質量%以上であり、
トランス-1,2-ジクロロエチレンに対する(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンの質量比が、28/72~41/59である組成物。
[5] 前記組成物がさらに(E)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンを含む、[4]に記載の組成物。
[6] [1]に記載の共沸組成物を含む洗浄剤。
[7] [2]または[3]に記載の共沸様組成物を含む洗浄剤。
[8] [4]または[5]に記載の組成物を含む洗浄剤。
[9] [1]に記載の共沸組成物を含む溶媒。
[10] [2]または[3]に記載の共沸様組成物を含む溶媒。
[11] [4]または[5]に記載の組成物を含む溶媒。
[12] [1]に記載の共沸組成物を含むエアゾール組成物。
[13] [2]または[3]に記載の共沸様組成物を含むエアゾール組成物。
[14] [4]または[5]に記載の組成物を含むエアゾール組成物。
[15] [1]に記載の共沸組成物を含む熱移動媒体。
[16] [2]または[3]に記載の共沸様組成物を含む熱移動媒体。
[17] [4]または[5]に記載の組成物を含む熱移動媒体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の共沸組成物、共沸様組成物、および組成物は、地球環境への影響が小さく、不燃性であり、繰り返し蒸発、凝縮させても組成変化が生じにくい。
本発明の洗浄剤、溶媒、および熱移動媒体は、地球環境への影響が小さく、不燃性であり、繰り返し蒸発、凝縮させても組成変化が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の洗浄方法を行う洗浄装置の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、ハロゲン化炭化水素については、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記すが、本明細書では必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。また、略称として、ハイフン(-)より後ろの数字およびアルファベット小文字部分だけ(例えば、「HCFO-1233yd」においては「1233yd」)を用いることがある。さらに、幾何異性体を有する化合物の名称およびその略称に付けられた(E)は、E体を示し、(Z)はZ体を示す。該化合物の名称、略称において、E体、Z体の明記がない場合、該名称、略称は、E体、Z体、およびE体とZ体の混合物を含む総称を意味する。
【0010】
本明細書において、飽和炭化水素化合物の水素原子の一部をフッ素原子に置き換えた化合物をハイドロフルオロカーボン(HFC)、飽和炭化水素化合物の水素原子の一部をフッ素原子および塩素原子に置き換えた化合物をハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、飽和炭化水素化合物の水素原子のすべてをフッ素原子および塩素原子に置き換えた化合物をクロロフルオロカーボン(CFC)、炭素-炭素二重結合を有し、炭素原子、フッ素原子および水素原子から構成される化合物をハイドロフルオロオレフィン(HFO)、炭素-炭素二重結合を有し、炭素原子、塩素原子、フッ素原子および水素原子から構成される化合物をハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)という。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
[共沸組成物]
本発明の共沸組成物は、34.5質量%の(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233yd(Z))と65.5質量%のトランス-1,2-ジクロロエチレン(以下、「tDCE」と記す。)からなる。つまり、本発明の共沸組成物において、1233yd(Z)の含有量は、本発明の共沸組成物の全量に対して、34.5質量%であり、tDCEの含有量は、本発明の共沸組成物の全量に対して、65.5質量%である。
本発明の共沸組成物の圧力1.0×10Paにおける沸点は、46℃である。
【0012】
本発明の共沸組成物は、地球環境への影響が小さく、不燃性であり、繰り返し蒸発、凝縮させても組成変化がない。そのため、洗浄剤、溶媒、熱移動媒体等の種々の用途に用いた場合に、極めて安定した性能が得られる利点がある。
なお、共沸組成物は、以下の式で示される比揮発度が1.00である。
(比揮発度を求める式)
比揮発度=(液相部における1233yd(Z)の質量%/液相部におけるtDCEの質量%)/(気相部における1233yd(Z)の質量%/気相部におけるtDCEの質量%)
【0013】
[共沸様組成物]
本発明の1233yd(Z)とtDCEからなる共沸様組成物は、1233yd(Z)の含有割合が28~41質量%であり、tDCEの含有割合が59~72質量%の組成物である。つまり、本発明の共沸様組成物において、1233yd(Z)の含有量は、本発明の共沸様組成物の全量に対して、28~41質量%であり、tDCEの含有量は、本発明の共沸様組成物の全量に対して、59~72質量%である。
なお、本明細書において、共沸様組成物とは、上記式で求められる比揮発度が1.00±0.10の範囲にある組成物をいう。
また、本発明の共沸様組成物の圧力1.0×10Paにおける沸点は、44~48℃である。
本発明の共沸様組成物は、地球環境への影響が小さく、不燃性であり、繰り返し蒸発、凝縮させた場合の組成変化が小さく、上記本発明の共沸組成物とほぼ同等に取り扱える。そのため、洗浄剤、溶媒、熱移動媒体等の種々の用途に用いた場合に、上記共沸組成物と同等の安定した性能が得られる利点がある。
【0014】
[組成物]
本発明の組成物は、1233yd(Z)とtDCEとを含む組成物であって、組成物における1233yd(Z)とtDCEの合計割合が組成物の全量に対して90質量%以上であり、tDCEに対する1233yd(Z)の質量比(1233yd(Z)/tDCE)が、28/72~41/59である。
すなわち、本発明の組成物は、組成物の全量に対して、1233yd(Z)とtDCEの合計を90質量%以上含む。
【0015】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、組成物の全量に対して、1233yd(Z)およびtDCE以外の成分(以下、「その他の成分」ともいう。)を10質量%以下含んでいてもよい。
その他の成分としては、(E)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233yd(E))、1-クロロ-2,2,3,3-テトラフルオロプロパン(HCFC-244ca)、1,1,2-トリフルオロ-3-クロロプロペン(HCFO-1233yc)、1-クロロ-3,3-ジフルオロプロピン、トリクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン等が挙げられる。
その他の成分の含有量は、組成物の全量に対して、7質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0016】
本発明の組成物の圧力1.0×10Paにおける沸点は、44~48℃である。
【0017】
本発明の組成物は、1233yd(Z)とtDCEの合計を90質量%以上含むため、地球環境への影響が小さく、不燃性であり、繰り返し蒸発、凝縮させた場合の組成変化が小さく、上記共沸又は共沸様組成物とほぼ同等に取り扱える。そのため、洗浄剤、溶媒、熱移動媒体等の種々の用途に用いた場合に、上記共沸又は共沸様組成物と同等の安定した性能等が得られる利点がある。
【0018】
1233yd(Z)は、炭素-炭素二重結合を有するオレフィンであるため、大気中での寿命が短く、オゾン破壊係数や地球温暖化係数が小さい。
1233yd(Z)は、沸点が54℃であり、熱による影響を受けやすい部品にも使用できる。また、1233yd(Z)は引火点を持たず、乾燥性に優れ、表面張力および粘度が低いため浸透性に優れる等、洗浄剤や溶媒として優れた性能を有している。
また、1233yd(Z)は粘度が低いため、配管内を通過するときの抵抗が少なく、輸送特性に優れ、熱移動媒体として優れた性能を有している。
1233yd(Z)は、例えば、国際公開第2017/018412号に記載の方法で製造できる。上記方法では、通常、1233yd(Z)と1233yd(E)の異性体混合物として得られる。この異性体混合物を、蒸留等の公知の方法で精製することにより1233yd(Z)が得られる。
【0019】
本発明の共沸組成物、共沸様組成物および組成物は、1233yd(Z)をそれぞれ上述の量含むことにより、地球環境への影響が小さく、不燃性であり、洗浄剤、溶媒、熱移動媒体等の種々の用途に適した性能を発現できる。
【0020】
tDCEは、炭素-炭素二重結合を有するオレフィンであるため、大気中での寿命が短く、地球環境への影響が小さい。tDCEは分子内に塩素原子を有するため、有機物に対する溶解性が非常に高い。
また、tDCEは沸点が約49℃であり、熱による影響を受けやすい部品にも使用できる。
さらに、tDCEは、乾燥性に優れ、表面張力や粘度が低いため浸透性に優れる等、洗浄剤や溶媒として優れた性能を有している。
また、tDCEは粘度が低いため、配管内を通過するときの抵抗が少なく、輸送特性に優れ、熱移動媒体として優れた性能を有している。
一方で、tDCEは、引火点を有するという課題がある。
【0021】
本発明の共沸組成物、共沸様組成物および組成物は、tDCEを含むことにより、洗浄性、溶解性、輸送特性等の種々の性能に優れる。また、1233yd(Z)を単独で用いる場合よりも沸点を低くすることができる。
【0022】
以上説明した本発明の共沸組成物、共沸様組成物および組成物は、地球環境への影響が小さく、不燃性であり、繰り返し蒸発、凝縮させても組成変化が生じにくく、洗浄剤、溶媒、熱移動媒体等の種々の用途に適した優れた性能を発現できる。
本発明の共沸組成物、共沸様組成物および組成物は、洗浄剤、溶媒、エアゾール組成物、熱移動媒体、消火剤、発泡剤等として好ましく用いられる。
本発明の共沸組成物、共沸様組成物および組成物が適用可能な材質としては、金属、プラスチック、エラストマー、ガラス、セラミックス、繊維およびこれらの複合材料等が挙げられる。これらのなかでも、鉄、銅、ニッケル、金、銀、プラチナ等の金属、金属の焼結体、ガラス、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、PEEK等のエンジニアリングプラスチックが好適である。
【0023】
[洗浄剤]
本発明の共沸組成物、共沸様組成物および組成物は、洗浄性に優れるため、脱脂洗浄、フラックス洗浄、精密洗浄、水切り洗浄、リンス洗浄、ドライクリーニング等の洗浄剤として使用できる。
【0024】
本発明の洗浄剤が適用できる物品としては、光学部品、医療器具、電気機器、精密機械、繊維製品およびそれらの部品等が挙げられる。電気機器、精密機械、光学物品およびそれらの部品としては、IC、コンデンサ、プリント基板、マイクロモーター、リレー、ベアリング、光学レンズ、ガラス基板等が挙げられる。医療器具としては、カテーテル、注射針等が挙げられる。
【0025】
物品の洗浄方法としては、本発明の洗浄剤を物品に接触させて、物品に付着する汚れを除去する方法がある。
物品に付着する汚れとしては、グリース、加工油、シリコーン油、フラックス、ワックス、インキ、鉱物油、シリコーン油を含む離型剤、ピッチ、アスファルトなどの油脂類、塵埃等が挙げられる。加工油としては、切削油、焼き入れ油、圧延油、潤滑油、機械油、プレス加工油、打ち抜き油、引き抜き油、組立油、線引き油等が挙げられる。
本発明の洗浄剤は洗浄性に優れるため、特に加工油、ピッチ、アスファルトの洗浄に好適に使用できる。
【0026】
物品の洗浄方法としては、手拭き洗浄、浸漬洗浄、スプレー洗浄、浸漬揺動洗浄、浸漬超音波洗浄、蒸気洗浄、およびこれらを組み合わせた方法等が挙げられる。
【0027】
上記洗浄方法における物品との接触時間、温度等の洗浄条件は、洗浄方法に応じて適宜選択できる。また、洗浄装置も、公知のものを適宜選択できる。例えば国際公開第2008/149907号に記載の方法および洗浄装置を用いて実施できる。
本発明の洗浄剤は、共沸組成物、共沸様組成物または組成物を含む。本発明の洗浄剤における本発明の共沸組成物、共沸様組成物または組成物の含有割合は、洗浄剤の全量に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。上限としては、100質量%が挙げられる。
【0028】
本発明の洗浄剤は、必要に応じて安定剤等を含んでいてもよい。
安定剤としては、ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロプロパン、ニトロベンゼン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、tert-ブチルアミン、α-ピコリン、N-メチルベンジルアミン、ジアリルアミン、N-メチルモルホリン、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、チモール、p-tert-ブチルフェノール、tert-ブチルカテコール、カテコール、イソオイゲノール、o-メトキシフェノールp-メトキシフェノール、4,4’-ジヒドロキシフェニル-2,2-プロパイソアミル、サリチル酸ベンジル、サリチル酸メチル、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1-[(N,N-ビス-2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、1,2-プロピレンオキサイド、1,2-ブチレンオキサイド、1,4-ジオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、イソアミレン、2,4,4-トリメチル-1-ペンテン、2,4,4-トリメチル-2-ペンテン、2-メチルペンテン等が挙げられる。なかでも、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、p-メトキシフェノール、1,2-ブチレンオキサイド、イソアミレン、2,4,4-トリメチル-1-ペンテン、2,4,4-トリメチル-2-ペンテン、2-メチルペンテンが好ましい。
安定剤としては1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
本発明の洗浄剤における安定剤の含有割合は、洗浄剤の全量に対して、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0029】
[溶媒]
本発明の共沸組成物、共沸様組成物および組成物は、有機物の溶解性に優れるため、潤滑剤、防錆剤、防湿コート剤、防汚コート剤等の表面処理剤を溶解して物品表面に塗布するための溶媒として使用できる。
物品としては、例えば洗浄剤を適用できる物品と同様のものが挙げられる。
【0030】
表面処理剤を物品表面に塗布する方法としては、表面処理剤を本発明の溶媒に溶解させた後、溶媒を蒸発させて、物品表面に塗膜を形成させる方法が挙げられる。
表面処理剤を本発明の溶媒に溶解させる際は、例えば、表面処理剤の濃度が0.01~50質量%となるように溶解させることが好ましい。
【0031】
塗布方法としては、刷毛による塗布、スプレーによる塗布、浸漬による塗布等が挙げられる。物品がチューブ状の場合は、表面処理剤を溶媒に溶解させて得られた表面処理剤溶液を吸い上げることによって内壁に塗布することもある。また、表面処理剤と、本発明の溶媒と、液化ガスまたは圧縮ガスと、を封入したエアゾールの形態でスプレー塗布を行うこともできる。液化ガスおよび圧縮ガスの具体例は、上述したとおりである。
溶媒の蒸発方法としては、風乾、加熱による乾燥等が挙げられる。乾燥温度は20~100℃が好ましい。
【0032】
本発明の溶媒は、共沸組成物、共沸様組成物または組成物を含む。本発明の溶媒における本発明の共沸組成物、共沸様組成物または組成物の含有割合は、溶媒の全量に対して80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。上限としては、100質量%が挙げられる。
本発明の溶媒は、必要に応じて安定剤等を含んでいてもよい。安定剤の具体例としては、上述した安定剤が挙げられる。
本発明の溶媒における安定剤の含有割合は、溶媒の全量に対して、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
[エアゾール組成物]
本発明の共沸組成物、共沸様組成物および組成物は、昇圧剤と組み合わせることでエアゾールとして使用できる。本発明で使用する昇圧剤は0℃における圧力が大気圧(1.013×10Pa)以上であることが好ましい。
本組成物において、昇圧剤としては、ジメチルエーテル(DME)、プロパン、ブタン、イソブタン、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、窒素、二酸化炭素、亜酸化窒素等が挙げられ、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができ、例えば空気なども好適に用いることができる。
昇圧剤は、液化ガスおよび、圧縮ガスのどちらを用いてもよく、液化ガスと圧縮ガスとを組合せて用いてもよい。
エアゾール組成物に含まれる昇圧剤は、噴霧器に封入した際の内部の圧力が35℃において0.3~1MPaであることが好ましい。
【0033】
[熱移動媒体]
本発明の共沸組成物、共沸様組成物および組成物は、熱サイクルシステム用の熱移動媒体として使用できる。
熱サイクルシステムとしては、ランキンサイクルシステム、ヒートポンプサイクルシステム、冷凍サイクルシステム、熱輸送システム、二次循環冷却システム等が挙げられる。より具体的には、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置及び二次冷却機等が挙げられる。
【0034】
以下、熱サイクルシステムの一例として、冷凍サイクルシステムについて説明する。
冷凍サイクルシステムとは、蒸発器において熱移動媒体が負荷流体より熱エネルギーを除去することにより負荷流体を冷却し、より低い温度に冷却するシステムである。冷凍サイクルシステムでは、熱移動媒体の蒸気を圧縮して高温高圧の熱移動媒体の蒸気とする圧縮機と、圧縮された熱移動媒体の蒸気を冷却し、低温高圧の熱移動媒体の液体とする凝縮器と、凝縮器から排出された熱移動媒体の液体を膨張させて低温低圧の熱移動媒体の液体とする膨張弁と、膨張弁から排出された熱移動媒体を加熱して高温低圧の熱移動媒体の蒸気とする蒸発器と、蒸発器に負荷流体を供給するポンプと、凝縮器に負荷流体を供給するポンプとから構成されるシステムである。
本発明の共沸組成物、共沸様組成物および組成物は、二次循環冷却システム用の二次冷媒として特に好ましく用いることができる。
【0035】
二次循環冷却システムとは、アンモニアや炭化水素冷媒からなる一次冷媒を冷却する一次冷却手段と、二次循環冷却システム用二次冷媒を循環させて被冷却物を冷却する二次循環冷却手段と、一次冷媒と二次冷媒とを熱交換させ、二次冷媒を冷却する熱交換器と、を有するシステムである。この二次循環冷却システムにより、被冷却物を冷却できる。
本発明の熱移動媒体は、共沸組成物、共沸様組成物または組成物を含む。本発明の熱移動媒体における本発明の共沸組成物、共沸様組成物または組成物の含有割合は、熱移動媒体の全量に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。上限としては、100質量%が挙げられる。
【0036】
本発明の熱移動媒体は、必要に応じて安定剤等を含んでいてもよい。安定剤の具体例としては、上述した安定剤が挙げられる。
本発明の溶媒における安定剤の含有割合は、溶媒の全量に対して、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0037】
本発明の熱移動媒体は、通常、熱移動媒体と、冷凍機油とを含む熱移動媒体組成物として使用される。冷凍機油としては、ポリアルキレングリコール類、ポリオールエステル類、ポリビニルエーテル類等が挙げられる。
熱移動媒体組成物における冷凍機油の含有量は、熱移動媒体の100質量部に対して、10~100質量部が好ましく、20~50質量部がより好ましい。
【実施例
【0038】
以下に、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。例1~8は実施例であり、例9~11は比較例である。
【0039】
<1233ydの製造例>
1233ydは、国際公開第2017/018412号の実施例1に記載の方法で製造した。上記方法により得られた1233yd(Z)と1233yd(E)の異性体混合物を、蒸留精製して1233yd(Z)および1233yd(E)を得た。
【0040】
<気液平衡の測定(1)>
1233yd(Z)とtDCEを表1に示す質量比で混合して得られた混合物1~12の300gを、オスマー気液平衡蒸留装置(柴田科学株式会社製)に入れて蒸留を行った。なお、装置内の圧力は、大気圧(1.0×10Pa)であった。気相および液相の温度が1時間経っても変化がなく安定したことを確認後、装置内の気相および液相からサンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーにより1233yd(Z)とtDCEの質量比を測定した。気相および液相の1233yd(Z)とtDCEの質量比から、上述した比揮発度を求める式により、比揮発度を算出した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1より、1233yd(Z)とtDCEの質量比が28/72~41/59の混合物において、比揮発度が1.00±0.10であった。
【0043】
<気液平衡の測定(2)>
1233yd(Z)、1233yd(E)、tDCEの質量比(1233yd(Z)/1233yd(E)/tDCE)が31.2/1.3/67.5である混合物13の300gを、オスマー気液平衡蒸留装置(柴田科学株式会社製)に入れて蒸留を行った。なお、装置内の圧力は、大気圧(1.0×10Pa)であった。装置内の気相および液相からサンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーにより1233yd(Z)、1233yd(E)、tDCEの組成比を測定したところ、液相の組成比は、31.2/1.2/67.6、気相の組成比は31.1/1.5/67.4であり、液相と気相とで組成はほぼ同じであった。
【0044】
<性能評価>
(1)金属加工油の洗浄試験
SUS-304の試験片(25mm×30mm×2mm)に、金属加工油である製品名「EM-7451(動粘度342mm/s:40℃)」(日本工作油株式会社製)に浸漬して金属加工油が付着した試験片を作製した。金属加工油が付着した試験片を、表2、3に記載の例1~11の組成物の50mLに1分間浸漬して引き上げ、試験片における金属加工油の残留状態を目視で観察し、洗浄性の評価とした。なお、試験は温度23℃の条件下で行い、金属加工油が除去された場合を「A」、金属加工油の残留が見られた場合を「B」とした。結果を表2、3の「試験(1)」に示す。
【0045】
(2)ピッチの洗浄試験
10mm×20mm×5mmのガラス基板にスプレーピッチである製品名「スプレーピッチ」(九重電気株式会社製)を吹付けて、一晩乾燥してピッチが付着したガラス基板試験片を作製した。表2、3に記載の例1~11の組成物の100gを100mlのガラスビーカーに入れて、上記で得られた試験片1個を1分間浸漬して試験片からのピッチの除去程度を目視にて評価した。ガラス基板試験片からピッチが除去できた場合を「A」、ガラス基板試験片にピッチ成分が残留したものを「B」とした。結果を表2、3の「試験(2)」に示す。
(3)エアゾール組成物での洗浄性能評価
SUS304の試験片(25mm×30mm×厚さ2mm)を金属加工油(出光興産株式会社製、ダフニマーグプラスLA-5)に1分間浸漬し、引き揚げた後一晩静置したものをテストピースとした。
例1~8の溶剤組成物に、昇圧剤(COまたはN)を、溶剤組成物/昇圧剤で表される質量比が、95/5となるようにスプレー缶に充填した。このスプレー缶から溶剤組成物を噴射したところ、試験片から金属加工油を除去できた。また、試験片に付着した溶剤組成物はすぐに乾燥した。昇圧剤の種類で洗浄性能に影響は見られなかった。
【0046】
(4)引火性試験
表2、3に記載の例1~11の組成物の200mLを、クリーブランド開放式引火点測定器(吉田製作所社製、型式828)を用いて23℃から沸点までの引火点の有無を確認した。結果を表2、3の「引火性」に示す。
【0047】
表2、3に記載の各成分欄(「1233yd(Z)」欄、「1233yd(E)」欄、「tDCE」欄)は、組成物の全量に対する、各成分の含有量(質量%)を表す。
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
<洗浄試験>
下記表4の例12および例13で得られた組成物を図1に示すのと同様な洗浄装置に適用して洗浄試験を行った。なお、本洗浄試験は下記各組成物の評価試験であるとともに、本発明の洗浄方法の実施例でもある。例12は実施例であり、例13は比較例である。
図1の洗浄装置10の洗浄槽1(容量:5.2リットル)、リンス槽2(容量:5.0リットル)および蒸気発生槽3(容量:2.8リットル)の3槽全てに下記例12および例13で得られた組成物を用意した。その後、洗浄を行わずに8時間の連続運転をして、洗浄装置10内の各槽における組成を安定させて定常状態にした。また、被洗浄物品Dとして、性能評価(1)および(2)で使用したものと同じ試験片を準備した。
定常状態の洗浄装置10を用いて、図1に示すように、試験片を洗浄槽1、リンス槽2、蒸気発生槽3直上の蒸気ゾーン43の順に移動させ洗浄を行った。その際、洗浄槽1内の組成物Laの温度を40℃とし、洗浄槽1での洗浄では、周波数40kHz、出力200Wの超音波を1分間発生させた。また、リンス槽2内の組成物Lbの温度を25℃とし、蒸気発生槽3内の組成物Lcは常に沸騰状態になるように加熱した。洗浄中、蒸気ゾーン4中の蒸気を凝集し水分を除去して得られた組成物Lmをリンス槽2に戻し、リンス槽2からのオーバーフローは洗浄槽1に流入させ、さらに洗浄槽1の余剰の組成物Laを蒸気発生槽3に送液した。
洗浄終了後に、洗浄槽1中の組成物Laを採取し、その採取した組成物の組成をガスクロマトグラフィー(アジレント社製GC7890)にて分析した。また、洗浄後の試験片の状態を洗浄性評価(1)および(2)と同様に評価した。
【0051】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の共沸組成物、共沸様組成物および組成物は、洗浄剤、溶媒、熱移動媒体等の広範囲の用途に使用できる。
【0053】
なお、2019年6月7日に出願された日本特許出願2019-107140号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
図1