(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】中空樹脂粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20240409BHJP
C08F 2/18 20060101ALI20240409BHJP
C08F 6/24 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C08F2/44 B
C08F2/18
C08F6/24
(21)【出願番号】P 2021527580
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2020022179
(87)【国際公開番号】W WO2020261926
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2019120028
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】平田 剛
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-123348(JP,A)
【文献】特開2016-190980(JP,A)
【文献】特許第6513273(JP,B1)
【文献】国際公開第2006/100806(WO,A1)
【文献】特開2007-220731(JP,A)
【文献】特開2004-123834(JP,A)
【文献】特開2013-221070(JP,A)
【文献】特開2013-075954(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025575(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/026899(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-2/60、6/00-246/00、301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非架橋性単量体及び架橋性単量体を含む重合性単量体と、炭化水素系溶剤と、重合開始剤と、水系媒体とを含む混合液を調製する混合液調製工程と、
前記混合液を懸濁させることにより、前記炭化水素系溶剤を含む重合性単量体液滴が前記水系媒体中に分散した懸濁液を調製する懸濁液調製工程と、
前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し且つ当該中空部に前記炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する重合工程と、
前記前駆体粒子に内包される前記炭化水素系溶剤を除去する溶剤除去工程と、を有する中空樹脂粒子の製造方法であって、
前記炭化水素系溶剤の総量100質量%中、飽和炭化水素系溶剤の割合が50質量%以上であり、
前記重合開始剤が油溶性重合開始剤であり、
前記架橋性単量体が、重合可能な官能基を3つ以上有する3官能以上の架橋性単量体を含み、前記混合液中の前記重合性単量体の総質量100質量部に対し、前記架橋性単量体の合計含有量が80~98質量部であり、前記3官能以上の架橋性単量体の含有量が10~98質量部であり、且つ前記炭化水素系溶剤の含有量が
500~1500質量部であることを特徴とする、中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項2】
前記中空樹脂粒子の体積平均粒径が1~20μmであることを特徴とする、請求項1に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
前記非架橋性単量体が、カルボキシル基含有単量体を含み、
前記重合性単量体の総質量100質量部に対し、
前記カルボキシル基含有単量体
の含有量が1~
7質量部
であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
前記炭化水素系溶剤の炭素数が4~7であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項5】
前記溶剤除去工程が、前記炭化水素系溶剤の沸点から35℃差し引いた温度以上の温度で、前記前駆体組成物に不活性ガスをバブリングすることにより、前記前駆体組成物中の前記前駆体粒子に内包される前記炭化水素系溶剤を除去する工程であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、中空樹脂粒子の製造方法に関する。さらに詳しくは、本開示は、得られる中空樹脂粒子の空隙率の低下を抑制し、難水溶性溶剤の残留量を低減することができ、更に、多孔質粒子の生成を抑制することができる、中空樹脂粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空樹脂粒子は、内部が実質的に樹脂で満たされた樹脂粒子と比べて、光を良く散乱させ、光の透過性を低くできるため、不透明度、白色度などの光学的性質に優れた有機顔料や隠蔽剤として水系塗料、紙塗被組成物などの用途で汎用されている。
【0003】
ところで、水系塗料、紙塗被組成物などの用途においては、塗料や紙塗被組成物等の軽量化、断熱化、及び不透明化等の効果を向上させるため、配合する中空樹脂粒子の空隙率を高めることが望まれている。しかし、所望の物性が得られるような製造条件を満たしながら、空隙率が高い中空樹脂粒子を安定して製造することは困難であった。
【0004】
例えば、特許文献1には、塗料、紙塗工用組成物等に用いられる中空高分子微粒子であって、シェルが単層構造であり、空隙率が高い中空高分子微粒子を製造する方法として、分散安定剤の水溶液中で、架橋性モノマーと単官能モノマーとの混合物、開始剤、及び、架橋性モノマーと単官能モノマーとの共重合体に対して相溶性の低い水難溶性の溶剤からなる混合物を分散させ、懸濁重合を行う方法が開示されている。特許文献1の実施例では、架橋性モノマーとして、重合性官能基を2個有するモノマーを用いており、架橋性モノマーと単官能モノマーとの合計量に対して、架橋性モノマーの割合を59.2重量%としている。
【0005】
一方、特許文献2には、マイクロカプセルとして利用可能な中空樹脂粒子であって、空隙率が高く、シェルが中空へ通ずる微細な貫通孔を備える中空樹脂粒子を製造する方法として、多官能モノマーと、非反応性溶媒と、水溶性重合開始剤とを含む混合溶液を水溶液に分散し、次いで、前記多官能モノマーを重合させる方法が開示されている。特許文献2の方法では、重合開始剤として、過硫酸カリウム等の水溶性重合開始剤を用いることにより、シェルに微細貫通孔が生じやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-80503号公報
【文献】特開2016-190980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載された方法では、懸濁重合後に得られる粒子の中空内を満たす難水溶性溶剤を除去することが困難であり、後述する比較例4に示されるように、中空樹脂粒子中に、難水溶性溶剤が残留しやすく、また、得られる中空樹脂粒子の粒子強度が不十分で、粒子が潰れやすいとい問題がある。
特許文献2に記載された方法では、得られる中空樹脂粒子の粒径が小さくなりやすい。具体的には、粒径が1μm以上の中空樹脂粒子が得られ難く、また、後述する比較例7に示されるように、中空樹脂粒子に比べて粒径が小さく且つ内部が樹脂で満たされた密実粒子が発生しやすいという問題がある。
また、断熱性に優れる点、及び高い空隙率と機械強度との良好なバランスを有する点から、中空樹脂粒子が有する中空部は1つのみであることが望ましい。しかし、従来の方法では、中空部を1つのみ有する中空樹脂粒子とともに、中空部を複数有する多孔質粒子が製造されてしまうという問題もある。
【0008】
本開示の課題は、得られる中空樹脂粒子の空隙率の低下及び粒径の低下を抑制し、中空樹脂粒子中の難水溶性溶剤の残留量を低減することができ、且つ潰れにくい中空樹脂粒子を得ることができ、更に、密実粒子及び多孔質粒子の生成を抑制することができる、中空樹脂粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、懸濁重合により中空樹脂粒子を得る方法において、中空樹脂粒子が、所望の空隙率及び粒径となり、潰れにくく、粒子中の難水溶性溶剤の残留量を低減することができ、更に、中空樹脂粒子の製造過程で密実粒子及び多孔質粒子の生成を抑制するためには、懸濁重合に用いる混合液中の重合開始剤の種類と、当該混合液中の重合性単量体と炭化水素系溶剤の組成のバランスと、炭化水素系溶剤の種類が重要であることに着目した。
【0010】
本開示によれば、非架橋性単量体及び架橋性単量体を含む重合性単量体と、炭化水素系溶剤と、重合開始剤と、水系媒体とを含む混合液を調製する混合液調製工程と、
前記混合液を懸濁させることにより、前記炭化水素系溶剤を含む重合性単量体液滴が前記水系媒体中に分散した懸濁液を調製する懸濁液調製工程と、
前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し且つ当該中空部に前記炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する重合工程と、
前記前駆体粒子に内包される前記炭化水素系溶剤を除去する溶剤除去工程と、を有する中空樹脂粒子の製造方法であって、
前記炭化水素系溶剤の総量100質量%中、飽和炭化水素系溶剤の割合が50質量%以上であり、
前記重合開始剤が油溶性重合開始剤であり、
前記架橋性単量体が、重合可能な官能基を3つ以上有する3官能以上の架橋性単量体を含み、前記混合液中の前記重合性単量体の総質量100質量部に対し、前記架橋性単量体の合計含有量が80~98質量部であり、前記3官能以上の架橋性単量体の含有量が10~98質量部であり、且つ前記炭化水素系溶剤の含有量が300~1500質量部であることを特徴とする中空樹脂粒子の製造方法が提供される。
【0011】
本開示の上記製造方法においては、前記中空樹脂粒子の体積平均粒径を、1~20μmとすることができる。
【0012】
本開示の上記製造方法においては、前記混合液中の前記重合性単量体が、前記重合性単量体の総質量100質量部に対し、カルボキシル基含有単量体を1~10質量部含むことが好ましい。
【0013】
本開示の上記製造方法においては、前記炭化水素系溶剤の炭素数が4~7であることが好ましい。
【0014】
本開示の上記製造方法においては、前記溶剤除去工程が、前記炭化水素系溶剤の沸点から35℃差し引いた温度以上の温度で、前記前駆体組成物に不活性ガスをバブリングすることにより、前記前駆体組成物中の前記前駆体粒子に内包される前記炭化水素系溶剤を除去する工程であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上記の如き本開示の製造方法によれば、得られる中空樹脂粒子の空隙率の低下及び粒径の低下を抑制し、中空樹脂粒子中の難水溶性溶剤の残留量を低減することができ、且つ潰れにくい中空樹脂粒子を得ることができ、更に、当該中空樹脂粒子を製造する過程において、密実粒子及び多孔質粒子の生成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の製造方法の一例を説明する図である。
【
図2】懸濁液調製工程における懸濁液の一実施形態を示す模式図である。
【
図3】従来の乳化重合用の分散液を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の製造方法により得られる中空樹脂粒子は、樹脂を含有するシェル(外殻)と、当該シェルに取り囲まれた中空部とを有する粒子である。ここで、中空部は、シェルに取り囲まれた粒子内部の領域であり、単一の空洞状である。
また、中空樹脂粒子は、シェルが連通孔を有さず、中空部がシェルによって粒子外部から隔絶されていてもよいし、シェルが1又は2以上の連通孔を有し、中空部が当該連通孔を介して粒子外部と繋がっていてもよい。シェルが連通孔を有する場合、中空部は、連通孔を塞いだと仮定したシェルに取り囲まれた粒子内部の領域とする。
なお、中空樹脂粒子が有する中空部は、例えば、粒子断面のSEM観察又はTEM観察等の一般的な観察方法により確認することができる。
また、中空樹脂粒子が有する中空部は、空気等の気体で満たされていてもよいし、溶剤を含有していてもよい。但し、本開示においては、重合工程で得られる、炭化水素系溶剤を含有する中空部を有する樹脂粒子を、本開示の製造方法により得られる中空樹脂粒子の中間体として、前駆体粒子と称する。
【0018】
本開示における中空樹脂粒子の製造方法は、非架橋性単量体及び架橋性単量体を含む重合性単量体と、炭化水素系溶剤と、重合開始剤と、水系媒体とを含む混合液を調製する混合液調製工程と、
前記混合液を懸濁させることにより、前記炭化水素系溶剤を含む重合性単量体液滴が前記水系媒体中に分散した懸濁液を調製する懸濁液調製工程と、
前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し且つ当該中空部に前記炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する重合工程と、
前記前駆体粒子に内包される前記炭化水素系溶剤を除去する溶剤除去工程と、を有する中空樹脂粒子の製造方法であって、
前記炭化水素系溶剤の総量100質量%中、飽和炭化水素系溶剤の割合が50質量%以上であり、
前記重合開始剤が油溶性重合開始剤であり、
前記架橋性単量体が、重合可能な官能基を3つ以上有する3官能以上の架橋性単量体を含み、前記混合液中の前記重合性単量体の総質量100質量部に対し、前記架橋性単量体の合計含有量が80~98質量部であり、前記3官能以上の架橋性単量体の含有量が10~98質量部であり、且つ前記炭化水素系溶剤の含有量が300~1500質量部であることを特徴とする。
【0019】
本開示の中空樹脂粒子の製造方法によれば、懸濁重合に用いる混合液が、重合開始剤として油溶性重合開始剤を含むことにより、当該混合液を懸濁させて得られる重合性単量体液滴内に重合開始剤が入り込みやすいため、重合性単量体液滴の重合反応が進行しやすい。さらに、重合性単量体として、3官能以上の架橋性単量体を含む架橋性単量体を前記特定量で含み、且つ、難水溶性溶剤として、炭化水素系溶剤を前記特定量で含むことにより、重合工程において、適度な量の炭化水素系溶剤を重合性単量体液滴が内包した状態で、重合反応が十分に進む。ここで、本開示の製造方法では、炭化水素系溶剤が飽和炭化水素系溶剤を50質量%以上の割合で含むため、1つの粒子につき1つの中空部となるように、樹脂のシェルが形成されやすい。これは、炭化水素系溶剤中の飽和炭化水素系溶剤の割合が50質量%以上であることにより、炭化水素系溶剤と、前記特定の重合性単量体との極性の差が大きくなるため、重合性単量体液滴内で相分離が十分に発生しやすいためと推定される。このように、重合開始剤の種類、重合性単量体と炭化水素系溶剤の組成のバランス、及び炭化水素系溶剤の種類の組み合わせにより、形成される前駆体粒子のシェルは、1つの中空部を覆うシェルとなり、また、適度な割合で連通孔を有し、且つ機械的強度に優れた架橋構造及び厚さを有すると考えられる。本開示の製造方法では、このような前駆体粒子を中間体として中空樹脂粒子を製造するため、得られる中空樹脂粒子は、中空部を1つのみ有し、空隙率の低下及び粒径の低下が抑制され、潰れにくく、機械的強度に優れる。また、本開示の製造方法では、前駆体粒子のシェルが適度な割合で連通孔を有することから、前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤が除去されやすく、得られる中空樹脂粒子中の難水溶性溶剤の残留量を低減することができると推定される。
特許文献1のように、重合性単量体として、2官能の架橋性単量体と非架橋性単量体のみを用いる方法では、形成される前駆体粒子のシェルに連通孔が形成されにくいため、中空樹脂粒子中に難水溶性溶剤が残留しやすくなったり、中空樹脂粒子の粒子強度が不十分になったりすると考えられる。
特許文献2のように、重合開始剤として水溶性重合開始剤を用いる方法では、重合性単量体液滴内に存在する重合開始剤量が少なく、水系媒体中に重合開始剤が多く存在するため、粒径が比較的小さい密実粒子が発生しやすいと考えられる。また、重合性単量体液滴内での重合反応が十分に進行しないため、形成される前駆体粒子のシェルに連通孔が多く形成され、シェルの強度が不十分になりやすいと考えられる。これに対し、本開示の製造方法では、密実粒子の発生を抑制することができ、また、上述したように、粒子中の難水溶性溶剤の残留量を低減し、機械的強度に優れた潰れにくい中空樹脂粒子を得ることができる。
【0020】
本開示の中空樹脂粒子の製造方法は、混合液調製工程、懸濁液調製工程、重合工程、及び溶剤除去工程を含み、効果を損なわない範囲において、必要に応じてこれら以外の工程を更に含んでいてもよい。
【0021】
本開示の中空樹脂粒子の製造方法は、以下の(1)混合液調製工程、(2)懸濁液調製工程、(3)重合工程、及び(4)溶剤除去工程を含み、効果を損なわない範囲において、必要に応じてこれら以外の工程を更に含んでいてもよい。
(1)混合液調製工程
非架橋性単量体及び架橋性単量体を含む重合性単量体と、炭化水素系溶剤と、重合開始剤と、水系媒体とを含む混合液を調製する工程
(2)懸濁液調製工程
前記混合液を懸濁させることにより、前記炭化水素系溶剤を含む重合性単量体液滴が前記水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程
(3)重合工程
前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し且つ当該中空部に前記炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する工程、及び
(4)溶剤除去工程
前記前駆体粒子に内包される前記炭化水素系溶剤を除去する工程
【0022】
図1は、本開示の製造方法の一例を示す模式図である。
図1中の(1)~(4)は、上記各工程(1)~(4)に対応する。各図の間の白矢印は、各工程の順序を指示するものである。なお、
図1は説明のための模式図に過ぎず、本開示の製造方法は図に示すものに限定されない。また、本開示の各製造方法に使用される材料の構造、寸法及び形状は、これらの図における各種材料の構造、寸法及び形状に限定されない。
図1の(1)は、混合液調製工程における混合液の一実施形態を示す断面模式図である。この図に示すように、混合液は、水系媒体1、及び当該水系媒体1中に分散する低極性材料2を含む。ここで、低極性材料2とは、極性が低く水系媒体1と混ざり合いにくい材料を意味する。本開示において低極性材料2は、重合性単量体、炭化水素系溶剤及び油溶性重合開始剤を含む。
図1の(2)は、懸濁液調製工程における懸濁液の一実施形態を示す断面模式図である。懸濁液は、水系媒体1、及び当該水系媒体1中に分散するミセル10(重合性単量体液滴)を含む。ミセル10は、油溶性の単量体組成物4(油溶性重合開始剤5等を含む)の周囲を、懸濁安定剤3(例えば、界面活性剤等)が取り囲むことにより構成される。なお、本開示において、重合性単量体を含有する組成物を、単量体組成物ということがある。
図1の(3)は、重合工程後の前駆体組成物の一実施形態を示す断面模式図である。前駆体組成物は、水系媒体1、及び当該水系媒体1中に分散する前駆体粒子20を含む。この前駆体粒子20の外表面を形成するシェル6は、上記ミセル10中の重合性単量体の重合等により形成される。シェル6内部の中空部は、炭化水素系溶剤7を内包する。なお、本開示において、前駆体粒子を含む組成物を、前駆体組成物という。
図1の(4)は、溶剤除去工程後の中空樹脂粒子の一実施形態を示す断面模式図である。
図1の(4)は、上記
図1の(3)の状態から炭化水素系溶剤7を除去した状態を示す。その結果、シェル6の中空部8に水系媒体1を内包する中空樹脂粒子100が得られる。
以下、上記4つの工程及びその他の工程について、順に説明する。
【0023】
(1)混合液調製工程
本工程は、非架橋性単量体及び架橋性単量体を含む重合性単量体と、炭化水素系溶剤と、重合開始剤と、水系媒体とを含む混合液を調製する工程であり、本開示では、重合開始剤として、油溶性重合開始剤を用いる。
混合液中には、さらに懸濁安定剤等の他の材料を含有させても良い。混合液の材料について、(A)重合性単量体、(B)油溶性重合開始剤、(C)炭化水素系溶剤、(D)懸濁安定剤、(E)水系媒体の順に説明する。
【0024】
(A)重合性単量体
本開示において、重合性単量体は、非架橋性単量体及び架橋性単量体を組み合わせて含む。重合性単量体とは、重合可能な官能基を有する化合物である。非架橋性単量体は重合可能な官能基を1つだけ有する重合性単量体であり、架橋性単量体は重合可能な官能基を2つ以上有し、重合反応により樹脂中に架橋結合を形成可能な重合性単量体である。重合性単量体としては、重合可能な官能基としてエチレン性不飽和結合を有する化合物が一般に用いられる。
【0025】
[非架橋性単量体]
非架橋性単量体としては、モノビニル単量体が好ましく用いられる。モノビニル単量体とは、重合可能なビニル官能基を1つ有する化合物である。モノビニル単量体としては、親水性単量体及び非親水性単量体を挙げることができる。親水性単量体は、水への溶解度が1質量%以上であることが好ましく、非親水性単量体は、水への溶解度が1質量%未満であることが好ましい。
【0026】
親水性単量体としては、例えば、酸基含有単量体、ヒドロキシル基含有単量体、アミド基含有単量体、ポリオキシエチレン基含有単量体等の親水基を有する単量体が挙げられる。
酸基含有単量体は、酸基を含む単量体を意味する。ここでいう酸基とは、プロトン供与基(ブレンステッド酸基)、電子対受容基(ルイス酸基)のいずれも含む。親水性単量体として酸基含有単量体を用いる場合には、耐熱性が高い中空樹脂粒子が得られる点で好ましい。
酸基含有単量体は、酸基を有していれば特に限定されないが、例えば、カルボキシル基含有単量体及びスルホン酸基含有単量体等が挙げられる。
カルボキシル基含有単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸単量体;イタコン酸モノエチル、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチルなどの不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸及びマレイン酸が好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
スルホン酸基含有単量体としては、例えば、スチレンスルホン酸等が挙げられる。
【0027】
ヒドロキシル基含有単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アミド基含有単量体としては、例えば、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド等が挙げられる。
ポリオキシエチレン基含有単量体としては、例えば、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
非親水性単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のアクリル系モノビニル単量体;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル単量体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のモノオレフィン単量体;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;塩化ビニル等のハロゲン化ビニル単量体;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン単量体;ビニルピリジン単量体;等が挙げられる。
これらの中でも、重合反応が安定しやすく、耐熱性に優れる点から、アクリル系モノビニル単量体が好ましく、アクリル酸ブチル及びメタクリル酸メチルからなる群より選ばれる少なくとも1つがより好ましい。
なお、本開示において(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの各々を意味し、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルの各々を意味する。
【0029】
これらの非架橋性単量体は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
中でも、中空樹脂粒子の空隙率を向上しやすい点から、非架橋性単量体は、少なくとも親水性単量体を含むことが好ましい。親水性単量体を含むことにより、重合反応が安定して進行しやすく、中空樹脂粒子の機械的強度が向上しやすい。
親水性単量体の含有割合は、非架橋性単量体の総質量100質量部に対し、好適には20質量部以上であり、より好適には25質量部以上であり、より更に好適には30質量部以上である。
【0030】
本開示においては、中でも、非架橋性単量体が、親水性単量体としてカルボキシル基含有単量体を含むことが好ましい。
非架橋性単量体がカルボキシル基含有単量体を含有する場合、カルボキシル基含有単量体の含有量は、重合性単量体の総質量100質量部に対し、1~10質量部であることが好ましい。カルボキシル基含有単量体を前記範囲内の含有量で含むことにより、重合反応時に生成する凝集物量が低減されやすく、また、中空樹脂粒子の機械的強度が向上しやすく、中空樹脂粒子中の難水溶性溶剤の残留量が低減されやすい。カルボキシル基含有単量体の含有量は、重合性単量体の総質量100質量部に対し、1~7質量部であることがより好ましい。
【0031】
非架橋性単量体は、非親水性単量体を含まなくてもよいが、中空樹脂粒子の耐熱性を向上しやすい点から、親水性単量体と非親水性単量体とを組み合わせて含んでいてもよい。
非架橋性単量体が非親水性単量体を含有する場合において、非親水性単量体の含有割合は、特に限定はされないが、親水性単量体を十分に含有する点から、非架橋性単量体の総質量100質量部に対し、好適には80質量部以下であり、より好適には75質量部以下であり、より更に好適には70質量部以下である。
また、非架橋性単量体は、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等のニトリル基を含む化合物を含まないことが、中空樹脂粒子の耐熱性の低下及び空隙率の低下を抑制する点から望ましい。
【0032】
[架橋性単量体]
本開示においては、重合性単量体が架橋性単量体と非架橋性単量体とを組み合わせて含み、架橋性単量体の合計含有量が、重合性単量体の総質量100質量部に対し、80~98質量部であり、且つ、3官能以上の架橋性単量体の含有量が、重合性単量体の総質量100質量部に対し、10~98質量部である。架橋性単量体は、重合可能な官能基を2つ以上有することにより互いに連結するため、シェルの架橋密度を高める。本開示では、架橋性単量体と非架橋性単量体とを、上記特定の割合で組み合わせて含むことにより、適度な割合で連通孔を有し、且つ機械的強度に優れた架橋構造及び厚さを有するシェルを形成することができる。
【0033】
本開示においては、架橋性単量体が、重合可能な官能基を3つ以上有する3官能以上の架橋性単量体を含む。3官能以上の架橋性単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート等を挙げることができる。これらの中でも、中でも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが好ましい。前記3官能以上の架橋性単量体としては、中でも、3官能以上6官能以下の架橋性単量体が好ましい。
【0034】
本開示においては、架橋性単量体が、さらに、重合可能な官能基を2つのみ有する2官能の架橋性単量体を含んでいてもよい。2官能の架橋性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジアリルフタレート、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの中でも、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0035】
混合液調製工程で得られる混合液において、架橋性単量体の合計含有量は、重合性単量体の総質量100質量部に対し、80~98質量部であり、中でも、好ましくは85質量部超過であり、より好ましくは90質量部以上であり、より更に好ましくは95質量部以上である。
混合液調製工程で得られる混合液において、3官能以上の架橋性単量体の合計含有量は、重合性単量体の総質量100質量部に対し、10~98質量部であればよく、特に限定はされないが、中空樹脂粒子の空隙率、粒径及び機械的強度のバランスの観点から、1分子中に含まれる重合可能な官能基の個数に応じて、含有量を調整してもよい。例えば、重合可能な官能基を5つ以上有する5官能以上の架橋性単量体の含有量は、重合性単量体の総質量100質量部に対し、1~50質量部であってもよく、3~30質量部であってもよく、5~20質量部であってもよい。5官能以上の架橋性単量体を含まない場合において、重合可能な官能基を3つ又は4つ有する3~4官能の架橋性単量体の含有量は、重合性単量体の総質量100質量部に対し、好ましくは20~98質量部であり、より好ましくは25~98質量部であり、より更に好ましくは30~98質量部である。
【0036】
また、特に限定はされないが、中空樹脂粒子の空隙率、粒径及び機械的強度のバランスの観点、及び難水溶性溶剤の残留量を低減する点から、架橋性単量体は、2官能の架橋性単量体と3官能以上の架橋性単量体とを組み合わせて含んでいてもよい。
架橋性単量体が2官能の架橋性単量体を含む場合、混合液中の2官能以上の架橋性単量体の含有量は、重合性単量体の総質量100質量部に対し、好ましくは10~90質量部であり、より好ましくは30~85質量部である。
また、2官能の架橋性単量体を含む場合において、3~4官能の架橋性単量体の含有量は、重合性単量体の総質量100質量部に対し、好ましくは10~85質量部であり、より好ましくは20~65質量部である。
【0037】
混合液中の重合性単量体(非架橋性単量体と架橋性単量体の全て)の含有量は、特に限定はされないが、中空樹脂粒子の空隙率、粒径及び機械的強度のバランスの観点、及び難水溶性溶剤の残留量を低減する点から、水系媒体を除く混合液中成分の総質量100質量部に対し、好ましくは5~35質量部であり、より好ましくは6~32質量部である。
【0038】
(B)油溶性重合開始剤
本開示においては、重合開始剤として油溶性重合開始剤を用いる。
油溶性重合開始剤は、水に対する溶解度が0.2質量%以下の親油性のものであれば特に制限されない。油溶性重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t一ブチルペルオキシド一2-エチルヘキサノエート、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0039】
混合液中の重合性単量体の総質量100質量部に対し、油溶性重合開始剤の含有量は、好適には0.1~10質量部であり、より好適には0.5~7質量部であり、さらに好適には1~5質量部である。油溶性重合開始剤の含有量が0.1~10質量部であることにより、重合反応を十分進行させ、かつ重合反応終了後に油溶性重合開始剤が残存するおそれが小さく、予期せぬ副反応が進行するおそれも小さい。
【0040】
(C)炭化水素系溶剤
本開示においては、非重合性且つ難水溶性の有機溶剤として、炭化水素系溶剤を用いる。
炭化水素系溶剤は、粒子内部に中空部を形成する働きを有する。後述する懸濁液調製工程において、炭化水素系溶剤を含む重合性単量体液滴が水系媒体中に分散した懸濁液が得られる。懸濁液調製工程においては、重合性単量体液滴において相分離が発生する結果、極性の低い炭化水素系溶剤が重合性単量体液滴の内部に集まりやすくなる。最終的に、重合性単量体液滴においては、その内部に炭化水素系溶剤が、その周縁に炭化水素系溶剤以外の他の材料が各自の極性に従って分布することとなる。そして、後述する重合工程において、炭化水素系溶剤を内包した前駆体粒子を含む前駆体組成物が得られる。すなわち、炭化水素系溶剤が粒子内部に集まることにより、得られる前駆体粒子の内部には、炭化水素系溶剤で満たされた中空部が形成されることとなる。
【0041】
本開示の製造方法に用いられる炭化水素溶剤は、炭化水素系溶剤の総量100質量%中、飽和炭化水素系溶剤の割合が50質量%以上である。これにより、重合性単量体液滴内で相分離が十分に発生することにより、中空部を1つのみ有する中空樹脂粒子が得られやすく、多孔質粒子の生成を抑制することができる。飽和炭化水素系溶剤の割合は、多孔質粒子の生成を更に抑制する点、及び各中空樹脂粒子の中空部が均一になりやすい点から、好適には60質量%以上であり、より好適には80質量%以上である。
【0042】
炭化水素系溶剤が含む飽和炭化水素系溶剤としては、例えば、ブタン、ペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等を挙げることができる。
炭化水素系溶剤が含む飽和炭化水素系溶剤以外の溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤等を好ましく用いることができる。
【0043】
また、炭化水素系溶剤としては、炭素数4~7の炭化水素系溶剤が好ましい。炭素数4~7の炭化水素化合物は、重合工程時に前駆体粒子中に容易に内包され易く、かつ溶剤除去工程時に前駆体粒子中から容易に除去することができる。中でも、炭素数5又は6の炭化水素系溶剤が特に好ましい。
【0044】
また、特に限定はされないが、炭化水素系溶剤としては、後述する溶剤除去工程で除去されやすい点から、沸点が130℃以下のものが好ましく、100℃以下のものがより好ましい。また、前駆体粒子に内包されやすい点から、炭化水素系溶剤としては、沸点が50℃以上のものが好ましく、60℃以上のものがより好ましい。
【0045】
また、炭化水素系溶剤は、20℃における比誘電率が3以下であることが好ましい。比誘電率は、化合物の極性の高さを示す指標の1つである。炭化水素系溶剤の比誘電率が3以下と十分に小さい場合には、重合性単量体液滴中で相分離が速やかに進行し、中空が形成されやすいと考えられる。
20℃における比誘電率が3以下の溶剤の例は、以下の通りである。カッコ内は比誘電率の値である。
ヘプタン(1.9)、シクロヘキサン(2.0)、ノルマルヘキサン(1.9)、ベンゼン(2.3)、トルエン(2.4)、オクタン(1.9)。
20℃における比誘電率に関しては、公知の文献(例えば、日本化学会編「化学便覧基礎編」、改訂4版、丸善株式会社、平成5年9月30日発行、II-498~II-503ページ)に記載の値、及びその他の技術情報を参照できる。20℃における比誘電率の測定方法としては、例えば、JISC 2101:1999の23に準拠し、かつ測定温度を20℃として実施される比誘電率試験等が挙げられる。
【0046】
本開示において、混合液中の炭化水素系溶剤の含有量は、重合性単量体の総質量100質量部に対し、300~1500質量部である。炭化水素系溶剤の前記含有量が前記範囲内であることにより、中空樹脂粒子の空隙率を向上しながら、中空樹脂粒子の機械的強度を維持することができ、溶剤除去工程にて粒子内の炭化水素系溶剤を除去しやすくすることができる。混合液中の炭化水素系溶剤の含有量は、重合性単量体の総質量100質量部に対し、好適には400~1400質量部であり、より好適には500~1000質量部である。
また、架橋性単量体の総質量100質量部に対する炭化水素系溶剤の含有量は、600質量部超過1500質量部以下であることが好ましい。
【0047】
(D)懸濁安定剤
本開示において、混合液は、懸濁安定剤を含有していてもよい。懸濁安定剤は、後述する懸濁重合法における懸濁液中の懸濁状態を安定化させる剤である。懸濁安定剤としては、界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤は、後述する懸濁重合法において、非架橋性単量体、架橋性単量体、油溶性重合開始剤及び炭化水素系溶剤などの親油性成分を含むミセルを形成する材料である。
界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれも用いることができ、それらを組み合わせて用いることもできる。これらの中でも、陰イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤が好ましく、陰イオン性界面活性剤がより好ましい。
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩等が挙げられる。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等が挙げられる。
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
また、懸濁安定剤として、難水溶性無機化合物や水溶性高分子等を含有していてもよい。
【0048】
混合液が懸濁安定剤を含有する場合、混合液中の重合性単量体の総質量100質量部に対し、懸濁安定剤の含有量は、好適には0.1~4質量部であり、より好適には0.5~3質量部である。懸濁安定剤の前記含有量が0.1質量部以上の場合には、水系媒体中にミセルを形成しやすい。一方、懸濁安定剤の前記含有量が4質量部以下の場合には、炭化水素系溶剤を除去する工程において発泡による生産性の低下が起きにくい。
【0049】
(E)水系媒体
本開示において水系媒体とは、水、親水性溶媒、及び、水と親水性溶媒との混合物からなる群より選ばれる媒体を意味する。
本開示における親水性溶媒は、水と十分に混ざり合い相分離を起こさないものであれば特に制限されない。親水性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン(THF);ジメチルスルフォキシド(DMSO)等が挙げられる。
水系媒体の中でも、その極性の高さから、水を用いることが好ましい。水と親水性溶媒の混合物を用いる場合には、重合性単量体液滴を形成する観点から、当該混合物全体の極性が低くなりすぎないことが重要である。この場合、例えば、水と親水性溶媒との混合比(質量比)を、水:親水性溶媒=99:1~50:50としてもよい。
【0050】
混合液調製工程では、前記の各材料及び必要に応じ他の材料を単に混合し、適宜攪拌等することによって混合液が得られる。当該混合液においては、上記(A)重合性単量体、(B)油溶性重合開始剤、及び(C)炭化水素系溶剤などの親油性材料を含む油相が、(D)懸濁安定剤及び(E)水系媒体などを含む水相中において、粒径数mm程度の大きさで分散している。混合液におけるこれら材料の分散状態は、材料の種類によっては、肉眼でも観察が可能である。
混合液調製工程は、親油性材料を含む油相と親水性材料を含む水相とを混合する工程であってもよい。このように油相と水相を予め別に調製した上で、これらを混合することにより、シェル部分の組成が均一な中空樹脂粒子を製造することができる。
【0051】
(2)懸濁液調製工程
本工程は、上述した混合液を懸濁させることにより、炭化水素系溶剤を含む重合性単量体液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程である。
重合性単量体液滴を形成するための懸濁方法は特に限定されないが、例えば、(インライン型)乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:マイルダー)、高速乳化分散機(プライミクス株式会社製、商品名:T.K.ホモミクサー MARK II型)等の強攪拌が可能な装置を用いて行う。
懸濁液調製工程で調製される懸濁液においては、炭化水素系溶剤を含む重合性単量体液滴が、水系媒体中に均一に分散している。重合性単量体液滴は、直径0.8μm~25μm程度の液滴であり、肉眼では観察が難しく、例えば光学顕微鏡等の公知の観察機器により観察できる。
懸濁液調製工程においては、重合性単量体液滴中に相分離が生じるため、極性の低い炭化水素系溶剤が重合性単量体液滴の内部に集まりやすくなる。その結果、得られる重合性単量体液滴は、その内部に炭化水素系溶剤が、その周縁に炭化水素系溶剤以外の材料が分布することとなる。
【0052】
本開示においては、乳化重合法ではなく懸濁重合法を採用する。そこで以下、乳化重合法と対比しながら、懸濁重合法及び油溶性重合開始剤を用いる利点について説明する。
図3は、乳化重合用の分散液を示す模式図である。
図3中のミセル60は、その断面を模式的に示すものとする。
図3には、水系媒体51中に、ミセル60、ミセル前駆体60a、溶媒中に溶出した単量体53a、及び水溶性重合開始剤54が分散している様子が示されている。ミセル60は、油溶性の単量体組成物53の周囲を、界面活性剤52が取り囲むことにより構成される。単量体組成物53中には、重合体の原料となる単量体等が含まれるが、重合開始剤は含まれない。
一方、ミセル前駆体60aは、界面活性剤52の集合体ではあるものの、その内部に十分な量の単量体組成物53を含んでいない。ミセル前駆体60aは、溶媒中に溶出した単量体53aを内部に取り込んだり、他のミセル60等から単量体組成物53の一部を調達したりすることにより、ミセル60へと成長する。
水溶性重合開始剤54は、水系媒体51中を拡散しつつ、ミセル60やミセル前駆体60aの内部に侵入し、これらの内部の油滴の成長を促す。したがって、乳化重合法においては、各ミセル60は水系媒体51中に単分散しているものの、ミセル60の粒径は数百nmまで成長することが予測される。
【0053】
図2は、懸濁液調製工程における懸濁液の一実施形態を示す模式図である。
図2中のミセル10は、その断面を模式的に示すものとする。なお、
図2はあくまで模式図であり、本開示における懸濁液は、必ずしも
図2に示すものに限定されない。
図2の一部は、上述した
図1の(2)に対応する。
図2には、水系媒体1中に、ミセル10及び水系媒体中に分散した重合性単量体4a(非架橋性単量体及び架橋性単量体を含む。)が分散している様子が示されている。ミセル10は、油溶性の単量体組成物4の周囲を、界面活性剤3が取り囲むことにより構成される。単量体組成物4中には油溶性重合開始剤5、並びに、重合性単量体(非架橋性単量体及び架橋性単量体を含む。)及び炭化水素系溶剤(いずれも図示せず)が含まれる。
図2に示すように、懸濁液調製工程においては、ミセル10の内部に単量体組成物4を含む微小油滴を予め形成した上で、油溶性重合開始剤5により、重合開始ラジカルが微小油滴中で発生する。したがって、微小油滴を成長させ過ぎることなく、目的とする粒径の前駆体粒子を製造することができる。
また、懸濁重合(
図2)と乳化重合(
図3)とを比較すると分かるように、懸濁重合(
図2)においては、油溶性重合開始剤5が、水系媒体1中に分散した重合性単量体4aと接触する機会は存在しない。したがって、油溶性重合開始剤を使用することにより、目的とする中空部を有する樹脂粒子の他に、比較的粒径の小さい密実粒子等の余分なポリマー粒子が生成することを抑制することができる。
【0054】
(3)重合工程
本工程は、上述した懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し且つ当該中空部に炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する工程である。
重合工程では、前記重合性単量体液滴が炭化水素系溶剤を内包したまま、当該液滴中の重合性単量体が重合することにより、重合性単量体の重合物である樹脂を含有するシェルと、炭化水素系溶剤で満たされた中空部とを有する前駆体粒子が形成される。
本開示の製造方法では、重合工程において、前記重合性単量体液滴が前記特定の炭化水素系溶剤を内包した状態で重合反応に供されることにより、形状を維持したまま重合反応が進行しやすく、前駆体粒子の大きさ及び空隙率を調整しやすい。また、前記特定の重合性単量体と前記特定の炭化水素系溶剤とを組み合わせて用いるため、前駆体粒子のシェルに対して炭化水素系溶剤の極性が低く、炭化水素系溶剤がシェルと馴染みにくいため、相分離が十分に発生して中空部が1つのみとなりやすい。また、炭化水素系溶剤の量を調整することで、前駆体粒子の大きさ及び空隙率を容易に調整することができる。
【0055】
重合工程で行う重合方式に特に限定はなく、例えば、回分式(バッチ式)、半連続式、連続式等が採用できる。重合温度は、好ましくは40~80℃であり、更に好ましくは50~70℃である。また、重合の反応時間は好ましくは1~20時間であり、更に好ましくは2~15時間である。
【0056】
(4)溶剤除去工程
本工程は、前記前駆体粒子に内包される前記炭化水素系溶剤を除去する工程である。
溶剤除去工程では、通常、前記重合工程により得られる前記前駆体組成物中で、前記前駆体粒子を水系媒体から分離することなしに、当該前駆体粒子に内包される前記炭化水素系溶剤を除去する。これにより、中空部が水系媒体で満たされた中空樹脂粒子を得ることができる。
【0057】
溶剤除去工程は、中でも、前記炭化水素系溶剤の沸点から35℃差し引いた温度以上の温度で、前記前駆体組成物に不活性ガスをバブリングすることにより、前記前駆体組成物中の前記前駆体粒子に内包される前記炭化水素系溶剤を除去する工程であることが、得られる中空樹脂粒子中の炭化水素系溶剤の残留量を低減できる点から好ましい。
ここで、前記炭化水素系溶剤が、複数種類の炭化水素系溶剤を含有する混合溶剤であり、沸点を複数有する場合、溶剤除去工程での前記炭化水素系溶剤の沸点とは、当該混合溶剤に含まれる溶剤のうち最も沸点が高い溶剤の沸点、すなわち複数の沸点のうち最も高い沸点とする。
前記前駆体組成物に不活性ガスをバブリングする際の温度は、中でも、中空樹脂粒子中の炭化水素系溶剤の残留量を低減する点から、前記炭化水素系溶剤の沸点から30℃差し引いた温度以上の温度であることが好ましく、前記炭化水素系溶剤の沸点から20℃差し引いた温度以上の温度であることがより好ましい。なお、前記バブリングの際の温度は、通常、前記重合工程での重合温度以上の温度とする。特に限定はされないが、前記バブリングの際の温度を、50℃以上100℃以下としてもよい。
【0058】
バブリングする不活性ガスとしては、特に限定はされないが、例えば、窒素、アルゴン等を挙げることができる。
バブリングの条件は、炭化水素系溶剤の種類及び量に応じて、前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を除去できるように適宜調整され、特に限定はされないが、例えば、不活性ガスを1~3L/minの量で、1~10時間バブリングしてもよい。
【0059】
本開示の中空樹脂粒子の製造方法は、上述した(1)~(4)の工程の他に、例えば(5)中空部の再置換工程等のその他の工程を更に有していてもよい。
【0060】
(5)中空部の再置換工程
本工程は、前記溶剤除去工程後に、中空樹脂粒子内部の水系媒体を、別の溶剤又は気体により置換する工程である。中空部の再置換工程により、中空樹脂粒子内部の環境を変えたり、中空樹脂粒子内部に選択的に分子を閉じ込めたり、用途に合わせて中空樹脂粒子内部の化学構造を修飾したりすることができる。
中空樹脂粒子内部の水系媒体を気体に置換する方法としては、例えば、前記溶剤除去工程後に得られる中空樹脂粒子を含有するスラリーを濾過して、濾別した中空樹脂粒子を乾燥する方法を挙げることができる。当該乾燥の方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができ、例えば、減圧乾燥法、加熱乾燥法、気流乾燥法又はこれらの方法の併用が挙げられる。
加熱乾燥法を用いる場合には、中空樹脂粒子のシェル構造を維持する点から、加熱温度を50~150℃とすることが好ましい。
乾燥雰囲気は特に限定されず、中空樹脂粒子の用途によって適宜選択することができる。乾燥雰囲気としては、例えば、空気、酸素、窒素、アルゴン等が考えられる。
【0061】
本開示の製造方法では、中空樹脂粒子の粒径の低下を抑制することができるため、中空樹脂粒子の体積平均粒径を1~25μmとすることができ、より好適には1~20μm、より更に好適には1~5μm、特に好適には2~4.5μmとすることができる。中空樹脂粒子の体積平均粒径が、前記下限値以上であることにより、中空樹脂粒子の分散性が向上する。また、中空樹脂粒子の体積平均粒径が、前記上限値以下であることにより、機械的強度が向上する。
なお、中空樹脂粒子の体積平均粒径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置により、中空樹脂粒子の粒径を測定し、その体積平均を算出することにより求めることができる。
また、本開示の製造方法で得られる中空樹脂粒子は、水系媒体を含有するスラリー中において、体積平均粒径が前記範囲内であることが好ましい。
【0062】
また、本開示の製造方法では、中空樹脂粒子のシェル厚みを0.020~0.150μmとすることができ、より好適には0.025~0.100μmとすることができる。これにより、中空樹脂粒子の空隙率を維持しながら、機械的強度の低下を抑制することができる。
なお、本開示において、中空樹脂粒子のシェルの厚みは、中空樹脂粒子のシェルの20点での厚みの平均値とする。中空樹脂粒子のシェルの厚みは、例えば、中空樹脂粒子を割って得たシェルの欠片をSEMで観察することにより測定することができる。
【0063】
また、本開示の製造方法では、中空樹脂粒子の空隙率を80%以上とすることができ、より好適には80%超過とすることができ、更に好適には85%以上とすることができ、より更に好適には85%超過とすることができる。粒子の強度を維持する観点から、中空樹脂粒子の空隙率は、好適には95%以下である。
なお、中空樹脂粒子の空隙率(%)は、中空樹脂粒子のシェル厚み(t)と、中空樹脂粒子の半径(r)から、下記式により算出される
空隙率(%)=100×(1-t/r)3
ここで、中空樹脂粒子のシェル厚み(t)は上述した通りである。中空樹脂粒子の半径(r)は、中空樹脂粒子の体積平均粒径の1/2の値とする。
【0064】
本開示の製造方法により得られる中空樹脂粒子の形状は、内部に中空部を1つのみ有するものであれば特に限定されず、例えば、球形、楕円球形、不定形等が挙げられる。これらの中でも、製造の容易さから球形が好ましい。
【0065】
本開示の製造方法により得られる中空樹脂粒子は、平均円形度が0.950~0.995であってもよい。
中空樹脂粒子の形状のイメージの一例は、薄い皮膜からなる膨らんだ袋であり、その断面図は、後述する
図1の(4)中の中空樹脂粒子100の通りである。この例においては、外側に薄い1枚の皮膜が設けられている。
中空樹脂粒子の形状は、例えば、SEMやTEMにより確認することができる。また、中空樹脂粒子の内部の形状は、粒子を公知の方法で輪切りにした後、SEMやTEMにより確認することができる。
【0066】
本開示の製造方法により得られる中空樹脂粒子の用途としては、例えば、感熱紙のアンダーコート材、プラスチックピグメント等を挙げることができる。また、本開示の製造方法により得られる中空樹脂粒子は、内部に香料、薬品、農薬、インキ成分等の有用成分を浸漬処理、減圧または加圧浸漬処理等の手段により封入して得られるため、内部に含まれる成分に応じて各種用途に利用することができる。
また、本開示の製造方法により得られる中空樹脂粒子は、成形体のフィラーの用途に用いることができる。成形体の主成分としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエステル、ポリテトラフルオロロエチレンなどの熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を挙げることができる。また、本開示の製造方法により得られる中空樹脂粒子を含有する成形体は、更に、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維等の繊維を含有するものであってもよい。本開示の製造方法により得られる中空樹脂粒子は、潰れ難く、炭化水素系溶剤が十分に除去されたものであるため、熱可塑性又は熱硬化性の樹脂を用いて形成される成形体、及び、熱可塑性又は熱硬化性の樹脂と更に繊維を含む材料を用いて形成される成形体においても、フィラーとして含有させることができる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本開示を更に具体的に説明するが、本開示は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、部及び%は、特に断りのない限り質量基準である。また、以下の実施例1及び実施例10は、参考例である。
【0068】
[実施例1]
(1)混合液調製工程
まず、下記材料を混合した混合物を油相とした。
メタクリル酸 5部
エチレングリコールジメタクリレート 65部
トリメチロールプロパントリメタクリレート 30部
2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(油溶性重合開始剤、和光純薬社製、商品名:V-65) 3部
シクロヘキサン 400部
一方で、イオン交換水1160部に、界面活性剤3.0部を加えて混合した混合物を水相とした。
上記で得た水相と油相とを混合することにより、混合液を調製した。
【0069】
(2)懸濁液調製工程
上記混合液調製工程で得た混合液を、インライン型乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:マイルダー)により、回転数15,000rpmの条件下で攪拌して懸濁させ、シクロヘキサンを内包した重合性単量体液滴が水中に分散した懸濁液を調製した。
【0070】
(3)重合工程
上記懸濁液調製工程で得た懸濁液を、窒素雰囲気で65℃の温度条件下で4時間攪拌し、重合反応を行った。この重合反応により、シクロヘキサンを内包した前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製した。
【0071】
(4)溶剤除去工程
上記重合工程で得た前駆体組成物に、75℃の温度条件下で、窒素2L/minを4時間バブリングすることで、前駆体粒子が内包するシクロヘキサンの除去を行い、実施例1の中空樹脂粒子を含有するスラリーを得た。
【0072】
[実施例2~13、比較例1~9]
実施例1において、上記「(1)混合液調製工程」で調製する油相の材料及び量を表1又は表2に示す通りとし、水相のイオン交換水の量を表1又は表2に示す量とし、上記「(4)溶剤除去工程」での脱溶剤処理温度(バブリングの温度)を表1又は表2に示す温度とした以外は、実施例1と同様の手順で、実施例2~13の中空樹脂粒子を含有するスラリー、及び比較例1~9の比較樹脂粒子を含有するスラリーを得た。
【0073】
[評価]
各実施例及び各比較例で得た中空樹脂粒子について、以下の測定及び評価を行った。
なお、得られた樹脂粒子が中空樹脂粒子と多孔質粒子との混合粒子である場合、後述する「2.中空樹脂粒子のシェル厚み」は、多孔質粒子を除いた中空樹脂粒子のみを測定対象とし、それ以外の測定及び評価においては、中空樹脂粒子と多孔質粒子との混合粒子を測定対象とした。
【0074】
1.中空樹脂粒子の体積平均粒径
レーザー回析式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、商品名:LA-960)を用いて、スラリー中の中空樹脂粒子の粒径を測定し、その体積平均を算出して、体積平均粒径とした。
【0075】
2.中空樹脂粒子のシェル厚み
各実施例及び各比較例で得たスラリーを濾過して中空樹脂粒子を濾別し、常圧下、60℃で5時間乾燥させた。乾燥させた中空樹脂粒子をスパチュラで押し潰した後、走査型電子顕微鏡(日本電子製、商品名:JSM-7610F)を用いて、シェルの割れた部分を観察し、厚みを求めた。20箇所観察して、その平均をシェル厚みとした。
【0076】
3.中空樹脂粒子の空隙率
上記で測定した中空樹脂粒子の体積平均粒径の1/2の値として求められる中空樹脂粒子の半径(r)と、上記で測定した中空樹脂粒子のシェル厚み(t)から、下記式により中空樹脂粒子の空隙率を算出した。
空隙率(%)=100×(1-t/r)3
【0077】
4.水系媒体中での潰れの有無
各実施例及び各比較例で得たスラリーをデジタルマイクロスコープ(キーエンス製、商品名:VHX-5000)で観察し、スラリー中の中空樹脂粒子の潰れの有無を確認した。
【0078】
5.乾燥後に潰れた粒子の割合
各実施例及び各比較例で得たスラリーを濾過して中空樹脂粒子を濾別し、常圧下、60℃で5時間乾燥させた。乾燥させた中空樹脂粒子500個を、走査型電子顕微鏡(日本電子製、商品名:JSM-7610F)を用いて観察し、潰れた粒子の個数を確認して、中空樹脂粒子500個のうち、潰れた粒子の割合(%)を算出した。
【0079】
6.多孔質粒子量
各実施例及び各比較例で得たスラリーを濾過して、中空樹脂粒子、又は中空樹脂粒子と多孔質粒子との混合粒子を濾別し、常圧下、60℃で5時間乾燥させた。乾燥させた中空樹脂粒子及び多孔質粒子の合計500個を、透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、商品名:HT7700)を用いて観察し、多孔質粒子の個数を確認して、中空樹脂粒子及び多孔質粒子の合計500個のうち、多孔質粒子の割合(%)を算出した。
なお、観察画像において、粒子外側に濃く観察されるシェル部と、粒子中央部に薄く観察される1つのみの中空部を有する樹脂粒子を中空樹脂粒子として認定し、シェル部と中空部の境界が曖昧で、粒子全体が疎密に観察される粒子を多孔質粒子として認定した。
【0080】
7.中空樹脂粒子中の残留炭化水素溶剤量
30mLねじ口付きガラス瓶に、各実施例及び各比較例で得たスラリー約300mgを入れ、精確に秤量した。続いてテトラヒドロフラン(THF)を約5g入れ、精確に秤量した。ガラス瓶中の混合物を、スターラーにより1時間攪拌して、中空樹脂粒子が含有する炭化水素系溶剤を抽出した。攪拌を停止し、THFに不溶な中空樹脂粒子の樹脂成分を沈殿させたのち、フィルター(アドバンテック社製、商品名:メンブランフィルター25JP020AN)を注射筒に装着して沈殿物をろ過したサンプル液を得た。そのサンプル液をガスクロマトグラフィー(GC)に注入して分析した。
一方、各実施例及び各比較例で得たスラリー2gをアルミ皿にいれ、105℃で乾燥させることで、スラリーの粒子濃度を求めた。粒子濃度とGCのサンプル作製に使用したスラリー重量から粒子重量を算出し、粒子の単位質量あたりの炭化水素系溶剤量(質量%)を、GCのピーク面積と予め作成した検量線から求めた。詳細な分析条件は以下の通りである。
(分析条件)
装置:GC-2010(株式会社島津製作所製)
カラム:DB-5(アジレント・テクノロジー株式会社製、膜厚0.25μm、内径0.25mm、長さ30m)
検出器:FID
キャリアガス:窒素(線速度:28.8cm/sec)
注入口温度:200℃
検出器温度:250℃
オーブン温度:40℃から10℃/分の速度で230℃まで上昇させ、230℃で2分保持した。
サンプリング量:2μL
【0081】
[結果]
表1及び表2に、各実験例及び各比較例で用いた材料の種類及び添加量、脱溶剤処理温度、並びに中空樹脂粒子に関する評価結果を示す。
【0082】
【0083】
【0084】
[考察]
以下、表1及び表2を参照しながら、各実験例及び各比較例の評価結果について検討する。
比較例1は、混合液中の炭化水素系溶剤の含有量が不十分だったため、得られた中空樹脂粒子は、空隙率が低く、残留炭化水素系溶剤量が多く、また、乾燥後に潰れが生じやすいものであった。
比較例2は、混合液中の炭化水素系溶剤の含有量が多すぎたため、得られた中空樹脂粒子は、水系媒体中及び乾燥後のいずれにおいても潰れが生じやすいものであった。
比較例3は、混合液中の架橋性単量体の含有量が多すぎたため、重合工程で樹脂が凝集してしまい、中空樹脂粒子を得ることができなかった。
比較例4、5は、混合液中の架橋性単量体の含有量が不十分であり、3官能以上の架橋性単量体の含有量も不十分であったため、得られた中空樹脂粒子は、残留炭化水素系溶剤量が多く、水系媒体中及び乾燥後のいずれにおいても潰れが生じやすいものであった。
比較例6は、混合液中の3官能以上の架橋性単量体の含有量が不十分であったため、得られた中空樹脂粒子は、乾燥後に潰れが生じやすいものであった。
比較例4~6においては、3官能以上の架橋性単量体の含有量が不十分であったことにより、中空樹脂粒子のシェルに連通孔が十分に形成されなかったため、得られた中空樹脂粒子が潰れやすかったと推定される。
比較例7は、重合開始剤として水溶性重合開始剤を用いたため、粒径が約100nmで内部が樹脂で満たされた密実粒子が多く発生した。
比較例8は、炭化水素系溶剤として、飽和炭化水素系溶剤を含有しない炭化水素系溶剤を用いたため、中空部を1つのみ有する中空樹脂粒子が得られず、多孔質粒子が生成した。そのため、シェルの厚み及び空隙率を測定することができなかった。
比較例9は、炭化水素系溶剤として、飽和炭化水素系溶剤を含むが、その割合が50質量%未満の炭化水素系溶剤を用いたため、中空部を1つのみ有する中空樹脂粒子も生成されたが、多孔質粒子が数多く生成した。
なお、比較例8、9において、乾燥後に潰れた粒子の割合は未測定である。
【0085】
一方、実施例1~13は、炭化水素系溶剤として飽和炭化水素系溶剤の割合が50質量%以上の炭化水素系溶剤を用い、重合開始剤として油溶性重合開始剤を用い、混合液中の重合性単量体の総質量100質量部に対し、架橋性単量体の合計含有量が80~98質量部であり、3官能以上の架橋性単量体の含有量が10~98質量部であり、且つ炭化水素系溶剤の含有量が300~1500質量部であったため、得られた中空樹脂粒子は、空隙率が高く、体積平均粒径が1μm以上であり、残留炭化水素系溶剤量が低減されたものであり、水系媒体中及び乾燥後のいずれにおいても潰れが生じにくかった。また、実施例1~13では、粒径が比較的小さい密実粒子の発生が抑制され、多孔質粒子の生成も抑制された。中でも、架橋性単量体の含有量を、重合性単量体の総質量100質量部に対して85質量部超過とした実施例1~7、10、12及び13は、得られた中空樹脂粒子がより潰れにくく、残留炭化水素系溶剤量がより低減されていた。
【符号の説明】
【0086】
1 水系媒体
2 低極性材料
3 懸濁安定剤
4 単量体組成物
4a 水系媒体中に分散した単量体
5 油溶性重合開始剤
6 シェル
7 炭化水素系溶剤
8 中空部
10 ミセル
20 前駆体粒子
51 水系媒体
52 界面活性剤
53 単量体組成物
53a 水系媒体中に溶出した単量体
54 水溶性重合開始剤
60 ミセル
60a ミセル前駆体
100 中空樹脂粒子